シナリオ

⑧その毒ガスは愛を暴く

#√マスクド・ヒーロー #ゾディアック継承戦争 #ゾディアック継承戦争⑧

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⚔️王劍戦争:ゾディアック継承戦争

これは1章構成の戦争シナリオです。シナリオ毎の「プレイングボーナス」を満たすと、判定が有利になります!
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(毎日16時更新)

●女王の地下街
 博多駅から地下鉄で数分の位置にある、天神駅。そこには、九州最大の繁華街である『天神地下街』がある。
 買い物に訪れる者はもちろん、天神周辺の建物や施設への移動手段としても用いられるこの地下街は、いつも多くの人が行き交う――それなのに、今この場に立っている者はたった一人だった。
「ふふふ、苦しいかしら? 大丈夫よ、そのまま身を委ねて――私の愛で壊してあげる」
 赤と黒のドレスを纏い、王冠を被った女性。『黒愛の女王『クイーン・ノワール』』は、微笑みを湛えながら周囲に倒れ伏した人々を見下ろしている。
 彼ら√EDENの一般人は、『怪人大作戦』により散布された毒ガスを吸って倒れていた。体が上手く動かないようだが、これは非致死性、ただちに命を落とすようなものではない。『民間人は殺すより不具にした方が有用』。プラグマの教えに忠実な怪人が用意した毒ガスだ、このまま吸い続ければ無事では済まないはず。
 ――それなのに、人々は苦しみながらも声を上げ続けていた。
「ううっ……最初は一目惚れだったけど……ちょっとした気遣いができるとこ、なのにお礼を言うと困ったみたいに笑うところが好きでぇ……」
「性格がめちゃくちゃいい自慢の彼女……だけど一番好きなのは細い足首ですっ……う、苦しい……っ」
「俺がごはんいらないって言っても、次の日もちゃんと美味しいご飯作ってくれるおふくろが……や、やめてくれこんなこと言いたくないっ……!」
 人々の口から零れ落ちるのは、それぞれの抱く愛の話。抵抗も虚しく心の裡を暴かれて、苦しみ続ける人々を女王はただ楽しそうに見つめていた。

●その毒ガスは愛を暴く
「みなさん、『ゾディアック継承戦争』お疲れ様です! 一般人の救助に向かっていただきたいのですが、大丈夫でしょうか!」
 集うEDEN達を笑顔で労い、ぺこりと頭を下げて。そう切り出したアリス・アイオライト(菫青石の魔法宝石使い・h02511)は、いつになく焦った表情を浮かべていた。
「ええとですね、現地、√EDENの『天神地下街』には非致死性の毒ガスが散布されていまして。これを吸った一般人が、たくさん倒れている状態となっているんです。命に別状はありませんが……今回は、現れた簒奪者がその毒ガスに余計な効果をつけているようでして……」
 そこで一度言葉を区切って、星詠みの娘はEDEN達の顔を窺う。躊躇いの表情を浮かべるアリスだが、続きを待つ様子の彼らを見れば決意が固まったようで、顔を赤くしながら口を開いて。
「敵は『黒愛の女王『クイーン・ノワール』』、愛を語って人を操るんですが……今回毒ガスに、『愛を勝手に告白してしまう』という効果を付与しているんです……!」
 しかも、ただ『好きだ』『愛してる』と言うのではなく、『どこが好きか』まで具体的に言ってしまうらしい。人によってはただの愛の告白よりもダメージが大きい。とんでもない毒ガスです、と星詠みは語り、手にした杖をぎゅうっと握り締めた。
「一般人のみなさんは、毒ガスの効果で動けない状態となりながら、勝手に口から出る告白に苦しんでいます。ですが√能力者なら、動けなくなるようなことはないでしょう。Ankerの方は……何らかの対策をしていけば、大丈夫です」
 ガスを防ぐマスクをつけてもいいし、それ以外の方法でもいい。ただし、毒ガスを吸わないことで防げるのは行動不能となる効果のみ。告白への対策は別に考えなければならないと説明した上で、アリスは気まずそうにEDEN達を見回した。
「その……これはただの提案なんですが、『敢えてその告白をする』というのが、今回はおすすめでして……」
 ――敵は、毒ガスを散布する『怪人大作戦』をすでに発動している。つまり、EDEN達の行動は一度だけ必ず失敗してしまう。だからこそ、攻撃をする前に『告白を堪えようとして失敗する』ことにより攻撃が通るようにすることができるのだ。そうはっきり告げて、アリスは|菫青石《アイオライト》の瞳を気まずそうに伏せた。
「『怪人大作戦』への対策はこれひとつではありません。考えていただいてもいいんですけど……私は、『対策に失敗し、告白してしまう』という形で√能力を消費させるのが最適解ではないかと、思っております……!」
 星詠みの娘はさらに語る、『告白』は恋愛感情に限らないと。恋愛感情を抱いている者はそれが優先的に漏れ出てしまうようだが、持っていない者は他の『愛』が告白の言葉となる。それは友情かもしれないし、家族やペットへの愛かもしれないし、推しへの溢れる想いかもしれない。
 とにかく敢えてそれらを語る罠にはまり、その後敵の簒奪者を撃破する。一般人はその後にしっかり救助して回れば大丈夫だと、語ってアリスは深いため息を吐き出した。
「無理矢理に告白させるなんて、許せないですよね。人には人のタイミングというものがありますし……言うことで気まずくなることとかもあるじゃないですか!」
 だから、これ以上被害が拡大しないように速やかに敵を倒してほしい。EDEN達へ祈るような視線を向けた星詠みの娘は、彼らを戦場へと導く。
 ――そう、誰かが行かなければ、いけないのだから。

