ヒーロー、出動!
「ヒャーッヒャヒャヒャ! 今回こそこの√EDENを支配するのだァーッ!」
コウモリプラグマはそう高笑いをする。今回の作戦こそは絶対に成功するに違いない――そのような確信がこの者にはあったのだ!
「コウモリプラグラ様! 何か策でもおありですか!」
「√EDEN! そこでも忌々しいマスクドヒーローの他にも我々の邪魔者が居るが、奴らはAnkerという存在を奪われたら大変な目に遭うらしい!」
「大変な目に……ですか!」
「そうだ! だから大変な目に遭わせるために……人を襲う! 数撃てばAnkerに当たるはずだからな!」
「なるほど! やはりコウモリプラグラ様は狡猾でありま痛ッ!」
コウモリプラグラのツッコミのチョップが戦闘員に入った。
「数撃てば作戦が狡猾なはずがあるか! まずはヒーロー共々おびき寄せるのが目的だ、Ankerもまたヒーローのように志をともにしている可能性は高い。ゆえにAnkerがいれば御の字、そうでなくても人を盾にすればいいのだからな!」
「なるほどー! さすがコウモリプラグラ様!」
「ハーッハッハッハッ! もっと褒め称えるが良い!」
●
「どうしよう……」
写・処(人間災厄「ヴィジョン・マスター」の警視庁異能捜査官・h00196)は書類を眺めながら頭を抱えていた。
「……民間人が『プラグマ』に首突っ込んでるって報告が出てるー! ほらー! 見てー!」
テレビをポチリとつければ監視カメラで明らかに挙動がおかしい人物を備考している、どう見ても非武装の人間が居たりなどしている。
「正義感があるのはいいけど、時にそれは蛮勇っていうか……看過できないからさ、監視や救助のほどお願いできますかね?」
●
……『プラグマ』、という、『わるいやつ』の噂を聞いた。
どうも、このショッピングモールで騒ぎを起こす気らしい。
――僕なら、それを止められるかな……。
……勇気ある少年は、ぎゅ、と手を握り、怪しい人物をきょろきょろとしながら探していた。
第1章 冒険 『一般人を救え』

「いよーうニイちゃん元気? 飴ちゃんいる?」
きょろきょろとまるで周りを監視するように見て回っていた青年に声をかけた煙谷・セン(フカシの・h00751)は、青年のぽかんとした顔に笑みを返した。
「何やってんのよ、買い物もせずにこんなトコで」
「……貴方も、『プラグマ』探しでしょうか」
ああやっぱり。青年はまっすぐな瞳を返してくる。さてどうしたものか。
「おれもあいつらには恨みがあってネ……恋人、両親、ペットのミドリガメすべて奴らに根絶やしにされたのサ……」
「そ、そんな、ひどい話が……!」
「――とはいえ、ニイちゃん。一人は無謀だと思わんかい?」
奴らは数にまかせて取り囲んでバットとかで殴ってくるぞ、きっと痛いぞと付け加える。
「いえ、僕一人で倒そうだなんて思っていません。ただ、不審な動きがあれば警察を呼ぼうかと思っておりまして……」
「なーるほど」
ただ無謀なだけではなさそうだ、と少し感心するものの、しかし一人行動はいただけない。
「だとしたらさ、この場に打倒プラグマを掲げる奴が二人居るんだ。探せばきっともっといるでショ? そしたらこっちも数揃えてサ、警備しっかりしたらいいと思わない?」
「……! なるほど! でしたら、ご協力願えますか!?」
もちろん、と煙谷は答えて、それから、集まり過ぎたらどうしようかナー……などと過っていた。
●
――正義感が暴走するって奴か。世の中捨てたもんじゃないと見るか、正義なら何しても良いと勘違いしていると見るか。
八百夜・刑部(半人半妖(化け狸)の汚職警官・h00547)がため息とともに出動する。なにはともあれ危険なことに変わりない、注意勧告はするべきであろう。
「そうは言っても警察が言って変に勘違いされてもな……」
陰謀論などブチ上げられたらたまったものではない、子ネズミに化けて駆け、怪しげな場所はあらかた探していく。
「……?」
駆けている間に、警官の姿が見えた。……すでに、きちんと警戒している?
