大渦巻きへの誘い
●クヴァリフだって戯れたい
√汎神解剖機関――自らの『仔』を落としに落とした結果、混乱が起きているとも知らずに――仔産みの女神『クヴァリフ』はなんとなく思った。妾も『人間』のような事をしてみたい。仔となるべき汝らのように、お戯れと謂うものをしてみたい。テキトウに伸ばした触手が向かったのは別の√である。その√の名は『EDEN』。つまりはインビジブルな豊富な『我等』の故郷である。この√の人間であれば、仔となるべき汝らであれば面白い事も出来るだろう。何故ならば、この√は妾のいる√よりも平和的であるが故に。
クヴァリフ様――嗚呼、女神様――そのお戯れ、我々がご用意させていただきます。女神に引っ付いていた狂信者どもが跪いて提案をした。ほう……汝らが妾に捧げるものだ。さぞ、愉しいに違いない。では、遠慮せず申してみよ。
――ぐるぐるバットでございます。
……なんて?
●残念だったな、トンチキシナリオだ
「アッハッハ!」
星詠みである暗明・一五六の哄笑が響く。やけに脳髄を痒くさせるソレは嫌な予感を覚えさせるのに十分であった。
「いやはや。視えた。見えてしまった。これは……成程。女神様のご乱心とも謂うべき沙汰だねぇ。君達には√EDENにやってくるだろう『クヴァリフ』を退治してもらいたい。まあ、もっとも、この場合は退治ではなく……自滅させる、なのかもしれないが」
呵々と、勿体ぶって。
「君達にはひとつ支給しておきたいものがある。バットさ。いや、違う。クヴァリフをぶん殴るのではない。ほら、君ぃ、知っているだろう? 知らない者もいるかもしれないが、ぐるぐるバットというやつさ。その大会に参加した後、狂信者やら女神様やら巻き込んで愉快にしてやれと、そういう予知さ。まあ、せいぜい、頑張ってくれ給えよ。おっと。今回は競争ではない。耐久さ。耐久するのが肝だと覚えておき給え」
「ところで別ルートではぐるぐるバットを行う際、とある言葉を唱えるのがお約束らしい。なんだったか。ああ……思い出した」
レッツ・ゴー・サイクロン!!!
第1章 日常 『スポーツ大会!!!』

ヴォルテックス――!
説明しよう!
ぐるぐるバットとは!
芸人とか深夜番組に出演しているアイドルとかがやる例のアレである!
バットを地面に立てて、額を付け、ぐるぐると回る例のアレである!
なんでそれが√EDENで流行っているのかって?
知らん、こわ。たぶん怪異の所為なんじゃないかな。
己怪異!!!
兎にも角にも君達はぐるぐるバットをしなくてはならない。ぐるぐるバットを限界までやってなんとか耐えなければならない。因みにこのあと出現するだろう敵さんもぐるぐるバットで勝負を仕掛けてくる。まったく理解不能だ。
がんばれ!!! まずはバットの準備と練習をしておこう!
頭を支えたグラジオラス、紫色の唇に蜜を垂らすか。
二度あることは三度ある――諺の通りなのであれば、おそらく、三章と謂うものも納得出来るだろうか。いや、納得など出来ない。出来る筈がない。それこそ、虚空に向かって叫びたくなるような状況だが――挑む他にはなし。……己、怪異……いえ、店長様……なんて、なんてことを、なんて『もの』を詠むのでしょうか……。これは依頼だ。何処かの愉快な店番であれば、僅かくらいは『逃げ道』があってもおかしくない。しかし、仕事として受けてしまった場合は、頷いてしまった場合は、バットを構える以外に赦されないだろう。……あの、これ、散々やってるん……ですけど……? 最近も、見たし、やったし、ついでに片付けもしましたし……。慣れているのだ。慣れてしまったのだ。ならば恐れずに身投げをするのが己の為にも宜しいのではないか、よいのではないか。……自分が、怖い……。
大会とは言っているものの、スポーツの祭典の真似事と聞いてはいるものの、如何やら一般人は今のところいない様子だ。おそらく、怪異の仕業か、機関が秘密裏に手回ししているのだろう。……手回し……。ああ、今からやる事を考えると、やるよりも前に眩暈がしそうだ。一応、念には念を入れて囁いておくと宜しい。敵は回復しないはずですし、それに、その……。戻しそうな味方に対しての慈しみだ。少しくらいは手助けしたって怒られやしない。いいや、怒られそうだ。こういう時はたいてい、おいしいおもいこそを優先すべきなのだから。……僕は何処かの誰かみたいに、面白さを、重要視はしませんので……。
