シナリオ

機械仕掛けの簒奪者

#√ウォーゾーン #√EDEN

タグの編集

作者のみ追加・削除できます(🔒️公式タグは不可)。

 #√ウォーゾーン
 #√EDEN

※あなたはタグを編集できません。


 空は陰鬱な灰色に染まり、街の上空にシュライクが群れをなして到来していた。
 黒い金属の装甲に覆われた鳥型の機体群が、頭部のUFO型マシンを回転させながら、地上の生命反応を探り続ける。
 シュライクの背部から青白く輝くグラビティビームが放たれ、商店街一帯を超重力の束縛で押し潰していく。建物のガラスが砕け散り、看板は歪み、アスファルトにはひび割れが走る。
 その重圧から逃れようとした人々は、腰から鋭く伸びた金属槍に串刺しにされ、血飛沫と悲鳴を上げた。
 わずかに逃げ延びた者たちが高層ビル群へ逃げ込むも、シュライクの金属爪が地を蹴って追撃。光学迷彩で姿を消しては不意打ちを繰り返し、オフィスビルから避難する会社員たちを容赦なく捕獲していく。
 捕らえられた人々は工場へと運ばれ、その叫びは虚空に吸い込まれていった――。


 神谷・月那(人間(√EDEN)の霊能力者・h01859)が、√能力者達へ事件の発生を伝えていた。
「私からみなさまへ、緊急のお知らせがあります……」
 月那は震える声を押し殺すように、ゆっくりと言葉を紡いでいく。
「√ウォーゾーンから、戦闘機械群が襲来しています。特に中央商店街や駅前広場で多くの方々が捕らえられ、高層ビル街でも人々が襲われています。このまま放置すれば、より多くの命が奪われ、邪悪なインビジブルが生まれてしまうでしょう……どうか、街を守るために力を貸していただけませんか」
 月那は一呼吸置き、フラグメントの説明を始めた。
「第一の敵は、シュライクと呼ばれる戦闘機械群です。人々を捕獲し、工場へと連行しています。彼らを倒し、捕らわれた人々を救出しなければなりません」
 月那の瞳が揺らめき、次の言葉を選ぶように間を置く。
「そして……より強大な敵、ドクトル・ランページが現れるかもしれません。彼の者は戦闘機械群の巨大派閥の統率者。インビジブルを求めて自ら戦場に赴くと言われています」
 月那は両手を胸の前で組み、祈るような仕草を見せる。
「でも、戦いの後には必ず平穏が訪れます。皆さまのおかげで、街の人々が再び楽しく買い物できる日々が戻ってくることを、私は信じています」
 月那は少し表情を和らげ、静かに続けた。
「この街には、素敵なお店がたくさんあるんです。駅前の大きなショッピングモールには、流行の服やアクセサリーのお店が。裏通りのアンティークショップでは、珍しい骨董品に出会えることも。夕暮れ時の商店街は、美味しそうな香りで溢れかえっています……」
 その声は次第に力強さを帯びていく。
「必ず、そんな日常を取り戻しましょう」
 最後に月那は、真っ直ぐに√能力者達を見つめた。
「私にできることは限られていますが……この街に住む人々の命を、どうか一緒に守っていただけませんか」

マスターより

開く

読み物モードを解除し、マスターより・プレイング・フラグメントの詳細・成功度を表示します。
よろしいですか?

第1章 集団戦 『シュライク』


三東・玲一


「た、助けて! 誰かーッ!」
「き、機械の群れが……襲ってくる!!」
 崩壊の危機に瀕した街で、人々の悲鳴が響き渡っていた。
「俺の描いた街が、人が、滅ぼされていく……! 止めなくては、必ず!」
 駆けつけた三東・玲一(漂白の芸術家・h01887)は、混乱の渦中で立ち尽くす一般人の少女の姿を目に留めた。
「危ない!」
 シュライクの放つグラビティビームが、彼女めがけて降り注ぐ。玲一は咄嗟に飛び込むや、少女を庇いながら路地の一角へ逃げ込んだ。
 技能「物を隠す」を発動し、その場所に自らの姿を隠蔽。そうして√能力「忘れようとする力」を発動。
 半径十メートル内の負傷者たちの傷が、まるでキャンバス上の絵具を拭い去るように、徐々に癒えていく兆しを見せ始めた――。
「ありがとう、お兄さん……」
 助けられた少女の声に、玲一は静かに頷く。
「安全な場所へ逃げるんだ。帰って寝て、全部忘れるといい」
 玲一の言葉に、周囲の人々も少しずつ冷静さを取り戻していく。
 人々は互いを支え合いながら、安全な場所を目指し始めた――。

