魔法少女よ!思うままに
●
その日、|叶・珠江《かなえ・たまえ》はいつものようにベッドの上で目を覚ました。
もう見慣れてしまった真っ白い天井。
窓の外から差し込む朝日は温かで、春の陽気を感じさせる。
「いいお天気なの」
こんな日に外を歩く事が出来たなら、どれだけ気持ちがいいだろう。
しかしそれは叶わない望みだった。
珠江は生まれつき重い病を患っている。
病状が悪化すれば起き上がることもままならないほどで、彼女は生まれてからほとんどの時間をこの病室で過ごしていた。
「よい……しょっ!」
ベッド横の柵を掴み、全身にぐっと力を込めて半身を持ち上げる。
伸ばされた腕は小枝のように細く、その背丈も成長期真っ只中とは思えないほどに小柄だった。
「うん、今日はなんだか調子がいいの。後で看護師さんにお願いしてみようかな」
そう言ってベッドの傍らにある車椅子に目を向ける珠江。
その小さな身体の奥底で神秘の力が目覚めつつあることを、今は未だ誰も知らない。
●
「皆さん、お見舞いをお願いしてもいいですか!?」
集まった|EDEN《√能力者》達に目を向け、|太曜・なのか《たいよう なのか》(彼女は太陽なのか・h02984)は満面の笑みを向けた。
いきなりお見舞いとはどういった了見だろうか?
首を傾げるEDEN達を前に、なのかは変わらずハイテンションで言葉を続けた。
「私の予知《世界予報》に今√マスクドヒーローの巷を騒がせている|魔法少女現象《プエラマギカ・フェノメノン》絡みの事件が引っかかったんです!」
|魔法少女現象《プエラマギカ・フェノメノン》。
それは男女問わず子供が突如として魔法少女の力に目覚めるという、√マスクドヒーロー特有の事象だ。
覚醒した子供は突然|魔法少女っぽい姿《ふわふわカラフルなコスチュームや髪色》に変身し、魔法由来の神秘の力をその身に宿すのだとか。
そんな事件が、最近になって過去に前例がないほどに頻発しているというのだという。
「そして今回魔法少女に目覚めるのはこの子。生まれつきご病気を患っていて、今も入院生活を送っている女の子です」
そう言ってなのかは1枚の写真つきの資料をテーブルの上に置いた。
|叶・珠江《かなえ・たまえ》。9歳。
写真の中では色素が薄い白い肌と背中を覆うほどに長く伸びたふわふわの栗色の髪の毛が特徴的な可愛らしい少女が微笑んでいた。
「今の珠江ちゃんはご病気と長い入院生活のせいで弱っていて、歩くことも難しいみたい。でも魔法少女に覚醒すれば、不思議な力が働いて彼女は自分自身の力で歩いたり走ったり出来るくらい健康な身体を手に入れられるんだって! それはすっごい嬉しいことだよね!」
まるで我が子の事のように珠江の快癒を喜ぶなのか。
しかしその顔が不意に曇った。
「でもそのタイミングを狙ってデザイアモンスターも病院に現れるはずです。それも尋常じゃないほどの量が……」
デザイアモンスター。
人間の『希望の心』、とりわけ魔法少女の心を狙って、どこからともなく現れる怪物だ。
奴らの生態や出自などは未だ詳しく判明しておらず、その出現は自然現象にも似た『自動的な怪物』としか言い表しようがない。
「デザイアモンスターの群れに囲まれてしまったら、珠江ちゃんはきっと動転して逃げることも出来なくなってしまうはず。いくら魔法少女になって自由に動けるようになったとしても、長い間寝たきりに近い生活を送っていた子にとっては、普通に体を動かすことすら大変なことだと思うから」
それに、となのかは言葉を続ける。
なのかの予知した風景には底しれない邪悪な気配が紛れ込んでいた。
もしかしたらデザイアモンスターを影で手引きした怪人がどこかで珠江を狙っているのかもしれないのだ。
「ですから皆さんには交戦する前に珠江ちゃんをお見舞いして交流したりして、助け出す時に少しでも珠江ちゃんの精神的ショックが少ないように準備をしておいて欲しいんです。もちろん交流以外にも、珠江ちゃんを遠目に見守りながら病院の立地や間取りを確認して戦いやすい場所を割り出すとか、準備段階で出来ることは色々あると思います」
その日は、彼女は看護師さんに車椅子を押してもらって病院の中庭を散歩するらしい。
口実を作って病室を直接に尋ねずとも、声をかけるタイミングはあるだろう。
また予知によると、珠江が魔法少女に覚醒するのはその日のお昼過ぎであり、ちょうど散歩を終えて病室に帰る直前だというところまでは判明している。
「それでは皆さん、よろしくお願いします! 子供の笑顔は地球の未来! どうか珠江ちゃんの希望を守ってあげてください!」
マスターより
Naranji特撮大好きMSのNaranjiと申します。
はじめましての方ははじめまして。
ご贔屓にしてくださっている皆様に置かれましてはご機嫌麗しゅう。
どうぞよろしくお願いいたします。
√マスクドヒーローになにが起ころうとしているのか、気になりますね……。
そうはいえども、兎にも角にも、子供の希望を奪うデザイアモンスターは許せません!
マッハで乗り込んで怒りの鉄槌をぶち喰らわせてやりましょう!
その前に珠江ちゃんと仲良くなっておくと、良いことあるかもしれませんね。
●ご連絡
今回の救出対象であるNPC『叶・珠江』は、希望者がいらっしゃいましたら、シナリオ終了時にキャラの所有権をお渡しする事ができます。
シナリオ内で珠江と交流しある程度親睦を深めた方に限らせていただきますが、希望される場合は、第3章までのどこかのプレイング末尾に【希望】とご記載ください。
希望者が複数人おられた場合は、プレイング内容とシナリオ展開を加味したうえで最も珠江に|希望《ノゾミ》を与えることが出来た方1名を選抜してお渡しします。
当シナリオの説明は以上です。
それでは皆さまの闘志と希望にあふれたプレイングをお待ちしております!
22
第1章 日常 『お見舞いをしよう』
POW
滞在者に直接お話しをしに行く
SPD
陰ながらこっそりと見守る
WIZ
施設の人に話を聞く
√マスクド・ヒーロー 普通5 🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●
「たまえねー、お散歩に行きたいの」
毎朝欠かさず行われる検温と体調チェックの時間。
その合間を縫って珠江は担当の看護師にやや舌足らずな口調で話しかけた。
「あら、たまちゃんったら随分ご機嫌ね。そうね……うん、今日も平熱ね。顔色も良さそうだし、行こっか、お散歩」
「やったー!」
目線を合わせて看護師が優しく微笑む。
満面の笑みを浮かべ、珠江は意気揚々と両足をベッドの横に投げ出すと。ん! と抱っこをせがむように両腕を看護師に向けて突き出した。
「こーらっ! まずは朝ごはんの時間ですー。しっかり食べないとお散歩中に疲れてお熱出しちゃうかもしれないでしょ?」
「えー! たまえ早く外行きたーいー!」
ベッドから出した脚をバタバタさせて駄々をこねる。
ここ最近は体調も安定していたが、今日はいつにも増して調子が良さそうだ。
その様子を見た看護師も口では『駄目です!』と厳しく振る舞ってはいるが、内心から溢れる安堵と喜びを隠しきれない様子で。
「わがまま言わないの。今日の朝ご飯はたまちゃんの好きなみかんゼリーもつくのよ」
「えっ! 今日はゼリーの日なの! やったやったー!」
その言葉を聞いた瞬間ころりと機嫌を直し、そそくさと脚をベッドの中にしまい直す珠江。
朝食が終わった後は病院の外来が開き、一般の人間にも病室へのお見舞いが解放される時間となる。
「ふへへ、今日はなんだかとっても良い日になりそうなの」
そして珠江は素敵な予感に胸を踊らせながら、大好物の到着を今か今かと待ち詫びるのであった。
果たして彼女の予感は当たるのか。
全ては|EDEN《√能力者》諸君に掛かっている
架間・透空※アドリブ連携等歓迎
珠江さんの輝かしい未来!
なんとしても守ってみせます!
交流、ですか……ふむ。
ならば!
珠江さんのこと、お見舞いがてら
私なりのやり方で!精一杯元気づけてみたいです!
と、いうわけで!
珠江さんだけのスペシャルライブ、スタートです!
他の患者さんの迷惑にならないよう、然るべき場を整えて行っていきます!
珠江さんに精一杯のエールを送りたいって、想いを歌に籠めて。
誠心誠意、全力で歌います。
~~~♪
ライブの最後にサプライズプレゼント!
|花車《ユメノカケラ》を、珠江さんにプレゼント!
勿論、キラッキラの笑顔を添えることも忘れずに!
今日が、そしてこれからも!
珠江さんにとっていい日になりますようにっ!
中庭を吹き抜ける温かな風。
耳をすませば春の訪れを待ちわびていた鳥たちの歌が風に乗って楽しそうに響いている。
「気持ちいいの」
珠江は目を細め、大きく息を吸い込んだ。
冬の間は窓を開けることすらも我慢しなければならなかっただけに、こうして外の空気を胸いっぱいに吸うのは本当に久しぶりだ。
車椅子が歩道の上をコロコロと滑る振動も心地よく、温かな陽気も相まって思わずまどろんでしまいそうで。
「んむ、眠っちゃうのはもったいないの」
白んでいく意識を、珠江は頭を振ってなんとか抑え込んだ。
と、そんな時。
~~♪ ~~♪
鳥のさえずりの向こうから風に乗って聞こえてきたのは、少女の明るい歌声。
「このお歌、どこから……看護師さん! あっち! あっちの方にいってみたいの」
車椅子を押してくれている看護師に目を向けて、力いっぱい道の向こうを指差す珠江。
そうして彼女は歌声に誘われるままに、中庭を進んでいくのだった。
一方、時は少し遡り。
(珠江さんの輝かしい未来! なんとしても守ってみせます!)
病院の前までやってきた架間・透空(天駆翔姫ハイぺリヨン・h07138)は、未だ見ぬ少女に思いを馳せていた。
辛い闘病生活を送ってきた女の子がこの日、遂に自身の力で歩けるようになるかもしれない。
それが魔法少女化という未解明の事象によるものだとしても、それはきっと珠江ちゃんにとって希望に満ちた素晴らしい出来事になるはずだから。
透空はそんな珠江を心の底から祝福し、応援したい気持ちであふれていた。
(なんてったって、今日が珠江ちゃんにとっての夢のスタートラインですもんね!)
