シナリオ

銀のサンショウウオ

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 ウォーハンの街の近くにはきれいな水晶の森があった。深い森の奥に川が流れ、その一帯に透明で大きな水晶の柱がいくつも伸びていた。森の中には水晶の柱が反射した光が差し込み、川の水に反射して波打つような光の幕ができていた。
 川の底から一匹のサンショウウオが浮かんできた。サンショウウオは散乱する光を眺めると自らの背中を銀色に光らせた。このあたりではスイショウウオと呼ばれている珍しいサンショウウオだった。
 どこからか大きな動物が鳴く声が聞こえる。水辺に浮かんだスイショウウオはドキリと後ろを振り向く。そして何かに怯えるように水底に帰って行った。

「スイショウウオ? 今、切らしていてね。いつ頃入荷するかって? それがさっぱりわからないんだよ。近くの森に行けばたくさんいたはずなんだけどさ、最近めっきり数が減ってしまって困ってるんだよ。獲れても20cmくらいの小さなヤツで。まあ、それも相場の10倍以上の値がついてる。今買うのはやめておいた方がいいよ」
 マーケットの一角に店を持つ男が困ったように話していた。どうやらスイショウウオはその数を減らしているらしい。
「前はね。1m以上の大物もよく売ってたんだけどな。他の動物も数が減ってるみたいだし、誰かなんとかしてくれるといいんだが」

「√ドラゴンファンタジーにウォーハンって言う街があるんだよね。スイショウウオって言うちょっと丸い感じのサンショウウオが名産品なんだけど、そのスイショウウオの数が減って困ってるみたいなんだよね。ウォーハンに言って原因を解明して、スイショウウオがまた取れるようにして欲しいんだよね」
 ソーダ・イツキ(今はなき未来から・h07768)は集まった√能力者達を前に話し始めた。
「スイショウウオは丸々としてかわいい目をした大型のサンショウウオで、背中が水晶みたいに銀色に光るんだって。だいたい40~50cmくらいの子が多いみたいだね。今までで一番大きな子は2mくらいあったんだって。人懐っこいからペットとして飼う人がいるんだって」
 イツキは楽しそうに話す。
「ウォーハンにはダンジョンで獲れた生き物を扱っているお店が並んでいるマーケットがあるからまずはそこで聞き込みをしてみて。きっと詳しい事情を知っている人がいると思うから。それから水晶の森に言って詳しい原因を探ることになると思う。それじゃ、よろしくね」
 そう言うとイツキは集まった人達を送り出した。

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第1章 日常 『ふしぎ・いきもの・マーケット』


ユーフェミア・フォトンレイ

 ウォーハンのマーケットには春の空気が流れていた。折しも桜の季節だ。昼下がりの公園には楽しそうにはしゃぐ子供の声が響いている。大人達はそれを見て和やかに笑っていた。マーケットは公園のそばにあった。公園に出ているケバブやホットドッグ、クレープの露天からなんとも言えないおいしそうな匂いが漂っている。
 ユーフェミア・フォトンレイ(光の龍・h06411)はそんなのどかなマーケットをのんびりと歩いていた。
「まあ、人の子のつくった雑貨があります。どれもかわいらしいですねっ」
 元々ドラゴンだったユーフェミアは人間が作った細工物に興味津々だった。どうすればこんなに細やかなものが作れるのだろうか。
「これはどなたが作ったのですか?」
 ユーフェミアがマーケットの店主に聞く。
「ん? これかい? 街の近くに水晶の森があるだろ。そこから取ってきた水晶で作ったものだよ。水晶細工の職人が何人もいるんだ。これなんかどうだい? かわいいスイショウウオの置物だよ。光を当てると背中が光るんだ」
 そう言うと店主は暗い箱に入れたスイショウウオの置物にライトで光を当てる。光の反射でスイショウウオの背中がきらきらと光った。
「すごいですね。スイショウウオですか?」
「なんだい。知らなかったのかい。ここで獲れる銀色のサンショウウオだよ。愛嬌がある顔でかわいいヤツなんだが……」
 店主の顔が曇った。
「どうかしたのですか? よければ事情を聞かせてもらえないでしょうか?」
 ユーフェミアが聞くと店主は少し迷った後で少しずつ口を開く。
「ああ、スイショウウオなんだけどね。ここ1年くらいでずいぶん数が減ってしまって。ほら、あっちに生き物を売っている店があるだろ、前はあそこにたくさん売られてたんだ。スイショウウオは水晶の森にいるんだけどね。なかなか見つからなくなってしまって。あんた、頼めるなら水晶の森に行って様子を見てきてくれないか?」
「そうなんですね。わかりました。わたしが見てきましょう」
「頼んだよ」
 店主に見送られたユーフェミアは水晶の森へと向かうのだった。

