光と闇と水晶と
●煌めく水晶の森
√ドラゴンファンタジーから零れ落ちたのは、水晶の森の果実。落ち行く先は楽園と約束された√EDEN。
ガラス玉のように落ちたダンジョンの種は、√EDENで芽吹き、水晶の森を形成する。
水晶森のダンジョン。それは木々の葉はグリーンの水晶。幹はブラウンの水晶。地面から生えるのは、数多の水晶の原石。槍のように、草のように生えた水晶は太陽の光を受けてキラキラと輝く。
●水晶の闇
「私の闇と水晶の煌めきを穢す者は許さないです……。」
水晶森のダンジョンの最終フロア。下に広がるダンジョンの奥深く。闇の中で、水晶たちに囲まれて、玉座のような水晶に佇むのは、鹿の四つ脚を持つ獣人。星の様に輝く斑点のある毛皮からの光。それを反射する水晶たち。
幻想的で、静かで、煌めきだけが包む世界に踏み入る者は……許さない。
●水晶の光
夜空を見上げていた風凪・真白(人間(√EDEN)の霊能力者・h03029)がゾディアック・サインを見る。
ハッとした彼女はすぐに君たちの元へと駆けてくる。
「夜中にごめんなさい。でも、ゾディアック・サインを見たから、早く伝えないと、と思って……。」
それは√EDENの一画で起きる事。
「ここ、√EDENに√ドラゴンファンタジーのダンジョンが発生してしまうの。誰かが√ドラゴンファンタジーの天上界の遺産を持ち込んだのか、偶然なのかは分からない。でも、今はそれを突き止める場合じゃないかも。」
√EDENの地図を広げて、真白は話を続ける。
「ダンジョンが出来た場所は此処だよ。水晶の森になっているの。」
森ではない。水晶の森。一目見れば分かる、と。何もかも水晶で出来ていて、そして彼方此方から水晶が生えているから、と。
「ダンジョンは下に広がっていっているみたい。でも、下に続く入口は隠されているから、まずは下に続く入口を探して欲しいの。」
ダンジョンを放置したらどうなるか、という問いに真白は眉を下げて答える。
「水晶の森が広がっていくのは勿論、ダンジョンの周囲の住民が次々にモンスター化してしまうの。それを阻止するには、ダンジョンを攻略して、核となる敵を倒してダンジョンを破壊しないといけない。」
ダンジョンの中にはきっとダンジョンの主を守る敵と主がいるだろう、と予想される。
が、まずはダンジョン下層に続く入口を探す事が第一歩だ。
君たちはそれぞれ頷くと、水晶の森へと踏み出して行った。
第1章 冒険 『水晶森のダンジョン』

水晶の森は、日の光を受けてキラキラと輝く。
√能力者たちが辿り着いた時も、森の外周は成長を続けていた。ピキパキと小さな音を立てて水晶森が成長していっている。
「綺麗だな……。」
森の入口に立ったクラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)が、ぽつりと水晶の成長する音に掻き消されそうな声で呟いた。
クラウスの出身の√ウォーゾーンには、このような幻想的で美しい光景は珍しく、見惚れてしまう。√ウォーゾーンは生存に特化しているだけあって、その差はまた目を惹く。
「大小様々な水晶の群生……とても綺麗ね。」
「水晶の森なんて神秘的。スモーキークォーツの幹にグリーンクォーツの葉。斑入りなのは庭園水晶かな。」
水晶の幹に水晶の蔦、その先の葡萄のような実はアメジストか、桃色はローズクォーツか、濃い赤色のはチェリークォーツか。
口早に、水晶の森を観察し、名前を列挙するのは白・琥珀 (一に焦がれ一を求めず・h00174)。
