①民間人にハマれ!〜卑劣クマパレード阻止大作戦〜
●クマクマパレードの開幕。
その日の博多駅前は、非日常の気配に包まれていた。
場違いに軽快で楽しげな音楽と、クマさんたちの行進。夢の中のような、あるいはテーマパークのような光景が広がる。
『楽しい楽しいクマクマパレードだよ』
『子どもも大人も、みーんな おいでおいで』
『ヒミツの遊園地・クマクマファンシーにご招待』
『宿題もお仕事も、ぜーんぶ置いていっちゃおう』
そんな声——本当に聞こえたのか定かではないが——に誘われ、フラフラとした足取りで。
パレードの列へ、次々に民間人が加わっていく。
現実から逃れて、目指す先は楽しい楽しい遊園地……。
●星詠みよりEDENの皆様へ。
「うーむ、これは実に卑劣だねぇ」
|星詠みの天人《香・蓮心》は、指先で蓮の花を弄びながら、淡々と事件の説明を続ける。
曰く、博多駅前で|簒奪者の行進《クマクマパレード》が行われ、その列へと民間人が誘われてしまうらしい。
クマと手を繋いで歩く子どもたちや、癒しを求めて抱きついている大人たち。
そんな状況の中で攻撃を仕掛ければ、民間人も無事では済まない——ということらしい。
「裏を返せば……巻き込まれそうな民間人の興味を、行進へ向けさせなければいい」
とかなんとか、簡単に言うが。
「EDEN諸君、簒奪者に劣らない『民間人の気を引けること』を披露してみてはくれないかな?」
つまり|隠し芸大会じゃないですか《そういうことです》!
「あ、いくら一時的な衝撃——『忘れようとする力』で数分後あるいは数時間後には『平坦な日常の記憶』になるとはいえ……あまり凄惨なものを見せてはいけないよ? ほら、可哀想だし」
本当に思ってるのか、いないのか。
「√能力を使えば、敵も反撃してくるだろう。民間人が巻き込まれないよう、対処も含めて考えてくれると助かるよ」
最後にそう言い添えてから、星詠みは|EDEN《あなた方》を送り出した。
第1章 集団戦 『クマクマパレード』
●歌姫を夢見て。
「くっ……なんて可愛らしいクマさんのパレード!」
クマクマパレードの出現により、騒然とする博多駅前にて。
繰り広げられるクマさんの行進を目の当たりにし、学生服に身を包んだ藍髪の少女――架間・透空は歯噛みした。
どれほど可愛くとも、相手は平和を脅かすプラグマの手先。可愛く無害なフリをして、民間人の気を引くなど卑劣にも程がある……!
「こうなったら、私にだって考えがあります!」
幼き日の憧れは、今も色褪せず この手の中に。
おもちゃのマイクを握り締め、いざ。
「目には目を、歯には歯を……楽しいことには楽しいことを!」
これ以上、奪わせるものか。
胸に秘めた覚悟と憧れを、輝きに変えて。
「――アイドルステージ、展開ッ!」
高らかな声を合図に現れたのは、透空のための舞台。
小さく呼吸を整え、大きな一歩を踏み出して――さあ開演。
突如現れた舞台へと、騒然とする人々の視線が注がれる。
彼らに届くと信じて、透空は歌う。歌は世界を、そして心を繋ぐのだから。
◇ ◇ ◇
●もうひとりの歌姫。
「ああいうのって、ハーメルンの笛吹きって言うのよね」
同時刻。同じく博多駅前にて。
クマたちの行進を眺める影が、もうひとつ。
緑混じりの白髪が特徴的な小柄な少女――サルサ・ルサルサは、民間人を連れ去ろうとするクマクマパレードを遠巻きに眺めていた。
かの有名な童話『ハーメルンの笛吹き男』を思い出しながら。
「あの話は、確か……最後どこかへいなくなっちゃうだか なんだか。ゾッとしないのだわ」
このパレードの行き着く先は、『所在地不明の夢の国』。放っておけば、世にも恐ろしい大量失踪事件と化す。
だが、それを防ぐ手立てを、サルサはすでに閃いていた。
「何はともあれ、芸で気を引けばいいんだっけ?」
上等だわ、と気だるげな瞳が揺れた。
「わたしは砂漠の歌姫。そういうのは……得意中の得意なの」
砂漠で目覚めしタマサボテンは、動き出したら止まらない――。
「……のよっ?」
不意に、歌声が耳へと届いた。
クマクマパレードから発せられるものではない、しかし楽しげなメロディーに、人々が誘われていく。
その流れに乗って、サルサも声のするほうへと足を向けた。
◇ ◇ ◇
●スペシャルコラボステージ!
