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彩色たまごと春祭り

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●春を宿す卵
 麗らかな空が織り成すやわらかな風が、やさしく街を撫でていく。
 積層都市の中層――『東京V』
 空を見上げれば、幾重にも重なる街並みが霞の向こうへと聳え立っていた。
 その合間を縫うように、ひらりふわり、淡い桜の花びらが風に乗って流れてゆく。

 繁華街の桜並木には色とりどりの布が張られ、霊光を帯びた提灯が連なり、桃の花飾りが鮮やかな彩りを添えている。屋台では霊機炉の炎が揺れ、蒸籠から甘い湯気が立ちのぼる。ふんわり薄紅色の桃まんじゅう、杏を使ったやわらかな甘味、春を彩った様々な食べ物が並び始める通りは既に小さな賑わいを見せていた。
 祭り用の艶やかな衣装を仕立てる者、飾りを組み上げる者――普段は血気盛んな積層都市の人々も、祭りの今日ばかりは春の訪れを楽しむように笑い合う。
 そう、この街では毎年、春を迎える頃にひとつの祭りが開かれるのだ。
 ――彩蛋春祭。
 彩り豊かな卵に願いを込め、春の訪れを祝う。
 人々は卵に色を重ね、思い思いの模様を描き――願いを託すのだ。
 それは小さな祈りであり、春を迎えるための儀式でもある。
 仙術の彩墨で描かれた模様はただの装飾に留まらず、僅かながら霊力を宿す。そうして再び命を灯した小さな卵は、お守りや小型の仙術具として大切に持ち帰るのが習わしだ。
 ――けれど、こんな話もある。
 丁寧に彩られた卵はときに持ち主の想いを映し、まるで命を宿したかのように“かたち”を成すのだと。それは真に望んだ祈りのかたちか、否か。
 真偽はともかく、祭りはもうすぐ始まる。
 まずは支度を整えよう。
 彩蛋を作り、衣装を選び、春を迎える一日に備えるのだ。

●春祭への誘い
「――お、来たな! こっちこっち!」
 繁華街に足を踏み入れたあなたに声をかけてきたのは、通りに面した小さな広場に立つ少女だった。白き一角獣の角をきらりと輝かせた星詠みの少女、ユニ・リリィは落ち着かない様子でそわそわと祭りの様子を気に掛けている。
 石畳の広場には簡易の卓や腰掛けが並べられ、地面のあちこちには祭りの準備に使われる道具や資材が置かれている。頭上ではゆらゆらと鮮やかな提灯が揺れ、ときおり桜の花びらが風に乗ってふわりと舞い上がっていった。
 いつもは混沌とした繁華街の通りも、普段とは違う春の装いへと彩られていく。
「祭りの準備中らしいんだ。こういうの、ちょっとワクワクするだろ?」
 ユニはきらきらと眸を輝かせると、さらに通りの奥を指さした。
「ほら、あそこ。卵と彩墨を並べてる工房があるんだ! あっちは衣装の貸し出しをしているらしい! まずはあそこで、飾り卵とかを作ってみるといいぞ!」
 さらにユニは、少しだけ身を乗り出して声を弾ませる。
「飾り卵はな、好きに作っていいらしいぞ! 色も模様も自由だし、きっとその人らしいものになるな!」
 作った卵は大切に持ち帰って、お守りなどにするそうだ。なので自分用にはもちろん、誰かのために作ってみるのも良いかもしれない。
 祈りを込めた自分だけの飾り卵を作り、春色の衣装を身に纏い、好きなものを食べて歩く――。そんな穏やかな祭りの一日が待っている……はずだったのだが。
「……あ、でもな」
 ユニはほんの少しだけ声を落とした。
「この祭りはたまに、卵に宿った霊力が共鳴して変なものが出てくることがあるらしいんだ。妖魔っていうか……まあ、そういう奴らだ!」
 こうして自分達が呼び出されたのだから、もちろんただのお祭りには終わらない。
 そして今回もその予知が視えたとして、ユニは念のため警戒するようにと一言足した。
「まあでも、せっかくだからお祭りを楽しまないと損だよな! 変なものが出てくるまでは、自由にお祭りを楽しんでほしいぞ!」
 そう言いながら、ユニはぶんぶんと手を振ってあなた達を送り出したのだった。
これまでのお話

第2章 日常 『積層都市のお祭り!』


 春の陽が積層都市の街路をやわらかく照らす頃。
 彩蛋春祭は、いよいよ本番の刻を迎えていた。

 朝よりもさらに人波の増した通りには色鮮やかな提灯が幾重にも連なり、桜並木には絶えず笑い声が弾んでいる。花びらは風に乗って舞い、祭り衣装のへ肩へ、屋台の軒先へとひらりひらりと舞い降りていた。

 道の両脇に並ぶ屋台からは、白い湯気と香ばしい匂いが立ちのぼる。
 蒸籠の中には熱々の小籠包や焼売、ふっくらとした肉まん。甘味処には薄紅色の桃饅頭、杏の蜜をかけた団子、胡麻餡を包んだ揚げ菓子など、春を映した品々が所狭しと並んでいた。
 他にも、花の香を移した茶、串に刺した肉や野菜を仙火で炙る店、薄く焼いた生地で甘味を包む店、きらめく糖衣で果実を飾った菓子屋台などもあり、どこから巡るべきか迷うほどだ。

