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シナリオ

バレンタインデー、爆破できませぇん!!

#√汎神解剖機関 #クヴァリフの仔 #バレンタイン


 ――現場に緊張が走る。
 X-Dayまで時間がないにも関わらず、作戦は遅々として進まない。
 この日のために、いったいどれ程の同志たちが志半ばに散り。
 どれ程の者たちが、あの忌まわしき年末のイベントを境に裏切り、袂を分かつこととなっただろう。
 しかし、それでもやらねばならぬのだ。我々の信念が、己の足を止めさせない。
 倒れた同志たちの屍が、遺った我々が足を止めることを許さない。
「同志たちの戦果を無駄には出来ない、というのに…!」
 頬を伝うコレは、汗だろうか。それとも。
 同志たちの屍に報いることができない、己の不甲斐なさへの涙だろうか。
 我々を嘲笑わらうように離脱し、裏切った者たちへの悔しさの涙だろうか。
 思わず、弱音が口をついて出る。抑えきれない無念が、声を震わせる。

「バレンタインデー、爆破できませぇん!!」
 ――2月の寒空の下、バレンタインデーを爆破しようという者の慟哭が響き渡った。

 と。ここで済めば、いつも通り、毎年恒例のお笑い種なのだが。
「血気盛んだね。ぼくはこれを持ち帰ることが出来れば、それでいいんだけど。」
 ――その日、彼らはバレンタインデーを爆破する力と作戦を手に入れた。手に入れてしまった。
 齎された作戦と力に酔い痴れ、爆破すれども晴らせぬ己が鬱憤を。
 満ち足りることを知らぬ、己が欲望を。
 血と火薬のにおいに酔った者たちは、存分に、その存在を世界へと知らしめた。
 ――そして、とある怪人がテロリストと化した者たちを隠れ蓑に、己の任務を恙無く遂行し。
 「クヴァリフの仔」という、大いなる力を√マスクド・ヒーローに持ち帰ろうとしていた…。


「リアルが充実してる人たちを爆破したい集団が暴れようとしてるにゃ!
 毎年恒例かもしれないにゃ!適当に…違ったにゃ!しっかり鎮圧してほしいにゃ。」
 愛用の箒に腰掛け、ふわふわと宙に浮きながら。
 星詠みの化け猫魔女っ娘、瀬堀・秋沙はいつもの灯台のようなぺっかり笑顔で元気よく、『やっちまうにゃー!』と拳を突き上げた。
「とはいえ、事態は笑い事じゃ済まないにゃ!」
 と、先ほどのノリはどこへやら。ちゃんと仕事の顔になりまして。
「この人たちだけだったら、いつも通りに何もできないままに終わったんだろけどにゃ?
 今年はちょっと、プロがバックに付いちゃってにゃ?作戦がうまく行っちゃうのにゃ。」
 ――代わりに、一部が人間やめることになったけどにゃ。
 そう。いつもは机上で終わっていたものが、今年は不幸にも形になってしまった。
 そして、とある者にバレンタインデーを爆破するための計画を授けられ、行動を起こす内に。
 のめり込み過ぎて狂信者と化してしまった者まで出る始末。
 ある意味で救いようがないが、救える者は救ってほしいと、半人半妖の化け猫の少女は言う。

 そして、肝心なのはここからだ。
「敵のリーダーは、√マスクド・ヒーローから「クヴァリフの仔」を回収するために派遣された傭兵みたいでにゃ?」
 「クヴァリフの仔」。仔産みの女神『クヴァリフ』が生み出す、『仔』たる怪異。
 他の怪異や√能力者と融合することで、宿主の戦闘能力を大きく増幅するという代物だ。
 その秘めた力は、人類の延命に利用可能な新物質ニューパワーを得られる可能性が大きいとまで言う。
 そんな力が、別√世界にまで拡散したらどうなるか。考えたくもない事態だ。
 持ち帰られる前に叩きのめし、生きた「クヴァリフの仔」を奪取して欲しい。
「たぶん、危ない事やおばかな事は、考えてる時が一番楽しいのにゃ!」
 ――あ、みんなはミイラ取りがミイラにならないようににゃ?
 猫はしっかりと釘を刺して。戦いに赴く√能力者たちの背中を、灯台のような笑顔で見送った。

マスターより

第1章 冒険 『心霊テロを鎮圧せよ!』


「へへ…あの人がくれた作戦と…セットしたアレがあれば。
 バレンタインに浮かれた連中を纏めてズドン!だ。」
 ーースカッとすんだろーなー…!
 ーー最前列で見られるんだぜ、俺たち…!!
 ーーへへ、ヘヘヘへへ…!!

 時限爆弾をセットし終えた速成テロリストたちが、己の成果を誇り合い、笑い合う。
 広場で休むカップルや、それ以外の家族連れや、老人たちを眺めながら。
 その顔は、笑いながら、真っ青に青褪めていた。
 痛々しいほどに拳を握り締め、膝を笑わせて。
 ここまで来てしまった。来られてしまったのだ。

 ーー初々しいことだね。でも、一度血の味を知れば、枷も外れるよ。
 ーー精々、僕が目的を果たすまで頑張ってね。速成テロリスト使い捨てのみんな。

 √マスクド・ヒーローの傭兵が鼻で笑う中。
 彼らを人の道に踏み止まらせる事ができるのは、今現場にいる√能力者たちだけだ!
フォー・フルード

 ーーバレンタイン。恋人たちの逢瀬。
「政治的な主張の為に暴力的な手段を選ぶ。まさにテロリズム。」
 EOC電磁的光学迷彩マントを身に纏い、広場の周辺の景色と同化し。
 カメラアイで状況を観察しているのは、狙撃兵型のベルセルクマシン、フォー・フルード(理由なき友好者・h01293)だ。
 彼は『マシン』という特性上、その姿が無用の混乱を起こさないようにと姿を隠す配慮をしていた。

「早急に解決を目指します。」
 そんな彼が放出しているのは、IAS自立型随伴観測手「ダンシングケーン」。
 狙撃を得意とする彼の補佐をする、優秀なスポッターのドローンたちだ。
 その特性上、彼らは『目』がいい。ヒトの常識を超えた目で、時限爆弾を発見していく。
 回収した爆弾をフォーが確認した時、彼の鋼の口から、ほっとしたような声が漏れた。
「これくらいの簡単な仕組みであれば、私にも解除は可能ですね。」

 一先ず、無事にタイマーを解除したフォーは、EOCマントを利用して、人間に『化けた』。
 目的は勿論、稚拙なテロリストである。
 【ダンシングケーン】は、爆弾の他に、それを仕掛けたであろう人間の姿も捉えていた。
 ドローンの目は、その彼の脈拍が異常、その感情は『恐怖』が大多数を示してている事を伝えてくる。
 つかつかと歩み寄る、投影された紳士から。
 速成テロリストが逃げ出すことは、なかった。
 いや、震える脚で逃げ出す気力も、最早なかったのだろう。
 そんな彼に、鋼の友好人格が語りかける。

 ーー機械の自分が言うのもアレですが。
「人間のままであれば、まだチャンスはあるでしょう。
 人間をやめて愛する人を得る確率を0にする必要は無いと思われます。」
 確かに、彼らは他者の幸せに嫉妬していた。
 リア充爆発しろ、なんて、冗談で思ってもいた。
 しかし、しかし、だ。楽しそうな子どもや、その親…巻き込まれるであろう人々を見。
 自分たちがこれから引き起こす惨劇に、恐怖すら覚えていた。
「あなた方が害する人の中に、運命の相手がいるのかもしれないのですから。」
 すんでのところで、怪異にも、殺人の昏い快楽にも堕ちずにすんだ男は。
 ーーありがとう。
 フォーの言葉に、ぽろぽろと涙を流しながら頷いた。

リディア・ポートフラグ

 ――バレンタイン……リア充爆発しろ、か。
 広場を前に、『わかる、わかるぞ』と、深く深~く頷く汚職警官おまわりさんがいた。
 リディア・ポートフラグ(竜のお巡りさん・h01707)は、速成テロリストとなった者たちの気持ちが少しだけ、解ってしまう側であった。
 金髪紫眼の自称美女(29歳)は、黙っていれば確かに美女なのである。
「その気持ちはよ~くな。私もいちゃつく相手さえいれば……。」
 しかし、何が、何処が問題なのだろうか。その呟きが、彼女がおひとりさまである事を切実に物語っている。
 年齢の十の位が変わるまで、あと11か月を切っているという事実が、彼女を焦らせる部分もあるのかもしれないし、ないのかもしれない。
「っとっと、とにもかくにもこんな騒動を起こすのは感心しないな。
 お巡りさんのお仕置きの時間だ!」
 そんな彼女も、手段を択ばないだけで、正義の心に燃える立派な(汚職)警官。
 エンブレムの入った警察帽を整えて、現場に入った。

 お巡りさんは、僅かな視線の動き、表情の変化などの異変を察して、職務質問を掛けることが出来るという。
 爆発物を探しながら移動していたリディアだったが、先に見つけたのはテロリストと思しき人間だった。
 男は、常人には警邏に出ているだけにしか見えないであろうリディアの、その視界に入らない様に身を縮め。足早にその場を去ろうとしている。
「お兄さん、ごめんねー。ちょっと話聞いていいかな?」
 周囲の安全を出来得る限り確保した上で、リディアは職務質問を掛けた。
「え、あ、お、俺!?」
 ――明らかに動揺しているな。コイツだ。
 警官リディアの直感は、間違いなくそう言っている。
「そう、君だ。やましい事がなければ、すぐ終わるから協力してくれ。
 身分証明できるもの持ってるかな?」
「な、なんだよ、何もしてねぇのに…。いいよ、協力してやるよ。」
 その問いに、男は青褪め、ぎこちないながらも、開き直ったように応じた。
 万一広場で暴れられて、大捕物になれば他のテロリストたちを刺激していたかもしれないので、願ったりかなったりである。
「ご協力ありがとう。助かる。じゃあ、こちらで話そうか。」

