シナリオ

【王権決死戦】天命を穿つ・決戦隠神刑部

#√妖怪百鬼夜行 #宿敵旅団 #ペンタクルム・ゲート #王劍『縊匣』 #王権決死戦 #ペンタクルム・ゲート最終決戦 #ご参加ありがとうございました!

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『ペンタクルム・ゲート』関連シナリオ

これは、宿敵旅団『ペンタクルム・ゲート』に関連するシナリオです。これまでの物語は、#ペンタクルム・ゲートで確認できます。
このシナリオに登場する宿敵は、宿敵主との『Anker』関係が失われています。

王権決死戦

これは王権決死戦です。必ずこちらのページを事前に確認の上、ご参加ください。
また、ページ右上の 一言雑談や特定の旅団等で、マスターが追加情報を出すこともあります。

●宿敵旅団『ペンタクルム・ゲート』
 静寂を破るように、足音が響いた。強大な空間はそれまで自らが潜んでいた地とは違う。
「……やはり、さすがじゃのぅ」
 ほう、と隠神刑部は息を吐く。
 √ドラゴンファンタジー、ダンジョンのひとつに彼らの姿はあった。
 ペンタクルム・ゲート。
 互いに身を潜め合っていた幹部宿敵達を集結させた犯罪鬼妖教授『モリアーティ』は再会を喜ぶように微笑んだ後に、多くの作戦がEDENの能力者によって阻止されてしまった告げたのだった。
「儂も随分と振り回されてしまったからのぅ……、じゃが、集まるに集まった情報と、資材が役に立つときが来た……か」
「あぁ」
 モリアーティは静かに頷いた。
 情報が、機材が、術式が、資材が、移動神殿と共に消えた『彼女』に呼び掛けることを可能としたのだ。
 骸纏ノ姫『清羅』。
 彼女へと。
「辿り着けるのであれば、儂らにもまだツキがあろうよ」
 或いはそんなものが無くとも——諦める手は無い。巻物を置きながら隠神刑部は呼び掛けを眺め見ていた。『心と可能性を探求する者』が中心となり、ダンジョン内に一つの光が灯った——その時だった。
 空間が切り裂かれ、一四本もの小王劍を携えた彼女——骸纏ノ姫『清羅』が現れたのだった。

『……清羅は白い劍を追って……気付いたら、異空間に着いてた……。
 僅かだけど、アンちゃんがいたのを感じた気がして……。かつての《失楽園戦争》の時にやってた計画……失敗した後、ここにいたんだって、清羅には分かったの……』

 清羅はゆっくりと視線を上げる。

『あれが、あの異空間が……ペンタクルム・ゲートの中枢……アンちゃんが、開きたかった、扉……。
 ……白い劍が、ずっとアンちゃんとあの異空間にいたみたい。ペンタクルム・ゲートが完成したら、小王劍を多くの√世界に送り込めるように……。でも、アンちゃんは……倒されちゃった。白い劍が逃げようとしたから……清羅はゲートを守るために、少しだけ……みんなの分だけ奪ってきたの』

 潜んでいた王劍『縊匣』本体から奪い取った分身。
 過去に現れた『縊匣』の同類の小王劍と共に、清羅は告げた。

『清羅も、この力とみんなの声のおかげで戻って来れた……。でも、もうすぐ異空間が消えちゃう……。アンちゃんがしたいこと、出来なくなっちゃう……』

●天命を担い矜持を焼べる
「カッカッカ、生きていれば随分と妙なことに出会うものじゃのぅ……『縊匣』に掠め取られたか」
 隠神刑部は静かに息を吐いた。
 『縊匣』がエネルギーを持ち去った今、『ペンタクルム・ゲート』の本体ともいうべき『5つの扉のある異空間』が消滅しかかっている。
「維持するには、最早、大量のペンタクルム・パールを必要とするしかあるまい」
 我らの大願も潰え、全ては無に帰す。
 だからこそ——……。

「やはり、ここは賑わうのぅ」
 赤い鳥居が、幾つも連なるように並んでいた。紅葉の美しい季節だ。色付いた紅葉と共に、並び立つ鳥居を見る為に多くの人々が訪れていた。
「先にあるのは縁結びじゃったかのぅ……、折角の最後じゃ、酒のひとつ拝借したかったところだが……」
 盃に、とぷり、とぷりと己の酒を注ぐ。酒の香りが甘く漂う中、誰一人として化け狸の姿に気が付くものはいなかった。それこそ、隠神刑部の神通力。邪悪な化け狸達の首領である古妖は、吐き出した息と共に盃を返した。
「これだけいれば十分か」
 ぱしゃん、と地面が濡れる。赤く連なる鳥居が浸食され——行き交う人々が足を止めた。
「今までどれ程の縁を断ち、結ぶことを望んできたか」
 囁くように告げた言葉に人々が騒ぎ出す。楽しげに歩いていた瞳を揺らす。感情が噴き出すように声を荒げた。
「ぁ……だって、好きだったから」
「嬉しかったの、だからこうやってお礼にだって——神様、やっと叶えてくれたんだって!」
「良いじゃない私欲しかったんだから!」
「アイツめんどうになったんだよ!」
「だって本当に、怖かったのよ! 逃げたかったの!」
「……」
 そのどれもが真実なのだろう。願いがあり、思いがありそして——神にも願った。
「人間を殺すことでペンタクルム・パールを作ることができる」
 展開した忌まわしき神通力が人々を化かし、狂乱の中に落としこんでいくのを見ながら隠神刑部は告げた。
「悪くは思うなよ人の子ら」
 『縊匣』の小王劍を手に、舞い上がった木の葉が刃の鋭さを持っていく。
「儂とて、斯様な宴は好みではない。化かすのであればもうちぃと、手を込んだものにしたいがのぅ……」
 じゃが、と邪悪な化け狸達の首領である古妖は告げた。
「大義を前に綺麗事を言うほど、儂も若くは無くてのぅ。さぁ、しまいじゃ」
 ペンタクルム・ゲートを維持させ、王劍『縊匣』本体を我らの罠にかける。
「彼奴を破壊し、奪われたエネルギーと縊匣を持つインビジブルを手に入れることさえできれば……可能性もあるじゃろう」
 完全な形で『ペンタクルム・ゲート』を成就させ、5つの扉で5つの√を繋ぐ望みを果たすに至る道が。

●遺響
「仕事だ。再び隠神刑部が……潜伏していたペンタクルム・ゲートが動き出した」
 クリフ・ダレット(火薬庫・h03732)はそう言って、集まった√能力者達を見た。
「奴らは各地で一般人の襲撃を始めたようだ。王劍『縊匣』の『小王劍』を手にした上でな。
 奴らがどのような方法で『小王劍』を手にしたかは不明だが、このままでは多くの人々が犠牲になることだろう」
 小王劍は、一般人を殺すごとに、その命を啜ってペンタクルム・パールを生んでいるようだ。
「すぐに隠神刑部の戦闘力が強化されることは無いようだ。その分、貯め込んでいるのは事実だろう」
 何かに使おうとしているのだろう。それが何であるかは明確に掴めてはいないが——宿敵旅団『ペンタクルム・ゲート』が簡単にそれを手放すとも思えない。
「奴らを止める時だ。覚悟を決めた者というのは、どこまでも己を捨てきれる」
 そう言ってクリフは√能力者達を見た。
「隠神刑部を止めろ。これは、王権決死戦となる」
 現場は√妖怪百鬼夜行の一角、紅葉狩りで人気の観光地だ。縁結びと縁切で有名な神社も近く多くの人々が訪れている。
「観光客は隠神刑部の術中にある。姿に気が付けぬまま、狂乱に陥っていることだろう。殺し合いさえ初めても不思議は無い」
 そして恐らくそれを、隠神刑部は狙っているだろう。小王劍に焼べるために。
「観光客を止め、奴を止める。
 それが依頼だ。王権決死戦となる以上、向かう際は覚悟をしておけ。隠神刑部との全力の戦いとなる」
 邪悪な化け狸達の首領である古妖の矜持。果たすべき目的の為に、命を賭けてくる相手と戦う時が訪れようとしていた。

マスターより

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第1章 冒険 『うしろのしょうめん、だあれ?』


●夢寐にも忘れず
 声が、響く。
 理由があるのだと、好きだったのだと。嫌いだったのだと。ずっと願っていたのだと。悪意があろうとも無かろうとも——それは、須く縁によせる人々の願いであった。
「……鳥居に、社。願いとくれば、儀式で無くともひとも十分に集まろう」
 ひらりひらりと木の葉が舞う。鳥居を残し、舞い落ちる紅葉を神通力で操りながら古妖は顔を上げた。
「のぅ、人の子よ」
 鮮血を散らしながら、何者か、見えた『者』に向かって叫び続け、狂ったように暴れる人々に視線を向ける。懐に収めた『縊匣』の小王劍が鮮血に脈打つ感覚がある。
「しかし、縊匣か。この刑部を、我らを揃って謀りおって。いずれ、酒の先に括り付けるべきじゃろうよ」
 低く吐き出した言葉に、配下の化け狸達が膝を付く。
「……大将、俺らは最後まであんたについてくぜ」
「——あぁ。これより先は王権決死戦よ」
 失楽園戦争時代に行われたペンタクルム・ゲート計画。その存在を、隠神刑部は聞いた事があった。今や自らも関わることとなったもの。そして——……。
「……つが、命を賭したもの、か。奇妙な縁もあったものじゃのぅ」
 あぁ、だが。なればこそ。
「この計画、儂が成就して見せよう」
 僅かに残されていた力を失い、軽くなった遺響志異禄を握れば、だから、と幻覚に沈んだ男が声を上げる。
「……から、お前が浮気だなんだってうるさかったからだろ! 付き合えただけでも幸せと思えよ、俺とよ! お前みたいなやつ——……」
「やれやれ、騒がしいのぅ」
 軽く肩を竦めた隠神刑部が腕を振るう。ゴトリ、と騒ぐ男の首が落ち——だが、誰一人そのことに気が付く様子もないまま、誰もが幻覚」誰かへ声を上げ続ける。
「行くぞ。全て、焼べるのじゃ」
 その姿を見ながら、隠神刑部はそう言って強力な神通力を解き放った。

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穂鷹令です。
ご参加ありがとうございます。
オープニング記載のマスターコメント、王権決死戦の説明を良くご確認下さい。

第一章 『うしろのしょうめん、だあれ?』
千本鳥居の並ぶ空間が、隠神刑部の神通力に支配されています。
狂乱する人々は、隠神刑部の操る鋭い木の葉によって負傷しています。このままでは、いずれ、首を落とされることでしょう。

●千本鳥居の空間について
 隠神刑部の神通力で支配された空間。
 『縁を結んだ相手』『縁を切りたい・切った相手』が後ろから声をかけられるようだ。
 縁に纏わる幻覚を見るか見ないかは、ご自由にどうぞ。

●1章の成功条件
 狂乱している人々が、隠神刑部の操る木の葉や神通力によって殺害されないように阻み、支配状態にある人々を助ける。
 隠神刑部の神通力は強力です。導入時に死亡しているろくでなし系お兄さん1名は助かりません。

*アイテムや技能は、√能力を超えた効果は持ちません。
*√能力の説明文章、アイテムの説明文章を大きく広げて解釈した行動、ルールを越える効果を前提とした行動は、不採用でお返しする可能性があります。

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●リプレイの受付
 9月30日 8:31〜
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●複数参加
 2人くらいまでがキャパです。
 ご一緒の際は、同日の送信、お相手のIDを記載してください(合言葉被りなどを防ぐ為)

・状況によっては全ての方を採用するのは難しいかと。予め、ご了承ください。
・再送が発生する場合がございます。タグ、マスターページにて記載をさせていただきます。

●他
*戦闘など判定により負傷描写がある場合があります。
クラウス・イーザリー

●その一片が落ちるまでに
 さぁあ、と吹き抜ける風と共に、血の匂いがした。むせ返るほど強くはなく――だが、ぱたぱたと零れる血が、鳥居の下を抜かしていく。
「だって好きだから、あなたと一緒が良いと思って……」
「許せって? 私を捨ててったのに? 今更家族だなんて言わないで――……!」
 それは怨嗟の声であり、悲鳴であり、切実な想いであった。縁結びと縁切を担う神社の神域は、今や古妖の神通力に支配され、ひらり、舞う木の葉が虚空に向かって叫ぶ人々を切り裂く。
「……傷が」
 何かを掴むように手を伸ばした女性の腕に、深い傷が生まれていた。骨を晒すように深い傷に、クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)は唇を引き結んだ。
(「このままじゃ、みんな危ないね」)
 またひとつ、零れ落ちた赤を視界にクラウスは唇を引き結んだ。
「貴方の力、借りるよ」
 すぅ、と一つ息を吸って、胸に手をあてる。とくり、と一度心臓が跳ねて、ゆっくりと開いた掌から零れ落ちたのは漆黒の魔力。クラウスの影の下、とぷり、と落ちたそれは揺らめいて――舞い上がる。結った髪が解け、漆黒の翼と角が少年の身に現れる。
 それは、悲哀を知る竜。
 影竜との融合体であり、その指先は影をも操る。
「すごく難しい状況だけど……できる限り、手を伸ばしたいな」
 ひゅう、と二度目の風が吹いた。クラウスの瞳に舞い上がった木の葉が見えた。深い緑は波のように立ち上がり――虚空を眺めた女性へと向かった。
「させないよ……!」
 音も無く影が走った。ざぁああと地上を這っていく影が木の葉とぶつかり――散らす。漆黒は一度、弾けるように揺れて、ぱたぱたと歩きだす女性に触れた。
「私だって幸せになり――……」
「――『落ち着いて、できる限り急いでこの場を離れる』ように」
 言の葉で、告げる。クラウスのその言葉に、虚空を睨んでいた女性がゆらり、と振り返った。
「……分かった、わ」
「うん、気を付けてね」
 ゆらり、ゆらりと歩いていく彼女の横、同じように影で触れた人が歩きだす。
(「影を使った声は届くみたいだね」)
 神通力の影響は、この空間に対して強く効いているのだろう。ばさり、と翼を広げながらクラウスは僅かに身を浮かした。
「ちょっと強引な方法で申し訳ないけど……」
 凪ぐように指先を震う。波立つように影が揺れて――ひゅ、と千本鳥居の下を駆けていく。
「これ以上、血を流させるわけにはいかないし……誰も犠牲にはしないよ」
 すぅ、と息を吸う。走らせた影の向こう、渦巻くように木の葉が舞った。
「それでも、あたしは――」
「――危ない」
 庇うように踏み込む。ばさり、と広げた翼と一緒につま先で地面を蹴って、一気にクラウスは木の葉と老女の前に踏み込んだ。ぐん、と視線を向ける。舞い上がった風が、鋭く舞った木の葉を吹き飛ばす。
「お婆さんは……、大丈夫そうだね。向こうのひとは……うん、動けなさそうだな」
 そっと影で触れて、老女に離れるように告げるとクラウスは座り込んだまま虚空を眺めるひとの手を取った。まずは人命救助を最優先に。誰も巻き込まないために、クラウスは影と共に崩された神域を駆けた。

