迷子、何周目?

【K.K】To my lost sister

戀ヶ仲・くるり 9月15日22時

ここは√EDEN、某所。
待ち人を待つ青年は、手元のタブレットPCを立ち上げて共有した内容を確認していた。

>住所の認識
・書面×(口頭から書き写したものが認識できなくなる)
・メール△
(認識できるが、送信対象が雨夜氷月からに限る。
家族間同士では認識できない。雨夜氷月が送信しても、「見た」認識が徐々に薄れて思い出せなくなる。)
・口頭〇(認識できる。口述の記憶は思い出せる)

>郵送
・郵送〇(住所を書く段階を越えられれば、郵送自体は可能。折り返し連絡なし。届いているかは不明。)

>住所への移動
・単独×(たどりつかなかった)
・同行 不明→検証

青年から、はぁ、と溜息がひとつもれた。表情に感情の色は読み取れずとも、吐いた息には混じっていた。
怪奇現象を記録したかのような項目。けれど自分が検証し、事実だと分かっている。…自分達で、だったか。

店内の空気感が変わって、目線を上げる。見れば、滅多に見ない程に整った華やかな容姿の男の姿。反社会的な雰囲気があり、関わらない方がいいと感じた。常なら近寄らない類の人種だが、聞いていた待ち人の特徴と酷似している。
また、ため息がこぼれる。けれどここで帰る選択肢はない。
行方知らずの妹の顔を思い浮かべながら、その華やかな男に向かって青年は軽く手を挙げた。

──青年の名前は、戀ヶ仲寿。
雨夜氷月と数か月やりとりしている、戀ヶ仲くるりの|家族《Anker》の1人である。


🌙雨夜・氷月
📗戀ヶ仲・寿(戀ヶ仲・くるり)
雨夜・氷月 9月16日23時
店に入り目的の人物を探すべく視線を巡らせればその人はすぐに見つかる。馴染みのある少女と似た髪色の青年の元へ向かい、銀色の男は整った笑顔を浮かべた。

「うんうん、ご丁寧にドーモ。雨夜氷月だよ。くるりの住んでるトコね、オッケー」

無駄の少ない会話は楽ではあるが面白味には欠ける。軽い口調で少女と血縁を感じながらも正反対な姿に、男は宵月の双眸を細めて。

「早速向かう感じで良い?どれだけ残酷な現実だろうと――直視する覚悟はできてる?」

どこか愉しむような声音で、青年を気遣うようにも聞こえるであろう言葉を贈る。
結果は蓋を開けるまではわからない。けれど彼が少女の欠落を目の当たりにした時、どんな反応をするだろうか。月の瞳は、興味に満ち溢れていた。
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戀ヶ仲・くるり 9月17日21時
気遣うような言葉選び。反面、愉悦の滲む声。興味に満ちた目──好奇心が強く、享楽趣味。
連絡を取っていた間の雨夜氷月の印象と相違ない。足すならば、顔を合わせた上でそう振る舞う人物。その人物像を目の当たりにしても顔色は変わらず、氷月の言葉に静かに頷く。

「僕は現状を知りに来ました。状況が変わらないなら後に回しても同じです……行きましょうか。」

淡々と返して足を進めた。飾らぬ本音だ。言葉の装飾に然程興味はない相手だろう。ああ、でも、

「…僕が現状に絶望して泣き喚いたら、雨夜さんはどう思いますか?」

“興味を持たれる”方が得るものは多い。と思って、打算のみで問いかけた。
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雨夜・氷月 9月19日00時
変わらぬ意志、表情。
揺らぐ事のない感情は緑の少女には似ないが、決めた道へ突き進む様にどことなく繋がりを感じた。

「んっふふ、それは結構!」

満面の笑みで返して歩み始めた彼に並ぶ。
投げかけられた仮定の話。これまでの男の様子から『それはない』と思う。されど、本当にこの男がそんな姿を晒すのであれば――

「そうだねえ、特に思うことがあるかは、なってみないとわかんないけど。今の俺なら写真を撮ってくるりに見せるかな!」

見えるかはわからないけど。その言葉は声にはのせずとも、検証内容の一つとして案外悪くはない、そんなことを考えながら。

「店の会計とかは良さそう?じゃ、行こうか!」
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戀ヶ仲・くるり 9月19日23時
「…はい」

満足そうな笑みを横目で見ながら、頷く。そう悪い印象は持たれていなそうだ、と思いながら歩き出した。目の前の男の気分次第で目的が崩れるので、気は配っている。この態度でも。

「そうですか。では、これをどうぞ。僕が泣いたらそれで記録出来ますね」

無表情のまま鞄から機器を出して渡した。どこまで冗談なのか読み取りにくい口調である。渡したのは、首から下げれるタイプの録画機器。事前に話していた検証用の記録媒体だ。

「はい、行きましょうか」

自分も同じ機器を首から下げて、氷月の装着を確認してから店を出る。目的地の住所も、道筋も、周辺の建物も、把握していた。行こうともした──辿り着けなかったけれど。
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雨夜・氷月 9月23日20時
「ん?ああ、これね。安心して、バッチリ撮ってあげるから」

