【1:1】どこかのくらがり #10
街の中だか、森の中だか、あるいは屋内。あなたはどこかのくらがりを訪れる。
休もうとして、逃げようとして、あるいは何かに誘われて。
日の当たる場所にはない、
あなただけの静寂。
あなただけのくらがり。
それなのに、どうして。
誰かの気配がするのでしょう。
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(右手に書を二冊。左手に布箱を抱えて棚を探る)
――ううむ、確か此の辺りであった筈なのだが……。
これは夜明けまでに終わらぬやもしれぬな。
(高い位置にある小窓までも幕に閉ざされているが問題はなかった。白群の双眸は昼ひなかと変わらぬ精度で蔵の中を見通している)
……うん?
(いきものの気配に房尾が揺れる。術具や咒具、書物並ぶ蔵の端、暗闇にあってひと際暗い影――幕の掛けられた古い三面鏡の姿見。在る筈のない気配は、どうやらそこから滲んでいるらしい)
ほほう、術士の庭に渡って来られるとは異なこと。
其処なるは御客人かの?
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――kec-kec-kec. (板を叩くような奇妙な音が響く。笑い声に聞こえなくもない) 余り脅かさないでくれ。ただの迷子の妖精だよ。(姿なき声は、確かに貴方の見定める方から聞こえてきた) なんだかおっかない気配がするなあ。姿を見せるから、その柔らかな険気をひっこめてくれるかい?
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(訪問者が戸を叩くよな、啄木鳥にも似て楽し気ですらある拍子。ほんの数秒ほど間をおいて、暗がりを視ていた目が不意に綻んだ)
――……ふは、済まぬなあ。
此処の番も仰せ付かっておる身ゆえ、最初の用心ばかりはお許しあれ。
しかし迷子、それも妖精とは……異世連なる道の悪戯か。さて、妖精殿はどのような御姿をしておられるのかな?
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(まず足の先が貴方の方へ踏み出した。続いて、もう片方。青い双眸。偏屈そうな鷲鼻。尖った耳。最後におかしなとんがり帽子が形を成して、くらがりの中から抜け出るように、長身の男の姿が現れた) 悪いね、愛らしい羽妖精の方がお好みだったか?よろしければ、ここがどこなのか教えていただけるかな。
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(影から溶け出す爪先から青い瞳、その上の帽子まで見上げ――遥か西方の姿かたち。妖精と名乗る客人を見詰める眼差しは、いつの間にか興味の彩に染まっていた)
ふふ、どちらかと申せば獣に似る者らを好ましく思うておるが。此処は百鬼夜行の地、片隅に根差した術士の住処……の蔵の中であるよ。そして我は住人のツェイと申す。
(しずかに袖が振られると、傍らの壁に据え付けの洋灯へと火が点った。立ち並ぶ飴色の棚に所せましと詰められた古書や術具が照らし出されている)
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ほお。術士サマのお住まいだったか。(妖精はあかりの灯された室内を見回す。古書を一冊抜き出して、頁を検めた) ……とすると、これらは仕事道具?それとも趣味の蒐集品かな。随分と集めたもんだ。見慣れん品も多いな。
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我が師の蒐集した古文書だの。伝記に奇書、咒術の類い……仕事道具もあれば曰く付の品もある。御興味がおありかの。
(古書に触れる手を咎める事もなく。開いてみれば旧い文字が並んでいるだろう――『妖精』が手にするならば、興引く知識のひとつでも読み取れるかもしれない)
その前に、妖精殿では少々話し辛い。御名前を頂戴しても構わぬかな?
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オレは妖精トムテ。”舌なし”のダゴールという。ワケあって、自分にかかった呪いの解き方を探してる。ここに現れたのはただの偶然だが、なかなかに都合がよかったな。(一冊戻しては、また一冊。書から顔を上げないまま返事をする) ツェイ殿は、ご存じないかい?甘味を封じる術について。それこそ古今東西の書庫をひっくり返したが、未だにオレは”舌なし”のままだ。
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トムテ殿。うむ、良き名だの。
(頷いて、明かりの下にあった荷物入れらしき木箱に腰掛ける。おぼろに輪郭を浮かび上がらせた妖精の君へも、近くの似たような木箱を勧め)
舌なし、とな。
(滑らかな言葉、物理的な意味合いではない――甘味を封じる術と聞けば成る程と納得し眉を顰めた)
長年それでは不自由しておられよう。
……薬に暗示、針に香。五感を鈍らせる術は幾らかあるが、一時的なものだのう。それ以上に強い力でとなれば……もはや咒詛の類いであろうな。
其の場合、我が知りうる限り術を跳ね返すか……直接術士を排するか。あるいは、代償を以て浄化又は引き剥がすといった所だの。
いずれにせよ穏やかな話ではないなあ。何かの恨みでも受けて仕舞われたか?
