怒りは呪いの糧となる
『ペンタクルム・ゲート』関連シナリオ
これは、宿敵旅団『ペンタクルム・ゲート』に関連するシナリオです。これまでの物語は、#ペンタクルム・ゲートで確認できます。
このシナリオに登場する宿敵は、宿敵主との『Anker』関係が失われており、シナリオに参加しただけでは絶対死しません。宿敵主に対して冷淡な反応(他の参加者と同程度の反応)を示す事も多いため、その点は理解の上ご参加下さい。
このシナリオに登場する宿敵は、宿敵主との『Anker』関係が失われており、シナリオに参加しただけでは絶対死しません。宿敵主に対して冷淡な反応(他の参加者と同程度の反応)を示す事も多いため、その点は理解の上ご参加下さい。
●失敗は許されない
『残念ながら、ペンタクルム・パールによるエネルギーの奪取は失敗となった。ペンタクルム・パールの性質を甘く見ていたのに加え、EDENの√能力者の力も予測以上だった』
深刻な声色で『モリアーティ』が話すのは、作戦が失敗したというもの。想定としては上手くいくはずだった。だが、EDENの力は想像の何倍もの強さを秘めていた。ただの失敗だけでなく、星詠みによって位置を特定されたのもまた痛手。
『皆には、特別な処置を加えたペンタクルム・パールを配布する。研究中に偶然できた失敗作だが、現時点では他に手段は無い。これを使えば、一時的に強大な力を得る事が出来る。戦闘力が上昇するだけでなく、敵を異空間に閉じ込めて有利な戦場で叩く事が出来るだろう。だが、ペンタクルム・パールは重大な欠陥がある。使用すれば過大な負荷がかかり、場合によっては命さえ危うくなるだろう』
この不測の事態に『アンドロスフィンクス』は何かを恐れている様子に、『清羅』は安心させようと優しく手を握りしめた。
『大丈夫……アンちゃんの、怖いもの…清羅が無くしてあげる』
友を不安にさせるなんて許さない。
『失敗して、ごめんね…』と小さく謝った後、EDEN達への怒りをふつふつと胸の内に燻らせていた。
『おそらく、EDENの√能力者による襲撃が行われるだろう。その前に、襲撃してきた√能力者を撃退しなければならない』
この後の失敗は許されないと『モリアーティ』は淡々と説明した後、こちらにも勝機はまだ残っていると言葉を続けた。
『だが、勝利の道筋は残っている。襲撃してきた√能力者を撃破すれば、その生命力をペンタクルム・ゲートに吸収させる事が可能だ。襲撃してきた√能力者を多数撃破できれば、そのエネルギーでペンタクルム・ゲートを開く事すら可能になる。奴らが、それを許してくれるかは判らないが……勝利の為には、なんとしても成し遂げねばならない。皆の検討を祈る』
その言葉を聞いてから『清羅』は決意する。
友のために悪を倒す。復讐心を胸に、EDEN達を撃破するべく動き出した。
『清羅の呪いは何よりも強い……アンちゃん、見ててね…』
●新たな戦場
「お集まり頂き、ありがとうございます。さて、こうして皆さんに集まってもらったのは他でもありません。予知をすり抜け、阻止不可能となっていた宿敵旅団『ペンタクルム・ゲート』の拠点を発見する事が出来ました」
無限図書館に集うEDEN達に労いの言葉をかけてから、屍累・廻(全てを見通す眼・h06317)は真剣な表情を浮かべた。
「先の事件では、皆さんの活躍のおかげで被害を最小限に抑えることが出来ました。これは絶好のチャンスとも言えるでしょう。その拠点ですが、様々なルートの科学者や技術者が拉致されており、怪しい研究を進めているようなのです。彼らの救出をすると共に、事件を起こしている幹部宿敵や事件の黒幕の討伐をお願いしたいのです」
見つけ出す事が出来た宿敵旅団の拠点に攻め入るなら今。
この好機を逃さないためにも拠点へ侵攻し、拉致された人達の救出と幹部や黒幕の討伐をしてほしいというのが今回の目的だ。
「拠点に捕えられている科学者や技術者はペンタクルム・パール事件と同様に、特殊なゲートを使って拉致されたようで。特殊なゲートを使って対象者のすぐ近くに現れ、拉致後すぐに撤退していた為、星読みの予知では事件の発生も確認出来ませんでした。……彼らの拉致が視えなかったのは悔やまれます」
囚われた人達も被害者だからこそ、その後に控える戦闘に巻き込まないためにも救出してほしいと伝える。その上で、脅威になり得る要因に対して対処が必要なのだと伝えた。
「宿敵旅団は、この技術を彼らの目的の為だけに使っているようですが……星読みに察知される前に事件を起こせる特殊なゲートを悪用されれば、世界を揺るがす脅威になりえるでしょう。世界の指導者達を簡単に暗殺出来、機密情報や重要物品も盗み放題になりかねません。この技術の流出を止める為にも、今回の事件は急いで対処する必要があります。万が一、宿敵旅団の技術が外部に流出してしまえば、この√EDENを守る上で大きな脅威になりかねません」
更なる脅威から楽園を守るため、それほどまでに危険な技術は悪用させてはならない。星詠みに察知されない、それだけでも危険なのだ。
そして──その拠点の場所は√ドラゴンファンタジーのサハラ砂漠に隠されている事、その見た目は√EDENのギザのピラミッドのスフィンクスを彷彿とさせる形をしており、拠点自体が強大な力を持つ魔法建造物であると話す。
「この拠点を護るために多くの敵が布陣しているようなので、まずはこの敵を撃破して拠点に突入してください。拠点の突入口は前方・後方・左右の4カ所。内部にはいくつもの研究区画があり、技術者や科学者が働かされているようなので、その救出および、可能ならば研究データの奪取も行っていただきたいのです」
そこまで説明した後、当然邪魔は入ってしまうはずと廻は小さく溜息をついた。
「ですが、侵入するとなれば研究区画には技術者や科学者の逃亡を防ぐ為に集団敵の『しっぱいさく』が配置されているようで。救出の為には、この『しっぱいさく』への対策も必要となります。拠点突入すれば、当然敵の幹部が出陣して来るのは間違いないでしょう。前回も脅威でしたが、敵の幹部は以前の事件でも確認された『ペンタクルム・パール』と呼ばれる宝石の強化版を使い、自分に有利な戦場を創り出し、そこに√能力者を引き込んで戦闘を行うようです」
廻が視た幹部の一人、『清羅』の創り出す空間は呪いと怨嗟が満ちていること、EDENにとってのトラウマや負の感情を刺激してくるのではないかと話す。この戦いが、いつも以上に危険と隣り合わせという事実に真剣な表情を浮かべる。そこには、心配の色が見えていた。
「敵が創りだした特殊戦場内での戦闘では、かなり不利な戦いを強いられるでしょう。上手く対応しながら戦闘を行ってください。ですが、戦闘中に危険を感じたら、特殊戦場からの脱出も視野に入れる事も考えてください」
無理せず、としか言えないことにもどかしさを感じながら、廻は図書館から無事を祈りますと言葉を続ける。
廻はEDEN達が現地へ向かうのを見送るのだった。
●研究は進む
「い、いつまでこの研究をしなければいけないんだ……」