透空には幼い頃から一途に育んできた夢がある。
アイドルになりたい。憧れの銀幕の歌姫が立つ、あのキラキラした世界に自分も立ちたい。
その一心で透空は今日まで沢山のことに挑戦してきた。
その結果大変な目に合うこともあったけど、それでも夢があったからここまで挫けず乗り越えて、やってくることが出来たのだ。
(なら私なりのやり方で! 精一杯元気づけてみたいです!)
そうして透空は決意を胸に院内へと足を踏み入れる。
向かう先は中庭のやや奥まった場所。入院患者向けのイベントが行われる際に用いられる小さなステージ。
その上に立ち、透空は大きく息を吸い込んだ。
最初は柔らかなハミング。
その優しいメロディは春風に乗って、思いを届けたい相手の元までどこまでも飛んでいく。
やがて道の向こうから車椅子に乗った少女がやってくるのを見た透空は、わずかに微笑み、手元のスマートフォンを操作した。
瞬間、足元に置いていたワイヤレススピーカーから流れ出すのはとびっきり明るい応援歌。
ドラムが弾み、ストリングスが唄う。
溢れ出した楽しげなメロディに透空がオリジナルの振り付けを乗せて踊れば、途端に車椅子の少女の瞳がキラキラと輝きだした。
「ようこそ珠江さん! あなたに精一杯のエールを送りたいって、想いを歌に籠めて。誠心誠意、全力で歌います!」
振り付けの勢いそのままに、透空は高らかに歌い上げる。
『|誰よりも、遠く、高く《ハイペリヨン・ゴービヨンド》』と名付けられたその歌は、空も海も心の壁も、世界の垣根すらも飛び越えて透空の強い思いを届ける√能力だ。
(どこまでも……珠江さんの心まで届け──私の|想い《エール》っ!)
そしてその曲のメロディ、歌詞の力強さ、パフォーマンスの一挙手一投足。その全てに込められた想いは、確かに珠江の心に響いていた。
「わぁ……! すごい……すごいすごい! すっごいの!」
目からビームが出るんじゃないかと思わせるほど瞳を輝かせ、両手を叩き歓声をあげる珠江。
そして歌が終わると同時に透空はステージからぴょんと飛び降りると、珠江の座る車椅子の元まで駆け寄った。
その手にはいつの間にかは小さな花冠が握られている。
「今日が、そしてこれからも! 珠江さんにとっていい日になりますようにっ!」
透空は珠江と視線を合わせ、彼女のふわふわの髪の上に花冠をポンと乗せる。
一方の珠江は間近で向けられた透空の笑顔に目を見開き。
「キラキラしてるの……」
と、頬を赤らめながら呟くことしか出来ない様子で。
しかし、確かに珠江の心には透空の暖かな想いは届いたのであった。
🔵🔵🔵 大成功
フィオ・エイル・レイネイトぶえらまぎかふぇのめのん……あんま横文字ばっか使わないで欲しいなあ……
お見舞いついでに顔を合わせた、という体でタマエちゃんに接触
や、入院さんかい? 面会時間までちょっと時間があるから話に付き合ってよ
そろそろ冬も終わるね。窓の外の景色も少しは変わって気が紛れるんじゃないかな?
入院生活の話を聞いて、相手の話したいまま喋ってもらおう
最後に握手を一つ
来てくれた人と握手する機会があったらさ、力いっぱいぎゅっとしてあげると良い
掌から感じる力はそのまま生命力の強さの証左となるから
空元気でもそういう強さを見せてあげると、君を想う人は喜んでくれるよ
ま、おばあちゃんからのお節介ってことで
「ぶえらまぎかふぇのめのん……あんま横文字ばっか使わないで欲しいなあ……」
などとぼやきながら、フィオ・エイル・レイネイト(無尽廻廊・h06098)はのんびりと病院の中庭を往く。
綺麗に整備された中庭には柔らかな日差しが差し込んでいた。
風が程よく吹いており、暑くも寒くもない。なんとも散歩日和な一日。
「ん、これは確かに外に出たくなるね」
目を細めて春の陽気を全身で受け止めるフィオ。
「っと、いかんいかん。お見舞いに来たんだった」
そう、今日はなにもただ散歩をしに来たわけではない。
この病院に入院中の少女と交流をするのが、ここに派遣された|EDEN《√能力者》に与えられた第一のミッションだ。
星詠みによれば、後に起こる騒動の際に彼女の心的負担を和らげるためにも重要なことだというが。
「とはいえ何の脈絡もなく接触するのもね……まあ、お見舞いついでに顔を合わせた、という体でいこうかな。……うん、なんとかなるさ」
どことなく楽観的になってしまうのは春の良いところであり、悪いところでもある。
人よりも永く季節の移り変わりを目にしてきたフィオは、そんな風に普段よりも楽観的な自分を自覚していた。
そして自覚しつつも、季節に促されるままに歩むことを享受すらしていた。
そしてしばらく後。
中庭のベンチに腰掛けていたフィオの視線の向こうから、1人の少女が現れた。
車椅子に腰掛ける小柄な少女。長くてふわふわな栗色の髪。車椅子を押す看護師に語りかける口調はどことなく舌足らずで。
(あの子か……)
それら全てが星詠みに聞いていた今回の救助対象――叶・珠江の特徴に合致する。
しばらく遠目に伺ってみれば、車椅子を押していた看護師が他の看護師に呼ばれたようで、ちょっとだけ待っててね、と珠江の車椅子を花壇の横に止めて呼ばれた先に向かうよう。
これはなんとも|好機《ないすたいみんぐ》だ。
ベンチから腰を持ち上げると、フィオは珠江に歩み寄り、なんとはない体を装いながら話しかけた。
「や、入院さんかい? 面会時間までちょっと時間があるから話に付き合ってよ」
「うぇ!? えっと、その、こ、コンニチハ」
対する珠江は突然話しかけられたせいか、車椅子の上で体をビクッと跳ねさせ、やや緊張気味に挨拶を返す。
(……流石に警戒させたかな?)
その反応に、些か楽観的になりすぎたかとフィオは内心で冷や汗をかくが。
「あの、お見舞いの人、なの?」
しかし珠江が会話を繋いでくれたお陰で、どうやら杞憂だったようだ、とフィオはほっと胸を撫で下ろした。
「ああ、そんなところ。そろそろ冬も終わるね。窓の外の景色も少しは変わって気が紛れるんじゃないかな?」
「うん、そうなの! 今日も朝からね! すっごくいいお天気でね! それでね! たまえ、お外に行きたいってお願いしたの! そしたらね!」
そして一度口火を切ったら、珠江の言葉は止まらなかった。
冬の間は外に出られず退屈だったこと。一度勝手に窓を開けたら、寒い風に当てられて具合が悪くなってしまったこと。その後で怒られてしまったこと。だから今日は久しぶりに散歩が出来てとても嬉しいということ。ついさっき生まれて初めてアイドルを見て大興奮したこと。アイドルのお姉ちゃんから貰った花冠を宝物にすること。
次から次に出てくる言葉と感情の奔流。
元々が人懐っこい子なのだろう。
普通に学校に通っていたならばきっと友達も多かったろうなと思いながら、フィオは彼女の言葉を聞きながら何度も頷きかえした。
「うん、それは素敵だね。今日がタマエちゃんにとって素晴らしい一日になりそうでとても良かった」
「うん! そうっ、そうなの! 朝から思ってたの。今日はすっごくいい日になるってっ!」
予感を肯定された事がよほど嬉しかったのか。珠江は花が咲いたような満面の笑みを浮かべながら、隣に立つ|見知らぬお姉ちゃん《フィオ》を見つめかえした。
「さて、そろそろ行かないとかな」
ここまでで交流を深めるという目的は十分果たしただろう。
身を屈めて話を聞いていたフィオは立ち上がると、グッと背伸びをしてから、珠江にゆっくりと手を差し伸べた。
「んゅ?」
「握手、だよ」
頭の上に|?《はてなマーク》を浮かべながらも、素直にフィオの手を握る珠江。
フィオはその小さな手のひらを優しく握り返し。
「来てくれた人と握手する機会があったらさ、こんな風に力いっぱいぎゅっとしてあげると良い。掌から感じる力はそのまま生命力の強さの証左となるから」
「力いっぱい? んにゅ~~~!」
難しい言葉は分からないが力いっぱいと言われたからには、と珠江は顔を真赤にさせながらフィオの手をぎゅっと握りしめる。
繋いだ手のひらにかかる圧がほんの僅かに強まったことを感じ、そこから伝わる少女の健気さと素直さに、フィオの頬に思わず笑みがこぼれた。
「はは、その調子さ。空元気でもそういう強さを見せてあげると、君を想う人は喜んでくれるよ」
「カラゲンキじゃないもん! たまえ元気だよ! 元気になるもん!」
顔を真赤にしたままプンスカと頬をふくらませる珠江。
「ごめんごめん。ま、おばあちゃんからのお節介ってことで」
「んゅ~~~! ん? おばあちゃん?」
不意に飛び出したワードに再び頭上に?を浮かべる珠江だったが、フィオは詮索される前にするりとその手を解いて車椅子から後退った。
「それじゃあまた。さっきのアドバイス、忘れないでね」
「うん、またね! また会ったら、お姉ちゃんにもまたぎゅ~ってしてあげる!」
そしてぶんぶんと手を振る珠江を残し、フィオはその場を後にするのだった。
手のひらに残る彼女の暖かさの余韻を握りしめ、必ず守る、と決意を固めながら。
🔵🔵🔵 大成功
第2章 集団戦 『デザイアモンスター』
POW
クレイヴィング・ダークネス
半径レベルm内の敵以外全て(無機物含む)の【欲望のオーラ】を増幅する。これを受けた対象は、死なない限り、外部から受けたあらゆる負傷・破壊・状態異常が、10分以内に全快する。
半径レベルm内の敵以外全て(無機物含む)の【欲望のオーラ】を増幅する。これを受けた対象は、死なない限り、外部から受けたあらゆる負傷・破壊・状態異常が、10分以内に全快する。
SPD
ロンギング・アーム
【他のデザイアモンスター】と完全融合し、【巨大化した腕】による攻撃+空間引き寄せ能力を得る。また、シナリオで獲得した🔵と同回数まで、死後即座に蘇生する。
【他のデザイアモンスター】と完全融合し、【巨大化した腕】による攻撃+空間引き寄せ能力を得る。また、シナリオで獲得した🔵と同回数まで、死後即座に蘇生する。
WIZ
ヒュプノシス・デザイア