説明は不要だ。ぎゅっと渡されたバットを握り締め、かつんと、地面に立てる。立てたところにスグサマ額を近付け――俗に言う基本姿勢の完璧さ。……基本の姿勢? 基本の姿勢。何故か脳裡に過ぎった、知らない言の葉。まるで何者かが、無理やり捻じ込んできたかのような。……考えたら負け……8000回までは、いけたし……なんとか……? 呟きを挟みながらのレッツ・ゴー・サイクロン、虹色の彼方まで到達してはならない、生殺しなルール。……平衡感覚? 三半規管? ふつうに狂いますし、壊れますが? さぁ、と、昇ってくる気分の悪さ。この悪心はまるで情念を臭わせる鳴門の呼び声……。
……練習なので、手を抜きましたが……。
……手を、抜いて、これですか……。
脳味噌がひどく重たい、はみ出てしまいそうだ。
大きな大きなお人形に支えられて、憑かれて、一歩一歩進んでいく毎日だ。そんな毎日に訪れたひとつのイレギュラーな刺激、それが眼球の振盪だとしたら如何だろうか。慰めるように、首を垂れるように、懸命に|儀式《セマー》をやるとした場合、如何だろうか。兎にも角にも、そのような殊勝な沙汰ではない事だけは理解している。小さなお子様のぐるぐる遊びもちょっとだけ歳を取れば別ベクトルか。運動会でやったことあるの。みんなで誰が一番上手いか、長く回っていられるか勝負したのよ。脳裡に浮かんだのは放課後、クラス全員での練習の途中。調子に乗った男子たちが、文字通り独楽みたいに、馬鹿みたいにぐるぐる回っているところ。引きどころを知らないから、ムキになってるから、限界超えてもやってたから大変なことになってたのよ。ばかだねー。ああ、女の子の、少女の本音だ。あの時の少年たちが聞いたらさぞ落ち込む事だろう。二重の意味で頭痛を訴える。ま、その点、あたしはちゃんと練習して、色々調べて、コツを掴んだのよ。えーっと……確か……。回転の方向を意識する、眼球を回る方に向けて、視線に意識を集中させる、それと……回転しているのではなく、曲線を同じパターンで進んでいるだけと認識する……これだけで結構、違うの。違うのはけっこうだが能力者。これは『ぐるぐるバット』をしなさい、と、強制をしてくる怪異だ。もしかしたら、対策をしていても危ないかもしれない。うーん。やっぱり、下準備はしておくの。忘れようとする力だ。誰かの囁きも重なって具合の悪さは軽減してくれる。じゃ、久しぶりにやってみるよー。おりゃー! おっと、忘れてはいけない。レッツ・ゴー・サイクローン!
ぐるぐるバット――それは己との闘い。ぐっと、ぐぅっと、力いっぱい、目の玉を留めても時間の経過と共にブレてくるか。とりあえずと定めておいた運動会での規定数。ぴたりと足を止め……止め……られなかった。お……おぉ……目が……世界が回る……。嘔気にやられるほどではない。されど、失敗は失敗であった。か、体はコツを掴んでたけど、覚えてた理屈が間違ってたのかも。普通にコツをわすれてるの……? このぐるぐるする感覚、何処かで味わったような気もする。あ……そうなの。思い出したのはテレヴィジョン。成程、深夜番組云々が繋がっていたのか。ぷるぷると、気合を入れ直して立ち上がる。
コツを思い出すまで練習するの。
次は……折角だから、あの時の男子みたいに……いやいや、あたし、何を考えてるの。頭の中までぐるぐるしているのか。ぐるぐるぐるぐる、ぐるぐるぐるぐる……。
壊滅しているのは三半規管だろうか。
それとも、ネーミングセンスだろうか。
……前者だ。後者は死んでいる。
クール&ビューティー。そんな言葉がお似合いな、黒セーラーなオマエ、齢に関してのツッコミを華麗に流しつつバットを握り締めた。何もかもは怪異の所為である。怪異を召喚した狂信者どもの所為である。そして何よりも――怪異の頭である女神の所為。おのれ怪異……おのれクヴァリフ……! 潰してやる。このバットを女神の脳天に叩きつけ、冒涜の所業とやらを伝授してやる。……まあ八つ当たりは置いといて。外見の割には随分と落ち着いているのではないか、物分かりが良いのではないか。僕は飲み込みが早いからね、何にでも、たとえトンチキだろうとも、対処しようじゃないか。懐の深さが怪異級であった。いや、この深奥の具合は――何方かと謂えば妖気の沙汰である。
