【語】花冷え
王様の凱旋は、御供のワニと煙草臭い男を引き連れ始まった。
花の意匠が施された扉の先、
また長い廊下をてくてく歩いて、
傘が要る温室を通り過ぎたら
欠けたティーカップが並ぶ客間で少し休憩。
そうしたら階段を見つけた。
▼ ザネリとジャン

そりゃ面白い。呼ぶか。(扉を閉じるのにも苦戦をしながら、至極真面目にそう答えた。)……俺が買う前からこうだったからな、正しくは知らねえが、奇妙建築ってやつだとは思っている。………庭は多い方が良いだろ。(薄ら開いている気がするが、今は目を瞑る。)………次はおすすめ物件だ、期待してこい。(次の扉はあっさり開いた。扉に御札が何枚も貼ってあるのが、少しだけ気になるだろうが、)…ああ、お前が先に入った方が良いな。(お先にどうぞ、と先を譲った)
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卒倒した大工さんが起き上がらなくなったらお前のせいだな。(扉を見る)………。(御札が何枚も貼ってある。)こういうの、√EDENのドラマで見たことある。不吉な奴で(中に井戸があったり、テレビから黒髪の女が飛び出してきたりしないだろうか。あれって生き物換算だよな……ごくり、とつばを飲み込む)……な、なんだよ!なんで次は俺が先!?(こ、こいつ……という眼をして、けれど恐る恐るロビンソンを片手で抱え、もう片手で扉を押す。中を覗き込んだ)
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はは、また館が賑やかになっていいじゃねえか。(それに、足がない方が高いところに手が届く。そう呟いている最中、何度見ても御札が貼ってある。)……ほお、知識人だな、ジャン。(続いて、扉の中を覗き込むと、)(ブランコが風に揺れている。 大きな窓があった。 カーテンが揺れている。 壁紙は深い緑青色と白のストライプ、床は木目を生かしたフローリングで、柔らかそうなラグが敷かれている。子どもには丁度良い大きさのベットと、書き物机。 中身の少ない本棚と、それから、 窓から反対の、壁側に小さな箱が置かれている。 ) なあ、 何が見える?
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色々知ってるぞ。√EDENには呪いの井戸とか絶対入っちゃいけない家とかがあるんだろ…(言いながら、恐る恐ると言う様子で中を見ている。すぐバンと扉を閉められるようにドアノブは握ったままだ)ここがブランコの部屋か。てっきり、メインに持ってくるかと思ってた。(右に左にと視線をやる)子供部屋っぽい。本棚……は、遠目からだけど図鑑、とか?絵本とか見える。あと、ちっちゃいベッドと机だろ。壁も雰囲気いい。窓がデカいな。こっからだと中庭が見えるのか……?(まだ扉から離れない。窓から下に視線を下げる)……あの箱は?
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物知りじゃねえか。………ちなみに、√EDENに限らない。(ドアノブを握ったままでも、好奇心の方が勝るのか、顔を出している姿を見下ろして。)……結構気に入ってんじゃねえか、メインディッシュに持ってきてもいいが、意外性が欲しかった。(雇用主≪悪戯好き≫として期待に応えねばならない。)………そう、箱が見えるだろ。どのくらいのサイズに見える。
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こっち来てちゃんと情報仕入れたからな。(情報を得る手段が偏っている気もするが、本人は自信満々だ。ドアノブを握ったままだが、もう少しだけ扉を開ける)ちゃんと部屋探してんだよ。まあ、ちょっとベッドがちいせえけど壁もいい色だし――(斜め上の相手を見上げた)は?はあ?サイズ?……詰め込んだらロビンソンがギリ入るぐらいか?(結構ぎゅっぎゅ…ッとする必要がありそうだが)
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(じりじりと進んでいく若人の勇ましさを、ただ、斜め上から眺めるのはなかなかに楽しいものだ)まあ、良さそうな部屋を見繕ってはいるからな、安心して案内されろ。………普段からデカいベットで寝ているような言い草だな、王様と名乗るだけある。(先ほどの部屋はカウントしないらしい。下からの視線を受けて、漸く屈む。誰かに聞こえないように、小さな声だ。)……結構デカく見えてんだな。よし、……それから、色は。形状は?……ロビンソンは入れるなよ。………そうだな、何が入ってるような箱に見える?