 男を人気のないところに連れ出したリディアは、早々に警棒を突き付けた。
「お前たちが爆発物を仕掛けた事、調べはついているぞ。大人しく投降するならよし。
 …そうでないなら、痛い目を見る事になるが…どうする?」
 ――紫色の瞳、そして警棒から伝わる、鍛え上げられた肉体の圧に。男は容易に折れた。
 元より確たる思想もない素人だ、抵抗する気概など有るはずもない。
 そのまま腰が抜けて、床にへたり込んだ。むしろ、捕まったことに、ほっとしているようにすら見える。
「『仲間』たちを裏切るわけにもいかなかった、けど……あの爆弾、絶対脅かすだけじゃ済まねぇもん…」
「脅かすだけでも、爆発物を仕掛けたらアウトだぞ。これからはつるむ相手と、やっていいことと悪いことくらい、自分でちゃんと考えるんだぞ。
 ほら、さっさと場所と解除方法を教えるんだ。私が回収して、解除しておいてやるから。」
 呆れながらも諭し、手錠を掛けるリディアに、男は何度も首を縦に振った。
 こうして、リディアは男から彼の持ち分の場所と解除方法を聞き出し、無事に解除することに成功したのだった。

黄菅・晃
コウガミ・ルカ

「さて、アンタと久々に現場で一緒ねー。」
「晃と、組むの、久しぶり。」
 妙齢の白衣の女性と、黒いジャケットの青年が連れ立って歩く。
 ファッションに首輪や白衣と、多少の癖はあるが、美男美女と言って差し支えないだろう。
 見た目の歳の頃も、そうは離れていない。バレンタインデーの、カップルであろうか。
 …いや、彼らの関係は人間災厄と、その主治医。
 テロを未然に防ぎ、『クヴァリフの仔』の回収のために現場を訪れた、黄菅・晃きすげ・あきら(汎神解剖機関のカウンセラー・医師兼怪異解剖士・h05203)と、コウガミ・ルカ(人間災厄「麻薬犬」・h03932)だ。
 『最近、戦ってる?』『合わせるから好きにやりなー?』
 そんな、最近の彼女が力を付けている様子を察したのか、首を傾げながら問うルカに。
 晃は無表情ながら自信の色を滲ませて答え。
 気安い雑談を交わしながら、件の広場へと足を運ぶ。

 さて、広場では幾人かの『仲間』が既に行動を開始しているのが見えるが、目立った騒ぎにはなっていない。それぞれがうまくやっているのだろう。
 ならば、人間災厄と主治医のコンビも巧くやるだけだ。
「人間に使うの嫌かも知れないけど、助けるために使うの。
 嫌じゃないわね?……言霊の使用許可。」
「人間、助ける、なら、言霊、使う。」
 主治医である晃の言葉に頷く、ルカ。
 人間災厄である彼の『言霊』は。
 下手に力ある言葉を口にすれば、簡単に命を奪えるというルカ自身も恐れている力だ。これを抑えるために身に着けている物が、彼のマスクとなる。
 しかし、今回の現場は『命を救うため』に、惨劇を未然に防ぐための現場。
 晃が、そんな危険な『言霊』を封じるためのマスクの拘束を解除する。
 そしてルカも、必要とあらば、簡単に命を奪えてしまう力を使うことにも躊躇いはない。
 その決意を金の瞳に籠めて、マスクを首元まで下げ、広場を駆け出した。
(今回は生け捕り。敵だけど、殺さない。ナイフは禁止)
 そんな彼に随伴して、晃の4つの影…【喜・怒・哀・楽】がその周囲で支援に入る。
「……グルルル。」
 ルカが唸り声を上げながら鼻をひくつかせれば、微かに漂う火薬のにおい。
 耳を澄ませば、雑踏、雑音の中に、明らかにおかしなリズムを刻むものがある。
 爆発が予測される時間までは、まだ余裕がある。ルカは、速成テロリストの確保を優先することにした。

 ――【黙れ】。
 突如背後から腕を極められ、テロリストは悲鳴を上げようとした。
叫ぼうとした。助けを呼ぼうとした。
 しかし、言葉が喉から出てこない。あまりの緊張に、ではなく。
 ただただ言葉が出てこない。
 ルカの√能力、【狂犬の咆哮】による『言霊』の発露だ。
 今度こそ、極度の緊張で目を剥き、暴れようと試みもするが。
 腕を極められていてしまった上に、足が震え、立っているのもやっとという有様だ。
 これならば、組み伏せる様な手荒な真似もしないで済むだろう。
「……ついて来い。」
 ――説教は晃がしてくれるから、俺は連れて行くだけ。
 信頼する主治医の元へ、『言霊』で素人テロリストを誘導していく。

 そこから事が運ぶのは早かった。
 明らかにこのような現場に手慣れている2人に、速成テロリストが早々に心が折れて。
 諸々を白状するまではそう時間も掛からなかったのである。
 確保した犯人がセットした時限爆弾は『影』たちとルカが漏れなく回収して、晃がその解除を担当することとなった。
「おー、思いの外簡単な構造ねー。残業しなくて済みそうだわ。」
「なら、よかった。人間たち、楽しそうだから。嬉しい。」
 てきぱきと爆弾のコードを切断して解除する晃に、その手元を覗き込むルカも、ほっとしたように目を細め。
 さらに言えば。無事に解除されてしまったはずの側である、テロリストもまた。
 『これから人殺しになる』という極度の緊張感から解放され。
 とっくにルカの『言霊』の効力が解けているにも関わらず。腰が抜け、立ち上がることも出来ないようだった。

 さて、と。ひと仕事終えた晃が、さも簡単な仕事だった、とでも言うように伸びをする。ここからはお説教タイムだ。
「この子(ルカ)が駆けずり回ってなかったら、人殺しよ?
 まだ若いんだからそんなもので人生棒に振らない方が良いわよー?」
 こっぴどく、というのは晃のキャラではないが、滾々と説諭され。
 素人テロリストもまた、爆破する前からこんなに恐ろしい思いをするなら、二度とごめんだと、涙ながらに何度も何度も頷いたのだった。
 心に響いたならよし、とカウンセラーは立ち上がり。『あ、そうだ』と、テロリストからただの人に戻った男の顔を覗き込む。
「バレンタイン、私が一緒に過ごしたげよっか?……冗談よ、早く良い人見つけなー?」
 表情は乏しいが、悪戯っぽく笑う主治医の姿に。
 ルカは何かを言いたげな表情を浮かべていたとか、いなかったとか。

狐狗黎・コト

「嫉妬に…マスク…。なんだか既視感があるのう…。
 この前読んだ、まんが、のせいかもなのじゃ。」
 金の退魔礼装を纏った幼い童が、一本歯の下駄をかつかつと鳴らし。
 アンニュイな表情で、平日のショッピングモールを歩いて回る。
 辺りは平日なれど、そこそこの賑わいがあり。
 後期の講義を終えたであろう大学生カップルらしい姿もちらほらと見え。
 それ以外にも平日・休日という概念がなくなった老人や、たまの休みを家族サービスに費やす家族連れなどの姿も見える。
「まったく、嫉妬というものは、時に人を狂気に駆り立てるものじゃのう。」
 ――無辜の民が犠牲になるのは忍びないのじゃ。
 そう口にするのは、狐狗黎こくり・コト(警視庁超常現象特別対策室 510分室(非公式)室長・h01238)。
 小さな子どもに見えて、その立場は超常現象関連特別対策室の非公式分室の室長だ。
 いや、非公式なので称してよいのかはわからないが、優秀な警視庁異能捜査官カミガリである事は間違いのない事である。
 この平日のバレンタインデーに、爆弾を仕掛けた痴れ者がいるというが、まだ決定的な罪を犯す前に、人の道に引き戻せる者もいるという。
「穏便に済ませるとするかのう。が取り戻せないもの…。
 同じ様に喪わせる訳にはいかないのじゃ。」
 掛け替えのない『日常』を失った経験が、狐の半人半妖を駆り立てるのだろうか。
 ダウナーに見える表情の中に、確かな決意が窺えた。

「吾の代わりに、爆弾の捜索と、他の√能力者との連絡をよろしく頼むのじゃ…。」
 さて、コトが取った作戦は、彼の√能力である【百鬼夜行】を用い、自身の配下である妖異たちを動かして、爆弾の在り処を探すというもの。
 幸いにも、現場では既に爆発物の解体に着手、成功している者もいると聞く。
 その解除方法や方針は、妖異たちを通して伝えて貰えることだろう。
 見つけたあとは、即座に解体班に伝達、といきたいところだが。
「いなかったら…自分で、かのう…。」
 もしもの時の覚悟を、小さく口にした。