 広場では仙術灯が花のように開いて淡い光を散らし、軽やかな楽の音が通りへ流れていた。
 その賑やかな様子を眺めていれば、やがて通りの奥から銅鑼と笛の賑やかな音色が近づいてくる。
 人々が道を開けば、春祭の巡行列が姿を現した。
 先頭をゆくのは、幾人もの担ぎ手に操られた大掛かりな龍灯だ。長い身体をうねらせながら宙を泳ぐその姿は、まるで本物の龍が街へ舞い降りたかのよう。鱗めいた灯篭は赤や金へと色を変え、歓声を浴びてきらきらと輝いている。
 その後ろには、巨大な彩蛋を据えた花車がゆっくりと続いていた。
 卵の表面には鮮やかな紋様が浮かび、花車が進むたび桜の花びらと色紙片がふわりと舞い散っていく。

 子どもたちは目を輝かせ、大人たちは杯や茶杯を掲げ、積層都市の人々はそれぞれのやり方で春の訪れを祝っていた。
 卵を抱えて歩く者、衣装姿で記念の写真を撮る者、屋台巡りに夢中になる者――そのどれもが、この祭りらしい過ごし方だろう。

 ――もっとも。
 祭りの熱気の裏で彩蛋がかすかに震えた気がした、と囁く者もいる。

 胸騒ぎめいた気配はあれど、空はまだ穏やかだ。
 ならば今は、この春の一日を楽しむとしよう。

 さて――
 あなたはどこから巡るだろうか。
 
 
 
目・魄
屍累・廻
土師・捺


 春の陽がやわらかく降り注ぐ通りは、祭りの熱気に満ちていた。
 提灯が揺れ、桜の花びらが舞い、屋台からは絶えず香ばしい匂いが漂ってくる。
「騒がしくなってきたね」
 白兎の耳を揺らしながら、目・魄は人混みをゆったりと歩く。
 どこか気楽で、どこか楽しげに――まるでこの賑わいを丸ごと味わうようにしながら、茶を振る舞う屋台で差し出された小さな茶杯を彼は迷いなく受け取った。
「商売上手だ。こういうのは断る理由がないね」
 ふわりと立ちのぼる香りを楽しむように、眸を細める。
 香ばしい焙じの気配に、花を思わせる柔らかな甘い香りが重なった。
「いいね。この世界の茶は、香りが遊んでいる」
 その様子を、少し離れた位置から静かに見ていたのは屍累・廻だった。
 黒兎の耳をつけた彼は、人波と巡行列、その両方に目を配りながらも――
(……微かに、視えますね)
 だがそれはまだ、確かな“兆し”には遠い。
 ゆえに彼は、そっと視線を賑わいへと戻した。
「露店も巡行列も、どちらも見応えがありますね。お二人は、見たいものはありますか?」
 穏やかな声音でそう問いかける。
「全部、かな」
 即答したのは魄だった。
「せっかくなら、食べられるだけ食べたいし、見られるだけ見たい」
「わ、私も……!」
 土師・捺が思わず声を上げる。
 そしてキョロキョロと、あたりを見回し――
「いい匂いがしてきたし……見慣れない食べ物も沢山ある……!」
 視線の先には、蒸籠から湯気を上げる肉まんや焼売、艶やかな飴をまとった果実の串。
「巡行列も見てみたいし……でも、美味しそうな匂いも……」
 ほんの一瞬、真剣に悩み――
「……やっぱり、食べます!」
 きっぱりと宣言した。
 そのまま彼女は、大きな肉まんを蒸している屋台へ走っていき、顔を見合わせた魄と廻は彼女のあとをゆっくりとついて行った。

「あ、これ……糖をかけた果実のお菓子、ですよね?」
 無事に抱えるほどの大きな肉まんの袋をゲットした捺は、隣の店の艷やかなきらめきも気になる様子で。
「糖葫芦だね。果実の種類も色々あるみたいだ」
「た、たんふーるー??」
「まあ、見ての通り果物に砂糖飴を纏わせたお菓子だね」
 魄は興味深そうに色とりどりの串を見比べる。
「いろんな果実を試してみるのもいいね。皆で別々のものを買うとか」
「わぁ、それはいいですね!」
 捺は苺の串を、魄は葡萄の串をそれぞれ購入したところで、いつの間にか二人から離れていた廻も合流する。
「そちらの店で飲み物とつまみも買ってきましたよ。一旦どこかで休憩しません?」
「いいですね! 賛成です!」
 廻が調達してきたのは、花の香り溢れるお茶に焼売、それから小振りな杏の団子だ。
「飲み物はこちらを。花の香りの茶です」
「ありがとうございます!」
 捺はふわりとした香りに癒されながら、ほっとしたように息をつく。
「こうして、色々と食べ比べるのも楽しいね」
 魄も皆との購入品を分け合いながら、満足げに微笑んだ。
 と、そのとき。
『……ちゅっ!』
「おや?」
 ひょっこりと、廻の肩に小さな影が現れる。
「朧、来ていましたか」
 小玉鼠妖怪の《朧》がくんくんと鼻を動かしながら、甘い匂いに惹かれた様子で顔を覗かせたのだ。
「仕方ないですね……これをどうぞ」
 廻は糖葫芦をひと粒外し、そっと差し出す。
 《朧》は嬉しそうにそれを受け取り、ちゅっちゅっと小さく音を立てて食べ始めた。
「こういうのんびりした時間も、いいですね」
 その一方で捺はこっそりと肉まんをちぎり、もそもそと自分の懐を覗き込む。
 分けた肉まんは衣の内側――人目につかぬように潜ませた護霊、土蜘蛛「夜丸」へと手渡して。
(……見えないように、ね)
 見た目はちょっぴり怖い相棒だから今は隠れてもらっているけれど、せっかくなので一緒にお祭りを楽しんでほしくて。

