出撃! チョコレート奪還大作戦!
●
商店街の入り口で、少女はじっと立っていた。
目の前には可愛らしいハートがたくさん散りばめられた大きな看板があり、ポップなフォントで『LOVE! バレンタインフェア開催中!』と書かれている。
バレンタイまであと一か月を切り、どこもかしこもバレンタイン一色だ。
もちろん、この商店街でもバレンタインに向けてのイベントを行っている。
少女は辺りをぐるぐると注意深く見渡し、『アイツ』がいない事を確認してから駆け足で商店街の中へと突入すると、沢山のお店がバレンタイン関連の商品を扱っていた。
綺麗にラッピングされた様々なギフトチョコや車や電車の形をしたチョコ、手作りキットにメッセージカード。
どれも目移りしてしまうが、『アイツ』に何を贈ればいいか。
「あらミカちゃん、学校帰り?」
近所のおばさんが少女――ミカへと声をかけてきた。
「こんにちは」
「こんにちは。ミカちゃんもしかしてバレンタインのプレゼント探してるの?」
おばさんの言葉に心臓がどきりと弾む。
「あ、その……」
「いいのよミカちゃん。おばちゃんわかるわ。幼馴染のレン君にチョコあげるんでしょ?」
どきっ!
「ち、ちがうの! 違うんだって!」
「いいのよいいのよ~」
顔を真っ赤にして否定するミカだが、おばちゃんは何でもお見通しだ。
「あのコには手作りチョコをあげるといいわよ。絶対に喜ぶから」
「そ、そうかな……」
ドキドキしながらちらりと見ると、目の前では手作りチョコのセットが売っており、可愛らしい包装紙やシールも並んでいた。
初心者でも簡単に作れるというが……。
「行け、戦闘員! チョコを一つ残らず強奪せよ!」
平和を切り裂く声が響くと、どこからともなく戦闘員が現れて目の前の商品をすべて奪っていった。
それだけではない。バレンタイン関連商品も容赦なく奪っていく。
「手作りキットや包装紙も全部だ! 一つも残すな!」
怪人の命令によってあっという間に商店街からバレンタインの商品は全て無くなってしまった。
「これも野望への第一歩だ! 撤収!」
「「「イェアアアアァァァァー!!」」」
両手いっぱいに商品を抱えた戦闘員を従え、悪の怪人は商店街を去っていく。
あっという間の出来事に、ミカは言葉なく立ち尽くすだけだった。
●
「――っていう事件を予知を見ちまってな」
予知の説明を終えた海老名・轟(流星は星を詠む・h04411)は能力者達を前に小さくため息をひとつ。
もうすぐバレンタインだというのに秘密結社『プラグマ』の大首領に忠誠を誓う『悪の組織』の怪人達が悪事を働こうとしているのだ。
その悪事は悪逆非道極まりないもので。
「バレンタインが近いからって奴ら、チョコやらお菓子セットやらを片っ端から強奪しまくってんだわ」
そう、バレンタインにプレゼントを贈ろうとしている人々からバレンタインプレゼントを奪い去ろうとしているのだ!
「せっかくのバレンタインイベントをブチ壊そうとするってのはさすがに許せないな。悪いが秘密結社『プラグマ』の野望を砕く手伝いをして欲しい」
場所はバレンタインフェアを開催している商店街。
「怪人が戦闘員を連れて商品を片っ端から強奪している。商店街という場所もあって沢山の客がいるから戦闘はナシだ。一般人を巻き込むわけにはいかないからな。奴らを追跡してアジトに潜入を行って欲しい」
こっそり後についていく、荷物運びを手伝う等で紛れてついていく等、アジトへの潜入方法はいくらでもあるだろう。
「アジトに潜入したら怪人どもを倒せば完了だ。商品も無事に返せればなおヨシってトコだがお前達なら問題なくできるだろ?」
にっと口角を上げた轟に能力者達は当然と言わんばかりに頷き応えた。
「その交差点を右に曲がれば件の商店街だ」
そう言い、轟はすっと交差点を指さした。
「秘密結社『プラグマ』の大首領に忠誠を誓う悪の組織『リア充撲滅しねしね団』の陰謀を打ち砕けるのはお前達だけだ。頼んだぞ」
「……え? リア充?」
「ほれさっさと行った行った!」
聞き返そうとした能力者達は、轟にせっつかれるように商店街へと向かっていくのだった。
第1章 冒険 『悪の組織に潜入』
「行け、戦闘員! チョコを一つ残らず強奪せよ!」
バレンタインフェアで賑わう商店街に平和を切り裂く声が響くと、どこからともなく戦闘員が現れてお店の商品を奪い始めた。
チョコレートに生チョコ、製菓用の板チョコからラッピング用のリボンや包装紙などのバレンタイン関連商品を戦闘員達は容赦なく奪っていく。
「これも野望への第一歩だ! 撤収!」
「「「イェアアアアァァァァー!!」」」
両手いっぱいに商品を抱えた戦闘員を従えて悪の怪人は商店街を去って行くが、その後ろを少女――川西・エミリー(|晴空に響き渡る歌劇《フォーミダブル・レヴュー》・h04862)がバックアップ素体と一緒に紙袋を被り変装してついて行った。
ちゃんと前が見えるように穴を開けた紙袋の中から近くの戦闘員を見上げると、戦利品を抱えた腕からチョコがぽろり。
「あぶない!」
踏まれる前にハートのチョコを拾い上げ、次に落ちてきたまんまるチョコもしっかりゲット。
一方、怪人を追っている春日井・千尋(はぐれ幽霊人情派・h03750)は、気付かれないように物陰からメモを片手に注意深く観察している。
尾行は警察の十八番なので、難しくはない。勤続年数約20年の千尋は気付かれる事なく順調に進んでいる。
「ふむ……バレンタインを妨害する怪人か……。せっかくの青春イベントを台無しにしようとするのは見過ごすわけにはいかないね……」
独り言を呟き向かっている方向や怪人達の特徴をメモしつつ、アジトを突き止めるべく頑張る事にするが――。
「普段着だと怪しまれるかもしれないな……」
ふと気がついてしまった。
今の自分は普段着であるスーツ姿だが、外見相応の服装でなければ不審に思われるかもしれない。
どんなに順調に進んでいても、たった一つのトラブルで全ての努力が無駄になってしまう。
念の為に10歳の女児が着るような服に着替えて尾行を再開。
「よし、これで違和感はないな……。これならまさかあたしが尾行しているとは思わないだろう……」
「ありゃ、こんなとこに女の子がいるよ」
「……っ!」
後ろからの声に反射的に振り返ると、合流しようと別の道からやってきた戦闘員達が物陰に隠れた千尋に声をかけてきたのだ。
「あ……あたし……その……」
驚いて言葉の出ない10歳らしい反応をしてみせつつ緊急手段を講じるか判断を迫られる千尋だが、戦闘員達は女子供には優しい紳士であった。
「お嬢ちゃん、ここはキケンな場所だよ」
「そうそう、危険で危ない大人ばかりだからお家に帰ろ?」
「チョコちゃんいっぱいあげるよ~」
優しい言葉をかけ、千尋に両手いっぱいにチョコを渡した戦闘員達は疑うことなく行列に合流して行ってしまった。
「ばれなくてよかった……」
ほっと小さく安堵の息を一つ。
緊急時の手段を使わずに済み、尾行を続けていくと先頭を行く怪人は戦闘員達と大きな倉庫の中へと入っていった。
そこは倉庫ばかりの場所にある、特筆すべき特徴もない、ごくごく普通の倉庫。
「あれがアジトだね……」
どう潜入するかと考える千尋とは対照的にエミリーはひとつ、またひとつと落ちるチョコを拾いながら戦闘員に紛れて堂々とアジトへの潜入に成功していた。
薄暗い倉庫内では転んでしまいそうだが、帰還を合図に照明が灯ると歩きやすくなり、明るくなると戦闘員達は紙袋を被った女の子に気づいたようだ。
「おいおい、子供がついてきてるぞ」
「さっきの女の子とは別の子じゃね?」
「ありゃあ、まいったなあ」
「ぎぶみーちょこれーと!」
元気いっぱいに言うと、仕方がないなあと戦闘員達はチョコをいくつも渡してくれたので、チョコをつまみつつエミリーは組織の思想を聞く事にした。
秘密結社『プラグマ』の大首領に忠誠を誓う悪の組織『リア充撲滅しねしね団』は、その名の通りリア充の撲滅を目論む悪の組織である!
