⑩生きる、平和のために
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『そんな……私の|ヴァージン・スーサイズ《無差別自殺√能力》を、斬っている……!』
『さあ、その目に灼きつけるがよい。これなるはぬしより無差別自殺を奪うもの、大いなる禍津日神さまの姿である……!』
『リンゼイ・ガーランド』は本来、封印指定人間災厄として合衆国で収容されていたはずだった。大統領から下された何らかの命令により、シーサイドももち海浜公園へと送られたまでは良かったのだが。
同タイミングで姿を現した王権執行者──日神憑き『名張・楓』は、誰であっても問答無用に自殺へと追い込んでしまうという『リンゼイ』が持つ脅威の能力を狙って襲撃する。
『この力、奪わせるわけにはいかない……!』
『抗っても無駄である。禍津日神様のため、ぬしの力は奪わせてもらう……!』
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「今回のゾディアック継承戦争に、封印指定とされている人間災厄リンゼイ・ガーランドがシーサイドももち海浜公園に姿を現しました。……ですが、彼女の力を狙って新たな王権執行者がリンゼイへ襲撃を仕掛けているようです」
視えた予知から真剣な表情を浮かべ、屍累・廻(全てを見通す眼・h06317)は顎に手を添え考えながら事件の説明をし始めた。
「リンゼイが現れた理由は定かではありません。ですが、今はそれよりも襲撃に現れた日神憑きの方を対処する必要があります」
『名張・楓』の目的は、禍津日神のために問答無用に自殺へと追い込んでしまう能力──ヴァージン・スーサイズを奪い取ろうとしている。『リンゼイ』も能力を奪わせないために何とか抗ってはいるものの、それも時間の問題だと話して。
「このままリンゼイの力が奪われてしまえば、最悪な形として悪用される可能性があります。奪われた能力を取り戻せるかまでは分かりませんが、少なくとも妨害をして不完全に留めて欲しいのです」
ヴァージン・スーサイズを奪えるほどの強さなら、相手の実力は相当なもの。油断せずに戦って欲しいと、廻はEDEN達を真っ直ぐ見据えた。
「リンゼイはまだ諦めていません。彼女を勇気づけ、共に脅威を退けていただきたいと思います」
「どうか気を付けて」と伝え、EDEN達を見送るのだった。
第1章 ボス戦 『『日神憑き』名張・楓』
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「ヴァージン・スーサイズは厄介な能力だが……ぽっと出の悪神に奪われるなら、リンゼイが持っていた方がいいと思う…」
去年秋葉原で起きた戦争にて、『リンゼイ・ガーランド』と対峙したことがある。彼女の持つ能力は厄介なのを静寂・恭兵(花守り・h00274)自身も体験しているからこそ、悪用しようとするのなら手助けをする事に躊躇は無かった。
『全ては、禍津日神さまのため』
『っ……!!』
「悪いが、そうはさせない」
『リンゼイ』へ攻撃を仕掛けようとしたところに、恭兵は間に割って入ると【|曼荼羅《まんだら》】で日神憑き『名張・楓』の攻撃を防ぐ。予想していなかった助っ人に、『リンゼイ』も驚きを隠せなかった。
『あ、あなたは……』
「そうやって、あの能力を取られまいとする姿は好感が持てる……。君自身は、良識のある人間だからな……」
無差別に殺したくは無い。前回の戦った時も、彼女は殺してしまう事に躊躇いを抱いていた。そこにいるだけで、周囲にいる人達を自殺へ追い込んでしまうヴァージン・スーサイズ。『リンゼイ』が持っているから被害が少ない中で、万が一禍津日神に奪われてしまえば、訪れる未来は悲惨なものになるのは間違いないから。
『禍津日神さまの邪魔をするとは。ならば、吾と武を競おうか』
『名張・楓』は太刀を構えて恭兵へと連撃を仕掛けてくるなら、その動きを第六感で読みながら【|落花追撃《ラッカツイゲキ》】を発動。
「落ちる花を追うが如く」
【|曼荼羅《まんだら》】と太刀の刃がぶつかり合い、互いに拮抗した状態を保っていく。意識を『リンゼイ』から離すことで√能力が奪われないのならそれで良いと、恭兵の振るう一閃に迷いは無い。
