【ノベル企画】投映
●曰く、その鏡面に映るのは己自身であるという。
自らの心の最も奥深くに沈めた泥濘、誰の目にも隠しておきたい暗闇、我が目で直視することさえ耐えられぬもの――。
恐怖と名付けられた根源が、好奇心に身を委ねた者の前、物言わぬ冷たい銀の湖面に広がっていく。
「そういう都市伝説ですわ。でもこの世界での都市伝説がどういう意味を持つものなのかは、貴方もご存知よね」
貴方の眼前で、女は手中の箱を一瞥する。
上等な桐箱である。女に曰く、本題は中に入った何の変哲もない鏡であるという。頻回にライブラリに顔を出しているうち、機関を経由して同胞らに処理を手伝って欲しいとの依頼を受けた――と語った燃えるような双眸は、箱を開いて貴方へ傾ける。
何らの変哲もない手鏡に、厳重に布が巻きつけてあるのが見えることだろう。
「怖いものが映るんですって。それが沢山出回るとなれば困るでしょう。機関は製造者を追ってるみたいですけれど、組織的な動きなら相手もそのくらいは警戒してるでしょうし、結果が出るのはいつになるやら」
その前に都市伝説そのものが廃れれば良いけどね――ぼやくような口ぶりで息を零した星詠みが、再び前に立つ人影へ笑いかける。
「それで、その対症療法への協力をお願いしたいのですわ。さっきは|怖いものが映る《・・・・・・・》なんて簡便な説明で済ませましたけれど、これって結構厄介な代物みたいなの」
即ち心の奥底を覗く行為である。
それだけであればまだしも、まるで|光景の中に閉じ込められる《・・・・・・・・・・・・》ような錯覚を引き起こす。ただでさえ迫る黄昏の絶対的な気配から目を逸らして生きている|√汎神解剖機関《このせかい》の人間たちにとっては劇薬のようなものだ。
いつ終わるとも知れない、自らの心にある悍ましき泥濘の中に沈み続ける。しかし救いといえば、都市伝説の最後に付け加えられた一文だ。
曰く――最後まで耐え忍べば鏡は割れる。
「少なくともこちらが目を逸らさない限り徐々に力を失うのは事実みたいね。つまりこれが割れるまで酸鼻な光景の中を彷徨うことに耐えるか――力の消費を速めるために、何らかの形で干渉するのも有効かも分かりませんわ。結末は変わりませんでしょうけれど」
――覚悟があればお一つ持って行って。
さも余裕ありげに告げる女の仕草に疑問を持つ者もあったかもしれない。覗いたのか、と貴方が問うたなら、女はすぐにも心外そうに眼を見開いて、大きく首を横に振るに違いない。
「私は試してませんわ。怖いのは嫌いなの! ……ああ、でも真実しか述べておりませんから、そこは安心なさって。兄に覗かせたときの証言を元にしてますのよ」
足許に置いてあったもう一つの箱を開いた女は、粉々に割れた鏡を見せて、何故だか誇らしげな顔をしただろう。
アルティア・パンドルフィーニ 10月30日19時【企画概要】
・「あなたが一番怖いと思うもの」を主題にしたノベル企画です
・心情系
・完全お任せ×
・個人リクエストのみ、★2~
リクエスト文に【投映】と『あなたが怖いと思うものの概要』を明記のうえ、それに対する反応や心情を『プレイング形式』でご記入ください。
字数が余った場合は『PC様の設定』について沢山ご記入いただけると幸いです。たくさん教えて頂ければ頂けるほど捗ります!
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