|射幸心《遮幸神》に|方違え《神違え》を
「連邦怪異収容局員のスミスさんって知ってる? 彼が回収に向かっている怪異とニューパワーが分かってね。それを阻止して欲しいん欲しいんだ」
ルベウス・エクス・リブリス が説明を始めた。
スミス氏と言えば悪名高き男であり、よせば良いのに封印されている怪異を発掘ないし捕縛し、何処かの超大国に持って行くと言われている自称公僕である。
「彼が回収にむかっているのは いわゆるガチャが当たり易くなる……とも偏り易くなるともされている神様でね。その噂を聞きつけて回収に向かっているらしい」
とある稲荷神社にその神様は封印されているらしく、地図を渡してくれたので向かって阻止に行けるだろう。もちろんスミス氏も邪魔して来るだろうが、何とかならない相手ではない。そこまで口にしたところでルベウスは一つだけ付け足したのである。
「良くなるか悪く成るかは別として、自分の運が変る手法があると信じてる人も居るよね。ガチャなら更新された日には引かないとか、次の日に変わった瞬間とか正午に引くとか、触媒としてコラボ作品なり関連書籍を用意するとか。今回は運気を操る下級怪異が守って居る直行ルートと、現地で雇われていて士気の低い分だけ固定されている迂回路があるよ。後者なら弱い分だけスミス氏も準備を整えているだろうし、前者はスミス氏はあまり警戒してないから後で少しだけ戦い易くなるかもしれない。好きな方を通ると良いんじゃないかな」
悪戯小僧のような顔を浮かべてそう言った。
要するに次で楽をして最後に普通に戦うか、最後に楽をする為に先に普通に戦うかの差でしかない。だが、こういうと何かのおまじないっぽくて面白いとでも思ったのだろう。
第1章 日常 『おまいりしよう!』
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「なるほど?」
|江田島・大和《えだじま・やまと》(探偵という名の何でも屋・h01303)は興味なさげに煙草を燻らせた。
(「ガチャねぇ……ソシャゲとかはあんまやらんけど、確かにあれはなぁある意味中毒性があるというか」)
心底どうでも良い事に関わる縁を得たらこうもなろう。
金や物に固執する訳でなく、何かの行為に固執することもない。
ただ知識としては知っているし、体験としても試したことはあるという程度だ。
(「ま、今回は運試しの方かな? 敵さんに準備を整わせる時間を与える必要も無いでしょ」)
思案することがあるとすれば、星詠みの告げた敵の行動だ。
ソレを考えたらやるべき事はある。
相手は時間を与えると迎撃準備を整えるという。ならばその予想を外すべきだし、途中で厄介な相手になるとしても黒幕ほどではないと知っているのだ。何を恐れることはあるだろう。
(「願うことは家内安全、お決まりだけど大事なことでありますしね」)
山とは小銭入れを開いて両替が要らない程度の小銭を放り込んだ。
鳥居の中央を避けて参拝し、手や口をすすぎ、二礼二拍手一拝。
作法に則ってお参りしたという事である。
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ガチャ運に興味がない者も居れば、気にする者も居る。
「ふむ、ガチャ運がよくなる神とな?」
マイティー・ソル(正義の秘密組織オリュンポスのヒーロー・h02117)は表面上は冷静さを取り繕っていた。
「課金の暗黒面に導かれそうな神様じゃな。しかし、正義の秘密結社オリュンポスの使徒たる妾は、そのような運頼みなんかしたりしないのじゃ!」
と、口では何とでも言える……という判り易い例を示していた。
この段階では興味なんか『ありませんよー』と全身で表現しているかのような口を利く。良く考えて欲しい、別の一人で参拝しているんだから口に出す必要なんかないのだ。それなのに口を開いているのは何故だ!?
「……じゃが、ほら。妾って(自称)光明太陽神の末裔じゃろ? つまり、フトダマとか巫女っぽい役割もあっての、他の神様にも敬意を表する必要があるのじゃ」
すなわち言い訳を口にしたいのである!
