[個1:1]Disorder
──いっしょに歩き出した時は、こんなことになるとは思ってなかった。事の始まりは戀ヶ仲くるりのアルバイト先、【萬花】からほんの数分の場所まで、ささいな買い出しだった。
それに着いてきたのは雇い主である夜鷹芥。
どうしました?とくるりが尋ねれば、曰く、『近辺で怪異が出た。過去を見せる怪異で、攻撃性は高くないそうだが、用心に越したことはないだろう』とのこと。
心強いです、と頷いて歩き出したけれど……断ればよかった。と今更ながら思う。
銃声が響く。|まただ《・・・》。
繰り返し。リフレイン。幾度も聞いた銃声が、耳の奥でずっと鳴るような錯覚を覚える。
視界は赫。周囲全てが赫く染め上げられているかのよう。…それなのに、金木犀の色だけは鮮やかだった。
秋に咲く芳香の花と同じ髪色の男性の身体が、ぐらりと傾く。銃声と共に胸からじわじわと赫が広がって、身体が弛緩していく。血の気の引いていく顔が、生が消えていく様が見て取れた。それがくるりは初めて見る、誰かに殺された人だとしてもそう見て取れた。
金木犀の花は見えるのに、香りはしない。あるのは鉄錆のもの。血の匂い。
死に行く人の顔がこちらを向いて──視界が揺れる。暗転。銃声の音。繰り返す。
1度目こそ悲鳴を上げたが、2度、3度、幾度も繰り返せば衝撃も薄れて悲鳴も飲み込めるようになり、これが現実に起きていないことを理解した。おそらく、話していた怪異の仕業なのも。
「芥さん、これ怪異の、」
目線を向けて、隣の人の様子が尋常ではないことに気付く。顔色が青を通り越して白い。金の眼は不安定に揺らいで、今にも、…思わずつかんだ手はビックリするほど冷たかった。まるで、生きてないみたいに。
「……ああ……怪異の仕業……、……殺そう」
感情を抑え込んだ硬質な声と共に、芥の身が動く。くるりが声を出す前に、視界が揺れた。暗転。銃声の音。光景が繰り返す。…これで何度目だろう?
光景に耐えかねたかのように走り出した芥の速度に、くるりは食いつこうとして、けれど着いていけなかった。
つかんだ手はつかみ返されていない。頼りない繋がりだった手が、離れる。離れてしまう。芥の背が遠ざかる。…視界が揺れた。暗転。銃声の音。リフレイン。…もう、芥の姿は見えなかった。
この光景が何か、くるりは知らない。怪異に対抗出来る手段もほぼない。けれど、芥を1人にしてはいけないと思った。
光景とは違う銃声や剣戟の音を頼りに、くるりは走って芥の姿を探す。音は聞こえるのに、光景に阻まれるように音の主が見つけられなくて歯痒い。
──光景が揺らいで、歪んで、元の歩いていた街並みに戻る。
「…芥さん!」
芥が怪異を殺したからだというのは、立っている芥を見ればすぐ分かった。
必要以上に傷めつけられた黒い塊。ヘドロめいた黒い怪異の体液と芥自身の赫い血で濡れた身体。様々な感情が混ざり合った末だろうか、感情が何も見えない芥の顔を見て、
あの時いっしょに行くのを断れば、…せめて、手を離さなければよかった。とくるりは思った。
▽1:1RP
▽夜鷹・芥と戀ヶ仲・くるり
▽話終わるその日まで
夜鷹・芥 7月6日20時(――ぐしゃ、びちゃり。其の怪異で在ったモノを横目に踏みつけて恐らく疾うに絶命をしたであろう塊に何度も何度も壊れたように弾丸を撃ち込み続け不快な音を立てる。薬莢が地に凡て落ちて、漸くずるりと手の中から銃が滑り闇の中へと消えてから歪んだ視界が開けていった。)(細い糸一本だけで繋いでいるような理性が無様にも|こんなくだらない幻覚《怪異》によって切れてしまったような感覚。止めどなく身を伝う赫と混濁した意識、己の喘鳴の音が脳に響いていっそ何もかも手離してしまいたかったのに)(――遠くで、己を呼ぶ聲が聴こえたからゆっくりと振り返った)