『私も……負けてられないんですっ!』
嘗て、一度戦ったのに敵としてではなく味方として助けてくれる恭兵の姿を見て、『リンゼイ』は【|自殺のための百万の方法《ミリオンデススターズ》】を『名張・楓』へ放つ。少しでも力になるならと、弱まってしまったとしても負けたくないという『リンゼイ』は強い意思を見せた。
「そういう事だ……。彼女の力は決して奪わせない……」
『リンゼイ』の援護によって、『名張・楓』の攻撃に隙が出来る。恭兵は今が好機だと捉え、【|曼荼羅《まんだら》】を構えて鋭い一閃を放った。
『ぐ、あっ!!』
大きく斬られた事で『名張・楓』は少しよろめき、恭兵は連撃を繰り出すよりも守るために『リンゼイ』の前で刀を構え続ける。
生きたい。殺したくない。
人間災厄の切なる願いは、EDEN達の助けによって大きくなっていく。
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折木・龍也(伏龍・h13162)にとって、襲撃されている『リンゼイ・ガーランド』の事も詳しくはない。だが、海浜公園に来る前に以前秋葉原で起きた戦争についての報告書に目を通してはいた。
「お前が誰で、何をやらかしてここにいるのかも知らねえ。本人が何を背負っているのかも分からない。だが、能力を奪われればこちらにも大きな不利益が出る。それだけは確かだ」
軽くしか目を通してなかったのもあり、情報が足りているわけではない。だとしても、『リンゼイ』が持つヴァージン・スーサイズが奪われてしまう事を防がねばならないという事実が分かれば対処が出来る。本当は敵だとしても、今は守るべき対象ならば仕事を全うするのみ。
「だから頼むぜ。もうちょっと、気張ってくれねえか。本気で抗っているなら、勝手に諦められちゃ困る。誰かに助けてもらうのを待てとは言わねえ。こっちも手は貸す。だから、お前も自分の分くらいは踏ん張れ」
「良かった、まだ戦えるだけの力はあるようね。なら問題は無いわ、あなたを助けるわよ。例え簒奪者同士と言っても、困っている人は助ける、それが私達EDENの役目でもある訳だからね」
アリエル・スチュアート(片赤翼の若き女公爵・h00868)もまた、踏ん張ってくれている『リンゼイ』の姿を見て安心してから龍也と共に守るため前に立つ。
困っている人を放っておくなど、EDENの一人として出来るわけがない。何より、取られないためにと抗い続けていた。今度は共に戦う番だと『名張・楓』へと敵意を向けた。
「綺麗な理由も、立派な覚悟も要らない。生き延びたいという意地が残っているなら、それを離すな。いいな。奪われる前に、こいつをぶっ飛ばすぞ」
『は、はい……!』
「大丈夫、私達が必ず守ってみせるわ」
アリエルはドローン操縦で【フェアリーズレギオン】を動かし、ドローン空母【フェアリーズネスト】から援護射撃と高速詠唱で魔力溜めした全力魔法を放つ。
弾丸と魔法の雨が降り注ぐ中、龍也は決戦型WZ【ユーサネイジア】を殲滅モードに切り替えれば【|殲滅姿勢《デストロイモード》】を発動。
「ブン回すぜ」
マルチロックレーザーと大型ブレード、交互に使い分けながら『名張・楓』へと連撃を繰り出す。アリエルのドローンによる射撃の雨と龍也の絶え間ない攻撃を避け切る事は出来ず、その身に傷を増やしていった。
『ぐ、っ……禍津日神さまに盾突くなど、許してはおけぬ。内ナル心ニ従エ』
邪心を植え付ける神威を放とうとしたところで、そうはさせまいとアリエルは右手を伸ばし【|打ち消す右手の魔法陣《ライトハンド・ディスペルサークル》】を発動。
「その力を使わせる訳にはいかないわね、これで打ち消させてもらうわ!」
龍也の攻撃に気を取られていたのもあり、死角へ回り込み触れる事で能力を無効化。その隙を狙い、二人が作ってくれた時間の中でチャージをしていた『リンゼイ』は|希死念慮《タナトス》を発動。
放った突発的感染性自殺衝動が『名張・楓』へ直撃し、予想外の展開に苛立ちを見せていた。
「今は私と一緒に戦ってもらうわよ、リンゼイ」
「後は力を貸してくれりゃ、まあ何とかなるだろ!」