渡された機器を受け取り即座に機能を把握する。判断が難しい口調ではあるが、これまでの言動や受け答えから概ね冗談だろうと推察する。
正直、どちらであろうとやることは変わらない。軽い口調で応えつつ、男と同じように首から録画機器を下げた。

「確か一人で行った時は辿り着かなかったんだっけ?なら、俺のことも見失う可能性もゼロじゃないってことだね。逸れたら即電話、近くの目印になりそうな場所で合流でいい?」

店を出て目的地への歩みを進めながら確認するように言葉を紡ぐ。特に決めておく必要は無いだろうが、予め決めておくことで円滑に進む場合もあるだろうと。
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戀ヶ仲・くるり 9月24日22時
店外へ出てすぐかけられた言葉に、寿の歩みが一瞬緩む。
(──この目立つ姿ですら、見失う)
眉を寄せたくなるような怪奇現象。けれど類似のことを味わっているので、あり得る話。はぐれる対策はしていなかった、と目線を上げる。
鞄から紙の地図を出して差し出す。1人で行こうとした際に作ったものだ。大きく拡大された地図上に、実建物の写真が貼られている。

「そうですね、辿り着けませんでした。…こちらを持っててください。写真が貼ってある建物は、名称のみで場所が分かります。僕が消えたら、そちらで確認して伝えてください。
雨夜さんは道中、違和感ありませんか。──僕も別段、ないんですが」

歩いて15分程度。約1000km。既に1/5は歩いている。地図情報もさほどなく、暗記出来る程度。…そこまで対策した上で辿り着けなかった、という証左でもあった。違和感がある方がマシかもしれない。
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雨夜・氷月 9月27日06時
歩みに動揺が見えた。想定をしていなかったらしい。もっとも、想定していたところで|世界が許さなければ《・・・・・・・・・》気づくことすらできない可能性だってある。それが√能力者と一般人との差であることは、よく知っていた。
差し出された地図を受け取り少し開けば、この男がこの為にどれほどの労力を割いたかが窺える。それすらも無に帰す|溝《欠落》が、この兄妹にはあるわけだが。

「ん、了解。俺自身が歩いても特段違和感は無いね。
アンタの場合は…くるりにアンタ達のメッセージが見えなくて本人もそれがわからないように、認知がズレるんだろうね。
俺自身にはその認知のズレみたいなのはないみたいだから、アンタの認知が歪めば多分気づけはすると思う。だから俺が絡めば目的地には辿り着けるかもね、アンタが『目的地』って認識できるかはわかんないけど」

それゆえに――その|溝《欠落》への関心は尽きない。
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戀ヶ仲・くるり 9月29日09時
観察するような言動に、あからさまだな、とだけ思う。隔意はない。興味を持ったことで手を貸すのならお互いに利がある。立ち位置が違っても、欲しいものが明らかな相手とは協力が成立する。

「認知のズレ…ですか。おかしい、異常だと認知を強めないと、違和感も感じられないのは…気分が悪い」

辿り着いていたかもしれない。通り過ぎ、その事実すら認識出来なかっただけで…頭を振って切り替える。指標に感情論を挟むのは不効率だ。

「正しい道筋をここまで来れたのは、おそらく初めてです。今の所、ズレはなさそうですね。目的地もどうかは行って確認しましょう。」

頭に入っている地図と照らし合わせれば残りは100mほど。目的地が見えてもおかしくはない。
“出来ないことが分かった”は研究の上では確かな結果だが、寿の欲しい成果はそれではない。
妹に会う…叶うなら…複数の現状を鑑みて、それは思考にすらのぼらせないよう閉じ込めた。
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雨夜・氷月 9月30日23時
メッセージのやり取りでは読み取ることのできない感情の露出に僅かに興味を抱きつつ、今はそれを突く時ではないと視線を送るに止める。
なにせ、本命は別にあるのだから。

「ん、今のところ普通だねぇ。ちゃんと俺とも会話できてるし……あ、見えてきた、アレアレ。四階建てのが並んでるやつ」

何かしらの干渉が入るなら己とのやり取りにも不都合が出てもおかしくはないが、その兆候は見られない。他の√能力者の存在は随分と大きいらしい、と考えていると見覚えのある集合住宅が視界に入る。
特徴を告げると共に指し示せば共に歩く男も認識できるだろうか。様子を窺うように横目で寿を見た。
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戀ヶ仲・くるり 10月2日08時
『見えてきた、アレアレ』氷月の言葉に目線を巡らせる。つまるところ、“視界に入っていなかった”
【雨夜氷月の干渉:40↑で認識】

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戀ヶ仲・くるり 10月2日08時
四階建て。並んでいる。指差す方角。目を凝らす。

