ビジュさえ良ければ女の子同士でも関係ないよね!
ゾディアック・ミラー
これは2章構成の期間限定シナリオです。09/23(水)16時頃までに完結したシナリオの結果により、宿敵の運命が変わります。なお、期間中に宿敵主によって倒された場合、通常のルール通り宿敵は絶対死します。
●星詠みの啓示:魔法少女アンテロスのキューピット計画!
「……あなたは√能力者? そう。来てくれて、感謝」
√EDEN、東京、新宿区。
大通りから外れた静かな路地裏で、ボクシンググローブを嵌めた少女……三船・こぶし(とりあえず殴れば解決すると思う・h03348)は、あなたに向けてそう告げた。
「それじゃあ、見えた未来の説明、させてもらうね」
もたれかかっていた壁から背を離し、小柄な身体でこちらを見つめる少女。彼女は抑揚の薄いマイペースな口調で、一言一言を区切るように、話し始める。
「一言で言うと、『ゾディアック・ミラー』の事件。今回見えた簒奪者は、『魔法少女アンテロス』」
ゾディアック・ミラーとは、ゾディアック継承戦争の際に王権執行者・食鉄大師から奪取することに成功した、鏡の神器。これによって星詠みは、今まで詠み取ることが出来なかった新たな予知を得ることが出来るようになった。
この予知は王権執行者『ではない』宿敵に関連するもので、約1ヶ月の期間に限って予知されると言う。
「そして、この宿敵とどのように戦うかによって、宿敵の境遇が変わる」
今回のアンテロスの場合、敵対的な態度を取ればEDENと決定的に対立し、友好的な態度を取れば平和的な性格に変わるであろうことが予知されている。
「で、アンテロスが起こす事件だけど。彼女は√能力によって、『好みの容姿の2人を無理やり恋人関係にする』事件を起こす。……割と平和に見えるけど、放置は出来ない」
世界の平和を脅かすことはないが、ターゲットとなった人の平穏は乱す事件だ。一応は簒奪者の行いである以上、EDENとして放ってはおけないだろう。
「とにかくまず現場に急行して、アンテロスと戦う。それが一番最初。ただし、ここでアンテロスに対してどのような態度を取るかで、未来は分岐する」
もしアンテロスに対して強く敵対的な態度を取った場合、彼女を撃破し、そのまま彼女の拠点に乗り込むことになる。そこで配下である敵を撃破すれば、拠点を破壊出来る。
アンテロスに対して対話や説得を優先した場合、成功すれば戦闘は終了し、彼女と親交を深めることになるだろう。特に撃破はせず、平和裏に別れる事になる。
「どっちを選ぶかは、まあどっちでも良い。あなた達ならアンテロスを倒す事も難しくはないけど、穏当に解決したいなら、それも良い」
ちなみにEDENの間で意見が分かれた場合、なんとなくその場の雰囲気で優勢な方の意見が優先される。が、戦闘を選ぶ者が少ない場合、そもそもアンテロスを倒す事が出来ない可能性があるのは注意が必要だ。
「まあ、いつもに比べれば、気軽な事件。気負わず、好きなように挑むと良い」
こぶしは軽い調子でそう言うと、あなたに視線を向ける。そしてグローブを持ち上げ、行くべき場所を指し示した。
「あなた達の力で、なんとかして欲しい。期待している」
●王子様系×おっとり清楚系は王道
新宿区の町中。人通りの多い交差点の信号の上に腰掛けた魔法少女アンテロスは、キョロキョロと辺りを見回していた。
どう考えても不審人物だが、それゆえに、√EDENの『忘れようとする力』によって、周囲の人々は彼女に注意を払わない。見ても次の瞬間には、忘れてしまっている。
「……お、王子様系美少女はっけーん。めっちゃあたしの好みのビジュじゃん!」
一方アンテロスはその雑踏の中に、好みの容姿の美少女を発見する。ショートカットに快活な美貌、すらりとした長身。中性的な、まさに『王子様』と言うに相応しい女子高生だ。
スクールバッグに加えて竹刀袋を担いでいる所を見ると、剣道部なのだろう。ますますアンテロス的にはイケている。
「こういう王子様には……やっぱりお姫様がいないとねぇ」
