⑱未来を砕け、皆の力で
●ゾディアックの継承者
「……|運命の石よ開闢せよ《アクセプト》」
静かな声が、キャナルシティ博多に響き渡る。
|暴牛辰砂甲《アーマーオブファラリス》を脱ぎ捨て真の姿を現した、ゾーク12神『星神ドロッサス・タウラス』――その全身から、禍々しいオーラが噴き出していく。
「……これにて、我は正当なる『ゾディアックの継承者』となった」
紡ぐ言葉は淡々と、けれど重々しくEDEN達へ届く。その赤い瞳もまた、ただ彼らを映していて。
「……ゾディアックの継承者が行う星詠みは、予知能力ではない。……それは『未来を決定する力』だ。我の言葉はいずれ現実となる」
それはただ、事実を告げるように。語るドロッサス・タウラスは、周囲のEDEN達へと宣言した。
「……汝等に我の力を示そう。『汝等は、一人一人我に殺される』。何人で来たとて無駄だ。我は汝等を倒し、全√のゾディアックを掌握する」
言葉には、確かに力が感じられた。だが――EDEN衝動を持つ者達の裡には、強い決意が生まれる。その予知すらも、必ず打ち破ってみせようと。
●未来を砕け、皆の力で
「ついに現れたな、ゾーク12神『星神ドロッサス・タウラス』だ!」
周囲に集ったEDEN達へ、笑顔で礼を告げてから。|天ヶ瀬・勇希《あまがせ・ゆうき》(エレメンタルジュエル・アクセプター・h01364)は、これが最終決戦になると語り真剣な表情を浮かべる。
「真の姿を現したドロッサス・タウラスは、進化した星詠み能力……その名も『未来を決定する力』を使ってくる。あいつが話した言葉は、全て現実になるんだって。すげー厄介な力だよな」
言いながら、少年の顔が僅かに翳った。しかしすぐに顔を上げると、勇希はEDEN達へ激励するよう言葉を続ける。
「でも! 対処する方法はあるんだ! 俺が視た予知だと、あいつは『汝等は、一人一人我に殺される』って宣言する。これが実現するなら勝ち目はなさそうに見えるけど……わかるか、あいつ、それがいつになるかは言わなかったんだ」
戦場で、順にEDEN達を殺そうというドロッサスの意図は見える。けれどその未来がいつ実現するかは指定していないのだから――それより前に、仕掛けることができる。そう語る星詠みの少年は、ぐっと拳を握り締めてさらに語った。
「ドロッサスの未来が実現する前に、あいつをやっつけちゃえばいい――だから俺は、EDENのみんなが一斉に攻撃する作戦を提案するぜ!」
一人や二人、少数で攻撃を仕掛ければ、その反撃でEDEN側が倒されてしまうかもしれない。けれど、戦場へ向かった全員が、先にその攻撃をドロッサス・タウラスへと叩き込めば――こちらがやられる前に敵を撃破できる。そうすれば、ドロッサスの宣言した未来も無効となり、EDEN達も死ぬことなく帰還できることだろう。
「王劍を掌握したドロッサスは強敵だ、未来が決定する前でも、苦戦すると思う。でも、それでも……みんななら、戦ってくれるよな!」
同時攻撃であるならば、単身での攻撃とは違う戦略も採れるだろう。仲間を強化することを考えてもいいし、搦手で敵を妨害することもできる。そして――そんな仲間のサポートを信じ、最大火力の攻撃を叩き込むことに集中するのだって有効だ。
EDEN達を見つめる星詠みの瞳は、信頼に溢れていた。行き先は、√EDENのキャナルシティ博多。√EDENの人々を、そして他の√全てをも、守るための戦いがはじまる。
第1章 ボス戦 『ゾーク12神『星神ドロッサス・タウラス』』
●力を重ねて
『キャナルシティ博多』――|運河《キャナル》の名を冠したこの複合商業施設には、その名の通り疑似的な運河が流れている。地下一階、夏でも涼しげに見えるフロアの中央には、半円形の吹き抜け広場『サンプラザステージ』が存在していた。
ゾーク12神『星神ドロッサス・タウラス』は、その広場の真ん中でEDEN達を待ち構えている。背後を渡る運河には、定時ごとに楽しい音楽が流れ、噴水ショーが始まる――その水音が周囲に響き始めた時、先んじて戦場に降り立つ青年がいた。
「未来を決める力、か……だったら俺たちは、その未来より先に進むだけだ」
言葉を紡ぐ|十束・新貴《とつか・あらき》(三度目の正直・h04096)は、迷いなくドロッサス・タウラスの前へと姿を現す。神となった簒奪者は、その赤い瞳に彼を映し、厳かな声で語った。
