シナリオ

⑥黒紫の黎明

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⚔️王劍戦争:ゾディアック継承戦争

これは1章構成の戦争シナリオです。シナリオ毎の「プレイングボーナス」を満たすと、判定が有利になります!
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(毎日16時更新)

●痛哭
「わたしは」
 透き通らない白い肌。
「わたしは、諦めません」
 それを覆い、守るような黒紫。レース孕むドレス。簡単に引き裂けそう、引き裂かれそう。
「わたしの身体は、引き裂かれてもかまわないのです。わたしの目的はただひとつ——ねえ、おねえさま」
 白い頭蓋に唇寄せて、屍王は宣う。
「おねえさまは仰いました。この世にどうにもならないことなど何ひとつないのだよ、と。ですから、おねえさま、わたしは諦めません。手段も選びません。これまでは√ドラゴンファンタジーのダンジョンでのみ研究を行っていましたが」
 夏の陽射し、その過酷さなど、願いの前にはなんの枷でもない。
 博多で最初に栄えたという商業の町・川端商店街に、黒紫の君降り立つ。
 彼女の名はラフェンドラ。ラフェンドラ・オピオイド。
 ゾンビウイルスを開発、あらゆる生命をゾンビ化させ、ゾンビを意のままに操る。ゆえに屍王。
 それはただひとり大切なおねえさまを蘇らせるため……。
「この豊かな楽園、生命の活気溢れる地になら、きっとおねえさまに相応しい検体が——それに楽園の守護者も楽園そのものを襲撃されたなら、いままでの中でもひときわ優秀な肉体をお持ちの方々がいらせられるのでしょう?
 ねえ、おねえさま、きっとまた会えます。そう遠くないうちに会いましょう。会いたいです」
 おねえさま、

 黒紫のドレスが踊る。
 相伴もないままに。

●行進
「まずいわね」
 セルマ・ジェファーソン、久方ぶりの星詠みは「ゾディアック継承戦争」の下に。
「ナニガマズイノ?」
 傍らの死霊、セルマに「ジョン」と呼ばれているものが問いかける。それは場に集まる全員の代弁であった。
 セルマは告げる。
「ラフェンドラ・オピオイドが現れたわ。場所は√EDEN、戦争真っ只中の博多区、川端通商店街よ」
 商店街、しかも博多で最初に栄えたというくらいだ。一般人がたんまりといることだろう。ラフェンドラにとって、それは豊潤な検体が獲得できる場所に他ならない。
「まあ、彼女がゾンビウイルスで復活させようとしている『おねえさま』は絶対死しているらしいのだけれど。彼女自身それを絶対死と理解した上で『絶対』を覆そうとしている。その域に到達した情念を止めるのは簡単なことではないでしょう」
 でも、ゾンビということは、死を経る。しかも一般人だ。一般人は死の全てが『絶対』である。
 セルマはその赤い目を軽く伏せる。
「残念ながら、犠牲は既に出ているの。川端通商店街はゾンビに溢れ返っている。ラフェンドラ本人にも似た白く透き通らない肌のゾンビが。その中にラフェンドラは紛れ、検体を探し続けているわ。それを見つけ、撃破してほしいの」
 諦めないという妄念。それを打ち砕くには、こちらも諦めずに臨むしかないわ——。
 告げる星詠みの向こう側、空には煌々と星が瞬いた。