半径WIZm内の任意の有機物・無機物全てに【欲望のオーラ】を注ぎ、WIZ×1時間活動可能なエネルギーを与える。注ぐ[欲望のオーラ]を1体(人物・武器・乗騎等)に集中すると、対象を【デザイアモンスター】化して硬度強化と【暗黒】攻撃能力を与え、意思を抑え付けて術者の為に戦わせようとする事ができる。
半径WIZm内の任意の有機物・無機物全てに【欲望のオーラ】を注ぎ、WIZ×1時間活動可能なエネルギーを与える。注ぐ[欲望のオーラ]を1体(人物・武器・乗騎等)に集中すると、対象を【デザイアモンスター】化して硬度強化と【暗黒】攻撃能力を与え、意思を抑え付けて術者の為に戦わせようとする事ができる。
花壇の横に止められた車椅子の上でひとり、目を細めまどろむ。
「あったかいの……」
春の日差しの中、叶・珠江の胸にはキラキラの感情が灯っていた。
病室のベッドの上。変わり映えのない無機質な日々。
まるで雪の下に閉ざされてしまっていたかのような息苦しい心は、この日巡り合った様々な出会いを受けて、いま正に花開こうとしていた。
そしてその瞬間、空高くから、一際強い一条の光が珠江めがけて差し込んだ。
「かはっ!? 熱いっ……熱いの!!」
最初に感じたのは眩しさ。
次いで熱さ。
その熱は体の奥底から湧き上がり、珠江は全身の細胞が激しく脈打つのを感じる。
身を悶えさせた拍子に車椅子から転げ落ち、その衝撃に意識を失う。
意識を失っていたのはほんの数秒ほどだろうか。
しかし珠江が次に目を覚ました時、彼女は文字通り『覚醒』していた。
「……歩けるの」
口から出たのは確信。
両手を地面につき、脚に力を込め、体を持ち上げる。
この日、珠江は生まれて初めて自分自身の力だけで立ち上がったのだ。
そして恐る恐る脚を動かせば、持ち上げた片足は確かに、力強く地面を踏みしめて体を前に押し進めてくれる。
「……たまえ、歩いてる! 自分で歩いてるの!!」
視界が感激で潤む。
いつの間にかその姿は花畑のようにカラフルでフワフワな服に変化しており、頭上には花冠のようなティアラが輝いていたが、それにすらも気づけぬほどに。
拭っても拭っても溢れ出してくる涙に、珠江は顔を抑えることしか出来なかった。
しかし、邪悪はもうすぐそこまで迫っている。
魔法少女の希望にあふれた心を喰らわんとする異形――デザイアモンスター。
「キシュルルルルル……」
鳴き声とも吐息ともつかない不気味な音を響かせながら、デザイアモンスターは中庭から染み出して、珠江を取り囲んでいく。
「ふえっ! なに……なんなの!?」
異変に気づいた時にはもう遅い。
軟体生物のように体をくねらせながら迫りくる不気味な怪物の群れに、珠江はただただ悲鳴を上げることしか出来なかった。
彼女はまだ生まれて初めての『歩く』をしたばかり。故に、自分の足で走って逃げるという選択肢すら思い浮かばなかったのだ。
「誰か……たすけて……」
少女の消え入りそうな声は風に運ばれて、どこかへと飛んでいく。
果たして、その声は誰かに届くのか。
ウィズ・ザー「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン♪なんてなァ?」空中浮遊高速移動の風使いが闇と虚無引き連れてやって来たぜェ♪
欲望エネルギーを有機無機物に無限に与えられンの便利すぎるだろ、俺も欲しいぜその能力!
あ?よーォ、お嬢さんハジメマシテ。
危ねェから退がって、怪我しねェ様にな?
団体さんの合間縫い、本体のみを狙って刻爪刃にて切り裂き闇顎が喰らい付く
地面に引き摺り込み呑み込むソレらを見て恐怖覚えなきゃ良いが…まー、俺は気にしないタチだ。
守護が先決ってェな!
架間・透空※アドリブ連携等歓迎
今の声……それに「たすけて」って……
早く行かないと!
──変身、解除。
女子中学生から、怪人に姿を戻す。
決戦気象兵器を起動し、飛行機能をオンにして……珠江さんの下に向かいます。
珠江さんと彼女を襲うモンスターさんを見つけましたら、
身体に風を纏いつつ、モンスターさん目がけて突貫します。
接触の際、珠江さんを風の壁で保護することも忘れずに。
……その子を、放してください。
珠江さんには、”これから”が。
キラッキラに輝いてる明日が、待ってるんです!
誰であろうと、その邪魔をしようというのなら……許しません。
オイタをする悪いモンスターさん達は
|下降流突風《ダウンバースト》でメッ!しちゃいますよ!
たすけて――
消えいりそうな少女の声は春風に乗って、確かに届いた。
「今の声……早く行かないと!」
架間・透空(h07138)の鋭敏な聴覚は、その助けを呼ぶ声を聞き逃さない。
瞬間、透空は既にその方向に向けて駆け出していた。
スペシャルステージの後も病院に留まり、いつ珠江が覚醒してもいいようにと周辺を警邏していた透空は、既に戦う決意を決めている。
そして、それは己の真の姿を晒す覚悟でもあった。
「──変身、解除」
つぶやきと同時に、透空のシルエットが急速に膨張していく。
人間への擬態をやめた事による一種の脱力が彼女を襲い、走る姿勢のまま透空の身体が前のめりにぐらりと傾いた。
しかしその身は地に倒れることはなく。
|天色管理機構怪人《ハイペリヨン》――灰白色の強靭な外皮を纏う怪人の姿を表した透空は、その翼を羽ばたかせ猛スピードで天に駆け上った。
「見つけた!」
そして上空から即座に珠江と、そして彼女に迫るデザイアモンスターの姿を確認すると、今度はくの字を描くように急降下。
その勢いでデザイアモンスターを撥ね飛ばしつつ、珠江との間に割って入る。
「きゃあっ!」
背後からは聞こえたのは少女の悲鳴。
突然たくさんのモンスターに囲まれたかと思ったら、眼前にまた新たな怪物が現れたのだ。怖がらせてしまうのも無理もない。
しかし、それでも。
「……その子から、離れてください。珠江さんには、”これから”が。キラッキラに輝いてる明日が、待ってるんです! 誰であろうと、その邪魔をしようというのなら……許しません」
「……!!」
『守る』。
その決意は絶対に揺るがない。
周囲に風のフィールドを展開し、ハイペリヨンはその身を盾に珠江を守る防壁となった。
「キシュルルルルル!」
「ウギャギャオオオオ!!」
しかし状況は多勢に無勢。見える範囲だけでも周囲のデザイアモンスターの数は20を下らない。
この子を庇いながらどこまで戦えるか……。
若干の不安が透空の脳裏をよぎった、その刹那。
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン♪ なんてなァ?」
場違いにお道化た声が、漆黒を引き連れて中庭に降り注いだ。
「ギギャアアア!!」
漆黒――虚無の精霊が生み出す無数の黒い霧状の刃に引き裂かれ、デザイアモンスター達が悲鳴を上げる。
どこからともなく飛んできたウィズ・ザー(闇蜥蜴・h01379)は、その様子にケタケタと笑う。
そして浮遊しながら珠江の頭上にまでやってくると、その小さな身体に影を落としながら彼女を見下ろした。
「よーォ、お嬢さん。ハジメマシテ」
「ま、真っ黒な、オットセイさん?」
「ヒョウアザラシだぜェ。」
次から次へと現れる見たこともない生物の登場に目を丸くする珠江。
対する空飛ぶ豹海豹ことウィズ・ザーは惜しい! と指をパチンと鳴らそうとして、そういえば今は指ないんだったと思い直し、代わりにヒレで横っ腹をパチンと叩いた。
「って、そんな事言ってるばあいじゃァねえよな。危ねェから退がって、怪我しねェ様にな?」
そんなウィズの|剽軽《ひょうきん》な振る舞いに、身を強張らせていた珠江も少しだけ落ちついた様子で。
「アザラシさんと、天使さんが、たまえを助けに来てくれたの?」
「……天使? えっ、天使って私ですか!?」
珠江が目を向ける先にいたのは|透空《ハイペリヨン》。
まさかそんな呼び方をされるとは思ってもみなかった透空は、戦闘中にもかかわらず、思わず振り向いて身をのけぞらせた。
「えっ、だってその声さっきのアイドルのお姉ちゃんでしょ? 空を飛んで、真っ白で、歌ったり踊ったりもして。だから天使さんみたいだなって思ったの。嫌だった?」
そう言って首を傾げる珠江。
ずっと背を向けていたから気づきもしなかったが、自身を見つめる珠江の目には恐怖の色など欠片もない。むしろ期待と憧れにキラキラと輝いていた。
「そんな、イヤなんてことありません! むしろ光栄っていうか。それに私はまだ本当のアイドルじゃないし」
巨大な両手と首をブンブンと振るハイペリヨン。
照れくささと怖がらせていなかった事への安堵感で思わずリアクションも大きくなってしまう。
「クカカ、んじゃあ天使の嬢ちゃん。俺ァ奴らに切り込むから、その子を守ってやってくれ。ついでにちょいとショッキングかもしれないから、目隠しもな」
「もう、貴方まで……! はい、分かりました」
笑いながら飛び去るウィズへの文句を飲み込み、思考を戦闘モードに切り替える透空。
対するデザイアモンスター達は、そうしている間にも凄まじい勢いでその数を増やしていた。
このままでは地面が全てデザイアモンスターで埋め尽くされるのではないかと錯覚させるほどの増殖量。
しかしウィズはそのからくりに気づきつつあった。
「はァん、その辺の草花を媒介にデザイアモンスター化させて、倍々に数を増やしてるってところか?」
存在しない瞳でデザイアモンスターが増殖する様をつぶさに観察していたウィズが、敵の能力の中核を射抜く。
「欲望エネルギーを有機無機物に無限に与えられンの便利すぎるだろ、俺も欲しいぜその能力! だが裏を返せば、この群勢には最初に能力を行使した『本体』が必要だよな!」
ならばやることはシンプルだ。エネルギー供給の大本を断ち切ってしまえばいい。
ウィズは有象無象の合間を縫って、身に纏った闇のオーラを鋭く束ねながら空を泳ぐ。
目指すは倍々に増える群れの中央。
だが。
「ちッ、そりゃあ本体が大手を上げて待ってるはずもねえか……。当然だ、俺だってそうする」
ウィズの目を持ってしても、どの個体が本体かは判別がつかなかった。
しかし、それでもウィズは迷わない。
「ならいつもの手で行くしかねえよなァ!」
どれが本体か分からないのならどうするか?
