シナリオ

⚡紅涙流離戦~未だ見ぬ君よ

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⚡️大規模シナリオ『紅涙流離戦』

これは大規模シナリオです。1章では、ページ右上の 一言雑談で作戦を相談しよう!
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(毎日16時更新)

 黒を基調とした壺装束に身を包んだ女が虚ろな瞳で玉川上水を瞶めている。
「……彼の女の|能力《ちから》があれば……、」
 『旅葬の産女』にとって√EDENの侵略はどうでも良い。
 彼女の目的は唯、我が子を探す事。
 その為に、『紅涙』の√能力を欲していた。

 ●

「お集まり頂きありがとうございます。」
 星詠みの青年――リヒャルト・クロンクヴィストは神妙な面持ちで貴方に視線を向ける。
「既に予兆などでご存じかも知れませんが、彼の|王権執行者《レガリアグレイド》である『紅涙』が自身の√能力を分け与える儀式を行う様なのです。」
 紅涙の√能力――嘆く女性が居ればどのルートにも出現出来る――そんな力が数多の簒奪者達に与えられてしまったら、今以上に侵略は苛烈なものとなるだろう。
「必ず阻止しなくてはなりません。」
 リヒトの眼が宿す強い光に貴方は頷いた。

「と云っても直ぐに紅涙を叩ける訳ではありません。先ずは紅涙に手を貸している妖怪達『紅涙流離軍』なる相手を倒さなければなりません。」
 リヒトが星を詠んだ相手は『旅葬の産女』。
「彼女は儀式が遂行されるのを見守る為か、玉川上水の畔にいます。後程ご説明しますが、此処が紅涙へと繋がる大事な場所となります。」
 勿論、女は儀式を邪魔しようとするものを見逃さないだろう。
「皆さんには先ず此の『旅葬の産女』を倒していただきたいのです。」
 自分達が紅涙の元へ向かうかは置いておいても、まずは倒しておくべきだ。

「産女を無事倒し終わったら、皆さんには五つの選択肢があります。」
 そう云うとリヒトは掌を広げて、五本の指を示して見せた。そして一つずつ折り畳んでいく。

「作戦1、『紅涙』の撃破を目指す。」
 先程も出て来た玉川上水に身投げをすることが紅涙の元に行く唯一のルートだ。
 溺死72分後に辿り着ける『雨濁りの藤の屋敷』に蘇生の後侵入し、屋敷にひとり佇み儀式を執り行う紅涙と直接対決し、それを撃破する。

「作戦2、周辺地域を制圧している紅涙流離軍を壊滅させる。」
 √妖怪百鬼夜行のJR荻窪駅を中心に展開した『紅涙流離軍』と正面から戦い撃破する。
 紅涙流離軍は様々な√から集まった簒奪者の軍勢である為、もし倒しておきたい√があるならそこを狙うと良いだろう。

「作戦3、ハーモニカ横丁を探索する。」
 簒奪者達と戦うのに強い味方となってくれるのが『|百鬼夜行《デモクラシィ》』だ。
 吉祥寺ハーモニカ横丁の最深部にはかつて百鬼夜行を先導した妖怪大将達が酔い潰れているらしいが、√妖怪百鬼夜行のハーモニカ横丁は奇妙建築の入り乱れる大迷宮と化してしまっている。
 彼らに接触するため深層へ進むには、どうやら乱立する飯屋や飲み屋で食べまくり飲みまくるしかない様だ。

「作戦4、土地神を救出する。」
 東京のへそと呼ばれる大宮八幡宮の地下深くには、東京の土地神達とその「つがい」達が紅涙流離軍の手で捕らえられている。
 大宮八幡宮地下の守備についている古妖を倒し、彼らの救出に向かって欲しい。

「作戦5、文車古妖と対話する。」
 中野ブロードウェイをひとりで占拠した、名を持たぬ『文車古妖』と対話しその力を削る事が目的だ。
 彼はその出自故に「創作物の悪役のような悪事」を働き、それにまつわる名を名乗らなければならないのだが、できれば人死にの出る悪事は避けたいと考えてるらしい。
 現代の創作物に存在する「他人を心から不愉快にするのにあまり人が死なない悪事」を文車古妖と一緒に考え、彼を納得させることができれば、この古妖の有害性を大きく減じさせることができるだろう。

 一通りの作戦を説明し終わったリヒトは、結んだ手を開いて顔を上げる。
「どの作戦も重要な事には変わりありません。皆さんの選択にお任せします。……もし迷われた場合は、手の薄い作戦に助力するのも良いでしょう。」
 そう告げると、星詠みは最後に貴方達を見守る様に微笑んだ。
「――どうぞ、ご武運を。」

