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BLITZ
●電撃的侵攻
突然の侵攻だった。
戦闘機械都市ニューフロント-3は戦闘機械群の襲撃を受け混乱の渦中に叩き落とされたのだ。ニューフロントは近隣の人類側戦闘機械都市にとっての前哨拠点、すなわち駐留する戦力も有事の備えも万全である。通常の襲撃であれば小動もしなかっただろう。
だが、戦闘機械群はこと破壊と殺戮に関しては人類の想定を上回るものだ。
都市外周を囲う堅牢な防御壁の切れ目、戦闘機械群得意の物量戦による強行突破を警戒し多くの戦力が駐留していたメインゲートへの突撃を陽動に、大型機甲兵器による大火力投射で防御壁を破壊し側面より侵入した戦闘機械群の特殊部隊は予備部隊を各個撃破し指揮系統や市内の補給路を寸断し、これによって後背を脅かされ統率の乱れた人類のメインゲート守備軍はゲート前での戦線維持を断念、市内にまで後退を強いられた。
しかし、前方には大量の量産型戦闘機械群による圧力がいまだ健在。さらに側撃によって既に都市中枢部に特殊部隊の浸透を許し、さらには防御壁を破壊せしめた大型機甲兵器が市内に向け前進を開始しつつある。
状況は極めて最悪に近く、このまま前後からの挟撃で人類軍主力が磨り潰され、ニューフロント-3が失陥するのは時間の問題であった。
●救援作戦発動
「以上が本作線における現地状況概略となります」
星詠みの少女人形、スペクトラ・ワン・サーティはその背後に掲げられたニューフロント-3市の地図、外縁部を囲う防壁のうち二箇所ををレーザーポインタで示して、集まった一同を一度見回した。
「状況は極めて逼迫しています。人類の駐留軍主力は既に挟撃下にあり、後方から予備戦力を抽出してこれを救出する試みは敵の特殊作戦部隊による各個撃破で頓挫するでしょう」
そして主力はじわじわと削り取られるように壊滅し、敵は戦力の多くを喪失したニューフロント-3に堂々と入場して勢力図を再び彼らの色に塗り替える。それだけは阻止せねばならない最悪の未来だ。
「各員にはまずメインゲート付近から市内に進出、敵正面戦力の排除による人類軍主力の救出を。しかる後に都市中枢へ侵入した特殊作戦部隊の掃討、最後に大型機甲戦力の撃滅を実行願います」
メインゲート、壁の破損箇所、そしてその外側。三箇所を示したレーザーポインタが消灯すると、スペクトラは踵を揃えて敬礼を送った。
これまでのお話
第1章 集団戦 『クラスタ・パレード』
炎を踏みしめ、鉄屑を踏み越え、その兵団は前進する。
WZを中核にサイボーグや少女人形が防衛線を展開するメインゲート付近での戦闘、クラスタ・パレードタイプの戦闘機械が繰り広げるそれは戦術を放棄した戦略的突撃としか呼べぬものだった。
人類軍主力部隊をこの場に拘束する、それだけを為すべくして突撃し続ける鋼鉄の兵士。
前を行く機体が銃弾に穿たれ倒れれば容赦なく踏みつけにしてさらに前へ。WZによる砲撃が分隊を丸ごと粉砕したならば、こじ開けられた陣形の空隙から中隊がさらに前へ。
練度と装備で勝る人類軍部隊はこのひたすらに愚直な突撃戦術に一歩また一歩と防衛ラインの後退を余儀なくされ、支援部隊を狩った敵特殊作戦部隊のキルゾーンへと押し込まれつつある。疲弊し、無防備となった背中に戦闘機械群の本命が飛びかかるまで、あと幾ばくも無いだろう。
増援は敵特殊作戦部隊によって各個撃破され届かない。補給もまた然り。圧倒的なキルレシオを維持したまま、消耗と損耗が人類軍をじわりと追い込んでゆく。
死をコストとして許容する戦闘機械群による圧迫。人類軍将兵の脳裏に都市放棄の選択肢が浮かんでは消える。
そこへ、両軍の戦術の外側から騎兵隊が殴り込んだ!
『前進。制圧。掃討』
『前進。制圧。掃討』
無機質な唱和が銃声をすら上書きして空気を震わせ、統率された足音が地を揺らす。クラスタ・パレードの前進は、ニューフロントを守る人類軍の激烈な抵抗を無慈悲に踏み潰す。
無論人類軍もただやられるばかりではない。制圧力に長けた軽機関銃型の少女人形を前面に立て、濃密な火線を展開して敵前衛集団を削ぎ落としている。だがそれすらもクラスタ・パレードの圧倒的な物量と、損害を障害と認識しない思考回路の前には焼け石に水だ。
「第七小隊、残弾僅少!」
「第四小隊、銃身加熱! 予備バレルを申請します!」
あちこちで弾幕の維持が困難となり、少女人形たちの悲鳴が上がる。そうして圧力が減じれば、クラスタ・パレードの最前列はさらに一歩を踏み込み人類軍へと距離を詰める。一歩、また一歩。1mにも満たない距離が詰められてゆくたびに、少女人形たちはクラスタ・パレードの射程に取り込まれて大口径バトルライフルの応射を浴びる。
誰もがもはやメインゲート防衛線の失陥は時間の問題だと思っていた。事実、メインゲートをメインゲートたらしめる門はすでにクラスタ・パレードの向こう側。戦線は壁の内側に後退し、あとは人口密集地への到達をどれだけ遅らせられるか、全滅までにどれだけの敵機を破壊できるか、これはそういう戦いになりつつあった。
だからこそ、それをひっくり返すものが現れる。
「まるで主人気取りの無遠慮さだよね……!」
正面を向け合って人類軍と削り合うクラスタ・パレード、その横面を爆風が殴りつけた。
無謀否側面に放り込まれた榴弾で五体をバラバラに飛び散らせながら、土塊とともに高らか跳ね上がる機械じかけの歩兵部隊。その頭上をソニックブームを伴って横切ったのは、蒼白に輝く決戦型WZ「蒼月」を駆るクラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)だ。
ド派手な一撃に一瞬、両軍の銃火の応酬が停止する――本当に一瞬だけ、戦局に寄与しない僅かな空隙。
直後、人類軍からは歓声が。クラスタ・パレードからは後続部隊が銃を掲げる金属音が轟いた。
『クラスタ・ネットワークによるデータリンク』
『対空・対WZ防空戦闘開始』
『各個に照準。僚機の火線を基に随時補正を実行』
セミオートのバトルライフルが、まるで機関砲のごとく連続して唸る。いや違う、無数の銃口による連続射撃が銃声をひと繋ぎにしているのだ。
しかし、クラウスは限界突破した機体を冷静に操ってそれに対処する。後続集団がこちらを見ているということは、人類軍に圧力を掛けているのは敵の前衛だけ。今までのように前衛を倒してすぐに新たな前衛となった後続が戦闘を継続するという、区切りや終わりのない戦いから友軍を救出し得たのだ。
