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まよひが初詣

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見下・七三子
椿之原・希
黒後家蜘蛛・やつで
天國・巽
國崎・氷海風
千堂・奏眞
大海原・藍生
ジェイ・スオウ
ジズ・スコープ
白兎束・ましろ
ラブ・バレンタイン
猫間・百
鷹野・夕貴
八鵠・結慧
エルンスト・ハルツェンブッシュ
黒月衆・阿弥牙

 正月――神社に屋台がでるらしい。その屋台も色々な店があるという。
「吾輩、行ってみたいのだよ!」
 屋台のごはん、文献でしか見たことがない――となれば、ラブ・バレンタインの興味も向く。
「わあ、お参り! そういえば、あんまりちゃんと行ったこと、ないかもしれません」
 見下・七三子も気になる様子。
「私もご一緒してよろしいでしょうか……え、お着物着るんですか? ふふ、それも初めてです」
 と、言っていたのはしばし前。七三子は天國・巽が選んだ空色の訪問着を纏っていた。
「ふぅ………お参りする前から仕事をやり切った感があるよー」
 八鵠・結慧は皆に着せて一仕事終えた顔。
「七三子のお姉さんも綺麗っ! 流石、巽さんセレクトっ!!」
 裾に白と濃青で描かれている青海波。すごくきれい、と言って七三子は気付く。
「あ、七三子だから『波』なんですね」
 着付けした結慧に七三子は礼を言う。帯はジェイ・スオウにお薦めしてもらった立て矢結びベースに、リボンの羽根のアレンジ。
「七三子の帯。素材あってノ……とはコレ正にダナ♪」
 とても素敵デス、とジェイは笑む。
 椿之原・希も神社でしっかりお参りするのは初めて。
 希の振袖は赤い生地に椿と糸車が彩られた古典柄。帯は、ふっくらまるまるした雀――ふくら雀が描かれている。どちらも縁起物だ。
 お嬢様専属メイドとして、白兎束・ましろも準備を。
 希とやつでと三人お揃いの振袖と帯。ましろはメイド魂のホワイトブリムを装着。
 黒後家蜘蛛・やつでも、黒後家蜘蛛家との契約のためとはいえ、実家のお屋敷でお仕事三昧では煮詰まってしまう! とましろに引っ張りだされた。
 椿と糸車の振袖だが、ましろは白地に白の椿。やつではピンク生地に椿の色。帯の柄も少しずつ違い、やつでの雀は眠りこけているから苦手でも大丈夫。
「希ちゃんもやつでちゃんもましろちゃんもかーわいいなぁ~♪」
 似合う~と三人並んだ姿に結慧は綻ぶ。
「百ちゃんもかーわーいーいー!!」
「ありがとにゃ! これでカンペキにゃん♪」
 猫間・百はくるっと回る。
 今日は幼女の姿で晴れ着の上に、大人な姿で着ている男物の羽織を。そして首元にはもこもこのマフラーだ。
 出来る限り自分で着付けをしたが後から整えてもらい、ばっちり。
「結慧さん、綺麗してくれてありがとにゃーん!」
 百はぴょんと小さく飛び跳ね、結慧の紺色の紬の着物を見て首を傾げた。
「柄がにゃいにゃ?」
「えっ? 皆に比べて私は地味じゃないかって? こういう着物も、実は乙なんだよ~」
 にゃるほど~と百は頷く。
「しかし晴れ着面子はよく似合ってる、着物たちも喜んでるわ。特にエル、GJ!」
 口端をあげ、イイ笑顔を巽は向ける。
「皆みんにゃお揃いにゃーん! 素敵にゃーん!」
 晴れ着を身に纏えば、それだけで嬉しい。百も皆の姿を見ようとうろうろ。
「エルさんも似合ってるにゃーん♪」
「着ろって言われたからには着てやるともさ……!」
 エルンスト・ハルツェンブッシュも堂々と晴れ着を着ている。
「エルンストのお兄さんは割り切ろう?」
 似合ってるよ、と言葉にせず笑む結慧。
「『割り切れ』って言われたし……!!」
 エルンストは彼、と呼ぶべきなのだろうが|彼《彼女》なのだ。
「ジェイのお兄さんも素敵な装いだね」
 エルンストに頷きつつ、結慧はジェイを見る。
 この日を凄く楽しみにしていたジェイは、モフモフの襟巻と、唯一から貰ったクリスマスプレゼントの羽織に初めて手を通した。
 団体行動が初めてなので少しだけ緊張中だが、晴れ着姿を見てほっこりしたり、綺麗な着こなしは今後の参考にしたいと、その視線は皆に向いていた。
 そんなジェイの様子を大丈夫か? と心配するエルンスト。すると何故か手が伸びてきて頭をなでなで。
「エルンストもすごーく似合っテル♪」
「そりゃ似合うとも、ボクだし!」
 と、ぷんすこしながらない胸を張るエルンストは、胸を張った後で気付く。
「……あれ……これ怒るところだったか……?」
 ううんと首を捻りながらエルンストも皆の後をついていく。
「皆綺麗な着物姿でいいねぇ、似合ってるよォ! こういうのを華やかっていうのかなぁ」
 そう言うが、國崎・氷海風も和風スチームパンクな着物で華やかだ。
「スチームパンクっ! いいねっ、グッド!」
 結慧はそういうのもあり! と楽しそう。
 大海原・藍生も、紋付き袴を借りてお参りに。
 黒の着物で、袴には藍色の地に笛、鼓と楽器が刺繍されていた。
 結慧はその着物もいいね、と藍生をまじまじと見る。
「藍生くんも素敵な柄の着物で似合っているよ」
 そして千堂・奏眞は結慧に引っ張られつつ。
