老舗は美味しいけど時代に置いてかれてる
「皆様お集まりいただきありがとうございます」
一礼するヴェイカー・ベークス(目指せパン罪者・h01060)はいつもの謎会議室の中で資料を広げてから。
「最近噂の魔法少女事件ですねぇ……かなり事件数も出ているようですし、皆さまも勝手はご存じでしょうが、ザックリ説明すると、魔法少女覚醒が星に出ました。その覚醒前に現場に急行し、覚醒と同時に簒奪者の迎撃に当たって頂きたいのです」
EDENも簒奪者も星詠みを抱えている以上、お互いに予知ってスタンバイができてしまう。こっちがあっちに気づかれないように、こちらもあちらの潜伏を看破するのは困難。事態が動くまでは周囲に潜んでいる必要がありそうだ。星詠みは年齢の割にやたら発育のいい体つきに、のほほんと落ち着いた雰囲気の少女の写真を提示しながら。
「護衛対象は海原勇魚【うなばら・いさな】という中一少女です。当の本人は突然の覚醒に呆けて動かなくなってしまう為、できるだけ近くにいてほしいのですが、現場は彼女の実家のお寿司屋さんでして……」
じゃあその辺に隠れてればええやん?って思ったEDEN達だったが。
「なんとお店は廃業寸前で、店内には勇魚と彼女の祖父、そしてそれを取り囲む黒服の物騒な面々というきな臭い状況に陥っておりましてねぇ……皆さんにはバイトを名乗って店内に乗り込んで、『この新料理で経営を立て直して見せる!』とか言って、黒服を納得させなければなりません。無論、後に作るのは皆さまではなく、店主ですから再現が簡単に可能である事が必須ですよ?」
違う意味で難易度が高そうな案件だった事が判明したところで、星詠みが扉を開くとそこは、ボロ臭い上に看板が傾いた寿司屋の前だった。
第1章 日常 『店を救う一皿』
「……どうしろと?」
惟吹・悠疾(痴れ者探偵・h00220)は現場に到着するなり眉間にしわを寄せた。
「俺は敏腕コンサルタントでも凄腕料理人でもないんだけど……」
「それを考えるのが我々の仕事ですよ」
青亀・良助(バトラーブルー・h05282)はスチャッと眼鏡を上げると反射で目元を真っ白にして。
「総帥はお優しいから『よし、うちで援助して立て直してみせよう』と言いかねません。投資するにしても、それに見合う店か見定めませんと……決して、カウンター側から寿司屋のネタケースを拝めるチャンスとは思っていませんよ?」
「なんで誰にも聞かれてないのに先回りして言うんだよ」
好奇心が抑えきれていない節のある良助に悠疾がツッコミを入れつつ、お店の扉をガラリラ……スライド式の戸を開けると。
「このオンボロ小屋を見てみィ!これで店をやってるって言えんのかえぇ!?」
「仕入れだってロクにできてねぇのが実情だろ!?とっとと腹ァ括れや!ガキに見られて恥ずかしくねぇのか!?」
「……」
老兵。そう呼ぶにふさわしい長身の老爺は長い白髪を後方に流し、腕を組んでカウンターの向こうで仁王立ちしている。それを取り囲む様に筋骨隆々の男達が老爺に店の実情を一つ一つ示しながら怒鳴りたてているではないか。老爺の陰には、件の少女が身を隠すようにして震えており。
「待て待て待て、何があったのか知らないが、ちょっと待った」
間に割って入った悠疾は黒服の方を見上げて。
「何の騒ぎか知らないが、最近バイトに入った身としちゃ、給料が支払われなくなったら困る。オッサンらが何がどうなってこんな真似をしているのか説明してもらおうか」
「バイトだぁ……?」
男たちは顔を見合わせると、突然笑いだし。
「お前が?ここの?冗談も大概にしろや!余所者に用はねぇ!!」
「そっちこそ何の権利があってこんなやり方してるのか、正当な理由があるなら示してもらおうじゃねぇか!」
料理で勝負しろって言ったのに、変な方向からアプローチするからややこしい事になってる……まぁ、なんとかなるやろ。
食って掛かれば男達は懐から刃物を取り出し、悠疾も隠し持った刀に手を伸ばすのだが。
「ちぇりゃぁーッ!!」
閃く無数の剣閃の先に、産み落とされたのは一貫の寿司。素人の悠疾が見ても分かる、極上の一貫。
「こ、これは……!?」
「コイツが俺達の……海原師匠の下で学んだ弟子の身分証明よ!!」
「って、お前等ヤクザじゃなかったんかい!!」
おかしいな、こんな速攻で正体がバレる予定じゃなかったんだけどな……それはそれとして、こんな展開になったが為に悠疾は窮地に立たされることに。
「で?バイトを名乗るからには相応のモンは持ってんだろうな?」
「も、もちろん……見やがれ、これこそが俺の寿司……!」
というわけで並んだのはサラダ巻きやシーチキン、ます寿司やサーモンや鰹……そこに白いものがどっぷり。
「マヨネーズ攻めだ!!」
「調味料に逃げんなや!?」
「うるせー!料理人に言わせりゃ濃い目の味付けは邪道かもしれないが、魚の臭みも消えるし甘味も出るから万人受けしやすいだろうが!最近は炙りサーモンやカツオのタタキなんかと合わせて、焼いた寿司にはマヨネーズって定番もあるんだぞ!?」
悠疾と黒服が喧嘩し始めると、良助は眉間を揉んでため息をつきながら。
「とにかく、皆さまはこのお店の敵ではないのですね?」
「ったりめーよ!師匠はこの物価高の不景気に、昔の値段据え置きで、そのくせ質はあげ続けようとするもんだからあっという間に経営破綻して店が立ち行かなくなっちまったのよ。で、世話ンなった師匠を俺達が放っておくわけにもいかないから出張って来たわけだが……」
ギロッ。男が腕組みをした老爺を睨めば、入道顔のまま、スッと視線を逸らされた。
「テメェの店はテメェで守ると言って聞かねぇし、かといって安い魚を仕入れるかと言えばそれもヤダと来た」
ワガママジジィ拘りの店、と言えば聞こえはいいが、これは中々に致命的。良助は天を仰ぐが、一拍置いて気を取り直し。
「それで、そもそもこの寿司屋はどういうコンセプトだったんですか?高級志向やファミリー向け、それだけでも経営方針やメニューも変わりますし。一応、私の提案は鮪の中落ち等、廃棄されやすい部分やベラ等の外道(目的外の網にかかる魚)を使用した寿司などでフードロスやSDGsに訴える方向性でのプランですかね。供給不安定も『限定品』や『気まぐれメニュー』といくらでも飾れます。元々、時価が多い寿司界隈では受け入れ安いのでは?」
「その発想は悪くない……が」
ちらと、今度は男と同時に良助も店主を見やるが、スーイ。目が逃げる。
「……一応お伺いしたいのですが、店主殿の腕前の方は確かなんですよね?」
「あたぼうよ。俺らが束になっても敵いやしねぇ……んだけどなぁ……魚離れの今日には、ガキに美味い魚を食わせてやりゃあいい、とか言って、孫娘の為にって気合入れ始めてからというもの、一周回ってやり過ぎて、『ほどほど』ってモンを手抜きだと言い切る頑固爺になっちまってる」
想定以上に厄介な案件に関わってしまった事に、良助がついに頭を抱えてしまうと、黒木・摩那(異世界猟兵『ミステル・ノワール』・h02365)も小さく唸り。
「そんなに腕もいいのに、今にも潰れそうな老舗のお寿司屋さんですか。きっとお寿司のネタとかいいもの使っているんでしょうね。でも、お値段もそれなりになってしまって、お客さんが来なくなって……と思っていたら、それどころの話ですらないときましたか。トロとかサーモンとか、普通の素材で勝負していてはジリ貧は必至。インパクトが欲しいですね」
と、いつもの唐辛子セットを出そうとして、踏みとどまり。
「ここで唐辛子ドンっは人を選びますよね。怪異料理なんてインパクトだらけですが、材料の調達が難しいし……そこで考えました」
そもそも民間人に怪異料理をお勧めするんじゃねぇよ。次に出す提案はもう少しまともなものであってほしい所だが。
「深海魚をネタにするのはどうでしょう。深海魚ならば海である程度穫れるし、味の良いものも多いようですよ。見た目もすごいし。話題になりますよ」
思ったよりちゃんとしてた。
「それこそ、文字通りに死ぬほど美味い魚、なんてものもいますし」
「ほう……面白い事を言う」
いつの間にか夜神・蛇凛(厨二病のAnkerの「魔法少女」・h12488)がカウンター席で足を組み、意味深な流し目を向けていて。
「シュシュッ、たかが寿司でこの八岐大蛇を殺せるとでも?」
空気を噴き出すような独特の笑い方をして口角を上げる蛇凛に、摩那は早速ちゃちゃっと捌いて見せるのだが。
「いい包丁だな……切れ味も申し分ないが、魚の身に寄りがちっとも起こらねぇ」
「ふふふ、自慢のマグロ包丁ですから」
職人も認める業物が切ったのはたった三切れ。それを握って蛇凛の前へ。
「一貫食べれば絶品、二貫食べれば極楽、三貫食べれば地獄逝き。どうぞご賞味あれ」
「シュシュッ、この程度で我を満足させようとは片腹痛……うまーっ!?」
口にすれば脂の乗った身は旨味十分。まずはそのまま一貫、そして二貫目は醤油で味覚を変えて……。
「ハァイ♪気が付けばそこにいる、そして誰もそれに違和感を抱けない。あなたの隣のイマジナリーフレンド、セカカラちゃん惨状♪」
あーっと!ここで何の脈絡もなくアリス・セカンドカラー(時間と空間を超越する唯一つの窮極的かつ永遠の『夜』少女・h02186)が湧いた(※こいつが来ると大体大惨事になるから『惨状』は誤字にあらず)!!彼女は口元に指を添えて、視線を虚空に向けて考え込み。
「老舗のお寿司屋さんかぁ、流行らないのはあれね映えがないからね。ということは、伝統を守りつつも映えがあるような一品を握ればいいわけね。ところで話は変わるけど文章のいいところは具体的な内容を読み手に丸投げできるところよね☆はい、完成♪」
などと、アリスはカウンターに並んだ料理を……。
「て、担当官ストップストップ、私なら作りそうなアレがないとか影響されるから続きを書いちゃらめぇ!!」
アリス、貴様は大前提を忘れているようだな?
