迷子達の夏〜なぞものフェスを添えて
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今年の√EDENの夏も暑い。
「遊園地! 遊園地って屋外だから夏行くと結構地獄では??」
「だからこそのテーマらしいよ。水と一緒に楽しもうってさ」
「工夫がいっぱいだね!」
「うむ、様々な対策が取られているようだ」
軽い会話を交わしながら、他の来園客と一緒に入場ゲートを潜ったところで一行は確認のため足を止める。
帝凪はまず大事なアイテムを、軽く掲げてみせた。
「全員、園内マップは持ったな? 迷子案内所の場所は確認したか?」
「はいダイナ様! マップはばっちりです!」
びしっとした確認に、ツィリが元気よく手を挙げて返事した。くるりと弥月も頷いてみせる。
「最終手段は、迷子のお呼び出しを使えば万事解決!」
「うんうん、迷子案内所に行けば大丈夫だよね」
「迷子案内所が迷子になることはないもんね」
くるりとツィリの言うとおり、謎の迷子センターでもなければ移動しないので。
「連絡先の交換よし、今回用のグループチャットよし。これ、今日のしおり。一応PDFもグループトークに貼っておくね」
「うん! 気をつけようね!」
「わー猫宮さん迷子対策バッチリ! えっしおりまで!?」
「さすがだ弥月、しっかりした大人がもう一人いると心強いな……!」
くるりと帝凪の褒め言葉に、準備をしてきた弥月は笑ってみせた。
「ほら、俺達って迷って迷子になりやすいから」
「猫宮さん。私、道に迷ってる訳じゃないんですよ。なんでか迷子になってるんです」
√能力者たる欠落が、「自身の居場所の認知」であるくるりは、すでに致命傷を負っている。
「あのね、迷子になってるんじゃないんだよ、弥月くん」
ツィリも、道がわからなくて迷っているわけではない、と主張する。
「|たまたま《・・・・》気が付いたら|何故か《・・・》元いた場所と違う場所にいるだけなの
不思議だね! 異界の神パワーが働いてたりするのかなぁ」
「ね、不思議だね」
お互いに不思議だと話すくるりとツィリに、弥月は微笑むだけだった。
「熱中症防止にこまめに水分も取ろうね。はいこれ塩タブレット」
「疲れたら言うといい! 俺がすぐに『園内休憩スポット探索君』で、すぐに休める場所まで案内しよう!」
「ありがとうございます。うん、熱中症に気をつけようねぇツィリちゃん!」
「ありがとう弥月くん、ダイナ様! 頼りになる大人組がいると心強いね、くるりちゃん!」
体表温度を下げるタオルを首にかけて冷え冷えを満喫するくるりとツィリを見て、帝凪はうむうむ頷く。その脳内ではいかに今日を楽しむか、計画しておいた幾通りもの迷子防止策が流れていた。
(ここまでやっても迷子になるのが俺達。だが園内ではぐれる分には合流手段は幾らでもある……ま、なんとかなるだろう)
帝凪は方向感覚はちゃんとしているが、好奇心が突き抜けた結果、迷子になることがすでに証明されている。そんな彼は早速、最近の自信作の話を始めた。
「実はな、近年の猛暑に備えて! ハンディファンを開発してきたぞ!」
「さすが帝凪さん! で、どんなファンですか?」
きっとカバンの中から出てくるに違いない、と期待したくるりに、帝凪は明るく笑う。
「はっはっは。大き過ぎて持つと両手が塞がってしまうから車に置いてきた!」
「うーん現地に無いからなにも役に立たない帝凪さんの研究物……流石です……」
「もうサイズはハンディを超えてるんだろうなぁ」
「パワーも涼しさも従来品とは段違いだ。もちろんエネルギー効率もな。しかし、我が素晴らしき納涼グッズはこの場では使えない……」
「今、ここにないですもんね」
「あ、なら迷子センターにも一台置いてもらうのとかどうでしょう! 冷気もでるようにしてもらえたら素敵な納涼に!」
言いながらツィリははっと気づく。