『しっぱいさく』に見張られ、研究者や技術者達はポツリと弱音を吐く。与えられるのは最低限の栄養のみという事もあってかやせ細り、お風呂にも入れないことから薄汚れた姿で黙々と研究を続けていた。他にも、人によって怪我の応急処置をしただけ、反抗して殴られた痕を残してる人も。
あちこち壊れた研究施設で、ボロボロになりながらもその修復の為のデータどりや破損した資料の修復を行っていた。必要な機材は幹部達が揃えてくれるのもあり、遺跡文明の遺物を現代技術を用いて解析を続ける。これらが揃っているのは、間違いなく特殊ゲートを使って盗んだものだろう。
──ピピピ。
あらゆる技術を持って、破壊されたデータは次々と修復されていく。
その裏で、助けが来るのを望みながら。
第1章 集団戦 『付喪神・市松人形』
『姫様、言ってた。ここに来るのは、悪い子達』
『だから、通せんぼするの。この先には行かせない』
EDEN達が宿敵旅団の拠点に辿り着くと、先に行かせまいと行く手を阻むのは『付喪神・市松人形』達。幹部の一人『清羅』を姫様と呼び慕い、EDEN達を悪い子だと教えられた『市松人形』は守りを固めていた。
『悪い子にはお仕置しなきゃ』
『お仕置しなくちゃ』
この先に進むためには、目の前にいる敵を倒す必要がある。
一刻を争う侵攻戦──その戦いの火蓋が開かれようとしていた。
●
サハラ砂漠に隠されたスフィンクスのような見た目をした『ペンタクルム・ゲート』の拠点に辿り着いたアネリス・コーネリウス(真紅・h09190)は、唯ならぬ雰囲気を感じて緊張感を抱いていた。
『悪い子が来たのよ』
『悪い子、悪い子』
「わ、私は悪い子ではないのです! どちらかというと、そちらの建物内部で行われていることのほうが非人道的な悪行の可能性があって……」
『悪い子だけど、遊んであげる』
と説明しようとするけれど、拠点の入口を防ぐように『市松人形』はアネリスを取り囲んでくる。言葉は通じるが、当然通してくれるわけがないと分かれば【卒塔婆】を手に戦闘態勢に入る。
「と、とにかく戦うしか無いですね……!」
【卒塔婆】を構え、アネリスは取り囲んでくる『市松人形』の視線に囚われないようにしながら【禍祓大しばき】を発動。
「力をこめて、えいやあっ! ……うわあ! 肝心な時に外しました……!!」
『そんなんじゃ、当たらないの』
『今度は、こっちの番。だるまさんがこ~ろんだ!』
クスクス、クスクス。『市松人形』達は笑いながら大きな紫瞳を向けてだるまさんがころんだで遊ぼうとしてくる。だが、外れた攻撃から載霊無法地帯が作り出されているのもあり、麻痺させようとする眼差しは防がれた。
『見えない、どうして?』
『見てるのに、なんで?』
「数が多いのもあいまって脅威ではありますが、目視さえされなければ麻痺させられることもないはずです!」
それならと『市松人形』と目を合わさないよう避けながら、アネリスは【卒塔婆】を振りかぶって目を狙い薙ぎ払う。ぶつかる鈍い音が響き渡り、目をやられた|付喪神《市松人形》は痛い痛いと泣き始めた。
『ひどい、いじめてくる』
『いたいよ、いたいよ……!』
「本当は遊びたいのかもしれないけど、わたしはこの先に用があるんです」
一刻も早く、この先に進まねばならない。僅かながらに可哀想と感じながらも、アネリスは【卒塔婆】を振り回して倒し続ける。その数は、少しずつ減らすことに成功。
拠点に入るまでの道程を開くにも、まだまだ『市松人形』の数は残っている。
──戦いは、まだ始まったばかりなのだ。
●
「……友達の為に、良かれと思ってやってるんですね。そんなあなたたちの邪魔をするのなら、確かに私は『悪い子』なのかもしれません」
|姫様《清羅》のためにと立ちはだかる『市松人形』達の姿を見て、架間・透空(天駆翔姫・h07138)は悪い子と言われても仕方ないと納得していた。
「友達を想う心は大変素敵です。でも、私たちにだって譲れないものはありますから」
見下・七三子(使い捨ての戦闘員・h00338)にも大切な仲間が多くいて、一緒に来ている透空もその一人。友を思う気持ちは同じでも、守りたいもののためにここは譲れない。
『ペンタクルム・ゲート』の拠点に辿り着いた二人の正義感は負けないものだった。
「でも、困っている人が居るのなら! 絶対に止めてみせます! 七三子さんと一緒に!」
「私の都合で申し訳ありませんが、ここは通らせていただきます! 行きましょう、透空さん!」
『遊んであげる。わたしたちと遊ぼう』
『悪い子にも遊んであげないと、可哀想だから』
透空と七三子を取り囲もうと襲い来る『市松人形』達。まずはと前に出た七三子は自分が囮となり、先に倒さんとインビジブルと入れ替わり背後を取ろうとしたところで体勢を変え【|ヒット&アウェイ《ワタシカヨワイノデ》】を発動。
「私、ただの下っ端戦闘員なので!」
【鉄板入革靴】による回し蹴りで、囲んでくる複数体の『市松人形』達を蹴り倒す。『かごめ、かごめ』そう言いながら|遊ぼう《倒そう》としたけれど、その攻撃は届かぬまま七三子は闇に紛れて姿を晦ます。的確に死角をついて一体一体撃破し、入れ替わろうとするのが見えれば逃さず鋭い蹴りで不意をついた。
「ファンとしては、透空さんの活躍が見たいですからね。ここは張り切って、彼女の舞台の邪魔になりそうな方はご退場願う方向で!」
一人のファンとして出来ることを精一杯。
か弱くったって、ステージ作りは万全にすることは出来るから。
「えへへ、透空さん! ファンサ、期待してますね!」
「──変身、解除」
透空は少女の姿から天色管理機構怪人へと姿を戻し、レイン砲台【決戦気象兵器「ハイぺリヨン」】を起動。
「七三子さんの期待に添えるかどうか、わかりませんけど……私は|怪人《アイドル》! 市松人形さん達のこと、誠心誠意釘付けにさせていただきます!」
|怪人《アイドル》としてファンサービスだって欠かさない。とびっきりのサービスしようと【|天色管理機構『界雷』《ハイペリヨン・フロンタル・サンダーストーム》】を発動する。
「天気予報をお伝えします。本日の天気──曇りのち雨。現在、大気の状態が非常に不安定になっております。急な雷雨にご注意ください!」
サハラ砂漠の照り付ける太陽が隠れるように、発達した積乱雲が『市松人形』達の頭上に作られ、何事なのかと上を見上げたところで広範囲に渡る激しい雷雨が降り始めた。
『濡れちゃう、着物、濡れちゃう』
『雷、怖い、これじゃ何も出来ないの』
「バリッと強烈な雷撃で痺れさせちゃいます! 入れ替える隙なんて与えませんよ!」
「きゃー! 透空さん、かわいいです! きゃー!」
ビリリとシビれるくらいのファンサをする|怪人《アイドル》の姿に、七三子は全力で黄色い声援を送る。もちろん、攻撃の手は止まらない。
二人の連携により、少しずつ拠点の入口を防ぐ『市松人形』の数は減っていた。
「まだまだシビれさせちゃいますよ!」
「カッコイイです! 可愛いです透空さん! 私も負けてられません!」
