シナリオ

⚡️乙女椿と往く先は

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⚡️大規模シナリオ『紅涙流離戦』

これは大規模シナリオです。1章では、ページ右上の 一言雑談で作戦を相談しよう!
現在の戦況はこちらのページをチェック!
(毎日16時更新)

 嘆く女性の元に現れ、惨劇をもたらす古妖『紅涙』の並外れた恨みの力は遂に、彼女の元に集う古妖の群れ……『|紅涙流離軍《こうるいりゅうりぐん》』を結成するに至る。
 この軍勢は、女性の嘆きさえあればどんな√にも飛べる紅涙の√能力を用いて、ありとあらゆる√に侵略しようとしている模様。
 大変に危機的な状況だが、√妖怪百鬼夜行には、かつて古妖達を退け封印した妖怪達の団結……『|百鬼夜行《デモクラシィ》』が在る。
 住民達の力を借りて百鬼夜行を起こす事ができれば、紅涙流離軍の侵略を阻止することができるだろう。

「……というのが事のあらましになるのだが」
 星詠みはここまでを物語の序文として紹介した。
「√妖怪百鬼夜行に、乙女椿……そう、椿の妖が現れ夢を嘆いているというんだ」
 妖とはいえ女の嘆きがあるというのは、紅涙が狙う√能力侵略の種になりかねない。
 まずはこの乙女椿をなだめることが何よりも重要な任務になるだろう。
 そして、彼女が示す往く先々の問題を解決していく必要がある。
「彼女の力を借りて、何としてでも百鬼夜行を遂行してもらわないといけない。能力者皆の協力があればきっと成し遂げられると信じているよ」
 この先に待ち受けるのは、どんな結末なのだろうか?
 さあ、手招きしている乙女椿の待つところへ、案内しよう。
 何が待とうとも、勇気と能力とで乗り切れる、そう、この先の扉を潜ればすぐに辿り着く、君達の意思が強くあれば……!

