⑧一度だけの失敗
「もう聞いているかもしれないが、ゾディアック継承戦争の火蓋が切られたようだよ」
これによっていくつかの勢力が動き出し、壱號怪人『クモプラグマ』は他の有力な怪人と共に天神地下街全域に非致死性の毒ガスを散布する「怪人大作戦」を発動しているのだよとアルデ・ムーリガー(お弁当の緑のギザギザの付喪神の|屠竜灼滅者《ドラゴンスレイヤー》・h05416)は言う。
「もちろん、この事態は捨て置けない。早急に人々を救出し、怪人を撃破して貰いたいところなのだが――」
敵はこの|怪人大作戦《√能力》の効果で「視界内の敵1体の行動を一度だけ必ず失敗させる」ことが可能なのだとか。
「ここぞという場面で使われれば厄介極まりないだろうね。そして」
君たちが赴いた場合、天神地下街で戦うことになるのは壱號怪人『クモプラグマ』とのこと。
「大首領プラグマが自ら作り出した『最初の怪人』であり、最も旧式が故に最も弱い筈とされているが、私には交戦経験がなくてね」
実際のところはわからないとしつつも、大首領と直接面識のある希少な存在でもあるらしいよとアルデは補足情報を入れ。
「相手が此方を一度失敗させて来るなら隙の生じぬ二段構えで備えるか、失敗を前提に作戦を組むあたりが無難だと思うけどね」
どのような対策をくむかは君たち次第であり。
「天神地下街を利用する人々の為にもよろしく頼むよ」
そう言ってアルデは緑のギザギザの身体を前に曲げて見せたのだった。
第1章 ボス戦 『壱號怪人『クモプラグマ』』
「俺は、こう言うモンさぁ。スマンが、時間がなくてね。今すぐ全員ここから避難してくれ。さもなきゃ、明日の新聞の一面が大惨事になっちまう」
現場に足を運んだ|金菱・秀麿《かなびし ひでまろ》 (骨董好きの異能刑事・h01773)がまず行ったことは実行犯の捜索ではなく警察手帳を地下街の警備責任者に見せ、利用客を避難させるよう|説得す《言いくるめ》ることだった。
「思った以上に時間がかかっちまったな」
その結果、ポツリ零しながらもしっかり成果は出した秀麿は標的を探して地下街を歩き始め。やがて一つの人影を発見することとなる。
「蜘蛛の怪人ねぇ……なかなか、狡猾そうな相手と見た。なら、お前さんが策を弄する前に手を打たせてもらうさぁ」
視線は外さず、息を吸い。
「少し大人しくしてもらうか。そこを動くなよ!」
「よくぞ見つけたといいたいところだが、まだ甘い」
「なに?!」
叫んだ瞬間、動きが止まる筈のクモプラグマが地下街の床を蹴って跳ぶ。背中からは蜘蛛脚を生やし。
「ぐあっ」
そこで遠巻きに秀麿が|愛用の5連式リボルバー拳銃《カミガリ式M60》で放った牽制射撃が命中して床に落ちた。
「初動をとめられた方が拙いと見て金縛法の方を失敗させて来たか。お前さん、古兵って感じだな……考える時間を与えちゃこっちが不利になりそうだ」
「そう、か!」
言葉の通りに時間を与えまいと秀麿が銃撃を続ければクモプラグマは蜘蛛脚で掴み引き寄せた飲食店の看板を盾にしながら秀麿目掛けて蜘蛛糸を放ち。
「舐めるなよ」
物陰に引っ込んで蜘蛛糸を躱すと銃弾を再装填し物陰から飛び出しながら秀麿は立て続けにカミガリ式M60を連射したのだった。
「私のために戦ってね、『お姉ちゃん』」
そう言いつつ召喚した|元・少女型生体兵器の怪異《乃衛矛》と天神地下街へ足を踏み入れたイリス・ローラ(支配魔術士・h08895)は地下街を奥へ奥へと進む。聞こえたのだ、銃声が。
(一度はどんな行動も失敗させるなら、こちらも行動する対象を増やせばいいよね)
味方が交戦しているなら、戦闘への突入はそう遠くない。怪人大作戦由来の失敗対策として喚んだ乃衛矛を一瞥すると、乃衛矛は弟を安心させる姉のように微笑んでイリスの頭へ手を伸ばし、撫でた。きっとイリスの視線の意味を誤解したのだろうが、イリスの方は一切構わなかった。
(気にしないといけないのは、この先だからね)
いつの間にか銃声が途絶えていた。味方が撃退されたのか、クモプラグマが交戦中だったこちらの味方を撒いて移動したのか、あるいは。
「近いとしたら、真ん中だね」
銃創をいくつか作った多腕の怪人が後方を気にしながら移動してくる様子がイリスにも見えて。
「始めるよ『お姉ちゃん』」
乃衛矛へ呼びかけ、イリスが意識を向けたのは、|左肩から生える山羊の頭部を模した怪異器官《災禍》。ヤギの頭部が精神を蝕む声で鳴き始め。
「ぐっ」
頭を押さえたのは一瞬のこと、周囲を見回したクモプラグマはその視線をイリスの方で止めた。
「見つかったね。声の出どころを考えれば当然だけど」
動じないイリスを守るように乃衛矛が進み出てクモプラグマに攻撃を仕掛ければ。
「先ほどの鳴き声の礼だ。君にこの捕食穴で切り裂かれ果てる死を贈ろう」
クモプラグマも自身の顔面を捕食穴へと変形させ始め。
「毒ガスの中で長引かせる気はねえ」
狙撃機であるユ―サネイジアの特性を活かし距離を取って狙撃姿勢をさせたまま|折木・龍也《おれき.たつや》(|伏龍《Quiet Fuse》・h13162)は味方と交戦する怪人を、壱號怪人『クモプラグマ』を見つめていた。いや、狙いを定めていた。
(狙うのは一つ。クモプラグマの顔面――捕食穴だ)
|ユーサネイジアに搭載する長距離狙撃銃《Last Call》がゆっくりと動き。
「一度だけ、失敗させられるんだったか、何度でも当ててやるよ」
嘯きながら照準を怪人頭部へ固定させ。トリガーが引かれれば最初の一射がクモプラグマを襲う。
(当たればそれで万々歳、どっちだ?)