 勿論、コトもただ妖異たちの成果を待つばかりではない。
 捜査官としてやらねばならぬ事は、現場の市民の安全の確保…即ち、避難誘導である。
 しかし、大声で知らせて避難を促すのは、速成テロリストたちを刺激して、良からぬ事態を招きかねない。
「うまく信じてくれればよいがのう。」
 僅かばかりの不安を口にしながら、彼は【リアルタイムどろんチェンジ】を用いて、金髪の私服警官の姿へと変身した。
 『お巡りさん』という姿では、やはりテロリストたちを刺激しかねない。
 幸いにも、捜査官としての立場は実際にあるのだ、警察手帳を見せれば納得もして貰えるだろう。
 金の狐は配慮に配慮を重ね。丁寧に一人ひとり知らせて行くという、地道かつ、確実な手段を取った。

「ふぅ…これで、足腰が弱そうなお年寄りは遠ざけられたかのう。
 それよりも…集めた爆弾は、やはり自分で解除せねばならぬのか…。」
 最も避難に時間が掛かりそうな老人たちは、演技と誘惑も用いてコトの言う事を聞くように仕向け、それが功を奏して避難は完了している状況だ。
 後は同じ方針で若者などに声を掛けていけば、万が一、爆弾が発見しきれなかった場合にも、早急な避難誘導が可能だろう。
 しかし。爆弾解除については、自身でやる外ない事にコトは少し残念そうな、緊張したような表情を浮かべる。
 他の爆弾解除に携わっている√能力者たちも、自分たちの作業に手いっぱいで、コトの支援に回ることは難しい、というのが結論であったのだ。
 幸いにも、解除方法もそう難しくはなく、必要な配線を切れば簡単に解除できるという事も把握できた。
「斯くなる上は、吾がやるしかないのじゃ…。」
 紅い瞳で、決して切るべき配線を間違えぬように慎重に確認を重ね。
 ぷるぷると震える手で、教えて貰った配線をぷちり、ぷちりと切っていく。
 解除が成功する度に、ほっと息を吐いていく。
 小さな狐の捜査官が緊張から解放されるには、今少し時間が必要そうだ。

箒星・仄々

「普通はリア充爆破なんて言っても…仮にそれが出来る技術や道具があっても。
 実際の行動には移さないものです。」
 翡翠色の手風琴を抱えた黒猫…いや、ケットシーが、全く理解しかねる、とでも言いたげに、その可愛らしい眉間に皺を寄せる。
 そう、箒星・仄々ほうきぼし・ほのぼの(アコーディオン弾きの黒猫ケットシー・h02251)が言うように。『普通は』、事を起こさないのである。
 しかし、強い不満を抱えながらにして、『事を起こせるだけの力』を手に入れてしまった時。
 必要や、その場の勢いとノリに浮かされてしまった時。人はどれだけ狂わずにいられるだろうか。
「余程上手く丸め込まれたのでしょうね。お可哀想に。」
 しかし、そんな些末な理由で、人の命が奪われてよい筈がないのだ。
 ――そして、同様に。テロリストになる必要もありません。絶対に止めましょう。
 決意を込めて、桜色の肉球が現場の広場に足を踏み入れる。

 現場に入った仄々は、広場の噴水近くでアコルディオン・シャトンのセットアップを終えた。
 そして彼は、カップルや家族連れにも馴染みのある、オーソドックスな曲を演奏し始めた。
 明るく可愛らしい音色に誘われる様に、次々と人が集まり。
 中にはおひねり代わりに、飴やチョコをくれる人たちもいる。
 どうも、忘れようとする力が働いて、少年がアコーディオンを演奏しているように見えるのだろう。
 勿論、仄々にとって、おひねりを貰う事が目的ではない。
 ――きっとここにいらっしゃるのは、モールでの楽しい思い出を沢山お持ちのインビジブルさん達でしょう。
 黒猫が目を向ける、その先には。宙を漂うインビジブルたち。
 彼らにどれ程の自我があるかはわからないが、この場に現れたという事は、何かしらの所縁があるのかもしれない。
 その思い出の場所が爆破される、或いは今も見守っている家族や友人が巻き込まれるなどという事があってはならない。
 彼らがその様な事を決して望んでいない事は、火を見るよりも明らかだ。
 やがて、仄々の手風琴が奏でる音色は、空間を泳ぐお魚さんと仄々が呼ぶ、一体のインビジブルを生前の姿へと変えた。

 ――【もしもし哀歌アロー・レクイエム
 演奏により、視界内のインビジブル一体を生前の姿に変える√能力だ。
『あらあら、まあまあ。可愛らしい猫さんだこと。』
 そして、その力を受けて人の姿を得たのは、穏やかに微笑む老婦人。
 事件について、仄々がかくかくしかじかと説明をすれば、『まあ!』と口を抑え。
 彼女がここ数日の間に目にした情報を話してくれた。
『可哀そうなくらいに震えていたけれど…そうだったのね。
 あの子たち、そんな恐ろしい事に巻き込まれてしまっていたの。』
 悲しげに広場を見回す老婦人であったが。黒猫のエメラルドの瞳を確と見つめ。
 その眼からは、この爆弾撤去に最後まで付き合うという意思が伝わってくる。
『猫さん。ここで殺人事件やテロが起きるのは、私、とても悲しいわ。ぜひ、防いで頂戴な。』
「勿論です。そのために私はここに来たのです。協力して防ぎましょう!」
 一時的にインビジブルから戻った老婦人の目撃情報を元に、仄々の真っ黒な耳も、ぴこりぴこりと揺れて、不自然な音を探り出す。
 現場に入っている√能力者たちとの情報もすり合わせ、捜索は順調に進んでいく。

『ここ、ここよ、猫さん。ここの陰。私が知っているのは、これで最後よ。』
「ありがとうございます、おばあさん!では、集めた爆弾を解除しないといけませんね。」
 爆弾については、既に現場に入った√能力者たちからも、解除の手段は伝わっている。
 即席テロリストでも扱えるくらいの、簡単な作り。
 必要なコードをぷちり、と切るだけで終わり、なのだが。
 ここで役に立ったのは、おひねりとして貰った飴やチョコだった。
 常に落ち着きのある仄々と雖も、爆弾の解除作業には緊張が伴う。
 甘い飴を口の中でころころと転がし、そしてこの現場で束の間の相棒となったおばあさんの声もあり。幾分か心も緩んだ。
『猫さん、私はお役に立てたかしら?
 ふふ、あなたのお陰で、刑事ドラマの刑事さんや、探偵さんになれたみたいで、楽しかったわぁ。』
「こちらこそ。おばあさんのお陰で、とっても助かりました。
 必ず、あなたの思い出も守って見せますね。」
 ――ええ、ええ。きっとよ。ありがとう。
 全ての爆弾の解除を終え、緊張から解放された仄々の笑顔に、老婦人の笑顔は掠れて消え。
 一体の、元のインビジブルが広場に向けて漂っていくのであった。

 老婦人との別れを済ませた仄々は、爆弾を仕掛けた犯人の下に向かう。
 そして彼女に教えて貰った犯人に、黒猫が近付いても。
 犯人は…年若い少年は、足を震わせたまま、逃げなかった。
 いや、逃げられなかったのだろうか。
「もう大丈夫です。爆弾は解除しました。誰も傷つくことはありません。」
「俺、俺……本当に爆発したら、どうしようって……!」
 きっとこの少年も、最初は季節性の悪ふざけに乗っただけの、ふざけ半分だった。
 それがいつの間にか抜け出せないまでの、泥沼に嵌められてしまったのだろう。
 仄々にも、そんな想像がついた。
 そんな小さく震える肩を、黒猫の桜色の肉球がぽんと叩く。
「さぞ怖かったでしょう。これからは闇の誘惑にNOと言えるようになって下さいね。
 それがきっと素敵な未来につながりますよ。」
 優しいケットシーの言葉に、あどけなさの残る少年は深い反省の色を浮かべ。
 涙を流しながら、何度も何度も頷いた。

第2章 集団戦 『狂信者達』


 ――ショッピングモールの、イベント用倉庫。
 そこは営業日にも関わらず、何らかの手段で人払いがされたのだろう。
 人の気配がまるでないという、不可思議な事態が起きていた。
 ――やっぱり、いざとなったらビビっちゃったか。
 √ヒーローズアースから訪れた傭兵は、自らの任務を遂行しながら、全ての爆弾が解除されたことを知った。
「やっぱり、彼らの様に人間性は捨ててもらわないと、嫌がらせにしかならないね。」
 ――じゃあ、僕が「クヴァリフの仔」を手に入れるまで、もう少し足止めを頼むよ。
 バレンタインデーを爆破したい。幸せそうな人間たちが憎い。
 誰かの幸せを滅茶苦茶に壊して、絶望する姿を嘲笑ってやりたい。
 そんな鬱屈した思いから、いつしか計画にのめり込み。
 人間性どころか人間であることも捨て、怪異と化した者たちが。
 倉庫に突入した√能力者たちの前に立ちはだかった。
フォー・フルード

 ――こちらが主戦力と言ったところでしょうか。
 バレンタインデー、いや、人の幸福憎さに魔性に堕ちた敵集団、狂信者たちをフォー・フルード(理由なき友好者・h01293)のカメラアイが走査するように輝く。
(視覚情報の解析を開始。敵対者が非人間であることを確認。戦闘ルーチンの適応を認証。)
「……残念です、先ほどのテロリストはどうやら幸運だったのですね。」
 敵の正体を確定させた彼は、表情のない鋼の顔で、静かに呟いた。
 先ほどの速成テロリストたちは、まだ物事の善悪を判断し、自分たちが引き起こす事の重大さに怯える理性が働いていた。
 しかし、目の前で蠢く者たちは、不幸にも一線を越えるだけの素養を持ってしまっていた。
 力の代償として、ヒトである資格も喪ったが。
「いえ、この言葉も意味をなさないのでしょう。人型敵性存在排除を開始します。」
 ヒトである事を放棄し、怪異に堕ちた者に。
 フォーが遠慮をする理由は、何処にもありはしない。

