冬野・正臣の日記帳
冬野・正臣 10月21日22時(店の締め作業をしながら、ふと入り口を見る。)
(ドアベルが鳴る気配はない。理央からの連絡も。)
…………。
(友達の家に遊びにいく、と言っていたが…。)
(ぴろん、とLINE通知が鳴る。)
!
(理央の名前に、すぐメッセージを開いた。)
「連絡遅くなってごめんなさい!
ちょっと色々ありまして、今日は漆黒さんのおうちに泊まらせて頂くことになりました!
あと、今日お話ししていたお友達なのですが、おじさんにお話があるそうで…。
この後お店に来ると思うので、よろしくお願いします!」
……………。
(色々と考えることはあるものの、まあ漆黒くんであれば特に悪いことは起きないだろう。)
(そう思い、
「わかった。あまり漆黒くんに我儘を言ったりしないように。
あとでお詫びに惣菜でも持っていく。」
とメッセージを返しておく。)
(客が来るのであれば、コーヒーの一杯でも出さねば失礼だろう。)
(そう思い、準備をしておく。)
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治部・亞比栖 10月22日19時(カラン、と軽やかなベルの音を立てて、スーツ姿の大人アビィが顔を出した)失礼します。冬野・正臣さん、ですか?
私は今日、理央さんと話をさせていただいた、治部・亞比栖……すみません、芸名で名乗っておりまして。治部でも、亞比栖でも好きなほうで呼んでください。
(名刺を差し出す。「NPO法人アスハル理事長 治部・亞比栖」と書かれており、住所や電話番号などが続く)
理央さんや友人には、アビィと呼んでもらっています。
(完全に外向きの丁寧口調である。NPOは、何かと言い訳に便利なので、実際に持っているやつだ)
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冬野・正臣 10月22日20時(ドアベルの音に、手を止めてそちらに視線を向ける。)
いらっしゃいませ。
…ああ。(小さく頷いて)理央から連絡を受けています。
(整った容姿、眩い金の髪。)
(外国の方だろうか、と思うものの、理央は今まで老若男女と仲良くなって店に連れてきている。)
(今更驚くものでもなく。)
治部さん、ですね。
ええ、私は冬野・正臣と申します。理央がお世話になっています。
(丁寧に頭を下げ、名刺を受け取って。)
(アビィと呼んでもらっている、と聞いてああ、と得心する。)
(「アビィさん」。よく話に聞いていた名前だ。)
こちらの席へどうぞ。
(そ、っとカウンター席を示して。)
お話の供に…苦手でなければ、珈琲をお淹れしますが…如何でしょうか。
普段理央がお世話になっております。お代は頂きません。
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治部・亞比栖 10月22日20時正臣さん、でもよいですか?
(にこりと笑って、カウンターへ。するっと懐に入っていくのがアビィ流だ)
珈琲。お店のものをいただけるとは……ありがとうございます、嬉しいです。いただきます。
私こそ、理央さんにはとてもよくしてもらっていますよ。
この度は、しばらく理央さんの『宿泊訓練』をお許しいただきたいと思い、訪問した次第です。
少々理由がありまして……
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冬野・正臣 10月22日20時(小さく頷いて)ええ。お好きにお呼びください。
よかった。ではお淹れします、少々お待ちください。
(豆をミルに入れ、削り始め。そして湯を沸かし始めた。)
(理央がよくしている、ときいて少し首を傾げるも、頷いて。)
ご迷惑をおかけしていないのなら何よりです。
あの通り……少々お転婆ですので。
(少し柔らかい声音で、そう言って。)
(豆を挽き終え、湯の温度計は80℃を示している。)
(ペーパーフィルターにセットした珈琲粉末にお湯を少々掛けて蒸らしの工程を挟む。)
……?
宿泊訓練……?と、仰いますと…。
漆黒くんのところに泊まる、と理央が言っていたのはその関係ですか?