「現物品を科学で浮かせて自動追尾させれば周りも手も空いて、涼しくて一石二鳥なのでは……!?」
「自動追尾……! 素晴らしい案だなツィリ! どこまでも迷子を追いかける等身大ハンディファン……」
「もうハンディファンである必要ないよね??」
迷子になっても涼しさは確保したいツィリのひらめきに、等身大ファンが追尾してくる光景を帝凪はうっとりと夢想する。くるりは思わず突っ込んでいた。
そんな帝凪は、いそいそとなぞものぬいぐるみを鞄から顔出しさせる。
「帝凪さん、なんでなぞものぬい持って来てるんです??」
「ん? みどりちゃんのことか? この遊園地には日本有数の有名ぬい撮りスポットがあるのだぞ? 一緒に連れてくるのが道理であろう!」
「そんな道理はないです!」
くるりは、ぴしっとツッコみつつ、帝凪が連れてきた怪生物ちゃんを指した。
「ほら! 怪生物ちゃんがジト目!」
「む……ヤキモチか? 怪生物ちゃん? もちろん怪生物ちゃんのことも忘れていないぞ!」
「怪生物ちゃんも、満喫してるね!」
「帽子よく似合ってるねぇ」
遊園地マスコットの帽子をかぶり、限定デザインのカップでジュースを啜る怪生物ちゃんの表情は変わりないように見える。しかしその目にはいつもと違う色があったかもしれない。本心は怪生物ちゃんのみぞ知る、である。
そんな姿を眺めていた弥月は、ふと目に入った光景に首を傾げた。
「ね、なぞものってコラボするくらい大規模なブランドなのかな?」
「なぞもの?」
「なぞものコラボ?」
「なぞものコラボ!?」
弥月の問に、くるりと帝凪は同じく首を傾げた。ツィリはそうだったら素敵だと目を輝かせる。
「いや……仮にそんな告知があったら、俺の|情報網《なぞものアンテナ》に掛からん筈がないだろう」
「コラボやってる? やってないよね?」
「そうなんだ。でもあそこのきぐるみってさ」
そう言いながら弥月が指差した先には、遊園地のマスコットのきぐるみと並んだ、なぞもののきぐるみが居た。
「え? なぞものなんで??」
「なぞものだな、なぞものだ」
「なぞものすごい!」
「やっぱりなぞものだよねぇ」
四者四様の反応を示しながら進んでみれば、きぐるみと並んで『なぞものフェス』と看板が立っている。
その向こうのテントには、なぞものヒストリーや研究結果、ファンブック、手作りグッズなどが並んでいた。
「え、知らない。こんな大規模イベント知らない」
「突発フェスやります、と今朝方サイトが更新されたみたいだぞ」
「うわ、SNSもざわざわしてる。あまりに突発すぎでは??」
「流石世界のなぞもの! 新規販促ルートを開拓し着実にファンを増やしてる。次はコラボグッズや何処かのアンバサダーに就任したりして!」
「すごいねぇ」
全く兆候がなかったとくるりが驚き、調べた帝凪は納得し。ツィリは素晴らしいと目を輝かせ、弥月は面白がって相槌を打ち。
「なぞものスイーツでゆくゆくはSNSを震撼させたりなんかも……!」
「なぞものチョコとか?」
「もう動いちゃってるよ!?」
「なぞものクッキーはどうだ!」
「さくさくかな? ほろほろかも?」
「なぞものアイスは何味かな……」
「メロンかな? チョコミントもいいなぁ」
「夢は膨らむね! 目標は大きく高く広く宇宙へ羽ばたけなぞもの。みんなもそう思うよね?」
「やだツィリちゃんの熱意がすごくてすごい」
四人はわいわいと、なぞものの今後の展望を語りながらなぞものフェスのテントを眺め、歩いていく。
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色々な催しを楽しみつつ、帝凪は人が一際賑やかに集まる方向があると気づく。
「む、何やらあちらの方が賑わっているな!」
「ああ、パレードの時間じゃないかな」
「ほう? あれか、夏限定のウォーターパレードショーが始まるのか」