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……昔はな。今はベッドあるだけで嬉しいよ。(存外素直な反応をして、また少し扉を開けた。これで殆ど扉は全開になる。窓が広いその部屋は、とても明るい。少なくとも井戸のイメージには合わない)色って…茶色。木箱だ。ちょっと古いやつ(急に小さくなった声に、ドアノブを握っていた少年が君の方を見上げた。光る目が僅かな不安を帯びている)何って……子供部屋だったら積み木とか?玩具の類じゃね?
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………仕方ねえな、ベットはデカいヤツに変えてやる。(この子どもが生意気でないと、楽しそうでないと、胸の奥が騒めく。理由は未だよく分からないが、自然とそう口に出していた。)
そうか。素材は木か。………ああ、玩具なら、いいんじゃねえか?問題ない、寧ろ、良い。(扉を押して開いたのは、男の方だった。そして部屋へと一歩踏み入る。勿論、井戸はないので女が這い出てくることもない。風が男のコートを揺らしたから、煙草の香りが届いただけだった。)
俺には、そうは見えない。この札の理由はそれだ。もう剥がしちまってもいいかもな。
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なんだよ急に。…言っとくけど、さっきの部屋は確かにベッドはデカかったけど勘弁だからな!(心の中は勿論わからず、冗談か何かだと思ったのかいつものように笑った。相手が先に踏み入ったのを見て、追いかけるようにドアノブから手を離して部屋に入ってくる。また中を見渡した。明るさに怖さが薄れてきたのか、もう不安げな色はない。一歩、二歩箱に近づく。)……で。結局なんなんだよ?これ。ミニカーとか入ってんの?(窓の近くのそれは、扉から見たよりも小さく見えた。しゃがんで、普通に蓋に手を伸ばす)
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(先ほどまで隠れていた癖に、軽やかに先を行く姿を見てなぜ安心したのかはわからない。ただ、蓋を開く前に、男が手を取った。)
それでいいか?…………ミニカーが良いなら、良いが。
ジャン、お前がほしいものを思い浮かべてから、開いた方が、良い。
………出来るだけ、具体的に。抽象的なもんは期待するなよ。…………いいか?
(手を離した背高が窓の前に立ったせいで、影が出来る。
それでも、風に乗って嗅ぎ慣れた煙草の香りがした。)お前が何を望むのか、見せろ。
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(取られた手に不思議そうな顔をする。)それでいいかって、……(続けられた言葉にまた不思議そうな顔をした。日差しが遮られて、安心していた陽の光が少し遠ざかる。嗅いだ煙草の匂いは最初会った時とおんなじ香りだった。)サンタさんがくるには遅いと思うけど。プレゼントを入れたの?凝ってる雇用祝いだ(望みは言わずに、ふっと、誤魔化すように笑った。箱を見下ろす。木箱は何も言わずにそこにある)国民の幸せ。遊び相手。たまの労働力。――全部チューショーテキだな、確かに。
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雇用祝いは他に用意している、んだが、この際コレもそうだと言っておこう。その方が、俺の手柄になる。(自分ではその箱に触れないようにして、こどもの掌を木箱の蓋へと導いた。)(子どもの零した望みは、どれも、”王様”らしい望みばかりで、すこしばかり、癪だ。ガキらしくない。)
この名悪役のお宝だぞ?……聖人君主じゃあるまいに、一個だけだなんて勿体ねえ、お前が、ほしいもの、この箱に入るだけ、思い浮かべてから開けてみろ。………俺の予想だと、恐らく、それは叶う。
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さっき報酬の話はしただろ。なんでそこから祝いが次々と出てくるんだよ。(不満そうな言い方で、声は弾んでいる。自然と導かれた手の先で、蓋を手に暫く固まっていた。悩んだ眼はまだ継続しているように見える)箱に入るだけ……。(箱の大きさは結局自分の膝下ぐらい。ふつうの段ボール箱より小さいだろうか)
意外とむつかしいことを言うな。一個だけなら、無くしたキングの駒で良かったのに(体積的に、駒が100個あってもいっぱいにならないだろう)……ザネリなら、何が欲しいの?