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第1章 ボス戦 『旅葬の産女』


エアリィ・ウィンディア
神隠祇・境華
神楽火・國鷹
アリス・アイオライト

 春の日に、さらさらと流れていく川を虚ろな瞳で眺めるは異質な女。
 弔い服にも似た黒の壺装束は、桜散る川端に酷く浮いて見えた。
 ちらちらと小さな光を弾く水面から、ゆっくりと顔を上げ振り返る。
「……邪魔を、するのか。」
 虚ろだった瞳に鋭さが宿る。その奥に燃える苛烈さは暗い炎を思わせた。
 明らかな敵対意思を見せた『旅葬の産女』に神楽火・國鷹(幻葬のグノーシス・h00960)は静かに応えた。
「妨害は排除するというわけだな、お互いに。」
 どんな事情がある|存在《モノ》であれ、簒奪者に容赦はしない。侵略を目論む敵ならば尚更。
「うーん、子供さんを探す為かぁ。ちょっとやりにくいけど、その力は持たせられないからっ!」
 ――だから止めるよ。
 決意の滲む翠玉の瞳で産女を真っ直ぐに見留めるエアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)にアリス・アイオライト(菫青石の魔法宝石使い・h02511)も仲間たちの後方に位置取り杖を握った。
「ええ、紅涙の√能力を他の簒奪者達に広めさせるわけにはいきません、頑張りましょう!」
「紅涙流離軍も、紅涙の目的も、きっちりとここで止めねばなりません。そのためにも、まずは目の前の……産女ですか、」
 神隠祇・境華(金瞳の御伽守・h10121)も産女を見据える。
 華奢な女の姿だが、相手は古妖。一人で押し切れる相手ではない。だからこそ、仲間達との連携が重要になるだろう。
「初撃は私が止めます。」
 境華は御伽書架「夕霧」から取り出した御伽絵巻を勢いよく開く。
『物語は我が手に──金毛の分け身よ。その跳ねる影で、いま一瞬だけ敵の目を奪いたまえ。』
 敵が動き出すのと、境華の詠唱は同時。
 【|御伽「舞い散る金毛の猿技」《ソンゴクウ》】によって召喚された金毛の猿達が産女を取り囲んだ。
「……邪魔だ、」
 煩わしそうに眉根を寄せた産女は袂を振るう。それは一見猿達を振り払う動作に見えたが、袖口から黒い羽根が境華に向かって飛び出してきた。
「伸びろ!」
 自身が狙われる事を予測していた境華は、物語から取り出した棍を伸ばして羽根を弾く。
 その間も猿達は産女の裾や笠を引っ張り相手の意識を削ぎ続ける。
「産女……難産で死んだ女性の霊が妖怪化したものと、本で読みました。」
 産女の――黒を纏う女の姿に、アリスはかつて読んだ文献を思い出していた。
「女性の嘆きに寄り添う紅涙に何かしら思っているのかもしれませんが、あなたのお子さんは、こんなところにはいませんよ。行く先を別世界まで広げたところで、きっと変わりはないのです。」
 それでも子を求める情念、執念だけが産女を駆り立てる。
「未練の旅は、ここで一度終わりにしましょう。」
 アリスは懐から取り出した魔法宝石を砕き、満たした魔力で【|水月《サファイアクレセント》】を発動する。
『サファイアよ、彼の者を水で清め祓い、仲間には月の祝福を与え給え。』
 淡い月白の光を帯びた水刃が産女に向かって放たれた。
「……ッ、」
 産女は猿に纏わりつかれながらも、それを避ける様に後退する。そして忌々し気に口を開いた。
「私の……私の【旅路を邪魔するならば……】!」
 ざわり、と産女の左右の袂が鳥の羽に姿を変える。そして振るった両腕から放たれた羽根の雨は、一瞬夜になったのかと思う程の量だった。
「わ、わっ!」
 精霊銃を左手に、精霊刃を右手に持って構えたエアリィは乱れ撃ちで羽根を撃ち落とし、接近した物はオーラで払いながら、精霊達の力を借りる為高速で詠唱を始める。
 國鷹も致命になりそうな羽根を払い落としながら、戦況を観察した。
 後方支援の二人は見事だが、盾になれる前衛の不足を察知して自身が喚び出す英霊を決める。
「傾聴せよ、簒奪者。――これは『名もなき守護者の話』だ。」
 瞑想の後に語られた英雄譚。武器を失ってなお、身一つで主君の盾となって死んだ武士の霊が【|英雄夢想の叙事詩《オミリコ・ジティマ》】により召喚される。
「かつての如く、主君を守れ!」
 そう命じる國鷹の声に従い、忘却されし英霊は誰よりも産女に接近しその羽根を一身に受けた。
 そして國鷹自身も隻腕の死神を憑依させた左腕で|大剣《エレオス・ケーローン》を振るい、前線に立つ。
「これも魔術師の嗜みの一つだ。」
「ありがと! あたしも……いっくよー!」
 【|六芒星増幅術精霊斬《ヘキサドライブ・ブースト・スラッシュ》】にて速度を得たエアリィは空中を滑る様に産女へと接近した。
「精霊達とのコンビネーション、じっくり味わってねっ!」
「ぐっ、」
 切り付けられた刃を杖で受け止めた産女は苦々しそうに呟く。
「【これが私の本当の姿】……、」
 鶴の様な姿に変貌した産女はばさりと空へ羽ばたいた、がエアリィが追従した。
「あたしの方が、速い!」
 その言葉通り、相手を越えて急上昇したエアリィは産女の上から銃で牽制しつつ、精霊刃に精霊力を纏わせる。そして纏った力が最大になった瞬間、産女に向かって急降下した。
「六芒星精霊収束斬!」
 相手の羽金をも砕く力で、その身を一刀両断する。
「あ、ァアアアアア……!!」
 切り下ろす勢いの侭、地に叩き付けられた。
「……ぁ、あ、わたしの……ややこ……、」
 そんな小さな呻き声の後、虚ろな瞳は何も映さなくなり。
 舞い上がった黒い羽根が、桜吹雪の様に散っていった。