「千堂くんは……………うん、流石精霊さん達のセレクト」
 結慧はその姿を見て、クスクスと声を零す。
「似合ってるけど、若干着物に着られている感もあるかもね?」
 奏眞は巽から借りた羽織袴を。上は明るめな紺色で、縦のストライプ柄の濃い目のベージュの袴を合わせている。それはいつも一緒にいる精霊たちが選んだものだ。
 奏眞の精霊たちは似合ってるとご機嫌。その精霊たちへ奏眞はお願いする。
「小さい子を中心に気にかけてもらってもいいか?」
 もしはぐれても、精霊たちの誰かがくっついていれば奏眞と念話で連絡がつく。
 その後ろからゆるゆる歩くのはいつもと違って、大人の人の姿をとっているジズ・スコープ。
「……狩衣姿ですと、関係者に間違われてしまうのですよね」
 ジズは落ち着いた色合いの服、その上に青を纏っていた。
「皆様今日のお召し物も、とても良く似合っていらっしゃいまして素敵ですね」
 ジズは穏やかに微笑む。いつもは見上げているけれど、今日は見下ろすことになる人達もいる。
「かどわかされぬよう、気を付けてくださいね」
 そう言ってジズは柔らかに微笑む。
「皆、揃ったのかな? それじゃぁ、はぐれないようにしながらお参りしに行こっか」
 結慧はそこで気づく。
「あ、履き慣れてない下駄だろうから希ちゃんや七三子のお姉さんたちは段差とか気を付けてね?」
 いざとなったら自身の能力の一部である紫の蝶でフォローするつもりで結慧は声をかける。
「ま、正月だしな」
 紋付き袴の正装に雪駄を履いて、巽は腕を組み後ろからゆるりとついていく。
 今日は引率。誰かはぐれてないか? とその目はゆっくり皆を追いかける。
 巽の隣には百がいた。
 |家主《やにゅし》にょ|隣《とにゃり》をできる限り歩きたいにゃん、と下駄ではなく歩きやすいブーツを履いていた。
「日本では年明けに神様にお参りに行くのだね」
「ふむふむ、ハツモウデというのかい?」
 こうしてみなみなの笑顔が集う場は実に愛しい、とラブはくるりとあたりを見回す。
 他の参拝者も皆笑顔で、心がほっこりするというもの。
 鷹野・夕貴も今日はお洒落して。
 その身に纏ったのは渋藤色の逆さ富士柄の着物。それは巽が用意してくれたものだった。
 身長205センチの夕貴に普通の着物はあわない。でもこの着物はそもそも人が着ていた着物ではなかったのだ。
 巽曰く、だいだらぼっちという妖怪のものだったらしい。
「でっかい妖怪が着てたとか何とか……何で巽さんが持ってるんすかね……?」
「俺のじゃねェよ、妹弟子の晴れ着さ」
 夕貴に、丁度身体に合って良かったと笑いつつ、巽は足元の音に瞳を細めた。
 玉砂利を踏みしめ、本殿への人波に乗る。皆とはぐれてしまうかも、と思ったが巽の周りにいるようだ。
 今日は皆でレイギサホーを学びに神社へ行くっす! と意気込んでいた夕貴。
「……なんか難しそーなんすよね、レイギサホーって……とりあえず巽さんに教えて貰いますっす」
 巽さんに教えてもらったら大丈夫。そう思いながら夕貴は足を運んだ先の様子に瞬く。
「人多っ!」
 神社への参拝客は多い。皆正月は当たり前のように初詣に来るのだ。
「てか、目立ってません? ……あ、自分も目立ってます?」
「てかすげェ目立つ集団な。ほら阿弥牙、呑んでねェで行くぞー?」
 巽と夕貴の声が重なる。
「まあでもこの個性的な集団なら仕方ないっすねー」
 むしろ注目を集めてドヤ! くらいの気持ちで! いきましょう! と、夕貴は明るく笑ってみせた。
 賑やかな中で、黒月衆・阿弥牙はいつも通り、ド派手な着物を花魁風に着崩しているが、絶妙なバランスで脱げない。
 こんな風に着てみる? と阿弥牙は笑って言うのだ。阿弥牙の着方も素敵なのだけれど。
「やっぱり、私にはちょっと、早いので」
 七三子は照れつつ、力を貸してくれた皆を見る。
「えへへ、みんなの力で、今日の私はばっちりです。ありがとうございます! なんだか自然と背筋が伸びちゃいます」
 ラブも着物が少し気になったけれど、和服は慣れていないのでいつも通りの洋服で。
「みなみなの着物もとっても似合っていて実に愛らしいね」
 そう言って、そうだとスマホを手に。
「ふふ、スマホでみなみなの素敵なお姿の写真を撮っておこう」
 その写真を撮り終わって、ラブは笑む。
 そして気付いた。列をなしている人たちがいることに。
 あれがきっとハツモウデ、と思いながらラブは巽を見上げた。
「ハツモウデの参拝というのはどうやるので?」
「いよいよ念願(?)のレイギサホーっす!」
 その声を聞いて、そそそと希はやつでとましろの傍に。
 ちっちゃい組が集まっている姿は後ろから見るとふくら雀の集い。
 体を寄せ合うのは、寒いからでもある。集まればあったかパワーと笑うやつでの袖をましろが引っ張る。
「お嬢様後であそこに寄っていくっす!」
 ましろは気になる屋台をちらちら。
「……やつでさん、ましろさん、神社にお作法があるってほんとうなのですか……?」
「ほうほう神社のお作法ですか」
 そう言って、ましろをちらり。
「ましろ! 今こそ万能なるメイドぢからを見せつける時ですよ!」
 お任せ! とましろは胸を張る。名家の黒後家蜘蛛家に仕えるメイド見習いとしてお作法はばっちり。ばっちり!? の、はず!