矢神・霊菜(氷華・h00124)はポケットから出したスマートフォンを片手に目を輝かせる。それと同じくらいに、雲から抜けた太陽の光を反射、屈折して、虹色を水晶の上に咲かせたり、数多に反射して眩しく輝いたり。
愛娘の零に見せたら、この景色をどう描くのだろうか、と。霊菜は目を閉じて想像して、口角が上がる。
霊菜と同じくらいに水晶森をしみじみと、穴が開くのではないかというくらいに見て、水晶にも種類がですね、宝石言葉はですね、と話に花を咲かせる琥珀。琥珀の色の瞳も水晶森と同じくらい輝く。
「あぁ、本当に興味深い……!」
水晶の森に入れば入る程、エレノール・ムーンレイカー(怯懦の|精霊銃士《エレメンタルガンナー》・h05517)はその美しさに目を奪われた。が、それも一瞬。パンと頬を両手で叩いて気を引き締めて。
各々で探索に当たっている中、一人でいるこの状況で襲われでもしたら、各個撃破されてしまう、と。エレノールは、忍び足で水晶の草を踏みしめる音も最小限に、警戒しながら慎重に歩を進める。
(地下から精霊の存在を感じる……。)
エレノール達のいる地上にはない気配を、微弱だが感じる。
「きっと、おそらく、そのうちのどこかに……。」
地下への入口がある……はず、と。
目を瞑り、集中する。風の流れ、気の流れ、魔力の流れを読むように。サァっと風が凪ぐ中で、魔力がざわめくのを感じ取る。
「こっちですか。」
魔力が、精霊の存在がざわめく方へと慎重に歩を進める。一歩、また一歩進む毎に精霊たちのざわつきは大きくなる。それは、憤りに似ていた……。
エレノールが水晶の木々を掻き分けて辿り着いたのは、小さな水晶の花畑だった。足元から精霊のざわめきを感じる。
「ここが……おや?」
この光景を見せたらさぞ喜ぶのは目に浮かんでいるが。
(ダンジョンに娘を連れくるわけにはいかないから仕方ないけど……。)
「……写真を撮るくらいならいいかしら?」
霊菜は、誰が良いとも悪いとも言う間もなく、スマートフォンのシャッターを切る。
パシャリ、パシャパシャと連続でシャッターを、様々な角度で押しながら。
パキっと水晶の草を踏みしめて進むクラウス。綺麗だとは言ったが、周囲に悪影響を及ぼすと知らされているから、破壊する事に躊躇はなかった。小さな水晶の実を拾ってパキっと片手で握りつぶしてみる。
「本当に水晶だけなんだな……。」
しかし、下層への見当がつかない。一先ず、クラウスは水晶の木に軽々と登って、小型ドローンの準備をして。
小型ドローンを飛ばして、上空からの景色を見る。光が反射して、なんて幻想的で綺麗なのだろうか。害を及ぼさなければ、どれだけ良いだろう。
「おや……。」
小型ドローンの映像を見ていると、木々が密集していたと思ったら、急に開けて、花畑になっている場所を見つける。なんとなく、違和感を覚えた。
クラウスは身体能力を強化する電流を纏うと、移動速度を上げて、小型ドローンの見せた場所へと、飛ぶように駆けて移動した。
「あら……。すっかり撮影に夢中に……。」
「興味深いが……でも、先を急がないとな。」
お互いの顔を見て苦笑する霊菜と琥珀は、探索もしないとね、と。
「氷翼よ来たれ。」
√能力『氷應の使い』の使いで氷の鷹を放つ霊菜。上空から怪しい場所を探しつつ、自身もゆっくりと移動しながら探索する。
スマートフォンのモードを動画撮影に変えて。霊菜は愛娘へのお土産も忘れない。ポケットにスッと水晶の実をさり気なくしまう。
「水晶の何かで隠してあるというよりは、生えてる水晶その物が蓋になってるか……?」