「……大前提?」
文章だの文字列だの言っていられるのはあくまでも『こちら側』。つまり現実には干渉しないアウトサイダーの話。お前が如何なる存在であろうと現場に立ち、何らかの作用を引き起こすのなら、それは幕が上がった舞台の上。壇上で台本を読む演者がいるか?
「つ、つまり?」
カウンターには悪魔造形の寿司がドーン!!
「イヤーッ!?」
第一の刺客!スターゲイジー!!さすがにシャリにニシンは収まらず、シャリから無数のシラスが顔をのぞかせ、空って言うか客の目をジッと見つめて来る……直視したあなたはSAN値チェックです。
第二の刺客!ゼリードイード!!水羊羹に収まったウナギが乗っかったシャリという、存在そのものが寿司への冒涜と言わざるを得ない代物である。
そして第三の刺客!……あれ?三つめは?アリス、証拠隠滅に食べた?
「いやいやいやいや、いくら私でもそんな真似はしないわよ?」
じゃあ一体どこに……って思ったら、蛇凛の前には一貫の寿司。当の本人は物凄い満足顔で。
「フッ……それ見た事か、我を魚風情が殺せるものか」
ねぇ蛇凛、その寿司何貫食べた?
「ん?三貫食らえば死すのであろ?だから一貫残したが?シュシュッ、寿司三貫で我を葬れるかもしれぬ……そのわずかな希望を残しておいてやるのもまた、八岐大蛇の慈悲というものよ」
……なぁ、アリス?
「言わないで、なんか、察したから」
いや、あえて聞こう。お前も用意してたよな?食ったら死ぬやつ。てことは、この場には『四貫』あったんだよな?
「ふぐっ!?」
急に硬直した蛇凛、腹部を押さえて。
「シュ……シュシュ……我を呼ぶ声がするな……い、致し方あるまい、少しばかり応えてやるか……」
などと、こそっと席を離れていった。アレ、症状が出なくて気が付いたらって人もいるから、ちゃんとお腹壊した彼女は運が良かったのかもしれない。
「あらら~……」
まさか犠牲者が出てしまうとは思わなかったのか、呆然と見送るアリス。その肩にポンと手を置かれて振り向けば。
「魚類を大事にしないやつは死ねぴす!」
「火の玉ストレートな敵意でぶん殴られたんだけど!?」
逆刃・純素(サカバンバの刀・h00089)は擬人化装置で人の形をしているはずなのだが、顔が丸二つと三角一つで構成された魚の時のピス顔になっており、顔に合わない凄まじい圧をかけながら冒涜寿司を示して。
「魚類だって生きているぴす……生きるために殺すのは分かるぴす……だが弄ぶ奴は不殺【チェスト】するぴす」
一撃必殺の剣技を匂わせる純素だが、さすがに子どもの前で刃傷沙汰はよろしくないと思ったのだろう。鎖でグルグル巻きにしたアリスの口に竹筒を突っ込み、生け簀に沈めてから。
「ふむ……必要なのは発想の転換ぴすね」
何事もなかったかのように提案し始めただと……!?
「大事なのはインパクト。時代の流れ。そしてターゲットを明確にすることぴす!ここから導き出せる答えは、ずばり肉寿司!ちょうどタイムラインが海外のBBQ画像一色になってますし……」
おい最後のボソッと呟いたやつ!それまさかメタ情報じゃねぇだろうな!?GWまであと一月だから、そろそろ商業施設がアピールする頃合いだけれども!!
「話は聞かせてもらったわ!」
ドアバァン!ガチャン!!派手に登場しすぎて引き戸のガラス戸を思いっきり割っちゃったアーシャ・ヴァリアント(ドラゴンプロトコルの竜人格闘者・h02334)は「あ、やべ」って顔で店の入り口を見ていたが。
「魚より肉!」
コイツも何事もなかったかのように話を進めただと!?我が道を行く奴が多いな今回!?
「やっぱりマグロ食ってるようなのはダメだなっていう名言があるでしょ!つまりマグロ出してるようなお店は駄目なのよ!」
それほぼ全ての寿司屋を敵に回す事になるぞ!?ていうかそのセリフ、事務所が割とガチギレしてて皮肉って脚本に入れたとかいう違う意味で怖い話があるからやめてね……?
それはさておき、背負って来た馬鹿でかい肉をぶん回して強引に店内に運び込み、ガラスが砕けて茹で卵切断機みたいな見た目になってた戸が完全に破壊されてしまったが、アーシャは意に介さず。
「美味しいお肉とご飯の組み合わせこそ至高よ、これで流行らないなんてありえないわ!」
「ローストビーフ寿司とかBBQ寿司とか鶏刺し寿司とか、海外の観光客向けにアレンジした味付けの見栄えする肉寿司にして、専門店としてリニューアルぴす!居酒屋とか焼肉屋のサイドメニューじゃなく、これ専門でやってくぴす!うまくいったらついでに海外出店とかするといいぴす!」
「ちょっと待て!?」
肉コンビの発言に黒服がさすがに割って入り。
「話を聞いてたか!?師匠は日本の子どもの魚離れを憂いて……!」
「うっさいわね!そんなちんけな事言ってるから倒産するのよ!」
「してない!まだ潰れてないから!かろうじて生きてるから!!」
文字通り口から火を吹いて真っ向から否定するアーシャに対して、純素はうんうん頷き。
「確かに魚類の文化を大事にするお師匠さんの気持ちは分かるぴす……だがこの経営状況が許すぴすかな!?」
「できるできないじゃない、やれ、やるのよ、ベストを尽くせばなんだってできるわ!ていうかやらないと先がないわよ!!」
ダメだ、店側の味方がいねぇ!