この遊園地では、夏季限定でフロートから水が吹き出したり、水鉄砲でキャストやゲストが互いに水を掛け合ったり、と水を用いたパレードが行われる。
次はそれを見に行こうか、と四人で賑わう方向へと進んでいけば、ちょうどパレードの先頭が見えてきた。
景気良く水をミスト状に吹き上げながら、船型のフロートが近づいてくる。
「わーいウォーターパレードだ〜! すずしーい!」
「夏といえばお祭り! 夏と言えば暑い! 暑いといえばお水! つまり、お祭りとお水は相性バッチリ!」
「うむ、水で涼むというのはよい案だな!」
「あっついからねぇ、ひんやりするのは歓迎だよ」
「涼をとりながら楽しめるね!」
そういえばパレードのテーマは不思議な冒険譚で、元になった詩がある、と弥月は言う。
『船の白猫 泡にまみれ
にゃーと鳴いて どこかに消えた
みどりの海原 進む船
大きな波に 流された
紫の賢人 見通して
緑を探して行く千里
ほうき星が 淡く煌めき
船乗りと共に消えていった
残されたのは なぞのもの
緑のなぞもの 瓶を持つ
巡る人へと宛てた手紙を
抱えてなぞもの 皆を待つ』
「緑のなぞもの……」
「公式サイトに載ってたんだ。これ、コラボ提供だよねぇ」
水遊び風の衣装だけでなく、水兵や船乗り風の衣装のマスコットやキャスト、海の生き物や船のフロートがパレードの中心にいるのは、海の冒険譚だからだろう。
「……ん? んんん? あああ!!! なんということだ……みどりちゃん(のぬいぐるみ)が……いない!」
「ええ!?」
帝凪がみどりちゃんのぬいぐるみとパレードの写真を撮ろうとカバンを見ると、そこからみどりちゃんが消えていた。
辺りを見回してもパレードを眺める人が多すぎて、この中を探すのは難しいと帝凪は肩を力なく落とす。
「みどりちゃん……」
「後でスタッフさんに聞いてみましょう」
「きっとすぐ戻ってくるよ!」
「パレード終わったら探しに行こうよ」
この時、四人はまだ知る由もなかった。
みどりちゃん失踪事件は、これから起こる大騒動の序章に過ぎなかったのだ。
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「わぁ……ここにもなぞもの」
「うむ、パレードでも存在感バッチリだな!」
「流石なぞもの!」
「こんなに勢力拡がってるんだねぇ」
さて、みどりちゃんは行方不明だが、彼女(彼?)以外のなぞものがパレードの中に見つかった。
フロートの装飾や、キャストの衣装デザインに取り入れられてなぞもの達が見え隠れ。彼らも楽しげに海の物語を楽しんでいるようだ。
――そしてひとりめが、パレード中に消える。
「わ、シャボン玉……いて、目が」
「猫宮さん、大丈夫ですか?」
猫のマスコットの鳴き声と一緒に飛び出したシャボン玉が軽く目に入って、弥月はたたらを踏む。彼はくるりの声に頷いて、しぱしぱする目を庇いながら、人を器用にかき分け道の端へとずれていき。
「ちょっと洗ってくるね、何なら先に進んで?」
仲間と離れて水場を探す。ほんの少しなら大丈夫だろうと甘い見通しを立てながら。
――ふたりめ、人の波に飲みこまれた。
「私達、ここにいた方がいいよね?」
「うむ、その方が合流しやすかろう」
「ですよね……っとと」
それでもパレードの動きに合わせてさざめく人の波が、三人を少しずつ移動させる。
その中で偶然生まれた大きな人の波にさらわれて、くるりはだんだん帝凪とツィリから離れていく。逆らっても勢いは強くてさらわれて行くばかり。
「みゃぁあああぁ!!」
去年も人に流されて悲鳴を上げた気がしつつ、くるりは無力にも流されていった。
――さんにんめ、突然消え失せた。
「む、くるりもはぐれたか? 大丈夫だ、この改良型迷子捜索装置で探してみせる」
「さすがダイナ様!」