峰・千早

●今は、背に託して
 虚空を眺め、ゆらり、ゆらりとと人々は歩く。血溜まりを踏んで、鮮血を零していることに――骨を晒すほどの傷に気が付かずに。はは、と笑った次のひとりが言う。
「幸せになるようにって願ったんだ、あの子が」
 狂気が、怨嗟が、そして祈りが血溜まりにあった。ぱしゃん、と鮮血を踏んで、年嵩の男が虚空に手を伸ばす。
「だから――……」
「……」
 ひゅう、と吹き抜ける風が、血に濡れていた。こつり、と響く足音ひとつ、目の前に広がった空間に青年は眉を寄せた。
「血の匂い……多くの人間を巻き込むとは」
 低く、声は落ちる。踏み込んだ鳥居の先に見えた光景に一度、唇を引き結ぶと峰・千早(ヒーロー「ウラノアール」/獣妖「巨猴」・h00951)は大きな猿の毛皮のマントを纏った。
「霊峰の巨猴」
 呟きをひとつ、落とす。
 ばさり、と羽織る巨猴の毛皮が、風を呼ぶ。鳥居の神域が、古妖に浸食された地が軋むように揺れた。それは獣妖「|文章《ルビ》巨猴(おおましら)」の力が顕現したが故。
 朱塗りの面をつけ、握る拳が鎧を纏わせる。二歩目、踏み込む足音は大きく――彼の、千早の姿を変えた。
「……」
 嘗ての霊峰が告げる。
 ――ヒーロー「ウラノアール」がここに現れたことを。神話の英雄の訪れを。
「彼らが目的を遂げれば更に血が流れるだろうことは想像に難くない」
 呟いて千早は、戦場となった空間を見渡した。長く続く鳥居の向こうまで、点々と人々の姿が見えている。
「まずは人々を鎮めなければ」
 傷つけたくはない。人々も、この神域も。
 視線を上げた先、ひゅう、と吹き抜ける風が千早の横を――ウラノアールの横を抜けていった。
「させません」
 視線ひとつ向けた先、僅かに地面が揺れた。ごぉお、と立ち上がった火山岩が木の葉を防ぎ――瞬間、ギィイイン、と鋼めいた音が響く。
(「神通力が齎した鋭さなのでしょう。これが人間に触れるのも、このまま人間同士が傷つけ合う事態にもさせたくはない……」)
 軽く、その手を上げるとウラノアールは、静かに紡ぐ。
「天に手を組み地に足摺り、罪償うまで延々と巡れ」
 吐息を一つ、零す。掌を掠ったそれは、白く揺らめく霧に代わり――舞い上がる。
「延々と」
 人々の立つ方へ。肩に触れ、腕を辿り、そうして足先まで満たしていく。
「だから、れは……おれ、――ぁ」
「――わ」
 それは霧の幻影だ。
 ゆらり、と大きく身を揺らした人々が、慌てるように鳥居に手を伸ばす。咄嗟の動きは、この状況でも彼らに残されているのか――否、あの時、千早は確かに見たのだ。
(「誰もが鳥居の内側にいながら、そこから先に……同士討ちにすぐになっていなかった」)
 古妖の目的が、集まった人々を単純に虐殺することであれば、もっと単純な方法もあった筈だ。だが、隠神刑部はこの方法を選んだ。
(「古妖の影響力がこの場で血を流させることにあるからでしょう」)
 小王劍を手にした古妖。一般人を殺すごとに、その命を啜ってペンタクルム・パールを生んでいるというそれを、自らの強化に使ってはいないという案内人の話だったが――……。
「今は、彼らを助けることですね」
 ウラノアールが顔を上げた先、ゆらり、ゆらりと歩き回っていた人々は、皆、鳥居に掴まっていた。
「揺れて……」
「なん、……え?」
 未だ、古妖の影響下にはあるようだが、感覚異常も大きく出てるようだ。あの霧の中、震度4か、或いは5弱の揺れに包まれれば感覚も異常を来す。
「声が……え、あ、揺れ、て……!?」
「えぇ」
 意識が揺れに向けば、己を呼ぶ声も遠ざかっているようだ。ほう、と息をついて、ウラノアールは柏手を打った。
「この地の神には少し申し訳ないですが、幻想を幻想で上書きします」
 山間を抜ける風が一度、吹いた。さぁああ、と千本鳥居の間を抜け――ふつり、と途絶える。
「やはり、全てとは行かないようですが……」
 それでも……、と青年は小さく息を落とした。ひとり、またひとりと、近くにいる人々の意識が戻っていく。山からのご利益が、神通力の影響を払ったのだ。
「あ……え、なにがおき、て……?」
「山はいいですよ。山は全てを解決します」
「え……?」
 瞳をぱちくりとさせたひとが、驚いて声を上げるその前に、ここから移動するように、と告げる。静かな囁きは、驚愕に上がるはずだった声を宥め――ひとり、またひとりと歩きだす。
 ――その、時だった。後ろから声がしたのは。
『峰くん』
「……」
 自分を呼ぶ青年の声に、ウラノアールは――千早は仮面の下で少し微笑んで、振り返らずに歩きだす。
 この戦いが遠くにいる方の身の安全の為になると信じて。

太曜・なのか

●彼方を惜しむ
 ――血の匂いが、神域を揺らしていた。
「……」
 こつり、と足を踏み入れた先、連なり並ぶ鳥居を彼女は見る。紫の瞳を細め、薄く口を開いた彼女は――だが、きゅ、と引き結ぶようにして顔を上げた。
「これで最後、なんだね。なら私も覚悟を決めなきゃ」
 太曜・なのか(七曜天騎ウェザリエ・h02984)はそう言って、こつり、と一歩を踏みいれた。手の中に、霖バッジを握る。
(「それがウェザリエ。皆の明日を守る騎士だから」)
 バッジを握った手を一度胸にあてて、なのかは息を吸った。すぅ、と一度。軋む神域で――隠神刑部が神通力で上書きした地を見て、手にしたバッジをベルトに装填した。
「|霖《ながめ》バッジ・フォーキャスト!」
 瞬間、さぁああと冷えた風が、なのかの髪を揺らす。頬に触れた雨粒のひとつを指先で拭って、青き軌跡を描く。ばさり、と揺れた外套を払うようになのかは――ウェザリエはその手を空に掲げた。
「降り注げ|静謐《せいひつ》の雨!」
 歪む神域にウェザリエは空を招く。この空間を世界と繋げて――空を、天気を告げる。そこに呼び寄せられたのは雨雲だ。ぱた、ぱたと降り出した雨がゆらりと立っていた人々に触れる。
「……から、俺は縁を、縁を……を……」
「ふふ、ははは。だって幸せになりたかったんだから、だから――ねぇ、良いじゃ無いワタシだって……」
 虚空を眺め、睨み、声を上げていた人々が、暴れるように振るっていたその手に刻まれた傷が、癒えていく。ひゅう、と吹き抜ける風が鋭い木の葉を招こうとも――……。
「届かない」
 ばさり、と外套で木の葉を払ってなのかは告げた。
「この降雨内では一般人は負傷せず、既に負っている傷も治癒していく。これ以上、巻き込ませない」
 光を覆い隠す昏い雨は、傷さえも癒やしていく。人々は皆、足を止め、闇雲に伸ばされていた手が空を切る。
「ぁ……だって、れは、叶えてほしかったんだ。だから――……」
 そうして、ひとりがしゃがみ込むように倒れたのを支えて、なのかはゆっくりと立ち上がった。
「……」
 鳥居、だ。真っ赤な鳥居。
 どこまでも続いていくのは、あの遺跡とは違うけれど――似ている。
「それにしても最後かもしれない作戦の舞台がお稲荷様の総本山だなんて」
 千本鳥居。縁を告げる地を、隠神刑部は選んだ。王劍『縊匣』の『小王劍』を手にして、選んだ殺戮。
「小王劍は、一般人を殺すごとにその命を啜ってペンタクルム・パールを生んでいる……だっけ」
 案内人から聞いた話を思い出しながら、なのかは視線を上げた。雨は降り続けている。境内の全体をカバーはできないが――千本鳥居の参道であればカバーしきれる。なのかの見える範囲でも、ひどい怪我の人間はいないようだ。
「あの人の事をどれだけ想っていたか私には計り知れないけど、これじゃまるで死に場所を選びに来たみたいじゃない」
 笑い告げた古妖が言っていた『あやつ』という言葉。遺響志異禄を残した存在。
「これがあなたが本当に成したかったことなの、狸さん」
 帽子を軽く上げて、なのかは呟いた。その先に、今は応えは無くとも。緩く握った拳と共に、前を見る。この空間を作り上げた存在――隠神刑部を追う為に、なのかは参道を進んでいった。

八百夜・刑部

●静寂は遠く
 一歩、踏みいれた地は血で濡れていた。
「……」
 溢れかえる程のものでも、噎せるほどの血の匂いでも無い。そう、まだ間に合う方の血だ、と男はそこまで思って――息を吐いた。
「ちょいと獣の逃げ道を塞ぎ過ぎたか、こうなるとやる事に躊躇も無くなるからなぁ……」
 がしがしと髪をかき上げて、八百夜・刑部(半人半妖(化け狸)の汚職警官・h00547)は息を吐く。
「まあいい、やれる事をやるか」
 視界には連なる千本鳥居。参道で呻く人々は皆、虚空を眺めて何ごとか叫んでいた。
「……から、幸せになりたかったのよ。だから、良いじゃ無い、あんたがあの人と縁が切れるようにって願ったって!」
「好きだもの。だから願ったんだ、そうしたらほら……」
「悪い縁は切るべきっていうだろう。だから、これで……」
 一人は叫び、一人は頬を染めて、もう一人は自信に満ちた声で虚空に向けて声を投げていた。
「縁結びに縁切なぁ……、繁盛してることで」
 事情なんぞ人それぞれだろう、と刑部は思う。そこに、ひとの人生に堂々と口を出すような、その運命に何を言えるような身でも無い。
「真っ当なおまわりさんってもんでもないしな」
 は、と吐いた息ひとつ、口の端を上げて露悪的な笑みを作ってみせると刑部は彷徨い歩く人々を見た。
「腕に足に、首もいるか……全員動けちゃいるな。とはいえ回復系なんぞ持ってねえし、やれるのは応急手当位か」
 木の葉の対処は面倒そうだが、彷徨いている一般人が走り回って逃げだすようなことも、追い掛けてご覧なんて起きることもなさそうだが――問題は『どうするか』だ。
「ひとまずは……、あ?」
 ふいに、ひゅう、と風が吹く。見上げた先、揺らめく木の葉が弧を描くようにして鳥居の横に立った一人に向かった。
「……ったく」
 パチン、と指を鳴らす。青年の首を狙って滑り込んできた木の葉が、ギン、と鈍い音と共に弾かれ――落ちた。
「考え事には不向きってとこだな。なら……あれだよなー……」
 あの時、学校で思わぬ『成長』を遂げたブツ。
 若い子達の信じる心は偉大だとか思っておけば良いのか、昇華された力があったのか。
「……なんでこうなった? まあいいや、誰かを助けろポリたぬくん」
 くるり、と虚空にポリたぬくんを描く。ぱふん、と可愛らしい効果音と共に現れた存在は――都市伝説になってしまったポリたぬくんは、刑部の前に立った。
「ここにいる人間の正気を戻してくれ」
 向けられる視線に、その気配に刑部は告げた。
(「縁の成就で呼び寄せても縁を切る為の相手の不幸もこの状況だと誰かが傷つく、なら傷をこれ以上つけない為に俺の願いを叶えるはず」)
 どうだ? と刑部が視線を向けた先、ピィーとなぞの笛を響かせた後、ポリたぬくんは丸っこい手を空に掲げた。
『♪』
 瞬間、リン、と空が揺れた。破砕に似たその音は――だが、鈴の音に似た余韻を残して。叫びながら進んでいた人々が、止まる。
「れ……、え? 俺、どうして……」
「あれ、私いつの間に転んだのかしら? こんな傷、やだ靴擦れ?」
 瞳をぱちぱちとさせる人々に、正気を取り戻した人々が自分の怪我に驚くのを見ながら刑部はひとつ息を吸った。
「警察です。応急手当をするのでこちらにどうぞ」
 言の葉をそうひとつ作って見せながら、用意しておいた包帯やらガーゼを引っ張り出す。正気に戻った人々を、にこりと浮かべた笑みと演技で――別に、嘘でもないのだが、逃がしていきながら刑部はほう、と息をついた。
「やる事あると必死になって声なんて無視出来るもんだな」
 裾についた砂を払って立ち上がる。囁くように背に聞こえていた声。自分を呼ぶそれに、振り返ることなく刑部は靴音だけを響かせた。
「なあ、伊予のニセモン?」
 カツン、と響く一音。吐いた息と共に定めて見せた相手が吹き抜ける風に掻き消されるようにして――消えた。

ヴィルヴェ・レメゲトン

●この道の果てに
 はは、と笑う声が侵食された空間に響いていた。真っ赤な鳥居の続く参道、ぴり、と静電気に似た感覚を指先に感じながら、少女はとん、と段差を上がった。
「小王劍まで持ち出してくるとは……もう少し慎重にことを運ぶタイプかと思っておったが」
 ヴィルヴェ・レメゲトン(万魔を喚ぶ者・h01224)はそう言って眉を寄せる。ヴィルヴェの印象では、隠神刑部は暗躍を好むタイプだ。事件の裏で糸を引き――事実、ペンタクルム・ゲートの始まり、あの詐欺師が出て来た件では裏で宗教団体を牛耳る一歩手前まで来ていた。
「いよいよ後が無くなったのじゃろうか」
 何度も事件を防いで来たのは事実だ。とん、と長く続く参道を上がり――む、と少女は足を止める。
「王権決死戦となれば、気を引き締めていく必要があるのじゃ」
 くるり、と魔杖を回すと、ヴィルヴェはその柄で地面に触れた。キィン、と先端が——鍵が煌めく。零れる光が少女の赤い瞳に映り込み、ひゅん、とヴィルヴェは魔杖を――Lesser Keyを前に向けた。
「まずは術に囚われた人々を助けるのじゃ!」
 立ち上がる陣は四方を結び、霊能力が少女に路を告げる。それは召喚の路。彼方より現世へ、彼らを喚び――告げる。
「粘液生物召喚!」
 カチリ、と響いた音は高く。ヴィルヴェの前、9つの影が落ちた。それこそはブラックウーズ。つやりとした漆黒は一度跳ねて、恭しく主たる少女に頭を垂れる。
 ――その、時だった。強い風が吹いたのは。
「来たのじゃ」
 秋風に木の葉が舞う。参道を削り、砂を散らしながらヴィルヴェの横をさぁああと抜けていく。狙いはそこではないと言うように。
「隠神刑部の神通力から人々を守るのじゃ」
 ヴィルヴェの言葉にブラックウーズ達が滑るように駆けた。ず、ずず、と漆黒は参道を這い上がり、あは、と笑い、よろめく人々の前に立ち上がる。
「……から、私だって、幸せになりなかったのよ――! だから」
 迫り来る木の葉など、見えていないのだろう。狂気に満ちた瞳で、荒く手を振るった女の指先がブラックウーズに沈み――そのまま、漆黒は盾となる。
 ギィイイイ、と鋼めいた音が響き渡った。一瞬、ちか、とヴィルヴェの瞳に映ったのは火花か。一拍の後、ブラックウーズが隠神刑部の神通力に崩される。吹き抜ける風が、一層、強くなった。
「――見ておるの」
 一角を見据え、ふ、息を吐いたヴィルヴェはLesser Keyを掲げた。
「一度では終わらないのじゃ」
 踵を鳴らして、紡ぐ魔術がブラックウーズ達を震わせる。
「倒されたとしても、増殖で埋めて守り切るのじゃ!」
 とぷり、と地に落ちた漆黒が波紋を描き――広がる。薄く揺らめき、波打つようにしてそれは増殖すれば、次の木の葉を受け止めるには十分だ。
「うむ。増殖でどうにかなりそうじゃな。それなら次は……」
 くるり、とヴィルヴェは辺りを見渡した。呻く一人も、暴れるように虚空に手を震っている者も――誰一人、今の状況に気が付いてはいない。
「……から、良いと思ったんだ。だから、あいつと良い縁があるようにって……」
「だって、そうでしょう。あんな相手……縁が切れるように願ったって……」
 そこにあるのは感謝であり、怒りであり、その全てが縁に纏わる思いだった。縁を結びたいにしろ、切りたいにしろ、強い感情は幻覚に飲み込まれるが侭溢れ出していく。
「傷は……とりあえず、あの木の葉だけっぽいが、このままにしておくのも大変そうなのじゃ」
 だからこそ、ヴィルヴェは一冊の魔道書を手に取った。
「幻覚を見ている者達をいちいち正気に戻すのも面倒じゃ」
 ひとりでに捲られていく魔術書は、ただ淡く光を零して――主たる少女の言葉を待った。
「亡霊魔手召喚!」
 顕現の時を。
 その路が開かれる時を。
 キィイン、と甲高く響いた音と共に、現れた何かが参道を駆け抜けた。神域を割って、門を開いた少女の前、舞い上がった木の葉をブラックウーズが払い、裂けた黒の向こう側、彷徨う人々の動きが――止まった。
「――ぁ、あ」
「ポルターガイストというやつじゃ!」
 呻き声が、怨嗟が、ふつりと止む。ヴィルヴェが召喚した不可視の霊体の手が人々を掴んだからだ。安全な場所まで移動させながら、ヴィルヴェは参道の先へと視線を向けた。
「他の場所でも宿敵旅団の簒奪者との決戦が行われているようじゃな」
 何かが、彼らを一気に動かす――王権決死戦を突き動かしたのだろう。覚悟と共に。
「『ペンタクルム・ゲート』が完全な形で成就したら大変じゃ。一網打尽にして、壊滅させてやるのじゃ!」
 そう言って、ヴィルヴェは顔を上げる。覚悟と共に、少女は参道を上がった。

