シナリオ

|黄昏石《トワイライトジェム》を探して

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●炎と夕日の街『トゥラモンテ』
 |黄昏石《トワイライトジェム》。それは火山ダンジョンの傍に位置する鉱山街『トゥラモンテ』で採掘できる、この地域特有の宝石である。色は主に暖色系……赤に橙色、金色と様々で、夕焼けのような模様が特徴だ。
 炎と夕日の街とも呼ばれるトゥラモンテは、火山ダンジョンの影響で炎属性の魔力による影響が強く、夕日は燃えるような茜色を魅せる。見晴らしがよいダンジョンの上から街を見下ろして、簒奪者『ラディス』は悪巧みをしていた。
「ふふっ、かの有名な黄昏石『夕夜の星空』……絶対に手に入れてみせるわ」
 強欲なラディスは街の至宝である特別な黄昏石を狙っていた。
 魔法結界による厳重警備で記念館に保管されているが、彼女には考えがある。
「仕込みは完璧……あとは火山が噴火するのを待つだけよ」

●宝石を狙う者
「ある街で大切にされている宝石が簒奪者に狙われます。皆様にはそれを守っていただきたいのです」
 |泉下・洸《せんか・ひろ》(片道切符・h01617)は、集まったEDEN達に観光ガイドを見せた。
 そこにはこう書かれている。――炎と夕日の街『トゥラモンテ』。炎の恵みを受けた鉱山の街で、あなただけの黄昏石を手に入れよう――。
「火山ダンジョンの恩恵を受けたこの街では、宝石がたくさん採れるそうです。一部のエリアは観光客に開放されていて、自分で採掘した宝石を装飾品にできるそうですよ」
 |黄昏石《トワイライトジェム》と呼ばれる宝石で、暖色系の燃えるような模様が、夕焼けに似ていることから名付けられた。ダンジョンから漏れ出す炎属性の魔力の影響で、採掘した宝石はほんのりと熱を持っているらしい。
 宝石だけでなく、景色も魅力のひとつだ。渓谷に沿うように白い石造りの建物が並び、晴れの日の夕方には鮮やかな赤色に染まる。夕日に照らされた赤い街並みは絶景だ。
「この街で事件が起こります。ラディスという簒奪者が、特別な黄昏石……『夕夜の星空』を奪い取るために街を襲うのです」
 『夕夜の星空』はトゥラモンテの至宝だ。鮮やかな赤と深い青色がグラデーションになった宝石で、オパールの遊色効果のように煌めく光が星のように見える。深い青色の黄昏石は非常に珍しい。そして赤と青が混ざっている物は、さらに貴重なのだ。
「現在は市立記念館に保管されています。魔法結界で厳重に守られていますが、ラディスはこの結界を壊して強引に奪い取るつもりのようです。火山ダンジョンを形成する『天上界の遺産』に密かに手を加え、噴火を起こすように仕向けたようです」
 噴火するタイミングは予知で把握済だ。空が夕日に染まり、日が落ち始めた頃。ダンジョン内から火山弾が噴き出し、街に向かって落下してくる。既に火山は噴火に向けて活動を始めている状態で、噴火そのものを止めることはできない。
「幸いにして火砕流や溶岩、火山灰といった物質はダンジョン内に留まるため、街に流れ出すことはありません。ただし、火山弾が街……とくに記念館に当たってしまえば、結界は破壊されてしまいます。ラディスの狙いはそこでしょうね」
 そうして混乱に乗じて『夕夜の星空』を奪うつもりなのだろう。彼女の好き勝手にやらせた場合、街の被害は計り知れない。
「なので、皆様にはダンジョンから降ってくる火山弾から街を守りつつ、記念館を襲撃しにきたラディスを倒してほしいのです! 火山弾はご存知のとおり大きな岩の塊ですが、EDENの皆様であれば砕いて無力化できますよね」
 なお面倒なことに、噴火前に街の人々を避難させようとした場合、ラディスは計画を変更してしまう。そうなれば撃破が困難になるため、事前避難はさせられない。
「ラディスは街に隠れて噴火の時を待っています。彼女に悟られぬよう、最初は観光客として街に入ってください。せっかくですから、トゥラモンテを楽しんできてはいかがでしょう?」

●トゥラモンテ観光
 √ドラゴンファンタジーの鉱山街、炎と夕日の街『トゥラモンテ』は、火山ダンジョン周辺に形成された渓谷地帯だ。炎属性の魔力の影響で年間を通して暑く、日中の気温は常に30℃前後……日によっては40℃を超えることもある。
 トゥラモンテは火山ダンジョンから溢れ出る魔力の恩恵を受けており、この地域特有の宝石『黄昏石』が豊富に採掘できる。現在は観光名所として一部の採掘場を解放しており、観光客もそこで黄昏石の採掘を楽しめるとのことだ。
 採掘を希望する人は、『鉱山内部』か『渓谷を流れる川』を選んでほしい。
 なお、どちらも採掘できる黄昏石に違いはない。採掘できる石の色は、暖色系の色合いが一般的だ。寒色系の、とくに濃く深みのある色は非常に珍しく滅多に産出しない。
 黄昏石を採掘した後は、街の工房でアクセサリーを制作できる。トゥラモンテお抱えの彫金師がサポートしてくれるので素人でも安心だ。
 事件が起こる当日は雲一つない快晴である。夕方には燃えるような茜色の夕日が、渓谷の岩肌を照らすことだろう。
 ……ちなみに簒奪者が狙う『夕夜の星空』が保管されている記念館については、街の中央に建てられている。残念ながら事件当日は休館日とのことで、事前に入ることはできないそうだ。

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第1章 日常 『冒険王国の観光名所』


ウィズ・ザー

●目標は高く
 トゥラモンテを包み込む炎の魔力に、ウィズ・ザー(闇蜥蜴・h01379)は温泉に浸かっているような心地だ。
「魔力に溢れた空間……ぁー、たまんねェわ……最近多くてサイコー……」
 蜥蜴の形態で宙をのんびりと泳いでいた。魔力吸収と魔力溜めを駆使して、空間に満ちる魔力を|mgmg《もぐもぐ》と咀嚼する。
「さてと、腹を満たしたところで……いっちょ掘るかァ」
 普通の宝石は当然のこと、来たからには珍しい宝石も狙いたい。
「魔力の含有率……"器としての素質"のが重要だが、可能なら深く青く質の良いモノが欲しいぜ」
 特に魔力の高い質の良い黄昏石を探したいところだ。という訳で、渓流での探索を開始した。|闇顎《アンガク》を豹海豹型に変え、|闇獰《アンネイ》を発動。豹海豹型の闇は眼孔を持たないが、代わりに|破魔の瞳《黒い尖晶石》が周辺の魔力の流れを知覚した。
「魔力がより濃く、気温が高い箇所は……見つけたぜ」
 宝石が希少であればあるほどに、含有する魔力は濃いはず。探索の心得をもとに魔力の流れを追跡する。目星をつけた場所に、高速移動範囲攻撃……もとい範囲探索のための闇顎の爪牙を繰り出した。
 鋭い爪牙が、母石の周辺ごと深く抉る。ゴリっと回収したあとは岸に上がり、採掘籠にどっさりと転がした。
「どれ、何色が出るかねェ♪」
 一つ一つ、採掘した宝石を見ていく。
 まずは、ルビーのように赤い黄昏石がごろごろと出てくる。お次は、ゴールデンスファレライトのように華やかな金色を放つ宝石。
 暖色ばかりが出る中、ただ一つだけ。青い宝石が煌めいている。
 色味はアクアマリンに近い。深い青色ではないが、炎が揺らめくように模様が入っている。
「ほー。深くはねェが、質は良い。上等な品だぜ」
 何度も試行してコツを掴めば、深く青い宝石も狙えるかもしれない。
「クカカ、こりゃァ良いや♪ もーちょい探すか♪」
 火山が噴火するまで、まだ時間がある。さらにレアな宝石を求めて採掘再開だ。

各務・鏡

●巡り合わせ
 ダンジョンから突き出た火山が、トゥラモンテの街を見下ろしている。
 今はまだ静かな火山を見上げながら、|各務・鏡《かがみ・あきら》(自称写真機の付喪神・h09413)は静かに息をついた。
「火山噴火とは迷惑なものだね。そもそも建物に被害がでたら目当ての物も無害とは限らないだろうに」
 ラディスのやり方は強引過ぎる。だからこそ『簒奪者』なのかもしれないが。
「さて、まだ噴火まで時間があるし、鉱石を掘ろうか」
 渓谷の間を川が流れている。渓流の錆問題か、鉱山内部の温度湿度か。白銅鏡的にはどちらもよろしくないが、温度湿度の方が鏡としては怖いので川を選んだ。
「翡翠や金属のように川をさらえばいいのかな?」
「そうですよ。この篩を使ってくださいな」
 地元の人から篩をもらい、早速砂をさらってみる。川の水で余分な砂や石ころは洗い流した。
「こういう鉱石掘りは楽しいね。籤よりも運頼み、感だよりって感じでさ」
 自身が付喪神であり人工物だからこそ、自然の鉱石のような天然物に惹かれる。
 何度かやるうち、篩の中に朱色の黄昏石がころんと転がった。
「燃えるような色だ。辰砂にも似てるね」
 宝石を手に入れ工房に向かえば、エルフの彫金師が出迎える。
「この石でアクセサリーを作って欲しいんだ。こう、あんまり派手じゃないものがいいな。僕みたいなお爺ちゃんがつけても差し支えないデザインだと嬉しいね」
「なるほどなぁ。任せな!」
 彫金師は気前よく言った後、慣れた手つきで制作を始めた。刺繍糸を束ね、石座には研磨した黄昏石を綺麗に嵌め込む。
 完成した物を、彫金師は鏡に差し出した。
「房飾りだ。ベルトの金具とかに結んで使ってくれ。房にする糸は、石の色が映えてしつこくならない色がいいと思ってな。金は派手過ぎるし黒は全体がくどくなる。だから象牙色を選んだぜ」
「ありがとう、いただくよ」
 鏡は房飾りを受け取る。磨かれた朱色の石が、キラキラと手の内で輝いた。