第2章 ボス戦 『紅涙』


●紅の領域
 ――雨濁りの藤の屋敷。
 儀式の為に屋敷中に巡らされた結界が揺らいだのを察知して紅涙は顔を上げる。
「私を守れと云うたのに……不甲斐ない奴らよ。」
 呆れた様な声音でぼやき、紅涙は近付いてくる侵入者たちの気配を感じながら儀式を続けた。

●追伸
 ご参加有難う御座います、徒野です。
 二章は『紅涙』とのボス戦パートとなります。
 特殊なギミックはなく純戦闘です。
 紅涙は戦闘しながらも儀式を続けますので、中断させる為には必ず打ち倒してください。

 此方の章も参加者全員の共闘リプレイを予定しております。

 しかし、作戦上『身投げによる溺死後72分後に到着』と云う過程があります。
 もし希望者で「死後蘇生ロールがしたい!」と云う業の深い方がいらっしゃいましたら、連撃にて対応します。
 戦闘前に別途『死の直前~死後インビジブル化~屋敷に到着し蘇生』の個別シーンが入るイメージです。
 希望者が居なかった場合、全員集合し屋敷で紅涙と対峙するシーンから開始します。

 プレイングの受付期間は5月12日(火)9時~5月14日(木)24時となります。

 それでは、どうぞ宜しくお願いします。
神隠祇・境華
アリス・アイオライト
エアリィ・ウィンディア
神楽火・國鷹

 旅葬の産女を倒した四人は、始め女がそうしていた様に玉川上水の畔に立った。
 さらさらと流れていく水面は穏やかだ。
「それじゃあ、皆。雨濁りの藤の屋敷で。」
「嗚呼、必ず。」
 四人の目指す行き先が同じであることを確かめると、それぞれ意を決して川へと身を投げた。
 その水位からは考えられない程深い水が彼等を飲み込む。

 ――ざあざあ。ごうごう。

 もう、水の音しか聞こえない。


●『おわり』の頁は未だ遠く
 ごぼり、ごぶり。
 水が身体を侵蝕していく。
 ――此は紅涙へ辿り着くために必要な一節であり、物語の筋道としては正しい。
 それでも、水が肺を満たす感覚は。
 |そ《・》|う《・》|な《・》|る《・》と頭で理解していた処で肉体は勝手に反応し、空気を求めて跳ね上がる。
 苦しい。――くるしい。
(……これは必要な行動。)
 神隠祇・境華(金瞳の御伽守・h10121)はそう心に云い聞かせる。
 何度でも。何度でも。
 けれど、失いたくないものが出来た今、漠然と襲い掛かって来る不安がある。
 EDENが不死身――死しても蘇生するのは事実だが、絶対ではない。
 条件が揃えば本当に死んでしまう事はある。

