⑬|解放《リベレイト》
●Caution
「めちゃくちゃにしてくれませんか?」
第二戦線が始まったと聞き、急いで星詠みの元へと駆け付けたならば、皆をやさしく出迎えた物部・真宵(憂宵・h02423)が出し抜けにそんなことを言った。
――ぱり。
脳裏にリフレインする言葉の意味を考えていると、束の間の静寂にヒビを入れる軽快な音が小さく立つ。視線を落とせば星詠みに抱っこされたこぱんだ妖怪が、今日はその両手に橙色の大きくて薄いおせんべいを一枚握っている。
「あ、これ福岡の銘菓なんですよ。皆さんもどうぞ」
辛子明太子のおせんべいは程よいピリ辛で歯ごたえが良く、魚介の風味もしっかりあって大変美味。福岡土産の定番だ。
「実は博多警察署が喧嘩師『敷島・カオル』に制圧されてしまったのです」
場所が場所なだけに、署内に保管されていた武器類は全て強奪されている上に、机や棚などある物は何でも使ってバリケードを築いて要塞化しているというのだから状況は最悪だ。しかも署内には『ペンタクルム・ゲート』の一員である『白河・サナトリス』の姿も確認された。だが、何らかの関与が窺えはするものの、今回邂逅することはなさそうだ。
「警察署内の要塞化を解除――つまり破壊すれば、何らかの目的を邪魔することが出来るのではないかと思うのです」
――だから、めちゃくちゃにする。
「わーって思うままに身体を動かしたくなるときって、あるんじゃないかと思って」
どうやらストレス発散のことを言っているようだった。本人はアクティブな方ではないから、大声で歌ったり、叫んだり、思い切り体を動かしたりはピンと来てない様子。
でも今回は警察署に突入し、不法占拠者への対処として思い切り暴れることは正当化されているので、気兼ねなく好きに思うがまま揮ってきてほしい。
「喧嘩師『敷島・カオル』の武器は鉄骨だそうです。その超怪力のせいで喧嘩相手がいなくなってしまって、彼女のフラストレーションは溜まる一方なのでしょう。簒奪者の用心棒をする事で溜飲を下げているそうですが、だからといって警察署を乗っ取るのは豪胆と言うか、向こう見ずと言うか……」
頬に手のひらを当てて困ったふうに吐息する真宵は、それでも柔和な表情に戻して腕の中でおせんべいをバリバリ頬張るこぱんだをひと撫でする。
「胸の奥底に沈めていたものを全部吐き出すのって、すっきりしますよね。誰のことも気にせずに自分を解放する……決して悪いことではないと思うのです」
もちろん人を傷つけることは良しと出来ないけれど、喧嘩師相手に道理は通らないのだから、この際溜まった鬱憤をぶつけてみたり、うれしくってじたばた暴れたい身体を許してみたり、モヤモヤやイライラを吐き出してみたり、何か訴えたいことを叫んでみたり、暴れるついでに解放してみてはどうだろう。
「彼女はあくまでも喧嘩師。殺し合いは望んでいませんし、目的でもありません。力を解放したい彼女を止められるのは、きっと皆さんだけ。だから思い切って、わーってしちゃいましょう! 今日だけ、特別ですよ!」
お腹が空いたらこれをどうぞ。そう言って辛子明太子のおせんべいを持たせてくれた真宵は皆をにこにこと見送るのだった。
第1章 ボス戦 『喧嘩師『敷島・カオル』』
博多警察署に辿り着いたとき、クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)とシスティア・エレノイア(幻月・h10223)を出迎えたのは、事故処理車の上に積み上がるパトカーのバリケードであった。
(いいのかな、これ。本当に壊しても……)
お墨付きをもらっていても必要以上に壊すのは気が引けてしまい、躊躇いばかりが先行する。詠唱錬成剣を鉄骨へと変じさせ対抗の意思を見せるシスティアは、しかし渋い顔をさらにくしゃりと歪ませてバリケードを仰いでいた。
窺うように傍らにちらと視線を落とすと、ちょうどクラウスと視線がぱちりと重なり合う。どうやらふたりとも躊躇いを覚えていることは同じだった様子。目が合うなり互いの胸中が手に取るように伝わってきてホッとした。きっと、こういう瞬間がいくつも重なってきたから、傍にいてくれると安心するのかもしれない。
ひどく悩んでいたけれど、ふわりとゆるやかに浮かんだ微苦笑がバリケードを一瞥する。
「通るのに必要な分だけ、派手に壊そうか」
「そうだね。最低限のバリケードだけ破壊して進んで行こう」
どうせ戦闘が始まれば辺りはめちゃくちゃになるのだから、誰が壊したとしても忘れようとする力が働いてうやむやにしてくれる。
署内に突入したシスティアが鉄骨を振り払うと、積み上げられた寄せ集めのバリケードを一薙ぎで破壊。罪なき備品や家具を粉砕してしまうことに胸を痛めながらも、自分が躊躇ってばかりだとクラウスもやり辛くなってしまうと思い、揮う力はいつもより上乗せした。
体内の魔力をバールの形に錬成した得物を、狭い廊下に頭から続々突っ込んだと思しき白バイに振り下ろす。なぎ倒したバイクを飛び越えて角を曲がったとき、ちょうど騒音を聞きつけて扉から顔を出した喧嘩師『敷島・カオル』と目が合った。
「なんだぁ、てめぇら」
両目を眇めるようにしてふたりを見据えるカオルは、しかしその唇に明確な喜色を浮かべている。
「お嬢さん、喧嘩強いんだってね。何でも有りの勝負をしよう」
一歩前に出たシスティアが肩に背負っていた鉄骨を見せつけるように廊下に突き立てると、同じ得物を扱う者から売られた喧嘩にカオルの顔面に笑みが広がってゆく。
自分を庇うようにして立つシスティアの背後で、クラウスはすでに集中力を極限にまで高めていた。
足の爪先から、髪の毛の一本に至るまで統一された精神は、大きな踏み込みから水平に薙がれた鉄骨のぶん回しを難なく回避。速度を倍以上に跳ね上げた身のこなしは、鉄骨の上に着地してそのまま彼女の背後に回ってバールの一閃を打ち込むほどに恐ろしく速い。
(喧嘩が好きなだけでたぶん悪い人じゃないし、河原みたいな風景の中で爽やかに殴り合えるといいよね)
そんなことを考えたときだった。一定の間合いを取るために後方へと飛び退いたクラウスの足元に、河原に広がる雑草やちいさな草花が波のように押し寄せ、広がり芽吹いたのは。
鼻先を濃い緑の香りがくすぐってもおかしくはないほどに生い茂る幻に驚いた様子のカオルは数瞬まばたいたものの、すぐさま鉄骨を軽々持ち上げると至近に居るシスティアへと振りかぶる。
顔を狙って寄越される一振りを魔光の盾で塞ぐかたわら、システィアは片手に掴んだ自身の鉄骨をカオルの空いた脇腹へと叩き込む。|憶う花苑を見せる魔法《ノアグレンツ》による恩恵を受けたシスティアの攻撃は必中だ。双方の巨大な鉄骨がかち合って金属音を散らす裏側で、鈍い音がカオルから立つ。
「いってぇな……」
はく、と零れた吐息に笑いを交えてカオルは認めたようにシスティアへと視線をくべる。だがそれも一瞬だった。すぐさま魔光を叩き割らんとする二撃目、三撃目が飛んできて、その気迫と重量は呼吸すらままならず受け止めるだけで精一杯。
クラウスは自身の魔光も重ね掛けすることでシスティアを守った。
「盾ごとかち割られそうな怪力だ……すごいな……」
確かにこれほどの苛烈さを極めているのであれば、並大抵の者はカオルと対等に|喧嘩《・・》など出来ないことを窺い知ったクラウスは、破壊を躊躇っている暇などないことを悟り、カオルにもシスティアにも負けないようにとバールを握り締めて床を蹴る。
「思いっきりやろう、ティア」
この戦いは大暴れすれば自分たちの勝ち。
「そうだね。いこう、クラウス」
うら若き乙女が振り回す鉄骨に負けたら流石に悔しいから、ふたりは遠慮をかなぐり捨てて喧嘩師に挑んでいく。
破壊を奏でる轟音はしばらく続いていた。
「やあねぇ二人ともか弱いんだから。髪だけじゃなくて縦と横も伸ばしなさい」
不意打ちの機を窺うため柱の物陰に潜む五槌・惑(大火・h01780)と、その背中からひょっこりと顔を出してにこにこ笑う焦香・飴(星喰・h01609)を振り返り、これ見よがしに吐息した僥・楡(Ulmus・h01494)は通路を塞いでいたパトカーを窓から投げ捨てた。
砕けた硝子が陽射しを透いてきらきらと瞬くのは楡の恵まれた美貌と体躯を磨くようで、ことさらのように存在感を示している。
派手な音を立ててパトカーが頭から地面に突き刺さるのを横目に見てしまった惑は銃を引き抜きながら、身体の大きさのぶん一撃が重いのは当然だと主張。
「俺だって身体作れンならそうした。変わらないから仕方ねえだろ」
「まぁいいわ、拳で戦うの得意だもの。一先ず援護は惑ちゃんに任せて暴れてくるわ」
小さく肩を竦めた楡は、そう言うなり音を聞きつけて姿を現した喧嘩師『敷島・カオル』の元へ颯爽と駆けていく。その背中は実にたくましい。
「まア近接は楡に任せるか」
喉元まで込み上げてきた思いを吐息に乗せて吐き出した惑は、なおも己の背後から様子を窺っている飴へと視線を落とす。
「飴は何で此処にいンだよ」
「あ、これ一旦見てていいやつじゃないんですか? だって楡さんのタイマンですよ、絶対面白いじゃないですか」
それに楡なら大暴れしていても、あの顔の良さで何もかも許されそうだ。
「お嬢さん、アタシとも一曲踊っていただけるかしら」
「いいぜぇ。オレかお前か、どっちかがぶっ倒れるまでなぁ!」
接敵して殴り合いに持ち込む楡に向かい、風を切りながら構えられたカオルの鉄骨が頭蓋を叩き割らん勢いで振りかぶられるのを盗み見て、飴は惑を一瞥する。
「巻き込まれたら頭潰されそうだし」
「一緒に構って貰って来い」
「惑さん、それ俺に潰れて来いって言ってない?」
「敵がどう出たとして、楡の方が手数は多いし優勢じゃねえのか」
攻撃を宣言したカオルが|防具《セーラー服》を脱ぐ。楡の足払いを軽く飛び上がって回避、だが幽かな花の香りを連れた呪詛の組紐が、まるでこの身ごと|抱《いだ》くように鉄骨に絡みついてくるので、弾くことが叶わなかった。短く舌打ちすると、それでも迫る楡の拳に向かって力を一気に放出。鋭い突きを繰り出す。
轟音。
避けた鉄骨は壁を破壊して室内の物も打ち砕いたらしい。破損した一部がふたりの元へと行かぬよう留意しながら立ち回る楡は、頬を掠りそうになった破片を片手で掴み、粉砕。
「……いつまで観戦席にいる気だ、さっさと仕事しろ」
するりと身を横へと滑らせた惑は、観戦者モードのままで居る飴の尻を蹴り飛ばした。
「ちょっと!」
ズン、と大気が重くなる気配を感じて|天玄《軍刀》を構えた矢庭に降ってきた鉄骨は、あえて受けた。身に走るのは呼気を奪うほどの衝撃、次いだのは目がちかちかするほどの激痛だった。血液も想定以上に溢れて床に血だまりを作っている。
(……あ、やっぱり前より痛覚鈍いかも?)