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第1章 冒険 『乙女椿が語るゆめ』


レギオン・リーダー

『|ウィーン《ピントを調整する音》』
 |レギオン・リーダー《名無しのレギオン》(レギオンを率いるもの・h01846)は、小さな段差に腰掛け、泣いている乙女椿の横に寄り添うようにしてちょこんと座る。
 しくしく。
 乙女椿は、何かを想って泣いているようだった。
 可愛い幼子の見目、漆黒の髪に美しく飾られた白い椿に可憐な模様の着物という姿で、刹那を生きた花が妖に化けたものだ。
「おいすー。恋に破れて夢破れ、嘆き悲しむ乙女の涙! 拭い晴らして吹き飛ばさんとし! 特に呼ばれはしてないが! 馳せ参じたぜ!レギオン・リーダー!」
 その小さな機械は、乙女椿に向けて軽やかな一声を放った。
 すると乙女椿は何事かと、顔を上げてレギオン・リーダーを横目に見る。
 可愛いお顔の目元が紅に腫れて、可哀想だなと思う。
 レギオン・リーダーは続けて、元気に声を発した。
「ということで、おいすー。あれ? この挨拶二度目だっけ? まぁいいか」
 利き手を掲げて挨拶をするレギオン・リーダーは、四つ足の小型機械の様相をしている。
 さながら、機械で出来た蟹のようである。
 ちょこちょこと手足を動かしてみせると、乙女椿が何事かと興味の眼差しを向けた。
「そんな細かいことはどうだっていいんだ。今は重要じゃない。今重要なのは! そう!」
 手足を大きく動かして話をするレギオン・リーダーの動きは、大変コミカルに見えたのだろう。
 乙女椿はそのまま、恐る恐る見つめ続けた。
「恋破れ、嘆き悲しむ乙女の椿! お前が今この時どうして泣いているのか! どうすればその翳りを取り払えるのか! 新たな恋はどこにあるのか! というか恋に破れたって話であってるのか!?」
 大切な誰かを想うこと、それはすなわち、広義の愛である。
 乙女椿はあのね、と小さくひくつきながら話を始めようとするが、上手く呼吸が出来なくなっている自分にやっと気付いた。
 レギオン・リーダーは深呼吸を促すと、素直に従い一つ二つと深く息を吸い、また吐き出す。
「わたしの大切な人が、私を遠ざけようとしているの……聞けば病に伏しているみたい」
「そういうことなんだ! 実際恋の話であってる? 実は違ったりする? そっかー」
 小さな恋する機械にとって、乙女椿の小さな告白は恋するもののシンパシーのように伝わってきた。
 大きなピンクの目を動かし、キュルキュルと音を上げる四つ足の機械は、乙女椿の話を静かに……否、手足をぱたぱたと忙しなく動かしながら聞き出そうとしている。
 気が付けば、乙女椿は涙声ではなくなっていた。
 レギオン・リーダーのこまごまとした動きが、乙女椿の目に楽しさを伝えたようだ。
「まぁいいや、とりあえず何が悲しいのか聞いてや……おっと失礼、聞き忘れてた。あなたのお名前なんてーの?」
「……白椿」
「ほうほう、なるほど。その美貌にふさわしい麗しい名前じゃねーか。まぁ、俺の好きな子には勝てないがな! HAHAHA! ……OKOK、レギオンジョークだ、落ち着いて話し合おう」
 れぎおんじょーく? と慣れぬ単語を口にして白椿は小首をかしげた。
 レギオン・リーダーの特徴的な声色でケタケタと笑い、感情豊かに手足の動きに表してキュルキュルと目のピントを連動させるようにする様を見ていると、なんだか不思議とどきどきしてくるような気がする……白椿にとっては、大層物珍しいお客様であった。
「ということで、話を戻そう。ねーちゃんなんで泣いてたの?」
 大切な思い人が病に伏し、白椿を遠ざけているというのはわかった。
 しかし、どうにも腑に落ちないとレギオン・リーダーは前足二本を上げて組むように動かす。
 病が悲しいのか、遠ざけられたのが悲しいのか、或いは。
「ほら、人に話すと楽になるって人間族の謳い文句があるじゃん。内に秘めた思いを吐き出して、誰かに共感してもらい。逆に誰かの思いのたけを拝聴して、自らも共感し。そうして哀しみを二人で背負い、逆に喜びを分かち合う。そうすることで、人は哀しみを乗り越える。人類ってのは、そういうもんだ」
「……そうかな?」
「俺は機械だしお前は妖怪だって? まぁそんな細かいことは今は置いておけ! 騙されたと思って話してみろって! な?」
 こくん、と頷く白椿。
 こちらも袖を弄りながら、レギオン・リーダーの軽快なトークに載せられたかのようにつらつらと話を始めた。
 尊敬する思い人……この場合正しくは人ではなく妖に仕えてきた白椿だったが、ある日を境にどうにも遠ざけられてしまったように思うのだという。
 そして、その仕えている妖が、実は病を患ってしまったことを風の噂で耳にした。
「わたしは、どうしたらいいと思う? わたしには、出来ることはないのかな……」
 うーむ、とひととき動きを忘れるレギオン・リーダーは、考え込んでいるようだ。
「その病とやらが本当なら、心配掛けたくないだろうし、もしかしたらうつるかもしれないって思ってるのかもしれないな」
 だから遠ざけようとしているのだと、白椿に語る……俺ならそうするかもな、と。
「それは、白椿も、白椿の思い人も、お互いを想っているからこその悲しみなんだろうなと思う。出来ることはたくさんあろうが、今は何よりも」
 レギオン・リーダーの目が、白椿を映す。
「白椿が元気であることのほうが、大事だと思うんだぜ!」
 白椿は、ぐるぐると考え込んでしまっていたが、詰まるところ思い人が心配しているのは、白椿が大切だからに他ならない。
 パタパタと腕や足を動かして、元気にしているレギオン・リーダーを見ると、なんだか心の苦しさが少し解けていくように思う白椿。
「わたしが元気なら、それだけでいいの?」
「ああ、俺も大事なあの子にはいつも元気で笑っていて欲しい」
 何をしなくとも、元気な姿で居てくれることが何より大事なのだと、レギオン・リーダーは力説して見せた。
「……ありがと、優しい|機械《からくり》さん」
「おうよ、俺は話を聞いただけで何もしてないがな!」
 小さな機械が前足二本を掲げて誇らしげにする姿に、白椿がやっと、小さく笑った。
「わたしが貴方に出来ることは、ある?」
 うむ、とレギオン・リーダーは話し出す。
 まずは泣き止んでくれてありがとう、そして紅流という悪いやつが乙女の涙を狙っていたこと、自分はその悪いやつの悪事を止めるつもりだと。
「そんなことになったらわたしも困る、ついてきて」
 かくして√妖怪百鬼夜行の『|百鬼夜行《デモクラシィ》』を起こすべく、小さな賽が振られゆく。
 吉が出るか、凶が出るか? いずれにしても動きを止めることなく最善を尽くすしかない。
 白椿の導く先に、レギオン・リーダーは四つ足をしっかりと動かして付いていくのだった。

