⑮一手先の拳
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「集合お疲れ様。ゾディアック継承戦争もいよいよ第三戦線に突入したな」
EDENたちの姿を確認すると、赤神・晩夏(狐道を往く・h01231)はそう切り出す。此度の戦争もとうとう最終局面に移行していた。
「今回戦ってもらいたいのは、王権執行者『食鉄大師』だ。こいつはドロッサス・タウラスからゾディアックを奪って、『ゾディアック・ミラー』っていうものを作ろうとしてるんだ。この神器は予知能力に関するものみたいで、未完成の状態でも数秒先を予測可能にするほどの力を持ってるんだ。こんなものを王権執行者が持ってたら危険極まりないだろ。だからみんなには、食鉄大師を倒してきてほしいんだ」
『食鉄大師』は√仙術サイバーの|魔教《カルト》『黑白蓮教』の教主であり、強力な力を持つテロリストだ。弱者を受け入れる慈悲深い面もあるが、強者を悪と見なし叩き潰そうとする独善的な面も強い。EDENもすべて悪しき強者と判断しているようで、戦いとなれば容赦はしないだろう。
そんな彼に強力な予知能力が備われば、至る所でEDENが襲撃されるような事態になるだろう。それは阻止しなければならない。
「『ゾディアック・ミラー』は鏡のようなオーラの状態で食鉄大師の手元にある。こいつの予知能力はすでに数秒先の未来まで見える状態になってるってわけだ。厄介な相手との戦いになるが、きっと勝機はあるはずだぜ」
食鉄大師は『数秒先の未来が見える』という状態になっている。それをどう乗り越えるかが戦いの肝になるだろう。
「攻撃が読まれることを前提に動くとか、読まれないような攻撃を放つとか、俺が思いつくのはそういうのかな。他にもいろんな手段があると思うから、みんなの思うように戦ってほしい」
晩夏は大きく頷き、EDENたちへと笑顔を向ける。
「神器を俺たちが手に入れられたら、きっと今までとは違う事件も予知できるようになると思う。今度のためにも、どうにか食鉄大師に勝ってくれ。よろしく頼む!」
第1章 ボス戦 『食鉄大師』
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此度の戦争は、各√から厄介な者たちが集まっていた。食鉄大師も間違いなくその一人だろう。
彼は仏教の要素を色濃く出しつつも、自らが導くのは魔教だ。そんな相手が出現したとなれば、卿機・枢(shroud minister・h00191)も黙ってはいられなかった。
まるで牧師としての何かを試されているかのような、今回の戦い。だとしても、何かを大きく変える必要はない。
「まあ、俺は俺らしくやるだけやね。ほんならまた宗教戦争しよか」
「異教徒の者ですか。強者でなければ深く関わりはしませんが……強者相手なら容赦はいたしません」
大師は『如来神掌』を呼び出し構え、枢の出方を窺うつもりらしい。枢も呼吸を整え、H&Hを構える。
「昔いまし、今いまし、後来たりたもう」
守りの力を強化し、枢は少しずつ前へと進む。そんな彼の元へ、大師は勢いよく飛び込んだ。
大師はこれまでの経験を活かし、枢と接敵することを選んだ。相手は銃を取り出したのだ、ならば近距離から攻めれば有利になるはずだ。
すると、相手の出方はどうなるか――次の光景を予知した大師は円な瞳をさらに丸くした。だが、彼は躊躇することなく如来神掌を突き出す。
その先の光景は、予知したものとまったく同じ。枢は攻撃を回避せず、重い衝撃を全身で受け止めたのだ。
「なっ……!?」
大師はさらに攻撃を繰り出すが、そのすべてを枢はひたすら受け続ける。枢の表情は痛みや衝撃で多少歪んだりはするものの、基本的には飄々としたものだ。
「何故回避しないのです!?」
「……そちらさんの教えにはあらへんやろけど『右の頬を打たれたら左の頬も出しなさい』言うのが俺んとこの教えにはあってね?」
異常な状況の中、淡々と紡がれる枢の言葉。それはさらに大師を混乱させるには十分だった。
大師から見た枢は、すでに『無抵抗で攻撃を受け続ける謎の男』になっている。だからこそ、大師は勝負を急いだ。相手が抵抗しないのなら、もうさっさと勝負を終わらせてしまえばいい。
そんな意識で大師が拳を振るっていたからこそ――枢の手から二挺拳銃が消えていたことには気づいていなかった。