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第1章 ボス戦 『黒愛の女王『クイーン・ノワール』』


一文字・伽藍

 戦場へ足を踏み入れれば、倒れ苦しむ人々の姿が目に飛び込んでくる。プラグマ配下の簒奪者により毒ガスを散布された『天神地下街』。そこへ真っ先に辿り着いた|一文字・伽藍《いちもんじ・がらん》(Qクイックシルバー・h01774)は、ぐるりと周囲を見回して、女王の姿を見つけ出した。
「あら、来たわねEDEN。ふふふ、あなたの愛の話も聞かせて?」
 『黒愛の女王『クイーン・ノワール』』が微笑めば、毒ガスが伽藍にも襲い掛かる。少女はそれに抵抗するように服の袖で口元を隠すけれど――敵の作戦のせいでその行動は失敗し、大きく毒ガスを吸ってしまう。
「う、けほ」
 思わず咳き込む伽藍だが、これで敵の力を消費させると決めてきたから覚悟の上だ。彼女は青い瞳でクイーン・ノワールを真っ直ぐに見据えると、いつもと変わらぬ口調で語り始めた。
「はい! 伽藍ちゃんは世の恋人達が大好きです、全てが推しカプです。付き合いたての初々しい感じも可愛くて最高だし、お互いの理解度が高い熟練カップルの安定感の中に相手へのLOVEが垣間見えた瞬間とかたまんねェよな!」
 口角ぶち上がって戻らん。そんな恋人達をいつまでも見守りたい。そう言葉を続けながらにやりと笑えば、女王は赤い瞳をぱちぱちと瞬いた。なんだか想定と違うような――でも気持ちはわかるような。しばし思考を巡らせたクイーン・ノワールは、にこりと微笑み言葉を紡いだ。
「あら、奇遇ね。私も愛する者が大好きよ。それならあなた、そのガスに身を任せてしまえば、いろんな恋人の愛の話を聞いて過ごせるわよ」
「うん、なんなら此処にいる皆々様の告白も片っ端から見守らせてほしい。でも!」
 力強く否定の言葉を返して、伽藍が身を乗り出した。その傍では、護霊「クイックシルバー」も物申したげに揺れている。少女はさらに続けて語り出す。
「告白ってのは誰かに強制されるもんじゃねェの。告っちゃいなよ~とか友達に言われてもどうするかは本人の意思だし、それでしなかったことに文句言うのは基本アウトなワケ」
「……?」
 黒愛の女王が、首を傾げている。人の感情を操り、『クイーン・ノワールが好きだ』と強制的に告白させる側である彼女にはぴんとこない話なのだろう。たったそれだけの仕草でそれを理解してしまって、伽藍は目を吊り上げてさらに叫んだ。
「つまり何が言いたいかっつーと、強制告白大会とかクソデカ地雷です。閉会だ閉会! 解散! そのガス止めないと釘刺すぞ!」
 彼女の怒りに応えるように、護霊が動き出す。威力を増したポルターガイストで、操る釘が戦場を飛び交う。銀色に光るそれは目にも留まらぬような速さで女王へ飛来し、その白い肌へ突き刺さっていった。
「あっ、く……!」
 クイーン・ノワールの眉間にしわが寄り、刺さった場所から血が流れ落ちる。手応えを感じながらも、伽藍は頭の中ではこの後のことを考えていた。
(「がっつり刺したし、強制告白大会は地雷だけど、この後告白するのってEDENの皆々様なんだよなー」)
 一般人が抵抗する術もなく強制されるのとは違う。彼らは愛を暴かれることを覚悟の上で、この戦場へやってくる。それはもしかしたら、多少なら鑑賞させていただいてもいいのではないか――?
 そんなことをふっと思ってしまった伽藍が、この後地下街から即座に立ち去ったのかどうか。それを知る者は、不思議なことに一人もいないのだ。

天使・夜宵
白露・花宵

 『天神地下街』へと踏み込めば、たちまち毒ガスが二人を包む。
「なんだ、このガス……っ。クソ鬱陶しいじゃねぇか……」
 眉間に皺を刻んだ|天使・夜宵《あまつか・やよい》(|残煙《ざんえん》・h06264)が、腰の妖刀『|──《無名》』に手を添える。敵の女王は邪悪な笑みを浮かべながら戦場に立っている、ならばガスを突っ切り肉薄してしまおう――そう、思ったのだけれど。
「……チッ、このガスのせいで、怪人大作戦が発動してるんだったか」
 舌打ちをひとつ、踏み出そうとした足を止める。このまま接近しても、攻撃は失敗する。ならば仕方ない――そう思考を巡らせながらも、彼は傍らの|執着の相手《たいせつな人》へ視線を向ける。
 |白露・花宵《しらつ・かよ》(白煙の帳・h06257)もまた、蜜のような瞳で敵を見据えながら同じ結論に達していた。
(「まぁ正直、別に恥じらいもなにもないけどねぇ」)
 そんな想いは、胸の裡にだけ。必ず一度失敗すると言うのなら、確かに抗う素振りをした方がいいだろう。だから、彼女はわざと抵抗するような言葉を紡ぎ出す。
「ちっ、誰がこんな場所で……!」
 唇を噛んで、声を発さないようにする花宵。それなのに、怪人大作戦の効果なのか、彼女の唇は柔らかに解ける。
「……夜宵の顔も、髪も瞳も、体も、全部好きだよ。でも、存外繊細なくせに、あらがってもがくその心根が、一等好きだ」
「っ……」
 素直に零れた花宵の言葉に、夜宵は思わず顔を逸らした。今の自分の表情を知られたくないし、このまま暴かれたら自分が何を言い出すかもわからない。何なら先日の朧げな悪夢の残滓みたいな二文字も浮かんで慌てて頭を振る。けれど彼の口は勝手に動いて言葉を紡いでしまうのだ。
「……花宵の目は、嫌いじゃねぇ」
 敵の毒ガスの効果をもってしても、彼がやっと絞り出せたのはそんな言葉だけだった。否、ガスが暴けなかったのではない。彼の裡で、花宵への感情を表現する精一杯の言葉がこれだったのだ。『好き』ではなく『嫌いじゃない』。そんな言い方が、夜宵らしい。それでもするりと滑り落ちるように出てしまった言葉に、彼自身が少し驚き頭をかく。
(「あの金の目、甘ったるいって思ってたが……だいぶ毒されたらしい」)
 思えばつい視線が花宵の瞳を探してしまい、二人の視線がぱちりと絡まり合う。すると彼女はくすくすと笑って、一層甘く蕩かせた瞳で恋人を見上げた。
「……ま、頑固な所はどうにかならないかと思うけどねぇ」
 花宵もわかっているのだ、瞳しか言及しない、それこそが彼らしい言葉だと。なのに、当の本人は『頑固』と言われたことにムッとして、言葉を探し始める。
「……結果的に全てってしか言えねぇ。じゃなきゃ、ずっと傍にいねぇからな」
 考えた末に、見つけた結論。と同時に、答えはそのまま口をついて出た。おや、と瞳を丸くした花宵から慌てて目を逸らして、夜宵は視線を振り切るように再び|──《無名》へ手を添えた。
 ガスの効果に囚われている間にも、愛刀に力を篭めていた。すらりと鞘から取り出せば、刀身が篭められた力と心に応え、淡く輝く。
 強引に暴かれたストレスは発散せねば。思えば地を蹴る足にも力が乗って、彼はひと息にクイーン・ノワールへと肉薄する。そして、迷いなくその刃を振るい、一閃。その太刀筋は女王のドレスをすぱりと斬り、その体にも傷を刻み付けた。
「あぁぁっ! もう、面白かったのに、残念だわ。彼女と一緒にここで眠ってしまえばいいのに」
「それはご遠慮願いたいねぇ」
 黒愛の女王の言葉に、すぐに重なる声。驚きクイーン・ノワールが振り向くと、その眼前まで花宵が迫っていた。白煙纏って素早く駆けた彼女は、手にした『珠弾き』の角で女王のこめかみを勢いよく殴る。
「くうっ!?」
「好き勝手に人の心の裡を暴く奴は、仕置きが必要じゃあないか」
 唇が形作る笑みを深くしながら、花宵が言う。慌てて後退する簒奪者を、蜜の瞳で絡め取り、さらに一言。
「ちょいとばかし痛いだろうけど……暴かれたお人らの色んな意味での痛みを考えたら、おあいこ、だろう?」
「おあいこなんて生ぬるい。倍にして返してやる」
 重なる声は、夜宵のもの。殺意まで感じられるその言葉が何だか可笑しくて、花宵は油断なく戦場を観察しながらも笑ってしまうのだった。