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第1章 ボス戦 『屍王『ラフェンドラ・オピオイド』』


架間・透空

●葬送のうたを
 うぞり。
 通を満たすゾンビ。商店街を彷徨くゾンビ。ゾンビゾンビゾンビ。
 目に映る全てが歩く屍であった。
「ッ……ひどい」
 透明ななみだ。
 架間・透空(|天駆翔姫《ハイぺリヨン》・h07138)。如何なる|怪人《アイドル》へ変じようと、その心は等身大の少女と変わらない。なぜなら|怪人《アイドル》として|破壊活動《プロデュース》に身を投じた期間はさして長くなく、透明な少女の心を取り戻したからこそ、彼女はEDEN衝動を輝かせるのだから。
 その煌めき、透明さには、死者でも目を惹かれるというのか——ゾンビたちの視線は透空に集まり始めた。
 温度も、胸の高鳴りもない。
「……なんですか、これ」
 なぜなら、彼らはそれを喪った。
 死んでいるのだ。
「どうして……なんで、こんなこと」
 アイドルを夢見た。誰もが憧れるような銀幕のスター。ファンの注目を惹き付けて離さないような魅力的な存在になりたい。
 でも、こんな……命も心も喪ったただそこに存在するだけの眼差しは——悲しいだけだ。
 いらないのではない。悲しいのだ。
 この歌姫を志す少女は、いらないなんて決して言わない。
 悲しい存在であろうと、私は、あなたに歌を届けたい——
 だから、世界線を越えるほどの歌声で、架間・透空は死者の魂を震わせる。
 間に合わなかったという悔恨の宿る鎮魂歌。けれどそこに諦めなど微塵もない。うるうると涙わ湛える瞳にだって、諦めはない。
「インビジブルさん、お願いです。力を貸してください! まだ生き残っている方はいませんか!?」
 |親愛なる隣人とともに《ハイペリヨン・チャネリング》。
 一人でも多くの人を助けたい。そう願う透明な色のEDENは首魁の情報よりまず、要救助者の情報を求めた。
 まだ助かる命があるのなら、手を伸ばす。
 幸か不幸か、ここにはたくさんのインビジブルがいる。インビジブルとは幽霊、死霊。つまり死した存在である。
 生前の姿を取り戻したそのひとは、もしかしたらこのゾンビの群れの一人なのかもしれない。
 だからこんな証言をする。
『子供がまだ隠れているはず。あの建物の中に……助けてあげてほしい。私はもう、できないから』
「わかりました。……必ず、助けます……っ!」
 そのひとが示した建物へ駆け出しながら、透空は決戦気象兵器を起動。レーザーの雨を降らせ、屍を地へと還してゆく。その中にインビジブルによく似た面差しを見たかもしれない——
 救えなかった無力感が体の心の奥底から苛んでくる。
 それでも歯を食い縛って、涙を流しながらでも進む。

ヨシマサ・リヴィングストン

●達成のため
「ゾンビかあ。デッドマンより自我が弱い個体と考えて差し支えないんでしょうか〜?」
 純粋な興味の色。それはこの場に駆けつけるEDENの中では珍しい部類であったかもしれない。
 ヨシマサ・リヴィングストン(朝焼けと珈琲と、修理工・h01057)の中に「救えなかった」という悔いが存在していないわけではない。けれど彼は恨みの感情を欠落しており、結果、このゾンビの生みの親かつ使役者であるラフェンドラ・オピオイドを恨むことがないために、このような反応となるわけだ。
 目的はラフェンドラを見つけること。|群創機構装置Mk-III《スウォームメーカーマークスリー》を展開し、索敵を行う。
 ヨシマサの推論については、「そのとおり、似たようなもの」と言っても事実に大した差し支えはない。
 デッドマンは死者の体を継ぎ接ぎして「生きる者」、ゾンビはラフェンドラ曰く「生きながら死んでいる」らしい。似て非なる存在。
 ゾンビの形容が難しいとして、ヨシマサの探索に支障はない。デッドマンの生体データは登録してある。ゾンビが死者としての性質が優先されて表出するものなら、体温など生者とは異なる反応を出すだろう。
 サンプルとしてデータを算出するためのゾンビはたんまり目の前に存在する。その中からラフェンドラを捜し出すのも、見た目に依らない判断を用いればどうにかなるはずだ。
 例えば体温。挙動の傾向。手足の可動域。ゾンビは死者で生者の駆動から逸脱しているとして、ラフェンドラは? √能力者として生き、自律行動をしているのなら、ゾンビとの違いは明白ですらある。
「それにしても、絶対死を覆す、かあ」
 ぽつり、ヨシマサは呟いた。
「ただでさえ世の理を覆してる存在のボクらですら、絶対死には抗えない。抗えないからこそ、絶対なんですが。……抗えないものに抗おうとしてる。結構そのこと自体には応援に似た気持ちがあるんですけどね」
 人類の総人口をあっという間に三割程度にまで減らした機械群に立ち向かっている身なので。
 不可能と思えることにも可能性を見出だす姿勢はそれだけで見れば好ましい。
 ではなぜそんなラフェンドラを止めようとするか。
「人類に悪影響が出ている。その時点で、味方はできないんですよね~」
 単純明快。
 EDEN衝動もあるが、そもそも「抗えないものに抗おうとする」行いをヨシマサは人類のために採択しているので。
「みんなと勝つのは好きです」
 だからここで、あなたを見つけるだけ見つけて、みんなに知らせて、自分は攻撃じゃなく一旦退くのは一種の線引きなんですよ~。もちろん、精神的な線引きだけじゃなく、支援兵としての実力も踏まえた最良の戦い方ってやつです~。
 などと述べつつ、探索で拾った生体反応から、生存者の存在を確認、保護を行い、ヨシマサは退く。
「立てますか? 一旦危ないのでここから離れましょう」
「……うん」
 こっちの方が性に合ってる気もしますし、ね。