自分の感覚を確かめながらも飴は軽く床を蹴ってカオルとの間合いを一息に詰めたならば、その懐に納刀したままの天玄を叩き込む。鈍い音を立てた衝撃を膚で感じ、至近で交えた視線にはやわらかな笑みをひとつ。
勇ましい掛け声と共に振りかぶられた鉄骨をひょいと躱した飴は、潜む物陰を適宜移動しながら銃弾の麻痺毒と呪詛や炎を織り交ぜて死角を突くような攻撃を行う惑の傍らまで退いて行った。
「もう分かったんでラスト一撃は惑さんが貰ってくださいね」
「あら遅かったじゃない二人とも」
すれ違いざまカオルへと拳をくれた楡が、盾にされて割れた机の天板がくるくる回転して後方へと飛ぶのを横目で追う。後ろには通さないつもりではいたけれど、実際あれくらいの障害物が飛んできたところで困るふたりではないだろう。
「わざと通してンじゃねえよ」
惑は標的を己に定めた喧嘩師の宣言を耳にしながらも天板を避け、なおかつすぐさま鉄骨を担いだ状態で迫ってきたカオルを伸ばした髪で縛って封じたならば、肩を並べるふたりの方へと放り投げた。
「仕留めはアンタらに任せた」
「物みたいに扱ってんじゃねぇぞ!」
カオルから怒号が飛んでくるが、惑の表情は変わらない。
「飴ちゃんも後ろばかりも飽きたでしょう、楽しんでらっしゃいな」
「ってねえ楡さん、さっきもあったこれ!」
ひょいと子猫のように首根っこを掴まれ軽々放り投げられた飴は、投げられた勢いのまま天玄をカオルの胸に突き立てる。
「あなたも満足です?」
穿つ寸前で鞘を握って食い止めたカオルは、とろりとした眼差しに不敵な笑みを返して手首を捻る。ぐるんっと視界が勢いよく回転して身が捻られる。そのまま床に引き倒されそうになる気配を察して受け身を取ろうとしたところへ、乾いたが音が駆け抜けていった。見遣れば惑が撃ちだした弾丸が、鉄骨を担ぐ肩口を貫き隙を生んだらしい。
「随分楽しそうだこと。纏めて撃たないように気を付けてあげてね」
「飴が楽しそうじゃねえ日なんぞあるか? 撃たれたところで笑ってるよ」
惑は至近にまだ飴がいるにも関わらず、だがカオルの四肢を的確に撃ち抜いた。鉄骨を担ぐ拍子に時折ぐらりと身を傾がせるカオルの傷口から毒が滲んだように変色しているのを見とめた飴は、天玄でちょんと突く。
「いってぇ!」
反射で振りぬかれた鉄骨をしゃがんで躱し、軽やかなステップを踏むように後方へ引いてふたりの元へ。
「んふ、三人で遊ぶの楽しいですねえ」
まるでじゃれつくような激闘を覗き見ていた猫がにゃあと鳴いた。
カオルの表情は夏の晴れ晴れとした青空のように清々しく輝いている。
「はぁい、こちら占拠された警察署に一名様入られまーす」
パトカーから下りた篭宮・咲或(Butterfly effect・h09298)は助手席に回り込むと車内からハンドヘルドマイクを口元に引き寄せて、要塞と化した博多警察署に向かって呼びかけた。それから後部座席の扉を開けてアドニス・ガルダ・インファリリ(プシュケの花檻・h12904)の下車を手伝う。
「パトカーで申し訳ないけどそこは許して頂戴な」
「馬車や天馬、龍には乗ったことがあるけど、まだパトカーはなかったなぁ」
新鮮な体験が出来たと笑みを刷きながら下りてきたアドニスは、パトカーが思いがけず乗り心地がよかったことに上機嫌。
「|連行《エスコート》 をありがとう。流石、本職だ」
「……連行って言っちゃった。あ、運転手のバイトはいつでも受け付けてるよ」
戯れのように言葉を交わし合うふたりは早速突入。
署内は白バイやパトカーが無理やり突っ込んだという風に、あちこち見る影もなくめちゃくちゃだった。机程度であれば飛び越えられるがパトカーはそうもいかない上に、今回はアドニスもいるので咲或は幽蘭ノ章を用いて強固なバリケードを破壊して先へと進む。
「アドニスの戦ってるトコとかちょっと気になる」
「私の、か……君の職場で暴れてもいいの?」
「ちょっとくらい派手にやっても大丈夫」
一応の|本職《カミガリ》である咲或だけれど、今日ばかりは博多警察署には犠牲になってもらう他ない。忘れようとする力がどうにか上手く働いて、すぐに無かったことになるだろうから。
「それじゃ遠慮なく遊ぼうか。普段は使徒達が一緒だから、今日の私は咲或を頼りにしているよ」
「頼りにしてどうぞといいたいけど基本後衛なんだよね」
咲或はおどけるように小さく肩を竦めてみせた。たしかに、先陣を切って敵に向かって切り込んでいくようなタイプには見えない。
「これ、邪魔だね」
アドニスは己の進行を邪魔する積み上げられたテーブルや機材を春骸の鞭を振るって破壊した。すぱりと断たれたテーブルが真っ二つに割れたのを一瞥もせず、かつこつ踵を鳴らして廊下を往く。
銃よりも|春骸の鞭《こちら》のほうが手っ取り早くて扱いやすい。隠れている警察関係者も周囲には居ないようなので、アドニスの揮う鞭は風を切って容赦なく障害物を打ち据えていく。
「すごい様になってない? 慣れてる……?」
ずいぶんと手慣れた様子。パフォーマンスの如し鞭捌きを披露され、これを|無料《タダ》で見ても良いのだろうかと拍手する咲或から歓声が上がった。
「咲或も派手にやるね。なかなかに鬱憤も溜まってる?」
「普段はおっかない上司にお叱り受けちゃうから。借りてきた猫の如く大人しくしてる分、今日は暴れたい気分なの」
口端を吊り上げて笑うアドニスは、視線を咲或に向けたまま思い切り鞭を振り下ろし折り畳みテーブルとパイプ椅子が積み上がるバリケードを粉砕。土台にあった複合機が裂けて、衝撃でコピー用紙がはらはら舞い上がる、
「……楽しくなってきたな、これ」
びゅんびゅんと風を切る鞭はまるで生き物のようにアドニスが思うほうへと駆け回る。正しく軌道に乗って狙い通りの箇所を貫くのは一種のアトラクションのよう。意識してしまうと、次から狙うものたちが|的《まと》に見えてくる。
傍らの咲或も、澄ました表情からは想像出来ぬほどに苛烈な振る舞いでバリケードを薙いでは押し倒し、一方では原型を留めることを許さぬくらいに破壊し尽くして涼しい顔。
「普段の猫被りの君にも興味があるけどな」
「猫かぶり咲或ちゃんはまた何時かねぇ」
アドニスが密やかに笑うと、秘めやかな眼差しとなって返ってくる。
「ありがとう。おかげで楽しい見学ができた」
「お粗末さまでした~」
「お粗末さまでした~じゃねぇんだよ。オレを忘れてないか?」