「リアじゅーぼくめつ! しねしねー!」
「そうそう、リア充は撲滅しなきゃいけないんだわ」
「リア充撲滅が秘密結社『プラグマ』の野望の一片を担う訳でね」
「といっても我々は紳士だからね、野郎はともかく女子供には優しく接するのがモットーなのさ」
「ぷらぐま! ぷらぐま!」
「上手い上手い」
「キミなら幹部目指せちゃうよ」
仲間達が到着するのを待ちつつ、もらったチョコをぱくり。
シュプレヒコールの練習にあちこちの戦闘員から拍手とチョコをもらって笑顔を向けたエミリーだが、実はアジトのあちこちを探索してはこっそりと事件解決の為にやって来る仲間達に情報が発信していたのである。
もちろんそれは千尋にも届いている。
秘密裏に送られてきた情報に目を通すと侵入できそうな入り口や窓の場所、倉庫内は戦うには十分な広さがある事など有益なものがいくつもあった。
「なるほど……この情報通りに潜入すれば有利に戦えそうだね……」
情報に目を通し終えた千尋は周りに誰もいない事を確認すると、倉庫へと一気に走っていった。
商店街に到着したソレイユ・プルメリア(君が為の光の剣士・h00304)とシャルロット・サンクトス(君が為の|銃弾《バレッド》・h02580)の前に広がる光景は散々たるものだった。
バレンタイン関連の商品は全て戦闘員率いる怪人が全て奪っていった。
店の前に並んでいた商品棚はひっくり返り、看板やポスターはボロボロ、店員さんだけでなくバレンタインに向けて商品を買いに来たお客さんまでがも悲しい顔ばかり。
「はにゃー……チョコを強奪。大分ぶっ飛んだ野望を持ってるね!」
チョコが沢山並んでいただろう倒れた棚をシャルロットは元の位置へと戻す。
今回の事件を引き起こしたのは秘密結社『プラグマ』の大首領に忠誠を誓う悪の組織『リア充撲滅しねしね団』。
その名の通り、リア充撲滅を目論む組織のようだが……。
「うーん、なかなかよく分からない思想なのね」
名が体を表すような思想の組織を相手にする事になり両頬に手をやるソレイユであったが、自分達が為す事は事件の解決であり、その為の一歩であるアジトへの潜入だ。
「極力見つからないようにしたいわね」
「そうだね♪」
頷くシャルロットを隣にソレイユは怪人達の出現に騒ぐ声が聞こえてくるかとじっと聞き耳を立ててみる。
慎重に耳を澄ませていると、日常の音に紛れて悲鳴やパニックに陥った声がかすかに聞こえてきた。近くの人に聞き込みをしてみると、その場所はすぐに分かった。
「倉庫や工場が密集する辺りじゃない?」
教えてくれたおばちゃんは分かりにくいだろうと地図を書いた紙をソレイユへと手渡してくれる。
「これでばっちりだね♪」
「ありがとうございます」
「二人とも気を付けてね」
お礼を言った二人は地図を頼りに目的地へと向かっていくと、沢山の人が移動する足音や声が聞こえてきた。
「もしかして」
「ビンゴだね☆」
顔を見合わせ、気付かれないようにそっと物陰に隠れながら移動を繰り返していくと、戦利品を抱えた戦闘員達が路地裏をぞろぞろと歩いているではないか。
流れるように歩いている怪人達をそっと見ていると、怪人の手からぽろりと落ちたチョコや包装紙が後続の怪人達に踏まれてぐしゃぐしゃになっていく。
「なんて酷い事を……」
「許せないよね、ソレイユちゃん!」
せっかくのバレンタインを目前に悪の組織を許してはいけないと気を引き締め、戦闘員の中へと紛れ込む。
アジトへの経路をばっちり掴めるように荷物持ちが無難な役割だろうと、落としそうな程に抱え込んだ戦闘員にシャルロットが近づいていくと、当然戦闘員達も二人の姿に気が付いた。
「ん? 見ない顔だな?」
「ほら、最近募集した新人戦闘員だろ?」
「崇高な野望達成のために、働くです! イェアー!」
周りの怪人に合わせてテンションノリノリでリアクションで答えると、誰も二人を不審に思わなかった。
シャルロットも仲間として溶け込もうと新人の下っ端戦闘員として積極的に雑用を申し出る。
「センパイ! 荷物持ちなら任せて!」
「おっ、助かるよ」
「じゃあこれも持ってもらおうかな」
あっという間にシャルロットは両手いっぱいの荷物を持つ事になってしまったが、これくらいなら大丈夫だ。
「ボク、ココに入れてめっちゃ最高! リア充たちの面みました? チョー気分いいです♪」
「分かるぅ~」
「リア充撲滅! リア充撲滅!」
「リア充爆発しろー!」
ソレイユが情報収集しっかりできるように怪人達の気を引きまくるシャルロットは、下っ端ムーブ全開でノリノリの戦闘員をヨイショで持ち上げる。
「あ、あの、まだ入ったばかりなので、よく分からなくて……。やることを教えて欲しいわ?」
「お。ソレイユちゃんもお手伝いする? センパイ方! 雑用は我らにお任せを~!」
自信満々に胸を張るシャルロットの言葉を心強く思ったのか戦闘員がソレイユに戦利品をいくつか手渡した。
「じゃあアジトに運ぶチョコを持ってもらおうかな。今日の作戦は戦利品が多すぎて落としまくってるんだよね。アジトに着いたら一か所にまとめるから、そこまで頼むよ」
「このチョコ最後はアレしちゃうんだよなあ、もったいないけどさあ」
「ひとつくらいコッソリ食べても良さそうだよな」
戦闘員達の会話を耳にふと、赤い瞳の少女が怪人を尾行するように物陰に隠れているのが見えたが、情報取集をしていたソレイユはある事に気付くとシャルロットにそっと近づいた。
「なにかあった? ソレイユちゃん」
「アジトに到着した仲間から情報が送られてきたの」
周りに聞こえないような声でソレイユが注意深くデータを見せてくる。自分にも届いているだろうから荷物を抱えながら確認してみると、シャルロットにも潜入に成功した仲間からアジトのデータが届いていた。
「お、アジトが見えてきたな」
近くの戦闘員の声に見ると、大きな倉庫が見えてくる。
「あそこに着いたら荷物運びも終わりだから、もうちょっと頑張ってくれよ」
「任せてください! ね、ソレイユちゃん」
「頑張りましょうね」
戦いまでの距離が近づく事を感じながら二人はアジトへと進んでいくのだった。
「行け、戦闘員! チョコを一つ残らず強奪せよ!」
平和を切り裂く声が響き、須田・善治郎(元、ヒーロー・h03258)は目が覚めたらトンチキバカ騒ぎ――商店街で怪人が引き連れた戦闘員達とバレンタイン商品の強奪を行っている真っ最中の只中に居た。
「手作りキットや包装紙も全部だ! 一つも残すな!」
怪人の無慈悲な一声によって戦闘員達は、バレンタインに関する商品を全てを容赦なく奪っていく。
「『リア充撲滅しねしね団』……すげえネーミングセンスだな、ハハ、良いぞもっとやれ」
視線の先ではどこからともなく現れた怪人と戦闘員達によってバレンタインの商品は全て無くなってしまった。
「これも野望への第一歩だ! 撤収!」
「「「イェアアアアァァァァー!!」」」
両手いっぱいに商品を抱えた戦闘員を従えて悪の怪人は商店街を去っていこうとするので、善治郎も戦闘員に混ざってアジトへ向かう事にした。
「要するにあれだろ? この先にバカどもを扇動してる、より一層の特大バカが居るわけだろ?」
そう、この先にはトンチキバカ騒ぎを企てた首謀がいる筈だ。
瀕死の重傷を負って喪失した√能力が運よく戻ってきている訳でも無さそうだが、善良な一市民としてはセイギノミカタ様の手助けくらいしてやんねえと。
――何より。
「手前で努力もしてねえ野郎が嫉妬を拗らせ幸せな奴らに火を点けやがる。その手の無神経責任転嫁バカがなぁ、俺はでぇっきれえなんだよ。清潔感持て身嗜み整えろ当たり前の気遣いをしろ話題を蓄えろ。何もしねえからモテねえんだっ!!」
勢いに任せて声に出してしまい、しまったと視線を巡らせると、案の定、周りの戦闘員達や紙袋を被った子供が善治郎を凝視していた。
「……あー、その、まあ」
ばつがわるそうに頭をかいてごまかそうとしたが、目の前の戦闘員がふうと大きくため息をひとつ。
最悪の場合を想定して身構えようとすると、それより早くポンと両肩に手を置かれた。
「まあ、さ? 言いたい事は分かる。よーく分かるよ、オッサン」
うんうんと大きく戦闘員は頷いた。
「ほら、人生は山あり谷ありって言うじゃん?」
「……は?」
何一つ理解していない戦闘員の声に周りの戦闘員も会話に混ざって来る。
「なになに? 人生相談? オレ達でよければ話聞くよ?」
「今日の作戦終わったらみんなで打ち上げ会やるから時間いっぱいあるし」
「夜通し語り合おうぜ? な?」
「「「イェアアアアァァァァ!!」」」
戦闘員達は声を上げ、善治郎はノリノリの彼らと共にアジトへと向かって行くのだった。
第2章 集団戦 『戦闘員』
両手いっぱいに戦利品を抱えて意気揚々とアジトへ戻ってきた怪人と戦闘員は、到着するとそれらをどかどかと一か所にまとめはじめた。
チョコや包装紙、ラッピング用のリボンやシールがうず高く積まれていき、あっという間に戦利品の大きな山ができあがる。
「戦闘員の諸君、バレンタイン商品の強奪は大成功だ! よくやった!」
「「「イェアアアアァァァァ!!!」」」
倉庫の隅々まで届く声に戦闘員達が雄叫びを上げると、怪人は満足げに頷いた。
「これでリア充やリア充候補共はバレンタインにプレゼントを贈る事ができない。ざまあみろだ」
「ざまあー!」
「バレンタイン中止決定じゃー!」
「リア充ども残念でしたー!」
やんややんやと上がる声を浴びた怪人は大きく手を右腕を掲げた。
その手にはなにやらリモコンのようなものが握られており、何かを起動させるような大きなボタンがついている。
「それでは今回のメインイベント『バレンタインチョコ大爆破』を執り行う! この装置のボタンを押せば仕掛けた爆薬ドカーン! チョコレートもドカーンだ!」
うおおおおおおおおおおおー!!!!