答えは簡単だ。“本体っぽい奴”を根こそぎ葬ってしまえばいい。
手始めにウィズは最中央に位置していた個体を強化された闇顎の牙で噛み砕くと、そこから周囲に“自身”をばら撒いた。
空から降り注ぐ闇が刃となって周囲を切り裂き、地を這う影が口を開き、そこに立つデザイアモンスターを無差別に食い荒らし飲み込んでいく。
「ギュギュオオオオ!!」
「ギシャアアアアア!!」
「ガギャアアアアア!!」
壮絶な断末魔の末、デザイアモンスターの群れはウィズだけを残しぽっかりと穴を空けた。
その瞬間、残されたデザイアモンスター達の動きが目に見えて鈍り始める。
「ふむ、味にも違いはなかったが……当たりは引けたみたいだな」
闇に飲み込んだ残骸を咀嚼し、舌なめずりをするウィズ。
一方、珠江を風の防壁で守りながら戦っていたハイペリヨンも、敵勢が唐突に弱体化したことに気がついた。
「今なら、一気に蹴散らせる!」
両腕と翼を振り回して周囲の敵を跳ね除けると、ハイペリヨンはそのまま飛翔。上空で自身を積乱雲に見立て、その場で空気を冷やし圧縮していく。
「天気予報をお伝えします。本日の天気──晴れのち雨。暴風警報、発令中です!」
「きゃあ! すごい風なの!」
珠江を守る風の防壁が更に厚く速く逆巻いて彼女を守りつつ、周囲の気圧差をコントロール。
「あの技はまさか……やっべェ!!」
その様子を見ていたウィズもかつて共に戦った者の√能力を想起し、急いで木陰に隠れて、影の鞭で自身を木に固定する。
そして気象状況は整った。
「下降流突風……ダウンバーストにご注意ください!!」
一際強い羽ばたきと共にハイペリヨンが“直下”に飛ぶ。
そしてその巨体が地面に着弾した瞬間、爆発的に広がった横薙ぎの風が周囲をかき乱し、巻き込まれたデザイアモンスター達は成す術もなく飛散し粉々に砕け散るのであった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
フィオ・エイル・レイネイトさて。歩けることそのものは喜ばしいのだろうけれども
力を持つことが良いことなのかは分からないよねえ
やあ、さっきぶり
このあとちょっと怖いシーンが続くから、ホラーが苦手なら目をつぶって耳を塞いでいると良い
何せ後は蹂躙だ。足なんてもつれるに決まっている
妖刀解放。溢れる緑色をチャージしながら眼前の敵とタマエちゃんの直線状に立ち塞がる位置をキープしながら距離を詰める
誇示するように強くなっていく光に相手が危機感を抱き合体してくれればしめたもの。切って捨てる数が減るのは楽でいい
敵の攻撃は√能力で踏み倒し、引き寄せは逆らわず距離を詰め
あとはチャージ後の斬撃で終いさ
「常識でしょうよ。ちっちゃい子へのお触りは厳禁だ
悠磨・あきら急に体が動くようになったときの困惑
…わかります
わたしもそうだったから
珠江さんも病弱からの歩けなさなのかなと勝手に思っていますが
わたしは内臓が弱くて体が思うように動かせなかったんですよね
√能力者になって体が動かせるようになって
でも思い通りに動けるようになるまでにはそれなりに時間がかかって…
でも今はこんなにも、動ける!
改造棺桶を手に現場に駆けつけます
怪異殺しを発動
牽制や捕縛で珠江さんに接近するデザイアモンスターを片っ端から妨害したいです
コンボの最後の強撃はそこまで重視せず
とにかく珠江さんの安全を確保するため戦場を駆け廻って敵を遠ざけます
珠江を守るべく集まった√能力者達。
その中には先ほど珠江と会話を交わしたフィオ・エイル・レイネイト(h06098)の姿もあった。
「さて。歩けることそのものは喜ばしいのだろうけれども。力を持つことが良いことなのかは分からないよねえ」
手にした妖刀で群がるデザイアモンスターを斬り捨てながら珠江の元に急ぐフィオ。
敵の大多数は先陣の2人がなぎ倒したが、それでも残党は未だ残っている。おそらく増殖するデザモンの大本となった個体が他にもいたのだろう。
再び増殖する前に全て倒しきり、タマエちゃんを救わなければ。
逸る気持ちがフィオの柄を握る手に無意識に力を籠もらせる。
「珠江さんは今、どうしたらいいか分からなくて不安だと思う。急に体が動くようになったときの困惑……わたしもそうだったから」
そんなフィオに随行するのは、途中で合流した悠磨・あきら(Meer🌊・h07866)だ。
先行するフィオが討ち漏らした個体を肩に担いだ改造棺桶で殴り飛ばしながら、あきらは言葉を続けた。
「歩けるようになった経緯は違うけど、わたしは珠江さんに寄り添いたい。手にした力で何をするか。その答えは、わたしも探している最中だけど……。フィオさんは、どうしたいんですか?」
「……さあ、どうだろうね」
珠江に限らず、魔法少女となった子供は唐突に力を得る事になる。
フィオはその事に一抹の危機感を感じていたのだが。
(考えても、手にしてしまったものは仕方がない。ならば今あきらがしようとしているように、背中を見せ、道を示すことこそが正道なのかもね。……若いのに、ずいぶんしっかりした娘さんだ)
フィオは内心で、そんなあきらの真っ直ぐな姿勢に感嘆の声を漏らしていた。
そして無数のデザイアモンスター達の間を掻い潜りながら、ようやく珠江の元までたどり着いた2人。
先ほど戦闘があった場所からはやや距離が離れており、珠江が自力でここまで歩いて逃げてきたのだと察したフィオは静かに微笑んだ。
「やあタマエちゃん、さっきぶり」
「あっ、握手のお姉ちゃんなの!」
フィオの年長者特有の安心感を与える声音に、曇っていた珠江の表情がぱっと明るくなる。
そして後に続いていたあきらも珠江の傍に寄り添うと、そっと小さな手を取った。
「歩けるようになったばかりなのに、ここまで1人で逃げてきたなんて本当に凄いです。頑張りましたね」
「うん! 怖かったけどね、キレイな天使さんとね、カッコいいアザラシさんがね、助けてくれたの!」
その後は再び1人になって心細かったこと。でもお姉ちゃん達が助けに来てくれて嬉しいこと。
「ふふ、元気そうで良かったです」
そんな矢継ぎ早に語られる言葉の数々に、珠江は自分が思っているよりもずっとタフな子だったのだと認識を改め、あきらは安堵の笑みを浮かべた。
「わたしも珠江さんと似た境遇で、昔は内臓が弱くて体が思うように動かせなかったんですよね。でも√能力者になって体が動かせるようになって……。もし珠江さんがあの時のわたしみたいに不安な気持ちになってたらどうしようって心配してたんですよ」
「そうなの? でもね、たまえはダイジョブ! 怖かったけど、今はうれしいの方がたくさんだから! あっ、そうだ!」
すると珠江はパッと顔を輝かせ、自身の手を取るあきらの手を一度解いてから再び握り直し、ぎゅっと力を込めた。
「んぎゅ~~っ!! にひひ、これでたまえが今元気なの、つたわった?」
「フッ……」
そんな珠江とあきらのやりとりに思わず頬がニヤけてしまうフィオ。
しかし、いつまでもお話ししてはいられない。
表情を引き締め直し、フィオは妖刀『無尽廻廊』を手に珠江とデザイアモンスター達との直線状に立ち塞がった。
「さて、このあともちょっと怖いシーンが続くから、ホラーが苦手なら目をつぶって耳を塞いでいると良い。何せ後は蹂躙だ」
背中越しに淡々と言葉を投げかける。
「怖ければ逃げたっていい。歩けるようになったばかりだ、足なんてもつれるに決まっている。それでも、その歩みは私達が守る」
眼前に掲げた鞘からゆっくりと妖刀を引き抜く。その刀身は緑色の輝きを宿していた。
「はい、絶対に守りましょう!」
改造棺桶の鎖を手にあきらもそれに並び立つ。
そして先に駆け出したのはフィオだった。
手にした妖刀は相手を威圧するように、ますます緑の輝きを強めている。
しかしフィオは敢えて刀を振るわず、当て身と蹴り技のみで迫りくるデザイアモンスターを撃退していく。
全ては特大の一撃を叩き込むため。そのためにはおおよそ60秒の“溜め”が必要なのだ。
一方のあきらは珠江の傍を離れず、彼女を守るように立ち回っていた。
小柄な体躯を更に低くして地を駆り、足払いで接近してくるデザイアモンスターを牽制。そしてすかさず鎖による捕縛で足止めし押し戻す。
改造棺桶によるトドメの一撃を叩き込まないのは、それによる隙で珠江を守る手がコンマ数秒でも遅れないように。
「わたしは√能力者になってからも、思い通りに動けるようになるまでにはそれなりに時間がかかりました……。でも今はこんなにも、動ける! 珠江さん! 思うままに歩いて、走って、生きるって、すっごく気持ちいいですよ!」
全身で喜びを表現するかのように、飛び散る汗をきらめかせながら縦横無尽に立ち回るあきら。
「わぁ……!!」
そしてその姿を見つめる珠江の瞳もまたキラキラと輝いていた。
「やれやれ、怖がるどころか食い入らんばかりじゃないか」
その光景にフィオは再び苦笑する。
「……まあ、真に怖がって欲しい相手は、ちゃんと思惑通りに怖がってくれてるみたいだけど」
「キシュルルル……ッ!」
「ルゥウオオオ!!」
一方で、進撃を悉く防がれ続けているデザイアモンスター陣営には焦りと恐怖の色が見え始めていた。
フィオの手の中で輝きと殺気を強める妖刀が抑止力となっているのだ。
いつ飛んでくるともしれない強大な一撃。それに対抗すべく、周囲に散っていたデザイアモンスター達は一所に集まり始めると、巨大な一体としてその身を融合させた。
「グルルルゥオオオオオオオ!!!!」
巨獣の方向が大気を引き裂く。
そして大気ごと引き裂かれた空間が収縮し、身構えるフィオの身体を一気に引き寄せた。
だがフィオはそれにも動じない。むしろこの時を待っていたとばかりにほくそ笑むと、一度刀身を鞘に収めた。
「フッ、素直だね。切って捨てる数が減るのは楽でいい」
引き寄せられつつも眼前に迫るデザイアモンスターをひたと見据える。
そしてその巨体が間合いに入った瞬間、妖刀に込められた力を一気に解放!
「――無音抜天」
居合の速さで抜き放たれた刀身が目を灼くほどの緑光を放ち、すれ違いざまに巨体デザイアモンスターの身体に一筋の閃光を刻んだ。
そして何事もなく地に降り立ったフィオは輝きを失った刀身を軽く振るい、静かに鞘に納める。
「常識でしょうよ。ちっちゃい子へのお触りは厳禁だ」
――チンッ!
