⑧獣の道理をぶちのめせ
「非常にやばいな。」
御剣・刃 (真紅の荒獅子・h00524)はそう言うと集まった√能力者たちを見渡した。彼の眉間には皴が寄り、口調は静かだがその呼吸は明らかに怒りを表していた。
「クモプラグマが博多の地下街に非致死性の毒ガスをばらまいた。非致死性ってところがいやらしいとしか言いようがない。」
死んでしまえば人質には使えないが、生きている限り自分たちが見捨てることなどしないだろうし、庇って攻撃を受けることまで計算ずくなのかもしれない。刃の言う通り、とてもいやらしい作戦だ。こちらの弱みを的確についてきているあたりは流石。と言ってしまえばそれまでであるが。
「古来より、兵法にのっとれば足手まといは見捨てるのが常であり、常道だ。足手まといを抱えたままでは行軍速度は鈍るし、それを世話するためにまた兵士を割かねばならない。だから、見捨てる。」
そこまで言って、刃は、だが、と続ける。
「それは獣の道理だ。だが俺たちは獣じゃない。人だ。だから俺たちは人の道理に、俺たちの道理にのっとって戦う!」
刃の言葉に多くの者達がその通りだ!と頷いた。
そして刃は地下街の見取り図を取り出し。
「どれだけの人間がいたかもわからないが、日本の大都市の地下街だ。それなりの一般人がいることが予想される。一般人を利用することを思いつく怪人だ。俺たちを倒す為ならためらいなく一般人を標的にすると考えていいだろう。この怪人を倒せばそれでいいが、一般人が一人でも死んだら俺たちの負けだと思え。加えて、この地下街自体が怪人大作戦の効果地帯になっていて、クモプラグマは視界内の一人の攻撃を一回だけ失敗にすることができる。それをいつ使ってくるのかはわからない。止めの一撃を回避して決死の反撃をするのに使うのか、あるいは出鼻を挫いて一気に自分のペースに持ち込むのか、そこは相手次第だろうが、相手はこちらの一撃を確実に一回避けられるということだ。」
それがどれだけ強力なものなのか、そんなことは戦いに行ったことのある彼らには説明なんてしなくてもわかる。だが、分かっていれば対処の使用もある。避けられると覚悟していて放つ一撃と、予想もしていなかった一撃では、その後の行動に大きな差が出る。先にこれを知ることができたのは僥倖だろう。刃は全員を見渡しながら力強く言った。
「俺からお前たちに言うことは一つだ。この舐め腐った怪人を二度と俺たちの前に立とうという気なんて起こらなくなるまで徹底的に、完膚なきまでにぶちのめしてこい!」
第1章 ボス戦 『壱號怪人『クモプラグマ』』
「なるほど。確かにうまくやったもんだ。」
「来たか。√能力者。」
クモプラグマの前に立つ八百夜・刑部 (半人半妖(化け狸)の汚職警官・h00547)の周囲には何人かの一般人が苦しそうに呻きながら倒れている。非致死性ではあるが体の痺れとかではなく苦しみを与える類の物のようだ。
「良い趣味してるとは思えないな。」
「相手の弱みを攻めるのは兵法の常。卑怯とか言うまいな?」
「言わないよ。それでもお前が負けることは変わらないからな!」
「よく言った!やって見せろ!」
「クダテン、攻めっぞ!」
倒れ伏している一般人や物陰の影を移動し、クモプラグマの背後を取ったクダテン。紫電飯綱によって人型妖魔戦士モードになったクダテンと挟み込む形で刑部は攻める。手数とスピードは四倍。受けるダメージは二倍。効果時間は60秒。その間に決めると速攻の電撃戦を仕掛ける。
「ぬぅ、常にどちらかは私の死角に周るか!?」
クモプラグマは怪人大作戦で一度だけ攻撃を完全に避けることができる。だが、その対象は一人であり、二人を視界に収めていたとしても、どちらか片方の攻撃しか避けることはできない。数の利をもって闘う刑部の策は見事にはまっていた。
クモプラグマも蜘蛛牙カブトで応戦しようとするものの、いかんせんスピードが違いすぎる。攻撃を貰い反応した時には相手は既にその場には居ないのだ。そしてどこに行ったと探している内に死角からまた攻撃をくらう。
せっかくのバフも生かすことができず、クモプラグマは一方的に削られていく。が、ここでクモプラグマは床に倒れている一般人に攻撃する素振りをした。刑部とクダテンの脚が一瞬止まり、その人物の方を見る。
「そこが貴様らの弱さと言うものだ!」
自分から近い所に止まっていた方に、蜘蛛牙カブトを叩きこむ。尋常ではないダメージを受けたのはクダテンだった。吹き飛ばされた姿を確認した時、クモプラグマはチッ!と舌打ちをした。刑部の方ではなかったからだ。その隙に刑部は背後からクモプラグマに一撃を入れようと接近し、クモプラグマは後ろを向くとその一回の攻撃を怪人大作戦の効果で避ける。
(勝った!)