 でもその杞憂も大丈夫そうだ。聞こえていたのか、わからないなら教えてやるよと巽が笑う。
「参拝の礼儀? 見てな」
 じゃあここでは、と巽は手水の前に立つ。
「ここで穢れを濯いでから神様にお会いするんだ」
 柄杓を持ち、その柄を清める。作法に則って、穢れを清めていった。
 夕貴は巽がやるのをほうほう……なるほど……と見つめていた。
「そういうことっすか……」
 だがまだ序の口。本番は、本殿に着いてから。
「ふむ、この入口から礼を尽くすのですね」
 海外にいたラブはこういった事には疎い。感心しながら見よう見まねでなんとなく真似をする。大丈夫、できてると奏眞は頷く。
「錬金術の師匠に教えられたんだよ。七五三? って言う奴の時に」
 覚えておいて損はないからって叩き込まれたんだよ……と零しながら奏眞も手水で清めていく。
「あ、天國さんが教えてくれるのですか? わーいっ!」
「家主様が教えてくれるなら安心ですね」
 しっかりお作法を学んで神社の神様にご挨拶するのですー、と希も微笑んだ。
「やつでの信ずる神は違えど、ご近所づきあいは大事なのです。……おててつめたっ」
 そしてやつでもその真似を。
「それにしても神社仏閣? なところに行くと背筋がしゃんとしますね。ちゃんとお作法ができるといいんですが……」
 と、ぴしっと背筋を伸ばしていた藍生は手水の前で足を止める。
「あっ、そうですね、穢れを払ってから神様に挨拶しないとです」
「そっか、海外から来られた方もいますし、お参りのルールって独特ですもんね」
 私も知ってはいますけど、意味までは知りませんでした、と勉強になるなあと七三子はその話を聞いて、真似をする。
「ちゃんと手を清めて、わあ、冷たい。ハンカチ、ハンカチ……」
 藍生もその隣で手を濯いで。
「ひゃ、冷た!」
 その冷たさに思わず声が零れ、七三子と藍生の目があい笑いあう。
 ひしゃくを手に、左手、右手、口を濯いで柄杓を清めて。
「寒いですけど、なんだかやっぱりすがすがしくていいですね」
 ひんやりとした水の感覚。なんだか心が澄むような気がして、七三子は微笑んだ。
「参道の真ん中は神様の歩く場所だから、歩くなよ」
 巽の言葉に、参道の真ん中は通らないと端へ。
 ジズも鳥居の前で拝殿に向かい一礼。
 巽のガイドに耳を傾けつつ、うんうんと頷く。
 列の一番後ろからゆるりと、賑やかな様子ににこにこしながら、ジズも参道の端を歩いていた。
 そして本殿――巽は、賽銭を入れて、本坪鈴を鳴らしたら二礼二拍手して祈願する、と簡単に教えた。
 作法がわからなかったジェイも、巽の説明を聞いて見よう見まね。
「お金は……5枚クライでイイカ?」
「なァに、細かいところは間違えたって赦してくれる。てことで、ジェイのお賽銭も、自分の気持ちで良いんだぜ?」
 つーかちょい表情硬くねェ? 大丈夫かと巽はちょっと心配。
「ハジメマシテ、ジェイとイイマス。ヨロシクお願い……シマス?」
 ジェイは首を傾げつつ、まず挨拶、
「あ……、お願い。美味しいモノを沢山食べたいノデ美味しい食べモノに沢山、出逢えるようにシテクダサイ。頑張ル(?)ノデ」
「なるほど。そういう願い事の仕方もあるんだな」
 ならば、と自前の五円玉を投げる奏眞。
 願うのは√ウォーゾーンの復興だ。
「えっと、お賽銭を入れて、ぽんぽんって手を叩いて……あれ、お辞儀を二回するのが先でしたか?」
「おお……希様、落ち着くのです。ツーヘッドダウンツークラップなのです。ペコペコパンパンですよ!」
 あたふた、ちょっとだけ悩んだ希にやつでは笑いかける。
 巽は家内安全を祈りつつ――希の頭をぽんとして笑う。
 くるくるお目目であたふたしていたからだ。希へ、あってるぞ、と言いながら、改めて自分の気持ちでいいのだと巽は告げる。
「あ、天國さん……よ、よかったのです。お作法よりも気持ちなのですね」
 それなら、と希は改めて祈る。
「あの、あの、去年一年無事に生き延びました、今年も生き延びたいのでどうか神様も見守っててください」
 しっかりお祈りして、にこにこの笑顔になる希。きっと神様にも届いているだろう。
 ごそごそしてやつでは気付く。
「はっ、お賽銭……やつでは五円玉をもってないのです。ましろ! 今こそメイドぢからを示す時ですよ!!」
 そう零すと、ほらと巽がちゃりんと渡してくれた。
 ましろもお賽銭を貰って、おりゃっと放り込み、鈴をがらがらと鳴らす。
「二礼二拍手して……お願い事っすね! むむむー、悪いヤツをましろちゃんが爆破して平和になりますようにっと!」
 最後に一礼したならぱっとやつでに笑顔を向けるましろ。
「これでコンプリートっす! さぁ、早く屋台を見て回るっすよ♪」
 と、すでに行く気満々のましろ。
 しかし、やつでの足は止まっていた。
 そのやりとりをみていたジズは「そういえば、四拍手のところも御座いましたね」と言いながら、やつでがじっと何かを見ているのに気づいた。