「満足したか? ほな、そろそろ終わろか」
次の瞬間、枢は念動力で銃を操り、その銃口を大師の頭に突きつける。
それから乾いた銃声が響いて、戦いは終わりを告げたのだった。
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相手はただでさえ強者なのに、予知能力まで持っているという。厳しい戦いの状況は、黒木・摩那(異世界猟兵『ミステル・ノワール』・h02365)の頭を悩ませていた。
「数秒先の未来が見えるというのは、こちらの狙いが明らかならば、相手はそれを避けられるということですね。その回避をさらに上回る方法が必要になるわけですか」
何か糸口はないものか。自分の考えを口にしたところで、摩那はとある単語に意識を向ける。
未来――摩那の中で未来という単語は、とある小説を想起させる。それは彼女にとって、とある能力の起点にもしている作品だ。
あの能力を使えば、きっと上手く立ち回れる。そう確信し、摩那は食鉄大師の元に向かった。
食鉄大師は摩那の接近に気がつくと、背負った後光の輝きをさらに強めた。
「EDEN、つまり強者ですね。今からあなたが心を入れ替えるというのなら、叩きのめすことはやめましょう」
大師の放つ輝きは思考を操る。一瞬だけくらりとしたものの、摩那はすぐさま正気を取り戻した。
しかしあの光を浴び続けていれば、いずれ悪影響も出るだろう。早く決着をつけるためにも、摩那は大師の言葉を無視し、自分の言葉を紡ぐ。
「あなたは未来が見えるんですよね。未来というと、SFの古典には火星人が地球に攻めてくる話があるんですよ。火星人はすごく強くて、主人公は逃げ回るのですけど、状況的には似てますかね?」
「改心する気はないということですか……ん?」
大師が物憂げに目を伏せた一瞬で、周囲の景色は一変した。厳かな水鏡天満宮は重力歪曲宙域へと変わり、まさにSF小説のような景色が広がったのだ。
「さあ、今はどんな光景が見えますか?」
摩那に促され、数秒先の未来を見た大師は息を飲む。自分が四方八方から叩きのめされる景色が見えたからだ。
その景色を現実のものにするべく、摩那はヨーヨー『エクリプス』を振るう。当然大師はその攻撃を察知し、回避しようとするのだが――。
「すでにこの空間の主人公は私となっています。逃げたとしても、無駄ですよ。自分がボコボコにされる未来が見えますか?」
摩那の言葉通り、どれだけ大師が逃げ回ろうとエクリプスの動きの方が上回る。摩那の操るヨーヨーは必ず敵を捉え、強烈な一撃を叩き込んだ。
彼女の立てた作戦は思った通りに動き、無事に強敵との戦いを勝利へ導いたのだ。
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敵は数秒先を読むという驚異的な能力を持っている。改めてその事実を思い返し、シンシア・ウォーカー(放浪淑女・h01919)は小さく拳を握る。
「相手はきっと難敵ですね。ですが……」
シンシアが視線を向けるのは、隣に立つ神隠祇・境華(金瞳の御伽守・h10121)だ。境華も緊張した面持ちをしているが、シンシアの視線に気づけば表情を和らげる。
「……シンシアさんがご一緒なら、きっと大丈夫ですね」
「ええ、私もそう思っています。境華さんと一緒に頑張りますよっ!」
頼もしい友人がいれば、強敵との戦いも乗り越えられる。二人は笑顔で頷き合って、水鏡天満宮の中へと足を踏み入れた。
食鉄大師は二人のEDENに気がつくと、後光の輝きを纏いつつ両腕を広げる。
「新たな『強者』ですね。どこからでもかかってきなさい、叩きのめしてくれましょう」
「それはこちらの台詞です――来なさい、お前たち」
後光の輝きをかき消すよう、戦場に暗い影を落とすのはシンシアの呼んだ死霊たちだ。その姿を見遣り、大師は眉を顰める。
「……訳のわからない未来が見えましたね」
「ええ、そうでしょう。彼らの能力がわかれば、そんな未来が来るのも当然のことです」
困惑している大師の元へ、レイピアを構えたシンシアが飛び込む。彼女の放った突きを大師は回避しようとするのだが、その動きはぎこちない。
それもそのはず。シンシアは死霊の力を借りて、未来視ができるほどの超感覚を得ているのだ。未来が読める者同士がぶつかり合えば、その動きはまったく予想のつかないものになる。