 遠くでは銅鑼と笛が鳴り、龍灯がうねり、巨大な彩蛋の花車がゆっくりと進んでいた。花びらが舞い、歓声が広がり、祭りは今、最も華やかな時を迎えている。
「さて――次はどうする?」
 魄が振り返る。
「向こうも行ってみましょうか」
 廻が穏やかに指し示し、
「はい! 折角だし、行けそうな所、全部行きましょうっ!」
 捺が元気よく頷いた。
 春の一日を余すことなく楽しむように。
 三人は再び、人の流れの中へと歩みだしていった。

物部・真宵
吉祥・わるつ
フルール・ペタル


 春の陽射しはやわらかく、通りには人々の笑顔と賑わいが満ちていた。
 提灯の色が風に揺れ、桜の花びらがふわりと舞い降りるたび、まるで光そのものが散っているかのように見える。
「まぁ! 賑わってますねぇ」
 物部・真宵は、穏やかな微笑みを浮かべながら周囲を見渡した。
 それから、ふわりと温もりを感じさせる声音でそっと隣のふたりへ問いかける。
「おふたりとも、何か気になるものはありますか?」
「わぁ、朝よりずっと綺麗……!」
 吉祥・わるつは眸を輝かせ、空を仰ぐように提灯と桜吹雪を見上げていた。
「提灯の色も、桜吹雪もやわらかくって……」
 そしてふと、屋台の並ぶ方へ視線を落とす。
「私、あのクレープみたいなものが気になってて……肉まんやお団子もおいしそう。フルーツって、あんなにきらきらして見えるのね」
「ふふっ、みんなたのしそう! とてもすてきね?」
 眞白柔らかな髪を揺らしながら、フルール・ペタルもまた、弾むような声で屋台を見渡す。
「おまつりはやっぱり、にぎやかでなくっちゃ。屋台もたくさんあるわ?」
 目に映るものすべてが楽しくて仕方ない、といった様子だ。
「わたしは杏の蜜をかけたお団子と、花の香を移したお茶が気になりますね」
 真宵はゆるやかにそう言って、ふたりを見守るように微笑む。
「では――」
 ほんの少し楽しげに声の調子を変えて、提案した。
「みんなそれぞれ食べたいものを買ってきて、シェアしましょうか」
「はぁい!」
 わるつは素直に頷き、ぱたぱたと屋台へ向かう。
「そうね、みんなで“しぇあ”しましょ!」
 フルールも楽しげに続いた。

 やがて三人は、桜の花びらがやさしく舞う、陽だまりの一角へと集まる。
「さぁ、おふたりとも、どうぞ」
 真宵が並べたのは、杏の蜜をかけた団子と、淡く花の香りを湛えた茶。わるつは甘く包まれた果実や軽やかな生地の菓子を、フルールは肉まんや小籠包、そしてきらきらと光る果実飴を持ってきていた。
「まぁ……!」
 フルールが目を輝かせる。
「どれもぜんぶ、おいしいわ?」
「もちもちのお団子に、ふかふかの肉まん……」
 真宵もゆったりと味わいながら、穏やかに言葉を紡ぐ。
「果物はまるで春の欠片のようにきらきらしていて……気持ちも明るくなりますね」
「ほんとう……すこしずつ分けあうのって素敵」
 わるつも頬を緩めながら、もぐもぐと味わう。
「何倍も美味しく感じられるんだもの」
 甘いものとしょっぱいものを交互に楽しみながら、自然と笑みがこぼれていく。
「お茶もすてきね」
 フルールがそっと茶杯を傾ける。黄金色に耀くお茶は、見た目も香りも華やかだ。
「お花の香りがうれしいの。……お茶って、おみやげにできないかしら」
「あ、お茶の葉が売っていればお土産にできるかも?」
 さっき屋台にあったような? とわるつが思い出すように首を傾げて。
「ええ、きっと売っていると思いますよ」
 真宵も優しく応じながら、ふと通りの賑わいに視線を向ける。
「――あら。おふたりとも、あちらを」
 真宵が静かに指し示す先。
 通りの奥から、銅鑼と笛の音が近づいてくるのが聴こえた。
「龍灯がいらっしゃいましたよ」
 賑わう繁華街の通りをゆくのは、長い身体をうねらせる龍灯。
 その鱗は光を受けて色を変え、まるで生きているかのようにしなやかに舞う。
「まぁ、あれが龍灯……」
 わるつは思わず息を呑んだ。
「とっても立派で綺麗……それにかっこいい……! まるであの子が春を連れてきたみたい」
「りゅう? ほんとうに生きているみたい!」
 フルールもきらきらと眸を輝かせる。
「色が変わるのもふしぎ! とてもきれいな子」
 花びらが舞い、光が流れ、龍は春の中を進んでいく。
「こうして春の訪れを喜ぶのは、どの世界も一緒なのですね」
 真宵は静かに眸を細めた。
「ふふ……お二人と逢えたことが、春を迎えてうれしい出来事のひとつになりました」
 わるつの言葉に、
「ええ、きっと今年もすてきなものになるわ?」
 フルールも花のように柔らかく微笑んだ。