そして、その鍔鳴りを皮切りにデザイアモンスターの上半身が腹からゆっくりと滑り落ち、地に落ちる前にその巨体は緑色の炎に飲まれて消滅するのであった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵 大成功
第3章 ボス戦 『破蛇麻呂』
POW
滅びたもれ
【炸裂閃光蹴鞠 】による牽制、【地面から伸びる骸の腕】による捕縛、【回転蛇腹笏(光る! 鳴る! 回る!)】による強撃の連続攻撃を与える。
【炸裂閃光蹴鞠 】による牽制、【地面から伸びる骸の腕】による捕縛、【回転蛇腹笏(光る! 鳴る! 回る!)】による強撃の連続攻撃を与える。
SPD
集いたもれ
【下僕の蓄光色に発光するがしゃどくろ達 】と完全融合し、【巨大化し強化された餓者断頭笏】による攻撃+空間引き寄せ能力を得る。また、シナリオで獲得した🔵と同回数まで、死後即座に蘇生する。
【下僕の蓄光色に発光するがしゃどくろ達 】と完全融合し、【巨大化し強化された餓者断頭笏】による攻撃+空間引き寄せ能力を得る。また、シナリオで獲得した🔵と同回数まで、死後即座に蘇生する。
WIZ
光りたもれ
指定地点から半径レベルm内を、威力100分の1の【被弾対象に発光を付与する式神群『破蛇魔』】で300回攻撃する。
指定地点から半径レベルm内を、威力100分の1の【被弾対象に発光を付与する式神群『破蛇魔』】で300回攻撃する。
全てのデザイアモンスターが沈黙し、中庭にようやく静寂が戻った。
「……やった! やったぁ!」
戦いを見守っていた珠江にも怪我はないようで。
√能力者たちが背後を振り返れば、そこには笑顔を浮かべた珠江が嬉しそうに歩み寄ってくる姿が見えるだろう。
だが次の瞬間。
「ひっ……!!」
「間にあったでおじゃるなぁ」
珠江の笑顔が引き攣った。
眼前に不気味な男が音もなく佇んでいたのだ。
まず目についたのは顔面の|髑髏《しゃれこうべ》。次いで蓄光イエローに光る幾何学模様が描かれた和装。
平安貴族を思わせる装いの骸骨男――|破蛇麻呂《いしかわのへびまろ》は優しげな声音で珠江に語りかけた。
「心配したでおじゃるよ? 何処の馬の骨とも知れぬ化生に食われやせぬかと……さあ共に参ろうか?」
「だ、誰!? たまえ、どこにも行かないの!」
必死に脚を動かして蛇麻呂から逃れようとする珠江。しかしまだ不慣れな歩みはもつれ、思うように前に進まない。
「確かに知らぬであろうな。だがマロはそちの事をよぉ〜く知っておるぞ?」
恐怖に慄く珠江とは対象的に、蒼白の髑髏はギチギチと歪な笑顔を形作った。
「叶・珠江。齢は9つ。生まれて間も無く病を患い、事故で父母を失い、世との関わりを絶たれ常に孤独。しかしそなたの|魔力《希望》の総量を見れば分かる。そなたには人に愛される才があった。もし家族共に健やかならば多くの者に囲まれ幸福に過ごしていたであろう」
「……なんで、なんでたまえのことを。なんで今、そんなこと言うの!!」
朗々と語られるのは小さな身体では受け止めきれないほどの辛い現実と、有り得たかもしれない幸せな可能性。
それをありありと突きつけられた珠江がたまらず悲鳴を上げるが、蛇麻呂の言葉は止まらず、むしろ一段と熱を帯びていった。
「だが現実はどうじゃ! 顧みる友もいなければ明日の命の保証もない。嗚呼、|哀れ《あはれ》でおじゃる! 不憫でおじゃる! あんまりでおじゃる!」
遂には顔を覆って身を仰け反らせ、蛇麻呂は滑稽なほどに大げさな身振りで悲壮を表現する。
そして、その骨張った指の隙間から除く口角が最頂点に達した時……。
「そうなるようにマロが仕組んだ♪」
「ぇ……」
聞こえた言葉の意味を理解できず、珠江は思わず足を止めた。
「希望の才に満ちた赤子を見繕って病魔の種を仕込み、その親を屠ったのが9年前。齢が10を数える頃に自然と治癒するよう調整されたぷらぐま謹製ゔぃーるすを使わせてもらったでおじゃる。そして10年の時を経て、地獄の日々を耐え抜いた幼子は奇跡の快癒を果たす。そんな人生最大の幸福が舞い込まんというその時に、マロがその希望の芽を摘み取る! これほどの愉悦は無かろうて」
「そんな、嘘だよね。たまえがずっと入院してたのも、お父さんもお母さんがいないのも、ぜんぶ……」
「カーッカッカッカッ! 言うておろうマロの仕業じゃ! そちが魔法少女に目覚めるとは思いもよらなんだが、舞台はマロの予想以上に面白く転がってくれたのう!」
虚ろな眼窩に狂喜を滾らせ、身を捩らせながら絶叫する蛇麻呂。
一方の珠江は目に涙を湛え、声を震わせる事しか出来ない。その脚からは既に蛇麻呂から逃げる気力すら失われていた。
「口惜しいか? マロが憎いか? ならば絶望のままに全てを壊せ! 激情に任せて荒れ狂い、その身が粉々になる姿を見せてたもれ! さあ、さあ!!」
「う、るさい、の……。うるさい! うるさい! うるさいの!!!」
蛇麻呂の口からは尚も珠江を追い詰めるような狂言が溢れ出す。
――どうして私が。
――お前も私のようになれ。
――許さない。
――あがなわせろ。
怒りの感情と共に真っ赤に染まる視界。
気づけば珠江の身体は燃え盛る炎に包まれていた。
それは遍く全てを焼き尽くす5100℃の|地獄《太陽》の業火。
「たまえは……まだ……」
しかし、その炎の向こうで、涙の向こうで。
「たまえはまだ、誰にも……ありがとうって言ってないの」
珠江の瞳に灯る希望の光は失われていなかった。
紡がれる言葉は決意となって、同時に、空間を揺るがす熱量が珠江の頭上に収束していく。
「な、なに!? どういうことでおじゃる!」
「たまえはまだ、皆と手を繋いで、ぎゅーってしてないの!!!」
そしてその熱は叫びと共に天外に向けて放出された。
放射熱線となった炎は天高く昇っていくと、高空で見えない壁にぶつかったかのように拡散! 光のドームとなって周囲を取り囲んでいく。
「ま、まさか荒れ狂う力を振り払ったでおじゃるか! なんと勿体ない!」
「ふん! たまえはあんたの言うとおりになんてならない! たまえの力は『思うままに』やりたいことをやるための力なの! 『邪魔すんな』!」
その瞬間、
「ぎえっ!!??」
蛇麻呂の身体が弾かれたように宙を舞った。
そしてその光景を見た√能力者達は、珠江が放った魔法の効果を理解した。
この光のドームの内部は珠江の『思うまま』が叶う空間なのだ。
しかし、恐らく彼女はまだその能力を使いこなせてはいない。
『邪魔すんな!』という望みが『弾く』という曖昧な結果でしか反映されなかったのがその証左だ。
そんな珠江も発現したばかり自身の力の意味に気づいたのか、
「手を握って!! 『たまえの元気を分けてあげる』!」
√能力者たちに必死に視線を投げかけ手を伸ばす。
自分よりも力を扱うことに長けている者達ならば――そんな望みを込めて突き出された珠江の手のひらに暖かな光が灯った。
今ならば珠江の手のひらを介して『望みを叶える力』を借り受ける事ができるだろう。
破蛇麻呂がたじろいでいる今こそ好機だ!
悠磨・あきらなんて強いんでしょう
わたしだったら憎しみに囚われてしまったと思います
だから、強い珠江さんの力を分けてもらいたい
ぎゅうっと手を握ってもらえば
「すごいです。珠江さんの心の光、お借りしますね」
と慣れないながらも笑顔を向けて
しっかり珠江さんが強いことを伝えたいです
相手は、…敵は
人の気持ちを踏みにじるのが楽しいようです
そんなの許せない
許せない気持ちと憎しみは近いけれど
憎しみには飲まれないようにします
珠江さんの光があるからそれは大丈夫
敵の行動もわたしの使おうとしている力と似ていますね
牽制には怯まず
捕縛されても慌てず
むしろそのあと敵が近寄ってくるでしょうからチャンス
わたしの√能力をしっかり受けてください!
クラウス・イーザリー(サポート)√能力を積極的に使って戦闘します。
味方に合わせて遠距離/近距離の立ち回りを変え、武器も色々と使い分けます。
死角からの暗殺や不意討ちも躊躇わず、勝利の為なら手段は選ばないタイプです。
他は状況や敵の性質を見て臨機応変に対応し、味方との連携も積極的に行います。
近くに一般人が居る場合は巻き込まないように細心の注意を払って戦闘します。
多少の怪我は気にせず、勝利のために真っ直ぐ戦います。
状況に応じてアドリブや連携歓迎。不明点は全てお任せします。
架間・透空ありがとうございます、珠江さん
手を取り、
珠江さんの"これから”を祝福するように
そして、興奮状態にあると思われる珠江さんを落ち着かせるため
精一杯の|歌《エール》を、お届けします
大丈夫だよ
あなたの未来は、きっと輝いてるから
だから、笑って?
って
その為の道は
私が、否
私たちが、切り開きます
──変身
怪人の姿から、|天駆翔姫《ハイぺリヨン》に姿を変える
先程お借りした珠江さんの力、そして
麻呂さんの力もお借りして
誠心誠意、麻呂さんに拳を叩き込みます
正直、麻呂さんが珠江さんにやったこと、許せません
でも、私怨は持ち込みません
だって、私はアイドル
珠江さんの笑顔を守るのが使命ですから
──珠江さんの未来よ、光りたもれ!