「これだけでも上々だけど……もう少し」
あとひとつ、人類軍への圧を削ぎたい。我が物顔で都市を蹂躙せんとする戦闘機械群に対抗する彼らを、一人でも多く生かしたい。
クラウスのそれは自罰的な自己犠牲か、あるいは戦友たり得た人々への情ゆえか。
縦横無尽に機体を転換し火線を右へ左へと振り回しながら、蒼月は最大多数のクラスタ・パレード機体をミサイルの爆発に巻き込める基準点を算出する。
勝負はひとつの賭けだ。もし運悪くバトルライフルの弾丸が発射前後のミサイルへと飛び込んでくれば、その時点でクラウスは誘爆に呑まれて墜ちかねない。それでも、彼は攻撃を決意して銃爪を引く。
蒼月が担いだ携行式ミサイルランチャーが、弾頭を保護するハッチを強制排除。剥き出しになったミサイルが次々に白煙を引きながら飛翔し、そして。
「て、敵の後方集団がごっそり吹っ飛びました!!」
「今だッ、戦線を立て直せ! あのWZが稼いでくれた時間を無駄にするな!」
攻撃を終え、空になったミサイルランチャーを手放す蒼月の眼下。クラスタ・パレードの圧力から一時的に解放された人類軍は急速に勢いを取り戻してゆく。
「戦線を押し戻す! WZ中隊前進せよ!」
「WZ前へ! WZ各機は突撃を開始する! 歩兵部隊はWZの進路に留意のこと!」
√能力者の介入で抉じ開けられた戦線の空隙へ、人類軍の量産型WZが進出する。その装甲と火力をもって自らを特火点とし、防衛ラインを押し上げる人類軍歩兵部隊の壁となるのだ。
「サイボーグ連中が追いついてくるまでここで踏みとどまれ! 死んでも後ろに抜かせるな!」
前進のため防御陣地を崩した歩兵部隊にクラスタ・パレードが再びぶつかれば、少なからぬ損害が出ることは必定。せめて脚の速いサイボーグ部隊が簡易的な前線を構築するまでここを死守するのだと、WZパイロットたちは操縦桿を握る手に力を込めた。
サイボーグ部隊が追いつくまで2分と少しといったところか。それまでほとんど遮蔽のない――破壊された都市郊外の居住区で、WZ隊は圧倒的な物量による射撃の嵐を機動で回避し、突出しようとする敵部隊があれば応射してその進出を阻止しなければならない。
普段であれば十分に成し遂げられる任務であった。が、今は普段通りとは違う。既に数時間以上の交戦を経て、機体もパイロットも疲弊しきっていた。
だからミスは起こる。クラスタ・パレードの一分隊による突撃、これを迎撃しようと足を止めたWZの一機が脚部に被弾したのだ。大口径バトルライフルの銃弾を受けて飛び散る装甲と駆動部品。膝を折り擱座したWZへと、クラスタ・パレードが殺到する。
パイロットは自らの死を覚悟し、自爆装置のスイッチを保護するカバーを親指で跳ね上げた。
スイッチを押し込むが早いか、装甲とモニターを粉砕して飛び込んできた|大口径徹甲《アンチウォーゾーン》弾がパイロットの脳幹を破壊するが早いか。
その刹那、天より降り注ぐ蒼い光が擱座したWZを取り囲むクラスタ・パレードを薙ぎ払った。
「ここは私が引き継ぎます、パイロットは脱出を!」
リズ・ダブルエックス(ReFake・h00646)である。高高度より降下した彼女の背負うまさしく光背の如きレイン砲台が放つ精霊術式のレーザーが、僚機の撃墜で連携を乱されクラスタ・パレードに主導権を奪い返されそうになっていたWZ隊を守護し、嵐の如き苛烈さで敵機を消滅させたのだ。
「残存機も下がってください、その状態で戦闘継続なんて、損害を出すだけです!」
「救援には感謝するが、貴機単独で我が隊の穴を埋めるなど無茶だ! 我々も戦闘を継続するべきだと考えるが!」
純白の|飛行ユニット《つばさ》を広げた華奢で可憐な少女人形。レイン砲台を多数装備した決戦兵器だというのはわかる。だが、パイロットたちの良識はたった一人の、それも少女の形をしたものにすべてを押し付け退くという選択肢を許容できない。
リズもそれは承知の上だ。だからこそ、圧倒的な力を見せる。
空中に舞い上がった彼女を狙う、クラスタ・パレード部隊の対空榴弾。バトルライフルから放たれたそれらが近接信管を作動させるより先にレイン砲台が空中迎撃を実施し、空に紅蓮の花が咲く。
その炎を切り裂いて。灼熱の余波と飛散した破片で装甲を僅かに削られながら敵陣に突入した|リズ《ベルセルクマシン》が振るうLXMの刃が榴弾装填中のクラスタ・パレードを複数機まとめて吹き飛ばす。
「私なら大丈夫です。歩兵部隊も来たようですから、WZを温存するためにも、一度下がってください」
「あ、あぁ……了解した……! 援護、感謝する!」
ああ、今まさに後方から歩兵部隊の先鋒が追いついてくる。WZ中隊の孤軍奮闘は、ひとりの少女の働きでただ一人の死者をも出さずにその作戦目的を完遂したのだ。
「おちおち休暇も取っていられん」
思わず口をついた悪態を置き去りに、コルヴス・ペネグリーヌ(放蕩鴉・h09224)が駆るオフロード仕様の大型魔導バイクが焼け焦げた機械の破片を踏み砕いて廃墟を駆ける。
本来であれば夏季休業の時期。ゆるりと羽根を伸ばして日頃の疲れと傷を癒したいところだが、戦闘機械群の強襲とあらば戦場に取って返すのが|個人事業主《ようへい》の常だ。
爆撃による敵後続集団の分断、人類軍の少女人形部隊による敵再前衛の掃討、WZ部隊による前線再構築に加えてレイン兵器による正面戦力の漸減。ここに人類軍主力が改めて防衛線を敷き直したことで、戦況は幾許か好転の兆しを見せつつある。
あるいは人類軍はこのままクラスタ・パレードをメインゲート外まで押し返し、ゲートとその機構を利用した防衛戦を展開できるのでは。いや、この増援部隊と共同であれば、クラスタ・パレードの撃滅も可能なのではないか。前線を掌握する防衛線司令部は勝利の可能性を認識しつつあり、それに向けた反攻準備とも取れる戦力再配置を開始している。
そういう時が危ないのだと、歴戦の傭兵であるコルヴスは経験則で知っていた。
苦境から一転して勝利が見えたとき、人間とは浮き足立つものだ。ことそれが軍という「集団」であるなら、それはもはや制御して抑えられるものではない。個々人の小さな希望が集団全体の大きな慢心に至るとすれば、それは坂道を転がり落ちるよりも早い。
それを知るから、コルヴスは主戦場を敢えて捨て置いた。正面戦力の殴り合いは人類が勝つだろう。勝ち筋をそこに見出しているから、指揮官たちもここに力を入れる。
そうするとどうなるか。
「やはり、戦闘機械群はそこを突く。合理と計算で動くならそう来ると思っていた」
