シナリオ

嗤うキムラヌート

#√汎神解剖機関 #クヴァリフの仔 #グロテスク #根源 #キムラヌート #イチゴ

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 #√汎神解剖機関
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●売り言葉に買い言葉
 私達の使命については――最早――君達に、説明する必要はないだろう。汎神解剖機関の君達にとっても『無辜の民衆』を守ることは大切な『もの』だと私は認識している。いや、これは改めての確認なのだが……汎神解剖機関は本当に『民衆』を守ろうとしているのか? 人間災厄を制御する事にだけ躍起になってはいないかね。では、ひとつ謂わせていただくとしよう。君達は――『クヴァリフの仔』の細胞を、欠片を、培養して売り払っている存在がいると気付けていない。ああ、私が間違っていた。君達はおそらく、考えてはいるのだ。この程度の事で人間災厄が『大人しくしてくれる』なら、妥協すべきだと。
 降伏したまえ。人間同士で争うなど愚かなことだ。
 今ならば――頷いてくれるだろう。

●|新物質《ニューパワー》発見の為に
「ほう……クヴァリフの……それらが齎すだろう新物質への期待……|連邦怪異収容局《FBPC》が目を付けたとなれば、最早、奪い合いしかあるまい。嗚呼、君達。話にあった通りだ。√汎神解剖機関にて『クヴァリフの仔』を確保せねばならない」
 星詠みである暗明・一五六の興味を『ひく』ほどの予兆であった。これは、|予知《み》なければ勿体ないと、掌が嗤う。
「君達にはまず√汎神解剖機関で『狂信者たち』の動きを探ってもらう。見事、狂信者たちの『アジト』を見つけたら、あとはお片付けという流れだ。しかし、君達。今回は少々厄介なことになるかもしれん。可能性の話にはなるが……連邦怪異収容局と『鉢合わせ』る場合も考えられる。その際は手段を選ぶな。クヴァリフの仔を奪取し、帰還せよ。では、君達、健闘を祈る。アッハッハ!」

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第1章 日常 『汎神解剖機関定例、公開学会』


 物質を――新たな物質を――如何にして暴き、如何にして晒し、使用するのか。使用するにしても素材の儘と活かすのか、確りと加工するのか。その道、枝の分かれは様々である。その為、汎神解剖機関では職員、関係者を集めて、度々『公開学会』を行っている。温故知新と掲げれば聞こえは好いものだが――その実は、成程、研究者の嗜好暴露大会でもある。皆さん、この細胞をご覧ください。この細胞はとある人間災厄から『提供』をしてもらったものです。その効果は――認識の改竄。第二のクヴァリフ器官としての効果が期待できます……云々……。君達は『狂信者』の興味を惹く為、試行錯誤をしなくてはならない。
 彼等、彼女等は確実に『女神』の信徒。
 女神を冒涜し続けたのであれば『尻尾』を出す可能性も高いか。
四之宮・榴

 元人の神様の神格を使い、怪異の生成手段を確保する方法その他について。
 現役であろうとなかろうと、こういう場では大いに歓迎される。
 犬も歩けば棒に当たる――額と後頭部を同時にぶつけて、軽度の脳震盪にやられたかのような心地の悪さではあった。……うわ……師匠と研究してた事が、役立つなんて……。果たして『これ』は幸運なのか不運なのか。何方にしても『揮う』機会を得たのだから、得てしまったのだから、言の葉を紡ぐ他にない。偶然だ。偶然なのだ。たとえ、宿命の神の出目の方が大きかったとしても、下方有利と定めてしまえば、偶然の神の勝利なのだ。ああ、怪異解剖士。そのメスの鋭さこそが世に革命を齎す……眩暈。脳髄の芯に粘り憑く、眩暈。悪心ほどには至らぬ羽根のような想いだ。思い出したのはとある依頼でのグロテスク。今頃、何処かの誰かさんは、神様は見守っていてくれているのだろうか。兎も角、奪い合いだ。奪い合いの前のお戯れだ。今回|も《●》、しっかりと、手を繋いでやるとよろしい。なんて……なんて、皮肉なんだろう……。面の皮が厚い彼方さんの事だ。この、人類の為の闘争と謂うものは――殺し尽くす事などできない。
 会場の至るところ、オマエの目や耳や鼻を届けてやれば準備は完了だ。不審な動きをしている『もの』を発見した場合、即座に捕縛するか、或いは、泳がしてやる事も容易い。……えっと……これから……発表を、行いたいと……思います……。発表したのは『目の前で見てきた』惨憺だ。いや、本当は『彼等』がやった事だけれど、それは、本人以外は分からないだろうし、伏せて――そう。これは炙り出しだ。実物はもうないし、あの神様だっていない。山の中を探すならば、嗚呼、潜るよりも火を放った方が楽なのだ。会場の隅っこ、ざわつく一団を|半身《レギオン》が感知した。狂信者だろうか、それとも――あの男が用意した「Dクラス」のような人員だろうか。今、確認するのは得策ではない。連中が動いてからか、何もしないのであれば、追跡するのが正解だろう。
 海老で鯛を釣る? 釣るべきはクヴァリフの仔だ。

八手・真人

 冗談にも程がある。
 蛸神様の機嫌を損ねてしまいそうだ。
 かちゃりと――まずは見た目から入ってみる。齢21の男なのだから、成程、白衣を纏って眼鏡をかければ『それっぽく』は視えるだろう。鏡の中の己の姿は、しっかりと研究者をしてはいるが、脳内、若干のパニックとやらに襲われる。学会って……なんか、賢そう。俺みたいな一般人が前に立っても良いのかな……? 浮かないように堂々と、サマに『ならなければ』いけない。かつかつと壇上へと歩を進める。右手と右足、左手と左足、歩き方がぐねぐねしてはいないか。まるで蛸のように、たこすけのように……。
 ど、ドウモ……エット、し、新米の研究者、です……。名乗る事を忘れてしまった。会場からヤジは飛んでこないが、それはおそらく『名札』を付けているからだろう。そういう事にしておく。エート、エート……クヴァリフについての、研究成果……クヴァリフについて……? いったい何を発表したら良いのか。オマエは良くも悪くも一般人であり、√能力者であるに過ぎない。アワワワワ……アッ……俺……食べたこと、ありますよ。俺が、っていうか……たこすけが、ですケド。ざわざわ、がやがや、会場が不意に沸き立った。たこすけ……? それに、その名札……八手……? 蛸神様の……? 如何やら、界隈としては『オマエの存在』にこそ興味があるらしい。……いや、続け給え。怪異が怪異を喰う、それは、よくある話だが。怪異本人からの『コメント』など、中々、珍しいのだから。
 味、は……わかんない、です。覚えてないですケド、まあ、俺生きてるし、無害なんじゃないでしょうか、たぶん……? クヴァリフの肉は『怪異』にとって無害……。まァ、なんか、元気が出そうですよね……。スッポンでしたっけ、アレみたいな? 成程! 新物質への足掛かりになりそうだ。ありがとう、新米研究者くん……。
 ところで、蛸神様と謂えば、最近報告書を読んでね。
 もしかしたら、クヴァリフの肉が肚に残ってはいないか……?
 ……ヒッ!?
 お、お腹は、開けないでくださいッッ!!
 もうないですッ、もう入ってないですッッ!!

セルマ・ジェファーソン

 誰が主人公なのかと、何が主人公なのかと、死霊に教え込む。
 うまいものを喰うのか、まずいものを喰うのか。
 騙せるのか、騙したとして、失態を晒すのか。
 ――あなた達は優しくない人だ。
 話を成立させる為には、先ず、現代とやらに順応しなければならない。これは『たとえ話』の類であり、つまり、今回の場合は『堂々とした態度』を装わなければいけないと、そういうワケだ。フリーランスの『語り部』をしているのだから、連邦怪異収容局との『パイプ』も繋げているオマエ、正体を暴かれたら目も当てられないか。ひとまず……私だとバレないように、眼鏡をかけて、シャツも仕事用のものにしておくわ。成程、ばっちりな変装ではないか。特徴的な声の色に対しては『どう』しようかと。ああ、いっそ。ボイスチェンジャーとやらを使ってみては如何か。マイクに細工をしておけば万が一の沙汰とやらにも対応が出来る……。それで? 嗜好暴露大会? 嫌いじゃないわね。研究を発表する場とすれば聞こえは好いが、結局のところ、正気の沙汰ではない連中の集会でしかない。
 だったら……私は、最近なら落語の話になってしまうけれど……。構わない。研究の糧になるのなら、人類の為になるのなら、なんだって大歓迎だと客席の面々は笑う。そうね、「時そば」の一席なんて如何? ほう……時そば……? あれだろう? うまそうに蕎麦を啜る演技が肝だとか……。もちろん、そっちも重要だけれど、今回の場合は『そのあと』の流れね。つまりは、阻害行為だ。コレも認識阻害の一種だと考えるわ。ざわつく客席の面々。言葉による汚染の類と謂いたいのか……。そう、人間が言葉を弄しただけで起こること。私が言いたいのは――人類は黄昏を迎えたけど、救いの女神なしでは本当に何もできないのかしら? 本当は女神すら、クヴァリフ器官すら必要ないのでは?
 面白い説だ。面白くない冒涜だ。会場の目立たないところ、集団、感情的な『おはなし』が耳へと飛び込む。まあ……解剖機関まで敵に回しそうだけど、彼等は理性的であるべきだもの。狂信者の怒りに触れるなら……これくらい、極端なことを言った方が……やっぱりね。気が触れている者の脳髄に、神経に、さわる。扱い易くて楽が出来そうだ。
 ちくわの厚さと連中の面の皮の厚さ、何方の方が分厚い。