素早く視線を巡らせるアンテロスはあまりに目ざとく、雑踏の中から目当ての容姿の美少女を発見する。ふんわりとウェーブのかかった髪に、温厚そうな表情、豊かな肢体。王子様とは対照的な、まさにお姫様のような女子高生。
「うんうん、良い、良い! やっぱこれ王道カプっしょ!」
――制服が違うし、近くをすれ違っても何ら反応を示さない、明らかに赤の他人である2人。だがそれを顔カプとして認定したアンテロスは、弓に矢を番える。
殺傷力のある矢ではない。心とは無関係に2人を操り、告白やもっと先の行為をさせる『ハートクエイク・アロー』。
推しカプを作り上げるためだけに生み出したその√能力を行使すべく、彼女は弓を強く引き絞った。
第1章 ボス戦 『魔法少女アンテロス』
「……いや流石に駄目だろう!」
放たれたハートクエイク・アローのうちの1本の軌道へ、叫びつつ割って入る呉守・社(蛇神封じのTS人柱・h04697)。ルートブレイカーを宿す右掌で受け止めれば、物理的な破壊力を持たないその矢は霧のように消えていく。
「インビジブルを集めようとしないならどうしたもんかと思ったが、これは駄目だ!」
「人の心を操作するような行為は、見過ごせません!」
そしてもう1本の矢もまた、レミィ・カーニェーフェン(雷弾の射手・h02627)が魔弾によって撃ち落とした。
加えてシキ・イズモ(紫毒の鳥兜未遂・h00157)が毒の分身を作り出し、追撃を阻止するように盾として展開する。標的となった2人は何の異変にも気づかず、そのまま歩き続けて、離れていく。
「ん、ボクは恋愛の自由とかには興味ないけど、これじゃ色んな意味で自由恋愛とは言えないよね」
「ちょっとぉ、何邪魔してんのよ! せっかくマジ萌えカップル作ろうと思ったのに!」
当然、突如として現れた闖入者に、アンテロスは眉を跳ね上げ、怒りを滲ませる。標的を追う事は難しいと見て、ひとまず彼女の注意はEDENへと向けられたようだ。
「いや、顔だけで同性カップルにするのは流石にどうかと思うぞ!」
そんなアンテロスの態度を咎めるように、晶は剣を向けながらそう声をかける。……とは言うもののいまいち、その切っ先には殺気が籠もらないが。
「まあ、阻止はしたが……インビジブルを集めようとしないなら、一応簒奪者じゃない、のか?」
「どうなんでしょう。他の簒奪者と比べたら、確かに平和かもしれませんが……」
レミィも油断なく構えて断固阻止の姿勢は取るが、それ以上の強硬手段を取るのは気が進まない。
――ちなみに『簒奪者』と言う用語には『√EDENからエネルギーを奪おうとする邪悪な√能力者』と言う意味と、『宿敵や王権執行者などのEDENの敵』と言う意味合いがあるので、簒奪者と呼ぶかどうかは解釈次第だと思われる。
「話し合いの余地があるなら、それで解決したいですけど……」
「王子様とお姫様のカプは昔話の時代から王道でしょ女同士だろうと関係ないわいやむしろ女同士だからこそ――」
ただ話し合いをしようにもアンテロスは自身の推しカプ論を捲し立てており、こちらの話を聞いてくれそうにない。……あと一応、√能力のチャージでもあるので、放っておく訳にもいかない。
だが、いつ息継ぎしているのかと言うマシンガントークには、なかなか割って入るのが難しく。
「――――――!!!」
「っ、うるさっ!?」
だったらもう強引にでも止めてやるとばかりに、アーシャ・ヴァリアント(ドラゴンプロトコルの|竜人格闘者《ドラゴニックアーツ》・h02334)が雄叫びを響かせた。
竜漿を込めたその咆哮は、いかにアンテロスでも無視出来ず、耳を指で抑えてトークが止まる。
「可愛い義妹をそこら辺の有象無象とくっつける可能性のある奴は、ぶっ飛ばす!」
「あっ、寒っ……ちょっと、何なのぉ!?」
続けて吐いた息を吸い込むと同時に、周囲の熱も吸い上げていく。それによって空気が凍り付けば、アンテロスの身体も一緒に凍りつき、動きを鈍らせて。
「いいや……焼き尽くすわっ!」
「きゃああっ!? あっつぅぅぅっ!」
そしてそのまま今度は吸い込んだ熱を、灼熱の吐息としてぶちまける。アンテロスの身体が燃え上がり、その口から悲鳴が迸った。
そんな相手をギロリと睨みつけ、拳を鳴らして威嚇するアーシャ。