(蒸らされて膨らんだ珈琲粉末にお湯を注ぐ。)
(ふわり、と珈琲の豊かな香りが漂った。)
お待たせしました、どうぞ。
こちらも、お茶請けに良ければ。
(珈琲カップと、お皿に乗ったチョコレートケーキを差し出す。)
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治部・亞比栖 10月22日20時迷惑だなんて。周囲を明るくしてくれる、よい方です。
(理央のことを話す、その声音の柔らかさに、信頼と好意を感じ取る。よい『家族』なのだなと、そんなことを思った)
ああ……よい香りですね。
ええ。
理央さんが、お友達のステージユニットに加入したのです。
そのユニットというのは、私たちのNPOで後援をしている『|A∞RIA《アリア》』というもので、理央さん、漆黒さんを迎えて活動を広げる、と報告を受けています。
ありがとうございます。いただきます。
(珈琲とケーキを受け取り、優雅な所作でまずは珈琲を傾ける)
ん……やはり香りがとてもよいですね。オリジナルブレンドですか?
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冬野・正臣 10月22日21時……そうですか。良いお友達を持てたようで…安心しました。
(また少し、柔らかな安堵を滲ませた声色でそう言って。)
すてーじ、ゆにっと。(不慣れそうな発音。)
(少し思案し)……なるほ、ど?
……ふむ。漆黒くんも。
………それは、こう…歌を歌ったり、踊ったり…という?
(無表情のまま、少し心配そうに首を傾げ。)
(綺麗な所作だ。と思いつつ軽く頭を下げて)
ええ、当店のオリジナルブレンドです。
お褒めいただき、恐縮です。
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治部・亞比栖 10月22日21時私こそ、理央さんはよいご家族とご一緒なのだなと、ちょうどそう思っていたところです。
ええ。
活動は限定してはいないようで、歌のステージのほか、ステージで大きな絵を仕上げる「ライブペイント」などをしているようですね。
しかし、共通しているのは、信念です。
ステージを通し、観客の皆さんとともに楽しみ、皆さんで一緒に笑顔になる。たくさんの笑顔を、作り出す。
そういった考えに、共感をしたのでしょう。
こちらの珈琲は味のバランスもとてもよく、リピーターがつく一杯ですね。
(にこやかに言って、ケーキもひとくち)
! ……これは。逸品だ。これも正臣さんが?
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冬野・正臣 10月22日21時家族。(少し、思案するような間。)
…ありがとうございます。そうなれているのなら…よいなと思います。
(最愛の姉も、何もかもを忘れた理央にしてやれることを、少しでも果たせているのなら。)
らいぶぺいんと…ほう…。
(暫く話を黙して聞いて。)
たくさんの笑顔を…。
それは……理央も頷きそうな考えです、ね。
その活動のための合宿…ということでしょうか。
(すごい褒めてくれるなあ…と思っている。)
ありがとうございます。
ええ、ケーキも焼いています。そちらも、お口に合ったのなら幸いです。
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治部・亞比栖 10月22日21時私は、思ったことを言っただけですよ、正臣さん。
そうなのです。
(相手に言わせる。そのほうが、納得させやすいから)
舞台に立つには、やはり基礎となる技術があります。例えば、声の出し方ですとか……きちんと習っていなければ、すぐに声が枯れてしまうでしょう。
そういったものを習得したい、という希望がありましたので、合宿の許可をいただきに、本日は訪問をさせていただきました。
……と言っても。
半分は、お友達とお泊まりを楽しむという目的もあるようですが(クスクスと笑って)
私たち大人が目を光らせておりますので、その点に関してはお任せください。
正臣さんのケーキは、どこかのデパートに出店をしていただきたいほどです。素晴らしい腕でいらっしゃる。
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冬野・正臣 10月22日22時ふむ…なるほど…。
確かに…理央は常日頃元気に声は出しておりますが…舞台に立つ、となるとまた持久力が必要なものでしょう。
(理央が体力がそんなにない、気合いで動き回ってその後遊び回った犬みたいに爆睡するのを知っている。そのため、素直に得心した。)
成程…そういう理由であるなら。ええ。
理央を、よろしくお願いいたします。
(お泊まりを楽しみたいのだろうという言葉に)
…それも、そうでしょう。しかし…あの子がそう言った、深い付き合いをするのは…。
(仲がいいのであれば、既に記憶の話はしているだろう、と判断した。)
……記憶を失ってから、初めてですので。…楽しく過ごしてもらいたい、ですね。