フィオ・エイル・レイネイトこの子を連れ去りたいのか、粉々になるのを見たいのか
言葉がどうにも一貫しない辺り、行き当たりばったりで生きてきたんだろうね
分かりやすく三下でいい
タマエちゃん。お手を拝借
敵を見据えて告げる言葉はただ一つ。「そこを動くな」
妖刀解放
中空へ展開する刀の数は数えきれないほど
空の色さえ分からぬ密度の数を展開し敵を包囲。「動くな」という望みに縛られた君が暴力的な数を前に逃げられるとは思わない
しかし√能力…なのかな。そうでもないのかな。とにかく大した能力だ
その力を巡って色々ありそうな気もするけど…ま、こう言っとこう
何があってもこれからは良いことしかないさ
【希望】が枯れないよう、今後も見守ってあげたい気持ちはある
角隈・礼文(サポート)アドリブ連携歓迎
さて、サポートに赴いてみましょう。
見聞を広め、他の方との交流を深めるのは良いことですので。
「はじめまして。角隈礼文と申します。以後お見知りおきを」
友好的な方や、味方の√能力者には丁寧に接します。
「ご安心ください。私は、味方ですよ」
敵対者や、インビジブルと対峙する場合には高圧的に振舞い会話の主導権を握りましょう。
「我輩が思うに……君の計画は破綻しているのではないかね?」
√能力はPOW・SPD・WIZのどれでも、都合の良いものをご利用ください。
指定されているものが状況に合わずとも、他のものを用いれば活路は見出せるかもしれませんので。
「それでは、状況を開始しましょう」
覚醒した珠江の能力により弾き飛ばされた|破蛇麻呂《いしかわのへびまろ》。
絶望の淵に叩き込み、心を折ったと確信していた相手からのまさかの拒絶と反撃。それにより激しい動揺を見せた蛇麻呂であったが、しかし奴にはまだ秘策があった。
「おのれ……おのれおのれ小娘が! マロの誘いに乗っていれば楽に死ねたというものを!」
蛇麻呂が怒号と共に笏を振りかざす。その先端から溢れ出した邪悪な光が周囲のデザイアモンスターの亡骸を巻きこみ、それらを自らの忠実な下僕たる『骸兵』へと変質させていった。
『キシュ、キシュルルルルル』
『ガギョガ、ガルルルルゥ』
「おうおう、お主らも魔法少女の希望を食えぬまま果ててさぞ無念であろう。我が下僕となって本願を果たすでおじゃる!」
蛇麻呂の号令と共に珠江に群がる骸兵達。
しかしその魔の手が届くことはなかった。
「ここまでよく頑張ったね。あとは俺達に任せて」
骸兵と珠江の間に立ちふさがったのは2人の男。
その1人、クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)は手にした特殊警棒で骸兵の一体を払い除けつつ、肩越しに珠江に微笑みかけた。
「あ、あなた達は……。お姉ちゃん達の、おともだち?」
「まあ、そんなところですかな。はじめまして。角隈礼文と申します。以後お見知りおきを」
クラウスの同行者、角隈・礼文(『教授』・h00226)もまた珠江に向けて丁寧にお辞儀をすると。
「救援が必要のようでしたが、間に合ってよかった」
礼文の紳士的な振る舞いと言葉にほっと胸をなでおろす珠江。
しかし彼女の視線が通らないよう体の影に隠していた礼文の手には、既に血に濡れた医療用メスが握られていた。
礼文はここにたどり着くまでの間に、既に相当数の骸兵を斬り捨てて来ていたのだ。
「では、状況を再開しましょう」
そして、礼文はそう言うやいなや振り向きざまにメスを投擲。
尚もしつこく珠江に迫ろうとする骸兵に『怪異解剖執刀術』の効果が乗ったメスが突き刺さった瞬間、刃との接触面を無視した『切断』という事象が骸兵の胴体に刻まれた。
「では、また後ほど」
珠江に優しく言い残し骸兵の集団へと駆け出す礼文。
クラウスもまたそれに続こうと走り出し――ふと、その足を止めた。
彼が見つめる先にあったのは暖かな光を発する珠江の右手。
「通信で報告を受けたよ。君は魔法少女として『思うままに望みを叶える力』に覚醒したけど、その力の使い方がまだ分からないみたいだね」
そう語りかけるクラウス。その肩の上に、ふいに金色に輝く一羽の鳥が現れた。
彼の√能力『|不死鳥《フェニックス》の加護』が発動したのだ。
「その力は俺の力と少し似ているね。なら少しだけ、お手本を見せようか」
金色の鳥がクラウスの肩から飛び立ち、珠江の頭上で優雅に旋回する。
そして羽ばたきと共に羽が舞い、周囲が光に包まれた瞬間……。
「君の今の『望み』は、助けてくれた人たちにその力を手渡すことだろう。なら俺はその手助けをしよう」
その光の奥から、3人の少女が珠江に向けて駆け寄ってくるのだった。
「怪我はありませんか!?」
真っ先に珠江の手を取ったのは人間の姿に再変身した架間・透空(天駆翔姫ハイぺリヨン・h07138)。
透空は珠江をその場でくるくると回し、心配そうに彼女の全身を観察する。
「あははっ大丈夫だよ! お姉ちゃん達が守ってくれたんだもん」
先程までの凛々しい姿の『天使さん』とは似ても似つかないその様子に思わず吹き出してしまう珠江。
「もう大丈夫そうだね。あとは君たちがその子を守ってあげてくれ」
「雑兵の始末は吾輩達が付けてさしあげましょう!」
その様子を背中越しに確認し、勇ましく言葉を投げかけるクラウスと礼文。
そして2人はそのまま骸兵達の波を押し返すと、復活した怪物たちを再び骸へと返していくのであった。
「さあ、さっさとあの三下を倒してタマエちゃんを解放してあげないとね」
フィオ・エイル・レイネイト(h06098)が睨みつける先にいるのは、次々と蹴散らされつつある骸兵を指揮する蛇麻呂の姿。
行き当たりばったりだ、と冷笑すら浮かんでくるが、今はあんな奴にかまけている場合ではない。
「さあタマエちゃん。お手を拝借」
「うん! むぎゅ~~!!」
芝居がかった素振りで差し出した手を珠江が強く握り返す。
その手のひらから伝わる光はまるでお日様のように温かく、初めて握手を交わした時とは比べ物にならないほどの生き生きとした力が感じられた。
「これで受け渡しは完了、みたいだね」
ゆっくりと手を解いてみても、手のひらから温かさは失われない。
珠江から受け取った力の効果か、気づけばフィオの手にもいつの間にかほのかな光が灯っていたのだ。
「子どもの成長は早いね。年長者らしく若者の手本になってみた甲斐があった」
「さっきも言ってたけど、握手のお姉ちゃんって本当は握手のお婆ちゃんなの?」
「そんな妖怪みたいに人聞きの悪い……まあ、その内教えるよ」
思わず苦笑を浮かべながら一歩下がるフィオ。
「それでは、次はわたしが」
次いで前に歩み出たのは悠磨・あきら(h07866)。
珠江から差し出された小さな手を握りながら、あきらは彼女の『強さ』に憧れのような眩しさを感じていた。
(わたしが珠江さんの立場だったら、きっと憎しみに囚われてしまったと思います。だから、強い珠江さんの力を分けてもらいたい)
どんなに辛い真実をぶつけられても決して挫けなかった純粋な想い。
最初に握手をした時にも感じた彼女の芯の強さを思い返し、あきらは手のひらから流れ込んでくる力をぎゅっと握りしめた。
「……すごいです」
「んぎゅぎゅ~~! ふぇ、すごい? 何がすごいの?」
「珠江さんの心が、ですよ。この澄み切った光がその心の顕れなら、珠江さんはきっと 自分の力でどこまでも歩いていけるくらい強くなれるって、わたしはそう思います。……でも今だけは力にならせてください。珠江さんの心の光、お借りしますね」
笑顔はまだ少しだけ不慣れだけど、精一杯の慈愛と尊敬をのせて。
あきらは優しく微笑むと、最後の仲間――透空へと握手のバトンを繋いだ。
「珠江さん」
手を伸ばし、透空は傷つけないようにゆっくりと珠江の手を握る。
人の姿に|戻った《再変身した》とはいえ、小さな女の子の手を握るのは正直、少しだけ怖い。
だけど珠江はそんな透空の恐怖などどこ吹く風とでも言うように、満面の笑みでその手を強く、強く握り返した。
「たまえね、ずっとね、お姉ちゃんとも握手したかったの! たまえの為にライブをしてくれてありがとうって!」
その笑顔には恐怖の色など一片もない。
「っ……ありがとうございます、珠江さん」
「にゅ? あはは、変なの! 2人ともありがとうって言ってる!」
「ええ、変ですね。でも本当に感謝してるんです。だって珠江さんは私のこと、天使さんみたいって言ってくれたじゃないですか」
怪人の姿の私を見ても怖がらないでくれてありがとう。
アイドルを夢見る透空にとって、自身の正体とは常に夢を阻む恐怖の象徴であった。
いつか本当にアイドルになれたとしても、怪人である事がもし世間にバレたら、その時は全てが台無しになってしまうのではないかと。
しかし珠江はそんな自分の全てを知ってなお『天使さん』と呼んでくれた。
その事がどうしようもなく嬉しくて、透空は思わず瞳に涙をにじませる。
「珠江さんが私を天使と呼んでくれるなら。天使らしく、珠江さんの"これから”を祝福させてください!」
そして口ずさむのは心からの|歌《エール》。
ひとりじゃないから
大丈夫だよ
あなたの未来は、きっと輝いてるから
だから、笑って?
優しい旋律が風に乗って戦場を駆け抜けていく。
それを間近で聞く珠江の表情は太陽のように明るく輝き、隣に立つ2人もまた優しい微笑みを浮かべるのであった。
――しかし、その歌声に激怒する者がここにひとり。
「なにを呑気に歌など歌っているでおじゃるか!! マロのことっ、コケにしておるでおじゃるか~~っ!!!」
骸兵を殲滅された蛇麻呂がその場で地団駄を踏む。
「9年がかりで育てた絶望の芽がこうもやすやすと摘まれてなるものか! こうなればマロの手で直々にその童を葬ってやるでおじゃる!!」
用意周到で執念深く自尊心が強い、それでいて激情に駆られやすいのが蛇麻呂という簒奪者の厄介なところ。
一度怒りに身を任せてしまえば、奴はそれまでの知略を投げ捨てたかのような予測不能の行動を繰り出してくるのだ。
「光たもれ~~!!」
瞬間、蛇麻呂の装束が膨れ上がり、空気を入れすぎた風船のように破裂する!