戦闘員達のボルテージは爆上がり。ぐっと握った拳を突き上げる者や周りの仲間達と手を叩き合う者もいる。
「これにてバレンタインは中止だ。リア充どもめ、覚悟するがいい!!」
盛り上がる戦闘員達を目に怪人は掲げた装置のボタンを押そうと指を動かした――。
二章では戦闘員達との戦闘になります。
戦闘員に紛れて不意打ち、ヒーローっぽく目立つ場所から名乗りを上げる、窓を蹴破って派手に登場! など皆さんの思い思いの戦い方で『バレンタインチョコ大爆破』を阻止すべく、戦闘員の殲滅をお願いします。
「戦闘員の諸君、バレンタイン商品の強奪は大成功だ! よくやった!」
「「「イェアアアアァァァァ!!!」」」
倉庫の隅々まで届く声に戦闘員達が雄叫びを上げる片隅で、善治郎は盛り上がる戦闘員達に混じって会話を聞いていた。
「いやーホント今日はあんま面倒にならなくてよかったよな」
「そうそう、お店の人の抵抗なかったしね」
「一般人とかあんま怪我させたくないよな~」
「わかる~」
そんなやりとりを聞いていると、悪の組織に属する――かつては自分も相手にした敵だというのに、ここの戦闘員はなんというか、人間味がありすぎる。
「なんだかなぁ……」
ぼそりと呟きぼりぼりと頭を搔く。
楽しそうに話し合う戦闘員達は根が悪い奴らじゃないというのは分かった。凄く良く分かった。
だが、コイツラをまとめてボコボコにすんのはいわゆるヒーローの仕事だ。
今の自分にできる事は、ネットのWebマップに《ここ、悪の組織のアジト有》とこっそり書き込んでからの説得だ。
「なぁ、ぶっちゃけこの悪事働くの今日でも明日でも大差ねえ。納期バレンタインまでだろ? こちとら打ち上げ会やるってんでお前らの仕事納め待ってんだぜ?」
思いがけない申し出に戦闘員達は驚きつつも喜びを隠していない。
「待ってくれるの嬉しいけど、この作戦は第一弾だから仕事納めはちょい先なんだよなあ」
「しっとの燃え上がる三大しっとシーズンの一つだからねえ」
「バレンタインシーズンはちょいとばかし長期戦よ?」
今の会話には聞き捨てならない情報が含まれている。戦闘員達の会話に思わず神経を尖らせた。
バレンタイン前のこの作戦が第一弾、という事は――。
「「「かんぱーい!」」」
生ジョッキのグラスをかちんと打ち合い、ぐびっと一息に飲み干すと勢いそのままにおかわりを一気飲み。
「今日はぱーっと盛り上がって明日のお前らに期待しようじゃねえか。生ジョッキとフライドポテトと枝豆が寂しがってんじゃねえか。早いとこ夜通し語り明かそぉぜ?」
情報を一つでも多く聞き出そうとしていると、さすがの怪人もこちらの盛り上がりを聞きつけ声を張り上げた。
「これから『バレンタインチョコ大爆破』を執り行うというのに、フライング宴会は良くない! 大変よろしくないっ! 後にしなさい!」
良く通る声が倉庫内に響き渡ると、戦利品のを背に立つ怪人がリモコンを持つ手を再び突き上げ、すうと息を吸い。
「とりあえず仕切り直しだ! これより今回のメインイベント『バレンタインチョコ大爆破』を執り行う!」
「イェアアア! ――って、いうと思ったか~!!」
パーンッ!
「な、なんだ?!」
天へと放たれた煌めく弾丸の音に怪人達が何事かときょろきょろと見渡すと、
「あそこだ!」
戦闘員の声に一斉にコンテナの上へと視線が向けられた。
照明の輝きを天から受けて立つのは二人のヒーロー。
「へっへーん!一度は言ってみたかったんだ、ヒーロー参上! ってっ」
「やれやれ、お芝居もココまででいいわね」
キリっとした表情を崩してシャルロットがにっと笑えば、隣に立つソレイユも優しく笑んだが、二人の登場を怪人は快く思わない。
「作戦をジャマする奴は容赦せんぞ! 戦闘員達よ、かかれえっ!」
「「「イェアアアアァァァァ!!!」」」
怪人の命令に戦闘員達がシャルロットとソレイユが立つコンテナめがけて、どかどかと押し寄せてきた。
このままでは取り囲まれてしまう。
「さぁ! いこう! ソレイユちゃんっ」
「いくわよ、ロッティ」
迫るピンチも慌てる事無く二人は声をかけあい、ソレイユの右目は激しく燃え上がった。
全身の竜漿を右目に集中させた魔眼は視界に入った戦闘員達の隙をしっかり捉え。
攻撃するなら――今だ!
「今よ! やっちゃいなさい!」
「派手にいくよ~!」
コンテナから飛び降りるソレイユの合図に精霊銃に精霊が宿る宝石を装備したシャルロットは、応えるように狙いを定めて引き金を引く。
「敵の真ん中に雷よ、轟け~!」
どおおぉんっ!!
「ぎゃーっ!」
「うわあ~!」
放った弾丸の爆発に戦闘員達が巻き込まれ、運良く巻き込まれずに済んだ戦闘員は戦いに身構えるも、鋭く切り込んできたソレイユの攻撃にばたばたと倒れていった。
とはいえ、倒れた敵はほんの一部。両手両足を使っても数え切れない戦闘員が二人に襲い掛かろうと迫りくる。
「キミ達、リア充に一矢報いたい気持ちはわかるよ~? 悪いヤツがいるトコには正義もいるもの! チョコを取り戻させてもらうよ!」
「な~にが一矢報いたい気持ちがわかるだ! 気持ちが分かるならさっさとここから出ていけっ!」
「お断りよ!」
ぐっと拳を握り言い放つシャルロットに怪人が言い返すと、戦闘員を倒しながらすかさずソレイユも負けじと言い返す。
「よくもやったな! 戦闘員達よ、お前達の連携力を見せてやれ!」
「「「イェアアアアァァァァ!!!」」」
鋭い連携を残像とダッシュを駆使して攻撃をソレイユが躱すと、道を拓くように魔法が戦闘員を吹っ飛ばす。
数多い戦闘員達だが、二人を相手に少しずつその数を減らしてくのを怪人は憎らしげに睨みつけていた。
「おのれぇ、まさかここでこんなジャマが入るとは……」
誰も見ていないだろうこの時に、怪人はリモコンをぐっと握りしめる。
「戦闘中だがやむおえん、今こそチョコを爆破――」
「ざんねんでしたー! ドカーン! うおおー!」
「な、なんだ?!」
怪人が起爆ボタンを押そうとしたその瞬間、紙袋を被った女の子が戦いの中を駆け抜けて行ったのだ。
突然の事に怪人の手はぴたりと止まってしまう。
「こんなところに子供……?」
「違うみたいだよ、ソレイユちゃん」
攻撃をひらりと飛び避け二本のダガーで切り込むソレイユの傍を女の子は一気に通過し、シャルロットが放つ魔法をひょいと避けると、怪人めがけてまっしぐら。
「中止だー! あ、それわたしが押したい!」
「うおっ?!」
リモコンを持っていた怪人に紙袋を被った女の子――エミリーがぴょんと飛びついた!
「あーダメダメ! 危ないからダメだって!」
「押すのー!」
「こらこら落ちるから――うおっ!」
引き離そうとする怪人の手を器用に避けながらよじ上り、バランスが崩れた瞬間を狙ってリモコンをゲット!
くるくるとダンスを踊るように部屋の中央へ移動し、これ見よがしにボタンを押そうとすると視線は全てエミリーへと注がれる。
「「「「「ダメーっ!!!」」」」」
「おっとと」
怪人と戦闘員からの鋭い声に驚いたはずみで、チョコを入れた段ボール箱にぶつかりバランスを崩してよろけ、
「うわあーっ」
床に落ちてたチョコの包み紙を踏んで転んでリモコンはすぽーんとめっちゃすっ飛んだ。
リモコンの運命やいかに?!