冬月・楠音

「うーん、夢、夢かー夜にみる夢、でいいのかなー?」
 |冬月・楠音《ふゆつき・くすね》(氷原より貫く一閃・h01569)は、綺麗な花を咲かせる椿の木を眺めて考える。
 乙女椿のねもとにぺたんとすわって、おはなしするよーと腰掛けた。
 すると椿の木から妖が姿を現す……綺麗な黒髪に椿の花を飾り、可憐な着物の幼子を模した姿。
 ちょうど、楠音と同じくらいの年齢に見える少女の姿であった。
「わたしが見るのは、ごはんをたべてるゆめー!」
 満面の笑みで語る楠音の、それはそれは楽しそうな姿に、乙女椿は少々驚いた顔をしてみせた。
「ラーメンにつけ麺、チャーハン、チャーシュー、ケーキにパフェ、あんみつに月餅!  みんなみーんなー、おいしーよー!」
 麺料理が二つと、炒めた米に肉、甘味か……と、一つ一つを自らの知識に咀嚼してみる。
 輝く大きな瞳で心からおいしい、というくらいなのだから、どれも実際に食べたことがあるものなのだな、と乙女椿はまた驚いた。
 人間の食事というものは、それはもう様々だろうから。
 乙女椿はそうした食事を摂らないが、楠音がとても楽しそうに語るものだから、どんなものかと興味が増してくるようだ。
「でもねー、さいきんはちょっと夢がかわってきたんだー」
 夢に出るものには、何かしらの意味があると謂われている。
 食べ物の夢には諸説あるが、欲求、健康状態、創造力、生命エネルギーなどの象徴といった意味があるようだった。
 乙女椿も人間のそうした形にならない『何か』を感じ取り惹かれる妖であるから、楠音の夢の変化には気になるところもある。
「むかしは、ひとりか、さっちゃんとたべてたんだけどー……今はね、ともだちがいっぱいでてくるよーになったんだー」
 さっちゃん、っていうのはわたしの大事な人でーと、楠音は変わらず瞳を輝かせて、そして少しばかり遠くを見るようにしながら語り続けていく。
「でね、ともだちと食べるとすっごいおいしーんだー! みんなでわいわいして、笑って……あと、さっちゃんのことをしょーかいしてーさいきんともだちふえたのがたのしーのかもねー」
 うふふ、と笑う楠音は、純情可憐な乙女に見える。
 乙女椿は、そんな楠音が少し眩しいと感じる。
 長く椿の花を咲かせて、それが落ちるのを繰り返し見てきた自分には作れない表情だとほんのりとした寂しさも感じていた。
「ねぇ、乙女椿もいっしょにたべるー?」
 今夜はお話したから、夢でまた逢えるかもしれないねと楠音はふふふっと笑った。
 乙女椿は、そんな素敵な夢に招待されるのであれば是非にと願う。
(わたしも、この椿も友達として見てもらえるのだろうか)
「もちろん! 乙女椿もいっしょならきっと、すてきな夢になるだろうなー」
 乙女椿は色々な人間が夢を語らうときのエネルギーを少しだけお裾分けしてもらっているのだ。
素敵な夢を見る、それそのものを少し羨ましいと感じてしまうのは、いけないことだろうか?

 代わりにと指し示す先、楠音が乙女椿に導かれて進むのは、彼女を助ける道。
 √妖怪百鬼夜行にやってきた楠音が求めるものを手助けしてくれるだろう。
(あなたの見る夢が、いつもいつまでも楽しく美しいものでありますよう)

第2章 日常 『文車古妖との対話』


 乙女椿が指し示す道を辿った先に現れたのは……名を持たない『文車古妖』の一人であった。
「ふむ、人間か。何用かな?」
 貴方は此度の戦いに纏わる出来事と、それに対抗するための『|百鬼夜行《デモクラシィ》』の要望を告げる。
 なるほど、と文車古妖は貴方を値踏みするように見た後、悪い顔をしてこう言った。
「では、我の所望する悪事を共に働こうではないか? なぁに、「他人を心から不愉快にするのにあまり人が死なない悪事」を執り行うだけだ、誰も失われはしない。さあ、人間の知恵を披露していただこうではないか!」
 この難題に挑む貴方が出した「悪事」とは──?
冬月・楠音