 頭上。シュライクの一団が不意に姿を消した瞬間、背後で金属の軋む音が響く。
「来るか……!」
 光学迷彩で姿を隠した機械の群れが、鋭い金属槍を突き出してくる。
 玲一は絵筆を大きく振り上げ、「多重詠唱」と共に文字を描いた。
 空中に浮かび上がる【古代文字の断片】は、白銀の光を散りばめ、シュライクの包囲網に反射の輝きの輪を作り上げ。
 姿なき敵を、光の帯が浮かび上がらせた。
 ――今だ。
「星屑、破光、嵐の残骸――記せ、叡智の泡沫」
 玲一の詠唱が高まるにつれ、文字群は光の矢となり、四方八方から襲い来る敵を逆に貫きだす。
 反攻を受けたシュライクらの光学迷彩が次々解け、黒い装甲の表面に古代の文字が焼き付いていく。
 かつて誰かが記した古代の言葉は、今、この街の防壁となって人々を守り、敵を討つ剣となって機械を穿っていた――。

一夜塚・燐五姫


 一夜塚・燐五姫(虚し世の龍夜叉姫・h01037)は愛用の機械化薙刀を構え、上空の黒い機械群に挑むように叫んだ。
「メッ、だよ。お掃除ロボットさん。ふつーの人達に襲い掛かっちゃダメでしょ」
 斬りかかろうとした刹那、敵が疾風さながらに接近。鋭い金属爪が閃光を放ち、燐五姫の振り下ろしを弾き返した。
 しかも敵は一撃を放つや否や、光学迷彩に身を包み、虚空へと溶けていく。
「ヒメと違って、この街の人達は本物の世界に生まれて、ちゃーんと生きてるんだから」
 薙刀の柄を下段に構え、逃げる一般人たちを背に庇いつつ、彼女は冷たい笑みを浮かべ――。
 衝撃。見えない敵が放つ爪撃を巧みに捌きながら、そのまま後方へ跳ぶ。
 確かな重みを持つ機械化薙刀の感触が、今この瞬間の実在を教えてくれる――。
「代わりにヒメが相手をしたげる。殺しても死なない√能力者とお遊びしない?」
 他の敵も続々と降下してきたのが、物音で分かった。半径十メートル。射程圏内に収まった敵を確認するや、彼女はテンペスト・スライサーの引き金を引く。
「エンジン、フルスロットル。アゲアゲでいくよ!」
 薙刀のチェーンソー刃が唸りを上げ、空気を震わせる。
 彼女は全身の力を込め、大きく円を描くように刃を振り回せば。
 仕込まれた鎖鋸刃がシュライク達の装甲を切り裂き、地を這う脚や尖った金属爪を文字通り薙ぎ払い、纏めてブッ飛ばした――!

ノア・レムナント


 高層ビル群を見渡せる屋上へ陣取り、ノア・レムナント(方舟の残滓・h01678)は視界を確保した。
「こちらの戦闘機械群も……元いたところと大差ないようで安心です」
 冷静な声音で呟きながら、彼女は【ヘビー・ブラスター・キャノン】を構える。
「民間人の避難経路は後で確保することにして……この場所なら制圧に適していますね」
 飛び交うシュライク達は、まるで大群の機械蜂のように人々を追い詰めていく。
 ノアは一機一機の飛行経路を技能「弾道計算」で解析し、最も効率的な射線を割り出した。
「あのブンブンとうるさい虫を黙らせないと。まだ装備は整っていませんが……」
 背後に展開された漆黒の砲身群が、暗灰色の空を背景に浮かび上がる。
「これで、いきます」
 引き金が引かれ、眩く輝く光条がビル街を貫く。一発毎に機動力こそ低下するものの、射撃に専念するのみなら気にするまでもない。むしろ敵へのダメージは増幅されていく。
 その一斉射撃の威力を示すかの如く、地上の人々の頭上で、機械の破片が火花と化して散っていった――。

