Waldkirche

庭園 - 1 ✴ 1:1

ヨシュア・ヴァルトシュタイン 5月4日10時

 この教会って、本当は敷地面積が広いんだ。
 おれが戻って来たときには殆ど森の一部になってて、森と敷地を仕切る高い塀にも苔が生えて蔦が巻き付いてるから、客人は実質大聖堂しかないもんだと思ってるってだけ。
 有名な大教会ほどじゃないけど、教会前には客人が歩けるような小さい庭園があった。花壇はとっくにどこにあったのかも分かんないようなありさまで、ただでさえ奥の庭園墓地の方の手入れで手いっぱいのおれ一人じゃ当然手が回らない。

 で。
 それを何とかしようって思い立ったのが一週間前くらい。一人じゃ無理だって挫折して、何とかして教会の改築手伝ってくれたあんたと連絡取れたのがちょっと前。
 予定した来訪日が、今日ってわけだ。

※どことも知れぬ√、朽ちた教会
※お招きした方と
ヨシュア・ヴァルトシュタイン 5月4日11時
そうなんだ? 得意なのな。そしたら、これからも時間あるときは頼むかも。
(畑仕事の心得はある。修道院は閉じた空間だ。街に出るのは修道院内じゃ賄えない物資を買ったり、祝祭日の準備をするときだけ。ただ、おれ一人で出来ることには限度があって……)
(おれには読み取れないものを読み取るみたいな|恰好《カッコ》を横目に、庭園中を走り回る風切り音を聞いた。多分配慮してくれてるんだろう。助かる。どうもああいうのを直視するのは苦手だ)

そういうのも分かるんだ。便利だね……確かに花の手入れとかは向いてそうだ。
今からじゃ間に合わないけど、秋にはシャクヤクも植えたいな。この時期の祝祭日にはシャクヤクがないと物足りないし。
(土に触れる。手袋越しだと感覚は伝わり辛い。いつだか土まみれになって遊んで司祭にこっぴどく叱られたのを思い出して、小さく息が漏れた)
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ヨシュア・ヴァルトシュタイン 5月4日11時
植えちゃいけない花とかあるの……? この世のものじゃないとかじゃないよな??
(じゃなきゃ周りの栄養全部引っ張っちまうとか? いや、それは雑草も一緒か)
(あんたの言葉に、今度はこっちがちょっと考えた――)

(……高い背を見上げる。まあ、良いか。あんたは多分、気にしないとかじゃなくて、|分からない《・・・・・》に近い気がするから)

こっち。一回大聖堂の中通らないとなんなくて、手間で悪いんだけど、奥に修道院があって……そこの物置に色々入ってるんだ。案内するよ。
(踵を返して大聖堂の鍵を開く。奥におれの意志で他人を通すのは初めてだ――誰にも入って欲しくないと思ってたから)(最奥の扉の前に立って、)
ここ出て左側に十字架――教会の屋根にあった十字の形がいっぱい立ってる。それはあんまり触らないで欲しい。
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黑・宵刃 5月4日12時
|好的!我很樂意《はい!よろこんで》。
|本業《しごと》がない時は、いつでもお手伝いしますとも!
(尻尾を振っている。犬は、ひとから仕事を与えられることが好きだ。特に、この犬は働き者だった――ひとに依存する度合いが強く、なにも仕事が与えられないほうが不安になる。あなたという友人が頼ってくれるなら、犬の頭にやるべきことが満ちる。退屈と、行く当てのない活力からの焦りが、あまりにも苦手だった。)

芍薬!我が家にもたくさんあります。白芍が多いですが、よく姉らの薬に混ぜているのです。もし必要なら、分けてもらいますよ。
(立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。お前には無縁だろうが、覚えておけと、十人いる兄のうち、薬師の一人がよく言っていた。特に苛立ちやすい主に、芍薬の根を煎じた薬を何度か飲ませたことがある。)
(犬はぴんと耳を立てて、あなたが土を触る様を見ていた。)
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黑・宵刃 5月4日12時
桃です。
(回答は至って現実的である。)
あれは良い香りがしますし、実の量も多くて好きなのですが――如何せん、ほかの花と樹を食う虫を多く呼ぶし、病にかかりやすい。薔薇も植えるなら、より大変でしょう。
(それから、自分の口を舐めてみせる。)
あまり良い逸話も聞かない、――迷信とはいえ、友人にはどうもお奨めし辛いのです。
(ですので、遠慮させていただきます。と)
(そう言い切れないのは、犬の性だ。あなたがそれでも植えたいのいうのなら、犬に選択肢はない。ただ、不吉なものを友人のそばに置かないほうがいいと判断しただけだ。)

(長身は、あなたに着いていく。わずかな緊張の香りを嗅いで、自分より低い背を見ていた。)
明白了。
(あなたが触るなと言えば、触らない。それが何か、犬は知らない。)
(感じていることといえば、――埃っぽいな、ということくらいだ。)
荷は、お持ちしますよ。
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ヨシュア・ヴァルトシュタイン 5月4日12時
(嬉しそうなあんたに、それなら色々頼んでも良いか――と思った。犬にも色々個人差……個体差? はあるんだろうけど、働くのが楽しいなら、そうしてもらう方が良いだろ。お互いに)