嘯・シアン

●運命を名乗る道の果て
 ――鮮血が、弧を描くように舞った。腕を切ったか、スーツの袖が落ち呻く男の腕から赤が零れ参道に落ちる。
「また派手にやってるなぁ」
 そのどれもが、参道の中に収まりきっていた。鮮血は血溜まりを生めど一拍で収まり、飲み干すように消えていく。色彩だけが足元に残り、こつり、と男が靴先を落とせば逃げるように消えた。
「嫌われちゃった? 困ったなぁ」
 欠片も困ってもいないような顔でそう言って、嘯・シアン(恣意的思惟・h06837)は口元に笑みを浮かべた。右に左に、彷徨く人々はみな、虚空を見据えて声を上げていた。
「だって幸せになるべきでしょ。私と一緒に。だから、他の誰より私と縁が結ばれますようにって思ったのよ」
「……たり前よ、あんたなんか親でもなんでもないわ。私たちを置いて出ていったあんたに――……」
 蕩けるような笑みで紡がれた幸いを告げる者もいれば、手を振るって怒りのままに叫ぶ者もいる。
「だって、そうだろう! お前なんかより、俺の方が未来があるし意味もある。だから、願ったんだよ。お前とあの仕事の縁が切れて、あと――……」
「どれもこれも興味深い物語だけれど……」
 鳥居の影の下、興味深く耳を傾けていたシアンの頭上にひらり、と何かが舞った。朱塗りの鳥居とは違う、蕩ける赤の瞳に映り込んだのは――新緑の緑。見据える程に色彩は木の葉に変わり、見知った動きを見せた。
「興味がそそられるところだけど。その物語をここで途絶えさせてしまうのは勿体無い」
 ひゅう、と風が吹く。空で舞った木の葉が空中で狙いを定めるように落ちて来る。一足で、首元狙うように。駆け抜ける木の葉が向かう先はシアンではない――その視線に先にいた、男だ。
「……が相応しいんだよ。未来だって俺の、方が、だって、お前、は――……」
「……」
 真横を、駆け抜けていった風にさぁああとシアンの髪が揺れる。紅茶を溶かした色彩は、一筋も零れること無く――ただ、木の葉は男に向かう。前髪が揺れ、一瞬、隠された表情の下。怒りの果てに後悔を滲ませた男の声に、吹き抜ける風に、シアンは美しい羽根ペンを手に取った。
「世界ってのは、こうでなくっちゃ」
 描く一筋。柔らかく弧を描いて、空に滑らせて。真っ赤な世界に虹をかけるように。描き出されたのはふかふかの雲みたいな羊たち。
『♪』
 ぽよん、と元気に羊は跳ねて、木の葉なんて気にもせずに狂乱する人々の間を駆け抜けた。ぱふん、と零れた毛が木の葉を弾いて――なにせ、羊たちは願いを叶えてに来たのですから。
「ぁ――……」
 くらり、と男が崩れ落ちる。ひとり、またひとりと落ちていく人々の瞳に涙の一筋が零れ落ちて――全て、悪い夢だったと言うように羊がメェ、と鳴いた。
「さてと。これで……」
 見える範囲は、とシアンがくるりと羽根ペンを回した。その時だった。
「――」
 僅かに感じた風。頬に触れる何かの流れ。
 感じた瞬間には、しゅ、と羽根ペンで鋭い一筋を描いていた。
「――ハ、やれやれ。困ったやつじゃのぅ」
 槍として顕現させた一閃が、崩れた男を狙ってきた一撃を防いでいた。衝撃に、火花が散る。木の葉に紛れて眠らせた相手を狙ってきた古妖の網代笠が落ちた。
「おぬし。今日は良い酒も無いというのに」
「また会えたね、タヌキ君」
 ゆるり、とシアンは笑う。肩を竦めた古妖――隠神刑部は、ひとつ息を吐くと頷いた。
「あぁ。また会ったのぅ。此度も阻むか?」
 此度、と隠神刑部が告げるのは、ペンタクルム・ゲートを巡る一連の事件での出会いを覚えているということだろう。
「そうだな……」
 魅力的な悪役に、作家としの興味が移りそうになったその時――声が、した。
『それが先生の悪い癖なの』
「――」
 手が、止まる。正面、確かに見えていた筈の隠神刑部の姿が煙に飲まれるようにして消え――後ろから響いた少女の声が、先生、と言う。
「はは……怒らないでよ、■■ちゃん」
 コツリ、踵を鳴らす。吐き出した息は重く響いただろうか。或いは苦笑を滲ませたのか。一瞬、下を見た男の表情は揺れる髪に隠れ、唇が作った名が風に揺れる。
 それは小説より奇なる縁。
 血の繋がりのない、もう一人の“妹”
「そうだね、君はいつだって|英雄《ヒロイン》だ」
 吐息一つ零すようにしてシアンは言った。
 傷付いた人を放ってはおけない優しい子。
 羽根ペンで柔らかに描く曲線は目眩ましの霧の幻影を描きだして、倒れた人の手を取った。
「また後で遊ぼうね」
 隠神刑部が残した白煙にウィンクを残して。揺れる木の葉を霧で惑わせながら、シアンは参道から離れていった。
「この辺りで良さそうだね。」
 連なる鳥居の果て、入ってきた道が出口として使えるようになったのは同じように踏み込んできた√能力者達が、浸食された領域を揺らしたからだろう。
「傷も悪夢も全部忘れて、おやすみ 」
 ひとつ、ふたつ。雨雲と雨粒を描いて。癒やしの雨の降り注ぐ中、人々が眠りに落ちる。遠く眺めた先の参道の出来事など全部忘れて――ただ、描いた男だけが全てを覚えていた。

第2章 集団戦 『のっぺらぼう』


●三千世界の鴉は何処
 鳥居の連なる参道を上がっていけば、一行の目に映ったのは不可解な空間であった。砂利の敷き詰められたその場所は随分と広く——だが、異様な気配がする。
「参道を上がった先……じゃ、なさそうだね。結構、上がってきたと思ったんだけどなぁ」
 呟いて、√能力者の娘は言った。
「神社でも無いし、お寺さんでも無い……かな?」
「そうじゃの。妙な空間じゃが……」
 赤い瞳を細めて、√能力者の少女は上を見た。
「閉じられてく感じがするのじゃ」
「ってことは……、解決するまでは出られないよってことかな? 狸さ……」
 言いかけた先で、娘は紫の瞳を細めた。口を噤む。何か違う気配がする。
「来るね」
「——えぇ、そのようです」
 神域の気配が遠い、と√能力者の男は思った。だが同時に、緑の匂いが濃くなっていると思う。深い山の気配。それを古妖が喚んだのか。招いたのか。
「人成らざるもの。山に住まうは……、これは、水?」
 知らず、靴先が水に触れていた。水たまりのそれよりは大きいと思う。感覚が、視界がひらけるように広がっていく。
「——へぇ、タヌキ君も粋なことをする」
 ぱち、と赤い瞳を瞬かせて男が言う。
 そこに見えたのは、巨大な泉であった。山間の一角に現れた泉。その水面に√能力者達は立っていたのだ。
「本物か、或いはお得意の化かしかな?」
「カッカッカ。なに、とっておきの宴にすべきじゃろう?」
 どろん、と白い煙が揺れたかと思うと、水面の先に一体の古妖の姿が見えた。酒を手に、盃を掲げて見せた存在——隠神刑部は機嫌良く笑った。
「見知った顔も多いのぅ。やはり、おぬしらか。新しい顔もおる」
 さて、と隠神刑部は盃を軽く掲げた。
「飲むか?」
「仕事中に酒を勧めるなっての」
 軽く髪をかきあげて息を吐いた男に、古妖が楽しげに笑った。
「宴の前じゃ。無礼講よ」
「その無礼講のわりには……何かがいるよね」
 青年の言葉に、ふ、と隠神刑部は笑った。
「あぁ。なに、余興よ。これでおぬしらが止まれば儂はここで事を成す」
 きつく握った拳ひとつ、隠神刑部は言った。
「儂にも成すべき事があってのぅ。ここで、潰えてもらおうか」
 その言葉を合図とするように、水面から一体、また一体と青白い何かが現れた。それは、大人ほどの身長を持ち、長い手を揺らして立つ。
「……ほしイ」
「ほシい、ほしイ」
 そこに顔は無く。それに自我も無い。
 ただ、とぷりと沈んで浮いてを繰り返し、鏡面に映った相手の顔を奪い取らんとするもの。
 ——のっぺらぼう。
「その顔ヲよこセ」
 それが、一行の前に立ち塞がるように湧き上がった。

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穂鷹令です。
ご参加ありがとうございます

第2章「のっぺらぼう」との戦いとなります。
隠神刑部は見ているだけで、戦いには参加してきません。

●戦場について
 山中にある巨大な泉のような空間。
 不思議なことに水面の上を歩けるようです。(フレーバーなのであまり気にしなくて大丈夫です)

●敵について
のっぺらぼう
 顔が無く、自我というものもない存在。
 水面に顔を映し出した相手へと手を伸ばし無理矢理人の顔を奪い取り、その顔と浮かべた感情を自分のものにしようとする。

*アイテムや技能は、√能力を超えた効果は持ちません。
*√能力の説明文章、アイテムの説明文章を大きく広げて解釈した行動、ルールを越える効果を前提とした行動は、不採用でお返しする可能性があります。

色々書きましたが、マスタリングしたり、内容によってはお返しするなどしますので、ルール範囲内で色々と挑戦していただければ。

難易度相応の判定となります

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●リプレイの受付
 10月13日 8:31〜
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●複数参加
 2人くらいまでがキャパです。
 ご一緒の際は、同日の送信、お相手のIDを記載してください(合言葉被りなどを防ぐ為)

・状況によっては全ての方を採用するのは難しいかと。予め、ご了承ください。
・再送が発生する場合がございます。タグ、マスターページにて記載をさせていただきます。

●他
*戦闘など判定により負傷描写がある場合があります。

それでは、御武運を。
クラウス・イーザリー
八百夜・刑部
ヴィルヴェ・レメゲトン

●波紋
 吹き抜ける風が、水面を揺らしていた。さぁあ、と涼やかな風が一行の首筋を撫で――一体、また一体と姿を見せたのっぺらぼう達の声が響き渡る。
「……ほしイ」
「ほシい。ひとダ」
 右に身を揺らし、左に身を揺らし。水面を歩くのっぺらぼう達に足音は無く――だが、波紋だけを描く。
「ひトが来タ。顔ダ」
 浮き上がる泡のように姿を見せた者達が告げる。顔だ、人だと、繰り返される言葉がひたり、と止まり――一斉に√能力者達を見た。
「来るね」
 警戒を告げたクラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)の横、男は息を吐くようにして視線を上げた。
「賑やかなこった」
 ひとだ、ひとだと繰り返すそれに、丸っと全部人でくくってんのか? と八百夜・刑部(半人半妖(化け狸)の汚職警官・h00547)は眉を寄せた。
「確かに怪談ののっぺらぼうは狸の変化って説はあるから納得は出来る」
 言いながら、腰の銃に手を掛ける。抜くにはまだ早い。ゆらり、動いたのっぺらぼうが描く波紋が増えていく。
「こっちへの謎かけなのかただのノリなのか。分かんねーのが狸の厄介な所だな」
「どちらにも取れる感じがするね。もしくは、取る事に意味があるのか……」
 クラウスはそう言いながら、水面を埋めつくすのっぺらぼう達の先――こちらに視線だけを向ける相手を、隠神刑部を見た。
(「動きは無い。本当に戦いに参加する気は無さそうだけど……」)
 それでも、油断だけはしないように視界に収める。靴先に触れるように来ていた波紋が、不意に、止まった。
「――……前に出るよ」
 短く、クラウスはそう告げる。あぁ、と応じた刑部の後ろ、ぱしゃん、と敢えて水面を踏んで、自ら迫る波紋を崩した少女が、びしっとのっぺらぼう達を、隠神刑部を指差した。
「今更この程度の相手で、ヴィルヴェ達を止められるはずが無いのじゃ!」
 ヴィルヴェ・レメゲトン(万魔を喚ぶ者・h01224)の言葉に、この空間を作り上げた古妖・隠神刑部は笑った。
「カッカッカ。ならば、見せてもらおうかのぅ。√能力者よ」
 盃を掲げる。酒の匂いが一度強く香り――ふ、と邪悪な化け狸の頭領は言った。
「宴の時じゃ」
 その言葉を合図とするように、のっぺらぼう達が一気に動き出した。

