シナリオ

|M《ミラクル》をもう一度/さようなら、またいつか

#√マスクド・ヒーロー #√EDEN #Anker抹殺計画 #魔法少女 #Anker配布先確定 #完結済み

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「貴様――、ッ」
 男の顔は赫怒に染まっていた。三つの眼は怒りに歪み、手にした剣を直接対面するものに向けることこそないが、手の代わりに絡みつく触手が固く縺れ綱が擦れるような耳障りな音がする。
 爆発しそうな激情を、どうにか抑え込むように。

「何をそんなに怒ってるんだ? |仲間《・・》のお前が失敗続きだから、アドバイスをしたかっただけだぜ?」
 両手を広げ、大袈裟にやれやれとジェスチャーを取りながら。濁った白の鎧じみた外骨格が男に肩を組んだ。極めて馴れ馴れしく、そして心の底から同情し情けを掛けるような声色は無意識か意図的か。どちらにしても男の神経を逆撫でした。
「中途半端に戦う力を持った子供なんて、まさしくカモだろ? |運命的に《たまたま》命拾いしただけで、自分も何かできると思い込んでる雑魚なんて、能天気な心を圧し折ってやれば簡単に殺せるぜ!」
 熱い口調で、拳を握り締めながら。耳が腐り落ちる程の下衆な思考をまるで情熱的な夢のように語って聞かせる。
 そして。
「当然、できるよな? お前に選択権なんてないんだからさ」
 鍍金の|正義《・・》と黄金の眼差しが、男へ釘を刺した。

「――わかっている」
 呻くように口にしながら、男は肩を振り払う。

「もう何度目か。『Anker抹殺計画』を、開始する」
 外星体『サイコブレイド』は歩き出す。暗く深い、闇の中へと。


「皆様、どうか、お力をお貸しください」
 空からではなく。
 手当たり次第に連絡を飛ばしまくりEDENたちを呼び寄せたアクセロナイズ・コードアンサーは、真っ先に深々と頭を下げた。

 ――此度予知によって暴かれたのは、『Anker抹殺計画』。
 約一年前より未だ続く、外星体『サイコブレイド』によるAnker、ないしAnkerに成りうる者を暗殺せんとする計画である。
 して、今回標的となるのは。
「魔法少女、です」
 |魔法少女現象《プエラマギカ・フェノメノン》。少し前から頻発する、少年少女が突如として『魔法少女』になってしまうという奇異な現象。彼らは皆人知を超えた『魔法』の力を持ちながらも、中身は子供。現在は力の使い方を学びながら保護されたり、或いはその力を隠しているものなどが大半。
 そして同時に、Ankerとしての素養がある者も少なくない。
 今回暗殺の対象となったのも、そうだ。
「ご存じの方もいらっしゃるかもしれません。|篠杜《しのもり》・カレン。自分が魔法少女現象を予知した、あの少女です」
 聞き覚えのある者もいるだろう。
 ヒーローである父の死について呑み込もうとしながら、今も魔法少女としての力の研鑽を積む少女である。突然の覚醒に際し、EDENたちに窮地を救われた彼女が、再び死の運命に晒されるというのだ。

 ――計画の流れは凡そつかめている。
 その日、プラグマに抗いヒーローを支援する秘密組織にて、保護されている魔法少女たちによる合同訓練が行われる。その際に突如として暴走インビジブルの群れが発生。避難に追われる中、少女が暗殺される、というのが敵の描く|絵図《シナリオ》。
 予知で見えたのは彼女だけだったが、一方でこの合同訓練には多くの人が集まるため、複数のAnker候補やAnkerもいるかもしれない。
 必然、最低条件は全員救助のみ。
 今回は先に述べた合同訓練から篠杜・カレンと再び交流しながら、或いは訓練に参加したりしながら、暴走インビジブルの来襲に備えることになる。そしてそのあとは今回の抹殺計画の仕掛け人と対峙することになるはずだ。
「しかし――一点だけ気がかりが」
 アクセロナイズは付け加える。
 どうやら今回の抹殺計画には、『サイコブレイド』に入れ知恵をした|何者か《・・・》の影がある。ともすれば、今回の作戦で最後に現れるのはその|何者か《・・・》かもしれない、と。

「先の予知では、自分の予知には穴があった。今回も十全とは、いきませんでした」
 自らの未熟に忸怩たる思いを吐露するように告げながら。再び、銀の頭が深々と、下げられる。
「完璧な決着、真の大団円の為に。どうか、皆様のお力をお貸しください」

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第1章 日常 『立派な魔法少女になるために!』



 高層ビルの地下駐車場、隠された一角に停められたバンの裏。
 そこから出入りできるのが、秘密裏にヒーローたちを支援する秘密組織、そのアジトだ。かの組織は√能力者についてもある一定の知識を有しており、EDENやその関係者であれば問題なく中へ通してもらうことができるだろう。

 既に中では、何人もの男女を問わない『魔法少女』たちが鍛錬を行っている。
 突如として未知の力を与えられるという、それこそ何かの物語に巻き込まれてしまった子供たち。しかし善良な心根を持ち、近しい境遇を持つ近い年代が他にもいることを知って談笑し合うその姿は、彼ら彼女らの心の強さによるものか。

 自分の力と、向き合いながら一歩一歩進んでいく彼ら。
 その中には――今回の『標的』として狙われる、少女の姿もある。

 教え導く役割もきっと必要だろう。
 輪に混ざるのも良いだろう。
 自分の力で羽搏き始めたばかりの雛鳥たちを、外敵より守るために。
オーリン・オリーブ


 魔法少女たちの扱う、『魔法』。
 その原理や能力の実態に関しては未だ謎が多い。√能力と同一なのか、或いは別種のものなのかさえ定かではなく、各々が持つ能力はまさしく千差万別、強力なもの、そうでないもの。応用が効くのか限定的なものか。
 ともあれ大枠として、その力の強度は魔法少女たちの想像力、願い、そういったものと紐づく傾向がみられる。
 何はともあれ、そも『魔法』とは何かを知らなくては話にならない。

「一口に魔法といっても系統は千差万別だほ。古来から知識で引き継がれた伝統術式魔法、感覚を研ぎ外に影響を広げた超能力魔法、高位存在や霊的存在とコンタクトをとって力を借りる召喚霊媒魔法などなど……」
 ホワイトボードを背景に、ふわふわと浮かぶ指し棒。
 白板にはびっしりと、例に挙げた魔法の具体的な分類などが見やすく頭に入りやすいようイメージと併せて丁寧に書かれているのだが――なぜか、目の前で授業を聞く生徒たる少年少女の視線は教師である『彼』にばかり注がれる。
「何はともあれ習うより慣れろ、ともいうほ。色々試してみるほ?」
 伸縮する指示棒を念動力でぱちっと縮め、ばささと翼をはためかせたのち、こてんを首を傾げるは、フクロウ目フクロウ科コキンメフクロウ。愛くるしい眼差しに子供たちの注目を一身に集める月桂冠を被った彼こそは、オーリン・オリーブ(占いフクロウ・h05931)である。

 見た目がキュート。人語を介する。その上魔法のコーチもしてくれる。
 まさに魔法少女もののマスコットが如き彼は、魔法少女たちの中でも特に年代の若い子共達に大人気。瞬く間に心を掴み、彼の指示の下熱心に訓練に励むことだろう。
 魔法への造詣の深さ、知識量だけでなく、例に挙げた三種は自身で用い実演してみせることでより想像力をかきたてさせる。
 和気藹々と、各々の魔法を育てる彼ら彼女らを後押しするように。さり気無く前述の『実演』の際に使用していたのが、|神聖竜詠唱《ドラグナーズ・アリア》。√能力として昇華されたそれが為すのは『人を傷つけない願い一つ』。
 オーリンが願ったのは、魔法少女たちへの『強化』。一度大きな力を放てば、その感覚を掴みより早期のステップアップが見込める。一方で『人を傷つけない』という能力の制約は逆に自身の領分からはみ出し暴走する危険性を抑制するラインにまで強化の幅を押し留めてくれるという算段も込み。
「頑張りすぎると集中が乱れて魔法の制御ができなくなるので、休憩とりつつ程々にほー!」
 ……とはいえ、集中が乱れればその限りではない。その辺の気配りも欠かさず声掛けすれば、揃った「はぁーい」という返事が元気に響いてくることだろう。

 自らの血統や由緒について相応の誇りある彼にとって、自らの知識を素直に聞き入れる未来ある若人を導く教師という任は、誉れ高き大役。
(まさしく、アテナさまの由緒正しき使い魔として相応しい仕事ほ!)
 満足げ嘴高々なオーリンが、こののち休憩にかこつけて子供たちに撫でくりまわされひーひー言いながら飛び回る羽目になるのは、また別の話である。

雪月・らぴか


 魔法少女たちは、ある程度まとまって行動している。
 単純に年代ごとであったり、或いは用いる魔法の効果が近しい者同士であったり、はたまた単純に仲が良いからであったりと、グループの差は千差万別。

 そんな中、一人の魔法少女(?)が、その訓練に単身意気揚々と参加していた。
「いくよーっ!」
 ぶおんと勢いよく杖を振るえば産み出される氷雪と使い魔たる雪だるま。他の魔法少女たちと比べても抜きんでた才覚と能力を発揮する彼女は――なんと、魔法少女ではかったのだ!

 彼女の名は|雪月《ゆきづき》・らぴか(霊術闘士らぴか・h00312)。√能力者である。
 フリルのついたドレスや身の丈近い|長杖《スタッフ》。彼女が能力の時に用いるそれらは外見的特徴だけを列挙すれば確かに類似する部分はあれど、彼女の杖は殴打武器として扱われがちなうえ、用いる力も冷気と霊気を用いる独自の『れいき』だ。魔法とはジャンルが異なっている。

 とはいえ、周りの魔法少女たちにとってそんな差は些末な事。憧れの眼差しで見られるまで時間はかからない。
 何しろ容姿は頭一つ大人びている一方で、話しかければ明るく活発で親しみやすい。その上力も強いとなれば当然であろう。
 そうして人の輪の中心になれば、必然情報も集まってくる。
 魔法少女たちが使える能力は、基本的に自分で戦うような能力ではなく、むしろ他者の能力を強化するような系統が大半を占めること。
 男女問わず、魔法少女になった子供たちは魔法を高めて戦うことよりも自衛のためであったり、不意の暴発を防ぐことを目的に訓練をしていること。
 そして、件の外星体に狙われるという件の少女、篠杜カレンは珍しく攻撃能力も有しており、他の魔法少女たちに比べ何かと戦ったりすることを目的とした訓練をしているということ。
 ――そして彼女の能力は、一つが味方の火を用いた攻撃力と耐性を向上させる力。そしてもう一つが、特定の死を一度だけ防ぐ力であるらしい、ということ。
(……うーん、火かあ。それに特定の死ってなんのことだろう?)
 唇の下に人差し指を添えて、考え込む。
 らぴかの力は、先に示した通り冷気が主。とはいえ閃きが降りてくれば、新技開発に活かせるかもしれない。
 後に来る脅威に向けて、彼女と共闘する予定もあるのだから。

(しかし、ここにいるみんなは大変だなあ)
 突然未知なる力を与えられた子供たち。無自覚に覚醒してしまった|√能力者《じぶん》も同じようなものだが、一方で突然ヘンなモンスターに襲われるようなことはなかった。その上、自分で望んでもいないのに、諦めの悪い殺し屋外星体の『サイコブレイド』にまで目を付けられてしまっているという。
 まさしく踏んだり蹴ったりだ。
 ならばせめて、これからやって来る災難くらい、オトナな自分も手伝ってぶっ飛ばしてやるのがいいだろう。
「そうと決まれば、特訓だー!」
 えいおーとばかりに天へ突き上げる拳。そんならぴかの意気に触発されて、魔法少女たちの鍛錬にも熱が入ることだろう。

 ――最終的に、なぜか彼女と共に訓練した魔法少女たちは杖でぶん殴る技術を会得していくのだが。

クラウス・イーザリー


 他の参加者と集まって、ひとかたまりになって訓練にいそしむ魔法少女が多数を占める中、単独で繰り返し訓練に没頭するものがいる。
 非常に珍しい、対象への攻撃を行える魔法。一方でその威力は、既存の銃火器と比べて並ぶことはあっても勝ることはない。もし相手が一般人であれば必要十分だろうが――覚醒した魔法少女が必ず相対することになる、欲望の名を冠する怪物相手にも苦戦することだろう。
 乱れた呼吸を無理やり押し留めるように、首から提げた『銀の弾丸』を握り締め。再び杖を構える――その少女に。
「根を詰めても良いことはないよ」
 穏やかな声音と、台詞。聞き覚えのある声に振り返った少女は目を丸くし、呟いた。
「あなたは……」
 視線の先に立つ青年、クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)は柔らかく微笑みながら、手を緩く振るのだった。

 訓練場の中でも|内側からの《・・・・・》衝撃に備えるよう作られた一室の外、自販機に併設されたベンチに腰掛ける二人。
「また、『あいつら』が現れるんですか?」
 スポーツドリンクのペットボトルの空になったペットボトルを、力なく握るカレンに、クラウスは首を振って応える。
「そうじゃない。俺も、今日は訓練を見学に来たんだ」
 不安を煽らないよう、敢えて来襲する敵のことについては触れないまま。
 実際にクラウスはここに来る前に他の魔法少女たちと共に訓練を行った。先にも示した通り、魔法少女たちの能力は他者の能力を補助したり付与したりといったものが多い。彼らの情報を得つつ、自分なりのコツを伝授していた。
 彼の魔法は他の|√《せかい》に根差したものであるため、具体的にどの程度までが参考になるかはクラウス自身も未知。とはいえ、穏やかで真摯な対応、それに『大人』というほど年が離れておらず、とはいえ『子供』というには大人びた彼の丁度いい塩梅は、特殊な境遇にある少年少女たちからすればどこか頼りになる『先輩』、のような雰囲気で迎え入れられることだろう。
 内省的で、些か自己批判にはしるきらいのある彼だが。
 一方で、戦いを経ていく中で自分がその背を追われ頼られる側になることは、きっと、苦ばかりではないはずだ。

「適度に力を抜いて……って、簡単にできることじゃないけどね」
 とはいえ、面倒を見た魔法少女たちから伝えられた内容によれば。篠杜カレンは、一人で何時間も苦しい訓練に籠りきりになっていることがあるのだそうだ。
 そんな言葉を聞けば、当然見過ごせるはずもない。彼らの指導を少し切り上げ一度顔を出せば、話の通り彼女は一人でいた。そこでこうして飲み物を差し入れつつ、様子を伺うことにしたのである。
 とはいえ口から出た言葉に我ながら人のことを言えた義理じゃないという自嘲を込みで浮かべる、クラウスの不器用な苦笑いにカレンは少し目を伏せた。
「――心配、おかけしてすいません」
 今度こそ。くしゅりと、ペットボトルを潰した少女は漏らすだろう。
「皆さんに、『あの子』に、お父さんに。繋いでもらった命なら――その分だけ、誰かを助けなくちゃって。そう思って、しまうんです」
 決意が、彼女を駆り立てている。
 何かを成し遂げなくてはならない、と。

