有ること無し。何をもっての故に
「『たんていしゃ』って、なんかこう、ハードボイルドな厄介事や荒事に首を突っ込むお仕事なんですよねっ」久しぶりの依頼かと思って出迎えれば、どうやら求人側の案件だった。
ひとまずお茶を出しながら、軽くここでやる仕事内容について説明すればそのような返答。
概ねその理解で間違ってはいない、と目線だけで頷く。真宵探偵社の探偵社はピンカートン探偵社の探偵社だ。今考えた。
それに、と。軽く唇から舌を閃かせ、同属らしい匂いを嗅ぎ付ける。
自分と同じ妖の血が流れている存在なら、繊細な人間さんたちと違って大抵のことは乗り切ってくれるだろうと営業スマイルで受け答えし。まぁ書類の一文を見れば妙な気配に引っ掛かって辞退するかもなぁと思って差し出してみれば、
「えーと。 「業務中、何があっても自己責任」……って、書かれてるこの紙に判子を押せばいいんでしたっけ?」
判断が早い。
応無所住というにも程がある。
一応念の為、自己責任の意味をご存知かどうか伺う必要がありそうだった。

ええ、もちろんその内容を承諾していただけるという前提があって、それを確認したという意味で捺印か署名をお願いしておりますが――具体的には、もし依頼中に不慮の事故などがあっても、必ずしもこちらで救済の手立てを講じられるとは限らないという事です。ここで例えば猫探しの『噂』を聞いて、そちら様が『自主的』にその子を探し当てて、こちらに連れて来られた。私どもがその偶然を喜びつつも飼い主様に連絡して一件落着、『謝礼』として報酬を分配いただく……という流れになりますが、その過程で何かあってもこちらとしては責任を負える立場にはない。そんな感じです。(すらり、と。表情も変えずに言い切って。ただお遊びに使う銀色の玉をなぜかものすごく欲しがって、現金や各種景品に交換してくれる奇特な人について説明するような論法だとは思う。けれど印を認めるというのはそれを呑むという事だと、鈍く発光するような金瞳で相手の顔を覗いて)
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う、噂?自主的?
(流暢に流れ込む言葉の渦に目を瞬かせる)
えーと。お仕事の仕組みはなんとなくわかったようなわからないような感じなのですけれど。
ざっくり言うと『危ないこともあるけど、助けられるとは限らないよ』ってことであってます?
(小首を傾げながら、なんとか情報を自分なりに咀嚼しようとする)
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おおよそ、そのような理解でいてくだされば問題ありません。もちろん全部が全部危険を伴うようなことはありませんので、猫探しや庭の草むしり代行といった業務だけ補佐していただくということも可能ですが……。(淡々と言い募る。まぁそれらの仕事で得られる報酬は子供のお小遣いも良いところなので、稼ぎが欲しいという人には堪ったものではないだろう。ずるりとソファの背凭れに預けた尻尾を膝元に這わせて撫でながら、軽く首傾げ)
ちなみに、そちら様がどのような事を得意とするか、伺っておいて宜しいでしょうか。適正によってこちらからお手伝いいただく事を提案したりする場合もありますので。(妖と言っても、その差は人間同士より千差万別。見たところ角や尻尾、あるいは翼は無いようだが、どういう種族なのかと問い掛け)
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大丈夫、多少の荒事は「先生」の元で経験済みです!騒霊祓いとか!!
こう見えて結構頑丈なんですよ?
(ぐっと拳を握りしめて)
つまり、私の得意なことは、えーと。具体的に言うと。
除霊と、あとはちょっとした力仕事、かな?災害現場の瓦礫掃除とかお手伝いしたことありますっ。
あとは髪の毛を伸ばして動かしたり、《2つめの口》でお喋りしながら詠唱できたり、とか?
(改めて「やれること」を整理しながら、指折り自分の特技を喋りながら数えていく)
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それは頼もしい。雑霊祓いのお仕事もたまに舞い込みますので、その際にはお力を発揮してもらえると。(爽やかに笑いつつ、今その手の依頼は何件来ていたかと溜まっている書類をちらりと一瞥。経験者は有難い。そして頑丈というなら尚更に。対妖怪用にと訳の分からない呪物を装薬した銃火器で撃たれても平然としていられる要素も重要なのだから。実際あれは中々に痛かったと思い出しながら、彼女の得意分野を脳裏のメモへと書き留める。怪力。妖ならば見た目と違って膂力を発揮する種も多い。引っ越し業者の手伝いも任せられると付箋。髪の毛を伸ばす。禁足地指定されている奇妙建築へ立ち入ろうとする不逞の輩を脅す上では丁度良いかも知れないと追記。そして"ふたつめの口"という単語が飛び出たところで、仮想のペンを手繰る手が止まり。現実の手で顎を撫し)ふたつ目の口……あー、確かそういう種の妖はいましたね。そちら様が、"そう"なので?