「うーん、それにしてもこのクソデカロープはいいお仕事ですね」
 一見雑に見せかけてこの一本一本も細い束で編まれたこのクオリティ。霊験を感じます、と言うやつで。
「より合わせればどんな名刀でも切れないほどの強さになる。なんだか人間みてェだよな」
 やつでの紡いだ言葉に巽はうんうんと頷く。
 巽がシメナワと正式名称を教え、今後の糸編みの技の糧とさせて頂くのです、とやつでは真面目。
 だがその後ろで思わず反復するジズの前で、やつでは手を合わせる。
「ぐっじょぶです!」
「くそでかろーぷ……」
 そして先程のことも思い出す。
 ペコペコパンパン。
 ふふ、と思わず零れそうになった笑いを堪えるジズ。
 とても可愛らしい、と思いながら鳥居をくぐったなら、一礼を忘れずに。
 その傍らで夕貴もふんふん頷いて、見よう見まねでやってみる。
「え、こうじゃない? む、難しい……つまり……次回にこうご期待っすね! あれば!!」
 ちょっと違った気もするが、きっと神様も目を瞑ってくれることだろう。
 そうっとお賽銭を納めたのは七三子だ。二礼二拍手して、そうっと紡ぐ。
「いつも大変お世話になってます。これからも頑張りますので、見守っててください!」
 しっかりその心を伝えて礼をしたら、最前列からそっと離れる。
 エルンストは作法がしっかり身についている。日本育ちであり神社仏閣にはそれなりに行っている。
 二礼二拍手し、神様へと言葉を向けるエルンスト。
「昨年はありがとうございました、本年もよろしくお願いします」
 それから、と言葉を続ける。
「ちょっとした目標があるので、引き続き助力ください……」
 目標は内緒で、エルンストは口にしなかった。
 いざ、お参りと藍生が手にしていた五円玉。
 そのピカピカさが巽の目に入る。
「おお? 藍生の五円玉ピッカピカだなァ、神様も感心してるぜきっと」
「えへへ、神様にお渡しするものなので、きれいにしてきたんですよ~巽さんっ」
 藍生は頑張って磨きました、と笑顔だ。
 藍生の分は大丈夫だなと言って、巽はほら、と五円玉を持たない者たちの手にちゃりんと一枚渡しながら、これが一番大事と笑う。
「ほんで、願い事は神様が叶えてくれるんじゃなくて、自分で叶うよう頑張るので見守ってて下さいって願うのが基本な」
 そして、巽はあるか? と百の手を見る。百は小さながま口に小銭を入れてきてあるにゃと胸を張る。
 そして百は全ブッパ、とお賽銭をチャリンチャリンと入れた。
 そしてコレであってる? あってる?? と皆を見る百。
 巽がうんと頷いたのを見て、鈴を鳴らして礼をし、二拍手。
 百は――今年も皆と仲良く暮らしたい。今年も美味しいもの沢山食べたいと祈った。
 藍生も五円を投げ入れて、お詣りを。
(「歌も絵も極められますように」)
 願い事は、あくまで願い事。藍生は頑張ろうとその心の中で続ける。
 皆の参拝の仕方を氷海風はふむふむと見ていた。
 一応礼儀作法は叩き込まれたので大丈夫なはずだが、間違えているかもしれないと自分の記憶とのすり合わせは完了。
「こうしてっと……うんまぁまちがえてないでしょぉ!」
 氷海風は二礼二拍手して、そこで何をお詣りするか決めていなかったことに気付く。
「お願い事は商売繁盛しますようにってしとこうかなぁ、あはは、まぁ、色々頑張るのでぇ!」
 しっかりと氷海風もお願いを。
 その隣でラブは参拝の様子を見て、できそうと頷く。
「なるほど、ここで祈願を」
 宗教は違えど平穏を祈り愛を尊ぶのはどこも一緒なのだなぁ、と思いながら、皆に倣う。
 でも神様にお願いすることはぱっと出てこず、月並みながら平穏を祈っておいた。
 ジズも自分の番が来たら|五圓《御縁》を入れ、鈴の音を軽やかに響かせる。
 二拝二拍手して、ジズが神に伝えるのは。
(「皆と居れる日々に感謝を」)
 そして静かに一拝。
 その様子を見て、オレもと阿弥牙もお詣りを。
 いつもなら愛煙家で煙管も手にしているのだが、今日は吸っていない。人の迷惑になることはしないのだ。
 でも酒は迷惑になってないから飲む。
「神様なんや信じてへんけど、まあまあ皆に倣ってやっときまひょ」
 鈴をガラガラと鳴らす。
「がらがら鳴らしてガラガラヘビや。わはは」
 そんで願いは、と考えるが特にないから、今思いついたことを。
「美酒に出会えますように」
 これくらいのちょっと嬉しい願いがいい。あんさんにも、と酒を掲げて御供えの気持ち。
 お詣りが終われば、門前町へ。
 食べ歩きターイム! と結慧の声は弾む。
 たくさん屋台がならんでおる、とラブの瞳はきらきら輝く。
「とっても楽しみだったんだ」
 そして藍生も、屋台を楽しみにしていた。
 そこかしこから良い香りが漂う。どれもこれも食べたい、そんな気持ちはあるもののラブはちゃんと自分を知っている。
「ラブさんは何食べます? 俺は、食べたいものを!」
