古本屋の地下

企画:双紙物語 ノベルサンプル

天泣・吟 3月9日22時

◉SSサンプル(1000文字)
 黄昏時。ぼんやりと窓を眺めていた仔犬の耳がぴょんと跳ねる。
「そろそろ時間だ」
 ボロのかやぶき屋根の下、隙間風の入る古い部屋で天泣・吟はそわそわとその時を待っていた。見るからに場違いな洋風の椅子を何もない部屋の片隅に置いて腰掛ける。明らかに壁の方を向けた椅子の正面には何もないが、少年は楽し気に尻尾を揺らしていた。
 空に橙色が滲んでいる。徐々に闇色が迫って来て、互いの色が混じり始めた。
 部屋が暗くなるにつれて、内装がぼんやりと滲んでいく。景色が滲むなんてことがあるだろうか。しかし、確かに起こっているのだ。劣化が激しい室内に、手入れが行き届いた洋風の内装が重なっていく。
「今日も元気そう」
 数多くの妖怪が人間を知らぬ中、吟はその存在を認知していた。それどころか、自分の住処と繋がる家族のことすらもよく理解していたのだ。多感な時期に表の世界に触れてから、どうにかして干渉出来ないかとあれこれ探っていたところ、この時間帯の数分だけ向こうの世界と微かに繋がることを発見した。
 吟が楽しみにしていたのは向こうの世界で生きる人間。もっと言えば。
「ふぇ」
「あ、やば」
 赤ちゃんである。
 怪獣の如く泣き喚く赤ん坊を前に出来ることは特にないのだが、日に日に大きくなっていく人間が面白くて日々観察している。健やかに寝息を立てている時もあれば、車のおもちゃをぶん投げて笑っている時もあり、目が離せない。今日はどうやら居心地が悪いらしい。
 こうやって景色を見ることは出来るものの、直接関与は出来ない。力のある妖怪ならまだ違うのだろうが、吟はまだ成長途中だ。何度か触ってみようとしたがすり抜けて元の世界へと戻ってしまう。今も、慌てて何かをしようとすればすぐに世界は揺らぎ、交わりが消滅してしまうだろう。
「うーん、なかなか泣き止まないな……」
 ベビーベッドを覗き込んで様子を窺う。このギャン泣きは親に届いていないのか、あるいは届いていてもすぐには来れないのか、やってくる足音はない。
 ふと、泣き声が落ち着いた。
 気のせいだろうか。赤ん坊と目が合ったような。
「だー」
 明らかにこちらへと手を伸ばす赤ん坊にビックリして後退れば、ガターンと勢いよく椅子とぶつかり尻もちをついた。当然、重なった景色はひとつにまとまり、元のボロ屋だけが目の前にある。
「ぼくが……見えてた……?」
 また一歩、人間の世界に近付いたような、そんな気がした。

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◉キャラクター設定サンプル(1000文字)
●基本設定
 人間が暮らす表の世界を、幼い頃に知った仔犬の妖怪。まだ成長途中。ヒト型に仔犬の耳と尻尾がついた獣人型。
 両親は幼い頃に他界し、なんだかんだ近所の妖怪たちにお世話になりながらボロ屋で一人暮らしをしている。家の裏に一人でも耕せる小さな畑があり、その横には果物のなる木が生えているため、思ったよりもなんとかなった。気ままな一人暮らしをエンジョイ中。
 近所の子猫と仲が良く、互いに鬼ごっこやかくれんぼに誘い誘われ毎日遊んで暮らしている。一番の友人。最近はマンネリ化してきたので新しい遊びを考えたいところ。子猫の親には自分の子供のように可愛がってもらっている。
 妖術の属性は炎。狐火のような小さな火の玉を召喚できるが、まだまだ未熟なため沢山出すと力尽きる。温度が高くはないが、青白い炎を灯すことが出来る。日々の料理や暖取りに使えるので便利。自分の意のままに点けたり消したり出来るので火事の心配はない。
 また、短刀を両親から授かっており、大事にしている。いざという時の護身用。
 日課は黄昏時のみ重なる、同じ家に暮らす赤ん坊の様子を見ること。重なることは誰にも言っておらず、仲良しの子猫にも内緒にしている。赤ん坊の名前は知らないので、適当にまるちゃんと呼んでいる。

●関連
 近所の子猫
 名前はルゥ。白猫。完全な獣型だが、吟と同じ言葉を話せるし後ろ脚で直立も出来る。
 細かい事は出来ないが、高いところまで簡単に登れる。吟と役割分担をして、それぞれ出来ることをして遊びの幅を広げている。
 最近のブームは高いところに罠を仕掛けて、下を通る妖怪に悪戯を仕掛けること。

 赤ん坊
 同じ家屋で暮らす、表の世界の人間の一人娘。生まれてから数か月経った頃に吟に認知された。
 吟のことは認知できていないが、なにかいるなあと存在を感じている。お化けとか幽霊の類。成長したら忘れるかも。覚えてるかも。

 過去
 ある悪天候の日の夜、土砂崩れによって住処が埋もれた。咄嗟に庇った両親は重傷を負い、回復することなく衰弱して亡くなった。
 このとき吟も頭を負傷したが生還。その影響か表の世界への干渉力が高まり、両世界が最も近付く時刻に表の世界が見えるようになった。
 土砂崩れの原因は、表の世界の人間による放火。家屋が失われたことにより裏の世界にも影響が出た。この頃は表の世界を認知していなかったため逃れる手段もなく、巻き込まれて死んでいる。

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◉所持品の詳細(500文字)
●護身用の短刀
 亡くなった両親から授かった短刀。刃渡り24cm程度。戦闘用というよりは守り刀であり、お守りの意味合いが強い。
 事情を知った近所の子猫の親妖怪から手入れ用品一式を貰ったため、毎週きっちり手入れしている。両親の形見でもあるので、サボることはない。いつもピカピカ。出掛ける時は必ず懐に短刀を仕舞っている。
 鍔には炎と鈴が掘られており、細工はかなり凝っていることから格式高いものと見受けられる。
 両親が吟の為に購入したもので、代々吟の家系では一妖怪につき一刀与えられることになっている。両親の小刀は亡くなった際に折れてしまいロストしている。

●子猫から貰った鈴
 近所の子猫から貰った鈴。お友達の子猫は「拾ったからあげる」と言っていたが、どう見てもピカピカなのでお店で買った新品の鈴である。
 妖力がかかっており普段はふつうの鈴と同様に音が鳴るが、鳴らないように念じると音が鳴らなくなる。そこそこ大きい。
 ベースの音は大きさもあって低めの音をたてる。これもまた妖力のお陰で望む音を鳴らすこともできるので、やろうと思えば演奏会なんかも可能である。ただし、鈴の音に限る。太鼓の音を鳴らして!は不可能だ。

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※その他、ご希望があって叶えられそうであれば受諾いたします。