戦闘員と|怪人《アイドル》は華麗に舞い、華やかに戦い続ける。
全ては、守りたいもののために──。
●
「刻を刻む事態を前に、転んでいる暇は無いのでな」
今は一刻を争う状況。ここで時間稼ぎをされては、救出も侵攻も困難になって言ってしまう。和紋・蜚廉(現世の遺骸・h07277)は道を塞いでくる『市松人形』の言葉に淡々と返す。
『悪い子、遊んであげるの』
『わたしたちと、ここで遊ぶの』
『だるまさんがこ~ろんだ!』と口を開こうとするのを体内の振動器官である【潜響骨】で感じれば、それよりも速く蜚廉は【|盲殻反転《クラガミ》】を発動。
「紡ぐ口を捨てよ。汝の認識は、歪み堕つ」
五感を研ぎ澄ませ、未来視に近い超感覚を高めていく。それにより蜚廉自身の声は一時的に失うものも、同じように言葉を無くされた『市松人形』達は困惑していた。
『……!』
『……、……!』
(我が声帯も失認されるが、寧ろ好都合。何せ言葉を交わす暇も惜しい。呼吸さえできれば充分だ)
言葉を交わしながら戦ったとて、敵が退いてくれるわけではないのなら黙ってでも押し通ることを選ぶ。とはいえ、蜚廉の事を取り囲む『市松人形』の数はまだまだいる。研ぎ澄ませた感覚から戸惑いを見せる隙を狙うべく、蜚廉は【斥殻紐】を手にすると複数体纏めて捕縛。動きを封じながらも言葉だけでなく視界も厄介だと判断し、その目も封じようと【斥殻紐】を伸ばして目隠ししていった。
『見えない、見えないよ』
『ずるっこ、悪い子。姫様に言いつけてやる』
(――ああ、翳嗅盤から良く匂う。どうやら、行儀が悪いらしい)
ジタジタと小さな体で藻掻く『市松人形』からは文句の嵐。可愛らしい見た目と反して行儀が悪いようだと呆れつつも、それを気にしている暇も惜しいと蜚廉は『市松人形』へと素早く距離を詰め、拳や蹴りを振るい戦っていく。
(好き放題された借りを返す為にも、先へ進まねばいかんのだ)
星詠みの予知にも引っ掛からなかった悪行の数々。このまま放っておけば、宿敵旅団の悪事は最悪の形であらゆる√世界に牙を剥いてしまう。そんなことにあれば、大切な人も危険に晒される。
守りたい人のため、全ての√世界のために、先へ進むべく道を切り拓く。
──蜚廉の静かな決意は力へと変わっていた。
●
「まあ確かに……この拠点を襲うわたしたちは、確かにあなたたちにとっては悪い子に当たるのでしょう」
いきなり自分の拠点に攻めてくる自分達は悪い子と認識されるのは仕方が無いかもしれないと、エレノール・ムーンレイカー(蒼月の守護者・h05517)は静かに口を開く。
けれど、それよりも先に、人知れず√世界で悪事を働いた《ペンタクルム・ゲート》はどうか。彼らこそ悪い子と称するべきだと思えば、エレノールは一歩前へ出る。
「しかしながら、こちらも退くことのできない理由があるのです。――押し通らせてもらいますよ!」
『悪い子、行かせない』
『ここでずぅっと、わたしたちと遊ぶの』
『市松人形』達は大きな目にエレノールを捉え、『だるまさんがこ〜ろんだ!』と叫んでくる。咄嗟に視線から逃れるもののビリッと痺れるのを感じ、見られるのは不利になると考えればエレノールは【ミラージュ・ケープ】に織り込まれた幻影魔法で姿をくらましやすいようにし、さらに【潜伏者の外套】で気配を消せば、視界に捉えられないよう正面突破を避けながら【|姿なき狩猟者《インヴィジブル・ハンター》】を発動。
(見つからぬよう、平静に……!)
『あれ、いたはずなのに』
『いない? かくれんぼ?』
見ていたはず。けれどエレノールの姿も気配も捉えられなくなると、首を傾げながら『市松人形』達はキョロキョロ見回していた。
エレノールはその間に気配を消したまま物陰に潜り込み、長距離射撃の体勢になると、水の精霊による加護を受けたライフル【水精の長銃「オンディーヌ」】を構える。しっかりと狙いを定め、動きを止めるならと頭へと照準合わせれば一体一体確実に撃ち抜いていく。
(戦闘力は落ちていますが……この程度なら!)
隠密に集中するべく力を使った事により与えられるダメージは減ってしまうけれど、それでも急所を的確に撃ち抜く事で落ちた分をカバーする。
見えないところから次々と撃ち抜かれる事で『市松人形』達の混乱はさらに増し、その混乱に乗じて狙撃を繰り返せばその数は減っていき入口の守りは手薄になり出していた。
『市松人形』の数は確実に減っている。
拠点に潜入するべく、守りをさらに減らそうと戦い続けた。
▽
EDEN達の活躍により、行く手を阻んでいた『市松人形』達の討伐が完了。
そして、その足は止まることなく拠点の中へと潜入していく──。
第2章 冒険 『スフィンクスゲートに囚われた一般人の救出』
●
『市松人形』達を倒したEDEN達は、宿敵旅団の拠点であるスフィンクスゲートへの侵入を果たす事に成功。
星詠みの話では、拠点内のどこかに囚われた研究員達がいるということ、そしてそこに見張りがいるという情報もある。さらにはあらゆる√世界から盗み出された最新技術も揃え、点在する研究区画にて作業が行われていた。救助はもちろん、拠点内で何が行われているのか調べるのも、慎重に行う必要がある。
その各研究区画には『しっぱいさく』が数体配置され、囚われた研究員達を常に監視。健康とは言えない研究員達が敵う相手では無い事から、監視されながらデータ修復を行っていた。
忙しなく働かされる研究員、ピピピと様々なデータが修復。それらを見逃すことのないよう監視し続ける『しっぱいさく』。
拉致られた人達を救出するため、EDEN達は拠点内を探索し始めた。
●
無事に潜入成功した七三子と透空は、拉致されている研究員を助けるべく、拠点内を慎重に進んでいた。見たこともない構造、今までもたくさんの簒奪者と戦ってきた二人だとしても、敵の本拠地となれば緊張感は高まっていて。
「とりあえず、研究員さんに被害が及ばないようにしないといけないですね」
「ですね……閉じ込められて相当弱っているでしょうし、早く助けないと!」
助け出すにも、研究員達がどこにいるか探さなければいけない。それだけではない。研究員達を見つけられたとしても、そこには『しっぱいさく』が監視しているという情報もある。どこにいるのか、拠点内構造を把握するためにも七三子は【|蟻結びて山を動かす《ダンケツガンバロー》】を発動。
「かよわいからこそ協力大事! ──戦闘員さんは霊体になっていただいて、壁を無視して拠点内を調査してください。研究員さんがいる部屋を見つけたら、教えてくださいね」
七三子からの頼みを聞いて戦闘員の一人がこくりと頷くと、ふわり幽体になり、搭載されたソナーセンサーを活かして研究員達がいるであろう場所を探しに向かった。その近くで透空も【戦闘補助AI「ヘリオス」】を起動させ、拠点内のマッピング含めて何か情報が集められないかと試してみる。
(ここはあくまでも敵地。退路を確保し、早めに研究員さん達を安全な場所に送り届けないといけませんからね!)