たっぷり遊んで満足したと言わんばかりに踵を返そうとする咲或とアドニスの背中に、ぴりりとした空気が追いかけてくる。寄越された言葉に振り返ってみせたならば、廊下の中央に仁王立ちする喧嘩師『敷島・カオル』が鉄骨を肩に担いだ状態でこちらを睨んでいた。
「あら、居たの」
「尻尾巻いて逃げたのかと思ったよ」
「なわけあるか」
カオルは床に鉄骨を突き刺すように立てると、腰に拳を置いて両目を鋭くした。
「わりぃけど、オレの相手をしてもらうぜ。暴れるの、ずいぶんと楽しんでただろう?」
にやりと口端を吊り上げるようにして笑ったカオルが、有無を言わせず突っ込んでくる。どうやら相手をしてやらねば警察署から出ていけない様子。振りぬかれた鉄骨を寸前で躱すと、それは壁を破壊して室内に並んでいたロッカーを全て薙ぎ倒した。巻き込まれた衝撃でスイッチの入ったスピーカーがハウリングを起こすのは、まるで喧嘩の合図のようだった。
面倒事の気配。ちらと互いへ目配せを寄越したふたりは、しかしてカオルに負けぬくらいの笑みを浮かべると、二撃目に入るため大きく後方へと振りかぶられた鉄骨に向かってゆく――。
連続する派手な破壊音には、なぜだか笑い声が重なっていた。
「思う存分猪ゴリラしちゃってよろしいのですか! やったー」
弱々しく回転するパトランプは、まるでひっくり返ったパトカーが助けを求めるかのようだった。躑躅森・花寿姫(照らし進む万花の姫・h00076)は怪力を利用してそのパトカーを正位置に戻すと、何事も無かったかのように鬼臨坂・弦正(金輪際・h07880)のほうを振り返る。
「此度は「待て」とは申さぬ。道は突き進むもの、壁は壊すもの、と貴女の信念に従い御供致す」
鮮やかな手際の良さに感心して頷いていた弦正は、特に顔色を変えることなく花寿姫を受け止め、正面玄関を塞ぐ事故処理車や警察車両を薙ぎ払い正面突破。
「貴方がついてくださるのなら百人力です」
肩を並べて共に戦える心強さと喜びは身を震わせるほどに高まってゆき、万感の思いはやがて花寿姫の微笑みをいっそうやわらかなものにほぐすようだった。
「遅れは取らぬ。其方こそ、見失わぬよう」
「ふふ、貴方のことを私が見失うと思って?」
何処に居たって胸に灯った想いがきっと貴方を見つけ出す。
花寿姫はフラワリング・キーに結んだトルコランプを頭上に翳して数度振る。するとたちまち純白のベールに大輪の花が寄り添うアザレア・ブルームに変身した彼女は、その魔法少女風の見目とはずいぶんかけ離れた怪力を発揮して、バリケードに用いられたテーブルや椅子、ロッカーを放り投げては蹴って殴って破壊する。
「わーい楽しいです!」
花寿姫が通ったあとだけ細く道が出来上がっている。まるでちいさな怪獣が己を阻むものを許せず千切っては投げ、踏みつけてはぺしゃんこにしているようで、いっそ清々しいくらいだ。
「……気が咎めるが……」
弦正は通路を塞ぐ雪崩れた棚と机のバリケードを力任せに破壊。普段なら決して行わぬこともこの場に在っては許される。複合機を八咫月で弾き飛ばすと、壁に激突したそれは痛みを表すように白紙のコピー用紙を次々吐き出して止まらない。
お墨付きを貰っているので気にする方が負けとは言え、やはりいささかの抵抗を覚える弦正であったが、花寿姫に倣ってめちゃくちゃに壊すというのは、ちょっと楽しかった。
ふたりは最短のルートを駆け抜け、最速で喧嘩師『敷島・カオル』の居場所を突き止めた。むしろ騒ぎを聞きつけてあちらから顔を出してくれたのは幸いした。
通路を駆けていた弦正と花寿姫は、通路奥から姿を見せたカオルを見とめた矢庭に互いの視線を交えると、一切減速せず駆けこむ勢いのまま先制攻撃を。
猪突猛進。
それは花寿姫殿の十八番。
(此度は俺もそれに倣おう)
だがまずは、数歩前へと躍り出た花寿姫が初撃を狙う。接敵に小さく目を瞠ったカオルは、しかし新たな喧嘩相手のお出ましに嬉々として鉄骨の構えを取る。わざと大振りの一振りにて軌道を読ませると、案の定カオルはそれを目で追いかけた。花寿姫はとん、と軽やかにバリケードを踏み台にしてくるり飛翔、遠心力を利用して一発打ち込む――その背後。
ひらりふわりと揺れる純白の奥から、目にも止まらぬ怖ろしいくらいの素早さが一直線に迫ってきた。抑えられた殺気は鬼気に喰らわれ、もう一人の男が間合いを詰めてきたのだと理解したのは、居合の一閃が鉄骨を両断しただけでなく、返す刀の峰で胴を打ち据えられた痛みを覚えたときだった。
かふ、と苦しげに吐血したカオルは、押し潰されるような重たい威圧を覚えながらも、得物が分断された事実に驚いている。
「へぇ、やるじゃねぇか」
ほんの一瞬生まれた隙を的確に突いてきた。およそ無駄のない洗練された仕草にカオルの顔面に喜色が浮かぶ。
「喧嘩がしたくば|徒手《こぶし》でやれ。いい相手が居るぞ」
瞬きすら追い付かない速さと技光る剣さばきに惚れ惚れとしていた花寿姫を横目で示す。
「俺の分も託されたと思って、存分にやり合ってくれ」
「はい合点承知です!」
近接戦闘を花寿姫に|交代《スイッチ》。ずずいっと前に出た花寿姫はフラワリング・キーをペンダントの小ささに戻すと、手のひらに折り込んだ四本の指を親指でしっかりと固定するように握り込む。
「強い相手と拳を交えること叶わずイライラする気持ちはよーくわかります! 私もそうですもの!イライラさん同士楽しく戦いましょう!」
自慢の拳と蹴りを召し上がれ。
微笑はやわらかく、それでいて少女めいている。
けれど、振りぬかれた拳は大気を裂くほどに鋭く、蹴りは呼気を奪うほどに重い。舞い散る花びらが地面に触れるわずかな間に躍り狂うように、花寿姫の拳と蹴りは絶え間なく繰り返される。
宣言の余地すらなく、苛烈を極めた気迫の連続を受け止めるしか許されないカオルは、しかし背筋をぞくりと震わせるような笑みを浮かべていた。血湧き肉躍る相手との喧嘩が実現できて、うれしいのだ。
もし危なくなったら手助けをと思っていた弦正であったが、そんな心配は野暮であったとたちまち反省するくらい、少女たちの喧嘩は轟音を撒き散らすほどに派手ではあったがどこか健全さすら窺えるもので、むしろ飛んでくるバリケードの残骸を躱すほうがちょっと大変なくらいだった。
暴れるのは得意だとばかりに意気揚々と博多警察署に突入した茶治・レモン(魔女代行・h00071)は、えいっえいっとバリケードの山を壊して、飛び越えて。ひっくり返ったパトカーが窓外の駐車場に突き刺さっているのを「おお」「まるで芸術ですね」なんて感心しつつも気配が濃いほうへと進んでゆく。
(とは言え……斬られるのと殴られるの、どちらがお好みなんでしょう?)