 やさしい春の光の中で。
 三人はしばし、その美しい巡行を眺め続けていた。

セレネ・デルフィ
夕星・ツィリ


 春の陽はやわらかく、通りには絶えず人の流れと賑わいが満ちていた。
 提灯の灯りと桜の花びらが重なり、どこか夢の中のような光景が広がっている。
 屋台の並ぶ通りに足を踏み入れたセレネ・デルフィは、ふわりと漂う香りにそっと眸を細めた。
「準備のときも、気になるものは沢山ありましたが……」
 ゆっくりと、空気を吸い込むようにして。
「香りを感じると……より一層、気になりますね」
 その隣では、夕星・ツィリがきらきらと海色の眸を輝かせている。
「わぁ、美味しそうな香りがいっぱい……!」
 蒸籠の湯気、鉄板料理の焼ける音、甘い香り――すべてが食欲をくすぐる。
「あの桃饅頭と、杏の蜜をかけたお団子が特に気になる……!」
 だが視線はすぐに別の屋台へ。
「でも他のも気になる……うーん、欲張りになっちゃうね」
 くすっと笑いながら、ふとセレネの方を見やり。
「セレネちゃんは、食べたいものあった?」
「私は……」
 セレネは少し考えるように視線を巡らせてから、ゆっくりと。
「花の香を移したお茶と……揚げ菓子と……それから、あのキラキラした果物の……」
 糖葫芦を指さしながら、どこか控えめに言葉を続ける。
「それと、夕星さんの挙げていたものも……気になっていて」
 そして、ほんの少しだけ勇気を出すように。
「その……もし良ければ、一口、交換しませんか……?」
「あ! それ、いいね!」
 ツィリはうんうんと迷いなく頷いて、ぱぁっと笑顔を返す。
「私もそれ気になってたし、誰かと“美味しい”を分け合えるのって素敵なことだもん!」
 明るく返された言葉に、セレネはほっと胸を撫で下ろす。
 ふたりはそれぞれ甘味処へ向かい、気になっていた品々を手に屋台を巡った。

 ――合流したふたりは、さっそく卓の上にそれぞれの購入品を並べた。
 塩っぱいものから甘いもの、それから良い香りのお茶。キラキラ耀く誘惑を前に、ふたりは思わず視線を合わせて笑顔で頷き合う。
「いただきます!」
 ツィリが元気よく声を弾ませた。
 セレネも静かに頷き、揚げ菓子をそっと一口。
「……! おいしい……」
 祭りの賑わいと一緒に、その空気ごと味わうように。
「なんだか……こういうところで食べると、もっと美味しく感じますね」
「ふふ、だよね!」
 ツィリもお団子を頬張りながら、嬉しそうに頷く。
「夕星さんも、こちら、よかったらどうぞ……」
「わーい、ありがとう!」
 セレネから差し出された揚げ菓子を一口ぱくり。頬を緩める表情に美味しさは表れていて、ツィリも交換こ、と自分の桃饅頭を差し出す。
「はい、セレネちゃんもどうぞ!」
「わ、ありがとうございます……」
 セレネもそっと桃饅頭を受け取り、口に運べば、ふわりとやさしい甘さが広がり、思わず花がほころぶような笑みがこぼれた。
 糖葫芦のきらめく飴、杏の蜜のやさしい甘さ、揚げ菓子の香ばしさ。
 それぞれの味が、少しずつ混ざり合っていく。
 仕上げに花の香りのお茶をひとくち飲めば、気分もすっかり春模様に移り変わる。
「……ほっと、しますね」
「ほんとだね」
 ツィリも同じようにお茶を味わいながら、ほっこりと微笑む。
 そして、ふとセレネの方を見て。
「まだお腹は大丈夫?」
 セレネはぱちりと瞬きひとつ、こくりと頷く。
「ふふ……美味しいものばかりで、なんだか……まだまだ食べられそうな気がします」
「ふふ、良かった!」
 そうと決まれば! と、ツィリはぱっと立ち上がり。
「じゃあ、次の美味しいもの探しに行こう!」
 春の光と香りに包まれた通りの中へ。
 ふたりはまた、新しい“美味しい”を探しに歩き出すのだった。

廻里・りり
茶治・レモン


 春の光に満ちた通りは、朝よりもいっそう賑やかさを増していた。
 提灯が揺れ、桜の花びらが風に乗って舞い、屋台の湯気と香りが絶えず人々を誘っている。
「レモンさん! 屋台がいっぱいありますよっ」
 廻里・りりは青い眸を輝かせながら、きょろきょろとあたりを見回した。
「お店がいっぱい。まよっちゃいますね……! 気になるものはありますか?」
「これだけあると、何から行こうか迷いますね……」
 茶治・レモンも同じように視線を巡らせ、少し考えるようにしてから、
「ではあちらの……肉まんから、いかがでしょうか!」
「いいですねっ!」
 りりは嬉しそうに頷きながらも、つい隣の屋台へも視線を移す。
「肉まんもそうですけど、あげ菓子もおいしそう!」
「あっあっ! あれもいい匂いです!」
 ハッと顔を上げたレモンが思わず声を上げた先には、串焼きの屋台があった。
「あっ、お肉をあぶる仙火は……やっぱりここならでは、なんでしょうか……!」
 串焼きの屋台から立ちのぼる不思議な色の火を、りりは興味津々に見つめ。
「火が特殊なんでしょうか? “ならでは”な印象はありますね!」
 アレもコレもと飛び込んでくる色と香りに目移りしっぱなしのふたりは、一旦しばし落ち着いて。
「りりさんはどれが食べたいですか?」
「わたしは……くだもののお菓子が気になりますっ」
「なるほど、キラキラしているあれですね!」
 りりはきらきらと光る糖葫芦の屋台を指さしてみるが、そのあとちょっぴり眉を下げて笑い。
「でも見ていたら、おなかがすいてきちゃいました……」
「気になるもの、ぜんぶいきましょう」
「……ふふ、分けっこは賛成です!」
「ですねっ! わけっこしたら、二倍食べられるはず……っ」
「いいですね、全部食べ尽くしてしまいましょう!」
 りりはぐっと拳を握りつつ、レモンも静かな声音ながらも、わくわくとした気配を隠しきれていない。
 ふたりはそれぞれ屋台を巡り、肉まん、胡麻餡の菓子、串焼き、そして果実飴を手に戻ってくる。