「……、……アレですか。くるりは随分趣のある建物に住んでるんですね」

同じように指し示す。“視界に入れば”、隣の男同様に目立つ建築だ。大きさもあり、早々見逃すものではない。
壁に緑の蔦が這う、大正建築様式。レトロな…悪く言えばオンボロなアパルメント。珍しくオブラートに包んだが、セキュリティは大丈夫か?が滲んでいた。古い建物に美術価値は認めても住もうと思う感慨がない。
…そういう感情が滲む程度には、“見えた”ことに安堵していた。
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雨夜・氷月 10月2日19時
少し間があったが無事に見えたらしい。
もっとも、認識できなかった場合でも目的を果たすため、妹で|拉致る《あそぶ》時のように抱えてでも連れて行くつもりだったが。

「んっふふ、そだね。でも家に帰れない、保護者に連絡もとれない未成年のオンナノコに、ちゃんと住む場所あるだけマシじゃない?」

更に滲んだ感情に笑いが溢れた。
基本的に何をするに保護者の同意が必要になる年齢。共に歩く男にとっては受け入れ難かろうと、一歩間違えれば雨風凌げる場所すら確保できない可能性すらあった彼女にとっては幸運なことだろうと。

そう言い、歩きながらスマホを取り出して、銀色の男は目的の人物である少女へとメッセージアプリで言葉を送る。

(『今からアンタの部屋に行くね』)
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戀ヶ仲・くるり 10月3日12時
「そうですね。努力が出来て、悪運が強い。」

淡々と返す。
本人名義の口座も電子通貨も一切動きがないので、なんらかで稼いで生活を回しているのだろう。“社会人”が出来てる身と選択を貶す気はない。努力が見える。

「……この敷地内、入っても問題ありませんか」

──メゾン・ド・エデン。居室数150を超える集合住宅。そのうち、50室弱が√能力者とその関係者で埋まっている。寿の知らぬことだが、敷地内で犯罪を起こせば即御用は必然。あそこに手を出するな、と犯罪界隈で囁かれる住居で暮らすくるりは、数ヶ月とても平和に過ごしている。
…そこまでは察せずとも、建物の放つ異質な雰囲気を感じ取って、そう問いかけた。
妹の気質からして、1人でこの住居に辿り着いた訳ではないだろう。目の前の人物と縁づいているのも含めて、悪運が強い。そう評した。
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戀ヶ仲・くるり 10月3日13時
……その頃、南棟105号室。戀ヶ仲くるりの住んでいる部屋。

「あ、通知。氷月さんから?珍し……うん??
『今からアンタの部屋に行く』…えっ、|こっち《√EDEN》に来てるの!?突然!いや即拉致より予告があるだけいい…良くない!比較がおかしい!あっ私、部屋着だ、着替え…!」

スマホを見て、くるりが声を上げながらメッセージを走り書きして送った。そのまま返事を見る間も無く、バタバタと身支度をする。

(『今から!?今どこにいるんですか、あと何分後に来るんです!?』)
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雨夜・氷月 10月4日17時
男の口から出た言葉に反応しないまでも心の中で頷く。悪運が強い、その通り。何が起きてもおかしくはないこの世界で、まだ一般人のように振る舞えるのだから。

「ん、何?俺が入って問題ないんだから平気でしょ。それとも怖気づいた?――手でも引いてあげようか」

自身で言うのも何ではあるが。まともには見えない見目の氷月が、己の出入りは問題になっていないという旨を伝えつつ、揶揄うように笑う。躊躇う理由があっても、進まない理由にはならないだろうと。
不意に通知が届き、彼の反応を気にしつつも再びスマホを見た。送信主は先ほど連絡を送った少女。中身を見れば予想通りの反応に口角が上がる。

(『もう建物見えてるから5分以内くらい』)
「…ん、くるりもちゃーんと部屋にいるみたいだから、行こうか?心の準備は良い?」

返信を送り、寿を見る。
検証を開始しよう、銀色の男が笑った。
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戀ヶ仲・くるり 10月5日08時
「管理者に許可は、…問題ないんですね。手は大丈夫です。それは|見えない《・・・・》時の為に残してください。」

怖気づくというより、面倒を避ける為に正規の手続きを踏んで入りたい。という旨の問いだった。その疎通は出来たので、頷く。異質な圧はあるが、一般的な集合住宅と同じ扱いでいいようだ。
当然のように手を引く必要は感じない。

「確認ありがとうございます。はい、行きましょう。」

通知を見ての言葉に礼を口にして、静かに足を進めた。建物内の入り口を通っていけば、ちょっとした広場めいた中庭に出る。
教えられた住所では南棟と書かれていたので、方角的にそちらだろう。と思う方へ歩みを進める。

「…くるりと会ったら、これを渡していただけますか?」

手札の多い人物の手を埋める利点は少ない。
けれどこれは目的のひとつなので、手を埋める価値が自分にはある。確実に“会える”だろう氷月に、シンプルな茶封筒を渡した。
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戀ヶ仲・くるり 10月5日08時
……その頃、南棟105号室。

(『もう建物見えてるから5分以内くらい』)