その内側から溢れ出したのは蛇麻呂が操る式神『破蛇魔』の大群だ。
「やれやれ……りさいたるを最後まで聞けないなんて、そんな|形《なり》して風情の欠片もないね」
それにいち早く反応したのはフィオ。
妖刀『無尽廻廊』を引き抜くと、フィオはその刀身に秘められた妖の本性を解放させていく。
「ここからは曲調を変えよう。無粋な数の暴力には、こちらも数の暴力で対抗しようじゃないか」
一振り。
その瞬間、彼女の周囲に現れたのは妖刀と全く同じ形状、大きさ、鋭さをそなえたレプリカであった。
しかし後ろで見ていた珠江は最初、それを刀であると認識できなかった。
なぜなら眼の前に瞬時に展開されたそれは|数百本の刀で出来た銀色の壁《・・・・・・・・・・・・・》であり、なおかつそれらが高速で回転していたからだ。
「さあ銀輪部隊よ、喰らい尽くせ!」
一斉に射出された高速回転する刃の壁が破蛇魔とかち合い、ぶつかりあった端から奴らを粉微塵に粉砕してく。
破蛇魔の構成要素が実体を持たないインビジブルであったのは幸いか。
粉砕された破蛇魔の群れは肉片を撒き散らすこと無く光の粒子となって空中に霧散する。
「数を増やすほど機動力が落ちるのがこの|√能力《チカラ》の厄介なところだけど……関係ない。銀輪よ、速度を増せ。|音速《マッハ》を超えろ。走れ! 走り続けろ!」
そんなフィオの激に応えるように、勢いを増した刃の群れが破蛇魔の大津波を蹴散らしていった。
「キイイイイイッ! 役立たずの式神どもめ! ならば今度の今度こそマロが手ずから縊り殺してやるでおじゃる!!」
その様にいきり立った蛇麻呂が次に仕掛けてきたのは接近戦。
だが銀輪部隊を猛スピードで迂回した蛇麻呂の先に待ち受けていたのは、改造棺桶を手にしたあきらであった。
「あなたは人の気持ちを踏みにじるのが楽しいようですね」
腹の底からこみ上げる怒りが、あきらの鎖を握る手に力を込めさせる。
(そんなの、許せない。許せない気持ちと憎しみは近いけれど……)
「でも、憎しみには飲まれたりしません」
「邪魔だ小娘ええ!」
蛇麻呂の蹴り出した閃光蹴鞠があきらの眼前で炸裂し、その視界を奪う。
強烈な牽制攻撃。
しかしそれを受けてもなお、あきらは冷静だった。
次いで地面から伸びてくる骸の腕にも慌てず、致命的な部位を狙った攻撃だけを見分けて、最小限の動きで回避する。
次第に体は骸の腕に縛られて身動きが取れなくなってくるが、それでもその瞳に灯った決意の灯火は揺るがない。
「これで終わりでおじゃる! 滅びたもれえええ!!」
そして蛇麻呂が回転蛇腹笏を振り上げながら、あきらに飛びかかった。
「……この時を待っていました。あなたが無防備にトドメを刺しに来る、この時を!」
瞬間、あきらを拘束していた骸の腕が弾け飛ぶ。
そして素早く身を屈めると、空中で無防備な蛇麻呂の腹に鋭い回し蹴りを叩き込んだ!
「ゴエッ!? な、なぜ動けるでおじゃる! 目を灼かれ、体も傷だらけのはず……!」
「珠江さんの、光のおかげです」
――あきらが珠江の能力を介して叶えた願い。
それは『珠江さんが強いと伝える』こと。
そしてそれは言い換えるなら、『珠江さんが力を授けてくれた“わたし”が絶対に負けないこと』!
今のあきらは一時的にどんなダメージも妨害も無力化する不死性を手に入れていたのだ。
「あなたの攻撃はわたしの戦い方と似ていますね。だから先読みも簡単でした」
「くっ、小癪な……ギィ!?」
悪態を吐こうとする蛇麻呂の全身をすかさず改造棺桶から伸びた鎖が縛り上げる。
「それ以上、汚い言葉を珠江さんに聞かせないでください。そしてわたしと攻撃方法が似ているのなら、次にわたしが何をしようとするか、あなたなら分かりますよね?」
「よっ、よすでおじゃ……っ」
あきらが頭上で振り回す鎖の先でブンブンと回転し、遠心力を高めていく改造棺桶。
そしてそれがトップスピードに乗った瞬間、棺桶はジャキンッと凶悪な巨大トゲ鉄球に形を変え、蛇麻呂を強烈に打ち据えた!
「これがわたしの“強撃”です!」
「グギャアアアアアアア!!」
先の戦いでは防衛の隙を作らないために披露することのなかった、あきらの渾身の一撃。
それをまともに受けた蛇麻呂は全身に亀裂を走らせながら、何度も地面をバウンドしながら吹き飛ばされる。
そしてその先に待っていたのは、真の姿を表した決戦気象怪人『ハイペリヨン』。
地を転がってくる蛇麻呂を殴り上げてその勢いを殺すと、ハイペリヨンはその身に更なる力を凝縮させていく。
「珠江さんの道は私が、いや、私たちが切り開きます! 見ていてください。これはそのための──変身!」
そして掛け声と共に、ハイペリヨンの姿が光に包まれる。
しかしこれは怪人化の為の『変身解除』ではない。
夢を掴む新たな自分への『変身』。
全身を覆い隠す光を振り払った透空の姿は、綺羅びやかなステージ衣装を身にまとう無敵の女の子に変じていた!
「|天駆翔姫《ハイぺリヨン》! それが私のアイドルネームです!」
「ヒーロー気取りか、忌々しいでおじゃる!」
「アイドルだって言ってるじゃないですか! ほらマスクだってしてない!」
ムキになるところはそこだろうか? いや、しかしそれが彼女のポリシーなのだから仕方がない。
熾烈な運命の中でも明るい希望を忘れない。そんな彼女の決意と覚悟がもたらした新たな姿は、戦場となった病院周辺のインビジブルへも影響を与えていく。
「正直、麻呂さんが珠江さんにやったこと、許せません。でも、私怨は持ち込みません。……だって、私はアイドル! 珠江さんの笑顔を守るのが使命ですから!」
そんな透空の言葉に共鳴するように、彼女の周囲には実体を持たないインビジブルがアイドルに殺到するファンよろしく集まってくる。
その中には先程フィオに粉砕された破蛇魔を構成していたインビジブルも存在しており、その残滓を取り込んだ瞬間、|透空《ハイペリヨン》の瞳が一層強く輝いた!
「決めました、これが私の叶えたい『望み』──『珠江さんの未来よ、光りたもれ』! ハイペリヨン・ラブリービーーーム!!!」
「それマロの術と違ギィエエエエエエ!!」
ハイペリヨンの瞳から放出されたのは、破蛇魔を光子圧縮した光の帯。つまりは『|光線《目からビーム》』!
最早√能力の再現にとどまらない強化は珠江の『能力』によるものか。
光子力砲をまともに受けた蛇麻呂は、自身由来の光の力すらも吸収できないまま再び吹き飛ばされる。
「うわっ! 眩しっ! これ連発するのキツイですよぉ!」
「すごーい! アイドルってビームも出せるんだ!!」
一方のハイペリヨンは眼球ゼロ距離から強い光を放ったせいで自傷ダメージをうけているが、珠江が喜んでいるからヨシとしよう。
「あまり子供のアイドル像を歪めないでくれよ? ……さて、あと望みを叶えていないのは私だけ、か」
そんな2人を横目に見つつも、フィオは油断無く蛇麻呂を見据えていた。
蛇麻呂も度重なる桁外れな攻撃の連続によりダメージが蓄積しているだろうが、それでも追い詰められた獣は何をしでかすか分からない。
「うん、やはりこれだな」
それを理解しているフィオは怨敵にトドメを刺すべく口を開いた。
「『そこを動くな』」
その言葉が響いた瞬間、蛇麻呂の身体がギチリと軋み、寸分の身動きもできなくなる。
「ひっ、ひい……参った! 参ったでおじゃる! もうその童に手を出すような真似はせぬ!」
「ここまで悪辣なことをする奴の言葉を、誰が信じるっていうのさ」
生き汚く命乞いをする蛇麻呂に向けて氷のように冷たい眼差しを向けるフィオ。その頭上には回転を続ける刃の群れが付き従っている。
空の色すらも覆い隠すほどの密度でもって蛇麻呂に迫る銀輪部隊。
威力に反比例して機動力が落ちるこの能力も、|対象《獲物》が動けないのならばリスクはないに等しい。
「ま、ままままっ!!!」
「いい加減諦めて口を閉じるがいい……。抉れ、我が憤怒が晴れるまで」
そして無慈悲な宣告と共に振り下ろされる妖刀。
激しく地面を打つ刃の雨音は、瞬く間に蛇麻呂の断末魔をかき消していくのであった。
「ありがとう! 本当にありがとうなの! 私、お姉ちゃんたちのお陰で絶対に幸せになれるって思えるようになったの!」
「そっそんなの、こちらこそありがとうですって! ね、あきらさん!」
「はい透空さん。勇気をもらったのは、むしろわたしの方です」
「もう~、またお礼言い合ってるの~!!」
病院の中庭に少女たちの笑い声が響く。
そんな姦しい輪から一歩外れて、フィオは1人思案げな表情を浮かべていた。
「しかし、タマエちゃんの魔法少女の力。√能力……なのかな? そうでもないのかな?まあ、とにかく大した能力だ。この力を巡ってこれからも色々あったりしないといいけど……」
「ねーえー! フィオお姉ちゃんもこっち来てー!」
呼ぶ声の先では、すっかり元気になった様子の珠江が、右手と左手それぞれで透空とあきらと手を繋いで笑っている。
珠江はこれまで、こんな風に友と会話をしたり遊んだりする経験すらも奪われ続けてきたのかと思うと、心が締め付けられるように苦しくなる。
しかし、そんな日々も今日で終わりだ。
「……ま、こう言っとこう。何があってもこれからは『良いことしかないさ』」
「はーやーくー!!」
「はいはい、今行くよタマエちゃん」
そして。
ーー今はもう少し、この【希望】が枯れないよう見守っていてあげようかな。
珠江の弾ける笑顔を見ながら、フィオはふと、そんな風に思うのであった。
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴 成功
ウィズ・ザー「ほォン?やるじゃねェか。」
感情希求が効かないってェ事は悪意と害意が明確だ。対処に切り替えンのは偉いぜェ
「ん?なんだ変な顔して」
クカカ、闇が光に力を借りるのが変ってか?
何言ってンだよ。闇も光も、結局本質は同じモノだ
目に見えるか見えないか…それだけの差でしかねェ
「|在る事《・・・》に変わり無い。」
だから、ほら、な?…光れば光る程に|闇顎《影業》の|力《色》は濃くなって行くぜ
刻爪刃で蹴鞠の軌道変える。仲間が居れば援護
√薄暮A5C45
蹂躙力45倍の闇顎5体に依る破邪麻呂を打ち据え蹴鞠の如くパス回し。黒縄で縛り上げても良いなァ?
仲間にパスを回す。トドメは任せた
そら、尾で打ち払う2回攻撃だ!