「観念して大人しくするならまぁ、命までは奪わないで置いてあげるけど……」
「ふー、あっつ……何よあんた、推し活の敵ね!」
が、もちろんその程度ではアンテロスが止まるはずもない。その火をかき消した彼女はむしろさらなる怒りを燃え上がらせて、アーシャやEDENに強い敵意を向けてくる。
そんな一触即発の状況に、丹野・脩里(|悪魔憑きの生ける骸《ディーモンホスト・デッドメイデン》・h00506)が一気に間合いを詰める。すぐさまアンテロスは弓に矢を番え、それを迎え撃とうと――。
「ありがとう」
「……え?」
が、その迎撃は、脩里の言葉によって遮られた。……いや、それは正確ではない。推し活を邪魔されたアンテロスの怒りは、ただの言葉で止まるようなものではない。
なので正しく、『万感』の言葉によって遮られた、と言うべきだろう。
「『ありがとう』……それしか言う言葉がみつからない」
「……え。え、そう?」
完全に動きを止めたアンテロスに、脩里はさらに捲し立てる。その瞳に深い賞賛と憧憬を宿し、心の底からの賞賛を述べて。
「女×女ってイイよね! しかも、此処までお似合いのカップルを? その場で見繕ってくっつけたって? いやーちょっと良すぎますね、アーイイ……!」
「……そう? 分かる? 分かるでしょ、あたしの推し活の素晴らしさを!」
そしてその熱量を……いや、『同類の匂い』を感じたのだろう。アンテロスは数秒前までの殺気を一瞬で霧散させ、完全にその矛先を収める。
「にしてもお姫様ホント良いなぁ、豊か! むちむち!」
「ええ、お姫様が豊かである必要はないけど、スレンダー王子様の横に並ぶべきお姫様は豊かであるべきなのよ!」
「隣がアテクシじゃないのが悔しいけど……まぁアテクシじゃ釣り合わんでしょうから」
「大丈夫、あんたもビジュは良いわ。でも相手は王子様系よりももっと別の……」
そしてそのまま熱いトークに突入し、2人の世界に入りかけている。……これで解決でも良い気はちょっとするが、流石にそういう訳にもいかない。
アリス・アストレアハート(不思議の国の天司神姫アリス・h00831)が恐る恐る、そこに割って入るように声をかけ。
「……ええと、アンテロスさん」
「ん? まさか、アンテロス尊師をどうにかしようなんて考えてる不心得者は居ませんよね?」
そして何故か脩里の方にギロリと睨まれ、ふぇっと声を上げて後ずさる。思わず視線をアーシャに向けると、そちらはやれやれと肩を竦めて。
「……まあ、別に何がなんでもぶっ飛ばしたい訳じゃないから、良いわよ」
「そ、そうですか。ええと……」
実際アーシャ以外に、この場にアンテロスを殴ろうとする√能力者はいない。ひとまず会話ルートに入ったのを確認し、深呼吸して気を取り直すアリス。
「私にも大好きな人がいますから……アンテロスさんの、人の恋を成就させてあげたいという事には同意します……」
「でしょでしょ? あたしの推し活は正義!」
そんな言葉に堂々と、一切悪びれずに胸を張るアンテロス。話が通じる様子でほっとしながら、さらに言葉を紡ぎ――。
「けれど無理矢理や、一方的に……というのは、ちょっとどうかなって……思いますでしょうか……☆」
「なんで? 顔カプって至高じゃない?」
そしてとても不思議そうな表情で、そんな風に返された。一欠片の悪意もそこには存在せず、ただただ自分の正義を信じ切った態度だ。
「や、やっぱり……こういう事はお互いのお気持ちが、大切って……思います……」
「だからあたしがこうして、お互いの気持ちを結びつけてあげてるのよ!」
まあ一応は広義の簒奪者である以上、やはり一筋縄ではいかない。レミィもなんとか説得しようと、声をかけるが。
「思い出が積み重なって出来た今が大事なのであって、無理やりに作り上げたものに同じ価値はないと思うんです」
「なんで? 一目惚れとか運命の人とか、あるじゃない」
そう言われてしまうと、はくはくと口を開閉させる。なんとか言い返そうとするが、良い言葉が咄嗟には思いつかず。
「……うぅ、恋愛経験がないので気の利いた事が言えません……!」
