シナリオ

⑪妖精さんの欲しいのなぁに

#√ドラゴンファンタジー #ゾディアック継承戦争 #ゾディアック継承戦争⑪

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⚔️王劍戦争:ゾディアック継承戦争

これは1章構成の戦争シナリオです。シナリオ毎の「プレイングボーナス」を満たすと、判定が有利になります!
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(毎日16時更新)

 ふわふわ、ひらひら。
 ダンジョンへと姿を変えたその施設に群れて漂っているのは、可愛らしいピンク色のウサギです。
 背中に透明な妖精の羽根を生やしたウサギたちは、気まぐれに空を飛んでは、気まぐれに杖を振り回します。戦うにも遊ぶにも、相手がいなければ、どうにも暇なものでしょう。
 ウサギの一匹がくぁ、と大きく欠伸をすれば、のんびりなウサギに欠伸が広がります。そんなウサギの様子に、ちょっぴり気の強いウサギは鼻を鳴らして、杖をブンブン勢い良く振り回しています。

 その一方、それなりの数のウサギたちは、つぶらな瞳をあっちへキョロキョロ、こっちへキョロキョロ。何かを探しているのでしょうか。
 みんな性格は様々で、個体差も激しいウサギの群れは、それぞれ何を思っているのか色々あるようですが──はてさて。

 ふわふわ、ひらひら。
 たくさんのフェアリー・ラビットたちは気ままに宙を漂いながら、何かを待っているのでした。

 ●

「やっほー!戦争ってすーっごく忙しいんだねー。皆は大丈夫?バテてなーい?」
 大きすぎる袖をパタパタさせながら、集まったEDEN一向へそう首を傾げるのはバロニール・アポカリッツァ。
 ゾディアック継承戦争の開幕からもう二週間を過ぎたが、まだ半ばに差し掛かったところだ。戦いの中でも酷暑極まるこの夏、暑さにバテないようにしたいところだろう。

「でも、暑い日が続くのにずーっと外で戦ってらんないよね。
 とゆーことで、今回向かってもらうのは室内でーす!やったねパチパチー」
 バロニールは冗談めかした言葉を口にしながら、ぬいぐるみの両手で音のならない拍手を奏でる。
 そんな夏に都合よく──ではないが、今回は熱中症の危機だけはない室内が戦場だ。

「場所はららぽーと福岡。涼しい室内だけど、新たに王権執行者となった魔物達の聖母『ユリア・クラウディウス』によって、危険な『モンスター城』に変わっちゃってるよ。
 でもダイジョーブ!皆に向かってもらうのはまずは低階層からで、相手をしてもらいたいのもフェアリー・ラビットっていう、可愛い上にそんなに強くないモンスターだよ」
 バロニールはぱっと両手を広げて、余裕だよねと笑顔で言葉を続ける。どれほど強大な敵がラスボスとして君臨していようが、ダンジョン探索は低階層から、雑魚の掃討からスタートするのが常だろう。危険な城型ダンジョンに変化しているからこそセオリーは変わらない。

「フェアリー・ラビットは強くないけど、とにかくいっーぱいで群れてて、いーっぱいなんだよね。バッサバッサ倒していくか、交渉して撤退させて欲しいんだ。
 戦うときは好戦的な個体を狙うといいかもね?
 そいつがリーダー格だから、先に倒しちゃえば周りの兎の士気がドーンって落ちてって、有利に戦えると思うよ」
 なにせ初心者のレベル上げにも向いている程のモンスターだ。大量の群れを相手取る戦闘のチュートリアルとして戦ってみるのも良いだろう。

「もし交渉するなら…フェアリー・ラビットは流行り物に興味津々みたいなんだって!
 かわいーいシールとか、柔らかーいスクイーズとか、ちっちゃいキーホルダーとか?
 そういう流行り物が気になるみたいだから、宝探しがてら探索してみるといいよ。
 ポロッと落ちてるかもしれないし、お店の形が残ってたらセルフレジでお買い物もできちゃうよね」
 気を引く物品はその他にも流行っているもの、或いはこれから流行るものでも良いだろう。ただし相手は人よりも小さな体のモンスターだ。人の手のひらに収まるサイズ感を目安に探すのが良いだろう。