てな訳で、おでこをつけて……。女神……ではない『神』曰く、ぐるぐるバットは超自然との接触を、同化を早める為の儀式らしい。それを霊験あらたかそうなオマエが『やる』のだから、効果はまったく絶大とも考えられた。……え? 僕、どっちかと謂うと逆な気もするけど。気にしてはいけない。理解しようとすればするほど、怪異じみて手に負えなくなる。覚悟を決めて……すぅ……。深呼吸だ。肺臓ではない腹部を意識せよ。意識したならばそのまま、大きな声で――レッツ・ゴー・サイクロン!!! こういう掛け声は恥ずかしがらず、景気良くいくのがコツと見たね。流石はオマエ、流石は半人半妖、生き急いでいる人間の『ロマン』とやらがたいへん『よく』わかっている。あとは限界まで回るだけだ。
その『だけ』こそが最も難しい。ぐるぐる、グルグル、回転を続ければ続けるほどに『自分』と謂うものが混沌となっていく。あ……いけると思ったら、い、意外としんどいぞ……。ちょっと待って今どのくらい回ってるんだ??? 身体が回っているのか目が回っているのか脳味噌が回っているのか、よくわからない。というか……まわってるのかとまってるのかもうわからないのだけど……え? まだ? もっとまわれ? こんなんじゃたりない? 傾く身体に鉛のような頭、捻じるように軸合わせ。お……おのれ怪異……! 負けないぞ!! 山育ちだからリバースはしない。すごいよね山育ち。
蛸壺に入り込んだオマエ、坂道を転がっていくかの如く。
蛸神様が――たこすけが――依代を心配するレベルのトンチキだ。幾ら喜劇的な内容でも、幾ら奇天烈な沙汰でも、体調を壊すほどの類なのであれば止めようかとも考えはした。しかし、依代の意思を、意志を尊重するのも『かみさま』のお勤めだろう。故に、ちょっとくらいの痛い目とやらには沈黙する事とした。……ぐ、ぐるぐるバット……? 聞くだけで目が回りそうな……。何を隠そう八手・真人の身体能力は人並みである。くわえて、その健康状態は『常』だとしてもあまり宜しくはない。一応、様子だけ見に来たケド、ただでさえ貧血だし、流石に向いてな……? 参加者を見つけた『運営』の目はそれこそ狂信者よりも凄まじい。まるで獣だ。草食動物を睨めつける、飢餓にやられた獣であった。え? 俺は参加希望者じゃ、なく、て――ヒン……。不治の病とはおそろしいものだ。成程、オマエにとってのそれは『過去の経験』からしても仕方のないものか。
な……なんか受付係みたいな人に、木のバット持たされちゃった。ぐるりと、参加者の数を改めていく。ぽつん、ぽつんと、入ってくるのは他の√能力者だろうか。一般の参加者はあまりいない。その真実が余計にぐるぐるバットの過酷さを叩きつけてくる。……練習してなんとかなるもの、なのかな、コレ……。考えていたら日が暮れる。悩んでいたら日を跨ぐ。ならば覚悟を決めて、考えるよりも前に基本姿勢を取るべきだ。あ、あの、基本姿勢って……ア……ハイ……がんばります……。
バットを地面に立てたならばお辞儀をするかの如くに額を乗っける。バットを軸としたならば、そのまま、円を描くように足を動かす。ぐるぐる……ぐるぐる……。受付係の人がヤジを飛ばしてきた。もうちょっと速く回った方が良いですよ! も、もっと……もっと早く……ぐる、ぐる、ぐる……。なるべく長く、耐える。無理かもしれない。目を開けていても閉じていても、かなりの気分の悪さだ。回れなくなって、とまる。
ぐわぐわ、ぐらぐら。なんかが混ざって、頭の中がぐちゃぐちゃになって、おかしくなりそう……。俺、ちゃんと立ってるのかな。地面ってどっちにあるの。右も左も上も下もわからない。頭と地面が磁石みたいになって吸い寄せられる。た……たこすけの中に、いる、みたいな……? くの字だ。への字だ。四つん這いになっても、目が回る。
こ、これ、練習、したところで……目的ってなんだっけ……?
吐くなよ! 絶対吐くなよ!