「……全部食べたいけど全くお腹のキャパが足りないのである」
「ラブ、気になるのがあったら分けるぞ?」
 奏眞は自分用、精霊たち用と皆に分ける用を買うし、とラブに言う。
 何を手にするかラブは迷った。けれど、その赤いつやつやに目が止まる。
 りんご飴だ。
 ラブはそれを買って食べてみる。甘くてツルツル。中のりんごはしゃくしゃくでとても美味しい。
 これは、と食感と味に瞬きながら美味しいと綻ぶ。
 そして藍生は匂いに引かれて肉串を。着物が汚れないようにと気を付けながらぱくり。じゅわっと広がる肉汁ににこにこになる。
「大海原くんも食べるかい?」
「あっ、りんご飴いただけるのですラブさん? ありがたいです」
 気を遣わせてもらっちゃったかな、と考えつつも藍生はりんご飴のお裾分けを貰う。可愛い子はたくさん食べて大きくおなり、とラブはにこにこだ。
 そして夕貴は、とりあえずかたっぱしから色々買い込む――お財布ぢからが強い。
「これが大人の財力ってやつっす、どや!」
 両手いっぱいに持って、幸せも一杯だ。
「ようし、まずはあのじゅーって焼いてるお肉を食べるっすよ!」
 松坂のぎゅーを所望するっす! とましろのリクエスト。
「肉! あたたかみと美味しさの合わさった匂いがやつでを呼んでます!!」
 よい店を見つけておきましたねましろ。さすがのメイド力なのですとましろを褒めるやつで。
 その後も焼きそばにじゃがバター、わたあめにぜんざいとふたりで幸せ食べ歩き。
 氷海風も軽やかに、賑わう通りへと飛び込んでいく。
「どっちかって言うと俺は参拝より屋台の方に興味があって来たのでぇ?」
 ささっと済ませて屋台に向かいたいなぁ! と思っていた心のままに氷海風は屋台の方へ。
「どんなのがあるんだろ、楽しみぃ」
 甘いのもいいけどやっぱり食事系かなぁ? と氷海風は最初に焼きそばを。
 ラブさん一口、と差し出すけれど。
「待っておくれ、吾輩立ちながらお箸使えない、まだそのレベルに達してない」
「はい、あーん?」
 それなら、と一口分、箸でつまんで口へと運ぶ氷海風。
「……ソースがいい香り。うーん美味しい」
 ラブは口に運ばれるままひとくち。
「美味しかったぁ?」
 氷海風もひとくち。ソースの匂いがたまらない~と言いながらもうひとくち。
 その横でじゃんけんで買える本数が変わるチョコバナナで勝負中のジェイ。
 最初は負けたが今は二回目。そして勝利して、今両手には四本のチョコバナナ。
 食べマス? とお裾分けしつつ次は何を食べようかと楽しくなる。
 並ぶ店を眺め、巽は鮎の塩焼きを手にする。食べようとすると――集う視線。
「ああ、じゃあ鮎の塩焼き、一口やろうか。ラブ」
「……寒い中にほかほかの魚はずるい。とても香ばしい」
 美味しい、と頬を抑えてラブはもぐもぐ。
「天國さんも1口くれるって! 色々食べたかったから有難いねぇ!」
 その声を聞き逃さず、氷海風も欲しいと飛びついてくる。
「って、おいおい、お前らにまでやってたら俺の食う分無くなるじゃねェか」
 そう言いながら、まぁいいかと巽は鮎の塩焼きを渡してやる。
「焼きそばもどぅぞぉ?」
 氷海風は貰ったらお返しと、交換を。皆と交換すれば、色んなものが食べれそうだ。
 いいよね、こういうのも! と氷海風は嬉しそうにする。
 皆が食べているものはどれも美味しそうに見えてジェイの荷は増えていく。
「お持ち帰りデキマスカ?」
 今食べる用とお持ち帰り用。最近はスマホでぴっとできる店もあり、簡単だ。
 さっそくイカ焼きをもぐもぐと食べているその傍らで、ぐるぐるのトルネードポテトと戦っているエルンスト。
 エルンストが食べている間に、ジェイはぱくっと食べ終えて、そして気になるものを見つけていた。
「エルンスト! あれミテ!」
「わたあめ!」
 と、食べているとジェイが言う。指差した先を見ればくるくるとふわふわが作られていた。
 しかしエルンストはあのわたあめよりもすごいわたあめを見ていた。
「あっちにもっとすごいの……あったよ」
 こっちこっち、と食べかけのトルネードポテトを手に、あそこと示した。
 そこにあるのはでっかいレインボーわたあめ。
「みて、ゆめかわ」
「すごい! 七色ゆめかわ……! デッカ! ジズもイル!! コレは絶対買いダヨナ♪」
 そう、ジズがすでにしゅっと並んでいるのを見て、ジェイもさっと並ぶ。
「食べるのは大変だけれどね! いっしょにたべる?」
「食べまショウ! あとで写真も!」
 そして今まで皆の最後尾から消えていたジズはほくほく笑顔だ。
 皆の所に戻ってきたなら、両手にビッグサイズの巨大わたがしを持ってにこにこの笑顔だ。
「そう、ひとりで2本!!」
 サイズは屋台の方に交渉致しました、とでっかいふわふわを手に満足気。しかしその交渉は簡単なものではなかったのだ。
「やはり子供姿の方が屋台は巡りやすいですね……この姿ですと少々しぶられました」
