【新入】ヴェイカー・ベークス【会員】

神薙・ウツロ　6月7日11時

「いや、最近急に暑くなったね」
　神薙・ウツロ（護法異聞・h01438）がぽつり、呟いた。空は晴れ渡り清々しいほどに青く、しかし山に囲まれた地形の平地部分に相当するここ禍津宮は盆地と呼ぶには広すぎるが、それでも寒暖差が激しい事に定評のある地域。そのせいで雷雲が発生しやすく、夕立なんて日常茶飯事のあまり、その辺の道行く人は雷くらいじゃビビりもしないとかなんとか……。
　そんな事はさておき、まだ梅雨入りもしてないというのに真夏の暑さに当てられて、ウツロが見つけた自販機に後光すら幻視して小銭を取り出そうとしたその時である。
「おっと」
　小銭が一枚、転がった。自販機の下に涼みに行った貨幣を追って、ウツロが覗き込むと。
「あ、どうせなら自販機限定のライチサイダーをオススメします」
「あぁ、そうかい。それはどうも」
　小銭を回収して、自販機に入れようとしたところでピタと固まる。
「……ん？」
　熱中症に片足でも突っ込んだのかと、眉間を揉みながらお天道様を見上げ、出来損ないのピエロみたいな仮面をつけたオッサンとの邂逅を思い返す。
「いやいやいやいや、自販機の下に人が入ってるわけないし、まして生首が転がってるなんて物騒な話があってたまるかよ」
　苦笑しながらもう一回自販機の下を覗き込むと。
「おや、買わないのですか？」
「……」
　見間違いでも何でもなかった。白い金属板に目と口だけ描いたような顔が、こちらを見ている。理解が追い付かないウツロがそっと体を起こして、見なかった事にしようかどうか迷っていると、ヌルリ、オッサンの方から出て来てしまった。
「水分補給は大切ですからねぇ……迷った時はスポドリもいいですよ。甘ったるければまだ大丈夫、美味しく感じたら熱中症手前です」
「待ちな」
　それでは、と。ひらと手を振り立ち去ろうとする仮面の男を呼び止めた理由は至極単純に。
（コイツ、簒奪者じゃないだろうな……？）
　ウツロが√妖怪百鬼夜行が禍津宮を活動拠点に選んだ理由は、いかなる姿のモノであろうとも、受け入れられやすい社会基盤故に。だからこそ高速移動する妖怪は路面電車に混じって走ったりするし、閉所に暮らす妖怪の為の専用通路なんかもあったりする。
　だが、自販機の下から湧き出す妖怪なんて聞いたことがない。無論、遭遇したことがない類の事情があったのかもしれないが、そうでなかった場合、手前のシマで勝手な真似をさせるわけにはいかないのだ。
「これも何かの縁だ……一本飲んでいかないかい？」
　安い缶ジュースを一本放り、目の前の胡散臭いオッサンが敵か味方か、あるいはどちらでもないか、見定めようとするウツロなのだった……。

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●新入会員「ヴェイカー・ベークス」
人間災厄「天秤の蠍」の不思議パン屋の店主 × 心霊テロリスト
年齢： 34歳 男（5月29日生まれ）
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