さらに、この戦場にいるのはシンシアだけではない。二人が戦う合間に響くのは、乾いた銃声だ。
「シンシアさん、サポートします」
銃声は境華が構えた羅紗銃から響いていた。彼女は後方に控え、シンシアと呼吸を合わせて断続的な銃撃を行っていた。
できるだけ大師の死角や足元を狙い、鋭く行われる射撃。しかしこの攻撃は、大師にとっても予測可能なものだった。彼は死角からの攻撃も的確に回避し、迫りくる刺突に意識を向けている。
「連携となれば、確かに厄介でしょうが……」
未来視がなくとも、カンフー・カルト・マスターと化した食鉄大師の実力は本物だ。彼は持ち前の武技だけでも、シンシアと境華の連携をいなし続けていた。
それからしばらくの戦いは、とても長かったような気もするし、本当は一瞬だったのかもしれない。
シンシアは死霊とともに攻撃を繰り出し続け、大師の拳も懸命に受け流していた。その後ろでは、常に境華が射撃のチャンスを見つけ、大師目掛けて発砲を続けている。
一方大師の様子も変わらず、彼は未来視と実力の双方でEDENたちの攻撃を受け止め続けていた。
全員が実力者だからこそ、この戦いの決着は簡単につかない。全員が一歩も引かず、できる限りのことをしていたのだ。
しかし体力の差というものはある。最も疲弊していたのは、最前線で動き続けていたシンシアだ。境華もまた集中し続けていたため、額には汗が滲んでいる。
一方パンダである大師はまだ体力に余裕があるようで、疲弊の色は見えない。このまま戦いを続ければ、最後に立っているのは彼だろう。
だからこそ、挑むならここぞという時で。戦いが動いたのは、シンシアと大師の動きが膠着した時だ。
「物語を我が身に──天と地を巡りし古の応龍よ、その神威と閃きを、いま我が身に宿したまえ」
突如、境華が銃ではなく御伽斧を構える。同時に『応龍』の力を解放し、彼女の身体は勢いよく前へと進んだ。
その動きはシンシアと大師の双方が認識していた。大師は未来を見て、次の行動を選択しようとするが――。
「……な」
「見えましたか。これこそが私たちの狙いです!」
驚く大師の耳に届くのはシンシアの鋭い一声だ。彼女は境華とは別の角度から、すでに刺突の構えを取っている。
二人の作戦は、戦いが膠着した一瞬に勝負を決めることだった。
たとえ相手に未来視の力があろうとも、対応できない状況に持っていけばいい――答えはシンプルだが、そこに至る道筋は困難だった。
戦いを膠着させられるよう、ひたすら前に出続けるシンシア。援護役に見せかけ、ここぞという時に踏み込む境華。二人が絶妙なタイミングで動かなければ、この作戦は成功しない。
しかし、二人はしっかりと息を合わせ、この作戦を現実へと引っ張ってきた。
すなわち――境華の斬撃とシンシアの刺突、その二者択一を迫ることで大師を完全に追い込む。そんな状況が実現したのだ。
大師は混乱のあまり、一瞬だけ動きを遅らせる。それは二人にとっては、思ってもみないチャンスだった。
「シンシアさん! 合わせましょう!」
「ええ、境華さん! いきますよ!」
二人の放った鋭い一撃は双方から大師を斬り、貫く。彼女らは最初に語り合ったように、互いの助力で強敵を乗り越えたのだった。
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戦いが続き、食鉄大師の螺髪は少しずつ乱れ、解けている。
その様を見遣り、巫・黒星(|鬼面道士《デスマスク》・h08880)は仮面の下で目を細めた。
「カルト・パンダの髪は元々威厳なんてなかったけれど、解けてしまえば余計にそう感じるの。ワタシが綺麗さっぱり断髪してやるとするのね」
鋭い言葉に大師は表情を顰めるが、彼の意識は別の方向に向いている。黒星のあとからもう一人EDENが現れたからだ。
そのEDEN、神薙・ウツロ(護法異聞・h01438)は敵の様子を警戒しつつも、視線を黒星のほうに向けていた。
「あら、黒星ちゃんも来てたんだ?」
隣に立ったウツロに、黒星は拱手を返す。敵にはしっかり意識を向けつつも、思わぬ主の来訪にはしっかりと感謝を示していた。
「宗主様が来てくれたなら心強いの。あのカルト・パンダは放っておけないのよ」
「それじゃ一緒にやろうか。多分お互いの作戦も噛み合うだろうし」