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前菜にと選んだ部屋が思いのほか、いいもんだったんだ、仕方ねえだろ。嬉しい誤算って奴だ。……ん~?随分悩むじゃねえか。(焦らされている気分にもなるが、子どもの悩みに付き合うのも一興。)……俺か?……俺の欲しいもんは、この箱にゃ入りきらねえな。それに、限りがない。だから、俺には見えなかったんだろうさ。(子どもの手の下、小さな箱がある。男の目にはガラスの箱が見えた。それは頑丈に鎖で覆われていて、この部屋に初めて訪れた日からずっと、自分には拒絶の意志を崩さない。腹いせに扉に札を貼った。)
そうだな、例えば……朝にだけ咲く花、美味い酒、首の無い男、天使の羽、勝手に鳴るピアノ、宝石の瞳、頁の終わりがない本、甘い魚、宙を浮かぶ猫、暇潰しの相手、煙草をワンカートン、人魚の肉、北の星をひとつ、新品のシーツ、西棟の電球の替え、………まだある。
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…いや、西棟の電球の替えは自分で買えよ。(最後まで黙って聞いていたと思ったら、まったく、と大人ぶって言うことは忘れなかった。箱へと向きあう視線は未だに戸惑いがある)見えないも何も、普通の箱じゃん。鍵もかかってねえぞ(少年の目には普通の木箱が見えていた。普通にぱかっと開くタイプの、鍵をかけることすら出来ない箱。)
はは。ザネリって、ケッコー欲しい物あるんだな。俺は……俺のって言われると難しい。王様のならすぐなんだけど。(んー。と。尚も考えながら、悩みながら、両手を箱の上に置く)とりあえず、電球の替えだろ?(1つ)新しい靴。ぴかぴかのチェス盤(2つ、3つ)ベリーのジャム。美味しい紅茶。花の栞。(4つ、5つ、6つ)ふかふかのクッション。星の金平糖。赤いリボン。新しいアルバム。妹にあげるオルゴールだろ?……後、こっちにいるうちに、遊園地とか水族館とか、行きたいなあ。箱には入らないケド。
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もう3種類電球を買ってきたってのに、どれも合わねえ。(貴方の小言に淡々と答える男は、いつものように満足気だ。)……そうか。鍵も掛かってねえのは楽でいいな。なら、開けるだけだ。(目下のガラスの箱は、鎖でぎっちりと守られている。解こうと躍起になった夜は一度ではない。自分には中身が見えているというのに。)
………おい、お前が欲しいもんでイイ。……チェス盤は俺に用意させろ。(好きにしていい、そう自分で言ったくせに、眉を寄せて口を出してくる。)………妹は幾つだ。最近のガキがオルゴールで満足できるのかよ。入らねえ方は、次の機会にしろ。……喧しい場所はな騒がしい奴らを連れて行くもんだ。
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注文が多いぞ。(突っ込んだ。えー、じゃあ…とまた悶々と思案を始める。両手を置いたから仕方なく蓋の上に置かれたロビンソンも欠伸をしそうな、長めの沈黙。)――……あー。当時で4歳。一番下の妹だったからなあ。でも、4歳の女の子のプレゼントってそろそろネタがねえんだよ。いいのある?