「それに、現代はグローバル社会ぴす!海外受けする方がやっていけるっていうのもあるぴすが、子ども達に世界を知ってもらう意味でも肉寿司を売りにするべきぴす!ついでに鶏刺し寿司とか出して、日本のご当地文化も出して行けば国内外の文化を継承できるぴす!!」
「うっ……!」
などと鶏肉の表面を炙って、鶏皮部分だけをコンガリ仕上げて身の方は薄紅プニプニのままシャリに乗せ、柚子胡椒と小葱を添えてポン酢を垂らした寿司を突き出して来る純素。それを見た途端に店主は苦しみ始め、黒服たちが慌てふためく。
「師匠!?まさか、歳で!?」
「あ、違うよぉ。おじいちゃん、お父さんが魚嫌いになって、焼肉店経営で成功してからぁ、お肉の調理に関わると発作が出るんだぁ」
勇魚の説明に一同が胸を撫でおろすものの、純素とアーシャは考え込み。
「そもそもお肉の調理ができないって、料理人として致命的じゃないぴす?」
「寿司屋としては困らなかったんでしょうけど、寿司もバリエーション豊かな今時じゃキツイでしょうね……」
「だからここはマヨネーズで一発逆転をだな……!」
「シャーラップ!味の強い調味料でゴリ押しするのは料理人のプライドが許さないって言ってんだろ!?」
まだ諦めてなかった悠疾を黒服がヘッドロックで黙らせようとする一方、良助は冷たい目をして。
「細部までこだわるのは結構ですが、それで経営が立ち行かないなら本末転倒では?こうしてお孫さんも遊びに来ているのなら、まずはこの店を潰したくない、というのが皆様共通の目標……ですよね?」
理想とは、現実の対義語だ。一から十まで要望を追っかけていては、叶うはずのものも叶わない。夢に投資する側だからこそ、叶う夢とそうでないモノの境界線は明確にしていく良助に、重い空気が立ち込めたところで、ズドォン!今度は重いものが天井をぶち抜いて降って来た。濛々と立ち込める粉塵の中では、何かが淡く光っており。
「やぁ、こんにちは、ボクは星の子エトワルだよ!今日は、潰れかけ寸前のお寿司屋さんに幸せになって貰う為に来たんだ!」
エトワル・アステリア(星座の戦士(PR会社『オリュンポス』の一番星)・h07142)が参戦!なお、発光していますがお星様ではなくヒトデの男の子だそうで……まぁそんな事は置いといて、現場を見回したエトワルはというと。
「うーん、スーツを着た人たちがいっぱいでみんな真剣な表情をしているね……あ、そういえばPR会社でも見たことがある……これは会議なんだね!議題はお店の存続?うーん、やっぱりこのお寿司は、ヒトをみりょーするインパクトに欠けるのかな?確かこんな時の為のいい道具があるはず……」
などと、バッグをゴソゴソ漁っていたエトワルは塩っぽい物や醤油っぽい物を取り出して。
「ぱんぱかぱーん!『匠印の合法調味料セット』さぁ、この道具はおじいさんのものだよ!」
「……おう?」
困惑と共に店主が道具というか、調味料を受け取れば、エトワルはむふー。
「この白い粉や気持ちよくなる液体を料理に使えば、道行く人みんなが、お寿司に引き寄せられるようにたべたくてたまらなくなるよ☆」
『アウトー!!』
これにはその場の全員からバッシングが入ってしまった。
「どう考えても普通の調味料じゃないだろソレ!?」
「というか、商品名に『合法』ってつく辺り、中身は違法ですよね……?」
悠疾と摩那のツッコミに、エトワルはスターゲイスシーに新しく取り出した塩っぽい物をパッパ。
「そんな物騒な物じゃないよ!ほら、見てて……」
「シュ……シュシュ……我、帰還である……む?」
そこに帰って来た蛇凛、スターゲイスシー(加工済)に吸い寄せられるように近づいていき。
「すし……しゅし……しゅき……」
元々なんか死んだ目で帰って来た蛇凛は、寿司を見るなり目が虚ろになり、口に運んだ途端。
「あ、あひっ、おしゅし!おしゅしたべゆの!しゅし!しゅししゅししゅし!!」
壊れてしまったようだ。次に会う時の蛇凛はもっと上手くやってくれることでしょう。
「これ絶対人間に食べせちゃいけないものでしょ!?」
割と非常識なアーシャもこれにはドン引き。全身の筋肉が弛緩して床に崩れ落ち、目も口も半開きのままカウンターの上に手を伸ばそうと床の上で蠢く蛇凛の有様は、まさしく(不適切な単語が検出されました)である。しかし当のエトワルは不思議そうに。
「それの何がいけないの?だって、経営を立て直したいんだよね?だったらでろんでろんになって、考える事なんてできなくなって、ただただお寿司をお腹いっぱい食べてくれるお客さんがどんどん集まってくれれば、経済的利益は十分見込めるよね?」
「倫理感って知ってるぴす!?」
純素までツッコミに回る事態だが、エトワルはキョトンとして。
「綺麗ごとじゃ願いは叶わないんだよ?」
重苦しい現実を突きつけてくるなぁ……!
「うさてんちゃんは食べられないし味もワカンナイケド食べ物のコトは勉強してるヨ☆ニンゲンちゃんには必要だからネ☆」
エトワルと一緒に降ってきていたらしい兎玉・天(うさてん堂・h04493)がぴょこっと飛び出すと、何故かエプロンに三角巾を装備済み。ただし手には鍋という、寿司にはあまり関係ない調理器具が。
「アハ☆バイトのうさてんちゃんだヨ☆台所借りるネ☆新料理は他にないレアモノを出すといいヨ☆なのでコレッ☆フシギ道具☆がっちゃんこ装置☆」
なんかもう既に嫌な予感しかしないのだが、何故か内側に螺旋模様が彫られた鍋の蓋を開きながら。
「魚とナニか一緒に入れて装置をポチッてすると一匹の合体怪魚ちゃんになるヨ☆このエビと魚トカ合体させてミル?」
おいバカやめろ。誰かが叫んだ気がしたがもう遅い。サバとエビを入れて蓋をし、ポチッとな。蒸気を噴き出した蓋を退けたそこにあったのは、赤い殻を持ったサバだった。
「うわ……お仲間の失敗進化を見せられてる気分ぴす……」
笑顔に見える無表情という、凄く分かりにくい純素が顔はそのまま、雰囲気だけ虚無っている前から、天が怪魚を取り出すと店主に差し出し。
「新しい魚だケド、今まで色んな魚を捌いてきた店主ちゃんならわかるよネ☆やり方教えて欲しいナ☆ア☆今後は装置か合体怪魚をうさてん堂から買ってネ☆オマケはするヨ☆」
「いやこれ、そもそも食えるのか……?」
忘れる力の影響なのか、ビックリしすぎて頭が回っていないのか、店主が目を白黒させながら魚を観察していると。
「ダイジョーブ☆がっちゃんこ装置は食べ物と食べ物を混ぜたら食べものになるからネ☆きっとみかん味のお魚みたいな感じでおいしーヨ☆」
などと味なんて分かんないくせに無責任な事を言う天だが、今回の不思議道具、正式名称を『簡易錬金釜』は中に入れた物から特定の要素を抽出、再結晶させる代物。サバかエビだけならうまみ成分のみが引き出された上質な出汁が出来上がったのだが、二つ同時に入れた為に悲しきキメラとなっただけで、安全性『は』保証されている。
「見た目は普通の魚っぽいがなぁ……」
捌いた身がサバの切り身にしか見えない店主が首を捻りながらも天に渡せば、それを彼女がぎゅぎゅっと握り。
「はい、デキタ☆早速食べてもらオー☆味はワカンナイケド今までにナイ味になってるハズ☆」
「おしゅし!」
という事でなんか壊れてた蛇凛に差し出すのだが……天の正体は人間災厄『巨大質量』。そんな彼女が『ぎゅぎゅっと』握ったシャリは当然変質しており、そこに潰してしまわないように重ねた切り身と更なる反応を起こして……。
「エビフライ味ッ!?」
口にした蛇凛は、そう言い残して逝ってしまった。
「アリャ?圧縮しすぎてお米の油でも出ちゃってたカナ?」
まさか自分が変質の原因とは思ってもいない天なのだった。しかしここまでロクな寿司が出てねぇな……。
「マヨネーズを否定する気か!?」
「食材を選びすぎなのですよ……」
「魚より肉でしょ!?」
「肉寿司でバズを狙うべきぴす!」
「……」←この辺に生け簀に沈められて発言権がないアリス
「大切なのは売れるかどうかだよね?」
最後のヒトデに至っては人でなしな代物持ち出すしさぁ!
「オネエサマを呼んでワタシがバフって料理作らせれば楽勝ナンデショウケドネー」
遠回しにサボり宣言している気もするスノードロップ・シングウジ(異端の末裔・h01215)だが、今回は件のお姉さまが来ておらず。
「最近巻き込み過ぎたからナア。最近はちっともドウジナイんだヨナーあの修羅。ほんっっとに無駄に強いシ。殴られると超イタイ……マア、あの姉には、破壊の才能はアッても創造の才はナイからナー。やっぱ駄目ネ、あの野蛮姉」
ねぇ大丈夫?俺の目にはスノードロップの頭に死亡フラグが四本くらい建ってるように見えるんだけど?
「ダイジョブよー。いくらオネエサマでも、呼ばれてもないのにこの近くを通りすがるなんてありえナイし、この場にいないのにワタシの発言を聞いているなんてアリエナイネー」
って舐めプしている事を直感で看破されたりは?
「……マア、見た目をバズるように作ればいいカナ」
今その可能性に気づいたな!?
「だ、ダイジョーブ、オネエサマが来る前に依頼を完遂して、何食わぬ顔で帰ればいいだけデース!」
若干ガクブルしながらも、スノードロップが選んだ食材は卵や海苔など、ほとんど仕入れができていないこの寿司屋もあった、魚以外の食材。
「見た人ヲ魅了スルような創造物はスノーちゃんの真骨頂ヨ。姉とは違うノヨ。野蛮姉とはネー!HAHAHA」
黒子のプチ骸骨を呼び出して助手につけ、海苔をカットさせている間に他の食材を駆使してちらし寿司を仕上げて、最後に海苔を慎重に乗せれば。
「勇魚寿司の完成デース!」
なんと、孫娘ちゃんの肖像画のようなちらし寿司が完成。
「これなら今のほとんどお魚が入ってこない状況でも作れマスし、お肉も使わず、映えも狙えマス!」
まさかのスノードロップが一番まともな案を出して来ただと……!?