「ジズにジェイ、一体どこに…………って、すごいサイズのわたがしだな?」
 その手にある物を見た奏眞は思わず零す。
「ジェイさんも購入に来られてまして!」
 ジズはわたがし仲間が増えてにっこにこ。
 さらにもう一人、夕貴もしっかりわたあめを手にしていた。
「ラブさんには……そっすねえ、わたあめとかどうすか? はい、あげるっすー、ちょい食べにくいかも? でも甘くておいしいでしょ!」
 夕貴もわたあめに、りんご飴に、たこ焼き、焼きそばといろいろ持ちつつ、自分ももちろん食べていく。
「鷹野くんの食べてるモコモコはわたあめというので? とっても甘い」
 口の中で溶けていく、とラブは不思議な食感に驚く。
 もうちょっと食べたかったかも、なんて思っていると。
「おや、ラブさん。わたがしは如何です?」
 ジズは皆さんも、どうぞと差し出す。ふわふわのでっかいわたがしは2本あるから、皆でわけても大丈夫。
「ジズくんのも同じ……だけれど色がちがうのだね。……このふわふわ本当に美味しいね」
 ジズは「たつ様もわたあめいかがです?」と巽にもお裾分け。巽がちょっと摘まんで引っ張れば、ふわっと千切れた。
 思いのほかがっつりと。
「……ッふ、ふふふ、豪快にむしりましたね」 
 ごそっと消えたわたがし。ビックリした顔で、わたがしと巽を交互に見るジズ。
「なに、多く取り過ぎだ? そのわりに笑ってンじゃねェか……ん?」
 でもこらえきれずに笑っている。わたがし仲間嬉しい! と思う。尻尾がでていたら確実に揺れていただろう。
「って、鮎の塩焼きも美味しそう? わかった、わかった。買うから、|皆《精霊たち》はちょっと待っててくれ」
 と、さっき巽が食べていたのを見ていたのだろう。精霊たちのリクエストだ。
「巽、それどこの屋台で売ってたんだ? 精霊の皆も食べたいみたいなんだ」
「ああ、鮎、奏眞のツレも食べるか。店はあっちだ、一緒に買いに行こうや」
 奏眞のアホ毛がピコピコ動いている。どうやら奏眞も無表情だが気になっているようだ。
 わたあめも良いが、やっぱり鮎も一口では物足りず、巽は皆と道を戻る。
 その後も、ジズはふらっと消えてはイチゴ飴、とうもろこし、豚串、フランクフルト、はしまき、イカの姿焼き、食べ終われば次々にまた新しいものを手に合流する。
 さっきは豚串。
「嗚呼、ラブさん、肉類苦手でしたよね……大海原さん、よろしければ、豚は如何です?」
「頂いていいんですか? じゃあ一口!」
 さっきは牛。今度は豚。こっちも美味しいと藍生は綻ぶ。
「藍生。これ以上食べるの難しそうなら、オレに回してもいいからな?」
 奏眞は皆の心配もするが。
「あーっ、クレープにやきそば、たこやき、わたがし、ベビーカステラもいいですねぇ」
 今のところ藍生はまだ食べれそうだ。
 そしてジズのもう片方の手にはフランクフルト。
「百さん、フランクフルトのケチャップ等が別で頂けましたので、かける前に召し上がられますか?」
「にゃ! 一口!」
 そして結慧がひらひらと手を振るのが見えた。
 結慧は休めそうな場所を探して、折り畳み式の椅子をしゅっと準備していたのだ。
「あっちこっち歩いていると、足が痛くなるだろうしね」
 休みたい人は、遠慮なく言ってね~、と言いながらお土産用のものも預かったり。
 屋台で買った食べ物系は持ち歩くのは大変。異次元バックが大活躍なのだ。
 そこへふらふら、いっぱい食べたましろがやってくる。
「うぅぅ、帯がきつくてお腹が苦しいっす……」
「って、ましろちゃん大丈夫?」
 まぁそうなるか、と結慧は笑う。
「着物って、どうしても帯でお腹を引き締めてたりするから食べ歩きは要注意なんだよね………」
 ちょっとだけ緩めてあげるね、と結慧が着物をちょちょいと。
 たこ焼き! と希は手にし、きらきら輝く目で見つめる。
「おっと、たこ焼きは猫舌な人キラーだからね」
 たこ焼きと聞いて、結慧は紙皿をしゅっと。それを希は受け取ってさっそく。
「ラブさんもいかがですか? おいしいのです」
「この丸いの中にタコが? ……あっつ! はふ……おいしい。希くん、気を付けて食べてね、こやつ強いよ」
 ひとつ、爪楊枝にさしてあーんと口元へ運ぼうとする希。ラブはそこへ顔を寄せて、ぱくり。
 希からのお裾分けにはふはふ。きりっと表情を引き締め、強敵の存在をラブは告げる。
「はふはふ、ほふほふ……アツアツなのです、おいしいのです!」
 そして希も食べて、幸せの笑み。ほっぺには青のりがちょこんとついていた。
 そのたこ焼きを見て、お土産にしようとエルンストは向かう。その隣で焼きそばもあって、目玉焼きも乗せてくれる――買うしかない。二つ買いつつ、満足。
 余分は家で待ってるAnkerへのお土産とにこにこの笑顔だ。
 その頃、甘いものの屋台にも一行は集まっていた。店主、囲まれてちょっとびびってる。
 それはクレープの屋台だ。