 片膝を着き、敵集団の中央に狙撃銃「WM-02」の銃口を向ける。
「算出完了、誤差許容範囲内、射出FIRE。」
 鋼鉄の冷たい声と共に、銃が火を噴き。
 弾丸が命中した狂信者の頭が、ぱぁんと弾け飛んだ。
 その着弾を確認するよりも早く、倉庫内の風景に溶ける様にフォーの姿が消えてゆく。
 EOCマントを起動する事により、電磁的光学迷彩で姿を隠したのだ。
 そして。縦横無尽の射角からの銃撃が、敵集団に降り注ぎ始めたのである。

 ――【予測演算射撃機構セルフ・ワーキング

 フォーの√能力は【未来予測】属性の弾丸を射出するというもの。
 着弾地点から半径レベルm内の敵には【行動を予測した狙撃】が確実に敵の急所を射抜き、大きなダメージを与える事を可能にする。
 周りの風景と同化しながら、予測した未来の敵の動きに合わせて、腕に装備された『フックショット』のワイヤーが唸りを上げた。
 倉庫内の梁、手摺。床に加え、フックが掛かる周辺の壁。その全てがフォーの足場だ。
 地を動き回り、集団で動くが故に反応速度まで鈍っている狂信者たちには、立体的に動き射撃を繰り返す彼の動きを捕らえる術は、ほぼ無く。
 最早、フックのかかる音、ワイヤーの巻き取り音、鋼の着地音を頼りに、闇雲に武器を振り回すしか抗う手段がない。
 いや、抗うよりも先に。弾丸がばすりと狂信者たちの頭や心の臓を貫き、機能を停止させてゆく。
 そのワイヤーの唸り声は、敵にとっては死の予兆ですらあっただろう。
 それに怯える理性すら、狂信者たちには残ってすらいないのだが。

 狼狽える理性も喪った、残る一体が、一矢報いんと周囲を見回す。
 その背後、鋼の足音が響いた。
「あなた方を治す術を自分は所有しておりません。」
 敵が振り向くより先に、ハチェットを振り下ろした、理性のベルセルクマシンの言葉は。
 血飛沫を上げながら崩れ落ちる、狂気に堕ちた者たちの魂に。
「どうか、心すら無くなっていることを祈ります。」
 果たして、届いたであろうか。

黄菅・晃
コウガミ・ルカ

「他人の幸せを壊したところで、必ず自分が幸せになれる確証なんか無いわよー?」
 既に血と硝煙のにおいが漂い始めている倉庫に立ち入った黄菅・晃きすげ・あきら(汎神解剖機関のカウンセラー・医師兼怪異解剖士・h05203)は、心の底からの呆れ声を以て、敵の群れを見据えた。
 例え、一時的に胸が空くような思いを味わったところで満たされず。
 血に酔った心は、次の獲物を求め始める事だろう。
 そう。幸せを求めるなら、心を満たしたいならば。
 穴の開いたバケツである己の心を自覚し、その穴を塞ぐなり。
 心を満たせる新しいバケツを探すなり。他にやり様は有った筈なのである。
「……まぁ、言ったところで通じてるか分からないけど。」
 既に目の前の狂信者たちの瞳からは、理性の光がぽっかりと抜け落ちている。
 晃の言葉に、己を省みる機会など。
 彼らはとうに、人間でいる資格ごと投げ捨てていた。

 そして、情動もなく、機械的に迫ってくる狂信者たちに。
「……グルルル。……殺して、いい、やつ?」
 コウガミ・ルカ(人間災厄「麻薬犬」・h03932)は敵意も露わに、唸り声を発しながら主治医に問うた。
 彼らの性根は、どうにも同情できるものではないし、今となっては人の言葉も届かず、発しやしない。
 今となっては、ただの『ヒトであった』だけの怪異でしかない。
「勿論。言霊の使用、許可。」
 と、ルカの主治医である晃は頷き返し。
 足元の陰に仕舞い込んでいた、散弾銃型のシリンジシューターを引き摺り出した。
「さて……好きに動きなー?」
 言葉と共に、ルカの『言霊』を抑えるための、マスクの拘束が緩み。
「――……ん。」
 心優しい『化け物』は命令オーダーに静かに頷き、ナイフを構え。
 晃の喜怒哀楽の『影』たちがざわざわと揺らめき出す。
「医者は生かすのが仕事だけど、今回ばかりは荒療治。」
 晃のショットガンの発砲音が、カウンセラーと人間災厄のコンビの、戦いの開幕を告げた。

 影の援護を受けながら、敵の群れを目掛けて一直線に駆けるルカは知っている。
 妬むだけの心が暴走して人を辞めた狂信者たちと違って、体験している。

(壊しても、楽になんかならない。……ならなかった。)

 濃密に、その血の匂いが虚無感が心に染みついている。
 優しい『怪物』の心を今なお責め苛んでいる。
「……もう、動くな。」
 √能力たる『言霊』ではなく。細身に見合わぬ怪力が、敵の頭蓋を倉庫の床ごと叩き割り。
 反応速度が鈍っている、一人の狂信者の体を二度とは動かぬ肉塊に変える。
 彼を支援するべく晃が放った影の一つを強化する√能力、【哀しみの影シャドウオブソロウ】が茨の様に伸び。敵を捕縛し、棘の鞭が薙ぎ払って行くと謂えど。
 ルカは敵の只中に飛び込んだのだ。その無防備に突っ込んでいく彼は、無傷ともいかない。
 狂信者たちが振るう、棍棒が。ナイフが。斧が。青年目掛けて振り下ろされる。
「――グルルルルル……!」
 その凶刃は、確かに当たった。ルカの肉体からは、血液だって漏れている。
 そう、当たったが。全く戦意の衰えていない金の瞳が、物言わぬ狂信者を睨んだ。
 ――彼は、戦闘においては痛覚が動作しない。
 人の身であれば、必要があって、危険を告げる信号として働くのである。
 しかし彼は『人間災厄』、人ならぬ存在。狂気に堕ちた怪異ども以上の、『化け物』。
 『楽観の影』に守られた晃が放つ注射器シェルが、ルカを襲った狂信者の頭を吹き飛ばした、その傍から。
 ルカが受けた損傷が、じわじわと巻き戻るように修復されてゆく。
「……壊す。」
 お返しとばかりにナイフを急所に押し込み、怪力を以て振るった拳が頭を割り砕き。
 無造作に放った蹴りが、その背骨を圧し折った。

 ――【全てを食い千切る狂犬】

 この√能力は、相手を確実とも言える精度で捉える、近接攻撃を行う。
 しかし、攻撃後に即時再行動するという追加効果を発動するには、「片目・片腕・片脚・腹部・背中・皮膚」のうち一部位を破壊するという、無視できないデメリットが存在する。――のだが。
 あろうことか、ルカは己で己の腹をナイフで刺し、腕の皮膚を切り裂くことでその発動条件を満たしていた。
 常人には信じられぬ狂気の沙汰であるが。彼に痛覚はない。
 敵と己の血飛沫を撒き散らしながら、再行動に次ぐ再行動で敵を蹴散らしていく。
「今更だけど。この子、臆病だから気をつけなー?あ、もう聞こえてないか。」
 狂犬とその主、そしてその影。2人と4体の連携の前に、狂信者たちは見る見るその数を減らしていく。

「影、援護、ありがとう。」
 己と敵の作った血だまりの中、穏やかな気配を取り戻したルカが、優しく『哀しみの影』を撫でる。
 既に、彼らが受け持つ範囲の敵は壊滅しており、残る狂信者たちは仲間たちが排除してくれることだろう。
 その一方で。
「へぇー……新物質の研究者サンプルとして持って帰るかぁー。お手柄ねー。」
 普段は気だるげな晃が、その血だまりの中から怪異の残骸を嬉々として回収している。
 今後の新物質や、クヴァリフの仔の研究に活かすつもりか、その本心はわからないが。
(新物質……俺で試せばいいのに。晃は自分で検体を作って研究して、手間じゃないのかな……)
 子の心、親知らず。首を傾げながら、『親』の姿を眺めているのであった。

リディア・ポートフラグ
狐狗黎・コト

「ぐぬぬ。ようやく終わったのじゃ。」
 爆弾解除の緊張からやっと解放された狐狗黎こくり・コト(警視庁超常現象特別対策室 510分室(非公式)室長・h01238)は、大きなため息を吐いた。
「やれやれ、さっきまでの奴らはまだ可愛げがあったが、こうなってしまっては、なぁ。」
 そんなコトと並んでため息を吐くのは、リディア・ポートフラグ(竜のお巡りさん・h01707)である。
 奇しくも、片やカミガリ、片や汚職警官。2人は警察組織の人間であった。
 在り方こそ違えど、その思いの強さは違えども、秩序を乱すモノを許さぬ心を持っている。
「ふむ…。感情の昂りにより、自らの形を保てなくなったか。
 相手が異形に変われど、目的は変わらず…変わらず?ちと違うかのう?まぁ良い。」
 狂信者たちを鋭く見渡すコトが、素早く敵の状態を分析する。
 先ほどは諭旨や逮捕でどうにかなったが、今回ばかりは排除せねば解決の目はない。
 速成テロリストと違って、リディアの菫色の瞳が見極めたとおり、こちらはヒトであることも辞めているのだから、なおさらだ。
 目の前の怪異に揃って対峙し、お巡りさんは戦闘錬金術を警棒に変形させ。
 室長は薙刀の石突で床をかつりと叩き、仁王立つ。
「まだ真っ当な状態なら、ドーナツくらいなら恵んでやるのだが……
 さて、面倒な奴らをきつーくお仕置きしてやるか!」
「吾(あ)を斯様な目に遭わせた罪。数倍返しでつぐなってもらうのじゃ。」