エアリィ・ウィンディア

●夕空に誓う
 炎の恵みを受けた鉱山街は、採掘に励む地元民と観光客で賑わっている。
「ここがトゥラモンテ……活気に溢れてるね!」
 白い石造りの建築が並ぶ通りを抜けて、エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)は渓谷を流れる川へと向かった。
「鉱山の方が出やすそうだけど、なんとなく川の方に行きたい気分。ふふーん、どんな色の石が出てくるかなー」
 借りた篩で川底の砂をさらう。地道な作業だ。
「……せっかくだから、精霊さんの意見も聞いてみようかな」
 |精霊交信《エレメンタル・コンタクト》を発動すれば、六属性の精霊たちが現れる。火と土の精霊のテンションがとりわけ高い。
『……!』
『~♪』
「ふふっ、嬉しそうだね♪ 炎の魔力が強い鉱山地帯だからかな?」
 はしゃぐ精霊たちにエアリィは語りかける。
「ね、この辺できらきらした石とかが出てくる場所ってどの辺が多そう?」
 火と土の精霊は元気に周辺を飛び回り、エアリィのもとに戻ってきた。こっちだよと言うように彼女を導く。川の流れが緩やかな場所だ。
「この下があやしいのね?」
 精霊たちが頷く。エアリィは早速、川底の砂を深く掬ってみた。篩で余分な土砂を流せば、桃色の黄昏石が艶やかに光る。
「わぁ! 出てきたっ」
 手のひらにコロコロとのせてみた。ピンクスピネルにも似た石は、太陽の光を受けて雲のような模様を浮かべている。
「ピンク色の空みたいで綺麗だね♪ 落とさないように気を付けないと」
 採掘した石を大切にしまい込んだ。川から出たところで、赤い陽射しを感じる。
 空に目をやれば、燃えるような茜色が空を染めていた。渓谷に沿う街並みは夕日の色に染まり、美しい景色が岩肌を飾る。
「わぁ、とっても綺麗ーっ! こんなきれいな街並みになるんだぁ~。すごいなー」
 エアリィは瞳いっぱいに夕日を映して、表情を引き締めた。
「……これを壊す人が出てくるんだよね。絶対に止めないと!」
 素敵な街を、必ず守ってみせる。

降葩・璃緒
ベル・スローネ

●キラキラな冒険
 炎と夕日の街『トゥラモンテ』に訪れた冒険者が、ここにも二人。
「黄昏石かぁ、夕焼けを閉じ込めた石なんて絶対に綺麗なんだよ!」
 街に入り、|降葩・璃緒《ふるひら・りお》(花ひらり・h07233)は瞳を輝かせる。
 隣を歩くベル・スローネ(虹の彼方へ・h06236)も、璃緒の笑みに釣られて表情を緩ませた。
「璃緒ってば今の時点からもう楽しそう」
「へへ、話を聞いてからずーっとワクワクしちゃって」
 地域特有の黄昏石……鉱物好きとして放っておけない。心を躍らせる璃緒にベルも同意する。
「かく言う俺も、ここの特産の宝石はとっても綺麗だって聞いてたから、すっごく期待してるんだけどねっ」
「そうだったんだ! やっぱり楽しみだよねっ!」
 二人は観光ガイドを広げた。ベルが指先で街の地図を辿る。
「鉱山と川があるんだよね」
「ボク鉱山の方に行ってみたいな。ベルさんはどう?」
「うん、俺も鉱山に行きたいって思ってたところ!」
「ほんと? それなら良かったっ」
 話はトントンと進み、二人は鉱山に到着した。内部は光で照らされ、落盤防止用の支柱が多く立ち並ぶ。壁や天井は岩肌がむき出しになっており、奥には地下水が流れていた。
「ちゃんと整備されてるみたいだけど、足元には気を付けよう!」
 ベルの呼びかけに璃緒が頷いてみせる。
「うん! それじゃあ早速採掘に挑戦なんだよ!」
 場所を決め、ツルハシを手に採掘を始める。
「じゃあ俺はこの辺りを掘ってみよう!」
 ベルも同様に岩を砕き始めた。焦らずコツコツと地道に採掘だ。
 璃緒は常に思考を巡らせながら、黙々と作業に没頭する。
(怪しい岩発見! 強く叩き過ぎると内側の宝石が割れちゃうかもだから、丁寧に、慎重に……)
 わかってはいたが、すぐには出てこない。なかなか見つからず、ベルは璃緒に目をやった。
「璃緒、調子は……」
 どう? と聞こうとして口を閉ざす。黙々と作業に集中する姿が微笑ましい。
(集中力を削いだらよくないし、そっとしておこう)
 二人とも各々の採掘に集中し……ついに目的の黄昏石を発見した。
「!! やったー、見つけたんだよ!」
 坑内の照明に璃緒が石を翳す。ファイアオパールにも似たオレンジの石だ。内に揺れる赤色の模様が夕日を思わせる。
「あっ、俺も見つけたよ! 炎みたいに真っ赤な宝石!」
 ベルも見つけた石を璃緒に見せた。ガーネットのように深い赤色の石で、炎のような模様が波打っている。
 美しい黄昏石に、璃緒は歓声を上げた。
「わぁ、ベルさんの石、ベルさんの瞳みたいに綺麗だね!」
「璃緒の宝石もすっごく綺麗!」
 お互い素敵な宝石を手に入れたなら、記念品として加工しにいこう。
 工房に向かった二人は、彫金師の前であれこれと話し始める。
「ベルさんはどんな風に加工する?」
「う~ん、俺は耳飾りに加工してもらおっかな? ぴ、ピアスはちょっと怖いから、挟む感じのやつで……!」
「ピアスが怖いの、分かるんだよ……! 穴あけるの痛そうだよね……!」
「うん、安定するまで時間もかかるらしいし……」
 ベルのアクセサリーはイヤリングに決まりだ。璃緒も既に何を作るか決めていた。
 二人のリクエストに彫金師は応え、記念品を制作する。
 璃緒の記念品はチャームだ。金の石座に夕日のような黄昏石が輝き、ユウガオの花飾りが石を囲う。
 ベルのイヤリングは冒険の邪魔にならないシンプルなデザイン。チェーンや房飾りは用いず耳元に寄り添う。黄昏石の赤い輝きは存在感に満ちており、充分な華やかさを備えていた。
「ふふー、ベルさんとの初めての冒険のお宝ゲットなんだよ!」
 眩しい笑みを浮かべる璃緒。ベルも心が弾み、イヤリングを耳に付けてみた。
「どう? 似合うかな?」
「うんっ! ばっちりだよ!」
 二人は笑顔で言葉を交わし合う。またひとつ、冒険の1ページが刻まれた。

夕星・ツィリ

●黄昏の花
 黄昏星をいだく者として、『トゥラモンテ』に行かない選択肢はない。
「|黄昏《トワイライト》の名前がついてるなら、これは絶対見逃せない……!」
 |夕星・ツィリ《ゆうづつ✱⃟۪۪۪͜ːु⟡⋆⁺.⋆》(星想・h08667)の目的は、当然黄昏石の採掘だ。そして採掘と言えばやっぱり鉱山。ツルハシ片手に鉱山エリアへと向かった。
「素敵な石に巡り合えます様に」
 黄昏石が埋まっていそうな場所を慎重に砕いていく。紅色に琥珀色。様々な黄昏石が岩の中から顔を覗かせた。
「うーん……これはこれで綺麗なんだけど……少し違うんだよね」
 勿論どれも綺麗だが、これだと思う色を見つけるのは難しい。
「諦めるのはまだ早いし、根気強く掘っていこうっと!」
 よし! と気合を入れ直し、採掘に励む。時々場所を変えて、黙々と理想の色を持つ石を探し続けた。
 時間を忘れてしまいそうになるほど掘り続けたところで、ついに出会いの時が訪れる。
「……見つけた!」
 巡り会った色彩は、オレンジ色からほんのり紫へのグラデーション。
 岩の中から丁寧に削り出せば、大きい石と小さい石がごろんころんと顔を出した。大きいものはオレンジが濃く、小さいものは少し紫の範囲が広い。
「そう、この色が欲しかったの!」
 大きい方の石は削ってしまうのも勿体ないから、このままお父様への贈り物に。
「夕星の|色《石》、喜んでくださるといいな」
 お次は鉱山から街の工房に向かう。小さい石はアクセサリーに加工したい。
「この石が映えるピッタリのアクセサリーを作りたいの」
「イヤリングはいかがでしょう? 紫の花色があって夕方に咲く花……オシロイバナのモチーフですとか」
「それ、とっても素敵! 研磨作業とかやらせてもらっても?」
「やっぱり自分で作りたいですよね。ご安心ください、サポートしますよ」
 彫金師のアドバイスを貰いながらイヤリングを作る。
 正面から見た花のシルエットに加工して、銀の石座に固定した。夕日に照らされたオシロイバナの耳飾りの完成だ。

常磐・兼成

●美酒のように
 自分で宝石を採掘できる街なんて珍しい。常磐・兼成(酒侵讃歌・h10142)は物見遊山の気分でトゥラモンテに訪れた。
「宝石は街の財産みたいなものだろうに。それを観光客に採らせてくれるっていうんだから太っ腹だな」
 黄昏石と呼ばれる石が採れるという話を聞いた。炎の魔力の影響を帯びた夕日も美しいらしい。
「景色も一緒に楽しむとしたら、渓谷の方が良さそうかな」
 選んだエリアは渓谷を流れる川だ。岩の間を幾筋もの流れがサラサラと流れている。じきに夕方という絶妙な時間で、空の色が変わり始めていた。
(移り変わる空の色に、川のせせらぎ。黄昏と呼ばれるのに相応しい暖色の輝きは……この場所にあるだけでも充分に、宝石と思えるような魅力に溢れているなぁ)
 これからもっと美しい夕空を見れるというのだから楽しみだ。
「……おっと、景色に見惚れるのもいいが、まずは採掘だな」
 篩を借りて、さっそく川底の砂をさらい始める。余分な土砂を洗い流して、姿を見せる黄昏石は果たしてどんな色か。
「さて、僕の手の内に残るのはどんな石かな……?」
 根気強く作業を続ける。意識してないと時間を忘れてしまいそうだ。何度も繰り返すうち、篩の上にころんと黄昏石が転がった。
 蜂蜜のような甘い彩。シトリン原石にも似たそれは、内側に向かうほど深い色と複雑な模様を魅せる。
 味わい深い蜂蜜酒を思わせる石を、兼成は太陽に透かした。燃える茜に照らされて、石は黄金に煌めく。
「こうも綺麗だと、ずっと眺め続けたくなってしまうなぁ……」
 記憶に刻むよう石をじっくりと観察した。蜂蜜酒にトゥラモンテの夕日を浴びせた黄昏石。この輝きは此処でしかお目にかかれないだろう。街の景色も手に入れた宝石も、兼成に最上の味わいをもたらしてくれる。
「観光客……以外の仕事の方も頑張るとしようか」
 この場所を守ろうと決めて、黄昏石を大切にしまいこんだ。