北城・氷


 都市の制圧を阻むように、北城・氷(人間(√ウォーゾーン)の決戦型WZ「重装甲超火力砲撃特化機【玄武】」・h01645)は重装甲機の操縦席へ着いた。
「やはり厄介な数ですね。ですが――」
 観測モニターに映る光学迷彩の反応を追いながら、氷は呟く。高層ビル群の裏手で、残る敵勢が新たな展開を始めていた。
「この程度で僕を落とせるとでも思っていたのかい?」
 大口径ランチャー【撃滅】を構え直し、技能「弾道計算」で射程を測る。同時に「制圧射撃」「無差別攻撃」を発動。
 ビームをしこたま叩きこめば、シュライク達の左翼の機動が阻害され始める。
 群れが制圧点を避けて迂回した瞬間、超火力キャノン【殲滅】へ切り替え。敵の光学迷彩を引き剥がす一発を浴びせる。
 前線の仲間達が敵を足止めしてくれている中、【玄武】は【消えざる魂の炎】を全身に纏い始めた。
「お前達を倒し、街を救い……その反撃の狼煙を、ドクトル・ランページにも届かせる!」
 六十秒のチャージ中、シュライクの攻撃が装甲を叩く。されど氷は微動だにせず、力を溜め続ける。メラメラ、とその瞳に炎が揺らめき。
「うおぉぉぉ……ッ! ――僕がいる限り、やらせはしない!」
 瞬間、機体を包む炎が爆ぜ。
 威力十八倍となった途方もない【燃え盛る拳】が、敵の群れを貫いていった――。

第2章 ボス戦 『『ドクトル・ランページ』』



「――√能力者か。近頃は増えたものだな……」
 灰色の空の下、√能力者達の前に一つの影が舞い降りた。赤い長髪がなびく中、幾重もの装甲に覆われた姿が、凛と佇む。
「私達は強くならねばならぬ。故に、謹んで学ばせていただく」
 冷たい調子で告げるドクトル・ランページ。その鋭利かつ長大な尾部が、静かにうねった。
 現れた統率者。戦いの火蓋が、切って落とされる――。
戦闘員六十九号・ロックウェル


 戦闘員六十九号・ロックウェル(ヴィラン・h00728)は濃厚な闘争の気配を前に、全身を震わせていた。
「ちッ、出遅れたか……だが頭が残っていたのは幸いだったな」
 両腕の外装が風を切り、鋭利な尾部を持つ強敵へと向かう。
「さあ、俺にも闘わせろ!」
 残像を描きながら、緩急をつけた走行で距離を詰めていく。敵の前後左右、あらゆる死角から一撃を仕掛けては引き、牽制。――更なる接近の態勢を整える。
 ドクトル・ランページが放つ物質崩壊光線が迫ってきた。
「カノンフォーム、変身……!」
 直撃を受けながらも身体強化を果たし、機体各所の外装を増強する。崩壊の光は、強化された機甲をいささか削り取るに留まった。
「防御力が落ちるのはお前も同様か。であるならば殴り合いが手っ取り早いな!」
 重量と怪力を纏った一撃を、機体の接合部へと振り下ろす。
 表層が僅かに歪んだ瞬間を逃さず、【徹甲榴弾】を装填――至近距離から脆弱部を撃ち抜く。
 さらにその反動を利用し、敵の頭上へと跳躍。
 上空から猛烈な打撃を見舞い、標的を地表へ叩きつける。
「一歩間違えれば俺とて無事では済まんか……! 滾ってきたぞ、もっとお前の闘いを見せろ!」
 間合いを離すまいと、機械の拳を絶え間なく振るい続けた――。

ノア・レムナント


 新たな敵反応を捉え、ノア・レムナント(方舟の残滓・h01678)は観測システムを研ぎ澄ませた。
「追加の反応が一つ……さっきの有象無象とは、明らかに違いますね」
 より強大な脅威が、確かにそこにあった。
「少し気を引き締めましょうか、他の誰かが一緒なら助かるんですけど……」
 そうして辿り着いた空間には、赤い髪をなびかせたドクトル・ランページの姿。
「私達は強くならねばならぬ」
「強くならねばならないのは、私達も変わりませんよ」
 ノアはガチャリと重厚な音を立て、ブラスター・ライフルを構える。
「そして私は人類を守るという使命を帯びここにいますので――ええ、ええ、人類の未来の為に私も貴方の情報をきっちり頂きますとも……」
 話していると、巨体の戦士ロックウェルが横合いから突っ込み、敵へと殴りかかっていった。
 派手な殴り合いを展開する様子に、ノアは好機を見出す。その乱戦に乗じさせてもらうべく――「弾道計算」で最適な射線を割り出す。
 敵の回避、防御パターンを読み取るや、間髪入れず三基の【ヘビー・ブラスター・キャノン】を展開。
「制圧点は……そこですね」
 発射された光条。されどドクトル・ランページの装甲が変形し、一体化した刃がこちらへ伸びるように閃く。
 だが牽制に釣られたその動きこそが、隙を作り出していた。
 斬撃の死角を縫って、続く二射目が、装甲の継ぎ目を貫いた――。