歌と踊りで繰り広げられるのは、お空からやってきたクマさんと出会う少女の物語。
澄み渡る歌声に誘われて、続々と舞台の前に集まってくる民間人たち。
さっきの行進は前座で、このミュージカルこそがメインイベントなのだ。そう思い込み、ステージに釘づけとなっている。
民間人を取り込むはずが、すっかり見向きもされない残念なクマクマパレード。綺麗に揃っていた行進が、バラバラに乱れている。
それどころか、歌につられて踊っているクマの姿も ちらほら。
『こんなんじゃダメだクマ〜』
『パレードのおジャマは御法度クマ〜』
困ったクマたちは、ミュージカルを妨害しようと四方からステージに迫る。
「――そっちこそ、無粋な真似はやめるのだわ」
そのふわふわボディを、巨大な根っこが次々に捕えた。
突如として観客の中から伸びたそれに、驚きを露わにする人々。だが、続くサルサの堂々とした歌声が、「これも凝った仕込みだ」と疑いを抱かせない。
そのまま ごく自然な動作で舞台に上がり、即興劇へ飛び入り参加を果たしたサルサ。
彼女の目配せを受けた透空は、嬉しげに目を細めた。
「あなたは……砂漠の歌姫さん! どうしてここに?」
「わたしも、クマさんたちをお空に帰してあげたいの。砂漠の夜空は迫力満点……大パノラマなのだわ。きっと どこよりも、お空へ届くのよ」
身振り手振りを交えつつ、物語を紡いでいく ふたりの歌姫。
「それなら、ぜひ砂漠に連れて行ってください!」
「お安いご用なのだわ」
サルサの背後で、根っこがビタンッと叩きつけられた。
その瞬間――ぶわり。
どこからか熱砂が湧き出し、即興ミュージカルの舞台は砂漠へと移る。
クライマックスの気配に、クマクマパレードも黙ってはいない。
『クライマックスは、クマクマキングの見せ場なんだクマ〜!』
ズシン……ズシン……。
砂を踏みつけながら、舞台へ近づく重たい足音。
人々が見上げた先にいたのは、行進していたクマたちをそのまま巨大にしたようなクマ――パレードによって召喚された『クマクマキング』だ。
彼の登場を盛り上げるように、クマクマパレードの演奏が勢いを取り戻す。
これも演出の一部。そう信じている人々は、ミュージカルの展開を静かに見守っている。
「ジッとしてるのは退屈よね。でも、ほんの少しの間よ」
クマたちの足元に広がる砂も、負けじと勢いを増していく。足を取られたパレードは、行進どころか退避も覚束ない。
「さあ、クマさんたち! お星様に乗ってお空へ帰る時間です!」
いよいよラストシーンだ。
透空が操る『決戦気象兵器』により、クマたちを目がけて|流れ星《レーザー》が降り注ぐ!
「「「クマ〜ッ!」」」
ヘンな悲鳴を上げて、クマクマパレードは『キング』諸共お空へキラーン☆
こうして、お空からやってきたクマさんたちは、流れ星に乗って帰って行ったのでした……。
◇ ◇ ◇
クマクマパレードの喧騒と入れ替わるようにして沸き起こる、拍手喝采。
銀幕の歌姫と、砂漠の歌姫。
ふたりによるスペシャルコラボステージは、大盛況で幕を閉じた。
●博多でぷいぷい!