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……当時?(引っかかる言い方だ。それに、聡明で生意気なこのガキにしては随分と言い淀んでいる。上機嫌だった男も、少しだけ間を置いて。)……そうだな。ガキに何やっていいかなんて、俺に聞くもんじゃねえとは思うが。……女に贈るなら、年齢問わず装飾品が良い。背伸びしたいガキなら猶更だな。指輪は食っちまうから。俺ならブレスレットか、(子どもの首元に揺れる、みどりいろを眺めて)それに似たもんを贈る。
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えー。4歳だぞ。装飾品………いや、逆にそんぐらいといえば大人っぽいセレクトの方が嬉しいのか?(うーんうーん、と。もう一度考え直す。――よし、と。)電球の替え(これはぜったい必要らしい。)、タンザナイトのブレスレット(考え直された。)、新しい靴、ベリーのジャム、美味しい紅茶、花の栞、ふかふかのクッション、おいしーシフォンケーキ、さっきの鳥の缶とセットのドロップ缶、万年筆も欲しいな。あと今後いちごがりする時のスコップ……と。じゃあ、遊園地のチケット入れてもらおう。座にいる人数分入れて貰えば足りるだろ。(そんなに入るだろうか?いや、面積を考えればギリギリはいる筈だ!)(箱の蓋に手をかける。少年の目からは鎖も何もかかっていないように見えたそれは、やはり容易く開いた)
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(開いた箱の中からは、まず、ふわりと風船が飛び出してくる。ぷかぷか浮かんだ風船を見送った後、箱を除けば、あなたの思い浮かべた物が、お行儀よく並んでいた。
派手な色合いの電球。青い石が煌めくブレスレット。子どもの靴、ブラックベリーのラベルで着飾ったジャムの瓶。「マリアンヌ」のロゴが目立つ年季の入った紅茶の缶。刺繍で彩られた蛍袋の栞、手触りの良さそうな大きなクッション、シフォンケーキの代わりにゴマ煎餅。渡り鳥のドロップ缶は所々へこんでいる。深緑色の使いこまれた万年筆。春を連れて行くレモンイエローのスコップ、それから、ぱん!と音がして頭上の風船が割れた。後ろの男が割ったらしい。きらきらした紙吹雪と一緒に、ひらひらと紙が数枚落ちてきた。拾うと、何かのチケットだとわかる。『月が丘』と書かれている。)
ほう、豪華だな。
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(暫く蓋を掲げた状態で止まっている。事態をうまく視認できないらしい。蓋の上に乗ったロビンソンとちょっとだけ目があった)(……2、3秒のクールタイムの後、ぱん!と音が鳴るのに合わせて少年の脳が通常に作動を開始した。ばっと後ろを振り返る。蓋を手に持ったまま)すげーー!!!(端的。見上げる目線は10代の少年の驚きと輝きに満ちている)
どうやったの!?俺もこれ、やりたい!みんな超驚きそう!(わいわい。視線を箱の中と男の顔で往復させる。すごいすごい、とまた口にした。)
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(こいつ、クソ可…い…な。)…………大満足って顔だな?(振り返った顔を見なくても、前菜がメインデッシュに早変わりしたのは理解した。眩しいくらいの輝きをみるに、育ちの良い坊やのお眼鏡にかなったようだ。)願い通りにならなかったもんもありそうだが、確かに上出来だ。偉い、(すごい、すごいと素直に口にするものだから、頭に手が伸びていた。)
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(触ったら、指通りが良さそうな髪に触れる前、中途半端に宙に留まった手を誤魔化すように箱の中へと伸ばす。)……名前は決めてなかったが、そうだな。よい子の宝箱、としよう。(命名:今。 自分には開けなかったこの箱に、相応しい名前だろう。)もう一回、使えんのかは、……試さねえとな。(それでも、子どもが触れる前に、怪しいもんがないか目を滑らせる。電球は嫌がらせのように色付きにされたが、それ以外に悪意は感じない。ゴマ煎餅の袋を掴んで。)……これは、食わねえ方がいいと思うが、それ以外は、問題ない。恐らく(湿気てそうだ。)
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いい!気に入った!(爛爛とした目はいつもの3割増しに光っているように見えた。すごい、ともう一回呟いてから蓋をロビンソンごと下に下ろす。……その時に相手の手が宙に舞っている事なんて少年は全く気付いていない。君の手の変遷を、こっち側を見ているロビンソンくんだけが見ている。)何回も使えるかな?でも、こんないい事が何回もあったら幸せ過ぎて困っちゃうか。やっぱり一人一回がいいのかも(よい子の宝箱と命名された箱を今度は両手が自由になった状態で見下ろす。適当に近くにあったブラックベリーのジャムの瓶を手に取ってラベルを見ると、弾んだ声で言った)美味そうなジャムだ。暫く朝はクロワッサンだな。
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(派手な色合いの電球を別の手に取った。)西棟の電球は常にパーティナイトしてるんだな(はい、と君の方に嫌がらせかもしれない電球が差し出される。まあ、恐らくサイズが合いはするのだろう。毎日がパーティの夜になるだけで)やっぱり、保存がきかないごはんは駄目だったか。――こっちは?(足元に落ちていたチケットを拾い上げる。)……『月が丘』?