AIに問いかけながら場所の把握をしつつ、研究員達がいるであろう区画を探していると、七三子は戦闘員から情報が送られてきたのに気づいた。
「……! 分かりました、そこに研究員さん達がいるんですね。透空さんっ、研究員さん達がいる場所を見つけました!」
「本当ですか!?」
「見張りもいるようなので、戦闘員さんに気を引いてもらいますね!」
幽体になっていた戦闘員から情報が送られてくれば七三子はすぐさま透空に共有、そのまま新たな指示として『しっぱいさく』の気を引くよう伝えた。
(……お名前的に、被害者、な気もするんですけど。こちらの事情で申し訳ありませんが、排除させていただきます)
名前からして実験の中で不備が見つかり、そう名付けられてしまったのではないかと思うと、七三子の心はきゅっと切なくなる。戦わずにいられるなら良かった。そう思いながらも、救うべく人達がいるのなら迷ってはいられないから。
幽体を解いた戦闘員達に気付いた『しっぱいさく』は侵入者発見と言わんばかりに攻撃を仕掛けてくる──が、それよりも先に目潰しされる事で失敗に終わる。戦闘員達はわざと気を引くために煽るような行動を示し、七三子と透空がいる方へと走り出した。
「もうすぐ、こちらに敵が来ます! 透空さん、数を減らすの手伝ってくださいね。頼りにしてます!」
「任せてください、七三子さん! ここの電源を拝借し、しっぱいさくさん達に『下』から強烈な逆流雷を叩き込みます!」
二人は何時でも攻撃出来るよう身構えていると、足音と共に戦闘員と『しっぱいさく』の姿が視界に入る。戦闘員達と入れ替わるように透空が前に出れば、そのまま流れるように【|天色管理機構『逆流雷』《ハイペリヨン・バックフロー・ライトニング》】を発動。
「天気予報をお伝えします。本日の天気──曇りのち雨。落雷による停電や機器の故障にご注意ください!」
周辺の電気機器から電力を拝借、バチバチと電流が地面より這い寄る逆流雷へと変わって『しっぱいさく』の足元を狙い放たれれば、強い電流によって動きが鈍っていく。
(しっぱいさくさん達に思うところがない、って言ったら嘘になります)
アイドルに憧れていた幼少期。キラキラ輝くステージの上で歌って踊るという夢を見ていた少女はある日出会ったプロデューサーを名乗る男との出会いから、悪の組織の手により怪人となってしまった。
ズキリと心が痛む。けれど、攻撃の手を休むわけにはいかない。|怪人《アイドル》として前に進むと決めた。今も、助けを求める声に応えるために──。
「だからこそ……こんなこと、絶対に止めてみせます!」
透空と七三子による息の合った連携で、一区画に配置された『しっぱいさく』の掃討は成功。他に監視の目が無いか確認してから、ボロボロに痩せ細ってしまっている研究員達へと声をかけた。
「皆さん、大丈夫ですか? 私達は皆さんを助けに来ました!」
「さ、ここから逃げましょう! 私達が逃げ道を確保してますから、安心してください!」
「あぁ……助かったんだ…!」
「これで、これで帰れる……!」
救援が来てくれた事に安堵する研究員達は透空と七三子、七三子の戦闘員達にも協力してもらいながら拠点の入口へと誘導。脱出させた後は一部戦闘員達を護衛を任せ、拠点の奥にいるであろう黒幕がいる場所へ向かう事に。
進めば進むほど、漂う空気が重くなる。
この先に進めば危険が伴う──それを肌に感じながら。
●
「……穢を織りて、命を象る」
拠点に潜入後、蜚廉は【|穢塵余灯《ノコルモノ》】を発動。翅を大きくさせた後、翅音の反響を潜響骨で聞き取りながら音響による地図を展開。音の僅かな違いをしっかり把握する事で、拠点内の構造に加えて研究員達の位置や監視している『しっぱいさく』達のいる位置を把握していく。
「ふむ、別方向は仲間が上手く動いているようだ。ならば、我は別の方へ向かうとしよう」
把握したのは同じように駆け付けた仲間の位置も同様。
一部の区画は救助進んでいるのが分かれば、蜚廉は別の区画にいる研究員達の元へと向かう事に。
他の敵に狙われては本末転倒。気配を消し、目的の区画近くまで辿り着くと魅了の伴う羽音を立て始めた。その音に気付いた『しっぱいさく』は音に誘われるがまま担当している持ち場から離れ、少しずつ蜚廉の元へと近づいてくる。
(…この区画にいる敵は、全員こちらへ意識を向けたようだな)
狙い通りに意識を向けさせ、蜚廉の近くへ誘き出す事に成功すると翅を鋭い刃へと変え、蟲煙袋より麻痺毒入りの煙幕を焚きながら一気に距離を詰めて肥大化したままの翅で切り裂いていく。
「……お勤めご苦労。ここから先は、我らが引き継ごう。汝らが監視していた者達は、此処で解放させて貰うぞ」
この場にいれば、散らずとも良かった命すらも散ってしまう。無駄に命を散らすような場所は好かないからこそ、せめて苦しませぬようにと一撃で倒し続けた。
目にも止まらぬ速さで切り裂かれた『しっぱいさく』はバラバラになって崩れ落ち、敵の気配が近くにないことを確認してから蜚廉は研究員達の元へと駆け付ける。
「お主らを解放しに来た。我が先導する、慌てずついてくると良い」
「た、助かった……!」
「ありがとう……恩に着るよ……!」
やっと元の世界に帰れるという安堵から、研究員達は久々に笑みを零す。互いに支え合いながら、蜚廉の誘導の元で入口まで向かう事に。
一人、また一人と入口まで辿り着き、ここなら安全だと伝えると感謝の言葉を伝えてくれる。蜚廉はあたたかな言葉を胸に、拠点の中へと踵を返した。
この先に進めば幹部が控え、そして黒幕への道も繋がるはず。
どれだけ危険だとしても、未来を生きるために進み続ける。
●
「星詠みさんの話では、研究員さん達は酷い状況で働かされているようで……急いで救助に向かいましょう」
今この時も監視の目に見張られながら研究を続けているのなら、一刻も早く助けてあげなくては。拉致られた人々の希望になりたい。アネリスは【|白いアネモネは希望の象徴《ホワイト・フローラル・シャワー》】を発動し、白い花の香りを風使いの力を用いて拠点内に浸透させ始めた。
(希望はずっとそこにあります。すぐに助けますから……!)