「周りに人もいないのならば遠慮なく暴れるとしよう!いざ突撃!」
 警棒を振りかざし、リディアが敵陣に吶喊する。
 その手に持つ警棒は彼女の√能力である【戦闘錬金術プロエリウム・アルケミア】により、視界内の対象1体にのみ大きなダメージと【錬金毒】を付与する【対標的必殺兵器ターゲットスレイヤー】となっている。
 無論、『視界内の対象一体』であるため、呼ばれた仲間には大きな効果こそ発揮はしないが、今回の彼女には味方がいるのだ。
「吾が配下、管狐たちよ。あの警官を支援してやるのじゃ。」
 コトの√能力【百鬼夜行デモクラシィ】によって呼び出された管狐たちが、リディアを囲もうという敵の動きをおしとどめ、手傷を与えていく。
「助かるよ、室長!このまま押し切ってみようか!」
 コトの支援を受けたリディアは金のポニーテールを揺らし、ダッシュで敵の間合いに踏み込み、怪力を込めた警棒で殴り倒し。
 まさに彼女の信条通り、『素早く、パワフルに!』。殴って蹴ってぶっ飛ばしていく。

 無論、幾らリディアと管狐が敵を押し止め、各個撃破していたとしても、そもそもの母数の多さ故に、コトに迫る者も出てくる。
 その敵を、コトは鮮やかな紅い瞳でしかと見据えていた。
 頭上で薙刀をぶぅん、とひと回しすると、刃を下段に構え。
「ふむ、管狐たちを抜けてくるとは。ご苦労な事じゃな。
 では、余がこの刃にて、直接手を下してやるのでのう。終わりを与えてやろう。」
 小さな体躯に似合わぬ長柄の刃を軽々と振るえば。
 袈裟懸けに。或いは真一文字に。敵の身体が斬り裂かれていく。
 例え非公式であろうと。室長の名は伊達ではないことを知らしめて見せた。

「バレンタインを憎んで人をやめられるくらいなら、恋人探しの方を頑張ればいいのにな?」
 今となっては、最早後の祭りであるが。『幸せ』が欲しいなら、それ相応のやり様は有ったのだろう。
 至極真っ当な言葉と共に振るわれた、リディアの警棒のフルスイングが対標的必殺兵器ターゲットスレイヤーとしての効果を発揮して。
 彼女らが受け持つ最後の狂信者の頭を捕え、派手に吹き飛ばした。

箒星・仄々

 暗がりに溶ける様な黒い毛並みに、その中でもなお目立つ、きらびやかな音楽隊の衣装を身に纏った猫の獣人……
 箒星・仄々ほうきぼし・ほのぼの(アコーディオン弾きの黒猫ケットシー・h02251)が、ショッピングモールのイベント倉庫に足を踏み入れる。
「爆弾を無事に見つけられましたし。
 命を奪われる方も、奪う方も出さずに済んで、嬉しいです。」
 広場での√能力者たちの活躍、そして仄々が呼んだインビジブルおばあさんの協力もあり、爆発による惨劇は未然に防ぐことに成功し。
 速成テロリストたちも、辛うじて人の道に留まる事が出来た。
「けれど今度は、もう人を辞めてしまわれた方々なのですね。残念です。」
 仄々の目の前に現れた狂信者たちに、理性の光はない。
 人の幸せ妬ましさに、『心』というヒトの根本を手放した者たちを前に、黒猫は悲しげに頭を振る。
 ――倒すことで解放して差し上げましょう。
 きりり、黒猫は気を引き締めて。愛用の翡翠色の手風琴『アコルディオン・シャトン』を構える。

 手風琴が奏でるのは、『ただの』メロディ。
 仄々が敵の√能力を警戒しているためだ。
 そう、敵の狂信者たちは、攻撃に反応して絶対的な先制攻撃を放つ√能力を持つ。
「メロディで攻撃しちゃいますよ〜。」
 仄々が隙を伺いながらこのように宣言しているものの、相手は√能力頼りなのか、動く気配がない。
 ――動く気が無いのであれば、こちらから仕掛けるほか、ありませんね。
 意を決した仄々が√能力を発動するべく、メロディに力を乗せようとした瞬間。
 ――びゅぉん!!
 仄々の音色が届く範囲から。瞬間移動の様に、一斉に狂信者が襲い掛かり。
 小さな黒猫を目掛けて、斧槍が繰り出される。
「来ることが予め判っているのですから、やりようもあります。」
 その跳躍のタイミングは仄々が操作したのだから、後はその武器の軌道に気を張っておけばよい。
「にゃんぱらりっ、と。」
 猫耳がぴこり、髭がぴくり。
 音や空気の振動から敵たちの動きを推測し、辛うじてではあるが、次々と回避していく。
 そして、その刹那の攻防を読み勝ち、制し。攻撃を回避し終えた仄々。
 しかし、アコーディオンを構えた時には、既に狂信者たちは姿を晦ませている。
 そう、狂信者たちの√能力には、攻撃後に【怪異への狂信により得た魔力】を纏い隠密状態に厄介な追加効果があるのだ。

 しかし、仄々もただ手風琴を奏でていたわけではない。これもまた、彼の策の一つだ。
「先ほどは始めることができませんでしたが。元気よくお届けします♪」
 ここで狂信者たちによってキャンセルされた√能力、【たった1人のオーケストラオルケストル・ボッチ】が発動した。
 これは、仄々が演奏することで【メロディや音撃】を放ち、指定した全対象に最大で震度7相当の震動を与え続けるという√能力。
 姿が見えない対象に対して、ここで彼の策が活きるのだ。
 敵たちも見えていないのに、黒猫が髭を得意げに動かすと、どうしたことだろうか。
 徐々に、狂信者たちの姿が露になってゆく。
 それも、よたよたの千鳥足、あるいは立ち上がる事すらできないという有様だ。
「音や風の動きが、あなたたちの居場所や動きを教えてくれています。」
 そう、彼はメロディを奏で続ける事で、音の反響を利用して敵の位置を把握していた。
 そして、感知した空間ごと狂信者たち、そしてその纏う魔力を√能力で震わせ、散り散りに霧消させたのだ。

「あなた方も、心の闇を増幅されて怪異と化した犠牲者です。可哀想に。」
 隠密を破られた上に立ち上がる事もやっと、戦う事も覚束ない狂信者たちに、仄々が諭すように語りかける。
 しかし、音色は止まない。
 ヒトであることを辞めた怪異たちは、最早仄々の言葉に答える事はない。術がない。己が無い。
「蘇ってきた時には、心の闇が晴れていることを願っています。」
 降り注ぐ音符の雨の中、散りゆく狂信者たちの魂に。
 果たして、黒猫の言葉はわずかにでも響いたであろうか。

第3章 ボス戦 『ベンジャミン・バーニングバード』


 ――ああ、彼らも死んじゃったか。

 倉庫の暗がりから、ぺたり、ぺたり。
 やけに粘ついた液体を感じさせる足音とともに、歪に輝く紅い瞳の持ち主が姿を現した。
 その姿は、背嚢を背負った、ひよこのマスコットの様な、愛くるしい姿。
 ……ではあるが。今まで、血だまりの中に居たことは疑いようがない。
 その全身には、赤黒い血液がべっとりと付着し。足元までもが血染めとなっている。
「ぼくも彼らの冥福を祈っておこうか。
 足止めには、十分役に立ってくれたからね。」
 利用した者たちを悼む言葉とは裏腹に、その言葉に表情はない。
 淡々と仕事をこなすだけの、『傭兵』。
 それが√ヒーローズ・アースの怪人、『ベンジャミン・バーニングバード』だ。
「ああ、血糊コレ?仕事も出来ない臆病者チキンがいたからね。儀式に利用させて貰ったんだ。
 おかげでほら、この通り。ぼくも無事に、『クヴァリフの仔』を手に入れられた、というわけ。」
 怪人の言葉の通り。背嚢からは触手の生えた、生ける肉塊のような怪異が収められたケースがその存在を覗かせている。
 平日にもかかわらず、この倉庫にヒトがいないのは。『そういうこと』なのだろう。
 怪人の背の向こうの部屋には、陰惨たる光景が広がっているであろう事は、容易に想像ができる。
 結局は、速成テロリストに身を窶しそうになり、√能力者たちに救われた者たちが、一番幸福だったのだろう。
「さて、おしゃべりはこのくらいで十分かな?
 この『クヴァリフの仔』を依頼者クライアントのところ、√ヒーローズ・アースに持ち帰るまでが、ぼくの仕事だからね。」
 ――その最大の障害である、きみたちの排除と併せて。手早く済ませようか。