ノヴァ・フォルモント
セレネ・デルフィ

●咲き萌える夕日
 トゥラモンテの渓流で砂底をさらい篩にかければ、燃えるような色彩の黄昏石が顔を出した。
「同じ場所から採った石だけれど、不思議と違った色合いに見えるものだな」
 ノヴァ・フォルモント(月光・h09287)は川辺で見つけた黄昏石を観察する。ガーネットに似た赤い輝きを放つ石の内に、金色の炎模様が反射する。
 セレネ・デルフィ(泡沫の空・h03434)も、巡り合った黄昏石を手のひらに転がした。
「なんだか、自分でお迎えした宝石って……特別感があります、ね」
 彼女の石も一見ノヴァの石と似ているが、その内側を見れば違いがハッキリとわかる。赤い宝石の中に、ピンク色の模様が花びらのように散っていた。
「ふふ、確かに。自分で手に入れたものは愛着が湧いてしまう。この宝石で作った装飾品も特別なものになるといいな」
 ノヴァが頷く。宝石の採掘は運命の出会いにも似ている。セレネは手に入れた黄昏石が傷付かぬよう、そっとしまい込んだ。
「そうですね、きっと……特別になります」
 黄昏石を手に入れたなら、街の工房で記念品に仕上げたい。
 二人が向かった工房には、黄昏石を使った工芸品や制作用の工具がズラリと並ぶ。
「セレネは何を作る?」
「私は……、ペンダントにしたいな、と。折角なので、身に付けていたくて……」
「なるほど、ペンダントか。いつも身に付けるものならぴったりだ」
 炎の魔力を持つ黄昏石は、ほんのりと熱を持っているらしい。その温かみは輝きと共に存在感を引き立てるだろう。
「ノヴァさんは、どのような装飾品にするご予定ですか……?」
 セレネに聞かれ、ノヴァは思いを巡らせた。
「俺はどうしようかな」
 ちらりと相棒の仔竜……ノクスを見遣る。ノクスはノヴァの黄昏石をじぃっと見つめていた。ノクスの興味津々な様子に、ノヴァは考えをかためる。
「この子に付けてあげるアクセサリーを作ってみようかな」
「きゅ……!」
 ぱぁっとノクスの瞳が輝いた。喜ぶノクスの頭を軽く撫でるノヴァに、セレネも楽しげな笑みを浮かべる。
「まあ、素敵ですね。ふふ……ノクスさんも嬉しそう。きっとよくお似合いのものになると思います……!」
 二人は彫金師のサポートを受けながら、装飾品の制作に取り掛かった。
 黄昏石を綺麗な|卵型《オーバルカット》に加工してもらい、金具の取り付けは自分たちで行う。
「あっ……石座の金具が、変な方向に……」
 セレネが作業の手を止める。石を固定する爪の部分が歪んでしまった。
 ノヴァは問題の金具に視線を落とす。爪が少し斜めに曲がっていた。
「その程度ならまだやり直せるんじゃないか?」
「ご安心くださいな。別の金具に取り替えましょう」
 エルフの彫金師がすぐさま助けに入った。数々の工程を経て、二人は装飾品を完成させる。
「できました……!」
 セレネの胸元で、花びらを宿す黄昏石が夕焼けのように輝く。
 ノヴァも出来上がった角飾りをノクスに装着してやった。
「ノクス、どうかな?」
「きゅ~!」
 深紅と金炎の黄昏が角を彩る。ノクスもご機嫌だ。
「ふふ、とても似合ってます」
 セレネは彼らのやりとりを微笑ましく思いながら、窓から差し込む夕日に気付いた。
 ノヴァも彼女の視線を追い、燃えるような茜を瞳に映す。
「時間が経つのはあっという間だな」
「そうですね。外に出て、見てみましょうか」
 セレネとノヴァは工房の外に出て、真っ赤な夕空を見上げた。
「夕日の街と呼ばれるのも頷ける。噂に違わぬ美しさだな」
「はい。噂の通り夕日がとても綺麗で……ノヴァさんの、瞳のお色のようです、ね」
 セレネの言葉にノヴァが意外そうに瞬きひとつ。
「俺の瞳の色? いや、きっとこの景色には負けてしまうよ」
 セレネは夕日とノヴァの瞳を改めて見比べた。やっぱり、よく似ている。
「そんなことありませんよ。ね、ノクスさん」
「きゅう!」
 セレネがノクスに笑いかければ、ノクスは元気よく鳴いて応えた。どうやらノクスもセレネと同じ気持ちのようだ。

恵宮・アキ

●幸運の石
 石造りの白い建物が渓谷に連なるその先に、火山ダンジョンが悠然と聳え立つ。
(火山弾が街に降ってくるだけでも、相当な被害なのでは……)
 |恵宮・アキ《えみや・あき》(恋愛知らぬ心優しき乙女・h13025)は、今はまだ静かな火山を見上げた。
 事前に避難はできないと聞いている。それなら気持ちを切り替えて、トゥラモンテの街を楽しんでしまおう。
「せっかくの機会だし、黄昏石をお土産に、街を観光することにしようかな」
 採掘道具や飲み物も購入して、さっそく鉱山内部に向かった。目標は孔雀石のような緑色の黄昏石だ。緑は色相環で見れば寒色寄りだが、青系の石よりは暖色に近い。色味によっては採掘できるかもしれない。
 太陽光の届かない坑内はライトアップされ、支柱で支えられた狭い通路が奥まで続いていた。
「すぐには出てこないだろうから地道に掘ってこう」
 岩肌の色や採掘された形跡を確認しつつ、良さそうなポイントを探す。
 目星をつけた場所をツルハシで砕き、しばらく掘って出てこない時は場所を変えた。
「ふぅ、蒸し暑い……水分補給っと」
 街で買った『トゥラモンテの水』で水分補給は欠かさず作業を続ける。しばらく掘り進めるうち、鮮やかな緑の黄昏石を発見した。
「間違って砕かないように、慎重に……」
 周辺の岩を削り取り黄昏石を掘り出す。手のひらに収まるくらいの大きさで、鱗雲のような模様が印象的だ。
「今日はラッキーな日かもね」
 目当ての石を手に入れたアキは街に戻り、彫金師たちが集まる有名な工房に向かった。
「ブローチに加工してほしいんだけど、お願いできるかな」
「お任せくださいな! これは良い石ですねぇ!」
 彫金師は石の表面を丸く磨き、模様が綺麗に見えるよう加工する。孔雀羽根を模した金細工の中央に黄昏石を嵌めてブローチの完成だ。
「ふふ、いい感じ」
 出来上がったブローチを身に付けて、アキは時間まで街を観光することにした。

徒々式・橙
リリアーニャ・リアディオ

●ふたりのいろ
 トゥラモンテは宝石を求める人々で賑わっていた。
 真昼の太陽の下を、リリアーニャ・リアディオ(深淵の爪先・h00102)は軽やかに歩く。
「宝石採掘ってロマンチックじゃない? 二つとして同じものはなくてまるで運命みたい」
 浮立つ彼女に、|徒々式・橙《あだあだしき・だいだい》(|花緑青《イミテーショングリーン》・h06500)が流れるように続けた。
「宝石に興味はありますよ勿論。|技術者《時計職人》として彫金細工もしますし、やっぱり質がよいものは高価で……」
 空気の変化を感じる。むぅとむくれるリリアーニャに、橙が小首を傾げた。
「……あ、もしかしてロマンチックな場面でした?」
「……お金になるとかそういう話じゃなくて」
 不服そうなリリアーニャに、橙はへらりと笑みを返す。
「やだなぁ冗談ですって。ほらほら行きましょ」
 リリアーニャの手を引き、川に続く道をのんびり進む橙。そんな彼を、リリアーニャはじとりと見つめる。
「もう……適当なコト言って。絶対楽しんでるでしょ」
 溜息混じりに言いながらも、繋がれた手をぎゅっと握り返した。
 二人は川に到着する。高まる期待感に、リリアーニャの兎耳がぱたりと跳ねる。
「この川に宝石がたくさん眠ってるのね!」
「良き出会いがあるといいですね」
 ぱしゃぱしゃと川に入る彼女を橙が追った。
 いざ黄昏石探しを始めるとあれやこれやと拘って、様々な場所を探し回る。
 川底の砂を篩でさらったり、岩の間を探してみたり……。
「見つけたわ!」
 リリアーニャは岩陰で採れた石を手に転がす。燃えるような色ではなく、温かみのあるやさしい色だ。
 橙も彼女の手元にある石を見やった。
「そちらが運命の石でしょうか」
「橙がくれたランタンの灯りに似ているの。だから、わたしの中でこれは“|橙《あなた》の色”なのよ」
 リリアーニャは橙の手を取り、石をころんと乗せた。
「あげる! 橙のために探したから」
 橙色の石にはぬくもりが宿る。
(祈りの概念である"私"が得た、"橙"という個性。それを、こんな風に探し出してくれて……)
 橙は柔らかな笑みを滲ませた。
「ありがとうございます。大切にします」
「ふふ、喜んでもらえてよかったの」
「私の色を頂いたのですから、私もリリの|碧色《いろ》を頑張って探します」
 寒色の石は珍しいらしいがそれでも挑戦したい。橙の言葉に、リリアーニャは力強く頷いてみせた。
「レアな石に挑戦するのね! 教えてあげるから、橙も引き続き探してみて」
 彼女の手元を見様見真似で橙は理想の石を探す。祈りの概念が"祈る"なんて奇妙だけれど、この時間がとても楽しい。
(これでもない、こっちも違う……)
 砂を深く篩でさらい土砂を洗い流した。目を惹く碧が、砂粒の間にちらつく。
「……あっ」
「見つかった?」
 思わず声を上げる橙に、リリアーニャがひょこっと覗き込んだ。
 橙は石を拾い上げる。手のひらの上で小さな碧色が艶めいた。
「リリの|碧色《いろ》です。どうぞ受け取ってください」
 彼女の瞳と同じ碧。リリアーニャは瞳を輝かせながら石を受け取る。
「ありがとう! 珍しい色なのに見つけるなんてすごいわ!」
「リリが居てくれたから見つけられたのですよ」
「そう言われると、なんだか照れるわね……」
 緩み過ぎた頬を誤魔化すように空を見上げれば、茜に染まり始めていた。
 橙も共に見上げ、燃える茜に双眸を細める。
「もう夕方なのですね。時間が過ぎるのが早く感じます」
「一緒に夕陽を見に行きましょう? ここに来る途中、眺めが良い場所を見つけたの!」
 リリアーニャの誘いに橙も応じ、二人は見晴らしのよい崖に向かった。
 真っ赤に輝く夕陽に、橙は貰った石を透かしてみる。それは火を灯したランタンのように煌めいた。
「世界ってやっぱりキレイですね」
 表情を綻ばせる橙に、リリアーニャも微笑みを浮かべる。
「宝石も夕陽もとっても綺麗。もらった石、大事にするわね」
 贈り物を優しく手のひらに包み込んだ。内から伝わるぬくもりを、確かに感じながら――。