愛用している【羅紗】を片手に、魔力を高めて使えるようにしておきながらアネリスは拠点内を走り回る。
研究区画の場所はどこだろうか。気持ちに焦りが滲むけれど、自分が冷静にならねばと心を落ち着かせながら拉致られた研究員達がいる場所を探し続けていた。
どれほど走ったのか、人の気配がするのを感じると同時に『しっぱいさく』が監視しているのが視界に入る。つまり、そこに研究員達がいるということ。敵と対峙するということに恐怖心を抱きつつ、急いで助けなければと即座に戦闘態勢になった。
「『しっぱいさく』に襲われるのは私だって怖いですが……戦う力があるのだから、皆さんを護るためにも勇気を出さないと……!」
『しっぱいさく』が増幅させてくる恐怖心に【羅紗】を持つ手は震えるけれど、高めた魔力を使って攻撃を仕掛ける。透き通る【羅紗】から放たれる魔法によってひらりと白い花が舞い、希望への道を作ろうと戦っていけば、辿り着いた区画を担当していた『しっぱいさく』の掃討に成功。
「はぁ、はぁ……これでこの辺りの『しっぱいさく』は倒せたみたいですね」
アネリスはその足で近くの研究区画へ向かうと、そこには弱々しく研究を続ける研究員達が何事なのかと困惑していた。
「も、もしかして助けに来てくれた……のか?」
「研究員の皆さんですね。私は、皆さんを助けに来ました。ここから入口までは安全なので、急いで逃げてください」
「あぁ、ありがたい……! やっと帰れるんだ!」
浸透させた白い花の香りから、助けに来てくれたのではないかと確信が無いながらに希望を持ち始めていたのだと話してくれると、アネリスは安心したように微笑んだ。脱出する研究員達を見守りつつ、何かしら資料が無いかと探し始めた。
(ここで何をしていたかが分かる資料などあれば見たいところですが……何かあるでしょうか)
研究区画にあるデータや資料に目を通してみると、ウォーゾーンで集められた過去の技術の資料があった。そこにはスフィンクスゲートとの類似性が記されていて、これらの資料も恐らく幹部宿敵が運び込んできたのだと予想する。
「この資料……情報として持ち帰れそうな気がしますね」
今は先を急がねばならない。ゆっくり目を通す事は出来ないのもあり、資料の一部は持ち帰って星詠みに解析を任せることに。
「この奥に、幹部達がいるはずですね……怖いけど、この先に進まなきゃ」
さらに奥へ進めば、その先に幹部宿敵が待っているはず。
漂う緊張感に一層恐怖心が増すけれど、アネリスは意を決して拠点の奥へと進み続けた。
●
入口を見張る妖怪を倒し、エレノールは慎重に拠点内を進み始める。この場所には宿敵幹部や黒幕がいるであろう場所というのもあり、肌に伝わる緊張感は普段よりも強く感じるものだった。
(いよいよ研究員さん達の救助ですね。いかに彼らの犠牲を避け、救助するかが大事になるでしょう)
予知されないままに拉致された研究員達の数は把握出来てないものの、人知れず行動を起こしたならば人数を攫うことは造作もないはず。どれだけ多くの人が拉致られたとしても、別働で仲間も救助に向かってくれているからこそ、力を合わせて全員を救う事が出来ると信じ、エレノールは歩みを止めなかった。
(これは人命的な面からももちろんですが、彼らが研究させられていた技術……ひょっとしたら、こちらの益にもなりえるかもしれませんしね……)
拠点内の造りも見たことの無いものが目立ち、『ペンタクルム・ゲート』の情報も未だ判明していない部分が多い。敵を知るためにも、今回の救助で被害を出すわけにはいかないと考えていた。
幻影魔法によって迷彩機能を高めた【ミラージュ・ケープ】を羽織り、気配を消すべく【潜伏者の外套】を纏えば音を立てず研究員達を探す。エレノールは的確に居場所を突き止められるよう、そっと手を翳して【|梟の使役霊《ファミリア・ストリクス》】を発動。
「お願いします、フクロウさんたち……! ここに囚われている研究員さん達の居場所を探してくれませんか?」
召喚した霊体のフクロウ達は大きな目を光らせ、大きく羽ばたくとギラリと全てを見通すような千里眼を使い索敵し始める。透視しながら索敵していると、研究員達の姿を捉え、さらには見張りをしている『しっぱいさく』の姿も瞳に映せばエレノールへ伝えに戻る。一羽のフクロウが戻ってきたのを視認、エレノールはそっと手に留まらせて視えた情報を教えてもらうと、気配を消したまま急いで研究区画へ向かう事に。
「あそこが研究区画ですね……見える限りでも、ハイテクなものばかりが揃ってる気がします」
こっそりと様子を伺いつつ、見たことないような機械を使いながら研究しているのが見えると、目の前にある技術が悪用された時に危険なものなのだという星詠みの情報を思い出し、これがそうなのかと驚きは隠せなかった。
これらの技術を使うために捕まった研究員達はボロボロで、フラつきながらもその手を休めずに動く。そんな痛々しい姿から、急いで助けねばと気合いを入れ直した。
エレノールはフクロウ達へ指示を出すと、霊体から実体へと代わり『しっぱいさく』へ差し向ければ異常検知と反応すれど攻撃には移れずにいた。フクロウ相手に苦戦している隙を狙い、エレノールは【|幻影舞踏《ファントム・ステップ》】を発動。
「我は踊る、天駆ける幻舞」
素早くインビジブルと入れ替わり、瞬時に接近すれば【毒蛾の短剣】で急所を狙い一撃で『しっぱいさく』を倒していく。仮に一撃で倒せずとも、仕込んである麻痺毒が体を蝕んで死に至る。この一帯を任されている敵を次々と視認される前に急所を狙って攻撃、大事になる前に暗殺を完了させていった。
「これで、この辺りは全員倒せたでしょうか。研究員の皆さん、もう大丈夫です。急いでここから逃げましょう」
「た、助けが来た……!」
「あぁ、なんてお礼を言えば……」
「お礼なんてそんな……! それより、ここは危険です。誘導するので、皆さんここから脱出しましょう」
安堵の表情浮かべる研究員達はエレノールの言葉に頷くと、それぞれ支え合いながら入口へと移動し始める。フクロウ達が先導、エレノールが殿を務める形で周囲を警戒しながら元来た道を辿って進んでいく。無事に入口まで辿り着けば、研究員達は弱々しさは残るものの、ようやく帰れることに笑顔を浮かべていた。
研究員達の帰還により、どんな情報がもたらされるのか。
今は無事に助けられたことを喜び、そして──再びエレノールは拠点の中へと向かう事に。
そう──成すべきことは、まだ残っている。
強大な力を持つ敵は、奥で待ち構えているから。
第3章 ボス戦 『骸纏ノ姫『清羅』』
──恨めしい、怨めしい、憎い、許さない。
禍々しい怨嗟の声が聞こえる空間。
ここは骸纏ノ姫『清羅』が作り出した、呪いと怨嗟が渦巻く特殊戦場となっていた。
『あなた達は、本当に正義のために戦っているの……?』
心に聞いてみて──淡々と、静かな言葉はEDEN達に問い掛ける。誰かを恨んだ事はあったはず。絶望した日があったはず。綺麗な心だけで生きてきたのかと問われれば、その答えはどうか。