 バレンタインデーという素晴らしい祭り、そして『幸福』に嫉妬し、或いは狂った者たち。
 その全てを己の任務の道具として利用した、血濡れの怪人。
 他の√世界への新物質ニューパワーが拡散することを阻止するためにも、その目論見は、ここで叩き潰さねばならない……!
ディー・コンセンテス・メルクリウス・アルケー・ディオスクロイ

「――お決まりをプレゼントだ。」
 どこか、遠く、遠くの場所で。乳白色の怪人が、口角を吊り上げた。

 ――こいつらは、どこから湧いて出た?
 血濡れの着ぐるみマスコット、ベンジャミン・バーニングバードは首を傾げる。
 突如倉庫に湧いて出た、翼模様の戦闘員たち。
 血濡れの着ぐるみが呼び出した、ゆるキャラの兵士たちには目もくれず。
 装備した自動小銃で撃てども撃てども、怯むことなく指揮官を狙って襲い掛かってくる。
「この翼模様。そんなものを持つ相手は、見えている敵の中にはいなかったはずだけど。」
 戦闘員たちの猛攻をいなしながら、着ぐるみはじりじりと後退を余儀なくされていく。
 戦いの趨勢を決する基本。それは、大半の場合は数の力なのだ。
 傭兵である以上、ベンジャミン・バーニングバードも痛いほど知っているが。
 数が限られたゆるキャラ部隊に対し、一方的に増援を送り込まれ続けるのでは、じりじりと窮地に追い込まれていくのは目に見えているだろう。 

 その様を、遥か彼方より観測している者がいた。
 いや、正確に言えば、座標そのものは変わらない。
 しかし、遠く離れた場所。そう、他√世界から、だ。
「こちら√マスクド・ヒーロー、遥か彼方から失礼!」
 着ぐるみには声も届かぬ場所から、高笑いとともにその様を眺めるのは、全身羽毛の怪人。
 ディー・コンセンテス・メルクリウス・アルケー・ディオスクロイ(辰砂の血液・h05644)だ。
「爆破自体は阻止出来ている?急にノリが深夜特撮になって?まあそうもなるか!
 代わりに何やら言っているトリがいるようだ、ピヨピヨコケッコ。」
 その挑発も、着ぐるみには届くことはないのだが。
 意外と愉快な言い回しを好むのが、彼の持ち味である。
 『さて、聞こえぬ口上ここまで。』と。
 戦いの趨勢を見守りながら、かつての幹部怪人は大仰に両手を広げて見せる。
「慣れているだろう、我が√から来たのならば。
 このような形で現れる、この程度の量の戦闘員!
 やれる限り補充してやろう、数の暴力とは『正義』。
 お前の兵士もご存知だろう。せいぜい疲弊するがいい。」
 そして。なぜこのような、一方的な増援体制が確立されているのか。
 それは彼の√能力にこそ秘密がある。

 ――【生成召喚・人造人間】

 それは、他√を「自身の現在地と同じ場所」から観察し、視界内の1体に【雑魚戦闘員の大群を召喚し】ダメージを与えるというもの。
 事実、彼自身は√マスクドヒーローの同じ場所から見ているだけで、ダメージを受けるのは『正義』の心を忘れない雑魚戦闘員たちばかり。
「だがね。我が故郷にとんでもない物を持ち込もうとするのは、やめたまえ。
 わたくしですら、そっち√汎神解剖機関で『遊んで』いるというのに。」
 道楽を好む俗人が、何やら不穏な事を口にしているが。
 彼の戦闘員ですら、『正義』の心は忘れていないのだ。
 そんなディーから離反していない以上、彼らの心に背くような『遊び』ではないのだろう。
「お前ひとりで往なせる数だとよいな。アッハッハ!」
 自身が無尽蔵に呼び出す戦闘員の群れに呑まれる着ぐるみを観察しながら。
 元悪の怪人は独り、昔取った杵柄とばかりに高らかに笑い声を上げた。

フォー・フルード

「新物質、その価値は一体どれほどなのでしょう。」
 フォー・フルード(理由なき友好者・h01293)は、黒鋼の躯体に輝くカメラアイで、血濡れの着ぐるみを走査する。
『人類に友好的なら、友好的らしいことをするべきだ』。今の彼は、自身をそう定義している。
 それ故に、ベンジャミン・バーニングバードのやり様は、とても看過できるものではない。
「さあ、それはぼくの知った事ではないかな。
 依頼人クライアントの任務をこなすだけだからね。」
 傭兵としての有り様を崩さないまま、ひよこの着ぐるみは幾機もの無人攻撃ヘリを呼び出した。
 話はもう十分であろうという、明確な攻撃の意思表示。
「世界を救うこともできるのかもしれませんが、その入手に手段を選ばないアナタにはあまり持っていて欲しいとは思いませんね。」
 そして、相対するフォーもまた、武装の安全装置を解除した。

「ぼくの仕事は『クヴァリフの仔』の入手、それだけだからね。
 他所の世界で、手段を選ぶ義理がどこにあるんだい。」
 一斉に発射される戦闘ヘリからの機銃を、フォーは跳躍して躱し。
 そして、跳躍しざまに『フックショット「KV-55」』を射出し、高速で巻き上げる事で無人のヘリに取り付いてみせる。
 振り落そうという機動を取るヘリに、黒鋼のベルセルクマシンはへばりつきながら、更に別のヘリにフックショットを射出。
 ローターに絡みつき、ワイヤーが唸りを上げながら巻き取られれば。
 やがて、二機は空中で衝突し。爆炎を上げて墜落を始めた。
「自爆、じゃないよね。くるんだろう?」
 爆炎に向けて、最早遠慮はいらないと攻撃ヘリが機銃を放つが。
 爆炎の中から躍り出る機影は、狙撃銃「WM-02」の銃口をしっかと血濡れの傭兵に向けている。

 ――近接戦闘思考起動アクティブ、入力開始。

 鋼の頭脳に、敵の首魁に打撃を与えるための最適解プログラムが奔る。
 砲音と共に放たれた銃弾を、傭兵は横っ飛びに避けて。
 しかし、その行動は演算済み。逃げた先には既に、フックショットが放たれていた。
「ぼくの行動が読まれた?やるね。」
 短い称賛の言葉と共に、ひよこの着ぐるみは身動きを封じられ。
「この技術スキルこそが、今の私が『人類』のために使える、最善の手ですので。」
 黒鋼のベルセルクマシンの√能力【M.C.P.メレー・コンバット・パターン】の、締め。
 ハチェット、「center pole」による強撃がベンジャミンバーニングバードの身体をしかと捕らえ、吹き飛ばした。

袋鼠・跳助
プレジデント・クロノス
九沙華・珠姫
明星・暁子

「これはまた、随分と凄惨な現場っすね。
 どんなカチコミしたらこうなるっすか。」
 鉄臭い、濃厚な血の匂いが立ち込める現場に、カンガルーハムスターの袋鼠・跳助ていそ・とびすけ(自称凄腕ヒットハム・h02870)は思わず眉を顰めた。
 彼くらいの大きさになると、ベンジャミン・バーニングバードが生み出した血だまりは、まさに『血の海』と呼ぶに相応しい。
 ヒットマンと雖も、こういった酸鼻極まる現場は見ていて気持ちの良いものではない。
「ストールとハットは、汚したら坊に怒られそうっすね。」

「またか。――ここは、何処だ。」
 最早定番となった、迷子の姿。
 此処は何処だと、仮面の不審者…いや、エンターテイメント系PR会社『オリュンポス』のCEO、プレジデント・クロノス(PR会社オリュンポスの最高経営責任者CEO・h01907)は辺りを見回す。
 戦闘攻撃ヘリが爆発するわ、ロボットがワイヤーアクションを繰り広げるわ、謎の戦闘員たちが暴れているわで、血まみれの着ぐるみを袋叩きにしている。
 これがいつもの映画の撮影ならば、ジャンルは一体何なのだろうか。
 首を傾げながら、どうせ何かの撮影ならば、乗らねば損だろうとタイを緩めた。

「戦わずに済むのなら、それが一番なのだが。そうもいくまいか。」
 九沙華・珠姫きゅうしゃげ・たまき(今は古き災禍の妖狐・h01959)は、血だまりの中に、狂信者たちの亡骸の山を見つける。
 増援に来る際に、大方の事情は把握している。
 バレンタインデーを爆破したいと、ヒトの幸せを妬み、幸せを壊し、その様を嘲笑わらうために集い、結果として人間を辞めた者たちの、成れの果て。
「竜胆がおったら、我々も爆破の対象だったのだろうか…?」
 想い人に思いを馳せるも。今は、あの血濡れの着ぐるみを何とかせねばなるまい。

「相手も怪人か。私の故郷に余計なものを持ち込んでもらいたくはないな。」
 倉庫の暗がりに溶け込むような黒。しかし、2メートルを超えるその巨躯の存在感は、敵の怪人にも引けを取らない。
 明星・暁子あけぼし・るしふぇる(鉄十字怪人・h00367)は、ベンジャミン・バーニングバードと同じく√マスクド・ヒーローの存在だ。
 彼女もまた、かつては悪の組織に所属した、怪人と呼ばれる存在ではあるが。
 しかし、敵と大いに異なるのは。今の彼女は、秩序を守る側であるという事。
 鋼の躯体で踏み込み、着ぐるみ傭兵の姿を光る眼差しがしかと捉える。