0
戀ヶ仲・くるり 7月7日17時…芥さん!(よかった、見つかった。の気持ちが振り返った顔を見て萎む。どう見ても平常じゃなく──小さいいきものや子供に甘い人だから、そんな目で見られたことがなかった。無意識に身体が硬くなる。)
……芥さん、(それでも足を進めれば、びちゃり、と湿り気のある足音。周囲は飛び散った黒で染まっていた。近付く間に、ボタリ、と地面に粘り気のあるものが落ちる。目の前の人の身体から滴り落ちる、血と黒いなにかが混じり合ったもの。)
っ、…萬花に戻りましょう(怖気づいたとしてもこのまま退く理由にならなかった。流れる血の量も、随分な量に見える。早く手当てしなきゃ。幸い、萬花からはそこまで離れていないはずだ)
0
夜鷹・芥 7月8日11時(――視界に入る彼女を認識している。している筈なのに、此方へ進む靴音に無意識に肩を揺らして身を捩ればズキズキと身体中が軋む。腕なのか、腹なのか、先程まで異常な程に鈍っていた痛覚が戻り黒革の手袋が赫に染まり滲む掌を見つめて、握り締めた)――、っ、駄目だ、来るな。………先に戻ってろ。俺のことは気にしなくて良い。(絞り出すような音は屹度彼女にだけ届くだろう。拒絶と懇願を孕ませて)(血溜まりに落ちて生々しく赫が膠着した銃を拾い上げ、背を向ける。貴女に聞こえたかは分からない独言は「もう、良いんだ」と其れだけを残して)
0
戀ヶ仲・くるり 7月8日21時(来るな、の言葉に足が止まった。思わず眉が下がる。手負いの野生動物みたいだと思った。身を護るために逃げてしまいそうな、)…っ良くない!(走って見えなくなった背が思い出されて、小さな独り言にほとんど反射で叫んだ。この人が本気で逃げたら、自分じゃ多分見つけられない。背を向けたあなたに近付いて、服をつかもうとする)
い、やです、私だけじゃ戻りませんっ、気にしないなんて無理です!(様子を見るに、ちゃんと治療するかも危うく見えた。そうでなくても、1人にしたらダメだと思った。顔色が悪いのは失血だけじゃないと思って。)
…怪我、手当しなきゃ…萬花、行きましょう。治療もちゃんと出来ますし、みなさんも居ますから…!
0
夜鷹・芥 7月10日11時(背中越しに駆け寄る気配、伸ばされた手を反射的に掴んで引き寄せようとする。其の小さな彼女の身を案ずる余裕が今は無く、見下ろす眸ですら彼女を映していないようだった)――お前も見たんだろ、あの光景を、(繰り返す、繰り返す、何度も何度も何度も刻み付けるように、あんなもの見せられなくたって忘れたことなんて一度も無い。銃声、雨の中の硝煙の香り、血の匂い、「あの人」の最期の貌、凡て奪ってしまったのは他でも無い自分。)(【良いのか?】【また見捨てる?】【殺してしまうんじゃないのか?】五月蠅いくらいに耳元で囁く夜狐が愉しそうに嗤う。この子だって|同じ結末じゃないか?《撃ち殺すんだろう》)……なあ、お前も殺されるかもよ、あいつのように。(此の手を振り払って、いっそ逃げて欲しい。と言外に滲ませて自嘲めく。)
0
戀ヶ仲・くるり 7月11日20時(ビチャリ。伸ばした腕が何かで濡れた手につかまれる。触れたかったはずなのに、思わずビクリと震えた。力が強くて動かせないと思ったのに、すぐ振り回せば外れそうなほどに緩む。…でも手は離れない。戸惑う目があなたの言葉を追う。)
…見ました、けど…(あの光景があなたに関わるものだと確証はなかったけれど、あなたがそう言うから、点と点が繋がった。あれは、あなたが殺して、繰り返し思い出す、誰か)
(人殺しが怖いのなんて、“当たり前”。怖くないって言ったら嘘になる。奇跡も魔法も呪術もない、暴力と騒乱から縁遠い、√EDENの現代日本で育った。その価値観は未だ揺るがない。繰り返す光景で悲鳴を上げなくなったのは、繰り返しすぎて、ただただ感覚が麻痺しただけ)