ウィズ・ザー

●ひとのみ
「おーぉー、こっちでもバイキング状態じゃねェの。食い倒れも叶いそうだぜェ♪」
 場違いに嬉々とした言葉に聞こえたかもしれない。
 ウィズ・ザー(闇蜥蜴・h01379)は人の姿を取ることもあるが、大抵は闇色の水大蜥蜴もしくは同色の豹海豹の姿をしている。ずるりと影より出でて、眼孔がないながらに広い範囲を眺め回し、あらゆるを喰らう。
 ゾンビを捕食することにも躊躇いはなかった。バイキングだの食い倒れだの、言動だけを聞いているとのべつまくなしの食いしん坊のようだが、彼は理由なく人食いはしない。捕食は悪人を懲らしめる手段、もしくは——弔いのための一時的保管方法。
 ゾンビを焼くことも切り裂くことも噛み砕くこともなく、一口で丸呑みする。そうして抵抗の暇すら与えず喰って回る様は蹂躙と例えられても何らおかしくない。
 しかし、丸呑みで遺体や遺品の損壊をなく納める。持ち帰り、後々、人だった残骸を遺族などに届け、でき得る限り、墓に入れてやるために。
 ウィズ・ザーはそういったことを生業とする葬士なのであった。
 影はどこにでもある。屍たちの行進により薄暗いこの商店街、どこにでも影はある。当然、歩く屍の足元にも。
 そこからウィズはやってくる。そして一つと思ったそれは、そこから一定半径内を喰らい尽くす。
 丸呑みにされれば、ゾンビは影も形もなくなり、商店街は閑散とする。この調子で続けていけば、やがて商店街中のゾンビを片付けられるだろう。
 高速で空中を移動し、効率的に繰り返していれば……その闇顎に抵抗するちっぽけな白。
 否、抵抗できるということは、ちっぽけなんてとんでもない——
「……あァ、そこに居たかよ。ラフェンドラ」