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(ワニからの生暖かい視線を感じ、靴先で小突いた。)………近所のガキなら、ここでなんで一回なんだって叫び出すところなんだかな。……うん、お前に相応しい箱だった。
(手渡された派手な色合いの電球を嫌そうな顔で受け取る。つくづく自分には反抗的な箱だ。)落ち着いた階段がびかびかになっちまうじゃねえか。……暗闇の方がマシか?(ただ、受け取った以上は西棟はびかびかする運命にあるのだろう)ダンスフロアにしてやるから、踊っていけ。
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………それが、一番の嫌がらせだな。とっくに潰れている。(セピア色の長方形の紙、正に遊園地のチケットというデザインのそれを横目で眺める。有効期限の部分には、『夜が明けるまで』と記載されていた。地図のようなものも、住所も明記はないが、『明けない夜に、しあわせな夢をお届けします。どうか迷子にならないよう手を取り合っておいでください。』と書かれていた。)まあ、行けないこともないが。
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つぶれてる。(相手の言葉を鸚鵡返しする。まじまじと眺めるチケットには、最近のチケットのようなQRコードはおろか住所も電話番号も書かれていない。『夜が明けるまで』という文字を見つめて、それから顔を上げた。)じゃあ、行ってみる。(折角だからな、と付け足す少年の言葉に特に迷いはない。本当に「折角だし行ってみる」のだろう。しかし声は嬉しそうでもある。)でも、遊園地だよーってみんなを連れてったら、がっかりさせちゃうかな。何人か行けるみたいだけど。
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(…ここで始めて、相手が嫌そうな顔をしていたことに気づいたようだ。いいじゃんパーティナイト、などと思っていた)俺、舞踏会デビューまだなんだよね(王族ジョークなのか本気なのかよくわからないことを言って、ジャムも元の位置にいっかい戻す。綺麗に整列させた中身を見て、相手の方を見て)これ、中身どっかに移したほうがいいかな?
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行くのか?(やっぱり怪訝な顔)………文句言うなよ。少し遠出になる上に潰れてんだからな。……お八つは300円まで。それが守れたら連れて行ってやる。(嫌がらせと言った割には、あっさり受け入れた。子どもの手の中のチケットを一緒に覗き込むと、はっと鼻で笑笑う。)夜に行けってことだろうな。……灯りも持っていくか。まあ、…お前が下見に行って良いと思えば、全員連れて行けばいい、チケットなど無くても侵入は容易いからな。
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…………………お前、次いつデカくなる年だ。折角なら誕生月にデビューしろ。(従業員を巻き込んで躍らせたなら立派な舞踏会に違いない。この男は存外催しが好きらしい。)お前の好きにしたらいい。お前の箱だ。…だが、クソ可愛げなのない箱から中身を移して捨てたっていいぞ。(電球といい、チケットといい、カワイクナイ箱を見下ろす。)……ああ、これだけはもっておけ。(指差したのは、紅茶の裏に隠れていた。銀の鍵だ。緑色のリボンが結ばれている。)部屋の鍵、だろ、たぶん。
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招待には行かないと。(箱からのプレゼントを招待状だと受け取るのもどうかと思うが、兎にも角にも少年はそう受け取ったらしい。相手が覗き込みやすいように少し券を掲げたが、どこをみても場所が書いていないのには、ちょっと困った顔をした。相手を見上げて。)……おまえは行ったことあるのか?ここ。
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…………ザネリ。実は、王様にも苦手なことの一つ二つあるんだ。たとえばワルツとかな。(面倒で授業サボってた、と素直な感想が呟きながら箱を漁り、緑色のリボンがついた鍵を取り出す。窓の光に掲げると、銀色が綺麗に光った。にんまりと笑って)じゃあ、暫く借りる。お前も、まだしばらく入れさせてくれ。スコップはもうすぐ使うから(箱にも語りかけている。ロビンソンもよいこのたからばこも喋らない。暫くの沈黙の後、振り返った)そういえば、メインディッシュは結局なんだったんだ?