そうなんだ――姉ら……っていうと、宵刃サンちって大所帯? シュトレン一つで足りた……?
シャクヤクは……貰えるんなら嬉しいな。今月の末あたりに祝祭日があってさ、飾れたらいいなと思ってて。
(大聖堂に入る前には土を落とした。ここにはそういう体の汚れを持ち込みたくない。客人はどんなでも受け入れるけど、少なくともおれは)(回答にあんたを一瞥した。意外だ)
桃ってそんな……不吉な樹なんだ? |南ドイツ《このへん》じゃよく見る果樹だけど……。
宵刃サンが手入れに来てくれるなら、奥の果樹園も整えても良いかもな。いっぱい植えてあるからさ、桃。樹がまだ生きてれば……だけど。
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ヨシュア・ヴァルトシュタイン 5月4日12時
ありがと。
(端的な返事と一緒に扉を開ける。大聖堂以外に鍵は掛けてない。開いた先の回廊と、その横に広がる庭園墓地は、外の庭園と比べて丁寧に整えられてる印象かもな。こっちは季節の花も植え替えてる。幾つあるのか分からない十字架は、まだ大きくなかったおれがヴァルトシュラートの手を借りて立てたせいで刺さりが甘い。幾らか斜めになってるのもあった。後で直さないと……)
(おれらの目的地は、そう長くない回廊の先に聳える建物だ。修道院――おれの、生まれてから今までの、変わらない棲家。昔は賑やかだったけど……今はおれ以外に誰もいないから、静かなもんだ)

入ってすぐ右の扉が物置になってる。修道院の中は掃除してるんだけどさ、物置はあんまり開けないからめちゃくちゃ埃が凄いと思うし、気を付けて。
(それは言っておかないと。犬だっていうなら鼻は大事なんだろうし)
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黑・宵刃 5月4日12時
はい。姉は十一人、兄は十人おります。
(小狗と呼ばれる、家族になれなかった出来損ないたちも含めたら――もっといる、が。この犬が家族と認識しているのは、この二十一人のみである。)

尤も、皆もう家を出ておりますから。普段は、長兄と二番目の姉がいて、私もたまに帰るくらいですよ。
――噫!そうでした、長兄がたいそう、ヨシュアさんからのお土産を喜んでおられました。|こちら《・・・》では中々買いに行く機会がないそうで!
(このところ立て続けに、犬の周りが変わるようなことがあったから、つい記憶の隅になってしまっていた――どうしても、良い記憶より悪い記憶のほうが残りやすいのは、生きるための学習力が齎す災難でもある。)

ヨシュアさんになら、兄も喜んで芍薬を渡すでしょう。 
(|あの兄《守銭奴》である。恩義も何もない相手に花を分けるのは顔を顰めそうだが、おそらくこの友人にと添えれば、機嫌を損ねないだろうと考えた。)
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黑・宵刃 5月4日12時
哎,――本当ですか!?
(思わず、鼻に集中する。嗅ぎ分ける香りの種類に、)知らない品種だからでしょうか、感じ取れませんでした。

(犬は瞬く。世界が違うから、そして国も違うから――犬の知る、不老長寿の象徴である甘い果実は、ずいぶん香りまで変えてしまったようだった。)
い、いっぱい!?哎呀,すごいですね……生きているといいのですが。
(そういいながら、枯葉を踏みつつ、あなたのあとにつづく。)
(扉が開かれた。犬はすこし、眼を細める。斜めになっている十字架が気にはなったが、触れるなと言われたから注意から逸れた。庭園墓地を横目に、あなたの香りが強まっていく場所に進む。様々な感情が嗅ぎ取れたが、犬の知らないものばかりだった。)

好的。
(黒い毛並みに、埃は目立つ。少し体をぶるぶるとさせてから、鼻を手で覆った。あなたの推察通り、鼻が大事だからだ。指示通りに歩み、資材を探すだろう。――時折、クシャミをさせながら)
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ヨシュア・ヴァルトシュタイン 5月4日13時
そんなに……!? 全員血が繋がってるんだよね。凄い大家族じゃん……。
(ヒトってそんなに沢山子供が産めるんだっけ? 街のヒトたちは、多くて十人とかだった気がするんだけど――)
あ、それなら良かった。そんなに喜んでもらえたんなら出して来た甲斐あるよ。
この前トモダチからもらったお菓子もあるからさ、今日はそっちと併せて幾つか持って帰ってもらえたら。今日のお礼と、シャクヤクの前金も兼ねてってことで。
宵刃サンとこは……中国語圏? なんだよね。だとしたら確かに、あんまり西洋のものは買いに来らんないかもな。
(相手の母語が分かる。訛り方も含めて|西洋《このへん》なら訛りの感覚とかから地方も多少は推定出来るけど、生憎おれがあんまり東洋に詳しくないから、正確にどこ、とまでは分かってない)
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ヨシュア・ヴァルトシュタイン 5月4日13時
教会、っつーか修道院で暮らすのは、まあ……東洋で言うと、修行? みたいなもんで。生活は基本自活でさ。畑とか|薬草《ハーブ》園とか、果樹園とか、色々あるよ。今はおれしかいないから放置だけどね。
良ければ後で見て来て。向こうは好きにしてくれて良いから。ここまで入れちまったし
(庭園墓地とは逆、右手側に続く荒れた道を指す。ハーブの中にはやたらめったら強い種類があるから、薬草園がどうなってるか考えたくないな……)

(修道院の中にヒト――の形をしたものが入るのは久し振りだ。ちょっと懐かしくもある。確か煉瓦は一番奥だったはず。指示を飛ばす合間にくしゃみが聞こえるのがちょっと申し訳ないな、後で掃除しよう……)
ありがと。久々だよ、こうやってヒト……ヒト? と教会のことやるの。全部運んでもらっちゃって大丈夫? ヴァルトシュラート呼ぼうか。
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黑・宵刃 5月4日13時
はい!
(――家族の話をするとき、犬は嬉しそうに見えるだろう。その家族に、自分が含まれているような文言であれば、なおさら。)