「なるほど、悪事かー。そだねー、わたしのこわい悪事、でもいいー?」
 |冬月・楠音《ふゆつき・くすね》(氷原より貫く一閃・h01569)は、文車古妖の一人に見下ろされて何やら思案している様子。
「ほほう、そなたのような小さき人間が恐れる悪事となると、それなりに大胆不敵なものであろうな」
 文車古妖は、顎に手を当てて楠音の提案を促した。
 ……その背後から、多数の妖たちの手が蠢き招いている。
 妖の姿を見ても特に驚くでも畏れるでもない楠音は、どこからともなくさっと一冊の書物を取り出した。
「ネタ本は、これだよー(楠音が差し出したのはアンソロジー本だった……)」
「むぅ、何やら衝撃的な文言が多数踊る表紙だな、人間の世界では様々な書物があると聞いているが」
 受取り、派手にセンセーショナルな文字列が飾られたそこそこの厚みの本は、様々な作家が本書のためにテーマに沿った内容を書き下ろしている短編集といった装丁をしている。
 ピカピカでつるつるの用紙をめくると、中も綺麗な真っ白の用紙で綴じられている。
「こちらの世界では、新しく真白い紙は貴重でな」
 ぱらぱらと中身を順に確認していく文車古妖、背後から覗き込む妖たちの視線が多数その一冊に注がれていく。

 ――少女は、想い人の帰りを待っていた
 愛を結んだ想い人は、少女の生活のために働く
 それも幸せの形であると、信じていた

 けれど、少女を狙う暗い瞳の男がひとり
 横恋慕する男は、寂しい思いをする心の隙間に滑り込む
 やがて男を信頼するようになった少女
 だがその時、男はついに牙を剥き……

 そして少女は思い知る
 もう、身も心も男のものになってしまったと――

「これは、所謂恋愛短編集というものか」
 それにしては、と何やら淀んだ空気を感じ取る文車古妖。
「わー、やだやだー! 絶対やだー! まさに「|NTR《寝取られ》」! わたしが一番不愉快なやつー!」
 ほう、と文車古妖は続けて次の短編に目を通していく。
 どれもこれも、仄暗く湿度の高い面妖な展開の色恋沙汰を描いたものであるらしい。
「わたしから見たら、それは全然幸せとはいえないんだよー!」
「ほう? 妖の世界では取って食うような色恋も存在しているが……それとはまた別の趣がある話ばかりだな。人間でも苦行のような内容を好いている者もいるとは、なかなか業が深い」
「もちろん、恋には届かなかった思いみたいなこともたくさんあると思うけど、お互いが想い合ってあたたかく幸せな空間が出来上がるような! そんな幸せからは縁遠いのがつらくてやだ~!」
「ふむ……横恋慕により恋破れる者の姿をこと詳細に描くことで何らかのカタルシスを得ている者もいるということなのか、いやはや、人間の感情というのは難儀だな」
 また、こういった内容を『悪事』として挙げる楠音にも、複雑な乙女心を感じて文車古妖とその背後の妖たちはケタケタと笑った。
「なるほど参考になった。人の不幸を喰らう妖にとっても、なかなか味わい深いものがありそうだ」
 ぱたりと本を閉じると、楠音は心底嫌そうにその本の返却を拒む。
「参考資料だよー! わたしはいらないからあげます!」
「それではありがたく頂戴しよう。妖界で話のタネにするにはなかなかの悪事、では次の手はこれで行こうかな?」
 文車古妖は、それはそれはもう、悪い顔をして楠音に微笑んだ。