「ワタシの事なんだと思ってたんデスカ!?」
脳筋バーサーカー(ギャグ味)。
「質の悪いハンバーガーみたいな言い方しないでもらえマスカ!?」
「確かに、これなら条件を全部満たせますし、お孫さんがモチーフとあっては、店主さんもやる気が出るのではありませんか?まぁ、食べる時には崩さないとですけど……経営の立て直しの第一歩には十分では?」
作ったスノードロップがギャースカ言ってる間に摩那が店主に問えば、彼はしばらく難しい顔をしていたが。
「まぁ、それくらいならやってやるか……」
ようやく首を縦に振ってくれるのだった。
第2章 集団戦 『デザイアモンスター』
「よかったぁ……」
一先ず、祖父がやる気を出してくれた事に一安心した少女、勇魚。
「おじいちゃん、このお店大切にしてたもんねぇ……私も何かしてあげられたらよかったのになぁ……」
理由も形も関係ない。少女が未来への希望を見出すと同時に力を求めた、その瞬間。
「……ほぇ?」
胸の内から溢れ出す心のありよう。清く美しい、他者の幸福を求める願いが光を編み、少女の体を包み込んで漣を描くドレスに姿を変えて、彼女の体に尾鰭という新たな身体部位を発生させた。
「あれ?あれぇ?」
何が起こったのか分かっていない様子の勇魚だが……がさっ。壊れた天井とかドアとかから、火の玉を粘菌が取り込んで、熱で過剰活性して人型を取ったようなバケモンがチラッ、チラチラッ。
「魔法少女だ!」
「囲め!!」
「ヒャッハー!今日のランチにしてやるぜェ!!」
なんか蛮族みたいな事言いながら襲い掛かって来る!?
※魔法少女化した勇魚はもちろん、店主のおじいちゃんやお弟子さん達も現場に取り残されたままです。護衛するなり避難誘導するなり、カバーする行動が必要になるでしょう。ただ敵を倒すのではなく、自分の後ろに攻撃が飛ばない工夫があるといいかも?
「む?」
急に正気を取り戻した蛇凛、とりあえず周囲を見る、なんか察する、佇まいを整える。この間わずか数秒。
「ほう、貴様も力に『覚醒』したようだな。前世の記憶は……その様子だと覚えておらぬようだな。しかし、説明してる時間はないようだ。『覚醒』をかぎつけて我らが前世で封印した『かの敵』が先兵を送り込んできたようだ。しかし、業【カルマ】を溜めるわけにはいかぬ、周囲の被害は最小限にせねば。となれば、魔眼の封印を解かねばならぬか……さぁ、命を奪う我が魔眼の力、とくと味わうがいい!!」
などと、いきなり情報をぶち込まれて、ぽけっとしてしまう勇魚を他所に蛇凛が眼帯を解き放つのだが。
▼蛇凛の魔眼攻撃!効果はないようだ……
「……む?」
まぁ、ただの中二病だから……。
「んな!?我の魔眼を茶番と申すか!?我が魔眼は視線一つで命を啜るモノぞ!?」
などと睨みを利かせる蛇凛だが、何も起こらないんだから仕方ない。両頬を膨らませてプルプル震え始めた蛇凛は急に『こっち』を指さして。
「貴様ァ!いくらギャグ依頼と言えどやっていい事と悪い事があろう!?」
しゃーないやんけ、そもそもアレ(今回の敵)に吸い取るだけの命がないんだから。
「あっ」
蛇凛の魔眼と敵さんの相性がクッソ悪い事が判明して呆然としてしまったところで、アリスはなんかこう、空間をウネウネモニモニグネングネンしており。
「えー、世界の歪みを広げてー、さらに魔法障壁を店舗と勇魚ちゃんとたいしょーと黒服ずに張ってー」
どうにかこうにか、複数のバリアを同時展開。一仕事終えたアリスは額を拭って。
「ふー……仮に魔法障壁抜かれてもギャグ補正でなんとかなる……といいなー。おわかりいただけただろうか?この対処が敵ではなく味方の攻撃へのものだということを……なぁんで無差別攻撃しそうなのが複数人いるんですかねぇ?」
いつもの事やんけ。死んだ目になってるアリスの傍ら、摩那は視線を滑らせて、囲まれている事に奥歯を噛みつつ。
「魔法少女イサナ覚醒ですね。覚醒して早々からハードな展開ですが、幸い√能力者はたくさんいます。まずは自らとおじいさんの身の安全を優先して、下がっててくださいね。その間にどんな魔法が使えるか、試してもいいかもしれません」
などと言いつつ、空間をモニモニするという、ついさっきアリスがやってたような事を始める摩那。え、何、お前も謎魔術使い始めたの……?
「あんなのとは違いますよ!?」
「あんなの!?」ずがーん
アリスがサラッとショックを受けている間に、摩那は謎空間をむにぃっと開いて。
「他にも黒服さんもたくさんいますから、一部はここに入ってもらいますかね。ちょっと寒いですけど。凍るまでには助けますよ」
しれっと亜空間冷凍庫に一般人を入れようとするんじゃない!!
「ひとまず丸く収まったようでなによりぴす。って、本当の目的を忘れちゃダメぴすね。しっかり守らないとぴす」
摩那がこじ開けた謎空間から溢れ出す冷気に黒服達がちょっと引いていると、純素が鉄板を床に置き。
「お願い、壊れないでボロ店舗!あんたが今ここで壊れたら、今までの苦労はどうなっちゃうの!強度はまだ残ってる。ここを耐えれば再建できるんだから!次回「フラグやめろ」バトルスタンバイ!ぴす!」
などと純素が自動展開する簡易拠点を構築しようとした瞬間、ガッ!
「ここには年代物の貴重な調理設備などもあるのです。彼奴らの汚い手を触れさせる訳にはいきませんね……無論、EDEN側がそんな馬鹿な真似をするわけありませんよね?」
純素の頭と鉄板を同時に掴んで押さえ込んだ良助は、やたらニコニコ笑っているのに後ろにはなんかこう、亀っぽい大怪獣が見える。
「……ホントに壊したくないから、ほどほどのサイズで展開しますぴすね」
震え声で簡易拠点のスケールダウンを設定する純素に、冷凍眼鏡光で圧をかけ続ける良助はファンダーカードを取り出して。
「寿司屋の立て直しの目処はつきましたか。魔法少女をマスコットにするのもアリかもしれませんが……まずは邪魔者を排除ですかね」
『パスワードプリーズ?』
ファンダーリーダーにカードを差し込み、固有ナンバーをタップ。『承認』の文字と同時に飛び散る紙幣のホログラムが良助の体を包み込み、張り付いた途端に真っ青に染まっていった。
『コンプリート』
「ファンダーブルー、参ります」
ホログラムを吹き飛ばし、ファンダースーツに身を包んだブルーは一礼。
「守りなら任せてください、亀甲障壁展開!」
無数の六角形を組み合わせたドーム状のバリアを張り、徐々に膨らませていくブルーだが、戸が吹き飛んだ入り口や落下物がぶち抜いた天井から侵入してきた無数のデザイアモンスターを店内から排除する事は難しく、彼我の距離を維持するにとどまる。
無論、本気でやれば敵をまとめて吹っ飛ばす事もできなくはないが、やれば敵が店の設備にぶち当たって巻き添えになってしまう事は目に見えていた。
「√能力であれば理不尽で突飛な事もできたかもしれませんが……」
√能力も万能じゃないんだけどな?