もしくはより茂っている場所にあるか、か。と、検討をつけて見る琥珀。
口に出た前者なら根元まで見ないだろうと言う心理をついている。後者なら、水晶の屈折率を利用して惑わそうとしているかもしれない、と。琥珀は違和感を探すように、キラキラと瞳を輝かせて森を歩く。
まずは、視線を低くして。暫く歩き探索していると、色とりどりの水晶の小さな花が咲く花畑に出会った。地面が少し他と違った。
「興味深い。」
琥珀はにこりと笑った。
「何もかも水晶で出来ているなら、下層への入口も水晶でできていそうね。」
感覚共有している氷の鷹たちの情報から、霊菜は思う。
上空から水晶森全体を見ていれば、木々に囲まれた水晶の花畑が見えた。花畑はそこだけだった。開けた場所も。
そうして、霊菜、琥珀、クラウス、エレノールが、全員が辿り着いた水晶の花畑。小さな花が沢山密集して咲いている。それは、何かを隠すように……。
「「せーの!!」」
目配せすれば、皆分かったとばかりに、4人は息を合わせて。そして、水晶の花畑を破壊する。
パキンと音を立てて砕けた欠片は空へと舞い上がって、空中に消える。
そして、足元には地下へと続く穴が出来上がった。
第2章 集団戦 『光晶の精霊』

セレスティアルの姿を象った光を纏う精霊たちが騒ぐ。
「侵入者だ。」
「水晶を壊した。」
「水晶の森を壊した。」
「中に入ってくる。」
と、ざわめき、そして次々と侵入者の元へと集ってくる。光を纏った精霊、光晶の精霊が敵視を飛ばしてくる。
(精霊なんて、物語の中の存在だと思っていたな……。)
キラキラと静かに輝く水晶が全周囲を囲む洞窟ダンジョン内で、光晶の精霊の光は、よりいっそう、水晶を煌めかせ、その存在を主張する。
他の√には存在しない不思議がいっぱいだ、とクラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)。水晶と光晶の精霊の放つ光の反射に目が眩まないように、ゴーグルをそっと装着する。
水晶の守りを壊して侵入してきた√能力者たちに、光晶の精霊は憤りを顕わにする。
「あら、精霊がたくさん集まってきたわね。」
どこか楽し気に矢神・霊菜 (氷華・h00124)は言う。絵本の中の物語を辿っているようでワクワクする。しかし、精霊たちの住処を荒らしてしまった事は少し申し訳なくなる。
水晶に限らず、鉱石なんて壊れるもの。削られた姿も、より輝かせる為の研磨された姿。
「というか、そんなに騒ぐほど大事ならきちんとしまっとけよ。それこそ誰の目にも触れないようにさ。」
そうロイヤルアンバー製の勾玉の付喪神、白・琥珀(一に焦がれ一を求めず・h00174)は、はっきりと言う。オブラートなんて投げ捨てて包み隠さず。
自身もロイヤルアンバーから作られた身である。水晶の事になると熱くもなる。それは光晶の精霊も同じようで。
「ロクヨウ様の作った世界。壊した。」
「お前たちが壊した。大事に育てていたのに。」
精霊たちが寄り集まり、口々に侵入者に対して不平、不満、抗議を唱える。
(これは……話が通じる気がしませんね。戦いましょう。)
そう心で思うのは、エレノール・ムーンレイカー(怯懦の|精霊銃士《エレメンタルガンナー》・h05517)。
素早く、かつ、自身に敵視が向かないように、他の仲間たちが精霊に気を取られているうちに、魔術迷彩服を利用して、水晶に紛れる。
エレノールの手が震える。
(大丈夫、まだ見つかっていない……。怯えるな、いつも通りに、やるべきことをやればいいのよ……!)