ハリエット・ボーグナイン

●屍人
 ゾンビウイルスでゾンビになったもののことをラフェンドラ・オピオイドは「生きながら死んでいる」と称していた。
 ハリエット・ボーグナイン(“|悪食《ダーティー》”ハリー・h00649)は思う。
「お仲間を殺すようで心が痛……まねえな、別に」
 ハリエットは一度死んだ身である。√能力者に真の意味での死は訪れないというのはさておき、一度死んでから、ハリエット・ボーグナインという形で再び生きている。そんな感じだ。
 誰かが、「ゾンビはデッドマンより自我が弱い個体という認識でいいのか」と口にした。その答えの体現。それがハリエットであろう。
「心は痛まねえが、申し訳ねえって気持ちにはなるな。気の毒ってか。おれみてえになれなかったのが運の尽きってやつだ」
 あー、うー。
 自我の存在しない屍体たちは意味のない呻きを上げ、ハリエットに噛みつこうとする。
 見れば、噛みつく相手はハリエットだけでない。もう既に自分の仲間であるゾンビにさえ、がぶがぶと噛みつこうとしている。
「あーあー、そんなのみっともねーからやめろ」
 ハリエットの負う棺桶から、鎖が伸びる。その鎖はやけにきらきらと聖なる光を纏っているかのように見えた。対怪物用祝福儀礼が施されている証だ。
 祝福を帯びた鎖がゾンビたちに絡みつく。
 |魔獣、死すべし《スリーピング・ダーティー》。
『アギャ、ウギイイィ』
「喚くな。楽にしてやる」
 ダン、ダン。ハリエットが拘束されたゾンビたちに銃を、包丁を、ショットガンを放つ。狙い澄まされたそれらは、着実にゾンビたちを仕留めていく。
 数ばかりうじゃうじゃと存在するゾンビ。その中でハリエットの一番近くにいたゾンビが、他とは違う気配を纏って、ハリエットに飛びかかる。ぐしゃりと腐敗した手が崩れるのにもかまわず爪を立て、ハリエットに組み付き、あんぐり口を開けた。ハリエットの生気のない肌色を気に留める様子もない。ただそこにある肉を喰う。本能のままの行為。
 屍王によって植えつけられた本能の。
 その開けられた大口に、銃口が差し込まれる。間髪入れずの零距離射撃。
「ったく、さっきから言ってんだろ。んなみっともないこたやめろ」
 それにしても。
「周辺にある最も殺傷力の高い物体って、何かと思ったが、ゾンビ……そうかゾンビか。ゾンビに襲わせてゾンビにする。筋が通ってら」
 ふつふつ、ハリエットの肩が揺れた。
「こちとら最初っからゾンビだ、なめんな!」
「そうですか。そんなあなたでしたら、おねえさまに適合するかもしれません」
 細い声が聞こえる。言っている内容を抜きにすれば、鈴の音のような愛らしい声色だ。
 おねえさま、おねえさま、もうすぐ会えますよ。会いたいです。
「おねえさま思いは素晴らしいが……そうして愛でられる趣味、おれにはねえな!!」
 ラフェンドラの位置を特定して攻撃を命中させるのも手だが、ハリエットはしゃらくさいと思った。
 手当たり次第やってりゃ、そのうち本物に当たんだろ。声は聞こえてんだし。
 ゾンビの攻撃は続く。ラフェンドラを倒すまでの我慢比べとなるだろう。だが、それはハリエットの望むところ。
 ドーピングや根性で耐え抜いてやるよ。

