機械の楽園は誰のもの
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漆黒の鉄機群が蠢く。戦闘機械都市区の冷たい外壁に這い上がり、電子触手を差し込み、都市機能を強引に乗っ取ろうとしていた。
監視モニターは真っ赤に染まり、警報が嫌な音を立て響き渡る。街の至る所でシステム一時停止を示す赤いランプが、人々の不安を煽るように明滅した。
そして、不吉な音が響く――。
「緊急事態発生。生命体保護プロトコル、機能停止。殺戮モードへ移行」
人々を守る筈のセキュリティ機構が、一斉に敵へと変貌する。通りに設置された自動警備装置が凶暴な赤い光を放ち、市民達へ向けて銃口を向ける。
路上に埋め込まれた罠機構が起動し、逃げ惑う人々を追い詰めていく。
壁面からせり出したセントリーガンが起動音をうならせ、レーザートラップが展開され、街全体が巨大な殺戮機械と化そうとしていた。
通りにいた人々は悲鳴を上げ、右往左往する。建物の中へ逃げ込もうとする者、地下鉄の入り口へ駆け込む者、立ち尽くす者――。
自動ドアを必死に閉じ、鍵をかけ、バリケードを築く音が街中に響き渡る。だが、それは束の間の安全に過ぎない。
機械達の赤い眼光が、じりじりと街を覆い尽くしていく――。
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神谷・月那(人間(√EDEN)の霊能力者・h01859)が、√能力者達へ事件の発生を伝えていた。
「皆さん、√ウォーゾーンの戦闘機械都市のひとつに、戦闘機械群の軍団が襲来しているのです」
月那は手を胸の前で組み、緊張した面持ちで続けた。
「√ウォーゾーンの人類は、戦闘機械群の支配から逃れ、生命攻撃機能を無効化した戦闘機械都市に住んでいます。でも……その大切な場所が、今、危機に瀕しているのです」
月那は一度深く息を吸い、視線を上げた。
「既に都市機能は敵に乗っ取られつつあります。セントリーガンやレーザートラップが復活し、市民の皆さんは今も逃げ場を失っているかもしれません」
月那は星詠みで捉えた光景を思い出し、小さく息を呑む。
「私達は暴走した機械を避けながら、取り残された方々を探し出さねば……。その先に待つ巨大な戦闘機械、リュクルゴスとの決戦まで、どうか皆さん、力を貸してください」
祈るように見つめ、月那は√能力者達へ真摯に語りかけた。
「一人でも多くの命を救うため……皆さんの勇気が、希望となります」
第1章 冒険 『狂える戦闘機械都市』

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人々の悲鳴が街路に響き渡る中、水垣・シズク(機々怪々を解く・h00589)は建物の陰から状況を窺っていた。頭上の対空レーザーが中空を薙ぎ、センサーに捕捉された鳥すらも容赦なく撃ち落としていく。
「……私の研究データが役に立つ時が来ましたな」
シズクは小声で呟くと、両手を広げ、√能力を解放した。
するとどうだろう。瞬く間に、レギオンの小型兵器群が周囲に展開。各機に組み込まれた探知魔術が、周辺の敵性反応を走査していく――。
「さぁ、皆の衆。今までの訓練の成果を見せる時ですよ」
制御下に置いた機械群は建物の影や廃材の陰に潜みながら、着実にセンサー施設へと接近を図る。迷彩システムを最大限活用し、敵の探知網をどうにか掻い潜りながら。
シズクの指示のもと、先頭のレギオンが母体から分離するや、セントリーガンの制御機構へと侵入。――内部プログラムの書き換えが始まった。
「ふむふむ……やはり想定通りの仕様でしたか」
着実に、順々とセントリーガンの赤い光が消えていく。対空システムの制圧域が徐々に縮小し、他の√能力者達の活動可能域が広がっていった。
路上の瓦礫に身を隠しつつ、シズクは新たなレギオン群を展開する。
「よし、この調子……」
思わず馴染みの京言葉が零れそうになって、慌てて唇を噛み――呪詛ミサイルを装填した機体を、次なる標的へと向かわせた。
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「遠くから爆音が響いてきましたね~」