アーシャ・ヴァリアント

 そうだ。酢醤油でサッパリといただくのは如何だろうか。
 ミンチにして、ハンバーグとするのは如何だろうか。
 誰かがそんなことを口にした。脳髄がぐらつく。
 蛸足目玉ギョロギョロ女――それがアーシャ・ヴァリアントから見た『クヴァリフ』の第一印象である。女の部分、人型の部分だけを『みた』ならば、女神のような包容さを感じ取れるのかもしれないが、それは本当に、百歩ほど譲っての考えである。色々追い詰められてる√とはいえ、あの化け物の仔の細胞とかよく欲しがるわねぇ……。怪獣映画だとかグロ映画だと、小さい細胞から復活したり、人間とか植物とか肉食動物と融合したりして大きくなるのがお約束よね。ふと最初によぎったのは鮫である。いや、なんで鮫なのよ。すべての鮫の父親だとでも謂いたいのか。……なんだか頭が痛くなってきた。いっそ脳髄を丸々と洗った方が宜しいのではないか。もう洗われている? これは失礼を……。
 それはさておき――さておいても良いのだろうか――学会参加だ。汎神解剖機関の皆さんが君のご活躍に期待をしている。いや、アタシ学者でも研究者でもないんだけど。うーん……? 思い出した。まったく秘密でもなんでもない教団の名前と共に『女神』との戦闘経験を。以前、真竜になって取っ組み合いしたけど、再生力が高くてしぶとかったのよね。溜息を吐くようにこぼれた一言。会場が一気に熱を孕んだ。なに……? あの女神と、クヴァリフと『取っ組み合い』をした……? え、ええ、なに急に熱くなってんのよ。その子供ってんなら同じく再生力あるでしょうし……「無限に食べられる」んじゃない? 食材だ。クヴァリフは、その子供は「食材」として完璧なのかもしれない。見た目もタコっぽいし、その部位だけならタコ焼きにでもすれば良いんじゃない? それに、ほら、生地で隠れて食べやすい……。ソースか醤油か、それが問題。なんだか話が脱線してるわね。それこそ|新物質《ニューパワー》が付くかもよ? つまりは怪異人間を造りたいと、そういうワケかね? では、まず、被験者を……。
 アタシは絶対食べないけど。
 そうか、残念だ……。

ディー・コンセンテス・メルクリウス・アルケー・ディオスクロイ

 ばらまいた銀色は戻ってこない。
 言の葉と同じ性質を有していた。
 木を隠すならばなんとやら、怪奇を隠すならばなんとやら、しっかりと誤認をしてくれている。狂気と正気がごったにされている昨今、故に、狂信者の類も草木の色と変わりないか。ああ、ならば、折角、招待をしていただけたのだ。わたくしのような存在も紛れ込んだってバレやしない。いや、此処は堂々と名乗りを上げるべきだろうか。わたくしは錬金賢者メルクリウス、『怪人』だ。ざわつく会場、おどらされる客席の面々。あの翼、あの輪郭、人間災厄ではないのか……? 興味深い、是非とも我々の研究に協力してほしい。アッハッハ! 慌てるでない。それに、専門は察してくれ! 本業ではないが混ぜて頂こう。湯水の如くに涌いてくるアイディア、このマッドな頭部には如何様な石が転がっている。
 わたくしの研究――鹵獲と解体の成果をご覧あれ。ばさ、と、真っ白い布が去っていく。去っていったところには、手頃な大きさの肉片のようなもの。これはわたくし自らが『とある怪異』からとりあげたものだ。まるで産婆、丁寧に丁寧に促していくサマは実に慈悲深く思える。ねばねばとした蛸足? それはオマケだ諸君。新物質も良いが、それに執着しているようではひとつの道しか拓けないのだ。それ以外の利用価値もご存じだろう。弾丸! 呪物! 食肉! 万能であり優秀だとは思わないかね。それを産み続ける『女神』には感謝してもしきれない! ああ、根源よ。オマエの演説とやらに皆が惚れこんでいる。畳みかけるならば現こそが好機だ。だが、わたくしは特に脳髄やらに着目している。見たまえ! 遠目からでは肉片だったが、成程、脳髄のようなカタチをしている。しかし、人間のソレとはまったく違うようだ。美しい、つるりとしていて、ヒトとはまた異なる艶やかさ! 用途の解説は――ふむ。がたりと、誰かが立ち上がった。声を大きくして「それはなにか」と問う。
 とある怪異とは? 当然『クヴァリフ』だよ諸君。
 文句があるなら、発言したいのであれば、手を挙げたまえ。

ディラン・ヴァルフリート

 嗜好を暴露する大会。これが、もしも文字通りの沙汰であるならば、オマエは優勝候補と考えられよう。そのことに気付けないのがオマエの、最大の難関ではあるのだが。兎も角。わざわざ相手の領域に、得意に、足を踏み入れる事はない。
 ――お困りなら、話を伺いましょう。
 神のように仏のように、勇者のように友人のように。
 喧騒の最中――会場から少しだけ離れたところ、如何にもな人物との接触にオマエは成功していた。ふむ……正攻法ではなさそうですが……。結果的に、最終的に、世の為人の為と成るならば如何様な沙汰でも『やって』宜しいのだと、これも『経験』なのだといつかの己に言い聞かせてみる。そのついでに紐解いたのは、封を剥がしたのは、莫迦げているほどに膨大な罪の類か。優しい嘘は優しい嘘でも、人類に優しいだけの嘘だ。これは、もしかしたら、やっていることは|連邦怪異収容局《れんちゅう》と同じなのかもしれない。人の慾など、人の感情など、表情や声色、仕草その他……観察すればするほどに、暴かれるものです。まして自らそれを晒す場とあらば、手に取るように。そうとも撒き餌だ。撒いた餌に喰いついてくれたならば、まったく楽でよろしい。貴方の知りたいことを知っている。貴方の欲するものを持っている。ちらりと、見せつけてやったならば、あとは『売ってやる』と魅せるのみ。匂わせてやれば、臭っている連中は外来種めいて口腔を開けてくれる。ええ、だからこそ、こうやって『少しだけ離れた場所』に移る事が出来たのです。な、なあ、その研究結果、俺達に売ってくれるんだろ……。代わりと謂ってはなんですが、僕も……貴方たちの『仲間』に入れてはくれませんか。上々だ。上々な成果だ。海老を必要とせずに鯛を釣れた。釣られたふりをして吊る事になった。ありがとうございます。では、向こうでお話をしましょうか。趣味と謂っても前世のこと。此度は仕事として、あくまで義侠心に則ってのこと。愉悦に現を抜かさぬよう、愉悦に蜜を求めぬよう、戒めて、粛々と……。

久遠寺・悟志

 目を合わせる事は難しい。
 極端な話――誇張すればするほどに――世間とやらは燃えやすい。火種の大きさに関わらず囀ったり、囁いたりと、まったく騒がしさの坩堝と表現すべきか。クヴァリフを……怪異を、冒涜すれば良いわけだね。呑み込みが早いではないか。咀嚼し、嚥下するのが早いではないか。と、言っても……他者を貶めるのって、悪く言うのって、僕はあまり得意じゃないんだよね。それは『いいこと』なのではないか。いや、この場においては真逆ではあるのだが、人としても妖としても、上出来なのではないか。あ……閃いた。的外れな褒め方をすれば良いんだ。そうすれば……クヴァリフの狂信者はきっと釣れる。人の話を聞かない頑固な連中であるならば、それは、多大な怒りを覚えてくれる事だろう。そんな期待感を胸に抱えつつ――人前に出る――壇上に立つ。ごほん。ひとつ、咳払いをして『客席の面々』の意識を此方に向けさせた。クヴァリフ器官が新物質であり、人類の延命に大いに役立っていることは、皆も知っていると思う。初心に帰って『考える』ことは何よりも大事だ。研究者の皆さんはぐっと、自分の意見とやらを堪えている。クヴァリフ器官から削り出した弾丸は『超常現象阻害弾』になって、クヴァリフ拳銃に欠かせないものとなるし。薄めたクヴァリフ器官は『クヴァリフ注射』として使えば、超常現象の記憶を曖昧にできる。それは、今更ではないか。此処から、如何様に話を展開するのだろうか。ごくりと皆が見守る中で、話はまっすぐ、当たり前とやらに行き着いた。
 これは女神の祝福だね。
 人間が人間のまま、尋常が尋常のまま、生きるために、不要な記憶を忘れさせてくれるんだ。クヴァリフを『女神』と崇める、そのような行いにも、納得ができるよ。
 包帯越しに柘榴、爛々と輝いた。彼等、彼女等の反応は如何だろうか。がたりと、遠くの方から『おと』がした。その人物はプルプルと震えながら、会場を後にする……。僕の思っていた通りだね。ああ、解釈違いだ。解釈違いとやらが引き金に触れた。