もうこれでいいや、といつもの制服に袖を通してスマホを見れば、届いていた返信。内容を見て、うわぁと呟く。

「…ほんとに着替える時間しかないなぁ…!え、敷地内?道路?どっちだこれ…」

昨日出かけた時のままのバッグを引き寄せて、靴を履く。家に招くより外で話す方が気楽だと思って。…あちらは気にしなくても、こっちは気にするから!
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雨夜・氷月 10月6日19時
管理者に許可、そんな大層な場所に見えたか。
フツウのヒトの感覚はやはり読み切れないなと表情に出さないままに省みつつ、男の欲しい情報自体は渡せたようなので即座に切り替え目的の部屋へと歩を進める。

「…封筒?まあ別に良いけど」

道中差し出された茶封筒を受け取り、掲げて首を傾げた。中身に僅かに興味はあれど、渡す相手に直接開かせた方が良いか。横の男が意味の無い物を渡すとは思えず、広げて意図が読めなければその場で説明を求める方が早い。
そう結論づけたところで目的地は目と鼻の先。扉を開く音と共に、少女が現れた。

「あ、くるり。出てきたんだ?」

――果たして、この対面はどうなるのか。
自然と口角が上がっていくのを感じた。
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戀ヶ仲・くるり 10月7日21時
【くるり/欠落:居場所の認知⇔√能力者:雨夜氷月の干渉/99↑で寿を認識】

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戀ヶ仲・くるり 10月7日21時
【寿/Ankerの欠落の影響⇔√能力者:雨夜氷月の干渉/50↑でくるりの声、70↑でくるりの姿を認識】

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戀ヶ仲・くるり 10月7日21時
疑問を抱きながらも封筒を受け取った様に、静かに頷いて返す。答え合わせは妹と会ってからがいい。

「わぁっ」

自室のドアから出てきたくるりが声を上げて、こちらに駆け寄ってくる。

「本当にいるぅ…!氷月さん、今日はなにしに来たんですか!?」

──目線は寿を素通りして、隣に居る氷月だけを見て。そこに久々に再開する妹の様子は一切なかった。

「……姿が見えて、声が聞こえます。|僕は《・・》。想定の中ではいい結果でした」

寿が笑って伝える。今日初めての笑顔は、諦観の滲む笑みだった。
くるりの住居へ辿り着けない。辿り着いてもくるりの姿が見えない。聞こえない。どれもあり得た。自分を認識しない妹を前に、自分が認識出来るだけいい結果だと断じる。

「茶封筒をくるりに渡してもらえますか。出来れば開けさせて欲しいです」

笑みを消した寿が、氷月に頼む。接触自体が難しい妹に、間接的でも手渡しできる貴重な機会だ。逃す手はない。
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雨夜・氷月 10月9日22時
「んっふふ、今日はイロイロ検証をしに、ね」

駆け寄ってくる少女に答えながら男を見て、発する言葉から想像よりも良い結果であることを知る。しかし、身近な人間に無視される状況というのは彼の心に如何様に作用しているのだろうか。諦観の滲む表情からは、正確に察することはできなかった。
茶封筒を、との言葉に一つ頷き視線を少女へと戻す。今彼女が|認識していない相手《・・・・・・・・・》とのやり取りは、怪奇現象のようにも見えるのだろうか。なんとなく、そう思いながら。

「はい、くるり。コレ、アンタのオニーサンが渡してって。中身も見てほしいらしいよ」

中身は俺も気になるのだと銀月の男は笑って、封筒を開けるよう少女に急かした。
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戀ヶ仲・くるり 10月10日23時
「? ?? 検証…?」

くるりが自分以外を向いて話す氷月に首を傾げて、意図の読めない話に、もっと首を傾げる。
会話が始まると寿は口を閉じて、|氷月《・・》に目線を向ける。そこに感情の色は乏しく、観察するような視線だった。

「え?…アンタのオニーサン…って、…………私の、家族の?」

どうして?と本当に?となんで?が入り混じる視線。氷月が自分の家族と接触している状況を知らないので、その疑問は妥当ではあった。
けれど急かす動作に、開けないと説明がなさそう。と悟って袋を開く。
厚みのある茶封筒。開ければ、複数のクリアファイル。入っているのは書面。あとはジップファイルに入った──

「なにかの書類と……通帳と、キャッシュカード…?…あれ、これ、私名義のだ…」

見覚えある。とくるりが口の中でつぶやく。お年玉や祝い金を入金しているもので、額は大体…と記帳された最後のページに指を滑らせて、
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戀ヶ仲・くるり 10月10日23時
「んん!?桁がおかしい!?」

倍以上は入っていて、桁の増えている額面に声をあげた。

「……不用心が過ぎる……」

心底呆れたように寿が呟く。振り込みをしたのは寿だが、その帳面を持つ妹がこの様子だと不安しかない。帳面の認識が出来ていて、内容に齟齬もない様子なので、色々と不安は残るが良しとした。
後は、…現状頼らざる負えない氷月に目線をやる。金銭に困った様子はないが、この平和ボケしきった妹にも適応されるのだろうか。
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雨夜・氷月 10月13日00時
「なるほど、半分はお金関係か。んっふふ、ホントに不用心だね。そういうのは思っても黙って見て閉じて仕舞うモノだよ、強盗されても知らないよ?」