「サテ、文明人のワタシは適当に後ろで歌ってるヨ。野蛮人の姉トハ違うノデー、殴りかかりにイクなんて野蛮な事シマセーン」
今回ほぼ全員が防御に振ったプレ組んでる中、スノードロップはさすがにアタッカーかなーって思ってたら、スッとマイクを構えて。
「しかし変わった能力持ってマスネ、アノうねうね。ワタシもなー、似たようなの持ってて姉に使ったラ、一週間近く、暴力の精霊が顕現シテしまったヨ。失敗、失敗。スノーちゃんが強すぎる所為でトンデモない化け物を創り出シテしまった」
それは強弱関係なく、姉を実験台にしたお前が悪いんじゃ……。
「サーテ、それじゃ一曲したためますかネ」
遠い目をしていたスノードロップはカウンター席に腰かけるとギターを鳴らしながら、五線譜とペンを取り出し。
「せっかく魔法少女サンも覚醒したことデスシ、戦闘テーマがいいですカネ?戦場で作曲するだなんてオカシイ?ノンノン、何故なら私は歌姫ダカラ。文明人ナノデス。マ、ウチの先祖は文明破壊シテマシタガネ、HAHAHA」
複数の防御障壁で十分に敵との距離がとれている事もあってか、これこのように一部のEDENは若干呑気な雰囲気があり。
「わぁー、すてきな魔法少女だね!特にその尾鰭なんてお寿司のネタにしたら、きっと美味しくハッピーで間違いなしだね!」
エトワルに至ってはこんなことを口にする始末である。
「鯨の尾肉なんて高級品だもんね……やっぱり、モンスターたちもそんなお寿司魔法少女に引き寄せられたのかな?」
「えぇ……私の尻尾食べられちゃうのぉ……?」
自分の尻尾を抱え込んで震え始める勇魚。彼女……ていうか、尻尾が沈み込む胸部を見つめる悠疾は不意に。
「……ちょっと気になったんだけど、TW6での獣人階梯でなら階梯5程度には魚要素が追加された勇魚は、今まで通り爺様の寿司を美味しく食べられるのかねぇ……?」
「んー、お魚食べたくない気持ちはないよぉ?」
むしろお腹が空いてしまったのか、でれーっとだらしない顔になる勇魚の肩に、天がぽむっと手を置いて。
「勇魚ちゃんはおじいちゃんのチカラになりたいんだネ☆わかったヨ☆うさてんちゃんそのオモイのお手伝いしてあげるネ☆フシギ道具☆童話セット☆コレを使うと童話の登場人物になりきるコトができるんだヨ☆ナニがいいカナー☆」
などと天はペラペラページをめくっていくが、無論この本がそんなぬるい説明に収まるわけがない。正式名称を『再演戯曲』。開けば最期、周囲の人間を取り込んで描かれた物語を再現させる禁書の一種である。そんな物騒なモンを開いた天はニッコニコでページを勇魚に向けて。
「勇魚ちゃんにはコレがピッタリ合いそー☆ピノキオ……のクジラだヨ☆」
「ほへぇ、クジ……ラ?」
「ダイジョーブ☆うさてんちゃんとみんなが勇魚ちゃんを守るカラ安心しておじいちゃんと弟子ちゃんたちを噛まずに飲みこんでネ☆」
ウィンクした天の前で、ムクムクムクムク……あっという間に膨れ上がった勇魚は巨大な鯨に姿を変えて、お店とついでに近隣の建造物をまとめてグシャァ。
「貴重な調理設備がー!?」
「ぴすの簡易拠点がー!?」
せっかくお店を守ろうと気にしていたのに、一瞬で苦労を無駄にされてしまったブルーと、一般人をまとめて守る為に簡易拠点を形成したのに、それをプチッとやられた上に、守るべき人々をビュオーッとまとめて丸呑みにされて、護衛の意味がなくなった純素が揃って崩れ落ちてしまった。しかし、一番衝撃を受けているのは勇魚本人であり。
「あ、あれぇ……どうなってるのぉ……?」
魔法少女になったかと思ったら、魔法生物染みたバケモンになってしまった彼女はオロオロ。狼狽えているだけなのだがその体はガレオン船的なアレを丸呑みにする巨大な鯨。身じろぎ一つで辺り一帯をデスローラー。敵も味方も関係なく、まとめてすり潰してしまう。
「ギャーッ!?いや確かに誤爆というかジェノサイドは発生するとは思っていたけども!よりによってEDENじゃなくて護衛対象がやらかすなんて聞いてないわよぉおおお!!」
奇跡的に身内アタックを予知していたアリスが障壁の対象を他のEDENまで拡張し、被害を最小限に抑えつつ、蛇凛が魔眼を向けて。
「勇魚よ!我が目を見よ!!」
「ふえぇ……!」
混乱していた所で急に声をかけられて、釣られて見てしまった勇魚が、ぼぎゅっ……ぼぎゅっ……。
「ヴッ!?」
巨大化した影響か、生命力を啜って、ていうかがぶ飲みして落ち着かせようとした蛇凛。しかし彼女のキャパの方が先に限界を迎えて口を押えてプルプル……コイツ今回犠牲になる小動物枠だな……とはいえ、蛇凛の犠牲(?)によってちょっと元気を失くして落ち着いた勇魚に純素が寄り添い。
「落ち着いて。ちょっと体がびっくりして普段と違うだけで、あなたはなにも変わってないから。ぴす」
ゆっくりと、言い聞かせながら純素は両手を広げて。
「むしろその姿こそは原始回帰、古来より魚類こそが生物の原点にして頂点なのでぴす……鯨は哺乳類?魚編ついてるからセーフぴす!」
天より降り注ぐ謎の光に照らされて、スーッと飛び上がって行き。
「魚類に身を委ねよ、ぴす!」
謎の光に包まれた純素は巨大なサカバ スピスに姿を変えて、尾鰭が高速回転してブォーン……魚って言うか飛行船状態で勇魚を見下ろし。
「さぁ、非魚類を不殺【デストロイ】するぴす!」
「ふえぇ……!?」
落ち着いたかと思ったら魚類思想への洗脳を施されかけて、またしても混乱しそうになる勇魚だったが。
「また現れたわね、サボテンもどき。今回のは随分と流暢に喋るのね、今まではカタコトでしか喋らなかったのに」
ギャグ依頼だからね。下手するとイレギュラーもイレギュラーで、他所は皆喋んないとかザラにあるから気をつけろよ?
「まぁいいわ、何度でもぶっ飛ばしてやるまでよ。といってもここじゃやり辛いわね……そこのアンタ!」
のそっと振り向いた勇魚を、アーシャが眼光で斬り上げながら。
「皆を守りたいならアンタにできることなら何でもやる気概はあるかしら?」
「えぇ……まぁ、うん……」
「OK、承諾は得たからね、そんじゃ行くわよ」
ただでさえ困惑していた所に、勢いでゴリ押ししたところもあるが、形だけでも確認を取ったアーシャは、五十人くらいに分身すると、綱引きよろしく並んで勇魚の尻尾を掴んで。
「コイツが……狙いっていうなら……!」
「はわわわわわわわ……!」
「ついてっ!きなさいよ、ねッ!!」
「ひゃぁあああああ!?」
『ランチがぁあああ!?』
アーシャは砲丸投げよろしくグルングルングルングルン、遠心力で強引に勇魚の巨躯を浮かせると、浜辺に向かって、ッポーン!投げ飛ばしてしまった。遥か遠くで巨大な水柱が上がる様子に、悠疾は開いたまま塞がらなくなった口を手動で閉ざし。
「護衛対象に何やってんだお前ーっ!?」
「うっさいわね!こんなせまっ苦しい場所じゃロクに立ち回れないでしょ!!」
ツッコミに逆ギレされつつも、勇魚を追いかけようとしたデザイアモンスター共だったが、その前にアーシャが横一列に並んで道を塞ぎ。
「一匹たりとも通さないわよ……アタシ達、やっちまうわよ!」
「焼きサバッ!?」
シュゴォオオオオ!!並んだアーシャが一斉にファイアブレスを吹き出して、最前列のモンスターが焼き殺されていくが後続はそうはいかない。アーシャのいない道に向かって走り出すものの。
「逃げられると思った?生憎こっちも行き止まりよ!!」
「鯖寿司っ!?」
分身したアーシャは既に回り込んでおり、退路の先で再びのドラゴンブレス。瞬く間に焼き払われていく中、仲間の亡骸を盾にして突破した個体もいたが、その横に悠疾が並走。
「逃がすか!」
「しつこい奴らめ……!」
追手を振り切れないと悟ったデザイアモンスター達が互いに絡み合い、結合して膨れ上がったジャイアントデザイアモンスターは悠疾に向けて、巨大な拳を振り下ろしたのだが。
「悪いがお前は道連れだ!!」
叩き潰されたはずの悠疾から光り輝く巨大な拳がアッパーカット!合体して巨大化したはずのジャイアントデザイアモンスターは軽々と吹っ飛んで撃沈してしまう。舞い上がる粉塵に紛れ、追手を撒いたデザイアモンスターの一部が浜辺に到達すると、そこには目を回した勇魚から吐き出された店主と弟子達、そしてエトワル。
「大人のみんな!このまま子どもたちだけに戦わせるべきなの?違うでしょう!こんな時こそ、愛と勇気ぐらいしか取り柄がない大人が積極的に戦うべきだと思うんだ!」
「……師匠、やったりましょう!」
「刃物握るのは、魚ぁ捌く時だけと決めてたんだがなぁ……」
ゆらり、各々が研ぎ澄まされた刺身包丁を抜き、あるいは鋭い眼光でデザイアモンスターを射抜き、あるいは舌なめずりしながら包丁の刃を顔に寄せ、なんかもうどっちが悪党か分かんない構図になってしまっていたが。
「戦う力が欲しい?」
「え?そんなこと言ってな……」
「うんうん、その言葉を待っていたよ!こんな時こそ、ボクのハッピーアイテムの出番だね☆」
困惑する黒服を他所に、エトワルはバッグをゴソゴソ、オモチャっぽいコンパクトを取り出すと。
「ぴかぴかーん!『誰でも魔法少女ごっこらくらく変身セット』!さぁ、お爺さんもお弟子さんも魔法少女に変身してみんなでハッピーになろう!」
『うぎゃぁああああ!?』
開いたコンパクトから放たれる光に晒されて、問答無用でフリフリフワフワのドレス姿にされてしまった筋骨隆々の漢達……なんかもう新手の拷問だろコレ。
「生き恥どころの話じゃねぇぞ!?」
「だ、だが、力は溢れて来る……」
「儂が、儂らが……」
『魔法少女だッ!!』ムキィ
マッスルポーズした拍子に全身の筋肉が隆起し、生地が引っ張られたドレスもパッツパツになってスカートがひらっ。パンチラならぬフンチラ(褌がちらり)しちゃった野郎共は一斉にデザイアモンスターに飛び掛かると。
「掴め!押さえろ!斧持ってこい斧!!」
「食らえ必殺、鮫断頭斧☆」
漁船に間違って上がって来てしまった鮫が危険だからって、エラに斧をぶち込んで首を刎ね飛ばす歴戦の漁師めいたムーブで、キラキラしながら一撃必殺を実演する魔法巨漢共……俺は一体何を記録させられているんだ……?