 クラウスは、少しだけ考えて、席を立つ。
 きっと彼女には考える時間が必要だ。自分も、一人で考えたいときもあるから、彼女もそうだろうと。
 その上で。
「似たようなことを、俺もよく考えるんだ」
 そんな彼の言葉に驚き目を見開く少女に、クラウスは再び微笑むのだ。
 少しだけ、寂し気に。けれど、同時に真っ直ぐな眼差しで。
「後悔は消えないけれど。答えは、きっと強さだけじゃないよ」
 手を置いたクラウスの左胸の奥で拍動する|二つ《・・》の心音。
 そして少女にも僅かに視えた、彼の肩で寄り添うように羽を休めた不死鳥は、光の残滓となって飛び去ってゆく。
 すべての未来へ歩む魔法少女たちへ。安息と、癒しを残して。

ゼロ・ロストブルー
色城・ナツメ


 また、少しところ変わって。
 こちらは魔法少女たちだけでなく、ヒーロー支援組織の職員たちも利用可能なジム施設。基礎体力作りから筋トレまで。幅広い目的で使用されるこの場所で――。

 職員だけでなく魔法少女の少年少女にも声援を受けながら、熱い戦いが繰り広げられている一角がある。
「――ふぅ、俺の勝ちだな」
 汗を拭いながら爽やかな微笑を浮かべる男性――ゼロ・ロストブルー(消え逝く世界の想いを抱え・h00991)。数奇な運命を経て、此度狙われる魔法少女との縁を紡いだ|一般人《Anker》のひとりである。
「く、ッそ……次だ、次……!」
 惜敗しながらも、疲労の度合いはゼロ以上。この施設を運営するものとは違えど|組織《・・》の一員。ビシっと決めてきた髪型さえ乱れてしまうほどにだくだくと汗をかきながら、別の競技でのリベンジを要求する彼は|色城《しきじょう》・ナツメ(頼と用の狭間の|警視庁異能捜査官《カミガリ》・h00816)。彼こそが、√能力者でありEDEN。そう、彼のAnkerこそがゼロ・ロストブルーだ。

 ……ことの経緯を順を追って話そう。
 まず、再びこの√マスクド・ヒーローへ迷い込んだ《・・・・・》のがゼロである。他の|√《せかい》に迷い込む彼だが基本的に帰るには四苦八苦することも多い。
 そこで、Anker抹殺事件を聞き付け臨場したナツメが近くにいたため、回収を依頼し、そのまま流れで同行することになった――というのが事の経緯だ。
 最早呆れを超えて日常の一幕になった師の徘徊に対して最早慣れた対応をかましたナツメであったが、流石に今回被害者となるという少女とゼロが面識のある相手であると聞いた時は流石に耳を疑ったが。
 その後、魔法少女の鍛錬を共に観察し、件の少女の安否も確認したふたり。
 そんな中でゼロが言い出した一言がきっかけだった。
「見学もいいが……訓練している姿を見るとソワソワするな。せっかくだ、俺も鍛錬に参加させてもらおうか」
「は? いや、俺は見学と警戒があるから……」
 冷静に言いつつ内心では冷や汗を流すナツメ。子供たちに向けているはずの視界には、自分が課された指導の光景がスライドショーよろしく駆け巡っていた。
 然し、ゼロは言う。
 成長期を迎える前、或いはその最中である魔法少女たちに直接筋力トレーニングなどを指示するのは難しい。つきっきりで今後コーチングできるわけでもない。
 だから、日々の鍛錬の『結果』である自分たちの運動能力を見せることで具体的なビジョンが浮かび、目標にしやすくなる。
「それとも、将来有望な少年少女たちの前で負かされるのは、流石に堪えるか?」
「あ゛?」
 最後にそっと付け加えられた台詞に、ナツメが首をぐりんと回すのだった。

 ――結果が、先程述べた状況である。
 健闘を称えるギャラリーの歓声。なぜか熱くなっている職員の人々は勿論、その肩書きに反して少なくない『少年』の魔法少女たちは特に今回の二人に強いあこがれを抱くだろう。フリルのついたドレスや形状こそ武器っぽいが機能的には杖である手持ちのそれらと比べ、まさしく鍛え上げられた肉体というのはなんだかんだと男のロマンなのだ。
 その後、職員の中でも筋肉自慢の益荒男たちも参戦したウェイトトレーニングによる競い合いは組織の所長とゼロとがデッドヒートを見せる中ナツメは階級差に突っ込みつつ三位に甘んじ悔しがるも、一方で「トレーニングは自分を高めるもので、人と競うものじゃないからああなっちゃだめだぞ」と理性的な立ち回りで子供たちの信頼を獲得し。
 現在は、集まった職員さんがコーチとなり、魔法少女の子供たちが各々負荷がかかり過ぎない範囲での筋力トレーニングを行う様子を揃って見つめていた。

「はは、つい熱くなってしまったな」
「マジで……なーんで俺、仕事の出先でまで筋トレしてんだ……?」
 すっきりした表情で座るゼロに対して一息ついて漸く根本的な疑問に立ち返ることが叶ったナツメ。
 ここでも師に上回られていることに少しだけ不満げな表情を浮かべながらも、気になっていたことをぶつける。
「なんか、隠してねえよな」
 彼は徐に、師へとそう問うた。
 迷い込みの体質の話はもうあきらめた。師匠であるゼロが易々と死ぬたまではないこともわかっている。そっちに賭けている、という方が正確かもしれない。
 一方で先程の懸垂にしろ、ウェイトトレーニングにしろ。見るからに実力が上がっている。ともすればかつて自分たちを鍛えていたころよりも。
 ……なぜ、そこまで追い込む必要があるのか。ナツメ自身思い当たる節がないでもないくらい彼はいくつもの事件に巻き込まれているが、しかし。
 どうにも『それだけ』とは、思えなくて。
「大丈夫だ。俺は、何も変わっていない」
 微笑みも。眼差しも。言葉の通り何一つとして変わらぬ、ゼロ。
「答えになってねえっつの」
 呆れ顔で、溜息をもらすナツメ。
 一瞬だけ神妙な雰囲気になりつつも、子供たちの提案で開幕した階級別アームレスリング大会によって、二人のやりとりは中断されることだろう。

 ――所長との準決勝で勝利し、ついに決勝へ歩を進めたナツメが、本気になったゼロの無言の圧と身体が回転するほどのパワーによってノックダウンして「やっぱお前なんか隠してるだろ!?」とか追及を受ける一幕が差し込まれるが。
 それはまた、別の話である。

斯波・紫遠


 一部職員たちがジムのトレーニングの指導役やなぜか盛り上がっている一角に駆り出されたことで空いたスペースで、監督役を引き受ける男性。彼もまた、今回の事件に参加することになったEDENの一人だ。
「はい、十分休憩だよー。水分補給とか忘れずにね」
 タイマーを確認し、魔法少女たちに声掛けをする|斯波《しば》・|紫遠《しおん》(くゆる・h03007)。同時に、周囲に拡げてゆくのは|治療空間《イヤシノマ》。鎮痛作用を高め、回復効果を飛躍的に向上させるこの√能力は、周囲の少年少女たちが訓練中に感じた疲労感を取り去るためのものだ。
 自分の扱う能力は、所謂『魔法』のようなものとは毛色が違いすぎる。実演してみせるにしても良いインスピレーションとなるかは判断がつかない。そのため、こうして監督役として子供たちを見守りつつ、後の展開のために動いていた。
 ――こののち襲い来る脅威から、逃げるとしたら。疲労がもとで足がもつれただなんて話になったら、笑い話にもならない。
(この後が大変だからね、万全の状態でいて欲しいからね)
 勿論、それは自分も。
 そして、視線の奥で座っていた少女のことも、だ。

「……あ、え? 紫遠さんもいらっしゃったん、ですか?」
「覚えててくれたんだね、カレンさん」
 そう、彼もまた篠杜カレン覚醒に立ち会った√能力者の一人である。
 それだけに、この巡り合わせに運命的なものを感じながらも……だからこそ再び彼女が悲劇の予兆に掛かってしまったことが悲しくもある。
 あの時見せた、人の為に煌々と燃える灯火のようにも見えた彼女が。
 今は、どこか自分と重なって見えた。
 他者の為に、自身を薪にくべる様な、危うさを。
「多分、偶然じゃないんですよね」
 使命感と自責。少女の内心がにじみ出る言葉に肩を竦めながら、紫遠は親指で彼女にあるものを示すだろう。
 ――ここに集った、EDENたち。偶然によって導かれたAnker。共に過ごす中で彼らの周りに集まった人々は皆、新たな学びに向き合ったり、笑顔になったりといった形で好意的な影響を受けていた。
 それだけではない。紫遠が見ていた魔法少女の何人かも、きっとカレンに声を掛けることだろう。少し前に困っていたことを助けてくれたとか、一人でずっと厳しい訓練を受けていて心配だった、とか。
 呆気にとられるカレンに対して、紫遠は笑顔で言うだろう。
「誰かを助けたいなら、もっと周りを見なくちゃ。助けたい人の顔がわかなんないんじゃダメだよ」
 おずおず、と言った様子で。
 手を引かれ、今度は一人ではなく皆と揃って人の輪の中へと入ってゆく彼女の背に、紫遠は頷いた。彼女は人の輪に恵まれている。きっと、それが彼女のこころと温めてくれるだろう、と。

 同時に。隠した片耳に嵌めたインカムから人工音声が響く。
『いいのですか、例の件を伝えなくとも』
 ――当初、外星体『サイコブレイド』に関しては聞かれた範囲で回答するつもりでいた紫遠。だが、結局それに関しては伏せたままでいる。
「今のあの子には、毒になると思ったんだ」
 負担になる情報は、少ない方がいい。今の彼女を見て、咄嗟にそう判断したがゆえの行動。情報という武器よりも、普通の中学生だった彼女を日常へ戻し、今もなお残っている傷への『鎮痛』こそが、大人の自分にできる最大限のことだから、と。

 それは、それとして。
 少年少女がこの後疲れ切って動けないようなことがないよう展開した空間の中で、むしろ全然動いても疲れないことにテンションが上がってマシマシで訓練をしようとする魔法少女たちのバイタリティに、紫遠は予想外だったとばかりに額をぴしゃりと叩きつつ。
 既定の休憩時間をスルーしようとする若人たちへ、笛を鳴らすのだった。

架間・透空
クラーラ・ミュスティアウゲン
久瀬・八雲


 さて。
 EDENたちがあちこちで訓練の様子を見ている中、単独での訓練に精を出していた篠杜カレンは珍しく、あるグループからの声掛けを受け集団での訓練を行おうとしていた。

「お久しぶりです、カレンさん!」
 少し落ち着かない様子で周囲から少し離れた場所に立つのカレンの名を呼び、元気いっぱいな声で迫るとその手をがっしと掴む少女が一人現れるだろう。その姿を見れば、カレンは驚きに目を見開いた。
「――透空さん?」
「はい!」
 |架間《かざま》・|透空《とあ》(|天駆翔姫《ハイぺリヨン》・h07138)。彼女の覚醒の際、共に戦った仲であり、今回の報せを受けて飛んできた一人である。とはいえ彼女がこの場に現れたのは決して彼女|だけ《・・》が目的ではないのだが。
 周囲には人の目もある。近い事を利用し、カレンは透空へ耳打ちで尋ねるだろう。
「やっぱり、また何か事件?」
 そう問われれば透空はびくりと肩を震わせ、怪し気に視線を彷徨わせはじめ、再会を喜ぶために掴んだ手の中が妙に湿っぽくなる。
 実は彼女が気にする相手はもう一人いた。
 外星体『サイコブレイド』。Ankerを想うがゆえに凶行を繰り返す彼に、もう一度会う。それを目的にもしていたのは間違いない事実。
 ――それはそれとしてこれから危ない事件が起こるなんてことを正直に目の前の少女に伝えてよいものかどうか。嘘のつけない彼女が言葉を次げず、挙動不審という『答え』を丸出しにしていると。

「そう肩に力を入れないでください、大丈夫です」
 そっと。
 重なっている少女たちの手に触れ、静かな声音で制する人物。カレンが見れば、息を呑む。
 騎士を思わす外套つきの軍服じみた装い、黒く落ち着きのある二つ結びの束ね髪。年頃は自分よりかは透空に近そうな、カレンからすれば先輩にあたるだろうが、とはいえ成人からは遠く――その目は、黒い眼帯に覆われていた。
 クラーラ・ミュスティアウゲン(閉ざした瞳の武侠剣士・h12663)。彼女は自分にカレンの視線が注がれるのを|察知し《み》たかのように、そう名乗ることだろう。
 穏やかな物腰と、一方でただ奇抜な衣装を好んで着ているだけ、なんてものとは到底違う彼女が纏う気迫、というか、オーラ、というか。
 彼女が仲裁に入ったことで、カレンは追及の手を止めるはずだ。先に告げた雰囲気にのまれたのもそうだが、同時にクラーラが言った「大丈夫」という言葉への安心感も、多分に理由に含まれる。

「おーいそこのみなさーん、休憩終わるそうだよー!」
 てんやわんや、と行っていると三人を呼ぶ声が響く。
 呼び声声高に、そして動きは更に元気良く。近未来的な印象のあるベルトの多いコートを羽織るその下は、大正浪漫を感じる晴れやかな桜色の着物に袴。緋色の一つ纏めに束ねた髪が手を振るたびに更に激しく揺れる。
 |久瀬《くぜ》・|八雲《やくも》(焔剣・h03717)、彼女もまた招集に手を挙げた一人。彼女もまた外星体『サイコブレイド』と幾度となく剣を交えた一人であると同時に、今回の魔法少女が行うという鍛錬に興味を持ってやってきた次第だ。
 ――かの外星体『サイコブレイド』も切羽詰まっているのだろうか。或いは、告げ口をしたという何者かの悪意が、此度の悲劇の元凶か。
 どちらであっても彼女の表情が陰ることはない。自分が少し離れた間に距離が近くなっている友と同じく、標的となった魔法少女には元気に挨拶して握手を行う。
 迫る脅威は、気合で倒す。彼女の眼差しに、曇りはなかった。