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戀ヶ仲・くるり 7月11日20時(それでも。)……芥さんが、そうしようと思ったら、(自分の腕をつかむ手を見る。きっと、抵抗する間もなく銃で撃たれる。刀でも同じだろう。どうやっても敵わない──そんなの、戦闘するあなたを一度見れば分かる。)もう、私、死んでませんか…?(分かってるから、この現状がほとんど答えだと思って、眉を下げながら問う。)
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夜鷹・芥 7月13日00時………、はっ……、(彼女から返ってきた言葉は己への罵倒でも恐怖でも猜疑ともまた異なるものに小さく笑い声を面の下で洩らす。霞む意識の中で妙に冷えていく頭、掴んでいた彼女の腕はじわりと己の手によって赫に染まっていくのを眺めフラッシュバックする、――噫、まただ)(自分とは違う、屹度平穏でごく普通の一般社会で生きて来たであろう彼女に自分の存在も経歴も到底理解できる筈もない、理解など必要無いのだ。こんな世界に相応しくは無い。人を殺してきて尚まだ自分だけは生汚く存在していることが何よりずっと後悔に苛まれ苦しい)……甘いな、お前。だから自分を殺す気が無いって?俺は元々|こっち側《暗殺者》の人間だ。何をするか、どう殺すかなんてお前には理解らないだろ。(掌に僅かに力を込める、逃げて欲しい、軽蔑して欲しいと願う癖に)
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戀ヶ仲・くるり 7月14日07時(腕をつかむ手に力がこもり、視線がそちらに行く。じわじわと染めていく赫。きっと今しばらくすれば赤黒くなっていくんだろうな。どこか他人事みたいに思いながら、)…理解りませんよ、芥さんのそういうところ、話してもらったことないから、私、何も知りません(そう呟いて、顔を上げる。見上げる目は睨め付けるように険しい。何も知らない。知らなくてもよかった。知らなくてもいっしょに過ごせる。甘くて、この人に殺されないと思ってて、どう殺されるかも知らない。そうだろう。何も否定出来ない。…そんなの、拾った時から知ってるだろうに)
…私のこと、殺したくて──あの人も、殺したかったんですか?(噛み付くみたいにそう言った。…だってこの人、甘くて殺されないと思ってるやつを、自分から拾った癖に。露悪的な引っ掻き方をする癖に。
どっか行けって突き飛ばしもせず、つかんだ腕を離さないんだから、ずるい。)
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夜鷹・芥 7月16日10時(此方を睨め付ける視線から逃れるように眸を臥してしまう、其の真っ直ぐに普段から変わらずぶつけてくれる彼女の言葉は今は後ろめたくて合わせる顔が文字通り無いのだ)……そうだな、今迄も此れから先も話す心算なんて無かった。お前が知る必要も無いし、知ったところでお前の世界には必要ないものだろ。(吐き捨てるように態と突き放す言葉を彼女へぶつける。そうだ、自罰的な部分や過去をひた隠して誰かと共に生きていけなんて土台無理な話だったのだ。と項垂れるように、ゆっくりと掴んでいた腕を開放する)
―――、ああ、そうだ、と言ったら。納得するか?(月の光は宿らぬ冷えた眸で、代わりに喉元へと掌を添える。白く細い頸は少し力を込めただけで直ぐに折れてしまいそうだと、隠された口許は自嘲気味に弧を描いているだろう)…………俺が、怖い?