――分からないなら。
「全部試してみましょうか!」
ぬぅっと廊下の曲がり角から先に姿を見せた鉄骨を見とめて、レモンは太ももに固定したホルスターからカイヤナイトの鉱石ナイフを引き抜いた。五指が握り込む感触を覚えたならばその切っ先をすぐさま喧嘩師『敷島・カオル』に突き付ける。
「ご賞味下さい、魔導式短剣技巧です」
「ご挨拶だなぁ。オレぁガキを虐める趣味はないんだが」
「見た目で侮るタイプですか? 痛い目を見ますよ」
床を蹴ったレモンの華奢な躯体は、一息でカオルの懐まで飛び込んでいく。
|サイハテ《鉱石ナイフ》に切れぬものなし。ガラスを透いた陽光が深く澄んだ青を宿すカイヤナイトの鮮やかさをひときわのように煌めかせる。翻った刃は、攻撃を宣言して|防具《セーラー服》を脱ぎ捨てようとするカオルの肩口へと深く潜り込んだ。引き抜くと鮮血が噴き出し、薄く開いた唇から幽かに吐息が溢れるのを聞いた。痛みは等しく感じるらしい。
「楽しんで下さいね!」
サイハテは切断も、目潰しも、傷口をえぐることだって出来るのだ。
――それに。
「実は、僕の両腕は義手ですので……シンプルに拳で殴ることもできます」
こんな風に。態勢を整える間もなく寄越された鋼鉄の拳がカオルの横っ面を弾き飛ばす。
「いいもん持ってんじゃねぇか」
「有能ですみません」
「謙遜に聞こえねぇよ」
口の中が切れたのか真っ赤な唾を吐き捨て、手の甲で口元を拭うカオルがにやりと笑う。その瞬間、レモンの直感は危機を察した。矢庭に片手で掴まれた鉄骨が眼前を奔り抜けていった。とっさに身を引いたが、掠めただけの風によって前髪が数本ほど切られてしまい、それは無残に散ってゆく。
はらりと床に落ちた自身の髪の毛を一瞥したレモンは、ぱっと笑顔を浮かべると。
「んー……っと。近接はイヤな予感がしますね!!」
言い終えぬうちに十分な間合いを取るように後退。
「あっ、てめぇっ! 自分は近接で仕掛けておいて逃げるのか!」
編んだ魔法を遠距離からパシュパシュ撃ちだすと、鉄骨で弾きあるいは壁を駆けて回避するカオルから怒号が飛んでくる。
「あっ、殴り殴られがご希望ですか?」
はたと手を止めたレモンは魔法の雨を一旦停止。魔法の杖代わりに振るっていたサイハテをホルスターに戻して両の拳を握り込む。
「なるほど……良いでしょう。相手になります! ――来い!!」
「威勢が良いだけってわけじゃなさそうなのは、よく分かった」
――だから。
「どっちが最後まで立っていられるか……存分にやりあおうぜ」
どちらからともなく走り出す。
レモンとカオルの拳が互いの頬へとめり込んだのはその刹那のあとのことで、それからはまるで猫がじゃれあうように、羆が獲物を狩るように肌が痺れるくらいの気迫の殴り合いがしばらく続いていたのを、窓のふちに前脚を引っ掛けてぶら下がる猫たちだけが見つめていた。
(なるほど、全力を解放する場所が無いのね)
だからと言ってよりにもよって警察署を選ぶとは中々豪気なものだ。
けれど無差別に喧嘩をふっかけないところは気に入った。不破・鏡子(人間(√マスクド・ヒーロー)のマスクド・ヒーロー・h00886)はバリケードに利用されていた白バイを起こしてホールの壁際に寄せると、背後からこちらを静かに窺っている気配に向かって振り返る。
「良いでしょう、私も手伝ってあげる。お互い満足の行く喧嘩にしたいわね!」
鏡子に朗らかな言葉を投げ掛けられた喧嘩師『敷島・カオル』は、片腕で大きな鉄骨を抱えているというのに、まるで羽でも持っているかのように涼しい顔を浮かべていた。
「オレを楽しませてくれ。なに、命までは取りゃしねぇよ、そんなものに興味はない。」
カオルの言葉は、ふしぎと真実だと受け止めることが出来た。だから真剣に喧嘩と向き合わなければ。
喧嘩――となると自分が取るべき戦法は、殴られたり殴り返したりと言う肉弾戦になる。戦法なんて呼べやしないかもしれないけれど。
「その鉄骨を存分に振るいなさい!」
「ありがたいねぇ、最初からそのつもりだよ!」
あれだけ大きな鉄骨だ、攻撃の軌道を視認するのは難しくないだろうがエネルギーバリアは張った上で、障壁発生装置で盾受けを専念。重ね掛けが過剰であったかと思いきや、まるでその二つを粉砕するかの如き重量が鏡子の骨身に響き渡るほどに落ちてくる。ただの一振りは、空が落ちてきたのかと思うほどに過酷だった。
「なんて怪力……でも、耐えて全力を使わせてやるわ!」
やっとの思いで吐き出した息は思いがけず掠れていた。カオルは自身の一発を耐えきった鏡子を見下ろして、唇に笑みを広げている。小手調べだったのだ。
態勢を整えるわずかな隙にカウンターを突き出せば、確かな感触を覚えているのにカオルはすこし目を瞠る程度。|格闘者《エアガイツ》の一発を物ともしないカオルの強靭な肉体は、なるほどその辺の者には受け止めきれまい。
「行くぜ! ぼやぼやすんなよ!」
(――来た)
真面目なのか律儀なのか、攻撃を宣言して|防具《セーラー服》に手をかけるカオルを見た鏡子はすぐさま呼吸を整えると硬気功で全身を鉄壁に変える。
真正面から鉄骨を振り抜く動作に小細工は見当たらない。せめて受け止めるか、いなすかを試みた鏡子の拳を軽々弾き飛ばしたカオルは、頭上へと振り上げていたはずのそれを、なんと寸前で水平からの一薙ぎに切り替え躯体を薙ぐ。
世界の時が止まったような衝撃が鏡子の視界を明滅させる。
だが、一瞬で意識を手繰り寄せた鏡子は振り抜いた格好から鉄骨を持ち上げようとするそのわずかな隙を見つけて拳を捩じ込んだ。鈍い音を立ててカオルの躯体が浮く。そのまま自身の拳に結びつけるように斬妖糸を絡めて捕縛したなら勢いよく床に向かって叩きつけた。
したたかに背を打ち付けて咳き込んだカオルを跨ぐように抑え込む。
「さぁまだまだ、力の限りやりましょう!」
握り込んだ鏡子の拳から気迫が迸るのを見て、倒れ込んだままカオルは笑みを刷いた。その表情は玩具を与えられた子どものよう。
「ああ、その拳をオレをぶつけてみろ!」
跳ね起きたカオルは鉄骨を指先の力で掴んで振り回す。
破壊と打撃の音は戯れのように、そうしてしばらく続いていた。
「警察署をめちゃくちゃにすると聞いて……!」
要塞と化した博多警察署は、すでに破壊のあとが窺えた。それは簒奪者たちに占拠されたがゆえの被害であるのか、同じように暴れに来た先陣たちの成果であるのか判別できないほどの荒れ具合。
思い切り、好き勝手暴れ回ってもいいとお墨付きを貰って上機嫌の緇・カナト(hellhound・h02325)は何をしようかとわくわくした面持ちを隣の雨夜・氷月(壊月・h00493)へ向けて問う。
「何しようか~」
「んっふふ、それならやっぱり俺は爆破かなあ」
青いきらめきを散りばめる煌石を人差し指に引っかけてくるくると回して遊ぶ氷月の言に「なるほど」「ぴったりだ」得心がいったように頷いたカナトは、瞬間ひらめいた。
「オレのストレス発散が思い浮かんだよ……!」
「カナトのストレス発散何何?」
まず手始めにパトカーの一台や二台爆破しようかと煌石を放ろうとしていた手を止めた氷月が振り返ったその先で、カナトの姿が人から|大狼《フェンリル》へとゆるり変じてゆく。
「えっ、もふもふ!?」
ふさりとした耳、豊かな尻尾、すらりと美しい体躯のフェンリルを見つけた氷月の瞳は煌石よりもきらきらだ。大きなもふもふはしなやかに駆けると積み上げられたパトカーのバリケードを軽々飛び越え、後ろ足で蹴り崩す。それからくるっと振った遠心力の勢いに乗せて尻尾でビンタ。
ちゃかちゃか爪を鳴らして、あっちへこっちへバリケードを破壊して回るカナトワンちゃんの姿を見れてごきげんな氷月は、自分も遊ぶーとばかりに通路を塞いでいたバリケードを蹴っ飛ばす。
「よーし、張り切って壊すぞー! 俺こっちー!」
氷月は両脇に連なる扉から片っ端に煌石を投げ込み、爆破。天井までうず高く積み上げられたテーブルやイス、ロッカーや機材といった備品は衝撃で吹き飛び、果てには壁をも破壊して穴を開けるだけでなく開放的にリノベーション。
「どんどん壁も壊れてスッキリ!」
氷月の気分もスッキリ爽快。今日は口煩いやつが一人もいないし、人体を破壊しているわけではないのだから体液などで汚れる心配もない。煌石の威力も確かめられる。
弾けた窓ガラスが陽光を透いて散らばるのを「わぁ、きらきらしてきれい」なんて素っ頓狂な感想と共に仰ぐ氷月は、まるでいい仕事をしたとばかりに額を拭う。
「カナトはどう? 順調?」
新しい煌石を取り出しながら背後でもふんもふん暴れ回るカナトを首だけで振り返ると「なーにー」と部屋内から廊下に首だけ伸ばしたフェンリルと目が合った。口にはバリケードから剥いたと思しき鉄の棒のようなものを咥えている。
「とってこーい遊びでもする?」
『多少の攻撃とかは無効化できるケド、あんまりやり過ぎたらお腹もすいちゃうから~』
フェンリル狼は、外部からのあらゆる干渉を完全無効化する無敵を誇るが、変わりに体内の血液を大量に消費する上に、カナトが抱える飢餓感を加速させてしまう。
「あははウソウソ、|煌石《コレ》ではやんないよ。道具でやるのも魅力的だけどー」
『とは言えお腹空いてきちゃったなぁ……あ! あの辺が食堂かなぁ』
空腹ゆえにか、あるいはフェンリルの嗅覚ゆえにか。幽かに鼻腔をくすぐる香りに無意識に意識と歩みが手繰られる。
『美味しそうな匂いがするよう』
「お、食堂? いってみるのもイイかもー」
もしかしたら腹を空かせる者にこっそりと提供している料理人がいるかもしれないし、あるいは無理やり作らされているかもしれないし。どちらにせよ何か軽く口にできるなら御の字だ。なにせ博多の食べ物はどこも美味しい。
てってこのんびりゆるゆるお散歩するカナトワンちゃんであったが、るんるんで傍らを歩く氷月を見やり、首を傾ぐ。
『氷月君たしかもふもふ好きだったよねぇ? 背中に乗って行くかい~』
「え、乗せてくれるの!? 乗りたい乗りたーい!」
無邪気に笑ってくれるのが何だか嬉しくて、カナトは乗りやすいように体勢を低くしたならば、ご厚意に大いに甘える氷月はもふんと騎乗。立ち上がるとぐんと視界が高くなって、駆ければ予想以上に速かった。
きゃっきゃと子どもみたいに駆け回るふたりはその内あんまり楽しくなりすぎて、バリケードを障害物のように飛び越え、隔てるものは氷月の煌石が破壊して。まるでアクション映画さながらの爆風を背にしながらぐんぐん警察署を進んでいく。
「うわっ」
いい匂いがして飛び込んだのは食堂だった。十分に開けたその場所にはバリケードがなく、簡素な折り畳みテーブルと椅子が並んでいるだけ。その一席に腰掛けてうどんを啜っていたのは喧嘩師『敷島・カオル』そのひとだった。
「アレ、喧嘩師のオネーサン? 折角会えたし、アンタにプレゼントをあげよう!」
カナトの背に乗り上がったまま氷月は煌石を転がしてどかん!