前半の言葉は兄に対して、後半は妹に対しての言葉である。男からは警戒されているようだが、未成年の少女から強奪を考えるほど金銭に困ってもいなければ興味もない。
茶封筒の中身の一つを確認して興味を無くし、適当に忠告したところで視線は一緒に入っていた書類へと移る。

「んで、そっちの書類は何なの?なんか複数あるみたいだけど」

片方が金銭ならば、共にある書類も生活に関するモノだろうか。早く教えろと言わんばかりに、すぐに通帳を仕舞うよう再び少女を急かした。
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戀ヶ仲・くるり 10月14日22時
「はい、金銭面での補助と、履歴ですね」

口座を妹が使用していれば──認識が揺らいで、この事象を忘れて、くるりが使ったのが確かでなくとも──履歴が残る。
どういう形であれ、妹の手に渡れば無駄にはならない。
渡れば。
妹をどうとでも扱えそうな男、氷月は視線に気付いた上で「興味がない」と言わんばかりの様子だったので、目礼だけした。謝罪はしない。

「ぇ、あ、はい…すいません…気をつけます……メゾン・ド・エデン、治安よくて…氷月さんも、お金にこだわりないから…」

くるりが言い訳を後ろにつけながらも、反省して通帳をしまう。そのまま、せっつかれた書類を引き出した。

「書類は……学校?このあたりの高校の資料…?あ、通信高校とかも、あ…る……」

くるりの不思議そうな顔が段々固まっていくのを見て、寿は、ここまで頭が追いついてなかったな。と判断する。
しかしながら、時間は止まらず、有限である。
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戀ヶ仲・くるり 10月14日22時
「お前、まだ“高校一年生”だから」

聞こえない妹に向けて、氷月に伝言を頼むでもなく、言葉を発した。
行方不明で留年しており…事件性を疑う失踪だったので、高校の温情で籍は残っている。そろそろ籍が消えるが、近いうちに継続なり転入の手続きを取れば“高校生”で居られる。別段、いる必要はない。いつも通りの妹であれば、望むかと思っただけだ。

「通いたがったら、緒手続きするので、連絡いただけますか。」

妹が即判断するとは思わなかったので、こちらは氷月に向けて言った。
手続きしたところで通えるのかは不明だ。その検証に寿が関わる余地がないので、話題にも出さない。
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雨夜・氷月 10月16日19時
――履歴。履歴で証を残したい?
男の言葉に僅かに疑問を浮かばせる。しかし、考え得る限りで履歴が残って嬉しいのは|兄《男》であって少女ではない。ならば深掘りする必要もないかと思考を手放した。

「そうした方がイイよ、いつでも誰かが守ってくれるわけじゃないからね」

大きなお世話ではあるだろうが。|少女《くるり》に何かあっては厄介だと言葉を付け足して。
続いて引き出された書類を覗き込んだ。

「……ああ、アンタ高校生って言ってたっけ」

初対面の時に聞いたような。そんな記憶を引き出しながら少女の顔を見る。固まる表情に瞬き一つ。緩やかに首を傾けて。

「あれ、学校行ってなかったの?…帰れてないし、それもそっか?」

元の居場所を認識できない、であれば日中の大半を過ごすらしい学校のことも認識できないか。よく考えればバイト先たる事務所に居るにはおかしいタイミングもあったかもしれない。
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雨夜・氷月 10月16日19時
己に馴染みが無さすぎて違和感がなかったと省みつつ、男の声に一瞥して。

「通いたいなら諸手続きはしてくれるって。元々通ってた学校は難しくても、自分で選んだ学校なら通えるんじゃない?」

寿の言葉をさり気なく混ぜつつ自身の考えを伝える。どうするかはくるり次第ではあるが、その意思があるなら手伝ってもいいと笑顔で言葉を付け足した。
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戀ヶ仲・くるり 10月17日21時
寿が興味を手放した氷月を見遣って、くるりが氷月の忠言を噛み締めるように頷いた後。
はっとした顔でくるりが書類を全てに目を通す。籍を置いている高校のものがあった。これは通知書類で、

「りゅ、留年してる!それはそう!通ってないもん!あああああ、もうすぐ中退になる!?」

書類を見てうるさい反応をした。必死である。氷月の言葉に、ゆるゆると目線を上げる。

「高校生、なんですけど…実家もそうだけど学校も辿りつけなくて…連絡取れないし…みんなに会いたいが先立ってて、学校……忘れてた……そっか、留年……」

制服に袖を通して|街中で過ごす《学校に行かない》様はそれなりに異質だったが、本人が|当然のように《欠落の副次効果で平然と》過ごしていたから、今まで√能力者からの指摘はなかった。“ふつうの高校生”を知らない者も多いので、それもまた当然かもしれない。
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戀ヶ仲・くるり 10月17日21時
「成程」
「え……?」

氷月の声に兄妹両方が目を向ける。付け足された言葉にはどちらも意外そうな顔をした。同じ表情をすると中々似ている。
数拍の沈黙の後、|通える《迷子にならない》か分かんないですけど、と苦く笑ってから、くるりが書類を抱え直す。