「ひとまずチョコの爆破は免れたみたいだね♪」
「そのようね」
エミリーの一連の行動を見ていたシャルロットとソレイユはほっと安堵の息をつくと、戦闘員達もなにやら安心している様子であった。
「ロッティ!」
「まかせて!」
不意打ちで攻撃するなら今しかないと二人が即座に戦闘を再開させると、ばっちり息の合ったタイミングで放つ魔法はあっという間に新規戦闘員部隊を一気に蹴散らしてしまい、
「今だよ、ソレイユちゃん!」
「何やってんのお前達! もっと本気を見せつけろって!」
怪人の声も虚しくシャルロットの声に頷くソレイユは地を蹴り、構えたダガーで傷口をざぐりと抉ると戦闘員のばたばたと倒れていった。
「あとは敵を一掃するだけど、チョコは大丈夫かしら」
かろうじて爆発を免れたチョコ達だが、戦いに巻き込まれてはひとたまりもない。
山のように積み上げられたそれをちらと見るソレイユであったが、どうやら杞憂に終わりそうだ。
「これでおしまいっと」
二人が戦っている間にこっそりと近づいたエミリーがチョコを安全なところに運搬を終わらせていたようだ。親指をぐっと立ててサムズアップで完了を教えてくれる。
ついでに通信装置をジャミングしたので連携の妨害もバッチリだ。
「あと一息ね、ロッティ」
「何があと一息じゃー!」
「フルボッコにしてやんよ!」
汗で額に張り付く髪を払うソレイユめがけて戦闘員達がわらわらと襲い掛かろうと迫りくるも、相棒を守る魔法は完璧だ。
ずどどどどーん!!!
「「「ぎゃあーっ!」」」
「ボクのソレイユちゃんは誰にも傷つけさせないんだから!」
容赦ない魔法に戦闘員は吹っ飛んだ。
「この調子で残りも二人でやっつけちゃお!
「そうね、ロッティ」
無邪気な笑みに優しく微笑み返し、シャルロットとソレイユが戦いに身を投じる中、紙袋を被っていたエミリーも戦闘員を相手に戦おうとしていた。
「また白い花が咲いたなら、一番美しい歌をあなたにささげましょう、何度でも……」
倉庫内に上方から複数の眩い光が差し込み、紙袋を脱いだエミリーは光を受けて煌びやかに輝く美しい舞台衣裳を身に纏うと戦闘員達へと一気に突撃!
「なんだ?」
「うおっまぶし」
煌びやかな輝きを纏ったエミリーの攻撃をまともに受けた戦闘員達はばたばたと倒れていく。
これはいけないと戦闘員達は通信装置と使って連携戦闘を行おうとするも、通信装置をエミリーがジャミングしていたので全く作動しない。
「通信装置はどうした?」
「妨害を受けて作動しません!」
「くそっ、それなら連携なしで攻撃だ!」
華やかな舞台で披露される踊りのようにひらり、ひらりと戦闘員の攻撃を躱していると、ふいに近づく気配に気が付いた。
恐らくこちらから送った情報を見てやって来た者達だろう。もちろんここにいる仲間達もその気配に気付いている筈だ。
制圧射撃を行いながら、仲間の登場に視線を向けた。
「リモコンみーっけ!」
すっ飛んでいったリモコンをやっとの事で発見できた怪人は大喜びで声を上げた。
「まったく、こんなところまでリモコンが飛ぶなんて思わんかったなあ。あー、ホント見つかってよかった」
のしのし歩きながら状態の確認。少しキズついてしまったが問題はなさそうだ。
「チョコを奪い返されたからもう爆破できるチョコないでしょって? くっくっく! こんなこともあろうかと、もう一山作っておいたのだー!!」
うおおおおおおおぉぉぉ!!!
ババーンとスポットライトを浴びて登場した新たな戦利品の山に戦闘員達のテンションは激上がり。
「よぅし、それでは今度こそ今回のメインイベント『バレンタインチョコ大爆破』を執り行う! この装置のボタンを押せば仕掛けた爆薬ドカーン! チョコレートもドカーンだ!」
うおおおおおおおおおおおー!!!!
「これにてバレンタインは中止だ。リア充どもめ、覚悟するがいい!!」
「待てっ!」
リモコンを掲げた怪人がボタンを押そうとした瞬間、倉庫内に鋭い声が響き渡る。
「誰だ! 出てこい!」
「そうだそうだ!」
「誰か知らんが出てこいや!」
怪人と戦闘員達が声の主を探すべくきょろきょろと周囲を見るも、声の主の姿はない。
それどころか地震が起きたように足元が揺れ出すと、戦闘員達はバランスを崩したり倒れたり大慌て。
「うわああ~」
「地震だあ」
「ええい、これくらいでびびるでない!」
狼狽える戦闘員達を怪人が立ち上がらせていると、どこからともかく音楽が聞こえてきた。
派手さを感じつつ少し懐かしさを感じる曲調は、まさしく昭和の特撮ヒーローBGMのそれ。
「あ、あそこだ!」
BGMの発生源を見つけた戦闘員が指さす先には、これでもかと目立つ高い場所から隅々まで聞こえるようラジカセを掲げる広瀬・御影(半人半妖の狐耳少女不良警官・h00999)をはじめとした悪に正義の裁きを下すべく5人のヒーローが力強く立っているではないか。
「まったく動機がしょうもないったらありゃーせんモグ。とはいえやってることは迷惑極まりないモグね。きっちりとっちめてやるモグ」
「うるさい、何者だ! 名を名乗れ!」
モコ・ブラウン(化けモグラ・h00344)の声にボタンを押すタイミングを逃した怪人は怒りを露わに声を荒げると、5人のセンターに立つ千尋がすう、と大きく息を吸って声高らかに言い放つ。
「愛を知らぬ、ロンリーウルフ達よ……あたし達【愛の伝道師】が、お前達に裁きを下す!」
どがあああぁぁぁんっ!!!
パレットを高く積んだ場所からセンターの千尋をはじめ5人全員でドドーンと戦隊ポーズを決めると、どこからともなく演出的爆発が起きてカッコよさは倍増だ!
「愛を奪うものは許せんモグ!」
「ふっ……決まったな」
びしっと指さすモグを隣に会心の表情でつぶやく千尋。せっかくの機会だというのに変装で着ている10歳児の服装のままというのがいまいち締まらないのが心残りであったが、これが出来ただけで十二分に心は満たされた。
「……ちょ、ちょっとハズいモグね……」
「気にしてはいけニャイよ」
小声のモコにラジカセを掲げたままの御影が言うと、センター千尋を挟んだ向こうで日南・カナタ(|新人警視庁異能捜査官《カミガリ》・h01454)に合わせてポーズを決めた十六夜・宵(思うがままに生きる・h00457)が口上の追撃口撃を放べく息を吸う。
「そういう事するからもてないんだぞお前らー! 人をねたむから人から好意持たれないし! せめて隠す努力をしろ! そういうのを公にするな!」
「怪人達ー! 自分達がモテないからって許せないぞー!」
宵とカナタで言い放つ追撃であったが、何故か宵の隣に立つカナタだけが戦闘員達の不興を買ったらしい。
「うるせえバーカ!」
「じゃあお前はモテてるんだな? チョコ確定か!」
「チョコが貰えるご身分なんていいですねーえ?」
「羨ましいですな~あ! あぁ?」
想定外のカウンターを喰らったカナタは反撃しそこねてしまうと同時に心が揺れる。
隣にはカナタにとって大事な――と同時に『彼方』にとっても大事な人がいるからだ。
――で、でもさ『彼方』は宵ちゃんにチョコ貰った事あるかもだけど……。|カナタ《俺》は『彼方』の代わりに目覚めてからまだバレンタインを経験してない……。宵ちゃんは変わらずチョコをくれるのかな……それとも……。
ぎゅっと拳を握って隣を見ると、宵の瞳とかち合った。
いつも通りの瞳、いつも通りの表情。いつも通りの姿を目にしたカナタは迷いを振り払うようにぶんぶんと首を振る。
――いや、俺は俺だから……。チョコ、もしかして貰えなくたって俺は宵ちゃんが大事!
宵は何かを考えているだろうと察したようだが、ぱんと両頬を叩いて己を鼓舞するカナタは気合十分。
「俺、頑張ります!」
「うん、頑張ろう。カナタン」
カナタに宵小さく頷き、
「広瀬さん、モグ達も頑張るモグよ」
「頑張るニャン」
モコと御影もそれぞれ得物を手に構えを取る。
戦闘準備は整った。
「では行くぞ! 愛を知らぬ、ロンリーウルフ達よ!」
「なにがロンリーウルフだ! お前達、返り討ちにしてやれ!!」
「「「イェアアアアァァァァー!!」」」
千尋と怪人それぞれの声を合図に戦いの火蓋は切って落とされた。
「あのねぇ女子供には優しくとか不憫な人には同情とか人の気持ちが分からない訳じゃニャイでしょ。プレゼント壊したり踏みにじったり……冷静になれば最低な行為だって分かるワン? 罪償った後なら話くらい聞くニャン?」
そう話しかける御影めがけて危険な蛍光色に輝く戦闘員達がまっしぐら。
「悪の戦闘員だって人の気持ちが分からない訳ではありませんが!」
「リア充相手なら話は別ってヤツですよ!」
特攻モードの戦闘員達がものすごい速さで襲い掛かって来たので一人目の攻撃を武器で受け流すと、二人目はひょいとジャンプで回避し接続を切断を狙う。
標的を狙い定めて着地の瞬間、
「流石にオイタが過ぎるって」
「あいたっ!」
何処かからの銃撃をプレゼントされた戦闘員はばたりと倒れると、新たな戦闘員が襲い掛かる。
「話は罪を償った後に聞いてくれる? 今でしょ!」
「オナシャス!」
御影と戦闘員の得物と得物ががきんと打ち合い火花を散らし、
「何で話を聞ける時間があると思うんだワン? 無理ニャン」
「ワンだとかニャンだとかどっちなんだい!」
「どっちかで統一しろ!」
ばあんっ!