「え、じゃああたしがくっつけたげようか? そうねぇ、溌剌系の美少女なら……」
逆に完全な善意でそんな事を言われ、慌ててしまう。このまま放っておくと、ビジュだけぴったりの相手と恋愛関係にされかねない。
そこで代わって今度は、神咲・七十(本日も迷子?の狂食姫・h00549)が歩み出る。
「んみゅ……まぁ、確かに好みの相手同士がくっつくと言うのはとても嬉しい事ですが、無理矢理は良くないと思うのですよ」
「大丈夫。あたしの見る目に間違いはないから!」
もちろんそんな言葉にも、アンテロスは揺らぐ事はない。だが、詠・ミヤビ(チャクナン・ドロップアウト・h12714)も加わり、まずは相手の主張に寄り添っていき。
「確かにかっぷりんぐは良いものじゃ。王子様にはお姫様、せんすも良い、わかっておるのう」
「でしょでしょ! 王道よね~」
それによってすっかり機嫌を良くしたアンテロスは、こちらへの好感度を高めている。今なら話を聞かせる余地もありそうだと、さらに2人は言葉を尽くし。
「やるにしても手間を惜しまず! もう少し共通点を探したり、さり気なく誘導したりしてですね……」
「うむ。わしも、過程も大事じゃと思う……恋が発生するのを見守るのも、オツな物ではなかろうか」
恋愛が成立するまでの、過程の良さを説く事で、アンテロスの説得を図る。相手が萌えで行動しているなら、新たな萌えを啓蒙するのが説得の近道だ。
「強制的に恋仲にしちゃうより、立場の違う彼女らが何かのイベントを持って繋がる、その最初のドラマに価値があるとは思わないかな?」
「うーん、最初のドラマか……新しい萌えの予感はしなくもないわね……」
さらにシキもその説得に加わると、むぅと唸りを漏らすアンテロス。こちらの説得に心が揺らいでいる様子を見れば、七十はさらに√能力で呼び出したアイドル『フリヴァく』と共に、説得を重ねる。
「くっつくまでの過程も見ていて色々楽しいですし、カップルメイクするならその辺りも楽しいですよ?」
「うんうん。長く恋人同士になって、最終的そのまま流れでゴールを決めるくらいの事はしないとね~」
なおフリヴァくは邪神系アイドルであり、その歌には他者を隷属させる魔力がある。と言うか七十自身、植物を操り相手を隷属させる人間災厄である。
つまり、どの口が言うのかと言う話であるが、幸か不幸か、アンテロスは彼女達の√能力を知らないので、突っ込みは入らない。
シキやミヤビも知ってか知らずか、アンテロスの説得に専念して。
「そんなイベントが起こるかどうかは分からないけど、分からないからこそ良いとボクは思うよ」
「ふらぐが回収されなければ……理想の展開を創作の物語にでもして発表すると良い。本人自体をどうこうするのが間違いじゃ」
そうして言葉を重ねられ、完全に心動いている様子のアンテロス。……が、どうしても最後の一押しだけは、納得出来ないようだ。
「いや、そこはリアルで最後まで完遂すべきでしょ。ラブな物語もいいけど、現実でこそ成就を目指すべき!」
「むぅ、そこは譲れぬのぅ……」
人の心を強制的に動かす事を悪いと思っていないアンテロスと、それを阻止したいEDENとでは、芯の部分が一致しない。他のEDEN達にも視線を向けるが、この状況を打破する言葉を持っている者はいない。
ただ、逆に言えば芯の部分以外は共感を得られていると言う事でもあり、アンテロスの方も戦闘再開と言う気分ではないようだ。
「気を逸りすぎない事が大事だと、ボクは思うけどな」
「うーん……気が逸りすぎない、ねぇ……」
シキがそんな風に言葉をかけると、深く考え込むアンテロス。こちらの言葉に納得したと言うよりは、何か別の事を考えているようで――。
「……よし、分かったわ。ここはひとまず保留で。ちょっと着いて来なさい!」
「え……っと? は、はい……!」
そんな事を言って突然身を翻すアンテロスに困惑するアリスだが、早く着いてこいと重ねて促されると、慌ててそれを追っていく。
他のEDEN達もアンテロスに言われるがまま、それに同行し――。
「まあ、戦う気がなくなってくれたなら、それは良かったぜ。……ん?」