「おっとと、言い忘れるところだった。相手は弱いけど…ダンジョンの仕掛けにはちょっぴり気をつけてね?
 妖精さんの可愛ーい悪戯とか、悪戯よりもちょーっと危険なトラップはあるみたいだから」
 バロニールは最後にささやかな忠告を添える。
 元のショッピングモールからダンジョンへと姿を変えているからこそ、足元に生えたツルが爪先を引っ掛けてくるものから、ダンジョンでは落とし穴などの鉄板な罠もあるだろうか。
 はたまた元の姿が一部に残っているからこそ、吹き抜けの囲いや階段の段差が外れる…なんて仕掛けなどもあるかもしれない。
 罠のグラデーションは様々だが、それでいて遭遇するかどうかは警戒心と運次第だ。

「話はこれでおーしまい。それじゃいってらっしゃーい!
 好きに楽しく過ごしてねー」
 ダンジョンへ向かいゆくEDENたちの背中に、バロニールはひらひらとぬいぐるみの手を振った。

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第1章 集団戦 『フェアリー・ラビット』


不忍・ちるは

 施設内に足を踏み入れ、不忍・ちるはは綿毛のような微笑みを浮かべる。
 入ってすぐさま遠目にも見える、フェアリー・ラビットの姿はふわふわ、ひらひら。気ままに群れるその光景はまるで、ファンシーとファンタジーを絵に描いた本を開いたよう。可愛い姿にほわほわと心は和んでゆくし、ついつい頬も綻んでしまう。

 しかし和んでばかりでは目的を果たせない。両手で軽く頬を弾いてから、ちるはが取り出すのは金平糖だ。
 色とりどりをこぼし落とせば、ふわふわ、ほわほわ。綿菓子のような九体の色彩り綿毛獣『ぽん』が姿を見せると、体高10cmのその体にスウッと息を吸い込みぷくっと膨らむと、フワッと浮かぶ。
 例えば足を引っ掛けるツルとか落とし穴だとか──そういう罠は、大体地面に面する場所にあるもの。ちるはは飛び上がるように軽いステップで、ぽんを足場にポン、ポン。宙を跳ねてあちらそちらの罠を軽々越える。
 跳ねてとんでお近付き。兎たちを刺激しないように笑顔でゆっくり歩み寄る。
 杖を握る兎たちは耳を立てて、少ーし警戒して様子を伺うけれど、好戦的で気の強い子はこの群れには居ないらしい。今度はぽんを手元へ呼ぶと、ポンッと兎たちへ優しく放り投げた。

「ふふ、どうぞ触ってみてください」
 ぽんをキャッチした兎たちは、ちるはに誘われるがまま、ぽんを握ったり伸ばしたり。むいーんと伸ばせば、やわらーく、のびー…っと、低反発の素敵な弾力。それからもーっと弾力を変えれば、フカフカの兎の腕が沈み込むように、もふもふでむぎゅむぎゅ。
 兎たちはつぶらな瞳をキラキラ、ぽんの感触にすっかり夢中。そしてそれは、ぽんと五感を共有しているちるはにも、兎たちをぎゅーっとするような満足感を与えてくれる。ひとしきり触って満足したのか、兎たちは物欲しげに瞳をウルウル…。けれどぽんは、不忍家の一員で大事な家族たち。

「ぽんはお譲りできないので、代わりのものをプレゼントします。一緒に行きませんか?」
 兎たちを誘えば、人懐っこい一羽がすぐさま腕の中に飛び込んできて、ちるははまたまた笑顔を浮かべる。再びぽんを足場にしながら、兎たちと一緒にダンジョンの中を飛んで跳ねてウィンドウショッピング。
 空中散歩をするようにあっちへポンポン、こっちへふわふわ。兎たちの興味はどこでしょう?
 そうして一行が辿り着くのは色々置いている良品店。目的地にあるのは、思わずダメになるクッションだ。こうやって使うのだと、ちるはが腕を沈めれば、柔らかな様子に兎たちが群がって、満足気に鼻を鳴らす兎たちのご機嫌は見ての通り。無人のレジでササッとお会計を済ませてプレゼント。