「さてさて、クレープも食べたいけど、一口欲しい人居たらどうぞぉ。シンプルにいちごクレープにしようかなぁ」
 氷海風は悩んだ末にいちごクレープに。
 はい、それ一口ほしいですとジズがスタンバイしていた。
「美味しい物は、一緒に美味しく頂ける方々と食べた方がより一層美味しいですからね」
 ジズは幸せそうに微笑む。ひとりではなく、皆で食べるこの時間がかけがえのないもののようでもあった。
「ふっふっふっ………私はクレープを桃メインにして可能な限りトッピングてんこ盛りにしーちゃおっ!」
 ひと口食べたい人は手ぇ挙ーげてっ、と結慧は笑う。
「結慧は天才じゃナイノ??」
 結慧の頼んでるもりもりなクレープを見たジェイは瞳を輝かせる。
「オレもクダサイ!」
 前のめりに屋台の人に注文を。ちょっとびっくりしつつも、もりもりクレープがジェイの手元に。
「って、ジズさんも結構食べるね」
 結慧は先にもぐもぐしていたジズを見て、ふわんと頭にある三人が浮かんだ。
「大食い|四天王《ジェイ・千堂・ジズ・藍生》だー」
 百は走りだしたい欲を抑えつつソワソワ。しっぽもソワソワと忙しなく動く。
 ぴゃっと飛び出しては呼び止められ、戻ってきたり。
「!! 行き過ぎたにゃ!迷子は嫌にゃ!!」
 お子様スマホのGPSはあるが皆が見えない位置にはいかないように百は飛び出したり戻ってきたり。
「あ、みんな屋台を見るんですね。いいにおいがしますし、私も便乗しちゃおうかな」
 とは、言っても。着物を着ている――この格好であんまり食べ歩きをするわけにもいかない。
 そう思ってくるっと見回しているとふわりと良い香り。
 ベビーカステラだ。
 一口でひょいっと口にできる。分けられるし、余ったら持って帰ることもできる。
 七三子が袋を開けるとふわっと香りが広がる。
「ふふ。ベビーカステラの甘い匂いって、破壊力高いですよね」
 早速口にひとつ。美味しいと七三子の頬は緩む。
「はい、百さん、あーん」
 口を開けると七三子がひとつ放り込んでくれる。
 それを目にした希。ベビーカステラ……美味しそう。そして羨ましくなって、ちょこちょこと傍に。
「私も一口頂けませんか?」
「ふふ、希さんまで。はい、こちらもあーん、です」
 あーんと希もお口を開けて待機。七三子は微笑んでひとつ摘まむ。
「きっとヒトにとっては優しい味にゃー♪ 百にはちょうどいいにゃーん♪」
 美味しいと尻尾を揺らしながら、甘い味とは違う香ばしい香りがして、百の視線は釘付け。
 焼きもろこし。そしてイカ焼き。
 ちゃりんと、お賽銭と分けていたお財布を握って、百はその店へ。
 醤油少な目、味付け薄目で作ってもらえたら、百も食べれるのだ。
 ラブも、一口ずつのつもりがあっという間にもうお腹がいっぱい。
「……これ以上食べたら爆散してしまうやも」
「一応、|錬金術製の胃薬《グラトニーポーション》持って来たから、食べ過ぎでお腹がキツかったりしたら言ってくれ」
 それを聞いて、もらう、と飲み、これ以上食べるのはやめておく。
「あ、留守番組にも買っときませんとねえ」
 何が良いかな、と夕貴は再び屋台の並ぶ通りの中へ消えていく。
 そして――名物の漬物やお菓子を旅団で留守番しているみんなの為に、両手いっぱいに。
 藍生も美味しそうなお土産も準備できましたし、待ってるみなさんの顔も楽しみなんですよ、とにこにこの笑顔だ。
「結慧に渡して仕舞っておいて貰うか」
 そう言いながら、皆がはぐれないように巽は視線を動かした。
 うん、全員ちゃんと近くにいる、と頷く。
「さーて、私は運試しでくじ引きの屋台にでも行こうかな?」
 こういう場所だと食べ物に目が行くけど、こういうタイプのも中々に乙なんだよねぇと結慧の足は軽やかに。
「あ、射的の屋台もみーっけ」
 その様子を酒を片手に見守りながら阿弥牙は楽しんでいた。
 しかしその視線がちょっとだけ厳しくなる。
「ズルいことしたらあかんでー」
 なんかやってる。そんな屋台を見つけたら睨む。阿弥牙の睨みに屋台の店主は肩を竦めて、ズルなんかしてませんよぉとへこへこする。
 本当かぁ? と阿弥牙はニラミをかける。祭りなので騒ぎにするつもりはなく注意するだけ。
 結慧は阿弥牙のお姉さんが睨み利かせてくれているし、安心して他の子たちも遊べそうだね、と言いながら標的を落としていく。
 酒を飲みつつ様子を見ていると、店主が項垂れ、阿弥牙は笑った。
「にゃ!?」
 パンっ! と響いた音に驚いて百は巽にぴとっとくっついた。
 どうした? と百を見た巽は、射的の音かと気付いて笑う。
 驚いてにゃんかにゃいにゃ、と言いながら百は水筒に入っている麦茶をゴクリ。
「そういえば阿弥牙さんは…あ……あんにゃとこでお酒で幸せそうにゃー」
 射的を見張りながら酒を飲む姿を見て思う。
「甘酒……って美味しいにょかにゃぁ??」
 と、明るい声がかかった。
「おや賑やかなご一行さん! どう? 見世物小屋も面白いよ」