 さて、透空、クラーラ、八雲も加えた魔法少女たちの訓練だが、大まかに分けて魔法少女たちの段階によって行う訓練が異なる。

 第一段階は、魔法少女への『変身』の訓練。
 突発的に魔法少女への覚醒を果たした彼らが、自らの意志でその状態へと変わり、或いは解除できるようになるための訓練。これがなければ日常生活に戻ることは困難であるし、何より未知の部分が大きい力の制御の第一歩となる。
 第二段階は、基礎体力。つまり運動だ。
 変身した後だけでなく変身する前の段階でも役立つ能力であり、異能の力を突然得た少年少女たちに増長が起こらないよう、心身を鍛える目的がある。
 第三段階が、自らの使う魔法の研鑽だ。
 どのような効果を持つか。どのように使うのか。範囲はどの程度で持続する時間はどの程度で、副作用などが起こらないか、応用は可能か。決して過去に類例を見ない現象ではないとはいえ、『魔法』の性質にはデータが足りない。そのため、研鑽といっても魔法少女たちそれぞれの自己研鑽に任せるしかないのだ。

 ――√能力者にとっては、余り参考になる様なものではない。
 一方で、三人がそれを適当に流すのかと言われたら、全くそんなことはなかった。

 第一段階の少年少女たちにとって特に模範となったのがクラーラ。
「……私も、こうして動けるようになるまでには随分とかかりました。けれど、積み重ねていけば届くこともあります」
 目を隠し生活する彼女は、盲目ではない。むしろ逆だ。生まれつきの特性によって世界が『視えすぎて』しまった彼女は、それゆえに自らその強すぎる光を閉ざし、いばらの道を自ら選び歩み続けてきた。
 彼女が伝えるのは、一足飛びに全てを解決するような万能な手段ではない。積み重ね、研鑽をすることの重要性だ。
 一歩目と言われるこの段階で躓いている少年少女の中には、このまま元の暮らしに戻れないのではという不安や諦念すら覚えているものいた。しかし実際にクラーラの見せる身のこなし、複数人に声を掛けられても誰が誰かを見抜き正確にそちらを向いて応答を返すなどの姿を見れば、心の中を濁らせた雲に一筋切れ間を産み出すことができるだろう。
 またその具体的な例としてクラーラは、引っ張ってきた透空の|変身・天駆翔姫《ハイペリヨン・リジェネシス》を見せ具体的なイメージを掴むのを助けた。彼女はテンション上がって一曲披露すると知らず知らずの間に職員さんまでも集まってきてあわやミニライブになりかけたが。

 第二段階の少年少女たちの特に模範となったのは、八雲だ。
「気になることはどんどん挙げていきますよ! はいそこ、腕を使うときはこうですよ、こう!」
 彼女もまた戦いとは無縁の生活を送っていたが、迫る脅威に力を渇望し、戦いの道へと歩みを踏み入れた。事前の意志の有無は異なれど、一方でスタートラインは多くの魔法少女たちと大差がない。だからこそ、彼女の指導には無駄がない。
 理論立てたモノではなく、築き上げてきた戦いの歴史とそれが培った鍛錬の成果。どう動くべきか、どう鍛えるべきか。それを各々を見て的確に伝えていくだろう。
 今、少年少女たちの目の前に立つの、遥か彼方にあるとはいえ、同じ道の先にある姿である。となれば、当然思うだろう。自分たちも、こうなれるかもしれないと。
 しかしながらそれで無茶を許容するような真似を八雲はしない。気合と根性、熱血を是とする精神性が見え隠れするのは否めないが、無茶と無謀は履き違えない。
 それでも情熱を感じる魔法少女の目線に八雲が熱を帯び始めたら、さらりとクラーラがストップをかけるだろう。これも事前に訓練を見ている中で三人があれこれ相談した連携の一つである。

 そして、最後。
 第三段階の魔法少女たち。彼ら彼女らと最も過ごしたのは、透空だった。
 カレンも、この段階に位置するがゆえに。
 とはいえ直接的な手出しをしてどうこう、という意味で彼女が魔法処女たちを教え導いたというのとは話が違う。透空が彼らの傍に立って行ったのは、話を聞くことだった。さまざまな力を持つ魔法少女たち、男女も年代も問わずに自ら話しかけに行き、手伝えることがないかを尋ね、めげず、真っ直ぐに。想いを伝えてゆく。
 戦いにおいて、敵を知るにはまず味方から。これから先どうなるとしても、彼女たちを識ることにきっと意味がある。彼女のその言葉は、直接相対したすべての魔法少女たちの心に響き、強い信頼を獲得するはずだ。
 結果として、透空はカレンからある話を聞くことができるだろう。
 いや、彼女だけではない。クラーラも、八雲も。魔法少女たちから、伝えられることになる。


 魔法少女は現状、|戦力に数えられない《・・・・・・・・・》。
 訓練は全て日常で問題を起こさないための自律のためのものでしかなく、彼女たちは、戦うことを願われていない。いや、むしろ徹底して言われるのだ、『戦うな』と。
 それは大半の魔法が傷つける能力ではなく誰かを支援する能力であるためなのも勿論そうだが、同時に不用意にその力を使い、万に一つ利用価値を示してしまえば――少年少女だけでなくその大切な人たちにこそ危険が及ぶためでもある。
 何故なら――悪の組織プラグマは、必ずそうするから。
「だけど、私たちは、そんなこと納得できない」
 カレンは透空の隣で呟いた。首から提げたシルバーのアクセサリーに見えたそれは、神社で行われた戦いの中で、彼女の手元に残った奇跡の銀弾であった。

 この訓練に集まっているのは魔法少女の覚醒の際に現れる怪物たちに襲われ、『無事』な魔法少女たち。
 命がある魔法少女はもっといるが、それは無事とはイコールではない。心身に傷を負い、酷ければ今も意識を取り戻せてすらいない同年代の子がいることを、この場所にいる全員が知っている。
 だからこそ、今『力』を持つ者たちはそんな悲劇に見舞われた仲間たちの為にも。
 一刻も早く成長し、得てしまったその『魔法』で仲間を、誰かを、大切な一つ達を助けたいのだ、と。

 三人は、それを聞き、何を想い、何を伝えるか。それは定かではない。
 だが、たった一つのことだけは、総意として思ってくれることだろう。

 予知に語られた、外星体『サイコブレイド』が、何者かに語り掛けられていた言葉。
 中途半端に戦う力を持った子供なんてカモだ。
 たまたま命拾いしただけで、自分も何かできると思い込んでいる。
 能天気な心を圧し折ってやれば簡単に殺せる。

 そんな世迷言は、断固として否であると。
 並々ならぬ強い想いを抱きながら、少年少女は、戦っているのだと。
 ――そして自身のAnkerに対して並々ならぬ想いを抱く外星体『サイコブレイド』もまた、それを承知のうえであるに違いないはずだ、と。

第2章 集団戦 『暴走インビジブルの群れ』



 訓練が一区切りついたのと同時、施設内に鳴り響くけたたましいアラート。
 それは施設内に予定外の侵入者が現れたことを示すものであった。
 すぐさま職員たちは魔法少女たち少年少女を避難させようと動き出すだろう。こういった緊急時の動きについても予め訓練されており、全員が少々の不安を抱きつつも、決してパニックに陥ることなく迅速に避難が開始される――。
 そのはずだった。
 ある職員の肩から、突然血飛沫が上がるまでは。
 悲鳴、そして困惑。彼らの目には何も映らない、にも関わらず狂暴な怪物が食い千切っていったかのような荒く肉を抉られたような傷口。歴戦の職員たちでさえ動揺は隠せない以上、年若い子供たちにとってその衝撃は計り知れない。

 だが。
 君達には、見えているはずだ。
 赤黒く染まった|透明な怪物《インビジブル》の群れは、表情のない無機質な眼球は何かを探すように忙しなくぎょろり、ぎょろりと左右を彷徨う。
 平時ならば漂うばかりで無害なはずの魚群が、今何かに操られるようにして抵抗できない一般人に食らいつかんとしている。

 彼ら彼女らの命を守るために、できることは二つ。
 職員たちと連携して避難を支援し、全員を退避させるか。或いは魔法少女の力を借りて、早急に敵を全滅させるか。
 どちらにしても、時間はない。
 魚群の眼差しが徐々に一点へと、向かい始めている。
 ――怯える同年代の少女に肩を貸す、篠杜カレンへと。

●分岐選択について
 プレイング先頭に、『共闘』『避難』のいずれかをお選びください。
 その票数によって二章、三章の戦闘難度と、三章での敵が変化します。

 ・『共闘』
 魔法少女たちの『魔法』の支援を受け、集団戦を有利に運ぶことができます。どんな魔法少女に力を借りるか、どんな支援を受けたいかはプレイング次第で自由に決めて頂けます。勿論カレンからの支援を受けることもできます。魔法少女たちとのコミュニケーションをとることも可能でしょう。
 この場合職員や魔法少女たちが全員が固まった状態のままになるため、次章でも人々を守りながら戦わざるを得なくなります。

 こちらの分岐では、三章で『悪意に満ちた相手』と戦闘になります。

 ・『避難』
 透明な怪物の包囲に穴をあけ、職員や魔法少女の避難を最優先する形になります。職員や魔法少女の安全が確保される形となりますが、一方で『戦う皆さんを助けたい』と主張するカレンを含めた魔法少女たちへの説得が必要となり、戦闘と並行して行うと集団敵との戦闘は少々難しいものとなるでしょう。避難優先の為魔法少女の支援も受けられません。
 一方で、全員を安全な場所に避難させてしまえば次章で襲い来る敵のみと向き合うことに集中できるようになるはずです。

 こちらの分岐では、三章で『覚悟を決めた相手』と戦闘になります。

※注意
 分岐によっては外星体『サイコブレイド』との直接戦闘が無くなります、予めご承知おきください。
雪月・らぴか


「どぉりゃーっ!」
 完全に動きの止まってしまった魔法少女たちと、職員たち。見えぬ脅威へ竦む足へと喝を入れるかの如き溌剌とした声が、絶望に沈殿した空気を『れいき』で以てかき回す。はじける桜色はさながら特撮の特効、だがちゃんと攻撃力のある氷の破裂は赤き魚群を牽制する先制攻撃だ。

 先陣を切ったのは、|雪月《ゆきづき》・らぴか(h00312)。彼女はくるりと振り返ると、自分と一緒に訓練をしていた一人の魔法少女に告げた。
「キミの力はたしか、敵を感知する能力が上がる『魔法』だったよねっ? サポートよろしくぅ!」
 ばちこんウインク一発受ければ、呆然はすぐさま|頼られた《・・・・》という決意に塗り替わる。気合を込めた藍色の髪の少女は集中し、周囲に光と共に領域を広げた。
 ……すぐに職員たちからはどよめきが、魔法少女の何人からは喉を鳴らす「ひッ」という声が響くだろう。
 √能力を有するらぴかから、彼ら彼女らが今この周囲を取り囲む魚群をどの程度感知できるようになったかはわからない。だが『魔法』をもってして、ようやく雰囲気だけは掴めているところを見るに、やはり『魔法少女』とは通常の√能力者とは別物なんだなぁ、と実感することだろう。
(なら見えないところで襲われるより、近くで守った方が安全かも!)

 そうと決まれば話は早い。
「二つの刃をクルクル回せば、私自身が猛吹雪ー!」
 取り出したるは『雪月霊杖スノームーン』。鏡のような満月を象る杖をバトンのように回していけば、両端から伸びていくのは桜色の花弁か。
 否――命を刈り取る鋭き鎌刃。命を刈り取る形をした杖を手に、彼女は魚群へと文字通り猛進するだろう。
 突然の攻撃に憤った暴走オブリビオンは赤い霊気を身に纏い、飛び込んできた少女を先に噛み砕こうと鋭く伸びた牙を鳴らす。だが残念ながら――それがらぴかを捉えることはなかった。
 上昇する速度、威力、らぴかの勝利。防御に用いる分すら攻撃に転化した速度は群れをしてなお捉えられず、顎と鎌刃が何度かち合おうが、牙が砕けるばかりかむしろ無防備な口内からすぐさま魚は瞬間冷凍。そのうえ如何に守りが薄かろうが、当たらない攻撃など恐れるに足りない、現に忙しない眼球の動きでさえ桃色の輝きを追うことすらできていないのだから。

 ならば、と。魚群は|食べやすい《・・・・・》手負いの職員や、魔法少女を狙うだろう。特に今、『魔法』を展開する少女など狙い目だとばかりに。
 しかし迫った魚の顎が突如カチ上げられる。意識外の攻撃に目を剥く魚影は、そのまま急接近したらぴかによって頭を撥ねられるだろう。
「ふふん、『見えない』のが自分だけだと思わないことだねっ!」
 腰に手を当て胸を張るらぴかの横で、同じポーズをとるのは彼女に従う雪だるまの死霊――『彷徨雪霊ちーく』たち。
 彼らは気配を殺し、魔法少女たちの護衛に当たっていた。何しろ守っている魔法少女たちの方からも感知できないのだ、潜伏能力は抜群。そして案の定|釣られた《・・・・》魚はモロに雪玉を叩き込まれたのである。
 つまり、策略でも勝っていたのは、らぴかだった。

 朧気ながら『敵』の存在を近くできている人々を守りながら、一騎当千とばかりに大立ち回りを演じる彼女を、魔法少女たちは目に焼き付けることになるだろう。
 直接支援を頼まれた少女は、殊更に。

オーリン・オリーブ
クラウス・イーザリー


 敵存在を朧気ながら見えるようになった魔法少女たちは言わずもがな。組織の職員たちも未だ、大量の魚群の包囲の中にある。一度戦いに参加した魔法少女もおり、となれば次は自分も戦う人々の役に立ちたい――そう思うのは、決して不思議ではないだろう。

 だが、飛来したオーリン・オリーブ(h05931)は静かに告げる。
「戦いは避けてほしいほ」
 知を示す賢者として少年少女を導いた彼の言葉に、何人もの魔法少女が反論するだろう。しかし彼らに対してオリーブは首を振る。
 予兆にてロボトロンが告げていたように、魔法少女たちは未だ子供だ。覚醒を経て誰かに守られたことでここにいる、ならばそうして彼ら、彼女らを護った誰かの為にも、戦いは避けさせるべきだろう、と。
「我輩たちは実は多くが治療が苦手なので、傷付いた職員さんの手当てはみんなにお願いしたいほ」
 とはいえ全員をただ無力な存在として扱うわけではない。
 自分たちが苦手なことを任せ、それによって自己肯定をさせようと、オーリンは考えるだろう。
 だがその言葉を聞けば、熱気に満ちていた少年少女が言葉に窮するはずだ。
 手負いの職員は未だ、魚群の輪の中に囚われている。役に立ちたいという願いは、自分たちを守ってくれた大人を蔑ろにして叶えたいものでは決してない、と。
 静まった少年少女たちを見て、オーリンはそのままの流れで自らの能力を発動した。|今を掌握する感覚《ストラテジア》。一人の少女が発動した魔法で行われた支援と同じく敵への感知能力を拡げるこの能力。然し強化するのは自分と、そしてもう一人、この場から少年少女を避難させようとする√能力者のみだ。