「……来たか、EDENよ。勇敢と無謀は違うもの。一人でやってくるとは――我の力を示すとしようか」
そしてドロッサス・タウラスは、『未来を決定する力』を使って言葉を紡ぐ。『汝等は、一人一人我に殺される』。それは、先陣切って乗り込んだ新貴を捻り潰そうと発された言葉であったが――青年は、迷いなく口を開いた。
「そういうことなら、俺はあいつに任せよう。頼むぞ、セラフィック・グレイス。みんなを守ってくれ」
新貴の呼びかけに応え、動き出したのは『FSS-3042-HS"セラフィック・グレイス"』だった。支援型ファミリアセントリーは、戦場に強化バリアを展開する。それは新貴に、そしてこれからこの広場へやってくるはずの仲間達に力を与えてくれる。
強化だけでは終わらせず、新貴はそのまま『残り火の幼子』に頼み、ドロッサス・タウラスに呪詛をかける。
「く……っ!?」
その攻撃は√能力ほどの効果を及ぼさない、けれど敵の意表を突くことには成功した。体の違和感に思わず星神が後退すれば、彼と新貴の間に割り込むように現れるEDEN達がいる。
「5W1Hは大事よ、ドロッサス。確定の未来だと言っても、肝心のいつを明言しないなんて、隙があるにもほどがあるわね」
赤くグラデーションした片翼が揺れ、薄紅色の髪も風に躍る。アリエル・スチュアート(片赤翼の若き女公爵・h00868)は凛と声を響かせると、|魔力の線《マナライン》を戦場へ展開した。それは光輝く糸となり、続々と戦場へ到着するEDEN一人一人に接続されて身体能力を上げる。
「味方の支援だってちゃんと出来るわよ」
不敵に笑いながらも、アリエルは魔導槍『グリモワールランス』を構え、背後に控えさせていたドローン『フェアリーズレギオン』による援護射撃を開始する。ドロッサス・タウラスもそれに反応して動き出そうとするけれど、それより先に彼の足元から影が伸びる。
次いで銃弾が腕を掠めたから、星神は攻撃の飛んできた方へと振り向いた。そこに立っていたのはクラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)――けれど、その姿は平時と異なるものだ。漆黒の翼と角、全身より放出されるのは黒い影。影竜との融合体となったクラウスは、それでも周囲の仲間達を見て小さく微笑んだ。
(「みんなで力を合わせて神に勝とうとするなんて、何だか物語みたいだ」)
もちろん、楽観視なんてしないけれど。一人じゃないのは、すごく心強い。胸に湧き上がる感情を受け止めながら、クラウスは影を敵の体へ這わせて、思考を絡め取った。
『抵抗するな』
「ぐっ……!?」
彼が短く言い放った命令の言葉に、ドロッサス・タウラスはぴくりとも動けなくなる。その隙に、四人の少女達が一斉に攻撃の準備をする。
「……未来を決められちゃう。怖いね。わたしだけなら、どうしていいかわからないけど……」
黒髪から覗く赤い瞳で敵を見据えて、|小弓・佐倉《コキュウ(コキュー)・サグラ》(夜黒の椿・h08163)が言葉を零す。すると、それを聞いたエルフの少女――エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)が、明るい声を発した。
「一人では勝てなくても、二人なら。ううん、みんなならっ!」
精霊銃『エレメンタル・シューター』を構え、詠唱を開始すれば六属性の精霊の力が銃へと集まってくる。その近くを飛ぶのは、一基のファミリアセントリー『lucy』。|汀・コルト《みぎわ・コルト》(Blue Oath・h07745)の武器だ。
「私では敵う気がしない強敵。でも一人じゃないなら、いけるかもしれない。……ううん、かもしれないじゃダメだ。守るために、絶対倒す」
表情は薄い少女だけれど、その青い瞳に決意の炎を灯して。『索敵補助レーダー』を上空へ飛ばすと、彼女は即座に立ち位置を調整した。『lucy』にも位置を指定し、仲間との連携に適したポイントから攻撃できるよう準備する。
そんな仲間達の行動に合わせて、|七豹・斗碧《しちほう・とあ》(白翔テイルアンシア・h00481)も攻撃に備える。彼女が赤い瞳で注視するのは、ドロッサス・タウラスの手に握られた王劍『ファルの心髄』。その周囲を飛んでいる『牡牛座のリア・ファル』が反撃の機を窺っているのを理解しながら、斗碧は自身の手の周囲に花弁を舞わせ始めた。
