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Shall we sweet?

#√EDEN #ノベル #秋祭り2026

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天國・巽
ノイ・グランツ

「いつか甘い物を食べに行こうって約束してたから、今日は本当に楽しみにしてたんだ」
「そうかィ、それはなによりだ」
 晩夏のある日、重々しいリムジンが一台、ホテルの前に停まる。
 入口に控えていたホテルマンがリムジンの扉を開くと夏らしいジャケパンスタイルにハットで紳士風にキメた巽が出てきた。
 そしてアイコンタクトを取り合うとホテルマンは会釈してから下がり、巽はその場で振り返って手を差し伸べる。
 するとその手を取りながら水色と白の甘ロリ、フリルたっぷりのヘッドドレスも着けておめかししたノイが出てきた。
 ハイヤーに乗るのも、こんなにすごいホテルに来るのも、巽の前でこんな気合の入った格好をするのも初めてで、ノイは緊張のあまりついきょろきょろしてしまう。
 周りにノイのようなパステルカラーのドレスを着ている人はいない。しかし女性には好きにさせつつ、自身の装いでTPOに沿うようにするのが男の「甲斐性」。
「ちったァ、地上の天使に相応しい装いになれてるかィ?」
 巽がにっこりと微笑みかければ、ノイはちょっと驚いた顔をしてぶんぶんと頭を横に振った。
「わたしにはもったいないぐらいだよ。洋装の巽くんもやっぱりかっこいいね」
 天使って言ってもらえたのが嬉しくて、ノイも褒め返す。その笑顔から強張りというものは無くなっていた。
 そして自動ドアが開かれると冷えた空気が2人を出迎えて、ノイは小さなくしゃみを発した。
「おっと、結構冷房が効いてるなァ?」
 すかさずノイの肩へジャケットをかける。その行為にお礼を言いつつも、ノイは自分の腕とジャケットの袖の長さを何の気なしに比べてしまった。
 お辞儀をするフロントの前を過ぎ、エレベーターに乗り込む。そして閉じた金属の扉が再び開かれた時には海とオフィス街が一望できるビュッフェ会場の入口が広がっていた。
 予約席までいく道中、じっくり見てなくても分かるくらい可愛くて綺麗なスイーツが並んでいる。
 他の席の女子と同じようにはしゃいでしまいそうになるけど、巽くんは微笑ましい目で受け止めてくれるだろうと信じているからこそ、ここは我慢である。
 案内してくれたウェイターと別れ、ノイと巽は皿を取るための行列に連れ添って並ぶ。
「フルーツがたくさん乗ったもの、特にベリー系のスイーツは絶対に食べたいな」
 並々ならぬ気合いはあれど、ノイはおそらくいっぱいの量は食べれないだろう。
 ならば巽が取る割合は5:5。自分の好みは半分、ノイの好みも半分。
 存分に味見出来るようにとノイの好みの物ばかりチョイスし過ぎてしまえば、気遣わせてしまったと思われてしまう。思わせないのもまた一つの甲斐性なのだ。
「ねぇねぇ、巽くん。あれって……」
 その最中であった。周囲を慮った小さな声をかけられたところで、巽はノイの視線をなぞる。すると他の物とは雰囲気の違う一品があった。
「なるほど? 確かにこいつは……食い終わったらちょいと調べてみるか」
「だね」
 不思議なスイーツのことは気になるものの、まずはめいっぱい味わってからである。
 ベリー系だけでなく、桃やメロンがふんだんに使われた逸品まで堪能し終えたノイはナプキンで口元を拭いて、ごちそうさまの一礼をしてから巽に感謝した。
「ありがと。1人じゃ絶対に食べきれなかったけど、巽くんのおかげでいろんな種類を満足いくまでシェアしながら味わえたよ」
「そいつはよかッた」
「……じゃあ、“おしごと”の時間だね」
 いつの間にか眼鏡をサングラスに変えていた巽に合わせるように、ノイも全く同じ形のサングラスを出してかける。
「ねぇ、記念に一緒に写真も撮っても、いい?」
「もちろん」
 他の席で遠慮なしにパシャパシャ撮られている中なら浮くことはないし、こう頼まれて無碍に断る男もいない。
 仕事モードの真面目な顔になりつつもしっかりとノイのカメラのレンズに視線を向ける。ノイも負けじとキメ顔を浮かべながらシャッターを切った。
「閉場……から1時間は見た方が良さげかなァ」
「そうだね。わたし達はごちそうさましたら帰るだけだけど、店員さん達はお片付けとかあるからね……」
 そうして裏口に回った2人の前を帽子を被った女性が通り過ぎていく。伸ばした髪で隠そうとしているが、側頭部には人なら本来あるはずの耳がなかった。
 悟られぬように後を追い、人気が無くなったところで声をかける。
「ちょいとお嬢さん、話を聞かせてはくれませんかねェ?」
 突然声をかけられた女性は息を飲み、逃げようとする。しかし常人よりもはるかに早い速度で足を踏み出される前に巽が先回りをして進路を塞いだ。
「お姉さん、獣人さんでしょ? わたし達、色んな世界を渡り歩いているの。ひょっとしたら力になれるかもって思って」
 巽くんだけだと怖がらせてしまうかも、とノイが必死に言葉を紡げば、ヘナヘナと尻もちをついたことで帽子がこぼれ落ち、三角の耳が2つある頭頂部が露わになった。