冬夜・響

「すみません、スイショウウオについてお伺いしたいんですが……」
 冬夜・響(ルートブレイカー・h00516)がやって来たのは古びたトタン屋根の雑貨店だった。どちらかと言えば駄菓子屋に近い雰囲気かもしれない。年老いた店主がニコニコしながら響に近づいてきた。
「スイショウウオかい? ここは雑貨屋だよ。生きているのが欲しいなら向こうに何軒かダンジョン産の生き物を扱っている店があるよ?」
 店主のおじいさんがのんびりした調子で通りの向こう側を指さす。
「あ、いえ、昔スイショウウオが大きかった頃の話が聞けたらと思って」
「スイショウウオが大きかった頃? ああ、水晶の森ができた頃は大きいのが捕れたな。いや、一番大きいのは30年前くらいだったかなあ。2m15cmだったかな。たしか街の博物館に写真があるよ。行ってみたらどうだい? でもどうしてそんなことを聞くのかな。このあたりじゃそれなりに有名だけど、スイショウウオはそんなに有名な生き物じゃないのに。水族館にだって送ったことはないんだよ」
 おじいさんは顎に手をやった。
「スイショウウオがどんな生き物なのかに興味があるんです。どんなところに住んでいるのかとか、何が好きな食べ物なのかとか」
「そうかあ。それはうれしいね。私らにはかわいい動物だけど、よその人にはわかってもらえなくて。私も飼っているんだよ。2階に水槽があってね。大きな子じゃないんだけど、人懐っこくてね。夜になるときれいなんだ。……でも最近、夜に水晶の森の方を見て怯えたように鳴くんだよ。森に何かあったのかね」
 おじいさんは水晶の森の方に目をやった。
「ああ、ごめんごめん。どこに住んでいるかだね。水晶の森にはきれいな川が流れていてね。水晶の砂がキラキラときれいな川でね。そこに住んでいるんだよ。岩陰や土手に巣を作っているから川縁でよく獲れるんだ。銀色に光るのは川の水晶に擬態しているんだろうね。食べ物は肉食で小魚や虫を食べてるよ。銀色の小魚を食べてるスイショウウオの方がきれいに光るらしいよ」
「ありがとうございます」
 響の手にはおじいさんがくれたまんじゅうが握られていた。お茶も出されていて、気がつくとそれなりにいい時間が流れていた。わかったことはスイショウウオは水晶の川の近くにいることと、何かに怯えていることだろうか。