わが一族は都市部と呼ばれるところに在るのですが、兄さまは家業に忙しく、急務以外で家を離れることができませんし、何せ家も市街地から離れた山にあります。一緒にお住まいの姉さまは生まれつき目が見えません。ですので、私がいるときは御使いに出ることもありますが、……ヨシュアさんのご推察通り、西洋菓子は貴重なものですね。
(この友人が訪れたら、兄はとても喜ぶだろうと思ったが――あまり誘う気になれないのは、あなたが|怖がる《・・・》だろうと思ったからだ。)
(しかし、きっとあなたと兄はうまく話せそうなのに。)

谢谢,兄さまも喜びます。 
(|伝達係《メッセンジャー》として機能するほかない。犬は、しかりと頷いた。あの後、兄は時折「あの茶菓子はないのか」と姉に問うているのだから。)
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黑・宵刃 5月4日13時
哦,なるほど、僧に似ていますね。
(――この犬の知る僧となると、寺院に属する集団で、皆武力に傾いているが。そういえば彼らも集団で生きている気がするのだ。犬からすればさっぱりわからぬ耳障りな経を繰り返し唱える姿らを、よく覚えている。)
(あなたが示したところを、好きにしていいと聞いてゆるくしっぽを振った。楽しそうだったからだ。遊んでいい場所は、広ければ広いほどいい。)

(一番奥までたどり着いて、目当てのものにしか触れない。人間の手が二本しかないのが、いつも不便に感じていた。重さは苦でない。この犬は怪力だ。ただ、獣の腕を生やしてもいいが、あなたが怯えてしまうのを避けている。)
ッ、(くしゃみを我慢できない。とりあえず、両腕に乗せれるだけ乗せて、のそのそと帰ってくるだろう――)はい、どうにか……ヴァルト……?(発音し辛そうにして、)この教会に、まだ|誰か《・・》?
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ヨシュア・ヴァルトシュタイン 5月4日13時
結構大変なとこに住んでるんだな。そんな|僻地《とこ》で目が見えないのって、大丈夫なの、姉上ってヒト?
兄上が御忙しいなら補助とかもしてらんないだろうし~……生活してるんだから大丈夫なんだろうけど……ちょっと想像つかないな。
(凄く嬉しそうだ。きっと家族のことが大好きなんだろうな、と思う。良いことだ。おれには血縁と、それに保証されるらしい絆の濃さの意義は分かんないけど――一緒に暮らしてる誰かを大切に想う気持ちくらいは分かる)

どーも。本当は合う紅茶なんかも持たせたいとこだけど、好みがあるし……多分、そっちって西洋の紅茶は飲み慣れないよな。何だっけ――烏龍茶、とか、チャイとか? なんだろ?
(逆に東洋のお茶は全然知らない。今度試してみるのも良いかもしれないな、淹れ方分かんないけど……)
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ヨシュア・ヴァルトシュタイン 5月4日13時
ああ、まあ、そうだな。めちゃくちゃ大雑把に言うなら似たようなもんかも。
やってることは同じようなもんだよ。ここで主に一生を捧げるんだ。俗世と切り離されて祈って働いて、奉仕する。一緒にしたら色々怒られるだろうけど……。
(おれは悪魔だから良いんだよ、そういう物言いしたって。どうせ変えられないことは都合良く使っていかないと)
(大変そうなあんたにちょっと手を差し伸べようとして、おれが支えても共倒れになるなってことに気が付いて半端に引っ込めた。横の――修道院の外を一瞥する)
そう、ヴァルトシュラート。誰かってわけじゃないよ。護霊……って言っても分かんないかな、昔の友達なんだ。おれと一緒にいてくれる、竜の仔で――力仕事はお願いしてる。
ヴァルトシュラート。ちょっと出て来て、大きくなりすぎないでね。
(一メートルばっかりの羽毛の生えた爬虫類が、影の中から出て来る。煉瓦を引き取ろうと手を伸ばすだろう)
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黑・宵刃 5月4日14時
御姿を見せたほうが早いかと。
(胸ポケットを探る。手にしたのは、何度も壊したことがある記憶媒体だ。いつもは日記代わりの音声記録にしか使わないが――家族が集まる旧正月には、大所帯な写真を撮る。そのデータを常に持ち歩いていた。ボタンを押せば、ARの仮想画面が起動する。この世界とはすこしずれた時刻と、家族写真が表示される。全員、口輪を付けていて――この犬以外、みな犬の貌だ。)
(中でも、この犬のいう姉は目立つだろう。一人だけ、顔に布をかけている。)

私よりも鼻がきいて、耳が利くので、生活には困っておられません。元から、私たちはあまり目に頼っていませんから。
(明らかにいびつな命たちの集まりなのは、写真の姿を見ればわかるだろう。誰もが『余って』、『足らない』。――この犬が一番『そう』だ。しかし、語る姿は、主にも見せたことがないくらい、慈愛に満ちていただろう。)
(――純なる執着に見えるかは、あなた次第だ。)
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黑・宵刃 5月4日14時
兄さまは少し味にこだわりがあられるので、……ただ、物珍しいものは何でも口にされるかと思いますよ。
今度、芍薬とご一緒にこちらの茶もお持ちしましょう!
(烏龍茶は、食事中に呑むものです――と付け足して。家族のことを思い浮かべている時、犬は幸せだった。)

一生を。
(それは、なんと、)
(幸福なことだろうか。)
(――犬が心から望んでいることだ。主に、一生を捧げること。その生涯をともにして、どんな苦難も恐れも乗り越え、病める時も、健やかなるときも、ともに在ることだけを望んできた。家族にも、主にも、――だというのに、)
(生まれる場所を間違えた、と言われたように)
(かなわないことでもあった。)