●鏡面を払って
「――顔ダ」
「顔、顔顔顔が――」
「――」
 甲高く響いた声に、た、とクラウスが水面を蹴って前に出た。一足、踏み込みはパシャン、と音を響かせて、足裏に力を入れる。水面を地面のように捉えて――これが、本当の水面じゃないのなら、動き方は分かる。ぐん、と視線を上げて、二歩目、クラウスは跳ぶように前に出た。敵の懐へ、踏み込むのっぺらぼう達より先に、その間合いを踏むために。
「ほしイ。ほシい……」
 間合いを踏む。ぐん、と滑るように来たのっぺらぼうが、手を伸ばしてくる。
「その顔ヲ!」
「――」
 巨大な手が、クラウスの顔を目がけて伸ばされた。ぐ、と掴むように来たそれに、青年は身を逸らすより――腰を沈めた。
「あげないよ」
 最後の一歩、低く前に跳んで拳を握る。青白い光が零れ、創造した槍がクラウスの手の中に落ちた。ヒュン、と一閃、薙ぎ払えば、キィイイン、と甲高い音が響き渡った。
「キィイイイイイイァア、ア……!?」
「イィイァアアア?」
 それは、硝子の割れる音に似ていたか。胴が砕け、だがそれでも、と伸ばされた手に、砕けながらも這ってきた身に、クラウスは視線を集中させた。
(「――来て」)
 撃ってでは無く、招く。
 レイン砲台が応えるように、仮初めの空に光が生まれた。
「キィイイイァアア、オ、ガ、顔ガ、顔、カオ――」
 暴れるようにのっぺらぼうが身を捩る。一体が崩れ落ち、真横の一体が吼えた。
「寄こせ寄越せ」
 告げられる言葉と同時に、のっぺらぼうの人形のような体から腕が生えた。増えた、と言う方が正しいのか。一本、二本と増えたそれが、ぶわりと一気にクラウスに向かってくる。
「――っと」
 身を逸らす。退いた足を軸に、レイン砲台からの砲撃を集中させる。弾けた光の向こう、またひとつ聞こえた破砕の音を耳に、クラウスは息を吸った。
(「自分に顔が無いから他人の顔を欲しがるのかな……。俺の顔は俺自身と俺を大切にしてくれる人のものだからあげられないけれど」)
 駄々をこねる子供のように。
 或いは切実な願いであるかのように。
 のっぺらぼう達は求め続け、目の端、またひとつ手が増えた。
「左だ!」
 後方、響いた刑部の声に、クラウスは身を横に振った。着地の足と共に、一気に間合いを取り直す。追うように揺れた視線――この身が引きつけるのは理解している。
(「それで良い」)
 腰の銃を抜く。二丁の拳銃を構えながら間合いを取り直せば、バシャン、と水面を踏んだ刑部が柏手を打った。
(「さて、意志も無く妖としての本能のみの相手か、ならこっちもやりやすい」)
 青々とした葉が舞う。解放していく力に、妖力に男の髪が、衣が揺れる。吹き荒れる風は二度、警戒するように一斉に来たのっぺらぼう達を前に、刑部は、に、と笑った。
「さぁ、やろーか」
「顔、ダ……!」
 それは応じる声であったか。一足、水面を蹴ったのっぺらぼう達が、一瞬にして間合いを詰めてきた。インビジブルを介して、踏み込んできたか。
「ほしイ、ホしイ……」
「顔、ヲ……!」
 ぐん、とのっぺらぼう達が手を伸ばす。だが、その瞬間、無数の葉が爆発した。轟音と共に熱が弾け――一瞬、音を失う。
「……」
 爆風に、破砕の音が混じった。キィイン、と甲高い音が響く。
「おーおー、盛大にいったな」
「キィイィイイ、ァ」
 ぐらり、ゆらりとのっぺらぼう達は立ち上がる。焼け焦げた身を取り繕うこともなく、ただ真っ直ぐに刑部へと手を伸ばし――止まる。
「ア?」
「ァア、アア――……?」
 困惑か、混乱か。
 足を止めたのっぺらぼう達の指先は男に触れる前に止まり、ゆらり周りを見る。
「……イイァアア、顔、顔ヲ」
「顔だ、カオハ、カオ、カオガ――」
 そこにいたのは、古妖・隠神刑部。本物では無い。その姿に変化させられたのだ。のっぺらぼうが。
(「ま、流石に全員には仕掛けきれなかったが……。刑部狸の介入かね」)
 だが、と刑部は前を見る。
「顔と情を奪うという本能のみの相手に顔だけ果たして得れない感情。満たされぬ中に疑心暗鬼を押し付けたらどうなっかね?」
 のっぺらぼう達は呻く。右に、左に見渡して。漸く得た筈の顔が、誰も彼も同じで。
「同じ顔を奪い合ってより感情を手に入れようとするだろうよ」
「はっはっは。なるほど、こいつは一本取られたのぅ」
 顔ダ、顔ガ、と叫ぶのっぺらぼう達が、互いに手を伸ばし合う。ガシャン、と崩れた破砕の音に、盃を満たした酒を飲み干して隠神刑部は笑った。
「刑部よ」
「その対象はお前も含まれるぞ、刑部狸」
 釘を刺すようにそう言って、刑部は銃を抜く。まだ動いているのっぺらぼう達がいる。あれが、と視線を向ければ、そうよ、と古妖が笑った。
「残るあやつらもまだ、渇望するじゃろうて」
「顔ダ、顔を、顔、顔ニ、カオ、ガ――」
「させないよ」
 だがそれを――駆けてくるのっぺらぼう達をクラウスの銃弾が撃ち抜いた。破砕で開けた視界の先、軽く目配せをして刑部は水面を蹴った。
「悪いが見ててな」
 右端、動いたのっぺらぼうを撃ち抜けば、ぱしゃん、と水音が大きく響いた。
「これで準備も万端なのじゃ。ゴーレムメイカー!」
 先端に鍵のついた魔杖を少女は掲げる。零れ落ちる光と共に、描き出された魔方陣が水面を彩り――変えていく。ヴィルヴェの門へと。
「適当な材料に召喚した精霊を宿らせて……ゴーレム完成じゃ!」
 召喚した水の精霊が、煌めきと共に舞う。詠唱の間、ただの一度も移動出来ずとも――作り上げたゴーレム達が、前を行く仲間達が守ってくれているから。だから、ヴィルヴェは紡ぐ。一体、また一体と、力を注ぎ込むように泉の水を使って大量のアクアゴーレムを戦場に顕現させた。
「勝負じゃ!」
 魔杖を掲げてヴィルヴェは告げる。ふわり、と白い髪が揺れ、ずらりと並んだアクアゴーレム達越しにその姿を見たのっぺらぼうたちが――吼えた。
「顔ヲ……」
「顔ダ、人ダ、もっと、もっともっと――」
 あぁ、と息を吐く。女とも、男とも知れぬその声で、のっぺらぼう達は言った。
「見ろ」
「お前を見ろ」
「そうじゃの」
 言の葉をひとつ、告げる。ゴーレムの大量に召喚して、このタイミングまで待っていた理由はひとつ、機を読むためだ。
「こっちの術式を解析してくるタイプならば、攻めなければ敵の攻撃も大したことが無いはずじゃ」
 だからこそ、いま、アクアゴーレム達が動き出す。全ては十分な数を揃えるため、注ぎ混んだ力でヴィルヴェは言った。
「無貌の顔を想像する間も与えずに一気に倒してやるのじゃ!」
『――』
 咆吼無く応じたアクアゴーレム達が一気に行く。バシャン、と響く水音は重く、突き出した拳がのっぺらぼうに沈み、ぐらり、と妖は身を揺らす。
「キィイ、ィイイイイ――ァ」
 無貌の顔を生み出すように、掲げた手は――だが、次のゴーレムの拳に沈められた。叩きつけられ、吹き飛ばされれば砕け散るだけだ。またひとつ破砕の音が響き渡る戦場に、クラウスの銃声と砲撃が、刑部の銃声が響き渡る。
「これで後は隠神刑部を倒すだけじゃな。決着をつけてやるのじゃ!」
 水面を覆い尽くすようにいたのっぺらぼう達が消えていく。開けた道の先、真っ直ぐに古妖の姿を捉えてヴィルヴェはそう言った。

峰・千早

●かぜのふきしく
 吹き抜ける風と共に、水滴が散った。穿つ一撃と共にアクアゴーレムが砕け散り——だが、続く一打を叩き込むゴーレムがのっぺらぼうに届く。銃撃と砲撃の合間、ぐらり、身を揺らすのっぺらぼうたちが互いの顔を見合うのは先に踏み込んだ仲間の仕掛けた術があるからか。
「顔ヲ……」
「顔ガ、顔ガ……」
 キィン、と甲高く響く破砕音は硝子の砕ける音に似ていた。バシャン、と水音は派手に響いて、ぐらり、ゆらりと浮き上がったのっぺらぼう達が呟く。
「ほシい」
「ほシいほシい」
「……」
 それは女の声とも、男の声とも言えぬ声であった。歪み軋んだそれは、山彦に似ているだろうか、と峰・千早(ヒーロー「ウラノアール」/獣妖「巨猴」・h00951)は思う。飢える妖の声に、千早は——ウラノアールは視線を上げた。
「どうせなら酒の泉が良かったですね」
「ハッハッハ、確かに。それも良かったのぅ。飲み干すには向いた地よ」
 呟きは予想外の所から拾われた。視線を上げた千早の仮面越しの瞳に映ったのは、古妖・隠神刑部であった。
「酒を好まれるのですか?」
「なに、嗜み程度じゃがのぅ」
 水を向けた先、そう言って笑った隠神刑部が盃を揺らす。
「このような時でも無ければ、儂の秘蔵の酒を用意しても良かったがのぅ。じゃが、終いでの」「しイ、ほシィ、顔ヲ……!」
 古妖の言葉が合図であったか、或いは駆けるのっぺらぼう達が速度を上げたが故か。漂う酒香は水音に散らされ、バシャン、と派手な水音が千早の耳に届く。
「顔ヲ、よこセ!」
 水面につく足は無く——然れど、波紋だけを描いてのっぺらぼうが来た。
「そう顔を望まれても……」
 ぐん、と伸ばされた手に身を逸らす。片足を引いて、拳を構え直したその瞬間、のっぺらぼうの背が震えた。
「寄越せ寄越せ」
「——!」
 明瞭に響いた声と共に、眼前の妖が膨れる。ボコボコとその背から生えた無数の手が——来た。その手が狙うのは、千早の、ウラノアールたる証。英雄の仮面であった。
「なに……!?」
 面が消える。晒した顔と共に黒髪が揺れ、千早は唇を引き結んだ。
「仕方ない、仮面の一つくらいくれてやりましょう。見苦しい姿を……晒しますが……」
 息を吐く。一度きつく、千早は拳を握った。英雄の仮面なき今、この力を使う覚悟をその身に刻むように顔を上げる。
「ちはやぶる 神の坐すは峰の裏」
 多くの力を喪ったとて、我は土地神『鎧闇』の子。
「疾く疾く逃げよ 宮の暗闇」
 影が、揺れた。水面に映る峰・千早としての影が揺れ、変わっていく。全身のどこからでも生える牙を十六添えて。咆吼も無く、怒号も無いままに身の丈が10mに変わり——剛腕が三十を数えれば、そこにあるのは荒々しい獣妖・巨猴。
「しい、ほ、シイ……顔、モッ——」
 伸ばされた青白い腕は、だが巨猴の剛腕に捕らえられた。バキン、とその腕を、千早は折る。
「キィイイィイイ!」
 破砕の音ひとつ、暴れるように振りあげられた残る腕が届くより先に、千早は——男は、晒すその身で食らい付いた。
「ギィイイイ、ァア——……」
 ぐらり、とのっぺらぼうが崩れ落ちる。破砕の音を響かせ、ガシャンと落ちた身を跳び越えるように来た妖に巨猴は拳を突き出した。
「——イ、ァ」
「俺から『ヒーロー』の側面を奪うなら、少々野蛮な目に遭っても文句言うまいよ!」
 穿つ一撃。暴れるような拳はのっぺらぼうを砕き、破片を跳び越えるように巨猴は行く。たとえその身が荒々しい獣妖であろうと——その心を失うことなど無く。道を、拓く為に。

嘯・シアン

●花も、蝶もと
「セ、寄越セ」
「顔ヲ、顔……」
 水面の揺れを、入り口とするようにのっぺらぼう達は這い上がる。変じた身で穿ち、銃弾の飛び交う戦場に、その弾けた水の向こうで古妖・隠神刑部は笑った。
「はっはっは、実に愉快じゃのぅ」
 並々と次いだ酒で喉を潤すようにして、古妖は水面に生まれた岩のひとつに腰掛けていた。
「あはは、タヌキ君ってばまぁた飲んでる」
 その姿に、嘯・シアン(恣意的思惟・h06837)は笑みを見せた。パシャン、と水面を踏んで、お誂え向きじゃないか、と波紋に靴先を沈め―― の瞳を妖越しに隠神刑部へと向けた。
「今日はなんだい?」
「この辺りは水が良いからのぅ。地の酒よ」
 仄かに香るそれを掲げ、盃を手にした古妖がゆるり、と口の端を上げる。
「この宴に似合いの酒よ」
 そこに憂いは無く、いっそ清々しいまでの笑みを古妖は浮かべていた。
「似合い、か」
 その言葉に、シアンは、ふ、と笑う。嘗て、酒を飲み交わした男は、水面に靴先で軽く円を描いて――蹴る。
「余興ってことなら喜んで君の酒の肴になろうか」
 バシャン、弾けた水音は、何も水遊びをする為にした訳じゃ無い。水面を揺らす気配を感じていたからだ。
「欲しイ、ほシい、イ」
「顔、ヲ――!」
 無数の手が、水面から伸びてきた。跳ばす水で妖たちの顔を濡らしながら、わぁ、と形ばかり驚いて見せた男は、羽ペンを持つ。
「共演者がのっぺらぼうじゃあ絵面が寂しい」
 宙に一筋を描く。選んだインクは、とろりと溶ける墨に藍を滲ませて。一線、描いた先、飛び退きながらシアンは宙に顔を描く。
「俺が顔をあげよう」
 水滴は薬指で弾いて、描き上げた顔をのっぺらぼうに写した。
「ほら、美丈夫に別嬪さん」
 ぺたりと、貼り付けられたそれが人形のような体に顔をつければ、青白い手が空で――止まる。
「――ァ、ア」
「ァア、ァアアア、顔、が」
「顔だ。顔だ、顔だ、顔」
 口々にのっぺらぼう達は呟く。ぺたりぺたりと己の頬に触れて、馴染むように指先で撫で――一斉にシアンを見た。
「顔、が、出ル」
「ある、在る、在ル、在ル」
 呟きは加速し、ぺた、ぺたとのっぺらぼう達の足音が響き、水面に描かれた波紋が増えた。
「もっと、ダ!」
「もう随分別嬪さんだって言うのに」
 うっそりと美しい笑みで笑った男は、駆けてくるのっぺらぼう達を前に身を引くより、一閃を描きあげる。弧を描くように空に滑らせた線は銀の色彩。空に駆け上る星を描けば、その形は日本刀を見せた。
「ご笑覧あれ、この時の為に剣舞を練習してみたんだ」
 とん、と手の中、落とした一振り。思い付きの嘘を唇に乗せて。迫る手の前、舞うように凪げば――ヒュン、とシアンの振るう一撃がのっぺらぼう達を切り裂いた。
「ァア、ァア、ア――」
 キィイン、と甲高く音は響く。軋む青白い体へと迷い無くシアンは踏み込んだ。
「斬り捨て御免ってね」
 これは、シアンを主人公に描いた物語。
 時代劇だかアニメだかで見た剣戟を真似て、くるり身を回した先、上段から一気に刃を振り下ろせば――のっぺらぼうが、割れる。
「キィイ、イァア、ァ――オ、ガ」
 破砕の一瞬、視界が開ける。青の隙間から、ひゅ、と突き出されたのは――同じ、日本刀だ。
「いいね。また一興だ」
 穿つ鋭さにただ視線を向ける。身を逸らすより妖の影を踏んで――瞬間、ギィイン、と光が散る。
「――!」
 エネルギーバリアだ。零したインクのように光は揺れて、のっぺらぼうの穿つ刃を――弾く。キン、と構えた刃は上にずれるように揺れて、バリアが解けた瞬間に、シアンは踏み込む。眼前の刃を弾き上げて、撃ち込み耐える力と切り結んで――行く。
「ギィイイイ――イ」
 ザン、と振り下ろすシアンの一撃が、のっぺらぼうに沈んだ。両断された身が崩れ落ち、水柱が立つ。バシャン、と生まれた水の向こう、僅かに見えた古妖の姿に、ふ、と思い付くままシアンは片手間に幻影を描く。
「ほらタヌキ君、お酒は進んでるかい? 」
 それは桜吹雪。魅せる程に美しい光景を寄せて、笑うシアンに隠神刑部は口の端を上げた。
「はっはっは。魅せてくれるとはのぅ。実に良い宴よ」
 ひどく楽しげに、それでいて満足そうに。ひらり舞う花の一片を返しながら――笑った。