そう確信するクモプラグマ。確かに、勝っていただろう。刑部の攻撃が一回なら。
「ごばぁぁぁ!!」
最初の一回目の攻撃を避けることはできたが、続く三連撃をもろに受けてクモプラグマは吹き飛ぶ。
「虫知恵なんかに負けるかよ!こっちは半分虫も食う雑種の狸だぞ!」
弱肉強食が自然の理だというのであれば、クモプラグマは刑部に敗れるのが必定であったということだろう。
「ぬぅ、不覚を取った」
ある程度のダメージを受けたクモプラグマが身体をムクリと起こして周囲を見る。
「む、ここはこんな景色ではなかったはずだが?」
クモプラグマが驚くのも無理はない。明かりの輝く地下街のはずであった場所の景色がいつの間にか変わっている。これは確か、そう、人間たちの社会でライブ会場とか言うものではなかったか?
そこまで考えたところで、クモプラグマの前に二人の女の子が颯爽と登場する。一人は若干死にかけているが気にしないこととする。
「透空さんが死ぬ気で準備してくれたこの会場、気に入ってくれた?」
「ええ。頑張りましたとも!」
ゼヒュー、ゼヒュー、と今にも死にそうな荒い呼吸をしている架間・透空 (天駆翔姫・h07138)クモプラグマの作戦に対抗するためにこの突発ライブ作戦を頑張ったのだろう。それはもう、ほんと、死ぬ気で。
「ふむ。で、私と闘うのはお前たちでよいのか?」
「そうだよ!あたし達の全力ライブ!楽しんでいってね!」
溌溂とした声でそう言うとエアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)は愛用の精霊剣エレメンティア・ブレイドを抜くとフワリと浮き上がりクモプラグマに向けて一直線に向かって行くと斬りかかる。クモプラグマはそれをまだら蜘蛛変化によって体を変化させると、硬質化した牙で受け止め、反撃する。
エアリィの攻撃を怪人大作戦の効果で避けてしまおうかとも考えたが、地形が変わってしまっているのを考えるとこれは相手の√能力である可能性が高く、どんな効果かもわからない以上、切り札を容易に斬るのは愚策。そう考えたクモプラグマはエアリィと真っ向勝負を選択した。
そんなエアリィを透空は全力で援護する。決戦気象兵器・ハイペリヨンによるスポットライトがエアリィを照らし出し、その一挙手一投足が映し出される。が、エアリィをただ目立たせているだけではない。目立たせつつも、クモプラグマに向かってエアリィの行動を援護するように妨害をしている。
(むぅ、一人に集中してしまう。やっかいな連携だ。)
エアリィもエレメンティア・ブレイドによる斬撃だけではなく、空中を飛び回りながら精霊銃・エレメンタルシューターでの牽制射撃なども織り交ぜているため、クモプラグマはどちらを集中的に攻撃すればいいか、決めあぐねていた
「さぁ!クモプラグマさん!私たちの歌を聞きなさーい!」
透空の声に反応するように、ハイペリヨンの妨害が先ほどより苛烈になった。
(勝負に来たか!)