ケオ・キャンベル
玉・蓮

 リンドー・スミス曰く、狂気に陥るような弱者に、クヴァリフの仔は扱えまい。されど、狂気とはベクトルとやらを大切にしているのだ。
 汎神解剖機関と連邦怪異収容局――名前が違うだけで『やっていること』はあまり、変わりがないのかもしれない。その点に関しては怪異解剖士たるオマエも了承している事だろう。つまりは、冒涜的に、おぞましく、それらしい研究内容で煽ればいいのでしょう? まだ『クヴァリフの肚』は研究中だけど、彼らが愛する神秘を……お母さんを……全否定してやろうかしら。まさしく否定的な、攻撃の技術というわけだ。連中がクヴァリフを弁護しようと現実主義とやらには敵わない。研究発表の場所? 玉蓮がいつもがんばってることを皆に教える場所だよね! わあ! 行ってみたい! 玉蓮が、ぼくの玉蓮が、お仕事してるところをぼく見てみたいなあ。……そう、急かさないでちょうだい。いい? CC。わかっているとは思うけど、しっかりと、特にご意見が情熱的な人間の顔は覚えてなさい? 任せて! うん。悪い子たちの顔はしっかりと覚えておくよ。仕掛けは済んだ。あとはひっかけて、釣りあげてやるだけだ。にこにこしている化け物さんは着席するとよろしい。
 胎内神経媒体理論に基づく異性体構造解析――怪異解剖士としてオマエが|熱弁《ふり》し始めた。本発表では、かつて摘出した『クヴァリフの肚』の解析を基に、異性体の自律増殖と空間転移機構について報告する。この解析により、我々は「『クヴァリフの仔』の誕生は信仰や奇跡、生贄によるものではなく、生物学的な、生命体的な摂理に基づく現象」であると結論づける。女神の信奉者が、クヴァリフの盲信者が神聖視するその力も、冷徹な科学の前では、|怪異解剖士《われわれ》の前では単なる実験材料に過ぎない。こくりと、研究者の一人が頷いた。そのお隣で化け物さんがキャッキャしているとも知らずに。
 皆の前でお話する玉蓮――俺の玉蓮――もカッコよくて、美しくて、楽しいね。ああ、いつの日か。俺も、玉蓮の隣に立って|優秀な助手さんになるのさ《出来るとは言っていない》。いや、でもなあ。俺、やっぱり、玉蓮になら解剖されてもいいな。必要な時は、必要じゃない時でも、呼んでくれると嬉しいね……。お隣の研究者さんはあやしくない。怪しいとしたら、そう、前の席の輩だ。信じる者は救われると、そう、怒りながら……。
 確かに、君の意見は正しいだろう。だが、クヴァリフは、女神s……女神は、未曾有の存在だ。これを科学的に解明したところで、絶対的に、未知な部分は残る筈だ……! 反論は幾らでもどうぞ。間抜けだ。間抜けが踊ってくれている。

一ノ瀬・エミ

 如何様な過去を抱えていたとしても、それを、諦めてはならない。たとえ自分が脆弱な、ひ弱な、小娘だったとしても、この覚悟だけは揺るがない。力を籠めて、脳髄をいっぱいに働かせて――彼等の為にと己を揮う。
 人に好かれる才能――そういうものに憧れを抱く『もの』は多いだろう。されど、彼女の『持っている』才能には、如何しても、憧れを抱く事は難しい。はふぅ……。汎神解剖機関職員として『お呼ばれ』されたのだから、この仕事は受ける以外に選択肢がない。口腔内にレモンのような、ライムのような酸っぱい緊張が広がったとしてもやり遂げるしかない。公開学会かぁ……。私の話で、私みたいな小娘の話で、狂信者の皆さんが興味を持ってくれるか心配だけど……。私の研究で、私の経験で、リツ君たちの役に立てるならやってみよう! ぱんぱんと、頬を叩いて、頭を振る。緊張感を拭う事は不可能ではあったが、されど、一歩一歩確実に、意識を壇上へと向ける。ついに出番だ。ついに……。
 女神クヴァリフとその子供についての解説――不安な気持ちを無理やり吹っ飛ばして、ハキハキと言の葉を紡いでいく。解説の内容は既存のものばかりではあるが、それでも、話を続けていく他にない。きっと、見下してくる人物もいるだろう。きっと、鼻で嗤われる事もあるだろう。だけれども……怪異と災厄に向き合う気持ちに、この精神に、偽りはなし。では、素人の質問で恐縮ですが……貴方は、どのような怪異と、災厄と、関係性を紡いできたのですか? え? どのくらいかって? え~と……。今度は無意識に研究者その他の度肝を抜く番だ。あの子と、あの子と、あの人と、あの方と……。呆然としているホワイトボード、名前だけで埋め尽くされ、ああ、解説は何処へやら……。あ、一応。リツ君とギョロ君のことは伏せておかないと……。変に目をつけられたら困るしね。
 それは、もしや二重の意味を孕んではいないか。兎も角、オマエは十分に目を付けられた。狂信者たちが『怪異との友達関係』を嫌悪しているが故だろう。神を友とするなど不敬でしかない。……あれ? な、なんだか、寒気が……。

第2章 冒険 『怪異飯店、繁盛中』


 やあ――いらっしゃい。
 狂信者たちを追跡し、辿り着いた場所は――食事処であった。
 店員に声を掛けられ、早々に、能力者たちは違和感に気付く。
 狂信者たちの姿が、影すらも、見当たらないのだ。
 いや、確かに狂信者たちは『この店に入った』筈である。おそらく、此処が狂信者たちの拠点なのだが、欠片として、儀式の痕跡がない。ならば、最も怪しいのは『店員』だろう。この、店員を装っている――|男《●》の方だろう。
 まずは腹ごしらえだ。腹を満たしてから、話をしよう。
 私は「君達の研究にたいへん興味があって」ね。
 人間同士で争うなど、愚かなことだ。
 嗚呼、もちろん、お金は取らないとも。
 何せ――この、クヴァリフの培養肉は――私の考えたものではないからね。
八手・真人

 触腕に撫でられ、擽られ、叩かれ、もみくちゃにされた経験は多々としてきた。だが、しかし、まさか、人間に集られて、もみくちゃにされるとは思ってもいなかった。研究者その他に囲まれ、目を回す破目になったオマエが脱出できたのは数分前の沙汰で、嗚呼、今にもふらついてしまいそうな状態……。そんな中での、この『店』の静寂さはひどく有難いものではあった。それも――店員が、男が、怪異の肉を提供してくるまでは。
 か……怪異の……お肉……。オマエにとって見慣れた『それ』は食欲こそ擽らないものの『はら』が鳴るのには十分な上物であった。矛盾した描写になるのかもしれないが、実際、蛸神様は嬉々として跳びついてくれるに違いない。いやマァ食べたことはあるとは言いましたケド……アッ……。挙動不審だ。右往左往と泳ぎまくっている目玉を、まったく、己が制御出来ないで誰に委ねる。いえ、なんでもないです。出されたものは……。折角、ご馳走してくれるのだ。折角、用意してくれたのだ。欠片も残してはいけないと『良い子』な部分が露出していく。いただきます……あ……たこすけが。
 蛸神様の食欲は旺盛だ。王政ではあるが、男は如何やら『おごり』足りないようだ。君、私の料理を怪異に与えるのは結構だが、重要なのは、人類部分が食せるのか如何か、なのだよ。エッ……俺の分ですか……イイイいいですよ、そんなわざわざ持ってきていただかなくてもッッッ……。ほう? 君は、汎神解剖機関に『観察されている側』のようだね。普通、私のような不審者を見て、こうも、接してくれる者など中々に居ないとも……。男はすっと培養肉のハンバーグを出してきた。これなら、見た目を気にしないで、食せるだろうからね。ハイ、わかりました。じゃあ……いただき、ます。
 大丈夫だ。何も問題などない。たこすけに憑依されているのだから、なんか、食べ慣れたお肉だと思えば、血肉にもなるハズ……。ハンバーグにしたと謂うのに変な臭いだ。それに、再生力が凄まじいのか、時々、粘り気のようなものが口腔に広がる。変な食感……ダイジョウブ。呑み込めば、飲み込めば……。ぴちぴち、胃袋で嗤うおこさま。
 ご、ごちそう、さま、でした。男は満足そうにオマエを見た。にっこりと、微笑むサマはまるで気の良いおじさんだろう。エット、流行るか流行らないかで言ったら、アノ……。流行らない、と、思います。コレでお金を取るのは、諦めた方がいいカト……ヴッ……。
 たこすけが、蛸神様がびちびちと反応している。
 何を察知したのか。それは――害意だ。
 まあ、君に食べてもらっても、人類にはなんの益もないわけだが。兎も角、その蛸神様とやら……興味深い。ぜひ、触腕のひとつくらい持ち帰りたいものだ。
 ……たこすけに、俺に、何をするつもりですか?
 なぁに、話を聞いてからさ。

四之宮・榴

 フライパンが踊り、火が嗤う。火が嗤ったならば女神が詠うのか。
 ――争う必要などない。今のところ。
 きゅう、と鳴いたのは、ひっくり返るかと思ったのは贋作とやらのひとつに違いない。水母と触手を繋いだその他が、ぐるりと臓腑のあたりを巡るか。廻るかのように回るかのように、散々と、己の半身に導かれて――やあ、いらっしゃい。君とは……何度目だったかな。不意に、馴れ馴れしく、親しみを込めてのご挨拶だ。……えっと、あの、どこかでお会いしましたか……? まるで、何かを忘れているかのような感覚だ。まるで、薄めていない器官を摂取しているかのような状況だ。まあ、君と私の『仲』だ。特別上等な怪異肉を振る舞ってあげよう。……あ。僕、そんなに胃が大きくないので、少なめでお願いします……? 数分後に提供されたお料理、このソースに使われている果実は『ちゃんとした』柘榴だろうか。出された物は食べないといけない。食べなければ、店の人に失礼だ。すっと、ナイフを入れたのなら、メスを入れたのなら安心安全に――ぱくりと、口腔の中へ。やっぱり肉はお口に合わない。食べられる方が向いていた。
 僕のような生命体が、僕のような存在が、いったい何に警戒をしているのだろうか。たとえ身体の内側から、逆に、喰いつかれても『最悪』作り直せるのだから問題などない。いや、心配していた自分が莫迦みたいだ。確かに、独特な食感こそ残るものの、しっかりと『料理』だけは出来ていた。……気になる事って、なんですか? ああ、気になること。私は、如何して君達が『遠慮をしているのか』と訊きたいのさ。君達は、本当に使い方がなっていない。そもそも、停滞しているだけではないのかね。停滞どころか、退化している可能性だってあるのだよ。……はあ。よく、わかりませんが、僕は……そうは、思いません……。小さく、小さく、可能な限り細かくして『肉』を食む。話を長引かせるのだ。長引かせて、相手の言の葉を『気分よく』引き出すのだ。まさか、接客業が、こんなところで役立つなんて。ほう……? ああ、きっと君は情報が欲しいのだろう。情報なら、既に出しているとも。君、私がいったい何者なのかくらいは『証明』できる筈なのだがね。
 ……わかっています。ですので、もう少しだけ、お話をしませんか。
 皿の隅っこで跳ねている腸、シロウオの類を真似ていた。