太曜・なのか

●無垢の白と
 パシャン、と水を蹴る音が戦場となった場所に響いていた。幾つも描かれた波紋が妖達の足音となり、斬り伏せられればキィン、と甲高く音が鳴る。
「……」
 それは、正しく異様で――だが、同時に、太曜・なのか(七曜天騎ウェザリエ・h02984)には少しは見慣れた光景だった。のっぺらぼう達の伸ばす手も、それを後方から眺め見る古妖・隠神刑部も知っている。ああやって後ろからお酒を飲みながら眺めているのは変わらなくて――……。
(「でも……」)
 なんとなく違う気が、なのかにはしていた。
 小王劍を持っているという事実も、この空間も。
(「鳥居が繋ぐ異世界の出口を弄った? それとも神域そのものを書き換えた?」)
 さっきまでの空間とはまるで違う。参道の行き先であった神社は消え、辿りついたこの場所に何の意味も無いということは無いだろう。
(「どちらにしろ凄まじい神力……狸さん、一体何をするつもりなの!」)
 きゅ、となのかは唇を引き結び、前を見た。水しぶきの向こう、確かに見えた古妖が、ゆるり、と笑う姿に――盃を持つ姿が変わらずとも、確かに感じた違和を信じて、手の中にひとつのバッジを持つ。
「天気雨バッジ・フォーキャスト!」
 左の手を重ねるようにして持ったバッジを装填する。零れる光に空は煌めいて、すぅ、となのかは息を吸う。そう、と伸ばした手、指先はぽた、ぽたと落ちる水滴に触れて、瞼をなでる。
「……」
 それは、遺響志異禄から横取りした力。あの日、空に満ちていた力と共になのかが紡ぎ上げたもの。天気雨は今、空に無くとも、ひらり、かざした掌から純白を纏って、変ずるのは嫁入り狐。
「柄にもなく生き急いで、主さんの狙いはなんざんす?」
 白無垢に身をつつんで、角隠しは、狐の耳を象って。指先で紅をひくと、なのかは真っ直ぐに隠神刑部を見た。
「おゆかり様のわっちと主さんの仲じゃありんせんか。ちょいと教えておくんなんし?」
「――れは……、く、はっはっは。やれやれ、儂が化かされるとはのぅ」
 向けた視線に、嫁入り狐の姿に一瞬、確かに言葉を失った古妖・隠神刑部が息を吐く。盃をことり、と置いて、は、とつかれた息は、苛立ちでは無く、ほんの少しだけ懐かしさを滲ませていた。
「しかし『あれ』から力を引き出すとはのぅ。そうじゃな、おぬしとも、もう長いか。
 なに、全てはペンタクルム・ゲート計画よ。今は儂、自ら関わり……随分と苦戦してるがのぅ」
 した、とは言わずに言うのは、負けるつもりなど無いからか。それは√能力者達を侮っている訳では無く、隠神刑部らしさであろう。
「おぬしらは、実にばかし甲斐のある相手ばかりじゃが……アンドロスフィンクスを失った上、彼奴、縊匣にしてやられたからのぅ」
 今や、悠々と過ごす時も無くてのぅ、と古妖は言う。長い時を過ごしてきた古妖は、ただただ時を惜しむようにその手に一振りの小王劍をみせた。
「それは……」
「小王劍じゃ。知っておろう」
 なのかの言葉にそう答えた隠神刑部が告げる。
「ペンタクルム・ゲートの為に事を成す。
 おぬしらを倒し、縊匣より奪い取って我らが得たこれで――……」
 その先を隠神刑部が紡ぐより先に、ぱしゃん、と水音がなのかの耳に届いた。
「顔ヲ、顔、顔、ヲ」
「欲シい――」
 のっぺらぼう達だ。手を、伸ばすようにして水面を蹴った妖たちがなのかに迫る。は、と顔を上げた先、ゆるり、と口の端を上げて隠神刑部は言った。
「ペンタクルム・ゲート計画を、今度こそ成功に導こうぞ」
「――」
 今度こそ、というそれは、この戦いのことか、それとも――。
「顔ヲ、寄越セ――!」
「……っと」
 考え込んでいる暇はなさそうだ。白無垢を引いて、とん、と後ろに跳ぶ。なのかを囲むように立ったのっぺらぼう達が、ゆらり、と身を揺らし――言った。
「お前は私」
 ひどく明瞭な声と共に、ぐん、とその身が近づいて来た。単純な速度じゃない。これは――……。
「インビジブルとの入れ替わり……!」
 瞬間、目の端で何かが光った。入れ替わったインビジブルか。
「それなら……」
 二歩目、身を引くより、裾を引く。くるり、身を回すようにしてなのかは小さい『雲入道』へと変身した。ふわり、ゆらり、踏み込んできたのっぺらぼうを躱しきれば、トン、と水面に足を下ろす。
「サンダーフレームバッジ・フォーキャスト!」
 轟音が、空間を揺らす。それは雷音。装填したバッジと共に、なのかは空へと伸ばした手で二度目の雷鳴を響かせた。指先から、包まれていくアーマーは、孔雀のように一度だけ煌めいて――手の中、閉じ込めた雷鳴を重ねた掌と共に――解放する。
 《Thunder Storm‐Over Drive》
 それはサンダーフレームであり、同時に違う力。仮面の騎士「ウェザリエ」の持つ可能性のひとつ。
「行くよ|雷素忍獣《アニデシ》ちゃん! ビースト・オン!」
「久々二荒レルトスルカ!」
 なのかの呼び掛けに雷素忍獣が吼えた。その声は雷鳴に似て――雷獣の存在を告げる。
 巨大な雷獣『雷起こし』その存在を。
「顔、ヲ、顔――」
 ぐん、とのっぺらぼうが手を伸ばす。だが、巨大な雷獣へと変身したなのかの前に、その手は――届かない。先に降るのは轟雷だ。
「てやあああ!」
 サンダーストームフレームも乗ったその一撃に、神域を揺らす轟雷にのっぺらぼうが崩れ落ちた。ギィイン、と甲高く響いた音は、一拍の後に破砕に変わる。ガシャン、と響いた音の向こう、のっぺらぼう達は薙ぎ払われ――消えた。
「顔、ヲ――」
「欲しイ、ほ――……」
 崩れ落ちた先、最後は水柱さえ立てずにのっぺらぼうは沈んでいく。水面に生まれていた波紋は消え去り、凪いだ空間だがこの地を生み出した古妖と√能力者達の前に広がっていた。

第3章 ボス戦 『隠神刑部』


●古妖・隠神刑部
「顔、ヲ——」
「欲しイ、ほ——……」
 水しぶきさえなく、のっぺらぼう達が沈んでいく。とぷり、落ちた水面に波紋は描かれず——ただ、飲み込んだように穴が見えた。
「……」
 そこに残されるものはなく、ただ、木の葉が舞い落ち——ふ、と古妖が笑う。
「カッカッカ。やはり、おぬしらが来ればそうなるじゃろうて。あやつらもそう容易い妖では無いのじゃがのぅ」
 古妖・隠神刑部はそう言って、√能力者達を見た。水面にひとつ、己で誂えたのか岩に腰掛けていた化狸は、徳利を手に水面に立つ。
「じゃが、退く気も無くてのぅ。今回に限っては、儂らもペンタクルム・ゲート計画を手放す気は無い」
 他の者に何が起きていようとも。
 他の者が何をしようとも。
「儂が成就して見せよう」
 隠神刑部が手をひろげる。そこに一度、現れたのは王劍『縊匣』の小王劍であった。握る拳ひとつ、その姿は白い煙の中に消えた。吸収したのではなく、持ちやすい形に変えただけのことだろう。
「どのような手を使ってもな」
 邪悪な化け狸達の首領である古妖はそう言って、盃に残った酒を飲み干した。そこにあるのは、悲愴な覚悟でも、苛立ちでも無い。
「宴の時よ」
 この戦いを、楽しむように古妖は笑う。

『なに、全てはペンタクルム・ゲート計画よ。今は儂、自ら関わり……随分と苦戦してるがのぅ』

『おぬしらは、実に化かし甲斐のある相手ばかりじゃが……アンドロスフィンクスを失った上、彼奴、縊匣にしてやられたからのぅ』

 それは、隠神刑部が先の戦いで口にした言葉。話を聞いた√能力者も、同じ戦場を駆け抜けていた√能力者達も聞いたであろう。

『おぬしらを倒し、縊匣より奪い取って我らが得たこれで——ペンタクルム・ゲート計画を、今度こそ成功に導こうぞ』

「どうせならば、もうちぃと凝った宴であれば良かったのじゃがのぅ。大義を前に、選り好みしてもいられんでのう」
 盃を置いた岩がどろん、と消える。戦場となった水面が震え——隠神刑部の先に、山々が見えてくる。それは幻覚か、或いは隠神刑部が神通力で作り出した空間がそうであるのか。
「√能力者よ、おぬしらが小王劍の贄となれば、成就も近かろう」
 さて、と隠神刑部は歩きだす。ぶわり、と上がる炎が水面を攫い、古妖たる圧をその身に乗せて言った。
「勝負じゃ」
 己が命と存在の凡てをかけての戦い。王権決死戦に、隠神刑部はひどく楽しげにそう言った。

┈ ┈ ┈ ┈ ┈ ┈ ┈ ┈ ┈ ┈ ┈ ┈ ┈ ┈ ┈ ┈ ┈ ┈ ┈
穂鷹令です。
ご参加ありがとうございます。

第三章「隠神刑部」
難易度は 難しい となっております。

難易度相応の判定となります。

!!このシナリオは王権決死戦です!!
例外なく全てが危険な任務であり、『絶対死』の可能性があります。
参加には慎重を期してください。

★王権決死戦については、説明ページもご確認ください。
★このシナリオではサポートは採用されません。

●敵について
 隠神刑部
 邪悪な化け狸達の首領である古妖。
 王劍『縊匣』の小王劍を持っており、その力である程度の教化を得ているようだ(👑20です)
 強敵です。√能力者との戦いを覚えており、相応の警戒をしています。一筋縄ではいかないでしょう。

●特殊ルール1 王権決死戦
このシナリオは王権決死戦であり、『絶対死』の可能性があります。
参加には慎重を期してください。
参加を希望される方は、プレイングの冒頭に【死を覚悟する】と記載してください。

●特殊ルール2 幹部宿敵
なんらかの理由で、幹部宿敵の撃破を行ないたくないという場合は、プレイングの冒頭に【幹部宿敵を殺さない】と記載してください。

第3章で採用された全てのプレイングに【幹部宿敵を殺さない】という記述があった場合のみ、幹部宿敵は小王劍を持ったまま作戦を断念して撤退します。

●プレイングについて
 10月24日 8:31〜 受付開始

 ざっくり10月29日くらいまでに完結できれば……という感じでいます。
 締切についてはプレイング状況を見て告知します。

●複数参加
 2人くらいまでがキャパです。
 ご一緒の際は、同日の送信、お相手のIDを記載してください(合言葉被りなどを防ぐ為)

・状況によっては全ての方を採用するのは難しいかと。予め、ご了承ください。
・再送が発生する場合がございます。タグ、マスターページにて記載をさせていただきます。

●他
*戦闘など判定により負傷描写がある場合があります。
*アイテムや技能は、√能力を超えた効果は持ちません。
*√能力の説明文章、アイテムの説明文章を大きく広げて解釈した行動は、不採用でお返しする可能性があります。
 各行動はプレイングに記載してください。

 色々と書きましたが、適宜判定、マスタリングをしていきますので、難易度と『王権決死戦』であるという事実をご理解の上、色々と挑んでみていただければ。
(必ずしも良い結果望んだ結果とは限らないかもなので、そこは予めご了承ください)
 なんかものすごくそいつはむりだぜみたいな場合等は不採用にてお返しします。

それでは最後の戦い
全力で参りましょう。どうぞ宜しくお願い致します。
峰・千早

●相対せし者
 風が、緑深き山の気配を告げていた。立ちこめる霧が水面を走っていく。
「なるほど、お前には大義がある。友誼がある。命を賭す覚悟がある」
 峰・千早(ヒーロー「ウラノアール」/獣妖「巨猴」・h00951)は真っ直ぐに相手を見据えた。
「しかしそれは俺も同じ。どの√の大地も守る。戦う力を持たない大切な人がいる」
 取り戻した仮面を手に、踏み込んだ一歩。揺れる水面に映った己の影が何であれど――どうなろうと、千早はもう覚悟を決めていた。
「その為に全てを差し出しても構わない」
 己という存在がどうなろうと。どうあろうと。
「インビジブルの均衡の為に√妖怪百鬼夜行の人々を捧げるような輩は全ての√の害となろうよ」
 吹き抜ける風が、千早の黒髪を揺らす。ばさり、と揺れる衣をそのままに、青年は低く告げた。
「……やはり古妖か」
「カッカッカ。そうよ。儂は古妖・隠神刑部。良く知っておろう?」
 邪悪な化狸達の頭領である古妖はそう言って笑った。そこに喜悦は無く、ただ、己を古妖と言った千早を興味深そうに見ると告げる。
「お主らを倒す者よ」
「させると思いますか」
「ハッハッハ。やってみないと分からん」
 盃に残した酒を飲み干すと、徳利を置いて隠神刑部は言った。
「して、おぬしは?」
「――……」
 その言葉に、千早は手にした面を付ける。ごう、と一拍、吹き上がる風と共に獣妖「|巨猴《おおましら》巨猴」は顕現する。ばさり、と毛皮が揺れ、霊峰の暗い岩石からなる鎧を身につけ、千早は告げた。
「ヒーロー「ウラノアール」」
 覚悟と共に、その名を。
 生半可が通用する相手ではない。進む一歩より先に、千早は息を吸う。
(「立ち向かうに相応しい姿を得なければ」)
 黒い木の仮面を手に取る。遠く、霊峰の空を思う。これは千早でさえ知らぬ力。だが、この力使うのであれば――今だ。
「私”を超える力を!!」
 黒い木の仮面をつける。二度目に吹いた風が、ただ千早の足元を掠い――知られざる霊峰の守護者の力を解放する。
「……ほう、そのような力を持ち得るか。カッカッカ、よかろう! 儂も見せようぞ」
 隠神刑部が告げる。どろん、と煙が立ちこめ、現れたのは巨大な十二神将であった。
「これぞ、刑部百十二変化じゃ」
「――」
 見下ろす巨体が、その影に千早を落とす。ごぉお、と轟音を響かせながら、鋭い槍の一撃が来た。
「――ふ」
 その突きに、千早は身を横に跳ばす。一足、踏み込む身は――早い。
「――ほう?」
 それは、瞬発の加速。霊峰の守護者たる者の持つ速度に、隠神刑部は笑った。
「ハッハッハ、さすがよ! じゃが、これはどうじゃ?」
 バシャン、と水柱を立てるように巨大な十二神将が踏み込んできた。風が吹く。薙ぎ払い来る――槍だ。
「――ッは」
 その一撃に、千早は水面を踏んだ。ごぉお、と立ち上がった巌の盾が衝撃を受け止め――その威力を、削ぐ。殺しきれなかった力が、千早の肩口を穿ち、血が、しぶく。
「ですが。言った筈です」
 それでも、吹き飛ばされぬように千早は踏み留まった。ぎ、と一撃が骨に届き、体が軋む。だが、そう、だがそれだけだ。
「俺は、守るために全てを差し出しても構わないと」
 血に視界が歪む。歪むと思うのであれば、この身はまだ動き――そう、動かなくなったとしても守ることを諦めるつもりは峰・千早には無いのだから。
「旧き力、よ……」
 血濡れの手を、解く。結ぶ印はひとつ、畏れの刻印を宝珠杵に付与する。キィインと宝玉が光り――千早の手に天頂鉾APEXが顕現した。
「小王劍といえどこれほどの力、ここで滅さねばならん」
 視線を上げる。押しこんでくる隠神刑部の力に、十二神将の槍に天頂鉾APEXを掛けた。
「――ほう」
 ギィイン、と火花が散る。痛みを、熱を今は置いて、自身を両断しようとする槍の力を千早は弾き上げる。そのまま、両の手で天頂鉾を握り直し、隠神刑部の間合いへと踏み込んだ。
「俺をかたちづくる全ての貌を失おうと構わん」
 吐き出した血を拭うことさえしないままに、千早は行った。
「必ずや天頂鉾で攻撃してみせる……!」
 迫る槍に構わず千早は通す。突き出した天頂鉾が十二神将に届き――その変化が溶ける。ぐ、と貫くように押しこんだ先、鮮血が舞った。
「――ッぐ、ハハハハ!」
 穿つ一撃、確かに隠神刑部へと届いていた。古妖が笑う。零れた血に、攻め込まれた事実に。
「見事よ」
「止めましょう、確実に」
 歪む視界、それでも膝を付くことだけはせずに、千早は天頂鉾を握り直す。
 ――全てを守り抜くために。