 そして――支援の対象となったのが、クラウス・イーザリー(h05015)。彼もまた、魔法少女たちを避難させようと動く人物の一人である。
 護るべき人々を背に、提げたネックレスを固く掴む。託された信頼の証、宝石にも似た輝きを放つのは、濃縮された吸血鬼の心臓。そこから迸る魔力と融合した彼は、灰色の狼へと変じる。名を|relier《ルリエ》、繋いだ絆の力。
 オーリンによって強化された索敵能力で、急接近し攻撃を加えんとする魚影を自身の方向へと引き寄せながら、蒼の魔力が力を抑え、紅の刃が切り刻む。絶えず移動しながら自分への攻撃を躱し続ける一方、少年少女や職員へ絶対に近づけさせないという意志の表れ。
 人々を、守る。
 その役目は尊く誉れあるもののはずだ。
 しかし、平時であれば温和である彼の表情は今、苦々し気に歪んでいた。
「――クラウスさん」
 声がする。そちらを、彼は振り向けない。声の主は敵が狙う標的――篠杜カレンだ。
「……隠していてごめん、今は避難を」
 クラウスは事態について、誰にも仔細を話していない。それは当然、彼女にも。理由は今告げた通り不安にさせてしまうと思ったから。これ以上の隠し立ては難しいと判断し、彼は告げるだろう。
 悪しき者が計画した一連の事態。そして、その狙いが誰であるかも。
 暴走したインビジブルを捌く中で流れる沈黙は重々しく、永遠にも思われた。けれどついにカレンは口を開くだろう。
「まだ、逃げるわけにはいかない。私のせいで起きたなら、尚更――!」
 クラウスはそれを否定せねばと理解しつつも、きっとそれを制する言葉を持たない。何よりも彼自身、きっと同じような状況に立ったのならば敢然と敵に向かってゆくと自覚しているがゆえに。
 噛み締めた歯が砕けそうになる。それでも一切手は止めず、敵を防ぎ続けるクラウスへ声が届いた。

「こっちに避難するほ!」
 宙を移動しながら索敵を行い、同時に灯火に誘引の性質を籠めた魔法で敵の狙いを散らしていたオーリンが言う。敵の包囲網から最も近い地点であるシェルター。その中なら、少なくとも暴走したインビジブルから身を守ることができるだろう。
 だが、一度に全員を避難させるのは難しいと判断した二人は、先ず怪我を負った職員と、未だ『魔法少女』への任意の変身が難しい面々を先にそちらに向かわせることになる。
 誘因による妨害。感知能力の向上による正確な敵の各個撃破。
 避難しなければいけない人数が少ないこともあり、避難は滞りなく進んだ。
 そのままオーリンは、避難の終わった面々に隠れているよう指示し、魔法の鞄から魔に対する品をいくつか貸出すだろう。香炉にくべた神聖な樹皮は邪悪を祓い、鈴は退魔の音色を奏でる。自動記述されるウィジャ盤は、敵の位置を魔法の支援なくともサポートしてくれるだろう。
 ――変わらず、クラウスの表情は晴れない。
 非戦闘員を避難させることができたとはいえ、渦中のカレンは未だ仲間たちの傍を離れていない。『もし自分が避難するなら、全員が逃げ終えたそのあとだ』と、彼女は譲らなかったから。
 無茶でも、無謀でも、自分の命を賭してでも。誰かの為に戦い続けてきた自分の言葉で、『逃げていい』なんて言い出せるはずもない。
 もっとうまくやれたのでは、そんな、後悔。
 けれどその肩にオーリンが留まる。
「迷う暇はないほ。どっちにしろ、インビジブルは倒さなきゃならないほ」
 淡々と。賢者の眼は未だ敵を捉え続けている。五感のみならず、第六感までもを拡張する索敵能力は、未だクラウスに接続され続けているのだ。
「――そうだね、その通りだ」
 クラウスも、顔を上げるだろう。
 もし全員を避難させることが叶わずとも、暴走したインビジブルもこれから現れる黒幕も倒さなくてはいけないことに変わらない。加えて誰が相手でも、どんな奸計を張り巡らそうとも、ただの一人として犠牲者を出させるつもりはない。
 ならば今必要なのは迷うことではない、と。

 ――梟は羽搏き、灰色の狼は走り出す。
 ただ、総ての命を守るために。

色城・ナツメ
ゼロ・ロストブルー


「ついてこい、こっちだ!」
 鋭く、声が飛ぶ。振るう刀が撥ね飛ばすは魚の頭部。噛み付こうと鋭い歯を見せるピラニアの牙に厚い刀身を咬ませれば、そのまま強引に二枚おろしにして見せる。|色城《しきじょう》・ナツメ(h00816)は、避難の為周囲を取り巻く魚群の網に穴をあけるため猛進していた。
 魔法少女たちは、確かに多少特殊な力を所有している。とはいえ、彼にとっては保護対象。それは警察官という職業柄の判断であり、同時に理解しているからだ。
 ――√能力者と、そうでない人間の明確な差を。
「ゼロ、そっち行った! 四時の方向から来るぞ!」
 ただ道を切り開くだけでなく、視界の端で捉えた自分ではなく後方へと狙いを定める一匹を捉え、叫ぶ。
 内心では正直気が気じゃない。それでも、振り返りはしない。
 これもまた、必要な切り分けだと自分に言い聞かせながら。

 名前を呼ばれたもう一人。ナツメとタッグを組みこの戦いに臨んだ彼は、然しナツメの師匠でもある。実際先の筋トレ云番勝負においても、最終的にナツメを圧倒する戦績を収めた。であれば寧ろ指示などされなくても余裕で魚群をブツ斬りにしていてもおかしくはないはずだ。
 ――実際、飛ばされた指示の通りに斧を振るい、ゴマモンガラにも似た魚の頭をカチ割り、続けて奥から迫るもう一匹へ双つを揃えた大薙ぎの一閃を叩き込めば、三枚おろしどころか余りの衝撃に赤黒く透けた魚影はバツンと半ばで千切れ飛ぶ。
 ゼロ・ロストブルー(h00991)は薄らと手の中に感じた感触で仕留めた事を理解しつつも。彼の視界の中では、自分の刃はただ空を切ったようにしか見えていない。
(やはり|見えない《・・・・》というのは、厳しいな)
 そうだ。一般人である彼に、今の攻防は一切映っていない。なんなら間近に迫った敵ですら、気配を感じることも叶わなかった。
 これが、√能力者とそうでないものの差。
 敵が遣わした刺客が何かしらの怪人であるならまだ救いはあったが、|透明な怪物《インビジブル》であるというところが何とも小賢しい。
 指示を仰がねばならない以上戦闘能力が秀でていても、戦力としては一歩劣る。何よりその自覚があるからこそ、ゼロもまた魔法少女たちを避難させる方向で動いていたのである。
 彼らが避難させたるため率いていたのは、先程筋トレで合流した職員たちと、先程発動した魔法の効果で敵の気配の多さを目の当たりにし、戦意を喪失してしまった少年少女たち。そして、そんな彼らを護ると挙手した面倒見の良い魔法少女数名。
 数としてはそれほど多くはない。未だ、『自分たちは戦う』と言って聞かない頑固な魔法少女もいた。それはゼロとも面識のある少女、カレンも同様である。
 ――自分は残る。敵の狙いが自分なら、足止めくらいにはなれるから、と。
 無理にでも引き摺って、安全な場所に連れていくことも可能と言えば可能だ。しかし、ゼロもナツメもそこまではしなかった。
 未だ戦い続けている√能力者への支援を行う魔法少女は動けない。いくら他に√能力者がいるとはいえ、単独で残しておくわけにはいかず、何人か戦闘能力を持つ魔法少女にも支援を頼まざるを得なかった。既に領域を離れてしまっているためゼロはその効果を得られていないが、今魔法を使っている魔法少女の傍にいればインビジブルの気配は掴めるのも、|追《むか》い風だった。

 とはいえ。
 殿を務めるゼロの戦いを傍で見ていた少年少女たちは、きっと身に染みて理解するはずだ。
 戦うことの難しさ、そして、怖さを。
 不可思議な力を持っている。それだけでは足りないのだ。実際に、目に見えない相手に襲われるかもしれないのに恐れず、与えられる短い指示だけを頼りに刃を振るい、冷や汗一つ流さないなんて。そこまで至るために、どこまで鍛えればいいのか。いや、むしろそうまでなれるのか。そんな風に。
 弱る心は、伝播する。それは怯えた少年少女を守るために手を挙げた子供たちにもどんどんと影を落とすだろう。
「諦めんな! 前を向け!」
 その心を、晴らすように。
 ナツメが叫ぶと共に、伝播していく強烈な感情が弱気を塗り潰す。生きる、生きたい。根源的で誰もが持つその感情を強く励起するそれは、能力と表すべきかも分からない、彼が師に学んだ最初の一歩。
 こんな世界でも臨むなら、『青空をこの手に』。純粋な感情は、人々の傷や状態異常をゆっくりと回復に向かわせるだろう。あくまで範囲内に収まっている間だけなので、治癒能力として強力とは言い難いが――それでも今、俯いた魔法少女たちをハッとさせるには十分だ。
 危険と分かって誰かの為に戦いたい、何かを助けたいと試みる無茶なお人よしたち。その姿を見て、ナツメの中に呆れの感情がなかったわけではない。警察官が民間人を過剰に頼るのはよくないとも思ったし、現実的な判断として自分のAnkerであるゼロのこともある。だから、避難という選択を取った。
 それでも。
 その心意気までもを、否定はしない。できない。
(してたらとっくにゼロを縛りつけて何もすんなって言ってるからな!)
 自嘲気味に、おどけたそんな思考を巡らせながら。
 それでも彼は笑いながら、攻撃を受け、返す刀で魚群を捌く。
 彼らの未来を、この地下で終わらせないために。

 ――こうして、二人が率いた少年少女と職員の避難も無事完了する。
 ナツメはシェルターにまで迫ってくるしつこい数匹を相手取り切り結ぶ中、ゼロは子供たち、とくに弱った子たちを守るため自発的についてくると言った子供たちに言うだろう。慰め、宥め、誘導する。これも立派な戦いだと。そして君たちはそれを為したんだ、と。
 それを聞いた子たちは、二人に重ねて願うはずだ。

 戦っている魔法少女たちのことも、守ってあげて欲しい、と。
 二人がその求めに応じたのか否か。それはわざわざ、記すまでもない。
 子供たちの前で、一刀と双斧は空を裂く。怪物の姿は見えずとも、彼らの勇姿ははっきりと目に見えていた。

斯波・紫遠


 避難が完了していけば、必然包囲の中に残る人間は減っていく。
 敵からの攻撃は集中する一方で、逆に守る側も意識を割く領域が縮小する側面もあり、防御としてはむしろやりやすくなるだろう。
 何より――この場に残っているのは、並々ならぬ意志でここに残った。不用意な行動で列を乱したりせず、一方でできることがあれば望んで行う。そういう子供たちだ。

 そんな子供たちと共闘という形で敵の掃討に尽力するのが、|斯波《しば》・|紫遠《しおん》(h03007)である。
 指鉄砲の先から放たれる、白き炎。魚群は透明な鱗を翻し躱すだろうが、避けたと思ったその刹那、ぐんと身体が引き摺り込まれる。網のように子供たちを取り囲む海流の中に突如生まれた蟻地獄、その只中で轟々と燃え盛るは、恩讐渦巻く狗神の火。|焔の魔弾《ホムラノマダン》。彼が身に宿すそれを打ち出す形で活用する能力。
 紫遠自身『便利な力』と評価しているが、今この時それを選んだのは魔法少女たちへの|指南《・・》の延長でもある。
 つまり、戦うことよりも守ることに重きを置いた戦略の実践である。
 敵に直接当てて的確に数を減らすことよりも、敵の動きを予知して広範囲を巻き込み足を、いや鰭を引っ張る。しびれを切らして群れと協調せず、面攻撃から先走ったものを返す刀で的確に処理。
 四方を囲まれた状況でも的確な状況判断が行えるようドローンによって視野を確保。携帯するタブレット端末に搭載されたAIである『Iris』の指示に常に耳を傾けつつ、いつでも咄嗟に守れるように備える。
 その上で――魔法少女の何名かに魔法を使ってもらうよう頼み、その効果によって自身を守るオーラ防御を、周囲に伝播させられるよう強化することで、残った全員に防御の効果を行き渡らせていた。

 戦い方にも種類がある。
 先程の仲間たちが見せていた避難の為に身を粉にして先陣を切るのも一つ、一方で今自分が熟すように、ド派手に敵をやっつけるようなものじゃなくても立派な一つ。
 魔法という力に目覚め、不幸な同世代の境遇に心を痛め、自分たちが怪物との戦いによって救われた経験から自分もそうなりたいと勇み足になる。
 紫遠にも理解できる部分はあれど、それでも今の彼らから目を離すのは、性急に思えた。
(こういうことは、もう少し違う形で教えてあげたかったな)
 だからこそ使命感によって『何か』したいと口でいうだけでなく、自分に適性があるものをきちんと理解することで、彼ら彼女らは今ほど自分を追い込み過ぎずにいられただろうに、と。

 そんな風に色々と悩むことはありつつも、集まった魔法少女たちによる領域の重ね掛けによって倍増された防御は、まさしく盤石と言っていい。
 先程は厚い壁の如く包囲していた魚群の層も、避難に向かった面々を襲うために分断され、結果各個撃破されている。
 目の前の暴走インビジブルたちを倒しきるのは、時間の問題だろう。
 ならば。
 これから苦難へと歩まざるを得ないとするならば、その道行きを照らす経験の灯火を増やしてあげたい。
「ここからは、君達自身が踏み出す番だ」
 パチンと指を鳴らすと同時に、紫遠の周囲から輝く火柱が上がる。
 ――敷かれた炎の渦の中心点。訓練場の広さと空間、それを加味して配置されたそれらが一斉に、その性質を反転させる。
 敵を阻害する効果から、味方を強化する能力へ。恩讐に満ちた轟々と燃える白炎は、慈母の温もりにも似た柔い光となるだろう。

 呆気にとられた魔法少女たちに。奥に立つ、カレンに。
 紫遠はウインクと共に後ろへ下がるだろう。
 魔法少女たちの若々しい無茶に寄り添って、背中を守ってやるために。

架間・透空
クラーラ・ミュスティアウゲン
久瀬・八雲


 残る暴走インビジブルはあとわずか。とはいえ、周囲を漂う赤い群れは未だ殺意に満ち満ちている。気を抜くにはまだ早いだろう。
 そんな中で、魔法少女たちの手の中には、わずかながら抵抗の手段が与えられた。手の中で形作られる炎の球。一時的なものとはいえ、自分の思うがままに動かせるそれは魔法と言って大差ない。