二人が語らう様子を前に、大師の表情はさらに険しいものへと変わる。それと同時に彼の螺髪が完全に解け、深紅の長髪へと変わった。
「『強者』同士で馴れ合い、好きに暴れるつもりですか。それならまとめて叩きのめしてやりましょう」
「おっと、わかりやすく怒ってるね。黒星ちゃん、気をつけて」
「はいなの。先にワタシが動くの――護法・巫黒星が八卦の軍勢を此処に」
大師が構えると同時に、黒星も自信の能力を発動させる。すると戦場に、黒星によく似た12体の僵尸兵が姿を現した。
「数秒先の未来が見えてもどうにもならない事はあるの、例えばオフィス街近くにある昼休みのラーメン屋」
黒星は僵尸兵と共に前進し、四方八方から大師の元へと肉薄していく。
相手に未来視の力があろうとも、物量で押されては回避も困難。大師はどうにか致命傷を避けつつも、いくつかの攻撃は受け入れざるを得なかった。
僵尸兵には大ぶりの重い攻撃を行わせ、その合間に黒星は足払いや単鞭のような動きを着実に差し込む。彼女らのコンビネーションは、着実に大師の体力を削っていた。
しかし大師も相応の実力者だ。攻撃は喰らいつつも、最も危険そうな攻撃には常に的確に対処している。そんな彼が、次に見たのは――。
「先程から姿が見えないと思っていましたが……」
死角からの攻撃を察知し、大師は大きく身体を逸らす。直後、大師のすぐそばを銃弾が通り抜けていった。弾丸が来た方法を見れば、自動拳銃を構えたウツロが佇んでいる。
「っと、さすがにバレるか。でも、そっちがちゃんと未来を見ているのがわかっただけで十分だよ――|金怪《コン》」
ウツロは手早く黄金の祟り神を呼び出すと、そのまま大師の元へとけしかける。大師は未来視により金怪の接近に対応しようとするが、それこそがウツロの狙いだった。
「ぐッ……!」
未来を見た大師はうめき声を発し、一瞬動きを遅らせる。その隙に金怪は大師の懐に飛び込み、重い一撃を浴びせた。
金怪の放つ輝きは、呪詛を帯びた黄金の魔力。それは直視させることで相手を蝕むものだ。大師は今目の前にいる金怪からの光だけではなく、未来の光までもを見ていることになる。
さらには単純に眩しい光が目に入り、周囲には12体もの僵尸兵が常に存在するとなれば、視界はまったく開けない。大師は未来を見ても見なくても不利な状況まで追い込まれたのだ。
「黒星ちゃんは直視しないように気をつけてね」
「大丈夫なの、宗主様。このまま揉みくちゃにしてしまうの」
戦いの流れは、完全に二人によって制された。
化身修羅と化した大師は僵尸兵や金怪を振り払おうと渾身の力で暴れまわるが、それでもじわじわと蓄積されるダメージには勝てない。
たとえ一体の僵尸兵を吹き飛ばそうと、他の僵尸兵がすぐにカバーに入る。その合間に、黒星が着実な一撃を差し込んでくる。
金怪によって未来視は実質封じられ、さらには常に目に入る光が身体を蝕んでくる。逃げ出そうとすれば、すぐに後方からウツロが攻撃を差し込み、逃走も阻止され続けた。
「なんと邪悪な……!」
髪を振り乱し、怒りを隠さない大師に対し、黒星とウツロは終始冷静だった。
「先に喧嘩を売ろうとしてきたのはそっちなのよ……このままだと、ラーメンが伸びるより先にアナタが伸びそうね」
「そっちだってゴリゴリにパワーアップする技を使って、数秒からの予知までしようとしてたよね。どんだけ欲張りなのさ。人のことは言えないよね」
相手がこちらを害するつもりなら、容赦なく対応するだけ。二人の答えはシンプルなものだった。
そしてその答えを叩きつけるべく、最後の攻撃が振り下ろされる。黒星の放った一撃と金怪の一撃が同時に大師の胴を打ち、その生命を終わらせたのだった。
「宗主様、お疲れ様。ありがとうなの」
「こっちこそありがとう、黒星ちゃんもお疲れ様。それじゃ、帰ろうか」
無事に勝利を掴み取った二人は、互いに感謝を述べ、帰路につく。
そんな二人の様子を、ゾディアック・ミラーがゆらりと映すのだった。
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こうして食鉄大師は倒され、水鏡天満宮に静寂が戻る。
その中央に佇むゾディアック・ミラーは、少しずつ完成に近づいているようだ。
鏡のようなオーラの表面には、EDENたちが取り戻した平和な景色が煌めいていた。