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『そう』?……ああっ!
(そういえば、といった顔で手のひらをパンと叩く)
ごめんなさいっ。そもそもきちんとした自己紹介をしていませんでしたねっ。
改めまして……品問・吟っていいます!種族は、人妖の『二口女』っ!!
(顔の横にパッと右手を広げれば、その手のひらには顔にあるのとそっくりの『口』が。)
だいたい伝え聞く二口女とやれることは似てますけど……おっきな違いは『口』の場所や大きさを好きに変えられるってことかな?
後頭部がやっぱりいちばん収まりが良いんですけれどね。あ、ちなみに3つに増やしたり、消して隠したりはできないです。
ほら、なんせ二口女なので。
(身体の別の場所に移動させたのか、スゥッと手のひらから『口』が消える。)
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うおっ……!?(一驚。ある筈のないところに浮かぶ口。思わず目を瞠りつつ、その名を聞けば納得して頷く。二口女――妖怪の中では比較的著名な種であるが、こうして対面するのは初である。別√では、人に化けて嫁いだ先で後頭部から食事していたのを目撃された記録や、継子を殺めた継母がいつしかその妖へと転じてしまった話などを思い出し)なるほど、後頭部以外にも生やせる――生やせる、という表現でいいんですかね?――のは初耳ですが。二口女の他の能力というと、当人の隠している事を口が勝手に喋ったり、髪か舌かを伸ばして米俵を担ぎ上げたりしたというのは聞いたことがありますが。(前者は能力と言えるかは分からないし、むしろ不利益をもたらしているが。あちらの正体は継子かその実母の恨みが化けた結果なら、案外別物かも知れないと考えつつ)
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さ、さすがに勝手に喋ったりはしないですよ!?自分の身体の一部なんですから、ちゃーんと制御できてますっ。
……。ま、まぁ。うっかり隠し事や思ったことがポロッと口から溢れることはありますが。性格的な問題で。
(ちょっとバツが悪そうにゴニョゴニョと言った後、コホンと咳払いして)
髪を伸ばして重いものを動かすのはできますけど……舌はそこまで伸びないし、強くもない、かな?人よりはちょっと長めかもしれませんけど。
えへへ。こうして改めてやれることを考えてみると、人妖としてはちょっぴり地味かもしれませんね。
絵巻物の大妖みたいな、必殺技みたいなのもないですし。
(思ったよりアピールポイントがないや、と恥ずかしげに笑う)
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喋るのは喋れるんですね……。(声帯も形成されるんだろうか。もしその口で食事をしたら摂取したものはどこへ消えるのか。気になる事はあるが、妖なんて存在そのものが不合理の生き物を理屈付けて考える方が愚かだと、疑問は一端放り投げ)
実質的に腕が三本あるようなもの、と考えて良いでしょうか――なに、十分にご立派な個性だと思いますとも。地味が悪くて派手なのが良いとは思いませんし、有名な妖怪というと大抵は致命的な弱点を抱えていたり、成敗されていたりもするものですから。(|含羞《はにか》むように笑う女性に対し、ゆるりと首を振り。実際にここの仕事の八割は驚きの超能力より、健康な肉体とそこそこの臂力、そして少しの忍耐力こそ求められる案件が多い。なので適正という意味では問題なしと頷き)
では、逆にどんな仕事をやってみたいか……という希望はありますか?
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どんな仕事、かぁ。うーん。
(むむむ、と腕組みして暫しの間考え込んで)
探偵の仕事がどんなものかっていうのが、そもそもテレビの知識くらいしかないんですよね。だから具体的に何をしたいかって、ちょっと考えるのが難しいかも。
それでも敢えて言うのなら、「誰かを笑顔にしてあげられるような仕事」がしたいです。
……。ちょ、ちょっと抽象的過ぎ、ですかね?