 湯気の立つ肉まんを割れば、ほかほかとした香りが広がり、糖葫芦は陽の光を受けて宝石のようにきらめいていた。
「いただきますっ」
 りりはさっそく、キラキラの果実飴をぱくりとひと口。瞬間、甘さと酸味がほわりとやさしく広がる。
「……おいしい……!」
「こちらもどうぞ」
 肉まんを頬張っていたレモンが胡麻餡の菓子を差し出せば、りりは嬉しそうに受け取る。
 そしてそのまま、ふと何かに気づいたように顔を上げた。
「はっ……杏の蜜をかけたおだんごに、お花の香りをうつしたお茶ですって!」
 視線の先には、新たな甘味の屋台が飛び込んできた。
「……レモンさん、さっぱりしたもの食べたくないですか……?」
「えっ、どれですか?」
 レモンもそちらを見て、ぱっと表情を和らげる。
「わぁ、あちらも素敵ですね!」
「やったぁ! いきましょうっ」
 ふたりは揃って屋台へ向かい、杏の団子と花の香りの茶を手にする。
 甘さの後に広がるやさしい香りに、自然と息がほどけていく。
 ――そのときだった。
 遠くから、賑やかな音楽が近づいてくる気配がした。
「……ん? 何やら賑やかな音楽が……」
 レモンが耳を澄まし、視線を通りの奥へ向ける。
「りりさんっ、りりさん!」
「見て下さい、春祭の巡行列が来ますよ!」
「巡行列、ですか? わぁ、はじめて見ます!」
 りりも眸を輝かせて通りの方へと視線を向けた。

 人々が道を開き、その中央を進むのは――色鮮やかな龍灯だ。
 長い身体をうねらせながら、まるで空を泳ぐように進むその姿。
 鱗は光を受けて色を変え、赤から金へ、また別の色へと移ろっていく。
「とってもきれい……わ! 色もかわる……っ」
 花びらが舞い、光が揺れ、春の気配が辺り一帯に満ち溢れるようだった。
「なんだか……春のおとずれを感じますね」
 その言葉に、レモンも静かに頷く。
「……ええ、とても」
 賑やかな音と光の中で。
「とっても、すてきです!」
 りりの弾んだ声が、春の空気に溶けていった。

トゥルエノ・トニトルス


「彩蛋春祭も、いよいよ本番の刻を迎えているようだなぁ」
 トゥルエノ・トニトルスは、のんびりとした足取りで通りへと踏み出した。
 青い眸に映るのは、きらめく光と人の流れ。
「立ちのぼる香ばしい匂いも沢山で……!」
 思わず深く息を吸い込み、うんうんと満足げに頷く。
「どれから眺めに行くとしようか~」
 あたりを見回しながら、ふと視線を止めたのは甘味処だった。
「点心というモノは色々種類もあるらしいが――まずは目に付いた甘味処から向かおうか!」

 軽やかに足を進めた先には、春を映した品々が所狭しと並んでいた。
 薄紅色の桃饅頭、杏の蜜をかけた団子、胡麻餡を包んだ揚げ菓子――どれもやわらかな色と香りを纏っている。何から食べようかと悩みに悩み、結果的に少しずつ気になるものを手にしていく。
 それらをひとつずつ口に運べば、やさしい甘さが広がり、思わずもうひと口。
「うむ、どれも美味しい……!」
 春の甘味に舌鼓を打ちつつ、視線は別の屋台へと移る。
「あの花の香を移した茶も気になる……」
 ふわふわと湯気の立つ茶杯を見つめ、
「薄く焼いた生地で甘味を包む店も良いなぁ」
 くるりと振り返っては、また別の屋台へ。
 目に入るものすべてが新鮮で、どれも見逃したくない。
「アレも此れも食べてみたいな」
 やがて、ひときわきらめく屋台が視界に飛び込んでくる。
「おや……」
 そこには糖衣に包まれた果実が、陽の光を受けて宝石のように輝いていた。
「これは……どんな果実があるのだろう~」
 糖葫芦と呼ばれるその菓子は、甘酸っぱい果物にパリパリの飴をコーティングしたフルーツ飴だ。
 伝統的なサンザシから、イチゴやブドウ、ミカンなど、様々な果実が使われている。
 トゥルエノは興味津々に覗き込みながら、イチゴの串を選んでみることにした。
 ひとくち齧れば、かり、と軽やかな音。
 中からあふれるイチゴの甘酸っぱさに、思わず頬を緩める。
「ふむ~、これは面白い!」
 満足げに頷きながら、周囲の様子を改めて見回す。
 祭りを取り巻く通りには人々の笑い声が響き、屋台の呼び声が重なり、春の空気が満ちている。遠くでは銅鑼と笛の音が鳴り、巡行列の気配も近づいていた。
「人々で賑わう春の祭りは……やはり良きものだな」
 平和なこの時を噛みしめるように、静かに呟きながら。
 春の一日を気の向くままに味わうように。
 彼はまた、次の屋台へと足を向けるのだった。