三東・玲一


 砲撃の轟音が収まる中、機械の戦場に白い絵筆が翻る。三東・玲一(漂白の芸術家・h01887)は冷徹な視線を、正面の統率者へと向けていた。
「これほどの破壊を引き起こして『謹んで』とはな……√が違えば倫理も異なるか、赤髪の機械」
 玲一の絵筆が、戦場の空気を切り裂くように振るわれる。虚空に描かれた古代の文字が宙を舞い、眼前の世界に介入していく。
 その光景は、あたかも誰かの記憶を無理矢理に掘り起こすかのようだった。
 ドクトル・ランページが装甲から刃を伸ばし、文字列を両断しようと迫る。
『畏怖、天秤、記憶の隙間――記す、お前が最も恐れるものを』
 きめの細やかな文字列が漂い、氷のように冷たく硬質な象形の画が浮かび上がる。刃を逃れた古代の痕跡は、戦場の空気そのものを変質させてゆく。
「お前が首魁ならばここで討ち果たす」
 戦場に生まれた【心傷再現体】は、一瞬の闇を孕んで標的を捉えた。
「――さあ、お前には何が見える?」
 恐怖という名の矢が、戦闘機械群の強大な存在を射抜いたのだろう……ドクトル・ランページがわずかに目を見開き、動きが鈍る。
 直後、玲一めがけて放たれたはずの刃は、ドクトル本人の動揺により制御を失う。その鋭刃は体内の射出口へ収まる事なくずれ、皮肉にも本人の装甲を切り裂いたのだった――。

北城・氷


 巻き上がる砂塵の向こうで、機械の巨影が瞬く。
 北城・氷(人間(√ウォーゾーン)の決戦型WZ「重装甲超火力砲撃特化機【玄武】」・h01645)は決戦型WZの操縦席で、敵の動揺を見逃さなかった。
「ドクトル・ランページ、今回の騒動の元凶! 僕は貴様を許さない」
 コクピットに流れる戦術情報が、戦友達の動きを知らせる。前線で戦うロックウェルの攻撃、ノアの狙撃、そして今しがたの玲一の精神攻撃――皆が連携して、着実に敵の体力を削っていた。
 彼らの働きこそが、後方から攻撃に専念できる環境を整えてくれている。そう理解していた氷は、その好機に応えるべく、大口径ビームランチャー【撃滅】の照準を合わせた。
 この一撃で、時間を引き延ばすことなく決着をつける。
「斬撃兵器、光線、尾部……色々兵器を使うようだけれど、この程度で僕を落とせるとでも思っていたのかい?」
 最大出力の一発を放つ。ドクトル・ランページは混乱の最中にありながらも、その砲撃を装甲の変形で受け流す。
 けれど装甲が動く瞬間を狙い、氷は超火力ビームキャノン【殲滅】へと持ち替え――立て続けに発射。本命の一撃が躱せない距離から放たれ、放心の敵を直撃し、よろめかせた。
「今だ……切り札を解放する!」
 そして魂の灯火は、さらなる高みへと昇華する。
 【玄武】を纏う機体が真紅の輝きを帯び、【決戦モード】へと変貌を遂げる。【プロジェクトカリギュラ】の力により、その瞬間から装甲は強化され、機動力は一気に高まった。
「僕がいる限り、やらせはしない!」
 増強された推進力で躊躇なく間合いを詰める。同時に【消えざる魂の炎】が、機体の戦闘機構にエネルギーを蓄えていく。
「ふん……だが、その程度の力では――」
 ドクトル・ランページの尾部が大きく弧を描き、虚空を引き裂く光線を放つ。だが氷はその反撃すら想定済みだった。僅かな予兆を掴んだ瞬間、【玄武】は姿勢を低く取り、光線の直下へと潜り込む。
「なに……!」
 射線の死角から姿を現した決戦型WZに、ドクトル・ランページが装甲と一体化した斬撃兵器を放つ。機体を二つに裂かんとする一撃。しかし氷は決戦モードの機動性を活かし、一呼吸で体軸を反転。刃を僅かにかわしながら懐に入り込んだ。
「通常の機体性能を超えた変形か……!」
 敵の焦りが伝わる。各所で制御を失い始めていた装甲から、無数の刃が乱れ飛ぶ。
 それらの合間を縫うように、【玄武】は更に接近。
 チャージを続けながらの危険な間合いだが、この距離まで来れば後は――。
「これで決着をつける……街の平和を、この拳に懸けて!」
 燃え盛る両拳が赤き閃光とともに敵へ突き出され、奴の外装も機構も何もかも粉砕していく。
「これが……底力か――覚えたぞ……」
 ドクトル・ランページの最期の言葉が風に消える。
 轟音と共に眩い光が広がり、やがてそれが収まった時――そこには炭化して朽ち果てた機械の残骸だけが残されていた。
 街を踏みにじり、住民を襲い、人々を脅かしてきた統率者が消滅した事で、他の戦闘機械群も力を失い、次々と機能を停止、あるいは√ウォーゾーンへ撤退していく。
 やがてこの記憶も、一般人たちには忘れ去られるだろう。だからこそ、人々の生活が、静かに日常を取り戻し始めていた――。