「てっめぇ、うどんがダメになるところだっただろうが!」
もくもくと立ち込める塵埃の奥から姿を見せたカオルはうどんの器と箸をしっかりと握り締めた状態で、けほけほ咳き込んでいる。ずずっと一息にうどんを飲み込んだカオルは「ごちそーさん」奥のカウンターに器を返却すると、立てかけていた鉄骨を担いで奇妙なペアを睨みつける。
「もちろん食後の運動に付き合ってくれるんだろう、なぁ?」
「いいよぉ。たっぷり遊んであげる」
『オレたちは腹ごしらえできぬのかぁ。美味しそうなのがいっぱいあるのになぁ』
残念だなぁなんて尻尾を垂れさせるカナトワンちゃんであったが、今日いちばんの大暴れを満喫してからでも遅くはないだろう。カウンターが被害に遭わぬよう立ち回りを意識しながら、ふたりと一匹はそれはそれはたいそう大いに遊び――喧嘩したのだった。
「ストレス発散!」
なんてすてきな響き。いや、そもそもストレスを抱えないのであれば、それに越したことはないのだけれど。
――しかし。
「私淑女なのでそんなに無いんですよね、ストレス」
シンシア・ウォーカー(放浪淑女・h01919)にはストレスが今のところ見当たらない。
「境華さんは何かありますか?」
ずいぶんな荒れ具合の博多警察署を呆然と仰いでいた神隠祇・境華(金瞳の御伽守・h10121)は、問われて小さく首を傾ぐ。
「そうですね、私もあまり思い当たるものは……」
「一緒ですねぇ」
境華の仕草を真似っこするようにシンシアは同じ方へ首を傾けた。それから燦燦と照りつける夏の陽射しを日陰から仰ぎ見て、日々身に降りかかるものをひとつずつ数えてみる。
「強いて言えば……冒険者として提出しなければならない書類たち。なにかと口うるさいうちのインビジブル達」
指折り数えるシンシアの話を聞いているうちに、境華はふと胸の奥底から泉のように滾々と湧き出る気持ちを自覚した。
「私も、少しくらい」
シンシアのやわらかな銀月の瞳が境華へ落ちる。
「もっと一緒に、色々な所へ行きたいです……!」
その視線をどこかこそばゆく感じながら、けれど素直な気持ちを吐露した境華。胸の前で握り締めた両手はちょっと震えていた。
けれどシンシアは、まるでたった今咲いたばかりと言うかのように、夏の花にも負けないくらいの微笑みを浮かべてゆき、ずいっと境華に迫る勢いで距離を詰める。
「あと、あと! お酒飲みたい美味しいご飯たべたい旅行したい!」
「旅行……いいですね……!」
それに何といっても、これから長い夏が始まる。
「海行きたいです海!! あと花火大会!! できれば冷房効いたすっごい高層ホテルの上からふたりでゆっくり見たい! あるいは一緒に浴衣姿で見に行ってもいいですね!!」
近年、気温上昇ばかりが話題になるけれど、夏の催しはたくさんあって身体がひとつじゃ足りないくらい。夏祭り、花火大会、レジャーはもちろんショッピングだって√を飛び越えれば様々なすてきなものと出会える予感。
今はちょっぴり忙しいけれど、この戦いが終わったらきっと一呼吸つけるはずだから。――いや、あえてこの時間すら楽しみに変えてしまおう。
他ならぬシンシアからの提案にそわりそわりと心が落ち着かない境華は、けれど今日の目的は忘れていない。ふたりの前に立ち塞がる|障害物《バリケード》を静かに破壊するけれど。
(――そういえば……)
隣で楽しそうに、にこにことした笑みを浮かべたままバリケードを剥いては投げ、あっちへぽいして自由に暴れ回るシンシアを見とめて、思い出す。
「遠慮をしなくても、よいのでしたね」
すぅ、と小さく息を吸い込んだ境華が、次に睫毛を持ち上げたときにはもう心は固まっていた。軽業師のような身のこなしで瓦礫や棚を飛び越え、壁際を覆う防護板をまとめて薙ぎ払えば、備品や機材に瓦礫の何もかもひとからげにして吹き飛ばす。窓外へと吹き飛ぶそれらを横目に見ながら、普段ならば飲み込んでしまう思いも思考も、今日だけは――今だけはちょっぴり外へと出してみる。
行きたい場所も一緒にしたいことも、まだ沢山ある。
――それに。
「いつかおさ……」
境華は言い終えぬうちに唇を引き結ぶ。これはさすがに、だっただろうか。
ふるふるっとかぶりを振った境華は自身の言葉を誤魔化すように、廊下に積み上がってぎゅうぎゅうに隙間なく押し込まれたパトカーを打ち崩した。派手な音が段々心地良くなってくる。
ぽかりと開いた穴を潜り抜けていく境華の背中を見ていたシンシアは、鉄くずと化したパトカーを強化した腕力で小さく折り畳みながら、ほとりと首を傾いでいた。
「いま一瞬、酒の波動を感じたのですが……気のせいでしょうか? ふふ、さすがに気の長い話かしら」
境華は来月十六歳になる、まだ身も心もうら若き少女。
でも、いつかそんな日が来たら良いなと思う。きっと、楽しいひと時が過ごせそうだから。日々境華と過ごすやわらかな思い出の欠片が、シンシアの胸に予感させる。
「思っていたより、すっきりしますね」
邪魔をするパトカーを全て取り除いて窓外に積み上げたシンシアは、意外そうな表情で自分の手と破壊の跡を交互に見比べる境華にやさしく笑いかけた。
「なんだか心が軽くなった気持ちですね! この調子でどんどん暴れ回っちゃいましょう!」
言いながらえいえいっと、軽い掛け声からはおよそかけ離れた威力を発揮してバリケードを粉砕するシンシア。
「シンシアさん、次はどちらを壊しましょうか」
「次あっちの壁壊しましょうよ!」
ストレス発散が功を成したのか、あるいは自由に暴れ回ることの開放感か。それとも、シンシアが楽しそうだからなのか。境華の表情はわずかばかりに、楽しそうに綻んでいた。
――ぱりぱり。
かつこつ静かな足音に伴うのは小気味良くせんべいが割れる音。かりこり小さな欠片を食みながら、物珍しそうに警察署を探索するフルール・ペタル(花揺籠・h05932)は瞬くオパールの瞳をきょとんとさせる。
(ケーサツは、わるい人をつかまえるお仕事をするのよね。その場所をこんなふうにしてしまうなんて、だいたんだわ?)
事故処理車の上に積み木のように重ねられたパトカー、頭から壁に突っ込んで沈黙する白バイ。あまり見慣れないけれど、市民のために力になってくれるはずの組織が今や見る影もない。
(こんな場所でわー! するだなんて、とくべつなお仕事ね!)