「よし、準備は万端です!」
 全員の手に行き渡ったそれらを確認し、長大な長巻を片手に言うのは|久瀬《くぜ》・|八雲《やくも》(h03717)。彼女の声音は、訓練の開始の時と全く差がない。熱く、明るく、そして溌剌とした輝きを放つままだ。
「皆さん、宜しくお願いしますね」
 微笑みと共に、穏やかな声色で告げるのはクラーラ・ミュスティアウゲン(h12663)。手にした手入れされた一本の直剣を流れる様な動きで構えつつ、魔法少女たちのひとりひとりへ、目を合わせるように顔を向けた。
「いきましょう! 私たちで、皆を助けるためにっ!」
 決意に満ちた眼差しと、誰より大きな声で。|架間《かざま》・|透空《とあ》(h07138)はその手に『らしい』武器は何一つも手にしていないように見えた。けれど、魔法少女たちのすぐ近くに寄り添い放たれたその言葉は、子供たちの心を奮い立たせるだろう。

 無茶も承知で、それでも動き出さなきゃいけないという気持ち。自分もそうであったからこそ、淀みなく全員で戦うという結論になった八雲。
 仮に一度狙われることになったのならば、どこまで逃げていられるか。ならば、勝利という経験を以てその先のことを考えるクラーラ。
 望んでいたものとはまるで違う力を運命に押し付けられたものとして、近しい境遇の少年少女が抱く『夢』を、少しでも手伝いたいと願う透空。

 世界は異なれど同じ志で集う黄龍の紋の下に揃った三人の意志は共通していた。
 共に戦い、共に勝ち取る。
 集うた仲間たちだけではない。魔法少女たちと、共に。


 残った|透明だった怪物《インビジブル》は、威嚇でもするかのように身を震わせ、残る戦力をすべて結集して襲い来る。さながらベイト・ボールの如く、一塊となった魚群の圧はすさまじい。
 然しそれに臆さず大胆に、誰より深く踏み込むは、霊剣・緋焔を手にした八雲である。
「鬼さんこちら、っとぉ!」
 単騎駆けと見せかけて、孤立した彼女を呑み込もうと魚群が形を変えるや否や、その目の前に現れ出る鬼火。これまでの戦いでそれらが何か意図を持ったものと錯覚し、真っ先に術者たる八雲を狙うインビジブル。
 しかし、牙がその身を捉えるより前に、横っ面に叩きつけられるのは紅蓮に染まった剣匣。六尺六寸の長巻が姿を変えたその匣は、全長はそれと同じ大きさ。加え刃に纏うた性質をそのまま匣の状態でも受け継ぎ、浄化の力で以て魚を天に召すだろう。
 さらに鈍重なそれが扇型に開くと同時に――その中から他に収められたものとは異なる意匠の二振りが勢いよく飛び出すと、螺旋を描くようにして飛行しながら周囲の敵を微塵に刻んだ。細身なその二刀が宙で交叉すれば、その中央へ着地するクラーラであった。
 彼女は悠然と眼下の魚群を見下ろし、ぱっと再び虚空へ身を翻しながら、呟く。
「舞うように、連なってください」
 囁く声に応じるように、ひゅるりと空と共に鱗を削ぎ、鰓を貫く二振りの剣。|静眼・飛燕連符《ヴァルツァー》。絶技が奏でる風切り音が、理性を失った怪物たちの最後の調べとなるだろう。
 魚群の塊が、二人の戦士に食い破られる。
 ベイト・ボールの真価は少数を犠牲に群れの生存率を上げること。犠牲を代価に大きく群れの形を変え、逃れるように下がっていく魚影。今度はこの二人を取り囲む様に網を形成すれば。
『天気予報をお伝えします』
 そんな、甘い目論みを。ただ淡々と破るのは。
『今日の天気――雨のち霰』
 反響するアナウンス。首を擡げた魚群を貫く、無数の氷弾。霰は直径五ミリメートル以下のものを指すが、その速度が時速百キロメートルをゆうに超す速度で打ちつける。一発の威力は然程でもない。然し、圧倒的な面と、空気抵抗のある氷粒をそこまで加速させる圧倒的な|下降気流《ダウンバースト》。それらが合わされば、距離を離した魚の動きを封じ込め、散弾と化した霰で身を抉り取ることなど造作もない。
 |天色管理機構『霰』《ハイペリヨン・ヘイル》。雲と風を生み出すその根源は、粒子の翼を広げ白き異形へと変じた、いや、|戻った《・・・》透空であった。

 こうして陣は完成する。
 中距離から舞う飛燕剣によって魚群の群れをかき乱しながら切り取ることで集合することを防ぎ、魔法少女たちへの接近を許さないクラーラ。距離を離して様子見をする、或いは自分たち以外のインビジブルを赤き汚染によって狂わせようとするものを根元から断ち切る透空。そして、鬼火によって意識を乱しつつ、そのまま自分に狙いを定めた相手を|匣中《コウチュウ》でもって先制攻撃し、衝撃で飛び出した分割されし十二本の霊剣を操りながら大立ち回りを演じる。
 こうして戦いながらも、相互の支援は欠かさない抜群のチームワーク。
 その姿に――魔法少女たちは、魅入るはずだ。

 一方で、少年少女も決してただ指を咥えてみているわけではなかった。
 まず、飛行能力や移動能力を強化する力を持った魔法少女たちが、事前に打診されたクラーラの求めに応え、魔法の領域を展開する。任意の無機物にも強化を適用するその魔法によって、クラーラの飛燕剣、八雲の分割された霊剣、更には透空の降らす氷礫にも強化が乗る。
 更に、魔法少女たちが手にした火球にも、その効果は適用された。
 抜群の連携で繰り出される殲滅に対して狡猾に姿を潜めるものや、獅子奮迅の三人では分が悪いと判断し、既に避難した面々の方に牙の矛先を変えるもの。或いは充満させた赤の汚染でじわじわと戦う人々を害そうとするもの。
 そういった朧気に見えるインビジブルたちへ向けて、魔法少女たちは一斉に炎の球をぶつけまくる。はたから見れば雪合戦でもしているようだが、魔法に近しい性質で操れるそれらは時に剛速球、時に変化球となってインビジブルへと繰り出され、意識を引いたり、或いは苦悶させるほどのダメージを与えることもできるだろう。
 それらの強化に一役買う魔法の中には、「火に関連する属性の強化」を持つ魔法少女の領域が加わっていたのは、言うまでもない。

 残るはあとわずか。そんな中で八雲が肩を回しながら声を出す。
「まもなく決着、ここは全員でぶっ倒しましょう!」
 意気揚々、テンションマックス。決着は、やはり必殺技でつけるのが定番だと。
「ええ、異存ありません」
 確実な勝利を目指すことが優先だとしつつも、友人の求めとあれば断ることはしないクラーラは自身の胸に手を置き。
「任せてください、私も援護します!」
 そして、今は|天色管理機構《ハイペリヨン》としての姿である透空もまた同じ気持ちだった。頷き、両手でギュッと拳を作る。
 魔法少女たちも口々に賛同の声を上げだろう。
 こうして一致団結となった全員が……繰り出す、|必殺技《フィニッシュムーブ》。

 残る魚群を取り囲む、鬼火としめて十四本の剣。
 これまで全く痛くも熱くもなかった火に油断して突っ切ろうとすれば、ごうごうと燃え盛る火に飛び込んで焼き魚と化し真っ黒に染まる魚影。
 一体どういうことかと言われれば、八雲が展開した相手を傷つけない鬼火の中に、魔法少女たちの火球を仕込んだ二重の仕掛けである。
 出口を完全に塞がれた魚群の上でもくもくと。
 深く重く垂れ込める黒雲。室内に漂う水分を凝固させ、しっかりと冷やし固めた|霰《だんがん》が装填された銃口を、下に向け――強かに礫が地面を打つ音が、合図となった。

 念動力にて操られる十二の刃はその身に宿す焔だけでなく、併せて魔法少女たちの操る炎に刃を潜らせ纏うた煤で重ね掛けした浄化の力で、邪年に満ちた霊魂を断ち。
 仙術を用いた剣技の粋を極め宿した彼女の十八番によって、二羽の燕は流麗なる軌道を描き敵の弱点を正確に見定め、二重に重なる刺突は纏う炎に研ぎ澄まされ確実にその命脈を絶ち。
 一点集中の局地的な霰は圧倒的な速度と共に敵を打ち据えながら、火球によって蒸発した小粒の霰はそのまま蒸気として天井に昇り、再び雲の中へと取り込まれ次弾として装填される無限の仕掛けで魚群を穿つ。

 三つ巴の包囲網。然しこの魚群の中に、少年少女たちやEDENたちと異なり、窮地に在って心折れぬ猛者はいなかった。
 一目散に逃げようとするか、或いは仲間を盾に生き延びようとするか。
 ――然しそのどれもが実を結ぶことなどなく。少年少女を狙い遣わされた荒れ狂う暴走インビジブルは、これにて全てが撃退された。

 三人と、共に戦い抜いた魔法少女たちは、ハイタッチを交わす。
 勝利だけではなく。戦った人も、避難した人も、どちらを手伝ったEDENたちも。
 誰一人として命が喪われることなく、この瞬間に立ち会ったことに。


 傷ついた職員や戦うことの難しい者は仲間を託しつつ無事に避難し、戦う意志を持った者たちは諦めず共闘し勝利を掴むという、終わってみれば理想的な結末だ。

 しかし――これは、あくまで前座。
 真なる刺客の足音は、もうすぐそこまで迫って来ていた。

第3章 ボス戦 『悪性騎士『ジャスティスヤイバー』』



「あの群れを退けた、か」
 静かな声音で。
 地下の訓練場へと踏み入ってくるのは、三つ目に異様な力を感じさせる剣を手にした外星体『サイコブレイド』。表情を殺し、ただ悪であらんと務めるように、その切っ先を魔法少女たちへと向けようとした刹那。
「――くらえ、ジャスティススラッシュ!」
 巫山戯た程明るく情熱的な声色で、『サイコブレイド』に切り掛かる謎の影。それは先程まで『サイコブレイド』と肩を組んでいたはずの、怪人だった。
「貴様、何のつもりだ」
 完全な不意討ち。然し最初からそれを見抜いていたかのように、三つ目はその攻撃を受け流し、そして逆に切っ先の行方を子供たちからその怪人へと切り替えた。
「ハ、無能な雑魚に最初から期待なんてしてなかったのさ! オレの狙いは最初からその剣の方! 実際にこうして作戦をしくじってるんだ、どうせ今回も必死なガキの眼差しだのなんだのに絆されて実力を発揮できなくなってたに違いないぜ!」
 味方であるはずの『サイコブレイド』に刃を向けておきながら、白い怪人は全く悪びれることすらなく、そのくせ口調だけは酷く熱血で情熱的。だが口にする言葉はその一つ一つが邪悪そのものであり、一切の品性を感じない。
 ただ一つ明確なのは、こいつはまさしく外道であると。
 そう呼ぶほかに、ないことだけだ。

 不意に三つ目が、僅かに動き|君達《EDEN》を見た。
「――――そうか」
 どこか脱力したようにそう言うと、自ら『サイコブレイド』は手にした剣を白い異形の前に投げつけるだろう。
「まさしくお前の言うとおりだ。では、無能はさっさと立ち去るとしよう」
 そのまま背を向け姿を消す直前。どこか皮肉めいて、或いは安堵を漏らすようにして言い残してゆくだろう。
「どうせこの程度の相手に、敗北するはずなどないだろうからな」
 その言葉は、果たして怪人と、|君達《EDEN》。どちらに向けられたものだっただろうか?

 真偽を確かめる間もなく、邪悪は、意気揚々と二刀を掲げ宣言する。
「さあ『サイコブレイド』! お前の力を解放しろ!」
 次元を超えても標的を狙う黒い触手が剣から飛び出せば、それらは魔法少女たちに絡み付き動きを制限する。
 既に避難した少年少女にまでは|触手《て》が足りていないようであるが、しかし窮地であることに変わりはない。
「勝者こそが正義! つまり、今はオレこそが、正義! Ankerなんて雑魚を守って必死になる愚かなお前たちに、特別にオレが『正義』を教えてやるぜ!」
 |悪性騎士《バッドナイト》『ジャスティスヤイバー』。
 歪んだ|正義《あくい》が、立ちはだかった。

●追加情報

 分岐先A『悪意のある敵』に分岐しました。
 敵は外星体『サイコブレイド』の手にした剣を強奪し、その隠された能力を解放することで、Anker候補となる魔法少女たちを拘束しています。しかし、人数が多いことに加え敵は魔法少女たちを『雑魚だ』と軽く見ているため、拘束は極めてお粗末です。
 解放されてもすぐ殺せると傲慢に考え、気にも留めません。
 ですが敵は弱い者から狙うため、積極的に魔法少女たちやAnkerを狙います。

 そのため『魔法少女を助けるor守る』といったプレイングにボーナスを進呈します。
 更にここまでの戦いによって避難された魔法少女たちからも支援の魔法が供給され、強烈な強化が入っています。特に防御能力が著しく強化されており、ダメージを気にすることなく戦っていただけます。

●Anker配布
 魔法少女『篠杜・カレン』の配布希望の方はプレイング中に『🔥』の絵文字を先頭にお願いします。もし希望者が複数人いらっしゃる場合にはプレイング等から判断させていただきますので、予めご了承ください。

 希望者がいない場合でもシナリオ進行には差し支えありませんので、どうぞご安心ください。何卒よろしくお願い致します。
オーリン・オリーブ
クラウス・イーザリー


 手に入れた力を誇示し、弱者への蹂躙に酔う自身を『正義』と標榜する鍍金の白鎧。子供たちを前に助け出さんとする職員たちでは歯が立たず、なすすべもない。
 力こそが、正義。それが真なのか。漂う絶望。
 だが人の心が闇に呑み込まれそうになったその時にこそ、正義の風は強く吹き荒ぶ。