正面の戦線を維持したまま、分隊単位で予備戦力を散兵として側面に回す。小規模部隊による側面襲撃は事前の戦況説明にもあった。後方で兵站や上位司令部を破壊するという戦略的行動こそ、高度の戦術判断を行える上位機種の特権であろうが、敵戦線に揺さぶりを掛け正面主力を援護するためのハラスメント攻撃であればクラスタ・パレード程度でも行える。そういう択を取りうる敵だという情報はコルヴスも知らされている。
故にコルヴスはその機動力をもって、先んじて敵側面に回り込んでいたのだ。案の定、12機分隊を編成したクラスタ・パレードの機体が路地から飛び出してくる。
路地を活用すれば姿を隠せるが、この街区の路地では分隊が一塊で活動するには狭すぎる。頭の中に叩き込んだマップ通り、理想的なポイントでの迎撃に成功したコルヴスはハンドルから右手を離すと短機関銃型の精霊銃『黒雷』を抜き、2機ずつ列をなして飛び出してきたクラスタ・パレードの先頭に向けすれ違いざまに弾倉内の|精霊弾《雷霆万鈞》を薙ぎ払うように斉射。
クラスタ・パレードの応射を受けながら駆け抜けるその背後で、まばゆい閃光とともに着弾によって解放された雷の精霊が放出した高圧電流に回路を焼き切られた鉄の躯体が崩れ落ちる音が響く。
それを音だけで確認し、一瞬の攻防を終えたコルヴスは次の敵分隊を狩るべくバイクを路地へと踊らせた。
防衛線を構成する人類軍主力。ここは今、クラスタ・パレードに対する逆撃の準備として突破力に長けたWZやサイボーグからなる部隊を最後の補給のために後方に下げたことで少女人形たちが再び最前衛として鉄火を散らす苛烈な戦場の色を取り戻しつつあった。
とにかく前に撃てば当たる。クラスタ・パレードを構成する機体個々の装甲はそう厚くないため当たりさえすれば歩兵用の小火器でも十分撃破できる。
が、一発撃てば11倍の応射を受ける。遮蔽を取ろうとそれごと削り取られ、ボルト・スミス(負け犬讃歌・h13250)の隣でコンクリート製の何かの壁だった遮蔽に身を隠していた狙撃銃の少女人形が壁ごと粉々になって死んだ。
同胞の死にボルトは息を呑む。ああ、次こそ自分の番に違いない。だが、それはわかっていたことだ。
はじめからそんなものは承知で彼は志願したのだ。彼とともに戦う少女人形たちも皆そうだ。自分たちには替えが利く。死んでも別の自分があとを引き継いでくれる。ならば恐れることはない。この最悪な戦場に最後までへばりつき、勝利のための時間稼ぎにこの自分の命を使うのだ。
自己の分身でもある支援ドローン「BLT38SMTH」からの観測情報によって、友軍の少女人形部隊の火力は最大限効率的に敵の突出部を打ち砕けている。彼女たちで及ばぬところは、BLT38SMTH自身が搭載した機銃で牽制することで戦線の致命的な破綻は防げている。
だが、やはり物量だ。いくらか勢いが落ちたとはいえ、そもそもの数が圧倒的に違う。また一人、ボルトの視線の先で短機関銃の少女人形が隠れていた遮蔽物が大型徹甲弾の雨に打たれて跡形もなく削り取られた。
「当方の任務はメインゲート防衛線の死守であります……」
今度こそ自分の番だ。震える手を、足を、命令を復唱して奮い立たせる。この遮蔽から飛び出すのは怖い。撃たれれば痛い。下手をすれば、いや下手などせずとも一発貰えば続けて十発以上撃ち込まれて死ぬだろう。そんなのは断固嫌だ。
だがボルトは遮蔽から飛び出した。次の遮蔽まで、味方の援護を受けながら敵陣に向けて全力で走る。
大口径弾が掠めていった風切り音に喉を引きつらせて廃車となった装甲車の陰に滑り込み、弾丸が装甲を殴りつける音に膝をつきそうになる。
「これで敵の火線は一番当てやすく、脅威になる当方に集中したでありますね」
クラスタ・パレードの戦術判断能力はそう高くない。いくつかのテンプレートの複合で彼らは戦闘を行う。そして、ほとんどの場合で彼らは自らに最も近いターゲットを高脅威目標として狙う傾向がある。ボルトの予測通り、敵集団の半数以上が彼の隠れる装甲車への攻撃に参加しており、友軍への攻撃は目に見えて少なくなっている。
このままここで敵を引きつける――そうはいかないのが戦争なのだが。装甲車の破壊に時間がかかると見たクラスタ・パレードの分隊が前進を再開、ボルトを包囲しようと動き出す。
「いっ……。やめてください」
それは嫌だ。ボルトの|防衛プロトコル:第一種《ディフェンスプロトコル・ワン》が発動する。
装甲車の陰から上半身を覗かせて、回り込もうとしたクラスタ・パレード先頭個体から後ろ二機の前衛三機をバースト・マグナムの三連射で制圧。すぐさま光学迷彩で身を隠し、残り九機が来る前に全力で次の遮蔽へ走る。
『排除。排除。排除』
そこからボルトが立ち去った後だと知らず、装甲車の後ろに飛び込んでバトルライフルを掃射したクラスタ・パレード部隊が最期に見たのは、死した人類軍の少女人形からボルトが譲り受け、そこに仕掛けたグレネード製のブービートラップ。
『危険。退避――』
爆発音。装甲車にわずかに残っていた燃料を巻き込んで、効率的に配置された手榴弾の爆発はクラスタ・パレード一個分隊を戦場から吹き飛ばした。
ついにメインゲート奪還を掲げた人類軍の再突入が開始された。
ゲートを突破し市内に進出していたクラスタ・パレードを蹴散らして、残り僅かな物資を集約した人類の精鋭部隊がゲートへの突撃を開始する。目的はゲート管制室の制圧。重厚な門を閉鎖することで敵機の進入経路を遮断し、さらにゲート周辺の防衛火器を再起動し市街にひしめく敵増援を完全に撃滅する。加えて前哨基地も兼ねるゲートの物資保管庫を制圧すれば、主力部隊を苦しめた弾薬や燃料の欠乏もある程度は回復できる目算だ。
「進め、進め! 我々が一秒遅れれば、後ろで仲間が一人死ぬと思え!」
精鋭部隊に弾薬や燃料を託した以上、戦線を維持してクラスタ・パレードを引きつける防衛線の将兵はほんの僅かな資材での持久戦を強いられる。最速で目標を達成できねば待っているのは防衛線の破滅。そして少数で敵地に取り残された自分たちも悲惨な最期を迎えるのは想像に難くない。
その人類軍の攻勢の戦術的重要性を理解してか、いや、単に侵攻ルートの保持という行動ルーチンに従ってか、クラスタ・パレードはゲート周辺に分厚い防御陣地を形成していた。
ゲート施設内への入口が肉眼で見えているのに、その数十メートルが遠い。前へと進めない。あらゆる兵器と戦術と現場の知恵を駆使してなお、物量という単純な力に押し返されてしまう。
であるならば。より単純な力こそがそれを覆しうる。そうではないだろうか?