本格的な戦闘が始まる気配に、馬車屋・イタチ(偵察戦闘車両の少女人形の素行不良個体・h02674)はエンジン音を轟かせ、現地へ急行していた。
「いや~。街ごと相手にするなんて、イタチさんみたいな旧式には荷が重いですね~」
暴走したセキュリティ機構を盾で受け止める要の戦力として、彼女は自身のバックアップ素体を早々に呼び出す。十二基もの偵察車両が周辺から定位置へ集結していく。
「少女分隊の、大集合、なのさ~。火力こそイマイチですけど、みんなでガードは張れますよ~」
ゆったりとした口調とは裏腹に、イタチはアクセルを踏み込んだ。
マルチツールガンは持つものの、純粋な攻撃力では足りないかもしれない――それでも頑丈な車体を活かし、各所の路地から市民の退避路を確保していく。
暴走したセントリーガンの一斉射撃から逃げ遅れた群衆の前へ、思い切り車体を滑り込ませる。撃ち込まれる銃弾の嵐を、装甲で受け止めた。
「避難は早めに済ませましょう~。だって、この後はイタチさんたち、アクセル全開で特攻しちゃいますからね~」
続くバックアップ素体群もまた、幾重もの掩護陣を展開。人々を包み込むように守りながら、後方の安全地帯へと導いていく。
イタチ本体もマルチツールガンから光線を放ち、殺戮機械罠の攻撃を阻むのだった――。
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銃声と悲鳴の響く市街地を、バイクで疾走する男がいた。
ラスティ・アンダーソン(通りすがりの何でも屋・h02473)は片手でブラッドイーグルを構え、目に付く機械仕掛けの罠を片っ端から撃ち砕いていく。
「レディ達を待たせるワケにはいかないさ」
上空にはゲイザーが旋回し、レーダーとセンサーによって最適なルートを送信してくる。ラスティはシルバーアッシュのアクセルを全開に、受信した経路を縫うように駆け抜けた。
暴走したセントリーガンを蹴散らし、レーザートラップをくぐり抜け、折れ曲がる路地を抜ければ――避難に手間取る市民達の姿があった。
「タンデムシートなら二人まで乗せられるんだが……全員救うなら別の手だな」
ラスティは√能力を解放。レギオン・スレイヴが次々と展開され、荷電粒子の光弾でもって、迫り来る殺戮機械を迎え撃つ。
包囲を突破した瞬間、さらに新手のセキュリティ機構が起動音を轟かせ、左右の通路を塞ぎ始める。あまりもたもたはできそうにない。
「よし、俺についてきな! 安全な道を相棒が見つけてくれてる」
ラスティはシルバーアッシュの速度を抑える。バイクの前後に群がる人々の足取りを見計らいながら、先導役を務めるのだ。
上空のゲイザーだけが、この混沌とした戦場で正確な退避経路を探り当てられる。その指示を頼りに、人々は安全な場所へと歩を進めていった――。
第2章 日常 『戦闘演習』

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中規模な格納庫の中を、人の気配が満たしていた。
学徒動員兵達が、仲良く輪を作っている。今回の演習内容は格闘戦を想定した基礎訓練。
小規模な戦闘機械を模した訓練機の横で、組み手の練習へ入るところだ。
「はいはい、危なくないように気をつけてね!」
先輩格の指導者が声を掛けるが、軽く頭を下げて「へ~い」と生返事をする若者達。
しかし、その手付きや足運びは間違いなく軍事訓練の基礎をなぞっている。すぐさま続くのは肩の動きに腰の捌きに手首の返し――随分と体に染み付いているようだ。
その横では戦術データの送受信をする集団が、やれやれといった様子でモニターを見つめている。
「で――これからやってくるこのリュクルゴスってのは強いのか?」
「さぁね。俺らみたいな下っ端は雑魚掃除の後方支援要員だろうし、どうせ直接は会わないんじゃね?」
とはいえ、いつもの戦闘機械相手と同じ感覚でいると、痛い目を見るかもしれない。
ここはみんなの力で、一つしごいてやったほうが良さそうだ――。
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「『下っ端は雑魚掃除』か……少々仕込みが必要そうだな」
組み手の訓練に取り組む学徒動員兵達を、ラスティ・アンダーソン(通りすがりの何でも屋・h02473)は観察していた。