こっちが付いていけずにいると、ガパッと勇魚の口が開き、呑み込んでなかったけど吞み込まれてたっぽい船がゆっくりと出てくると、その船首には真っ赤なコートにドデカイ帽子を被り、海賊衣装に着替えたスノードロップが座っていて。
「それでは聞いてクダサイ……『鯨船』」
ギターをかき鳴らせばバックバンドの頭巾骸骨共がドラムやベース、キーボードにトライアングルを担当して、けたたましいロックミュージックが戦場を駆け巡り、耳にしたデザイアモンスターが何故か耳を押さえて地面でのたうち回る……あれ、スノードロップって音痴じゃなかったよな?
「アー、船ごと呑み込まれた絶望を歌にシタラ、希望を糧にするデザイアモンスターに特攻が突き刺さる呪詛になったみたいデス……」
なんかもう、魔法巨漢に締め落とされるデザイアモンスターとか無数の目をゲーミング発光させながらのたうち回るデザイアモンスターとかで埋め尽くされる浜辺。そこに摩那が到着すると、死にぞこないの状態ながらもデザイアモンスターはお互いに欲望のオーラを吹きつけ合う事で何とか立ち上がるが。
「これでトドメです!」
吶喊しながら不意に和傘を開き、視界を覆って隙を作った摩那は捻り込むようにデザイアモンスターの側面に回り込む。右の掌底を打ち込んで欲望のオーラを振り払うと同時に、左手で柄に仕込まれていたマグロ包丁を一閃。
「全く、食べがいのないモノを斬ってしまいました」
振り払って残滓を落としてから包丁を納めれば、斬り捨てられたデザイアモンスターは木端微塵に切り刻まれて霧散していくのだった。
第3章 ボス戦 『サヴァン・サヴァガスキー』
「サーッバッバッバッバ!まさか自らこちらのフィールドに来てくれるとはな!」
なんかいっぱいいたのを倒したと思ったら、魚っぽいのが海から上がって来た。そいつはシュシュシュッと魔法少女に戻ってしまった勇魚を担ぎあげつつ。
「寿司屋に鯖以外の魚が届かないよう手を回し、鯖の魔法少女を生み出すはずが失敗してしまった時はどうしたものかと思ったが……まぁいい!この娘を教育して鯨エネルギーを吸い取ってから鯖に路線変更すればいいだけのこと……それでは、サバだ!間違えた、サラバだ!!」
あ、コイツ逃げる気だぞ!?
※敵の目的は勇魚の身柄であり、戦闘の勝利ではない為、逃走を図る上に魚怪人とあって海というフィールドではめっちゃ強いです。しかし同時に勇魚もまた鯨の魔法少女として、海においては強力な力を発揮できる様子。彼女を元気づけたり、教え導いたりすることで魔法とまでは行かずとも、魔力を発揮させることができればEDENもまた戦闘力が強化されたり海の上を走る事ができたり、鯖を美味しく調理できたりするかもしれません
「……え~と……粉砕した店舗は後で√能力で直して、魔法少女も救出すれば、爺様は新メニューを試す気にはなったんだから差し引きではプラス、だよな……?」
状況的にはプラスかもしれないけど、経済的にはとんでもない大赤字だろうなぁ……。
「あ、邪神、今見てるな?今更だけど、魔法少女の権利配布については触れていなかったけど、自分で登録するつもりなのか~?」
いや?誰もアプローチなかったから、希望者無しって事でこのまま使い捨てキャラにするつもりだった。
「うそぉん……」
まぁ需要のないキャラは消えていくのが世の常だから。それはさておき、海の上を爆走していく鯖怪人がどんどん遠ざかっていく中、良助(以降ファンダーブルーことブルー)は指を鳴らして。
「来なさい、ファンダートータス」
召喚された青い亀のヴィークルに搭乗しながら。
「飛行能力のない方は乗ってください、追いますよ。ヴィークルが足場になる分、海上戦でも多少は何とかなると思いたいところですがね……」
何とか後を追うものの、あちらの速度は中々のもの。その背中を眺める純素はムムッと眉根を寄せ。
「あれはうちの子孫ぴす?それとも子孫にストーカーする変なやつぴす?どっちにしても、とりあえず叩きのめしますぴす」
「鯖の簒奪者ですか。あまりおいしそうには見えませんが、サバ推しのようですし、見た目だけで判断してはいけませんね」
対する摩那は眼鏡の望遠機能で敵の姿を観察しつつ、食欲が……微妙に伸びきらないもよう。
「何はともあれ、このまま逃がすわけにはいきませんね」
手元で上下させていたヨーヨーを伸ばし、海面ダッシュするサバの足に引っ掛けると。
「かかった!」
「サバーッ!?」
「ほぁあ……!?」
一本釣りした拍子に落っことされた勇魚がドッポーン!ぷかぁ……立派な浮袋(意味深)を持つ彼女は浮かび上がって来るものの、ビックリしてそのままぷかぷか。
「勇魚さんは海に強いということですから、海を感じてもらうのが一番ですかね。海に浸かっていけば体が順応してくれそうです」
おめー、護衛対象が誘拐されてる事忘れてただろ?
「そ、そんな見れば分かる事を忘れるなんてありえませんよ?海に落としたのだって作戦ですし……」
などと目が遠泳し始めた摩那だが、ブルーがファンダートータスの装甲を展開し、勇魚を掬い上げつつ敵の真下にビットを滑り込ませてビタァン!させつつ。
「防御用分離ユニットをばら撒きます。足場にご活用ください」
海上アスレチックと化した防護ユニットを飛び渡りながら蛇凛は急に『こっち』を向いて。
「誰がヤ無茶(ヤメロ!無茶だ!言わんこっちゃないの略)枠だ!いい加減にしろ!」
うるせー!こんなゴミみたいな依頼に参加した時点でお前に文句を言う権利はねぇ!!つべこべ言わずにモルモッて来いや!!
