|古霊《せいれい》達に関して
古霊。多くの場合経年劣化により摩耗し、消滅する寸前の霊達が維月の災厄としての性質に引き寄せられ、混ざり合い再構築される事でその存在を継続させれる程度に安定化させた存在。
維月の存在ありきで消滅を免かれているのだから当たり前ではあるが、基本的に維月に友好的で大抵の指示は聞く。が、逆に言うと『絶対服従』ではない。寧ろ数多の霊が混ざり合って自我が曖昧となっている事と、そして宿主に近い立場の維月が『ストレス要素の無い存在』を常に必要としている事の影響により、その人格は円転自在かつ自由闊達……もっと端的に言うと小動物や幼児の如き好き勝手振りであり、使役存在としての性能は不安定極まるものとなる為、どうしても評価としては一段階下がる。
『しんじるものはすくわれますな』
『あしもとを?』
『いいえあくをです。おたまをつかってきように』
『そしてざつみがなくなりあじがまろやかになります』
『ちょうりじっしゅうのおしえですな』
ただ、彼等の曖昧な自我はランダムにその状態に濃淡を生じさせる。
悪く言えば全く話にならない程言動全てが意味不明な個体も居る反面、良く言えばある程度以上の理性を持った個体も存在し得ると言う事だ。勿論、その何方も刻一刻と再融合再分裂を繰り返して状態の濃淡を変え続けるのだが。
『なんでもいうことをきいてくれるのはきくだけのことがおおいのです』
『きくときくのちがいがわかるひとこそごーるどぶれんど』
『きかずともきてくれるひとこそがもっともとうといですが』
『それはだめにんげんせいぞうきでもありますよ』
『そういうひともいます』
比較的理性的な個体は、維月にそれなり以上に役立つ助言や警告を行う事もある。
上述の通り、摩耗している状態が前提の彼等の『前身』は必然的に古くから長く存在している事が多く、整然とした理性さえ機能していればそれなりの知識や知見を生じえるのだ。
『みんなだいすきはみんなどうでもいい』
『みんなだいきらいもみんなどうでもいい』
『いろさのないいっしゅぞくずりは、しろもくろもいっしょです』
『なにもないということですな』
『ぜんぶいらないとうことともいえます。いつきはそうならないように』
だからだろうか、そう言う個体は寧ろ維月に辛辣な事を言う事が度々ある。
それが、彼女に必要な事だと判断しているのだ。
優しく接するだけが相手の為とは限らない事を、その年の功と集合知で知って居るからだ。
『あのこはだれにたいしてもこういてきです』
『でもそれは、ひかくのまじっくでしかないのです。よくみればわかります』
『けど、わかってもいわないであげてほしいですな』
『あのこがいちばんそれがだめだってわかっているので』
『わかっていても、かんじょうはどうしようもない』
時に、維月以外の第三者に話しかける事すらある。非常に稀有な例だが。
融合と分裂を繰り返しその総数すら不定の彼等はけれど、その記憶を群体全体で共有している。ただ、その人格と知性レベルが常時変動しているだけで。それは言って見ればサイコロで出た目で状態が全然違う時間軸になるチャーリイ・ゴードンの様なものだ。
『みーむにたよるのはじぶんでかんがえるちからがないからですか?』
『それはぼうろんでは?』
『そもそもみーむはでんぱしひろがるみんなのちえです』
『そのみんなにはじぶんもはいってるのですから、つかうのはけんりかも』
『じゃすらっくにそうだんですか』
だから知識は古い物も新しい物も入り混じる。少数ながら経年劣化以外の理由で摩耗した霊もが混ざっている事もあり、近年のサブカルチャーの中でも宿主である維月が知らない作品のジョークを飛ばす事すらある程だ。
そして、古霊として何時も傍にいる維月の事は、実の所誰よりもよく知っている。
『せいれいさんのえむわんぐらんぷりかいさいです!』
『いえーい!』
『せいれいさんのえむわんぐらんぷりへいかいです!!』
『いえーーーーーい!!』
『さいそくさいたんできょむをせいせいするな』
だからこそ彼等は維月に気安く、維月は彼等に素っ気ない。
長年同居している姉妹や兄弟の様に、遠慮と言うものがとっくのとうに売り切れで、相互理解は概ね完成し切っているから。それはその立場上様々な物を内心の押し込めている維月に取ってある種の救いであり。多少の安らぎでもあり。この上なくストレスレスな存在でもあり。
『いつき、さっきのあのかおはげんてんです。わらってなくて、わらってました』
『かんじょうはどうしようもなくても、それをあのこにみせちゃだめです』
『すぐにとりつくろったせいで、ぎゃくにきのせいじゃないときづかれたかも』
『うかつです』
『あやまるくらいならむしろちゃんとはなすべきでは?』
そして最も身近な糾弾者でもある。弾劾者でもある。警告者でもあるし、何よりも裁定者でもある。
それもこれも、宿主である維月に必要な事であるという側面は勿論あるが。それもこれも、宿主である維月が望んでいる事であると言う側面もある事が、リスクでもある。
とは言え。
『どうしておかしをたべるのか。そこにおかしがあるからさ』
『なんですかそのそうびは、やまをなめるな!』
『あまくてたべれるそうびです』
『ゆるす』
『ほう、あまくてたべれるそうびですか。たいしたものですね』
繰り返せばその言動の8割は寝言であり、残り2割のウェイトが重いとは決して言えないのだが。
基本的に彼等はマイペースで身勝手極まる幼いエゴイズムの塊で。そんな彼らが何故不完全にとは言え維月に使役されているのかと言えば、自分達の存在を維持する為の宿主として必要だからと言う至極利己的な理由であり。
『らきゃすぱろられら』
『ろれりらーるらとれととと』
『ぱっきゃらまーどぱっきゃらまーどぱおぱおぱ』
『でもね。ないてないのにないているあのこをほうっておけないていどには』
『わたしたちもいがいとまだ、かすれきってはいないんですよ』
「あー! 古霊さん達また勝手にクッキー缶開けましたね!?」
『ばれたー!』
『ばかなこのかんぺきなはんざいけいかくが!』
『けいかくにはあながあくものだよわとそんくん!』
「許すまじ! 英語で言うとノット許さん!! 今こそかの大発明お仕置きメカの出番!!」
『ききずてならんことをいっている!』
『だいはつめいってあのなつやすみのこうさくもどきのことですか』
『あのそだいごみすれすれのしろものをめかといってのけるくそどきょうはみとめます』
「キシャー!!!」
『やっべ』
『ぎゃあ、いらんことをいってほんきでおこらせたやつはだれですか!?』
『『おまえや』』
どっとはらい。