 と、ろくろ首がにゅっと伸びて誘ってくる。
「せっかくだ、本物の妖怪の見世物小屋見ていくか」
 皆を誘って、見世物小屋の方へ。ろくろ首の女は何名様? と機嫌よく声をあげた。
「見世物小屋? いいねいいね! 楽しそうだねぇ! どんなものがあるか見させてもらうよぉ」
 楽しそうな気配に氷海風も見世物小屋に飛び込むように。
「見世物小屋、ですか。善いですね。プロの御業、楽しみです」
 一体どのような方々がいるのでしょう、とジズもわくわく。
「見世物小屋ってなかなか現代では見かけないのです」
 藍生も初めて見る、とそわそわ。
「見世物小屋……というか、普通に妖怪さんの多様性にびっくりするショーですね、それ……!」
「七三子が上手いこと云った。確かにこっちじゃサーカスとかに近いかもな」
「なるほどサーカス!」
 藍生はそれならわかります! と巽に頷いて、わくわくと表情輝かせる。
「本物の妖怪さん、楽しみにしていましょう」
「存分に楽しんでおくれ。お嬢さんも初めてかい?」
 ろくろ首の女がにゅっと首を伸ばして、皆に声をかけてくる。
「お客さん、お酒は中では飲まないようにねぇ」
「ん~? じゃあ飲み切る……ってもうないや」
 阿弥牙は笑いながら、空っぽだと言って皆の後に続く。
「おー、見世物小屋。いいね、いいね~♪」
 結慧も中に。
「√ドラゴンファンタジーとはまた違った感じ!」
 面白いものが観れるといいなぁ、と笑う。
 ましろもいくっすよ~とその後ろについていく。
 奏眞もアホ毛がぴこっと。
「|こっち《√妖怪百鬼夜行》にはあまり来ないから、少し興味があるな」
 早速、精霊たちと一緒に見世物小屋へ。√ドラゴンファンタジーとはどう違うんだろう? と興味がある。
「……あ、オレは待っテル。皆で楽しんでキテ?」
 そんな中でジェイはぴたと足を止めた。
「ホラっいっぱいオレ食いモン持ってるシ? 荷物があったらチョーダイ。見とくネ?」
 えっと怖いとかではナク、バケモンは汎神の仕事で十分。ホント怖いトカはナイカラ。
 そう言ってジェイはステイ。
「突然現れて脅かされる行為が少しだけ苦手なダケダカラ」
 その言葉の下には、脅かされるのに相手をぶちのめセズただビックリを我慢しないとイケナイのが苦手――それが隠れていた。
 そんなジェイにおみやげを預けるエルンスト。行ってくる! と好奇心いっぱいだ。
 どんな感じなのか楽しみと中へ。
「すごい!! 手と足が長い!?」
 と、拍手して楽しむエルンスト。変なものには慣れている。今の所、何かおかしいこともない。
 奏眞も精霊たちが楽しそうなのを見つつ、こんな感じなのかとアホ毛を動かしていた。
 少し遅れて、さらに色々買ってきた夕貴も合流する。
「見世物小屋ってここすかねえ……?」
「はぁい、こちらだよ。皆さんもうすすんでますよ」
「ろくろ首姐さん、でかっ! 首の長さで負けましたかっ!」
「そりゃあろくろ首だからね」
「くそう! しかし、なかなか面白いじゃないですか」
 対抗心を見せ夕貴は跳ねるが、ろくろ首のほうが大きい。もっと大きいやつもいるよ、と笑う。
「こういうのが出るってことすね、ならその戦いに勝ちますっすよ!」
「ところで、夕貴のお姉さんは何と張り合っているの?」
 その姿に結慧は尋ねるが、次の勝負と夕貴は次の妖怪のもとへ。
 そこではひゅっと大蜘蛛が急降下してくる。
 やつではその姿にちょっとだけ機嫌がよくなる。
「なかなかの造形なのです」
 平和的な娯楽の一部として馴染んでいるのはとてもよいことですね、とにこにこ。
 しかし駄目なところもあった。飾りのクモの巣の作りはダメダメでしたが、そこは本職じゃないから許します! と駄目出しも。
「うわあうわあ、すごい! 私、こんなにいろんな妖怪さんにお会いしたの、初めてです!」
 七三子は妖怪たちに声をかけられ、応えながら笑顔いっぱいになる。
「えへへ、みんな一緒だから、余計楽しいのかも」
「なっ! こ、こんな妖怪がいるとは……まだまだ自分も修行不足っす……フッ……」
 途中で追いついた夕貴は声をあげ、とぼとぼと。
「完敗っす……一からやり直しっす……」
 黄昏ながら去っていく。
「ふふ、これからもよろしくお願いします。これからも楽しいこと、いっぱいできるといいですね」
 七三子に頷きながら、久々にはしゃいで、息切れしたとエルンストは笑ったが。
「明日から……また仕事が、待ってるけどさ……」
 待っていたジェイは皆を迎え、美味しいモノにも沢山出逢えて食べたナ~と思い返す。
「神サマ。……ヤルジャン」
 最初にしたお願いを思い出し、ジェイは笑う。

 正月から、賑やかに皆で共に過ごす。
 笑顔一杯のまよひがの日々は、年が変わっても変わらない。
 これからも、変わらず続いていく。

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