きっと感じていただろう。空間に入った時から刺激される負の感情に。
怒り、悲しみ、憎しみ──あらゆる負の感情がEDEN達へと牙を剥く。
『わたしが、その魂を救ってあげる……ここで死んだら、何も考えなくていいの』
『ペンタクルム・パール』を使ったことにより、強大な力を得た『清羅』の呪いを跳ね返すのはかなりの困難を極める。完全に無にすることは不可能。この特殊戦場の中で侵食する呪いは、確実にEDEN達の心を常に蝕む。
負の感情に負けるのか、はたまた抗うのか。
呪いと怨嗟にどう立ち向かうのか──EDEN達の強さが試される。
●
拠点内を進んだ先、そこには骸纏ノ姫『清羅』が静かに待ち構えていた。両手で緑の瞳がギロリと睨む杖を持ち、放たれる呪いと怨嗟がたち込めれば周りの空気は重く、びりびりとした緊張感を漂わせていた。
『清羅は、大切な友達のために……アンちゃんのために戦うの…』
「……正義のため、か。いや全く。我はただ、我自身のために戦っているに過ぎぬ。………ッ!?」
目の前にいる幹部を倒せば良いはず。
蜚廉はそう思い、身構え始めた──が、押し寄せてくる負の感情に膝をつく。
『本当は、憎いでしょう……? 恨みたいでしょう……? この世界は…とても、とても、穢れているの』
人々から忘れ去られた場所。
捨てられたゴミを漁り、泥水を啜り、ダンボールで暖を取る日々。稀に人と出くわしたとしても、「気色が悪い」「害虫は失せろ」と蔑まれるばかり。
(恨み、憎しみ。その全ては、嘗て我自身が味わってきたものに他ならぬ。だからこそ、よく染みる……)
自分が何をしただろうか?
他の人達に害を成しただろうか?
事実、何もしていないはずなのだ。
なのにも関わらず、何故蔑まれなければいけなかったのか。
不要だと言われんばかりに、拒まれなければいけなかったのか。
小さかった体で受け止めた悪意の数々は計り知れない。
いっそ、悪意に悪意で返してやろうか──今ならば力もある。この力を振るい、全てを破壊してやろうか。
高まる負の感情に蜚廉は頭を抱える。果たして、どこまでの感情が真実? 善と悪の境界線は曖昧になり、『清羅』に向けて攻撃するはずだったが【甲殻籠手】で自分自身を殴り出す。攻撃はそれだけに留まらず、『清羅』の杖による眼差しによって、複数の刃物を呪力で飛ばすと、蜚廉の体はあちこち切り裂かれていく。翅が、硬く覆われた体が傷だらけになっていく。
「グッ、ぅ……我は、我は……」
『とても苦しそう……でも、清羅が助けてあげる…。何も考えなくて、いいの……』
長く、長く──どれだけ長く生き続けただろう。
降り注ぐ憎しみと恨みが、強く生きるための原動力となっていた。
(──ああ、そうだ。この悪意に負けぬようにと。打ち負かしてやるためにと。我は……生を渇望していたのだ)
そうだ。この空気は、あの頃と同じだ。
恨みと憎しみばかりの世界。どこを見ても、どこへ行っても、向けられるものは同じ。そして、今も──。
強く生きる。生きてどうする?
今まで抱いた怒りと恨みを、世界にぶつけてやろうか。
蜚廉はフラつきながら、ゆっくり立ち上がる。
世界を壊そう、恨みを込めて破壊しよう。
負の感情が感情の全てを支配しようとしていた──その時。
──チリン。
「……!」
どこからともなく聞こえる鈴の音。
そっと懐に触れてみると、そこには小さな鈴が。
(そういえば。いつも身に着けているのだったな……)
お揃いで買った猫の形をした小さな鈴。
この場に、いや、自分自身にすらも似つかわしくないほどに穏やかな鈴の音は、荒んだ心を落ち着かせていく。
──蜚廉さん。
ふわりと微笑む笑顔が思い浮かぶ。
優しくて、あたたかい、初めての温もりをくれた。
知っている。力は憎しみのために振るうのではない。守るために振るうのだと。
(……そうだな。忘れる事など、あり得ぬ。正義のためではない。……我は、我が愛すると誓った者のために戦っている)
──無理はめっ、ですよ。蜚廉さん。
小さな鈴の音が、あたたかな感情を思い出させてくれる。
愛する人から、今までたくさんの幸せをもらってきた。身につける度に、思い返す度に、その時の温もりが今もハッキリと蘇ってくる。
「……ああ。如何なる邪も、この陽だまりの前では霞んでしまうな」
小さな鈴が持つ幸運から始まり、家で預かるようになった可愛らしい猫のぬいぐるみ達の誘惑。これからを彩る定位置として飾られた落ち着く香炉、足跡を残すようにと貰ったボタン。
「クリスマスには、願い事を叶えると言われたチケットを。……まだ、有効期限は来ていなかったな」
年末には、縁起のいい幸運の靴下を。
そして──大きな戦いの時には、心まで温めるようなあのマフラーを。
愛しい人からもらった宝物に込められた想いは大きくて、一息で返し切れるようなものじゃなくて。
そうだ。負の感情に抗う術は、既に知ってるではないか。
「我はまだ、この幸せを味わっていたい。そして。貰ったもの以上の幸せを、共に返したいのだ。呪いなどに屈している暇はない。邪魔をするというのなら──この右掌で、叩き潰す」
ようやく幸せを知ったのだ。だからこそ、ここで負の感情に負けるわけにはいかない。負の感情に苦しんでいた蜚廉は小さな鈴の音により愛情を思い出せば、一気に距離を詰め【|触厭《ショクエン》】を発動。
「穢れに染まりし掌にて、触れし力よ、我を嫌え」
『どうし、て…動け………うぅ、ッ!』
杖の両端に宿る緑の瞳でギョロリと睨みながら刃物を投げ飛ばしてくるけれど、傷だらけの身体に鞭を打ち右手を伸ばして杖に触れる。蜚廉が触れたことで無効化された呪力は消え、操っていた刃物は落ちていく。力を弱められた事で『清羅』は悔しそうに呻いていた。
悔しさだけではなく、『ペンタクルム・パール』の負荷が『清羅』自身を蝕む。リスクを負ってでも、友を助けるために戦うと決めている。
蜚廉も自らを傷付け、『清羅』による攻撃によって傷は多い。
気が緩んでしまえばフラつきそうなほどだけれど、どれだけ満身創痍だとしても愛する人の元へ帰るために立ち向かう。
──呪いと怨嗟の力は、未だ衰えない。
●
立ち込める呪いと怨嗟に満ちた場所。
幹部である骸纏ノ姫『清羅』が作り出したこの空間は、いるだけでも呼吸がしづらくなるくらいだった。
(……正直なところ。行動が正義なら、内心はどうでもいいと思ってます)
それよりも目の前にいる『清羅』を倒さなければ。
アネリスは【卒塔婆】を手に構える。──が、自分の中に眠る負の感情が呪いによって刺激されると息苦しさからその場に蹲った。
少し前まで、一人の受付嬢として多くの冒険者達と関わって来た。心底正義のために戦う人、お金や配信者としての数字を稼ぎたい人、暇つぶしに戦っている人――それぞれ戦う目的は違っていた。
(戦う力を持たぬ私からしてみれば、冒険者の皆さんは等しく英雄だったんです)
見送ってきた多くの冒険者に比べて、自分はどうだったか?