「ぎゃあっ」
「うわあ!」
「そんな事言われても困るニャン。個人の自由ワンよ」
不可思議な銃弾を受けてばたばたと倒れる戦闘員に肩をすくめてみせた御影の背後に、戦闘員が今まさに飛び掛かろうと――、
「みーくん、後ろモグ!」
戦況を見ていたモコの声に振り向きざまに攻撃を放つと、どこからともなく沢山のモグラが列をなして現れた。
「向こうは数が多いモグね。こっちも増援を呼んだモグよ!」
無線で召喚した配下モグラ部隊はモコの前でビシッと整列。
「なんかモグラがいっぱいいるう!?」
「気にすんな、我々の恐怖の連携力を見せてやろうぜ!」
「っしゃおらー!」
通信装置を接続した戦闘員達が連携力を駆使して取り囲もうとモコへとわらわら押し寄せるが、
「いけぇ! 犯人確保モグ!」
「「「モグー!!」」」
無線の命令を受けたモグラ部隊と戦闘員が大激突。
「ちょ、多い多い!」
「うぎゃー!」
戦闘員の連携なんてなんのその。戦いは数である。
あっという間に蹴散らしたのを確認したモグは新たに襲い掛かる戦闘員を蹴散らしつつ、戦況を確認する。
「みーくんに奇襲かけようとしている戦闘員に奇襲をかけるモグよ」
「「「モグー!」」」
「「「ぎゃあーっ!」」」
奇襲を狙う戦闘員達へのバックアタックは大成功。
「ぶちょーちゃんはまだ大丈夫そうモグね。……カナタくんと宵くんの方には戦闘員が多く向かってるモグ」
今ならその数を減らす事ができるだろう。
「モグラ部隊、カナタくんと宵くんに向かってる戦闘員を攻撃するモグ!」
一斉にモグラ部隊が動き出す中、カナタと宵は戦闘真っ只中。
「……っ!」
襲い掛かる攻撃を拳で受け止め、打ち払い、
「受けてみろ! |超絶気合撃!《トランセンデンス・ハンマー》」
「ぐあーっ!」
やる気満載超絶気合の一撃を受けて戦闘員が豪快に吹っ飛ぶと、襲い掛かろうとしていた戦闘員達にどかんとぶつかった。
「どんなもんだ!」
なかなかの攻撃を目に宵も物凄いでかいガンブレードを構えて狙いを定め、
「エレメンタルバレット『雷霆万鈞』発射ぁ!」
どおぉんん!!
放った雷属性の弾丸が着弾して大爆発。
「何人いようと全員打ち抜いてあげる!」
この一撃で戦闘員が何人も爆発に巻き込まれたが、全てを倒せた訳ではない。接続した通信装置のおかげで免れた数人が新たな戦闘員達と再び襲い掛かって来る。
「くっそー! 今のはちょっときつかったですけどー!」
「おい、あの攻撃は厄介だからみんな要注意な!」
通信装置で連携を図る戦闘員の一撃を宵が武器で受け流すと、続けて繰り出される攻撃にカナタは大きく飛び避けた。
戦闘員をボコっては倒し、弾丸を放っては倒し。
「あ、コイツさっきの奴じゃん」
ふと攻撃を躱した戦闘員が気付いてカナタを指さして言い放った。
「さっきの奴って?」
「ほら、おれ達にモテないからどーとかって言ってた」
「あ~……」
先ほどの口上を思い出したのか戦闘員達はうんうんと納得するように頷いてから、ぎろりと睨みつけ、
「「「チョコ貰える奴はいいよなあ~」」」
「ぐっ……!」
ハートに響く重い一撃にカナタは思わず呻いてしまう。
――と。
「「「モグー!」」」
「「「うわあーっ!」」」
猛スピードで突っ込んできたモグラ部隊が宵とカナタの前を横切って戦闘員達を蹴散らした。
「カナタン」
ガンブレードを構えたまま向けられる声にカナタははっとする。
宵と、みんなと戦っているというのに、自分だけがこんな事で戦いの手を止めるだなんて。
「あともう一息」
「そうだね」
拳を握れ、気合を溜めろ。
「実際問題チョコがあればそりゃ気持ち伝える切っ掛けになる。けど、チョコがなくたって人の想いは変わらない!」
――超絶気合撃!《トランセンデンス・ハンマー》
「どうだ参ったか非リア充どもーー!!」
思わず拳を突き上げるカナタを目に宵は敵めがけて弾丸を放って敵を蹴散らす様子を千尋はしっかり見届けていた。
二人だけではない。応援要請に応じて駆けつけてくれた皆それぞれの活躍で戦闘員の数は確実に減っている。
「制圧も時間の問題だね……」
ばたばたと倒れていく戦闘員を目に千尋は視界に入ったインビジブルに意識を集中し――、
「うおわっ?!」
懐に突如出現した千尋に戦闘員は文字通り飛び跳ねた。
「わ、わわわ……」
いきなり現れた女の子に腰を抜かしそうな戦闘員に千尋がそっと手渡すのはチョコレート。
「あ、あの、これは?」
「手作りチョコレートだ……これで何とか怒りを収めてくれ的な……余ったやつだけど……」
ズギュウウゥゥンン!!
仲間の様子を見ようと視線をちらりと逸らす仕草を勘違いした戦闘員は、ハートにダイレクトアタックを受けたようだ。
「大丈夫か!」
「か、かろうじて……致命傷、だ……。がくり」
「おい、しっかりしろ! 衛生兵! 衛生兵!」
手作りチョコをしっかりと胸にがくりと倒れた戦闘員に駆け寄る戦闘員達が取り囲む光景を千尋は傍観しつつ周囲に視線を放つ。衛生兵は多分いない。
ここはもうやるしかない。
「みんなにも……手作りチョコを……」
ドギュウウウウゥゥゥン!!
クリティカルヒットである。
特殊な嗜好の持ち主なら喜んでくれるだろうと考えた策であったが、相手はしっとの炎を燃やす野郎共。初めておかあさん以外から貰うチョコはシングルヘル共にとってオーバーキルすぎた。
「あああありがとうとざいます! ありがとうとざいます!」
「手作りチョコだああぁ!」
「家宝にして金庫に保管しますー!」
「いや、食べてくれ……」
狂喜乱舞の戦闘員達にぼそっと言うが、果たして千尋の声を聞いているだろうか。たぶん聞いていない。
「おい! なにやってんだ! 戦えっつーの!」
怪人は檄を飛ばすも効果はない。この様子ならもう一つの手段を使わなくても済みそうだ。
「ぶちょーちゃん、奥の方でチョコを欲しがっている戦闘員がいるモグ」
「あっちにもいるニャンよ」
モコと御影の声にチョコを渡し、
「春日井先輩」
「向こう!」
カナタと宵が指さす先へと能力を使ってチョコ渡し。
能力を使いまくってチョコを渡しまくり、戦闘員の逮捕制圧、これにて終了。
「終了だ……」
額を伝う汗をぬぐいながら見ると、正面に立つ怪人は怒りの感情を露わに仁王立ちをしていた。
第3章 ボス戦 『『デュミナスシャドウ』』
「おのれ……おのれおのれ! せっかくの作戦を台無しにしおって!」
倉庫内に怪人の声が轟いた。
戦闘員達をすべて倒され、リモコンを持つ手はぶるぶると怒りに震えている。
「選りすぐりの戦闘員たちは全て倒され、奪ったチョコの半分は奪い返された! なんという事だ! バレンタインは悪しき存在! 我ら『リア充撲滅しねしね団』にとってバレンタインは撲滅すべき憎きイベントだというのに!」
ぎりっと拳を固く握り怪人は吼えるような声を上げた。
「許さんぞ」
怪人の背後には奪ったチョコの山がある。
「このチョコだけでも爆破し、バレンタインを中止に追い込む。リア充どもめ、覚悟しろ!!」
高々とリモコンを掲げた怪人は、爆破装置を起動すべく起爆ボタンを押そうとするのだった。
●三章はついにボスである怪人との戦闘になります。
ヒーローっぽく戦ったり連携しあったりと皆さんの思い思いの戦い方で決着を付けちゃいましょう!
それっぽい技名で戦ってるみたり、なんかいい具合にキメてみたりしてみてはいかがでしょうか?