拍手するツィリにふふんと胸を張り、ぽちぽちとスマホを操作した帝凪はしゅんっとその場から移動する。
「……む? あれ? ツィリ? みんなーッ!?」
|幸運の女神は通り過ぎていった《幸運判定に失敗》。帝凪は一人、どこかへと飛ばされる。
――よにんめ、気づけばひとりきり。
「みんな、きっとすぐ戻ってくるよね」
離れた弥月を、流されたくるりを、消えた帝凪をツィリは待つが、中々彼らは戻ってこない。
「あれ、みんないない……?」
ツィリが周囲を見渡しても、仲間達はどこにもいなかった。
「もしかしてみんな迷子になっちゃった?」
やっぱり迷子になってこその自分達だ、とツィリは頷いて、こういうときのグループトークだとスマホを開く。
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『弥月:皆、大丈夫? 怪我とか動けないとかない?』
『帝凪:俺は無事だ! 怪生物ちゃんも一緒にいるぞ!』
『ツィリ:うん、私も大丈夫!』
『くるり:大丈夫です、どうしましょう』
『帝凪:やはり、迷子案内所に向かおう』
『弥月:そうだね、合流を目指そう』
『帝凪:うむ、俺はみどりちゃんを探しながら向かうぞ!』
『ツィリ:(はりきるなぞものスタンプ)』
そして最初に迷子案内所に辿り着いた弥月は、しばし皆を待つ。スマホを見ていれば、ぽん、と通知が届いた。
『くるり:たどりつけません、ここどこ?』
『ツィリ:不思議だね、迷子案内所見つからないよ! 迷子案内所も不思議パワーで迷子になったのかも! 探してあげなきゃ!』
『くるり:ツィリちゃん、目の付け所がシャープだね……ちょっと鋭角だな……。天才研究者かつ魔王の帝凪さーん! なんとかしてくださいよぉ!』
『帝凪:すまん、怪生物ちゃんも消えてしまった! 探すので合流が遅れる!』
『弥月:よしわかった。くるりさんとツィリさんは近くのアトラクションとか、目立つものの写真を撮ってくれるかな。そしたらここに写真送ってその場で待ってて。俺、迎えに行く。魔王様は後で迷子案内所に来るか近場のアトラクション教えて』
居場所迷子なくるりと不思議に迷子になるツィリは、自分が合流するのが早そうだ。帝凪はみどりちゃんと怪生物ちゃんを見つけてから合流したほうがいい、探しにあちこち回るだろうから。
弥月はそう判断した。
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オブジェの写真を撮って送ったくるりは、ベンチに座って落ち着いた。
ウォーターパレードで少し濡れた髪を乾かすように風が吹き抜けていく。
『帝凪:みどりちゃんいたぞ! 怪生物ちゃんが運んできてくれた!』
『くるり:よかったですね、帝凪さん!』
『ツィリ:怪生物ちゃんえらい! すてき!』
みどりちゃんも無事見つかったようだ。このままなら、きっとくるりのことも探し出してくれるだろう。
休憩がてら塩タブレットをつまもうとカバンの中を覗いたくるりは、目があったなぞものチョコに戸惑った。置いてきたはずなのになぜか入っていたそれをカバンの奥にしまい直し、塩タブレットを口の中でほろりと砕く。しょっぱさと甘さがゆっくりと染みていくようだった。
しみじみ味わっていると、ぴこん、と通知が聞こえる。
『弥月:あれ、くるりさん、近くになぞものいない? これ、ボトル持った……なぞもののぬいぐるみかな?』
「えっ」
届いたメッセージに、くるりは戸惑いの声を上げ、先程撮った写真の場所へと近づいた。
よく見れば植え込みの緑の間に、30cmくらいの緑のぬいぐるみがボトルを抱えて立っている。まごうことなきなぞものぬいだ。『ボトルメールはご自由にお取りください』の札までつけている。
くるりはぬいの抱えるボトルから、一枚、紙を取り出した。
古い羊皮紙風の紙には、謎の文字列が書かれている。
『Jr wr Qxledh.