年頃の女の子が男性陣の前ではかわい子ぶって、小食です優しいですとやっている様なものだ。本当にそう言う子も居るが、ある程度は『造ったキャラ』であり裏ではガッツリご飯を食べて、ダリダリとか言って世間に興味が無かったしするのだ。翻ってマイティー・ソルは口調でキャラ付けのように古風な喋りをするほどである。言い訳要素を口にして、自分の無実を証明していたのだ。
「それに、敵のリンボー・ダンスじゃったか? そ奴の悪しき踊り? の準備が整うのを待つ必要もあるまいて」
フンスと鼻息荒くマイティー・ソルは古風なガマグチから小銭を選び出した。五百五十五円、『555』を演出すると大いなる記念を行った!
「というわけで、妾としては本意ではないが悪しき簒奪者駆逐の為にも、オキテに従い幸運を祈祷じゃ!」
こうして言い訳要素たっぷりと含み、マイティー・ソルは必死で祈りを捧げる。ちなみにこの名前はペンネームというかコードネームというかリングの名前みたいなものであり、高天原・日弥呼という名前があったりする(だからマイティー・ソルを略しない方が正しい)。
「神ながら妾たちの路に幸え給え!」
(「ついでに、次回のソシャゲに追加される新英雄ガチャ当たりますように!」)
こうして彼女は大いなる運気を味方に付けようと必死で祈った。
なお、これは次のがちゃが『周年記念』ではないからである。
もし『人権』と言われる強キャラであれば、こんなものでは済まなかったであろう。
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「うーわヤバいヤバい。ソレ確率とか弄ってるヤツじゃん。渡したら不味いって」
説明しよう! |鴉越・烏夜《あごし うや》(エリラズ・h00852)は小説家である。ついでに言うと、色々な資料を駆使するデータ派でもあった。ネットミームならそこそこだが、自分の過去の経験は大いに参考にする。
「こっちの(命中率)8割が当たらなくて相手の(命中率)2割が当たるとか、某ゲームの事態がリアルであり得るようになるわ。冗談じゃねー」
烏夜は思い出す。ゲームでエースが放つビームライフルが外された時のことを。
その反撃で何故か相手の殲滅光線が直撃し、やられてしまった時のことを。
一回だけならば良い。『こんなんでリセットなんて恥ずかしいよな』と言えただろう。だが、現実はそうではない。だから血の涙を流して魔力を支払って動きを全般的に良くする力を使ったり、必中にしてからトドメを刺すようにになったという。
「まぁとりあえず参拝しとくか?」
烏夜は賽銭を入れ、敬意をもって二礼二拍手一礼を行った。
全力で頭を下げたために、最敬礼に見えたのはご愛敬である。
(「当たり障りなく家内安全でも祈願しておいたけど……ルートどうするかなー」)
烏夜はちゃんと周囲の事を考えられる常識人でもあった。
今後に起きる可能性を吟味し、全体的には同じような物だと判断したのだ。
(「闇バイトくんボコるルートだと、加減しくじったときに困るし……人じゃないもの相手のルートに一票」)
彼我の戦力差を考察し、やる気のない現地召集の闇バイトを怪我させる気も無かった。また、能力者が来たら襲うように……という指示であるという事は、予知さえ外してしまえばまだ犯罪を犯して居ないと判断できることも知っていた。
「よし、ゾディアックサインを入れて完了っと」
こうして能力者たちが選ぶルートは決まったのである。
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(「連邦でスミスさんで超大国っていうとあの国を思い出すけど、√汎神解剖機関は√EDENとは違う……のかな」)
|澄月・澪《すみづき みお》(楽園の魔剣執行者・h00262)は貰っている情報から相手のプロフィールを思案した。何処かで聞いた情報なので、予測できるような気がしたのだ。
「とにかく、変なことに使われる前に止めないと!」
相手がどうあれ、悪い事が起きるならば止めなければなるまい。
困って居る人が居れば助けるし、悪い奴が居たらとりあえずやっつけるだけだ。
(「うーん、おみくじかぁ……運がいい時もあるし、運が悪い時もあると思うけど……」)
澪は神社にお参入りするために歩きながら、百面相を始めた。
別に運気を操りたいわけではない。だが、興味がないわけでもない。
それと同時に、『こういうこと出来るかな?』『出来たら良いな♪』『あんなことこんなことできるのに』と考えるタイプなのだ。
(「こうしたら欲しいのが引ける! みたいなのって楽しいよね。遠足の準備みたいで。お正月はもう過ぎちゃったけど、せっかくだし運気のお参りをしていこうかな」)
お賽銭を取り出し心落ち着け投入。
二礼二拍手一礼と五円玉でお参りをして運を祈ってから戦いに向かった。
ゾディアックサインで仲間から情報を貰っていたので迷う事もない。
(「この前見た猫さんの手の形のキーホルダーでかわいいのが当たりますように……肉球ぷにぷにのやつ……!」)
澪は敵に向かって移動しながら、この戦いが終わったらガチャガチャをしようと心に決めていた。最近は良い出来の人形が入っているし、何だったら大きな200円ガチャとかもあったりする。
(「どれもかわいかったけど、トラジマさんのが当たるといいな」)
可愛い物の澪の心は既にルンルンであったという。
だって狙ってるトラジマの子が来ても、三毛猫やスコティッシュホールド(関節技ではない)が来ても可愛い子は可愛いのだ。ゆえに彼女の未来は花丸印なのであった。
第2章 集団戦 『シュレディンガーのねこ』
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『ぎなーぐおー』
『けけけ。けけふんにゃー』
『ドルルルル!』
『バルバルバル!』
能力者たちがその道に踏み込んだ時、陰陰滅滅とした風が吹き荒れた。
陰から現れたソレは、ネコのようなナニカであった。
しかし、ソレは本当にネコなのだろうか?