 もし、蘇生できなかったら。
 もし、あの場所に戻ることが出来なかったら。

 頭を過るその仮定だけが、ひどく恐ろしかった。

「……――ッ、」
 境華は跳ね起きる様に意識を、肉体を取り戻す。
 その瞬間、誰かの名を呼びかけたが、それは詰まった吐息となった。
 確かめる様に胸を押さえ、深呼吸をする。呼吸も鼓動も、正常に胸を動かしていた。
 まだ重い気配と、耳の奥でごうごうと音がする気がしたが、振り払って立ち上がる。
「……大丈夫。まだ、私はここに|在《・》|る《・》。」
 確かな事実を胸に、境華は仲間を探して歩き出した。


●こんにちは、私の死
「さあ、それでは参りましょう、紅涙の元へ!」
 此から死ぬとは思えない程、そう元気に宣言したアリス・アイオライト(菫青石の魔法宝石使い・h02511)は、呑み込まれた水に身を任せていた。
 抗うことなく、深く、深く、沈んでいく。
 眼に見えていた川からは在り得ない深さで流されながら、アリスは口元を緩めた。
(ふふ……溺死は苦しいと聞きましたので、なるべく楽に早く死ねるよう、今日は朝から食事を抜いてきました!)
 用意周到である。
 最早死に対して慣れすら感じられる気安さで、ごぼりと最後の空気を吐き出した。
 それもその筈。
(寝食を怠って倒れることは|た《・》|ま《・》|に《・》|よ《・》|く《・》ありますので、そのまま気付いたら溺死していた、となるのが理想ですねっ。)
 アリスは自身の身体に頓着が無いのだ。
 否、正しく云うのなら『今身体がどうなろうと、どうせ蘇生するのだから。』『場合によっては寧ろ、蘇生した方が効率的では?』の意識が強いのだ。
 水に侵される苦しさに眉を寄せ、強く眼を瞑った瞬間、ふっと身体が軽くなった。
(……嗚呼、|無《・》|事《・》死にましたね、)
 軽くなったのは身体を失ったから。
 アリスは何にも縛られない、インビジブルと化した姿で自由に水中を進み、目当ての屋敷に辿り着く。
 それでも透けていた身体が徐々に見慣れた姿を取り戻すのにほっとして、アリスは仲間と紅涙を探す為に立ち上がった。


●嘆きの川の水嵩は
「ふぅ、大変だった……。」
 ぐっぱと両手を握ったり開いたりしながらエアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)は道中の苦労に息を吐いた。
 自身を含め四人、全員姿はあるが神楽火・國鷹(幻葬のグノーシス・h00960)は確認の為問い掛ける。
「皆さん、無事……蘇生できましたか?」
 もし不調などがあれば作戦に支障が出かねない。
「私は、大丈夫です。」
「私も問題ありません。」
 境華とアリスが頷くのに、國鷹とエアリィも頷き返した。
「みんないるなら、行っちゃおうかっ!」
 眼の前に建つ物々しい屋敷。――その、紅涙の元へ。