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戀ヶ仲・くるり 7月17日23時…話さなきゃなんて誰も言ってないじゃないですか。職場の雇い主のこと、何でも知ってる方が変で──ひっ!(二チャリと粘度のある物で塗れた手が喉元にかかり、肌が粟立つ。そうでなくても首だ。急所に触られることなんてそうはない。思わず身が硬くなり、それを見て自嘲の色が混じる言葉が耳に届いたのが、…腹立たしい)
〜〜〜! 首触られたらっ、大体の人は、怖いですよ!(腹が立つ。ずるい、この人。こっちに選ばせようとして、ずるい。握った拳で胸を打つ。どうせ足も揺らがない。)
怖いだろ、殺されるぞ、関わらないって納得しろって言うなら、このまま絞めればいいじゃないですか!私っ、√能力者で死に戻るんだから!(そこまでされたらもうまともに話せない。自分の耐性の無さは自分が一番知ってる。)
……血塗れの芥さんが心配だから、…っ怖くてもここに居るの、見て分かりませんか……萬花、戻りましょう、…顔色、本当に悪い…。
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夜鷹・芥 7月20日20時(触れた首筋が己の掌で赤く塗れているのを横目に、罪悪感と高揚感が綯い交ぜだ。五月蠅く狐が嗤ってるのはまだ止まない。)(彼女が怖いと喩えるのは一般論で、自身のことではないだろうと可笑しそうに喉を鳴らし)……そうだな、お前の云う通りだ(胸を打つ握り拳は抵抗せずに受け止める。小さな彼女の精一杯の訴える様な其の力が酷く自分を苛む)
……不思議だな、どんなに付き合いが短くても、長くても、命じられれば相手が誰であろうと俺は此のまま躊躇いなく――でも、今は、(続く言葉は途切れて、沈黙する。するりと今度こそ彼女から手を離して凭れるように壁際へ、そのまま崩れ落ちるように座り込み喀血すれば、カラン、と面が地へ転がっていく)
(どくどくと流れ落ちる赫い液体を視界の端に、もう痛みも無い。彼女の声を聞きながら見上げた先の輪郭が霞むから、)……戻らない、…戻れない、だろ。――くるり、怖がらせて、済まない。
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戀ヶ仲・くるり 7月22日21時(喉を鳴らす音が、楽しそうには聞こえない。肌に滴り落ちる粘度のあるものはなんだろう。肌は粟立ったまま、…怖くないなんて言ったら嘘だ。でも、引きたくない。睨みつけるように見つめていれば、手が首から離れる。)
っ、芥さん!?(ふらりと崩れ落ちた様子を見て、どうしよう、助けを呼んで運んだ方が。いやそれよりも支えて、と自分も膝をついて、)
(耳に届いた言葉に動きが止まる)
(…この人、今、この状況で、なんて言った?)
(頭に血が昇る感覚がした)
(────パチンッ)
…っないで、くださっ…よ…(あなたの頬を叩く。反射に近い動作だった。掌がじんと熱い。…人を叩くなんて、物心ついてからしたことがない。経験の無さが如実に出て、間抜けなくらい軽い音しか立たなかった)
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戀ヶ仲・くるり 7月22日21時──こんな身体で!こんな弱ってて!戻れる場所じゃないなら!なんで萬花に人を入れたんですか!…芥さんが入れたのに!人が居たら休めないなら、はじめっからいれないでくださいよ!
(肩をつかみながら、泣いてしゃくりあげるのが嫌で一息に叫んだ。叫んだ後に結局涙がボロボロ落ちて、息が詰まる。)
ねこも、…ひとも、っ、どんどん、中にいれるくせに……芥、さんがっ、…っく、…いるから、わたし、たちっ、萬花に、いるのにっ…なんで!なんでっ、もどれない、とか、言うんです、か…!
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戀ヶ仲・くるり 7月22日21時(知っている道を歩いているのに迷う。引きずり込まれるみたいに√の境を越える──どうしてこんなに…今何を考えた?──なんだったっけ?