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まったくもって心当たりがねえな!(古書を元の場所へ戻すと、憤慨した様子で床板の上に座り込む。低い場所から、青い双眸が強く貴方を見た) いや、人に恨まれる覚えはある。それこそアンタに手伝ってもらっても指が足りねえくらいにはな。……だがオレを呪った魔法使いとは誓ってなにもなかった!むしろオレたちは、上手くやれていたと思ってたのに!(妖精はまるで舞台役者のように大仰に腕を広げて、がっくりと肩を落とした)
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ふうむ。(木箱ではなく少々埃っぽい床を選んだ妖精を、困ったような微笑みで見詰め乍ら首を傾げる。十指を組み――どうやらこれでは足りぬらしい、悪意なき悪事。伝承の妖精らしいといえば然う思えて)
その魔法使い殿との関係は知れぬが、お主を恨む者らの中に魔法使い殿と懇意の者が居られたやもなあ。ひとが近き者の仇を我が仇とすること決しては珍しゅうはない。
――然し、ふふ。途中までは友人のように親しんでおったと受け取って良いかの?警告も、そうした前兆も無かったとなれば少々、不思議はあるが。
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友人だったかはわからんが、まあその通り。Hmm...(腕を組み、小さな瞳が右から左の端へ移動するまで妖精は頭を悩ませていたが、結局のところ出てきたのはため息がひとつ。) まあ、オレを懲らしめようとしたのはひとつ確かだ。あいつはオレが善い行いを重ねて改心するまで呪いは解けないと言った。(そして、節榑だった枝のような人差し指を貴方にまっすぐ向けた) ツェイ殿。この哀れな妖精にお力添えいただく気はあるかい?
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ふぅむ?(先程と変わらぬようで疑問を含んだ相槌に続き、しばしの思案。柊の枝と棘を思わせる指と爪を正面に、迎えるよに口許へ緩く刀印を寄せた――妖精の指差しは咒詛だという)
そうだのう、お主が此処に渡られたのも何かの縁。とくに名だたる術士とはいえぬ身ながら、助太刀のひとつもしとうはある……が。『善い行いを重ねて改心するまで呪いは解けない』、魔法使い殿が然う申されての事なら、妖精たるお主にとっては契約に近いのではないかと思うてな。無理に破れば、それ以上の禍が降り掛かる、といったものでなければ良いがのう。……例えば、次は声や目まで鎖されるやも。
ちなみに、素直に善行を重ねる方法は好かぬかの?
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抜け道があるならそれに越したことはない。横紙破りの方法は古今東西、超えて三千世界をひっくり返したさ。だからといって諦めたわけじゃないが、アンタにそれを覆す御業を期待しちゃいないよ。(頬杖を突いて、斜に構える視線へ薄ら笑いを乗せる) 善行の方さ。ツェイ殿の”お願い”を、この妖精が叶えてみせようってんだ。
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ふは。確かに、これは愚問であったな。(斜めの笑みに笑みで応えて、つと目を細めた)……その呪いを掛けられたのは随分と遠い昔のようだが、今迄幾人の願いを叶えてこられたのかの。あと幾人、あと幾つ。せめて終わりが見えておれば良いのだが。
然し、そうか。”お願い”か。願う側はどうも昔から不得手でのう。暫し待たれよ――(額に指をついて考え込み、ふと顔を上げる)……トムテの、ダゴール殿。そういえば何処よりどうやって此処へ渡られておいでかの?