N to K.』
「?? NもKもないけど……」
しばらく文字と見つめ合い、くるりはピンときた。
「あ、ずらすんだ」
シーザー式暗号というやつである。NからKに向かうよう、3文字前に向かってアルファベットをずらせば、元の文が見えてきた。
「Go to Nuibae……ぬいばえ?」
問題文の写真と答えを送ったくるりは、続けてメッセージを送る。
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『くるり:ぬいばえって何でしょう』
『弥月:ぬいばえとは、縫工馬遠(ぬいこうばえん)の略。彼は初めて遊園地に縫われた馬のきぐるみを持ち込んで客を沸かせた人物として有名である。出典:猫宮書房「遊園地の知られざる歴史」』
『くるり:ねぇ猫宮さん絶対悪ノリしてますよね? 下手すると答え分かってのフリですよね?』
『弥月:(てへぺろなぞもの)』
『くるり:(あらぶるなぞもの)』
『ツィリ:(きらめくなぞもの)』
『帝凪:(きりりななぞもの)』
『くるり:(あらぶるなぞものその2)』
『弥月:ごめんごめん。これ、魔王様も答え知ってるよ』
『くるり:あ。そういうこと!』
『ツィリ:あ! わかった!』
『帝凪:うむ、では向かおう!』
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示されたぬいばえ、つまり『ぬいといっしょ 〜ぬいぐるみ映え撮影スポット』へと帝凪はやってきた。もちろんみどりちゃんはカバンから顔を覗かせ、怪生物ちゃんは隣でふよふよ浮かんでいる。
「ここだな!」
ぬいばえスポットでは帝凪と同じように、ぬいといっしょに訪れた人達がそれぞれのぬいを飾って写真を撮っていた。
待機場所には扇風機が設置されていて、焦りの汗と、ウォーターパレードの水を吹き飛ばし、帝凪の火照りを冷ましてくれるようだった。紫の髪を風にそよがせて、帝凪は心地よさに一つ息をこぼした。
順番が回ってきたならば、帝凪は早速指定位置にみどりちゃんと怪生物ちゃんを座らせ、撮影ポイントでスマホを構える。
「む?」
フレームの中に見えた、隠しなぞものを確認しつつ、帝凪はかしゃかしゃとシャッターを切った。
ぬいの後ろに雄大な船と花を飾った素敵写真を保存し、みどりちゃんをカバンの定位置に戻したあと、帝凪は見つけた隠しなぞもののもとへ行く。怪生物ちゃんの見守る前で、なぞものぬいが抱えるボトルから一枚、手紙を抜き出した。
そこには遊園地の敷地を線で区切った白地図と、問題が書かれていた。
『遊園地の地図を四色で塗り分けて。ただし色は隣り合ってはいけない』
「うむ、四色ならば可能だな! ……しかし、これはただの塗り絵ではないな」
そばに置かれたマーカーを使い、帝凪は手早く塗り分けていく。
「現れたのは……星か!」
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『帝凪:次は星だな!』
『弥月:星? ここ、プラネタリウムとかはないよね』
『くるり:星……多分あそこじゃないかなぁ、ほらパレードの目的地』
『ツィリ:私ちょうど近くにいるよ!』
パレードの終点『スターライトステージ』では、『なぞものふれあいショー』のプレイベントの真っ最中だった。うきうきとなぞもの達が歌にあわせて踊っている。
きらきら星の瞳を輝かせ、ツィリはステージ上の彼らを見つめていた。
「踊ってる! かわいい」
ステージの上に作られた屋根からミストが吹き出して、ふわっと吹く風と一緒にツィリの頬を冷やしていく。
元気ななぞものらしく、ぴょこぴょこと身軽に跳ねては手足をうごうごさせて、流れる音楽のリズムに合わせて楽しそうだ。
一緒に踊ってみたい気持ちもあるけれど、まずは謎だ。ツィリは、周囲を探してみた。