上半身を護る増加装甲を仕込んだパワーアシストジャケットを脱ぎ捨て、身軽になった身体を統制されたバトルライフルの弾幕の前に踊らせて、不破・鏡子(人間(√マスクド・ヒーロー)のマスクド・ヒーロー・h00886)は無謀とも思える突撃を開始する。
飛来した銃弾がその身を守る電磁バリアに衝突し、明後日の方向へと弾かれる一方、鏡子の|防護服《バリアジェネレータ》もジリリと軋む。そう何発も食らってなお無敵、というわけにはいかないことを悟り、鏡子は不敵に笑った。
「それでいいわ、そのまま私を狙いなさい!」
一撃で終わり。そうでなかっただけ御の字だ。防護服が被弾の負荷を処理し終え、バリアが復旧するまでの数秒間次弾をもらわなければそれでよい。それほどの優位を得た上で戦えるなら上々だ。
妙に露出度が高く、ボディラインを強調するようなデザインセンス以外は最高の仕事をしてくれる義姉の傑作に感謝を込めて、最後の数メートルを鏡子は一息に跳んだ。
――タッチダウン。最初の一人がゲート施設の敷地へと飛び込んだ。
そして防御陣地の内側に敵が進入したことでクラスタ・パレードの思考は人類軍への阻止攻撃に優先して侵入者、鏡子の排除に塗り替えられる。
『迎撃。排除。最優先命令』
『テンプレートD-9。アセット3-1。戦術パターン承認』
寸分の狂いなく、同時に銃口が鏡子を向いた。統率された軍隊を超えた群体としての個。なるほど、普段彼女が相手取っている悪の組織の戦闘員、その亜型……少しばかり連携に特化したタイプだと思えば御しきれぬ相手ではない。
「いかにも機械の軍隊って感じね。でもお生憎、お前たちみたいなのの相手には慣れているのよ!」
跳躍で斉射を飛び越えると、鏡子は常に敵陣の、より多くの個体が己を狙うポジションを維持して跳ね回る。
大口径のバトルライフルの統制された斉射。こちらのバリアを認識している以上ほぼ同時着弾するように撃ってくるそれらは、まともに受ければバリアすら砕け脆弱な人間の身体など血煙に変えるだけの威力を持つだろう。そして弾丸の運動エネルギーは鏡子を破壊してもなお有り余る。同士討ち、味方誤射。機械の演算能力を持つクラスタ・パレードはそれを理解できると鏡子は踏んで、あえて自らを挟んだ相手の射線に別の敵が被るよう立ち回る。その狙いは正しい。だが、相手がクラスタ・パレード――自身の破壊を必要なコストと割り切る、使い捨ての量産型兵士だったのが一つの誤算。
『警告。友軍誤射の可能性。――警告を却下。敵の排除を最優先』
「お構いなしってわけね、そう来るかもとは思っていたけど!」
鏡子が躱した弾丸がクラスタ・パレードを貫き破壊する。鏡子が蹴り飛ばし破壊した機体よりも同士討ちで破壊された機体のほうが多いほど、クラスタ・パレードはお構いなしにバトルライフルを撃ちまくる。それを躱して躱して、時にバリアで受け流し、鏡子はその脚を振るい続ける。
そうして鏡子が十数体目のクラスタ・パレードの頭を蹴り飛ばし胴体からもぎ取った頃には、彼女の周囲にバトルライフル弾を受けて大穴を空けた敵機の残骸が無数に折り重なっていた。
「ふぅ、これで正面の敵はだいぶ減らせたかしら」
「こんな戦い方、正気じゃないぜ……いや、支援感謝する。ここからは我々の仕事だ! A班はゲート閉鎖作業、B班は防衛火器の再起動! 残りはこの場でゲートが閉まるまで敵の再進入を阻止! 後ろの連中に指を咥えて女の尻を眺めてただけなんて言わせるんじゃないぞ!」
そして、鏡子が敵を引きつけたことでゲートに取り付いた人類軍の奪還部隊が各重要施設に雪崩込んでいく。失陥したニューフロント-3のメインゲートを巡る攻防はここに人類軍の奇跡的な逆転勝利で幕を閉じた。
第2章 集団戦 『強襲型機甲兵器』
メインゲートを巡る人類軍主力部隊の攻防戦が決着を迎えていた頃、ニューフロント-3の後方、市街区では別の戦いが繰り広げられていた。
都市外に陣取り防壁を粉砕せしめ、今もなお不定期に砲撃を続けている大型機甲兵器。その脅威も無視できないが、それよりも危険な存在が市内を跳梁していたのだ。
『アルファ、行政タワー18層まで制圧。敵の抵抗は軽微』
『ブラボー、工業ブロック集配センターを制圧。残敵掃討に移行』
『チャーリー、人類軍基地施設を攻撃中。デルタ、エコーの応援を乞う』
『デルタ了解。支援砲撃の必要は?』『チャーリーよりデルタ、座標を送る。"ザトウムシ"への中継頼む』
『エコー了解。300秒以内に現着する。こちらは南側より攻撃をかける。チャーリー、デルタは支援砲撃の座標指定に配慮を願う』
『チャーリー了解』『デルタ了解』
強襲型機甲の部隊が我が物顔で街を駆け抜ける。
彼らは生まれながらの特殊部隊。こういった任務に投入されるべくして製造されたプロフェッショナルだ。故に違えない。任務目標は目についた人類を手当たり次第に襲う殲滅掃討戦ではなく、ニューフロント-3と名付けられた戦闘機械都市の中枢の占拠、そして進駐する人類軍の戦闘能力を喪失させることである。
すでに都市総司令部たる行政タワーは地上階から半分以上が制圧され、補給の要所である工業区の集配センターは陥落。
予備戦力の集結地点であった人類軍基地は軍事施設だけあってまだ持ちこたえているが、それも時間の問題だ。
そして、ベテランや強力な装備を保持した部隊をメインゲート防衛に当てていたフロンティア-3にとって。それら後方を守っていたのは休暇でメインゲートを離れていた少数のベテランを除いて、ほとんどが二線級の少女人形と、そして学徒兵だった。
「落ち着いて、落ち着いてください! エレベーターの破壊が間に合った今、敵は階段から上がってくるしかありません。この狭い階段を守り抜くだけなら、私たちの戦力でも不可能ではありません!」
行政タワーの警備隊長を務める拳銃の少女人形が怯える非戦闘員を宥めるように、そして自らに言い聞かせるように叫ぶ。
それでも、下の階で遅滞戦闘を仕掛けた仲間たちが突破されたという事実が彼女自身の発言に「本当にそうだろうか?」と投げかける。
「だ、誰か助けて……ミナちゃん、班長、先生、お父さん、お母さん……!」
集配センターのコンテナの陰、短機関銃を抱きしめて小さく身をかがめた学徒兵の少女が残敵を探す強襲型機甲の足音に、そしてどこかから響く断続的な銃声に怯え、友の、大人の助けを乞うて涙を浮かべる。
「市庁舎ともメインゲートとも連絡が取れん。どうも完全に孤立してしまったようだな……さて、ここからどう戦うべきか。いや、敵はそもそもこれ以上我々の戦いに付き合ってくれるものか」
非番の兵と集結中の各個撃破を免れ基地にたどり着くことができた予備部隊が防衛する基地で、基地司令は戦場がまったく見通せない霧に包まれていることに渋面を隠せない。もしやこの基地以外は既に……という嫌な想像が来ない増援、来ない補給からはっきりとした輪郭を彼の脳裏に結んでゆく。
都市内3ヶ所の重要拠点を巡る、敵特殊作戦部隊による強襲・制圧作戦。
メインゲート攻防が彼らの想定外の介入によって比較的早期に、それも人類側勝利という大番狂わせで決着したこの時こそ窮地を覆す最大にして最後の好機となる。
足音を殺して身を屈め、戦闘機械群・強襲型機甲アルファチームの各機は行政タワーの非常階段を駆け上っていく。
下のフロアで迎撃を試みた警備隊の|少女人形《レプリノイド》部隊との交戦は彼らに僅かな弾薬消費を強いるに留まった。あくまで対人用に過ぎない自動拳銃や機関拳銃で相手取るには強襲型機甲はあまりにも相手が悪かったのだ。
彼女たちは放り込まれたスモークで視界を封じられ、構えたポリカーボネート製のライオットシールドやスチール製の事務机ごとエネルギーライフルで撃ち抜かれた。相手が人間の工作員や暴徒の類であれば十分な迎撃体制であったが、浸透強襲を仕掛けてきた”戦争装備”の機甲兵器に対して彼女らの装備は力不足だったのだ。
その戦闘痕を見て、ボルト・スミス (負け犬讃歌・h13250)は思わず立ち止まった脚に改めて力を込めた。
クラスタ・パレードへの遅滞攻撃に参加し、主力部隊反攻の礎となって死んだ彼女たちの顔が浮かぶ。
そして今、ここで盾やバリケードの裏で半ば焼け焦げて破壊された彼女たちの姿もまた、ボルトにとって忘れ得ぬものとなった。
これ以上の犠牲は出せない。出したくない。
戦術的に判断するならば、彼女たちが上で敵の注意を惹いている間に後ろから奇襲し、各個撃破を仕掛けるべきだ。
「でも、それをすれば犠牲が増えるであります」
彼は常に最悪に縛られる。楽観的思考というものを持たざるボルトは、自分がちまちまと敵機を背後から削った結果上にたどり着いた頃には要救助者が全滅していた、という未来を鮮明に想像させる。今しがた下のフロアで見た警備隊の末路がその想像に重なった。
「なら、当方が為すべきことは」
決まった。強襲型機甲の排除より、要救助者の生存可能性の最大化、これがボルトの任務となる。
|諜報プロトコル:第六種《インテリジェンスプロトコル・シックス》に基づいて彼の指揮下に入った9機の小型ドローンを先行させ、一気に階段を駆け上る。もし後方警戒のために残った敵機がいたとて、ドローンが先んじて接敵しカナリア役になってくれるのだから、臆病なまでに慎重な彼であってもドローンを信じて大胆に走ることができる。
16階、敵影なし。17階、敵影なし。警備隊の戦闘痕あり。18階――|接敵《コンタクト》。
『アルファ6よりアルファチーム、後方より|所属不明《アンノウン》、ドローン9、ヒト型1』
『アルファ6、アルファ8、アルファ9の援護に向かえ。残りは24階の敵部隊と交戦する』
『アルファ6了解』『アルファ8了解、迎撃開始!』
放り込まれたグレネード――ドローンが身を挺して体当たり、榴弾ではなく発煙弾。ドローンこそ喪失しなかったが噴出したスモークで視界が奪われる。だが、この場においてそれはお互いに影響を及ぼさない。ボルトは自ら使役するドローンの配置を完璧に掌握しており、そして強襲型機甲は高性能赤外線センサで白煙を透視する。
「ここで足を止めている場合ではないのであります!」
白煙を引き裂き飛来するエネルギーライフルの熱光学プラズマ弾を掻い潜り、浮遊するドローンを足場に敵の頭上を、手摺を飛び越えショートカット。かすめたプラズマが手摺を溶かし、髪を焦がして壁や天井を穿つのを無視してボルトはひたすらに上へ上へ――!