流石にこれを看過できなかったのだろう。何の因果かクモプラグマは唐突に振り返り、龍也の狙撃は失敗に終わった、だがこれでイリスたちを意識するどころではなく。
「悪いな。 戦場の床は、俺が決める」
これも想定に入れていた龍也は|牽引重圧域《トラクターフィールド》を展開し地下街の壁面を下とする。
「がっ?!」
急に横向きに変更された重力によってクモプラグマは壁へ叩きつけられ。
「悪いな。狙撃兵ってのは、WZの|構造《つくり》の話でな」
ユ―サネイジアを急加速させた龍也はその機体をもってぶちかましをかけ。
「ごはっ、ぶ」
「一度外させりゃ安心したか?」
激突したクモプラグマを機体で押し続けるようにしながらラスト・コールの銃口を怪人頭部の捕食穴へ突き立てる。何をするつもりかなど問う必要もない。
「次は外さねえよ」
宣言と共に発砲すれば口を塞がれた形のクモプラグマは悲鳴さえ上げられない。だが、まだ死んでも居なかった。
「ここは日中の暑い時でも日に当たらず、雨が降っている時でも濡れずに移動できる便利な道だな」
既に戦闘が始まって久しい天神地下街へ出張中に迷い込んだゼロ・ロストブルー(消え逝く世界の想いを抱え・h00991)は今進んでいる場所をそう評し。
「そこをこんな事にするのは……」
忍びない、ということなのだろう。
「できる範囲で手を貸すよ」
と協力することを決めれば実行犯を探し始め。
「説明は聞きましたが、ここで行われている作戦……とても厄介、と言わざるを得ません」
天神地下街の入り口で避難する利用客とすれ違った|架間・透空《かざま・とあ》(|天駆翔姫《ハイぺリヨン》・h07138)はぐっと拳を握る。
「それでも困っている人が、そこに居るのなら……やれることを、全力でやっていくだけです!」
幸いにも出てくる利用客はあれが最後だったらしい。
「──変身、解除」
女子高生から怪人に姿を変えた透空は決戦気象兵器を起動、風を纏い地下街へと足を踏み入れ。天神地下街全域に非致死性の毒ガスを散布する「怪人大作戦」を打ち砕くべく二人がそれぞれ動き出した頃。
「プラズマの古参怪人なのか。どうりで、あえて非致死性の毒ガスを使うなんて悪どい作戦を行うわけだ」
頭部に穴を穿たれたクモプラグマを見据え、|空地・海人《そらち・かいと》(フィルム・アクセプター ポライズ・h00953)は変身ベルトを腰に巻いていた。幸いにもまだ怪人には見つかっておらず。
「とにかく、そんな計画は……俺たちが全力で叩き潰す! 現像!」
掛け声とともに赤い装甲を纏うフィルム・アクセプターポライズ √マスクド・ヒーローフォームへと変身を遂げると|超技術で構築された光の剣《閃光剣・ストロボフラッシャー》を片手に飛び出し、斬りかかる。
「やはり、襲撃はあれで終わりではないな」
ほぼ間違いなく当たるであろう一撃が空しく空を切る。だが海人は、フィルム・アクセプター ポライズは動じない。
「なんとなくそうなる気はしてたからな。まさかいきなり切り札を切って来るのは予想外だったが」
「不意を突かれ深手を負えばその後すべてに差し障る」
冷静に次撃を繰り出すフィルム・アクセプター ポライズへクモプラグマは背中から蜘蛛脚を生やして応戦する。
「さて、どうしたものか」
その攻防をゼロは物陰から目撃していた。即座に出て行かなかったのは発見したら既に戦闘中だったからであり。
「……ひとまず様子見からだな」
青刃の双斧の片方をまずは投げてみるつもりだったゼロだが味方がクモプラグマと白兵戦を行っているとなると話は違って来る。入れ代わり立ち代わりの攻防ではクモプラグマの首を狙って投げた斧がフィルム・アクセプター ポライズの方にも当たりかねないのだ、ただ。
「投げなければ問題はないか」
投じる筈の一撃をただ斧を持ったままの首を狙う一撃に変更しゼロはフィルム・アクセプター ポライズに気を取られていたクモプラグマへ襲い掛かる。
「な、拙い!」
「っ」
あと一歩で届くところで不自然にゼロが足を取られた。だが、ゼロの獲物は双斧。
「はは、どのタイミングで失敗させるかは分からなかったが……首を落とされては流石に戦えないか」