 地下にどこからともなく吹き込む涼風。
「なんだ? 神かなんかがオレの勝利を祝ってくれてるのか?」
 見当違いな自己評価。その昆虫面に、猛禽の爪先が叩き込まれた。
 タッチダウンするように。その額を強かに蹴り付けながら、天高く舞い上がった翼。体格は小柄にみえるものの、翼を広げた姿はまさしく鳥類の頂点に立つ捕食者としての風格を持つ。知恵の神の使い魔。だが同時に、かの女神が翼を羽搏かせるとき、それは勝利の化身としても語られる。
 尊大な態度こそみられど基本的に温厚そのものである、人語を介するフクロウ、オーリン・オリーブ(h05931)。しかし今、青い瞳は鋭く敵を睨みつけていた。
「――この下衆、許さんほ」
 一時とは言え、自身が教え導く生徒たちを、庇護されるべき子供たちを侮辱した。その怒りはいかばかりか。いや、それは最早語るまでもない。
「おいおい、小動物の分際でオレの邪魔をするのか? 片腹痛いぜ!」
 一撃を受けてなお、侮辱的な台詞を一切隠さない白仮面は、肩から伸びる節張った触腕を伸ばし宙を踊るその軌跡を追うだろう。だが、その魔手が届くことはない。
 先陣ロマンチカ。今彼は、風の加護を受けている。
 視力が正確に狙いを予期し、空中浮遊、いや飛行能力も三倍。充填する魔力で光の尾を引きながら高い天井の施設を飛び回り、決して的を絞らせない。
 舌打ち交じりに、ジャスティスヤイバ―は剣を振るう。面倒な輩は人質を盾に終わらせるに限るとばかりに。そんな卑劣を、この存在は勝利の為淀みなく行えた。

 だが。
「あ?」
 がっちりと。触手を伸ばす『サイコブレイド』を持つ手が、いやそれだけではない。脚、身体、首に至るまで。地面から伸びた茨によって拘束され、身動ぎ一つ叶わない。ぎらりと、生々しい生物の光沢放つ複眼が捉えた先で……折角捕らえた人質を逃そうとする人影が見える。
「何ボケっとしてる、行け!」
 苛立ち交じりにジャスティスヤイバーが叫ぶと同時、これまで何もいなかったはずの物陰から突如として現れたでっぷりと膨らむ下腹を持つ、全身が銀色の怪人たちが現れると、耳障りな羽音を立てながら魔法少女たちを狙う。だが。
 その身体を貫く細い光線。雨にも似た光の線は一見すればただその身体を通り抜けただけに見えるだろうが、静止の直後目標の遥か手前――なんなら鍍金の白鎧を巻き込む形で爆散するだろう。
「やらせるものか」
 厳かに。しかし明確に。怒りと決意と以て呟くのは、クラウス・イーザリー(h05015)。手にした杖を振るい、更に続かんとする後続へと自らの魔法を放つ。
「――|茨の蔓を操る魔法《シュタルテン》」
 伸びる黒い茨が銀蠅の足を絡め取り、飛ぶその身体を縛り上げる。動きが留まれば、頭部、腹部、翅へと注がれる|雨《光線》。各所に散らしたレイン砲台から照射される光で照射する元を悟らせないよう、しかし的確に急所を射貫くことによって子供たちへと近づけさせない。更に怪人当人にも茨の拘束を与え、動きを制限する。
 そして、生み出した隙を――子供たちへの救助へと充てる。彼が自身の魔力を注いだ魔力兵装を用いれば、拘束は容易に断ち切れた。どうやら敵は確かにあの『剣』の能力を解放した。だがそれを十二分に使いこなせているとは言えないらしい。
 クラウスが抱いた、安堵。それは外星体本人がこの戦場から去ったことに由来する。当初この場所で彼との対峙に対する漠然とした抵抗感。だが今、救助を通じてそれは実力の差という形での安心感も重なる結果となった。
 全員の救助とは、行かなさそうだ。だが、それでも何人かを助け出し、そして告げるだろう。離れないように。そして、今囚われている子たちを助けてあげて欲しいと。
「大丈夫。君達のことは、俺たちが必ず守るから」


「ぬるい台詞で強がるな! 頭数が揃おうが所詮雑魚は雑魚だぜ!」
 無理やりに、折り重なった茨の拘束を一刀一剣で叩き斬ったジャスティスヤイバーは変わらぬ情熱的な声色のまま、飛び回るフクロウを無視し雑魚同士で面倒なことを企てていると判断したクラウスへと矛先を変えた。
 守る、なんて宣う相手を無残に踏み付け、心折れる姿こそ弱者には相応しいと。
 自分の為爆散した銀蠅怪人の頭を躊躇いなく踏み付け、上空からの刺突を以てクラウスの背中を狙う怪人。
 その間に、一筋の光が割り込んだ。
 大きな翼を盾のように構えて。オーリン・オリーブはその危険に自ら飛び来む。
 やはり、雑魚だ。他者の為に自分の身を危険に晒す。嘲笑と侮蔑のまま、その切っ先が柔らかな羽毛を――。

 貫けなかった。
「は?」
 強烈な衝突音と共に弾かれた剣先に呆けた直後、充填された魔力塊を至近距離から叩き込まれた白い外骨格は内側へと貫通する衝撃に吹き飛ばされるだろう。
 ――オーリンは、ほう、と一鳴きした。それは敵へではなく、背後の少年少女たちに向けた感嘆であった。
「これが魔法少女たちの願いの魔法ほ? すごいほ」
 √能力は、治癒や防御をかなぐり捨てて攻撃に特化したモノが少なくない。なんなら死を対価に発動するものもある。死という絶対の終焉を克服した功罪と言ってもいい。
 それを、踏まえて。助け出された魔法少女たちが。いや、未だに囚われているものも、この場におらず避難した者も含めて。彼ら彼女らの願いが一つとなって結実した『魔法』は、まさしく自分たちの背を押す最良のものだ。
 魔法少女たちの中には、この戦いを通じて。敵に一矢報いたものも、逃げるしかなかったものもいる。けれどそれらを、踏まえて全員の願いは一つとなっていた。
 『自分たちを守ってくれた人のことを、今度は自分たちが守りたい』。守られる存在だからこそ、守ってもらうことへの感謝を抱くからこそ。それを、自分たちの為に傷つく誰かの為に、と。

 罅の入った鍍金の正義を抱え。再び立ち上がる怪人へ、向き直る一人と一羽。
 再び聞き心地の悪い台詞を紡ごうとする怪人に――殺到する連撃。
 青き魔力兵装の剣撃を以て追撃するクラウス。流麗な剣舞を披露しながら、後方から支援の為にオーリンが杖から放った魔力の塊をぎりぎりまで背中で隠し、自分への反撃せんと近付く敵を引き付けてから避けることでより的確に叩き込んだ。
 腹立ち交じりに足についた銀蠅怪人の目潰しも、クラウスには通じない。後ろ手に隠した杖から再び放つ茨の魔術が防壁となり、更に敵の動きを制限してゆく。
 ――クラウスは、安堵していた。
 我が身を犠牲にしてでも止めるつもりだった敵。けれど今、強化された防御力で傷を負う心配もない。自分が傷ついて、心配される恐れもない。気負うこともなく背中を預けられる仲間がいる。
 そして。
「勝った者が正義だというのはわかりやすくていいね」
 外道に対して、躊躇いなど必要ないのだから。
 怒りに任せ威勢のいい声は、何と言っているか聞き取れないし興味もない。
 突きを踏み込みで半回転し背中で受け流し、その勢いのまま突き立てた蒼き月光の魔力剣が、白鎧の肩を深くえぐり取った。

 人の心が闇に呑み込まれそうになったその時にこそ、正義の風は強く吹き荒ぶ。
 二人の起こした追い風は、もう悪意なんぞには止められない。

色城・ナツメ
ゼロ・ロストブルー


 人の世に、悪の栄えた試し無し。
 来訪した悪意を叩き潰すため自らの力を振るう人々が、この場にはまだまだいる。正義の薫風は未だ止まず。更に益々強く吹いている。

「そっちはどうだ、ナツメ」
「触手はしつこいが、拘束自体はちょろいな――っと、大丈夫か?」
 ゼロ・ロストブルー(h00991)と|色城《しきじょう》・ナツメ(h00816)。師弟コンビは、伸びた触手によって囚われた魔法少女たちの救出に動いていた。
 戦闘に適さないと自分から名乗り出たものや負傷者の避難誘導が終わっても、未だ意志を持って残っていた少年少女たち。破綻した正義観の怪人による魔剣『サイコブレイド』の拘束は、総ての魔法少女たちを一挙に射程に収める恐ろしい性能であったものの、しかし一方で拘束そのものは酷くお粗末だ。
 それはまさしく、この場に集まった子供たちを弱者だとナメてかかっている証左だと言えるだろう。
「|彼女達や俺《Anker》は、雑魚か。はは」
 困り眉で、怪人が先程から絶えず撒き散らす暴言の一つを反芻するように呟くゼロ。表情こそ穏やかながら、隣でその様子を見つめていたナツメは冷や汗を禁じ得なかった。子供を解放するために握った触手がミチミチと音を立てていることもそうだが、何より。
(あー……これ相当怒ってるな。知らねえぞ……)
 表情を過度に乱す事無く発露している、紛うことのない怒りに対して、ナツメは警戒を抱いていた。なんならむしろ怖がってすらいた。
 ゼロ・ロストブルーは負けず嫌いと言っていい。先に魔法少女たちやその職員たちと共に励んだ鍛錬からもその性質は伺える。というか大人気なく負かされたくだりもあったし、ああいうことは決して一度二度ではない。
 しかし、だとしても自分自身が真正面にそんな台詞を吐かれたとて彼は平然と受け流すだろうことも想像がつく。小突かれたことに拳で返すようなことはしない、と。
 では、何に対しての、憤りなのか。
 ――努力を積み上げる子供たちの姿を間近で見たからこそ。そしてそれを支える人々の想いを聞き、感じたからこそ。未来を描きながら進もうとする少年少女への侮辱は、彼ら彼女らだけではなくそれを信じる全ての人々に対しての侮辱に等しい。
 彼は、自身が尊いと信じるものを悪し様に貶された時にこそ、真に取り返しがつかないほど怒るのだ。
 とまあ、そんな風に分析はしたものの。
(あいつが気に入らないのは、俺も同じだけどな)
 弱さを否定し、嘲笑する。その在り様はナツメにとっても看過しがたい態度であろう。誰しもが持つ、心の弱さに翻弄されたことは一度や二度ではないからこそ、自分自身もそんな内なる弱さに立ち向かわんとする克己心を抱く。同じ志を持つ人間に対しても、リスペクトを持つのは当然の話。
 ならばそれを貶す物言いが心地の良いものであるはずもなく。
 肩の上で喉を鳴らす相棒と目を合わせれば、固く頷き合うはずだ。
「万が一の時は避難してくれ、けど今は固まって離れたりするな」
「動けるかい? なら、大丈夫だね。少し待っていてくれ」
 ナツメは端的に。ゼロは安心させるように、それぞれ声を掛けながら。

 二人の活躍で魔法少女の半数以上が救助完了。残るは、あと少し。


「ハァーっ、姑息にちょろちょろ動くんじゃない! もう逃がさないぞ!」
 罅の入った正義の鍍金。けれどなおもジャスティスヤイバ―は自らの持つ武器を誇示するが如く掲げながら、片方の剣『サイコブレイド』の感覚から、またも接続された人質の数か減ったことを目敏く察知した。
 弱者はこれだから。群れないと何もできず一方で数が集うと途端に勝った気になる。結局大きな力に踏み潰される分際で何かを為せるような気になると。
 だからこそ、こちら|暴力《せいぎ》で立ち向かうのだ。
 耳を疑う論理を当然のように振りかざし、用意していた次なる銀蠅怪人を差し向ける。
 が。
 烈風と轟風、三叉の青が全てを薙ぎ払った。
「ハァァアアア!?」
 理解不能。最早自爆云々の前に諸共八つ裂きになるのだ、意味が分からない。無論わかっていないのはこいつだけだ。
 駆け抜ける一陣、巻き起こすは烈風。はぐれ鎌鼬『蒼』の力を借り受けたナツメは向かい来る銀蠅怪人の半数を消し飛ばした。魔法少女の救助人数が増えたことにより、彼らを覆う防御性能は更に向上している。近接攻撃で以て爆発する怪人を切り伏せ、末期に連中が咲かせた一華さえ、最早彼の仕事着にすら焦げ跡一つ残すこともできないほどだ。
 敵だけでなくゼロとも速度勝負と意気込んだ割りにあまりの手応えの無さに拍子抜けしつつ、というか、群れることを批判しておきながら自分は次から次へ戦力を投入してくるんじゃねえかという至極真っ当な指摘が思考を過りつつも、今は口に出さない。
 何しろ――もっと手痛い『突っ込み』を入れたがっている人間がいるのだ。
 流麗なる輝き纏う対なる軌跡、奏でるは轟風。投擲した得物が正確に首を刈り取りながら彼の手元に収まる。ゼロは、一切の異能を持たない。だが研鑽によって磨き抜かれた技量は達人と呼ぶのみでも足りぬほどの粋に到達しつつある。何よりも、死を経れば蘇ることもないというたった一つの命で、それでも敢然と敵へと向かうその強烈なる意志こそが、戦場に立つ者としてこれ以上の無い才覚と言っていい。
 ――魔法少女たちは、弱くなどない。それを証明するべく、その力を受けた|無能力者《じぶん》の戦いを見せる。誰かが言った。守るものがあるならば、人はどこまでも強くなると。
 彼にとって、今はまさに|ソレ《・・》だった。

「は、はは」
 乾いた、笑い。けれどこの白鎧の歪みは、底無しだ。
「俺に敵うと思っているなら、そんなにお望みなら狂った脳を解剖してやる!」
 真っ向から向かってくるゼロが√能力を使っていないことを早々に見抜いたジャスティスヤイバ―。ならばと『サイコブレイド』による拘束を狙うだろうう。然し、それを横から吹き飛んできたナツメが庇った。
 懲りないな、と。いよいよもう感心しそうなレベルの相手に思わず声を漏らしながら、膝に手を当てがっくりと肩を落とすナツメ。無論、卑怯を辞さないこの怪人は、視線を逸らしたその瞬間を見計らって大振りの刀を振り被る。
 だがナツメのこの動きは、決してただのリアクションではない。
 僅かに低くなったその背を踏切台に。天井からの照明を逆光に高く、高く舞い上がる。屈めた姿勢、交差した澄み渡った刀身の青だけが光を通し、回る巨大なシルエット。
 空中で前転し勢いをつけ。その加速が一番ノった瞬間を敵に正確に叩き込むための計算。そして、全身全霊の重さを叩き込むための、攻撃。
 ゼロ・ロストブルーの信念が込められたそれは、さんざ煽った怪人からしても、明確に脅威として映ることだろう。
 しかしながら当然、空を舞う青い翼の死神に目を奪われれば、地を這う鎌には気付けない。踏み切りの瞬間前掲になるのをスタートダッシュのようにして。充填した風を解放し一気に加速。師の一撃に合わせるようにして、奥義を叩きこむ。
「頼むぞ、蒼――見せてやれ!」
 下段から一気に逆袈裟に切り上げれば、嵐に研がれた爪が如き一閃、『疾・鎌風』が鎧を断ち。
 無言のまま。一切目標から視線を逸らさずに。振り下ろされた青刃の双斧は防御のため構えた敵の刀ごとその身体を単純な威力で以て圧し折らんばかりの強烈な一撃で敵を吹き飛ばしてみせた。