米満・満代

「人が死なない、それでいて不愉快な悪事………」
 |米満・満代《 よねみつ・みつよ》(マウンテンセレブ・h00060)もまた、考え込んでいた。
 文車古妖の提案する悪事のネタとして何か思いつくようなものはあるだろうか……否、ここで妖たちの力を借りられなければと考えを巡らせる。
 満代がそこで思いついたのは、自分にとっても世間にとっても今時の身近な厄介ごとであった。
「最近の流行を踏まえるならばインプレゾンビ、いえ、もっと広くweb上の不快広告全般や詐欺メールも含まれるでしょうか」
「いんぷ……ぞん……、西洋妖怪に似たような名前の者は居るが」
「いえいえ、目に見えるものとは少し異なる、それでいて万人に向けられた明確な悪意といえばそう、ネットワークで静かに暗躍するダークウェブ!」
「ふむ、非常に面妖な香りがするな?」
 文車古妖は、背後の腕をくねらせながら満代に話の続きを促した。
「誤タップ狙いの小さな×、そもそも見えている×を押しても広告が閉じない、スワイプ動作に連動して広告が追従する、なかなか終わらない動画広告、動画広告を見終えてもエラーになって再度視聴を強いられる、なんか妙に日本語が上手くなってきた詐欺メール、エトセトラエトセトラ……」
 ひとたび思いつけば、あれもこれもと思い当たることがたくさんあって、否、在りすぎて気が付けばすらすらと早口でまくし立て上げてしまった。
 その様子に少々面食らいながらも、文車古妖たちは興味津々といった体で満代が挙げる悪事の数々に聞き入っている。
 満代はといえば、全てが実際に体験したことでもあり、思い出せばだすほど苛立ちと悲しみと、そしてどこにも向けられずにわだかまっていた憎しみを言霊にして放出するかのようであった。
「その辺りの悪事を一人で担い、さらにはもっと悪辣な手口を考えて流布していくのであれば不愉快な悪役として共感を得られるのではないでしょうか」
「人間の悪意というのは、実に不可思議で趣深いものよ」
 文車古妖たち妖怪から見ても、人間の悪意には並々ならぬものを感じるらしかった。
 そして、満代が語ったのはそれを行うものが複数だというところが重要なのだろう。
「それを一人で成す、それはそれは恐ろしい悪事であるな」
「心無い人、なんて言葉がありますが、心が無いだけでなくもはやマイナスです。悪意とはそうしたものの煮凝り……多数を不幸にする、そうして自分だけ利益を得る、良い思いをするだけならまだしも、他人を不幸に引き摺り落とすことが楽しみになっている様子はもう、酷いとしか言いようがない」
(他人の不幸を喰らう妖も多いことは、知っていての発言であろうな)
 文車古妖たちは、満代のあまりの勢いに黙ってしまったが、つまりは人間が人成らざる思惑を抱き働く悪事が相当に許せないといった様子。
 その後一拍して、逆に可笑しくなって笑いだしてしまった。
「いやはや、非常に怨念籠った悪事を語りいただき恐悦至極。どこの世界にも他人に不幸をもたらし益を浚うものは存在しよう。しかしこと人間界に於いては、そのような悪事が日常的に繰り広げられているというのがまた奥深い。我々妖でも早々積み重ねんというのに!」
「時代が変わっても尚、いえ、今の時代だからこそ厄介というところが肝なのです、乗り遅れてしまえば|一度《ひとたび》、一瞬で失うものが大きすぎる……」
 満代はさすがに自分は大仰な被害に遭っていないにしても、行きつく先は個人情報の奪い合い、金銭的トラップであることを痛感して大きく嘆いた。
「日常に紛れる大悪事、我々妖でもなくして簡単に張り巡らすとはな」
「はい、これらを一人で成しあげれば相当の悪かと!」
 満代は、山に住む文字通りのマウンテンなセレブである。
 山の電波状況が芳しくないことも手伝って、ライフラインの一つでもあるウェブの遅延にはほとほと困っているという実感が非常に強く込められていたため、文車古妖たちの心を動かすことが出来たようだ。
「ではその悪事、我らが妖が更なる手配をして幾倍にも膨れあげさせてやろう」
 文車古妖は、それはそれはもう、悪い顔をして満代に微笑んだ。

レギオン・リーダー

「俺が人間に見えたか? まいったな……とうとう俺にもそこまでの|人間性《愛》が備わっちまったか……」
 やたら人間らしい動きでやれやれといった趣で頭部を振るのは、|レギオン・リーダー《名無しのレギオン》(レギオンを率いるもの・h01846)。
 四つ足で歩行する機械の身体に熱い魂を宿すものである。
 白椿の案内でやってきた、そこに現れたのは……数えるのが難しい程の腕を背負いてレギオン・リーダーを興味深く見ている文車古妖たち。
 固有の名を持たぬ妖の気配がそこに集い、人間のような姿かたちを模しているようであった。
 白椿の乙女が案内してくれた先で、その気配を強く誇張しながら値踏みをするように見る。
「おやおや、からくり、ようこそこのような場へ。しかし君は……いや、からくりでありながらも人間と変わりなく話してくれたようだな」
「……(こくん)」
 白椿が頷き、横に並んだレギオン・リーダーに小さく触れる。
「なんて冗談はさておき、案内どうもな白椿! 案内ついでに、ちょっと協力してくんね? 物語を語るので、どう不快か感想をよろしく!」
「それではからくりの君が語る悪事を、存分に聞かせてもらおうか」
 ということで、ある盗人と店主のお話──。
 レギオン・リーダーは手足を自在に大きく操り、身振り手振りをするように語りだした。