震える手をぎゅっと摘み、痛みで気を張る。自分に大丈夫と言い聞かせながら、精霊と仲間たちから徐々に距離を取る。
(……立場としてはこっちが侵入者だから、倒すのはちょっと気が引けてしまうけど。)「ダンジョンを放置しておく訳にはいかないからね、容赦はしないよ。」
「ダンジョンをこのままにしておくわけにはいかないのよ。だから……この先へと進ませてもらうわ。」
クラウスと霊菜が言い放つと同時に、まず霊菜が辺り一面を氷雪で閉ざし、目くらましを試みる。
√能力『|凍壊の一撃《トウカイノイチゲキ》』を使用した霊菜。
「視界が利かなければ狙いも定めにくいでしょ?」
水晶の表面に雪が張り付く。視界は吹雪。光晶の精霊が光の魔法を用いて攻撃しようとするも、動き出す前に凍り付く。それは1体に留まらず。
「ふふ、凍結対象が1体だけとは限らないのよ?……凍てつき砕けろ!」
霊菜がぐっと拳を握り締めて、凍った光晶の精霊を砕けさせる。パリンとガラスが割れるような音がダンジョンに響く。
しかし、それで全ての精霊が消える訳ではなく。
「わわ……!」
攻撃範囲外の精霊が放った光の魔法が、水晶に反射して、乱反射の如く飛んでくる。
「任せてください。」
霊菜が回避している中で、小さく呟くのは、水晶に紛れて遠距離攻撃の体勢を整えていたエレノール。
「水精よ、激流となりて敵を衝て!」
√能力『エレメンタルバレット・|水天破砕《ハイドロバスター》で、水属性の弾丸を、霊菜を狙う光晶の精霊に向かって射出。バシャンと音を立てて、光晶の精霊を撃ち落とすと、その着弾地点から巨大な水撃弾が雨の様に飛ぶ。
着弾を確認したと同時にエレノールはまた、射撃位置を替える。自分がどこから射撃したかがばれないように、転がるように、水晶の影に隠れる。その直後、以前居た場所に光の鎖が飛んできた。
水に濡れた銀髪が残影のように煌めく。そして、水の精霊が光晶の精霊の間を縫うように飛んで、仲間達に加護を与える。
クラウスも負けていられないな、と『決戦気象兵器「レイン」』を起動する。300回に亘るレーザー攻撃が始まると同時に、光晶の精霊の光属性の弾丸が射出、着弾すると同時に水晶によって乱反射してレーザー攻撃に対抗してくる。
「対抗してくるとは……。」
レーザー攻撃で相殺しきれない光の光線をクラウスは見切り、飛び上がり。その先で反射してきた光を、エネルギーバリアで防御。着地と同時に地を転がるように、次弾を回避。
レーザーと光属性の攻撃でダンジョン内の水晶がキラキラとこれまでになく輝く。
「ゴーグルをしておいて良かった。」
クラウスは、光で視界を奪われていれば、攻撃の回避は難しかっただろう。再びレインを放つ中、『天照』で勾玉本体を鞭に変えて精霊に攻撃をするのは琥珀。クラウスの放つレインに気を取られている光晶の精霊に向かって、鞭としての射程を活かして、しならせて罠の如く死角から打撃攻撃で、確実に仕留めていく。
「どこだ。」
「探せ。」
光晶の精霊は数が減らされていくのに焦る。琥珀は水晶の死角に隠れて、鞭で撃退していく。ついでとばかりに、光属性の弾丸も落としていく。
「こんなに輝くなら、もっと研磨して綺麗にしたほうがいいのに。」
攻撃も研鑽していくと良い、と。水晶の舞台で踊るように鞭をしならせる。
「我が身に宿りし太陽の意思よ!」
琥珀の声が水晶の洞窟に響くと、最後の光晶の精霊が叩き落されて、粒子となって消える。
第3章 ボス戦 『ジャンパー・イン・ザ・ダーク『ロクヨウ』』

「騒がしいと思ったら、侵入者ですか……。」
濃い夜の様に蒼い宝石で出来た角を持つ鹿の頭蓋骨を被った、鹿の獣人が水晶のダンジョンの奥から現れる。
カツンカツン、と蹄が水晶の床を歩くたびに、水晶がパキリピキリと成長する。
白い肌に、星の様に輝く斑点が水晶の中で輝く。
「私の闇と水晶の煌めきを穢す者は許さないです……。」
外した鹿の頭蓋骨の下にあった瞳は夜色の水晶の様に煌めき、ジャンパー・イン・ザ・ダーク『ロクヨウ』は怒りを示す。
(√EDENにダンジョンが持ち込まれなければ、互いの領域を侵されずにすんだのかしら?)