エアリィ・ウィンディア

「愛の告白? えっと、愛、あい……??」
 戦場となった『天神地下街』へやってくれば、毒ガスが充満しているのを見てエアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)は躊躇ってしまう。
(「ど、どうしよ、わからないけど、なんかどきどきと危ない予感が……!?」)
 エアリィは、恋についてはまだよくわからなかった。でも、勝手に暴くという毒ガスの効果を本能的な部分で警戒してしまう。出来れば、その効果に抗いたい。キッと『黒愛の女王『クイーン・ノワール』』を睨み、耐えるけれど。
「……。えーと……。ほんわかあったかくて、お茶目で、でも決める時は決めてくれて。それに優しくて、怪我したら心配してくれて……。ドキドキしちゃうけど、それがとっても嬉しくて。愛とか恋とかわかんないけど、でも、心のドキドキがとっても心地よくて……」
 少女の口が、ひとりでに言葉を紡ぎ出す。それがどんな形の『好き』かわからなくても、語らされてしまう。顔が熱くなってくることにすら慣れなくて、エアリィは真っ赤になりながら慌てる。
「な、何か言ってたら恥ずかしくなってきたーっ! この毒ガスの効果、すごく厄介だーーっ!!」
 羞恥の感情を振り切るように、精霊の娘は精霊剣『エレメンティア・ブレイド』を抜き放った。そして、口の中で高速詠唱を始める。いつも以上に早口なのは、詠唱に集中して気持ちを落ち着けたいからか。
「精霊達の声が聞こえる……! えっ、どーしたのって? 何でもないよっ!?」
 √能力の効果で周囲を妖精界に変化させたら、不思議そうな表情浮かべた精霊達に問われてしまった。だからエアリィはぶんぶんと首を横に振ると、そのまま地を蹴って駆け出した。
「とりあえず敵は斬るっ!」
 精霊達の加護を受け、必中の斬撃。迷いなく揮われたその一撃に、クイーン・ノワールは悲鳴を上げるのだった。

架間・透空

 |架間・透空《かざま・とあ》(天駆翔姫ハイぺリヨン・h07138)は、困った人を放っておけない性格だ。だから一般人に被害が出ていると聞いて、『天神地下街』へ急行した。
 倒れた人々を助けるには、敵を討たねばならない。そのために攻撃の前に行動を失敗させるべき――その理屈は理解して動いていた彼女、なのだけれど。
「な、なんでっ!? 口から言葉が勝手にっ!」
 うっかり吸い込んでしまった毒ガスの強制力は、透空が思うよりも強かった。思わず素で抵抗するが、それも虚しく口から素直な言葉が滑り出てしまう。
「私……同い年の幼馴染の……晃星の事が、好き。ぶっきらぼうだけど、なんだかんだ人の事をよく見ているし、面倒見が良くて、世話焼きな君のことが……好き。大好き。私が困っているとき、辛いとき。なんでか知らないけど、必ず寄り添ってくれる……。そんな優しい優しいこうちゃんのことが、好き。だいすき。キミと一緒に過ごす時間が……とても心地よくて、あったかくて、一番好き」
 溢れ出るように、次から次へと言葉になってしまう気持ち。するとそれを聞いた『黒愛の女王『クイーン・ノワール』』は、楽しそうにくすくすと笑った。
「ふふふ、素敵な告白。その愛、私が壊してあげましょうか?」
「ッ~~~~!!!!!」
 敵の声は挑発だ、わかっていてもそれどころではない。声にならない声を上げ、顔を真っ赤に染めた透空は、慌てて早口で捲し立てた。
「違うもん! これは恋愛としての『好き』じゃなくって! そう! 親愛としての! 『好き』なんだもん!!!!!」
「ふうん? 何度も『好き』と言っていたけれど、それでも?」
「~~~~!!!」
 さらに煽るように問われて、少女は拳を握り締めた。そして銀色の瞳で敵を睨み付けて、√能力を展開する。
「……よくもこんな辱めをっ! 許せません! 決戦気象兵器、起動っ!」
 声に応えて発動する、|天色管理機構『突風』《ハイペリヨン・ダウンバースト》。風を纏えば彼女の体は軽やかに戦場を駆け、敵へと突風を叩きつけた。
「あぁっ……!?」
 吹き飛ばされて、クイーン・ノワールの体が宙を舞う。その姿を真っ赤な顔で見据えながら、少女は次の動きを考えるのだった。