(素敵ですね、とも言えずに。ただ、つま先を見ていただろう。言葉は飲み込んでしまっていた。)
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黑・宵刃 5月4日14時
(あなたが視線をそらした隙に、傾きかけた煉瓦を整える。すぐ、悍ましい獣の腕は体に引っ込んでいった。)
ご友人――哎呀,(また竜だ。と言いかけたのを)|初次见面,请多关照!《はじめまして、どうぞよろしく》
(挨拶で上書きした。とんと元の世界では触れてこなかった類の生き物に、最近は縁がある。少しばかり緊張して、自分の口を舐めた。爬虫類の手に、煉瓦をおそるおそる渡そうとする。)

ずいぶんご立派なお友達だ。もっと大きくなるのですか、彼は。
(それから、積み荷を載せた両腕とともに出てきた。ぐらつくこともなく、安定している。――あなたに見えないよう、指先からじわりと、染みるように『腕』が通っているから、だが。)
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ヨシュア・ヴァルトシュタイン 5月4日14時
――……。
(声が出なかったのは)(おれがすっかり、あんたの家族はあんたと似たような見た目なんだと思ってたから。外の√の、おれの知らない技術で構成された写真には、おれの知らない形をした……歪な|ヒトと犬の中間《ライカンスロープ》みたいな姿が並んでた)
(如月サンの言った意味がようやく理解出来た。「ワンちゃんですよ」って)(あんたのいう家族の方が|正しい《・・・》んだとしたら、おれの目にはこの家族写真の中で一番|正しい《・・・》形に近いように見えるあんたの|格好《カッコ》が、一番――)

……確かにみんな鼻が良さそう。みんなあんまり目が見えないなら、盲目でもそこまで大変ってわけでもないか。
ちょっと親近感あるな。おれもあんまり目利かないんだよね……。
(あんたの慈愛の表情はヒトに似てる。ちょうど、主に祈りを捧げるときに盗み見た、シスターとカタリナねえ様の横顔みたいだった)
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ヨシュア・ヴァルトシュタイン 5月4日14時
あー。こんなに大家族の兄上なら、そりゃ良いもの食べてるよな。下手にクセある稀少茶葉よりはアッサムとかのが良いか。なら包むよ。
宵刃サンの飲み慣れてるお茶も楽しみにしてる。たまには気分変えるのも悪くないよね。
(写真から視線を上げた。見てようやく分かったよ、あんた犬だ。如月サンの言う通り、ヒトの形しただけの――)(迷いが振っ切れた。元からおれにとって重要なのはカタチよりも中身の在り方だ。大抵の生き物は、カタチと中身が同じだから悩んでたってだけでさ)

まあこの通り、おれは悪魔になっちまったからね。もう修道士じゃないけど。
(資格がないって方が正しいか。おれ自身は、そうなってまでも|信徒《"Brother"》でいることに縋ってるんだから)
(動揺の罅。こじ開ければ中から何が出て来るか分かんないから、手は出さないけど――)
……どうしたの。何かあった?
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ヨシュア・ヴァルトシュタイン 5月4日14時
(唇を舐めるのは、確かカーミングシグナル。緊張してる? そりゃ見慣れないか。|彼《・》って言われて、煉瓦を受け取ったヴァルトシュラートが何でかちょっと不服そうに尻尾を揺らしたのが見えた)

うん。戦うときとかはおれの……何倍になるんだろ。元々凄く大きいんだ。今は小さい|格好《カッコ》になってもらってるって感じかな、教会に入れなくなっちまうからさ。
(今は超音波を使ってない。あんたの形が変わってるのには露ほども気付かないまんま、あんたの様子を窺いながら、先んじて大聖堂に戻る黒い爬虫類の影を追った)
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黑・宵刃 5月4日14時
(あなたに家族写真を見せてから、記憶媒体をしまう。)
この、(自分の瞳を示すように指を振った。)赤はどうも、頼りにならないようで。

(赤い瞳は、とくに日光にあまり適さない。夜の暗闇で敵を狩るのには適しているが、どうも姿かたちをとらえる機能は人間のそれより劣っていた。どうみても人の身体なのに、中身が犬であるせいで――追いついていない部分も否定はできないが、犬にそれを説明する知識がない。)

そうなのですか。てっきり、見て楽しむからだと思っていましたが――花壇は何か別の理由で修繕を?
(――だいたい、こういうのは景観を楽しみたいからではないのか。)
(犬がたずねたのは目的だ。あなたの意図を蔑ろにした修繕をするのは、犬の望むところでない。香りを楽しみたいのか、それとも、誰かに見せたいのか。それだけで、花の置き方は変えよと何人もの主から聞いてきたことだ。)
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黑・宵刃 5月4日15時
啊,好的!助かります!
(あなたの理解に、――納得めいた香りは、安心に近い。親近感にも近い。悪いそれではない。犬は、柔らかく微笑んで見せた。)

悪魔。(わからない通称だ。魔というのだから、良くはないのだろう――犬が首を傾げたりしながら、あなたの言葉の意味を推察しているところだった。)

!……いえ、最近少し、身の回りでいろいろと。
あまり気のいい話ではありませんから。
(この犬は、あまり他人に自分の心情を話すのが得意ではない。少し耳が伏せられたのがわかっただろうか。それは緊張と、怯えに近い動きだった。すぐに耳は立ち上がるが、あなたから目をそらすのも早い。)
(話そうにも、――話す手段がないのだ。)
(だれも、この犬の心を聞いた事はない。犬自身ですら。)
(鏡に映った自分がまるで自分に見えないというのに、自分の心の裡など、話せるわけもない。)
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黑・宵刃 5月4日15時
(不服そうに揺れた尻尾を見送った。雌だったか――?と考えたものの、やはり嗅ぎなれない匂いだ。この前来た竜もまた、性別がわからないままである。)