計測者がネコだと認識しているだけではないのか?
いずれにせよ、能力者たちは既にこの道を選んでいる。
戦いに備えるべきであろう。
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「どの猫ちゃんが当たってもかわいいからいい……って思ったけど、この猫ちゃん?たちは可愛くないっ!」
|澄月・澪《すみづき みお》(楽園の魔剣執行者・h00262)は激怒した。許せぬと思った、猫は可愛くあるべきではないか! しかるに敵は異形でしかない、一匹くらいは可愛いのがワンチャン……ふう。他が駄目過ぎて癒しにもならなかった模様。
「来たでありますか。なら、こっちも応戦と行こうか」
|江田島・大和《えだじま・やまと》(探偵という名の何でも屋・h01303)の呟きは煙を漏らすかのようだった。だが、沁みついた仕草であって煙は出てこない。小さい子が居るし境内なので、我慢するモラルはあった。
「スミスさんの所に向かうために、倒して進もう! あ、良いよね?」
「異存はないでありますな」
澪の言葉に大和は二つ返事で請け負った。
清々しい笑みにも見えるが、飄々としている印象が強い。
かといって人を食ったような胡散臭さが無いのは不思議な所である。
(「こっちのやり口は予想されてるとか、対応内みたいな様子であります。まっ、ここは動き回るとしようか」)
猫を覗く時、猫からも見られているのだ。
大和はそんな予感を覚えると境内からの細道をじっくりと眺めた。
その上空に敵が鎮座しているとはいえ、細道であるというのが実に良い。
別に崖っぷちである訳で無し、建物や森などの障害物に溢れているだけである。
(「力を貸して」)
澪は魔剣の力を借りて執行者に変身した。
様子を見ながら攻撃しようとするが、それより先に動き出した者が居る。
「そらそらそら! こっちに目線を向けるでありますよ!」
大和はライフルを構えて走り回り、ねこに向かってライフル射撃。
狙って打っているというよりは、先んじて相手の動きを牽制しようという風情だ。
そうすれば自らの本命も当て易くなるし、仲間の援護にもなるのだから。
『な~ん』
「はい、ちゅ~る! ってな!」
敵が地震を起こすべく能力を起動し始めた所で、大和は待機させていた小型ドローン『空雨』を本格的に使った。複数のドローンが次々にレーザーを放って行く。一発一発は弱いのだが、複数あってあちこちに撃てる分だけ命中精度の補いが付く。どうやら敵は魔力型らしく、その脅威に対抗するのに丁度良い。
「後は任せるでありますよ」
「了解ですっ。皆を困らせる悪い怪異は……成敗っ!」
大和と入れ替わる様にして澪が斬撃を浴びせる。
地震は彼女にも影響を与えているのだが、魔剣から伸びる不可視の刃がそれを補った! 薙ぎ払う一撃は、揺れで少々外れようとも猫たちを捉えることが可能であったのだ!