静寂・恭兵

 毒ガスに満ちた『天神地下街』へ足を踏み入れて、|静寂・恭兵《しじま・きょうへい》(花守り・h00274)はそっとため息をはき出す。此度採るべき作戦は理解した。『黒愛の女王『クイーン・ノワール』』と、その足元で苦しむ人々の姿を目の当たりにしたら、迷いなんてない。
 青い瞳で敵を見据えて、恭兵は毒ガスのもたらす効果に抵抗を試みる。すると、狙い通りに彼の口は愛を語り出すのだ。
「告白……俺が愛の告白する相手なんて一人しかいない……|俺のAnker《白椿》だけだ。白椿はな、本当に可愛いしなにより優しいし……俺が十歳の頃から見守ってきてくれた瞳が、なにより愛しい」
 敵を睨んでいたはずの瞳は、語るにつれて優しく細められた。思わず口元が緩むのは、彼女の可憐な微笑みを思い出したから。しかし予想以上に饒舌になってしまった自身を自覚した瞬間、恭兵はいつになく表情を崩してしまった。
(「くっ……覚悟はして居たが……めちゃくちゃ恥ずかしい……!」)
 想いは隠すつもりがない、けれど『好き』という事実を伝えるのと、『どこが好きか』を説明させられるのとでは話が違う。顔に熱が集まってくるのを感じる恭兵だが、羞恥を振り切るようにその顔を上げて――。
「だが! これで攻撃が通じる……!」
 『|警視庁異能捜査官《カミガリ》用拳銃』を素早く手に取ると、そのまま恭兵が発砲する。クイーン・ノワールの足が止まった隙に、続けて数珠に霊力篭めて伸ばし、彼女の手足を絡めとる。それから周囲の死霊をかき集め、彼は強力な一撃を女王へ叩き込んだ。
「くっ、ああ……!」
 動きを封じられ、抵抗する術もなくクイーン・ノワールは強撃を受ける。慌てて数珠から逃れて後退する彼女に警戒を続けつつ、恭兵はため息を零した。
「……だいたい告白なんてのは……本人に言わないと意味はないんだよな……」
 先程の言葉のように、真っ直ぐに愛を本人に語ったことなど、あっただろうか。相棒が聞いたら、『俺様は散々聞かされているぞ』などと言うかもしれないが――。
 思えば急に彼女に会いたくなる。次の逢瀬が待ちきれない想いで、恭兵は静かに微笑みを浮かべたのだった。

ツェイ・ユン・ルシャーガ

「こやつも派手に好き勝手やっておるのう。これ皆様方、大事ないか」
 『天神地下街』へとふわり降り立ち、周囲に倒れる一般人の様子を確かめて。ツェイ・ユン・ルシャーガ(御伽騙・h00224)は、楽しそうに笑う『黒愛の女王『クイーン・ノワール』』へ視線を移した。
「ふふふ、あなたは見目の割に長く生きているのね? 気になるわ、そんなあなたの『愛』が」
 唇を邪悪に歪めて女王が尋ねれば、戦場に満ちた毒ガスがツェイを襲う。彼は袖口で口と鼻を覆って、それを吸い込まないようにする。
(「ふぅむ。当然、愛い子への想いは有れど、誰彼構わず暴かれてよしという訳ではない。女王とやらの思惑通りには――」)
 そう、思った。抵抗もした。そのはずなのに、袖の下で彼の口はひとりでに語り出す。
「――あの子はいつも度々意地を張ってはおるが、根の素直さは隠せぬようでのう。ふと見せる我を慕うてくれる姿も、なにやら云いたい事を秘めておる様子も……八つ当たりめいた愛嬌溢れる悪戯も、時にそこそこ心に刺さる突っ込み迄も。いじらしくて愛いばかりじゃよ。叶うのならば、このまま末永くげほんごほん」
 つらつらと語り過ぎて、最後は思わずむせた。しかしおかげで我に返り、ツェイは気まずそうに女王を見つめる。
「…………」
 沈黙するツェイ、にっこりと笑うクイーン・ノワール。その顔が『しっかり聞かせてもらったわよ』と言っているようで――彼は一瞬だけむ、と口を閉じ、自身の瞼に指先で触れた。
「こうもあっさり掛かってしまうとは不覚、術士の名折れである。まったく、云わんで良いことまでも言わせてからに」
 指先で瞼に乗せた咒詛が、ツェイの視線に力を与える。『木』の妖力を薪としてくべて、炎を生み出す。白群色の炎は照れ隠しの想いすらも燃料にして、強く燃え上がる。
「今日の炎は一寸熱く燃えてくれようが、覚悟は良いかの」
 言葉ではそう告げるけれど、返事を待つ間はない。彼はその炎を周囲へ広げ、クイーン・ノワールの体だけを燃やしていった。