「一斉に死ぬとかじゃなくて、自分に殺されるって指定したことが隙になるとは思ってないんだろうけど。こっちは一人じゃないもん。戦いは数だって知ってもらうよ!」
三人の言葉は、どれもが力強い。だからこくりと頷いて、小弓も自身の護霊へ語り掛ける。
「みんなを助ける、力になるなら、こう。ヤグロ、お願い」
唇から言葉を紡いだ瞬間、護霊『夜黒の手』がさざめくように動き出した。その掌の中に生まれるのは、鬼火の弾丸。それを護霊は手で掴み、ドッジボールの如くドロッサス・タウラスへと投げつけた。
「っ……その攻撃は通用せず……!」
星神が、慌てて未来を決定しようと言葉を紡ぎ、攻撃を躱そうとする。けれど、その声を遮るように小弓が告げた。
「大丈夫、当たらなくても……近くに落ちれば。わたしの攻撃は、外れても、関係ないから」
「何っ……?」
驚くドロッサス・タウラスの足元に、鬼火の弾丸が落ちた。瞬間、それは禍々しい色の炎を燃え上がらせる。敵の生命力を吸い上げて燃え立つ炎。簒奪者より奪った生命力は膨大で、それを小弓は周囲のEDEN達へ配る。
力を受けて、一歩踏み出したのは斗碧だ。小弓への反撃に星神が飛ばした『牡牛座のリア・ファル』の力を、彼女へ届く前に鹵獲する。掌から溢れるように展開する、美しい花吹雪が簒奪者を襲った。願いを叶えようと、他所から奪ったもので花を降らせた花童子の話のように――。
「攻撃したっていいけど、その瞬間それは私のものになるよ」
これは私の攻撃じゃないからね。あくまでおまえのものがおまえに返っただけ。そう微笑みながら雪豹の少女が告げれば、敵は悔しそうに拳を握り締めた。残った力は、全部みんなにお裾分け。周囲の味方を強化して彼女が後退すれば、入れ替わるようにコルトが前へ出る。
「戦域解析完了。粒子弾、射出します」
淡々と紡げば、星神の頭上に移動していた『lucy』が粒子弾を放つ。戦場に広がるナノマシンは、敵を汚染し、味方の身体は活性化していく。
「くそっ……! その攻撃は……!」
ドロッサス・タウラスが声を上げて、『牡牛座のリア・ファル』を飛ばして反撃しようとする。けれど瞬間、コルトは義体装甲《Advance》の出力を上げ、ジェットパックで加速してその攻撃を回避した。索敵補助レーダーを通して算出した回避ルートに、間違いはない。思ったよりも三秒は長かったけれど、やり切った上で少女は仲間へ告げる。
「後方支援、得意だから任せて」
「うんっ! ……それじゃ、あたしも行くよっ!」
応じたのは詠唱を終えたエアリィで、少女は精霊銃を構え、完成した複合六属性の弾丸をドロッサス・タウラスの背面から射出する。
「世界を司る六界の精霊達よ、銃口に集いてすべてを撃ち抜く力となれっ!!」
六色の光を纏い、全力で撃ち出された弾丸は敵の胸を貫通した。堪らず体を折って呻く星神、その周囲には精霊の加護の力が溢れてEDEN達を強化する。
「すごい……戦闘力強化がいっぱい効いてるっ!」
体にみなぎる力を感じて、エアリィが精霊剣『エレメンティア・ブレイド』を抜き放つ。仲間達の重ねた強化で、皆の力は飛躍的に向上していた。基礎能力も、命中率も反応速度も。戦闘力強化の効果は四回分だ。――これなら、敵の決定した未来だって砕けるに違いない。
EDEN達は勝利への道を見据えながら、未だ油断はしない。ドロッサス・タウラスは苦しみ悶えながらも、まだ『最後にはEDEN達が死ぬ』未来を確信している。それがわかるから、彼らはさらに攻撃を重ねていくのだった。
●決着
「ぐ……ぐうっ……。おかしい、『汝等は、一人一人我に殺される』、そう我は言ったのだ。どうしてまだ、倒れない……!?」
王劍『ファルの心髄』を床に突き、よろけそうな体を支えながら。忌々しげにドロッサス・タウラスが零した声に、クラーラ・ミュスティアウゲン(閉ざした瞳の武侠剣士・h12663)は錬成剣『藍月』を突き付ける。
「未来を決定する力、ですか。ですが、この数を相手に、全ての刃筋まで言葉で縛れますか」
「くうぅっ……!」
瞳を閉ざした少女の、静かな問い。それに答えられないことこそが、答えだった。しかしそれでも、ゾーク12神『星神ドロッサス・タウラス』は未来を諦めない。
「まだだ、『我は倒れない』! 最後にこのキャナルシティ博多に立つのは――」
