【ノベル企画】魂の不在証明
●巍碓ヶ嵜 観光ホテル岩にぶつかる波の音だけが、夜闇に響いている。
海岸沿いにぽつりと残る灰色の三階建ての建物に灯りは無い。色褪せた看板は錆びて傾き読むことは出来なかった。
壁を這う植物が、罅の隙間に入り込んでは芽吹き潮風に揺れている。硝子戸の向こう側に見えるロビーに敷かれた絨毯はかつて美しい色をしていたのだろう。けれど今は積った埃で彩度を落すだけ。誰も案内する必要のない非常灯も暗く沈黙したままだ。
埃っぽい屋内には忘れられた家具と、淀んだ空気が取り残されている。一階は従業員が使っていた部屋に調理場、誰かの残したメモは壁に留まったままどこに行けはしない。
階段に添えられた木製の手すりは留め具から腐っていた。それが階段を踏み鳴らす音も誰一人聞いてはいないのだろう。二階の客室の扉は、暗闇の中でうっすらと口を開いていた。どの部屋も同じ作りで、表面のささくれた畳が敷かれているだけだろう。端に寄せられたテーブルは時に膝を折り、時に壁に凭れ掛かり、各々が奇妙な個性を見せている。
そうして三階。同じように並ぶ扉達を横目に進む廊下の奥。襖があるのは宴会場の名残で、奇妙なのはその閉められた場所に張り付いた紙だ。封をするように貼り付けられているのに、無粋な誰かが無理にこじ開けて破れた小さな紙。細長くて、読めない文字がびっしりと綴られた紙。二枚、三枚と重ねたところで諦めたのか、新しいそれは今は無い。
指をかける。開く。
波の音がする。
割れた大きな窓で、千切れたカーテンがはためいている。外には海岸沿いの向こうの街の灯が、小さく輝いて見えた。空気の入れ替わった部屋は古いにおいと一緒に、今の時間を感じさせる。
踏み出せば古い畳が沈むような感触がした。視線を下ろす。他の部屋と同じような畳が敷き詰められているのは予想通りだ。
けれど数歩先。
部屋の真ん中で、何か黒い汚れが染みついている。
●合法肝試し
「そのホテルが廃業した理由は殺人事件があったからだ、という噂です」
√EDEN、日本海沿いの一箇所を指差してリトル・ハーモニア(sing・h08967)は告げる。
曰く、殺されたのは浮気をした男だとか、過度の付き纏いにあった女だとか、借金苦で無理心中を試みた親だとか。誰かが想像した悲劇の数だけ噂は広まって、すっかりその場にこびりついている。事件の真相など誰もがどうでもいいのだろう、ただ事実として廃ホテルがそこにあり、趣味の悪い噂が広がっているだけに過ぎないのだから。
「建物には自然の小動物が入り込んでいるようでしたが、危険なインビジブルも簒奪者の気配も見当たりませんでした。勿論そのような予知もありません。非常に安全な土地だと思われます」
紹介する星詠みもまた情緒はなかった。常の無表情を崩すことなく、ただ淡々と場所の説明だけをしている。命の奪い合いなどと比べれば、確かに他愛ない場所だろうか。
「ですがこの季節。肝試しなどと称して地域の不穏分子……不良達が勝手な出入りをするようなのです。こちらは治安において非常に困る話だそうですね。そこでどうか皆様のお力添え――見回りをしてきて頂きたいのです」
いっそ壊せよそんな場所。誰もの脳裏に過る疑問に、リトルは小さく首を横に振った。なんでも建物の所有者はかつてそこで今の奥方と出会ったという。どれほど寂れ、不要となっても大事なものは捨てにくいものだ。存命の間は残したいという我儘があるらしい。
とはいえ違法性のない本格的な肝試しをする機会ではある。夜の廃屋を眺めるもよし、度胸試しをするもよし。三階の襖の向こう、段ボール箱にお札があるからそれを取ってくるだけのお仕事だ。報酬に冷たい飲み物とスイカ、それから街にある新館のホテルに泊まっていいというのだから格安と見るか――胡散臭いと見るかは自由だ。
「お化けですか? さぁ……私はそういったものは不得手ですので下見では発見出来ませんでした。ただ、そうですね。センサー範囲外で人の声がしたり、階段を上り下りする音は聞こえました」
潮風とは相性が悪いので後日メンテナンスを頑張った、なんて言葉はやはり感情は非常に薄い。
「それでは臨時バイトのようなお仕事ですが、どうぞよろしくお願いいたします」
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▼形式、内容
ノベルのみとなります。
内容はお化けに会っても会わなくても、シリアスでもギャグでもお好きにどうぞ。
建築物の破壊等といった肝試しから逸脱した行為以外であればご自由に。
▼人数
1~3人推奨
▼発注文
プレイングを書く場合と同じ形がお勧めです。
・キャラの説明+プレイング300文字ぐらいだとアドリブなどが多くはいります。
・プレイングで全部!となると基本プレイングに忠実にな流れとなります。
お好きな方でよろしくお願いします。
※フルお任せは推奨しません。
(何書かれてもいいよ!という場合はどうぞ)
▼文字数
おひとり様★1~1.5で受付致します。
〆切など分で+していただくのは構いませんが、文字数は上記内になります。
▼発注合言葉
発注文の頭に【肝試】をお付けください。
▼受付形態
2026夏ノベル企画となります。
イベント/通常枠どちら投げていただいても構いません。
※再送が発生する可能性があります。
※いずれにせよ執筆の確約は出来ません。
※頂いたものが書けない場合はSNSでお知らせします。