「ぷいぷいもきゅ……」
愛らしい鳴き声と共に。プリチーなお姿が、博多駅前にトテトテぷいぷい現れた。
彼こそが野良モルモットの、天竺鼠・まる。
とってもキュートなモルモットだが、こう見えて彼は憤っていた。
その視線の先では、クマたちによる華やかなパレードが行われている。
これだけ見れば平和なものだが、彼らの正体は簒奪者の群れだ。
(もふもふに見せかけた簒奪者、ゆるせないぷい!)
もふもふは、平和でなければならない。
もふもふの悪用は、これを禁ず。
もふもふたるもの、悪のもふもふには人一倍敏感であった。
必ず、かの邪智暴虐のもふもふを除かなければならぬと決意した。
(おれさまにできること……そうぷい!)
ピコン、と閃いた瞬間。空を見つめたまま、数秒固まったに違いない。
(群れの仲間を呼んで……おれさまたちも、ちっちゃいけど『もふもふパレード』するぷい)
まあ、なんて素敵なアイデアでしょう。
モルモットといえば、仲間の後ろについていく習性。行進だったら負けるはずがないのだ。
「ぷい、ぷい、ぷーい!!」
まるの大きな鳴き声により、駅前に召集されたモルモット軍団。
一堂に会すると、鳴り響く「ぷいぷい」の勢いが凄まじい。
その大音量ぷいぷいアピールを聞きつけた人々が、続々と集まってくる。
「モルモットがいる〜」
「本当にぷいぷい鳴くんだ!」
「可愛いねぇ」
写真撮影OKぷい。撫でも抱っこもウェルカムぷい。
サービス精神旺盛で寛容なモルモットたちに、民間人はメロメロ。
焦ったクマクマパレードたちは、わたわたとパレードを乱していく。
こうなったら、無理矢理にでもクライマックスに持っていくしかないクマ!
『たすけて、クマクマキング〜!』
ズーン、ズーン……。クマたちに呼ばれて、やってきた『クマクマキング』。
巨大なクマの出現に、人々は騒然。
「危ないよ、モルモットちゃんたち!」
「一緒に逃げよう!」
しかし、心配ご無用。
モルモットたちは、皆一様に小さなキュルキュルお目目に闘志を宿しているのだから。
(出たな、親玉! 成敗してやるぷい!)
「「「きゅーっ!!」」」
小さなモルモットでも、数が揃えばクマにも勝る。
みんなで巨体によじ登って、かじかじ前歯攻撃!
パレードのクマたちにも、炎をお見舞いだ!
「「「クマーッ!」」」
モルモットたちの猛攻により、クマクマパレードは散り散りに。
こうして博多の平和は、勇敢なモルモットたちのぷいぷいによって守られたのだった。
●博多ねこチルタイム。
まだ静かな博多駅前にて。
どこからか現れたクマたちの群れが、演奏と共に いざ行進を始めようとした――その時だった。
「「「にゃーんっ!!」」」
「「「な、なんだクマ〜ッ!?」」」
ばーんと、にゃーんと、博多のねこちゃん大集合!
駅前は、クマより先にねこが占拠した。これぞ『招き猫によるイタズラ大作戦』なり。
「――もちろん、遊園地もきゃわわなマスコットもすきですが」
ねこたちを率いるのは、やはり ねこ。
ねこはねこでも、不忍・ちるはが「どろん」と化けた 喋るねこ。
「私は、世でいちばん気を引く存在を存じております」
ジリジリ。ねこらしい歩みで、民間人たちの前へ出る ちるは。
「それは――」
駅前の皆さんも、続きはもうおわかりですね?