『敵のはずなのに……私のために、ありがとう』
心強いEDEN達の助っ人により、『リンゼイ』は立ち向かう覚悟を強くする。一人では勝てなくても、手を取り合う事で最悪の事態を逃れられるはずだから。
無事にあの方がいる国へ帰還する──その想いを胸に。
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「リンゼイさーん! 助けに来たよー! ヴァージン・スーサイズ、完全に取らせるわけにはいかないからね!」
颯爽とリンゼイの前に現れた杠川・遊海香(人妖「サキュバス」のジュエルスフィア・アクセプター・h00445)は、絶対にヴァージン・スーサイズを奪わせないと言わんばかりに『名張・楓』へと敵意を見せた。
『次から次へと、吾の邪魔ばかりするとは……』
『EDENの皆さん……どうして?』
「私としては、リンゼイさんには簡単に死んでほしくないから! もっと、頑張って!」
秋葉原の戦争にて敵対したはず。なのにも関わらず、敵である自分に対して守ろうとしてくれるEDEN達の優しさに『リンゼイ』は驚きを隠せなかった。
『これが……これが、EDENの強さ。なら、私も負けてられません!』
「そうそう、その意気! 私も援護するから、一緒に倒しちゃお!」
敵だからじゃない。
敵だったとしても、困っている人へ手を差し伸べる強さがあるからEDENは強いのなら、ここで負けるなんてしたくない。ヴァージン・スーサイズが完全に奪われてしまえば、楽園だけじゃなくあらゆる√世界に危機が訪れてしまう。それだけは絶対に避けたいという気持ちは、『リンゼイ』も同じだった。
『禍津日神さまへ歯向かう者は、許してはおけぬ。吾ガ威ニ平伏セヨ』
『名張・楓』は太刀へ黒き太陽の霊力を注ぎ、黒焔を惑わせると同時に攻撃を仕掛けてくる。遊海香は動きを見極めつつ、素早い動きで残像を残し、振り下ろされる一閃はギリギリで受け流すように避けた。
『援護しますっ!』
|自殺のための百万の方法《ミリオンデススターズ》を発動し、少しでも耐性を下げようと『リンゼイ』が援護に回ってくれるなら、遊海香は一気に距離を詰めて【|百錬自得拳《エアガイツ・コンビネーション》】を発動。
絶え間ない体術を繰り出すことで『リンゼイ』に対して攻撃がいかないようにし、一瞬でも隙を見せたところを狙い二人は息を合わせて強力な一撃を放った。
「リンゼイさん、ナイス!」
『いえ、あなたのおかげです』
こうして立ち向かえるのは、手助けをしてくれる人達がいるから。ここで負けては、慕うあの人へ合わせる顔が無い。無差別に人を殺したくないという優しさが、立ち向かう強さに変わっていた。
『リンゼイ』の援護に、遊海香の攻撃。
二人の連携が『名張・楓』を少しずつ追い詰める。
大きな脅威を退ける。同じ目標のため、立ち向かい戦い続ける。
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『このままじゃ、私の力が……』
「奪わせるわけにはいかない……か。ならば、決して膝を付くなリンゼイ・ガーランド」
『えっ?!』
『リンゼイ』が持つ自殺へと追い込んでしまう能力──ヴァージン・スーサイズを一部奪われてしまい、このままでは身の危険を感じていた。『名張・楓』は禍津日神の力を使って奪おうとしたところで、澪崎・遼馬(地摺耶烏・h00878)はすかさず割り込んだ。
「貴様が諦めないのなら、死を抱える者として手伝いくらいはしてやる」
『あ、ありがとうございます!』
先の秋葉原で起きた戦争で戦った相手であり、遼馬としては死を扱う者としてのシンパシーも感じていた。何の因果だとしても、不思議と悪い気分じゃない。自らの力に苦しんだとしても捨てないという気持ちがあるなら、喜んで力を貸そうと思えるから。
『禍津日神さまの邪魔をするとは、許せぬ所業である』
「何も√能力を砕けるのは貴様だけではない」
『吾ガ威ニ平伏セヨ』
少し弱っている『リンゼイ』が動いやすくなるよう、遼馬は前に出れば禍津日神の力を使おうとしてくるのに対して【|唯識《ユイシキ》】を発動。
「その技、殺してみせよう──」