「みんなでもちもちお昼寝してくださいね」
 群れのみんなでヨッコラショ。ウキウキしながら一生懸命クッションを運んで去っていく兎たちを、ちるはは手を振って見送る。兎たちはご機嫌に、仲良く心地よくお昼寝してくれるだろう。

黄・夜巡

 危険なダンジョンに変貌したショッピングモールの低層階。勢い良く踏み込んだ黄・夜巡は早速、バシッと拳を合わせ気合を入れる。

「出番だぜ、ネズミどもっ!」
 夜巡の掛け声と共にバリッと弾ける雷の中から現れるのは、九匹の雷素トビネズミ。帯電した体と長い尻尾でクルクルッと回転してから着地すると、合図一つで素早くパパッと散開してゆく。体高10cmの小さな体は大抵のダンジョンの罠をすり抜けてしまうし、小さなその手はとっても器用。罠の偵察も解除もチョチョイのチョイだ。

 夜巡と分担して罠を見つけては難なく回避し解除して、軽快な足取りで辿り着くのはお手頃価格の商品が並ぶ雑貨店。カテゴリ分けされた吊るしを頼りに、夜巡がヒョイヒョイ手に取り調達したのはバリエーション豊かなシール帳だ。
 ツルンとした台紙にはシールを貼ってこそ…なのだが、夜巡はここでシールまでは調達はせず雑貨店を後にすると、足早にフェアリー・ラビットの群れの元へと向かう。

 ほどなく見つけた兎の群れは、会敵するもすぐさま襲ってくることはない。どうやら好戦的な個体はこの群れにはいないらしい。ならば最初から交渉の席に着くまでだ。警戒心をあらわに杖を握りしめるフアリー・ラビットたちの前で、夜巡はどかっと胡坐で座り込む。

「ウサ公!いいものやるぜ!」
 そして更に、懐からたっぷり葛藤しながらも、ババンと潔く出すのはシールの束。人気の高さはおそらくネズミ界の王者であろうハリネズミからはじまり、可愛いネズミが隅から隅までシールたっぷり──夜巡の秘蔵の品だ!

「良い子のお前らにはシールとシール帳の進呈だ!」
 ふわふわ飛んでいる兎たちは途端に宙を飛び上がって、我先にと夜巡に群がるが、一声掛ければ綺麗に整列。ソワソワした様子は隠しきれなくとも案外お行儀が良いらしい。
 そうしてワクワクセットを一組配り終えたら、兎たちは思い思いにシールを台紙にペタペタ。カテゴリ分けするも良し、綺麗に整列するも良し、気の向くままに貼るも良し。
 更にここで終わりではない──本当のお楽しみはこれからだ!

「さあ、オレと『シール交換』といこうじゃないか……!」
 シール帳が整った兎が増えたところで、満を持して夜巡が取り出すのはこれまで育ててドドンと分厚くなった自分のシール帳!
 それではそれでは──交換しましょそうしましょ!

「さあ交換タイムだ!ウサ公はどれが欲しい!オレはその『振り向き美人ハリネズミ』が欲しいぜーッ!」
 夜巡が兎のシール帳から選ぶのは、和柄を下地にアジアンな振り向き美人ハリネズミ。兎が夜巡のシール帳とにらめっこして選んだのは、窓辺に座る深層のハリネズミお嬢さん。鋭い眼差しを交差させ、一人と一羽は握手を交わし交渉成立!

 それから兎たちも夜巡に倣って、夜巡とも兎同士とでもあちこちでドンドンシール交換。やはり一番人気はぷっくり膨らんだ表面が特徴的なシールになりがち、その中でもハリネズミは高レートだ。夜巡の本音を言えばトビネズミのシールがあれば一番良かったのだが、ネズミ界では些かマイナー気味のトビネズミである、今回ばかりはエントリーすら適わなかった。
 いつかこのシール帳のセンターに理想のトビネズミを…そんな事を思いながら、シールを貼って剥がして入れ替えながら台紙を埋めるのだって、最高に楽しい体験なのだ。

 お互いのシール帳を見せ合って、あれが欲しいこれが欲しいと指差し合って交換し合い。シール交換は大いに盛り上がり、ご機嫌の中で飛び回る兎たちの手には厚みの増えたシール帳。そのまま満足気この地を去ってゆく…その前に。兎たちは夜巡の服を掴んでグイグイ引っ張る。

「お、なんだ?」
 引っ張られて誘われるがままに案内されて、足を運ぶのはおもちゃ屋の手作りシールを作れるキットやメイキングトイを並べたコーナー。理想のシールがどうしてもないのなら──作ってみればいいじゃない!