この章から参加される方は加勢にやって来た追加ヒーローみたいでカッコいい気がします。
怪人を倒せばチョコは元あった商店街に戻され、今回の事件は一件落着! です。
「流石です! 愛の伝道師、春日井先輩! チョコを渡して戦闘員たちを改心させていく……! 俺、感動しました!」
能力を駆使して戦闘員達へ手作りチョコを配りまくる姿を思い出したようで感極まったカナタからの賞賛に満足げに頷く千尋であったが、残すは事件の主犯格。
さあ、ここからが正念場。
「おのれ……おのれおのれ! せっかくの作戦を台無しにしおって!」
千尋をはじめとしたメンバーは物陰に隠れ、ボスである怪人の様子を伺っている。
「許さんぞ。このチョコだけでも爆破し、バレンタインを中止に追い込む。リア充どもめ、覚悟しろ!!」
ぱあんっ!
「な、なんだ?!」
「何度目モグ、リモコン! そうはさせんモグよ!」
モコが放つ発砲音に驚いてボタンを押そうとする怪人の手がぴたりと止まった。
「よーしモグラ部隊ご苦労モグ。撤収していいモグよ」
「「「モグー」」」」
戦闘員相手に活躍したモグラ部隊が颯爽と帰っていくのを見送る一同だが、これから怪人との戦いが待っている。
「ふむ、ラスボスの登場といったところかな。よし、モコ君! 合体技だ!」
「モグの変化の術の上手いところ、見せちゃうモグよ! モグーラ・チェーンジ!」
気合を込めた拳を握る部長に、にっと口角を上げてみせるモコはびしっと構え、あっという間に武装ヘリへと大変身!
「さあ、乗りたい人は乗ってモグ!」
「みーくんは残るワン」
「僕も残る」
急かす声に千尋とカナタが乗り込むと、地上に残る宵と御影は戦闘に備えて身構える。
「それじゃあテイク・オフモグ!」
離陸した武装モコヘリが一気に上昇すると、リモコンを手に怪人は起爆ボタンを今まさに押そうとしている。
「まったく、いきなり威嚇射撃されるわヘリが飛ぶとは思わなかったが……今度こそ!」
「待てーっ!」
上から降って来る声に怪人が見上げると、ヘリから身を乗り出す千尋の姿が!
「部長キーック!」
「うおっ!!」
勢いよく飛び降りた千尋渾身の蹴りが怪人に直撃し、手にしていたリモコンがぽろりと零れ落ちた。
「わー春日井さんかっこいー!」
部長キックのナイスヒットの思わず拍手の宵も怪人を指をさしビシッと決め、
「さて、怪人さん。年貢の納め時って奴だね。神妙にしてお縄についてね」
「おいこら! デュ、デュフフオナシャス怪人……? そういう訳でバレンタインは何もリア充たちの為にあるわけじゃないんだ! お前の浅はかな思い込みで大事なバレンタインを潰させるわけにはいかない!」
ちょっと色々とバレンタインに期待しちゃっているカナタも追撃したが、
「なぁにがデュフフだ! 膝笑わせて言うセリフじゃねえぞ! こっちからしっかり見えてんだからな!」
ぐっさり。
地上にいる怪人からのカウンターをモロに喰らってしまった。
千尋がヘリから飛び降りる様をガクブルして見ていたカナタであったが、まさかそれを怪人に見られていたとは思っていなかった。
「バレンタインを潰されたくなきゃさっさと降りてこいよ! まさかそこまで啖呵切っておいて、それに乗ったまま戦うつもりか?」
「俺も行くの? やっぱ行くんだよね? マジで? こ、こわ……」
地上で言い返してくる怪人をヘリから見下ろすと、それなりにいい高さでカナタのガクブルは止まらない。
で、なんか誤ってぽろっとヘリから落ちた。
「カナタくん、グッドラックモグ」
「怖いんだけどぉぉーー!!」
カナタの運命やいかに?!
……と、いった具合で地上へと落ちゆくカナタの視界に、ガンブレードを構えて戦おうとする宵が飛び込んでくる。
「あれ、なんか落ちてきて……って、カナタンなにしてんのーー!?」
「うわあーっ!」
「ツクコヨミ起動! いくよ!」
攻撃をしようとしていたまさにその時、上から降って来る声に見上げた宵は即座に決戦型ウォーゾーンを起動させて乗り込んだ。
ウォーゾーンは空中ダッシュで機敏に駆け抜け、伸ばした手でカナタを見事にキャッチ。
「カナタン、大丈夫?」
「助かったよ、宵ちゃん」
完璧な空中キャッチで事なきを得たカナタは礼を言いながら地上を見ると、何か小さなものが動いているのが見えた。それは沢山の数が群れのように動いており、どことなくモコのモグラ部隊のようにも見えるが……。
「行くワンよ!」
「「「もぐーっ」」」
呼び出した|配下妖怪《トモダチ》は御影の一声にモコのモグラ部隊っぽい掛け声で向かって行くと、怪人も黙って攻撃を受ける訳がない。
「なんだ? さっきのモグラ……か? よくわからんがデュミナス・キック!」
騎乗するシャドウ・ヴィークルからの跳躍から放たれた闇の炎を纏ったキックをモグラに仮装した|配下妖怪《トモダチ》は間一髪で回避すると、反撃とばかりに攻撃を繰り出した。
「いたっ! あいたたっ?!」
回避しようとする怪人だが、御影の援護射撃に阻まれてしまい攻撃をまともにくらってしまう。
「ホントになんだ、このモグラは! ……いや、やっぱさっきのとちょっと違うな?!」
「モコ君が呼び出したモグラ部隊に……似てニャイ? 変な生き物? まあそれも御愛嬌だワン」
愛用の拳銃から警棒に持ち替え怪人のキックを受け流すと、御影は|配下妖怪《トモダチ》に合わせて攻撃を打ち付ける。
ちょこちょこと動き回って攻撃する|配下妖怪《トモダチ》を援護して攻撃を続けていると、ふいに御影は厄介な可能性に気付いてしまう。
「これ以上リモコンとか変な物隠してたら厄介ニャから、ちょっとその辺を探して欲しいワンよ」
「「「もぐ」」」
|配下妖怪《トモダチ》が御影の声に一斉に動き出すと、それを見た怪人も動き出す。
「みーくんが時間を稼ぐニャから皆は探すワンよ」
「させるかっ!」
御影の牽制攻撃もなんのその。シャドウ・ヴィークルを駆り怪人が|配下妖怪《トモダチ》に攻撃を仕掛けようとすると、武装ヘリが目の前を横切った。
「うおっ!?」
「倉庫はちょーっとだけ狭いかもモグけど……構うこたぁないモグ!」
ごんっ! があんっ!
慌ててブレーキをかけた怪人は直撃を避ける事ができたが、武装ヘリに変身したモコは荒っぽい軌道を描くと痛そうな音を立ててコンテナにぶつかった。
「モコ君、大丈夫ワンか?」
「モグラヘリは頑丈にできているのモグ!」
積んだコンテナが落ちるほどの勢いに心配する御影に平気だと伝えるようにモコヘリはすいと倉庫内を飛んでいく。
ヘリによって攻撃を止められてしまった怪人も負けてはいない。
「負けてたまるか!」
アクセルをふかすとエンジンは吼え、
「させないワン!」
「なんの!」
御影の援護射撃をかいくぐってデュミナス・キック!
「あぶないモグ! ……あいたっ!」
闇の炎を纏った一撃を荒っぽい起動で躱して、再びコンテナにぶつかってしまったが、これくらいなら大丈夫。
変身時につけておいたガトリングガンを動かし、標準を定め。
「よくもやったモグね、お返しモグ!」
ダダダダダ……!
「あいたたたたったた!」
「ついでにくらえワン!」
ガトリングガンの乱れうちと援護射撃をくらい、怪人は大きくよろけた。どうやら想定外のダメージを喰らたらしい。
「おのれ、よくもやったな!」
受けたダメージに思わず声を上げた怪人の頭上をウォーゾーンが飛んでいく。
宵の決戦型ウォーゾーン『ツクコヨミ』だ。
「リミッター解除!」
呼応するように決戦型ウォーゾーンは真紅に輝き、決戦モードへと変形するとカナタを手に倉庫内を大きく飛翔する。
「ちりも残さず消えなさい!」
ガンブレードを構えると、制圧射撃・貫通攻撃・レーザー射撃・一斉発射を最大火力!
容赦ない攻撃が怪人へと放たれるが、もちろん怪人も対抗をする。
「ならばこちらも……『ケルベロスライブラフォーム』!」
強化フォームに変身した怪人は構えたケルベロスソーサーを駆使すると、
「ぶっ飛べー!」
「いくぞ、シャドウ・ジャッジメント!」
ぎぃんっ!