ハイペリヨンに一瞬の気を取られ、エアリィを見失いどこだ!?と探すクモプラグマ。エアリィはクモプラグマの上空多角に飛びあがり、精霊剣・エレメンティア・ブレイドに精霊の力を籠める。
「世界を司る六界の精霊達よ、あたしに力を…。精霊達とのコンビネーション、じっくり味わってねっ!」
六界の精霊の力を纏ったエアリィが上空から一気にクモプラグマ目がけて突撃する。この一撃はヤバい。そう判断したクモプラグマは怪人大作戦の効果を使って避けようとする。が、それは不発に終わり、エアリィの一撃が深々とクモプラグマの体に突き刺さった。
「馬鹿な!?どういうことだ!?」
途端にライブ会場から元の地下街に景色が戻る。
「まさか、あの√能力は!?」
そう。透空の√能力燃えて弾けろ、情熱の炎は視界内の相手の行動を一回、失敗に終わらせることができる。つまり、透空の√能力によって、クモプラグマがエアリィの攻撃を避けようとしたことを失敗させられたのだ。回避失敗による直撃。宝くじに当たるようなトンデモである。
「あたし達のライブ、楽しんでもらえたかな?」
そう言って得意気に立つ二人に、クモプラグマは惜しみない称賛の拍手を送りたくなった。
「全く、こうまでこの作戦を覆されるとは。」
クモプラグマはそう呟きつつも、√能力者たちの強さを認めていた。これは骨の折れる相手だ。
「そこまでだ!クモプラグマ!」
叫びとともに現れた空地・海人 (フィルム・アクセプター ポライズ・h00953)の姿を見るなり、クモプラグマは先手必勝!と言わんばかりに怪奇蜘蛛脚を発動すると、鋭利な蜘蛛脚で襲い掛かった。
「おっと!いきなりご挨拶だな!」
「お前たちは乗せてはだめだと勉強したのでな!」
今までの相手に対して持っていた油断。と言うものを完全に排除したクモプラグマは海人を確実に抹殺するべく、海人が行動を起こす前に出鼻を挫いた。が、それでも海人に一撃を入れることができず、クモプラグマは冷静に足の狙いを変えた。
その先にいるのは毒で苦しみ、呻いている一般人
「!!」
「とったぞ!!」
そう確信し、蜘蛛脚を一般人に向かって突き出す。が、その足に肉を貫いた感触は何時まで経っても来なかった。その代わりに、ゴトン、と自身の蜘蛛脚が足先から四分の一程のところで切断され、地に落ちている
「現像」
そこにいたのは赤い装甲を纏った、フィルム・アクセプターポライズ √ウォーゾーンフォームへと変身した海人の姿。その手に持つ閃光剣・ストロボフラッシャーがクモプラグマの脚を切断していた。
「ここからが本当の勝負だ!」
そう言いながらクモプラグマに向かって行く海人。クモプラグマも蜘蛛脚による精密な攻撃と蜘蛛糸による広範囲の攻撃を仕掛けるが、悉くが閃光剣によって斬り割かれる。そして海人が力強く踏み込み、クモプラグマに渾身の一撃を叩きこもうとしたところで、クモプラグマは怪人大作戦の効果を発動し、海人の攻撃を避けた。そして、ここしかないと言わんばかりに、蜘蛛脚を海人の胸に突き立てる。
装甲を貫く感触と中の肉を貫く感触。その二つを味わったクモプラグマは勝った。と思った。
「失敗することが分かってれば、どうとでもなるってね」
「!?」
第六感によって直感的に避けられる。と悟った海人は防御に意識を集中し、急所を避けていた。
そして、油断しきっていたクモプラグマに閃光剣が無慈悲に振り下ろされた。
「一般人が死んだら負けと思えですってぇ?」
無力で、足手纏いで、殺されても戦況に影響もない一般人が。
「最高よねぇ。」
それでこそ人間。美しい人としての在り方である。ならばその道理に従おう。誰一人死なせない。愛しい人間たち。
「最後はお前か」
今や満身創痍になったクモプラグマは八海・雨月 (とこしえは・h00257)の方を向いてボロボロの自分の体に鞭を入れて立ち上がる
「最後ってどういうことぉ?」
「なんとなくそんな気がしたんだ。」
あらそう。と興味ないように応える雨月にクモプラグマは何も言わず、自身の体をまだら蜘蛛に変化させる。これが最後の戦いになるのならば、せめて一矢なりとも報いて見せようという決死の覚悟を感じさせる。
「古き盟を以て」
雨月は√能力、耶彌宇津奇矛で生成した槍を咄嗟にクモプラグマに投げつけた。なりふり構わないクモプラグマの行動を先読みしたからだ。この男はもう一般人を攻撃することになんの迷いもない。その予感通り、クモプラグマは一般人をその牙で貫こうとしていた。
「読まれたか。」
「あなた、良い匂いがするわねぇ。味の方はどうかしらぁ?」
当的と同時に駆け出した雨月のスピードは√能力により三倍に強化され、並の相手では視界にとらえることすら難しい。まだら蜘蛛に変化したクモプラグマに蹴撃を叩き込みつつ、一般人を攻撃しようとしていると察すれば桁違いのスピードでそこへ先回りし、蹴りを叩きこむ
「ほら、護った。」
だが、お互いに致命打を与えられず、このままではじり貧である。雨月は腕の変化を解き鋏角に戻すと、クモプラグマを引き裂こうと振り下ろす。その一撃を怪人大作戦の効果で避けたクモプラグマは硬質化した牙で雨月を貫く。
「食べちゃいたいくらい可愛いわねぇ。」
そのままクモプラグマの体に優しく回される雨月の腕。が、それは抱擁ではない。逃げなくするための拘束。雨月はそのままクモプラグマを逃げられなくすると、その頭を齧り潰した。
「性根のわりに悪くない味だったわぁ。」
ゴトリ、と頭のなくなったクモプラグマの体が落ちる。獣の道理にのっとって戦いを挑んだ怪人は、その道理の上で、敗北を突き付けられたのだった。