そう、みなさんご一緒に。
「「「ねこです」」」
子どもも大人も、ご年配の方々も。もう辛抱ならないご様子。
足元にスリスリされたり、目の前で『へそ天』されたりしちゃったら、無理もありません。
「ねこちゃんたちと、チル……しますか?」
「「「します!」」」
|ちるはねこ《・・・・・》の問いかけを皮切りに、まったりねこちゃんチルタイムの開幕。
すべての上位存在、ねこ。
彼らが纏う魔力――『ねこちゃんパワー』は凄まじく、クマクマパレードが引き入れるはずだった民間人は、すっかり ねこに夢中。
ゴロゴロ甘えられたり、かと思ったらツーンとそっぽを向かれたり。
ひとのこころ、ねこしらず。でもいいんです、それがねこだもの。
「以前こんな神話を伺ったことがあります。はじめにねこが神を作り、神がねこの退屈を紛らわす遊び場として天と地を作られたのだ、と」
「すごぉい」
「はじめて知った」
こうして博多の少年少女たちは、またひとつ学びを得た。
誘導上手なねこたちに連れられ、気づけばみ〜んな避難完了。
『みんないなくなっちゃうクマ!』
『パレードも見てクマ〜!』
いよいよ なりふり構っていられないクマたちは、負けじと演奏再開!
突然の大音量に、ねこたちはビックリ。尻尾が逆立ち、お耳が後ろにぺったんこ。
「むむっ」
これは見過ごせないご無礼。
ねこたちのチルタイムを妨げる行いは、|何人《なんぴと》たりとも許されない。
どろんっ。ヒトの姿に戻ってもなお、ねこの如く素早い身のこなし。
ちるはは悪いクマさんに肉薄し――そのふわふわボディを、しなやかに投げ飛ばした!
『ごめんなさいクマ〜!』
『もうしないクマ〜!』
チルタイムから一転。
スローはスローでも、throwなタイム。
ポイポイされるクマたちの悲鳴が、博多駅前に響き渡ったのだった。
●ダンス with パレード!(あざとさを添えて)
クマクマパレードの行進が行われ、民間人が釘づけになっている真っ最中。
パレードの音楽とはまた別の、明るく楽し気な音楽が、博多駅前に鳴り響いた。
「民間人の皆さんの気を引く、となれば……やっぱりパフォーマンスが一番ですよね!」
自律飛翔する大型スピーカードローンを引き連れて現れたのは、小柄な少年――その性別を一目で理解するのは難しいが――氷原・明日里。
彼は軽やかな、ごく自然な足取りで、人々とパレードの間に飛び込んだ。
「さあ、皆さん! 僕と一緒に踊りましょう!」
明日里の呼びかけに、パレードについて行こうとしていた人々も興味を引かれて足を止める。
今こそ、配信者活動で培ったパフォーマンス|力《りょく》を見せる時!
『ちょっとキミ! パレードのおジャマは困るクマ!』
――と、簡単に乱入を許してくれる気はないらしいクマクマパレード。
こんな時にも、配信者としての経験は役立つものだ。
「わぁっ……ご、ごめんなさい……。クマちゃんたちがとっても楽しそうだったから、|ボク《・・》も一緒に踊りたくなっちゃって……」
ダメですか? と、小首を傾げ……追い打ちの上目遣い。
これぞ配信者活動で得たスキル・その2『あざとさ』。
うるうる。揺れる大きな瞳で見つめられ、クマさんも毒気を抜かれてタジタジ。
『そうだったクマね、怒ってごめんクマ~』
『キミも一緒にクマクマファンシーに行きたいクマ?』
『それとも入隊希望クマ?』
お客さんも新メンバーも大歓迎クマ~と、警戒を解いた様子の簒奪者。
狙い通りの展開に、明日里は涙を引っ込めてケロッと笑顔を見せた。
「わあい、ありがとうございますっ♪ じゃあじゃあ、僕のダンスに合わせて演奏してくれますか?」
『クマたちにお任せクマ~!』
魅惑の演技にすっかり油断して、明日里のための演奏が始まる。
「途中で大きな|演出《・・》もあるので、少し離れてくださ~い!」
ちゃっかり安全の確保も忘れずに。
観客たちも巻き込んで、ダンスパレードの始まり始まり。
跳ね回るように楽しげに、手足を大きく動かしてダイナミックに。真似しやすい簡単な振りつけで、子どもや女子学生たちはノリノリ。
『クライマックスは、クマクマキングを呼ぶんだクマ〜!』
盛り上がりが最高潮に達したら、いよいよクマクマキングの登場だ!
