資料:人間災厄『クビレオニ』
怪異内容:死に向かわせる力クビレオニ(以降は当該個体と呼称)はあらゆる働きかけにより対象を死に向かわせる性質と能力(以降は怪異と呼称)を持つ。それは精神的→呪術的→物理的な順に優先して行使される。また、有効射程範囲の広さもその順番通りとなる。
抵抗力の低い一般人が対象の場合、基本的に精神的な働きかけの時点で死に至る為、当該個体には伝承にある『縊鬼』に準えられた識別名が宛がわれている。
・特性1:呪の通算
当該個体はネガティブな感情を蓄積し、原動力として怪異を成す。それは当該個体が感じる主観的な物が主となるが、他者から向けられるそれも間接的に蓄積される。
これは同様の形によって蓄積するポジティブな感情により相殺されるが、その蓄積レートと相殺レートは不明である為、現状の蓄積量の総計を確認する手段は無い。
・特性2:呪の暴走
当該個体が急激に一定以上のネガティブな感情を得た場合、その怪異は暴走する。
その場合、当該個体の意思とは無関係に怪異が発動し、周辺の生命を無差別に死に向かわせる事となる。これは当該個体の精神状態が一定以上ニュートラルに戻る迄続く。
・特性3:呪の開放
当該個体が完全死亡(インビジブル化では無く真の意味での消滅)した場合、蓄積した呪の全てが解放され、超広範囲への怪異の発動が為される事となる。ただし当該個体が死亡している為物理的な働きかけは行われず、呪術的な働きかけも極限定的なものとなる。よってこの際に発動する怪異はその大半が精神的な働きかけのみとなる。。
前述の通りその内訳を計上する手段がない以上推論でしかないが、類似個体(追補1参照)の類例を参考情報とし、当該個体の過去経験(追補2参照)から予想される概算によると、その効果範囲は地球全土を大きく上回る可能性が高い。その強度は√能力者であれば抵抗は容易く、一般人であっても意志の強い者であるなら抵抗可能な物でしかない。が、逆に言えば意志の強く無い者は全て自死に至り、理論上全人類の半数から7割程度が一度に死亡する危険がある仮定計算となる。
その場合、人類社会が崩壊する事はほぼ間違いない為、この特性を以て汎神解剖機関は当該個体を『「何らかの手段で人類社会を崩壊せしめる可能性」を内包している存在』としての人類災厄に認定している。
・追補1
類似個体(当該個体と同じ性質を持つ怪異)の報告例は現在過去含めて多数あり、当該個体以外の全ての類似個体は人類災厄に認定されていない。
これは類似個体の全てが発生直後はネガティブな感情を強く生じる程の複雑な人格を持っておらず、拙く未成熟な情緒と曖昧な外界認識しか持たぬ一方、一対一で相対すれば対象を死に至らしめ得る程度の怪異出力を持つ為、その有害性を理由にほぼ全ての個体が程なく排除処理を受け(人間は勿論、他の怪異に処理される場合も多い)、精神情緒が成長し危険性が高くなる前に死亡する。と言うのがその理由である。
・追補2
調査によると、追補1で触れた類似個体と当該個体の素養に大きな違いはほぼ無い。
当該個体の類似個体との違いは、『第三者による庇護と養育を受けた』事に絞られる。
この場合の第三者、斎川一家の5人には何らかの事情や背景は一切ない(後の調査により確認されている)為、彼らは純粋に『人の形をした怪異に偶然出会い、善意の元に養子として迎え家族として遇した』だけと思われる。
その結果、当該個体は一般人の少女と同等の人格と情緒と外界認識を得るに至り、当該個体は類似個体例の全てとは比べ物にならぬ程複雑で高度な精神を獲得し、数桁違いの呪を蓄積し得る器を有す事となったのだと思われる。
そして祖父の急死(調査により、一切の事件要素の無いヒートショックによる心筋梗塞が死因だと確定している)を切っ掛けに特性2の呪の暴走が発生。斎川家の3名(既に死亡していた祖父と、外出中だった長男を除く全員)が死亡する事となった。
・今後の展望
当該個体は怪異である為に寿命などによる死亡は無い可能性があり、√能力者である為に突発的な死亡の危険性も低いと判断される為、差し迫った危険度は低いと思われる。
だが、その全ては確定とは言えず、現状の情勢を鑑みるに不測の事態による突発的な死亡が無いとは言い切れない為、安全な形で死亡させる処理手段の構築が急務でもある。
但し、現状の一案である別√での処理は、当該個体の帰属意識が高い為にインビジブル状態での期間後に完全消滅をする危険性が高いので留保中。
よって、現行の対処として、平時は出来る限り当該個体を幸福な状態に保つように仕向ける事で、特性1による『ポジティブな感情による相殺』を行いながら、並行して調査と研究を重ね処理手段の模索をする事が妥当と思われる。
尚、当該個体はその両方に対して非常に協力的である事を此処に追記する。