アリス・アイオライト

●宝石の楽園
 街を行き交う鉱夫たちに、立ち並ぶ彫金師の工房。土産屋に並ぶ宝石工芸品の数々……。
 トゥラモンテの景色に、アリス・アイオライト(菫青石の魔法宝石使い・h02511)の期待は膨らむ。まさに鉱山の街だ。
「黄昏石! 素敵ですね! 炎属性の魔力に親和性が高いようですし、魔法宝石の研究の参考になるでしょうか……!」
 気温が高い中でも動きやすいよう、薄着の装備に冷感の魔法宝石も仕込んだ。
「採掘に夢中になって気付いたら熱中症、という事態は避けたいですからね」
 いくら生活力が低くても、それくらいはひとりでちゃんとできる。宝石に関わることはキッチリしているアリスなのだ。
 自前で道具も準備して、渓谷を流れる川に向かった。穏やかな浅瀬から岩間の深い場所まで、渓流には多くの流れが交わる。
「ふふ、鉱石の採れやすいポイントについては、熟知しておりますとも!」
 流れが緩やかな砂利溜まり、川のカーブの内側、巨岩の陰。川付近を念入りに観察し、石がありそうな場所に目星をつけた。
「この場所があやしいですね。黄昏石が砂の底で眠っている予感がします!」
 巨岩の脇をツルハシで削り出す。岩肌を走る亀裂に沿って進めれば、黄昏石が顔を覗かせた。
「わあ、真っ赤な石です!」
 岩の中から丁寧に宝石を削り取る。太陽の光に当てると、炎のような模様を煌めかせた。
「本当に燃えているみたいですね。あと事前情報どおり、ほんのり温かいです」
 じっくり観察したあと、手に入れた石を保管箱に収める。
「魔法宝石に加工できればいいんですけど、使い捨てにするには数が必要なので厳しいでしょうか……」
 チラリと空を見上げた。空はまだ青く、夕方になるまでは時間がある。
「その辺りも含めて検討できるよう、時間の許す限り採掘し続けましょう。まだ見ぬ黄昏石が、私を待っています!」
 宝石が眠っていそうな場所はまだまだ沢山ある。アリスは意気揚々と採掘に励むのであった。

史記守・陽

●黄昏に祈る幸せ
 |史記守・陽《しきもり はる》(黎明・h04400)は、偵察も兼ねて鉱山内部に向かった。しばらく掘り続けて見つけた石は、黄昏空のようなオレンジ色に、淡く優しい青色が混じったバイカラー。
「この石……」
 彼女に似ている。大切な人の姿が思い浮かび、つい手に取ってしまう。炎属性の魔力の影響なのか別の理由か。判然としないが手によく馴染んだ。
 足は自然と鉱山から工房が立ち並ぶ通りに向かう。
「……これ、いつもお世話になっている先輩にお土産にしたいな。でも宝石の贈り物って重くないかな……?」
 工房の前で悩んでいると、突然下から声がした。
「悩むくらいなら贈っちゃいなよぉ」
「うわっ!? いつの間に……」
 エルフの彫金師だ。小さい女の子の姿だが、纏う雰囲気は老齢のそれである。
「あんた顔がいいしお値段も負けとくよ? ほらほら」
 背をグイグイと押され工房に連行された。
(なんだろうこの人、すごく押しが強い……)
 ともあれすっかり流されて、装飾品を頼むことになった。
「重たくなくて、でも彼女に似合うデザインで、感謝を伝えられるようなものがいいんです」
「どんな人なのぉ? 詳しく教えて」
「とても頼りがいがあって、かっこいい女性なんです」
「それだけ? 写真とか1枚くらいスマホに保存してるだろ? 見せな」
(うぅ、すごい詰めてくる……)
 写真を見せる。二人で映る写真は以前彼女が撮ったもので、陽のスマホに送られてきたものだ。
「へぇ、可愛い子じゃない」
「そ、そうですね」
「よし、大きい石だしペアで作ろう」
「えっ、ペアで? えっと、お願いします……」
 少し恥ずかしいが、不思議と良い案に思えた。彫金師は魔法と工具を駆使しながら装飾品を作る。
「夕焼けに舞う燕のブローチだ。二匹の動きが対になってる。行先に『幸福』があるようにってねぇ」
 金細工の燕に黄昏石を嵌め込んだブローチを陽は受け取った。ほんのりと、温かな春の香りがする。

チェスター・ストックウェル

●炎の石と幽霊たち
 炎と夕日の街『トゥラモンテ』は、生者だけでなく死者も惹き寄せる。
 |チェスター・ストックウェル《Chester Stockwell》(幽明・h07379)は追惜を装備して実体化した。ナイチンゲールの嘘も飲み込めば、退魔道具の痛みに悩まされる心配もない。
「痛みに耐えながら観光とか嫌だからね。これで準備完了!」
 |お騒がせ幽霊《フーリガン》たちを引き連れて街を歩く。目的地はこの先にある鉱山だ。
『この街、眩しいな!』
『炎メラメラ!』
 チェスターの周囲を漂いながら、わぁぎゃあと騒ぎ立てるフーリガン。とっても騒がしいが、街の人々は気にしていないようだ。
「炎と夕日の街で採れる黄昏石かあ。|幽霊屋敷《うち》の暖炉に飾れば、綺麗な上に侵入者を驚かせるギミックになってくれるかも」
 工房が並ぶ通りに興味を持ったのか、フーリガンの一匹が勝手に離れようとする。気付いたチェスターがすぐに掴んで引き留めた。
「おいおい、街を散策するのは石を手に入れてから! 君たちにも当然働いてもらうからね」
『ちぇ~、わかったよ』
 わいわいと話しながら進めば鉱山に到着だ。ライトアップされた坑内の片隅で、フーリガンたちに作戦を伝える。
「よーし、目標について話すよ! できるだけ大きくて、炎っぽい形の石がベスト! 暖炉に置いた時に本物の火がついているように見えると、不気味さが増すと思うんだよね」
『フムフム』
『大きい炎の石ね!』
「ってことで、作戦開始! 報連相は忘れずにね!」
 チェスターとフーリガンたちは採掘を開始した。念動力と工具を動かし、カンカンコンコンと岩を削る。
『おいチェスター! イイ感じの見つけたぜ!』
 しばらく掘ったところで報告が上がった。それっぽい石が見つかったらしい。
「マジ!? ちょっと待った! ここは全員で慎重に削り出していこう」
 別の岩を掘っていたフーリガンも集め、幽霊総出で削り出す。間違って宝石を砕かぬよう、丁寧に慎重に……。
 ごろんと出てきたのは濃橙色の大きな黄昏石だ。黄色や赤色の遊色が、炎のような揺らぎを魅せる。
 美しい黄昏石との出会いに、チェスターは瞳を輝かせた。
「……すごい、石の中に炎を閉じ込めたみたいだ。これなら我が家の安寧は約束されたも同然! 協力してくれてありがとね」
『目的のブツは見つけたんだ。あとのコトはわかってるよな?』
 チェスターを見つめるフーリガンの視線には期待が込められている。
「ん? 街の散策のこと?」
『それだよ。面白そうなモン見つけたんだ! なぁ、いいだろ~?』
 鉱山から出れば、夕焼けの色に染まる街並みが目の前に広がった。燃える茜が白い建物を鮮やかに照らす。眩い絶景に双眸を細め、チェスターは穏やかに微笑んだ。
「それじゃあ、ここからは各々ハーフタイムとしようか」
 フーリガンたちは喜々と街に散っていく。
 お騒がせな彼らを街に放って大丈夫かについては答えが出ている。日頃から魔法やインビジブルの存在を認識している√の人々が相手ならば、混乱は起きないだろう。

第2章 冒険 『*頭上に注意*』



 日没が近付き、鮮やかに燃えていた夕日は空に溶け始める。
 トゥラモンテの街に地鳴りの音が響いた。音の発生源は火山ダンジョンだ。
 ――ゴゴゴゴゴ……。
「なんだ?」
「地面が揺れてる?」
 街の人々が何事かと騒ぎ始めた頃、その現象は発生した。
 ドッカアアアアアンッ!!!!!
 ダンジョンから突き出た火山が噴火を起こす。火山弾が容赦なく噴き出し、街に向かって飛んできた。火砕流や溶岩、火山灰はダンジョン外に出てこないと言っても、火山弾だけで大きな被害となるに違いない。
「ついに始まったわね……! 混乱に乗じて『夕夜の星空』を奪い取るわ!」
 簒奪者『ラディス』も動き、夕夜の星空が保管されている市立記念館に接近する。
 まずは火山弾から街を守り、ラディスの計画を出だしの段階で潰してほしい。
エアリィ・ウィンディア

●狙い撃つ
 街を包む炎の魔力が、噴火の影響でより一層高まる気配を感じた。
 火山から噴き出す無数の火山弾に、エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)は大きな瞳をさらに丸くする。
「わわっ!? 火山からの火山弾がこんなにっ!?」
 とんでもない災害だ。こんなに大きな岩が何個も街に当たったら、大変な被害をもたらすだろう。
 エアリィは驚きながらも一歩も退かず、脅威に立ち向かう。
「すごい数だけど……迎え撃つだけ、だね」
 西風の息吹を纏い、上空に飛び上がった。街を見下ろせる位置まで移動し、火山弾の射線上に位置を取る。
(詠唱は省略して――即座に叩くよ!)
 宝石の羽根飾り-シトリンが漲る魔力に輝いた。迫り来る火山弾をまっすぐに見据え、|殲滅精霊拡散砲《ジェノサイド・エレメンタル・ブラスト》を発動。魔導補助式スマートフォンが詠唱を助け、高速かつ多重に魔術を展開する。
「街の破壊なんてさせないよ!」
 全力の砲撃が撃ち放たれた。火・水・風・土・光・闇――6属性の魔力弾が空を翔け、火山弾が集中している場所を中心に降り注ぐ。
「フルパワーっ! 一気に行かせてもらうよっ!!」
  六大精霊の力が荒ぶる火山弾を撃ち砕く。砕かれた岩が勢いを削がれながら宙に散らばった。
「まだまだっ、通さないっ!」
 砕かれた岩の中でもまだ大きな塊に狙いを付け、精霊銃『エレメンタル・シューター』で撃ち抜く。落ちるとしても、さらに細かく砕いて無害化してから落ちてもらわなければ。
 処理した先から新たな火山弾が飛んでくる。エアリィは精霊銃を乱れ撃ち、火山弾から必死に街を守る。
「あたしの射撃術と精霊達の力で、打ち砕いてみせるよ!」
 家族から教わった戦うための力は、困っている誰かを助けるための力だ。
 美しい黄昏石と夕日を魅せるトゥラモンテ、そして街に住む人々を守るため、エアリィは力を揮い続ける。