見送ることしか出来なかった。冒険者達が傷付いて帰ってきたとしても、声を掛けるしか出来なかった。古代語魔術も使えず、痛み苦しむ冒険者達を癒してあげられなかった。
負の感情が刺激する。知っている記憶が、どんどん歪んでいく。見送ってきた冒険者達の表情は、どんな表情してただろう。
──魔法も使えないのか。
──役に立たない受付嬢だな。
(そんな事……私は役立たずじゃ……)
悪意の声が響いてくる。悪意の目が向けられる。
役に立てなかった。何て無力だったのだろう。──本当に?
苦しい、悪意が自分を責め立ててくる。
胸が苦しい。頭が痛い。役に立てなかった自分なんかが生きていてもいいのだろうか。
苦しさを払いたくて【卒塔婆】を振り回す。けれど、それは空振りに終わってしまう。その隙を『清羅』の杖についた緑の瞳は見逃さず、刃物を呪力で操るとアネリスの白い肌を斬りつけていく。
「あぁ、っ……! 痛っ……く、ぅ…!」
真っ赤な血がとめどなく溢れ、足元はどろりとした赤に染まっていく。痛みがさらに苦しさを増していき、立っているのもやっとだ。
強い痛みで、心が挫けそうになる。けれど、思い出すのは冒険者達が誇らしげに戻ってきたときのことを。
「まだ……冒険者として新人の私には、青臭い衝動があると…思っていますけれど……たとえ、悪意に飲まれてしまうとしても……自らの行動が…正義に与するものであると、胸を張っていえるような……そんな冒険者でありたいと…おもっています」
そう、送り出した冒険者達は自信に満ちた表情だった。彼らのように胸を張って、自分の行動が正義だと言えるようになりたい。新米冒険者のアネリスにとって、大きな憧れの目標だ。
流れる血の量から手の力は抜けかけていたが、痛むのを無視して【卒塔婆】を強く握り締める。風の加護を持つ【青嵐】で飛んでくる刃物を減らしていきながら、右目に力を込めて【竜漿魔眼】を発動。『清羅』の隙を狙い、全力で【卒塔婆】を振り下ろせば、骸纏ノ姫の体はグラりとフラついた。
「っ、ぅ……ここで、負けるつもりは、ありません……!」
『どう、して…死を、受け入れた方が…楽なのに……』
立っているのもやっとだけれど、何とか一撃は入れる事が出来た。それでも、まだ『清羅』は立ちはだかっていた。
僅かに、空間を占めていた呪いと怨嗟は弱まってくる。
●
骸纏ノ姫『清羅』が作り出した呪いと怨嗟に満ちた空間に辿り着いたエレノールは、その重苦しい空気に思わず息を飲む。この空間を消すために、そして宿敵旅団の目論みを止めるため、目の前にいる幹部宿敵を倒さねばならないと身構える。
──だが、空間に入った時から違和感を感じるものがあった。ドクン、ドクン。この場にいるだけで膨らんでくるのはドス黒い感情。
「……何かを恨んだ事も、生きるのに絶望した日もありました」
12歳の頃、魔物に村を襲われたあの日。目の前で無惨に家族を殺され、何故自分がこんな目に遭わねばいけなかったのかと嘆き続けた。
──なんて世界は理不尽なんだろう。
憎い、世界が憎い。あの頃の感情が顔を出す。
(家族が殺された……世界が、殺した…何で、何で……)
『可哀想……とても憎くて、苦しかった…その気持ち……清羅なら、助けてあげられる……』
助けてくれる。その言葉は甘い誘惑だった。
家族がもういないのなら、いっそ死んでしまおうかと思った。苦しい、寂しい。なんで、死んでしまったの。一人にしないで。孤独と憎しみがエレノールの心を蝕んでいく。
(綺麗な心だけで生きてきたのかと問われれば……それは決してそうではありませんし、きっと今もそうなのでしょう……)
あの日の出来事はトラウマで、臆病な心が顔を出す。
助けて、一人にしないで。孤独から救われたくて、救ってあげるという『清羅』の言葉にぐらりと心が揺さぶられていた。
(ここで死んだら……会えるでしょうか)
命を捧げてしまえば。そう思いながらエレノールは一歩、また一歩と『清羅』へ近付こうとする──が、小さな声が聞こえてくる。
(……声?)