ヴォルフガング・ローゼンクロイツ
エレクトラ・テスタロッサ

 毒ガスが蔓延する、『天神地下街』。その戦場へ足を踏み入れて、|ヴォルフガング・ローゼンクロイツ《Wolfgang Rosenkreuz》(螺旋の錬金術師|『万物廻天』《イザヴェル》・h02692)は一瞬だけ眉を顰めた。毒ガスを吸わないよう、抵抗を試みる。けれど怪人大作戦によりそれは失敗するから――彼は次の瞬間、共にやってきた妻、|エレクトラ・テスタロッサ《Elektra Testarossa》(赫霆の薔薇|『神魂合一』《ウニオ・ミスティカ》・h03015)の顔を覗き込んだ。彼女もまた、顔を赤らめながら言葉を紡ぐ。
「ヴォルフはいつも直球で飾らないのが嬉しいの。照れ隠しでツンツンしてたけど、本当は違うの。これからは素直な方が嬉しいわよね? 私の為とか言って一生懸命化粧品も調合してくれる所、素敵よ」
 敵の毒ガスの効果でも、その言葉は彼女の本音だった。それがわかるから愛しさが込み上げて、ヴォルフガングは表情を崩す。
「俺と結婚してくれてエレクトラありがとう。初めて出会った頃、俺は赤雷の輝きに目を奪われた。今でも美しいと思っている。愛しくて仕方がない、抱きしめていいよな? 食事も頑張ってくれているし、感謝しかない」
 矢継ぎ早に愛の告白を受ければ、エレクトラの顔が真っ赤に染まる。頷く妻をヴォルフガングが抱き寄せると、彼女もまた腕を伸ばしてくれて。
「私を素直にさせてくれた毒ガスには感謝しないといけないのかしら。旦那様、大好き。ずっと私と一緒にいてね」
 声は素直に零れるけれど、その顔はヴォルフガングには見えない。彼の胸に額を押し当てて、顔が見えないようにしているのだ。けれど長い耳が真っ赤なことに気付けばそれが照れ隠しであることもわかって、ヴォルフガングが微笑んだ。
「毒ガスの影響だろうが、俺は恥ずかしくないぞ、本当の事だからな。『ノワール』、貴様のやってる事はただの野次馬だ」
 抱き締めたエレクトラをそっと解放し、彼は『黒愛の女王『クイーン・ノワール』』を睨む。√能力を発動し、召喚するのは錬成機忍『朧』。現れたそれは即座に分身すると、女王を取り囲み、一斉に電磁刀斬撃を揮った。
「っ……!」
 クイーン・ノワールが息を詰め、攻撃に耐える。しかし守りを固めようとする敵を見て、エレクトラが続けて√能力を解放した。
「『ノワール』、貴女は無粋よ! 旦那様、力を借りるわ!」
 声を上げれば、それに応えるようにヴォルフガングの幻影が現れる。それと完全融合すると、エレクトラは黒愛の女王を自身の前まで引き寄せた。
「あっ……!?」
 女王が驚くその隙に、魔導機巧杖『光刃金枝』で攻撃を放つ。体勢を崩して倒れるクイーン・ノワール。まだまだ立ち上がりそうな気配はあるけれど、ヴォルフガングはその間に倒れた一般人達の救助を始めたのだった。

不忍・ちるは
リーリエ・エーデルシュタイン

 『天神地下街』へとやってきた|不忍・ちるは《shinobazu chiruha》(ちるあうと・h01839)は、周囲の状況を見て静かに覚悟を決める。
「毒ガス対策失敗したからには仕方ありません」
 呟きながら、すうっと深呼吸。すると隣でリーリエ・エーデルシュタイン(アンダー・ザ・ローズ・h05074)が狼狽えて声を上げた。
「ちるはさん? どうしてにこにこ全力で吸い込みましたかちるはさん?」
 毒ガスを吸えば、本音が漏れてしまう。自分もちるはも、それが誰の話かなんて明白なのに。否、本人はこの場にいないからまだましかもしれないけれど、でも聞かれるわけには――。
 そんな葛藤を頭の中でするリーリエだけれど、ちるははにこにこ笑顔で待っている。だからついに諦めて、リーリエもまた思いっきり毒ガスを吸い込んだ。
「ええい、吸えばいいんでしょう! ……すk──待ってストップ私何を言いかけましたか?!」
 吸った瞬間、もう零れた。紫の瞳を丸くして、慌てて口を押さえるリーリエ。しかしちるはがそれを聞き逃すはずもなく、爛々とした眼差しでじいっと見つめてくる。
「ちるはさん?? その眼差しは?? ……落ち着きましょう」
 ほらだって、今一瞬言いかけた時点で抵抗失敗ではありませんか。もうこれ以上何も言うことはないです。なんて思って悪役令嬢の顔を取り戻そうとするリーリエだけれど、ちるはもこくこく頷きつつ逃がすつもりはない。熱視線を向け、『ほらもっと、もっと! まだいけるでしょう!』なんて圧も加えながら、ちるはが促す言葉を紡ぐ。
「一旦落ち着いて、からの?」
「そうですね、私は今ぽろりと零しました。だから、これ以上、拓馬さんが妙に気になってるけどもこの気持ちどうやって確認しよう私意外と惚れやすいのかしら、とか言うことはありま……せん?」
 ――あれ? 私は今何を口走って? などと気付いた時にはもう遅い。目の前にはぱああっと表情を輝かせて『確かに聞きました!』と言わんばかりのちるは、さらに奥では『黒愛の女王『クイーン・ノワール』』も興味深そうに微笑んでいる。その視線に耐えられず、リーリエは真っ赤になった顔を両手で覆い隠しながら崩れ落ちた。
(「もだもだリーリエさんかわよです」)
 ちるははにこにこと笑いながら、身を隠すように小さくなってしまったリーリエの目の前にしゃがみ込み、吐露された不安へアドバイス。
「当人のお気持ちは分かりませんが、リーリエさんにしか見せない一面がある気がしますよ」
「……そうでしょうか」
 ここはおせおせですよ、なんてぐっと拳握って応援すれば、リーリエは『そんなこと……』と躊躇するけれど。話を聞いてもらった甲斐はあったかも、などと思いながら立ち上がるのだ。
「よし!! 次ちるはさん! 愛を語りましょうさぁ言ってほら言って!」
「わ、私ですか」
 急かすようなリーリエに、ちるはも覚悟を決めて『好きなところ』を思い浮かべてみる。さすがに恥ずかしくて言うのは無理、と思った瞬間には、口から滑り落ちるように声が漏れた。
「私はええと……えー……。何においても二人の着地点を大切にしてくれるところとか、硬くて繋ぎにくそうにみえてとてもやさしくふれる手が好き、です」
 はっとした時には、もう遅い。ご満悦のリーリエと、やっぱり楽しそうなクイーン・ノワールがちるはを見ている。だからちるはも熱くなった顔を手でぱたぱたと仰ぎながら、心の中でうるさい自分を隠すように言葉を紡いだ。
「~っ! ……内緒ですよ」
「ふふ、ふふふー」
 笑顔を浮かべて、頷くリーリエ。これで互いに語り終えたので――後は、盗み聞きしていた敵を倒すのみ。
「さあ、この話を聞いていた敵は全力でぶん殴りましょうねぇ」
「はい、乙女の秘密を守りましょう」
 共に言葉を交わした瞬間――二人は、奔った。アクセルシューズで加速するちるはに女王が目を奪われている隙に、リーリエは花々の芳しい香気を纏う。√能力で速度を上げて、彼女もまたクイーン・ノワールの懐へ。一瞬の肉薄に敵が驚くその内に、リーリエは拳を強く握り締めて。
「エーデルシュタインの百合は、華麗で陽気で、荒々しいのよ!」
 言葉と共に、|鋼玉甲拳《コランダム》を抉り込むように、一撃。堪らず悲鳴を上げてよろめく女王に、さらに跳躍したちるはが襲い掛かる。
『|輿《おみこし》』
 いつもは大切な人に協力してもらって使う√能力だけれど、ひとりでもその威力は衰えない。短く呟いたちるはは勢い乗せた踵落としを、簒奪者へ喰らわせる。
「きゃあああっ!」
 クイーン・ノワールの悲鳴と同時に、金属の音が戦場に響く。敵の頭に叩き込まれたちるはの足は、女王の王冠すらも砕いていたのだった。