ぱりり。せんべいの最後の一口を頬張って、しっかりよく噛んで胃におさめたフルールは包装紙を折り畳んでポッケに忍ばせると腕に引っかけていた真白の花傘を、まるで騎士の剣のように握り締める。
「さ、めちゃくちゃにしてしまいましょ!」
ふう、と一呼吸いれたのち、傘へと注ぎ込んだのは「つよく、かたくなりますように」という想いのちから。夏の陽射しが降り注ぐように、きらきらとした細かなきらめきを散りばめる花傘を、えーいっと頭上へ振りかざしたフルールは、
「わー!」
とりあえず目の前の、テーブルとイスがぐちゃぐちゃに積み上げられたバリケードに向けて振り下ろす。傘の先が天板を叩き割った衝撃が白く細い指先に走ってくる。その痺れるような痛みに目をちかちかさせたフルールは「まあ!」「いたいわ!」新事実にぱちくり瞬き。
でもここで遠慮をしていてはとても「おおあばれ」には辿り着けそうにもない。むんっと胸を張ったフルールは、ドレープのきいたスカートにたっぷりと空気を含ませるようにしてふわりステップ。花傘をパートナーに躍るような一振りがバリケードを打ち砕く。
勝手が分かってくると「おおあばれ」の手際が良くなってきた思いがして自信が付いたフルールは、破壊音が掻き消してくれるはずだからとついでに「わー!」と大きな声も出して、手あたり次第に障害物をぺしぺし叩いて、つんつん突く。
「なんだかたのしいし、すっきりするのね」
えいっえいっと右へ左へバリケードを掻き分けて小さな小道を作るフルールは、廊下の真ん中で立ち止まると額に薄っすらと滲む汗を拭いながら元来た道を振り返る。
「ふぅ……たくさんこわせたんじゃないかしら?」
五十メートルくらいは進んだと思ったのに、警察署の入り口がすぐそこに見えている。痛いくらい降り注ぐ夏の陽光を目の当たりにして首を傾ぐフルールだったけれど、お腹がくうと鳴って視線が落ちる。
反対のポッケから辛子明太子のせんべいをじゃじゃーんと取り出したフルールは、真ん丸一枚をそのままぱりり。
「……このおせんべい、おいしいわね」
こぱんだが夢中でバリバリ頬張っていたのがよく分かる、癖になるお味。
「おみやげに買って帰りたいわ!」
そしてどんな風に自分が「おおあばれ」したのか食べながら聞いてもらいたい。そうしたら、ここに一緒に居た気持ちになってくれるような、そんな気がするから。
バリケードのふちにちょこんと腰掛けたフルールの傍には、じぃっと少女を見つめる向日葵が一輪、揺れていた。
博多警察署の要塞化は想像していたよりも強固で、そして荒々しかった。
「……宿敵旅団」
ほんの少し前のことである。
恵宮・アキ(恋愛知らぬ心優しき乙女・h13025)は『ペンタクルム・ゲート』本拠地「スフィンクスゲート強襲作戦」に参加するメンバーのひとりであった。
「ペンタクルム・パールを使って、何かしようとしてるのね」
直感した。
しかし接敵した経験はあるといっても、その結果は苦く終えることになってしまう。最終決戦まで辿り着けなかったのだ。『白河・サナトリス』とも直接会うことはなかった。
当時のことを思い出しているのか、唇を引き結ぶアキの横顔は耐え忍ぶようにどこか辛そうだった。真壁・蒼穹(飛燕空剣流末弟子・h02281)は、微かに震える彼女の指先が手のひらの内に握りこめられているのを見て、そっと胸内で吐息をひとつ。
(アキさんもまだなりたてで、力をつけてなかったのも要因ではあるのかもしれないけれど……それよりも大事なのは)
言葉が浮かび終える先より、かぶりを振る。
「ま、アキさんが正々堂々と戦いを挑むなら私はサポートに徹しようじゃない!」
手始めに眼前を塞ぐバリケードをバキバキとへし折り畳んで小さくした蒼穹は、アキのためにその道筋を作ってやる。とつぜん目の前が開けたことに気が付いたアキは小さく息を呑み、積み上げられた机とパイプ椅子をせっせと破壊する蒼穹の後ろ姿を見て、強張らせていた肩をそろりと落とす。
――気を、遣わせてしまっただろうか。
きゅっと唇を引き結び、自身に喝を入れるために両手で頬を叩く。ばちん、と軽快な音がして蒼穹が振り返ったとき、アキの眼差しにはもう迷いは無かった。
『ペンタクルム・ゲート』の目的が変わっていないのであれば、犠牲者が増えるのは目に見えている。
「だったら、なおさらほっとくわけにはいかない」
深呼吸。
アキはその身に砦炎の土着神の分霊「焔の侍女」を纏いながら衛刀『星護』に霊気を流し込む。合金製模造刀は霊気を宿したことにより真剣霊刀へと変ずるだけでなく、アキの速度も倍以上に跳ね上げさせた。
とん、とひとたび地を駆れば手の届かぬ距離に姿を掻き消したアキ。その背を追いかけるように蒼穹も駆け出して行った。
通路を塞ぐものがあれば破壊。出入口を固めて侵入を拒むものがあれば破壊。手当たり次第、目につくバリケードはどんどん破壊して物々しさを打ち砕いていく。
その騒ぎを聞きつけた喧嘩師『敷島・カオル』が姿を見せたならば、蒼穹はすかさず|見捨てないという心《オーダー》を発動。
「私に命ずる、アキさんに銘ずる、アキさん、私を信じて」
――なんて、そんなのは今さら自明な気もするけれど。
「思う存分決めちゃって! アキさん!」
ちいさな笑みはそのままに、アキへと放たれたのは「蒼穹を見捨てないという心」を増幅する絆の権能。支援を膚で感じたアキは蒼穹に向けて小さく頷くと、矢庭にカオルに向かって炎を奔らせた。
「いざ、舞い踊る」
狭い廊下だ、天井まで勢いよく燃え盛る火の粉から逃れるようにカオルが退いたのを見て、すかさず間合いを詰めたアキは装甲ごと打ち砕く一太刀を振り下ろす。寸前で捻じ込まれた鉄骨とかち合った衛刀は、しかしアキの思いを乗せてカオルの躯体に辿り着く。
パッと赤い血が散らばって、それは床や壁、バリケードへと次々咲いた。鉄の匂いが濃くなって負傷を知るも、矢庭に眼前へと目掛けられたのは振り回された鉄骨。アキはそれをバク転で回避、バリケードを足場にして十分な間合いを取る。
「速ぇな」
カオルは舌打ちした。
だが喧嘩相手がふたりも居ることに喜びを露わにしてゆく表情はゆるやかに輝きを増す。
「まだまだ暴れたりないだろ? オレもだ」
――だから。
「もっと喧嘩しようぜ。立っていられなくなるまでよぉ!」
カオルは鉄骨をふたりに突き付け攻撃を宣言。次に訪れるものを察知した蒼穹とアキは挟撃を仕掛けようとふたり同時に飛び掛かる。
蒼穹はアキの攻撃がカオルに確実に届くように霊剣を揮って鉄骨の軌道を僅かばかりでもずらそうと、そして死角を突いて隙を作ろうとして。そんな蒼穹のサポートをアキは決して無駄にはしない。振りかぶられた鉄骨に乗る形で回避したアキは、瞠目するカオルが一瞬だけ視線を落とした刹那、頭上から衛刀を振り下ろした――。
派手な音が鳴り響く。
喧嘩師の笑い声と豪快な破壊の音はしばらく続いていた。
――思うまま刀を振るい
――高揚のまま駆けたい
誰にも言えなかったその声はずっと前から、|この目《・・・》になる前から裡にある。死線を駆ける事なぞ今さらもう怖くもないが、気が付けば両の手のひらから溢れそうになるくらいの|縁《えにし》を香柄・鳰(玉緒御前・h00313)はもう持っている。それを取りこぼす心配がないこの場で、思い切り解放することが叶うのは敵の企みも妨害出来て一石二鳥。
事故処理車の上に積み上がったパトカーを弾き飛ばして正面玄関から堂々と扉を切り開いて突入した鳰の横顔はちょっぴりわくわく顔。雪崩れ込んだ白バイの山を掻き分け、進行を邪魔するテーブルや椅子は思い切り蹴り倒してみたりして。
(……とても悪い事をしている気分!)
単独で現場に訪れた分、余計に心の裏側をくすぐられているような気持ちになる。だがやはり大太刀を揮うには通路は狭い。それに思い切り暴れるならば広い方がいいと見て、鳰はなぜだかよい香りのする方へと目指していった。
「うぉっ」
スライド式の扉を勢い良く開くと、椅子の上で片足だけ胡坐を組んだ格好でカツ丼をかき込んでいる喧嘩師『敷島・カオル』が鳰を見とめてぽかんとする。だがそれも一瞬。
「嗚呼、貴女が喧嘩屋さん? 消化不良で溜まっているのならば、宜しければお相手致しましょう」
得物を強調するように、玉緒之大太刀をすらりと抜いて銀色に光を跳ね返す切っ先を突き付けたならば、カオルの表情は喜色に富んでいく。ガツガツと残りを一気に平らげ、器をカウンターに叩きつけるように返却する律義さを関心していれば、すぐさま対抗するように構えられた大きな気配。
「貴女の武器は随分と大きいのね!」
「そっちこそ、でけぇ刀持ってんな。張り合いがあるってもんだ」
口元に微笑を湛えた鳰は片足を静かに引いて上段の構えを取る。得物が大きければ大きいほど、揮われた際の風切る音も大きく鳴るものだ。ここは障害物がなく、あるのは折り畳みテーブルと椅子だけ。開放感のある室内の音を邪魔するものが特にないのは幸いしたし、鳰の予想通り。
(ようく耳を澄ませましょう。当たってしまったら大変な事になりそう、うふふ)
まずは軽く、挨拶程度に振り下ろしを。天井を掻くほどに大きな太刀は真っ直ぐと空気を裂きながらカオルの頭上を目掛けられる。だがカオルはそれを鉄骨で弾き飛ばして、なおかつ行儀悪くもテーブルを足場にして飛び上がった。
「いくぜぇっ」