第3章 日常 『ショッピングに行こう』



 駅前モールの広告が風に揺れる中、街は活気を取り戻していた。
 新作の服飾雑貨。評判の新店舗。限定セールの案内。カラフルなポスターの数々が、人々の笑顔と共に通りを彩る。
 そうして日常が戻った今、√能力者たちも皆、それぞれの目的を持って買い物を楽しむ。
 時には掘り出し物と出会えるかもしれない。いつもの景色の中に、小さな冒険が息づいていた――。
三東・玲一


 三東・玲一(漂白の芸術家ペインター・h01887)は、ショッピングモールの瓦礫が撤去された跡地で立ち止まっていた。
「どうやらヤツは去ったようだな……大規模な戦闘だったが――もう町は修復されている。これが、人々の『忘れようとする力』か」
 だが、失われた命の記憶まで消えはしない。玲一は地面に転がる一枚のブローチに目をやる。
 指先で触れると、優しい笑みを浮かべた中年の男性が、浮かび上がった。
『あなたも誰かへの贈り物を選びに来たのですか?』
 娘の誕生日プレゼントを探しに来て、一目惚れしたブローチだという。受け取った瞬間の娘の笑顔を見たくて――戦闘に巻き込まれる直前まで店を見て回っていたのだ。
『こうして語れただけで、心残りは消えました。ですが……』
 男性の視線が、娘の家のある方角を指し示す。
『せめて、私の想いだけでも……娘に伝えてほしい』
 玲一は無言で頷く。男性から聞いた娘の家までの道のりを確認すると、足を向けた。
 娘の住まいの壁に、父親の最期の想いを絵筆で描き留める。プレゼントを選ぶ優しい笑顔、受け取る娘の姿、そして永遠に叶わなかった再会の情景を。
 次に向かった先は古着屋だった。
 白を基調とした服の中で、一つの帽子が目を引く。手に取って鏡の前で試してみれば、これが中々相性が良い。
 目深に被った玲一は、街の喧騒へと紛れていった――。

北城・氷


 ショーウィンドウの向こう側にディスプレイが並ぶ。反射したガラスに映る自分の姿を眺めながら、北城・氷(人間(√ウォーゾーン)の決戦型WZ「重装甲超火力砲撃特化機【玄武】」・h01645)は静かに佇んでいた。
「これが……僕のいた世界では、配給品を受け取るしかなかったから」
 食料品、衣服、雑貨。並ぶ商品はどれも鮮やかで美しく、見ているだけで心が躍る。
 隣のカフェではカップルが楽しそうに会話を弾ませ、店頭では新作のお菓子を試食する子供達の笑顔が輝いている。
「ああ、平和な世の中ってこんな感じなのか……」
 商品を選び、支払いを済ませ、袋を受け取った。配給を受け取るだけでは味わえない、買い物の喜びを知る。
「素晴らしい世界だ。一日でも早く戦闘機械群を殲滅して、このような平和を僕の世界にもたらさねばならないな」
 ふと、風に乗ってキャラメルの甘い香りが漂ってくる。飲食店に立ち寄ってもいいかもしれない。
「……こういう時間のために、戦うんだ。そのためなら、僕は何でもするさ」
 モールの喧噪へ溶け込みながら、氷は穏やかな日常の空気を、ゆっくりと胸に刻んでいった――。

挿絵申請あり!

挿絵申請がありました! 承認/却下を選んでください。

挿絵イラスト