それほど……兄さまよりも大きいだなんて。(この犬の兄は三メートルほどである。)
(では、この前退治した蛇ほどあるのだろうか。家ほどではないが高い天井を見やる。大聖堂までの道のりを歩きながら、物珍しく爬虫類の匂いを追っていた。学習している最中は、すっかり対象に執着している。)
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ヨシュア・ヴァルトシュタイン 5月4日15時
赤じゃ眩しいんじゃない? |天の光《たいよう》。この辺は樹が多いからマシかもだけど。
(本当は夜行性なんだろうか。って、その目がおれの|本当の《・・・》色と同じだからそう思うだけだ。そぶりは本当にヒトみたいなのにな)
(問い掛けは自然なものだって思った。細かい色がよく分からない、視力もそこまで良いとはいえないのに、わざわざ花壇を整備するために呼びつけるなんて妙だもんな)
ああ、トモダチがさ、花が好きだって聞いたから。よく来てくれる子だし、宵刃サンとか如月サンとかも含めて客人も増えたし、彩りはあっても良いのかもなって思って。
歓迎用って奴かな。だから宵刃サンも自由に植えて良いよ。
(何の種類が好きなのかは、そういえば訊いてないなって思った。一番に思い付くアスフォデル――は、この辺じゃ日照時間が足りない気もする)
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ヨシュア・ヴァルトシュタイン 5月4日15時
そ。悪魔……簡単に言うなら主にとっての敵だな。愛を裏切ったせいで見放されちまったんだよ、この教会ごと。
(するべき懺悔を隠して告解に背を向けて、信徒の顔をしてたせいだ――って、おれは思ってる。実際のところはどうなんだか知らないけど、それ以外に思い当たる節がない)
(明らかな動揺は分かりやすかった。きっと暴けばすぐに見えるんだろうそれを暴かなかったのも、結局はあんたの中身が怖かったのと――)(……暴かれてする懺悔に、何の意味もないことを知ってるからだ)
そう……? ま、頭が混乱するようなことってあるもんな。
そういうときは一人で静かに休んでんのも悪くないんじゃない? 疲れるとヘンなことばっか考えちまうしさ。時間が解決してくれる……ってのは楽天的すぎるかもだけど。
(――おれには、)(独りで考えてる時間しかなかった。だけど、何年も繰り返し独りで同じ懺悔をしてるうちに、ようやく呑み込めたのは本当だ)
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ヨシュア・ヴァルトシュタイン 5月4日15時
そういや写真の兄上めちゃくちゃ大きかったな……。
(あんたの二倍まではいかなかったけど。おれからしたら考えも吐かないような大きさだろ……羨ましいくらい背の高いあんたを見上げて、意気揚々と歩くヴァルトシュラートの方を見た。大聖堂を抜ける間際、)

「みんな」、埃拭いといて。
煉瓦ってこのまんま重ねるだけでも大丈夫なもん? 接着剤とか必要なら、後で買って来るけど……。
(下した命令に従って集まった眷属が、そこら辺のタオルを使っておれたちの足跡を拭うだろう)
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黑・宵刃 5月4日15時
嗯,そうですね、 少しだけ。
(犬が、他人に苦笑いめいたものを見せるのは初めてかもしれない。こんな|不満《・・》を言える相手というのが、犬にはいなかった。敬愛する家族たちに情けない言い分を聞かせるわけにもいかないし、主になった女たち、――稀に男たち――にも聞かせることはない。道具に意思があってはいけなかったからだ。しかし、あなたは犬を犬だとして接しているから、親しみのある隣人として、話をしている。)

ヨシュアさんはずいぶんお友達が多い。良い事です!
(尻尾を振る。あなたにとって幸福なことだろうと判断したのは、匂いを嗅いでいるから――かどうかは、犬しか知り得ない。ただ、無意識には違いなかった。)
そうですね、教会に彩りが増えれば、皆さんも訪れるたびに趣を感じることでしょう。それに、|また《・・》来たくなるでしょうから。

(あなたに『植えて良い』と言われてから、犬はすでに考え始めている。)
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黑・宵刃 5月4日15時
(薔薇のアーチを作ろうか、日焼けしてしまわないよう、花壇に日差しをつけようか。気候を考えれば問題ないか、――誰かのために尽くすことを考えている間、|無駄に大きな《・・・・・・》脳は、充分に働くことができていた。) 

愛を――そう、ですか。
(知らない言葉がたくさん出てくる。犬は、あなたが賢い人なのだと評価を新たにした。)
(愛とは何だろうか。文字が読めても、文字を書けても、本から学びを得たことがない犬には、情操が備わっていない。ただ、何度か主らから与えられた言葉に含まれていた気がするのである。)

愛を裏切ったら、見放されるのですね。
(裏切ることは、よくないことだ――では、)
(この犬が主らに向けていた感情は、愛だったのだろうか?愛であったから、貌を奪ったのだろうか。あの昂ぶりは、)
(――裏切られたことへの、?)