出歩いたら迷って、もう帰れないかもしれないのに、どうして、いつも普通に外を──今何を考えた?……まぁいいか)
(|食い違っては修正される意識。どこか空虚な感覚《欠けてることを認識できない故の平穏》。頼りない感覚と足元の中、|萬花に居れて《標となる場所を得て》、ここに戻ればいい。ふつうに立てた心地に、ひどく安心したことを……あなたは知らない。)
く、やしい…!芥さんがっ、萬花、休める、場所に、できなかったの、……くやしい……(少なからず救われたのに、その場所をつくったあなたが、萬花に戻れないという。悔しい。あなたが安心して休める場所にできなかった。勝手に救われた自分のエゴだと分かっていても、悔しい)
(──ボロボロと流れ続ける涙は、悔し涙だ。そうに決まってる)
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夜鷹・芥 7月27日22時……っ、(軽い音と衝撃、頬がじんと熱く痛む、其れから漸く彼女に叩かれたのだと頭が理解をする。彼女の力で己を打ったとて大した衝撃ではない筈なのにひどく痛んで、ゆっくりと彼女の方へ視線を交わらせれば掴まれた肩に置かれた掌が――震えている、泣いているのだ、彼女は)
(しゃくりあげながら、訴える言葉は屹度彼女の本心だ。そのくらい解る。だからこそ、俺なんかのために、自身のことでは無い他者のために其れ程綺麗で真っ直ぐで、眩しい位の涙を流せるのが不思議でならない。知らない、そんな風に扱われる経験が余りにも少ないのだから)
(耳に届くお前の声、想いは随分と俺にとって都合が良く聞こえてしまう、『俺がいるから』なんて耳触りが良い言葉だろう。独りでやっていくと、独りで善いと決めたくせに萬花で過ごす今の日々は当たり前に享受してしまっていた。欲が出たのだ、――|帰るのが怖い《嫌われたくない》と思ってしまったんだ)
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夜鷹・芥 7月27日22時(肩を掴む、彼女の掌を血濡れた手袋を脱ぎ捨ててからそっと外すように掬う。これ以上汚したくないと思った。此の小さなてのひらを。)……、……馬鹿だな、くるり。勿体ないだろ、この涙は俺じゃなく、自分のために取って置くべきだ。……頼むよ、泣かないでくれ。(――いつかの日、幼い妹弟は兄の亡骸を抱いて叫ぶように泣いていた。ずっと、ずっと。涙が枯れてしまうまで。枯れてしまえば後に残るのは貼り付けた笑顔だけ。空虚だけ。)……お前が、お前たちがいるから、萬花に戻れないと思ったんだ。事情を話して、…………嫌われ、たく、ないと。……嫌だろう。雇い主が此の体たらくだ。
(其れからもう一つは、いっそ楽になってしまいたい。と過ったこと。彼女に伝えたならまた怒らせるか、泣くのかもしれないから。)
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戀ヶ仲・くるり 7月31日05時(…触れた手は濡れていなかった。粘度ない感触に涙の浮いた目が揺れる。それでも包む手は、自分の手ほど熱くない。幾分か落ち着いた口調に、安堵を覚えながら、)
っ、芥さんの方がっ、ばかです…!す、まないって、…っく、いうなら…萬花、いっしょに、ぅえっ…かえってくださいよぉ…(力があれば、引きずって無理矢理連れ帰るのに。自分ではそれもできない。ボロボロとまた涙が落ちた。泣くなと言われても、この人全然分かってない!)
けっ、怪我、してるのに…っ!いっしょに、戻れな、いって!言われた方が、嫌に…決まってるじゃ、ないですかぁ…!そんな、の、っ信頼できないって、言われてる、みた、〜〜〜〜〜〜!(しゃくりあげながら胸を叩く。そんな気遣い、いらない。最後は言葉にならなくてただ呻いた)
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戀ヶ仲・くるり 7月31日06時(──憤りが落ち着くまでひとしきり泣いた。あなたの傷を思えばすぐに動くべきだったけれど、動けなかった。どちらにせよ、自分では無理矢理連れて行けない。
グズグズ鼻を啜りながら、赤い目元で見上げる。…戻らないと言いながら、泣いてる子供を捨て置けない人を)
…話したくない事情って、……俺は人殺しだぞ、って?(そのくらいは察せた。自分と生きていた世界が違う人なのは分かる。この人にとって、決して胸を張れる生き方でなかったのも。──でも、それ以上、聞き出さなきゃいけないのだろうか)
…私たち、萬花にいるなら、芥さんの事情、全部知らなきゃいけないんですか…一緒にいる人の全部を知らないの、ふつうだと思います。
私は、芥さんが1人で血塗れで彷徨うの、いやです。心配だから治療してください……、…………戻りたくないなら、治療先、萬花じゃなくても…いいです……(いいです、と言いながら、口調も顔も苦々しかった)
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夜鷹・芥 8月4日01時(一緒に帰ると、繰り返す彼女の止まらない涙を見ても、其れを止める方法が己には見つけられない。俺は自分の価値や存在意味を|見出すことが出来ない《・・・・・・・・・・》。再び儘ならない思いをぶつけるように叩く其の手を受け入れながら靜かに口を開く)……信頼出来る、出来ないの話じゃない。そもそも俺はずっと萬花で一人だったんだ。唯の任務を熟すことに必要な場所、拠点、「帰る場所」として認識をしていなかった。こんな怪我だって、……昔から、あったことだから。其れに、………(一度、問い掛けようとした言葉を飲み込む、飲み込んでからまた問い掛ける。最低な質問をすると解っていて)――お前は、俺を信用できるのか?