『アルファ6よりアルファチーム、突破された。こちらの損害は無し。敵を追撃し合流を試みる』
後ろから敵が追ってくる。大丈夫だ、逃げ切れる――はずだ。
前に敵の背中が見える。大丈夫だ、飛び越えられる――できた。
即座にボルトはドローンを敵との間に積み上げ、道中で撃たれたプラズマビームに耐えうるように防御パラメータを調整。間一髪、バリケードごと警備隊を焼き払おうとしていた斉射を受け止める。
「――あ、あなたは?」
「当方は救援でありますよ。メインゲートでは人類軍が勝ったであります。じき、救助部隊が来るであります。それまで当方が時間を稼ぎますから、ご協力願えますか?」
それは楽観的思考でも、希望的観測でもない。それらを持ち得ぬボルトだからこそ言える、信じるに足る「事実」だ。だからこそ彼の目を見て、警備隊長の瞳に力が戻る。
「……はい! 聞きましたか警備隊各位! あと少しの辛抱です、見事耐えきって軍の同胞たちに自慢してやりましょう」
「――私たちだって守り抜いて見せたぞ、って!」
息を吹き返した警備隊。火力が足りぬなら、倒すのではなくこれ以上進ませぬために。防御力が足りぬなら、それをボルトのドローンに頼ることで。
彼女たちとボルトは、即席ながら充分に機能する連携をもって、24階に立てこもる行政タワーの生存者を守り抜く。
「あれもすべて本命のための陽動か。厄介だな」
メインゲートへのクラスタ・パレードによる大規模攻勢。人類軍主力と真っ向から競り合い、一時は壊滅寸前にまで追い込んだ物量による圧迫と、自身が阻止したとはいえ側面への迂回機動という二段構えの攻撃のそれ全てが、後方に浸透した特殊作戦部隊によるニューフロント-3の戦略的要所を押さえるための囮に過ぎなかった。
戦闘機械群の手堅く、そして物量という人類に圧倒的に優越したリソースを効率的に消費した戦術にコルヴス・ペネグリーヌ(放蕩鴉・h09224)は眉根を寄せた。
メインゲートを奪還した主力部隊は今、ゲートに備蓄され破壊を免れた物資を用いて補給中だ。市内の窮状を知ったとて、今すぐに取って返せば特殊部隊による各個撃破の脅威に晒されることは間違いない。
また、ゲートの防衛火器が再起動したお陰で安心できる状況ではあるが、ゲート外にはまだクラスタ・パレードの残存が展開しており、散発的な攻勢を継続している。
主力部隊を今あの場から引き抜くことはできない。ゲートの確保を盤石とし、消耗した戦力の再編が終わるまで彼らを戦力として数えるわけにはいかない。
しかし、だ。実利と合理を重んじるコルヴスだからこそわかる。今、市内各所で立てこもり抵抗を継続している人類軍の後方部隊は救援を切望していて、それが来ないかもしれないという絶望の淵に踏みとどまっている。そういう兵は不安定だ。絶望に押し込まれれば容易く瓦解する一方で、希望さえあれば思いの外粘ることもできる。
「希望を届けてやらねば。援軍を保証してやれば、理不尽にも抗える」
すぐには来られない、という点を伏せてメインゲートでの勝利と救援部隊派遣のふたつを簡潔に纏め、召喚した雷素忍獣.exeに託す。9匹の獣が素早く街中に散り、強襲型機甲に捕捉されづらい通気ダクトや側溝の中を通って√能力者たちが急行している3箇所の重要拠点以外で通信を断たれ、友軍の気配を感じられぬ戦場で孤立奮闘しているはずの人類軍部隊の下へ駆けてゆく。
「……さて」
伝令は出した。ニューフロント-3駐留軍への|サービス《恩売り》は十分に果たしただろう。
頼まれた仕事ではないが、生還した部隊が多ければそれだけ戦力補充のコストが減り、つまり報酬の上乗せにも期待ができる。窮地に希望を携えてやってきた雷獣の飼い主となれば、感情的にも好印象を持たれやすかろう。
その上でコルヴスは自らの仕事を開始する。バイクを降り、見上げるはニューフロント-3行政タワー。地上24階建ての高層ビルは、事前の偵察では少なくとも18階まで掃討されているという。
先行した仲間の気配を感じながら、遠い戦闘音に耳を澄まして彼我の距離を確認し――ふと、開け放たれたエレベーターのドアが目に留まる。
覗き込めばエレベーターは破壊され、シャフトの一番下で拉げている。警備隊が敵に挟み撃ちされるのを阻止するためにやったのか、あるいは戦闘機械が逃げ道を断つべく破壊したのか……ともあれこれは使えるとコルヴスは判断した。伝令を放つためにやや出遅れたのだ、階段をちんたらと駆け上がっていく時間すら惜しい。シャフトに垂れ下がるワイヤーロープを何度か引っ張り、破壊工作を受けてなお強度が保たれていることを確認。コルヴスはシャフトに飛び込んだ。
跳躍、壁を蹴り、ワイヤーロープに掴まる。そしてまた跳躍、壁を蹴り、ワイヤーロープ。
何度かこれを繰り返し、最短距離で上階へ。そうして24階。分厚いエレベーターの扉のすぐ向こうで戦闘音。このフロアに居るという確信をもって、コルヴスは身を揺らしドアを蹴破った。飛び出したのはちょうどドローンの壁に身を隠しつつ後退を開始した警備隊と、彼女らの低火力は脅威たりえずと認識し大胆に距離を詰め始めた強襲型機甲アルファチームの中間、24階エレベーターホール。
破壊され動くはずのないエレベーターの扉を蹴破ってやってきた突然の乱入者に警備隊が一瞬判断に迷い、アルファチームが味方ではない=敵性個体と瞬時に判断しエネルギーライフルを向けるのを視線を左右に走らせ視認すると、コルヴスは『黒雷』を指切りで射撃。たん、たたんとエネルギーライフルを射抜いた銃弾は、その雷素でもって回路を破壊しエネルギーの収束を阻害、射撃を強制中断。
『――閃光弾!』
先頭に立つアルファ3がフラッシュバンのピンを引き抜く。その腕を、狭いビル内で振り回せる長さ――大ぶりのナイフ程度に錬成された『Azoth-Replica ver2.2』の刀身が切り落とす。
床に落ちる腕、衝撃で指がフラッシュバンを離し閃光――その頃にはコルヴスは既に間合いを詰めている。敵が見えていなくとも関係ない。
強襲型機甲がサイドアームの大口径リボルバーを握った副腕を展開――胴体を切り裂かれまずは一機。
『アルファ3ロスト! アルファ5、アルファ11カバー!』
「遅い」
コルヴスが廊下を駆ける。銃声が響き、剣が空気を切り裂く。そのたびにアルファチームの強襲型機甲が破壊される。
そうして階段に通じる防火扉までを一息に。後詰めの一機を仕留めたコルヴスの背後で重なる銃声がふたつ。
振り返れば殺しきれていなかったアルファ3が硝煙くゆるリボルバーをこちらに向けていた。
ぱらり、コルヴスの頭のすぐそこで弾丸がめり込んだ壁から破片が肩に落ちる。
「――救援、感謝します! お怪我はありませんか!?」