カナタのカスタマイズしたロングハンマーと怪人の右腕の爪が火花を散らした。
「なんだ、ヘリの中でガタブルしてたんじゃないのか?」
「うるさい!」
ハンマーを手に睨み返すと、真紅に輝くウォーゾーンが攻撃を叩き込む。
「カナタン、大丈夫?」
「大丈夫」
返ってく声にほっと安堵する宵は怪人を注視すると、すでにこちらに攻撃しようと身構えていた。
「覚悟するんだな!」
「させないモグよ!」
「うおっ!?」
今まさに攻撃すべく飛び掛かる怪人の前をヘリが横切り、御影からの援護射撃も飛んでくる。
「ぐっ、おのれ、邪魔しおって!」
声を荒げた怪人は援護の二人むかって声を上げている。注意がそちらに向いている今が攻撃のチャンス。
「カナタン」
「チャンスだね」
宵の声に頷くカナタは得物をぐっと構えなおすと怪人めがけて攻撃を叩きつけた。
「順調だな……」
部長キックをする事ができて満足した千尋は、皆が戦う様子をじっと見つめている。
宵とカナタが戦い、モコと御影が援護する。怪人も負けじと戦うが、千尋が戦闘に参加していないとはいえ4対1。数の上ではこちらが有利だ。
程なくして戦いは優勢になり皆が怪人をボコボコにしてるのを見ながら、千尋は姿を消し、敵の背後へ能力で移動すると手錠をかける。
「逮捕制圧!」
「ぐおっ!」
がちゃんと手錠をかけられ、怪人は低く呻いて膝をつく。
「罪状はチョコの窃盗罪とかで……まあ、とは言えあたしも鬼ではない。余った手作りチョコを恵んでやろう……餞別に。臭い飯と一緒に食うとよい……」
「ぐ……うぅ……」
膝をつく怪人は俯き悔しそうに呻くが、
「う……ぐぬぬ……ふーんっ!!」
ばっきーん!!
皆の戦いによってかける事ができた手錠はまるでおもちゃのように引きちぎられてしまった。
「これしきでやられるようではリア充撲滅しねしね団の怪人は勤まらんわ! あと余ったとはいえ、この手作りチョコはありがたく頂こう! 家に帰ったら大事に食べさせてもらうからな」
千尋から貰ったチョコを大事そうにしまう怪人だが、今戦っていた能力者の他にも戦闘員と戦っていた能力者がいた事を思い出す。
周囲をぐるりと見渡し、すうと息を吸い。
「おい、まだいるんだろ! 隠れてないで出てこい!」
倉庫いっぱいに声は響き、機会をうかがっていた能力者は姿をあらわした。
先行した能力者達の攻撃をしのぎきった怪人は周囲をぐるりと見渡し、すうと大きく息を吸う。
「おい、まだいるんだろ! 隠れてないで出てこい!」
倉庫いっぱいに声は響き、機会を伺っていたソレイユとシャルロットは応えるように姿をあらわした。
「そんな所にいたのか!」
「気付かなかったの?」
「あはは♪」
戦闘員と戦った時と同じく高い場所を陣取り見下ろしたソレイユは冷たい声で投げつけると、シャルロットも無邪気な笑顔で明るく笑い、
「最初にみんなのイベントを台無しにしたのだぁ~れ? 因果応報っていう言葉をしらないの? 奪われたら奪い返される。あたりまえでしょ」
「ぐ……ぐぬぬ……!」
続く言葉に怪人は歯噛みし、ぎりっと拳を強く握りしめる。
せっかく強奪したチョコを能力者に奪い返されたのを思い出して悔しがる怪人だが、まだ完全に終わった訳ではない。
「奪い返されたなら、こちらも奪い返せばいいだけだ! お前達を倒してチョコを奪い返してやる!」
「やれるものならやってみなよ♪」
シャルロットが挑発すると、怪人は強化フォームへと変身してシャドウ・ヴィークルと共に二人めがけて一気に距離を縮めてくる。
攻撃が届くのも時間の問題だが――、
「あらあら、変身できちゃうのはちょっと羨ましいわね。でも変身終わったら見せてもらうわ……。アナタの『隙』を」
全身の竜漿を右目に集中させたソレイユが迫る怪人をじっと見つめ、その瞬間を狙う。
まだ、まだだ……。
「今よ」
鋭い声と動きを合わせたシャルロットは一気に飛び出した。
ソレイユが視た『隙』を狙って一気に駆け抜け、怪人の懐まで一直線。
「残念なことにさぁ、最後はリア充が勝つ世の中なんだよ」
「ほう。ならばお前は、『リア充ではない』という事だな?」
挑発するようににんまりと笑顔を浮かべたシャルロットは、怪人の返しに能力を展開。
「サヴェイジ・ビースト!」
挑発に挑発で返されるも『隙』を突いた攻撃に怪人の腕に一筋の傷が走るが、大きなダメージには繋がらなかったようだ。殺意を纏った怪人は速度を上げるとソレイユに攻撃を放とうと大きく構える。
「気を付けて、ソレイユちゃん!」
シャルロットに頷き、自分の血液を込めた魔法石を埋め込んだブレスレッアミュレットを構えたソレイユだが、強化フォームで機動力を上げた怪人はあっという間に距離を縮めてきた。
あの機動力では間合いから外れるのは難しいかもしれない。一斉発射よりも近接戦に持ち込んだ方が早いと美しい装飾が施されたダガーを両手に構え。
「くらえっ!」
「……っ!」
きぃんっ!
ソレイユと怪人の武器が打ち合うと高い音が響き、
「ロッティ!」
「させるか! デュミナス・キーック!」
「くっ!」
加勢に入ろうとしたシャルロットは遮るように放たれた怪人の攻撃を受け流し、獣化させた手足で反撃を放つ。
狙い定めた気合の一撃を怪人は気合で受け止めると、武器をソレイユめがけて素早く振り上げ、
「ソレイユちゃん!」
「大丈夫、任せて」
放たれた攻撃をダガーで受け止めると一斉射撃で間合いを確保し、シャルロットの攻撃が続いた。
しばらく戦いは続いたが、チャンスは唐突に訪れた。
「うおっ、とおおっ?!」
ダガーの攻撃で受けた怪人が構えなおした瞬間に大きくバランスを崩したのだ。
「隙だらけだよ♪」
素早い攻撃を大きく躱してお返しとばかりに傷口を鋭い爪で敵の傷をざぐりと抉ってソレイユに目配せすると、ニッと不敵に笑う。
「さぁ! トドメだよ、ソレイユちゃん♪」
「楽しい楽しいバレンタインを邪魔しないでちょうだい。誰も望んでいないから」
「ぐおおっ!!」
ソレイユの放つ早業と衝撃波に飛ばされた怪人は、思いがけないダメージに遂にがくりと膝をついた。
「まさか、これ程のダメージを受けるとは……」
「さっき言ったよね。『最後はリア充が勝つ世の中なんだよ』って♪」
弱々しく言う怪人にシャルロットは言うが、弱々しい割には何だか様子がおかしい。
「くっくっく……我らに勝機はあるのだよ! 実はお前達に奪い返されたチョコはもう一山あるのだ!」
「えっ」
「まさか!」
予想外の発言に二人は驚きのあまり、互いに顔を見合わせてしまう。
「どうせ奪い返されるだろうと思って、チョコの山をもう一つ作っておいたのだよ! ババーン!!」
ばっと手を広げた怪人の背後には、初めにあったチョコの山より一回り小さいチョコの山があるではないか。
「さて、ええと、リモコン、リモコンは……あった」
激しい戦いに怪人は疲れましたと言わんばかりにため息をつきながら、部長キックで落としてしまったリモコンを拾い上げる。
「落としたり投げ飛ばされたりでリモコンもうボコボコじゃないか、まだ使えそうだからいいけど」
傷だらけで所々へこんでしまったリモコンだが、ちゃんと使える状態ではある事にほっと一安心。
これなら問題なく爆破もできるだろう。
「よし、それではこれにてバレンタインは中止――」
掲げたリモコンの起爆ボタンを押そうとした怪人だが突如吹きかかるスモークに驚き、思わずその手を止めてしまうのだった。
「さて、ええと、リモコン、リモコンは……あった」
激しい戦いに怪人は疲れましたと言わんばかりにため息をつきながら、部長キックで落としてしまったリモコンを拾い上げる。
「落としたり投げ飛ばされたりでリモコンもうボコボコじゃないか、まだ使えそうだからいいけど」
傷だらけで所々へこんでしまったリモコンだが、ちゃんと使える状態ではあるので一安心。
これなら問題なく爆破もできるだろう。
「よし、それではこれにてバレンタインは中止――」
掲げたリモコンの起爆ボタンを押そうとした怪人だが、突如吹きかかるスモーク思わずぴたりと止めてしまう。
謎のスモークの正体はエミリーが装置を使って発生させたものだが、それを知らない怪人は大慌て。
「な、なんだ?! スモーク演出は今回用意しなかった筈だが……」
「えいっ!」
「うおっ? り、リモコンがっ!!」
隙をついて念動力で怪人の手からリモコンを落とすと、足元に沈殿していくスモークの中へ上手く隠す事に成功した。
落ちたリモコンを拾おうと必死に探す怪人めがけ、白い髪をなびかせた夜白・千草(無形の花・h01009)が地を蹴り一直線!
「やれやれ、また事件か。仕方ねえ。私もお手伝いといきますか! ――来たれ!」
吼えるような声に呼応するように、刀を構えた武者姿の護霊・姿なき王が姿を現した。
「ぉおりゃあ!」
がづん!
我流である千草の拳に護霊の斬撃が加わり、かろうじて受け止める事に成功した怪人はざりっと後ずさる。
「なかなかやるな……うっ!」
反撃に転じようと構えを取るのをエミリーは見逃さなかった。自律浮遊装置からの目くらましを行うと、機関砲で弾幕を張って千草の援護。
「今です」
「任せな!」
エミリーの声に拳を握り直した千草の一撃は怪人の胴を捉え、護霊の斬撃と怪人の武器が打ち合い音を響かせる。
ぎいんっ!