大きな大きなクマさんが、ズシンズシンと襲いくる。
――さあ、敵は出揃った。
しなやかに踊る腕が、脚が、途端に攻撃へと転じた。演奏に夢中なクマたちは、容赦なく踊らされていく。
「クマさんたちもダンスが上手ですね〜♪」
クマたちを――文字通りに――巻き込んだド派手な|演出《・・》に、駅前は大きな拍手に包まれた。
●ねこちゃんにだって恥はある。
『クマッ、クマ♪ クマッ、クマ♪』
目の前で繰り広げられる、クマたちの楽しげなパレード。あれが√ウォーゾーンの機械兵団らと同じ簒奪者だとは、にわかには信じ難い。
彼らに倣い、パフォーマンスか何かで民間人の興味を引く……。
喪った太陽を追うように、戦いへと身を投じる青年――クラウス・イーザリーにとっては無縁の世界だ。
けれど、それで誰かが救われるのなら。
(何か芸を……いや、芸なんてできなくていいんだ)
ただそこにいるだけで、人々を惹きつけるもの。
あるじゃないか、|俺にできることが《俺がなれるものが》。
「にゃっ……にゃーにゃー!!」
そう、ねこちゃんだ。
のび〜っ、と体を伸ばしてみれば、成人男性ほどの|全長《サイズ感》。猫種によってはギリギリどこかの一般家庭にもいるかもしれない。
「見て、ねこちゃんだ!」
「コイツは滅多にお目にかかれない大物」
「ありがてぇ」
そんな立派な ねこちゃんが目の前に現れたら、人々もクマクマパレードどころではない。
|作り物《きぐるみ》――だと一般人は思い込んでいる生物だが――と、目の前で今にも触らせてくれそうなリアルねこちゃん。
どちらが魅力的かは、語るまでもない。
『クマたちも可愛いクマよ〜』
『もっと大きいキングもいるクマよ〜』
見向きもされなくなりつつあるクマたちが焦り出し、必死に演奏しながら呼びかける。
しかし、民間人の心はすでにBIGねこちゃんの虜だ!
「ふにゃ~ん」
そして、ねこちゃんの大あくび!
これにはクマたちもつられて、ふわ~っ。なんだかまったりしてしまって、行進する気も削がれていく。
一方で、|彼《ねこちゃん》とて完全な無敵ではない。
衆人環視で、お腹を見せてゴロゴロニャ~ン……そんなことをすれば、消費するものがある。
|恥じらい《・・・・》である。
ねこちゃんだって、恥ずかしいのだ。
それに胸部から腹部にかけて――すなわち胴体の急所が集中する場所――を無防備に晒すことの危うさを、数多の死線をくぐり抜けてきた青年が知らぬはずもない。
やるのだ、それでも。だって ねこちゃんだもの……!
ひとしきり人々に触られた頃。
|クラウス《ねこちゃん》は、そろそろ恥じらいが限界に達しそうな気配を覚えた。
このまま気絶しては、また別の騒動が起こること必至。ねこちゃん騒ぎは、平和なまま終わらせなければならない。
……というわけで、ダーーーッシュ!
大きなねこちゃんは、『恥じらい』が尽きる前に離脱!