そしてアルファ3の傍ら、上半身と下半身を分断されてなお仰向けで拳銃を構えている戦闘機械の傍らに立つのは警備隊長の少女人形だった。
アルファ3の頭部に銃弾を叩き込み、コルヴスを狙う凶弾の照準を逸らした少女人形はぜえぜえと肩で息をしながらコルヴスの負傷を心配して視線を上下に。
「いや……問題ない。こちらこそ援護に感謝する」
強襲型機甲特殊作戦部隊アルファ分隊による行政タワー制圧作戦は、ここに全機の喪失をもって失敗に終わった。
学徒動員兵であるミナ・ヨランドは、学校指定の短機関銃を握りしめてコンテナとダンボールがうず高く積まれた巨大なラックの森である集配センターを駆け抜ける。
思えば異変の予兆はあった。|輜重《しちょう》科の実習で訪れたこのニューフロント-3の集配センター。引率の先生の後ろに並んで兵站将校としての学びを得るため施設内を見学していたときに鳴り響いた何かとんでもない轟音と、立っていられないほどの振動。地震か、いや爆撃かと騒然とするクラスメートたちを先生がどうにかなだめすかし、ひとまず積み上げられた物資が落ちてこないところまでと施設内の開けたところに移動し、整列した。
そこまでは良かった。そう、その後突然煙が流れ込んできて、そして眼の前で先生は――
「うっ……」
エネルギーライフルのプラズマビームを浴びて半身を松明のようにして息絶えた先生の最期を思い出し、ミナは吐き気をこらえて壁により掛かる。
ちょうどそこにあった窓から外をうかがうと、無防備に開け放たれた正門とその手前で血溜まりに横たわる守備隊の兵士たち、そして門の遥か彼方ではぽっかりと大穴を空けた防壁と、市内各所で立ち上る黒煙が見えた。
「おええっ! ……なんで」
なんで今日なのよ、と呪詛がこぼれる。
せめて昨日なら私たちはこんなところに来なかったのに。せめて明日なら、私たちはもう帰ってこんなところにいなかったのに。
言ってもどうしようもないなんてわかっている。運が悪かった、それだけのことなのだ。撃ち殺された先生も、今なお追い回され狩られている級友も、みんなみんな運が悪かった。でも。
運が悪かったから死ねなんて、そんなの絶対嫌だ……!
胃液を吐き出してなお痙攣する胃を殴りつけ、ミナは再び歩を進める。せめて死ぬなら、死がどうしようもなく避けえないのなら、あの怖がりな親友の隣に居てやりたい。
「けほっ……待っててね、ユミカ……!」
走るミナの頭上、コンテナの上から無機質な赤い眼光とエネルギーライフルのスコープが彼女の背中を追う。
「この規模の戦争となると、やはり勝手が違うわね……!」
艶消しの銀に塗られた小型バイクを巧みに操り、乗り捨てられた車両や破壊された兵器の残骸を巧みに躱して不破・鏡子(人間(√マスクド・ヒーロー)のマスクド・ヒーロー・h00886)は集配センターに急ぐ。後方に浸透した敵の特殊部隊が的確に要所を押さえにかかるならば、補給の要である此処を押さえにいかないはずがない。それを断たれれば、メインゲートを取り戻したとて主力部隊は万全の戦力を回復できないからだ。
それに。
「実習に来た他所の学生が居るなんて聞いたら、放っておけるはずがないじゃない……!」
集配センターの無機質な壁とその裏門が見える。その奥で倒れている兵士たちは――もう助かるまい。彼らの亡骸を轢かぬようハンドルを切って、勢いのままにバイクごと鏡子は窓から建物に突入した。
「……っ!?」
『――――ッ!!』
うずくまる学生服の少女。そして反対側にはミニガンを構えた敵の機械兵士。その間、きらめくガラス片を伴って突っ込んだ白銀のバイク。
蜂の羽音を伴って発砲された弾丸の嵐がバイクを穿つ。鏡子は座面を蹴ってバイクを飛び降り、勢いのまま棚に突っ込んだ車体は派手にクラッシュする。
愛車の犠牲に内心で手を合わせながら着地、機械兵士の顎に掌底を叩き込み、続けざまに側頭部を刈り取る回し蹴り。クラスタ・パレードであれば首がちぎれ飛んだであろう必殺の連撃を受けてなお、強襲型機甲はたたらを踏むも耐えてのける。
『……ブラボー2よりブラボーチーム、侵入者と接敵。交戦開始する』
この間合いで銃は不利と判断したか、主腕に構えたミニガンを投げ捨て腰のナイフを抜くブラボー2。
徒手空拳とナイフの激しい応酬が始まった。鏡子の目にも止まらぬ連打をブラボー2は持ち前の耐久力で耐えながら、四本の腕を巧みに振るって揺さぶりを掛けナイフを突きこんでくる。
鏡子は確信した。こいつは戦闘員ではなく怪人クラスの敵だと。そしてそれが隊伍を組んで軍隊として人類を襲っているのだと。
恐ろしい。それ以上に許せない。決意を込めて踏み込んだ鏡子の顔を狙ったブラボー2の拳打、ストレート。手を使ってそれを受け流し――違う、ブラボー2の手には大口径のリボルバー拳銃が握られている。そして自分の後ろには、まだ――
「避けなさい!」
少女に退避を促しながら鏡子はブラボー2の出を捻り上げる。そのままめしりとそれを折り取って、続けざまに展開したナノメタルの刃を腕の付け根、胸部装甲との隙間に突き立てた。
『こちらブラボー2……敵は……』
動力部を破壊され崩れ落ちたブラボー2の残骸を放り出し、鏡子は少女に駆け寄った。
「大丈夫、撃たれていない!?」
少女はふるふると首を横に振る。ほぅと一息。
「あいつが仲間を呼んだかもしれないわ、此処を離れないと。歩ける?」
「は、はい……えと……」
なんと呼べばいいか戸惑う少女の怯えを拭い去るように鏡子は笑いかけた。
「私は――名無しのヒーローよ」
「わ、私は……ユミカ・タカオカです。ありがとう、ございましたっ」
集配センターの正門に降着した蒼月から飛び降り、クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)は急ぎその扉を押し開け施設内に滑り込んだ。
血腥い鉄の臭いと、何かが焼け焦げたような灰の臭いが鼻を突く。およそ物資集積拠点でしていい臭いではないそれが、ここで何が起こったのかを鮮明に想起させる。
「いや、それよりも生存者の救出だ」
自分が感傷に足を止めれば、まだ助かるはずだった生存者が死ぬかもしれない。クラウスは意識を集中し、目を閉じてドローンと感覚を同期する。
天井付近まで舞い上がったドローンからの視覚共有。9つの目のうちのひとつが動くものを捉えた。身を隠しながら走る学生服の少女。彼女に意識を向ければ、その背中を狙う冷徹な狙撃手もまた視認できた。
「っ……!」
即座にドローンの半数をジャミングに回す。強襲型機甲のデータリンクを阻害し、通信網を寸断。すぐさま|ECCM《カウンターメジャー》を起動し抵抗してきた辺りは流石の特殊作戦部隊だが、新手からの電子攻撃に応対した一瞬で狙撃手は絶好の機会を逃した。その一瞬は短いながら、クラウスにとって十分な一瞬だ。