未来を決める言葉を放とうとするドロッサス・タウラスの声は、そこで途切れた。アリエルの魔導槍から繰り出された全力の魔法が、彼の体を灼いたのだ。
「言ったわよね、ドロッサス。5W1Hは大事って」
魔力を再度集める魔導槍を構え直しながら、アリエルが告げる。『我は倒れない』、そう未来を決めたから、今の彼女の攻撃は凌げただろう。だけれど、まだEDEN達の攻撃は続く。だからアリエルは、正しく未来を決めるように宣言する。
「今、ここで、私達EDENが、ドロッサスを倒すために、一斉攻撃をさせてもらうわよ……!」
「ぐ、う……っ!」
苦し気な声を上げる星神へ、再度彼女の魔法が放たれる。それを合図に、EDEN達は一斉に攻撃を開始した。
「力を手に入れたら慢心に気をつけないとね。そうでないと、こうして足元を掬われるんだよ」
花を降らせて斗碧が告げれば、視界を奪われるドロッサス・タウラス。その隙に接近したエアリィが、精霊剣で斬りつける。
「ね、タウラスさん。あたしの剣痛いでしょ? 未来を断言すればいいんじゃないかな? あたしの剣では傷つかない、とかっ!」
「……小娘がっ!」
怒りを滲ませた声で星神が吼えるが、その口が未来を告げる前にエアリィは踏み込み、片足を振り上げて回転蹴りを繰り出す。両手に銃と剣を持つ彼女が別の攻撃をするとは予想しなかったろう、敵は驚きに息を詰まらせ、大きく仰け反った。
「ごめんね、足癖悪くてっ! それじゃさようならっ!」
言葉を残して軽やかに後退するエアリィと入れ替わるように、今度はクラーラが接近する。仲間の銃撃が当たるよう、敵の足を止める。そのために、クラーラは飛燕剣『宵燕』と『影燕』を巧みに操り爆発で敵を追い詰めた。『藍月』の切っ先を星神へと向ければ、その足元に生まれた錬金陣から鎖が伸びて簒奪者を捕らえる。次の瞬間、手の中の剣は錬成したハンマーに変わっていて。
「因果を決めることはできても、結ぶことはできないようですね」
冷静に言葉を投げかけながら、クラーラがハンマーを振り上げる。力を篭めて振り下ろせば、それはドロッサス・タウラスの頭へ叩き込まれる。星神の気高く立派な角が、片方折れた。
「今だ!」
鋭い声が戦場に響き、新貴が八七式霊動拳銃の引き金を引く。周囲へ展開した『FSS-1089-A3 "ヴァルカーレ Mk.III"』と『FSS-2064-R2 "アークシーカー"』と共に、一斉射撃を開始する。圧倒するほどの攻撃は、後に続く仲間を誘うように。
「誰か一人じゃ届かなくても、みんなで放つ一撃なら未来だって撃ち抜けるはずだ」
「ああ、そうだ。全ての√の自由な未来を、俺たちの手で守るんだ」
頷いて、二挺拳銃『無明』を構えたのはクラウスだ。彼は両手の銃で交互に発砲し、敵へと撃ち込んでいく。
「俺の未来は俺が決める」
誰かに決められる未来なんて嫌だ――青い瞳に真っ直ぐな想いを宿して、敵を睨む。すると、それに同意するかのように『lucy』と『luna』、コルトの武器もまた最大出力での攻撃を重ねて。
「理不尽な未来なんて、いらないよ」
「これが……みんなで掴み取る未来だ!」
コルトと新貴が次々と宣言すれば、雨のように降り注いだ攻撃にドロッサス・タウラスが膝をつく。それでも執念で立ち上がろうとする星神を――力を吸い上げる炎が囲む。
「みんなの生きる力は……予言に、負けない」
小弓の言葉で、鬼火はさらに強く燃え上がる。それは簒奪者に僅かに残った生命力すらも奪い取り――ついに、ゾーク12神『星神ドロッサス・タウラス』は自身の未来を成し遂げることなく、このキャナルシティ博多の地で倒れるのだった。
「や、やった……!」
エアリィが声を上げた瞬間、敵の崩れ落ちたその後ろで噴水が高く吹き上がった。EDEN達の戦いの後ろで、平時と変わらず展開されていた噴水ショーもクライマックスだった。三階まで伸びようとする水が描く情景に、誰もが目を奪われる。
――そして、ぱしゃん、と音を立て水が地に落ち、噴水が止まると、周囲はすっかり元通りの『サンプラザステージ』になっていた。『忘れようとする力』で日常を取り戻した√EDENの人々が、楽しそうに行き交う。
それこそが、EDEN達が繋いだ未来。彼らは平和な光景にほっと安堵の息をつくと、戻ってきた夏の風に余韻を感じるのだった。