 ――着地の後、ふと顔上げたゼロが見つけるのは、金属らしき欠片。
 黄金が示すのは、恐らく兜飾りの如き『正義』の一部。
「見せられたかな、魔法少女たちの力を」
 回答者は必要ない。ただ満足げに、それを拾うこともなくそう独白する。
 自分の身を覆う柔らかな|魔法《・・》に、少しだけ懐かしさを覚えながら。

架間・透空
クラーラ・ミュスティアウゲン
久瀬・八雲


 三人は、悪と相対する。
 不屈の志が三つ束ねられれば、最早何にも折られることはない。

 先に戦いを繰り広げるEDENたちによって生まれた時間に、捕らえられた魔法少女たちの救出に動く、|架間《かざま》・|透空《とあ》(h07138)、クラーラ・ミュスティアウゲン(h12663)、|久瀬《くぜ》・|八雲《やくも》 (焔剣・h03717)。主に浮遊する二振りの剣を操るクラーラが触手の切断を。調子の確認や声掛けによって精神の安定性を支える役割は透空が、万一こちらに向かってくる恐れのある敵を牽制するための防塁は八雲が担う形で救助は進む。
 その中には、敵が標的にしていると語られる、篠杜カレンの姿もあった。

「――あれが、今回の黒幕さん」
 一通りの救助が終わったころ、あらためて敵の姿を見る透空。正義を標榜しながらその善は何処までも自分本位な独りよがり。語る言葉の情熱すら空虚に見えてしまう程に、行動の全てが邪悪によって染まっている。
 それを見て、彼女は何を思うのだろうか。
 ヒーロー、その言葉を軽々に振りかざすことへの怒りなのか、或いは自らが気付かず歪な信念を掲げさせられているのかもしれないという哀れみなのか。
 ただ力強く握られた拳から、その眼差しから。立ち上る固い決意は揺るがない。
「クラーラさん、八雲さん……背中、任せてもいいですか」
 ただ一つ。
 立ちはだかる者が真に善であるか悪であるかは、問題の本旨ではない。
「魔法少女さん達を助ける為にも! あの正義の味方さんを、なんとしても止めたいんですっ!」
 ただ、守るべきものを守るために。彼女は戦うのだ。
 そしてそんな彼女の意気を、八雲は望んで買うだろう。
「もちろん、任せてください! わたしたちがこーんな卑劣漢に負けるわけがありません!」
 情熱的な透空の言葉に自身もまた燃え上がる。心根が熱い彼女にとって、これほどまっすくで分かりやすい願いはない。友人の為に、それに守らんとする魔法少女たちも今まさに彼女たちへ惜しみなく魔法の支援をかけてくれている。
 一致団結し、卑劣な悪党に立ち向かう。なんとも|燃える《・・・》シチュエーションではないか、と。
 熱血、全力、それがモットー。助けを乞われたら向かうが常。そんな八雲が友人から大役を託されたのなら引き受けないはずもなく。そしてやる気を出せないわけもない。
「ええ、背中はお任せください」
 携えた浮遊する二振りの剣を操っていたクラーラ。拘束されていた魔法少女たちは全て解放し終えた。全員が全員すぐに援護に入れます、という状況ではないし、魔法による支援が魔法少女たち自身に強烈に影響を与えているわけではないので完全に放置して問題ないとは言えないが、それでも喫緊の課題は解決したと言っていいだろう。
 残るは、闘争によって決着をつける番だ。となれば、我々が為すべきことであると。

「――皆さん」
 そこで声を掛けてくるものが、一人。三人とも交流を持った魔法少女――篠杜カレン。これまで戦うこと、強くなること、そういったものへの固執に近い執念が見られた彼女だが、今は短く、言葉を紡ぐだろう。
「みんなを、助けてくれてありがとうございます。私たちも、全力でサポートします」
 肩を並べられぬ悔いもゼロではないのだろうが、それでも。
「だからお願いします――勝ってください。どうか、無事で」
 教えて欲しいこと。話したい事。それが沢山、残っているから、と。


「クソッ、こんなバカな話があるか――!」
 頭部に掲げた正義が大きく削られたジャスティスヤイバ―はわなわなと震えながら、いよいよその態度ですら鍍金が剥がれてくる。
 だがこの底知れぬ|悪意《せいぎ》は、賤しくも諦めを知らない。
「はっはっは! 一度逃げられたのならば再び捕らえればいい! もう一度だ、サイコブレイド!」
 強大な力を有するならば、それを惜しみなく使う。弱者を貶め、自らの勝利の踏み台にするために。

 とはいえ残念ながら、同じ手を何度も何度も繰り返し食うはずもない。
 飛燕の如くに、ひゅうるりと。低空を滑り飛来する二振りの剣が、剣先より増殖せんとする触手の群れを断ち切った。間髪入れずに投擲によって迫るもう一本の刃。それに関しては辛うじてギリギリ弾き飛ばすことができるだろうが、本命は投擲そのものではない。
「がら空き、です!」
 虚空より|跳ぶ《・・》ようにして姿を見せる乙女の姿。緋の髪を靡かせ弾かれた剣の柄を握り、薙ぎ払う。既に終わったものと意識を離した死角からの一撃。受け切れずに切り傷を受け、なんのと反撃を繰り出そうとする間に、少女の姿は遠ざかっている。
 久瀬八雲の体得している奥義が一つ、|虚月《コゲツ》。自身の獲物であり意志を持つAnkerとしての特性も持つ霊剣・緋焔。投擲によって敵と肉薄した瞬間に自身もまた瞬時に移動することで、突然の急襲によって相手の懐に潜り込むこともできる技。
 目にも留まらぬ早業、意表を突くための呼吸と歩法。異能だけでなく、研鑽の果てに体得した技術を以てして、これは技足り得る。これを彼女はヒットアンドアウェイに用いた。自分に意識が向けば、それでよい。万事計画通りなのだから。
 行うはずだった蹂躙を妨害され、怪人は憤る。しかもそれが――標的としていた少年少女らと大差のない年端もいかない『子供』となれば、白鎧の怪人は益々苛立つだろう。
 だが。その目はすぐさま別のものに引き付けられるはずだ。

「――変身、解除」
 呟く言葉と共に、吹き荒れる嵐。自身へと迫るハリケーン。これも何かの技なのか、警戒の只中で、ただ一点輝く空色。裂けた胸の咢の内より覗くそれは、宝珠が如き玉。|天色管理機構《ハイぺリヨン》。悪に授けられてしまったその姿を以て、透空は自らの信じる善を為す。
「天気予報をお伝えします。本日の天気――曇りのち晴れ」
 淡々とした|通告《アナウンス》。予報という形を取った、宣誓。その後彼女へと集まり出す、光。
 地下という太陽光より断絶された空間にあって着実に彼女の中へと充填されてゆく力。施設の蛍光灯は太陽発電によっても賄われている。充填する太陽の力は彼女の内からも生じている。
 それに、そこで注ぎ込まれる力は彼女|ひとりのものではない《・・・・・・・・・・》。
「バカな! なんでそんな力を持ちながら雑魚を庇うんだ!?」
 心底から、わからないとでもいわんばかりに口走るジャスティスヤイバ―。彼女を知る者からすればそれは侮辱同然の発言を、一切ためらいもなく口にするあたり、本当に、この怪人が掲げる正義とやらは全く理解しがたいものであると再確認できることだろう。
 怪人の言葉と態度にやれやれと、後詰のクラーラは肩を竦めるはずだ。
 見え過ぎるからと目を塞いだ自分よりも、目立つ複眼を持ちながらそのくせなに一つ肝心な真価を捉えられない昆虫面の怪人。
「見ずとも視えるものがあります――貴方にわかるかどうか、ですが」
 どこか皮肉めいて、彼女が塞がれた両目に意識を注げば。黒く巻かれた帯越しに光を宿す。揺らぐ色彩は光を受けた蛍石が如く。|静眼・藍炎竜漿《フローライト》。増幅した感知能力が受け取る情報は目を開いた時よりも明瞭だ。必要な情報を取捨選択し、余分なものを除外する。光景ではなく敵を捉えるために磨かれた感覚は、敵の隙を容易く暴き出した。

「八雲さん、透空さん」
「はい!」
「任せて!」
 連携を取りながら、三人は動き出す。
 敵の隙を見抜くクラーラの指示によって、最前衛の透空は敵の意識を魔法少女たちではなく自分に向けさせんとする。充填し続けるその力に警戒を頂きつつも、あくまで目潰しや触手での拘束を狙い、あくまで無防備な弱者を殺そうとするジャスティスヤイバー。
 だが、そんな横紙破りを許さないのが、八雲だ。
 先程見せた投擲からのヒットアンドアウェイ。一度目こそ不意討ちは決まったが、二度目からは甚大なダメージを取ることは難しくなっていく。それでも、攻撃の矛先が分散すればそれだけ注意力は散漫になる。
「鬱陶しいんだよ! いけ、銀蠅怪人!」
 自分のやりたいことをさせてもらえない、それに憤った怪人は控えさせていた更なる増援を呼びだすだろう。自爆を厭わぬものどもは、八雲と透空を無視して魔法少女たちの下へ一直線に向かうはずだ。
 だが、更にそこから先はクラーラが踏み込ませない。錬成された直剣を手にし、走狗でしかない銀蠅怪人の隙を見切り、時に防衛用として宙に待機させた飛燕剣による迎撃を行いつつ、自分の手の届く範囲では剣戟で仕留める。
 陣形を立て直そうと後ろに下がれば、待っているのは八雲による掃討。投擲だけで倒せば一つ、更に瞬間移動で連鎖すれば|戦果《スコア》はうなぎ上り。なおも逃げてジャスティスヤイバ―のところまで行こうとすれば、透空の構えた自動思考砲台『セレーネ』の餌食だ。チャージをしていようが攻撃ができないわけではない、自爆で魔法少女ではなく司令塔の怪人を巻き込む始末である。

「くそったれが!」
 下っ端は討たれ自身は徹底的にマークされる。完全に打つ手なし。そんな状況で、ジャスティスヤイバ―は殊勝に反省するでもなく、ただ憤りのままにその全身を黄金に染め上げた。
「プラグマこそが真に正義なんだ、お前らみたいな雑魚が、オレたちの目的に逆らうんじゃねえ!」
 上昇した速度で無理やりに突っ込み、一人でも犠牲者を出してやるというどこまでも外道な目的の為に、両手に握った二振りを振りまわす。
「超正義斬、ジャスティススラァーーッシュ!」
 幼稚に超だのなんだのと大仰な修飾交じりに繰り出される剣。外星体『サイコブレイド』にも防がれたその技が、少年少女に届くことは、ない。
「やらせない――!」
 割り込む様にして。風を纏いながらその身を盾にして、透空はその刃を受け止めるだろう。身の丈近い大太刀が風で形作られた羽をすり抜け、澄んだ白の体躯にぎりぎりと刃が立てられる。然し、むしろ押されるのは怪人の方だった。

「な、なぜだ――なぜこのオレが押し負ける!?」
 揺るぎなき信念、だと思い込んでいるそれを掲げて真の力を解放してなお、なぜ届かないのか。
 わかるはずもない。
 ……三人を守るために解放された魔法少女たちが展開する、防護の魔法。
 更に今、過去に託された銀の弾丸カレンは自ら砕き、願いを託した。
 今、魔法少女たちの『勝利への祈り』が透空へと集い、温かな太陽の如き輝きとして絶えず注ぎ込まれ続けている。解放までは確実に充填し続けなければいけない時間が決まっているものの、エネルギーの量だけでいえば既に二発分以上の力が、彼女へと集まっている。同時にそれは火力上昇の支援魔法としても、クラーラに、八雲に、EDENたちに恩恵として振り分けられている。
「クソッ! 銀蠅怪人ども、時間を稼げ!」
 自身の窮状を悟り、透空から距離を離そうと下っ端を呼び出し離れようとする怪人。だが、その懐へ再び迫る緋色の影。
 またこいつかと、刀への防御姿勢を取らんとすれば、構えた刃が掌底によってがつんと上に弾かれる。呆けた声を漏らす前に、気取ったベルトにも似た機械を巻いたその直上、腹部に突き刺さる鋭い前蹴り。
 ――移動の条件は、|彼女《Anker》の霊剣が投擲され、敵との距離三メートル以内に到達にすること。攻撃の成否は条件に含まれず、その後剣で攻撃しなくてはならない縛りもない。
 その隙をついて、突き刺さる格闘術。こちらの嗜みも、決してお座成りではない。
 悶えながら、生まれた隙。助けろとばかりに視線を寄越したその先で、花火のようにぼんぼんと爆発して消えていくジャスティスヤイバ―の用意した配下。
 これほど大きな『隙』、突かれないはずもない。寧ろ自らの目に神経を注ぎ負荷をかける必要もあるまい。クラーラの仙術によって翼を与えられた二振りの|燕《つるぎ》は細く風を切り鳴き声にもにたヒョウヒュウという音と共に合われた下っ端を苦役から解放してやっていた。

 ――結局、『サイコブレイド』は一時的な魔法少女の拘束にしか役に立たず。
 かき集めた走狗は悉くが爆散。
 最早今、怪人を守る壁も盾もない。
「これが私たちの――全力ですッ!」
 十二分、いや、二重三重に用意された一撃が、放たれた。
 頭上より降り注ぐ、閃光。口汚い罵声罵倒すら光の柱に呑まれ、直後凄まじい爆風が巻き起こる事だろう。
 三人の、いや、全員の協力によって繰り出された一撃は、間違いなく敵に深々と痛手を刻み込んでみせたのだった。


 魔法少女たちの健闘を称えつつ、透空を中心に追いやってより多くの賛辞を与えてやろうとする八雲と、人だかりの渦中にあって次々に跳ぶ感謝と歓声に照れている透空。
 そんな中で一人、喧騒から少しだけ身を引き、隠れて肩で息をする篠杜カレンに――手を差し伸べたのは、クラーラ・ミュスティアウゲン。
「あなたの在り方は、輝かしい」
 穏やかな微笑。然しただ褒めるだけでなく、彼女の願いを掴むには足りないものがあるとも、決して隠さずに伝えるはずだ。
 彼女は、訓練の中でも口にした。積み重ねていけば届くこともある。その積み重ねを正しく築き上げることにおいて、自分の右に出るものはいるまい、と。
 ――迷うことなく、篠杜カレンはその手を取った。
「ごめん、本当は……私、戦うことも助けることも、諦めたくない。だから、お願い。お願いします」