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夜鷹・芥 8月4日01時(泣かせてしまっていると自覚をしている癖に、試すような問い掛けを残す。ぽろぽろ流れていた雫は少し落ち着きを見せたタイミングで此方を見上げ潤んだ淡い紫の目許から、雫を指先で拭って)……ああ、そうだな、別に知らなきゃいけないわけじゃない。知らなくて良い。(優しく諭すような声音で肯く。けれど、表情は落胆と諦めを孕んで、彼女を見つめる先はもっとずっと深い所へ)……大切、だった。漸く俺に出来た、護りたいものだった。全部壊した、俺が。当然の報いだ、だってそうやって生きてきたんだから。…………っ、駄目だ、帰りたい場所、なんてそんな俺にとって都合が良いもの、作ることが出来ない、(『また』その報いを受けるわけにはいかないのだと)
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戀ヶ仲・くるり 8月5日21時……、……(グズグズ鼻を啜りながら、あなたの話を聞いて)…………はあ゛?(最後の問いかけには青筋を立てた。ドスの効いた声が出る)
ちょっ、私の話、聞いてました!?なにも聞いてない!?
血塗れで!(ポケットからハンカチを出す)虚な目で銃火器持ってて!(自分の制服の首元からスカーフを抜き取る)笑って首に手をかけてくる!(ガシッとあなたの頭をつかんで髪をかきわける)武闘派の男性、(あっ出血源、ここ!)ふつうに怖いですけど!(傷口にハンカチを当てる)…でも私に色々してくれた芥さんだから、(ハンカチを当てたまま、スカーフをあなたの頭に巻き付ける)ここにいるんだってば!
…何も感情ない訳ないでしょう!?(ギュッとスカーフを縛った。だってこの人、治療の話に何も反応しないからぁ!雑な手当でもないよりマシだろう)──してますよ、信用!なんで分かんないんですか、芥さんのばか……!
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戀ヶ仲・くるり 8月5日21時(目線はこちらを向いているのに、通り過ぎるようだった。目の彩は暗く、何が映っているか分からない。涙の浮く目で、あなたを見る。しばらく泣いた後だからか、あなたが夜より暗い目をしているからか、凪いだ心地だった)
……はい。大切だったんですね。その存在が(それが何かは分からないけれど、頷く)……はい。芥さんが初めて得た、護りたいものだったんですね(どういうものだったか知らないけれど、頷く)……はい。芥さんが、壊してしまったんですね(どんな経緯かわからなかったけれど、頷く)
……報いを得なきゃいけないと思うんですか?(あなたの独白全てにただ相槌を打っていたが、ここで初めて問いかけを口にした)
駄目だと思っても、都合がいいと思っても、“萬花”は芥さんが帰りたいと思う場所ですか(重ねるように、問いかける。聞きたい根幹はずっとここだ)
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夜鷹・芥 8月10日23時(声色が変わってから、「――ああ、やっぱり」と頭の片隅で思う。怒ってくれて良かったと安堵さえ覚える。……思いながら、何故か怒った口調のまま、テキパキと応急処置を自分に施そうとする様をぼんやり眺め)(傷口に当ててくれた彼女のスカーフを、徐に触れる、)…………俺が色々した以上のことを、既にくるりは俺にしてくれているだろ。――そう、か、莫迦だな、俺は。(ふ、と自嘲めいた笑い声を洩らす。)自分が寄せる感情を、相手や周りが返してくれている、なんて思っていなかったんだ。其れこそ、信頼してないってことになる。お前にとって酷いことを云ったと思う。すまない、俺は……俺のこと、自己をよく認識できないんだ。所謂自尊心、みたいなものが解らない。でも、(彼女の泣き腫らした瞳へ重ねるように月の双眸は真っ直ぐ見遣る、今から口にする言葉は真実だ)今の俺を、信用していると。言ってくれたのは嬉しかった。