「描けば出る、みたいな感じで倒せば出る……なんてことはないよね」
戦いの中で澪はふと思った。
ネットミームの一つに『絵を描いたら出る』『SS小説を書いたら出る』というものがあるのだ。ならば比較的可愛くして白い猫を倒したら、白いのが出ないかなあ……と期待する澪であった。
「ともあれ、今は削る事、倒すことに専念するでありますよ。もう一度ぶちかますけど、準備は良いかい?」
「はい!」
いずれにせよ今は戦に専念するで時ある。
魔力型に魔力で挑み、足元は敵の地震でおぼつかない。
だが二人は巧みに戦術を駆使し、相性の良い攻撃で徐々に敵を削り落とし始めたのであった。
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「ふむ、それにしてもネコじゃな」
その光景をマイティー・ソル(正義の秘密組織オリュンポスのヒーロー・h02117)はあるがままに受け止めた。
「なんか色々と切った張ったしているような感じじゃが、ネコだといわれているならそういうものなんじゃろうな。ある意味、猫まみれ?」
マイティー・ソルが棲んでいる界隈では『こまけーことは良いんだよ!』という風潮がある。尊敬する(?)CEOなど、どんな未知の状況が来ても小揺るぎもしないほどだ。まるで何時ものように潜り抜けてしまうのである(五つも何も考えてないとも言う)。
「まぁ、どちらにせよ猫は、古より変化や魔除けにも用いられるからの。本来の役割は、妾たち√能力者を気付かれずに遠ざけるのが役割だったのじゃろうな」
それはそれとしてマイティー・ソルは今の状況を総括した。
あの猫は『この道(未知)通るべからず』という札であり、より『低い難易度』に流れる=時間が掛かる。という策謀であったのだろう。元から神社に仕掛けられた因習を利用した仕組みであると看破したのだ。
「|となるとあの神社の御利益もまんざらではないようじゃな!《この調子だと、ガチャ運にも恵まれそうじゃな!》 ならば後は征くのみ!」
マイティー・ソルは戦う決意を決めて敵に挑むことにした。
これに対して敵もまた対応し始める。
『みゃーみゃーみゃー』
なんと敵は複数体・複合体であることを活かして治癒能力を活性化し始めた。
何しろ数が居る訳だし、倒されなかった個体や、見つからなかったことは次々治療されていくだろう。
「む。回復か! こういう時は、ガチャを突っ込み続けるが如く、攻撃も狙ってやるよりも大雑多な方が良い。スーパーウルトラ……ラ・イ・ダー・キィィーック!
だがマイティー・ソルは躊躇なく攻撃力へガン振りの攻めを繰り返す。
その生命力諸共、まとめて吹き飛ばすのじゃ! とばかりに飛びあがってジャンプキックをぶちかましたのだ! しかも空中でいつもの倍の回転を加えることで、三倍近いダメージを周囲へと叩き込んでいく!
「|秘密結社は勝つ!《正義は勝つ!》」
その躊躇ない攻撃力にガン振りした攻撃は敵の防御力・回復力を貫いて行く。命中力が落ちるとはいえ、敵は集団タイプでもあるので、当たる奴には当たるだろう。まさしく当たるも八卦、当らぬも八卦。命中率? 知るか、幸運任せじゃ! といっそ清々しいまでの局地であったという。
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能力者たちは猫を見た、猫と戦って居る。
「あの笑ってるのチェシャっぽいな……って」
|鴉越・烏夜《あごし うや》(エリラズ・h00852)はその様相を見て苦笑した。
ネットミームで偶に出て来る、『宇宙を見てビックリしている猫』を思い出したのだ。
「スペースキャットってそういう意味じゃないだろ。猫が宇宙じゃん」
しかし、敵は宇宙そのものが猫である。あれも宇宙猫だとでも言うのだろうか? そんな風に、つい知っている知識を当て嵌めて考えてしまった。そのたびに本来の知識とかけ離れて、彼自身がポカーンと暫く呆然としてしまいそうである。
「まあいいや。ひとまずお仕事のためにどこか行ってもらいましょうかねぇ~」
そう言って左手には刃のような鑿を持ち、右手は何時でも動かせるように待機させた。それは左手はあくまで牽制用であり、噛みつかれたらガードする程度の武器。そして本命は右手であるからだ。
『ぐなー』
(なーんてな。どっちも本命であって、牽制だよ全く。猫がそんなもの使うなってばさ」)
敵がカウンターを狙っているのが、どこか動きが鈍い。
そこで烏夜は左手でルーンを刻み、シゲルやケンのルーンを狙った。
それは雷や炎を意味するルーンであり、属性攻撃を掛けることが出来る。ともあれ相手も動いているので、切りつけている風を見せかけて、上手く刻める方を狙っているとも言えた。
「よし、これでっと!」
『ぎなー!?』
上手くシゲルのルーンを刻み、雷撃を浴びせたところで敵が大きく反応した。
する追い爪で襲い掛かり、反撃を浴びせようとしたのだ。
しかも、この能力は反撃が当たると全快する能力を持っており、カウンター狙いで待っているこそ当て易い。なんとも悪辣な攻撃であった。
「ほい。お手」
『みゃ?!』
だが、それを待っていたのは彼もである。
猫の爪を右手で受け止めると、その瞬間に爪の呪いが霧散化する。
そう、最初から烏夜も無効化能力による防御を狙っていたのだ。だからこそ彼の動きも鈍かったし、お互いにお見合いになっていたと言えるだろう。決して、チーズやちゅ~るによる手懐を狙っていたわけではない!