転倒まではいかなかったゼロはもう一方の斧の柄でクモプラグマの目を狙い。
「させぬ!」
蜘蛛脚の一本が目を庇うように翳されてゼロの斧の柄を受け止めた。
「動かせる手足が多いのは便利だな……ならなこちらはその分、手数多く攻めてみるしかないか」
そもそもこの時点で二対一でもあるのだ。そう、この時点で。
(既に戦いは始まっていましたか)
透空が到着したのがまさにこのタイミング。
(向上したスピードでクモプラグマさんを翻弄しながら相手していきたいところではございますが、そう上手くいかないこともわかっておりました)
この地を選んで毒ガスを散布する大作戦を行おうというなら地下街事態を下調べし、クモプラグマは地形もあらかじめ熟知しているだろう。
(ここはアウェイ、その上で居合わせた方々とうまく連携できるかという問題もあります。ですが、どんな不利な状況だとしても、困っている人がそこに居るのなら諦める理由にはなりません!)
止まっていた透空の足が動き出す。
「天気予報をお伝えします。本日の天気──晴れのち雨。暴風警報、発令中です」
決戦気象兵器を起動してから風は纏ったまま。それでもあえてその台詞を口にしたのは味方と敵に自身の登場を告げるために他ならない。
「新手だと?!」
フィルム・アクセプター ポライズとゼロの双方を相手取っていたクモプラグマも透空を全く無視はできない。
「よそ見してる余裕があるのか?」
「うぐっ」
それでもすぐに二人との攻防に戻ったのは、なんであろうと一度は失敗させられるからか。ゼロの振るう双斧の片方をかろうじて蜘蛛脚で受け止め。
「今ですね。もし止められたとしても、あとは……最後の手段! 根性と気合です!」
無防備なクモプラグマの背に透空は一気に接近する。
「これ……で?」
そのまま一撃を放つも装甲すら貫通する筈の下降流突風はどういう訳か、あっさり受け止められ。
「ご苦労」
「っ」
体を回転させて薙ぎ払うように振るわれた蜘蛛脚から透空は咄嗟に離れて難を逃れれば。
「まだだ!」
「ふっ」
クモプラグマが拘束すべく蜘蛛糸を伸ばすも、フィルム・アクセプター ポライズは翻した閃光剣で焼くように蜘蛛糸を斬り捨て、蜘蛛糸を辿るようにして蜘蛛脚へ光の剣の切っ先が到達、ほんのわずかだが先端を切り飛ばす。
「ぐぬっ、がっ」
怯んだクモプラグマの腹をフィルム・アクセプター ポライズが蹴り飛ばし。
「こんどこそ、当てます!」
「ぐふっ」
透空の放つ|下降流突風《逆転の一撃》が今度こそクモプラグマの身体に突き刺さる。
「今だ!」
「ぐああああっ」
たたらを踏むクモプラグマに間合いを詰めて閃光剣を掬い上げるように振るえば、蜘蛛脚が二本、斬り飛ばされて床に落ち、クモプラグマが膝をつく。
「でやあっ!」
「っと」
ただ、それは誘いでもあったらしい。斬られ床に落ちた蜘蛛脚を武器代わりに握ってクモプラグマはフィルム・アクセプター ポライズへと突きを繰り出してきたのだ。
「危ない危ない。だけど、ピンチはチャンスってやつだ!」
先ほども助けられた第六感で蜘蛛脚の突きを躱したフィルム・アクセプター ポライズはその場で大きく跳躍する。
「決めるぜ、必殺技!」
「ぐっ」
相手にとって不足はない。空中で足を光り輝かせながら顔と腰のレンズから光のエネルギーをフィルム・アクセプター ポライズが全解放するとその眩しさにクモプラグマはたまらず顔を覆い。
「ポライズ……キックフラッシュ!」
「ぐあああああああっ」
必殺の蹴りががら空きだったクモプラグマの腹部に突き刺さる。
「プラグマの大首領に伝えてくれよ。お前らが何度人々を苦しめようが、俺たちは何度でも救い続けるってな!」
着地したフィルム・アクセプター ポライズは振り返らずに告げ、断末魔を上げたクモプラグマはうつぶせに床へ倒れ込む。
「終わったな」
直後にクモプラグマの身体が爆散し。
「私たちも脱出しましょう」
「そうだな」
どこに毒ガスが撒かれているのかわからないという問題もある。透空に促され残る二人は共にその場を後にしたのだった。