木邑・零壱
小弓・佐倉
イルゼ・ラウィーネ・ローゼンクランツ


「賑やかになってきたな……いよいよ祭りも本番ってところか」
 木邑・零壱は人々の声が溢れる周囲を見渡しながら、ひとつ息をついた。
「人ごみも出てきたし、はぐれねぇように――手ぇ繋いどくか。コキュー」
 そう言って差し出された手に、
「……うん、ありがと」
 小弓・佐倉はそっと自分の手を重ねる。
 その様子をイルゼ・ラウィーネ・ローゼンクランツは一歩後ろから、どこか微笑ましそうに眺めていた。
「そうねぇ、逸れたら合流は難しそうだし……」
 やわらかな声音でそう言いながら、二人の隣へと追いつくように並び歩いて。
「小弓ちゃんは小さいのだから、木邑さんは手を離さないようにね?」
 言われなくても、と返すように零壱は小さく頷いた。

「√百鬼と√仙術じゃぁ……予想はしてたが、祭りの雰囲気もだいぶ違うな」
 零壱は歩きながら、興味深そうに周囲を眺める。
「こっちじゃ見た事ねぇ屋台が、そこかしこにあらぁ」
 串焼き、蒸籠、甘味、果実飴――見慣れぬものばかりが並んでいる。
 そんな中、小弓はふと零壱の手元を見上げた。
「さっき買ってたの、なぁに?」
「ああ、これか」
 零壱は軽く持ち上げてそれを見せる。半透明の袋に入れられたそれは、道すがら購入した屋台飯だ。まだ温かいのだろう、袋の内側には薄っすらと湯気と水滴が映る。
「気になったやつを適当に、な。あとで分け合って食うか」
「……うん」
 こくりと頷いた小弓の視線は、ふと別の屋台へ向かう。
「あっちの……あの屋台のキラキラしたの、なに?」
 指差した先には、糖衣に包まれた果実――糖葫芦が売られていた。
「あれは、果物に砂糖飴を纏わせた……フルーツ飴菓子、みたいなものかしら」
「……くだもの、なんだ」
 興味を惹かれた小弓は、零壱の手を引きつつ屋台の様子を覗き込む。
「人気なのは……イチゴ?」
 屋台に並ぶ、春の赤い実をじっと赤い眸が見つめる。
「……みんなに好かれる、キラキラの赤、なんだね」
 思わず小弓は、自分の長い前髪を手で弄りながら少しだけ考えた。
「……じゃあ、それにする……します」
「イチゴでいいのか? よし、じゃあそれ一つもらおうか」

 その間に、イルゼは別の屋台を覗いていた。
「あら、これはなぁに? 酸梅湯?」
 気前の良い屋台の店主から差し出された飲み物を見て、小さく首を傾げる。
「梅のジュースなのね。じゃぁそれと……」
 少し考えてから、イルゼは店主へと微笑みかける。
「おすすめのジュースを頂戴な」
 そうして、手にした飲み物を持ってふたりの元へと合流し。
「さ、二人とも。楽しむのはいいけど、水分補給も忘れちゃだめよ?」
「お、ありがとな」
 零壱は軽く受け取り、小弓へも渡す。
「……ありがとう」
 小弓もそっと受け取り、ひと口。
 ひんやりとしたジュースの爽やかさが、ふわりと口の中に広がった。
「こういうのは共有して楽しむのも、オツだしな」
 零壱はそう言いながら、屋台飯をふたりに分けていく。
 賑やかな空気の中で、三人はゆっくりと食事を楽しんでいた。
 そのとき――
 遠くから、銅鑼と笛の音が響き渡る。
「……なんの、おと?」
 小弓がそちらへ目を向ける。
「……あっち?」
 人々がざわめき、通りの道を開く。
 奥から現れたのは、祭りの巡行列だった。
 うねるように進む龍灯に、その後ろには巨大な彩蛋を載せた花車が行進していく。
「……おっきいたまご、くるね」
 小弓は静かに呟く。
「……あれは、飾り?」
 彩蛋を模したそれは、確かに作り物のように見えるけれど。
「だけど……あれから何か生まれたら……何が生まれても、大変なんだろうね」
 ぽつりと零れた言葉。
 零壱はそれを聞きながら、少しだけ目を細めた。
「……何が待ってるか、ってのは星詠みでもねぇからわからんが」
 軽く肩をすくめる。
「とりあえず今は、祭りの方を楽しむとしようや」
 少なくとも、今はまだ何も起きる気配はない。
「うーん、何か事件が起こったとしても」
 イルゼは穏やかに笑う。
「二人がいるのだもの。きっと何とかなるわ」
 春の光と賑わいの中でそれぞれの思いを胸に抱きながら、三人は祭りの巡行列を静かに見送ったのだった。

憂・サディスト
曇天・ぱぅる


「わぁ、おいしそうなものがいーっぱい!」
 曇天・ぱぅるは桃色の眸を輝かせ、そのまま憂・サディストの腕をぐいっと引いた。
「おい、引っ張るな……」
 呆れたように言いながらも、視線は自然と屋台へ向く。
 蒸籠からのぼる湯気、甘味の並ぶ棚。
「桃饅頭に、団子……確かに悩ましいね」
 思わずぼそりと零れた呟きに、ぱぅるは顔を見上げて。
「折角なので、甘いのぜーんぶいっちゃいます?」
 にやりと笑い、すでに財布を取り出している。
「ふふん、今日は俺が奢りますよ?」
「……いや、奢りはいい」
 間髪入れずに返る声。
「俺は人に借りを作らないって知ってるでしょ……って、聞いてる?」
「すみませーん、お饅頭ふたつお願いしま~す」
 完全にスルーだった。
 あっという間に購入した桃饅頭を、ぱぅるは満足げにひとつ差し出す。
「はい、先輩の分」
「……」
 一瞬だけ無言になり――けれど結局受け取ってしまう自分もどうかと思いながら。
「……ほんと、勝手だな」
「ふふ、借りがあれば返してくれるのが“先輩”ですからね」