すると、ステージの客席に、ちょこんとボトルメールを持ったなぞものぬいが座っているのを見つけた。記念に一枚写真を撮ってから、ツィリはボトルメールを一枚取り出してみる。
「なぞものだ!」
そこに書かれていたのは、『合言葉は』という文と、踊るなぞもののイラストだ。可愛らしいなぞもののイラストが色んなポーズで六体並ぶ。
これはどうやって解けばいいのか、とツィリは改めて周囲を眺めて。
ステージの上、短いダンスを繰り返し踊るなぞもの、歌詞とポイント、言葉。
ぴん、とツィリにひらめき走る。それは天啓か、|女神《野生》の直感か。
これは、歌詞の文字となぞものダンスが対応した暗号なのだ、と。
「合言葉は『てがみのなか』……手紙の中?」
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『ツィリ:答えは手紙の中だったよ! それでね、手紙を見直したらすみっこに文字があったの』
ツィリが送ったのは、手紙の隅を写した写真だ。小さな文字で『3:i』と書かれている。
『ツィリ:他の手紙にもあるんじゃないかな』
『くるり:私のは「2:h」だったよ』
『帝凪:俺のは「1:s」だな!』
『弥月:俺もちょうど近くになぞものあったから、引いてみるよ』
ボトルメールを早速弥月は開く。
「えーと……うん、無理」
弥月は問題をざっと読んで、すべてを自力で解くのは諦めた。さっさと聞いてしまおうとタプタプとスマホに問題を打ち込んでいく。
『弥月:9.8m/g^2』
『帝凪:重力加速度だな!』
『弥月:あかいめだまのさそり』
『くるり:星めぐりの歌?』
『弥月:イタリアのコーヒーとチーズのケーキ』
『ツィリ:ティラミスかな?』
『弥月:夏の大三角形、ベガ、デネブ』
『くるり:アルタイル……猫宮さん一人で違うことしてません??』
『弥月:引いた問題がクロスワードなんだよねぇ、√EDENの常識準拠の。俺の常識とずれてるから』
『くるり:例えば?』
『弥月:夏の大三角形、牽牛、織女、鷺って覚えてた。答え合わないんだよ。重力加速度は人間物理ってつくし』
『ツィリ:それって違うことがあるの?』
『弥月:妖怪物理だと可変だよ』
『帝凪:常識と言うより√の違いだな!』
『弥月:よっし埋まった。答えは……数学の「どうてん?」』
『くるり:pかな??』
『帝凪:pだな!』
『弥月:動くな点p』
『ツィリ:点pは動くの?』
数学のお約束というやつである。
『弥月:キーワードは、4:pだよ』
『帝凪:shipか!』
『くるり:船、えーと……さっきの帝凪さんの写真!』
『ツィリ:うん、きっとあそこ!』
一人、迷子を探して走り。
「いたいた、おーいくるりさん」
二人、一緒に駆け出して。
「帝凪さん、見つけた!」
三人、巡って集まって。
「待たせたな、ツィリ!」
四人、皆で船を目指す。
「あれだね、最後の場所!」
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船まで辿りついてキャストに『ship』と告げたなら、その場で記念品が贈られた。この遊園地のマスコットとおそろいの格好したなぞものと、ボトルメールを抱えたなぞもののステッカーだ。
「結構楽しかったねぇ」
「色々遊園地巡ることもできそうですよね」
「うむ、今度は別の問題を探しても良いかもしれん」
「隠しなぞもの、まだありそうだもんね!」
きっと入り口近くにもなぞものぬいはあっただろう。他のアトラクションにもいたかもしれない。なぞものフェスも、まだじっくり見てはいない。
「なぞものコラボメニューあるかな?」
「そうだね、冷たい飲み物とか美味しそう」
「いいな、怪生物ちゃんも疲れただろう!」
「ちょっとお店で休憩してから巡る?」
夏の日は長い。まだまだ遊園地は楽しめそうだった。