と、じきに八百夜は、煙谷が連れるちょっとした集団を見かけた。何か相談ごとをしているようである。
「……」
ジ、とその様子を見る。これはもしかして――自警団というやつではなかろうか。一声かけるためにネズミの姿のまま走っていく。
「そこの人達!」
「!?」
喋るネズミに一同が驚く、あまり驚かない様子の煙谷を見て、√能力者か、と判断しつつ。
「こういう事案に対処する人へ連絡した! 危険だとわかっているのならむやみに連絡しないように!」
「……ね、ネズミが喋ってる……もしかして、プラグマ対策の専門のところとかですか!?」
身を乗り出す青年に、その通り、と頷く。
「実は僕ら、怪しいのが居たら警察に連絡するために集まっていたのですが……そうですか、それなら安心です」
では、僕らは迷惑にならないようにしますね! と、存外素直に退散してくれた。
「……ありがとネ、思ったより集まっちゃって」
「そちらこそ、ありがとう。聞き分けの良い者ばかりで助かったが、さて……」
●
姉である八木橋・藍依(常在戦場カメラマン・h00541)と移動しながら、八木橋・桔梗(八木橋・藍依のAnkerの妹・h00926)はあたりを見回していた。
「……やっぱり、見回りしている人がちらほらいるわね……」
「うーん、噂の出どころを探してみましょう。素直に記者として調べて回れば良いかと」
そうしてあたりを警戒している人々に話しかける。曰く、直接メールで犯行声明が届いたり、電話で届いたりなどが主な情報の発信源らしい。ネット掲示板などの無根拠な噂ではなく、多少現実味のある『噂』という手法取られているために、このように人が集まっているという次第、のようだ。
「これはまた、厄介ですね……」
怖がる人は来ないし、正義感のある人はすでに警官に通報もしているだろう。事実警官も配備されているようだった。……配備されているのは良いことではあるのだが、いたずらの域を出ず、ショッピングモールを封鎖するほどでもない。そもそも警官も√能力者から見れば『民間人』なのだ、危険という点ではさらに厄介である。
「警官まで避難させるというのは難しいわね……ちょっと思い切った方法にしましょうか」
考えこむ桔梗に、藍依はうなずいた。
●
「バ……勇気があるなぁ……」
ちょっとした罵倒を飲み込んで、機織・ぱたん(スレッド・アクセプター・h01527)は民間人を見る。
警官も含めて律儀にウロついている、これはかなり厄介かも。さっき聞いた話だとメールに電話? そこそこ凝ってるじゃん……。
「ねえ、そこのあなた!」
「ぼ、ぼく?」
一人で周りを見ていた少年に声をかける。目を丸くしながら、少年はおずおずと機織を見た。
「えと……プラグマ、じゃないよね?」
「失礼な! ……アタシもプラグマ探ししてるんだけどさ、メールとか電話とかきたって聞いたから。どういうのが来たっていうの、わかったりする?」
「見せられるよ! ……こんなのが来たんだ……」
少年は手元のスマホを慌てていじってメールの文面を見せる。
――『お前達の大切なものを奪う。我々はプラグマ、一切を簒奪する』。
そのようなことが書いてある。そして、このショッピングモールの写真もついていた。
「こんなの突然来たら不安になるし、警官さんも来るよねぇ……なるほどなぁ……」
感心している場合ではない、どのようにして民間人を避難させるか。そこに、桔梗の声が響いた。
「み、みなさーん! 大きなロボットが街を襲っているらしいです! 避難のご協力をーっ!」
ざわつくショッピングモール内。なるほど、やるじゃんと機織は内心ガッツポーズした。
「ってワケらしいからさ! 少年! アタシと一緒に逃げるよー!」
第2章 集団戦 『戦闘員』

「な、なにィ!? 人っ子ひとり居ないだとぉ!? これは青天の霹靂だ!」
ショッピングモールにいざ! と立ち入ってきたプラグマの戦闘員達は、待ち構えていた√能力者達を見て動揺する。
「コウモリプラグマ様ーっ! 話が違うでありますーっ! あれだけマメにメールや電話したのにーっ!」
「う、うろたえるなっ! コウモリプラグマ様なら次のプランも考えてあるはずだ! とにかく、こいつらをどうにかするぞ!」
ええいままよ――と言わんがばかりに、戦闘員達は、貴方達に襲いかかる!