「……よくもまぁ、此処迄来たな。」
 儀式の間に飛び込んできたEDEN達を一瞥し、紅涙は焦った様子もなくそう云った。
「……その力、他者に分け与えられては困ります。」
 ロッドと魔法宝石を握り構えたアリスが相手を見遣る。
「あなたは嘆きに寄り添おうという気持ちがあるのでしょうが、他の者はその力のみを利用するのですよ。」
 そう語り掛けながら、|魔法宝石《エメラルド》を砕いた。
「儀式、止めさせてもらうからねっ!」
 エアリィもそう云って右手の精霊刃で紅涙を真っ直ぐ指し、すかさず左手の精霊銃を構えて引き金を引く。
 同時にアリスの【|萌蔦《ペリドットヴァイン》】によって生えて来た魔法の蔦が紅涙に絡み付いた。
「ほう、」
 牽制射撃と拘束で動きを制限された女は、それでも感心した様に声を漏らすだけだ。
「皆が支えてくださるのなら、私は道を開く刃になります。」
 その好機を逃すことなく、境華は前へと飛び出した。
『物語は我が手に――毒ある魔眼の巨人王よ。一瞥の災いを、敵の足元へ落としたまえ。』
 詠唱と共に【|御伽「災眼開く巨人王」《バロール》】の魔眼が紅涙周囲の空間を歪ませる。足元に散らばっていた割れた鏡の破片が、女目掛けて降り注ぐ。
「ッ……此の程度、【契】を交わせばどうと云う事はない。」
 切り付けて来る鏡を、傷に構わず振り払いながら女は口を開いた。境華は警戒して距離を取る。
 女が語る『全てが満ち足りていた、幸せな頃の断片』。
 その内容を聞いて、一歩引いた位置に構えていた國鷹が言葉を挟む。
「幸福の|破片《フラグメント》か……。だが、それは簒奪を正当化しない。俺は否定する。」
 展開し始めていた『虚しき花嫁道中奇譚』を遮る様に、國鷹も詠唱を始める。
『残光燃える荒城に立つのは二人。ひとりのためには死のさだめ、もうひとりのためには破滅の未来が用意されている。』
 【|狂神賛歌《ヒュムノス・アーテース》】によって展開された『黄昏の血戦場』が紅涙の『虚しき花嫁道中奇譚』と拮抗する。
 紅涙の動きが封じられたのを見て、境華は霊刀を抜き、再度踏み込んだ。
 |そ《・》|の《・》|時《・》の為に多重詠唱を開始しているエアリィは、援護の手も緩めない。境華の動きを妨げない様に、蠢く紅涙の髪へと魔力弾が撃ち込まれる。
「煩わしい……、」
 蠢く髪が蔦に伸び、絡め取り返そうとするのを見て、アリスは強くロッドを握った。
「させません!」
 魔力を増して、更に蔦を伸ばす。
 境華には、つい先程感じた死の冷たさがまだ身体の奥に残っている。けれど、それでも進むことを選んだ。
 再び拘束された紅涙の、弱点に向けて霊刀を振り下ろす。
「ここで止まれば、また誰かの物語が失われるから……!」
 女を斬り付けた傷から血が吹き出し、しかし、女の言葉によってそれが靄の様に蠢いた。
「嗚呼、あの人の姿が【血霧】で霞む……、」
「……ッ!」
 突如現れた『血霧に霞む愛しき人』は刀で境華を斬り返す。
「一旦引くんだ!」
 國鷹が魔眼の視線と呪詛で血霧に霞む愛しき人を牽制しながら声を上げた。
 それに従って下がる境華と入れ替わりに、エアリィが最前に飛び出す。
「後は任せて!」
「お願いします……!」
「境華さん、此方へ!」
 境華の傷は見た目程酷くはなく、アリスは安堵しながら【|憶花《エメラルドリコレクト》】で回復を施す。
 傷が塞がるのを待ちながら、アリスは紅涙に視線を移した。
(……私だって、いろいろな|も《・》|し《・》|も《・》が噛み合えば、紅涙の甘言に誘われていたかもしれません。)
 嘆き悲しむ女性に惹かれ現れる紅涙。アリスも過去|嘆き悲しむ女性《そう》であったと云える。
「……だからこそ、危険な存在だと思います。」
 誰にでも可能性がある、ならば、何処にでも現れるのだから。
 國鷹とエアリィによって血霧に霞む愛しき人は払われ、対峙するのは紅涙だけとなった。
「そろそろ、おしまいにしよう。」
「貴様……、」
 エアリィは紅涙の懐に飛び込む。眼に見える程の魔力がパチパチと彼女の体を覆っていた。
『これがあたしの奥の手っ! 六界の使者よ、我が手に集いてすべてを撃ち抜きし力を……!!』
 エアリィは全力で、限界まで溜めた魔力を今こそ開放する。
 【|六芒星精霊収束砲・零式《ヘキサドライブ・エレメンタル・ブラスト・ゼロ》】!
「――これが、あたしの全力だーっ!」
 辺りを白く染上げる程の魔力の爆発。
「……ッ、」
 思わず仲間達も眼を閉じる。
 エアリィも、紅涙もどうなっているか状況が解らない中、『此度は、しようがないな……、』と呟く声が聞こえた気がした。
 暫くして光が収束した後、そこにはエアリィしかおらず。
「勝った、んだよね?」
 実感がなさそうな顔で振り返るエアリィに、國鷹は辺りを見回して頷く。
「……跡形もなく吹き飛ばしてしまった様ですね。」
「無事、儀式を断てたんですね。」
「ええ……私達の勝利です。」
 安堵の顔で息を吐く境華の肩に手を置いて、アリスは微笑んだ。

 此度、嘆きの川が溢れる事は阻止された。
 けれど、次は何時水嵩が増すかは解らない。
 ――それでも。
 その度に|彼等《EDEN》は立ち上がるだろう。大切なひとを、ものを護る為に。

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