降葩・璃緒
ベル・スローネ

●二人の防衛ライン
 大地が揺れる。巨大な獣のように唸りを上げながら、火山は荒れ狂うかの如く噴火する。大迫力の光景に、ベル・スローネ(虹の彼方へ・h06236)はゴクリと息を呑んだ。
「火山の噴火、なんて冒険譚にはつきものの出来事だけど……こうして実際に目の当たりにすると、とんでもないパワーを感じるね……!」
「ね! 覚悟は出来てたけど実際に見ると圧倒されちゃいそう」
 |降葩・璃緒《ふるひら・りお》(花ひらり・h07233)も噴火を起こす火山を見上げた。これが自然な現象であれば「スゴイ!」という感想で終われるが、簒奪者が裏にいるとなれば話が変わってくる。璃緒はきゅっと表情を引き締めた。
「噴火を私欲の為に無理やり起こすなんて絶対に許しちゃダメなんだよ! これからも沢山の思い出が生まれる場所だもん。しっかり守らないとね!」
「うん。素敵な思い出をくれた街だもん、絶対に守ってみせる!」
 ベルはバスターランスの鍔に仕込まれた精霊機関銃を展開する。街が滅茶苦茶になってしまったら、素敵な思い出が生まれなくなってしまうから。
「よしっ、向こうに行こっか!」
 璃緒が指し示す方向に、ベルは力強く頷いてみせた。
「誰もいないとこだね、わかった!」
 彼らは他の√能力者が居ない手薄な場所に向かった。人手が足りない場所は二人でカバーする。
 虹の紡ぎ手を掴みながら、璃緒は|幻晶花の種《Semences de Cristafleur》を手に取った。
「到着っと。さあっ、いつでも飛んでくるといいよ!」
 虹の紡ぎ手から種に水をやれば、宝石のように燦めきながら魔法が発動する。
「雨の中でも美しく咲いて、紫陽花っ!」
 咲かせるのは紫陽花。咲かせた四葩と雨粒の矢が空に向かって放たれた。|雨降の花《フルール・ド・プリュイ》が飛来する火山弾を砕き、硬い岩を削り取ってゆく。
「雨は避けれないでしょ? 火山弾が落ちる前に、花の雨をいっぱい降らせるよ!」
 火山弾と煌めく四葩が日没の空で衝突し、紫色の光を花火のように散らした。
 空に咲く光の花を目印に、ベルが崖の上へと駆け登る。
「見晴らしオッケー! 狙うならここが絶好の場所!」
 射線上に障害物は無し! 開けた視界に火山弾を捉え、彼は銃に|高純度竜漿弾《ワイルドキャット・カートリッジ》を装填する。
「今日は大盤振る舞いだ! まとめて撃ち落とす!」
 降り注ぐ火山弾に狙いを合わせ、ブラスト・ショットを発動。連続で火属性の弾丸を射出する。着弾地点から爆発が周囲に広がり、火山弾を粉々に砕いてゆく。
「連射連射! 超高性能なこの弾に砕けない岩なんてないよ!」
 高級な竜漿弾を惜しみなく使い、片っ端から撃ち落とす。大切な思い出を守るためなら安いものだ。
 火山弾は次から次へと飛んでくるが、疲れなんてなんのその。璃緒は虹の紡ぎ手を振るい、育てた種を空に咲かせ続けた。
「ひとつだって撃ち漏らさないよ! ベルさん! そっちは大丈夫?」
 火山弾を砕きながら声掛けも忘れない。
 細かく砕いた火山弾の破片を盾で受け流しつつ、ベルは元気に返した。
「こっちは大丈夫! 璃緒の背中は、俺が預かるからねっ。どーんと大船に乗ったつもりで安心してていいよ!」
 太陽のように明るく笑ってみせるベルに、璃緒は心強さを感じる。
「ふふー、流石! ベルさんに背中を守って貰えるなら安心して戦えちゃうんだよっ。こっちはボクに任せて、ベルさんも思い切りやっちゃってね!」
 互いに背中を預けて戦う――それも冒険の醍醐味だ。『安心して背中を預けられる』という確信があるからこそ、できることでもある。
「うん! 璃緒に任せておけば安心! 俺も全力で戦えるよ!」
 ベルは真っ直ぐに前を向き、飛来する火山弾を再び撃ち抜いた。
 魔力を湛える紫陽花と竜漿弾が、襲い来る火山弾を次々に無害化してゆく。

チェスター・ストックウェル

●イージーモード
 火山が噴火するタイミングに合わせ、|チェスター・ストックウェル《Chester Stockwell》(幽明・h07379)は、街に散っていた|お騒がせ幽霊《フーリガン》たちを呼び戻す。
「はい集合ー!」
 ひとっ飛びに舞い戻ったフーリガンたちはご機嫌だ。
『わ~っ、すっごい音!』
『ギャハハ! オレらより騒がしいな!』
「楽しんでるとこ悪いけど仕事だよ!」
 チェスターはパンパンと手を打ち鳴らし、フーリガンたちの注目を集める。
「俺は火山弾を何とかするから、君たちは街の人たちの避難誘導をお願い。大丈夫。声は届かなくても、君たちならボディランゲージでどうとでもできるでしょ?」
 散策中に入手した街の地図を広げて作戦会議だ。地図を指さしながら、避難経路を確かめる。フーリガンたちも地図を囲んで覗き込んだ。
「現在地がここで、火山ダンジョンがこれ。で、火山弾の被害が及びそうな範囲がこのエリアだから――ここを二人一組で重点的に巡回。この経路に案内して! いいね?」
『オッケー!』
『任せろ! 街の人間にゃ世話になったからな!』
 再び街に飛んでいくフーリガンたち。彼らを見送り、チェスターも空中に浮き上がる。
「頑張ってね! それじゃ俺もお仕事開始っと」
 街の上空に移動して荒ぶる火山を視界に捉えた。爆発音を響かせながら、火山の頂上から火山弾が噴き上がる。
 回転しながら迫る火山弾に、チェスターは念動力をぶつけた。動画を一時停止した時のように、火山弾がピタリと止まる。得意げに人差し指をくるりと振って、火山の方向を指さした。
「はい、後ろ向いてー。そのまま火山にお帰り!」
 火山弾は念動力に弾かれ、火山に向かって飛んでゆく。
 ダンジョンに衝突して砕け散る火山弾に、チェスターはニヤリと笑みを浮かべた。
「ふふん、これくらい俺には朝飯前さ。ブロック崩しの方が難しいんじゃない?」
 おかわりのように追加される火山弾を、彼はゲーム感覚で処理していった。

セレネ・デルフィ
ノヴァ・フォルモント

●星夜の祈り
 燃えるような夕焼けの時間は終わりを告げて、訪れるのは終末を想わせる景色だ。
 轟音を響かせながら噴火する火山を、ノヴァ・フォルモント(月光・h09287)は静かに見上げた。
「まるでこの世の終わりみたいな光景だ」
 大地が怒り、震える。赤く燃える岩が噴き出し、冷え固まりながら降り注がんとする。
「あれが、噴火……」
 セレネ・デルフィ(泡沫の空・h03434)は大地のエネルギーを目の当たりにした。
 凄まじい迫力だ。事前に知っていたというのに、振動と音、赤い世界に身を竦ませてしまう。
 セレネの緊張を解すように、ノヴァが微笑みを向けた。
「まずは街や人々への被害を食い止めないと。セレネ、君も行けそうか?」
 セレネはノヴァの声に我に返る。深呼吸する――何も恐れる必要なんてないと自分に言い聞かせた。
「……そう、ですね。まずは皆さんを守らないと。大丈夫です、やれます」
 緊張を滲ませながらも微笑みを浮かべてみせる。
 ノヴァも穏やかな笑みを絶やさず、三日月の竪琴を凛と構えた。
「共に守ろう、炎と夕日の街を」
 朧月夜が爪弾く音色は柔らかく、星紡ぎの詩を歌う。
「まだ夜が更けるには早いけれど――星が語る、古い物語を」
 |星詩《ホシノウタ》を語れば、ノヴァを中心に星夜の叙景が広がった。
 宝石を散らせたような星空が赤い空を優しく撫でる。一帯の上空を覆い、飛来する火山弾を受け留めた。自分一人で守れる範囲は微々たるものだ。それでも、少しでも時間稼ぎが出来たら。
 美しい詩と星夜にセレネは強く心惹かれる。まるで、潮の満ち引きを助ける月の引力のように。
「綺麗な詩……まるで、心が洗われるような……」
 セレネは表情を引き締める。いつまでも聞き惚れているわけにはいかない。
 彼女は精神を研ぎ澄ます。紡ぎ上げるのは|月夜ノ祈言《イノリノコトバ》。脅威が及ばぬようにと祈りを捧げる。
「どうかこの街と皆さんを守る為の――守護を此処に」
 どうかこの願いが、祈りが、届きますように。
 |月の使者《光の鳥》が顕現し、突然の噴火に混乱する人々の頭上を飛び回った。柔らかな月の光が、不安に揺れる街の人々の心を落ち着かせる。
「どうか皆さん、安全な場所に避難を」
 セレネの言葉に、落ち着きを取り戻した人々は迅速に避難を始めた。
 火山弾を留めるための演奏を続けながら、ノヴァも人々の様子を見やる。
(……セレネの光の鳥も見守ってくれている。心強いな)
「きゅう!」
 肩にいたノクスが翼を羽搏かせ、やる気に満ちた声で鳴いた。その意味をすぐに理解し、ノヴァはくすりと笑みをこぼす。
「ノクスも手伝ってくれるか? ふふ、頼んだよ」
 ノクスはセレネの傍に舞い降りる。
「ノクスさんもお手伝いを?」
「きゅ!」
 セレネに任せてと尻尾を振り、人々を安全な場所へ導くように飛び始めた。
 頑張るノクスに、セレネは心が安らぐ。
「とても心強い、です」
 最初こそ身を竦めてしまったけれど、火山弾の脅威なんてどうにかなる気がしてきた。
「順調だね。セレネのおかげだ」
 竪琴を奏でながらノヴァが紡いだ。セレネは首を緩く横に振る。
「ノヴァさんの演奏が、私に勇気を与えてくれたのですよ」
 不安は優しい夜に溶けた。返すセレネに、ノヴァはそういえばと続ける。
「君に演奏を聴いてもらうのは初めてだったな」
 セレネは頷いた。慌ただしい状況下にあっても、ノヴァの演奏は心に美しく響く。
「今度は……素敵な夜の日に、ノヴァさんの演奏と歌をゆっくりと、お聞きしたいものです」
「……そうだね、次は静かな夜の日に。きっとその時は今よりも素敵な音を奏でられる筈だから」
 静寂の月夜に奏でる演奏は、今よりも心に沁み込むことだろう。
 セレネは荒ぶる火山を見上げた。噴火はまだ収まる気配を見せない。
「その為にも今は……もう少し、頑張らなくてはいけません、ね」
「大丈夫だ。この声が枯れないかぎり、星の海は果てしなく続く」
 星の物語は終わらない。ノヴァは星詩を編み続け、火山弾から街を守り続けた。