――そろそろ仕事しないと、か。
四二神・銃真 (死神ガンマは待機中・h00545)は、戦闘員達が躍り出た瞬間に駆けながら『掟破りの先制攻撃』を仕掛けた。
「な、なにーッ!?」
「待てッ! 何者だッ!?」
「……何言ってんだ! 聞こえ……ない!」
おのれの銃撃で真っ当に聞こえない相手の悲鳴に至極当然の返答を寄越しつつ、容赦のない一方的な銃撃に戦闘員達はすでに大惨事になりかけである。
「おーおー……! もうやってますね! ……桔梗、間に合いそう!?」
「あの人が時間稼いでくれてるから、なんとか!」
「ありがとう! ……お前らか! 面倒なことしたのは! マメにメールや電話したって、その行動力はもっと他のことに活かしなさいーッ!」
「ホントだよ。そのマメさ、どこかで活かせんかね」
八木橋・藍依(常在戦場カメラマン・h00541)の言葉に続いて機織・ぱたん(スレッド・アクセプター・h01527)のド正論コンボに、戦闘員達は胸を抱えた。
「ギエーッ正論!」
「薄々思っていたがそれを言ったらお終いなんだよーッ!」
「負けるな! 正論に! 我々はプラグマ!」
負けてください――そして悪事を起こさないで――そう思いつつ、藍依は八木橋・桔梗(八木橋・藍依のAnkerの妹・h00926)から『新兵器』を取り出した。
「破れかぶれだーッ! 突撃ーッ!」
「ッ! やっぱその手に出ますか!」
これでもかとこちらに危険信号を鳴らす蛍光色に光る相手を、妹が作成した武器で遠距離から撃っていく。四二神の射撃の届かない範囲から突っ込んでくる相手を掃討していくものの――。
「まぶ……しい!」
……シンプルに眩しい!
狙撃手役を担当していた四二神と藍依は目がチカチカして次第に照準がぶれていく。
「――はぁ、このまま指揮官だけ置いてワンカップの一杯でも奢ってくれりゃ帰っても良いんだがな……そうは行かないか?」
行かねえか、そんな一言がこぼれつつ、八百夜・刑部(半人半妖(化け狸)の汚職警官・h00547)はその姿を『ハイカラ将校変化』で若将校の姿へ変化させる!
ばさりと将校服のマントが舞い、瞬時、目を休めた。
「しばらく休んでおけ。――貴方達、お覚悟を――」
そこで様変わりした態度にきょとんとする周囲に、少し照れたように、咳払い。
「……そこのお嬢さん、前に出られるか?」
「あっ! はいはい! あいあいさー! レディナチュラルフォーム……機織・ぱたんは――ここに、在り! だよ!」
機織もまたその姿を変え、得物をナチュラルハンドニードルとして手にした。
――武器を二人はチャキリと構えた。二人の目配せが一瞬、そして駆け出すのも一瞬。
「な、に、グワーッ!」
特攻を仕掛けてくる戦闘員達の、八百夜はその間を縫い、ものともせず撃沈させていく!
視力が回復した四二神、藍依も援護射撃を開始する。そこには『前に出る二人は流れ弾程度、避けられるだろう』という信頼もあった。
「――お兄さん、なかなかやりますね!」
「そちらこそ! ……といっても、中身はさっきの通りおっさんだがね……!」
銃弾と敵の間をかいくぐりながら、二人はどこまでも軽やかに駆けていき――。
「装填する! そっちで支援射撃は続けられるか!」
「はい! 保たせます……!」
――四二神の言葉に、藍依は敵が後衛へ寄らぬように制圧攻撃を続ける!
「それにしても数が多いな……!」
「面的攻撃はあっちの方が優勢です、が……!」
こっちは『これ』専用に作ってもらった武器なのです! ――ガシャコンと銃器は形状を変え、ガトリング砲となる。
圧倒的に数に負けるこちらがある程度の優勢を取るには充分な大きさになった。
「それ、どういう手品だ……?」
「企業秘密、つてやつかしら」
思わず目を丸くしてこぼした四二神へ、桔梗は穏やかに言った。
「へえ、だったら今度義体の部分を、見てもらってもいいかもな――」
負けじと弾丸を敵勢へと撃ち込む。――なるほど、オレの知らない世界は、文字通りたくさんあるらしい。
――さて、敵はこちらに無謀な攻撃の仕掛けをしてくるだけではないらしい、統率のとれた後続部隊が襲いかかろうと、前衛の二人へと武器を手に襲いかかろうとしていた。通信機器で示し合わせているらしい。自爆的な行動も厄介だが、やはり統率のとれた行動ほど厄介なものはない。ここで押し負けて撤退してはより危険なことが待っているであろう。
つまり……ここで幕引きとしよう、誰も示し合わせていないのに、その場の意思は同じであった。
「……それでは、終いに――」
「――大技、いくよ……!」
その場の全員が武器を手に、そして、そのまなざしは射抜くように。
一閃、一撃、それぞれが交差し――そして爆ぜた。
●
「終わりっ!」
倒れ伏す戦闘員を前にして伸びをする機織は、しかし警戒は解いていない。
「さて……出てくるかね? 『指揮官』さんよ」
――誰もが『本当の幕引き』を、待っている。
第3章 ボス戦 『『コウモリプラグマ』』

「くッ……手痛くやってくれたな! 暫定ヒーロー達よ!」
バサッ! とその翼を広げながら、コウモリプラグマが現れる!