「いきたい、です…高校、通って、卒業、したいな……お気遣い、ありがとうございます。資料を読み込む時間、ください」

くるりの声は自分に向けられてないと把握した上で、寿が頷く。

「僕の目的は概ね達成です。ご協力ありがとうございました。最後に検証しましょうか」

氷月にそう伝えながら、静かな足取りでくるりの前まで距離を詰めた。

「……、……元気そうで、よかった」

妹の頭を撫でようと、手を伸ばす。不仲ではないが、ベタベタした関係性でもない。数年振りにする行為。

【寿/Ankerの欠落の影響⇔√能力者:雨夜氷月の干渉/80↑でくるりとの接触を認識】

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戀ヶ仲・くるり 10月17日21時
扱いにくい猫っ毛。短く切った方が跳ねるので、切りそびれて伸ばしがちな…そんな妹の頭を、撫でる。触れた手は視認でき、触れた感覚があった。
最後に頭を撫でたのは何年前だろう。中学生?…小学生? 片手以上年が離れた妹は、幼い印象が離れない。それでも突然日常から放り出されて、こうして生活できるくらいには、大きくなった。

【くるり/欠落:居場所の認知⇔√能力者:雨夜氷月の干渉/98↑で寿との接触を認識】

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戀ヶ仲・くるり 10月17日21時
寿の目線では、昨年の12月、くるりが行方知らずになった日と地続きのような──くるり目線では、何も認識していない、歪な兄妹の交錯のひととき。
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雨夜・氷月 10月20日17時
「そ、なら決まったら連絡して。諸連絡ついでにアンタのオニーサンに手続きするよう言うから」

高校を卒業したいという少女の願いを聞き、兄を一瞥して頷く。これからも何度か連絡する機会もあるだろう。

寿が動いたのを黙って見守った。くるりからはじっと見つめられているように見えるだろうか。
兄の手が妹の頭に触れ――妹は反応せず、兄は|違和感なく《・・・・・》認識できているらしい。
歪なやり取りを前に、芽生えたのはほんの少しの興味と干渉して確かめてみたいという欲。

「――ところで寿、アンタが|此処に居る《・・・・・》ってくるりに伝えなくていいの?」

兄たる男の肩を組み笑い、寿に話しかけるように見せかけ態と少女に対してその存在を指し示す。
たとえ認識出来ないとしても、少女からのアクションが見られないのは――勿体無いと思った。

【くるりの欠落⇔雨夜氷月の干渉/ダイス目+10>97で成功】

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戀ヶ仲・くるり 10月22日21時
「ありがとうございます……それで、あの、…氷月さん、兄と、連絡取ってるんです…?」

どうして?どうやって?どんな経緯で?そこが繋がらなくて問いかける。見守るような顔をされたので、くるりは眉を寄せて見返した。…なんだろうこの間。
そのまま氷月が虚空に向かって|肩を組んだ《・・・・・》のに、怪訝な顔をして、続く言葉に目を見開いた。

「え」
「……伝える必要はないと思っていました」

寿が露骨に溜め息をつく。くるりが認識出来てない時点で、意思疎通の難度が高い。ましてや、

「えっ、寿お兄ちゃん、そこに居るんですか!?ここ!?」

くるりの目線では、不自然に浮いている氷月の腕の下に手を伸ばした。──何も触れない。

「……、……なんにもない……」
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戀ヶ仲・くるり 10月22日21時
…こうなるのは、会った時の様子で分かりきっていたから。
寿の目線では、くるりの手がこちらに触れないよう、不自然に曲がったように見えた。どちらの認識が確かなのかは分からない。
兄妹の目が氷月を見る。

「ひ、氷月さ、寿お兄ちゃん、いるん、ですか……なんにも見えない……」

くるりが今にも泣きそうな顔で言う。

「雨夜さん、くるりに伝えた目的は?」

寿が静かに問う。妹の『ここに居るのか』の言葉に届く声は持たず。その上で届かない無為な慰めはする気がなかった。
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雨夜・氷月 10月25日22時
「寿はココにいるよ、くるりには見えなくてもね」

くるりが泣きそうな様子に表情を変えることなく、事も無げに告げる。やはりかとは思うものの、この行為にはそれなりの意味はある。

「シュレディンガーの何とやら。結局のところ、今のこの現象がどこまでどうなってんのか俺もわかんないから、可能性が低くてもやる価値があると思っただけだよ。何がトリガーになるかわかんないからね」

兄からの問いかけに、妹の方をじっと見つめながら答える。兄たる男からは認識できて、少女からは認識できないのは何故か。
脳内で考察を広げながら銀の月はくるりの額を人差し指で小突こうとする。
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雨夜・氷月 10月25日22時
「例えば俺が寿に触れた時。くるりが存在を知らされたタイミング。それらが全部重なった上で寿がくるりに触れるとか。条件を足し引きした時、いつ何時綻びが生じるかはわからない。|世界《欠落》が何を拒むのかも」

なにせ一般人の常識的な考えは通用しない現象だから。

「俺はくるりが帰る為の手伝いをするって|約束をした《・・・・・》。その為にはこの現象を理解をする必要があった。普通なら起こり得ない事象が起きている以上、可能性が低いからと試さないのはいつか重要な何かを見逃す事に繋がると思った。それだけだよ」