観測機からの視覚共有で敵に見つからないよう移動し、まずは狙撃手の背後に音もなくラックを登って忍び寄る。
『――ブラボー2、どうした? ブラボーリーダー、こちらブラボー10。通信状況が悪い、ECCMのパターンを解析されている恐れが――』
ばちり。押し付けられたスタンロッドから流し込まれた致死量の高圧電流が、ブラボー10の電子頭脳を焼き切った。ガシャガシャと棚から滑り落ち、床に叩きつけられ部品を四散させたブラボー10の傍らに着地すれば、強襲型機甲の墜落音に目を丸くして振り向いた少女と目があった。
「やあ、大丈夫かい?」
「誰? 味方ですか?」
短機関銃を向けて誰何する少女にクラウスは両手を上げて微笑んだ。
少女はミナ・ヨランドという名で、別の都市から補給将校課程の実習でこのニューフロント-3に訪れていたこと。
引率の教師を眼の前で殺害され、恐慌状態に陥った仲間たちは散り散りに逃げたこと。
そして、何人かの死体を見てしまったこと。その中に親友の骸がなかったことに安堵してしまい、自己嫌悪の最中にあることを、安全そうな死角を探し出しそこへ移動する道中で聞いた。
強い少女だと思った。もちろん正規兵のようにはいかないが、日常から突如実戦、それも最悪に近い戦場に叩き込まれたにしては心も足取りもしっかりとしている。
「でも、もう大丈夫。ここからは俺達に任せて」
だからこそ、これ以上無理はさせたくない。そんなクラウスの優しさにミナは否を返す。
「親友が、ユミカがどこかで震えてるかもしれないんです。あの子は私が守るって約束したから、だから私だけ一足先に隠れて待つだなんて。邪魔はしません、クラウスさんと一緒に……いえ、未熟で邪魔だって言うなら、囮だってやります。私が逃げ回ってる間にクラウスさんがみんなを、ユミカを……」
饒舌で自己犠牲的な言葉の羅列に、クラウスはやはりミナも限界に近いのだと認識を改めた。
このまま言う通りに一人で行動させればきっと彼女は死ぬ。だが、身を隠させて置いていっても彼女の心は耐えられず折れてしまうだろう。仕方がないと小さく息を吐いて、彼はミナの同行を許可したのだった。
ある時から――ブラボー2を仕留めて少し後から、ブラボー分隊の強襲型機甲たちの挙動が少しだけ違和感を感じさせるものになった。鏡子はそれを知覚し、誰かの干渉が彼らの戦術行動を乱しているのだと認識した。
ならば最大限に付け入るべし。ユミカを抱えて物陰から物陰へと飛び移り、強襲型機甲の背中を見かければ彼女を隠して敵に飛びかかり組み伏せ踏み抜き、あるいは殴打して頭部を破壊して回った。
そうして6体目か7体目かの機甲を始末したところで、鏡子は敵とは違う気配を感じ取る。
「誰かしら? 人間よね?」
「ああ、俺たちは人間だよ」
棚の陰から現れたのはスタンロッドを握ったクラウスと、その後ろで短機関銃を構えるユミカと同じ制服の少女。
「どうやらお仲間のようね。こっちは6体か7体くらい殺ったわ、そっちは?」
「こっちも同じくらい――」
鏡子とクラウスがお互いの撃破数をすり合わせ、残敵の数を予測しようとするその脇を少女たちが駆けていく。
「ユミカ!!」
「ミナちゃんっ!!」
抱きしめ合い、涙を流して生存を喜び合う親友ふたり。彼女たちを見守って、二人はどうやら残党狩りと慢心し分散していたブラボー分隊が全機各個撃破されたであろうこと、そして見つけた死体の数と二人の学徒兵から聞き出したクラスの人数の差異から彼女たち以外にも生存者が居るだろうことを知り、決して多くはないが少なくない命を救い出せた喜びを噛みしめた。
「ニューフロント-3基地へ。聞こえますか、メインゲート防衛線は友軍が勝利しました。増援部隊もまもなく――」
予備部隊が立て籠もり抵抗を継続している人類軍基地を目指して光の翼を広げてリズが飛翔する。
行政タワー、集配センターという戦略的要所には既に仲間たちが向かった。残す要所は基地だけで、そしてここは質としては二線級とはいえ人類軍の戦闘部隊が駐留している。
苦境にあると言っても早晩陥落することはあるまい。まずは状況を掌握し、敵部隊が基地周辺に展開したジャミングの霧を排除するべく基地上空で電子戦型レイン砲台を展開し、戦域を電波走査しようとした彼女の脳内で警報装置が鳴り響いた。
上だ。曲射の弾道で市外から無数の白煙が落ちてくる。それが市外からゆっくりと接近しつつある大型機甲が長距離砲兵支援で用いる多連装ロケットシステムによる攻撃だと理解するや、リズは即座に攻撃型のレイン砲台を展開、弾幕を形成して降り注ぐロケット弾を迎撃すると同時にシールド型を自身の後方、基地施設の上に張り巡らせた。
「くっ、砲兵の火力支援が想像以上に厚いですね……!」
これでは電子戦型レインが収集したデータを解析するだけの演算リソースを確保できない。ロケットの弾道を解析し、ただの一発とて基地に落とさせないよう迎撃するので精一杯だ。
敵の能力を甘く見積もったつもりはない。ただ、敵地への浸透に長けた強襲型機甲を観測手として用いた大型機甲の砲兵運用という戦術がこの戦場においてリズ単独で処理するにはあまりにも巨大すぎる暴力となって彼女の処理能力を圧迫しただけのことだった。
『チャーリーリーダーよりチャーリーチーム。ザトウムシからの砲兵支援が妨害されている。各機は敵の防空迎撃を排除』
地上では、基地の人類軍が解体待ちの戦車や修理中のWZまで持ち出して組み上げた即席の防壁に身を隠しチャーリー分隊と交戦していた。
衰えた目を長年の経験と勘でどうにか補い戦う予備役の老兵がいる。片腕を血の滲む包帯で吊り下げ、暴れる照準を片腕と胸板でどうにか押さえ込みながら射撃する負傷兵がいる。初めての実戦で喉を引きつらせながら、必死に防壁と防壁の間を駆け回る学徒兵がいる。
そして彼らを死なせまいと、敢えて銃火に身を晒し敵の火力を引きつける少女人形たちがいる。
「敵が上に気を取られた今が好機だ、攻勢に転じよ! 上で戦っている彼女を撃たせるな!」
基地司令までもが、戦場の見通せない司令室を捨て危険な最前線で直接陣頭指揮を執っている。
これまで彼らを狙っていた、強襲型機甲という歩兵ユニットに装甲車や戦車並の火力を付与し脅威たらしめていたエネルギーライフルやミニガン、グレネードランチャーのような大型火器が軒並み上空で単身防空戦闘を行うリズを向いた今、こちらを狙う銃口は大口径リボルバーやレーザーピストルのような小火器に絞られる。
名も知らぬ守護天使は、降り注ぐ|死の女神《アーティラリー》の業火からのみならず、眼前の敵の殺意までもを引き受けてくれている。――いや、認めねばなるまい。敵にとって、この基地の戦力は片手間で相手をしてもどうとでもなる程度のものだと舐められていると。
「走れるものは前へ! そうでないものは彼らを援護! 距離を詰めて敵に圧力を掛けるのだ!」