「あ~っ、ねこちゃん待って~」
「吸わせて~」
民間人の群れも、ねこちゃんを追って離れていく。
博多駅前にポツンと取り残されたクマクマパレード――まったりしすぎて座り込んだり寝っ転がったり――は、『可愛さの敗北』を噛み締めたのだった。
●リサイクルショップ・メガちゃん博多出張編。
『オーメガ♪ オメガ オーメガ♪』
博多駅前に、ド派手なトラックが滑り込んできた。駅前によくいますよね、こういう賑やかなヤツ。
聴き慣れたメロディーのようで、聴き慣れない歌詞。クマクマパレードに目を向けていた民間人は、騒然としつつトラックへ視線を移す。
『音が大きいクマ〜!』
『節度を保ってほしいクマ〜!』
パレードの邪魔をされたクマからの、至極真っ当な猛抗議。
信じてください、|トラック《こっち》じゃなくて|クマたち《あっち》が簒奪者なんです。
「さて。クマクマパレードに対抗して、当店式のパレードを見せてやりましょう」
運転席でハンドルを握っていたのは、リサイクルショップの店長であるオメガ・毒島。
|博多駅《ここ》までは安全運転(※オメガ基準)で来ましたとも。ええ、ええ。
「演出は任せましたよ、皆さま! ついでに宣伝も!」
「はあ~い」
助手席で青い顔をして応えたのは、安全運転(※オメガ基準)で脳を揺られに揺られたヨシマサ・リヴィングストン。
ふふ~、ここまでのスリルは戦場でもなかなか味わえません。
何を隠そう、彼はスリルジャンキーであった。
そして、同行者はヨシマサだけではない。リサショの個性的なメンバーが、バックステージで控えているのだ。
彼らに向けられた「任せましたよ」。
先ほどの一言が招く事態を、オメガ店長はまだ知らなかった。
◇ ◇ ◇
●縦長実銃射撃犬、あらわる。
ド派手なスモーク演出と共に、オメガ・トラックの荷台部分が開く。
いったい何が飛び出してくるのか。戦々恐々とした人々の視線を集めながら登場したのは――犬。
二足歩行の、犬の着ぐるみ(※2m)だ。
……なんか、デカくない?
盛り上がりとは程遠い、不穏なざわつきが広がる中。
スッ……。犬が、動いた。その懐から現れたのは、|実銃《リボルバー》。
口にはしなかったが、誰しもが思ったことだろう。
謎のトラック、覆面、コミカルさを欠いた銃……これ大丈夫なやつ? と。
ビジュアルは置いておくとして、中身は大丈夫です。
犬の正体は、狙撃兵型ベルセルクマシンのフォー・フルード。友好強制AIを移植された彼は、人間に危害を加えない。
警戒されている。そう感じ取ったフォーは、観客たちへ向けて友好的に手をフリフリ。
そして懐から、今度は複数のフリスビーを取り出し……投げた。
犬が投げるんかい。――そう突っ込む暇もなく、パパパパンッ。
軽い破裂音が連続して響いた。寸分のブレもない正確な射撃パフォーマンス。
おそらく、銃に馴染みのある場所では大ウケだっただろう。だが……この国の市民には刺激が強い!
「フォーさん! |√ウォーゾーン《地元》ノリすぎますよ!」
観客たちの怯えを察し、運転席から|責任者《オメガ》がバックステージへと飛び出す! そして、|縦長犬《フォー》を裏へとズルズル引きずっていった。
だが、博多の思春期男子たち――クマクマパレードのことは斜に構えた態度で眺めていた――の心はバッチリ掴んだぞ!
縦長犬の姿が見えなくなるまで、男子たちはキラキラ輝く目で追い続けた。
◇ ◇ ◇
●ダイコンちゃんで大混乱☆
「さすがフォーさん、素晴らしい精密射撃でしたね~」
「ええ、ええ……それはもう……」
なんだか実況・解説席じみている運転席と助手席。
「気を取り直して、次の演者! ゴーゴーゴー!」
「うさてんちゃんが出るヨー☆」
続いてピョンピョ~ン☆ とステージに飛び出したのは、不思議な雰囲気を纏う女の子――『うさてんちゃん』こと兎玉・天。
数多のダイコンちゃんを引き連れて、ステージで組体操したりダンスしたりと、大盤振る舞い☆
動くダイコン――しかも とんでもなく数が多い――の存在に、大人たちはザワザワ……。しかし、子どもたちには「かわいい~」と好評な様子。
そんな子どもたちの声に反応したクマたち――|犬《・》には恐れ慄いて近づけなかったらしい――が、対抗心を燃やしてステージへ迫る!