「このままケンを刻みたいところだが……一発黒焦げに出来たら楽だけど、出力足りなさそうなんだよなぁ。あとはまぁ、『コルヴスストール』を手っぽくすればなんとかなるっしょ」
そういって変幻自在である鉄紺色の大判ストールを異形化させる。ぶっとばしてこの場から除けることで、通れるようにするつもりであった。
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敵は神社の境内から押し出されたが、まだ倒し切って居ない。
猫の呪いだから不死身なのか、このしぶとさがウリなのだろう。
「困ってるようだな。助けに来たぜ!」
仲間の一人が『しゃーない』と戻ってこようとしたところで、|白神・明日斗《しらかみ・あすと》(歩み続けるもの・h02596)が颯爽とやって来た。
『みゃー!』
「貴様に恨みはない。だが、このままじゃ大変なことになるってな。逃げない以上、ここで倒す!」
もし神社の境内であれば流石に明日斗もヴィークルは遠慮していただろう。
だが、仲間が叩き出したので問題は無かった。
「シミュレート完了。これが貴様をぶち抜き、潰すためだけに生まれた一振りの槍だ」
そう言って蒼い刀身を持つ槍を作り上げた。
この槍は指定した敵の身を束縛し、押さえつけて重力で圧壊させる力を持っていたのだ!
「行くぜ! ぶち抜け!」
『ぎにゃー!?』
それでも敵は生命力に優れている。
逃げ回り明日斗が攻撃を外すなり、防御してしまえば生き残れると思ったのだろう。だが、この力は指定した相手のみを砕く力! 巨大な猫のかたまりの下級怪異は、たちまちのうちに殲滅されたということである。
「そう言う訳だ。戻ってくる必要はないぜ? じゃあな!」
そして仲間たちが戻ってくる前に敵を倒し、来た時の様に颯爽と去って行ったという。
第3章 ボス戦 『連邦怪異収容局員『リンドー・スミス』』
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『この怪異の力を持ち帰り解析すれば戦いだけではない。様々な分野の研究も進む筈だ』
神社の怪異を回収しようとサンプルを取り始めるリンドー・スミス。
彼は真面目な怪異収容局員であり、自分の欲望や、目先の戦争などにこだわってはいない。人類社会の為に行動しようとする点だけなら、まさに良い公僕そのものであると言えた。
ただ、一つの懸念を彼は考慮していない。
邪悪な研究者が悪い使い道を使う事、すなわち悪用する事である。
一介の公僕である彼は、そんな事は上が考える事だとデータ収集を続ける。
能力者が駆けつけたのは、彼がまだサンプルを取り切っていない時であったという。
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(「何か言ってるでありますね。ふむふむ」)
|江田島・大和《えだじま・やまと》(探偵という名の何でも屋・h01303)は封印されし怪異が居る聖域にやって来た。そこでは収容局のスミス氏がデータ・サンプルを取っている。
(「立場が違えば正義も違う。そっちの都合はこっちでは都合が悪いってのもしばしば」)
大和は世の理不尽を心に抱く。
正解など存在しない問いが並び、互いの正義が対立し合うこともしばしばだ。
そんな世の中のあれこれに蓋をするのではなく、そうなのだろ呑み込んで、ライフル構えて態勢を低くした。
(「ってわけで、邪魔させてもらうでありますよ」)
物陰からスミス氏の手を狙い、特殊な弾頭を生成する。
それはスミス氏に対して行われる決戦へ、僅かな間に駆けつけた新兵器。
大和は限りなく命中精度をt噛めるために息をひそめ、己の体で軸線を固定した。この奇襲タイミングでは回避よりも命中……いや、確実に次の状況までを己に有利にする事が最優先である。この一撃もまた、倒すというよりは、『次』を見据えての事である。
