第八汎神資料室

三者面談

斎川・維月 9月6日14時

 何処でもない場所。
 誰でもない人達。
 これは夢で、幻で、けれど、だからこそ、多分


◎6th. 蓮の花を持った女性

『要は死の擬人化だ』

『本来、生命が喪われると言う現象に過ぎない死。存在ではなく不在を意味する概念でしかないそれが何故か形を成した。それが君達クビレオニと名付けられた怪異の仕組みだ。欠落がある所か欠落そのものなんだから、そりゃ√能力者にもなるよね』

『他の生命を無差別に死なせるのも当然だよ。だって本来なら現象として過去にしか存在し得ない『不在と言う穴』を現在に固定したのが君達なんだから。ほら、水槽の底に穴を開けたら全部其処に吸い込まれて行くでしょ? それと同じだ』

『うん、そうだね。だから君は生命では無い。人間じゃないとか、化物だとか、そんな事を言って居るよりもっと前の段階だ。君は『命の様にカタチを得て。生きている様に動く身体を持ち、丸で心を持っているかのように見える』だけの、世界に空いた穴の一つだ』

『……君が力を暴走させた時、罅割れの穴が出来るでしょ? あれって要するに君の出来損ないで、君の余波だよ。零れ出て来るモノは『死』に付随する感情や縁の象徴でしかなくて、意味なんて無い』

『君は死の力を振るってるんじゃない。寧ろ、常に後付けの人間性を蓋にして死と言う穴を塞いでいるのを、必要に応じて緩めて漏らしているだけなんだ』

『君は存在しないんだよ。逆に言えば、存在しない事が君なんだ』

『『ひとりぼっちの寂しさこそが生命を死に誘う動機』って言う推論は、随分と詩的ではあるけど、けれど言い得て妙ではあると思うよ。この世に『無い』事より寂しい事なんてないんだから。『無い』事より強い『求める動機』何てないんだからさ』

『多分、そっちの|世界《國》には、そう言う事を管理する存在が居ないか、手が回ってなくて『君達程度に関わってられない』のか、今何らかの理由で動けないか、或いはサボってるんだろうね。困ったものだなあ』

『まあ、でも……』



◎7th. 日本刀を持った女性

『何の意志も無く発生できるのは正常な生命の特権だ、と私は思う。逆に言えば、それ以外の存在にはその発生に必ず理由が必要となる。……意志とか、想いとかな』

『庇護者を望む意志が神を発生させた様に、自然への恐怖が妖を発生させる様に、存在しない『死』にカタチを与えて発生させたのにだって、何かがあった筈なんだ』

『例えば……そうだなあ。『喪失』と言うその現象そのものに美を感じ、芸術として形を与えたいと思ったクソバカの、けれどそれが叶わない故に際限の無い願い、とかな』

『はは、荒唐無稽だろ? でも人間は時にそれ位不合理で不条理な事をして見せるんだ。お前を拾った、お前の兄ちゃんの様にな』

『……これは同じ物だよ。だから私は知ってる、あの刀はお前を『殺す』のに最適の品だ。Ankerである兄ちゃんが振れば、確実にしくじらないだろう』

『だから毎日それだけを鍛錬し続ける。その時、お前に少しでも苦痛を与えない様に。勿論、機関に対するアピールもあるんだろうけど……約束、か。大事だよな、約束は』

『でも、その約束を望んだのはお前だけだよな?』

『分かってるんだろう? お前の兄ちゃんはお前を殺したいなんて一切思ってない』

『『死が死を迎える』と言う普通絶対あり得ない現象が、バグが、その誘因の伝播範囲を世界中に拡大させるエラー。それが発生しない程に『穴を塞ぐ蓋が盤石な状態』を狙って間髪入れずに為す事で、未然に防ぐ。公共の利を考えるなら全く正しい判断だな』

『知るかって言うだろうよ。言いたいだろうよ。そう言う性格だろあの人。そう言わないのはお前がそれを望んでいないからだ。あの人は、お前の我儘を聞く為に、自分の本音を堪えて、お前を殺す準備を毎日しているんだ』

『全く酷い話だ。酷いのはお前だ。自覚はあるだろうからこれ以上は言わないけどさ』

『まあ、でも……』



◎3rd. 良い感じの棒を持った女性

『まあ、でも貴女は大丈夫よぉ』

『だってちゃんと分かって居るんだもの。そうでしょ? だからそんな良い目をしているんだわ』

『皆ね、悪い方ばっかり大きく考えちゃうの。隠れた方が本当だって思っちゃうの。気持ちは分かるけど、でも本当はそんな事無いわよねぇー。比較は無意味だし、大小何か別に無い。悪い事は悪い事で、良い事は良い事』

『存在しない。生命じゃない。それは嫌ね。悲しいわね。でもそんな貴女をそこに居るって愛してくれた家族が居た事は良い事で嬉しい事ね。そうして貴女をそこ迄人間にして見せたのは凄い事ね。だから誇らしく思ってるんでしょ?』

『最近繋がったとこの話だと、人間だって脳みその中の信号? 電気とかそう言うのでものを考えてるのよね? 身体の機能が動いてるから生きてて、止まったら死ぬのよね? そんなに差、あるかしら?』

『命の定義って難しいけど、結局『そう思うか』と『そう思って貰てるか』でしょう。なら、貴女はその辺バッチリ。良い方に考えれば良いの。と言うか、そうしてるんでしょ?』

『家族を殺しちゃったのは物凄く悲しい事ね。想像もつかない位辛い事ね。それはそうよ。でも、それなら家族が居てくれた事の幸せも嬉しさも忘れちゃ駄目。『片方だけ』はズルっこだもの』

『貴女はそれが分かってる。だからきっと大丈夫』

『それは何も間違ってない。そうして行きましょう。もしも最期が悲しくても、哀れでも、酷くても、それで過程の良かった事が全て無くなるなんてことは無いんだもの。終わり悪ければ全てダメなんて言葉、無いでしょ?』

『そうして行けばもしかしたら、ね? 思ってもみない位に良い最後に辿り着けれるかも知れない。そしたらもうそれ迄の悲しいも辛いも全部チャラだわあ。だってほら、終わりよければ全て良しって言葉はあるじゃない?』

『ズルっこ? ウフフ、そうね!』