「……そういえばあんたの顔、よく見てなかったけど、王子様系よね……」
そしてその道中、ふとアンテロスは振り向き、晶をじーっと見つめる。その強い視線に少したじろいだ晶に構わず、その身体にまでジロジロと視線が向かう。
「な、なんだよ」
「……胸が、ねぇ。王子様系は、やっぱスレンダーが王道でしょ」
そしてふぅ、とため息をついて、首を横に振るアンテロス。そのまま前に向き直り歩いていくその背中を見つめ、しばし呆然と立ち尽くし。
「なんだってんだよぉ!」
「ええと……げ、元気出してくださいね?」
納得いかねぇと叫ぶ晶を、思わず慰めるレミィであった。
第2章 日常 『カフェで一休み』
「いらっしゃいませー」
そうしてアンテロスがEDENを連れてやって来たのは、一件の喫茶店だ。学校帰りのJKなどがたまり場にしており、やや騒々しい――つまり、多少大声での雑談に興じても問題ないタイプの店である。
そこの広めのテーブルを取って、EDEN達にも座るように促すと、飲み物を注文するアンテロス。
「あんた達もなんか頼みなさい。喉乾いたでしょ、よく喋ったし暑いし」
そうして一通りの注文が終わり、飲み物が運ばれてくる。グラスの烏龍茶を一気飲みしたアンテロスは改めて、こちらをじっと見つめて。
「過程が大事だと言う、あんた達の主張は分かったわ。だったら聞かせなさい、あんた達の萌えシチュを!」
なんか、そういう事らしい。
「顔カプこそ至高だと思うあたしにとっても、思わず『イイ!』って思える萌えシチュを語るのよ。それで納得したら、今日の所は引き下がってあげるわ!」
なんか、そういう事になった。
「こんな展開になるとは思いませんでしたよって!」
「まさか、簒奪者とオフ会とはのう……」
思いもよらない展開に、若干の困惑を見せる丹野・脩里(|悪魔憑きの生ける骸《ディーモンホスト・デッドメイデン》・h00506)や詠・ミヤビ(チャクナン・ドロップアウト・h12714)。
とはいえ、必要ない戦いをしなくても良いのは悪い事ではない。早速、アンテロスを説得すべくシチュ語りに――。
「お待たせしました。ホットサンドセットとカルボナーラ大盛りになります」
入る前に、脩里の前に食事が運ばれる。非常識な量とまではいかないが、143cmと言う小柄な身体からすると、若干想像がつきにくい量だ。
「……食べ切れるの、それ?」
「お腹空いてましたしモリモリ食べますよ! なので、萌え語りはお先にどうぞ!」
アンテロスの疑問に自信をもって応えつつ、食事を始める脩里。先を促された他のEDEN達は顔を見合わせ、シキ・イズモ(紫毒の鳥兜未遂・h00157)が首を傾げる。
「うーん、萌えシチュ、かぁ……ボクには中々難しい注文だなぁ」
「あんたの心の赴くままに喋れば良いのよ。さあ、カモン!」
ふんすと鼻息も荒く、机を叩き求めて来るアンテロス。シキはしばらく首を捻っていたが、思いついたように指を立てて。
「ああそうだ、同性カップルだったら双子なんてどうかな?」
「ほほう? 良いわね……同じ顔の美少女同士!」
その言葉に興味を惹かれたのか、アンテロスはさらに先を促してくる。その勢いに引き出されるように、シキも徐々に滑らかに言葉を紡ぎ出して。
「そう、同じ顔だからこそ、周囲から同じように見られている。けど、自分たちだけはお互いの個性をしっかりと見れる。そういう感情がいつしか……」
「禁断の恋って訳ね、くぅぅ、なかなか良いじゃない!」
興奮した様子で頬を紅潮させ、何度も頷くアンテロス。だが聞いていたミヤビの方は、その内容に首を傾げて。
「……双子と言う事は、姉妹じゃろ? 良いのかの?」
「ま、ボクの主食が毒だから……かな?」
毒が主食と言うのは文字通りの意味のはずだが、概念においてもそうなのか。こちらも首を傾げてそう言いつつ、アンテロスへと視線を向け直し。
「関係性から生まれるカップルとしては、結構味がすると思うんだけど……?」
「うーん、確かに良いわ。でも、結局顔カプって気もするのよねー」
確かに『同じ顔』と言う意味では顔カプであるし、けれど同じ顔と言うだけでは生じない双子の関係性でもある。少し悩んだ様子を見せるアンテロスに対し、今度はミヤビが話し始める。