火花を散らして打ち合う音を耳に照準を定めて攻撃するエミリーだが、怪人も援護に気付いたらしい。強化フォームで機動力を上げた怪人は、ケルベロスソーサーを手に物凄い速さで肉薄する。
「ええい、やかましい攻撃だ!」
「……くっ!」
襲い掛かる一撃をとっさにかわし、二撃は躍るように躱すも切っ先が掠めて緑の髪がはらりと数本、落ちていく。
攻撃が身体を捉えなかった事を安堵し、距離をとって武器を構えたエミリーの視界に善治郎の姿が飛び込んできた。
残るスモークに紛れてチョコの山に近づいているようだが、怪人が気付くかもしれない。もちろん千草も気づいている。二人は視線をかわして小さく頷き合い、
「それじゃあ派手にいきますか!」
「援護は任せて」
「ああ、任せた!」
護霊と共に駆ける千草を背にエミリーが機関砲をじっと構えて戦う様子を善治郎はちらと見る。
かつての自分であれば立ち向かう事ができたが、今の善治郎にその術はない。
「デュミナスシャドウ……恐ろしい敵みてえだな……。だが! √能力がねえ俺に出来るこたぁ何一つ、無い……っ!」
白くなる程に拳を握るが、能力を失った理由が理由である。今更それを嘆くような事はないが、戦う事ができないのは残酷な事実。
戦う事ができないのなら、自分ができる事をすればいい。
そんな訳で戦いでこちらに気付かれない間に善治郎は商店街へ戻す予定のチョコを回収して運び出す用意を進めていく。
倉庫に積まれたチョコの山は一度には運べない。幾度も往復を繰り返して運び出すと、お次は別の場所に移動させたチョコの山。こちらも回収。
「確かに奴さんは強敵かもしねえが。世の中には一つ凡そ不可侵の原則がある。多勢に無勢。だから戦隊ヒーローは数を揃えるんだぜ、憶えときな」
戦いの音を背に大体の回収を終えた善治郎は、大鴉型特殊戦闘車両――限界宣告「Bブラック・レイヴン」を呼び出し回収したチョコを積み込みはじめた。
「終わったみたいです」
「そのようだな」
倉庫から運び出されてほっと息をつくエミリーと千草の様子に、怪人はようやく異変を察したらしい。
「あ? チョコがなくなってるだと?!」
攻撃をくらいつつも怪人はチョコのあった場所に向かうが、あれほどまで積んでいたチョコがない。
「野望はここまでです」
「ぐうっ! 何という事だ!」
告げるエミリーに悔しがる怪人だが、新たな気配を察したようだ。
「ケホ……」
「誰だ 出てこい!!」
気配は咳き込む声が衣擦れと重なり、怪人は声を張り上げた。
倉庫の入り口で視線をいっせいに視線を集めるのは、長い青髪をさらりと流して静かに佇む青年――朔月・彩陽(月の一族の統領・h00243)。
「……助太刀に来ました。ケホ……」
「そんなに咳をしてるようなヤツ助太刀だと? そんな状態で戦えるのか?!」
咳き込む姿に怪人は言うが、彩陽は気にしない。
「その程度で潰れる計画とか杜撰やね。それにイベントごとは楽しむものですわ。まあ人それぞれ各々の性質もある事やし」
言葉は小さな咳でいったん止まり。
「人に迷惑かけたんやからごめんなさいしよな。でけへんならご退場。やで」
「うるさい! そんなに咳をするようなヤツに倒されはせんよ!」
続ける言葉に怪人が言い返すと、赤茶の瞳がすうと細まった。
「ホンマにそう思うん?」
「当たり前だ!」
言うや否や強化フォームに変身すると、二倍になった機動力で怪人は彩陽へと肉薄する。
「おおりゃあっ!」
「おっと」
箒型の月霊浮遊機に乗った彩陽は初撃をかろうじて回避すと、次撃は受けた手甲で受け流し、
「おお怖い」
わざとらしく言うが、当然、怖いなどとは露ほども思わない。月霊浮遊機に乗ったまま怪人と空中で距離を取ると、小さく唇は動き、
「……我が名に応えよ。我が命に応えよ。その名に刻まれし使命を果たせ」
紡いだ言葉に朔月の御霊の式神はその姿を現すと、呼応するように怪人に突撃すべく動き出した。
「突撃してな。式神達」
「な、なんだっ?!」
小さく咳込み怪人が逃げる様子を空中から眺める彩陽だが、もちろん命令は忘れない。正面と左右、者によっては後ろからと多数の命令には命令を術の様に扱い、かつ高速で終わらせるべく多重詠唱・高速詠唱で式神達の突撃コースは式神によって変更させた。
「相手も強化されたとはいえ何処までもしつこく追っかける式神達に何処まで逃げれるか見ものやね」
当然、怪人も負けてはいない。しつこく追いかけてくる式神たちを二倍になった機動力で躱し、突撃されてもケルベロスソーサーを使って斬り落とす。
もちろん、それは彩陽にとっては想定内だ。
「ぬ、ぬおおっ?!」
「グラグラ揺れてる中で動くのは中々難しいやろ。機動力上がっててもそれをつぶす為の動きやね。という事で」
地面が揺れてバランスを崩す怪人を見下ろし、咳を一つ。
「なんの、負けるか……おおおおおおっ!」
必死にバランスを取ろうと苦戦する怪人に容赦なく式神は突撃をしていく。
「いた、いたたたっ……ふぬーん!!」
式神の突撃をぶんと振り払い、怪人の攻撃は再び彩陽へ。
「くらえっ!」
回避しようにも間に合わない速さの攻撃に身構えたが――、
「させません!」
「援護する!」
「ぐおっ?!」
エミリーと千草の援護に怪人は豪快に吹っ飛んだ。
「大丈夫か?」
「大丈夫や、おおきに」
ぶん殴った拳をそのままに見上げて気遣う千草に彩陽が礼を言うと、壁にめり込んだ怪人が抜け出すのが見える。
「ぐっ……なんの、これしき!」
崩れた壁がパラパラと落ち、全身は今まで受けたダメージが蓄積されたのか、あちこちが傷だらけだ。
ここで一気にスパートを。
再び式神を召喚すべく、彩陽は小さく息を吸った。
その頃、ハンドルを握る善治郎は戦いとはかけ離れた平和な道を走っていた。
できる事が何一つないと自覚している以上、あの場所で見守っていても足手まといにしかならないからだ。
結末を見守る自分のせいで窮地に陥るような事があれば、本末転倒はなはだしい。
――それに。
「節介とは思うが、まあ折角の恋人達の祭りに野暮なこたぁ言うもんじゃねえ。悪は滅び世は事もなし。めでたしめでたしが、一番お似合いってもんさ」
そう、悪とは滅ぶものなのだ。
あの場所で自分が見守らなくとも、迎える結末はただ一つ。
「さあて久しぶりにひとっ走り、一丁配送業者の真似事と行こうか……!」
信号が青になり、チョコは商店街へと戻っていく。
上方から複数の眩い光が差し込んできた。
「えいっ」
空中に生じた光と影の中を舞うエミリーの身体が怪人の攻撃を踊るように、しなやかに躱すと、間合いを詰めた千草が召喚した護霊と共に攻撃を叩きこむ。
「う、ぐうっ!」
「そら! もう体力限界だろ!」
「まだだ、これしきでは倒れん!」
力を振り絞り放たれた攻撃はぶんと虚しく空を切り、
「そろそろ終いやね」
どうと地が揺れ、彩陽が召喚した式神の追撃をかわしていた怪人は足をすくわれ、思いがけないダメージを受けてしまう。
畳みかけるような攻撃にふらつき膝をつきそうになるが、怪人は耐えて構えをとる。
「ぐ……まだ負けんよ!」
だが、決着は既についている。
「フィナーレですっ」
「くらえっ!」
煌びやかな輝きを纏った攻撃と拳が叩き込まれ、式神が襲い掛かる。
「う……ぐぅ、っ……っ!」
致命的な攻撃を受けて遂に膝をついた怪人を、彩陽は月霊浮遊機の上からじっと見下ろしたのだった。
「お、おのれ……『バレンタインチョコ大爆破』が……お前達ごときに……」
膝をついたままの怪人は呻くような言葉を吐き出した。
「だがな、光あるところ影あり、リア充あるところ我らリア充撲滅しねしね団あり!! これで終わったと思うなよ!!」
どがあああぁぁぁんっ!!!
力尽きたのかばたりと倒れると爆発の中に怪人の姿は掻き消え、倉庫には戦った者達だけが残された。
こうして戦いは終わった。
奪われたチョコは無事に取り戻し、バレンタインに心弾ませる者達を救う事ができた。
だが、忘れてはいけない。
――明日はバレンタインだ! 嫌な予感しかしない!!
リア充達がいる限り、悪の軍団は再びその姿を現すだろう。
戦え能力者! 負けるな能力者!
頑張れみんなの能力者!!