ハリセンを――タライを――容赦なく喰らったかのような、脳震盪めいた喜劇であった。赫々としたオマエの目の玉に、双眸に映り込んだのはある種のEDENである。これは楽園だ。数多の人間にとっては地獄なのかもしれないが、羞恥なのかもしれないが、オマエにとっては実家である。芸人である私が参加しなきゃ嘘じゃない? 芸人として培ってきた今まで、お約束の三文字を身に染み込ませた人生。きっと上手くいく筈だ。上手くいく? ほんとうに? お上手にするなんてとんでもない。お上品さを前面に出すなんてとんでもない。とんでもないを『やる』のも芸人だ。成功するにしても、失敗するにしても、人を笑わせる事ができれば万々歳なのだ。そう、それで良し! これから始まるのは『わたし』の伝説である。どこからともなく流れてきたのは出囃子。オマエに相応な――長峰・モカに相応しい――賑やかしいものだ。はいどーもー! まぁ、こんなの楽勝過ぎてあくびが出るほどなんですけど! ところで客席には誰も座っていない。というよりも客席がない。なんなら、客となるべき人々もぐるぐるバットをしていてフラッフラである。🌈。
基本姿勢は完璧だ。女芸人として『やりかた』については出来ている。しかし、只『ぐるぐるバット』をするだけでは終わらない。ちょっと! こんなばっとなんなんすかー! 持ち込んでいたのはひしゃげている金属バット。キャーキャー騒いでいるのは返り血の所為か。スイカの代わりに頭部をぶん殴ったに違いない。兎も角、一連流れは終わりを迎えた。スプラッタの次はグロッキーであれ。
いよいよ本番である。此処からが芸人としての『腕』が試される。レッツ・ゴー・サイクロン!!! あらかじめ決められていたかのようにぐるぐると、独楽みたいに円を描いていく。みなさんね、ぐるぐるバットを馬鹿にしちゃあいけませんよ。視聴者の皆さんはね、やらせだとか思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、そういう方にこそ是非一度体験してもらい……そういえばわたし聞いていませんでした。
何回まわれば良いのかな???
カンペ「吐くまで」
ちょっとスタッフさん、ぐるぐるしてたら見えないんですけど!!!
可哀想な三半規管、酷使に酷使が重なって惨事を招こうとしている。百だろうと千だろうと万だろうと構わないと、そんな身体を張った者の末路は想像に難くない。め、目が回……う……気持ち悪い……。カメラ止めてカメラ!!! それかモザイク!!! 放送できない何かしらとのご対面。まったくおいしい時間であった。
ひっくり返ったのは己の頭の中身か、それとも、天地の方だろうか。
容赦なく伸し掛かってきた眩暈と嘔気、ぷるぷると痙攣するかのよう。
――前頭葉に御守りが張り付く、そんな予感。
頭が痛くなってきた。なんだってこうも、簒奪者と謂うものは、上位存在と謂うものはお戯れる事に執心しているのか。いや、もしかしたら、執心しているのは星詠みであるが故なのかもしれない。……人とおんなじ事がしたいで、なんで……ぐるぐるバットなのよ。おかしな話だ。奇妙な話だ。神様が人の仔の真似事をしたいのであれば、もう少しマトモなものを選ぶべきではないのか。やっぱり正気でない連中の上役だから、神様だから、尋常ならざる発想しかできないのかしら。それをやるならどっかの古妖さんと『おまわりさん』でもしてればいいのに。いい感じに回ってくれるだろうし、上手くいけば共倒れになって万々歳じゃないの。椿太夫も裸足で逃げ出すレベルの有り様だ。どうせ女神様も、クヴァリフ様も『狂信』とやらに巻き込まれた程度か。ふん、まぁいいわ。アタシにかかれば……アーシャ・ヴァリアントにかかれば、こんなもの朝飯前よっ。朝飯前でも昼飯前でも晩飯前でも結構だがドラゴンプロトコル、オマエはまったくフラグを立てるのがお上手なのではなかったか。いや、しかし本当に食事の前で良かった。あ、もちろん朝飯前ってのは比喩よ。ここに来る前にどっかのお店でしこたま食べてきたからね。力をつけなくちゃ始まらないのよ。あ、うん。頑張ってください。レッツ・ゴー・サイクロン!