八百夜・刑部

●二人の刑部
 穿つ、一撃があった。巨大な十二神将が揺らぎ、隠神刑部の変化が溶けていく。
「見事よ」
「止めましょう、確実に」
 仮面の下から血が滲む。だが、身を揺らすより武器を握り直す仲間の姿を見ながら、八百夜・刑部(半人半妖(化け狸)の汚職警官・h00547)は、ただ一度足音を響かせた。
「終わりにするなら最後位ニヤけ面で自分を化かさずに腹の中の事言った方がいいぜ、じゃないと悔いになる」
 首の裏がちりつく気配に、刑部は唾を呑む。死ぬ覚悟はあるが生き足搔く、と覚悟を決めて刑部は視線を上げた。
「隠神刑部」
 相対せし古妖の名を呼ぶ。何度となく戦ってきた相手は、ふ、と笑った。
「まるで覚えがあるような言い方じゃのぅ、カカ。何があろうとも負ける訳にはいかん。
 儂は『数十年前のあのペンタクルム・ゲート計画』の存在を知っていたのだからな」
 それは、今回のペンタクルム・ゲート計画では無い、始まりの計画か。は、と顔を上げた刑部の前、古妖は告げた。
「全てを賭ける価値はある」
 故に、と隠神刑部は告げた。
「倒れるのはお主らよ」
 瞬間、ゴォオオオ、と木の葉混じりの風が吹き荒れた。強風が刑部の腕を切り裂き、巻き上げられた水が変異していくのを感じる。
「無茶苦茶やりやがって……」
 ったく、と息を吐いて、溜息をそれで終わりにして刑部はきつく拳を握った。
「こっちはお前の為に新技も用意をしてやったんだからよっ!」
 クダテン! と呼ぶ。刑部の影から跳び上がった若いイタチの妖魔が、金色の毛を揺らして――啼いた。
 それは、雷鳴を招く咆吼。吹き抜ける風と共に妖魔乗騎形態となったクダテンに飛び乗れば、クハ、と古妖が笑った。
「来い! 儂らの変幻百鬼夜行よ!」
 柏手を打つ隠神刑部に呼応するように、どろんと立ち上がった煙から一体、また一体と配下の化け狸達が現れる。
『消えよ!』
 異形の咆吼が、炎と共に――来た。戦場に満ちた水を散らすことなく、ゴォオオと走ってきた黒き炎に、クダテンと共に刑部は横に跳ぶ。凪ぐように来た炎が刑部の背を掠っていく。
「一張羅だ、どうしてくれんだ!」
「クハハハ、ここで尽きる命であれば、最後に儂の衣でも被せてやろうよ!」
 笑う隠神刑部の声に呼応して、鋭い風が舞った。刃であろうが噛み砕くような風に、刑部は共に行く妖魔の背に触れた。
「クダテン」
 別段一張羅って訳でもまぁないのだが――こんなところで、背を明かすつもりも無い。は、と息を吐いて、一足、速度を上げさせる。
「キィイイェエエエ!」
 鵺の咆吼か、異形の叫びか。迫る爪を今度は横に飛び退いたクダテンと共に避けて――身を、沈める。バチ、と爆ぜる雷鳴を刑部は聞く。
「一気に吹き飛ばす、行くぞ!」
『   』
 クダテンが吼える。吼声が雷撃を招き――迫る異形達を、隠神刑部の配下の化け狸達を撃ち抜いた。
「ッグ」
「ギィイァアア――」
 崩れ落ちる鵺の横を抜けて、雷撃が爆ぜた地面へと刑部は跳び込む。瞬間、ガウン、と放電する爆風が生まれた。四方から刑部を追ってきていた異形が――化け狸たちが吹き飛ぶ、
「グァア!?」
 風がバチバチと電撃を伝わせ、追い縋る異形達が吹き飛んだ。
「仲間呼ぶのは卑怯とか言うなよ、お互い様だろ?」
 追い風を纏い、たん、とクダテンが地面を蹴る。水面、描かれていく波紋より先に、古妖の間合に向かう。
「名前被りってだけでここまで来るとはなぁ、
もうちょい頭良くシバき合いしときゃあ良かったんだお互い」
「クハハハ、なに。時は皆、何れ訪れる。今日こそが、儂のとっておきの宴よ」
 手を重ねる。印を結んだ隠神刑部が、どろんと白い煙に包まれ、権限せしは十二神将。
「刑部百十二変化」
 低く、古妖が告げる。抜き払った刃と共に、一足踏み込んでくる。
「――ッは」
「クハハ、首には足らぬか。惜しいのぅ」
 ザン、と振り下ろす刃が刑部の肩口から滑っていく。上半身、袈裟懸けに沈む刃は重く――強化したのかその威力か。
(「けど、な」)
 は、と刑部は息を吐く。間合い深くあるのは、こっちだって同じだ。
「だからこそお前の学校の事件での女教師の姿を見たかった!」
 声が、響く。それは万国超えて世すら騙す八百夜・刑部の魂の叫び。空間を震わせ、古妖の神域さえ揺らす防御不可能なその声が、隠神刑部の下の概念を乱す。
「――お主、儂の剣戟を!」
「バカみたいだけどな死ぬ前に悔いは残したくないんだ、こっちはその位剝き出しで今やってんだよ」
 続く、古妖の刃を刑部は避ける。切っ先はただ水面を抉り、しとど流した血と共に刑部は足を退く。握るは将校サーベル。天羽々斬の名を持つ刃は金色を見せる。
「悪いが弟とお前のこの前呼んだクソ親父ぶん殴るまでは死ねねーんだわ」
 ザン、と刑部は波紋を踏んだ。迷い無く、踏み込んだ男のサーベルが隠神刑部へと振り下ろされた。
「っぐぁあ……ック、ハハハ! 愉快、じゃな」
 血が、しぶく。深く沈んだ刃が古妖に傷を刻み、ぐらり、身を揺らした隠神刑部は笑いながら、鮮血で顔を拭う。
「のう? 刑部よ」
 見事というように笑い、僅か生まれた白い煙の向こうからほっそりとした手が伸びてきた。
「――は?」
「先生がお仕置き、してあげる」
 艶やかな黒髪を揺らす、白衣の女教師がにっこりと微笑んで、刑部の顎を掬っていた。

クラウス・イーザリー

●求道
 雷鳴の向こう、金色の刃が古妖に届いていた。ぐらり、身を揺らす隠神刑部の身が血に濡れる。
「クハ、ハハハハ! あぁ、実に愉快よ」
 一刀は骨に届いたか。血溜まりを踏んだ隠神刑部は、だが蹈鞴を踏むより炎混じりの風を纏って血を塞ぐ。
「のぅ?」
 傷口を焼き、ゆるり、と視線を上げた古妖の瞳がひたり、とこちらを捉えた。
「生贄になってやる気は無いよ」
 血と炎の混じった風に艶やかな黒髪が揺れていた。静かにそう告げたクラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)が、ふと思い出すのはマガツヘビ騒動の時に彼の肉片と共闘したことだった。
(「その時は成人したらお酒を酌み交わしたいと思ったけれど、もう叶いそうにはないね」)
 隠神刑部が『覚えて』いるのは、宿敵旅団『ペンタクルム・ゲート』での戦いについてだけだ。隠神刑部にはその記憶は無いだろうが、それでもあの時のことは、クラウスの中にある。
「小王劍の生贄にも、この戦いに負けることも無い」
 だからこそ、今、それを告げる。
 求める殺戮も、計画も遂げさせないと。
「貴方の力、借りるよ」
 一度、瞳を伏せる。クラウスの足元、神域の水が蠢き――色を、変えていく。深く暗き黒。それは悲哀を知る竜の影。ゆらり蠢き、立ち上がる黒にそっと触れれば、結っていた髪がふわり、と解け――漆黒の角が生まれる。ゆっくりと開いた瞳は一度、煌めきを乗せて、ばさりとクラウスは竜の翼を広げた。
「――行こう」
「ク、ハハハ。さすが、竜の気配よ。来い、変幻百鬼夜行の時じゃ!」
 隠神刑部の言葉に、どろんと白い煙が生まれた。一体、また一体と姿を現した配下の化け狸達が姿を変えていく。鵺に、二つ頭の獅子、異形の獣が姿を揃えれば咆吼が響いた。
「ギィイイァア!」
「――」
 その異様に、ピリピリと肌が粟立つ。明確な威嚇に、だがクラウスは構わず踏み込んだ。
「影よ」
 一足、踏み込みと同時に告げる。詰めた間合の先、獅子がにぃ、と笑い、クラウスの放った影を踏む。パシャン、と水面のように影は跳ねて――ぶわり、と古妖の配下へとせり上がった。
「同士討ちを」
「――っぐ」
 それは思考を操作する影。だが、抵抗するように獅子が頭を振るった。
「甘イ、な」
「そうだね。でも……」
 想定済だ。命令が上手く通らなくても、獅子が頭を振るった一瞬、この隙で、青年は影の刃を手にしたのだから。
「ここでもらうよ」
 掲げた手に刃は落ちる。三歩目、踏み込むままに速度を上げる。どくん、と心臓が軋むのを今は置いて、振り下ろした一撃が獅子の異形へと――届いた。
「っぐ、ぁあああ!」
 どろん、と煙の中、獅子が崩れおちる。倒れる異形の横を抜けて、下げた鋒からクラウスは身を回すように影の刃で斬り上げた。
(「配下に囲まれて動きを制限されたら終わりだ」)
 影の刃を乱れ撃ち、身を横に跳ばす。着地の足で間合を取り直し、囲まれぬように立ち回れば僅かだが、配下の数が減ってきていた。
「カッカッカ。興味深い手を使うようじゃが……そのままで、如何にして儂に届く?」
「必ず、届かせるよ」
 ヒュン、と放つ影の刃が、鵺に届く。意識を集中させ、レイン砲台を一気に起動させる。
「黒き、竜よ……」
「ギィイイァアア!」
 異形の咆吼が響く。跳び込んできた配下の一撃が、クラウスに来る。
「……ッ影よ」
 放つ影は――だが、鵺に払われ落ちた。抗う時も無いか。は、と視線を上げた先、鵺の爪がクラウスに――落ちる。
「――ッ」
 瞬間、立ち上げた魔力防御が一撃を受け止めた。殺しきれなかった衝撃が、青年の胴を切り裂き――血が、落ちる。
「それ、でも」
 視線を上げる。決死戦に挑む隠神刑部が呼びだした配下だ。効かせるにはもっと能力を研ぎ澄ます必要があった。
(「最初から、これにだけ期待はしていない。通用しないのなら……」)
 後は、と落とす言葉と共に手を握る。レイン砲台が迫る異形を焼き払っていく。熱線が、有翼の獣を払えば――その先に見えたのは古妖・隠神刑部。
「俺の魂、貴方に預けるよ」
 血濡れの手を掲げて、クラウスは黒き竜の翼を広げる。影の刃が一斉に展開された。
「長い縁となったけど、ここでお別れだ」
 振り下ろす、その手と共に影の刃が一気に――行く。
「決着を付けよう」
「ック、ハハハハ! まだ手を残しておったか!」
 穿つ、刃は面を払って。残る配下共々、全て巻き込めば隠神刑部は僅かに身を揺らした。
「やはり、贄とせねばのぅ」
 血濡れの身を起こし、小王劍を掲げた相手にクラウスは間合いを取り直す。鮮血を交え、戦場は加速していた。

白百合・蓮華

●平坦を払って
 異形の獣が吠えた。荒く振るわれた爪に、間合いを取り直すように先を駆けていた青年が身を後ろに跳ばした。
「ギィイイァアア!」
 囲むように来た異形達は――だが、空で止まる。
「動かないで」
 しゅるり、と銀の手が絡みつく。双頭の獣の首を這い、顎を掬い上げたそれが絞め上げるように力を込めていく。
「ギィイ、ァ、ア、まえ、ドこ、か――!?」
 双頭の獣が、来訪者に視線を向ける。血が滲んでいく。白い煙と共に解けていく化術を見ながら神域に踏み込んできた男はにこり、と笑った。
「こんにちは、或いはこんばんはだね?」
 白衣が、ひらり、と揺れる。白百合・蓮華(徒花の実・h12988)の瞳は弧を描いて、銀の手が撫でた先で獣の首が落ちた。
「やれやれ、彼奴らも腕が足りぬな」
 異形の群れが一度潰えれば――ピン、と張り詰めた空気と共に、神域が揺れる。
「ただの一度で断たれるとは」
 それは、古妖の圧か。パシャン、と一つ、水面を踏んだ存在――古妖・隠神刑部の踏み込みに、風が揺れた。ヒュウ、と吹くそれが木の葉混じりに広がり蓮華の頬に触れる。
「初めまして、刑部くん」
 鋭い風が頬を切り、ぬるり、と落ちていく赤を、だが気にする様子も無いまま蓮華は微笑んだ。
「この間の学校ではすれ違っちゃったから、飛び入りで会いに来ちゃった」
「ほう、あの時の一人か。もうちぃと残って見ておくべきだったのぅ」
 蓮華の言葉にそう言って、隠神刑部は眼鏡をあげた。
「……おぬし、何を『持って』いる」
「そうだな。僕も研究者だからね、いっぱい説明もできるけど……」
 やっぱりここはね、と蓮華は銀の瞳を緩ませる。弧を描いて作るのは美しい笑み。後ろで束ねた髪がふわり、と揺れ――ほんの一瞬、蓮華の顔を隠した。
「内緒」
 その影の下、男は美しく笑って――水面を、蹴った。パシャン、と響く足音は小さく、羽織る白衣が尾を引くように揺れる。一歩、大きく踏み込めば、クハ、と隠神刑部が笑った。
「ならば、儂も挨拶代わりに見せるかのぅ。
 応えよ。隠神刑部が変幻百鬼夜行の時じゃ!」
 隠神刑部が柏手を打つ。高く響いたその音と共に、どろん、と白い煙が立ち上がった。
「是だ……」
「是よ、大将」
 一体、また一体と姿を見せた化け狸達が変じていく。進む一歩、小柄な足は瞬きの内に巨大な石像に変わり、続く化け狸がその身を鵺に変えれば蓮華の前、広がるのは異形の群れだ。
「グルァアアア!」
「オォオオオオ!」
 咆吼が二つ、重なるように響いた。瞬間、吹き抜ける風が重なり合うように――来た。
「わぁ、これはすごいね」
 身を横に跳ばす。着地の足で水面を踏んで、片手をつく。先に回避を選んだのは、あの一撃が、面を狙ってきたからだ。
(「警戒されているようだね。やっぱり初対面だからね、僕はまだ手の内を知られていない」)
 小さく吐いた息ひとつ、踏み込むように靴先に力を込めれば――不意に、蓮華の視界が暗くなる。
「――これはまた」
 眼前、現れたのは巨大な石像であった。抜かれた刃は石造りでも、妙な鋭さを蓮華に見せていた。
「しず、メ」
「それは困るかな」
 ふ、と笑い告げて見上げるのは一瞬、ゆらり、と蓮華は長身を揺らすと――踏み込みを、選んだ。
「――」
 バシャン、と踏み込む一歩、詰めた間合に石造りの刃が迫る。ゴォオオ、と響く轟音と共に風が吹き下り、だが、眼鏡の下で蓮華は笑う。
「何に化けたって急所はそう変わらないもの」
 撫でる銀の手が、石像の足に沈んでいく。巨体が傾ぐ事実に、石像に変じた化け狸が舌を打った。
「……ッチ、ならバ!」
 刃が、先に来る。身を逸らすには足りず、ゴォオ、と風を切る音と共に衝撃が迫り、だが、肩口に触れる瞬間、無数の枯れ枝が立ち上がった。
 キィイイン、と甲高い音が、響く。刃とぶつかった瞬間、爆ぜた火花はどちらが生んだものか。僅か、崩れた枝の向こうから来た刃が蓮華の肩口から腕に沈み――白衣が、赤く染まる。
「――来て」
 痛みに、だが、吐き出した息ひとつ、冷静に男は喚んだ。白い美しい腕が蓮華を支えるように腰をひく。鮮血は真白の腕からは滑り落ちて――ただ、白衣だけが赤く染まる。
「……足らヌ、か」
「逃がさないよ」
 ゴォオオン、と石像の足を砕いて、仮初めの瓦礫が水面を叩くより先に、蓮華は前に出た。二歩目、みだれた水面を跳び越えて、踏み込む男の後を鮮血が追う。
「クハハハ、まだ来るか!」
「まだ、出会ったばかりだよね。これで終わっちゃ……勿体無い」
 骨のように白い十指から放たれたのはモノが水面を叩く。バシャリ、と爪先、染めたものが波紋を描けば――何かが、沈んでいく。
「香りを肴に飲む、なんていうのもなかなか乙なものだよ」
 どろん、と落ちた煙を振り返ることなく、蓮華は水面を蹴る。毒に満ちた波紋を踏んで、一足、大きく踏み込めば古妖の影を踏む。
「花の香りはお好みじゃないかな?」
 ぬかるんだ血が香る。腐敗した花に似たその香り。臓腑は誰のものであったか。揺蕩う毒が古妖の衣を染め、骨に届かんと染み込んでいく。
「血沸き立つ戦であれば、尚更よ」
 その血の中で、隠神刑部が笑った。風が舞う。長身の蓮華で、ちょうど互いの視線は交わって――ヒュウ、と吹く風が迫る。
「――」
 それは古妖の警戒か。吹きこんだ旋風に――だが、揺れる髪を、腕を切り裂かれるのを気にせずに蓮華は手を伸ばした。瞬間、無数の枯れ枝が蓮華の腕を這う。首筋に這うように枝はかかって、羽織るだけの白衣がはらり、と落ちた。
「……逃がさないったら」
「――貴様、その姿……ック、しくじったか!」
 守護霊たちと融合した身で、腕を伸ばす。古妖の腕を掴み、引き寄せる。全力で絞め上げ――だが、身を捩る力が隠神刑部にもあった。
「カッカッカ、実に愉快な手を使いおるわ! おぬし、その実は何者じゃ」
「自己紹介から始めた方がいいかな?」
 ふ、と蓮華は笑う。加護の手も、守護霊も全て使って、捕まえた先、隠神刑部が息を飲む。
「っぐ、ぁああ……ッチ、馬鹿力、め」
 ぐらり、古妖が身を揺らす。核が揺れたか。一拍の後、吹き荒れる風と共に縛を脱した古妖が蹈鞴を踏んだ。
「お主の手は、あの日見ておくべきだったのぅ」
「せっかく会えたのにもうここで縁が切れてしまうのかな」
 残念だけど、それもまた巡り合わせか。
 静かに一つ息を吐いて、それでも、少しばかり惜しかったと思いながら蓮華は呟いた。
「……えっちなおねえさん、ちょっと見たかったなぁ」
「……ク、ハハハハ。なんじゃ、おぬしら、そんなに儂の化術を見たがっていたとはのぅ」
 どろん、と白い煙が舞う。血濡れのそれは、甘い花の香りを纏って。パチ、と瞬く蓮華の前に何かが立つ。
「うん……?」
 それはチャイナ服姿の美しい女性だった。艶やかな笑みを浮かべ、銀色の髪を揺らした女性は――えっちなおねえさんは、つい、と蓮華の眼鏡に手をかけた。
「おいたはだめよ、お兄さん?」
 揶揄うように一つ告げて、再び煙が舞う。間合を取り直していった古妖に、蓮華は笑った。