「モルモットって動詞だったか!?」
これ以上の会話は自分の首を絞めると察した蛇凛は、攫われたと思ったら海に叩き落されて呆けてしまっている勇魚を見て。
「ふむ、適切な防御を施せば護衛対象を巻き込んでもよかったのだな」
んなわけあるかい。
「多層に重ねた霊的防護を勇魚に施せば我が全力魔法にも耐えよう、それに過酷な環境の方が生存本能が刺激されて力の扱いも早く理解できよう」
などと、みょんみょんみょんみょん……怪しげなオーラを振りかけ始める蛇凛……ぶっちゃけこの扱いの時点で、一般人にとってはとんでもなく過酷な環境なんでこれ以上はやめたげて。
一方、防御ユニットに打ち付けられてビクンビクンしてたサバの所にはエトワルがふわふわ降りて来て。
「こんにちは、鯖怪人さん。勇魚ちゃんを鯨魔法少女から鯖魔法少女に変身させるんだね……変身モノでパワーアップ回のお約束だね!でも、あれれ~?」
不思議そうな顔をするエトワルは、クルクルと回りながら。
「鯨から鯖になると一気に弱そうになったように見えるよね~鯖が鯨より強く見える方法はないかな?……あ!こんな時こそいいものがある!」
というわけでまたしてもバッグをゴソゴソ。何かを掴むと、ぬぅ……やたら刃渡りの長い細い包丁を取り出して。
「ぽんぽこぽーん!『全自動去勢装置』~!この装置を使って、意図的に鯖の漁獲量(意味浅)を減らしてサバショックを起こせば、晴れて高級魚の仲間入りが出来る上、更に絶滅危惧種に加われば、なんだか強そうに見えるよね☆さぁ、まずはこの海域の鯖を根絶やしにしよう!」
「何物騒な事言ってんの!?」
思いっきりビビった鯖がドン引きしていると、エトワルは包丁をシュッシュッ、素振りしながら。
「ねぇ、いまどんな気持ち?どんな気持ち?鯖の価値を上げるために同族を皆殺しにしなくちゃいけないなんてどんな気持ち?」
「やるなんて一言も言ってないんだけど!?」
「あ、そっか自分も鯖だもんね☆」
ドスッ。ためらいも前兆も無しに、エトワルは包丁を鯖の下腹部に突き刺した。
「まずは自ら去勢して同族の希少価値をあげないといけないよね☆」
「サバーッ!?」
思いっきり突き刺されて血液の代わりに魚系生臭さを撒き散らす鯖を前にアーシャは鼻をつまみながら。
「鯖の魔法少女って何よ、鯖って。つーか、キモイ、何処のゲテモノ芸術家の作品よアンタ」
「作品っていうか今まさに犠牲者になりかけてるんだけど!?」
「うわっ、魚くさっ!もう口開かないでちょうだい……あ、焼いたら少しはマシになるかしらね?」
「まさしく七輪のサバ!逃がしはせんよ、オールレンジ攻撃だ。無数の炎の海蛇達よ、我が敵を包囲しどこまでも追い食らい尽くせ!!」
炎の息吹を噴きかけるアーシャと燃え盛るウミヘビを放つ蛇凛。荒れ狂う業火の奔流が鯖をコンガリと焼く!!しかし魚って強火で焼くと身の収縮が起こって汚く身割れしたりするするもんで。
「せめてまな板の上って言えー!?」
パァン!この鯖も例にもれず、膨れあがって大爆発。辺りに焼きサバ(半生)が飛び散った!
「収縮どころかアイツ膨張してんじゃないの!?」
ブレス吐いたりツッコミ入れたりと、口が開きっぱなしだったアーシャがパクッとしてしまうが、中途半端な焼き加減は逆に生臭さを強調するし食感もねちょっとした粘性を感じる代物になっており。
「おげー……」
あまりのまずさに防御ユニットに着陸したアーシャが海に撒餌を!
「マッズ、なにこれ……」
「お前らが奇妙な炎で焼くからだろうが!?」
弾け飛んだはずの敵さんが集結、合体☆元の姿を取り戻したところで。
「そこの鯨っ娘!鯖如き、魔法使えるようになったんだから何とかしなさいよね!アンタの爺さんの店が流行らないのも何か世の中不景気なのも色々荒れてるのも、全部そいつのせいなんだからドカンと吹っ飛ばしなさい」
「二つ目以降は私は関係ないな!?」
「黙らっしゃい!!」
敵さんの真っ当なツッコミに逆ギレしたアーシャの背後に、死した実妹が守護霊として降臨。変なもの食べて戻しちゃったアーシャのお腹をさすさすしながら、姉の体に宿って加護をもたらすと。
「吹っ飛びなさいよゴラァ!!」
「サバーッ!?」
強烈な飛び蹴りが炸裂!吹っ飛ばされた怪人は別のまな板……もとい、防御ユニットにビターン!そこで待ち構えていたのは摩那であり。
「サバ料理。なにがいいですかね。レモンを掛けてマリネはお手軽。味噌煮は定番。フライにするのもいいですね。サバはいろいろな料理に合うので腕の見せどころですね」
摩那の思案と共に辺り一面にずらりと調味料、調理器具が並ぶ迷宮が展開されて、突如天井がカパッ。
「まずはマリネして……」
「がばばばばば!?」
大量の酢、オリーブオイルに少量の塩を加えた調味料が滝の如くダバーッ!
「次に味噌漬けにしてから」
「アバーッ!?」
床が開いて味噌床に鯖がイン。さらに洗濯機よろしく回転してゴウンゴウンゴウンゴウン……ドップリガッツリ味噌に漬かったら、味噌床ごと鯖をシューッ!
「最後に卵とパン粉で衣をつけて」
「あらららららら!?」
バシッ!クリーム色の砂場?にぶち込まれると徐々に傾いて、転がりながら雪だるまよろしく全身を衣塗れにしたら、最後に熱々の油へドボン!ジュワーッと揚がって……もとい、上がって来たらレジャーシートみたいなキッチンペーパーに転がして。
「味噌鯖カツの完成です!お酢を利かせて、甘酸っぱく仕上げてあるのが夏を先取りしたポイントですよ!」
「わーい!じゃあ早速切り分けるね!」
ドスッ!ドスッ!ドスッ!ドスッ!ノリノリでカットするエトワルが断面を覗き込むと、全部鯖顔が浮かんでおり。
「「「「「いきなりなにしてくれとんじゃー!!」」」」」
逆ギレした味噌鯖カツが飛び回って連結、合体☆ついでに衣を脱ぎ捨てて復活。
「えー、せっかく調理したのにー」
「サバを調理するんじゃない!!」
「鯖は調理するものでは!?」
摩那と敵さんが漫才やってる間に、前のターンからサカバ スピス飛行船(という名のインビジブルフォーム)になってた純素は尾鰭をヴィーンさせて、蛇凛製の何か禍々しいオーラに包まれてフォンフォン浮いてる勇魚の頭上までやってくると。
「勇魚さん、聞こえますか。あなたの心に直接語りかけています。望まなかったかもしれないですが、あなたは力を得ました。それは気持ち悪いものですか。それとも受け入れられるものですか。今、あなたを助けようとたくさんの人が追いかけてきました。もしあなたが力を受け入れるなら、彼らにその力を分けてくれませんか」
と、口が三角形のまま微動だにしないからテレパシーなのか腹話術なのか分かんない喋り方をしていたが。
「生憎この子の体は乗っ取らせてもらったわ!」
「ぴすぅ!?」
勇魚の口からアリスの声がする!?
「はい、私は今、勇魚ちゃんと魔法男の娘(元魔法巨漢)達の脳内にいます。ああ大丈夫よ担当官、筋肉を引き締めることで密にして、細胞をちょっと活性化させてアンチエイジングしただけだか……」
ガシッ。脳内に侵入してメンタルオブジェクトと化していたアリスが、左右から凄まじい圧をかけられる。
「おじいちゃん達に、何か、したのかな?」
「あびゃああああああ!!潰れる潰れる!ぺちゃぱいぼでーが針金スレンダーボディにされちゃうぅううう!!」
圧縮されて勇魚の心から心太よろしく絞り出されてくるアリスが細長くなって帰って来ると、スノードロップが空中で片膝組んでギターを抱いており。
「ンー。そうねぇ。スノーちゃんはこう見えて一般人を活躍サセル天才。補助用能力もアルシ、高位の古代語魔術師デスシ、魔力の扱いもプロ。散々モルモ……げふん。オネエサマで実験してきたので、イイ感じに活躍はサセラレル筈デス……やるのがスノーちゃんだけナラネ」
ギターの調整をしながらジト目を向けるのは、今まさにニュルニュル出てくるニキビ脂のようなアリス。
「どうせあの味方面した妨害ユニット共が好き勝手やるノデ空気読んでタイミングみてやらないと事故確定デスネ。オネエサマにも散々、『私で実験した癖に情けないわね』と笑われちゃうデス」
「妨害はしてないわよ!?自分の性癖に素直な方向に引っ張ろうとしてるだけで!!」
スーパースレンダーぼでーをウネウネさせて人文字(物理)するアリスを、試験中に溜まって来た消しカスを見るような目で見ていたスノードロップはギターをかき鳴らして。
「それでは聞いてクダサイ、世界を変える歌……」
「私の事はスルー!?」
「おっと、今回は俺も歌わせてもらう!」
悠疾が刀の代わりにマイクを取り出して歌い始めると、ふよんふよんふよんふよん……潮風に運ばれて来た天が勇魚の傍らにポテッと落ちて。
「自分でサバをサバければ勇魚ちゃんの自信にも繋がるハズ☆勇魚ちゃんの手助けをするヨ☆今の勇魚ちゃんはクジラのチカラを持つ海の王者☆それに勇魚ちゃんはおじいちゃんが今までお魚ちゃんをサバいてきたのを見てたよネ☆なら海において勇魚ちゃんに敵うものナシだヨ☆ホラよく見てッ☆」
メンタルワールドでアリスにお仕置きしていた勇魚はまだ半分夢の世界にいるのか、ぼんやりした目で示された方を向く。そこにいたのは鯖に小麦粉爆弾ぶちまけて真っ白にする摩那と頭からサンオイルぶっかけるエトワル、そして防御ユニットで作った簡易棺桶を形成するブルー。そして荒ぶる鯖を光り輝くミサイルキックで吹っ飛ばすアーシャが棺桶にシュートインワンすれば即、蓋が閉まって蛇凛が事故って呼び出しちゃったヒノカグツチの怨りょ……もとい、ちょっと頑張っておっきくした炎のウミヘビでグルグル巻きにしてじっくり焼き上げたところ、敵さんはパセリの輪冠を頭に乗せて翼を広げ、サバニエルへとアセンション。そのまま天高く舞い上がっていったのだが、上空で待ち構えていた純素の両目からピスビーム!キツネ色を通り越して真っ黒に焦げたせいでサバフェルへと堕天しながら落下、まさかの寝坊して遅刻していた巨海・重吾(虚構の巨人【ゲイジークラフター】・h02176)が巨大な鯨の姿でザッパーン!落ちてきた鯨の尾の一撃でトス、からのスマッシュで海面にバシィ!ウォーターハンマー現象も手伝ってビシッビシッビシッ、ガンッ!水切りしてからファンダートータスの装甲に顔面衝突して全身の焦げが落ちて元の姿に戻りつつ、ズルズル落ちて海にぷかぁ……。
「このサバちゃんは今まで見てきたサバとなんら変わりはないヨ☆」
「変わらないかなぁ……?全然違ってないかなぁ……!?少なくとも普通のお魚は焦がしちゃったらああはならないと思うんだけどなぁ!?」
かなり寛容な様子の勇魚もコレには目をグルグルさせて困惑してしまっているが、天はアハハと笑い飛ばし。
「でもでも、よーく見テ☆全部サバでできてるヨ☆きっと性格もサバサバしてるヨ☆さー勇気を出して勇魚ちゃん特製のサバちゃんのお料理つくロー☆ホラその手には魔法のステッキが……」
って言われて勇魚が自分の手を見ると、そこには鯨印の日本刀……じゃなくって、人斬り包丁……でもなく、ながーい刺身包丁が!