 怪人、カンガルーハムスター、仮面の社長に妖狐。
 この一風変わった組み合わせで挑む戦いの開幕で、無人戦闘ヘリたちが爆炎に呑まれた。
「ゴルディオン全機、攻撃開始!」
 先陣を切り、敵の攻撃の手を一つ奪ったのは、暁子の浮遊砲台『ゴルディオン』たちだ。
 彼女の√能力【静寂なる殺神機サイレント・キラー】は、敵の攻撃をキャンセルし、絶対的な先制攻撃を与える事を可能にする。
 その上、闇に紛れた隠密機動を可能にするという、この暗がりの倉庫にもってこいな追加効果まで持つ。
目標喪失ターゲットロストか。面倒な事になったね。
 片付けられるところからいこうか。」
 そう、そうそうに暁子の相手に区切りを付けた血濡れの着ぐるみを、突如として強烈な衝撃が襲った。
「その趣味の悪い着ぐるみ、敵対企業の刺客と見た!しかし、私を甘く見るなよ!
 ぬおりゃぁぁぁぁあああ!!!!!」
 何をどう納得したかはわからないが。
 古代角力(と言う名の万能武術オールラウンドマーシャルアーツ)のかち上げが、仮にも歴戦の傭兵であるベンジャミンバーニングバードにクリーンヒットし、その脳を揺らした。
 たたらを踏む着ぐるみに、追い討ちの居反りバックドロップが決まり。その頭を倉庫の床に叩き付ける。

「こいつ、なんてパワーだよ。ぼくを持ち上げるなんて…」
 揺れる頭、揺れる視界を押して立ち上がろうとする着ぐるみの頭に向けて。
 倉庫の暗がりを切り裂くように。紫電の閃光が奔った。
 ――ばちぃん!!!!
 大電圧が着ぐるみの頭部で弾け、その額に大きな焦げ目を作る。
 きぐるみが紅い瞳を向けた先には。クロスボウ…いや、『ヒットハム専用ひまわりの種射出装置すないぱぁらいふる』を構えた、跳助の姿が映った。
 ――【ヒットハム流暗殺電磁砲ハムテックレールガン
 それが彼の放った√能力の名だ。それはその威力に加え。
「仲間を盛り立てる縁の下の力持ち。侠気に満ちたそれがしにぴったりっす!」
 そう語る彼に相応しく、【10万ボルト】による味方の強化という、追加効果を持つ。
「凄腕ヒットハムの跳助たぁ、それがしのことっす!」
 サングラスの下、得意げに笑うヒットマンに、傭兵が血濡れの足音を響かせてその小さな身体を叩き潰さんと迫る。が。
「私の事を忘れてもらっては困るぞ。」
 かつて、『彼岸咲九尾』を名乗った妖狐、珠姫がその白い大きな尾を揺らして、立ちはだかる。
 魅了や、後方支援こそ得意とする彼女ではあるが。
 古妖として、昔取った杵柄もある。
 優美に、ぱちりとその黒い扇子を閉じて、突進してきたその大きな頭を【10万ボルト】を帯びた扇子で一突き。
 仰け反ったその身体を、合気で軽々と返してみせる。
 投げられ、撃たれ、また投げられと、思わぬ苦戦に、着ぐるみの下から舌打ちが漏れるが。
 傭兵が体勢を立て直そうと立ち上がり、二の句を紡ぐ前に。
 プレジデントと闇に紛れていた暁子のダブルアックスボンバーが、その着ぐるみの首を刈り取った。

箒星・仄々
黄菅・晃
コウガミ・ルカ
狐狗黎・コト
リディア・ポートフラグ

「ようやく今回の元凶をぶちのめすときが来たか!」
 金色ポニーテールに紫眼のドラゴンプロトコル、リディア・ポートフラグ(竜のお巡りさん・h01707)は威勢よく拳を打ち鳴らした。
 敵の見た目こそふざけているが、妬心と恐怖心を巧妙に煽り、速成テロリストや己の手駒……道具に作り変える手管。
 この事件に当初から関わっていたリディアは、ベンジャミン・バーニングバードの『任務』の手筈に、悪意と趣味の悪さを覚える。

「……。これが……黒幕……?なんじゃか、チグハグじゃのう…。」
「外見がゆるキャラさんだけに、余計に凄惨さが際立ちますね…」
 リディアと同じく、その見た目と行動に言い様のない齟齬を感じたのは、金の半人半妖である狐狗黎こくり・コト(警視庁超常現象特別対策室 510分室(非公式)室長・h01238)、そして黒猫の階梯1の獣人ケットシー箒星・仄々ほうきぼし・ほのぼの(アコーディオン弾きの黒猫ケットシー・h02251)だ。
 着ぐるみの姿こそ愛くるしく見えなくもないが、機関銃に手榴弾。
 まさに戦地の傭兵という出で立ちは、コトが『チグハグ』と表現するのもむべなるかな。
 そこに今までの戦いの被弾痕や斬撃痕を刻まれているが、全身に返り血を浴び、その足までべっとりと濡らした血糊。
 民間軍事会社『BBB』のマスコットキャラクターというが、仄々の言うとおり、『ゆるキャラ』としての在り方を大いに逸脱している。
 次いで、黒猫のエメラルドの瞳は、奥の部屋から溢れ出し。
 または、狂信者たちの亡骸から流れ出し、今や茶色く濁ったような血だまりに刹那、瞑目した。
「先の狂信者さん達のみならず救えなかった方々が大勢いるのですね。」
 ――悔しいです。
 星詠みの予知能力も、√能力者の力も万能ではない。
 簒奪者側の星詠みも、己、若しくは所属している組織のために、裏の裏を読むような星を詠まんとしているのだろう。
 しかしそれでも、犠牲が出れば己に不甲斐なさを感じてしまう優しさを持つのが、仄々という黒猫である。

 ――……グルルルルルル……
 そして、相手が着ぐるみであろうと、今にもその喉笛を食い破らんとばかりに唸りを上げるのは、人間災厄であるコウガミ・ルカ(人間災厄「麻薬犬」・h03932)と。
「ルカ、まだ「待て」よー?今回はアンタがサポートねー。」
 そう言って、猟犬ルカを御す主治医ハンドラー黄菅・晃きすげ・あきら(汎神解剖機関のカウンセラー・医師兼怪異解剖士・h05203)。
 汎神解剖機関所属の晃にとって、血濡れの着ぐるみが背嚢リュックに仕舞っている『クヴァリフの仔』は、『新物質ニューパワー』の研究対象として、是が非でも入手したい代物である。
 それ故に、一刻も早く怪人を打倒すため、その姿を観察していた。
 着ぐるみが儀式の犠牲となった者を『臆病者チキン』と評したことに対し。
(アンタもチキンじゃね?)
 などと、何とも言えない顔で、内心のツッコミを入れながらではあるが。
(晃が敵を見て何とも言えない顔してる……何かあったのかな。)
 その様子を見たルカが、首を傾げるも。晃の指示に従い、サポートに動く準備は整っている。

「良い。今を生きるの敵であれば、狩りとる以外の選択肢はないのじゃ。
 狩る者、狩られる者、それは何れか…。
 ……。むしろ、カルガモ……かのう……。」
 そんな晃の内心を読んだかのように、着ぐるみをカルガモの雛と表現したコトは。
 頭上でぶぅん、と、身の丈に合わぬ愛用の薙刀を軽々とひと回しし、その紅い瞳で狐の獲物であるヒヨコを見つめ。
「こういうやつをのさばらせておくのは、よくないからな。
 たまにはまじめにお仕事するとしよう。」
 本日は頗る真面目に『おまわりさん』をやっていた汚職警官リディアは、『龍腕』の銘の付いた、ドラゴンを模した籠手の拳を強く握りしめ。
 ルカと共に控える晃の足元からは、わらわらりと『喜怒哀楽の影』が湧き出ずると共に。
 彼女の補佐役の『悲しみの影』が手慣れたように、晃の手元に散弾銃ショットガン型シリンジシューターを手渡す。
「償いになんてなりませんが。
 クヴァリフの仔をこんな残酷なことをする方には絶対に渡しません。」
 仄々の抱える、翡翠色の手風琴アコーディオンが、深呼吸するように蛇腹を大きくうねらせれば。
 彼の桜色の肉球がボタンを弾く通りに溢れ出す、【愉快なカーニバル】。
 駆け出す面々に力を与え、背中を押すメロディと共に。この事件の最後の幕が開いた。

「一応、回収しなきゃならないクヴァリフの仔には気を付けながら……だな。
 潰してしまっちゃ元も子もないから、連携しつつうまくやろう!」
 見た目の年齢では最も年長者となるリディアが、真竜トゥルードラゴンにその身を変じながら、注意すべき事項を皆に再共有する。
 此方の目的は、ベンジャミン・バーニングバードの撃退と、『クヴァリフの仔』の奪取だ。
 多大な犠牲の果てに生じた『仔』を怪人諸共殺してしまっては元も子もない。
「ぼくとしては、こんなものに興味はないんだけどね。
 ぼくの『任務』もこれを持ち帰る事。破棄するわけにもいかないのが、雇われの身の悲しいところだよ。」
 対する血濡れの着ぐるみは、攻撃に対する『絶対先制攻撃』となる√能力、【BBB式投てき術】を以て、そのデフォルメされた嘴で器用にピンを抜き、突っ込んでくる警官に投げつける。
 放物線を描き飛翔する手榴弾を、リディアの足元から延びた『影』が巨大な手を模って迎撃し。叩き落した。
「この子の臆病さは、迎撃にはもってこいねー。」
 晃の√能力、【怯える影の拒絶シャドウオブソロウ】だ。
 『悲しみの影』を用いた通常攻撃が、2回攻撃かつ範囲攻撃になるという単純かつ強力な効果であり、変幻自在なればこそ、この『影』にできる事は多い。
 しかし、爆ぜる手榴弾に、晃は無表情の中で微かに眉を顰める。
 漂ってくる爆風と共に、目に刺激を感じたのだ。
「催涙ガス持ちか……。」
 おそらくは、催涙ガスの他、様々な効果を持つ手榴弾を備えている事だろう。
(感覚が鋭いこの子ルカは、催涙ガスとか閃光は不利かもね……)
『楽観の影』の壁の中から、猟犬ルカを効率的に運用するため。
 主治医ハンドラーは、悲しみの影の巨大な手を更に枝分かれさせて布石を打つ。