掛け声と共に落ちてきたのは、大気ごと押し潰すかのような弩級の一撃だった。寸前で捻じ込んだ刀身が鉄骨を受け止めるも、それは五指の感覚を奪うほどに重たくて苛烈を極めている。は、と短く呼気をするのと同時に柄を返して鉄骨を滑らせるとそのまま横へと往なす。すぐさま辿った気配は砂埃の中へ秘していくところであった。
「あら隠れ鬼ですか?」
――りぃん。
転がした鈴の音が食堂の空間に染み渡るように広がってゆく。可憐な響きは利口なことに一か所だけ違和を示し教えてくれた。矢庭に鳰はそちらを見ぬままに剣閃を放つ。鈍い音に次いだのはテーブルと椅子を巻き込む派手な音。
「いってぇ。ノールックかよ」
崩れ落ちた格好のままカオルが笑う。無様な姿を見せたことよりも、まともに攻撃を喰らったことがよほどうれしいらしい。それほどの実力者と喧嘩を出来る喜びが上回っているのだ。
微笑をひとつ浮かべたことで応えた鳰は|鵤《イカル》を放ち、衝撃波でまだ残る砂埃を払い落とす。
「さ、続きを致しましょう?」
これくらいで音を上げられたら、暴れ足りないから。
「ははははは……はぁ…」
乾いた笑い声が夏の陽光にとけていく。
「冗談きついな。博多警察の方々が不憫すぎる」
関係者の者たちは避難できているのだろうか。命を奪いたい訳ではないらしいのが不幸中の幸いといったところか。しかし要塞化した警察署と言うのは中々に非現実的で賀茂・和奏(火種喰い・h04310)はもう笑うしかなかった。
突入した署内も散々で、白バイやパトカーが室内チキンレースをしたのかと思うほどの荒れ具合。床や壁に頭から突っ込んだ警察車両を目にするのは、これきりであることを願いたい。
和奏の肩にちんまりとおさまる青い瞳の烏が呆れたように周囲を窺っている。今回、己の力を積極的に借りたいのだと事前に聞かされているので応えたいところなのだけれど、さすがに困惑が勝っている様子。
得物が大きいならば不意を突かれることはなさそうだが、注意深く署内を窺いながら進んでいく和奏は思いがけず早く喧嘩師『敷島・カオル』を見つけることが出来た。
「お嬢さん」
呼び掛けると、鉄骨を片手で担いだ状態でカオルが振り返る。当然だが、振り返ったことにより鉄骨が壁にぶち当たり破壊、風穴が空いた壁の奥には複合機が仰向けに倒れ込んでおり、助けを求めるようにコピー用紙を吐き出し続けている。
「自分の鬱憤晴らすためにかもですが、やって良いことと悪いこと……あるんですよ」
人好きのする笑みを浮かべてやさしく言うも、そのにこーっとした表情にはどこか圧がある。
常日頃から、自身がしたことの意味を、取り返しつかなくなってから気が付く人を多く見てきているから、和奏はどうしてもこの現場を見て見ぬ振りができなかった。
声音に憤りが宿っていることに気がついたのか器用に片眉を吊り上げたカオルはしかし、すぐさま鉄骨を突き付けるような構えを取る。
「オレの相手をしてくれるってことだよな?」
「そうですよ。言って聞けぬのであれば仕方がありません」
けれど、今回は刀は鞘に納めたまま。
「やんちゃな子を補導とまいりましょうか!」
言葉と共にリミッター解除。
和奏はまず、至近に積み上がっていたテーブルや椅子が絡み合うバリケードから最も重量のありそうなロッカーを、烏型異形『青』の力で浮かび上がらせると、カオルが鉄骨を操る利き腕を狙って突き飛ばす。
風を切り矢のように飛んできたそれを大きく振るった鉄骨の一薙ぎで打ち返すカオル。ロッカーは和奏の方へと跳ね返ることはなく、真っ二つに折れて無残な姿となって床に崩れ落ちる。
「あん?」
返す刀の要領で二撃目に入ろうとしたカオルは、眼前に居たはずの和奏の姿が見えず、攻撃の手を止めた。きょろりと走らせる視線の真上から降りてくるのは何故だか昏い夜のような濃い闇だった。とっさに片手で目を擦るも、闇はどんどん深まっていく。掻き消えた和奏を捜すどころではなく「くそっ」思わず舌打ちをした、そのとき。
「負けたら、潔くやめなさいよ」
気配が懐へ一気に飛び込んでくるのを感じた。感じたときにはもう、腹へと叩き込まれた衝撃で身体がくの字に折れ曲がり、冷たい床に身が投げ出されている。
霊力込めた鞘に収めたままの刀で峰打ちを叩き込んだ和奏は、どうかそのまま起き上がらないでくれと祈ったのだが。
「今のは効いた」
むくりと起き上がったカオルの顔面に笑みが広がっているのを見て、大きな溜め息が零れてしまう。まだ指導は続きそうだ。
秩序、公正――法の下に悪は裁かれる。
国家権力を振りかざす者が総て正しいとは限らないことを、夜鷹・芥(stray・h00864)は識っている。それは汚泥の味と一緒に身に沁みて、今なお喉元を縊り続ける水位を保ったまま。
(随分と耳障りの良いことだな。必要なときに救いを求めても手を取る人間を選ぶ癖に)
いい気味だ、と思う。
――様を見ろ。
荒れ果てた署内の風景は、芥が裡に秘めたる心象風景を表したように酷い有様だった。壁に積まれたかつての机や椅子はひしゃげており、もう絡まって離れることが出来ず互いの足を引っ張っているし、警察を象徴する桜のマークは真ん中からふたつに割れて無造作に転がっている。
デスクに散らばった捜査資料や供述調書、現場写真をまるで何者かに急かさるように急いで親指で弾き捲っていく芥は、目当ての物が見つからなければ八つ当たりするように雑に放り投げ、デスクを蹴飛ばし舌打ちをする。
――ない。
(――俺がずっと探す手掛かりは内部に)
思考は一点に集束する。
いくつか階級が上の者が出入りする場所ならどうだろうか。県内でも大きな警察署に潜入出来たのだから、せっかくのチャンスをふいにはしたくない。芥は部屋を移動することにした。
〇
(めちゃくちゃに、ね。していいならするけれど)
ロズランシェ・リアディオ(赫耀・h08219)は美しい|顔《かんばせ》に微笑を湛えているにもかかわらず、なぞるように寄越される視線や淡く弧を描いた唇にはどこか得も言われぬ妖艶さを滲ませていて、近寄り難い雰囲気を帯びている。
それは右手に握った赤薔薇の斧のせいかもしれなかった。薔薇を溶かして煮詰めたような刃を一振りすると長物へと形状変化。破壊行動は得意だからロズランシェにとっては呼吸をするのと同じようなものだ。
「さあ、どこから壊す?」
なんて零した矢庭に、赤刃を薙いでバリケードを破壊。ひしゃげたパトカーを飛び越えて、その奥に積まれた備品を蹴散らしながら進んでいくと、細く開いた扉の隙間から室内にひらりと舞う白い物が見えて歩みが止まる。
そっと扉をスライドさせても、まだ気が付いていない様子だった。
「――探し物?」
何かを必死で探している広い背中に向かって甘く呼びかけると、寄越されたのは殺意の闇を覗かせた銃口である。
「……ロジィ?」
「んふ 芥じゃない。こんなところで再会するなんて」
銃口を向けられたというのにロズランシェの笑みは露とも崩れないどころか、知人を見つけたゆえにかとろりと甘さを増していくほどで、拍子抜けした芥は人差し指に引っかけたリボルバーの銃口を下に向ける。
「奇遇だな、思わず一発当てちまうとこだった」
「あら、撃ってくれても構わないのよ。それであなたの気が晴れるのなら、一役買わせて頂きたいわ」
「へえ、本当に……?」
全く動じない|ロズランシェ《兎》の頤を銃身で持ち上げてみせれば、彼女は口付けでも受け取るかのように長い睫毛を伏せてしまう。無防備を晒す姿に目を細めた芥が、そのまま輪郭をなぞるように顎下をくすぐれば、薄く開いた口唇から艶やかな吐息が漏れ落ちる。
「冗談、一緒に|駆け落ち《仕事》した仲だろ」
五指を開くと芥は今度こそ銃を下ろした。
「ふふ、ふ。今回は駆け落ちどころではなさそうね。どうしてここへ?」
問われて数瞬ほど思案した芥は、机上に散らかした捜査資料を目線で促した。
「俺は胸糞悪ィ場所、全部ぶっ壊してやろうかと思って。腐った|主人《警察》の手を噛みに」
理由を聞いた兎は瞬いた。
「なあ、お前の力も貸してくれる?」
机に手を突き、芥はその顔を覗き込むように近付いた。瞬きの音が聞こえそうな距離にあっても、互いの本心は見通せない。
「いいわ。巡り合わせは大事にする質なの、手伝ってあげる」
――だから。
「もっと見せて頂戴、あなたの内側を」
思いがけぬ快諾に返ってきたのは歪んだ笑み。どろりと沈んだものは一体どのような思いを煮詰めたのだろう。ロズランシェの双眸は興味によって細められてゆく。
「なんだぁ、逢引きかぁ?」
言葉と共に轟音が耳を劈いた。
突き立てられた巨大な鉄骨は扉を巻き込む形で壁を破壊。吹き飛んだ瓦礫もろとも鉄骨を躱して左右に散開した芥とロズランシェは喧嘩師『敷島・カオル』の姿を見とめて邪魔が入ったことを窺い知る。
踏み込んでくると同時に振り回される鉄骨はあまりにも大きかった。自ら作ったであろうバリケードを容易く破壊してふたりへと叩き込むたびに、風圧で窓ガラスが割れて、あちらこちらで拉げる何かが喚き散らす。
(壊れていくのは気分が良い)
芥は今この場に在ってその全ての音を心地良く感じている。もっと、|毀《こわ》れてしまえば良いとさえ、思っている。
ロズランシェが軽々と振るう薔薇飾りの斧がカオルの鉄骨を撫でるように弾き飛ばしたならば、軌道をずらされた隙間を縫うように弾丸を撃ち込む芥。纏った闇越しに咲いた赤が警察署を不穏に彩るのだが、妙に似合っている気さえするのは穿ちすぎだろうか。