そう疑問を抱く矢神・霊菜(氷華・h00124)。この煌めく水晶と、その主もまた幻想的な輝きを持っていて。
「……いいえ、√ドラゴンファンタジーに在ったとしてもいずれは冒険者達が足を踏み入れてたわね。」
「それは私が許さない。侵入者は、水晶の輝きを穢す者は許さない。」
しかし、現実にダンジョンは攻略対象であると、結論付けた霊菜に対して、ロクヨウは否を唱える。
「水晶を眺めてるのは確かに飽きないけど一人ではつまらないのでは?」
白・琥珀(一に焦がれ一を求めず・h00174)は、先ほどまでの自身の言動を顧みて。
「いろんな人に解釈聞いてみるのも面白いと思うんだけどねぇ。」
琥珀は、勿体ないなぁという風に、やれやれ、と言った後に付け加えるように。
「そもそもきらめきを穢すってのがよくわからない。水晶が穢れる、曇るってのは悪意に触れた時だよ。なんていうかさ、あんたの存在自体が曇りの原因になりそうだけどねぇ。」
水晶や鉱石が好きな琥珀からしたら、ロクヨウの存在が曇りの原因にも見えた。
「悪いけど、ダンジョンをそのままにしておく訳にはいかなくてね。」
美しい水晶森とその下に広がる水晶のダンジョンを目にして、クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)は美しいと思い、乱すのは申し訳ないとは思うが、その一手に躊躇はない。
ロクヨウの懐目掛けて、クラウスは光刃剣のトリガーを引き、光刃を展開しつつ水晶の道を駆け抜ける。光刃の光がキラキラと水晶に反射する。
(周りの人達に被害を出さないためだ。)
「恨まないでくれるとありがたいね。」
「恨まないわけがない。」
ロクヨウは手にした鹿の頭蓋骨を蒼白に輝かせると、角の生えた鹿の仮面に変形させ、装着する。と、クラウスの抜刀した光刃剣の居合の攻撃から、飛ぶように逃げる。
トン、トトン、と水晶の山を足場に跳び戦場を駆けるロクヨウ。
「自分たちの領域を侵されたことに、怒りを覚えるのはわかります。……しかし、わたしたちもここで引くわけにはいきません。」
エレノール・ムーンレイカー(怯懦の|精霊銃士《エレメンタルガンナー》・h05517)は、声が震えるないように抑え、ロクヨウに向けて、銃を握り直す。
「――行きます。」
ロクヨウのオーラに逃げ出したくなる心を落ち着かせるように、声を出してから、魔術迷彩に身を纏い。水晶の影に身を潜めて。
ロクヨウが飛ぶようにダンジョン内を移動するのを追うように、そして牽制するように、精霊銃で攻撃を仕掛けて。ロクヨウの視線が此方に向けば、魔術迷彩服を深く被り、水晶の中に紛れる。
「臆病者め。」
その言葉に、エレノールはドキリとする。しかし、今はぐっと銃を握りしめて堪える。戦闘に集中しなければ、と。
「早いな……。」
ロクヨウの動きにクラウスは√能力『|先手必勝《センテヒッショウ》』で、ハンドアックスの射程まで一気に跳躍し、距離を詰める。左手に持ったハンドアックスを振り上げて下ろす。ロクヨウが気づくよりも早く、クラウスの一撃がロクヨウの毛皮と肉を傷つける。
「……っ!!」
ロクヨウが反撃しようとするも、そのクラウスの姿は光学迷彩で水晶の中に紛れて。
「早いけれど……!」
クラウスとスイッチするように仕掛けるのは霊菜。氷雪の神霊「氷翼漣璃」を纏うと、自身の移動速度も上げる。霊菜の長い金髪が風の中で靡きつつ、ロクヨウを追うように駆ける。