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夜鷹・芥 8月11日00時(堰を切った様に凡そ脈絡の無い話を矢継ぎ早にした自分の言葉をひとつひとつ、嚙み砕くように傾聴し、鸚鵡返しのようにしてゆっくりと頷いてくれる彼女が最後に問い掛けてくれた言葉に、心の臓を鷲掴みにされたような心地になる。項垂れるようにゆるゆると頭を振って、)違う、帰らないなんて……思っていない。此処に――居るのは、俺とお前だけだから。今だけで構わない、俺の我儘として、聴いて欲しい。………、「……お前たちが居る場所へ、“萬花へ帰りたい”」(昏く沈んだ月は、僅かにひかりを射して眼の前の彼女へとはっきりと告げた)
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戀ヶ仲・くるり 8月14日08時(「√汎神に迷い込んだら気兼ねなく来れる場所が一つくらいあっても良いだろ。」「序でに俺も助かる。」「これから俺のチームで宜しく」──全部あなたが私に言ったこと。
あなたは気軽に言っただろう言葉に、勝手に救われた心地になって、今ここにいるのだけれど。
言葉に出来なくて、淡く笑った)
……人は、やさしくされたら、やさしくしたくなるものなんですよ(やさしくした自覚もない人だったっけ。と思いながら手当していた手を離す。自分の知識ではもう手当で出来ることがない。)
(気質の話だ。変えられるものではない、のかもしれない。それを謝られるのはどこか噛み合わない心地だけれど、人の話に耳傾けるのはあなたの美徳だろう。まだ潤む目をゆっくりと瞬きしながら、頷く)
…私の声、届いたなら…うれしいです。
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戀ヶ仲・くるり 8月14日08時(目の色に淡く光灯ったのを見て、瞬いてから、眉を下げて笑う)…あのね、芥さん。私、いっしょに帰ろうってずっと言ってるじゃないですか。芥さんが「萬花に帰りたい」って言ったの、わがままだなんて思わないんですよ。多分私以外の人も、帰りたいって言っても怒らないけど、その状態で帰らないっていう方が怒りますよ。
(自分よりずっと迷子みたいな目をしていた。家出した子供みたいでもあった。入るきっかけがつかめない家の前で、縮こまる子供。あなたの袖を引きながら、繰り返し、繰り返し、ずっと言ってた言葉を口にする)
──萬花に帰りましょう。歩けますか。歩けないなら車か人、呼びます。
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夜鷹・芥 8月16日01時――そう、だな。優しく、されたら。俺にも覚えがある(見返りを求めるでも無く、何の利も与えられない筈なのに馬鹿みたいに優しく接してくれた陽の光は瞬く間に消えていってしまったけれど。自分の中で深く、強く、根付いているから。だから、無意識に同じものを求めてみたかったのかもしれない)
……お前にも、俺が何かを残すことができただろうか?(「何か」を言語化するには自分に自信が無いから見つからない。自覚も無い。奪うばかりで、残せるものなんてないと思っていた)(涙ではなく、ちいさく微笑んだ眼の前の表情を見るまでは)
(応急処置を受けたからか、或いは彼女の言葉からなのか、先程から煩わしい程どろりとした胸の気持ち悪さが少しだけ引いていく。)
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夜鷹・芥 8月16日02時……許せよ、我儘にしたのは俺なりの精一杯の免罪符だ。ちゃんと解ってる、お前は一貫して俺に帰ろうと最初から云ってくれてた(確かに聴こえていた、不協和音が劈く鼓膜の奥で)……、くるりも含めてあいつらに怒られるのは嫌だしな。(居場所が欲しかったくせに帰りたくないと、帰るための赦しを何処かで探していた己を自覚したなら辟易とする。歳下の少女から喝を入れられて初めて動き出せるなど未熟にも程があるだろう)
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夜鷹・芥 8月16日02時(地に落ちた面へと手を伸ばし徐に拾い上げて、ゆるりと立ち上がるような動作を挟みもう一度肯く。帰巣の意思を)……歩けないことは無ぇけど、萬花への道中ずっとお前に肩を貸して貰うか、大人しく此処で迎えを待つ間、俺のちょっとした昔話に無理矢理付き合わされる、もしくは先にお前が帰って俺が此処で独りで迎えを待つ、の三択ならどれがイイ?