嘯・シアン

●終焉の宴
 変じた腕が古妖の腕を掴んでいた。引き寄せる力が核に触れたか。零れる血が隠神刑部の身を濡らし、蹈鞴を踏む。
「ク、ハハハ、やはり一筋縄ではいかんのぅ。折角の宴だというに。仕掛けも持てなしも足りぬとなれば、化狸の名折れよ」
 血だまりを踏んで、息を吐く。荒く、口元を拭いながらゆらりと身を起こした古妖が柏手を打つ。
「今ひとつ、振るおうぞ」
 水面が、揺れる。遠く見えていた山から風が吹き降り、木々が赤く染まっていく。鮮血のそれはではなく、燃え盛る赤は――。
「紅葉か。タヌキ君も風流だね」
 ふ、と嘯・シアン(恣意的思惟・h06837)は笑みを零した。眼鏡の奥、蕩ける赤の瞳に紅葉を映し込みながら、水面を踏む。パシャン、と揺れる戦場は、正しく水面なのだろう。沈む様子もないまま、ふ、と隠神刑部が笑う声をシアンは聞く。
「なに、とっておきの宴よ。酒を呑むだけの時間があれば良かったのだがのぅ」
 刻限じゃ、と古妖は言う。罅割れた眼鏡を、血濡れの指先で上げた隠神刑部が柏手を打つ。
「見せようか、隠神刑部の変幻百鬼夜行を」
 立ちこめる霧の向こうから、一体、また一体と現れた配下の化け狸たちが次々に変じていく。鵺に、双頭の獅子。人の顔を持った異形の鳥と、揃いに揃って――吼えた。
「キィイイァアア!」
 空間が、震える。ピリリリ、と指先が痺れる感触と共に、僅かに指先が裂けた。
「きっと君との最後の宴だ、ご相伴に与ろう」
 爪を染める赤に、瞳を細めることさえしないままに、シアンは軽く手を掲げる。落ちるインクに、この身の赤は似合わない。袖口を赤く染めて、空に描くのは虹の色彩。ふもとに宝物はなくても、吹き抜ける風が、在りし日を描き出す。
 “ストーリーテラー”
 それは、夢を見ていた頃のシアンの姿。願掛けの為に伸ばしていた髪が、淡く水面に影を落として。口の端を上げるとシアンは悠然と告げた。
「――忘れられない時間を創ってみせるよ」
 駆けてくるは異形の群れ。その後ろには招かれた深山の紅葉となれば、返す景色もとっておきでなければ勿体無い。
「キィイァア!」
 バシャン、と双頭の獅子が水面を蹴る。派手に散った水を羽根ペンの先で払って、試験管から取り出すのは骨身を芸術へと深く深く沈める|紺青《プルシアンブルー》息も出来ないくらいの――藍。
「|夢《幻影》を見せる者の腕の見せ所だ」
 獅子が来る。高く飛び上がった異形の獣が振り上げた手が、その鋭い爪が届くその前に、シアンは藍に浸した羽根ペンで、空へと続く一線を描きだした。
「キィイイァア――ぁ」
 下ろす異形の腕が、空を切った。
 描くは満天の星空。一瞬にして神域が姿を変える。真昼の空は夜に代わり、空を満たすは深い藍と煌めく星。星月夜。
「ご覧よ、世界もまた君を見つめてる」
「カッカッカ。これは、また、美しいものを魅せてくれる」
 星々の煌めきが降り注ぐ中、隠神刑部は笑った。ひどく愉しげに、己の腕に落ちる星が齎す毒さえ楽しむように。
「酒が無いのが惜しいわ」
 ぐらり、と異形が――配下の化け狸が変じた獣が傾ぐ。
「グル、ルウァアアア!」
「それはなにより」
 ふ、と笑いながらシアンは黒い羽根ペンを握る。ザン、と振り下ろされる獣の腕は麻痺にゆれて――僅か、シアンの腕を掠っていく。肩口から、腕に走るのは首を奪うつもりだったか。
(「諦める感じはなさそうだけれど、この絵が彼らの足を止めてくれているなら……今のかな」)
 零れ落ちる赤を、痛みを他人事のように眺めながら、シアンは次の試験管を開けた。
「それじゃあ、余すことなく見てもらわなきゃ」
 それは、全ての色彩を食らう|孤独《蠱毒》の黒色。
「目を離さないでね、タヌキ君」
 描くは一閃。太く真っ直ぐに描き上げたその線に顕現するは、漆黒の大剣。手に取る代わりに、ただ一度柄に触れて――言った。
「おいで、俺の可愛い子」

●ストリーテラー
 黒き風が舞った。水面に突き立てられるようにあった一振りの大剣が、長身の騎士へと変わる。
『   』
 それは主の名を待つように跪く騎士。ただ一振りの刃であり、星空の下に立つ者。ばさり、と黒衣が揺れ、インクのように滴り落ちる。
「――黒騎士……、フハハハハ! 付喪でも無いというのに、顕現させてみせるか!」
 古妖が目を瞠る。ゆっくりと大剣を手に持った騎士が、立ち上がる。
「君と踊るメインキャストは彼だ。俺は元々裏方の方が性に合うんだよね」
「カッカッカ、見事よ。ストリーテラー!」
 ならば、と隠神刑部が拳を握る。ゴォオオ、と吹き荒む風が炎を招き、だが、放たれるそれより先に、黒衣の騎士が行った。
『  』
 一足、踏み込みは大きく――早い。星空の映る水面を踏み、迫る炎に大剣を一気に振り上げた。ゴォオ、と轟音を響かせて、騎士は炎を割る。
「――ほぉ。やりよる」
 騎士が古妖の間合いを踏む。美しい夜風を纏った騎士の一歩に、煌めきが寄り添い、ふ、と隠神刑部が笑った。
「良いものをみせてもらった。なれば……」
 明滅する光では、古妖の視界を奪うには足りないか。にぃ、と笑った隠神刑部が両の手を合わせた。
「おぬしも来い。狙わせてもらうぞ」
 瞬間、轟音が響き渡った。それは強力な神通力によって引き寄せられたもの。この戦場に残されていたモノは――隠神刑部が腰掛けていたあの、岩だ。
「はは、タヌキ君も派手好きだね」
 迫る一撃に、シアンは騎士へと視線をやった。黒いインクが尾を引くように騎士は身を翻す。身を回すように弧を描いて踏み込んで――断つ。ガウンと重く斬撃は響いて、砕ききれなかった破片がシアンに届いた。
「――ハ」
 でも、それだけだ。ふ、と落とした息ひとつ、降り注ぐ破片から守るように騎士が黒の外套を拡げる。流れ落ちる血を足元だけに残して、シアンはゆらり手を伸ばす。羽根ペンは手にしたまま、明けていく視界で古妖を捉える。
「――さぁ」
 指先に、視界に全ての魔力を集中させる。ぴん、と指先、試験管の蓋を弾いて、零すのは鮮やかな青。#0e83eaにペン先をつけて、空より振り下ろすその線は夜空へと天の川めいて零れる。
「雨と共に描こう」
 降りしきる色彩の中、世界に描く波紋さえも青く染めて。煌めき添えるように、駆ける騎士に合わせてシアンは指先に光りを紡ぐ。
「ハハ、多彩よのぅ」
 ギィイイン、と鈍く重い音と共に騎士の一撃を隠神刑部が受け止めていた。一撃、打ちあげるように風が吹き、だが、吹き飛ばされるその前にシアンは一閃を描く。
「今日は最初から全力だからね」
 溢れる光が、古妖の前で弾けた。一瞬、隠神刑部の動きが鈍る。僅かな視線の揺れ。古妖の瞳がシアンを捉えた瞬間――放つ光魔法に気を取られたその時を、シアンは使いきる。
 行って、と言葉はいらない。ただ、視線だけを向けた先、描き出した大剣を手に騎士は行く。
「っぐ、しくじったか……ッはは、やって、くれる……!」
 大剣が、隠神刑部に沈む。胴を斬り上げた一刀に鮮血が舞い、僅か蹈鞴を踏んだ古妖は――だが、笑った。
「儂とて、退けぬのな」
 瞬間、印を結ぶ手をシアンは見た。|星月夜《幻影》で包み込んだ世界が揺れる。
(「変化。それなら……」)
 試験管をあける。持ち込んだ最後のひとつ、零す色彩は――艶やかな、紅。滴る羽根ペンを手に、とん、と一歩を踏み込んだ。

●最高の夢を
 瞬間、紅の光が行く。紅の閃光は星月夜を走って、駆ける騎士と共に古妖に届いた。
「――ハ、クハハハ。やって、くれる」
 鮮血が、舞う。ぐらり、身を揺らした隠神刑部がゆっくりと視線を此方に向けた。
「……」
 そこにあるのは、決して諦めぬ者の目だった。
「あは、やっぱり戦闘って苦手だなぁ。俺の力は本来戦うためじゃなくて魅せるためのものだし」
 その瞳を見ながら、シアンは息を吐く。独り言めいた言葉は、風に乗って隠神刑部へと届いただろうか。
「空想未来からこの現実世界に来たのは、バカンスというか……隠居のためだったのに」
 零す息の、二度目は止めた。幸せってやつが逃げるかもしれないし、この場にはきっと向いていない。伏せた瞳をゆっくりと上げて、血に濡れた指先をシアンは軽く払う。
「それでもタヌキ君にちょっかいをかけちゃうのは、隠居なんかせずにいつまでも野望を追って魅力的な登場人物で在り続ける君がちょっとだけ羨ましかったのかも知れないね」
「カッカッカ。よく言うわ。……儂はあの時、知るままに終えたからのぅ」
 隠神刑部の言葉にシアンは視線を上げる。
「知っていた?」
「数十年前のペンタクルム・ゲート計画の存在をの。おぬしが見つけたあの酒の持ち主、あれは、ペンタクルム・ゲートの計画に携わり消滅しての」
 尤も、儂も、聞いたことがあるだけの計画じゃったが、と言葉を切って、隠神刑部は言う。「奴の為とは言わん。ただ、この壮大な計画を儂の手で達成したくなった」
 ゴォオオ、と風が吹き荒れる。木の葉混じりの隠神刑部の風が、刃の如き鋭さで騎士の大剣を砕く。
「故に、倒させてもらうぞ。その後に、儂らを騙くらかした縊匣をひねり上げる」
「はは、騙されちゃったんなら大変だ」
 隠神刑部の覚悟に頷いて、シアンは満天の星空に巨大な満月を描き出す。
「敬意を以て、君の物語の結末を彩ろう」
「見よ、儂の最大の変化じゃ!」
 十二神将へと変じた古妖が槍を持って来る。その穂先が、届くより先に、眩い程の月光が隠神刑部に届く。
「クハハ、構わん!」
 貫く光に構わず、突き出された一撃に、描き直した騎士が駆ける。振り下ろす一撃と、隠神刑部の槍がシアンに届くのは――同時であった。
「タヌキ君」
 十二神将が白い煙に呑まれて、ゆっくりと解けていく。騎士の刃が古妖に深く、沈んでいた。
「く……ッハハ、おぬしの隠居も、通そうじゃのぅ」
「タヌキ君」
 そう告げて、シアンは口元、溢れた血を荒く拭う。隠神刑部も、確かに届いていたのだから。致命には至らずとも、熱と痛みがシアンを襲う。それでも、描きたいものがあったのだ。
「……」
 黒の羽根ペンで描くのは群生する月下香。星空の下、ゆらり、立った隠神刑部が目を瞠る。
「これは……」
「その目が永遠に閉じられても、最期まで瞼の裏にこの景色が浮かんでいたら嬉しいな」
 咲き誇るそれへ、隠神刑部との融合を告げながらシアンはそう言った。そこに血だまりは遠く、ただ、ひどく愉しげに笑う声をシアンは聞く。
「フ、ハッハッハ。見事よのう。おぬしとは、もう一度、酒でも飲み交わしたかったが……」
 シアン、と隠神刑部は言う。一撃は核に届いたか、零れる赤は止まらずに――だが、ひどく愉快だと言うように古妖は言った。
「――覚えておこう。この景色も、おぬしのことものう」
 今生の景色として。

太曜・なのか

●向きあって告げる
 降り注ぐ月明かりが古妖を焼く。ぐらり、傾いだ身で、それでも膝を付かずに笑うのは化狸の矜持か――或いは、隠神刑部という存在のあり方であろう。
「カッカッカ。やはり、最後の宴には相応しいのぅ」
 下駄を鳴らし、水面に波紋を描く。古妖が作り出した空間は、柏手の果てに紅葉を招いていた。
(「狸さんから感じる覚悟」)
 もう退いてはくれない事に寂しさを感じながら、それでも表情には出さずに太曜・なのか(七曜天騎ウェザリエ・h02984)は声をかけた。
「あなたは必死だったけど、いつもどこか楽しそうだった。私もそんな狸さんと戦えて楽しかったよ。ありがとう、ってお礼を言うのも変だけどね。やることはやってたわけだし」
「カッカッカ、なに、儂も今までに知らぬ存在に出会えたわ」
 なのかの言葉に隠神刑部はそう言って笑った。
「儂は勝つぞ。必ずや、果たして見せよう」
 隠神刑部のその言葉に、なのかはすぅ、と息を吸う。真っ直ぐに相手を――隠神刑部を見る。今日まで戦ってきた古妖を。
「改めて、私は七天曜騎ウェザリエ、本名は太曜・なのか。本職は旅館と食堂で、ウェザリエは二足目の草鞋」
 それは終わりの気配を感じながらの、今更ながらの自己紹介。
(「この戦いでどちらかの命が潰えるのなら、結末がどちらでも私を知っておいてほしいから」)
 紫の瞳で見た先、なのかが告げた言葉に隠神刑部は頷いた。血濡れの身はそのままに、だらり揺れる手を持ちあげて徳利を掲げる。
「儂は隠神刑部よ。邪悪な化け狸達の首領である古妖であり――……、おぬしが、あの時見せた妖狐の友でもある。あれは、白無垢になり損ねたがのぅ」
「――」
 今になって隠神刑部が告げたのはなのかの言葉を聞いたからだろう。そして、あの白無垢が、最後の時を思わせたのか。
「あやつは、数十年前のペンタクルム・ゲート計画に携わり消滅した。以前の儂は、あの最初の計画を知っているだけじゃったが……今やこうして、関わるに至ったからのぅ」
 あやつのためでは無いが、と言の葉を切る。邪悪な化け狸の首領らしく、口の端を上げて――だが、なのかの見慣れた顔で隠神刑部は笑ってみせた。
「成就してみたくなった。ペンタクルム・ゲート、実在しているのであればこの儂の手でな」
 故に、と古妖は言う。
「倒させて貰おう」
 低く響いたその声に、なのかも笑う。不敵さよりは真っ直ぐに。戦う覚悟も、戦い抜く覚悟もしてきたから。
「まあ負けてあげるつもりはないけどね。さあ、行くよ。太曜・なのかが最高の宴をお届けします!」
 ウェザーフレームバッジを手に、なのかは告げた。