墨・迅
アリエル・スチュアート
土方・ユル

●赦されざる所以
 ぞろぞろと数の多いゾンビたち。噛まれたらゾンビ化の危険が伴う。ゾンビとアンデッドの最大の違いはそれ。死の感染性。
 そんな中に飛び込む墨・迅(黒衣の迅・h12802)。手にした暗器だの何だのを走らせ、急急如律令、風よ刃と為れ——そうしてひとまとめでゾンビを屠り去っていく。
 一つの刃が二つになり、範囲全ての屍を同じ刃で裂く。数がいるのだ、これが速い。
 その勇猛さは欠落ゆえに。
 ゾンビに噛まれることも、己がゾンビ化することも、迅は何ひとつ怖くはないのだ。傷つくことへの警戒が鈍く、怪我をしようが瀕死となろうが、それは退く理由になり得ない。
 それでも、生きるために駆けている。
 軍警ゆえに、人々を守り生かすのは迅にとって義務である。義務であるが生き甲斐でもあり、意味であると思う。
 これで義に篤いのだ。荒くれ者なんてやっているより、義のため人のために生きる『お巡りさん』なんて姿が、元々迅の天職だったのかもしれない。
「で、ラフェンドラの位置は他のやつらが特定してくれたんだよな?」
「そうみたいだね」
 迅の確認に応じたのは土方・ユル(ホロケウカムイ・h00104)。その手には特別捜査本部へと繋がる連絡機器があり、それで情報を取得、共有している。先にラフェンドラのポイントを特定した√能力者からの情報はもちろんのこと、他にもこの川端通商店街の情報はユルが課長を務める警視庁刑事部捜査第零課の敏腕職員により、網羅されていた。
 ゾンビの配置、ラフェンドラの配置、そして僅かながらに残る生存者の存在。
 もう生存者の幾人かは先に駆けつけた者らによって保護されている。ゾンビの数も着々と減ってきた。
「残っている生存者の保護はボクの方でやっておくよ。キミは先に行ってもらえるかな」
「ああ。助かる」
 目視しか手段のなかった迅としては、ユルのような情報収集と共有手段を持つ存在はありがたかった。課長というだけあり、信頼も持てる。
 だから迷いなくラフェンドラの方へ武器を走らせながら、踏み出していける。
 そんな後ろ姿をユルも頼もしく思った。
 軍警と|警視庁異能捜査官《カミガリ》では組織の体質がちがうかもしれないと危惧したが、同じくEDEN衝動を抱え、人を護るために駆けるのだ。
 ユルは生存者のいるポイントへ向かい、声をかける。
 そこら中のゾンビは「色白」というレベルを越えて白い肌であったが、生存者は青ざめながらも普通の肌色をしている。
 他の√能力者が助けたのも含め、ほんの数人である。指折り数えられる程度。——間に合わなかった、という悔恨はどうしてもよぎる。
 けれど、それはこういう仕事をしていれば経験することもある。そもそも事件を察知した段階で死人が出ていることはザラ。警察は事件が発生しないとおおっぴらには動けない。
 だからこそ、立ち止まってなどいられないのだ。ユルは愛刀を手に走り出す。
「あなたも、ラフェンドラの元へ?」
「キミは?」
 途中、アリエル・スチュアート(片赤翼の若き女公爵・h00868)と合流する。アリエルはフェアリーズレギオンの先導に従いながらユルに名乗り、こっちよ、と示した。
 |妖精達の行軍《フェアリーズスウォーム》でラフェンドラの姿は捕捉している。先行したフェアリーズがミサイル「フェアリーズチャージ」で攻撃および足止めを行っていた。
 一足先に到着していた迅が朱紐の浄銭を振るう。
「あんたがラフェンドラだな」
「あなたもおねえさまのための検体になってくださるのですか?」
「まさか。絶対死した奴はもう戻らない——分かってんだろ?」
「わかりません。どうして『絶対』という言葉だけで、わたしがおねえさまを諦めなければならないのか」
 迅の銭剣にゾンビを召集し割り込ませることで応戦するラフェンドラ。銭剣がぐちゅりとゾンビの腐蝕した肉体にめり込む。気持ちのいい感触ではない。
 だが、浄化は成され、ゾンビはラフェンドラの支配から解き放たれて崩れ落ちる。
「正直、大切な人の死を覆さんとする思いはボクにもわかるよ」
 そのタイミングでの闖入者。ユルである。その手にする霊剣・和泉守兼定はユルの先祖も戦場へ伴った愛刀である。
 思いに理解を示すユルの言葉に、ラフェンドラのゾンビたちが止まる。
「わかってくださるのですか?」
 理解者の存在がうれしくてできる隙。無論、隙を狙っての発言ではないため、ユルは言葉を連ねるが、その間にアリエルのフェアリーズが物量でもって夥しい数のゾンビを伸していく。
「わかるんだけど、他の犠牲を厭わない姿勢はさすがに許容できないよ」
「……それなら」
 ゾンビの一体がラフェンドラに引き寄せられるゾンビ・パラディーンとされ、ユルへの攻撃。
 斬。振りかぶられた腕より速く、ユルの抜刀。ゾンビは√EDENの一般人が素体。ゾンビ化したダンジョンモンスターより、戦闘力的な意味での強さは劣る。ゆえに、一刀で終わった。
 ユルが強化ゾンビを倒し、ラフェンドラへの道を切り開けば、そこを突き抜け、ラフェンドラに渾身の一撃を穿つはアリエル・スチュアート。
 高速詠唱による魔力溜めは十全。全力の魔法が黒紫のドレスごと包み込む。
「あぁァッ!!」
「ラフェンドラ、あなた結構綺麗な外見してるのに、そのやり方が大分えぐいのよ。もうたくさんの人たちに言われたでしょうけれど、他者の命を利用するやり方は看過できない」
 絶対死は存在する。天使化事変にて、それは示された。アリエルはそれを目の当たりにしてきたのだ。
 だからこそ、言葉も魔法も、深く突き刺す。

