彩生・紬の日記帳

瀟洒な装丁の日記帳を購入しても三日坊主になる|業《かるま》を背負って生まれたわたくしですが、折角個々に用意して頂いた場所があるのですから活用してみようと思いますっ。
今日は新しい旅団を申請してみました。国語辞典片手にフレーバーテキストを書き上げて、いざ!と申請ボタンを押した瞬間「旅団の紹介文は400文字以内に纏めて下さい」と撥ね除けられた時のぴえん感🥺昔からひとつの文章に情報を詰め込みがちと申しますか、短文で纏めるのが本当にへたくそで。過ぎた長文は目が滑る方もおられるかと思いますし、要点をしっかり書き出した上で適切な文章量で纏められる方を心から尊敬いたしますぅ……。
2

画廊がルートコレクションの話題で持ち切りに!日々の慌ただしさに感けている間にすっかり出遅れてしまいましたが、企画の成功を願うと同時に心から楽しみにしております……!盛装良いですねえ。フォーマルに身を包んだ皆さまの麗しい晴姿、是非とも拝見したいですっ。
わたくしもこの機会に普段なかなか袖を通すことが出来ないような衣裳の仕立てを依頼してみようかしらと期待に胸を膨らませつつ、作成した発注文章を読み返しては「こんな拙い文章で絵師さまに伝わるのかな……」と私室で唸っている今日この頃です。
0

素敵な妖怪執事さまがお越し下さいましたっ。名前は|帷《とばり》さま――と、帷です!敬称をつけてお呼びしたら「不要です」と断られてしまって……。わたくしの元に来て下さるまではおじいちゃんの使い魔として働いておられたそうで、探偵助手としてのキャリアも長い凄腕の執事さまなんですよ。冷静沈着で仕事熱心、至らぬ主を公私ともにサポートして下さる姿は正に執事の鑑!……ただその、大変寡黙でいらっしゃいますので何を考えておられるのか掴めないところがあると申しますか……たまに無言の視線を感じますし……はっ、もしやあの視線は頼りないわたくしへ向けた叱責の眼差しなのでは!?まままさかそんな、帷に限って……!
そ、そうそう、なんと彼は人間に変身するのもお手の物なのですって!変化の術がお得意なのかしら。わたくしもまだお目にかかったことはございませんが、もう少し仲良くなれたら披露してくれるかなあ。
1

帷と主従契約を結んでから早一月が経ちました。我が家には付喪神さまが棲み着いておられますし同居人がひとり増えたところで生活に大きな変化はないだろうと高を括っていたのですが、すっかり様変わりした日常に戸惑う日々が続いております。と申しますのも、わたくしが不在の間にありとあらゆる家事を帷が代行して下さっているので……!彼と対面を果たした翌日、学校から帰ると家中がぴかぴかに磨き上げられており、更には炊事洗濯日用品の買い出しまで半日足らずで終えたという帷のプロ執事ぶりにわたくし驚愕してしまいました。
0

そこまでして貰うのは申し訳ないですとお止めしても「間借りしている身ですから当然のことです」と仰るし(かみさま聞いていますか!)そもそも鴉の身でどうやって家事を!?とお訊ねしても「昨日も申し上げた通り|人間《ひと》に化けるのは造作もありませんので」なんて涼しい顔で仰るし……!後生ですから洗濯だけは自分でさせて下さいと泣きつくと乙女心を酌んで下さったのか「承知しました」と頷いてくれましたが、毎日のタスクとしてこなしていた家事の時間がなくなるとどうにも落ち着かずそわそわと。うう、主を駄目にする執事すぎますぅ……!
0

餓者髑髏通りを歩いていると知己の妖怪さま方から「帷が帰って来たんだね」と声を掛けられる機会が増えました。以前は彼もこの町に住んでいたそうで、お顔馴染みの同朋が大勢おられるみたいです。普段の帷はどんな様子ですか?と訊ねると「無口」「仏頂面」「ぶっきら棒」「可愛げがない」と皆さま口を揃えて仰るのでどうやらわたくしが知る謹厳実直な彼の心象とは乖離があるような……?たしかに寡黙な方ではありますけれども誠実だし言葉遣いも丁寧で――あ、でも前に「俺は」と言いかけてすぐさま「失礼しました、私は」と訂正していたことがあったっけ。あれが彼の素なのかな?主としてはもっとざっくばらんにお喋りがしたいので肩肘張らずに接して頂ける方が嬉しいのですが、そんなことを言ったら真面目な帷を困らせてしまいそうですねえ。
0