司令室で軍隊を数字と記号として扱うようになって久しく忘れていた戦場の熱意を胸に取り戻し、司令官は自らも小銃を手に躍り出る。
『デルタリーダーよりデルタチーム、チャーリー側の戦闘激化に伴い我々も進出し弾着観測任務を継承する。デルタ12はザトウムシとの連携を継続、残りは前進し基地施設の監視ポイントを制圧する。――散開』
チャーリー分隊がリズの撃墜と基地の人類軍の排除に集中し、大型機甲――「ザトウムシ」への弾着観測継続が困難になったため、強襲型機甲デルタ分隊は通信の中継に加えて砲撃指示座標の取得も自らが担うべく分散して前進を開始する。目標は基地を見下ろせるビルの高層階や屋上だ。1機、あるいは2機の最小戦闘単位で散り散りに、各々の確保すべき建物へと駆けてゆく。
リズはなおも苦境にあった。頭上から絶え間なく降り注ぐロケットの雨は止むところを知らず、さらに地上からは人類軍と交戦中の強襲型機甲部隊が対空砲火を展開し、彼女の背中を狙う。
無数のレイン砲台を使役しこれらに対処するリズの演算能力は刻一刻と限界に近づいてゆく。
脳が灼けるように熱い。冷や汗が滴る、その肌を滑る感触でさえ演算を邪魔するノイズに感じる。
あとどれだけ耐えられるだろうか。もし自分が限界を迎えたならば、下で戦っている人々は果たして何人が生存できるだろうか。
彼らを援護し、退路を切り開こうにもそのためにレイン砲台を割けばまたたく間に大型機甲からの砲火がリズ諸共に基地を焼くだろう。
ギリギリの戦い、それも勝つためではなく滅びを先延ばしにするためのそれを続ける彼女の電子戦型レインがさらにアラート。
弾着観測・電子戦装備の強襲型機甲が市内のビル群の屋上や高層階の窓からこちらを見ている。あれらの情報が渡れば、この多連装ロケットによる連べ打ちがさらに高精度・高効率化してリズの対処能力を飽和させるだろう。
そして基地南側からはさらなる敵分隊の進出すら見える。今正面の敵部隊――チャーリーと交戦中の基地守備隊の側面を襲撃しうる位置だ。その上守備隊はこちらを援護するため前衛と後衛を分けた。負傷兵や退役兵の多い後衛を、この敵増援は直撃するだろう。
万事休す。いよいよ絶望がリズの脳裏にちらつく。戦場すべてを見通せるがゆえに、真下で戦う彼らに見えていないものが見えてしまう。
――いいや。見えたのは絶望だけではなかった。
「WZ中隊各機、跳躍開始! 助けられた恩は戦働きで返してみせろ! 我に続け!」
「観測手を排除しろ! 砲兵に好き勝手をさせるな!」
メインゲート方面から飛来する機影。最優先で補給を終えたWZ中隊が、リズの参戦で損耗を最小限に抑えた彼らが駆けつけたのだ。スラスターを噴かせて飛翔したWZがビル群に布陣するデルタチームの観測手をライフルで、グレネードで排除していく。
『デルタ12よりザトウムシ、最終砲撃座標はグリッドNE881、52……』
「これ以上俺達の女神を撃たせるかよ!」
最後の一機がWZ用の大型ライフル弾を受けて爆散し、目に見えてロケット砲の精度が、射撃間隔が低下する。
だがまだだ。南側から接近する|敵部隊《エコーチーム》が――
「ここは通さないんだから!」
「よくも俺達の街で好き勝手に!」
いいや。見れば市内各所で分断され孤立していた学徒兵の分隊が、軽装備の少女人形たちが三々五々に集まって、エコー部隊の包囲と足止めに成功していた。
メインゲートでの勝利と反攻作戦の開始を知った彼らは自らの足で再び立ち上がったのだ。それは統率された軍事作戦行動とはお世辞にも呼べないほど粗雑なものだし、集結地点である基地を目指し各々が駆け出したがゆえに生じたものに過ぎず、包囲を企図した行動ではなかった。だがそれでも人間の意志を、力強さを感じさせる抵抗運動だった。
砲撃観測手の排除。敵増援の包囲遅滞。
図らずも√能力者たちが起こした波紋が人類軍を動かし、リズを苦しめる負荷をひとつひとつ排除する。
戦闘中のチャーリー分隊への誤爆を嫌ったのか、無数に降り注ぐ致命のロケット弾の圧力が急速に減じていく。ふっと軽くなった演算負荷に、リズの四肢に、眼に、そしてスラスターに力が戻る。
ならばそう、砲兵射撃の迎撃に最低限のレイン砲台を空へ残して残りをすべて地上へ。
「そう……そうです。私たちは一度勝ちました。だから此処でもまた、勝てるのです!」
リズのレイン砲台からの閃光が、人類軍の兵士たちの銃弾が、チャーリー分隊を撃滅しエコー分隊をも打ち砕く。
『こちらチャーリー、これ以上の前進は困難と判断。我々は失敗したものと判断する』
『エコーより全チーム。残存機があれば聞け。都市制圧作戦は失敗、これより最終フェーズに移行――』
チャーリーの指揮官機が人類軍の斉射を受けて破壊され、エコーの指揮官機もまたリズの撃ち込んだLXMの閃光に消えた。
ニューフロント-3を巡る敵特殊作戦部隊の浸透攻撃は、ここに全戦線でその目標制圧に失敗したのである。
第3章 ボス戦 『大型機甲兵器』
『クラスタ・パレード師団 壊滅』
『アルファチーム ロスト』
『ブラボーチーム ロスト』
『チャーリーチーム ロスト』
『デルタチーム ロスト』
『エコーチーム ロスト』
『友軍残存部隊 戦力評価 ゼロ』
『友軍 の 壊滅 に 伴い これより 本機 は 最終フェーズ に 移行』
『突撃 を 開始 進出座標 人類 戦闘機械都市』
『目標 敵性戦力 の 撃滅 都市制圧作戦 は 失敗 棄却 される』
『|火器使用自由《All Weapons Free》』
『|戦闘開始《Open Combat》』
『|前進《GO》 |前進《GO》 |前進《GO》』
クラスタ・パレードによるメインゲート攻略、強襲型機甲からなる特殊作戦部隊による市内の重要拠点の制圧、そのいずれもが頓挫した今、戦闘機械群の都市攻略部隊において唯一戦力を保持した存在――陽電子砲で防壁を粉砕し、基地を砲兵射撃の脅威に晒した大型機甲兵器――識別コード『ザトウムシ』は前進を開始した。
同型機の中でも群を抜いて巨大に製造された、WZさえも足一本で踏み潰せるほどの巨体を揺らしてその多脚戦車は加速する。
鈍重な動きだが、一歩一歩の巨大さからその速度は印象以上に速い。あれがもし市内に到達したならば、その火力を躊躇いなく解き放ったならば、ニューフロント-3は灰燼に帰するであろうことは明白である。
補給と再編を終えた人類軍が急ぎザトウムシの前面に防衛ラインを敷き、迎撃計画を策定するが彼らの戦力ではこれの撃滅は極めて難しいだろう。
すなわち軍の迎撃計画の外、イレギュラーたる戦力が必要だ。
ニューフロント-3を巡る戦いは最終局面に移行する。滅びるか、滅ぼすか。ふたつにひとつの選択肢に回答を叩きつけるべく、人々は己が武器を取る。