……改めまして、治部さん。よろしくお願いいたします。
(深く、頭を下げて礼をした。)
恐縮です。日替わりでケーキを出しておりますので、また良ければいらしてください。
理央がお世話になっていますから、サービス致します。
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治部・亞比栖 10月22日22時……ご心配はもっともです。
私たちは、孤児院へのボランティアなどもおこなっています。そのため、メンタルケアの研修は、スタッフに義務づけています。
特にその、記憶喪失に関しては、細心の注意を払っていきます。過去を開示しない方向でしたね。
私が責任を持って、合宿中の理央さんの生活を支援させていただきます。
お任せくださって、ありがとうございます。正臣さん。
(こちらからも頭をしっかりと下げた)
(ケーキを、一口、また一口と運んで)
サービスは、お断りしましょう。
正当な対価をお支払いしたい。それほどの品です。ふふふ。
ですが、ぜひ。また訪問はさせていただきたい。
今日は遅い時間ですから、そろそろおいとまをしますが、理央さんの様子も報告をしますし、よければ……正臣さんともゆっくりお話がしたいですね。
(にこりと微笑んで)
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冬野・正臣 10月22日22時……ええ。本人が思い出せないものは……。
(そうだ。彼女は…理央に思い出されることよりも、きっと心穏やかであることを、望んでいる。)
(そういう女だ。)
…無理に思い出させるものでは、ないと思うので。
…ご協力、感謝致します。
それはまた……嬉しいことを仰る。
…それでは、その時はお代をいただきましょう。
その代わり、この店の珈琲もケーキも…必ず貴方の舌を唸らせることを約束しましょう。
(その声には静かな自信が滲んでいる。)
お気遣いに感謝します。
理央がうるさいときは、遠慮なく叱ってやってください。
私と話…。(少し不思議そうにして)
この通り、あまり話も達者でないので…そう面白い話が出来るとは…。
(と、遠慮するのもまた失礼だ、と思い直して。)
…いえ。そうですね。…お話しましょう、いずれ。
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治部・亞比栖 10月23日12時ふふふ。そのプロ精神、好ましいものです。
ほかのケーキも、正臣さんの珈琲とともにいただけるのを、楽しみにしています。
承知しました。では、叱るときには、遠慮なく。
……叱って育てるのは、苦手なほうなのですけれどね(苦笑して)それが、手段として必要だと判断したときには、理央さんのためにそうしましょう。
そうですか?
思い出してみてください。貴方とお話しする理央さんは、どんな顔をしていますか?
貴方と話す、とは、そういうことですよ。
次には、我もいつもの口調で話しをさせていただこう(にっこりと微笑んで)
(珈琲もケーキも、綺麗にいただききって)
ご馳走様でした。
理央さんのこと、許可をいただけたのも有難いですし……
何より、正臣さんと知り合えてよかった。
またまいります。それでは、おやすみなさい、正臣さん(いつもの宮廷作法ではなく、ビジネスの一礼をして、カランとベルを鳴らして去っていった)
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冬野・正臣 10月23日14時話をする理央…は…いつでも能天…こほん。(咳払いで誤魔化して。)
……笑っていますね、楽しそうに。(また少し、柔らかい声音で。)
…なんというか、理央があなたに懐くのもよくわかる気がします。
思慮深く、尊敬出来る。
(理央はきっとこの人から、多くのことを学ぶだろう。)
(それは、自分では与えられない。素直に喜ばしいと思う。)
…こちらこそ、お会いできて…お話しできてよかったと思います。
ええ、次は…気軽にいらしてください。お待ちしております。
…おやすみなさい。お気をつけて、お帰りください。
(軽く会釈をして、治部さんが出ていく背を静かに見ていた。)
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冬野・正臣 10月23日14時(コーヒーカップとケーキを片付ける。)
(理央は以前より、いや、以前からもではあったが、より、楽しそうに笑うようになった。)
(帰宅して、夕飯の支度の手伝いをしながら、夕飯を食べながら。)
(今日出逢った、楽しかったことを話す。)
(喜ばしい。素直にそう思う。)
(そうした輪の中の、優しい人の一人が治部さんなのだろう。)
(漆黒くんも、また。)
(…………今度、惣菜を持って行かなくてはな。)
(後片付けを続けながら、そんなことを考えた。)
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