(「そこ」)
『ぬっ!?』
場所はライフrとしては禁よりであり、相手が動いて居ない限り外すことは無い。同様に射手が動いて居たり、突風が無ければ外すことは無い距離だ(有効打であるかは別として)。その弾丸は大和の狙い通りに敵の手を撃ち抜き、内包した毒を付与するに至ったのである。
『誰だ!? ……そこか!』
(「そうそう、鬼さんこちら。手の成る方へってね。とりあえずサンプルを取らせなきゃ、やつの目的は阻止できるでしょ」)
敵は下級秋意を踏み台にして、跳躍すると隠れた大和の姿を発見。
ナニカ放って来るのを咄嗟に転げながら大和は回避する。
そして己の方に注意を引きつけ、相手のデータ収集を邪魔しつつ、後から来る味方の援護に変えたのである。
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『なんのつもりだ! 私はステイツの、いや世界の為に働いているに過ぎない!』
収容局のリンドー・スミスは怒りの声を上げた。
神社の聖域で作業していただけなのに、突如、銃を向けられたのだ。
言いたいことは理解できるが、そもそも『日本の神社の聖域』でアメリカ人が勝手に作業しているというという時点でおかしい。
「人類社会の為? まさに公僕らしい、自己肯定の為の言葉じゃな!」
その時、マイティー・ソル(正義の秘密組織オリュンポスのヒーロー・h02117)が立ち塞がった。
お前の好きにはさせないぞと仁王立ちで見えを切る。
本当ならば高い所からハイジャンプしたいところだが、流石に神社であったので止めておいた模様。
『何を馬鹿な。ステイツの正義を疑うのか?!』
「いっそ、自分の研究の為とか言った方が清々しいの。じゃが、余所様の世界に来てまで盗人紛いのことをしている段階で駄目じゃな」
あくまでアメリカの正義は正しいというスミス氏に対して、マイティー・ソルは正論を述べた。秘密結社に所属するがゆえに、人前では言えないこともあるかもしれない。だが、今日はまったく関係ないので、言いたい放題言う事ができる!
(「それに、ガチャ運を奪うとは何たる所業か。万死に値するのじゃ!」)
なお、その動機の大半は私心であった模様。
勿論、それを口にしては台無しなことくらい理解している。
御近所密着型の正義の味方……秘密結社としてはコンプライアンス対策はバッチリだ!
『もはや何を言っても無駄な様ですね。だから正論の通じない野蛮人は……』
「待て!? おぬしいま、妾の方を常識外扱いしおったな!? っ……ふむ、怪異の力を手足の様に使うか。単純に見れば、各特性が強化されて侮れぬが……」
スミス氏はあえてツッコミの入るコメントを入れつつ下級怪異を解き放った。それは彼の体に救っている、移植型の怪異であり、腕や足が無数に生えて来るかに見える。
「この怪異たちも、結局は、おぬしと同じ様じゃの。こんなことを続ければ、本来、自身が持っていた持ち味や利点すらも失うと言うのにの。さて、妾が今まで準備しておらなかった思うのか? おろか!」
マイティー・ソルは走狗と化した下級怪異を眺めた。
彼らがスミス氏の手足以上の個性を持たぬ様に、スミス氏もまた収容局の走狗に過ぎぬという二重の皮肉である。その何処にスミス氏の個性があるのか、手足を改造して人格を押しつぶして何の意味があるのか? 翻って下級怪異たちの本来したかったことは義手や義足になることではなかったように……と告げて、用意していた能力を解放したのである!
「極光よ断て、太陽よ裁け。これが正義の刃じゃ!」
『ぬおおおお!!! ステイツの正義はこの程度では破れぬ!』
マイティー・ソルは光明太陽神の分霊を纏い、三倍の速度で動き始めた(もちろん赤くならないし、アホ毛もピンと立ったりはしない)。そして力ずくで振り回す何本もの腕や足を光の剣で切り裂いて行ったのである!