セルマ・ジェファーソン

 柔らかな鴨肉の傍らには常に『青々とした』葱が居座っていた。焦げ目のついた一口サイズであれば、成程、きっとオマエも満足できる。金銭の類に拘っている場合ではないが、兎にも角にも目の前の男――オマエの事を旨そうな『もの』だとしか思っていない。では、せっかくだから、蕎麦と一緒にいただきたいわ。蕎麦はあるかしら? ムシュー? 無臭を装っているのは結構だが、随分と、わざとらしい消臭ではないか。招集された彼等、彼女等の狂信も『これ』で無意味としたに違いない。残念ながら、お嬢さん。私は日本食には疎くてね。いや、此処は『にも』としておくべきかな。……ない? 中華そばという言葉遊びで騙してくれてもよかったのよ? それこそ、この、今やっているお遊びみたいにね。それで怒髪天を衝くほど狭量じゃないわ。ハハハ……狭量ではない、と、言うのは嬉しいね。私はこれでも穏やかな人間なんだから……。人間、人間ね……そういう事にしておくわ。解剖するのも物語るのも人の業だ。慾の在るが儘に、怪異の骨組みをばらしていく。
 あら、この肉、炙りが足りないわ。炙りましょうね。綺麗な模様の蝋燭が――怪談の為の灯が――じっくりと『培養肉』を舐る。旨味を閉じ込める為の処置なのだから男も『文句』は謂えないだろう。ああ、これ? この子がえらく気に入って、買ったの。ひょい、と、顔を出した死霊。可愛らしいお目目がいっぱいで、実に、キャットに似ている。あら……! つまみ食いだ。いいや、本気喰いだ。死霊のお腹の中はブラックホールである。この子ったら、勝手に食べて。しようのない子……。構わないとも。どうせ『肉』は無尽蔵なのだから。もちろん、サービスはしておくとも。気前がいいわね、いただくわ。
 ところで、お嬢さん……。何故蕎麦がよかったかって? 蕎麦の話をしたからよ。あとは……。何が起きても『蕎麦』の所為に、アレルギーの仕業にできるからだ。知ってる? 怖いのよ。それこそ、饅頭とは違って、本当に怖いのよ? ふむ、饅頭。肉まんと謂うのも悪くはなさそうだ。……もしかして、意思の疎通とかできていなかったり……まあ、いいわ。食べたり、検査をするまで、劇毒がどうかわからない。その点は蕎麦も怪異肉も一緒ね。物覚えの良いオマエだ。忘れる必要性など欠片としてない。

アーシャ・ヴァリアント

 荒業だろうとも、これを、受け入れたくはない。
 何かを忘れるのは嫌だ。どうして、オマエはこんなにも。
 伽藍洞を拒んでいる。
 目の前にぶら下がっている研究資料、走っても奔っても読み解けないその所以、人参が大好きな馬に訊いてみるとよろしい。喜びと怒りの狭間で焼かれていた狂信者、きっと彼等彼女等は既に『塵となった』後であろう。む……|狂信者ども《神様信じてる阿呆ども》追っかけてたら飯屋についたわ。外観を改めて見たら――何もかもが普通だ。普通に飯屋をしている。いや、だからこそ可笑しいのだ。ここらに存在しているべきは所謂、チェーン店と呼ぶべき店だろう――ここがアジトってわけ……とりあえず……? 虎穴に入らずんば虎子を得ず、得難いものを証明する為にオマエは暖簾をくぐった。お邪魔するわ。……やあ、いらっしゃい。君は確か、クヴァリフと取っ組み合いをしたっていうお嬢さんだね。折角だ。お互い、話でもしながら、肚を満たそうではないか。いや……アタシは研究者じゃないってさっきも……? おかしい。いよいよ、おかしい。目の前の男が狂信者であれば、狂気に駆られて、憤怒にやられて、襲ってくるべきだ。なら、如何してこの男は――眼帯をした男は――欠片ほどの狂気も抱いていない。アンタ、ベクトルが違うんじゃない。やれやれ、最近の√能力者は察しが良くていけない。でも、飯屋に来たのだから、何も注文しないと謂うのは『ダメ』だろう? ……仕方ないわね。牛丼でもちょうだい、良い? 牛丼よ。牛丼じゃなかったら、アタシ、食べない……?
 牛丼だ。男は『これ』を牛丼だと口にした。何が牛丼よ。怪しい匂いがビンビンするわね。見た目からして牛肉じゃないでしょ、これ。何処かで『見た』ような青色だ。トッピングとして転がされているのは目玉だ。ギョロギョロと、此方の目の玉を観察しようとしてくる。食べないって言ってるのに……。スプーンで掬った『それ』を口腔へと運ぶ。運んで、口を塞いで、吐息する。ごうごうと、小さな地獄の成立だ。焼却された培養肉が臓腑へと悲鳴だけを落とす……咀嚼するフリは上出来だ。お嬢さん、アツアツのうちに食べてくれるのは嬉しいけど、火傷には注意した方がいい。大丈夫、アタシ、熱いのは『得意』なのよ。

久遠寺・悟志

 頭が痛いとはこのことだ。
 正体を暴いてしまったのだから、状況を把握してしまったのだから、沈黙するしかない。視線を隠しているのはお互い様である。バサバサと、真っ白い翼が笑うのか。
 クヴァリフ器官――それは超常現象を『阻害』する効果を有した|新物質《ニューパワー》である。その為、店員が『料理』してくれた『もの』はオマエにとって致命的な毒と謂えよう。あっ……ヤバい。クヴァリフの培養肉料理なんて食べたら、僕が超常現象のことを忘れかねない。僕自身が超常存在なんだから、妖なのだから、最悪、廃人化するかも……。見ようとしたが、知ろうとしたが、ああ、こんなにも恐ろしい心の底があるだろうか。まるで忘れようとする力が働いたのかと錯覚するほどに――目の前の男はグロテスクだ。よし、ここは食べずに切り抜けよう。如何したのかね? 食べないのであれば、私は肩を落とす他にないのだが。白々しい。なんだってこうも人を、妖を弄んでやろうと嗤ってくれるのか。ナイフとフォークの扱いに関しては完璧だ。そっと、地獄の欠片とやらを口腔内へと入れ込む――文字通り、目にも止まらない速度で『あんパン』の欠片とすり替える。もぐもぐ、もにゅもにゅ。クヴァリフの食感、咀嚼音を再現しつつ、ゆっくりと、飲み込んでみせる。培養肉の行方? それはもちろんオマエのポケットだ。弾丸になるのか、薬のなるのかは機関のみぞ知る。
 じっとりとした雰囲気の中で、我慢、こらえるついでに『肉』に能力を使ってやれ。探るべきは培養肉の『かつての』所有者だ。そこでオマエが『見た』のは――あなたは――? あまりにも、見たことがある。いや、と、謂うよりも、先程からずっと一緒ではないだろうか。な……何の目的でクヴァリフの肉を培養したんだい……? 訊ねたところで怪奇なだけ。だが、成程、これは――ある種の運命なのかもしれない。
 オーラソードが役に立つかはわからない。わからない、と、謂うよりも、役に立たない方に傾いてはいる。隠し持っておいて、不意の攻撃には使えるだろうか。
 ……ああ、君。おかわりは如何かな?
 十分ですよ、お腹は満たされたので……。

