花時雨

🌸或る少女の日々

憶那・ひとや 3月26日15時

 妖たちの世界のとある森。
 一年中、櫻咲き誇る森の中。

 その森の奥、ひときわりっぱな『夢一夜』の名を冠したその櫻の樹の根元には、
 少女の死体が埋められているのだという。
 それは、どうして、も、なぜ、も届かないほどのむかしの出来事。


 ただの白く朱く染まったなきがらを、『夢一夜』は憐れんだ。
 誰からも忘れ去られ、夢の世界の端にその存在を残すだけの少女。
 たださみしげにぼんやりと、子守唄を口遊むだけの少女。

 さて。
 憐れんだ『夢一夜』は、彼女から過去を奪い去り、その存在だけを汲み取り――
 |楽園《EDEN》へと放り出した。

 体を失い、けれども新しい|じぶん《自我》を手に入れた亡骸の少女は、
 夢と現を行き来しながらも、
 『幽霊』を名乗り今日もうつしよを彷徨い歩く。


 「どうか、わすれないで、おぼえていて」
     「わたしが、ここにいたことを――」