恵宮・アキ

●ホームラン
 轟音と衝撃が大地を揺らす。大噴火を起こす火山を見上げ、|恵宮・アキ《えみや・あき》(恋愛知らぬ心優しき乙女・h13025)は率直な感想を口にした。
「あー、やっぱり大変なことになった」
 こうなることはわかっていたので驚きはしない。冷静に対処するだけだ。
「破壊、には火力が足らない。無効化、には手が足らない。なら、一つでも多く火山弾を街の外に落ちるようにしないと」
 壁の僅かな凹凸や窓枠を足場に、軽々と建物の屋根に上がる。広がる視界の先、噴火口から次々に飛び出す火山弾が見えた。
「よ、っと。ここなら障害物もないし、街の外に打ち返せるかな」
 観光しておいたこともあって、街の境界も把握している。しっかり狙って打ち返せば、人のいない所に落とせるはずだ。
 アキは霊剣を手に構え、精神を研ぎ澄ます。
「いざ、舞い踊る」
 言葉と同時、|焔舞神楽《ホムラマイカグラ》を発動。砦炎の土着神の分霊「焔の侍女」をその身に纏えば、浄化の霊気を宿す霊剣にも分霊の力が宿る。
 火山弾が回転しながら飛来した。射程に入る瞬間に霊剣を振るい、共闘霊剣術・焔舞を閃かせる。
「――当たって!」
 掛け声と共に火山弾を叩いた。火山弾が含む強烈な熱と、焔の侍女の炎が衝突する。焔の侍女の炎が火山弾の熱を相殺し、アキに熱が届く頃にはただの暖かい風に変わっていた。
 そのまま火山弾を街の外へ。衝撃を受け流しながら、火山弾を打ち返す。返された火山弾は街の境界を越え、渓谷の岩肌を転がり落ちていった。
「ホームラン。上手くいったね」
 新たな火山弾が飛んでくる。それも街の外に打ち返し、次が来たらもう一度。バッティングセンターで弾を打つ時も、こんな気分なのかもしれない。
「野球やってる時ってこんな気分なのかな。ちょっと違うか」
 一人で打ち返すには限界があるけれど、仲間がフォローしてくれるだろう。今は自分にやれるだけのことをしたい。アキは霊剣を握る手にぎゅっと力を込めた。

ウィズ・ザー

●片手間
「~♪」
 ドッカンドッカンと火山が噴火する音に混じり、ウィズ・ザー(闇蜥蜴・h01379)の鼻歌が聞こえる。沢山の黄昏石を手に入れてホクホクだ。最高の戦利品たちをゴクンと呑んで大切にしまい込む。
「後でルース加工もお願いしたい所だァな!」
 現在彼がいる場所は、彫金師の工房が並ぶ職人街だ。
 観光気分で歩いていると、窓から不安げに空を見上げるエルフの職人と目が合った。
「お、そこの職人サン、この辺りでルースに加工してくれる腕の良い技師サンいらっしゃる?」
 ウィズは手をひらりと上げて、気さくに話しかける。
「あぁ、それならそこの曲がり角を行った先の……って今はそんな場合かッ!?」
 普通に反応しかけた所で我に返った職人がツッコミを入れてくる。焦る職人に対し、ウィズは空を見ることすらしない。
「ん? あァ、空から降ってくる岩ころのことか?」
「岩ころって、そんな可愛いもんじゃ……!」
 まるで石ころのように言うではないか。上空から回転しながら落ちてくる火山弾のどこが『ころ』なのか。
 ――と職人が新たなツッコミを入れる前に、すべては終わっていた。
 迫り来る火山弾を、星脈精霊術【|山然《サンゼン》】が喰い尽くす。|不可視の刃《刻爪刃》と|虚無の焔《融牙舌》が合計1100本の弾幕と闇を広げ、火山弾を立て続けに呑み込んだのだ。ノールックでなされた捕食にも似た行為に、職人は呆然としている。
「そんな場合じゃないって? ほら、そんな事無かっただろ?」
 ウィズはニィと笑みを浮かべてみせた。職人は放心していたが、遅れて訪れた感動に沸き立つ。
「うおおっ!? アンタすげぇな! あれだけの量の岩を……!」
「まァただの岩ころだしな。それよりもさっきの話、続きを聞かせてくれよ♪」
 ウィズの関心事は、ただ飛んでくるだけの火山弾ではない。
 貴重な黄昏石を、より美しい宝石に仕立て上げてくれる技師にこそ興味がある。

徒々式・橙
リリアーニャ・リアディオ

●薔薇に火をつける
 日没の空を背景に赤々と燃えながら、火山は火山弾を噴き上げる。
「宝石ひとつ盗むのにとんでもなく派手な演出ね」
 リリアーニャ・リアディオ(深淵の爪先・h00102)は、崖上から荒れ狂う火山を見据えた。轟々と唸り声を上げる大地は、まるで巨大な猛獣のようだ。
「いやぁ確かに派手ですねぇ」
 |徒々式・橙《あだあだしき・だいだい》(|花緑青《イミテーショングリーン》・h06500)も、のんびりと火山を眺めていた。大災害にも関わらず気分は物見遊山である。
 緊張感のなさに、リリアーニャは小さく溜息をついた。
 落ち着いているのは良いことだ。……そこはかとなく漂う『イヤな予感』は気のせいだと思いたい。
「ここまで過激だと宝石ごと駄目にしそうよ」
「最高じゃないですか、浅知恵って感じで」
 橙は穏やかに笑いながら辛辣な言葉を口にする。実際、敵のやり方は脳筋が過ぎる。
 相手の作戦が単純ならば対処法もシンプルだ。
「わたしたちの完璧な連携を見せ付けてあげましょ」
 赤薔薇の嫉妬を柄の長い斧に変えるリリアーニャ。橙も銃剣『花束』に、信頼の|感情《ぞくせい》を宿す弾丸を装填する。念のための保険だ。
「それじゃうさぎさんとのナカヨシを見せつけましょうか」
 リリアーニャは|盈虚《アヴァリス》を発動し、上空に月蝕霊を放った。あいにく防壁魔法は心得ていない――ならば力技で解決するまで。影の兎を段々に配置してジャンプ台代わりにする。
 ぴょんぴょんっと高く跳び上がり、街に向かって落下する火山弾へと接近した。
「攻撃は最大の防御、なんてね」
 赤薔薇の嫉妬を全力で振るう。火山弾は粉々に砕かれ、無力な小石となって大地に落ちた。
「これでよしっと」
 豪快に粉砕される火山弾に、橙は愉快げに瞳を細める。
「凄まじい破壊力ですねぇ。さて、今のうちに人命救助といきましょう」
 "祈り"の感覚を辿り、逃げ遅れた人々を探す。『誰か助けて』――助けを求める感情は、少し辺りを歩き回ればすぐに見つかった。怯えてしゃがみ込む女性を発見し、橙は彼女の傍に歩み寄る。
「大丈夫ですよ、お嬢さん。ステキなオニーサンが助けに来ましたからねぇ」
 膝をついてにっこりと微笑んでみせた。安心させるように、優しく手を差し伸べる。
 ……最悪のタイミングで、リリアーニャは地上の様子を見遣った。
「――!」
 視界に映る橙の姿に兎耳の毛がぶわっと逆立つ。
「ほら、ここは危ないですから私の手を握っ……」
 橙の言葉は最後まで続かない。彼の真横に砕いた岩の破片がドゴォッ! と叩き落とされた。流石の橙も一瞬固まる。
「|真面目にやって《DO NOT touch HER》!」
 リリアーニャの鋭い声が橙に突き刺さった。
 ……本来の兎は、怒った時「ブゥブゥ」と鼻を鳴らしたり、後足で地面を叩くのだが、そんな可愛らしいものではない。
「……冗談ですってばヤキモチ焼きのうさぎさん」
「冗談って言えば済むと思って……!」
 ぷんすかと怒るリリアーニャ。どうやら橙は地雷を踏んでしまったようだ。そうこうしているうちに、しゃがみ込んでいた女性が自分で立ち上がる。
「あの、私は大丈夫なので! ごめんなさい、それじゃ!」
 なぜか謝りながら走り去ってしまった。……結果的には無事避難できたので、これで良かったのだろう。
 リリアーニャと橙の間に沈黙が流れる。
 ……気まずい。橙がこほんと咳払いして、上空のリリアーニャをまっすぐに見上げた。
「避難誘導は完了しましたから、私も手取り足取り援護させていただきますよ」
「援護なんていらないっ」
 すっかり不貞腐れたリリアーニャは、むしゃくしゃを火山弾にぶつけてゆく。彼女の怒りの前では、火山弾もあっという間に無力化されてしまう。
 テキパキと処理されていく岩を、橙は眺めることしかできない。
(ご機嫌を損ねてしまいましたね……はてさて、どうしたものか)
 後のご機嫌取りは、間違いなく難航することだろう。どうしたら彼女の眉間に刻まれたシワを取り除けるだろうか――。

第3章 ボス戦 『ラディス』



「はぁ? なんで岩が一つも当たってないのよ?」
 市立記念館を襲撃するラディスだが、計画が上手く行っていないことに気付く。
 火山ダンジョンから飛来する火山弾は、すべてEDEN達に防がれてしまった。
「成程、邪魔者に妨害されてたってわけ。忌々しいわね……!」
 状況は芳しくないが、彼女に逃走という選択肢はなかった。自分の命以上の価値を宝石に見出しているのか、死後蘇生できるからこその傲慢か。
「『夕夜の星空』は絶対に私のモノにするって決めたんだから。こうなったら、私自身の力で結界を破壊して奪い取る! ついでに邪魔する者たちも、綺麗な宝石に変えてあげましょう!」
 かつての悪しき竜は、ドラゴンプロトコルになった今もなお、飽くなき欲望に心を燃やす。
セレネ・デルフィ