「ウサ公!オレたちは……マブダチだぜーっ!!」
 兎たちのお礼代わりの案内に、夜巡は全力のハグを返すのだった。

クラウス・イーザリー

 ダンジョンへと変貌しているショッピングモールへと足を踏み入れたクラウス・イーザリーは、すぐさま小型無人兵器『レギオン』たちを呼び出し放つと周囲の探索に向かわせる。
 今回の相手であるフェアリー・ラビットの群れが戦わずとも済むならば、なにもここで消耗する必要はない。今は戦争の最中ではあるが、だからこそ危害を加える気がない相手がいるならば、穏便に交渉し切り抜ける事もひとつの選択肢となるだろう。──しかし、クラウスにはひとつだけ差し迫った問題があった。

(すくいーずってなんだろう?)
 レギオンたちに罠の探索を任せる中で、ぼんやりとクラウスが思い出すのは星詠みの言葉。兎たちの興味を引けそうなものとして上げられていた、シールやキーホルダーはクラウスにも既知のアイテムだが、その中で全く聞きなれない名称が『すくいーず』というものだった。

 レギオンが超感覚センサーで探知した罠を警告に従って避けながら、クラウスは首を傾げ周囲──ダンジョンへと変わり果てて尚、形を残しているショッピングモールを見渡す。
 なんでも√EDENで流行っているもので、手の平サイズで、柔らかい。√ウォーゾーンには無かったような気もするが、正直その記憶にも自信がない…というくらいには、ピンとこなかった。

 そのうち、クラウスが足を止めたのは大きめの雑貨店だ。流行りものというからには、大きな店でピックアップもされているだろうと当たりを付ければ大正解。スクイーズの文字の下で棚に並ぶのは、食べ物やキャラクターに動物と、様々な形をちょっぴり潰れたデフォルメで表現している、カラフルで華やかなスクイーズの群れだ。
 クラウスがなんとなく目に止めたのは、パステルカラーのお菓子を象ったスクイーズ。手に取り軽く揉んでみれば、手と指の間で潰れて広がるその柔らかさに驚いた。

(うわ、気持ちいい)
 ふわっとも、むにっとも、もちっとも。それは的確に表現する擬音がなんとも難しいほどの揉み心地。ふわふわ、むにむに、もちもち…無意識にその『揉み心地』に夢中になっている事に気付くと、クラウスはハッと我に返った。慌てて幾つかのスクイーズのビニール包装を摘むと、急ぎ足でセルフレジへと向かってゆく。無意識に触り続けてしまう程のこの柔らかさ、交渉用になどとは言わず、むしろ自分用のものが欲しくなる程の魅力だ。これらならば兎たちも満足してくれるだろう。
 再びレギオンたちに罠の探索を任せながら慎重に進めば、ひらひら羽ばたく妖精の羽。クラウスの気配にピンと耳を立てて杖を握る兎の群れは、すぐに襲ってくる事はないようだ。

「こっちへおいで、兎さんたち」
 優しく声をかけて手招きすると、兎たちは顔を見合わせながらおずおずと寄ってくる。そのもふもふの手にスクイーズを手渡せば──とたんに、兎は目を輝かせて柔らかな揉み心地に没頭しはじめた。

 ふわふわの兎たちは杖を放り出して、ふわふわ、むにむに、もちもち。
 ひと揉みひと揉みを確かめるように触って楽しむ兎やら、夢中になりすぎて鼻息荒く四足で揉みしだく兎やら、地面でも空中でも思い思いにスクイーズの感触を楽しむ兎たちの群れは、見目の愛らしさと相まってその全てが可愛らしい。
 だからこそ、無理に戦わなくて良かった。気持ちをほっこり和ませる光景にクラウスが微笑みを浮かべて立ち上がる。