右手を伸ばして『名張・楓』の力を封じてしまえば、禍津日神の力は発揮せずに終わってしまう。隙をつくってくれたことで『リンゼイ』も体勢を立て直し、遼馬と共に戦おうと戦闘態勢に入った。
「死の力が欲しいのなら好きなだけくれてやる。反撃といこう、ガーランド」
『はい! 私も、このまま負けるつもりはありません』
二人は目配せをし、息を合わせて動き出す。あくまでも、これは『リンゼイ』の戦い。攻撃しやすくするべく遼馬が再び前へ出ると【|無明顕聖《フローエ・ヴァイナハテン》】を発動。
「廃神体接続、神罰破却。権能代行権限起動───ベツレヘムの星骸よ、此処に」
不死者の棺【レノーア】へ限定解除権を貼れば封印を解き、棺からベツレヘムの星骸現れれば重力を纏った霊力攻撃で攻撃を仕掛ける。それに合わせて、『リンゼイ』もまたチャージが溜まった|希死念慮《タナトス》を放てば『名張・楓』は大きく吹き飛ばされた。
『グハァアッ!!』
(何処まで行っても、これは彼女の戦いなのだ)
真っ向から立ち向かうと決めている『リンゼイ』の姿を見て、彼女の戦いを邪魔する事はせずとも支援すると決めている。
死にまつわるもの同士、今回だけでなくこうして手を取り合う機会が増えると信じているから。
この力は、奪わせない。
その覚悟を胸に、指定人間災厄は戦い続ける。
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「はいリンゼイさん! この間ぶりですね! 今度こそ恋バナを……って場合でも無いでーすかー!」
『リンゼイ』には想う人がいて、指定人間災厄でありながらも普通の女の子な一面を持っているのを知ったからこそ、斎川・維月(幸せなのが義務なんです・h00529)は恋バナの続きを聞きたかったけれど。
『リンゼイ』はヴァージン・スーサイズの一部を奪われてしまい、全ての力を得て完全なものにしようと『名張・楓』が迫っていた。維月は【|道化師の槌《マロットマレット》】を構え、『リンゼイ』を庇うように立ちはだかった。
「……ふふ。本当、無くなるって言うなら大歓迎ですけど、奪われるのは困りますよね。──と言うか、ふざけんなって感じですよボクなら。率直に言ってムカつきますね」
『また邪魔が入るとは……忌々しい、EDEN』
無差別に自殺へと追い込んでしまう√能力は無い方が良いけれど、悪用しようとするなら手加減などするはずが無い。ましてや、一方的に攻めるやり方など卑怯極まりないからこそ、ムカつくという一言に全てを込めていた。
「何、便利に使おうとしてんだ。……リンゼイさんもそう思いません?」
『この力は、決して悪用していいものじゃないです! 犠牲を増やしたくない……だから私は、収監されてたのですから』
「もしそうなら、良かったら一緒にブン殴りましょー? ま、あの人は人形見たいですけど。本体殴るのは、また今度という事で」
『リンゼイ』は無差別に人を殺したいわけじゃない。苦しみながらも、少しでも被害を減らすために、合衆国で指定人間災厄として収監されていた。
万が一にも禍津日神に全て奪われてしまえば、今まで抑えていたものが無駄になってしまう。誰も死んで欲しくないのに、望まない犠牲を増やすなどあってはならないから。
「先ずは、この兄さんを。そんで、今日の所は好きな人の所に帰ると良いんですよ。仕事はまた明日から!」
『えっ、あの……!』
どんな仕事を受けて来たかは分からないけれど、大切な人の元へ帰りたいと思うのは普通で。恋する乙女のためなら、いくらでも協力すると【|縊らず《ブンナグリ》】を発動。
「後衛援護宜しくです! ボクは前! ──はい! それじゃー行きまーすよ! ドッカーン!!」
『リンゼイ』は|自殺のための百万の方法《ミリオンデススターズ》で援護し、維月は【|道化師の槌《マロットマレット》】を構えて大きく振り上げて『名張・楓』を全力でぶん殴った。
『禍津、日、神……さま!』
EDEN達と『リンゼイ』の連携により、『名張・楓』を撃破。
一部は奪われたままとはいえ、ヴァージン・スーサイズが完全に奪われるのを防げた。その事に『リンゼイ』は安堵する。
力を奪われた事で責められないかという不安はあれど、今は愛しい先輩の元へ戻れるのなら──。