「ここで負けては恥よ! 部下にも面目が立たぬ! ――この場で一掃してくれよう! ヒャーッヒャヒャヒャ!」
私にも『策』があるのでね――そう言うと、コウモリプラグマは自らの背後に、映像を展開させた。
「このように! 狡猾で賢い私は他にも幼稚園のバスをジャックし――……あれぇ……?」
……映し出されている映像ではどう見ても戦闘員が他の√能力者に捕まっているようにしか見えない。
「と、ともあれ! 他にも色々と手を回してある! 『何の因果が回る』か、覚悟しろッ!」
運試しの大博打が、始まる!
「……おっほん」
コウモリプラグマは咳払いした。
「さて! 私のことをナメているだろうが――このくらいの計画の頓挫は日常茶飯事! 他の策はいくらでもすぐに思い浮かぶ!」
「いや、頓挫が日常茶飯事でいいの……?」
機織・ぱたん(スレッド・アクセプター・h01527)のあまりにも鋭角なツッコミに目を丸くしてもう一度咳払いする。仕切り直すように目を伏せ、そして次に顔を上げたその時、その眼はスットコドッコイを起こしたヴィランとは思えないほど殺意の宿った目をしていた。
「――みんな、避けて!」
機織は思わず叫んだ。――これ、マジにさせたら駄目な相手だ!
超音波が響き渡る――ばさりと翼を羽ばたかせながら、コウモリプラグマは同時に後退する。
「くっ……!」
八木橋・藍依(常在戦場カメラマン・h00541)は咄嗟にドローンを展開させて妹を守る。アサルトライフルを手に、八木橋・桔梗(八木橋・藍依のAnkerの妹・h00926)はその身を屈めつつ、支援射撃の姿勢をとった。
「私だけだと思うなよ――」
ばさりとコウモリプラグマが翼を羽ばたかせて、口の中で何かを言った。同時に、何匹ものコウモリが召喚される!
「さっきの戦闘員といい、物量が厄介だな……!」
戦闘員とコウモリプラグマが同時に襲ってこなかっただけ僥倖か、四二神・銃真(死神ガンマは待機中・h00545)は武器を手に撃ち落としていく。しかし、次第に手が足りなくなっていく。
「――!」
……いやにコウモリが桔梗の方めがけて襲ってくる。藍依はそれに歯ぎしりしながら、ドローンで守っているが――。
「そこの少女! ――さてはAnkerだろう! 特異な能力を先程から使っていないのは目にしていたからな!」
なればそこから潰してやろう! 高笑いが響き渡る。
「そういうわけにもいかないねえ」
八百夜・刑部(半人半妖(化け狸)の汚職警官・h00547)の低い声が響き渡った。そして、その姿は美女のそれへと変わる。
「成程、そう来るか」
コウモリプラグマが姿勢を変えた。――『刑部姫変化』! 傾国の笑みとともに、モールの天井の照明やガラスを破壊し、怪人へと降り注ぐ。
「逃げたら子分は消えますえ? ……不思議な事もありますなぁ」
「……これくらいは想定済みよ――!」
いくらかの破片を受けながらも、コウモリプラグマは超音波で破片を吹き飛ばす。
「あら、結構なお手前で」
「馬鹿にしてくれるなよ――私はそこらの雑魚とは違う」
「なら、『次の手』を出すまで」
にこり、と『刑部姫』は笑うと、次弾を用意していた四二神がその影から現れた。
『ディメンションブレイク』、異空間に干渉するその弾丸がコウモリプラグマを直撃しようとする!