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(逆にそれでよくここに応募しようと思ったなこの|妖《ヒト》、という表情を見せないようアルカイックなスマイル。とはいえ自分も正直他の事務所がどんな事しているのかは把握していないからお互い様だろうと、頬に指を添えて)
そうですねぇ……基本、ウチは料金の折り合いが付いて、依頼内容に虚偽や違法性が無いなら大抵の仕事は断りません。それこそ旅行中の猫のお世話から、地図に乗っていないし何を祀ってるか分からない神社の解体補助まで。どんなものであれ、共通しているのは『お金を払ってもいいから解決して欲しい』と思ってここを頼る人たちがその依頼の裏にはいる、ということです……なので、いかなる仕事も笑顔を齎すと言えるでしょうね。(にこやかに嘯く。子供を二人托卵して、浮気相手に夫がこれまで十数年働いて貯めた一千万近い金額を貢いでいる女性の尾行と証拠集めの仕事だって巡り巡れば誰かを笑顔にはするだろうと)
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うん、そっか。よかった。ここでなら、私のやりたいことができそうですっ。
お話を聞いた感じですと、|探偵社《ココ》のお仕事は他所を頼れない人が助けを求める。謂わば『駆け込み寺』って感じですもんね。
(眼前の少年の笑顔の裏など知る由もなく、返ってきた言葉を自分なりに解釈して頷く)
違法なことはしないってお話ですし。最初の自己責任の「助けられるとは限らない」ってお話も、つまり「助けられるなら助ける」ってことですもんねっ。
やっぱり、素敵な|職場《トコロ》なんだと思いますっ。ぜひお力添えさせてくださいっ。
(キラッキラの笑顔で言い放つ)
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駆け込み寺……(そういう扱いだと改めて言われれば、納得半分、その表現が正確かどうかの葛藤半分で微妙な顔になり。しかしそれの別の言い回しが何であるかを思い出せば、ある意味で納得した。――縁切寺、己を苦しめる悪縁を断つための最後の聖域。当然そんな御大層なものだとは思わないが、地獄の沙汰も金次第ならば、同じ鉄火場で炙られている者同士で問題を無理やり解決に導くのも御仏の思し召しだろう、多分)
そうですね。『違法だと確認されること』はしません。自己責任も――あー、うーん。(腕組み、そうかなぁと悩む。社長はなんだかんだ裏で手を回すくらいはしてくれそうだが、自分は面倒だと思ったらやらない。まぁ妖でかつ√能力者なら大丈夫だろうと、明言はせず微笑み)
分かりました。では、どうぞこちらに署名か捺印を……(そそそ、と書類を改めて差し出し)
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確かに。(書類を受け取り、名前と印を確認。ファイルに仕舞いながら、莞爾と笑い。頑張ってくれるのは非常にありがたいと、指先から肘くらいまでの高さまで積み上げられている書類の山を指差し)
では、現在持ち込まれている仕事はあちらにあります。上から取るか、崩さぬようにしてビビッと来たものを引いてください。草むしりとか模型作りの代行辺りが多めのはずです、今は。内容を覚えたら書類は破棄してくださいね。
(労力のわりに報酬が少ないので半ば塩漬けにされているものばかり。ここの日常業務を知る上では良いだろうと、健闘を祈るようにゆっくり頷いて)
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む、む。草むしりみたいなのは全然平気ですけど、模型は……壊さないかなぁ。ちょっと心配です。
というか、書類って破棄しちゃうんですか?こーいうのって記録として保管したりしないんです?
(尋ねながら、束の半ば程にある中途半端にはみ出していた書類を一枚つまんで引っ張る)
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先程の話の通りですよ。『偶然』『自主的に』赴くというのがここの仕事の基本でしてね。必要な情報は、ここの社長が別途保管していますので問題ありません。
(物理的にでもなく、脳内でも。自分も数千件くらいまでは記憶しているが、あの人はここが開業して以来のすべてを覚えている――否、"忘れていない"らしい。些細なようで、地獄と奈落ほども違うそれ。一瞬目蓋を伏せるも、すぐに唇を吊り上げ)
ま、いずれにせよ助けを待っている人がその書類の数だけいるという事です。中には依頼した事を忘れている人もるいでしょうから、うまく思い出させてあげてください。よろしくお願いしますよ。
(キヒャ、と咽喉鳴らして。口元から零れる皓い牙を見せながらわざと意地悪く笑い。華々しい依頼と無縁の探偵事務所、泥と埃を被りながらも走り回ってくれる|者《ヒト》が一人でも増えるのはありがたいと、自分の分のお茶に手を伸ばし)
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