神隠祇・境華
シンシア・ウォーカー

 『天神地下街』に広がる、愛を暴く毒ガス。厄介な効果ではあるけれど――彼女と一緒なら、それは語らいの機会になる。|神隠祇・境華《かみおぎ きょうか》(金瞳の御伽守・h10121)が少しだけ躊躇いの表情を浮かべれば、シンシア・ウォーカー(放浪淑女・h01919)はにっこりと笑って。『先に私が』と囁いて、金の髪のセレスティアルが言葉を紡いでいく。
「境華さんの好きなところ……知的でいつも冷静で、決めてほしいときに絶対にやり遂げてくれるところ。私が負傷したらすぐに助けようとしてくれるところも好きです! でも私の戯言にも嫌な顔せず付き合ってくれるのも嬉しいし、たまに見せる可愛らしい姿も――例えば先日パン屋さんの棚の前ですっごく悩んでいた時とか! ――好きですよ、ギャップ!」
 語り始めたら、一言では済まなくて。たくさんの好きなところを伝えて、シンシアは照れたように微笑む。
「ふふっ、これも作戦とはいえ……面と向かって言うのはいささか気恥ずかしいですね?」
「そう……ですね。嬉しいですけれど、少しばかり、面映ゆいです」
 境華もそう答えて頬を染めるけれど、シンシアにだけ言わせるつもりはないから。そうっと深呼吸をひとつして、彼女も愛を語る。
「シンシアさんの、楽しいものを、ちゃんと楽しめるところが好きです。美味しいものに目を輝かせるところも可愛らしいですし――知らないものにも、まず手を伸ばしてみようとするところ。人の言葉を軽く扱わず、悩んで、考えて、それでも前へ進もうとするところ。戦場で必要なら前へ出られるところも、傷つくことを当然にしないでほしいのに、それでも、その判断ができるところも」
 やっぱり、好きなところなんて挙げればきりがない。境華はそこで言葉を止めて金の瞳でシンシアを見る。
「口にするとなんだか、くすぐったい……です」
「そっか、そういう部分が……なんだか嬉しいです」
 互いに感想を交わせば、浮かぶのは笑顔。そうしてしばし穏やかな空気に包まれる二人だが――もちろん、ここが戦場だと言うことを忘れてはいない。
「さて、厄介な罠はこれで無効のはずです。このように勝手に人の心を暴くような行為は許されません」
 境華の瞳が真剣な光を灯して、よろめきながらも立つ『黒愛の女王『クイーン・ノワール』』を睨む。静かに抜き放つは、御伽霊刀『紡ぎ』。シンシアもまた、レイピアを片手に走り出し、金髪を風に躍らせた。
「傍迷惑なガスを散布した敵は許しませんよ?」
 悪戯っぽく言葉紡ぎながら、戦場を駆けて女王の攻撃を誘う。クイーン・ノワールは戦略を語りフィールドを支配しようとするけれど、敵が攻撃に移るまでには時間がかかる。だからその間に、シンシアは軽やかに地を蹴り肉薄して。
「――隙あり!」
 短い言葉と共に、レイピアの一撃を繰り出す。胸を貫くような攻撃に、女王は堪らず後退った。
 そこへ、境華が仕掛ける。召喚した『記憶の司書』と共に左右から挟み込むように敵へ迫り、剣戟を繰り出す。司書の攻撃と合わせるように、物語の力を乗せた刃を揮って。次々と傷を刻み付ければ、クイーン・ノワールは悔しそうに言葉を零すのだった。
「ああっ、愛を壊す罠が効かないなんて……!」

鋼河・桜

「毒ガスの効果、簒奪者によってフレキシブルに調整できるのね?」
 戦場となった『天神地下街』へやってくると、|鋼河・桜《こうが・さくら》(風遁の討魔忍・h06126)は周囲を見回す。彼女の前に立っているのは『黒愛の女王『クイーン・ノワール』』、しかしその体はEDEN達の度重なる攻撃ですでに傷付いていた。
 彼女を確実に倒すためには、毒ガスの効果を利用するのが効率的――だから桜は、敢えて口を噤んでしばし耐える。
(「オープンな性格だから、こんなのなくても喋っちゃうのよね。ちょっと我慢して、っと……」)
 そう思ったはずなのに、いつの間にか彼女の口はひとりでに開き、言葉を紡ぎ始める。
「私って四肢義体サイボーグなんだけど、やっぱ重くて疲れるし、湯治に通ってる宿があるのよ。そこを運営してる男の子が可愛くってね~」
「あら、その男の子が、あなたの『いい人』?」
 傷付いていても、愛の話があれば気になるのだろう。問いかけてくるクイーン・ノワールには『どうかしらね』とはぐらかし、ゆっくりと歩き出す。
「外見的にもそうなんだけど、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれたり、ちょっとイタズラしたりからかうと赤くなっちゃったりしてね~。義体を外してお風呂に入れてくれたりもするのよ」
 照れる様子も見せず、歩を進める桜。彼女が楽しそうに語るから、黒愛の女王は耳傾けていて気付かない。――いつの間にか、桜は女王のすぐ傍まで接近していたなんて。
 そんな女王に、桜はさらに言葉を紡いでいく。己が手の内を明かすように、義体の腕を動かして見せて。
「これがその義体腕なんだけどさぁ……|風裂穿杭撃《エアロバースト・インパクト》!」
 世間話みたいにクイーン・ノワールに向けて伸ばした手を、一瞬のうちに自身の方へ引く。少女の体が風を纏えば、繰り出した鋼鉄の拳と圧縮された空気が女王の体へ叩きつけられた。
「きゃああっ!」
「不意打ち、だまし討ちは忍者の十八番よ」
 悲鳴を上げるクイーン・ノワールを見て、桜は得意げに微笑む。対する黒愛の女王は、彼女の余裕ある表情を憎しみを篭めて睨み付けるのだった。