「こちらとしても、仕切り直しの時間は欲しかったからね。
 【CQ・CQ・UAH】。暫くは彼らの相手をお願いするよ。」
 爆炎と粉塵が晴れたころには、あの大きな着ぐるみの姿が何処にも見当たらない。
 敵のゆるキャラの√能力の厄介な点は、手榴弾の追加効果にこそある。
 投げた擲弾の効果を利用して、隠密状態に入るのだ。
 そして、代わって現れたのは無人攻撃ヘリ。ベルセルクマシンによって損耗してはいたが、それでもまだ余力はあるという事だろう。
 その銃口が、一斉に√能力者……いや、仄々に向けられる。
強化バフを撒く君は、厄介だからね。
 兵站を担う部分を叩くのは、戦いの定石だ。ここで退場してもらうよ。」
「いいえ。オーケストラは幕が下りるまでが仕事です。
 敵役ヴィランより先に退場する舞台など、有りはしませんよ。」
 手風琴を奏で、帽子シャコーの羽根をひらひらと揺らしながら。
 メロディに合わせてステップを踏み、『にゃんぱらり』っと、射線を縫う様に回避していき。
 奏で続けるメロディの音撃が、音符の渦が仄々の姿を隠しながら、攻撃ヘリに穴をあけていく。
「ふむ、ふむ。音の癖は掴みましたよ。これならばいかがでしょうか。」
 固有振動。ワイングラスをオペラ歌手がその声のみで破壊するパフォーマンスとして、共振現象は知られている。
 只人がやるのであれば、鉄の塊を音波で固有振動数の共振を発生させ、破壊に至らしめることは難しいだろう。
 しかし、只人に非ざる√能力者が、√能力を持って放ったならば。
 逃れ様のない音波に呑まれた無人戦闘ヘリたちが、一斉に花火と化し。
 黒煙を上げて墜落していく光景の出来上がり、だ。

 無表情の着ぐるみは、隠密の中で唖然としただろうが。
 次いで、その身体が一瞬にして業炎に包まれる。
「隠れても無駄だぞ、まとめて焼いてしまえばいいんだからな!」
 そう、真竜トゥルードラゴンと化したリディアが、広範囲にブレスを吐き出したのだ。
 ――【ドラゴンプロトコル・イグニッション】
 何らかの効果の対象となる度に体内の『竜漿』を大量消費し、枯渇すると意識を失うという非常に大きなリスクはあるが、そのリスクを補って余りある効果を発揮する。
 何しろ、攻撃・回復問わず外部からのあらゆる干渉を完全無効化するという、文字通りの『無敵』の√能力なのだ。
 幾ら多種多様の手榴弾を投げようと効果は得られず、むしろその居場所を晒すだけ。

 怪人傭兵は、着ぐるみに延焼した炎を消そうと床に転がるが、最早消火の暇さえ与えられない。
 倉庫の照明から、荷物から、あちらこちらから弾幕の様に物が飛んでくるのだ。
 投げられてくる先には、金毛の半人半妖の姿。
「あまりしない戦い方じゃが……幸いにも倉庫、使える物は幾らでもあるしのう。」
 アンニュイな表情の中に、微かに得意の色を見せ。
 【リアルタイムどろんチェンジ】で変身してはありとあらゆる場所から姿を現し、的を絞らせない。
(鳥さんじゃから、視野角は広く、死角を探すのは難しい。)
 コトがそう思うとおり、敵は着ぐるみの姿ではあるが、鳥のようでもある。
 最大限の警戒を以て当たって、損は無いだろう。
 物理的な死角ではなく、意識的な死角をつかせてもらおう。

 次なる行動に移るコトに、白衣のカウンセラーの声が重なる。
「ルカ、『よし』。」
 彼女の『影』が敢えて大きく動いていたのも、目的はコトと同じ。
『意識の死角を作るため』、だ。そしてその布石は、成った。
 ――……グルルル……!
 猟犬ルカが、晃の合図とともに『影』から疾風の様に飛び出し。その√能力を発動させる。
「……動くな。」
「なんだ、これ。ぼくの身体が、動かない……?」
 着ぐるみから、声は出る。しかし、凍り付いたかのように。石になったかのように、その身が固まって、動かない。
 ――【狂犬の咆哮】
 ルカを人間災厄ばけものたらしめる、力ある言葉『言霊』による強制停止。
 感覚が過敏となっているルカは、閃光や催涙ガスの影響が大きいと見た晃によって『待て』の指示を与えられていたが。
 その戦闘に紛れ、「過剰強化」された身体能力を活かして倉庫の内に潜んでいた。
 猟犬が駆け抜けざまにナイフを閃かせ、背嚢の肩紐を裂き。ケースごとルカの手に納まる。
「『クヴァリフの仔』、もらった。」
 雌伏していたのは、全てこの時のために。

「この…!それは、ぼくが持ち帰るべきものだ。お前たちにやってたまるか!」
 初めて、ベンジャミン・バーニングバードの無機質な声に、焦りの色が浮かぶ。
 しかし、上から降って来た斬撃が、その血濡れの身体が『クヴァリフの仔』の再奪取することを阻まんと、切り刻む。
「奪取が成ったのなら、最早遠慮する必要はないのじゃ。
 そちが持ち帰ったところで、碌な事に使われないことは目に見えておる。」
 薙刀と、コトがくるくると回る度に、着ぐるみの身体が千鳥足で躍る様によろめき。
「これ、私の特別性。たっぷり味わっていきなー?」
 晃の放った注射器シェルが、ばすん!と音を立てて着ぐるみの身体を吹っ飛ばし、壁に縫い付ける。
「ここまで仕込んだというのに、ぼくが、ここで任務を失敗するわけには……」
 血を吐き出すような気配を覗かせながら、その表情を変えない血濡れの着ぐるみの目に映るのは。
 色とりどりの音符の波と、口から輝く炎を溢れさせ、今にも吐き出さんと此方を見据える、紫眼の真竜の姿。
「悪因には悪果が伴うものです。悪役ヴィランが栄える試しはないのです。」
「さあ、これで終いだ。焼き鳥になって燃え尽きるまで、反省したまえよ。」
 音符の嵐に呑まれながら、灼熱のブレスが吹き荒れて。
 『クヴァリフの仔』を入手し、√ヒーローズ・アースに持ち帰ることで更なる混乱を拡げんと画策していた傭兵怪人、ベンジャミン・バーニングバードは。
 その名の通り炎にその身を焼き尽くされ、炭も塵も遺さずに、√汎神解剖機関から退去させられることと相成った。

●エピローグ
「間に合わなくて御免なさい。どうか、安らかに。」
 仄々が宙を泳ぐインビジブルたちに哀悼の眼差しを向け、犠牲者への鎮魂として演奏を続ける中。
 ルカが奪取した背嚢と、そのケースの中身の無事を確かめる。
 触手の生えたナマコの様な怪生物『クヴァリフの仔』は、確かにその触手をぺたぺたと動かし、生存しているのが見て取れた。
(他の√世界でも新物質で何をしたかったんだろう。俺みたいに新物質と薬を混ぜて身体を作る、とか……?)
 マスクを直しながら、そのケースを興味深そうに眺めるルカだが、ベンジャミン・バーニングバードの依頼人クライアントの本当の目的は不明のままだ。
 しかし、他√に渡ることを無事に阻止することができ、更に√能力者の側で確保できたのは大きな成果と言ってよいだろう。
「うねうねして気持ち悪いですね……。」
 演奏を終え、手風琴をケースに納めた仄々の口からは、見た目の正直な感想が漏れ出るが。
「これは、私が機関の仲間たちと、責任もって預かって解析するから。
 いつか結果が出る時を楽しみにしてなー。」
 晃は無表情も僅かに崩れ、眼差しは好機の色に輝いている。
 そんな白衣のカウンセラーの姿に、リディアはやれやれと苦笑を零し。
「じゃあ、仕事も終わった事だし……機関に『クヴァリフの仔』を届けたら、みんなでドーナツでも食べないか?
 こちらは竜漿の使い過ぎでくたくただ。」
「ドーナッツ!はその話に乗るぞ!仕事上がりのおやつは、たまらないのじゃ。」
 そんな、おやつの気配に目を輝かせるコトの無邪気な声音と共に。
 妬心と軽口からバレンタインデーを惨劇に染めんとした事件は、幕を閉じた。

 ――また、カップルなどの絆を確かめ合うイベントが控える時期に、同様の事件が起こらないことを願うばかりである。

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