 そいつは昔から、軽い盗みを繰り返してきた。
 何度怒られても反省しなかった。
 それどころか、「やってない」「冤罪だ」などと逆ギレする始末。
 証拠の映像を出されても……
 「はいはい認めりゃいいでしょ」と悪びれもしねぇ。
 最後まで謝ることはせず、盗品を返しても結局翌日にはまた繰り返す。
 店主も警察も怒り心頭。
 だが、軽犯罪故に重い罰も下せない。
 ただただ不快な思いだけさせて、本人はのうのうと生きている。
 そしてある日、ついに店主は暴力に訴えてしまい……
 大怪我をさせて、逆に警察のお世話になる。
 果たして悪いのは誰なのか。
 店主はどうすればよかったのか。

 白椿は、不思議な顔をしてレギオン・リーダーを見ている。
 動力部にうなりを上げて、まさに『唸るように』こまごまと動作しながら語る小さな機械の動きが実に面白かった様子。
 文車古妖たちは、というと、こちらも面白そうにとにかくレギオン・リーダーの一挙手一投足を眺めてにこにこと聞いていた。
「ヤマはなければオチもなく。学ぶべきことも何もない。以上!」
 特徴的な声でじっくりと語り上げ、かと思えばからりと切り上げてしまった。
「ふむ、してこの話はこれで仕舞いなのか」
「……」
「どうだった? 不快だった? 俺は話してて殺意MAXだわー」
 キュルキュルとモノアイカメラのピントを調節している様子は、まるで瞬きに近い。
「なるほどなるほど、世渡りの上では斯様なこともあるだろうな」
「俺はこういう話を聞くたびに回路がムズムズして仕方がないんだわ!」
「大いなる感情を抱くからくり、面白い話をありがとう」
 む? とレギオン・リーダーのピントが整い文車古妖たちを捉える。
「妖の世界であれば、力があるものこそが強者。しかし人間の世界であるとなると、話は変わってくる。何が正義で何が悪なのかを問うでもなく、ただそこに在った事実を述べたのだろうよ」
 文車古妖たちは蠢きながら、そして頷きながら、目を閉じ反芻している。
「白椿には難しい話だったかもしれないな! でもま、そういう事もあって俺は腹のオイルが沸騰しそうになってるってわけ」
「(ふるふる)」
 白椿は物悲しそうに目を伏せた。
 そして、熱くも冷たくもないレギオン・リーダーにまた軽く撫でるように触れる。
「弱肉強食。単純に言うのであればそうなのだろうな。しかし人間には、頑張れば頑張っただけ報われたいという欲求がある。正義を貫いたものに褒美を、悪事を働くものに罰を与えたいと願う気持ちもあるだろうさ。ただ、世界は思っているより残酷だ。結局のところ、いくら正しくても、悪事を働いても、そこに生きている人間が居る限り業が積もる」
 俺達妖は、そうした業で出来ている、と文車古妖たちは小さく笑った。
「そして怒りという動力源は、何にも増して強く即効性があり、蓄積すればするほどに反動を強くする」
 今、この話をしながら震えるようにしていたレギオン・リーダーがまさにそうだと指先で示す。
「やはり悪事、殺意ではなく悪事があればこそ輝く存在もあろう」
「叶うことなら悪事で輝いてるやつのどてっぱらに一撃喰らわせたいもんだ」
 二本の前足を大きく掲げて、威嚇するようなポーズを取るレギオン・リーダーに、満足した様子の文車古妖たちは頷きあい、一通の手紙のような紙片を渡してきた。
「『|百鬼夜行《デモクラシィ》』が巻き起こることをここに願おう。」
 これを使えば皆、協力してくれるだろうとも言い残し……白椿の手を引き、では私は『誰も死なない程度の悪事を働いてくる』と、それはそれは悪い顔で微笑んで文車古妖たちが去って行く。

 レギオン・リーダーは何も書かれていない紙片を色々な角度から眺めては解析してみたものの、これが何であるかはさっぱりわからないままであった。
「何やらもやもやするが、これで『|百鬼夜行《デモクラシィ》』に一歩近づいたってわけだな!」

(妖力が込められた紙片、名を持たぬ文車古妖たちを表している札である。)

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