効率を求めすぎては逆に非効率になることだってある。そう言って氷月は寿の目を覗き込んだ。その眼差しは「いいから付き合え」と訴えている。
――其れらを行う理由は、己の興味以上に|約束をした《・・・・・》からだと、兄妹は気づいただろうか。
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戀ヶ仲・くるり 10月27日23時
肩を組む氷月の真意を、寿は知らない。元より文字通り“生きている世界”が違う相手。事務連絡に近い形でばかり話していた。相手が興味本位でも良かった。目的を達する。それが出来ればいい。
結果、話の展開は早かったので、その判断が無為だと思わないが、

「……、……雨夜さんに連絡をとって、ここまで連れてきてもらった。住所を聞いても俺には辿り着けなくて、」

尋ねてもよかった。
そう、今、思った。
氷月と肩を組だまま、くるりに語りかける。

【くるり/欠落:居場所の認知⇔√能力者:雨夜氷月・Anker:戀ヶ仲寿の干渉/96↑で寿を認識】

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戀ヶ仲・くるり 10月27日23時
「は、い…」

対して、くるりは氷月の浮いた腕を見る。居る?見えない。けれど居ると氷月は言う。…嘘とは思わなかった。欠落の形が示されて、堪えようとしても涙が浮かぶ。

「っ!なんですかぁ…」

額を小突かれて抑える。氷月のこちらを見る目は、いつかの日にまるで見定めるように見る目と、どこか違って見えた。

「……、……なにが欠落の要因になるのか、私もよく、分かりませんけど、」

手を伸ばす。先程なにも触れられない、と苦い物を味わった場所へ。

「私は、諦めません。って言いました。その言葉で氷月さんが約束してくれたから、…私もできること、したいです」

【くるり/欠落:居場所の認知⇔√能力者:雨夜氷月の干渉/95↑で寿を認識】

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戀ヶ仲・くるり 10月27日23時
寿の言葉はくるりに届く様子がない。くるりの手も寿に届く様子がない。
けれどくるりが諦めないと言ったから、応えるように寿ももう一度手を伸ばした。

【くるり/欠落:居場所の認知⇔√能力者:雨夜氷月・Anker:戀ヶ仲寿の干渉/94↑で寿を認識】

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戀ヶ仲・くるり 10月28日00時
欠落。死後蘇生でも治癒することのない欠け。√能力。万能の力を操る力。原則的には、何の代償もなく無限に使い続ける事が出来る。
“ぶつかりあったら、どっちが強い?”無敵の矛と盾の問い。──ぶつかり合うこと自体が歪なら、欠けが一瞬埋まる歪も、誤差の範疇では?

寿が手を握る。握手の形。妹と握手をすることはそうないので、新鮮な心地で手元を見た。成長したとも思うし、この年でもこんな大きさか、とも思う。
くるりの顔へ目線を向けて、

「……、……寿、お兄ちゃん……」

ぼたぼたと涙をこぼす様を見て、元より表情の薄い寿の顔が固まる。くるりの手に、力がこもる。…確かに、手の形に握り返されている。…まさか、

「わ、たし!ぜったい、かえるから!ぜったい、あいにいくからっ!まってて!」
「──分かった。待つ。連絡はしろ」

涙声のくるりの言葉も、寿も、そう長くない言葉を放つ。…これは“今だけの奇跡”だと、どちらも思ったから。
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雨夜・氷月 11月4日20時
己の言葉で兄妹たちが動き出すのを宵月の双眸が見守る。期待はしていないが、言葉にした通り綻びを見逃してはならない。
兄が手を伸ばし妹に触れる。それは先程も叶った事。しかし、

「――!」

決定的に違う反応に、男は珍しく大きく表情を崩した。
確かに兄は触れられた、しかし妹は欠落により認識できなかったはずだ。それが今、|互いを認識している《・・・・・・・・・》。
欠落が埋まった?√能力?|己《取り替え子》の因果の干渉?
どれも可能性はあるが、確証には至らない。もしこれが一時的だとするならば。くるりのこの歪な認識は、欠落というよりも認識の|阻害《・・》に近いような。
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雨夜・氷月 11月4日20時
「……まさか、本当に変化があるなんてね」

いずれにせよ、一時的にだろうと埋まったナニか。それはおそらく己の存在を介した干渉によって起き、効果があることは実証された。
この進め方が効率的であるかの検討の余地はあるが、無意味な行為ではないことがわかっただけ大きな進歩だろう。