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「なるほど。あの人は確率を操作する怪異を回収……って、何それズルイ。ちょっと私も欲しいかも」
クアドラ・キューブ(人生は続く・h01230)は思った。怪異収容局が悪い事をしているのはしっているが、そういう怪異を回収出来たら研究が進みそうだな。と。
「ともあれ好きにはさせられないわよね。私も手伝うわ。こんなこともあろうかと、予めこの周囲にエキストラを動員してたのよ。そう、闇バイトの彼らがおいて行った資材、あれは実は私が発注していた部品だったわけ」
クアドラは仲間達が通らなかった道に存在していた敵、闇バイトを実は引き抜いていた。その時に戦うなら仕方ないけど、もし戦わなかったら角材とかパイプとか材料にするからくれと伝えていたのだ。
「さあ、行くわよ! 春の新作大応援フェア!」
『なんだ!? どうしてこんなところに看板が!』
クアドラは用意された角材とパイプを手持ちの工具で繋ぎ、そして自分が持っている化粧品その他の広告を張り付けたのだ! そして巨大な看板で敵の注意を引きつければ大丈夫!
『邪魔だ!』
「そうでしょうとも。あんたは貴重な時間を無駄にしたって訳! 我ながら完璧な作戦ね」
敵はハサミ型怪異を腕の様にして周囲を薙ぎ払ったが、その結果は無駄に一手を使ったことになる。クアドラの陽動に引っかかり、本命の仲間が脇道から死角を突きに行ったのを見逃してしまったのであった!
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(「何に使うんだろうとは思わなくもないけど、√汎神解剖機関の人たちを傷つけたり、√EDENへの侵攻に使うつもりなら、止めさせてもらいます!」)
その様子を|澄月・澪《すみづき みお》(楽園の魔剣執行者・h00262)はジッと見ていた。彼女は仲間たちと共に訪れた後、戦う機会を伺っていたのである。
(「せっかく意表をついて回収前にここまで来れたし、皆で攻撃して一気に倒しちゃえたらいいな」)
なんて思って居たのだが……。
ちょっと思わぬ事態になっていた。
いや、一同有利に戦って居るのだが、相手の姿がおかしいのだ。
(「わわわ、体が増えて……!? これも取り込んだ怪異の力!?」)
仲間達が戦って居る相手のリンドー・スミスは下級怪異を馬の様に乗り熟したり、体から義手・義足の様にして増やしたりしていたのである。澪から見てその姿は刺激的過ぎて(意味深ではない)、相手がいくら金髪碧眼のマッチョなオジサンとはいえ、いけないのではないかと思う所存。
(「お、驚いたけどもう大丈夫。よく考えたら妖怪とか普通にあんな感じだもんね。せっかく仲間が正面から戦ってくれてるんだし、ここは横に回り込もうかな。3、2、1。今だ!」)
そう言って魔法少女ならぬ魔剣執行者となった澪は戦場へと飛び出していった。そして魔剣オブリビオンを構えると斬撃を繰り出していく。
『また来たのか。いい加減、しつこいですね!』
「そうかな? そうかも。でも、本当にそうかな!!!」
仲間たちが正面を受け持っている事もあり、その攻撃に対する処理が遅れた。もっとも、スミス氏が振り回す拳や足がいくら多くとも、澪の斬撃を全て受け止めるのは難しかったであろう。
『剣が……残像? いや、これは全てが……なんだっけ?』
それは記憶を切裂く斬撃!
一発でもあたれば直前の記憶を失い、闘志に反応してガードするとしても、何のために戦って居るのかすら忘れてしまう攻撃なのだ!
「あなたは忘れているだろうけど……これで、300!」
『ぐあああ!?』
その攻撃がトドメになったのか、スミス氏の体はバラバラになった。
そしてあるぱーつはカスミの様に消え、あるパールはドロドロに溶け、あるパーツは証拠隠滅で爆散したのである。
「うー、お疲れ様。帰りに猫さんのガチャポン回そうっ」
あたりにとびちったパーツは生産というよりは、バッチィという感じである。澪は鼻をつまむと、帰り道にガチャポンがあるゲーセンへの道を思い浮べた。そして良い子が当たったのか、スキップして帰還したという。