岩永・湯布衣

「水晶の森から素材を取ってきた、細工物がある……。それですの」
 岩永・湯布衣(黒岩姫とドヴェルグの事情・h09860)は細工物という言葉に惹かれていた。湯布衣の探し求めるドワーフ達は手先が器用な種族だ。特に岩や金属を扱わせれば右に出るものがない。湯布衣は大きな足跡が模様として縫い込まれたポンチョを着てハンドメイド雑貨を扱う店に来ていた。店にはスイショウウオの細工物以外にも水晶でできた灯りや花をモチーフにした置物などが所狭しと並べられている。
「何かお探しですか?」
 店主の女性が笑顔で尋ねる。
「わたくし、サイコメトリーが使えます。水晶の森で起きている異変の情報を読むことができますの。スイショウウオが減り始めた頃の水晶でできた細工物はありますの?」
「あなた、冒険者? スイショウウオが減り始めた頃ね。ならこのスイショウウオの細工物はどうかしら? 数が減り始めたのは1年前だから、そのすぐ後くらいのものがいいわよね。ダメだったら言ってね。入荷した時期が違うものがあるから順番に試して大丈夫よ。どうしてそう協力的なのかって? 私もスイショウウオが好きなのよ。動きがゆっくりで生き残れるのか心配になるような動物なんだけどね。だからかな、愛嬌があって放っておけない感じなのよ」
 細工物を受け取った湯布衣はゆっくりと意識を水晶細工に集中させる。その力は湯布衣が失楽園戦争で歴史の闇に消えたドワーフの部族であるスノーフットの足跡を追うために身につけたものだ。でも今はその時じゃない。湯布衣は水晶の森で起きている異変の正体を知るべく細工物に問いかける。細工した職人の記憶からさらに遡って水晶を取ってきた冒険者の記憶。そしてその後の記憶はなんだろう、水面から何かを見つめる様子が見える。細工物から声にならない恐怖の記憶が蘇ってくる。大きな爪が迫り、そして記憶が途切れる。
「あれはもしかしたらドラゴンですわね。食べられてしまったのかしら」
 湯布衣は水晶に残る記憶からそんなことを思う。もしかしたら、他世界からの難民だったスノーフット達もまた、スイショウウオを見ていたのかも、と湯布衣は想像する。記憶で語られるスイショウウオはキラキラと光る背につぶらな瞳の少々臆病な動物のようだった。スノーフットがもしスイショウウオと出会っていたら、きっとスイショウウオは岩陰に隠れて様子を見ていただろう。

ウィズ・ザー

「なーんか親近感。ちょい気になるな」
 そう言うとウィズ・ザー(闇蜥蜴・h01379)はマーケットにある手近な雑貨店へと入っていった。ザーは体長7mにもなる水大蜥蜴だ、目はないが陰影で物体を知覚することができる。ともあれ今は人の姿になっている。店に入るとスイショウウオと思う置物を手に取って店主に尋ねる。
「よく出来てンなァコレ。スイショウウオ?」
「ああ、そうだよ。お客さん、スイショウウオに興味があるのかな?」
 口ひげを生やした店主がザーに聞く。
「ちょっと親近感があってなァ」
「ああ、人懐っこいからね。ペットとして飼ってる人もいるよ。最近はなかなか手に入らなくなってしまったんだけどね」
 店主が少し寂しそうに目を伏せる。
「へェ、ペットだったのか。んーじゃブリーダーサンだった人とか居たりすンの?」
「品種改良をしてるほどの人はいないけど、池や水槽で飼っている人はいるよ。詳しい人か、そうだね……」

 ザーは店主が渡りを付けてくれたスイショウウオの研究者のところに来ていた。公開されているらしく大きな水槽では1mくらいになるスイショウウオが寝ているのを見ることもできる。
「俺は物作りが好きでなァ。スイショウウオの生態に興味がァんだよ。モチーフにしたくってねェ」
「それはそれは、僕もスイショウウオに惹かれて15年前にこの街に引っ越してきて研究させてもらってるんだ」
 そう言いつつも表情の暗い研究者にザーが聞く。
「最近減ってるっつーコトは異常気象やら天敵が出た感じ?」
「天候は普段と変わらないと思うから天敵の可能性が高いと思うね。水晶の森で大きな鳴き声を聞いたって話もあるからその声の主がスイショウウオを食べてるのかもしれない。水晶に爪の後みたいな傷がついていたり焼け焦げた痕があったりもするらしいんだけど僕は冒険者じゃないから森には行けなくて」
 研究者は悔しそうに首を振る。
「なるほどなァ。ちょい野生の姿見に行きてェから教えてくれねェか?」
「様子を見てきてくれるなら僕もうれしい。スイショウウオが住んでいるのは森の中央を流れる水晶の川だよ。水晶の砂でできた土手に穴を掘って巣を作っているんだ。群生地は地図にしてあるからそれを渡そう。ただ、川沿い爪痕も多いみたいだからどこかに避難してるかもしれないな。……とにかく、小さな手がかりでもいいから見つけてきてくれるとうれしい」
 研究者が渡してくれた地図を受け取ると任せろ、と言ってザーは森へと向かった。