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(見下ろしていた子どもと目が合う。)
……あるよ。見応えはあるはずだ、革靴よりは歩きやすい靴で来い。……移動はあるが、この館から、扉が通じてる。……招待ねぇ、まあ、お前が夜更かししたい日に案内役を承りましょうかね。
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なんだ、しっかりヤンチャしてんじゃねえか、オウサマ。(ヒヒ、と笑う声が頭上から聞こえる。)あんなの、曲に合わせて揺れてりゃいいんだよ。(男が後ろでくるりと回る、邪魔な背高が退けば、窓からの陽光が、あなたと小さな小箱、それからひなたぼっこが大好きなワニのぬいぐるみに降り注ぐ。)
……そりゃ、お前。屋上だよ。
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じゃあ、おまえを案内役に任命する。靴もお菓子の値段もちゃあんとしておく。そうだな、いつでも………。(そこまで言ってから、数秒間があった。丁度相手が窓の前から退いて、お日様のひかりが当たった時だ。闇の中でも輝く瞳と、手の中の銀色と、頭の上のすすっけた王冠がきらりと輝いて、……ふと、気付いたように、もう一度相手の目を見た。)そういえば、ちょっと用事があったんだった。……その後でな。
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壁フリーな生活最終段階じゃねえか!さっきの部屋での指摘はどこに!?(むぐぐ…とひとしきり唸った後、まったく、と手の中の鍵を…もう一回眺めてから、ポケットに仕舞った。)……まあ、お前の足を踏んづけてもいいなら出てやるよ。ダンスは嫌いだが、パーティは嫌いじゃない。(ロビンソンをひとなでしてから)じゃあ、此処にいる間はこの部屋使うから。使わなくなったら、鍵は返す。
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んだよ。(用意をしろと言ったのはコイツの癖して、用事あると言われると口を尖らせた。案内役は、両手を頭の後ろに組んで、まあ、仕方ないというポーズをする。)
……ああ、用意が出来た夜に声かけろ。待ってる。
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(屋上に対する文句はニヤニヤしならが、聞き流した。いつものことだ、満足)
……足踏み大会のが楽しそうだな。(撫でられて、陽が当たって、満足そうなぬいぐるみと、子どもを見下ろしながら、首を傾げた。)いや、別にイイ。その鍵はやる。どうせ、俺にこの部屋は許されてねえからな。お前のだ。……有意義に使え。
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…………。ああ。悪い。(珍しく歯切れが悪く、しかも素直に謝った。よいこのたからばこの中身をもう一回見て、それから名残惜しそうに蓋を閉じる。)有意義にって言われると困るな。王様の執務室にでもするか(少し冗談をいって、窓から離れた。ロビンソンは日向の場所に置かれて、銀色の鍵は王様のポケットに収まっている。日の当たらない扉の方によって、両手を頭の後ろに組んだ男を緑の目が見上げる。)…………ちなみに、ザネリ案内役。礼は何がいい?すっごい甘いお菓子でいいか?
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(笑ったと思えば、影を差す。春の天気より移ろいやすいから、目が離せない。)
礼ねぇ、お前の反応がいちいち良かったから充分ではあるんだが。……そうだな。
…甘いもんなら俺が買ってやる、手土産のひとつとして。
(片目を覗き込むようにして屈むと、内緒話でもするように、男はこう言った。)
今度はお前が案内する番でもいいんじゃねえか?……王様よ。
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(一瞬目を閉じた。それから、開いて。)わかった。
(屈んだ相手に口元を寄せた。内緒話には内緒話で答える。まだ大人になりきっていない少年の、少し高い声。)案内しよう。どこにいきたい?甘い魚か、ワンカートンの煙草でも買いに行くか?
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じゃあ、期待してろ。
俺が行きたい場所は両手に収まらないほどある。
手始めは……
(しばらく考えた後、ごにょごにょと、耳元で囁いて。にいと笑った)いいだろ?
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