「そうじゃの、先ほどの流れを汲んで王子様とお姫様の話にしようかのう」
「王道よね!」
当然アンテロスは、すぐさまそちらにも食いついて来た。うんうんと頷くアンテロスに対し、さらに語りを続けていく。
「王子様は恋を知らずお姫様は別の婚約者がおる。二人出会って一目惚れからの悶々とした日々。気持ちが高まり、最後は駆け落ちじゃ」
「駆け落ち! ほうほう」
「心中とか駆け落ちは、大正文学の一番熱い恋愛でのう……わしは自由恋愛が叫ばれた時代の出身で、浪漫を感じるのじゃ」
見た目とは裏腹の老成した様子に、それに合わせた趣味嗜好。大人びたと言うよりは老人にも見える落ち着いた様子で、ミヤビはアンテロスに声をかけて。
「恋愛とは、命を懸ける行為じゃから……そこへおぬしがいたずらに手を入れたとして、責任はとれるかのう」
「アタシだって命は賭けてるわ!」
まあ、そのためにEDENとの戦いも辞さない訳だから、確かに命は賭けている。はた迷惑な話だが、アンテロス自身にとっては本気で真剣なのだ。
本当にはた迷惑な話だが。
「わしの主張の一番大事な所は……御本尊に手を出してはいかん。本人の気持ちが大事という事じゃよ」
「でも、駆け落ちなんてするくらいなら手を貸してあげるのも良いんじゃないかしら?」
うーん、とお互いの相違点に悩んでいる……間に、脩里の前の皿は、いつの間にか空っぽになっていた。
「ごちそうさまでした」
「全部食べたんだ」
アンテロスが驚きながら視線を向けてくるのに、澄ました顔で紙ナプキンで口元を拭っていく。そして彼女もまた会話に参加しようとして……そこで首を傾げて。
「しかし……シチュ語りって改めてやろうとすると難しいカモ?」
フェチ語りならいくらでもイケるんだけどなぁ、と思案する。そしてぐるりと、アンテロスとEDEN達を見回して。
「……とはいえ、いっそこの状況こそが『そう』かもしんないですよね」
「ん? どういう事?」
理解出来ずに首を傾げるアンテロスに、
「アテクシ達はこうして同じ卓についてるワケですよ。アンテロス尊師をはじめとした、美少女もいる」
美少女ではないミヤビが微妙な顔をするが、そこは重要ではないので横に置く。大事なのは――。
「みんな考えるコトは違ったり合ってたりする訳で、それを伝え合い、理解を示したり示さなかったり。それがミソです」
実際、ここには顔カプ派がいて、インモラル好きがいて、見守り派がいて、フェチ派がいる。
みんな違うからこそ新しい萌えシチュが生まれるのだ。
「台詞が無い百合漫画が、百合小説が有りますか?」
「でも、百合の一枚絵も良くな――」
「それに言葉と言葉を交わし合うことで、そこから相手の新たな魅力を見つけたりもするんです!」
アンテロスの反論を、(ちょっと同意しかけたので)勢いで押し切るように言葉を重ねる。いや、言葉の勢い以上に、その様子には熱量が籠もっていて。
「言葉が尊みを生み出すコトも有る、これぞカプの醍醐味というもの……!」
「うむむ……それは分からないでもない……!」
そもそも敵味方シチュは王道だし、と唸り声を漏らすアンテロス。脩里の言葉は大分感銘を与えたようで、さらにシキやミヤビの語りにも当然心揺さぶられている。
それゆえしばし悩んだ後に、彼女は頷き立ち上がった。
「分かったわ。今日の所は引き下がってあげる。あんた達のシチュ萌え、覚えておくわ」
今回の一件だけでアンテロスの考えを覆す事は、もとより不可能だ。だが、ゾディアック・ミラーが輝く限り、星詠みはアンテロスの事件を予知し続けるだろう。
それらにおいても友好的な態度を取り続ければ――今日よりもっと平和にシチュ萌え語りを出来る日が来るかもしれない。
「できれば戦場より、秋葉原の本屋で会いたいものじゃがのう」
「最近は新宿とかじゃない?」
イズモの言葉に突っ込みを入れつつ、ともかくEDENとアンテロスは戦闘を再開する事なく、平和裏に別れる事となった。
彼女との関係がどうなるか、それはもうあと半月程度を待つ事になるだろう――まあ、大分結果は見えている気がするけども。