「やっぱり今日はいい日だったの……」
夜も更け、病院の消灯時間も過ぎた頃。
叶・珠江はひとり病室の窓から夜空の月を眺めていた。
今日初めて歩けたのだから、夜更かしするのも、自分ひとりで窓の傍まで歩いてみたのも初めてなわけで。
「ガラスって、顔を近づけたら息で少しだけ白くなるんだ。……へへ」
日常のほんの些細な出来事も今の珠江にはすべてが新鮮に映っていた。
そしてこれから始まる何から何まで初めてづくしの日々を想像し、珠江の頬は自然と緩んでいく。
あのあと。
病院には警察やそれに属するヒーローが詰めかけ、周辺はちょっとしたパニックになった。
しかし怪人事件が既に収束した事が分かった後はそれもすぐに収まり、病院側が取った対応もボロボロになった中庭を立入禁止にした程度で、その日の午後の診療は通常通り行われた。
√マスクドヒーローの社会のタフネスさがよく分かるエピソードである。
そして珠江はというと。
「もう元気になったのに、看護師さん達ったら心配しすぎなの!」
結局、そのまま入院生活に戻ることとなった。
いくら魔法少女に覚醒したおかげで病が治ったとはいえ、それで『はい今日で退院です』とはならない。
むしろ何故急に回復したのか、本当に完治しているのか、などの検査があるため明日から忙しくなるのだそうだ。
それでも珠江が退院できる日はそう遠くないのかもしれない。
今日一日で色々なことが起こりすぎて、気持ちが昂ぶってなかなか寝付けない。
そんな窓の外を眺めている珠江の背後の闇が――静かに蠢いた。
闇から染み出した影はスルスルと滑るように珠江の背に近づいていく。
そして。
「よう、元気そうじゃん」
「あっ! アザラシさん!」
「今はトカゲだぜェ。」
いつの間にか背後に(後ろ足で器用に)立っていた巨大な黒蜥蜴――ウィズ・ザー(h01379)の姿を見て、珠江が嬉しそうに声を弾ませた。
「お嬢さんの頑張り、見てたぜェ。やるじゃねェか」
蛇麻呂との戦いに参加していなかったウィズだが、珠江の揺るがぬ決意の強さと、√能力者たちを助けた魔法の力はその場に残した闇顎を通してしっかり見聞きしていた。
一方の当の本体はというと強風に煽られ鯉のぼり状態になった挙句、黒縄が千切れて屋根より高く遠くまで飛ばされていたのだが、格好つかないので今は言わないお約束だ。
「あのマロの言葉によく惑わされなかったな。感情希求が効かないってェ事は悪意と害意が明確に判断できる証拠だ。対処に切り替えたのは偉いぜェ」
「んにゅ……? むつかしい事は分かんないけど、たまえ頑張ったの! むぎゅー! キラーンって!」
「おうおう。格好良かったぜェ!」
全身で喜びと誇らしさを表現する珠江に、ウィズの口角も釣られて上がっていく。
しかしそこで珠江が、あれ? と珠江は小首を傾げた。
「それで、トカゲさんはどうしてまだここにいるの? 悪者はお姉ちゃん達がもうやっつけてくれたのに」
「あァ、それなンだがな? 多分まだ死んでねェンだよなァ、あのマロ」
砕けていた表情を引き締め、ウィズはわずかに声のトーンを落とした。
「ああいう手合は狡猾だ。死んだふりして厄介な奴らが去った後に標的を狙う、そういう事を平気でやってくンのさ。悪の組織ってやつは……だろう? 卑怯者さんよォ?」
ぐりん、とウィズが首をもたげる。
顔を向けたのは病室の扉。
すると、不意に扉の隙間からほのかな蓄光色の光が漏れ出した。
「よもや、バレておったでおじゃるか……」
扉の向こうから”信じられない”という表情で現れたのは、無数の銀輪に切り刻まれたはずの破蛇麻呂。
体も纏った着物もボロボロではあるが、驚くべきことに蛇麻呂はなんらかの手段であの死地から逃げ遂せていたのだ。
「そりゃあな。死体も残らねえ攻撃だったとはいえ、いくらなんでも残骸が少なすぎた……。さァ、安心安全のウィズ・ザーサポートセンター営業開始だ。アフターケアの時間だぜェ!」
窓ガラスが割れる音が夜の病院に響く。
珠江は思わず中庭に飛び出し戦闘を始めたウィズを目で追おうと窓から身を乗り出そうとし、
「そこ、窓割れてるから近づくと怪我するぜ」
「ひゅい!?」
不意に響いたウィズの声にビクリと身を震わせた。
見れば、いつの間にか珠江の肩にはウィズをそのまま小さくしたような手乗りサイズの黒蜥蜴がしがみついている。
「えっ、トカゲさん!?」
「分身出来ンのよ、俺。それより俺にもアレ、やってくンねえ? ギューってやつ」
「ふえ? あっ、たまえの魔法の光? でも、トカゲさんって……」
「ん? なんだ変な顔して。クカカ、闇が光に力を借りるのが変ってか? 何言ってンだよ。闇も光も、結局本質は同じモノだ。目に見えるか見えないか……それだけの差でしかねェ。|在る事《・・・》に変わり無い」
「いやそうじゃなくて。トカゲさん小さいけど、握手できるのかなぁって?」
「アッ、ソッチネ。」
2人の間の時間が一瞬止まった。
「や、やってみるの! でも魔法ってどうやって使うんだろ。あの時は必死だったし……」
「ンじゃ、あン時の事を、起こった事も感情も全部よ~~~く思い出してみな。お前さんの決意がそうさせたンだ。決意さえ固まれば、また出来ない理由なんかねェだろ?」
「う、うん! やってみるの!!」
そして珠江は両手を組んで静かに目を閉じる。
脳裏に思い浮かべるのは暴走しそうになったあの瞬間。
絶望と怒り。吹き上がる炎で真っ赤に染まった視界の中で、それでも自分を見失わないでいられたのは……。
「|たまえの思うままに《アズ・アイ・ウィッシュ》……!」
無意識に口をついた、聞き覚えのない言葉。
しかし何故か心に馴染むその響きに胸が熱く高鳴る。
そして、
「おォ、出来ンじゃねえか」
気づけば、珠江は再び魔法少女の姿に変身していた。
「やった、やったの! さあトカゲさん、たまえの手を」
「ああ、借りるぜ!」
珠江の手のひらに光が灯る。
そして小ウィズはその手の中に飛び込むと、両手を広げてぎゅっと握手(?)を交わし珠江の希望の光を受け取った。
「ンじゃ行ってくるぜ! あァそうだ、もし人に託すだけじゃ満足出来ないなら、お前さんも後から来いよ」
「えっ?」
そう言い残し窓からぴょーんと飛び出していく小ウィズ。
「たまえは……」
そして1人残された珠江は闇の中に消えていく小ウィズの背中を見つめ、静かにスカートの裾を握りしめるのだった。
「キタキタァッ!!」
飛び込んできた小ウィズを取り込み、ウィズの右前足に光が灯る。
珠江の『希望』を叶える魔法の力。その代行者として証を受け取り、ウィズは歓喜の雄叫びと共に一層激しく尾を振り回して蛇麻呂を打ち据えた。
「ぐおっ! くぅ、闇を従えるそなたが光を得て何が嬉しい。光使いならば、マロの方が巧者でおじゃる!」
怒りのままに炸裂閃光蹴鞠を蹴り出す蛇麻呂。
対するウィズはそれを避けなかった。
いや、避ける必要すらなかった。
「はァ、さっきも言ったろ。闇も光も本質は同じだって。だから、ほら、な?」
ウィズの右前足の輝きが、その強さを増していく。
そしてそれに呼応するように、周囲で共に戦っていた5体の|闇顎《小ウィズ》達はより強靭に、より深く、より昏く、その身を変えていった。
「……光れば光る程に|闇顎《影業》の|力《色》は濃くなって行くぜ」
そして遂には大鰐の如き巨体にまで変貌した闇顎たちは、炸裂閃光蹴鞠を一飲みにすると、そのまま容赦なく蛇麻呂に襲いかかる。
「ぎゃあああああああっ!!」
凶悪な5つの牙が腕脚胴に食い込み、蛇麻呂がたまらず悲鳴を上げる。
更に闇顎が咬み付いたままその身を大きく捩らせる――いわゆるデスロールを繰り出せば、蛇麻呂の骸骨の身体は脆くなった発泡スチロールのように粉々に砕け散った。
「風流人気取りが。テメーなんぞ鞠役がお似合いだ!」
そしてウィズは|髑髏《しゃれこうべ》だけとなった蛇麻呂を尻尾で跳ね上げ、それを闇顎達と共に蹴鞠のようにパスを回しあう。
「ぎゃっ! ごえっ! ゆっ、許さん……許さんぞトカゲ風情があああ!!」
「許さなくて結構。だが許さねェのはこっちの台詞だ。お前の重ねた業、清算する時が来たようだぜ?」
そしてウィズは後ろから歩み寄る気配に気づき、ニィっと口の端を釣り上げながら背後を振り返った。
「よーォ、来たかお嬢さん」
そこにいたのは月光の如き光のヴェールを纏う珠江。
闇を切り裂きながら一歩一歩確かな足取りで歩いてくる少女の目には、怒りとも違う爛々とした炎が滾っていた。
「その顔、やれンだな?」
「うん、たまえも……戦うの!」
珠江の決意に満ちた言葉と共に、光のヴェールが激しく吹き上がるオーラに変わる。
ともすれば、初めて魔法が発現した時の暴走状態のようにも見える姿。
しかし既に珠江の脳裏には、正しく魔力を解放するための道筋が見えていた。
「珠江ひとりじゃここまで来られなかった。だからこの力は怒りだけじゃない。皆へのありがとうと、頑張るねっていう決意の証!」
「その意気やヨシ! ほゥら、俺からの手向けだ。受け取れ!!」
最大級の笑顔と共にウィズが尾で蛇麻呂の頭を高く打ち上げる。
「たまえはこれからも『思うままに』! |月光照射《レイジング・サーチライト》!!」
そして打ち上げられた髑髏に向けて、珠江の全身から極大の光線が迸った!
「そ、そんな、マロの力作がっ。極上の絶望がっ……! ギィイイイアアアアアアア!!!」
断末魔の叫びを上げる髑髏を飲み込み、光線はそのまま夜空を明るく染め上げながら天外へと昇っていく。
少女の人生を踏みにじった外道は、その少女の希望の力により今度こそ完全に消滅したのだ。
そして力を使い果たしたのか。珠江はそのまま地面にぺたりとへたり込むと、未だ夜空を駆ける光の帯を見上げ。
「やっぱり今日は……良いことしかなかったの。そして明日からは、楽しいことしかない!」
満足気に笑ったのだった。
🔵🔵🔵 大成功