ディー・コンセンテス・メルクリウス・アルケー・ディオスクロイ

 仕入れ先を問う必要性が無くなった。
 いや、本当か? 本当に、認めると言うのか?
 アッハッハ!
 クヴァリフの仔、それは――オマエが調べた結果でしかないが――雌雄同体である。雄であり雌であるのならば、その両方の珍味を口にする事も可能なのではないか。いや、培養した所以について問われたところで、なんとなく、としか答えようがない。何故ならばオマエは『売買』を目的にしていたからだ。上質な想いと謂うものは『別の部位』に任せていた。
 店主……それに、先程のあなた……わたくし、コレに見覚えがあるような。吐きはしない? いいや、吐くとも。少なくとも『私』は君に感謝しているのだよ。ふむ……わたくし、少々困ったな。それよりも諸君、此方が吐かないように気をつけたまえ。手遅れならウケるが。まったく大ウケではないか怪人、根源が此処まで蔓延するとは想定外である。
 それで、君は食べてくれるのかい? 食べてくれないのかい? 何をわざわざ質問しているのか。怪人にとって、メルクリウスにとって『この肉』は常食に等しい。嫌悪感も、拒絶とやらも、何もないというワケだ。店主、こちらは|非常識殺し《フリークスバスター》だぞ。そうだ。メニューを……ああ、お勧めくらいは訊こう。お勧め? オススメは猫まんまだ。鰹節の代わりにクヴァリフのジャーキーを……。ではそれ以外で。ぶち。男の頭の中で何かが鳴った。おそらくは、奔放なオマエへの宣戦布告である。
 蝶々は夢の中に溶けていった。
 食べ慣れたものの感想を謂うのは、いつものやつのレヴューを書くのは、非常に困難だ。労働者が牛丼の味を、ラーメンの味を思い出せと言われるようなもの。好みの味付けを押し付けたいものだな……。味変が必要なら酢醤油でも……。いや、胡麻油か塩だ。ぎゃあぎゃあと始まった大人げない水かけ合戦。仕方がない★2.5で……? 生憎と、ここは隠れた名店でね。そういうのは一切やってないんだ。では、わたくしが載せよう。……話を聞く気はないのか。なら、もう、争うしかなさそうだ。どうせ君は人類ではないのだろう?
 隠れ家は暴かれるべきだ。

赫夜・リツ
一ノ瀬・エミ

 物質的な話だ。その後ろに精神的な話がある。
 酢醤油の海――ヤケに冷えている水底へと、沈んでいくかのような寒気。ぬるま湯の中で溺死した方が幾らかマシな、そういう幻想。凍え嗤う如何物に抱擁されたのかと錯覚するほどに――名状し難い、刹那の感覚。……寒気がするのは困ったね。風邪を引いたのかもしれないし、先に帰った方がいいよ。もちろん、迎えも呼ぶからさ。人間災厄側が苦笑いをこぼすほどの『無茶』だと謂うワケだ。されど元気いっぱいな職員さん、折角の楽しみを自ら手放すなんて勿体ないとも思っている。ちょっとリツ君、そんなこと言わないでよ。ここまで来たんだから、ついていきたいよ。文字通りの有言実行だ。成程、上の面々に小娘呼ばわりされてしまうのも致し方のない性格か。仕方がないなあ……。
 いらっしゃい――暖簾をくぐる前から一ノ瀬・エミは上機嫌だった。こんなところにお店が、しかも、怪異飯店が有るだなんて、望外もいいところだ。わ~、ここに、こんな店があるなんてね。どんな料理が出てくるんだろう。ワクワクするね、リツ君。此方は内心ハラハラだ。いや、狂信者の拠点を叩く為にお呼ばれされたのだから、荒事は如何あっても避けられない……? はっは、元気なお嬢さんだ。君にはサービスしておくよ。ことりと、運ばれてきた料理。何処から如何みても『たこわさ』だが――鮮度が良いのか――じっと、覗き込んでくる。ちょうどお腹すいてたんだ~いただきま~す♪ サッ……男らしい手が、容赦のないものが『たこわさ』を一口攫っていく。……ちょ、ちょっと! リツ君? 行儀悪いよ~? 驚いた。驚きを隠せなかったが、その次、考えている事は顔色にしなかった。これってもしかして毒見してくれてる……?
 予想していた通りだ。クヴァリフの子供の培養肉、それも、目玉に近い部分だ。僕は特殊抗体生成器官があるから、自分の細胞があるから、害があっても耐えられる。何もかもがアウトだ。何もかも、人体に何かしらの影響を与えるものだ。全部、全部、鯨飲馬食をしてやると良い。……り、リツ君? ひどいよぉ……。
 レモンの汁気には懲りたのか。比較的おとなしかった『ギョロ君』が口を開いた。店員には……男には……聞こえないほどの囁きで、内側から。「エミ……人肉以外、大体喰うよな」本日二度目の苦笑いだ。食堂のおばちゃんが苦労しながら怪異肉で料理を作っている。そんな光景を常に友としていたか。あまり抵抗ないみたいだよ。
 ふむ……では、お嬢さん。此方の、シュレディンガー鍋は如何かな?
 大丈夫そうだ。鍋の中には野菜と、得体の知れない怪異肉。つついて、もぐもぐとやる。これは……ちゃんと食べやすく料理されていて、美味しいです。それは良かった。人間を笑顔にするというのは、ある意味で、私達の仕事だからね。

ケオ・キャンベル
玉・蓮

 茶番だ。
 詐欺師の所業であろうとも、静電気の仕業であろうとも、この混沌とした世は変わらない。異物が混入したところで最初から異質なのだ、まったく、如何してクレームを入れる事が出来よう。クヴァリフが大好きな人たちのアジトはご飯屋さんなの? 純粋な疑問である。いや、口から勝手に情報が漏れた程度の沙汰なのかもしれないが、兎も角、聖なる光にとって此処は咀嚼し難いところだ。怪異が好きな人って食べるのも大好きなのかな? ぼくは玉蓮を食べたいとは思わないからちょっと不思議……? あ、もしかして逆なのかな。だったら、ぼくは玉蓮に食べられたいな――CC、声に出ているわ。え、あ、食べてくれる? そんな勿体ない事はしない。目の前の、かわいいかわいいワンコを鍋にするなど誰に出来ようか。忠実なものには相応の対価を――此処には価値が存在している。ともかく、ちょうどいいじゃない。学会ってお腹空くのよね。食べていきましょ。
 いらっしゃい――君達には無料ってことにしておくよ。店員の男の外見に関しては、嗚呼、狂信者のそれではなかった。声色はもちろん、顔、狂気の欠片も湛えていない。CC、全部無料らしいから好きになさい。後から高額請求されても、無理矢理にでも経費で落とすわ。騙されていたって構わない。いや、むしろ、騙そうとしてくる方が健全だ。此処にはまったく健全の『け』の字の気配もない。ねえ玉蓮、いっぱい、いっぱい食べたいな。こっからここまで全部頼んじゃうよ。ほう……なかなか、はらぺこなお客さんだ。では、提供に時間はかかるが、大丈夫かな。大丈夫! 俺、待つことくらいは出来るんだ。玉蓮の「待て」だったら、もっと頑張れるよ。お腹が空いたりしないクセに、味がわかるとはこれ如何に。色んなものを口にして、咀嚼して、理解する。こういうのが楽しいや好きに繋がるのだ。あ、ちびちびじゃなくて、一度に、どさっと持ってきてくれたら嬉しいなあ。謂われた通りにやってきたたくさん。全部、似たような見た目なのは材料の所為か、或いは……。
 クヴァリフの培養肉の料理って、見てくれは悪くないのね。それこそ、どっかの怪異の脳髄みたいにシンプルだ。テキトウな大きさにして口腔へと運ぶ。フゥン……アタシは不味いとは思わないけど、一般受けはしなさそう。そんな商売じゃ、そんな押し売りじゃ、繁盛しないでしょう? それとも……こんな店を構えなくちゃいけないほど|連邦怪異収容局《おまえたち》はお金に困っているのかしら。手厳しい……君達も似たようなものではないか。いや、君個人の場合は別かもしれないが……。
 答えなど最初から決まっている。莫迦みたいな演劇ごっこだ。
 培養出来たらご飯も、新物質も、たくさんとれてみんな嬉しいね。おじさん、偉い人? おじさんのおごりだったりする? するんだね。もっとお代わりしていいかな? CC、お代わりするなら『おじさん』の体内からにしなさい。さて……そろそろ、お話してくださる? 言葉の端々から香ってくる、匂ってくる、教養、頑なな正気。狂信者じゃないでしょう。噂のリンドー・スミスさん。君となら平和的に解決できるかと思っていたのだけれど……いや、君の脳味噌が赦してくれそうにない。良いだろう。
 ――わんこそばといこうじゃないか。

第3章 ボス戦 『連邦怪異収容局員『リンドー・スミス』』


 溜息――男は――連邦怪異収容局員『リンドー・スミス』はごっこ遊びを辞めたようだ。仕方がない。そうとも、仕方がないのだ。私は君達と争うつもりはないのだが、君達が、クヴァリフの仔を狙うと謂うのなら、迎撃する他にないのだ。そもそも、クヴァリフの仔を、培養肉を、情報を……隠し通せなかった君達も悪いのではないか。まあ、良いさ。何もかもはいつもの通り。連邦怪異収容局と汎神解剖機関の競争と、狂騒というわけだ。さて……君達には一度死んでもらうわけだが、土産話としてひとつ、味わった感想でもこぼしてもらおうかな。狂気を以て狂気を駆逐するなど、莫迦も休み休み謂うとよろしい。
ゼーア・ヴェシア

 何処に楽園が存在しているのか、何処に奈落が存在しているのか、それを把握する為には『第一歩』こそが効果的と謂えよう。酩酊していようとも、毒されていようとも、正気であろうと狂気であろうと、脆弱な世界とやらは招き入れてしまうのだから。「|干渉開始《プロセス・ブレイクスタート》」――何に触れたのかと、何に障ったのかと疑問を抱かされたならばオマエの出番だ。人だろうと人形だろうと故郷を蹂躙されるのは誰だって『いや』なのだ。このままだとEDEN? に多大な影響が出ると結論が出ました。ですので、此処は私が全力で皆をサポートするよ。……君、多勢に無勢だと謂うのに、私と「おはなし」する気もないと謂うのに、横槍を入れようとするのか。横槍を入れてきたのはあなたの方ですよ。お互い『強制』が『共生』が凄まじいと、そう結論しておこう。男は……リンドー・スミスは体内に潜めていた『怪異』を解放していく。其方が解放なら此方は上昇ですよ。ああ、能力が……√能力者の『超常性』その他が僅かながらに増幅されていく。それじゃあ、お嬢さん。君は私と如何やって戦うと謂うのか。いや、如何やって抗うと謂うのか……。やられっぱなしは性に合わないので、出来る限り、抵抗させていただきますよ。それに、抵抗し難くなっているのはあなたも同じ……。
 作戦はシンプルに「干渉した空間から敵を出さないようにする!」だ。やるじゃないか、君、私が思っている以上に覚悟してはいるようだ。光線銃で撃ち抜いたのは形容し難い何かしら。出来るなら、直視したくない超自然の落とし仔だが――そんな事も言っていられない。伸びてきた。ひどく、ヌメヌメとした、よくある触手の招来だ。……近づいて来たね。それなら、私にも考えがありますよ。その炎……君、そうか。クヴァリフ器官よりも直接的な力を……。触手は焼却され、消失し、空虚だけが流れていた。
 あとはみんなに任せますよ。ええ、もちろん、干渉の維持だけは忘れません。
 面倒なまでにタフなお嬢さんだ、死ぬのが怖くないのかね。
 私は少女人形、この意味、わかるよね?