 ふかふかな桃饅頭を片手に、ふたりは桜のよく見える場所へと移動した。
 花びらがゆるやかに舞い、陽だまりがやさしく広がっている。
「ここで食べましょ~」
 ぱぅるは楽しげに腰を下ろす。
「甘いお菓子とぽかぽかの陽気……幸せですねぇ」
 もふりと饅頭をかじりながら、満足げに目を細める。
 サディストも同じように一口。
 ほんのり甘い味が広がる中、ふと視線を横に向けた。
 見れば、――ぱぅるの髪に桜の花びらがひとつ引っ付いている。
「……ぷっ」
「なに、笑ってるんですか?」
「いや……」
 サディストは軽く肩をすくめて見せて。
「お前の幸せって、お手軽だなってね」
「む~。じゃあ、先輩はどんな時に幸せ感じるんですか」
「俺? ……今日、世界が滅ぶってなったら幸せかな」
「え?」
「最後に美味いもんも食べられたし」
 さらりと続けてから、目を丸くしているぱぅるの様子を見て軽く頭を掻き。
「……ただの冗談だよ。本気にするな」
 ぽん、と軽く此方を見つめる額を小突いた。
(先輩の言葉は、どこまで本当かわかんないなぁ……)
「そっか。でも……最後の日に先輩と一緒にいられるなら悪くないや」
 何気ないようで、どこかまっすぐな言葉にサディストは少しだけ視線を逸らす。
 ――それから、
「……最近はどう?」
 話題を変えるように問うた。
「俺は、先輩がいなくて寂しいです」
「そうじゃなくて……研究の話」
「ああ、そっちですか」
 ぱぅるは少しだけ楽しそうに笑いながら。
「そりゃ、――――、ですよ~」
 凡そ今話すべきではなさそうなその話は、軽い口調でさらりと零される。
「……あー、今聞く話じゃなかったな」
「ふふ、先輩の研究、立派に引き継ぎますから?」
 サディストは小さく息をつく。
「あの研究室に残してきたの、少し心配してたけど」
 ちらりと横目で桃色の青年を見やり。
「お前、本当に才能あるよ」
 その言葉に、ぱぅるは少しだけ眸を細めて、笑った。
 甘い菓子と、どこか歪な会話と。
 それでも確かに、これは春のひとときだったのだ。

兎沢・深琴
クラーラ・ミュスティアウゲン
靜石・鏡子
鴛海・ラズリ


 春の賑わいが満ちるお祭り本番、けれどその前に――
「屋台を見て回る前に、皆のチャイナを選んでいこっかー!」
 鴛海・ラズリのひと声で、即席のお着替えタイムが始まった。

「わあ、皆似合うよ……!」
 ぱっと花が咲くように笑いながら、ラズリはひとりひとり好みも聞きつつ似合いそうな衣装を提案していく。
「ラズリちゃんにも見てもらいつつ……私はこれかな!」
 靜石・鏡子は備え付けの姿見の前で軽やかにくるりと回った。
 白と赤に桜柄をあしらったチャイナ風のトップスとショートパンツの組み合わせだ。
 普段は和装が多いだけに、なんだか新鮮さとワクワクさを感じてしまう。
「動きやすそうで良いわね」
 兎沢・深琴は頷きながら、自身の装いも整えてみる。
 選んだのは、黒のロングワンピース風チャイナドレス。
 お祭りを見て回ることも考えつつ、落ち着きと機能性を両立した一着だ。
「……この格好で、本当に良かったのでしょうか」
 クラーラ・ミュスティアウゲンは少し戸惑いながらも、黒を基調とした華ロリ風の装いに身を包む。
「大丈夫大丈夫、すっごく似合ってるよ!」
 ラズリがにこやかに背中を押した。
 ――そして、いよいよ祭りで賑わう通りへと四人は足を進めた。

「わぁ、屋台がいっぱいで目移りしちゃう!」
 鏡子が思わず弾む声を上げる。
「やっぱり、美味しそうな匂いに釣られちゃうよね!」
 その隣で、ぴょん、と白いポメラニアンが跳ねた。
 ラズリが連れてきた“白玉”も、皆の周りをくるくると回りながら楽しそうに動き回っている。
「ふふ、白玉ちゃんもお祭りが楽しいみたいね」
 深琴が穏やかに微笑む。
「皆、はぐれないように気を付けてね?」
 そう言いながら皆を見守りつつ、漂ってくる香りにはつい視線が揺れてしまう。
「お腹も空いちゃったし、まずは食事っぽいのがいいかな?」
 ラズリもふらりと匂いに引き寄せられる。
「やっぱり点心系は美味しそう……!」
 蒸籠の並ぶ屋台を見て、楽しげに指折り数えながら。
「肉まんとー、桃まんとー、胡麻餡揚げ菓子とー……」
「……どんどん甘味になっていってるわね」
 深琴が小さく笑えば、ラズリもつられて頬を緩ませる。
「まず、小籠包や焼売は外せないかしら」
 きっちりと主食も押さえるあたり、抜かりがない。
 一方で、クラーラは別の屋台へと興味を惹かれ。
「……こちらも気になりますね」
 仙火で炙られる串焼きの屋台へと歩み寄っていた。
「この香ばしさは……見ずとも食欲を誘います」
 よし、と数本購入し、皆の方へと戻ってくる。
「――こちら、買ってきたのですけど。折角ですし、分け合いましょう」
「わ、串焼き!? クラーラちゃん、有難う!」
「みんなでいっぱい買って、たくさんの味を楽しんじゃおー!」
「ええ、分け合いっこしましょう」
「皆と一緒だから出来る楽しみ方よね」
 それぞれ気になったものを買って集まっていた所に、一旦離れていたラズリも戻ってきて。
「工芸茶も気になっててさ、買ってきたよー!」
「いいですね、飲み物も揃うとさらに楽しいです」