カオルの躯体はぐらりと大きく傾き数歩前へとたたらを踏むも、片手に担いだ鉄骨を指先の力だけで握る喧嘩師の闘志はまだ潰えていない。ふたりまとめて吹き飛ばそうとするその一薙ぎは大振りだが、大気を裂くほどの苛烈さを極めており束の間ふたりの呼気を奪う。
刹那、鼓膜を貫く爆音。舞い上がる塵埃が室内に満ちてとっさに目口を覆う。ロズランシェは一度後方へと退き、手のひらで握り直した薔薇飾りの斧にて塵埃を切り裂きながらカオルの元へと飛び掛かる。振り抜かれた鉄骨をひらり躱し、頭上へ振り上げた斧を真っ直ぐ下ろす。何度も、何度も薙いで、斬り落として、叩きつけるように繰り返し繰り返し。
意識が跳ねる兎に集中している、その隙に。芥は暗冥の黒焔を裡に溜めてゆく。厭うものを蒼鷹の影で飲み込んでゆく。
――如何しても、赦せなかった。
(正義を掲げた警察官を守れなかった無能ども)
それまで沈め続けていた感情を吐露するように放たれる蒼鷹は、まるで八つ当たりだった。芥とてその自覚はあるし、きっとロズランシェにも何がしか伝わってしまっているだろう。
(一番壊れて欲しいのは俺自身)
自覚すればするほど感情の水位が上がってくる。溺れそうだ。
「――好きよ、そういうの」
聞こえた言葉に視線が落ちる。
ロズランシェの目には、そのどれもがひどく感情的に見えていた。でも惜しげもなくぶちまけられる剥き出しの感情はふしぎといとしく感じるものである。
「でも、あなたまで壊れては駄目」
白く細い指先が芥の銃を握る腕をなぞる。
「そう、今は|まだ《・・》。この程度では満足できないでしょう?」
言い当てられた思いがして芥は小さく呼気を漏らした。共に零れていったのは乾いた笑い。
「はは、まだ楽にはなれねぇか。満足なんて程遠いもんな」
凡てを喰い尽くすのは果たしていつになるのだろう。
そんな日は、来るのだろうか。
「ね、|人生《くるしみ》はまだまだ続きそうよ」
「ああ。厭になるな」
芥はせめて眼前の敵だけでも道連れにしようと銃口を持ち上げた。
「いつもなら、ものをこわすのって、むむってなっちゃいますけど。ちゃんとした使いかたをしてもらえたほうが、うれしいはずっ」
廻里・りり(綴・h01760)は地面に突き立てられたパトカーを見渡して、ごくりと息を飲み込んだ。パトカーだって街のパトロールや捕まえた悪いひとを連れて行くことがお仕事のはず。こんなブロック遊びみたいな目に遭うなんて思いもしなかったはずだ。
「つまるところ、大暴れね。ふたりとも、準備はよくて?」
器用ね、なんてパトカーブロックを眺めながらも、手を叩いて自身に注目を集めるベルナデッタ・ドラクロワ(今際無きもの・h03161)の問いかけに、腕の中の白いもふもふがひょこりと顔を出す。
「わふ!!!」
「はい! ほんとうの使いかたにもどしてあげましょう! がんばりますっ」
りりもちょっと跳ねるようにしながら元気よく挙手。
「よいお返事をありがと」
要塞と化した物々しい博多警察署の入り口に吸い込まれていくふたりと一匹は、署内の荒れ果てた様子にもっと瞬くことになる。
「あ! ぱふぇちゃんは、あんまりはなれちゃだめですよ! 敵のひとがどこにいるかわかりませんからね!」
「わふ!」
――おおあばれ。
地面におろされた廻里・ぱふぇ(かわいいばんけん・h13419)は、じぶんにもそんなひがありますと言ったふうに、物知り顔でしきりに頷いている。もしここにでっかい「ぼう」などがあると、なおよいのだけれど――きょろきょろとあちこち巡らされるつぶらな瞳が見つけたのは、バリケードから突き出たパイプのようなもの。恐らく椅子か何かの脚と思われる。
あれはよいものです! ぼくにはわかるのです! ぱふぇはぽふぽふ駆け出すと、ぴょーんとバリケードに飛びついて小さなお口でパイプをかじかじ。えいえいっと引っ張ってなんとか抜いたけれど自重の軽さが仇となってすってんころりん。左右に飛び出たパイプがたまたま何かに引っ掛かって転がりを阻止。
「なにしてるの、あなた」
「いいかんじのぼうを見つけちゃいましたか?」
ベルナデッタがぱふぇを抱き上げると、ぱふぇはきらきらのおめめで頷いている。頷くたびにパイプも揺れるので、とてもあぶないからふたりはとっさにパイプの左右を掴んでこれまた阻止。
「破壊が目的ではないのなら……出会えたら一番大きな会議室にお誘いしてみましょうか?」
「わふ! わふふ!」
――おさそい。つまりそれはおてがみがひつようなもの。りりとベルナデッタが「れたーせっと」なるものを持っているのを知っているぱふぇは「まかせてください!」とばかりに、むふんと胸を膨らませる。
ぱふぇは暇なとき「えいが」というものを見ているから、|それ《・・》を知っている。
おさそい。おてがみ。おおあばれ。
けんか、どて、まっかなゆうひ。
つまり、みちびかれるこたえはひとつ!
ぱふぇはパイプをころんと床に下ろすと、ご自慢の肉球をじゃじゃーんと掲げてふたりに見せびらかす。それから廊下にまで吐き出されたコピー用紙の山に飛び込んで、ぺったんぷにぷにむぎゅむぎゅ両の前脚で交互にキーボードよろしく押し付けていく。いい感じに仕上がった気がして、ふうと額を前脚で拭ったぱふぇはコピー用紙を咥えてふたりに見せる。
「あら、果たし状……?」
「……はたしじょう……? 読めるかな……?」
それはぱふぇの暗号作成による「|おてがみ《果たし状》」だった。
「EDENの法率に詳しいわけではないのだけれど、違法じゃなくて?」
ベルナデッタは顎下に丸めた手を添えて、思案するように視線を天井へと向ける。「ほうりつ」がちょっとよくわからないぱふぇは、けれど「つかいま」だからきっとだいじょうぶ。
「わふん!」
それに今、警察署はめちゃくちゃだから、きっとうやむやになる。そうにちがいないのです。ぱふぇはふんすふんす得意気だ。
「そう。使い魔に法律は関係ないものね。肉球スタンプの暗号文なら問題ないことでしょ、きっと。それじゃ、ワタシは修理に専念するわ」
ベルナデッタは魔法の蜘蛛を編みはじめる。戦いが終わっても撚り強い糸がきっと修復してくれるから。
「その間思いっきりお願いね、りり。ぱふぇ」
「まかせてください!」
「わふ!」
「直せるように準備するから、|物たち《みんな》、許して頂戴ね」
やさしい想いに呼応するかのように、ふわりまどろむように空気がやわらかくなる。それを合図についに始まった大暴れ。
「てーい!」
|小さな庭師《でっかなシャベル》を握り締めたりりは「えいやー!」という可愛らしい掛け声と共にバリケードへ振り下ろす。道は分からないから直感に従って。身体が浮いちゃうくらいの威力で障害物をどんどん壊す。自分のちからで道が作られるのがなんだか楽しくて、ちょっぴりうれしくて、しばらくこちらの様子を窺う眼差しにちっとも気付けなかった。
「なんかのほほんとしたのが来たなぁ」
聞こえてきた言葉に、ベルナデッタとりり、ぱふぇは同時に振り返る。
廊下の突き当り、両端が見えないほど長く大きな鉄骨を肩に担いだ喧嘩師『敷島・カオル』がこちらを窺っていた。ハッ、としたりりはぱふぇが書いた果たし状を両手に握り締めるとひとりでダッシュ。
「あの、これ、よかったら……受け取ってください!」
頭を下げて両手を突き出すりりを前にカオルがぽかんとしている。
「ラブレターじゃないんだから」
ベルナデッタは思わず笑ってしまった。
どうやら果たし状には慣れているのかカオルは中を検めて、得心がいったように頷いた。広い場所に移動してくれるらしい。
「こっちだ、ついてきな」
カオルが顎でしゃくるので、ふたりと一匹はあとを付いて行く。振り返った拍子に鉄骨が通路に引っかかって、棒を加えた犬が隙間を通れずにもがくような瞬間には見ないふりをした。ただぱふぇだけが「わかりますよ」と頷いている。
「動いたら、おなかがすいちゃいました……」
「おいおい、まだ始まってねぇのによ」
カオルは呆れていたけれど、声音は笑っていた。
「は! おせんべい! あの……移動中に食べ終えるので、食べても良いですか?」
「仕方ねぇなぁ。いいよ、食いな」
「ありがとうございます! ……ぱふぇちゃんはからだがちっちゃいので、はんぶんこしましょうねっ」
「わふ……」
りり。ぱふぇはしっているのです。そのおせんべいはひとふくろ、にまいいり。つまりはんぶんは「いちまい」ということを! 一枚を半分に折ろうとしたりりの手に飛びついたぱふぇは、まんまるお月様のようなおせんべいを一枚げっと。
「あ! ぱふぇちゃん!」
「いいんじゃない? 今日くらいは。おせんべいを歩きながら食べるのも、今日はいいわね。ええ」
のんきな奴らだなぁとカオルが笑っている。会議室に到着してもその和やかな空気はどうにも抜けてくれなくて。
「いきます!!!」
「来な! オレもいくからよぉっ」
でも始まった喧嘩は正真正銘、本物だ。鉄骨と|小さな庭師《でっかなシャベル》がきんきんとかち合い鳴る音は妙に爽快で、視界の端で障害物を物ともしないぱふぇがふたりを支援しようとあっちへもふもふこっちへふわふわするのがせわしないし、バリケードの上にちょこんと座って編み物をするベルナデッタも居るものだからさすがの喧嘩師も思うところがあった様子。
「わかった、わかったよ。オレはここを立ち去る。それでいいな?」
今日はもう十分喧嘩したからと、カオルは微苦笑を携えて博多警察署から去って行った。
――ぱりり。
足音にはおせんべいを齧る音が続いていたのだとか。