四之宮・榴

 レンズの裏側に存在している愛情、母蜘蛛のような夢舞台において、誰が否を唱えている。死んだ。死んだのだ。オマエは死んで、魚眼が咆哮する。目の玉が吼えるだって? 随分と滅裂な事をしてくれた。神様のいうとおり、見事に胎は膨らんだのか。
 鼻腔を衝いた硫黄の臭い、人類に向けられた焔の勢いは何処までも、彼方までも失せる事などない。知恵を湛えた果実の代わりに添えられたオマエの素顔、じろりと、観察されてしまっては目を逸らすしか知らないか。……知らない人なら、知らない敵なら、良かったのに。至近距離で、正気の儘、語られるなんて、誘われるなんて、これなら、何処かの誰かさんに意地悪されていた方がマシに思えた。……ええ、覚えて、います。あの時だって、僕ごと、食べようとしていたではありませんか……。何をそんなに謙遜をしているのか、何をそんなに遠慮をしているのか。君は結局のところ、私に対してどのような感情を抱いているのかな。……兎に角、人の命を、相変わらず……何とも、思っていない。ハハハ……まさか、まさか。私は少なくとも、君よりは命に敬意を払っているつもりなのだがね。眩暈がした。何を如何したら、そんなにも舌を回す事ができる。……また、手ぶらで……収穫なしで……お帰りいただけます、か、Mr.? まったく、そんな事が『できる』から、君は命の価値に気付けない。いや、気付いていて、理解していて、尚、遊泳しようとするのか。度し難いものだ。水掛け論も大概にしてくれ、水の代わりの海水も、油も、この闘争とやらには必要であった。
 恨まれているのは、知っていた。表情には出さないが、声色にも出さないが、きっと、リンドー・スミスは苛立っているのだ。……覚えている時点で執拗なのだと告げてやれ。それに、貴方様のソレは進化とは言わない。人に退化していると、停滞していると、謂うのならば、貴方様はとっくに……。人間を辞めている? 何を宣うかと思えば。君よりかは私の方が命の価値を知っているし、何より、人間らしいと断言しておこう。……化け物……です。貴方様は、もう、化け物でしか、ありません。何を喰わせたのか。何を啜らせたのか。なんだってこうも√能力者は、君達は、君達自身を贄にしたがるのか……。弱者と嗤うならば、勝手に嗤わせてやると良い。此処に君臨すべきは敵無しの類だ。僕は一足失礼します。貴方様には、もう、二度と、会いたくもありませんので……。ほう……深海魚か。良いだろう。私を喰うにしても、その腸では消化しきれないだろう……? 祈りだ。祈りを籠めたゆるやかさだ。
 光が男を抱く。
 おお、眼球。その大きさで何を覗き込んでいるのだ。

アーシャ・ヴァリアント

 女神様の身体と比べてしまえば、この男など、団栗よりも矮小であった。
 前置きが長い――アツアツだった口腔内部、苛々してくるほどの言の葉の滝にオマエは『構える』事にした。いつもの通りって、結局、戦うなら――うだうだと、ぐだぐだと言ってないでさっさとかかってきなさいよね。やれやれ、せっかちなお嬢さんだ。そんなふうだから狂気とやらに駆られるのだよ。……アタシが狂ってるって? まあ、それは一理くらいはあるわね。ともかく、死んだ感想ならわざわざ味合わせてくれなくても今すぐ教えてあげるわよ? 問答するのが楽しみだと、言葉を戦わせるのが好きなのだと、そんなかっ怠いことを『おじさん』は強要してくるが、お遊びに付き合うくらいなら舌を噛んだ方がマシと思えた。ああ、でも、自分で一度味わうのが良いんじゃないかしら。百聞は一見に如かず、実体験に勝るものなしっていうじゃない。確かに、お嬢さんの謂う通りだ。しかし、お嬢さん。体験したことを忘れてしまうなんて、実に、弱々しい証明だと思わないかね……。先程からこの男は、簒奪者は『なに』を視ているのだろうか。アンタ、正気だ正気だ言ってるけど、アンタが一番狂ってそうよね。……では、試してみるかね? 試してやると良い、化け物が化け物たる所以が『記憶』ではないと謂う沙汰を――!
 さっきまともに食べられなくて腹空いてるし、その大きさなら丁度、一口よ。リンドー・スミスの肉体は――肚は――クヴァリフ程ではないが、しっかりと怪異をしている。ちょっと混ざり物がありそうだけど、アンタの中途半端さなら、しっかり焼けば大丈夫でしょ。強さとは何か。それは『大きさ』である。それは『力』である。真なる竜への変貌は『過去』を引き寄せたかの如くに――完了された。それじゃこんがり焼いてあげるから、逝ってらっしゃい。……これは……攻撃が無効化されている……いや、違う。干渉の無効化か……。お嬢さん、冒涜的なことをしていると、自覚は無いのかね。
 怪異諸共に抑え込んでやったならば、直火焼きの刑だ。
 芯まで火を通してしまえば、あとは、骨の煎餅のように、
 ――バリバリと「いただきます」。

八手・真人

 活け造りとするには枯れている、加齢しているのだから仕方がないか。
 ウネウネ、ウネリウネリ、唸るように。
 胃袋の中で嗤っている、臓腑の底で踊っている、タンパク質の亜種については考えない事にした。たっぷりと蠢いているのは体内の培養肉ではなく、体外の『蛸神様』だ。その所以は、その原因は、目の前の|店員《おとこ》と決め付けられている。え、えっと……あの、俺、研究とか、よくわかんないんですけど、ひとつだけ、わかったことがあります。店員さんは……リンドー・スミスさんは、俺を……! まったく、旺盛な怪異ではないか。いや、汎神解剖機関の資料によると、その怪異は……女神と、クヴァリフと似ているようだね。莫迦にされた。この、ゴチャゴチャしたやつに、この、なりそこないに、似たやつ、などと莫迦にされた。それに加えてこの男は『依代』に危害を加えようとしている。いつしか機関で「やられた」のと、同じようなことを――やってやらねば成らない。蛸神様の感情は、怒りは、最早リンドー・スミスの沈黙まで治まらない。た……たこすけ……何を……? 意識せずとも触腕を伸ばす『たこすけ』。ほう、今はたこすけと呼ばれているのか。では、私も「たこすけ」と呼んでも良いかい……? 丸裸にしてやる。鶏の羽を毟るかのように。この男だけは絶対に生かして帰してはならない……。
 リンドー・スミスの跳躍力は人間の『それ』ではなかった。体内に隠していた怪異の解放と共に何もかもが底上げされていく。私は彼等のように『同じ轍』は踏まない主義でね。空から、宙から、確実に『君を解放して』あげよう……。あとは蹴りつけるだけだ。あとは着地するだけだ。そう、盲目していたからこそ――擬脚を掬われる――成程、跳躍する前から『絡め取って』いたとは……流石は『神』と賛辞しておくべきか。
 引き寄せた。引き寄せ、地に落としたならば千切りキャベツの真似事をやれ。千切っては投げ、千切っては投げ、此方が彼方を『怪異』から解放してやるとしよう。わかっているではないか。『怪異』を失くしてしまえば、その依代と同じなのだと……! 怪異の肉はもう食べ飽きた。興味が移ったのは転がっているそれ。憑かれた人間同士、能力者同士、コレも依代と同じ味がするのだろうか。ひどい味だ。投げ飛ばして終え。
 ……お残しするとは……食材に対しての感謝と謂うものが……ないのか……?