連中、適当そうに見えて基本動作は怠っていない。過度な緊張感よりかはマシそうだ。
「教官役は柄じゃねぇが……よし、相棒。この演習効果的にしてやるか」
派手な音を立てて格納庫の扉を開けるや否や、警告を呼びかける。
「緊急事態発生! レギオンの襲撃だ!」
一声に応じ、背後に控えていたレギオン・スレイヴの群れが室内めがけて展開していく。
何事かと動揺する学徒動員兵達。だが次の瞬間には、各々が訓練で叩き込まれた対処行動を開始していた。
身を低く構えて防御姿勢を取る者、仲間と陣形を組み連携を図る者、戦術データを解析する者――。飛び交うレギオンの動きに、基礎訓練の成果でもって立ち向かっていく。
「な、なんだ……攻撃してこないのか? 待てよ、これもしかして――訓練なのか?」
と――攻撃を加えないレギオン・スレイヴの様子に、学徒動員兵達は冷静さを取り戻しつつあった。
「ま、雑魚の掃除なら任せられそうだ。だが、まだまだ甘いぞ。もっと動きを叩き込んでやる」
ラスティはレギオン・スレイヴの動きを微調整し、さらなる試練を仕掛けていくのだった――。
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「へ~。お疲れ様っすね~」
演習を見学していたヨシマサ・リヴィングストン(神出鬼没の戦線工兵・h01057)は、ボサボサの髪をかき上げながら、無表情のまま声を上げる。
「こういう時こそ、センパイとして一肌脱がないとっす」
演習を終えたばかりのラスティと入れ替わりに、ヨシマサはレギオンコントローラーの操作パネルを手早くタップしていく。
格納庫内に設置された警報機が鳴り響き始める。実弾使用を示す赤色警報――緊急時の射撃訓練が開始されたのだ。
「お、おい!? レギオンの第二波か!?」
「ちょ、待て。こいつら、実弾装填してやがる!」
一瞬の間を置いて、ヨシマサは演習の内容を告げる。
「格納庫の対空システム、使えるようになってますよ。でも制御を奪わないと起動できないっす。時間制限もありますしね~」
実弾ミサイルの接近を示すデータが表示され、学徒動員兵達は慌ただしく制御システムへのハッキングを試みる。
格納庫の対空システムは複数の認証で守られており、それらを突破しなければ起動できない。とはいえ落ち着いて試行すれば、問題なくできるはずだが――。
「このくらいの実践経験、必要っすよ。ボクの方でも難易度は調整しますから」
自身の端末で攻撃パターンを微調整しながら、ヨシマサは彼らの成長を見守るのだった――。
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「お、おはようございます。エレオノーラ、です……」
ハッキング演習を終えたばかりの格納庫に、エレオノーラ・ベルローズ・グレイファング(忘れ薔薇・h03445)はおずおずと姿を見せた。
「皆さんには、相乗りウォーゾーンでの団体戦訓練を……」
学徒動員兵達は、対空防衛の実践を終えて疲れた様子だったが、背筋を伸ばして応じる。先ほどの演習で得た手応えを、今度は実戦でも活かせるよう。
整備されたウォーゾーンの前で、エレオノーラは小さく深呼吸を一つ。
「操縦希望の方は……あなたですね。では私が射手を務めます。二人一組での連携が、今日の演習ポイントです」
相乗りによる特性が効果を発揮し始める。操縦者の意図を先読みしたエレオノーラの射撃が、レギオンの攻撃を的確に迎撃していく。
弾道計算に長けた彼女ならではの精度で、ミサイルの軌道を見事に捉えていた。
「よく出来ました。ですが実戦なら、今の回避は死を意味します。格闘戦だからといって、遠距離からの攻撃は軽視できません。お互いの特性を理解し合って、初めて効果的な連携が生まれるのです」
コクピットから降り立ち、エレオノーラは再び静かな様子へ戻った。
「あの、き、今日はありがとう、ございました……皆さん、上手でした……」
こうして一連の試練を通じ、学徒動員兵達は連携の大切さを、身を以て学んだのである――。
第3章 ボス戦 『スーパーロボット『リュクルゴス』』

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戦闘機械都市の上空に、白銀の翼を広げた巨体が出現する。その機影は誇り高く、しかし決して傲岸ではない。