 この日、一羽の雛鳥は、目指すべき背を見つけたのだ。

斯波・紫遠


「どうなっている!? 最強の剣、サイコブレイドを手にしたはずだ! なのになぜオレがここまで追いつめられる――?! まさか、あいつ偽者を寄越したのか!?」
 捕らえていたはずの魔法少女たちが悉く解放されていくだけに留まらず、雑魚だなんだと高を括った相手の力によって、EDENたちに追い詰められていく。それを自分の実力不足ではなく外部的な要因のせいだと信じて疑わない、ジャスティスヤイバ―。

「みんな、ああはならないようにしてほしいな」
 そんな様子を少しだけ離れたところから見ていた|斯波《しば》・|紫遠《しおん》(h03007)は、後ろで魔法を使い続ける少年少女たちに言うだろう。
 戦う覚悟を決めたのならば、教えられることはないかと思ったが――どうやら、目の前に都合のいい反面教師がいた。言葉自体は本心ではあったが、皮肉る様な緩い彼の言葉に、何人かの力が入り過ぎた魔法少女たちにも、笑みが戻ることだろう。
 当初紫遠は捕縛された魔法少女の救助を最優先に行動するつもりだった。が、既に救助は完了。とはいえ予断を許さないのは事実。
 ――あの怪人の手にした魔剣は空間や距離を問わずに触手を伸ばすのだ、次は今回ほど容易く救助させてもらえるとも限らない。
 そこで、自身の端末から彼をサポートする頼りになるAI、『Iris』に自身の装備の一つの制御権を完全に委任し、防衛ラインとして控えてもらうことにした。
 潜み展開したドローンと、そこから薄らと煙のように這わせたレーザー。周囲からの敵の接近を測量の応用で索敵し、次いで迎撃と姿の欺瞞も兼ねている。万一伏兵が現れようとも問題ない十全の備えだ。
『防衛の布陣も、離脱の手筈も整いました。どうなさるおつもりですか、マスター・紫遠』
 アシスタントの『Iris』いや、彼が『アリスさん』と呼ぶ彼女からインカムから響く質問。遠回しにまた無茶をするつもりかとくぎを刺すようなものではあったが。
 彼はそれに、微笑で返すだろう。

 ――若人に先輩の背中を見せなくちゃだからね、と。


 仕留める。
 最早予断を許さないとばかりに、持ち得る戦力を総動員した白鎧の怪人。
「ここは地下! 丸ごと吹き飛ばせば解決するぜ!!」
 最早当初の余裕は何処へやら、余りにも強引な手段で以て解決を図るだろう。集う銀蠅にも似た怪人たちに、続々と自爆を命じるジャスティスヤイバ―。

 だが。
 いくら待てども、爆発の轟音も、悲鳴も、聞こえてこない。
「――は?」
 振り返った先では。
 悉くが首を断たれた怪人たちに静かに留まる菫色の蝶々と、床や壁面に刻まれた一直線の焦げ目と白い残り火。そして。
 めらめらと。一等烈しく燃え上がる炎を背に、刀を構える修羅が在るだろう。
 直後。業火は怪人に迫る。音も無く眼前にまで飛び込みながら繰り出される一刀を、自身の得物とサイコブレイドで辛うじて防ぐ怪人。だが一撃程度で猛攻は止まらない。
 複眼ですら目で追えない速度。振るわれる刃の軌道が纏う炎の余りの熱の揺らめきと焔の激しさに揺らぐ。
 怪人が反撃に返す刀の一撃は魔法少女たちの援護によって防がれ、有効打にはなりえない。どころか火の手は益々燃え上がり、間近に迫る白鎧を焼くばかり。
 ――子供を殺すことに嬉々とする怪人の在り様は、狗神の逆鱗に触れていた。
 ――怪人は使い慣れない二刀であることが災いし、磨かれた紫遠の技量に届かない。
 ――分散させた人形に振り分けた力では、最早、恩讐の炎は押し留められない。

 破れかぶれに触手を魔法少女の捕縛ではなく、目の前の脅威に解き放つジャスティスヤイバ―。だが、そのうねりも敵の身体も纏めて切り裂く居合一閃、『|【狗神】憑型《ウラミノイチゲキ》』。見掛け倒しの鍍金で飾ったその外骨格も、最早形無し。

「最初からキミが来れば、いや。|彼《・》の出番を奪わない方がよかったのかもね」
 外星体『サイコブレイド』が去り際に残した一言。それは奇しくも、こちら側に都合のいい形で的を射ることになった。
 勝てば官軍、負ければ賊軍。どちらが賊かは、最早明白だ。

雪月・らぴか
姫章・時雨


 秘策とばかりに打ち出した爆発オチすら封じられ。
 魔法少女たちの強化は重ね掛けによって、守護者として立ちはだかるEDENたちは極めて堅固な防御力を手にしている。
 どこで間違えた。何がいけなかったのか。拳を打ちつけるジャスティスヤイバ-は苦悶の中で一言、怨嗟を漏らす。
「おのれ、『サイコブレイド』ォ――!!」

 結局最後までそんな負け惜しみを自分ではなく他人に向けてのたまうその男を見ながら。明るい声が空気を割った。
「むむむ、この状況で勝った気になってるってサイコブレイドから私達がどんなもんか聞いてなかったのかな?」
 ぴたりと、怒りによる震えが止まる。
「おおっと、びびりのキミには他人を信じるなんて無理かー。絶対にサイコブレイドと共闘したほうがよかったと思うけどまあそんなこと怖くてできないよねー! 戦闘能力だけのびびりが相手で助かったー!」
 畳み掛ける様な言葉の全てが、目に見えないながらも王劍もかくやとばかりに白鎧の怪人に突き刺さっている姿を幻視する。とはいえ彼に同情するものなどこの場には一人としていない。
 複眼は無感情に見えがちだ。だが、その時全てのハニカム構造を向かわせる視線には間違いなく怒気と殺意が滲んでいた。一方で、そんな視線を真っ向から向けられた当人――|雪月《ゆきづき》・らぴか(h00312)は意にも介さず鼻を鳴らして胸を張ることだろう。
 実際の所それが果たして真意をぱっと口に出したものか、或いはわざと煽るための言葉選びをしたのかは定かではないが――少なくとも彼女の戦術は、言葉の通りのものである。
「ESGセット! 時雨ちゃーん、出番だよー!」
 電気での開運を謳う小型の静電気発生装置、『感電開運ESG』。謳い文句こそ胡散臭さが漂うアイテムながら、一方でこれは彼女のAnkerを呼び出すのに最適な触媒となる。さながらヒーローショーの呼び込みよろしくらぴかが声を上げれば、発された静電気に合わせどろんと現る人魂。浮かびあがったそれは、次の瞬間にはすらりと伸びる肢体を持った黒髪の美女となるだろう。
「おはよ~、呼ばれて飛び出て、なんとやら~」
 |姫章《きしょう》・|時雨《しぐれ》(事故物件の幽霊・h02222)。既に実態のない幽霊。来歴から悲劇的な結末を迎えたと推測されるにもかかわらず悲壮さを感じさせない、言ってしまえば「のほほん」とした態度。それは、この混迷極める地下でも変わらない。
 どころか。
「Anker候補狙いって聞いていたけれど、サイコブレイドではないのね〜」
 ……√能力者はAnkerに似るのか。はたまたその逆か。らぴかが抱いた感想にさらに追い打ちをするような言葉を、彼女は頬に手を当て、微笑み交じりに言い放つことだろう。

 さて。愚弄しつくされたジャスティスヤイバー。堪忍袋の緒はもう微塵切りである。
「がァァ!! 俺の、正義を、愚弄するんじゃねぇ!」
 これが義憤によるものならいくらかアツいものだろうが、この怒りは完全なる自業自得、巡り巡った必然のようなもの。最早、完全に鍍金が剥がれた姿に一切の憐憫などない。
 自身の影から続々と、生産するかの如くに銀蠅の怪人を呼び出す。どれだけストックがあるのか、或いは最初から一人で戦うつもりなどなかったのか。
 ことあるごとに自身の配下を呼び出す様は、まさしく当初自身が愚弄した『群れなければ何もできない』様を体現するかのようですらある。

「いけ、圧し潰せ! 俺たちの絆を見せてやる!」
 そんな、寒々しい言葉。
 では、『これ』が相応しかろうと。その胴体を横薙ぎにするように身体が吹き飛んだ。
「あらぁ、やっぱり歯応えがないわねえ」
 ぶぅおん。巨大な重量が大きく空を切る音。それを握るのは、変わらず穏やかな表情を浮かべた時雨。鋼の大斧、その刃に滴る水は返り血ではなく通された霊気が生み出す、より切れ味を増すための潤滑剤。
 らぴかが彼女を呼び出した際に用いていたのは単なる瞬間転移や疑似的な蘇生のような生温いものではない。『|通電回生《ツウデンカイセイ》エレクトリックリヴァイヴ』――今、姫章時雨は、生前の√能力者の時の姿と力を取り戻している。
 物腰の柔らかさとは裏腹に、その戦術は攻撃的。台詞の只中でも猛進し、相手の体勢が崩れる前から更に追い打ちをかけるだろう。

 前衛は彼女が担う一方、魔法少女たちの防衛と殺到する銀蠅怪人たちの相手を担っていたのが、らぴかだ。
「いいね! テンション上がってきた―!」
 気分的には「見なよ、私のAnkerを……」状態のらぴか。馬鹿にしていた怪人がバカにしていた対象にボコられているのは最早エンタメ。とはいえ決して自分の役目に手を抜いたりはしない。
 杖を振り乱し周囲に吹き荒らす、霊気と冷気。対象と部位を選別するそれらは自爆の為に飛んで走る銀蠅の機動力を奪っていく。そしてトドメはその杖でフルスイング。凍結された身体は飴細工の如く砕け散る。体内に備えた自爆の仕組みも、極冷の中では起動しなかった。
 また同時に、万が一の為魔法少女たちを保護する仕掛けも忘れない。雪だるま型の死霊、ちーくたちは魔法少女たちを守るために陣を敷き、完璧な連携で以て周囲を警戒し、防御の為何時でも迎撃の姿勢を取るだろう。

 余談だが、本来ならば最終防衛ラインであるはずの彼らは、現在絶賛仕事中。
 健康にして健全な少年少女たちにとって、流石の流石に今の時雨の戦い方は様々な意味で目に毒。気をきかせた雪だるまたちは、冷気の乱反射によってうまーくフィルタリングを掛けていたのだった。


 では、ところ変わって前線だ。
 こちらはもう一方的である。
 時雨の猛攻は薙ぎ払うような力強い一撃だけに留まらない。柄を活用した殴打、地面に突き刺しポールダンスにも似た動きで蹴り技を繰り出したかと思えば、投擲用の斧も用いて離れた距離から牽制も撃つ。
 扱いにくい二刀を握るジャスティスヤイバ―の動きにはキレがない。銀蠅怪人たちへ分け与えた分の戦力が減衰しているというのも理由として大きいだろう。
 だが、それ以上に。卑怯非道を是とし戦い方にもその要素を持ち込むジャスティスヤイバ―にとって、純粋な技量の差で勝負を仕掛けられればどうしても溝が空く。
「Ankerや魔法少女を守る√能力者を愚かだと言ったのに、自分で呼んだ使い捨て怪人に足引っ張られるなんて、愉快よね〜」
 頬に手を添え、微笑む。眼差しに宿る光に怒りはなく、ただ戦いを愉しみながら逃げ惑う敵を見つめる愉悦が滲む。後方のらぴかから意識を逸らすための挑発……というよりは半ば素であった。

「ナメるな、まだオレは諦めてないぞッ!!」
 そう言いながら、サイコブレイドの触手を解き放つ。次元空間それらを無視し対象を拘束する魔剣は、Ankerを対象とする。つまり今は√能力者であれ時雨にも有効だ。らぴかによって力を付与され、魔法少女からの支援もあるとはいえ、攻撃ではなく拘束ならば。うねる黒と緑の触手が時雨の死角から這い寄り――。
「コラーーーッ!!」
 当然やらせるはずもなく。
 同じく死角からすっ飛んできたらぴかによるフライングチョップが炸裂。|最終手段《こぶし》の二乗。威力はすさまじく、再び潰れた音を出して吹き飛ぶ白鎧の怪人。
「な、なぜ……ま、まだ怪人どもはやられていないはず……」
 そう。鈍くなった反応速度は、まだ完全には戻っていない。ということは銀蠅怪人たちはまだ全滅していないはずだと、そう言わんとした黄金の複眼が捉えるのは。
 おつかれっす、とばかりに会釈しながらその辺で突っ立っている一匹の怪人の姿だった。冬虫夏草よろしく頭のてっぺんに桃色の霜を生やした怪人は、らぴかが使ったもう一種類の力、|霊凍注入《レイトウチュウニュウ》スピリットインフュージョンによって完全に支配下にあった。
 戦闘の支援をするわけでも、戦場から退却させるでもない。この戦いの場に立つ以上は、反応速度は低下し続ける。
 吐いた言葉は、自分に跳ね返る。怒りに身を任せた愚かな差配の結果、率いた群れは完全に自分の首を絞めていた。
 そしてそんな呆けた隙は、見逃してもらえるはずもない。
「スプラッシュリミッター解除。流水斬撃機巧最大出力――」
 時雨の手にした斧の刃に纏う水流が細く鋭く研ぎ澄まされていく。両面からの水圧を均等にかけながら絶えず注ぎ込まれることで、打ち出すのではなく斬ることを可能にしたその武器を、振り被る。
 奥義――|流水滅断《スプラッシュスラッシュ》。

 鮮烈なる一撃は、下品な鍍金の正義を真っ二つにする。
 長い長い戦いに、終止符を打ったのは。
 魔法少女、そして絆を結んだ√能力者の願いと支援を受け取った――一人の、Ankerであった。


 こうして、魔法少女を標的としたAnker抹殺計画は見事阻止された。
 ――不思議なことに、白鎧の怪人が手にしていた魔剣『サイコブレイド』は、戦いの後どこへともなく姿を消していた。少々不穏ではあるが、終わってみれば戦果は上々と言えるだろう。
 何しろ訓練のため訪れた魔法少女たちは全員無事。さらに変身が覚束なかったものや、魔法をうまく扱えなかったものにとって、今回の経験は一歩も二歩も自分の力と向き合い、そして使いこなすための素晴らしい経験となっただろう。
 同時に。
 守ってもらわなくてはいけない|存在《こども》だったからこそ、守られてここまで命を繋いだからこそ、いつか自分も誰かを守れるような|存在《おとな》になりたい。
 そんな目標は、魔法少女としてというだけに留まらず、少年少女たちの生き方に、考え方に、素晴らしい影響を与えたはずだ。

 彼らが今後どのような未来を辿り、どのような生き方を選択するのかはわからない。
 だが、彼らはこの記憶を強く深く胸に刻んだ。

 だから手を振る。再び自分達を助けてくれた|先生《ヒーロー》に。
 『さようなら、またいつか』、と。

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