久遠寺・悟志

 宝石のようにキラキラと、妖艶な儘にギラギラと、
 目眩く反射によって男の精神を縛り付けた。
 男は――リンドー・スミスは――襤褸雑巾にされた身体を如何にか、怪異に依って繋げていく。嘆息をこぼしながら態勢を整え、次の戦闘に備えようとし……その、隙間を縫うかの如くに得物が飛んできた。……君、余計なことをしてくれるではないか。少しは、休息と謂うものを摂るべきではないのかね。眉間を狙った投擲は当然、クリティカルに命中する事はなかったが、掠める程度には当たってくれた。ふむ、会話する気もないのなら、行儀の悪い君にはお仕置きというものをしてあげようか。蠢動する怪異、蠕動する異形、跳ね上がるかと思えば――刹那――柘榴の色をした双眸が這入り込む。私よりも『速い』とは……それが君の√能力か。気づいた時には手遅れだ。足掻こうと、藻掻こうと、ずぶりとされるのは確定事項だ。謎を一刀両断するように、深く深く、深淵を暴くかのように。……機能不全でも狙っているのか。いや、これは……! 今回の僕の目的は、あなたを殺すことじゃないんだよね。嗾けたのは磯撫で……オマエの影だ。五感を阻害されている『男』にとって『影』は正体不明であろう。対処せざるを得ない。……そうか。君の狙いはクヴァリフの仔だね。これはいっぱい喰わされたとも……。ポケットの中身は胎児だけ。他に探すなら……。
 怪異飯店のキッチン、冷蔵庫の戸を開放してみる。其処に陣取っていたのは、坐していたのはクヴァリフを倣ったかのような『少女』であった。もちろん、少女に見えるだけの触手の塊なのだが……これは持ち帰るのはけっこうな重労働だ。でも、僕には『足』がある。自転車の後ろに乗せる事くらいは出来そうだ。
 蛸壺の代わりに荷台、しっかりと固定してやると宜しい。
 む――君、まさか、回収したのか? 追うにしても……他の能力者が邪魔をしてくるか。感想だけど、甘くてふわふわで美味しかったよ。ひらひらと嘲笑うあんパンの空袋、からからと空を往くのは――大正的なエンディング。

セルマ・ジェファーソン

 甕の底に溜まっていたのは希望だ。
 希望だけはこぼれなかった、漏れだす事もなかった。
 珠の数を把握しようとしても、眼球の数を把握しようとしても、混在して終っては『とき』の如くか。ひとつひとつ丁寧に、丁重に、手帳に記してみせたところで頭蓋の内が狂っていたので在れば意味などない。あら……お遊戯は終わり? お眼鏡に適わないと、そう言いたげな一段外しだ。階段を一歩下ろうとした瞬間、怪談に足を攫われる。ごきげんよう、ムシュー。お互い知らないふりを、お猿さんのふりをするのは大変ね。つまりは、見ざる聞かざる言わざる、と、そう君は謂いたいのかね。仕方がないのよ。ハイエナが死体に群がるように、蠅が腐肉に集るように、人は金の成る木に縋るものなの。……金は得難いものという比喩よ。お噺が好きなお嬢さんは、随分と、遠回しに物事を咀嚼するのが好きそうだね。ええ、けれど、ムシュー……ミスタースミス、『得難いもの』という表現は否定できないはずよ。まるで酩酊したかのように、死神のように、不明な言の葉を口にしている。……「はてなの茶碗」はご存知? はて……なんのことだか。私には、まったく見当もつかないね。
 嘘吐きだ。こんなにも教養を、正気を湛えているのだから、お噺に『付き合って』くれている程度の事くらいは判断できる。油屋が逞しくてね。でも、本当……愚かよね。物の価値は、者の価値と同様に、己の目で計るべきよ。私はクヴァリフの仔に、その培養肉に、価値を見出せなかったわ。成程、つまり君は食欲の方を優先する人間だと……。勘違いしては困るわ。でも、そうね。蕎麦じゃなかったからかしら。解放していようとも、開放されていようとも、異物は主人公に敵わない。とりあえず、お題は……お代も一緒に……払っておきましょう。折角ですもの、六文くらいはおまけしてあげるわ。
 叩きつけられた数珠に嗤う蝋燭の炎――死霊の吐息――呪文を忘れたようだ。
 釣銭分は今度会ったときに、ドーナツでも奢ってちょうだい。
 ……真ん中だけを用意しておくよ。

ディラン・ヴァルフリート

 奇襲というものは――早業というものは――臓腑を抉るようにして、仕掛けるべきだ。切り落とされた肉片の数々は未曾有を蓄えており、輪郭がハッキリとしていない儘。解剖される運命を辿っていた。……失敗作としては、僕より……。
 斬り棄てよ、今は、要らない思考だ。
 人間には――知的生命体には――ひとつ、切っても切り離せない『もの』だある。三大欲求は勿論の事だが、人類が『悪魔』を孕んだかのように、暴力からは逃れられない。たとえば……大義や使命。其方の御国事情がどうあれ……其方の組織目標がどうあれ……此方側の分類に於いて、貴方の枠組みは簒奪者です。嗚呼、オマエの言の葉の通りリンドー・スミスは簒奪者だ。それも王権執行者を冠するほどには『世界』に害をばら撒いている。で、私を簒奪者だと決めつけて、悪だと決めつけて、勇者であろうとする君は何をするのかね。……故に、此方も依頼を優先させて頂きましょう。戦争だ。これは、お互いの『在り方』の為の戦争である。布告したのが何方だろうと、この殴り合いからは降りられない。真正面からの否定が、真正面からの拒絶がお望みかな。君はシンプルなようでいて、実に、複雑怪奇を体現している。武装として発現した怪異の群れ、度し難くもオマエを喰い尽くさんとした。
 真に争いを避けたいのなら……真に平和を求むるのなら……もう少し、弱者の事も思ってみるのが良いでしょう。世界より『排除』されるかのような錯覚だ。錯覚は『うそ』ではなく、只管に、大罪の沙汰と謂うものを報せてみせたか。時に力で、時に業火で、時に捕縛で、時に後先を知り――君、私のことを化け物だと誰かは謂ったが、君の方がよっぽど、化け物ではないかね……。変異した竜の悪夢、怪異諸共に『男』の性根を叩き直していく。次は然るべき窓口に菓子折でも添えて、詫びを入れるのがよろしいかと。ははは、確かに。君を相手にするならば彼等に頭を下げた方が楽かもしれないね。
 怪異が吐き出したクヴァリフの仔、胃袋と一緒に持ち帰ると嬉しい。
 おまけ程度にはなるでしょうか……。

明星・暁子

 食すべきはカレーライスだ。それも、魚介入りのカレーライスだ。
 銀色のスプーンの光沢に魅了され、咀嚼とやらを促される。
 ……君のいうことも尤もだ、次はスパイスにも拘っておくとしよう。
 擬態――ヒトガタ――押し込めていた己の在り方を、血肉を、惜しげもなく解放していく。人ではなく、獣でもなく、鉄十字怪人として戦場に現れたオマエは可愛らしさの欠片も見当たらなかった。ふむ。あれが噂に聞く連邦怪異収容局の『リンドー・スミス』か。かなりの強敵と見た。ここは手伝わせてもらおう。たとえ相手がオマエより小さくとも、たとえ相手が柔らかそうな人類の亜種であろうとも、そう、視えるだけなのだから始末に悪いか。……君は、初めて見る顔だね。いや、それは貌なのか? それとも、着込んでいるだけなのか……? 何方にしても、その外見で接近してこないと謂うことは……私の戦闘方法に気付いたようだ。当たり前だ。人の皮を被った怪異の肚に、怪異の溜まりに、わざわざ、此方から突っ込んでやるほどオマエは優しくなどない。間合いに入らなければ、攻撃されなければ痛くも痒くもないのだ。残念だけど、私は怪人だ。怪人ならば、怪人らしく、正しさに目覚めた存在らしく、たとえ卑怯だと罵られようとも――敵は、悪は排除しなければならない。
 随伴するゴルディオンどもが口を開け、怪人の思考の儘に揮われる。弾道の計算の果てに導き出したのは確実に『奴』を撃ち抜く流れだ。一斉射撃――ほう。私の怪異を駆逐して、突破して尚、残弾があれば儲けものだと――違う。これは『壁』に穴を開ける為の一投だ。着実に『穴』を開けていき――機動力を奪う作戦だ。愛用のブラスターによって放たれた特殊な弾丸。……これは……私を麻痺させるつもりだったのか……? 最早、手遅れだ。絶対に命中する『的』を作ってしまえばトドメの絨毯が成立する。
 夜は長いし人生は短い――あなたの存在が、これを証明するだろう。
 私を料理するのであれば、もう少し、上等な得物を揮ってくれ。
 ブラスターキャノン・フルバースト。
 未曾有の数とされた顎が塵すらも残さず。

ディー・コンセンテス・メルクリウス・アルケー・ディオスクロイ

 |肉弾《ざくろ》の一発が頭蓋を穿り、中身を凹ませた。
 ばちりと嗤ったのは装置か――根源に科せられた定義か――何方にしても『怪人』よ、キムラヌートへとご挨拶だ。ん……? |最も部外者《マスクド・ヒーロー》たるわたくしが、|怪異殺し《フリークスバスター》たるわたくしが、一番悪い存在になっているような……。一番悪いではなく諸悪の根源だ。きっとリンドー・スミスも吃驚するほどには『桶屋が儲かる』お話である。アッハッハ! すまない諸君! この店については、狂信者のアジトについては、わたくしも『根源』に加担していたようだ! 責任を取るのか、或いは、尻を拭うのか。僥倖なことに拭う為の白は、羽は、無尽蔵に等しく生え揃っている。ああ、確りとお片付けをしようとも。何よりも、彼、わたくしを害する気は十分にあるようだからな。お望みの通り、お戯れの通り、食の好み以外でも、争おう……さあ、先に一つの|御呪い《大作戦》を……。ほう……君、こうなる事を想定して、クヴァリフの仔の『培養肉』に毒か何かを仕込んだのか。身体がまったく、武装がまったく、思考通りに蠢いてくれないのだが……。蝶々の鱗粉よりも強烈な血液だ。いや、なに、そのつもりはなかったのだ。だが、そのような阻害に『なる』とは瓢箪から駒……本当に、ウケる……。
 リンドー。この名、この姿、覚えて帰りたまえ。死んだ後になら忘れても構わん。意識していようとも、意識していなくとも、悪には『悪』のやり方と謂うものがあった。四散した水銀が新たなカタチを得て二足で立つ。起立したと同時に刺激され――別の個体を孕んだ。我が本業、メルクリウスの業を視よ。さて、今、何体か数えたか? 君は……人類には向いていない。私よりもよっぽど怪異側だ。足掻く事もやめるか? 隙だらけだ。周り込まなくとも斃せてしまうぞ? もちろん、近くで爆ぜて冒してやってもかまわん。やれやれ、冒す、冒さないなどと宣うのは狂信者ども、弱者どもの言い訳だと思っていたのだがね。
 大立ち回りを期待されている。拳に、足に、超常の正義を期待されている。ああ、だが、お前は英雄などではなかったな。お前は、ただの人間でしかなかったな。わたくしと直接殴り合っても構わんよ。共に、悪役らしく、水銀の中に沈んでやろうか。心中だ! 入水だ! ハハハ! ふふ……なら、私も、死に物狂いで挑んでみるとしようか。
 コレクションだ。コレクションの一部として、教育をしてやれ。
 ぼくはおいしくないよ! なんて叫んでいた奴は嘘吐きでしかなかった。
 して……御呪いには気づけたか?
 お前も是非、食らうといい。万物流転……分けてやろう。
 わたくしの|おやつ《怪異肉》……。
 歯応えしかない。噛み千切れなくて、脳髄に詰まった。