夜雨・蜃

 いまだのどかな午後、ウォーハンの街にやって来た夜雨・蜃(月時雨・h05909)は駅を出ると公園を抜けマーケットまでやって来た。
「ふーむ、様々な雑貨が置いてあるが……。スイショウウオに関するものが置いてあるお店で聞いた方が良いだろうか。或いは、古くからお店を構えている老舗にござる」
 蜃がマーケットを歩いていると親切な初老の男性が目当ての店を教えてくれた。ウォーハンの街には素朴で人のいい人が多いみたいだった。山の麓にあって穏やかな気候なことも影響しているのかもしれない。今は桜の花びらが舞っているけど、もう少ししたら田植えがはじまるだろうし、夏になればにぎやかな蝉の声が響くのだろう。
「最近数が減ってしまっていると噂で聴いたが、これまで似た様な事はなかったでござるか? 減少したスイショウウオの調査のため、詳しい生態をお聞きしたい」
 老舗の生き物を扱う店で聞いてみると若い店員がうーんと首を捻る。
「原因はまだわかっていないんです。過去の資料を調べた人がいるのですが、水晶の森ができたのがだいたい60年前ですから生態系に関しても詳しいことはわかっていなくて。ダンジョンの中のことなんで、何かの拍子に環境が変わることもあるらしくて、街にいる冒険者達にも協力をお願いしているんですけど……」
 店員の話を聞きながら蜃は考える。もし誰かが乱獲しているなら、どこかの市場にスイショウウオが流れるだろう。だがそんな様子はない。高く売れるわけでも、薬の材料になるわけでもない。しばらく考えると蜃は別の可能性にたどり着いた。
「外から別の脅威となる種が現れたのかも知れぬな。それについて、何か心当たりのある者はおらぬかな?」
「ああ、それなら。最近水晶の森にある川に焦げたような痕や爪でひっかいたような傷跡がいくつか見つかったんだ。前はなかったからその爪痕をつけたヤツが怪しいと思うな。でも数が減ったのは1年前からなんだよな。天敵は餌がなくなって人の近くに出てきたのかもしれないな。スイショウウオの産卵場所は川の上流だからそこで産卵期に集まったスイショウウオを捕まえてたのか卵を食べてたのかって可能性もあると思うぜ。最近じゃ獲れるものもほとんどないから俺達も困ってんだ」
 ちょうど水晶の森から帰ってきた街に住む冒険者が答えてくれた。
「ありがとうでござる」
 蜃は冒険者にお礼を言うと店に置いてあったスイショウウオの置物を見つける。
「……うむ。このスイショウウオを模した置き物、光が透過してとても綺麗でござるな。拙者の宿にも飾りたいでござる、一つ頂きたい!」
「ありがとうございます。かわいいですよね、スイショウウオ。できれば大きな本物を見て欲しかったんですけど、それはまた数が増えてからですね。本当にいなくなられると悲しいので。何が原因なのかな」
 蜃は店員が包んでくれたスイショウウオの置物を受け取るのだった。

第2章 冒険 『水晶森のダンジョン』


 日が変わり、朝の水晶の森にはうっすらと霧が立ちこめていた。街を出ると地面の間から水晶が生えている道が続き、森に到着すると10mはあろうかという大きな水晶の柱がいくつも立っているのが見える。
 水晶の森の中央にあるという水晶の川まで行けば、地面は水晶で覆われ反射した光でキラキラと光る水面が見られるだろう。本来ならそこでゆったりと泳いでいるスイショウウオを見られるはずなのだった。水晶の川に行けば水晶の柱についた傷跡も焦げた様子も見ることができるだろう。スイショウウオが減った原因はこの爪の持ち主だろうか。調べてみればきっとわかるだろう。
夜雨・蜃
ユーフェミア・フォトンレイ
岩永・湯布衣