たまにはおじいちゃんの部屋の換気と清掃をしておかないと、と週に一度ぐらいのペースで掃除をするようにしているのですが、古美術品に目のないおじいちゃんの私室はとにかく物が多く、何気なく開けた戸棚の奥からとんでもない代物が転がり落ちて来たりするので心してかからなければなりません。見世に置いている曰くありげな彫像などはまだ可愛い方で、ここ最近でギョッとした物と言えば妙にリアルな木彫の面とかカラカラに干からびた手とか……特級呪物……? けれど今日部屋の片隅で見つけたそれは何だか毛色が違っていて。文机の引き出しの奥に仕舞われた、まるでリングケースのような小箱の中に白く煤けた剥片がひとつ。酷く脆そうだったのでそうっと蓋を閉じてそのまま元の場所に戻しておきましたが、あれはいったい何だったのでしょう。
0

いつも身の回りのお世話をして下さる帷にお礼がしたくて、『何か欲しいものはございませんか?』とお聞きしてみました。果たせるかな顔色ひとつ変わらない彼からは「いえ、特には。お気遣いは無用です」とばっさり断られてしまい……ならば彼の趣味嗜好をそれとなく探るしか!と闘志を燃やしつつ次のお休みに少し足を伸ばして百貨店へ行かないかと誘ってみたのですが、「入用のものがあるのでしたら私が購入して参ります」とやんわり辞退される結果に終わり、遂にわたくしは自らの敗北を認めざるを得ませんでした。手強い……。はっ、それともこれは彼なりの意思表示だったりするのでしょうか。折角の休日に主と出かけるなんて御免だとかそういう……?まままさかそんな、帷に限って……!!
0

帷曰く、現役時代のおじいちゃんの妖怪執事は彼を含めて三人いらしたそうです。男性ひとり、女性ひとり、そして帷。帷は執事の中でも一番若く、所謂末弟子の立場だったのでわたくしの補佐役に抜擢された時にどうして自分に白羽の矢が立ったのかおじいちゃんに訊ねたのだとか。すると返ってきた答えはまさかの『消去法』。呆気にとられた帷は「女性に仕えるならば同性の方が何かと都合が良いのでは」と異議を唱えましたが、「奔放なアイツに毒されて俺の孫が悪影響を受けたらどうする」と言われて得心が行き、その場で意思を固めて下さったんですって。年若くとも帷はこれ以上ない程に完璧な妖怪執事ですからおじいちゃんの神采配には感謝の念に堪えませんが、帷の兄姉弟子に当たるおふたりはどのような方々なのかしら。いつかご挨拶する機会に恵まれるといいなあ。
0

余談ですが、おじいちゃんが√能力を失った時に皆さまとの主従契約は破棄されたとのことです。けれど、帷を含めた執事の方々はそれぞれ友人としてこれまでと変わらない交誼を望まれたそうで。素敵な関係ですね、と帷に告げれば彼は珍しく目元を和めて「絃様のお人柄でしょうね」としみじみ言葉を重ねていました。えへへ、やっぱりおじいちゃんはすごいなあ。探偵としても人生の師としても、わたくしにとって永遠の目標です。
0

夏は空と緑が色濃く見えて大好きな季節ですが、連日の猛暑に夏バテ気味です。(ただでさえゆっくりペースの発言やお手紙が遅れがちで申し訳ございません……)夏休みに入り今日から毎日時間を気にせずお絵かきが出来る!と小躍りしていたものの、この陽射しの強さでは趣味の写生も儘ならず。――というわけで、早寝早起きの習慣化も兼ねてこの夏のお散歩スケッチは早朝に行うことにいたしました!朝五時に起床して、二時間ほど写生をして帰路につくのが最近の日課です。今ハマっているのが川辺の水彩スケッチで、履物を脱いで水面に足を浸しながらお絵かきしていると涼が取れる上に頭もすっきりして写生に没頭出来るんですよ。……たまにお腹が鳴ってしまうのだけが難点なので、明日からは何か軽食を用意して行こうかしら。
0

帰宅して玄関の戸を引くと、見知らぬ男の子が箒を手に佇んでおり危うく腰を抜かしかけました。赤鉄鉱のような不思議な色をした肌に癖のない黒髪から覗く真紅の瞳と|異国情緒溢れる《エキゾチックな》顔立ち。迷子?物盗り??もしや新たな付喪神さま……???ぐるぐると目を回す家人を後目に「お帰りなさいませ、紬様」と頭を下げる少年の姿を見てわたくしは漸く彼が帷であることに気がついたのでした。よくよく見ると、糊の利いた燕尾服も主へ向ける真摯な眼差しも普段通りの彼そのものです。やはり帷はどんな姿になってもお綺麗ですね、と素直に本心を伝えてみたのですが、何だか複雑そうなお顔をされてしまいました。見た目は年頃の少年ですし、『綺麗』より『格好良い』の方が適切だったでしょうか。でも彼、確かおじいちゃんよりもお年を召していると仰っていたような……。
0