(少し考えすぎたのか、欠伸をしそうになって、噛み殺した。)
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黑・宵刃 5月4日15時
その、……考えるのがあまり、得意ではなくて。
(首を振る。拒否ではなく、違和感を話したいだけのようだった。まるで凝った首をほぐすような動きをしてから、あなたに自嘲めいた笑みを向けた。整った貌が、整いすぎた貌が、あからさまに弱りを見せる。)

言葉にも、ならないのです。知らないせいかもしれませんが。
(ただ主に命ぜられたこと、家族に命じられたことだけを吸収してきた。自立心はあるから、『しなくては』という義務感はあっても、自分のためになるようなことはしてこなかった生涯だ。犬は、ただ教えられた訓練をこなしているだけにすぎない。庭の修繕も、侵入者の撃退も、――すべて。)

(あなたの指示で、いろんなものが蠢いたのを見た。)
(タオルを動かす命たちが興味深い。犬は何度も首をかしげて、)……はい!接着剤なら持っています。(問いかけに応じて、おもむろに上着の留め具を緩めた。備品は、――体内にしまってある。)
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ヨシュア・ヴァルトシュタイン 5月4日16時
だよな。おれも分かるよ。本当は赤いからさ、目。
(瞬きの間に目の色を変える。十字の瞳孔、赤い眼差し――見えてるのかどうかは別として。ヒトには見せないけど動物は良いんだ。動物におれの権能は効かない。地獄にも連れて行けないし、契約だって勿論出来ないから。あんたがヒトのカタチしただけの犬だっていうなら、隠す必要はない)

そうだね。良いヒトばっかりだよ、色々助けてくれるしさ。宵刃サンみたいに。
(ほんの少し眦を緩めるくらいは出来たと思う。続ける声もごく自然に――)
季節が変われば咲いてる花も変わるだろうし……欲しければお土産に何本か切っても良いもんな。特に、花が好きだって子はよくお土産持って来てくれるから、お返しにでもなれば。
それで|また来たい《・・・・・》って思ってくれるんなら、――……。
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ヨシュア・ヴァルトシュタイン 5月4日16時
…………良いよな。
(呟くみたいに声の調子が萎れた。何のために「悪魔の棲む教会」なんて噂を流してんのか、おれが一番分かってるべきだろ!)
(おれは悪魔で、人心を惑わせる怪物なんだから、ヒトとは距離を置かなきゃいけない。その噂を跳ねのけて、でなきゃ面白半分でここまで来るような悪人以外が|また《・・》来ることを楽しみにするなんてのは、あるべきことじゃないってのに……最近、悪魔に怯まない|善人《ヒト》が増えてるせいか、昔みたいにいられるんじゃないかって錯覚することが増えちまった)
(はあ……全ッ然、上手く行かねえ……)
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ヨシュア・ヴァルトシュタイン 5月4日16時
大丈夫? 眠い?
(いや、犬の欠伸って眠いわけじゃないんだっけ。また本を読み返しておかないと)(って思ったのは、続く声で何となく理由を察して、半端に宙に浮いた)

そう――なんだ? 頭良さそうなのに。何でも覚えてるみたいだし。
(こんな風に何でも覚えてて、出来て……それで自分のことを考えないなんてこと、出来るんだろうか。そう思うのはおれに時間ばっかりあるせいかもしれないけど――)(いや、)(あんたが犬なら、教えられたものしか出来ないってこと?)

だけど、そんな顔しちまうんなら良いことじゃないよな。自分に向き合うのってヒトでも大変だから、どうのこうのって言える立場じゃないけどさ。
(ここからじゃ見えない、奥の修道院に目を遣った)
宵刃サン、本って好き? おれらは本を読んで、土を触って……自分と主のことを考えてたんだ。あんたに合ってる方法かは分かんないけど。

流石、用意良いじゃん。じゃあお願いしちゃって良い?
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黑・宵刃 5月4日17時
(あなたの目の色が物理的に変わったのを見て、)哇哦!(犬は驚いた。魔術でもなんでもなさそうなその所作に、だ。少なくとも|故郷《√仙術サイバー》で使われているような技術由来ではないだろう。だが、同時に心の距離が縮まるのも事実だ。尻尾を揺らし、興味深そうにしていた。)

(――尤も、あなたを|気に入る《・・・・》のは、別にある。)

(香りがした。)
(あなたから感じられるものだ。焦り、苛立ち、自責、それから、期待、渇望、欲、自制――何故こんなにもなじみ深く、味わいが濃く、それから、心地いい香りがするのかと犬が少し、間を開ける。)
(短期記憶が苦手だ。しかし、この匂いは覚えがある。何度も、うだるような熱を孕んだ、どうしようもなく汚らわしくも、いとおしい、そして、居心地のいい――|混沌《・・》とした、香り。) 

ヨシュアさん、主らと同じ香りがしますね。
(どこか、恍惚とした声色だったかもしれない。)
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黑・宵刃 5月4日17時
(あなたの問いには、素直に答えるのだった。)
いえ、緊張しているようです。
(隠しもしない。――この場では、誰もそれを責めないから。犬は、ただ真摯であった。)

(身体から取り出しているが、衣服からまるで手品のように取り出すように見えるだろう。ちょうどシャツの内側に縫い付けられた胸ポケットから手繰るように、だ。接着剤は、テクノロジーの恩恵を受けている。よく、主からの命令で拷問するときにも使っていた。用途通りに、修繕するときに使う時もあった。庭園は、すっかり枯れた木々と葉が|まるで《・・・》大風が訪れたかのように、綺麗さっぱり消えてしまっただろう。残るのは、まだ生きている土と、ささやかな緑くらいだろうか。)

そんなことはありませんよ。馬鹿なのだと、叱られてばかりです。兄にも、主にも。
(あなたは、気づいているかもしれないが、――)
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黑・宵刃 5月4日17時
(人間にとって「この犬は賢い」と判断される基準がある。)
(人間に都合がいいこと。人間の思い通りになること。人間の欲望を満たすこと。)
(学者たちは「賢さとは、それではない」と言うだろう。しかし、実際は――大きな脳を持つ生き物たちの奴隷を判断するのは、理性であろうか。いいや、感情である。)
(あなたの推理は正しい。この犬は賢い。|賢いから、足りない《・・・・・・・・・》。 )