 朝靄が水晶の森を覆っていた。森の空気はまだ冷たく、水晶の柱を通った朝日がキラキラと散乱している。木の葉がさらさらと風に揺れる音がときおり響く。これだけを見たら大きな生き物が我が物顔で闊歩している場所とは思えないのどかな風景だった。
「此処が水晶の森で御座るな。ふむ、名に違わぬ森にござる…水晶が採れる森とは」
 夜雨・蜃(月時雨・h05909)は朝日に照らされた水晶の柱を見上げた。足もとを見れば小さな水晶の柱がタケノコのように伸びようとしているのが見える。ここには特殊な魔力が充ちているのかもしれない。もしかしたらそれが天上界から落ちてきた遺産なのだろうか。
「では、昨日この森から帰ってきた者の話を頼りに、爪痕や焦げた後を探すとするで御座る。生物であれば、生活痕もある筈……日が落ちる前に何か見つけなければ。と、あまり派手に音を立てるような動きは避けて調査するでござる。目標に逃げられてしまうかも知れぬので」
 蜃はそう言うと街で聞いた話を頼りに森の中央を流れる川の方へと歩いて行った。

「まあ! なにか怖い魔物が住み着いてしまったのでしょうか。かわいい生き物をまもるぞ。えいえいおー」
 そう言うとユーフェミア・フォトンレイ(光の龍・h06411)は軽く右腕を突き上げる。気合いを入れたとは言えどこかのんびりとした所作でユーフェミアは水晶の森の中を歩いていく。ユーフェミアはふと、きれいな6角柱をした水晶を見つけるとじぃっとのぞき込む。6角柱の水晶は朝の柔らかな光が反射して淡く光っている。
「ふふ、きれいですね。あ、この葉は……」
 ユーフェミアは水晶の脇に心を落ち着ける作用がある薬草を見つけた。今すぐというわけにはいかないが干してから粉にすれば触媒としても使えるようになるだろう。薬は毒で、毒は薬だ。心に作用する魔法に相性がいいだろう。

 岩永・湯布衣(黒岩姫とドヴェルグの事情・h09860)は【胡蝶の夢】の力で手に入れた記憶を使って水晶の森の探索を始めた。
「足跡か、鱗の一つでも落ちてないかしら」
 湯布衣は岩や水晶の影に隠れられるように注意深く森の中を進む。そしてサイコメトリーで見た大きな生き物、ドラゴンの痕跡を探しながら奥へと進んでいく。
「サンショウウオの数が減り始めたのは1年前、原因がドラゴンなら外から来た以外にも。……失楽園戦争から数十年眠ってたものが目覚めたのですの?」
 可能性としてはどちらもあり得るだろう。どこか住処を追われたドラゴンがここにやって来てスイショウウオを食べている可能性も、眠っていたドラゴンが何かの拍子に目覚めた可能性も。ただ、ここにいるドラゴンはスイショウウオを好んで食べているようだ。何か理由があるのか、それともスイショウウオがドラゴンにとって都合がいい生き物だからだろうか。

 しばらく歩くと湯布衣は川にたどり着いた。流れる水にも光が反射して不思議できれいな景色が広がっている。ドラゴンがいなくなれば景勝地にもなるだろう。ダンジョンだからここに来られる人間は限られるだろうけど見る価値はある、そんな景色だった。川縁を観察していると水晶に黒い焦げた跡が残っている。表面をなぞると手に黒い粉がつく。恐らく高熱に晒されたのだろう。水晶の川の川縁には小さな穴がいくつも開いている。近づいて見てみるとスイショウウオの巣のようだ。ちょろちょろと小さなサンショウウオが出たり入ったりしているのが見える。スイショウウオの子供だろうか、湯布衣を見つけてもスイショウウオの子供は逃げることもなく丸い目で湯布衣を見ている。
「スイショウウオが狙われているとするなら、やはり水場に現れるのでござろうか……? 水晶の爪痕…獲物のスイショウウオと間違えて付けたのか、はたまたその逆か……」
 分身して木の上から森の様子を調べていた蜃は湯布衣を見つけると川縁へと降りてきた。
「爪痕は川の上流の方に多いようでござる。スイショウウオを食べているものの住処があるでござろうか」
「上流の方がスイショウウオも少ないようですのでその可能性は高いと思います」
 薬草を手にしたユーフェミアがのんびりとやって来た。この森の特殊な光のおかげか明るく開けたところにある薬草が木の根元に生えていたりするのだった。風に飛ばされることも少ないためか植物が育ちやすい土壌なのか薬草がたくさん採れるのだった。ユーフェミアの呼び出したサラマンダーが水晶の前をふわふわ浮いている。水晶にはサラマンダーの放つ光が反射してサラマンダーの姿が大きく映し出されていた。
「もしかしたらこれでござるな」
 恐らくこうして水晶に映ったスイショウウオを本物と間違えたドラゴンが水晶をひっかいたのだろう。
「ところで、最近、各地の遺跡でこんな感じの石人形が目覚めたり、ホームセンターから脱走してますの。ご注意くださいませ」
 『フットハンマー』と『大いなる足跡の衣』を見せながら湯布衣が言った。
「そうなんですね。気をつけますね」
 ユーフェミアがのんびりとした調子で答える。湯布衣は頷くと水晶に覆われた川を見ながら言う。
「天上界から落ちた「何か」が、水晶の森を形作ったのでしょう。この依頼を達成したら、個人的に森を探索するつもりですの」
「木の上から見ていたら上流の方に水晶の柱が密集していた場所があったでござる。もしかしたらそのあたりに落ちたのかもしれないでござるな。ドラゴンの住処もそのあたりにありそうでござるし、ひとまずそちらに向かうのがよいでござろうか」
 蜃は上流を見ながらそう言った。