「いやなんで包丁!?」
その物騒な刃物を創造してしまった張本人、悠疾がツッコミ。
「なんかこー鯨パゥワー的なものでも、単純に武器でもいいけど、なんか状況を打開できるものを……って思ってたらあんなん出て来るとは思わないだろ!?」
一般人強化系√能力である種の事故を起こしたようだが、事故ってのは大体連鎖するもので。
「さぁ勇魚ちゃん、今こそあのワルサバを三枚におろすセカ!」
細長い状態から戻ろうとしたら圧縮され過ぎてて、十五センチくらいのお人形系魔法生物になってるアリスが、ビシッと浮いてるサバを示しながら。
「さー、なんかデッカイ鯨も助けてくれるっぽいから利用するセカ!」
『説明しよう!』
「誰ぇ!?」
解説の声の事なんか知るわけない勇魚が辺りを見回していると。
『重吾はしがないキッチンカーのおっさんが本格的な寿司なんて……と尻込みしていたのを、新鮮な海の幸を届けるなら出来ると奮起し日本近海で鯨重吾(動詞)していたのだ。しかし、能力の使用限界で鯨したまま気絶していたが、激マブイケ鯨である重吾へと愛を囁く雌鯨の愛で覚醒し、ヒーロー的なロマンスの予感そのままに押っ取り刀で駆けつけたのである……勇魚嬢の鯨魔法役として』
「く、鯨魔法役ぅ……!?」
「あー……いや、変な意味じゃないよ?」
ざぷっ……海上に上がって来て、背中に勇魚と天を乗せた重吾が苦笑して。
「最初は運び屋のつもりだったんだけど、よく考えたら新鮮な海産物の討伐がお仕事だったからね……せめて魔法少女の運び屋くらいにはなろうかなって……ていうかプレを朝チュン(さっきから喋ってる謎の説明声)が食っちゃったから、あとはもう敵を食らうくらいしかやる事なくって……」
遅刻の説明でプレの枠埋めちゃうからー……。
『説明するまでもないが!そもそも鯨にとっては鯖などただの泳ぐ餌である!!』
歯鯨種かな?しかしここで天からストップ。
「あ、まだ食べちゃダメだヨ☆まずはちゃんと調理しないとネ☆うさてんちゃんは勇魚ちゃんがお料理作ってるトコをしっかり見とくからネ☆」
「お、お料理するのぉ……?」
チラッと勇魚が見たら、ファンダートータスの機関銃が敵さんを肉片に変えて、魔法巨漢共とエトワルが叩いて肉片をミンチに変えて、それを摩那がせっせと丸めて純素のスピビームでじっくり焼き上げてつみれにしたら、つみれが集まって合体☆
復活したサバが好き勝手に調理するEDENを整列正座させて説教しようとした途端に、吹き荒れる蛇凛とアーシャの炎。香ばしい香りと怒りの炎を噴き出す鯖が火力担当を酢締めにしようと追いかけっこしてる。
「マー、細かい事は気にしなくてイイヨー」
すーっ、効果して来たスノードロップがギターをボロロン……。
「ワタシ達が強化もフォローもしますカラ、自分が信じるサバ料理を作ればいいのデス」
「そ、そうは言ってもぉ……」
そもそも鯖怪人が食材になんて見えてない勇魚がおろおろしていると。
「お困りのようですね」
ウソだろ……ここでまだ増援だと!?すでに俺のキャパシティは越えているぞ!?
「ネタ枠ばかりでバランスが取れなかったんじゃないですか?お待たせしました、シャリ枠の俺、登場です」
というわけで、戸桜・リデル(人間(√EDEN)のルートブレイカー・h00081)が船に乗ってやってきたのだが、ネタ枠って寿司ネタの事じゃねぇぞ!?そしてお前、何故来た!?
「別に米袋担いで走って来てバテたからとかじゃないですからね?」
などと儚く微笑む彼は米俵の下敷きになっている……なんでそんな事故った状態で来たの!?事故った時点で港に帰って助けてもらえよ!?
「いや、戻ってたら間に合わないじゃないですか……」
そうだろうけども!そのまま来たせいで『お前が』手遅れになりかけてるんだが!?
「あはは……とはいえ、人数見る限り戦力過剰な気もするので、俺は忘れようとする力で負傷者とかのフォローに回ります」
むしろそれしかできねぇだろ!?お前そもそも動けるのか!?
「動けるように、見えます?」
見えねぇから聞いてんだよ!?
「大丈夫ですか?まだ行動を起こしてないのに大分荒れてますけど……ちなみに俺は割と息が上がってますが」
お前のせいで荒ぶってんだろうがぁああああ!!
「……あっちを待ってたら行動が起こせないセカ!勇魚ちゃんやっちゃうセカ!!」
「お米も来たみたいダネ☆それなら勇魚ちゃんでもお寿司握れるんじゃないカナ☆」
などと、アリスと天が勇魚を煽っていると、ピカーン☆上空で純素の両目が光り。
「さっきから斬っても潰しても復活するぴすし、ここは私からも加護を授けるぴす……四十四年も経てば勝ってにいろいろ解決してろビーム!」
ヴィーヴィヴィヴィビビビビビ!!やたら明滅するヤバい光線が勇魚に降り注ぐと、手にしていた包丁はチェーンソーにランクアップ♪
「なんか思ってたのと違うのになったぴす!?」
「うーん……お寿司ならいけるかなぁ?」
「じゃあ、いくよ……!」
ズォオオオ……!漣を押しのけて、重吾が突撃。脳油を硬化して金属染みた頭突きをドゴッ!荒ぶる焼きサバの舞を披露していたサバをカチ上げれば、勇魚がチェーンソーをブォンブォン、ブォオオオオンジュチチチチチチ!!
で。
「鯖のお寿司できたよぉ」
ちょっとお見せできないシーンを挟みつつも、無事にお寿司が完成しましたとさ☆
「護衛対象は守り切りましたが、お店の方は大変でしたね……」
浜辺に戻りつつ、良助は小切手を用意すると、それを店主に手渡し。
「敵の襲撃以上に味方の誤爆もありましたし、店を再建するなら赤龍院財閥も手を貸しましょう。総統もこのくらいはお許し下さるはずです」
などと、良助が後始末の手続きに回っている一方、救助(!?)されたリデルは這う這うの体ながらも勇魚の方を見やり。
「とは言えまた事件に巻き込まれたら心配ですね……よろしければ、俺達EDENと一緒に行きませんか?」
などと、手を差し出すのだが。
「うちの まごに なにか ようかな?」
▼やたら圧のあるおじいちゃんとお弟子さん達が現れた!
「いきなり出て来て勇魚をナンパたぁいい度胸だなぁ、あんちゃんよぉ?」
「ち、違います、ナンパじゃな……」
その後、リデルが無事に帰れたのかどうかは彼のみぞ知る……。
※戸桜・リデル(人間(√EDEN)のルートブレイカー・h00081)さんに海原勇魚の登録権を進呈します
「いや待て、配布するのか!?」
悠疾よ、よく見ろ。ディバインホースラディッシュ先生のとこだし、大丈夫やろ?
「信じて送り出した魔法少女が……?」
あの方はまともに運用してくれる……はず……?