本、ですか?
(欠けた煉瓦を軽く蹴り壊して、新しいそれを積む。ゲル状の接着剤を練って、噛み合わせる。この世界の気候ならば、耐久性に不足はないだろう。それを、花壇らしくするよう繰り返していた。)
嗯,……読んだことはありません。一人前になるまで、読むなと言われていたので!
ああ、でも今は、いいかもしれませんね。この前、兄さまに認めていただきましたから。
(ためらいなく、手袋を嵌めた手で土に触れて犬はほほ笑んだ。)
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ヨシュア・ヴァルトシュタイン 5月4日17時
御主人サマと……?
(瞬きを二つ、その頃にはいつもの色に戻ってたと思う)
(あんまり長く軛を緩めると良くない。ただでさえこの力、おれには制御出来ないことがあるから――だけど、今のはただ、驚いたからだ)
(犬って言うからには主人がいるんだろう。そうじゃなきゃ野犬ってことになっちまう。おれの知ってる野良犬は、こんな風にヒトに懐いたりしない。主ら、って言うからには複数いるってことか……までは推察した)(どんなヒトか分かんないし、あんたの声音に混じった妙な色の先にも想像が及ばない。中身を覗けないってこういうときに困るな、って、ちょっと思った)

……香水変えてないけどな。
(代謝のない体だ、体臭もない。|文化《マナー》としての香水は軽く使ってるけど――)
(あんたが何の香りを指したのか分からないから、首を傾げた)
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ヨシュア・ヴァルトシュタイン 5月4日18時
そっか? 疲れたんじゃないなら良いんだ。
(花壇だけじゃなくて庭園全部が整ってる……本当に一日も掛かんないんだ。外してたのだってそんなに長い時間じゃなかったのに。ちょっと目の前で見てたかったような気もする)
(あんたってどうやって物を収納してるんだろう。服の中から出て来た接着剤をまじまじ見上げた)

そうかなあ……こうやって見てると頭良さそうだけどね、手際良いし。
(司祭は教えてくださった。曰く「知恵とは主より賜る恩寵だが、知っているだけでは意味がない。その真意に沿い、実践することこそが真なる知恵である」。司祭の言う知恵と実践はもっと抽象的なものだったけど、実利の面でも同じだって、おれは思ってる)

本読んじゃ駄目なんて家あるんだ……けど、良かったじゃん。兄上に認めてもらえたんだ。
そしたら、奥の修道院、好きに入って良いよ。一番奥はおれの部屋だから駄目だけど、それ以外は。本は沢山あるからさ、読んで見たら?
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黑・宵刃 5月4日18時
ええ。
(接してきた香りのなかで、渦巻くそれは苛烈であった。だから、あなたのそれは穏やかで、――だからこそ、居心地良いのかもしれない。機嫌をよくしたのか、犬は満足気に呼吸をする。)
(犬は、あなたから詳細を聞かれない限り、主らのことは語らないだろう。記憶を掘り起こさなくてはいけないし、もう、誰が誰だったか覚えていない。すべて――|どうでもいい《・・・・・・》ものに成り下がってしまったことだけは確かだが。)

(揺れる尻尾は、穏やかだった。)
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黑・宵刃 5月4日18時
(身体に戻ってくる犬たちは、すべて透明だ。あなたに見えないよう、犬の背後から駆け上って首から侵入する。体積は変わらないが、僅かに首元に赤い眼の光が滲んだかもしれない。)

すぐ、覚えるのが苦手なもので。大抵のことは二度見れば覚えるのですが……それと、昂ぶりやすいようで、たまに――(話すかどうか、躊躇した。)仕事にも、差支えがあるのです。まだまだ未熟者ですよ。
(求められることを、すべてこなそうとする。犬は主に忠誠を契ったのならば、気が遠くなるようなことでも必ず成し遂げた。主が無理難題を言っても、執念深く追い続け、たとえ月を落としてこいと言われても、そうしてみせるだろう――実際は、主のほうが根を上げて命令を取り下げることもあるが。)
(そして、なにより|悪癖《・・》がある。犬は、それがいかに愚かな事か知っている。しかし、止められないものだった。) 

(修道院を見たまま、煉瓦を積む。)
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黑・宵刃 5月4日18時
よろしいのですか?
(それは、どこか。)
(純粋な好奇心といえば可愛らしいが、――どこか飢えた獣のような、瞳だったかもしれない。)

夢中になったら、帰れなくなってしまうかもしれません。ああ、今は、帰る家もないのです。
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ヨシュア・ヴァルトシュタイン 5月4日18時
(結局――よく分からなかった。御主人サマのことを訊いても良かったんだろうけど、あんまり訊くべきじゃないような気もして。犬のことはよく分からないけど、もしもおれにとっての|主《・》と似たようなものなら、訊いても意味ないからだ)(この世の善の全て。その思し召しこそが世界を作り上げる礎。あらゆる光、あらゆる叡智、絶対の愛――なんてさ。説明になってないだろ。だけど、それ以外に言いようもない)
(ただ、まあ、多分……悪いように思ってはいないんだろうって、それで充分だ)