第3章 ボス戦 『エルダードラゴン』


 水晶の川を遡っていくと傷つけられた水晶の数も増えてきた。川縁の巣穴も大きくなっている。どうやらスイショウウオは成長すると上流へと向かうようだった。成体になったスイショウウオは産卵場所である上流に近い場所に住むのだろう。ただ、巣穴はからになっている場所が多く、銀色のサンショウウオの姿を見ることはできなかった。
 さらに川を遡ると水晶の柱が固まっているところが見えてきた。川の横に池があって、そこは水晶の柱が入り組んでいて鳥の巣のようにも見える場所だった。恐らくここがスイショウウオの繁殖地なのだろう。その池の奥に水晶が真っ二つに割れている場所があり、水晶の洞窟が地底へと続いている。キラキラと輝く水晶に覆われた洞窟の奥から大きな動物の寝息が聞こえてくる。ドラゴンなのだろう。
 洞窟の壁には黒く焦げた後がいくつもあることから間違いはなさそうだ。洞窟の奥へ行ってそこにいるドラゴンを倒せばスイショウウオを食べるものはいなくなるだろう。
夜雨・蜃
ユーフェミア・フォトンレイ
岩永・湯布衣

 洞窟のまわりはきれいな水晶で覆われていた。その奥から熱と共にドラゴンのいびきと思われる深く重たい音が響いてきている。ここに住み着いたドラゴンはどこからやって来たのだろうか。奥底に眠っていたものが起きたのだろうか。それともちょうどいい巣穴と思って住み着いたのだろうか。
 入り口付近に水晶が割れた痕と思われる白い砂と石が積み重なっている場所がある。洞窟の外側に焦げた痕があるところを見ると中にいるドラゴンはどこかからやって来たものなのだろうか。
「原因と思われるドラゴンはこの洞窟の奥にござるな。うむ、それでは竜退治とするでござる」
 夜雨・蜃(月時雨・h05909)は真っ二つに割れた水晶の柱の奥へと続く洞窟へと足を踏み入れた。どこからか水が落ちてきているのか所々に水たまりができている。小さな横穴もあるようだ。もしかしたら水晶の柱に隠れていた頃はここはスイショウウオの繁殖地の一部だったのかもしれない。
「強靭な爪の他、炎を吐くのであろう。それに加えて、洞窟内の戦闘になる。足元を掬われぬよう、注意が必要でござるな」
 藻のようなものも生えている上に水が垂れている水晶の床はつるつると滑る。気をつけなければ足もとをすくわれるに違いない。
「幸い、洞窟内にも遮蔽物として利用できそうな水晶はあるでござるな。危険な時はそちらに身を隠そう」
 水晶は透明で後ろに立っても姿が丸見えなのだがドラゴンが焦がしたものは表面に黒い煤がついているため遮蔽にも使えそうだ。