(平時は隠された口許は今は露わに。面を着け直す前に楽し気に弧を描いた笑みを覗かせて問う。どれだって、構わない。最終的には「帰る」約束は違えないのだから)
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戀ヶ仲・くるり 8月17日22時…芥さんは、迷子の私に道案内してくれた時、俺が優しい?って怪訝そうな顔してましたけど。私はやさしいって思いましたよ。案内しても、見返りなんてなかったでしょう?
(こちらを伺うみたいな目を見て、へにゃ、と笑う。この人、本当に自覚ないんだなぁと思って。なんとなく、関わる人が少なかったからな気がする。数ヶ月付き合うだけで、心の柔らかい人だと感じるのに)
──これも、芥さんは何の気なく言ったんでしょうけど。私、萬花で働けばいいって誘われてうれしかったですよ。√汎神、よく迷い込むけど…“萬花”に行こうと思うと、不思議と迷わず辿り着けるんです。とっても、…助かってます(救われた心地です、とは重すぎて口に出せなかった。色々背負ってそうな人が、自分まで背負わなくていい。)
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戀ヶ仲・くるり 8月17日22時ええ?怒られてくださいよ。この怪我でどっか行こうとしてたって聞いたら私は怒りますよ(許すも許さないも選ぶ必要がないから、むくれながらあなたに指をつきつける)
……偏った三択出すぅ……私、芥さんに肩貸しても、役に立つか微妙ですよね…(身長150cm、体育成績平均の女子高生である。あなたがよろけたらいっしょに転ぶだろう。少しだけ悩んで、あなたの横にちょこんと座った。)
誰かに来てもらいましょうか。今日事務所に居たのは、(スマホをあなたに見せながら、萬花のグループメッセージを開く。…プツン、と画面が真っ暗になった。電源ボタンに指を滑らせたからなのは、見て取れたかもしれない)
あーあ、電池切れちゃいました。芥さん、連絡してくれますか?…芥さんの体調が大丈夫なら、連絡に時間かかってもいいです(笑うあなたにわざとらしく言ってから、どうぞ好きにしてください。と見上げた。いっしょに帰れるなら、それでいい)
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夜鷹・芥 9月7日01時見返りなんて考えてもなかったな……、多分頭にあったのはお前を帰すことだけ(彼女が迷い込んでいたあの日を脳裏に浮かべて自然と身体が動いていた。別に職務だから、と責を一々全うする質でもないけれど)……くるりに其れが優しさだと感じてもらえるなら、それがいい。
……よく迷っている女子高生をその辺に放り出すには此処では危険すぎる、ってのが最初は大きかったが、……そうか。居場所を、お前が迷わず帰れる場所を、作れたなら良かった。俺もね、――安心するよ、萬花に帰ってお前が居ると。(彼女なりに自分へ返してくれた答えに報いれるように。少しだけ、今だけは張り詰めたものを取り除いて小さく笑んだ)
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夜鷹・芥 9月7日01時……其れは、くるりが此処だけの秘密に。してくれたら。良いんじゃないか。充分お前に怒られたんで慈悲を(つきつけられた指先に急に口調が辿々しい。つい隠蔽を試みてしまった)
(小さな身体が横に並ぶのを眺めて、またその場に腰を下ろす。彼女の真っ暗になってしまったスマホ画面に視線を向けたなら口角を上げ、)……偶然だな、俺の端末も残りの充電があまり無いんだが、――ああ、切れちまった。(同様に真っ暗になった画面を見せて)……じゃあ、選択肢二番目の俺の話を聞いて貰う、しかなくなったな?(選択をさせているようで、させていない、望んだ答えをくれた彼女を褒めるようにそっと頭に手を置こうとして)さて、何から話すか。――そうだな、俺の恩人にお前と同じくらいの年齢の双子の弟妹が居てな、―――……
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夜鷹・芥 9月7日01時(過去から得た己の大切なものや景色を紐解いていくように。屹度彼女からすれば他愛もない話だったかもしれないが、誰かに話すことはあまりなかったことに耳を傾けてくれる。軈て、「偶然」復活した端末で迎えを呼ぶ暫しの合間迄――もう少し続くだろう)
――ただいま、
―――おかえり、
(〆)
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