「結果としては収穫アリ…ふむ、こんなに感じになるとは思わなかったな」

二人が言葉を伝え合ったのを確認し、寿の肩から腕を外す。接触をやめることで再び認識が歪む可能性もあるが、ひとまず今は十分だろう。

「色々試したいことも出てきたけど、今焦ってやるべきではないかな……ちょっと考えを整理したいし、」

何かあった時に一般人が居てはやりづらい。別に隠す必要もないが、あえて言う必要性も感じなかった言葉は飲み込んで。

「…うん、今日はこれくらいで帰ろうかな!」

満足したと言わんばかりに銀色の男は笑った。
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戀ヶ仲・くるり 11月8日08時
──くるりの目線では、変化は一瞬だった。何もなかった空間に突然、寿が現れた。動画の下手な編集をしたような、違和感しかない登場の仕方。それでも、違和感よりも、うれしさが勝った。
くるりは1年近く見てなかった寿の顔を見て、声よりも先に涙が溢れる。伸ばした手が確かに触れていると分かって、ぎゅっと握る。
何か言わなきゃ、と声を出した時には、あ、もう…とくるりは思った。姿も、声も、握った手も、崩れるように形を失っていく。

「あ…………」

氷月の腕が動いた時には、もう何も見えなかった。涙の意味が変わってしまいそうで、顔を覆う。
そこに届いた氷月の『今日はこれくらいで帰ろうかな!』というカラッとした声に、

「……氷月さん、本当に、自由……」

恨み言めいた声が漏れたのは、多めに見てほしい。
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戀ヶ仲・くるり 11月8日08時
「…はい、帰りましょうか」

対して、寿は氷月の言葉に同調して頷く。くるりの目線が惑うのも、明らかに手を握る強さが変わったのも、間近で感じた。認識されなくなったのだろう。
かける言葉はもう届かない。顔を覆った妹の涙も拭えない。拭ったところで、その感覚もないのだろうけれど。
苦いものを感じながら、目線を氷月に向ける。
成果物は、予想を遥かに超えた。これ以上は望むまい。……|今は《・・》。

「雨夜さん、思考整理の手は要りますか?」

この変化を起こしたであろう男の手助けをする方が、展望が見える。そう考えて追従した。まだ涙を溢す妹に背を向けて。
…未だ涙を拭うくるりに聞こえていたら『寿お兄ちゃん、そういうところぉ!』と叫んでいたかもしれない。
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雨夜・氷月 11月11日12時
涙を流し顔を覆う少女を見る。恨み言が出るなら、弱っていたあの日のような絶望はおそらくないのだろう。ならば慰めの言葉も、壊れないように見守る必要も無い。

「それじゃまたね、くるり」

次を示唆する別れの言葉と共に手を振り背を向け、妹に向けていた意識を早々に己へと切り替えた兄を見遣る。

「んー…それはいいかな。アンタは、アンタ視点の事象の整理と考察だけして後で送って」

提案に逡巡するも、情報の提示だけを求めるに止めた。極めて冷静、論理的かつ効率を求める男の思考を補助として使いたい気持ちがないわけではなかったが。

「ここから先は、俺の領分だから」

|超常現象への対抗手段を持たない一般人《くるりの兄》を、これ以上くるりの認識の事象に深く関わらせるのは得策ではないと判断した。
不慮の事故で、くるりを帰す前に帰る場所が無くなってしまっては意味がないのだから。
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戀ヶ仲・くるり 11月13日00時
くるりがゴシゴシと手で涙を拭い取った時には、氷月はひらりと手を振って背を向けていた。見えないけれど、兄の寿はここで残るような性格じゃないので、おそらく一緒だ。くるりの口から、はぁ…、と息が漏れる。頭の中には山ほど言葉が浮かんでいたけれど、

「っ、…もー……氷月さん、ありがとう、ございました…!寿お兄ちゃんっ、|またね《・・・》!」

放ったのは、そんな言葉。行動が唐突だろうと、説明が不足していようと、即座に帰ろうとしようと──言いたいことは山ほどある。あり過ぎるほどある──1人では決して会えなかっただろう兄に会えた。その事実は揺るぎない。それは氷月のおかげだとくるりは思った。
まだ湿り気の残る声で、けれどはっきりとお礼を口にして。氷月の隣にいるであろう寿に、またねと言う。さよならではなく、また会えると信じての別れの挨拶。
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戀ヶ仲・くるり 11月13日00時
「……、……分かりました。検証したい事項が増えたら、連絡してください。映像も送りますね」

自分の領分であるから、と線引きされた寿は静かに頷く。必要があれば何でも使う性質に見える男が、いらないと言うならそうなのだろう。氷月の言うように、寿には主動ができない領域。妹になにかしてやりたい、という自己満足を向けても無為だ。
…物分かりよく、便利に扱えると思われるならそれでいい。人間味が薄く真意の読み解けない、けれど妹との関わりの頼みの綱である男の背を見ながら、

「ああ。またな」

くるりから向けられた言葉に、くるりの耳には届かなくとも寿はそう返した。
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戀ヶ仲・くるり 11月13日01時
日本の年間行方不明者数、約8〜9万人。半分は翌日には見つかり──1ヶ月経過すれば、発見率は1割を切る。
|亡くなってる《lost》かもしれません…そんな言葉も囁かれる中、|迷子になった《lost》のだと分かるだけで、救いがある。
…戻ってくると思えるのなら、尚更に。

本当に欲しいものは未だ遠く、手に入るかも分からないけれど、一足飛びなんか早々出来ないから。
一歩。また一歩。
確かな一歩を踏み締めて。

【このおはなしは、これでおしまい】
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