澪崎・遼馬
屍累・廻
クラウス・イーザリー

●黒紫の黎明
 白い肌のゾンビ。血液の赤さを忘れてしまったかのよう。
 ただこの商店街で和気藹々と買い物をしていただけであろう。通りすがっただけだろう。家に帰ったらお夕飯は何にしようだとか、このお菓子おいしいから今度行ったら友人の贈り物にもしようだとか、幸せで素朴な毎日を恙無く過ごすだけのはずだった人々。
 どうやら、ダンジョンモンスターがゾンビ化したものと異なり、√EDENの一般人が屍と化したその存在は戦闘力において大したことはない。
 けれど擬態にはもってこいだったのか。屍王『ラフェンドラ・オピオイド』と似通った見目に染め上げられ、ラフェンドラのために消費されていく命。使い捨ての消耗品。ラフェンドラにとっておねえさまに適合する個体以外は全てそうなのだ。
 クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)は顔を曇らせ、屍累・廻(全てを見通す眼・h06317)は瞑目した。
 クラウスは故郷である√ウォーゾーンのみならず数多の戦場を駆け、こういう場面には幾度も遭遇した。ラフェンドラとの対面も一度や二度ではない。一般人の犠牲者が多数出ており、それらを殺さなくてはならないことなど、何度あったことか。
 廻もそういう場面には立ち会っているし、星詠みとして、そういう事件を視ている。今回共にやってきたクラウス含め、事件解決に奔走するEDENらが視た未来の具現を阻止してくれることへの感謝は尽きない。それでも視られなければ犠牲が出て、このようになる。
 経験はあった。経験はあるが……だから慣れるということはなく、口内に立ち込める苦味やえぐみは増す一方。
 それでも、こんな悲しくてむなしい命ははやく終わらせなくては。
「ゾンビたちの方は当人が請け負おう。あなたたちは元凶を」
 クラウスと廻にそう告げるなり、澪崎・遼馬(地摺耶烏・h00878)は二丁拳銃を抜き放つ。
 響き渡る銃声、|貴方の為の葬送曲《ベルリオーズ》。それは瞬く間に白い屍たちを冥府へ誘う。きみたちの逝くべきはこちらだ。死神を名乗る黒衣の男。空を飛べなくとも、迷い人の導きである烏の姿であった。
「ありがとう。先に行きます」
 遼馬に短くそう伝え、クラウスと廻は進む。ラフェンドラの位置は廻の眼が捉えている。すぐ辿り着くだろう、と迷いのない足取りを見送りながら、遼馬は確信した。
 つながりを守りたいが故の飽くなき衝動を抱える者たち。そんなEDENらにとって、守るべき一般人を殺すのは心の痛むことだろう。仕方ないと割り切れたとしてもだ。
 割り切ったつもりでも、迷いや葛藤は存在する。それで足取りが淀むくらいなら、「どうしようもない命を刈り慣れた」自分が役を請け負おう。
 遼馬のそんな意図が伝わったかはわからない。だが、場を託されたのだから、なすべきはひとつ。
「許せ、とは言わない。存分に恨んでくれ」
 これから屠る屍たちへ、手向けの言葉を向けながら、葬送のための制圧射撃を。
 どうか、安心してほしい。きみたちをひとりとして取り零しはしない。死神として、全員冥府へ送り届けよう。
 白と黒の拳銃が歌う。止むことのない音楽に包まれて、白く白すぎる肌の屍者たちは倒れていく。正しい眠りへと落ちていく。
 白い肌は人間の普通の色の肌から逸脱した色合いだ。北欧などに見られる肌の白い人種という域も凌駕している。……とすれば、ラフェンドラが自ら紛れるために手を加えたのか。
「……命をこうも弄ぶか」
 ウイルスでゾンビにし、√能力で操るだけに留まらず。ラフェンドラ・オピオイド、屍王たる力を己が利のためだけに使う。
 その有り様に筆舌に尽くしがたい憤りが遼馬の中に渦巻いた。けれどそれを面に出さないよう努める。
 命も自我も失われているとしても、無辜の一般人の前で激情を露にするわけにはいかない。冥府へ旅立つきみたちを不安がらせてしまわないように。