「平和になったらスクイーズを買いに来ようかな……」
 手の中に残るあの柔らかな感触を思い出して、飛び出た言葉にクラウスは慌てて口元を覆った。どうやらスクイーズには不思議な中毒性があるらしい。クラウスは空っぽの手を見つめ握っては開き、唇はついつい柔らかな弧を描く。全てが終わり平和が訪れた時にはまた足を運んで──自分のお気に入りを探すのも、きっと悪くない。
 必ず訪れるであろうその日へ楽しみを増やしながら、クラウスは戦いの先へと進んでいった。

朝夢・桜

 朝夢・桜は鮮やかで艶やかなドレスの裾を翻し、ダンジョンへと変貌したショッピングモールへと踏み入り、冷たい金の眼差しにぞっとするような微笑みを浮かべる。
 場所と状況がどれほど変われど、彼女の目的はいつものように──自分の理想の服飾、それだけだ。

 薄氷のように繊細な銀笛を唇に当てひと吹きすれば、肌を突き刺す凍気が音色は這い出るように海豹妖魔群を呼び寄せる。鋭い音色を再び響かせ海豹の群れを先行させれば、たちまち激しい振動は通路を埋めて、ついでにそこかしこの罠を起動する。
 海豹妖魔が罠にかかればかかるほど、後ろを進む桜の道中はただ安全なばかりとなろう。しかしそうした振動と騒音は、そのまま敵対的で好戦的なモンスターに見つかりやすいということだ。

 程なく、桜のもとへ押し寄せるのは殺気立ったフェアリー・ラビットの群れ。好戦的な個体が多く集まったこの群れは、敵対者と思しき存在に容赦はない。劈くような鋭い警告音を響かせて、問答無用で杖を振り上げ襲ってくる。
 だがそんな兎の群れも桜の瞳には──豊かで柔らかな毛並みをたたえた『上質な素材』の山としか映らない。

「可愛らしい色」
 微笑む桜が冷たく鋭い笛の音を響かせれば、海獣型妖魔の群れが素早く兎の群れを包囲し、その重圧と放つ冷気で動きを牽制する。たじろぐ兎たちを縫い留めるように氷糸の鞭がしなり、凍結バインドが杖を握りしめたままの兎たちの動きを止めた。

「好戦的な子を先に狙え、と言っていたかしら」
 頭の端で思い出した言葉に従って、桜は兎たちよりも遥かに大きな氷銀の裁断鋏を振り上げる──どのみちこの場の全てを仕入れるつもりだが、それでも無駄に兎が暴れて素材の質が落ちるのは不都合だった。
 群れの中でも気を張っているリーダー格に狙いを定めてひと断ちすれば、凍りついた鮮血が花弁を散らした。ぽとりと呆気なく落ちた毛皮に桜は目を細める。

「天然桃色の兎毛のニットカーディガン、いいじゃない」
 血の汚れひとつも見当たらない毛皮は綿のように柔らかく、色は可愛らしくも美しい。その上よく熟れたベリーの瞳に、輝き透けるオーロラの羽まで、この妖精の兎は全てが秋冬の服飾用にもってこい。
 服飾作品の創作意欲を沸き上がらせる桜に、臆病な兎たちは身も心も震え上がらせて、その身をよじるが──凍えた体の拘束はそう簡単に解けはしない。

「あら、そんなに怯えなくていいわ。さぁ、みんな一緒に私のアトリエにいらっしゃい」
 けれど震える兎たちへ桜はつとめて穏やかに微笑むと、花をあしらった裁断鋏の尖先を、まるで花束を差し出すように向ける。穏やかな言葉はされど、兎たちの命運が変わることなどない。

「大人しくしていれば、痛みは少なく…最上の素材として仕立ててあげる」
 氷のように冷えきった鋏を構える桜は、そうして新しい素材を抱えるほどにたっぷりと仕入れていった。

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