赫夜・リツ
一ノ瀬・エミ

 強い人間だ。強い精神を持つ人間だ。
 これを価値として認めなければ、男は矛盾を抱えてしまう。
 恐怖はなかった――狂気はなかった――只、真っ直ぐに、人らしく、強者の瞳を覗き込む。たこわさが危険って分かった時点で、提供された料理に怪異が混じっている時点で、おじさまが敵なのは分かってしまったけど……。臭い物に蓋をせず、ばがりと、箱の中身を晒すかのような鍋料理。そのぬくもりには、味わいには、しっかりとした優しさが内包されていた。その後出してくれた鍋は美味しかったから、ちゃんと、感想を言わせてもらうね……! キラキラとしている瞳がどんよりした窖を弄るかの如くに。……仕方がない。君が、感想を言い終わるまでは、私は攻撃しないと約束しよう。ああ、苦笑いだ。お互いに苦笑いの雨霰ではないか。リンドー・スミスのツッコミはもちろんのこと、この、霞のような平穏が真剣さとやらを和らげるが如く……。
 たこわさ、私は食べていないから、口にしていないから、感想言えないんですけど。でも、シュレディンガー鍋は……あの温かいものは……美味しかったですし。その、知ってる人が聞いたら気になる感じの料理名もよかったです。気に入ってくれたなら良かった。正直、最初は|怪異《シュレディンガー》を嗾けるつもりではあったのだが、如何にも興が乗ってね。……あの、その怪異の肉ではありませんよね? 違う。違っていた。あの香りにあの汁気は猫の真似事をしている、只の牛だ。……ごちそうさまでした! ……お嬢さん。此処は危険だから離れたところで見ていると良い。君の身の安全は『私』と『彼』が保証しよう。あ、あの……戦いは、やっぱり、避けられないのでしょうか。こくりと、男は頷いた。頷くと同時に『彼』へと目の玉を向ける。待たせたね。さあ、殺し合うとしようか……。離れていくリンドー・スミスの身体、怪異の一部をちらりと認める。あれは……オマエの知っている『もの』だ。フェアではないが、公平ではないが、この人は敵なのだから――弱点を暴けたのならば、伝えるべきだ。り……リツ君……その怪異……知性があるよ。
 ……君の相方は実に『いい』人間だ。この状況下でしっかりと自分の役割と謂うものを理解している。リンドー・スミスの誉め言葉に、素直な科白に、オマエは誇らしさを覚えた。そう、エミちゃんは、とっても人間なんだ。それで……こっちの機関もいい人ばかりじゃないし、争ってる場合じゃないのも分かります。できるなら、こんな奪い合いじゃなくて、それこそ今日ご馳走してくれた鍋のように……分け合っていけたなら……。苦笑いもようやくお終いだ。お終いで、ここからは戦争だ。そっちの機関も不穏な部分がありますし、僕の判断にはなりますが……汎神解剖機関の方が幾らか、マシなので。成程、君も君で考えていると謂うワケだ。ならば、始めてしまおうではないか。あの娘も、十分に離れてくれた事だし……! 吸い尽くせよ目玉、誰かを守る為ならば己の体液など塵紙に等しい。
 荒れ狂うのだ。荒れ狂い、嵐となって『怪異』との狂奔に挑むのだ。確か彼女は……エミちゃんは……あの男の使う『怪異』に知性が視られると、そう謂った。ならば、知性を司る器官が備え付けられている筈。それを抉れ、それを乱してやったなら、畳みかける好機も生じる筈だ。思い切りぶん殴った|剛腕《ギョロ君》――「正解だ」――握り潰したのはサッパリいただける珍味であったのか。……これは、私の負けだろうね。次に会ったら、美味しいものをたくさん食べましょう。任せてください。僕がちゃんとしたお店を探しておきますので。歪は糺され、リンドー・スミスは人として蹂躙された。

玉・蓮
ケオ・キャンベル

 情報量も子種も膨大だ。光に照らされ肉の塊が啼く。
 平和的に――人間的に――地獄の底を攫ったとして、其処で、楽園が育つとは思えない。そんな生温い解決で、そんな、甘い蜜のような解決で、何が愉しいのかしら。正気で気を違える人間には、お前みたいな人間には、縁の無い話じゃない? 少なくとも、同類みたいなアタシは退屈しない方がいいの。ああ、そうだね。君のような強すぎる人間には、平和なんてものは、私の言の葉のようなものは、塵芥にも満たないと謂うわけだ。堕落するかのように、墜落するかのように、脳味噌だけを抱えた儘――解剖とやらを執り行う。……玉蓮、おかわりはあちらから? いろんな味が詰まった|食材《ごはん》が、鴨と葱が、向こうからやってきてくれるなんて。連邦怪異収容局ってもしかしていいヤツの集まりなのかなあ。ははは……これは、とんでもない『もの』を連れてきてくれたね。私も、君みたいな災厄を前にしたら『隠蔽』なんてしている場合ではないかもしれない……。結局のところ、この中で一番マトモなのはリンドー・スミスだ。百人中百人がそう答えてくれるに違いない。CC、おかわり自由だって顔してるわ。あの優しいおじさんにたくさん強請っていいわよ。やったあ。ぼく、一度バイキングってやつに行きたかったんだ。連れてきてくれてありがとう、玉蓮! ……仕方ない。こうなったら、其処の災厄を持ち帰って『おしまい』にしようか。|おじさん《スミス》、こんなにおいしそうなのに、怪異がたくさん詰まっているのに、もっと欲しいの? でも残念。俺はおじさんより欲張りだから、俺は、玉蓮の『もの』でしかないんだ。へえ、随分と懐かれているじゃないか。これも教育の賜物かね。失礼ね。これは、CCが持っている、アタシに対しての感情よ、お前……。少なくとも道具を視るような、実験材料を視るような、目をしているではないか。まったく羨ましいよ……。
 おじさん、どうして俺を視ているのかな。玉蓮に許可を貰ってないなら、俺を視るのは止めておいた方が良いよ。でも、もう、手遅れだけど……! 食べる分のお返しだ。代金として押し付けたのは真実である。おじさん、情報が欲しいなら、輪郭を辿りたいのなら、俺が、ちゃんと教えてあげるよ。……これは……君が、君達が歩んできた過去か。成程、実に興味深いものだ。この√のお噺は勿論……此方は……別√での出来事……! 肚を奪われたクヴァリフの末路、情念にやられた何者かの頭蓋、狂ったぺちゃんこどものケチャップ、災厄によって幕開けたスムージーのとろけ……。面白いでしょ。選べないほど、楽しいでしょ。ほら、気が狂うほど喜んで……! いや、ダメだ。これで狂ってやれるほど、私は優しくなどない……。でも、正気を維持しようとしたら、集中できなくなるだろう?
 脳髄の中で旋回している数多の狂気、把握する事も不可能となった結果、怪異の暴走が始まる。翅、腕、脚が原形を砕かんと生え揃い、秩序の崩壊が具現とされる。そんなに仔が欲しいなら、そんなに正気になりたいなら、望む通りに与えてあげる。たとえば、クヴァリフが出来損ないで在ったなら、如何だ。たとえば、代わりを願って歪に叶ったなら、如何だ。其れは呪われ、人間にも戻れない女の成れの果てとして――黒々と爛れた触腕を振り回す他ない。お呪いだ。御呪いが――胎盤、剥がれるかの如くに、撒き散らす。知恵の実を齧ったのだ、贖罪をせよ。
 リンドー・スミスの……怪異の……皮膚の下、赤子のように脈動したのは瘤ひとつである。膨らんだ、膨らんだ、可愛いお前のもの。ほら、よかったじゃない。こんなにたくさんの子供に恵まれて……。成程、理解した、私は弱者の心と謂うものも理解した。あとは、この失態を……成果を……仔以外を持ち帰って……反省会をするとしよう。孵化するまではずっと一緒よ。おめでとう。CC、お前も祝ってやりなさい。うん、おめでとうおじさん! 今度会ったら『感想』聞かせてね! 瘤の所為で絶たれた生命、祟られたかの如くに、死してもなお続く蠢く聖母の福音……。

 そういえば玉蓮、キムラヌートってなに?
 物質主義ね。
 嗤え、嗤え、肚を抱えて、仔を抱いて。

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挿絵イラスト