「ああ、あなたたちは」
 黒紫のドレスがひらりと振り向く。
 そばに控えていたゾンビがクラウスと廻を迎え撃った。クラウスは目に青い悲しみを、廻は梔子色の険しさを湛えていた。
 パンドラの匣から飛び出した怪異がゾンビたちに絡みつく。怪異は人の恐怖や負の吹き溜まりより生じるもの。屍など恰好の餌である。
 廻の呼び出した怪異に動きを止められた者からクラウスが撃ち抜いていく。一瞬で終わるよう、狙うは脳天。
 黒っぽい血液が吹き出し、ゾンビはただの死体に返った。
 それを見、ラフェンドラが一言。
「どうしてですか?」
「どうして? それはこちらの台詞ですよ、|屍王《ネクロマンサー》」
 廻が応じる。
 大量の怪異を従える廻と大量のゾンビを従えるラフェンドラ。本人が自ら戦闘行為をすることが少ないことも含め、皮肉にも二人は似た様相に見えた。
 けれど、決定的にちがう。
「ここで『おねえさま』を復活させたいのですか? 絶対死を迎えた人を甦らせる事が出来るのなら苦労はしません。自然の摂理を壊そうとする時点でお門違いです」
「自然の摂理を『絶対』だと称している時点であなたとわたしの意見は合いません。この世に絶対にどうにもならないことなどないのです。それに、あなたが統べているこの怪物は? モンスターともまた異なる存在のようですが、感じ取れる構成に屍者と似たものを感じます。屍者の要素が混じった状態のモノを自然の摂理から外れていないとおっしゃるのですか? わたしのゾンビは否定しておいて」
 捲し立てるラフェンドラに、廻の表情の色合いが笑みを強める。
「ふふ、ご紹介致しましょう。彼らは怪異と呼ばれる存在。確かに死の要素も入り交じっているでしょう。怪異とは人間の恐れなどが吹き溜まり、形を為した現象の具現です。ゾンビと一緒にするなとは言いませんが……人間の無意識から生まれることの多い彼らは、ゾンビよりはずっと自然の摂理に沿って生まれ出ずるものです」
「口ばかり達者な人間はあまり強くないよ、とはおねえさまもおっしゃっていたことです」
「言い合いに勝てないからと、おねえさまを持ち出すのはおねえさまへの冒涜では? それに」
 無言実行をお望みでしたら、そちらは彼が。
 廻が言うのと同じタイミングで、ゾンビの群れをひとつ残らず討ち取ったクラウスが覚悟の踏み込み。
 手にした蒼月の刃がラフェンドラの首へまっすぐ伸びる。
 対話は望めない。何を言っても通用しない。けれどこちらも主張を変えるつもりはないから、一言。
「どんな√でどんな人を狙っても、君の願いは叶わないと思うよ」
「諦——」
 めません、の言の葉は続かなかった。
 首がはね飛ばされる。白濁の肌に白濁の瞳がころりと地に落ち、ぽてぽてと。……やがて√の向こうへ透明に消えた。
「EDENが来るとわかっていてなお、これなのですから恐れ知らずですね」
「うん。助かったよ、廻さん。他の仲間たちが生存者を保護したっていう話も聞いたけど、ここには……」
「いなさそうですね。私の眼でも確認しましたが」
 そっと廻は目を閉じる。その静謐さに倣い、クラウスも短く黙祷した。
 そこへ遼馬が合流する。
「元凶は」
「討ち取りました」
「そうか。感謝する」
 短く、ラフェンドラの撃退成功を確認すると、遼馬は周辺に転がるままの死体たちのそばへそっと膝をついた。一分程、黙祷。それから目を開けたまま死すものは、瞼を閉ざしてやり、丁寧に自らの背負う棺の中へ納めていく。
 レノーアと名付けられているその棺は遼馬のかつてのAnkerであった友の遺骸から造ったもの。見た目こそ一人用に見えるが、容量は底無しである。
 納棺師のような丁寧な措置はできない。けれど、クラウスや廻の攻撃法で遺体の損壊は比較的少ない。遺体を持ち帰り、遺族がいるのなら、遺品などと共に引き渡すことができるだろう。
 ここは√EDEN。【忘れようとする力】が強く、いずれゾンビらの死因すら忘れ去られ、家族との突然の別れは悲しみのみを後味に残し、忘れられていくだろう。けれど、遺体があるかないかでその死を如何に受け入れられるかが大きく変わってくる。
 ゆえに、可能なかぎり、連れて帰りたい。そんな願いからの行動であった。
「手伝います」
「俺も」
「ああ、ありがとう」
 遼馬の意図するところを廻とクラウスも察して、申し出をした。
 犠牲は出てしまった。それでも、帰るべき場所へという思いは二人も変わらない。
 EDENたちを駆り立てる衝動は、己の帰るべき場所を守りたいがためにはたらくもの。だからこそ他者にも√能力の有無の関わりなく、帰るべき場所、帰りたい場所があると思いを馳せる。
 その心馳せこそ、黒紫の夜更けに黎明を齎す——。

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