●七天曜騎
「カッカッカ、ならば、来い!」
 ゴォオオ、と隠神刑部の紡ぐ風が舞った。水面を掠うように鋭く来た風が木の葉を散らし――刃が如き鋭さを持つ。
「――っと」
 身を横に跳ばす。着地の足で水面を掴んで、沈まない神域に、曇りの空模様を司るバッジを掴んだ。
(「最高の宴を宣言したからには出し惜しみは一切しない。私の持つ全ての気象で狸さんを……隠神刑部を相手取る」)
 ウェザリエドライバーに触れる。淡く溢れる光はなのかの覚悟に応えるように溢れ――ひとつの、頷きと共に彼女はクラウディフレームバッジを装填した。雷鳴が、変身を告げる。バチバチと弾ける光は装甲を招き、トン、と水面を叩いた足が雲を呼ぶ。溢れる白は雲であったか。雷鳴轟く地にて、なのかは指先で顔に触れる。フルフェイスの仮面がおりて、凪ぐように振るった手が雷撃を掴む。
 それは、 雲と雷を操るクラウディフレーム。
 水面を蹴る足音さえ奪い去って――その手を掲げた。
「ほう、その姿で来るか。ウェザリエよ!」
 隠神刑部が告げる。ヒュウ、と二度目に吹いた風が木の葉と共に炎に変わった。水面を駆けて一気に来る熱に、なのかはフォーキャスター・ランスを手にした。バチ、とランスが雷を纏う。軽く足を引いて――狙いは迎え穿つ一撃より、届ける一手。
「ウェザリエ全盛りフルコース! お腹いっぱい召し上がれ!」
 振りかぶる一投。フォーキャスター・ランスが放たれた炎を貫き、進む。それはウェザリエの気象予報を局地的に具現化するもの。
「本日は曇天。ところにより激しい雷にご注意ください!」
 貫き進む一撃は隠神刑部に届き、同時に巨大な黒い雷雲を戦場に作り上げた。ゴォオオ、と空が唸る。日の光は遠ざかり、暗雲に身を置いてなのかは身を後ろに跳ばした。
「――いない?」
「ッチ、既に離れたのか!?」
 一拍の後、跳び込んだ配下の化け狸達の一撃が水面を叩いた。変幻百鬼夜行――隠神刑部の配下たる邪悪な化け狸達が、視線を巡らす。
「……」
 隠密状態の身はバレずとも、永遠にこうしているつもりはない。
「私は、全てで……!」
 一歩を、踏み出す。手にしたバッジは、雨の空模様を司るバッジ。装填と共に、下ろす一歩が――浮いた。波紋はなのかの踏み込みと同時に舞い上がって、青き衣が、水と風がウェザリエに応える。
「――! そこか、グルァアア!」
「えぇ、ここよ」
 ばさり、と青の外套が揺れる。口元、隠す面が青白い光と共に走り、水流を纏うようにして踏み込んだなのかの手に帽子が落ちる。
「本日は雨天」
 目深に青い帽子を被って、レイニーフレームとなった彼女は告げる。空を指差すように伸ばす手に、青き煌めきと共に宿るのはフォーキャスター。再び顕現したその姿は――銃だ。
「な……!」
「姿が、変わって……!?」
 配下の化け狸達が息を飲む。唸り声と共に向かってきた獣を前に、その影が迫るのを見ながらなのかは銃口を向けた。添える指先、キィイン、と弾丸は風雨の属性を纏って――歌う。
「ところにより局地的突風、ダウンバーストにご注意ください!」
 ガウン、と放つ一撃が、異形の獣を撃ち抜いた。ぐらり、と倒れる先、その気配を感じるまま、なのかは引き鉄を引いた。
「――な、……ぐ、ぁあ」
 鵺が、落ちる。迫る尾は空を切って、ウェザリエの横を抜けていく。牙が青き衣の上を滑り――だが、傷のひとつも付けられる訳も無い。
 ゴォオオ、と強風が生まれる。戦場の水さえ巻き込むように吹き荒れる風が、この神域をウェザリエの、そして隠神刑部の神通力がぶつかり合う場に変えていく。
「ク、ハッハッハ! ここまで干渉してみせるか! さすが、天候を操る者よ!」
「驚いてくれたならなにより」
 ふ、と笑い、なのかは踏み込む。パシャン、と今度は水面を確かに踏んで、足裏、空間を掴んだ感触と共に腰を沈めて――行く。
 ――ヒュウ、と追い風が強く吹いた。それは、瞬発の加速。バサリ、と外套を揺らしながら、跳びかかり、追い縋る異形の獣達を撃ち払い、跳び越える。
「さぁ……!」
 跳躍と共に、双頭の獣を踏んだ。古妖へと、なのかは影を落とす。向けた銃口、ふ、とソノ下で隠神刑部が笑った。
「カッカッカ。なれば、儂も見せようぞ……この刑部百十二変化を」
 どろん、と白い煙が舞う。血濡れの煙は、だが、ゴォオオ、と空間を震わせる音と共に立ち上がった。
「巨大化九十九神」
 それは巨大な鬼武者の鎧であった。そこにあるべき身はなく、ただ黒く揺れる煙だけが見え――巨大な鎧が、刀を抜く。
「その首、貰おう」 
「――ッと」
 風が、最初に来た。抜刀と共に生まれた風が、だが吹き飛ばすこと無くなのかを捉えてくる。斬り上げる一撃、隠神刑部が強化してきたのは命中力か。
「……ッぁ……ッ本日は、雪天……!」
 斬るというより、それは叩きつけるような衝撃であった。一撃が胴に沈み、だが、しぶく血の中でなのかは拳を握る。キィイイン、と触れた先から、九十九の刃が凍りついていく。
「これは……ッおぬし、まだ見せるというのか!?」
「ところにより全てを押し潰す絶え間ない豪雪に……」
 なのかの姿が変わっていく。帽子がはらり、と落ちて、罅割れた面の向こう、ふ、と笑うようにしてウェザリエは雪空を司る強化形態・スノーウィーフレームに変身する。
「ご注意ください!」
 ゴォオ、と凍てつく風が一度吹いた。装甲で受け止めた刀を弾き上げる。握りしめた拳ひとつ、着地の足と共に握りしめて、なのかは至近を踏んだ。巨大な鎧の下、ゼロ距離のこの場所。
「……ッチ!」
 その意図に気が付いた古妖が足を引く。だが、それだけでは足りない。そこはまだ、ウェザリエの――間合いだ。
「てやあああ!」
 冷気を纏い、叩き込んだラッセルクロウが鬼武者の鎧を穿ち――冷凍ガスが、一気にその巨体を凍りつかせる。ガウン、と一拍の後、巨体が砕け散る。
「っく……ッやりおるわ!」
 どろん、と溢れた煙の向こう、鮮血が舞う。しとどに流れた赤よりも、傾いだその身で隠神刑部が水面に触れる。ざぁああ、と湧き上がった水が獣のようになのかへと跳びかかってきた。
「仕留めようぞ!」
 隠神刑部が吼える。大口をあけた水の獣は、だが、雷撃を纏ったなのかには――遅い。
「本日は雷天。ところにより驟雨の如く打ち付ける稲妻と嵐にご注意ください!」
 パチン、と鳴らした指音ひとつ、轟音と共に落ちる稲妻が、配下の化け狸達を散らしていく。どろん、と白い煙が溢れ、その中、踏み込む古妖の足が一拍、鈍る。
「クハハハ、恐ろしき稲妻よ! ウェザリエ! じゃが……儂とて」
 隠神刑部が神通力を束ねていく。青白い光の中、なのかもまた、強く拳を握っていた。

●hallo good-bye
「最後は私本来の気象で勝負だ!」
 古妖が、神通力で呼び寄せたのは、再びこの地にある水であった。戦場を満たす水が青き竜へと姿を変えていく。とぐろを巻くそれが、力を放つその前に、なのかはドライバーに溜まった全てのフレームの残滓をサニーフレームに束ねていく。
《Whethelier, it's going to be Sunny》
 ふわり、と髪が揺れる。太陽のようにやさしく、オレンジ色の髪は長く変じて――彼女の紫の瞳と共に、サニーフレームバッジを装填する。炎と共に顕現するは炎と光を操る形態。
(「たとえ空が曇って涙を流し、冬を耐え忍び嵐が吹き荒んでも、いつかきっと満点の青空にお日様が微笑む」)
 全ての力を束ねて、軋む身体も痛みも置いて、なのかは前を向く。真っ直ぐに、隠神刑部を見る。
 これは最後にして最大の一撃
「あなたの運命、予報します!」
《Full‐Forcast!》
 水面を踏む。迫る竜より、その先にいる相手へと手にしたフォーキャスターがソードモードに代わり――超高熱を宿す。溢れる熱に、迫る水竜が端から崩れ――肩口、抉る一撃を気にせずになのかは行った。
「――! おぬし」
 隠神刑部の間合いを踏む。立ち上がる神通力が守りの形を作りより先に、振り下ろす。
「必殺! ボルケニックヒート・ワーニング! ファイナルバージョン!」
 それは、融解寸前まで熱量を高めた炎と光の斬撃。
(「いつか狸さんが生まれ変わった未来で、うちの店で私の料理を食べてくれるでしょう!私の予報は絶対当たる。だからその日まで。さようなら、またいつか」)
 叩き込む衝撃に、足元、満ちていた神域の水さえ消えて――隠神刑部の身に、沈んだ。
「っぐ、ぁあああああ! く、は、ははは。見事、よ」
 ぐらり、と身を傾ぐ。焼けた身からだらり、と腕を下ろした古妖が徳利を落とした。最後の時が、訪れようとしていた。

ヴィルヴェ・レメゲトン

●天命を穿ち
 轟音と共に、炎が行く。振り下ろす一撃が隠神刑部に沈み、鮮血と共に古妖は蹈鞴を踏んだ。
「ク、ハハハハ。あぁ、やはり、立ちはだかってくれるのぅ、√能力者よ」
 徳利が割れてしもうたわ、と息を吐く古妖に、びしっとヴィルヴェ・レメゲトン(万魔を喚ぶ者・h01224)は指を差した。
「散々暗躍してくれたものじゃな。じゃが、ここでお終いじゃ!」
「カッカッカ。おぬしか。じゃが、終いにもさせぬと言えばどうする?」
 血濡れの身で、そう告げるのは古妖の矜持か――或いは、この状況からも戦況を引っくり返すのを諦めてはいないからだろう。
 隠神刑部という化け狸は。
(「何があろうが、ここまで追い掛けてきたのじゃ」)
 追いかけっこも、今日で終わりだ。
 パシャン、と作り上げられた神域の水を踏む。奇妙に揺れる波紋を目の端に、ヴィルヴェは魔杖を掲げた。Lesser Key金色の一振りが煌めきを抱く。
「ヴィルヴェたちがやっつけてやるのじゃ!」
 ふわりと白い髪を揺らし、告げた少女に古妖・隠神刑部は笑った。
「ならば、来い! 儂も、おぬしらを倒し果たさせてもらおうぞ。ペンタクルム・ゲート計画を!」
 吼えるその声と共に、風が生まれた。ゴォオオ、と吹き荒れる旋風が木の葉を巻き込んでいく。舞い上がった水さえ斬り払い、力を持つその風を前に、ヴィルヴェは杖を強く握りしめた。
(「敵も背水の陣じゃからな。勿論油断なんかせずに、ヴィルヴェも全力で戦うのじゃ!」
 パシャン、と水面を踏む。神域は隠神刑部の領域と成っていようとも――介入する方法は、ある。
「この空間を支配下に置いてやるのじゃ」
 Lesser Keyの先を水面に向ける。キィン、と零れた光と共に、神域が――揺れる。
「この戦いもヴィルヴェが主人公で、倒されるべき敵が隠神刑部なのじゃ!」
「おぬし、まさか……!」
 それは、特殊な召喚術。
 詠唱は少女が語りであり、描き出す門はこの空間そのもの。は、と顔を上げた隠神刑部が走らせる風が来る。ゴォオオオ、と獣のように走る旋風がヴィルヴェの腕を切り裂き――だが、舞い上がった鮮血の中、万魔を喚ぶ者は詠唱を止めない。
「ヴィルヴェの世界へ変わるのじゃ!」
 斯くして、変革が起きる。ざぁああ、と神域を満たす水が揺れ、巻き上がった風がふつり、と止む。
「ッチ、間に合わんかったか」
「それから……天使の軍勢を召喚じゃ!」
 空に掲げる手。金色の光は空に巨大な召喚の陣を描き――四方を繋ぐ。少女に落ちる影は白く、顕現せしは天使の軍勢。ヴィルヴェの持つ最大火力の召喚術だ。キィン、と高く天使達の弓が啼く。空に生まれし無数の光が、一斉に隠神刑部に放たれた。
「さあ、一斉射撃じゃ!!」
 空を覆い尽くす程の光が、古妖へと注いだ。だん、と隠神刑部が水面を踏む。立ち上がった水で作る守りは――だが、光の矢は貫く。
「ク、ハハハハ! そうか、やってくれるのぅ」
 ヒュン、と最初の一撃が隠神刑部の身に届いた。流れ落ちた血に、古妖が身を後ろに跳ばす。バシャンと跳ねた水と共に、取ったのが回避であろうと――関係は無い。
「絶対に届くのじゃ」
 ヴィルヴェは告げる。これは、少女の描きだした空間。絶対の領域。光の矢は、一撃一撃は弱くとも、必中のこの空間で集中させれば威力は――上がる。
「これなら本気の隠神刑部とも渡り合えるはずじゃ」
「カッカッカ。やってくれるわ、やはり、おぬしを前にすべきではないのぅ」
 血濡れの身を、古妖は揺らす。は、と荒く吐いた息と共に、首を守るように腕を掲げる。ガシャン、と眼鏡が割れ落ちて、割れた額から血を流しながら隠神刑部は拳を握った。
「儂も、諦めはせんのじゃ。忌まわしき神通力よ……」
 空間が、震える。青白い光が隠神刑部の手に集中し、古妖は柏手を打った。
「儂の元に、来い!」
 咆吼と共に、浮かび上がったのは無数の岩石であった。神域に残された岩。隠神刑部と縁がある山の岩石がヴィルヴェに向かって――来た。
「潰してやろうぞ」
 ゴォオオ、と衝撃が迫った。少女を覆い隠すような暗闇の中、ヴィルヴェは臆さずに杖を掲げた。
「ぺったんこにはならないのじゃ!」
 白い髪が揺れる。岩石より遥か頭上、煌めく魔方陣から降り注ぐ矢が届けば、少女の真横に、割れた岩が落ちる。
「このまま……」
 ひとつ、ひとつ。落ちる破片が、腕を、足を切り裂こうともヴィルヴェは不敵に笑う。少女は戦いを知っていて――何より、万魔を喚ぶ者は己の召喚術を信じているのだから。
「これを一気に集中させて……」
 魔杖をくるりと回す。カチリ、と鍵の開く音が戦場に響き渡り、光の矢が集められていく。
「これで一気に集中させて……ふははー! ヴィルヴェの召喚術に恐れ慄くのじゃー!」
 そうして、降り注ぐ光が、影を払った少女と共に――行った。

●光の果てに少女は告げる
「ッチ、相も変わらず面妖な手を使いおって……ッぐ、ぁああ――ッ」
 古妖が手を掲げる。ぶわり巻き上がった炎が光の矢を焼き――だが、ここは、ヴィルヴェの描いた戦場。その矢は余すこと無く――届く。
「――ん?」
 届く、はずだった。あの矢は確かに隠神刑部の核に届いた筈だというのに、絶対死を与えた手応えが無い。
「変なのじゃ」
「ク、ハハハ。そのようじゃのぅ、じゃが、儂にとっては僥倖よ。理由は分からんが、お主は儂を絶対死させる能力を失ったようだな」
 これで、と隠神刑部が柏手を打つ。キィンと甲高く響く音は神域を強化するものであり――古妖の強力な神通力によって、場が取り戻されていく。――だが。
「そうはさせないのじゃ! 開門せよ。天使の軍勢よ!」
 少女が掲げた魔杖が、その先端にある鍵が煌めく。空に煌めくは天軍の光。その全てを束ね――300本を一点集中させる。
「出鱈目なことを……!」
 ここは、ヴィルヴェが完全支配する魔空間なのだから。
「これで、ペンタクルム・ゲート計画もおしまいじゃ!!」
 光が、落ちる。束ね紡いだ強大な光の矢が今度こそ古妖・隠神刑部を撃ち抜いた。
「ぐ、ぁあああああ、あ――ッく、あっぱれ、じゃ。く、儂の、手で全て、を――……」
 ぐらり、と隠神刑部が崩れ落ちる。神域を作り上げていた水が消え、緑深き山が一行の前に帰って来た。
「今度こそ、これで終わったのじゃな」
 吹き抜ける風が、終焉を告げる中、王劍『縊匣』の小王劍は砕け散って――消えた。

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