 洞窟の一番奥に『エルダードラゴン』が寝ていた。水晶の岩場がありその上にいくつもの水晶が突き出している半球状の空間があった。√能力者達が近づくとエルダードラゴンは首をもたげる。そして威嚇するように口を開くとガァァと言ううなり声を発する。
「むっ、どらごんを発見! こら~~~!!!」
 ユーフェミア・フォトンレイ(光の龍・h06411)はプンプンと怒りながら光りの魔術を放つ。洞窟奥の水晶に反射した光の魔法がドラゴンを追い立てるように突き刺さるがドラゴンは不愉快そうに翼を揺らすだけだった。
「むう、追い払うことができればいいのですが」
 この個体は言葉を使わないようだった。ユーフェミアは話が通じないまでも追い払うことが出来ればと思っていたのだが、難しいかもしれない。エルダードラゴンが雄叫びを上げる。水晶の洞窟が揺れてパラパラと小さな水晶が天井から落ちてきた。
「この辺りでスイショウウオを絶滅しかけているのはお主でござるかな? 成る程、その巨躯では食べ尽くしてしまうのも遠くない」
 エルダードラゴンは洞窟の奥にいたスイショウウオの子供を食べていたのだろう。それがエルダードラゴンの好みに合ったのかスイショウウオを好んで食べるようになったのだろう。何年もここに居座られるとスイショウウオが絶滅してしまうに違いない。蜃は水龍の力を纏うと壁を駆け上がり苦無を投げてエルダードラゴンを牽制する。エルダードラゴンは首を丸めて苦無をたたき落とす。エルダードラゴンの口が閉じられ洞窟が揺れるのが止まる。
「頭脳的脳筋ですの」
 岩永・湯布衣(黒岩姫とドヴェルグの事情・h09860)はエルダードラゴンの前へと進み出るとフットハンマーを掲げてエルダードラゴンを挑発する。湯布衣は持ち前の怪力でハンマーを振り下ろしエルダードラゴンの胸に大きな足形をつける。エルダードラゴンは怒りの形相を見せると首を大きく持ち上げ炎の力を蓄えていく。
「む、背中もガラ空きというわけでは無いでござるかな?」
 エルダードラゴンが力を溜めている隙に【雷素忍獣】を足場にして背後に回り込んでいた蜃だがエルダードラゴンもオーラを纏わせた尾を振ってくる。何かで気配を察知しているのだろう。隙を突くにはもう一工夫必要そうだ。エルダードラゴンが首を伸ばし炎を吐こうとする直前、湯布衣が【竜血覚醒】を発動して砕けたタイルの鱗を持つ色彩豊かなドラゴンの姿になる。湯布衣はエルダードラゴンの炎を受け止めるとその呼吸でエネルギーを吸い込む。蓄えられたエネルギーを力に変え、エルダードラゴンの胸に刻まれた足跡に叩きつける。湯布衣の一撃はエルダードラゴンの胸を裂き、エルダードラゴンは怒りの咆吼をあげる。天井から大きな水晶柱が降りユーフェミアの上へと落ちてくる。蜃が雷素忍獣を蹴りユーフェミアの手を掴んで飛び退く。ユーフェミアのいた場所は水晶の柱に潰されて床に亀裂が走る。
「ごめんなさい」
 ユーフェミアはエルダードラゴンに一言謝ると杖を掲げて光りの魔術を放つ。光りは水晶で乱反射しながらエルダードラゴンを何度も焼いていく。オーラを纏った爪がユーフェミアを襲うが湯布衣の爪がそれを受け止める。力比べが続き湯布衣の鱗が徐々に色を失って灰色になっていく。
「……お主は新天地を求めて来たのかもしれないが、放っておけば何れ森の在来種だけでなく人里に被害も出よう。赦せ」
 蜃が雷素忍獣を足場に空を駆け、天井を蹴ってエルダードラゴンの頭へと迫る。刀を一気に突き出すと水龍の力を纏った刃がエルダードラゴンの頭を貫く。エルダードラゴンの圧が薄れたのを見逃さず、湯布衣がエルダードラゴンの胸の傷口に必殺の一撃を叩き込んだ。エルダードラゴンは苦しそうに呻くとバタリと倒れ込んで動かなくなった。

 スイショウウオを食べていたドラゴンは倒された。繁殖地でスイショウウオを食べるものがいなくなったこの森に、スイショウウオ達の元気な姿が帰ってくるだろう。

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