●輝き守る者
 ラディスの欲に塗れた精神性は、セレネ・デルフィ(泡沫の空・h03434)を戦いに向かわせる。
「傲慢、強欲……周りを顧みず己の欲を満たすあなたを理解できそうにありません、ね」
「理解されなくて結構よ」
 吐き捨てるラディスに、セレネは続けた。
「宝石は美しく、確かに心を奪うものですが、このせかいで、その全てを手に入れようとするのはあまりに強欲。宝石の正しい美しさを理解出来ているかも疑わしい」
「理解できているから、ここまでして奪いに来てるんじゃない」
 堂々と言うラディスに、セレネは首を横に振ってみせた。かつての悪しき竜は、今も悪しきままであると。
「他者を疎み、排除しようとするあなたを放っておくことはできません。どうぞ――深く、お眠りください」
 |六花の抱擁《ミュートス・キオーン》が舞う。幾重もの詠唱が氷結の刃を紡ぎ、ラディスを包み込んだ。
 氷雪の嵐の中で、ラディスがセレネを見つめた。
「貴方、美しい姿をしているわね。私の宝石にしてあげる、|ブルーサファイア《天の宝石》なんてどうかしら!」
 宝石化の呪いがセレネを蝕んだ。指や髪先が青に煌めき始める中、セレネは今日己の手で得た宝石のペンダントに触れた。
「お断りします。此処に、あなたが得られるものはありません」
 人々を守ってくれている彼の分まで竜を止めねばならない。
「それは私が決めることよ!」
 ラディスの言葉をセレネは否定する。
「いいえ。街や人を軽んじるあなたに、決められることは何一つないのです」
 技術を発展させてきた人々の努力、生活。それらがあるからこそ、黄昏石はより美しく輝くのだ。
 すべてが尊く、愛おしい、大切な輝きなのだ。
「一つ一つの輝きが尊きもの。それをわからないのであれば……あなたに、夕夜の星空に触れる資格は無いのでしょう」
 傷つけようとするならば其れ相応の報いを。鋭き氷雪が宝石化の呪いごとラディスを吹き飛ばす。
 サファイアの煌めきが、空に儚く散っていった。

エアリィ・ウィンディア

●悪竜との戦い
 火山弾が止まり、エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)は街の状態を確かめる。
「全部破壊できたね。建物も街の人たちも無事!」
 けど、まだ終わってない――エアリィはラディスの元に急行した。宝石を守るため、ラディスの前に立ち塞がる。
「あなた、こんな危ないことしちゃだめじゃないっ!」
「これも夕夜の星空を確実に手に入れるためよ」
「宝石を奪う為だけにしたら、大規模すぎない? 下手したら宝石も壊れちゃうかもしれないし」
 以前は悪竜だったから破壊的なやり方も含めて受け継いでいるのか。どうあれやるべきことは一つだけと、エアリィは精霊銃と精霊剣を構える。
「ま、なんにせよ……迷惑をかける人にはお帰り頂きますっ!」
「帰らないわ! 宝石にして全部奪う!」
 宝石化する呪いに満ち溢れた結界を展開するラディス。
「欲張りさんの思い通りにはさせないよっ!」
 剣を手に飛び回るラディスに対し、エアリィはエレメンタル・シューターから牽制射撃を放つ。敵の攻撃を簡単には届かせない。高速詠唱は準備完了。あとはチャンスを待つのみだ。
(切り込むのはまだ……相手が焦れる瞬間を待つの)
 ラディスの表情から苛立ちが伝わってくる。彼女は強引に距離を詰めてきた。
「――今っ!」
 Ceruleminiaが煌めき、オーラがエアリィを包んだ。六大精霊の力を集結した魔力防壁も重ねて展開し、ラディスの攻撃を防ぐ。
「チッ、鬱陶しいわね!」
「当たるとわかっていたら対策の立てようもあるからっ!」
 エアリィは|六芒星増幅術精霊斬《ヘキサドライブ・ブースト・スラッシュ》を即時発動。エレメンティア・ブレイドに複合魔力を束ねた。
「さぁ、反撃の精霊斬だよっ!」
 六芒星精霊収束斬を繰り出す。斬撃はラディスの魔力装甲を深く貫いた。
「痛っ! やってくれたわねぇ!」
「あなたが宝石を諦めるまで、何度だってっ!」
 エアリィはラディスが諦めるその時まで、根気強く剣を交え続ける。

リリアーニャ・リアディオ
徒々式・橙

●薔薇の花束
 噴火が落ち着いたところで、リリアーニャ・リアディオ(深淵の爪先・h00102)は斧を下ろす。
「……右手を痛めてしまったわ」
 感情に任せて振り過ぎた。ズキズキと痛む腕にむぅと眉を寄せる。
「頑張りましたねぇ」
 労いの言葉を口にする|徒々式・橙《あだあだしき・だいだい》(|花緑青《イミテーショングリーン》・h06500)に、リリアーニャはさらにぎゅっと顔を顰めた。
「橙のせいなのよ」
「いやぁすっかりうさぎさんのご機嫌を損ねてしまいまして。ここは名誉挽回ということで、張り切って参りましょ」
 橙はリリアーニャの頭をぽんぽんと優しく撫でた。彼女はまだまだご機嫌斜めなうさぎさんだ。
「前は任せるわ。……もうっ、本当に|適当《余計》な事ばかり言うんだから」
 頭を撫でられながらも後衛を務めるべく下がった。自身の影から|魔導書《黒薔薇の黙示録》を喚び出し手に構える。
 橙も柔く笑んだ後、銃剣『花束』を肩にかけ、のんびりと前に出た。
「仰せのままに。……さてこんにちは、悪者のお嬢さん」
「あら、イケメンが出てきたわね。ナンパのつもり?」
 ラディスの言葉を橙は笑い飛ばす。
「あっはは、ナンパじゃありませんよぉ。……皆さんの、何より私とリリの楽しい時間を邪魔したんですから」
 |52Hzの夢物語《ナルヘルツスピーカー》が囁く。どこにも至らなかった願いの象徴が織り成す、ラディスだけに聞こえる声だ。
「聞こえるでしょう、貴方を苛む願いの声が」
「魔法的なものかしら? 鬱陶しいわね」
 しっかりと届いた声と共に、橙は穏やかに問う。
「|祈り《懺悔》の準備は万全ですか?」
「そんなもの、私の辞書にないわ」
「それはなんともおめでたい頭で」
 52Hzの夢物語が奏でる願いの声は呪詛にも似ていた。楽しい時間を邪魔された者たちの恨みが、ラディスの精神と肉体にダメージを与える。
「綺麗な夕陽をゆっくり眺めていたかったのにぃ。私欲に街全体を巻き込んだ罰は受けてもらうの」
 ……今のは『夢物語の声』ではない。リリアーニャが直接口にした言葉だ。
(それに橙のことをイケメンって言ってたわ。……気に喰わない)
 とにかく面白くない。リリアーニャは|黒薔薇の呪い《スペル・オブ・ローゼズ》を発動。漆黒の巨大な人食い薔薇が空間を突き破り、炎と夕日の街に花開く。
 ラディスは剣で橙を切り裂こうとしていた。
「彼に触らないで!」
 リリアーニャの意思に従い人食い薔薇がラディスを襲う。腕に食い付かれるラディスだが、強引に薔薇の束縛を振り払った。
「なんだ、彼女さんと一緒に来てたの? 残念」
 宝石化の呪いを光にして放つ。リリアーニャは咄嗟に右手で光を受け止めた。
 光に焼かれた傷が、硬質な音と共に宝石化する。ブルージルコンのように華やかな煌めきを放つそれに、リリアーニャは思わず見惚れかけた。
「綺麗───、じゃなくて! 何するのよっ」
 人食い薔薇の蔓でラディスを捕縛する。動きを封じると同時、|黒薔薇《ミニチュアローズ》たちを嗾けた。
 橙はちらりとリリアーニャを見やった。彼からも、彼女の傷が宝石化している様子をはっきりと確認できる。
「あーあ折角のキレイな肌が台無しじゃありませんか。帰ったらきちんと手当して差し上げますけど」
「ぅー、後で手当してもらうぅ……こんなところで|物《コレクション》の仲間入りは御免なの」
 リリアーニャはぺたんと兎耳を下げた。彼らのやりとりに、ラディスがくすくすと笑う。
「私のコレクションになったら優しく扱ってあげるわよ?」
 黒薔薇の棘に傷付きながらも揶揄うラディス。そんな彼女に対し、橙は口元だけで笑みを作った。
「言葉を発する時は、己の言動を顧みてからにすると良いですよ」
 率直に言えば、癪に障った。大切な『在処』を、どこの竜の骨ともわからぬ悪竜に私物化されるなどもっての外だ。
 願いの声に自分の感情を更にのせ、ラディスへと激しくぶつける。
「『優しく扱ってあげる?』 全っ然、説得力がないわね!」
 リリアーニャもラディスの誘いをキッパリお断り。薔薇の群れで容赦なく攻め立て、自分自身と橙からラディスを引き離した。

チェスター・ストックウェル

●隣り合う世界
 生者も死者も、等しく綺麗な宝石に変える――ラディスの呪いは文字通り脅威だ。
「17年かけてやっと幽霊のこの体を使いこなせるようになってきたのに、宝石なんかに変えられたら、物を浮かせたり、空中散歩したりするのに何年かかるかわからないよ」
 そもそもそんなことを考える脳味噌すら無くなってしまうのかもしれない。
 |チェスター・ストックウェル《Chester Stockwell》(幽明・h07379)は、宝石化した未来を考えるだけでゾッとした。
「……絶対ヤダ!」
 宝石は眺めて愛でるものであって、自分がなるものなんかじゃない。
「貴方はどんな宝石にするのが良いかしらね? |幽霊水晶《ファントムクォーツ》とか?」
「名前はカッコイイけどお断り!」
 ラディスの攻撃が迫る中、チェスターはコウモリの群れを呼び出した。コウモリ達はキィキィと鳴きながらラディスを取り囲む。
「邪魔くさいわね……!」
 群れの隙間から召喚者に狙いを付ける瞬間を、チェスターは見逃さない。
「ストップ!」
 振り下ろされる剣が、チェスターの前でピタリと停止した。念動力がラディスの動きを封じたのだ。
「チッ……貴方、幽霊よね。もう死んでるなら宝石になるくらい良いじゃない!」
「幽霊にだって血の通った友達はいるのさ。こいつらも、トゥラモンテの人たちも」
 滅茶苦茶なことを言うラディスに、チェスターは断言する。チェスターに同意するように、彼の使役する死霊たちがザワザワと騒ぎ立てた。
 内ポケットからP232SLを抜く。くるくるりと手の中で遊ばせながら、弾倉に霊気を込めた。幽霊だからって、生者の世界に無関心というわけではない。
(……いや、むしろ逆かも)
 成仏とは程遠い所にいるからこそ、血の通った世界に強く惹かれるのかもしれない。
「――だから、俺は善良な隣人として彼らを守るよ」
 狙い澄ました銃口から弾丸を放つ。弾は真っ直ぐに飛び、ラディスの胸元へと深く撃ち込まれた。