超大型光線砲を備え、頭部に電撃放射の角を持つスーパーロボット『リュクルゴス』が戦場を見下ろした。寡黙なる戦士は、戦いを挑む√能力者達に向けて一礼する。
「汝らと戦わせてもらおう、√能力者よ」
戦場に臨む光芒が、空を焦がしていく――。
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巨大な機械都市の中で、明星・暁子(鉄十字怪人・h00367)の姿が浮かび上がる。
白銀の翼を広げ、黄金の装飾を天に突き立てたリュクルゴスに、彼女は冷静な視線を向けていた。
「強大な敵だ。――だが私にも、鉄十字怪人としての意地がある」
数日前からの布石を思い浮かべる。
巨大ダムを占拠し、今この瞬間のために水量を調整して待機させていた作戦が、ついに火を噴くのだ――。
リュクルゴスの装甲が開き、超大型光線砲の照準が定まる。だがその直前、暁子は手の中の制御端末を操作した。
上流のダムから解き放たれた大量の水が、轟音と共に流れ込んでくる。
戦場の上空に見事な虹が架かり、空気中の水分が光を屈折させた。
放たれた光線砲の軌道が水分を含んだ空気に屈折し、狙いが大きく外れる。虹色に輝く水滴の幕が、さながらカーテンの如く敵の光線を分散させていった。
「敵の攻撃は封じた。あとは知恵と勇気だな」
暁子はブラスター・ライフルを構えるや、瓦礫越しに照準を合わせる。
放たれた破壊光線が、リュクルゴスの装甲に確かな傷跡を刻んでのけた。
「巧妙な戦術……。ダムの水を利用するとは。その知略、中々に見事だ」
リュクルゴスから低く響く機械音声には、敵を称える意が垣間見えた――。
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ヨシマサ・リヴィングストン(神出鬼没の戦線工兵・h01057)は伸びた前髪の下から、破壊光線の痕を残すリュクルゴスを見据えていた。
「わお~、おっきな光線砲とかカッコいいっすけど……撃たれる前に終わらせるっすよ」
ヨシマサは建物の残骸が作る天然の射撃台を選び、片膝を立て得物を構える。
制御を超えたエネルギーが銃身を満たしていく。過剰なまでの力が、限界を超えて流れ込む。マルチツールガンが軋むような音を上げ、周囲の空気が熱を帯びていく。
「フルチャージ、いっきま~す」
薄い笑みを浮かべたヨシマサは、なおもチャージを続けた。砲身を包む熱が、まるで実体を持つかの如く、危うく揺らめいている。
「喰らって、ちょっとは痛がってくれると嬉しいっすね」
チャージ中、リュクルゴスは新たな光線砲を放っていた。
暁子の虹の幕はいまだ残っており、それをいくらか分散させるものの……なお強大な威力が残る。
ヨシマサは姿勢を崩すまいと、正面から受け止める。チャージを絶やすわけにはいかない。
とうとう六十秒が経過すると同時――高出力ビームショットが解き放たれた。
上空を流れる虹色の水滴を貫き、リュクルゴスの装甲を灼熱の光で打ち抜き、その身を確かに傾がせる。
直後には、チャージ中に受けた光線砲の衝撃が一斉にヨシマサを襲う――。
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ラスティ・アンダーソン(通りすがりの何でも屋・h02473)は、白銀の翼を広げたリュクルゴスを見上げた。
「関わりたくないのが本音なんだが……ま、仕事だからな」
リュクルゴスが角を天へ向け、放電の準備を始めている――。
「先に行ってくれ」
ラスティは薄く笑みを浮かべ、ゲイザーを飛び出させた。
ゲイザーは上空で大きく弧を描き、リュクルゴスの周囲を挑発するように旋回し始める。
「あわよくば奴の注意が、相棒に向いてくれりゃいいんだが……」
噴かせていたシルバーアッシュのエンジン音が獣めいたうなりへと変わる。フルスロットルまで回転数を上げながら、ラスティは電光迅雷を発動。
青白い雷光が義体を包み込み、まるで雷を纏った弾丸そのものとなる。
リュクルゴスは中空のゲイザーへ角を向けた。瞬間、ラスティはシルバーアッシュの速度を一気に引き上げる。