冬迦・アールグレイ
四希・アーデュラ

「全くいい性格をした連中ね」
 『天神地下街』へとやってきて、一般人が苦しむ惨状を目の当たりにして。|冬迦・アールグレイ《とうか・アールグレイ》(エルフの雷の|精霊銃士《エレメンタルガンナー》・h13145)は、警戒を篭めた瞳で敵を睨んだ。
 毒ガスは非致死性とはいうけれど、危険極まりないことには変わりはないし、早々に撤退すべきだ。けれど、攻撃前に一度この毒ガスの効果に対して失敗したくても、アールグレイに恋愛的な意味で告白する相手はいなかった。だから――。
「怪人大作戦……特撮とかでは定番かもですが、こうして実際に起きると凶悪そのものですね」
 アールグレイよりも幼い顔立ちの少女が、きょろきょろと周囲を見回しながら言葉を紡ぐ。|四希・アーデュラ《しき・アーデュラ》(エルフの古代語魔術師ブラックウィザード・h08215)――こう見えてアールグレイの姉である彼女は、妹の誘いで共にこの場へやってきていた。
 アールグレイの視線を感じて、アーデュラはにっこりと笑う。
「冬迦ももっと私を頼ってくれていいですよ」
 付き合ってもらって申し訳ない、なんて思っていそうな妹の表情に、姉は頼ってくれて嬉しいのだと伝える。するとアールグレイは表情を緩めて何事か言いかけて――確かに口を噤んだのだが、次の瞬間には勝手に口が開いて言葉を紡ぎ出してしまった。
「姉さんの、普段は抜けている所が可愛らしい。たまにはお姉ちゃんとか呼んでみたくなったりして、甘えたいの」
 普段ならば絶対に口にしないような想いが本人へ向けて直接告白されてしまい、アールグレイは固まった。恥ずかしい告白なんて私にあるだろうか、なんて思っていた少し前の自分は何だったのか。
(「これはしばらく気まずくなりそうだわ……」)
 そう思いながら彼女が恐る恐るアーデュラを見れば、姉はにこにこと笑っている。そして、毒ガスの効果とは思えないほど、いつもの調子で語り出す。
「妹相手に恥ずかしい告白とかありましたでしょうか? 私よりも美人だったりしっかりものだったりとかは、普段からも言っていたような気がしますし。あとは実は抱き枕にしてみたいとか、お姉ちゃんって呼んでもらいたいとかでしょうか?」
「えっ」
 いつもの、と思って聞いていたのに、後半は新事実の告白だったので、アールグレイが思わず小さく声上げた。その反応を見て、アーデュラもまた気付く。
「っとつい口に出してしまっちゃいましたね」
 けれど、姉妹同士で恥じらうこともないだろう。告白してしまった後も動じない姉を見て、妹は気まずくなるのは自分の方だけなのだと理解するのだった。
 ――その、やり場のない感情は自然と敵へ向けられる。
「……この礼はたっぷりとさせてもらうわ」
 言葉紡いで睨むアールグレイの先には、『黒愛の女王『クイーン・ノワール』』がいる。すでに傷付きよろめく彼女に、躊躇いなく精霊銃を向ける。すると女王は射線を外すために後退しようとするが、そこを魔法の炎が取り囲んだ。
「なっ……」
 慌ててクイーン・ノワールが振り向けば、アーデュラが立ち止まり、詠唱を続けている。彼女の生み出す炎は、黒愛の女王を焼き、揮おうとした√能力を反射する。逃げるタイミングを完全に失った簒奪者へ、アールグレイは氷月の弾丸を撃ち出した。
「辱めを受けたお礼の弾丸を受け取ってもらえるわね?」
 静かに紡ぐ言葉は、戦場に凛と響いて。女王へと到達した弾丸は、彼女の身を絶対零度の力で覆う。
「あっ……ああぁぁ!」
 痛いほどの冷たさに、クイーン・ノワールが悲鳴を上げる。それを見て残りの魔法の炎を全て追撃に向かわせたアーデュラは、連携が成功したことに笑顔を浮かべて、最後に言うのだった。
「今なら恥ずかしいものなしです」
 ――そう、だから。後でアールグレイにはお姉ちゃんと呼んでもらおう。