『クマがダイコンなんかに負けたらダメなんだクマ~!』
「アハ★ やる気だネー? うさてんちゃんが受けて立つヨー☆」
意外と好戦的なうさてんちゃんと、謎の陣形を組み始めたダイコンの群れ。
これは……砲台だ!
すりおろしダイコンちゃんが潤滑剤となり、うさてんちゃんが砲台から勢いよく発射!
なんという捨て身攻撃。でも大丈夫、うさてんちゃんは石頭だからネ☆
まさかの攻撃に、クマたちは対処しきれず吹っ飛ばされた。
自慢のふわふわボディが、すりおろしダイコンまみれだ!
「ヤッター★ って……アリャ?」
一方で、うさてんちゃんのほうにもトラブル発生?
「ダイコンちゃんが何匹か迷子になってるネ☆」
300本もいれば仕方ない!
しかし、このままダイコンちゃんたちが道路に出たり、駅構内で走り回ったりしたら大変だ!
◇ ◇ ◇
●ダイコン ラディッシュ・ハンティング!
「|運転席《こっち》にまで何匹か入ってきましたね〜」
「ああっ、やめなさい! ボタン類を触るんじゃありません、言うこと聞かない子は糠に沈めますよ!」
|実況席《運転席》にも迷い込んできたダイコンちゃん。
ハンドルやら押したらダメなボタンやらの近くで暴れられ、てんやわんや。
外のダイコンちゃんも、なんとかしないといけないのに!
「捕獲は俺に任せて!」
ふわり。優雅さを感じさせる動作でステージへ躍り出たのは、英国幽霊少年のチェスター・ストックウェル。
しかし今のままでは、彼の姿は民間人には見えていない。
「店長、スモークよろしく!」
「えぇ? あぁ、はい」
イマイチよくわかっていなさそうな声と共に、再びスモークが噴き出す。
その隙に、チェスターは己の手首へとバングル――『追惜』を装着した。
途端、実体化に伴う痛みが走る。だが、それを抑え込むのも慣れっこだ。
とある少女からの贈り物が、信じる者を癒してくれる。
スモークが晴れる頃には、チェスターは人好きのする笑顔と共に実体化を完了させていた。
「ハーイ、駅前のレディース&ジェントルメン! ショーは楽しんでくれてる?」
明るく人懐っこそうな少年の登場に、観客は少しホッとした様子。
犬やらダイコンやらを見たばかりだ、相手がヒトというだけで安心するのも無理はない。この少年もまた、実は幽霊なわけだが。
「次は、イタズラダイコンの捕獲ショーを披露するよ!」
ゴーストたち、カモン!
フィンガースナップを合図に、チェスターの周囲に現れる死霊たち。
彼らは空を泳ぐようにダイコンたちを追いかけ、次々に捕獲していく。
民間人には、手の込んだプロジェクションマッピングか何かに見えているのだろう。初めて、パレードらしい拍手と歓声が起こる。
とはいえ、このままでは嫉妬したクマたちが再び襲ってくるに違いない。
民間人を安全に避難させるには……少しイタズラも必要だろうか。
「次は……お客さんたちをハントしちゃうぞー!」
冗談めかしたマイクパフォーマンスと共に、観客たちへと死霊を――怪我は負わせないように言い含めて――けしかける。
悲鳴を上げて、追われるままに逃げる市民たち。しかし、その表情は楽しげで。
イマドキ流行りの|没入型イベント《イマーシブ》だと思い込んでくれたのか、チェスターの作戦は大成功だ。
パフォーマンスも好評で、市民の安全は確保されて満足満足――ともいかず。
「コラー! チェットーッ! お客さんを散らしてどうするんですかー!」
運転席から響くオメガ店長の声に、チェスターはハッとした。
そういえば宣伝とか言ってたっけ……?
「ああっ、すっかり忘れてた! 店長ごめーんっ!」
◇ ◇ ◇
●終わりよければ全てヨシ?