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まったくだぜ!オレがこれまでに、いったい幾つの願いを叶えてやったか!完済に近づいているかさえわからねえ、こんなの詐欺だぜ!(膝を苛つかせて湯気の吹き出そうなほど腹を立てた様子だったが、貴方が尋ねると怒りの矛を収めて再び話し出す) ああ……オレは普段、とても”薄い”んだ。暗がりの中には普遍的に煙のようなオレがいて、気まぐれに集まってはこうやってカタチを作る。今日ここに現れたのは、たまたまさ。
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倍返し、数十倍返しを望まれてか……否、もはや魔法使い殿の真意を探るは詮無き事か。お主が真摯に呪いに向き合うて来られた事実を知れば充分だの。(首を振れば、わずかに残していた警戒もようやく失せる)
(顎に指添えた思案の姿勢はそのままにかれを見る)薄い……ほう。自然霊――群霊、のような存在と。願う者を探さねばならぬというに、何処へ現れるかを己で選べるわけではないのか。(無彩色に近い妖精の輪郭は確かに影に溶けるようで)
……のう、お主は願いを幾つも叶えてこられたのだろう。正しく願われたものよ、お主には『叶えてやれぬ願い』は存在せなんだか。叶えられた時に、お主の心はほんの僅かでも満ちたか。(翠の揺らぐ青がふたつ、妖精のそれに注がれた)
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おい、オレはちゃんと”個”としての妖精だぜ?その証拠に、ちゃんと名前だってあるんだ。そこをちゃんと覚えておいてくれよ。(ひとつだけ念を押して、妖精は問われたことに答える) そりゃあオレも神じゃないんだ。海を飲み干してみせろだの、時を逆さまに流れるようにしろだの、明らかに嫌がらせを願うやつには、ちょいと解釈を変えてやったり、きっちり仕返しをしてやったこともある。 ああ……赤子を生き返らせてくれと願われたときは、死骸に猫の魂を入れてやった。だが、今はそういうのは断ることにしてる。|本当の《・・・》願いに沿うわけじゃないとわかったからな。すると、途端にできないことや手間のかかることが増えるわけだ。楢の若木が、大樹になるまでの時間続いた願いだってある。(拗ねたように口を尖らす) しかし、心が満ちたか……?そりゃ、どういう意図の質問だ?
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心得ておるとも――トムテなる種の、ダゴール殿という一人が此処に居る其方だとの。(穏やかに笑むと、顎に添えていた手を膝の上で組んだ)
過ぎた願いに、悪戯に用いようとする者とて矢張り居られたか。ふは、楢は大きく命は長い。あまりに気の長い願いだの。願い主が世を去って尚続いたであろうそれすら、|本当の《・・・》ものなればお主は叶えてこられたのだなあ。
……なに、昔々、叶える側に立とうとしての。それ自体が身の程知らずの願いであった故どれひとつ及ばず、ただの|児戯《ままごと》に終わったのさ。……もしどれもを叶えてやれたなら如何な思いであったろう、とな。お主にとってはあくまで呪いを解くための手段であると解ってはおるがの。
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ふぅん……?(今ひとつ理解が及ばないといった顔で首を傾げた) そりゃあそうさ。自分のためにならないことで、誰かのために行動したりしない。それはニンゲンだって同じだろう?……ああ。ニンゲンが皆、利己的だって言ってるわけじゃあないぜ。人助けだって、やりたいからやるんだって話。kec-kec-kec!!(板を叩くような特徴的な声で、妖精は笑う) オレだって初めは利己だけの行いだったが、他人の欲望ってのはこれはこれで面白い。たまには部隊を観賞しているような気分になれることもあった。それを”満たされる”って言うのかは、今のオレではちょっとわからないね。……よかったら、アンタが叶えようとした願いってやつも聞いてみていいかい?
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人が為は、己が為……うむ、うむ。そうしたモノよな。(聞き慣れてきた其の笑い声は、いつの間にか妙に耳心地良くなっていた)ふふ、我らにとって妖精の願いがそうであるように、人のそれも興味深く映るのだなあ。凡庸に善、邪悪。願い望みの尽きせぬ様は、確かに終わらぬ演し物にも似ていよう。
……(ほんの一瞬、恥じ入った様に眉を下げて)……なに、今はもう名すら残っておらぬ小さき地でのことだ。命を終え姿を消した、その地の『かみさま』と呼ばれたモノの真似事をしようとしての。
先程お主が言ったそれよ――人々の望むまま、見返り無く、在るだけで安寧を、豊穣を。叶えるなにかに成らんとしたのさ。無論、十やそこらの幼子に果たせる訳もなく、皆を失望させた……只それだけさ。
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kec-kec-kec!!そりゃあ、いかにも子どもに芽生えそうな傲慢だ!それに縋った奴らも救えない!(妖精は称賛を送るように手を叩く) ああ、なんだか嬉しくなっちまうね。オレの隣にも、嘗てはそんな思い上がった少年がいたもんだ。期待に応えようとして、最期には失望した大人に殺された。だが、アンタはまだ生きてる!ただの子どもひとり、神と祀り上げた蒙昧な大人どもを嗤ってやろうじゃないか!