 それぞれが選んだ品が卓の上に並べられ、ちいさな“持ち寄り”が出来上がる。
 肉まん、小籠包、焼売。
 胡麻餡の揚げ菓子、桃まん、団子。
 そして串焼きに、花の工芸茶。
「クラーラの串焼き美味しそうー!」
「餡まんと分けようっ」
「では、こちらもどうぞ」
「深琴がみつけたクレープもいいなぁ!」
「……そういえばさっき、蜜をかけたお団子もあったわね」
 気になったんだけど手が一杯で、なんて深琴がぽつりと零せば、鏡子が興味津々と身を乗り出す。
「そのお団子も、とっても気になる……!」
 どこで売ってたの~? と聞いて深琴が指さす方向へ視線を向ければ、
「えへへ、考えるよりもってことで――突撃してきちゃうよ!」
 鏡子が勢いよく走り出す。
「あっ、白玉も……!?」
 それにつられて走り出した白玉に、ラズリが慌てて声を上げる。
「まってまって!」
 ぴょんぴょんと、跳ねるように駆け出したと鏡子と白玉の後をラズリが追いかけ、その様子を深琴は微笑みながら、クラーラは静かに見送った。
「二人とも行動が早いわ」
「……ですが、楽しそうです」
「ふふ、そうね」

 やがてまた全員が集まり、賑やかな時間が続いていく。
 春の味と空気を、ゆっくりと重ねながら。
「ふふ、お土産も勿論買って行こうね!」
「ええ、そうしましょう」
「賛成です」
「いっぱい買おうね!」
 春の祭りは、まだまだ続く。
 その賑わいの中で、四人はそれぞれの楽しみを胸に次の屋台へと歩き出すのだった。

レイパスト・サンカバー


「気がつけば……街の輝きも賑わいも、大きくなっておるな」
 レイパスト・サンカバーは足を止め、静かに周囲を見渡した。
 金の眸に映るのは、鮮やかな色と光、そして沢山の人の流れ。
「花達も共に祝うかのように散っておる……」
 ふわりと舞い落ちる花びらに、そっと指先を伸ばす。
「では――花達の誘いのまま、我も歩を向かわせよう」
 そう呟き、ゆるやかに祭りで賑わう通りへと歩き出した。

 やがて辿り着いたのは、飴細工の屋台だ。
「まずは、飴屋であるか」
 並ぶのは、艶やかな飴で包まれた果実。
 そして動物や花などを模した、細やかに形作られた飴細工の数々。
「飴で彩られた果実に、飴細工……」
 ひとつひとつをじっと見つめる。
「何れも鮮やかで……故に、迷うな……」
 真剣な面持ちで悩むその姿は、見た目相応な少女と変わりない。
『嬢ちゃん、その格好なら――桃なんか似合うんじゃねぇか?』
「ふむ?」
 店主の声にレイパストは視線を上げ、少し考えて頷いた。
「今の装いに合わせ、桃がお薦め……とな」
 確かにそうかもしれないと、改めて自分の装いをキョロキョロと確かめつつ。
『それと――』
 店主はレイパストが大事そうに持っている彩蛋をちらりと見て、口元を緩める。
『その卵の絵、いいな。飴でも作れるぜ。焔の鳥だろ?』
 手にする卵に描かれているのは、さきほど自ら描いたかわいらしい鳥の絵だ。店主はそれを指さして言っているのだろう。
「そ、そこは凛々しいものに……」
 言いかけて、レイパストはふと迷う。
「……いや」
 小さく首を振る。
「やはり、描かれたままのにしてもらおう」
『お、作ってみるかい?』
 店主は自信満々ににやりと笑う。
『見た目だけじゃねぇ、気に入った“形”ってのは大事だからな』
 そして、手元の飴をすくい上げた。
『任せときな。ちゃんと、その鳥を“生かして”やるよ』
 火にかけられた飴が、するりと伸び、鋏で切られていく度に少しずつ形を成していく。レイパストの眸は、その動きを一瞬も逃さない。
「……見事、だ」
『ほらよ、できたぜ』
 差し出された飴細工の鳥は、光を受けてきらめいていた。
「……心から礼を、言わねばな」
 丁寧に頭を下げる少女に、店主は軽く手を振る。
『いいってことよ。祭りなんだ、楽しんでいきな!』

 飴と彩蛋。
 両手にふたつを抱えながら、レイパストは再び歩き出す。
 ふわふわとした心持ちを抱いていれば、遠くから銅鑼と笛の音が響いてきた。
「あれが、祭りの巡行列か……では――龍と花車が舞う場へ我も行ってみよう」
 うねる龍灯、華やかな花車。
 その中心には、確かに春があった。