(跳躍や蹴りは厄介そうだから先に足を潰させてもらいましょう。)
霊菜の意図を読んだエレノールが、ロクヨウの動きを阻害するように射撃。ロクヨウの動きを止める。
霊菜は、そのロクヨウの足を狙って、近接攻撃『氷刃裂葬』を放つ。
ロクヨウが霊菜の敵視に反応すれば、四肢に備えた蹄で『氷刃裂葬』を弾き返す。キンと水晶と氷が接触する高い音が洞窟に響き渡る。
そして、ロクヨウは闇を纏ってダンジョンの闇に紛れる。それを霊菜は深追いしない。
後ろからの追撃に、第六感が反応し、霊菜は飛ぶように跳ねて回避。見切る。つかず離れず距離を取って。
(僅かな変化も逃さない……。)
洞窟に響く蹄の音の大きさの違いに耳を立てて。
「そこ!」
『氷刃裂葬』を、声と共に放つ。
「足を狙うか……!」
ロクヨウの右前脚にヒットする。その隙をつくように、魔術迷彩服で気配を消して機を狙っていたエレノールが√能力『エレメンタルバレット|『水天破砕』《ハイドロバスター》』で、ロクヨウの鹿の仮面に向かって、水属性の弾丸を発射する。
巨大な水撃弾はロクヨウの鹿の仮面を、パキンと粉々に砕く。
「……!!私の仮面すらも!!」
ロクヨウの怒りが頂点に高まる。
「あんた、なにがしたいのさ?」
ロクヨウが水晶を育てて、大事にしているのは分かった琥珀。しかし、水晶も鉱石も、闇のなかじゃ光が無いから煌めかない。煌めきようがない。
闇の中で水晶を育て続けるロクヨウに、疑問と憤りを抱く。
「水晶を育てて、私で煌めかせて何が可笑しい。」
「おかしいよ。……我が身に宿りし月の意思よ。」
琥珀は、そう言い放つと√能力『月降ろし』で、本体の勾玉と完全融合し、月神の剣を召喚。
ロクヨウは右脚を庇いながら、移動速度を上げて回避を試みる。が、空間引き寄せで琥珀の元へと引き寄せられるロクヨウ。
(逃げさせないよ。)
振るわれた月神の剣で左前脚を切り裂く。
「ぐっ……!」
ロクヨウが両前脚を着いて、体勢を崩し、隙を見せたところをエレノールは見逃さなかった。味方の援護射撃に集中していたところから、隙をつくように。
怖い気持ちを抑え、ロクヨウに向かって駆け出す。腰にセットした試験菅をバッと引き抜き、試験管を握りつぶすように割る。
すると水の刀身を錬成させる。駆け抜けながら精霊銃を放り投げ、詠唱錬成剣に武装を変更すると、攻撃が出来ないロクヨウに向かって振りかぶる。
「これで……終わりです!」
無力では生きていけない。だから、そう。怯えてばかりではいられない。と、エレノールは脳内で言い聞かせて。臆病者と言われたロクヨウに向かって。
振りかぶった詠唱錬成剣をロクヨウに向かって、振り下ろす。ロクヨウの瞳が見開かれ、水の煌めきを見つめる。
「あぁ……綺麗。」
その言葉を最後に、エレノールの剣の元にロクヨウは分断される。
「幻想的な光景が失われてしまうのは惜しいな……。」
キラキラと水晶が光の粒子になって消えていく中で、クラウスは呟く。
「あぁ!お土産が……!」
霊菜が水晶森の探索の時にポケットに忍ばせた水晶の実も消えていく。
「ダンジョンを破壊したから、ダンジョン由来の物も消えるんじゃないでしょうか?」
悲しむ霊菜に、エレノールが淡々と述べる。
こうして、√EDENに現れた、√ドラゴンファンタジーから零れ落ちたダンジョンの実は収穫されたのだった。