エレノールを呼ぶ声。
思い浮かべるのは元気な妖精達の笑顔。その中でも一際元気で太陽のように明るい妖精が、飲み込まれそうになっていた前を向く心が光照らしてくれるように感じた。
(そうです……わたしには、大切な仲間がいます。悲しむだけだったわたしを導いてくれた大人たち。共に笑い、支えてくれた学友たち。そして今を一緒に過ごし、これから先も共にいたいと願う、かけがえのない妖精の友。この世界は、わたしに多くの温かな出会いをくれました)
どれだけ絶望したとしても、手を差し伸べてくれた人がいる。笑い合える友がいる。深く傷付いた心が完治することは無くても、絶望が胸に残ったとしても。それでも前に進むと決めたからこそ、今もこうして強敵に立ち向かうために此処に来たのだから。
「……このような悪意などに、負けるわけにはいきません!」
エレノールは真っ直ぐ『清羅』を見据え、意識を集中させて【|霊竜顕現《スピリット・ドラグシフト》】を発動。
「精霊達よ……今この身へ宿り、天翔ける竜を模らん!」
詠唱するとエレノールの体は淡い光に包まれ、その姿は勇ましい|精霊竜《エレメント・ドラゴン》へと変身。未だ衰えない呪いの干渉は軽減し、長期戦に持ち込まれてしまえば不利と考えれば、大きく息を吸い込むと全力の|ホーリー・ブレス《光属性のブレス》を『清羅』めがけて放った。
『あぁぁああぁあ……!』
エレノールのブレス攻撃が直撃し、光に満ちたブレスに焼かれると『清羅』の体はボロボロになっていて。それでもまだ負けるわけにはいかないと、何とか粘るのが精一杯だった。
「こ、これで……あとすこ、し……」
放った一撃で竜漿を大量に消費してしまい、何とか踏ん張りはするが、枯渇してしまったことからドサリと倒れて気絶する。あとは仲間が倒してくれるはず、そう信じての大きな一撃。
『ペンタクルム・パール』の負荷だけでなく、大きな傷を負った『清羅』はかなり弱りを見せている。
傷付きながらも、確かなバトンを繋いでいく。
●
「そんな大それたものの為なんかじゃ、ないです」
ポツリ。そう呟く透空の表情は暗い。
骸纏ノ姫『清羅』の作り出した呪いと怨嗟の空間に入った時から、心の中で怪人としての感情が刺激されていた。
──さぁ、共に|破壊《プロデュース》しようじゃないか。
もう居ないはずの声が聞こえる。
セカイを|破壊《プロデュース》しなければ。そうすれば、もっともっと良くなるのだから。
「せいぎ。えっ、あの……「正義のため」には戦ってないです。なんか、すいません……? 私はいつも、私の都合のために戦っていますよ。うーん、誰かを怒ったり、悲しい日ももちろんありますけど。それも全部私の|感情《もの》。誰にもあげない、大事な私の|要素《感情》です」
『どうして……恨みから、助けられるのに…』
「ふふ、ありがとうございます。救ってもらうようなこと、何もないんです!」
キョトンとしながら申し訳無さそうに謝る七三子。
正義というには烏滸がましい。隅の方でひっそり息を潜めて、か弱い戦闘員なりに戦っていて、その中で怒ったり悲しんだりしたとしても自分らしさなのだと言葉にする。
(透空さんは大丈夫かな……。いえ、私の推しですからね。この程度の闇に負けないキラキラを、私や清羅さんに見せてくださるはず!)
隣に立つ透空の様子がおかしい事に気付くと、心配そうに表情を覗き込む。
「透空さん、大丈夫ですか……?」
「……、きゃ…」
「えっ?」
「|破壊《プロデュース》、しなきゃ……」
虚ろな眼差しの|怪人《透空》は七三子の方へ向くと、レイン砲台【ハイペリオン】の照準を『清羅』──ではなく、|仲間《七三子》へと向けていた。
「セカイを幸せにするため……これも必要な|破壊《プロデュース》なんです」
「透空さん……?!」
静かな言葉で淡々と言い放つなり、透空は七三子へ向けてレーザーの雨を降らせる。七三子は咄嗟に後方へと飛び退き避けるけれど、追い掛けるように狙いを定め続けていた。
この世界を幸せにするための|破壊《プロデュース》。そう命令され続けた怪人の心が呪いによって刺激され、敵味方の判別もつかないまま攻撃を繰り出していく。
「透空さん! 目を覚ましてくださいっ! 透空さんがしたい事は、こんな破壊じゃないはずです!」
必死に呼びかけながら透空からの攻撃は避けて、守りに徹する。仲間に攻撃なんてしたくない。正義のために戦わずとも、仲間のために力を使いたいから。今ここで闘い合うことは『清羅』の思うツボになってしまうと考え、ひたすらレーザーの雨を避け続ける。
「思い出してください! 透空さんは、私が推す……キラキラに輝くアイドルです!」
「………!」
アイドル。
透空は言葉に反応示し、攻撃の手を止める。
そうだ。|銀幕の歌姫《アイドル》に憧れて、今は|怪人《アイドル》としてみんなを笑顔にするために戦っている。
七三子の声掛けは負の感情に満ちた透空の心に光をもたらし、虚ろだった瞳は光を取り戻した。
「そう……そうです。泣いている人が、困っている人がいるから、私はここに立っているんです。悲しいこと、苦しいこと……全部ひっくるめて、これが私!」
|破壊《プロデュース》するためじゃない。
どれだけ苦しくても、どれだけ悲しくても、怪人としての自分も全て受け入れて今がある。
周囲を見回すとレーザーの雨の痕跡を見て、透空は七三子に頭を下げた。
「ゴメンなさい、七三子さんっ! 私、私……」
「大丈夫です! 気にしてないですよ!」
元々怒っているわけではなかったと七三子が笑顔を見せると、透空は安心したように微笑む。そして、改めて『清羅』へと視線を向けると透空は改めて眩しい笑顔を見せた。
「想いの丈、この歌にぜーんぶ籠めます! 見ててください、七三子さん! ここからが……私たちのステージです! 見ていてください、今の私を──変身ッ!」
奏でる歌と共に高鳴る胸に刻まれた本能のリズムと融合するべく、透空は【|変身・天駆翔姫《ハイペリヨン・リジェネシス》】を発動。眩く光に包まれた後、姿は|天駆翔姫《ハイペリヨン》へと変わり、力強く歌いながら『清羅』がいる方へ突っ込んでいく。
「じゃあ私にできることは、|団結の力《おうえん》かな! 透空さんが存分に輝けるように、ややこしい攻撃は私が引き受けます!」
透空の援護をするべく、七三子は【|団結の力《カズノボウリョク》】を発動。
「ええっと、えいえいおー……です!」
戦闘員達と強調の思念を繋げば『清羅』の未練から召喚する影の巫女を排除していき、|推し《透空》のために精一杯の|団結《おうえん》の力で道を切り拓く。
「どんなに怖くても、つらくても、前を向こうって思えるんです! この負の感情は決して消えたりしないけど、このキラキラだって、決して消えたりしません!」
「そうです! どれだけ悲しくても、私達は仲間と一緒に前を向いていけるんです! だから、清羅さんに見せてあげます!」
二人の息がピッタリと合った連携は、弱りを見せている『清羅』へと大きなダメージを与える。前を向く心が、呪いと怨嗟を跳ね除けたのだ。
『そ、んな……アンちゃ…あぁああぁぁあ……!』
苦悶の悲鳴を上げ、『清羅』の体はドサリと倒れ伏す。
全員がボロボロになりながらも、強化された幹部を打倒すことが出来た。
けれど、この戦いが終わったとて全てが終わったわけじゃない。
課題はまだ残っている。この先も、大きな困難が控えているだろう。
それでも、今はこの勝利を噛み締めよう。