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まったく、ものごとを知らぬというのは恐ろしきものさな。それが招く結果や責など想像もせぬ。お主の隣……と言うからには、近しい者であったのだろうが。(哀れな、と唇だけが模り、音にはしなかった。かの少年とて自分に言われたくはなかろう)
――っふふ。まったく強かよの。(妖精の台詞は何処か小気味良く肩と房尾を揺らし)
そうした言を返してきたのはお主と、老師の二人ばかりだ。大人……当時のかれらを恨んではおらぬが、以来どうも願い望むが不得手になって仕舞うての。いつ何時、知らぬ間にかれらと同じ側に立っておるやもしれぬ、と。
だが今日はひとつ、思いついたのう。
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ダゴール殿よ。お主が百の願いを叶えた頃に、また此処を訪ねて貰えぬか。
同じく終わり遠き身、約束ごとは楽しみのひとつでの。それ迄に我もお主が愉しめる望みを拵えておこう。……勿論、もしも道中にてお主の呪いが解かれたならば御破算。我は此処よりそれを祝うのみさ。
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…………。(貴方の願いを聞くと、妖精は暫く考え込むように黙っていた。灰色の舌が上唇を舐めて、ひとつ頷く) まあ、いいだろう。今更百やそこら、そうそう時間のかかるものじゃない。……本当は期限を延ばすような願いは受け付けねえんだ。だが、特別だぜ?アンタの話が面白かったから。(立ち上がり、貴方の前まで歩いてくると、砂時計をひとつ手渡す。青いビーズが詰まっているが、逆さにしてもビーズが落ちてくる様子はない) 願いをひとつ叶えるたびに、ひとつの石を下に落とす。こうしていないと、オレが数え間違えちまうからな。アンタも、ちゃんと期限を守るんだぜ。
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ふふ、忝い。……有り難う。
ああ、見逃さず、忘れぬ様、日々見える所にて確かめて参ろう。
(砂時計を受け取ると灯りに翳し、眩しげに眺める。結晶のような青い粒は、いまは静かに左右に揺らされるばかり)
なれば、そうだの。妖精は契約に縛られるというからなあ――故、これはあくまで砂時計の借り賃として。(代わりに差し出された瓶に詰まっているのは、青と白の金平糖のようだ)お主の舌に掛けられた呪いまでは欺けまいが、強い花実の香と口内で弾ける賑やかな材料で出来ておる。気休め程度、慰みにはなるやもしれぬ。
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(細い指が摘まむように瓶を受け取って、目の高さへ持ち上げる) ああ……こいつはありがてえ。コンフェイトじゃねえか。(口の端が、にまりと吊り上がった) いつかの日に、味わってみたいと思ってたんだ。(早速ひと粒放り投げ、口の中へ) kec-kec-kec……悪くねえ。(笑い声を立てながら、一歩二歩と後退る。その度、妖精の体は闇へ溶けるように薄くなっていく) じゃあな、ツェイ殿。約束の日に満たなくても、用があるときゃいつでも呼びな。
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(思えば起源はかれらの棲む異国の言葉だったかと微笑んで)
お主の好むものであったとなら幸いだの。……何時か、香のみならず楽しめる日が訪れようて。
(くらがりに染み込んでゆく輪郭を見送りながら、最後に小さく頭を下げた)
うむ、その時はまた縁に甘んじるとしよう。訪れてくれて有り難うの――良き旅路を、妖精殿。
(金平糖の香だけが残った蔵の中で、灯りを消そうと手を伸ばしながら)
ふふ……再会の約束そのものが『願い事』だとは受け取られなんだのは、はて彼の方の優しさだったのやもしれぬなあ。さて――(砂時計を落とさぬ様抱えて、術士もまた外へと向かった)
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(蔵の戸がぴしゃりと閉まり、器物も書物もやがて眠りに就く。小窓から差す月明りばかりが、何者も居ない床板を照らすだろう)
(――そして、暗がりは静寂を取り戻した)【〆】
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