「チィッ!」
さすがにそれを喰らうわけにもいかなかったのだろう、コウモリプラグマは羽ばたき、天井へと着地した。
コウモリがいなくなり、なんとか態勢を取り直せた桔梗は、アサルトライフルをコウモリプラグマへと向ける。
「果敢だな――しかし、それが命取りだ!」
まっすぐに桔梗の方へとコウモリプラグマは直接攻撃を仕掛けようと突出した。
今だ。
今が、シャッターチャンス。
「……ここだ!」
「なっ――」
激しいフラッシュ! ――『衝撃の瞬間!』 攻撃を直接的に食らったコウモリプラグマはよろめく。
「アタシを止めてみな、指揮官さんよ!」
さらに機織が駆け出し、自身の防具をコウモリプラグマに投げつけた。
「宣言する。――アタシは、倒すよ!」
――アタシはスレッド・アクセプター。かつ、屠竜騎士だ。こっちの世界にもいるでしょ、そういうヒーロー様。
機織の一撃が、叩きつけられる――。
●
「ここで負けない……負けやしないぞ、暫定ヒーロー共……!」
「残念、まだ気づいてないんです?」
八百夜のはんなりとした言葉に、コウモリプラグマは首をかしげ、そして、ドッとおのれに何か強い負荷がかかるのをようやく感じた。
『鬼神の呪い』。刑部姫たる所以の力。
見事な連携、見事な攻撃、見事な搦め手だ! しかし。
「……フ、ハハハ! これで負けを認めてなるものか――!」
コウモリプラグマは再び超音波を発する。特大の力を込められたそれに、全員が思わず庇う姿勢をとった。そして、次の瞬間には。
「……! 逃げられた!」
機織は思わず叫ぶ。
「おいおい、やけっぱちになった相手ほど厄介なものはないぞ」
「アンタの呪いが効いてるはずだから、そんな遠くには行っていないはずだ」
八百夜の言葉に、四二神はそう言いながらも若干の焦りを見せる。あのようなプライドの高い相手の手前、何をされるか分からない。何より――。
「『因果』とやらが気になりますね」
コウモリプラグマが口にしていた言葉に、藍依は目を伏せた。そのような能力ならば、何が起きてもおかしくはない。
「ひとまず、探そう!」
桔梗の言葉に、全員が頷いた。
●
「はあ……はあ……」
壁に手をつきながら、コウモリプラグマは満身創痍の状態でいた。
「傷を癒やさなければ……次いで、戦闘員の補充――」
「ふむ。コウモリプラグマか。中々手ごわい相手のようだな」
「……!」
不意に女の声がして、コウモリプラグマは振り返る。そこには、明星・暁子(鉄十字怪人・h00367)の姿があった。
「だがまだまだ甘い、私ならヒーローたちに対してもっと非道な作戦を……」
バチリ! と音が彼女から鳴った。脳に埋め込まれた怪人指令装置がショートしたのだ。
「……私は何を考えていたのだ。もうプラグマからは離反したこの身。正義のために生きると誓ったではないか……」
「き、貴様……! プラグマの裏切り者、かの『鉄十字怪人』か……! 正義など、馬鹿馬鹿しい! そのようなものに従ったところで、貴様の何の得にもならない!」
――それに、今まで怪人として生きてきた貴様に何ができるというのだ!
「……確かに、何から手をつけるべきか、分からないところはある。しかし――」
目の前の『悪』を倒せば良い、ということは、分かっている。
「いくぞコウモリプラグマ、これが鉄十字怪人の奥義だ! ――ふーしぎ、まーかふしーぎ、どぅーわー!」
「なっ、なんだぁ!?」
自身を包む異空間、怪異の群れ! 惑うコウモリプラグマを、襲うは必中の空間。
『ブラスターキャノン・フルバースト』の充填は終えて――『鉄十字怪人』が『悪』を成敗する!
「く、ククク……こんなことも、あろうかと……」
「……それもすでに想定済みだ」
「ま、さか、貴様……!」
「『因果』同士はぶつかり合う。相殺、というわけだな」
巨大ダム占拠作戦。とはいえ、本気でやるつもりは無論ない。ただ、そのような『因果』があれば、確実に勝利の方へと駒を進めることができる。それだけの、話だ。
「く、そォオオオオオオッ!」
そうして、コウモリプラグマの断末魔が響き渡った――。
●
「すっっっっごい! 元悪の怪人、現正義の怪人が、悪の怪人にトドメ! これはスクープですよ!」
「やったね!」
藍依は明星の写真をパシャパシャと撮りながら、桔梗と一緒に興奮気味に話していた。
「どこまで見通してたの? ダム占拠作戦なんて……」
「毎日のように計画している。こんなこともあろうかと」
「いやいや物騒だね……」
機織の疑問に、明星は当然のような答えて、少しずっこける機織。
「ただ、ここにいる皆の攻撃がなければ、私が駆けつけることはできなかったように思う。感謝する」
「こちらこそ、アイツがこれ以上やらかす前に倒せて良かった」
四二神は頷きながら、じゃあこれで終わりか、とぼやいた。
「あー……それなんだがよ」
元の姿に戻った八百夜は、頭をかきながらへにゃりと笑った。
「――呑める奴ぁ少なそうだが、この後打ち上げでもどうかね? 袖すり合うも……ってな」
全員が顔を見合わせて、それから。
――もちろん!
だれともなくそう言って、日常に戻っていく。
――これが、√EDENの、ごくありふれた光景だ。