ケリュネイアホーンから放たれる紫電が戦場を覆い尽くすが、纏った電光がそれをいくらか防いでくれた。
ラスティは義手が反動に耐えられる限界まで、ブラッドイーグルのマグナム弾で敵を牽制しながら、先の戦いで損傷している敵の装甲へと肉薄。
「おらぁっ……!」
纏った電光が迅雷拳へと収束し、その一撃を装甲の傷へと叩き入れ、リュクルゴスの身を大きく弾き飛ばした――。
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七鞘・白鵺(人妖「鵺」・h01752)は、頭上のリュクルゴスを見上げた。戦場に轟く衝突音と共に、次々と放たれる光線の光芒が、巨体を眩く照らしている。
「格好良イ……けどネ」
白鵺は一八〇センチの卒塔婆を掲げ、唇の端をつり上げた。
「破損し作動液に塗れ、動くことの出来なくなったロボもまたロマンダ。ボクのロマンの為に微塵と散れや蘇婆訶!!」
フェイントを恐れて間合いを詰めるリュクルゴスの周囲に、【エネルギーフィールド】が展開される。白銀の翼が光を帯び、斬撃の如き刃となって白鵺へと向けられる。
リュクルゴスのアポロニアウイングの輝きだ。
「うン、ごちゃごちゃ考えるよりいい、真っ直ぐ行ってぶん殴ル!」
卒塔婆を軽々と振り回し、抉るように大地を打ち付ける。その反動で跳躍した白鵺を迎え撃つように、リュクルゴスのエネルギーフィールドが輝きを増していく。
アポロニアウイングの一閃が放たれると同時、白鵺は敢えてその間合いへと滑り込んでいく。
力のみを信じる白鵺は、真っ向からの打ち合いを挑んだのである。
怪力乱神・嶽殺棒による大振りを、アポロニアウイングへ叩きつけた。
大気が割れる衝撃が走る。禍祓大しばきの威力が卒塔婆に乗り、その巨体が装甲もろとも宙へと持ち上げられる。
制御を失ったリュクルゴスが緩慢に落下する途中、白鵺はすでに、散り散りになった装甲の破片を目で追い。
「ソコ! ロマン溢れる装飾が落ちてるゾ!」
撤退がてら、欠片を拾っていくのだった――。
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リュクルゴスの攻撃で飛び散った瓦礫の陰に、明星・暁子(鉄十字怪人・h00367)は身を隠す。
「ふーしーぎ、まーかふしーぎ・どぅーわー」
満ちる轟音の中、御伽噺のような歌声が静かに紡がれていく。
戦場に異変が生じた。理が歪み、論理が溶けて、現実が御伽噺へと変容していく。
リュクルゴスの演算装置が警告音を上げる。戦闘データの解析が追いつかず、戦術予測が限界値を超えて暴走する。機械の理解を超えた魔法めいた空間が、リュクルゴスを包み込んでいた。
「さすがの貴様も、御伽の世界では無力なようだな」
スーパーロボットの論理でも辿り着けぬ速さで、暁子は瞬く。リュクルゴスの前方から消え、背後に現れ、左翼の隙から右翼の死角へ。
「だがその潔さ、武士の誉れを見た。これにて幕引きとしよう」
予測演算など及ばぬ速度で、存在そのものが瞬間的に移動していく――。
対するリュクルゴスは演算限界を超えてなお、白銀の翼を誇り高く輝かせ。
「計算不能、予測不能――だが、覚悟に揺るぎはない」
胸部装甲を大きく開き、超大型光線砲の砲身を露わにした瞬間。
その砲口へめがけ、ヘビー・ブラスター・キャノンの砲口が無数に浮かび上がる。
「物語の最期は、美しくあれかし」
砲撃の嵐がリュクルゴスを貫いていく。御伽の世界にあっては、全ての攻撃が光芒となって収束し、決して外れることはない。
「汝の戦いに敬意を。しかし、これこそが真実だ」
リュクルゴスの機体が大きく揺らぐ。崩壊の刹那、機械音声が響き渡る。
「貴様の魔空間は……確かに、我が理解の外……だ。だが、この両翼は……我が誇り。数多き配下を導く……証……」
白銀の翼が光を失い、巨体が地へ堕ちていく。砲撃の光は、まるで物語の結末を飾る花火のように、いまだ空を彩っていた。
魔空間が解けていく中、暁子は瞑目して敬意を示した。
「敵、と呼ぶには誇りの高いもの。そう、武士(もののふ)だった。――いつか因果を越えた地で会おう」
こうして、√能力者達の活躍により、戦闘機械群は打ち払われた。
生命攻撃機能も完全に停止し、住民達が住まう都市は、元の姿を取り戻したのである――。