 話を聞けば数か月前、√EDENに迷い込んでしまった彼女はホテルの関係者に助けられ、故郷で揮っていたパティシエの腕を見込まれて厨房で働いていたのだという。
「これは見捨てちゃおけねェな?」
「うん。できれば何が有名だとか、こんな物があったとか教えてもらえたりするかな。ひょっとしたらノイ達も知ってる世界かも」
 ここで全く知らない物が出てきても捜索の手がかりにはなる。しかし彼女の出したヒントは聞き覚えのある物ばかりだった。
「たぶん、あそこだよね……?」
「ああ、十中八九間違いねェ。今すぐにでも帰してやれるなァ」
「本当ですか!?」
「変な嘘は言わねェ主義でな? ……今回の事は夢の中でも何度も寝てしまうくらい長い夢だったと思えばイイ。別れればお前さんも、このホテルの上司さんも同僚さんもそう思えるようになるからさァ」
「あ、でも、何も言わずに急にいなくなったら迷惑をかけてしまうので、全部終わってからでも大丈夫ですか……?」
 ここで無理強いしたり茶化したりすることはせず、彼女の意思を尊重してノイと巽は連絡先を渡して一旦別れた。
 それから本格的に季節が秋に差し掛かってきた頃。
 同僚との別れや秋の味覚の誘惑を振り切ってきた女性を無事に送り届けた2人は、ゆっくりと√ドラゴンファンタジーの街路を歩いていく。
「あの不思議なスイーツは、√ドラゴンファンタジーのパティシエさんが作ったものだったんだね」
 ノイの心の中では嬉しい気持ちと寂しい気持ちが少し渦巻いていた。
 家は分かったから、引っ越さない限り彼女の作るスイーツをまた食べることは出来るだろう。でもあの日食べたあのスイーツは√EDENの食材と√EDENで出会った人達との思い出があるからこそ出来た物。食材は用意できても、後者は二度と蘇ることはない。
 それが迷い込んだだけの人と能力者の大きな違いだから。
「もう二度と会えなくても、あのスイーツの味は忘れないから……」
 幻となった味を噛み締めるようにノイは頷く。ただ巽は陰が差してしまったその表情を見過ごすわけにはいかなかった。
「せっかくだ。このまま異世界の味も食べていくってのはどうだィ?」
 片目を瞑り、離れてしまっていた左手を差し出す。
「異世界の食べ物なんて絶対食べたい! もちろん大賛成だよ」
 ノイは自分の出来る精一杯のレディの仕草でその手を取り、同じ方向へ歩き出した。

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