二回で覚えられるなら充分すぎない? おれ料理で何回失敗したか分かんないよ。
(レシピだって何回も聞いて、ミスってミスってようやくだ。紅茶もそう。それからすれば凄いことだと思うけど――)
シゴトに支障あるってんなら、そういうとこは確かに治した方が良いんだろうけどさ……。
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ヨシュア・ヴァルトシュタイン 5月4日18時
いッ
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ヨシュア・ヴァルトシュタイン 5月4日18時
家ないってどういうことだよ……!? 帰っちゃ駄目なの? 御家族いるんだろ?
(あんたの獰猛な色よりも先にそっちの方に驚いた。だっているんだろ? 血の繋がった家族! おれみたいに孤独なわけでもないはずなのに、帰れないなんてことあって良いのか!?)
いるとこないなら修道院使ってて良いよ、どうせ広くて持て余してるんだし――本は、神学とか経典とか図鑑とか……だいぶ偏ってるから、役に立つかは分かんないけど。少なくとも言葉は沢山書いてあるし……。
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黑・宵刃 5月4日18時
哦?申し上げましたでしょう。我が家には、|兄と姉しか《・・・・・》住んでいないと。
ほか二十人の兄姉がそうしているように、私も|成犬《おとな》で、一人前ですから、あの家に入り浸ってはいけないのですよ。
(あなたが驚いたことに、犬も驚いた。耳を立て、尻尾も持ち上がるが、次第に下がっていく。)
――あくまで、あの家は兄さまのものですから。
今、仕事のない私がいてはただの穀潰しで……咦,良いのですか?
(あやうく煉瓦を落としそうになった。犬が素早くもう一度捕まえて、何度か叩くようにして押し込む。)

本が読めることも有難いのに、屋根までいただけるなんて!!
どうしましょう、御礼をお持ちします!直ぐに、兄さまから何か、いただいてこないと!着替えも!
(勢いよく、尾がぶんぶんと振られる。ぎりぎり音速になっていない程度だ。犬はあなたに心底感謝して、恭しく首を垂れた。それから、抱拳礼を組む。)

多谢了,朋友!
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ヨシュア・ヴァルトシュタイン 5月4日18時
親御さん厳しすぎない!? いや兄上と姉上が!?
(生まれてすぐに放り出されたらしいおれの言うことじゃないかもしれないけど! いや、犬だっていうならアリなのか!? 思わず全力でツッコミを入れちまった。おれは病弱でベッドから殆ど起き上がれないノアだって慈しむ存在って環境で育ってるから!)
(めちゃくちゃ尻尾が揺れてる。とんでもない速度だ。目では追えない、ギリギリ耳が風切り音で捉えられてるくらい)(あの尻尾で思いっきり張り倒されたら死ぬのかな……)

ま、まあ、そういうことなら……自由にして良いから。畑とかも……どうせおれ一人じゃ手も回んないしさ。鍵も、ノックしてくれれば眷属が開けるよ。おれは、いないことも(最近は)それなりにあるけど。
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ヨシュア・ヴァルトシュタイン 5月4日18時
あ、ああ、そんなに感謝されるようなことじゃ……いや、
(――教会の門戸は誰にでも開かれてあるべきで、修道士は奉仕者であるべきだ。傷痍軍人の世話を焼いたことだって何度もあるし、心身の弱った病人だって同じだった。何よりおれら自身が、この教会に拾われて救われた子たちばっかりだったから……行く宛のない誰かに宿を貸すのも、務めとして当然のことなんだ)(だけど)
(そうやって真面目に頭を下げて、感謝を示してくれるあんたには、)

――|どういたしまして《不客气》。
(だよな。中国語は難しいけど、ちゃんと発音出来た、はず)
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黑・宵刃 5月4日19時
縄張り争いを避けるためですよ!家族で殺し合いは良くないですから。
|成犬《おとな》の雄雌が己の領地にいるのを赦してくださるだけ、兄さまは寛大なのです! 
(犬等は社会的で、群れをつくり、序列を守る。たとえば長兄が長にふさわしくなければ、この犬もほかの兄姉も彼の首を取りに行くことはあれど、お互いに虐め合うようなことはない。たまに気性難の兄や姉が、この犬との接し方がわからずに攻撃することはあれど、彼らの中で家族の諍いというのは、不利益でしかないから止めるようにというのが長兄からの命令だった。)
(この犬の気性としても、争いというのは相手が誰であれ、避けたいのだ。――むろん、家への忠義から誤解を解こうとしているのだが。)
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黑・宵刃 5月4日19時
畑も……!嗯, 助かります!絶対にむやみに汚したり、壊したりしません!行儀よく住まわせていただきます!
(そう、何度も礼を告げる。あなたはなんていい人だろうか――この犬の謝意というのは深い。手ごろな穴蔵で寝るのは苦痛だった。そろそろ気温が暑くなって、身体だけは人間に近いものだから、寄生虫や湿気に耐えられない。ただでさえ、故郷は夏の気温が熱帯に近いから、どうしたものかと考えていたところであった。)

(あなたから、聞き馴染みのある音がして)
(思わず、驚いていただろう。それから、緊張が解けたように笑った。)

(まるで、ひとにほほ笑む犬のように。)
(。)
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ヨシュア・ヴァルトシュタイン 5月4日19時
(あんたに修道院の中を案内して、入っちゃいけないおれの部屋だけ教えておいた。それから司祭が書斎として使ってたところも。ベッドが沢山あるし、収納も小さいけどそれなりにあるから、自由に使ってくれれば良いってのも)
(ともあれヒト手――ヒトじゃないけど――が増えるのは大歓迎だ。犬だと思えばヒトの形をしててもそんなに違和感なくなったしね。暇なときは「みんな」と遊んでてよ)

(それから、おれはふと思い出した。ここにおれがいるかいないかを確認してるっていう如月サンに、一応あんたがここにいるってのを教えておいた方が良いんじゃないか、ってこと)
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ヨシュア・ヴァルトシュタイン 5月4日19時
(主はおれを見放し給うたし、きっと二度と顧みられることもないだろう。あんたは信徒じゃないから、書いてあることを完璧に理解するには信仰の下地が足りないだろう)
(まあ、ちょうど良いと思わない? 廃教会に棲みついた元修道士の悪魔と、大きくてヒトみたいな形の犬。アンバランスなくらいでさ)

(――その日から幾らかして、)(町に流れる噂が「悪魔の飼う魔犬」一色になってたことに気が付いて、おれは割と頭を抱えた)

(〆)
(。)
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