ベル・スローネ
降葩・璃緒

●猛攻
 かつての悪竜。今もなお欲望に支配された簒奪者。
 姿を現したラディスを、ベル・スローネ(虹の彼方へ・h06236)は鋭く睨み付ける。
「あれがこの騒動の犯人……!」
 |降葩・璃緒《ふるひら・りお》(花ひらり・h07233)も冷たい眼差しをラディスに向けた。
「諦めが悪いんだねぇ。まあそう簡単に諦めるならこんな事してないよね」
「ふふん、当然でしょ?」
 偉そうに言うラディスに、璃緒は呆れ気味に返す。
「奪う事しか考えないキミに、あの輝きは相応しくないんだよ」
 ベルも璃緒と同じ気持ちだ。
「宝石の輝きに目を奪われて、それと同じくらい……ううん、それ以上に輝くこの街を壊そうとした人に……そんな人に宝石の輝きの価値だって分かるものか!」
 バスターランスを構える。璃緒も|鋏《ivy》を手に取って臨戦態勢だ。
「それじゃあもうひと頑張りといこっか、ベルさん。街の人達の宝物、必ず守ってみせようね!」
「うん、行こう璃緒!」
 二人が動き出すと同時、ラディスも√能力を展開する。
「みんな宝石に変えてあげるんだから!」
 宝石化する呪いに満ち溢れた結界が周囲を包み込んだ。
「これが宝石化の呪い……!」
 ベルは呪いの気配を装備越しに感じた。|竜漿甲冑《ブラッドアーマー》に付与された破邪の力、ミスリルシールドの魔力耐性が呪いに抗っている。
「これで貴方たちも|綺麗な宝石《私のコレクション》に!」
 声高に告げるラディスに、ベルは心を落ち着かせた。
(装備で耐えているうちに決着をつける!)
 竜漿弾を高純度の物も含めて全て装填。バスターランスが魔力に満たされる。
「……今度こそ素寒貧だけど、街を守るためなら安いもの!」
 精霊達から受けた風の加護、そして限界まで高めた魔力。全ての力を集結させてラディスを攻め立てた。
 ベルのヴァイブロ・ランスに合わせ、璃緒も|輝葬花《フラワーギフト》を展開する。
「宝石にされるのは困っちゃうな。……なんて、ボクがやろうとしてるのも似た様なものかも」
 金の鋏を双剣に転じ、璃緒はラディスへと肉薄した。
「そんなにキラキラしたものが好き? ならキミにも咲かせてあげるね」
 金色の斬撃と共に、ラディスの斬り裂かれた腕から花が芽吹く。命を糧に育つ宝石花だ。
「キミはどんな花が咲くのかな? 悪人だとしても、命の輝きは美しいものだから」
 璃緒が話す間にも宝石花はすくすくと育つ。
「綺麗だけど鑑賞してる場合じゃないわね……!」
 髪色と似た宝石花が咲き始める中、ラディスは術者の璃緒に急接近。
 璃緒は双剣を構えて守りの構えを取る。ある程度の痛みを覚悟して――しかし、それが訪れることはなかった。ベルが間に割り入り、代わりに攻撃を受けたのだ。
「全部俺が受け止める! そのための盾だからね!」
 ミスリルシールドがラディスの剣を防ぐ。物理的な衝撃だけでなく、剣が纏う宝石化の呪いまで食い止めた。思うように攻撃が決まらず、舌打ちするラディス。
「それならボクは攻撃に集中っ!」
 璃緒は守られるだけでは終わらない。再び双剣でラディスを斬り付け、その身に宝石花を広げる。
「くっ、腕が……!」
 咲き誇る宝石花に体を蝕まれ、ラディスは思うように動けない。
「これで少しは反省できるんじゃない? キミも似たような事をしようとしていたんだから」
 他人から与えられる痛みを思い知ってほしいと願う。悪竜の頭では、理解できないかもしれないが。
 ラディスの攻撃が緩んだ。動きを鈍らせる彼女に、ベルが追い討ちをかける。
「休む暇なんて与えない! たくさん痛い目を見て反省してもらうよ!」
 超振動モードのバスターランスがラディスの体に穴を開ける。どんな障害だろうと貫き通る一撃だ。
「ぐうぅっ……!」
 絶え間なく浴びせられる攻撃にラディスが苦痛の声を上げる。
「いい感じっ、もう一回いこう!」
 ベルの呼び掛けに、璃緒が力強く頷いてみせた。
「うん! まだまだいけるよっ!」
 宝石化の呪いよりも速く、鋭い攻めを。二人は連携攻撃を容赦なく畳み掛けていく。

恵宮・アキ

●炎に煌めく
 計画が失敗した時点で撤退すればいいものを、ラディスはまだ破壊活動を続けるつもりだ。
「ただでさえ大惨事を起こしておいて、まーだやるか! いくら相殺したからって、火山弾で千本ノックは怖かったんだからね!」
 |恵宮・アキ《えみや・あき》(恋愛知らぬ心優しき乙女・h13025)は怒りを通り越して呆れ果てる。深く溜息をつきながらも、その手にはしっかりと魔力弾銃「ロダン」が握られていた。
「簒奪者ってのは、みんなそうなの? 加減を知らないんだから……」
「やるなら徹底的にやるものでしょう?」
 堂々と返すラディスに、アキは厳しい眼差しを向ける。
「正論っぽいこと言ってるつもりみたいだけど、街を壊そうとしてる時点で駄目だよ」
 展開された呪いの結界が、街の一部を宝石に変えていた。ラディスはこれらも奪い取るつもりなのだろう。強盗行為を許すわけにはいかない。
 剣を手に、ラディスがアキへと迫った。
「貴方も宝石になりなさい!」
「お断りするよ」
 ロダンの狙いをラディスに定め、アキは|鍵魔弾《キーバレット》〖|地獄開門《ヘル・ゲート》〗を発動する。
「開門。――燃えて!」
 ロダンから炎の魔弾を放つ。ラディスは強引に剣で弾こうとするが、その行為は意味をなさない。
 √能力の性質上、剣に着弾した時点でラディスに当たったようなものだ。焦熱黒炎が急速に広がり、ラディスを包み込む。ラディスを中心に黒炎が燃え盛った。
「あっつぅ……! 貴方の火加減も容赦ないわね!」
「当然だよね。あなたを止めるには全力で戦う必要があるし」
 相手は簒奪者なのだから、手加減なんてしてられない。それに加減をしなくても、味方のことは祝福の焔が守ってくれる。
「あなたの計画もじきに終わる。そろそろ諦めて」
 黒炎と祝福焔が強烈な光を放ち、ラディスの結界によって生み出された宝石を照らし出した。鮮やかに輝く宝石の数々も、ラディスが死ねば元の状態に戻ることだろう。

アリス・アイオライト

●泥棒退治
 アリス・アイオライト(菫青石の魔法宝石使い・h02511)は、たんまりと黄昏石を手に入れた。ホクホクな気分だが、帰る前にもう一仕事だ。
「姿を現しましたね、宝石泥棒さん! 美しい宝石を、私欲のために強奪するなんて、とんでもないです! あなたのことは絶対に止めます!!」
「邪魔者が次から次へと……うざったいわね!」
「魔法宝石を研究する者として、宝石を盗む悪党を許すわけにはいきませんからね!」
 アリスは魔法宝石の欠片を砕いた。魔力を増幅させた上でラピスラズリを砕き、ラディスに狙いを定める。
 |瑠璃星の光《ラピスラズリライト》を発動。日没の空に星光が輝き、ラディスをぐるりと取り囲んだ。
「この光は……」
 ラディスが包囲から抜け出すよりも速く、アリスは詠唱を紡ぐ。
「ラピスラズリよ、彼の者に試練の光を放ち給え!」
 煌びやかな光の雨が流星群の如く降り注いだ。剣で身を守ろうとも、無数の星光がラディスの体を打つ。
「その攻撃、今すぐ止めてもらうわ! 貴方も宝石に変えてあげる!」
 宝石化する呪いに満ち溢れた結界を展開するラディス。周囲の建物を宝石に変えながら、呪いはアリスに迫った。
「むむ、私は宝石になりたいのではなく、研究したい方なので!」
 星光は隕石の如くラディスに衝突し、語りを物理的に妨害する。
「ぐはっ!?」
「『夕夜の星空』は、この街のみなさんが大切にしているもの。記念館で公開してくださっているのですから、マナーを守って眺めるだけにしないと。あなたも、自分で美しい宝石を採掘できるよう、努力したらいいと思いますよっ!」
「努力してるわよ! 頑張って奪い取ってるじゃない!」
「それは努力ではなく略奪と言うんです! 私の話ちゃんと聞いてました!? 本当は倒すのではなく、泥棒として逮捕したいくらいです!」
 逮捕して牢に入れられるならどんなに良かったか。ラディスの性根を更生させられるなら、この街の今後も安心だろうに。

ウィズ・ザー

●メインディッシュ
 日没の空をウィズ・ザー(闇蜥蜴・h01379)が泳ぐ。全長10mにも近付く闇蜥蜴は、上空からラディスを観察していた。品定めをするように、じっくりと。
 ぐりん、と戦場に降下する。ラディスは戦いに気を取られ、ウィズに気付いていない。
「――お前よォ……身体が宝石で出来てる|竜《ドラ・プロ》って事で良い?」
 耳元に囁いてやれば、ラディスがハッとする。
「! いつの間に……」
 剣を構えるラディス。背後から襲うこともできたが、ウィズはそれをしなかった。
 食事の前には『いただきます』をするのがマナーだ。
「その透明感のある武具の数々と翼や角の透明感がどう見ても鉱石質。能力的に宝石を産み出す能力持ち。……こりゃァ……悪く無ェな?」
 言葉の意味をラディスは理解する。略奪を是とする悪竜に解らぬはずがない。
 ――こいつ、私を喰うつもりだ。
 ラディスはジュエル・スラッシュを繰り出した。己の身を守るための一撃は、|闇顎《アンガク》を纏わせた|刻爪刃《コクソウジン》に止められる。
「散々ボコられてるわりには活きがいいな」
 元気な方が食い出がある。頭上から語りかけながら、彼女の足元に|黒縄《コクジョウ》を奔らせた。細くとも強靭な縄状の捕食器官が、ラディスの体を縛り上げる。
「くっ……離しなさいよっ!」
 ラディスが暴れるほどに、黒縄は彼女の体に鋭く食い込んだ。
「どうせ死んでもまた狙って来るンだろう? お前は。……だったら、そうならない様にしないとなァ?」
 |闇顎《ウィズ・ザー》が広がる。溢れ出す影は猛獣のように顎を開き、ラディスを丸呑みにした。叫びは聞こえない。ラディスの抵抗は無限の如き暗闇に呑まれ虚無へと還る。
「あばよ。更生が無理ならまた呑んでやるよ」
 届かないと知りながら別れの言葉を告げた。そして、すぐに『次』を考え始める。
「さァって、加工の完成が楽しみだぜェ〜♪」
 一流の技師に頼んだ宝石がどうなっているか、今から楽しみだ。

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