「さすが|警視庁異能捜査官《カミガリ》ですね〜、避難誘導も完璧でした」
「何か……何か、もうちょっと平和なヤツないですか……?」
オメガ・メガネはもうバキバキ。
店の宣伝も兼ねたパフォーマンスのはずがどうしてこうなったのか。
助手席のヨシマサも、さすがに「このままだと収拾がつかないな」と思い始めていた。
「手遅れな気もしますけど、綺麗なドローンでいい感じに誤魔化しましょうか」
ドローン。その言葉に、オメガ・レーダーがビビッと反応した。
「グッドです、ヨシマサさん! 当店のチラシをくっつけて飛ばしてください」
「うわあ、商魂たくましい」
「うさてんさんのところのも、一緒に配ってしまいましょう。相乗効果を狙います」
「チラシ配りって、条例とか大丈夫でしょうか」
後でちゃんと片づけもしましょう〜。
オメガ店長に頼まれるまま、ヨシマサはドローンにチラシを乗っけて送り出した。
だが、これが意外と功を奏す。
バサバサバサッと、クマたちの上に降り注ぐ『リサイクルショップ・メガちゃん』と『うさてん堂』のチラシ。
それが彼らの視界を遮り、時には顔に貼りついて翻弄していく。
「あ、すごい。チラシ強い」
この隙に、攻撃もしちゃいましょう〜。
ヨシマサの指令を受け、ドローンが一斉射撃を開始。
弾幕に包まれたクマたちは、ワタワタしながら隊列を乱していった。
◇ ◇ ◇
●店に帰るまでが出張ですよ!
『もう怒ったクマ〜!』
『迷惑トラックは帰ってクマ〜!』
いつの間にかトラックの裏に回っていたクマたち。やられてばかりでいられるものか!
彼らの狙いは運転席。ワラワラと群がり、トラックのドアをこじ開けようとしている。
「ええ!? ダイレクトアタックですか!?」
「ふふ〜、モンスターパニック映画みたいでスリル満点の光景ですね〜」
オメガ・運転席は絶対安全、そんな油断がどこかにあった。
慌ててハンドルを切ろうにも、ここで爆走すれば観客を巻き込んでしまう。
そうこうしている間にも、運転席側のドアがメキメキと音を立て……バンッと外れた。
「だ、誰かーッ!」
「――失礼します、店長」
叫んだのが先か、発砲音が響いたのが先か。
オメガの頭部スレスレを――計算された軌道で――狙撃銃の弾丸が走り抜けた。
掴みかかるクマを撃ち抜いたのは、着ぐるみを脱ぎ捨てたフォー。
「リヴィングストンさん」
その手から、ヨシマサの手へ。
「ナイスタイミング〜」
拳銃が渡った瞬間――流れるような動作で、助手席の窓から襲い来るクマも撃ち抜かれる。
戦場仕込みのコンビネーションに、オメガは息を呑んだ。
当店の警備員は非常に優秀ですね。ええ、ええ……!
一方。ステージ側のふたりも、怒ったクマたちと交戦中。
チェスターが死霊を指揮し、うさてんちゃんがダイコンちゃんをポイポイ投げ。
数だけでは勝てないと悟ったのか、クマクマパレードは『クマクマキング』を呼び寄せる。
戦場は、まさにクライマックスを迎えていた。
ラストシーンは、相応しい技をお見舞いしてやらねばなるまい!
「チェスターちゃんっ、合体技いっくヨー☆」
「え、そんなのあったっけ!?」
いや、ない。
だが、ないなら今ここで作ればいい!
「うさてん〜☆……?」
「ええっと、ご、ゴースト!」
「「キーーーック!!」」
なぜか揃った。奇跡的な『うさてん☆ゴーストキック』の炸裂である。
サッカー少年自慢の脚力と、人間災厄「巨大質量」の重みを乗せた蹴り技。正面から食らえば、クマクマキングの巨体をもってしても、ひとたまりもない。
「「「クマーーーッ!!」」」
チーム・リサショの猛攻に、クマたちは一網打尽!
こうして、博多駅の平和は――民間人には些かスリリングではあったが――守られたのだった。
散らかり放題のチラシは、みんなで拾ったり、お掃除ロボットにお掃除させたりしましたとさ。