和田・辰巳
四之宮・榴

 二人揃って駆けて、『天神地下街』へと辿り着いて。充満する毒ガスを確かめた瞬間、|和田・辰巳《わだ・たつみ》(ただの人間・h02649)は思わず足を止めた。
(「くっ……毒ガスに抗えない……」)
 抗おうと試みたのに、体は言うことをきかない。愛を暴くという、『黒愛の女王『クイーン・ノワール』』の毒ガス。今まさに愛しい人と一緒にいる彼にとって、その効果は強力だった。
「……? 辰巳?」
 傍らの|四之宮・榴《シノミヤ・ザクロ》(虚ろな繭〈|Frei Kokon《ファリィ ココーン》〉・h01965)が、心配そうな表情を浮かべて辰巳を見上げている。その姿はいつだって可愛いけれど、今日は特に魅力的に見えて――だから、辰巳はすっと彼女の手に触れ、微笑みを浮かべた。
「普段から僕の事気遣ってくれてるよね。そんな所が好きだよ」
「!?」
 オッドアイの瞳に榴だけを映して、辰巳が甘く囁く。それを聞いた少女は、顔を真っ赤にして動揺した。
「……な、何故、ですか……辰巳!? ……耐性は……な、無くはないのでは……って、何を……謂い始めて……!」
 榴は|√能力《インビジブルの恩恵》で毒の耐性を上げたから、ガスの齎す効果に耐えられている。辰巳も彼なりの方法で対処すると思っていたのに――真っ直ぐに愛を伝えられて、榴は混乱してしまう。
 すると、そんな彼女の態度を勘違いしたのか、辰巳はにっこり笑って言葉を紡いだ。
「あぁ、ごめん、こんな所じゃアレだよね」
「……は、は、……はい……っ……!?」
 彼女の白い手を持ち上げて、その甲に口付ける。そうしてそのまま手を引き歩き出したので、榴は状況も呑み込めないままに彼に引っ張られ連れていかれてしまう。
 『天神地下街』は、物陰も多い。この場所自体が劇場を模しており、通りをライトアップしてある分、店舗付近は暗めになっているのだ。そのうちのひとつに榴を連れ込むと、辰巳はにっこりと笑いかけた。
「ここなら良いかな?」
 そう言うと、遠慮なく彼女の頬へとキスを贈る。ちゅ、と音が鳴ったのはきっとわざと。いよいよ顔が火を噴くようで、榴は慌てて彼の胸を手で押し返す。
「……いや、そうではなく……です、ね……っ……って……ねっとり告白しないで、ください!」
「こんな可愛い子ほっとけないよ」
 辰巳の手が彼女の手首を掴み、今度は唇を奪う。甘い言葉と共に与えられるキスは、こんな状況でなければ気持ちいいはず、なのだけれど。状況が状況なので、榴も甘えてはいられない。
「……は、はぁ……違い、ます……っ……! ……なんで戦闘を……って、聴いて……全然ない……です、ね!?」
 そうだ、ここへは簒奪者を倒しに来たのだ。先程見たクイーン・ノワールはもう相当傷を負っていた。今畳み掛けて攻撃すれば、すぐにでも一般人を解放できるはず。そんなことを頭では考えられるのに、目の前にとろりと甘く瞳を蕩かせた彼がいたら、強く言えない。
 そこへ、辰巳は眉を下げて一言。
「榴は僕の事好きじゃないの?」
「────っ!!!」
 瞬間、榴の琥珀色の瞳が見開かれた。誤解はしてほしくない、けれど、今の彼に何と説明しようか迷ってしまう。
「……だ、だから…そ、そうじゃなくって……辰巳は今冷静じゃない……と謂うか、ですね。……在る意味、冷静なのかも……しれないですが……僕は、その……よく解らない……ので、それが以前もお話……してる……のでは……?」
「ごめん、意地悪だったね」
「……い、意地悪では……ないのですし、半身として……た、大切には、してま──っ──!!!」
 慌てて言葉を返していた榴は、そこで慌てて自身の口を手で押さえた。今、とんでもないことを言いかけた――否、たぶんほとんど言ってしまった後だった。耐久度を上げても毒ガスの効果が勝ったのかもしれない、けれどそんな言い訳をすることもできなくて。
 閉じ込めた腕の中で、万華鏡みたいにくるくると表情を変える彼女。そんなところも魅力の一つだと思うから、辰巳は変わらず笑顔を浮かべている。
「榴、大切にしてくれてありがとう。ごめん、我慢できなくて、もう少し……」
 耳元で低く囁いたら、そのままキスを繰り返す。唇にも、頬にも、額にも。彼女は真っ赤になっていたけれど、もう抵抗はなかった。だから辰巳は満足できるまでそうして言葉以外でも愛を伝えて――やがて、榴に少し疲れが見え始めたところで微笑みながら離れた。
「さて、ここは視界外。そろそろ相手のマークも外れた頃だね」
 囁く彼の周囲は、いつの間にかインビジブルが泳ぐ水槽のような世界に変わっている。とぷり、と水の中を泳ぐインビジブルに満ちた空間は、|半身《榴》が見ている世界。だから彼女は彼が√能力を展開したことにも気付いていなかったけれど、辰巳は榴に愛を囁きながら自身に有利な戦場を築いていたのだ。
 この空間の中でなら、辰巳の攻撃は必中。つまり、視界外の今|火雷大神の吐息《ホノイカヅチオオカミノトイキ》を放てば不意打ちの攻撃ができる。彼はそっと榴から離れると、手を組み大神へと語り掛けた。
「火雷大神に請い願う」
 その瞬間、地下街の床を伝うようにして、離れた場所にいるクイーン・ノワールまで彼の齎す力が伸びる。その神威は敵の前で爆発を起こし、それを受けた女王の悲鳴が周囲に響き渡った。
「きゃああああっ!?」
「良い感じに爆発してるね。突撃しよう」
 囁き彼が駆け出したことで、やっと榴も辰巳の狙いを理解した。――理解したところで、到底受け入れられる展開でもなかったが。思い出せば頭からは処理不可能の熱が出てしまうようで、堪らず彼女は√能力を解放した。
「……全て、貴女様の、毒の……せいです! ……ぜ、絶対に……ゆ、赦しませんから……!」
 タロットによる牽制もそこそこに、『深海の捕食者』を投げつけ捕縛して、手にした『漆黒のファイヤースターター』を振り上げる。複雑な感情をたっぷり乗せた一撃は、よろめくクイーン・ノワールの頭を直撃した。
「あっ、あああ! 痛い……!」
「あっはっは、良い啖呵だね。じゃあ恨みはないけどぶっ倒すよ!」
 辰巳は榴に笑いかけると、『霊剣』を抜刀して黒愛の女王へ斬りかかる。そうして二人がかりで攻撃を繰り返せば、ついにクイーン・ノワールは崩れ落ちた。
「くうっ……あなた達も、私の愛で壊すつもりだったのに……!」
「残念だったね。僕は彼女に夢中だから」
「っ!?」
 しれっと返す辰巳の言葉に、榴は瞳を丸くして再び真っ赤になるけれど。そんな二人を見て顔を顰めた『黒愛の女王『クイーン・ノワール』』は、そのまま静かに消滅していったのだった。
 ――これで、『天神地下街』は簒奪者の手から守られた。倒れた人々も、すぐに回復し――『忘れようとする力』のおかげで、全て何事もなかったものとして処理されることだろう。
「これでもう大丈夫だろう。……じゃあ榴、イチャイチャの続きをしようか」
「えっ……ええっ……!?」
 何で、なんて問いただしたかったけれど、また甘い言葉を返されることはわかりきっている。問うまでもなく再び真っ赤に染まった榴を見て、辰巳は嬉しそうに笑うとその紫色の髪に口付けを落とすのだった。

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