自信満々だ。バットを地面に立てて額を付け、ぐるぐる、ぐるぐる回りだす。このくらいの回転、余裕よ、余裕。もっと回らないと怪異には勝てないのよ。覚悟は一人前だ。ついでに一人前の何かが昇ってくる。な……何事も、やり過ぎは禁物ね……。凄まじい眼球振盪と耐えられないほどの嘔気。ひっく、ひっく、胸のあたりが焼けてきた。うぇっぷ……ぇ。素晴らしいほどの回収ではないか。盛大な|🌈《リバース》ではないか。おまわりさんよりきつい。椿太夫の気持ちもわかる気がした。
お星さまは回っている、やんちゃなオマエを回している。
口腔へと投げ入れた|定義《キャンディ》、その、パチパチと謳う甘さについては『らくえん』内部でも未曾有とされた。すれば、いいのね……? 少女は――少女の偶像は――深夜番組に出演する|偶像《アイドル》らしさに興味を抱いた。この好奇心はあらゆる生命体を、知的生命体を汚染し途轍もない『ておくれ』を演出するのだろうか。ぐるぐる、すればいいのね!? 正解だ。大正解だ。オマエ以外の√能力者だって「ぐるぐるするのが好き」なのだ。ならば、オマエが大好きに『なる』のだって必然と考えられよう。やったことがあるわ! とてもたのしいことだって、わたしも、あの子も、知ってる! その子がいったい誰なのかは置いておくとして『バット』の用意だ。金属でも木製でも問題ないと受付の人は笑う。……? 肩を叩かれた。すごい勢いで肩を叩かれた。でも、受付の人はオマエの目の前にいる。では、誰からの『忠告』なのだろうか。飼い慣らされている『わたしを好きなひと』の背後からのアピール。まあいっか! 応援されてるのよね! 死霊の心、人間災厄知らずと描写すべきか。とりあえず。掛け声を決めると宜しい。
レッツ・ゴー・サイクロン!!!
ぐるぐるするのに必要なのは『てくにっく』だ。かしこく、いさましく回るのが金平糖への導と謂える。ぐるぐるのおじかん! 基本の姿勢に対してのツッコミはない。慣れていると、やったことがあると、宣言していたのだから完璧だ。そう、あたまをしっかりさげるのが作法! くるくる。くるくる。ぐーるぐる。お人形さんみたいに。
ぷぇ……。角を掴まれたあと、しこたま脳味噌をかき混ぜられる感覚。それを悪化させたかのような、筆舌に尽くしがたいもの。簡潔に『酔った』。あ……あれ……いがいとむずかしい……。されどオマエは理解していた。三半規管は鍛えられるもの。わたしはあの子とはちがって、あんまりよわくない……。もっかい……もっかい!!! 熱を孕んだ頭蓋の内、ぐずぐずに溶かされたか、スムージーの幻覚か。な、慣れるわ。たぶん慣れるわ! すぐ……。まわれ、まわれ、ぐーるぐる。リンゴのジャムかザクロのジャムか。
すぐぅ……?
ぱたり。うつぶせ。
開きっぱなしのぐるぐるなおめめ、地面と一緒に踊っている。
湯煎をされている。ヘラによって混ざっていく。
マーブル色をした世界の中心、へにょりと座り込む。
リンドー・スミスとの邂逅から数日――オマエは来るべき日に向けて用意する事にした。今日はバレンタイン限定チョコを買いに行っちゃうぞ~! 自身の分はもちろんだがリツ君やギョロ君、お世話になっているみんなの為にもけっこうな『量』を抱えねばならない。その為、かなり大きなカバンを提げており――ああ、ごめんなさいが、遅れてしまったのだ。えっと、ここはどこ……? あ、あの、すみませ……? これは……バット? 野球のイベントか何かでもやって……??? 通り過ぎてしまえば良かったのだ。立ち止まらなければ今頃、|EDENの《知らない》チョコレートを手にしていたかもしれない。え、なになに? どういうこと??? バットを渡してきた誰かさんが指差し、そこに広がっていた光景は――非現実的! いや、ある意味では現実的だが、こんな光景は中々、お目にかかれない。……ぐるぐるバット? ぐるぐるバットの大会? なんで!? 練習に巻き込まれてしまった。もみくちゃにされてしまった。もう断れないし、戻れそうにもない。これは……やるしかないね……。不運も不運、不運の渦中だ。リンドー・スミスと会話していた方が楽だった可能性が高い。ま、まずは……軽く準備体操から……。
全身の筋肉をほぐす……より、重点的にやるべきは『首』だろうか。ぐるぐるバットの基本姿勢は腰や首に負担がかかる。此処をあらかじめいい具合にしておけば軽減くらいは出来るだろう。よし。……あ、ぐるぐるする前に確か……れ……レッツ・ゴー・サイクロン? 間違っていない。若干の恥ずかしさを打ち消すべく、ぐるぐるぐる!!! どうにか十回は回れただろうか。ぐ……ぐぬぬぬ……運動会以来だから、きつい、けど……。目は回っている。眼球が振盪しているのがわかる。デスメタルのライブでヘッドバンキングしまくってるから……! 脳が揺れても、揺れまくっても、どうにか、耐えられる……! 回転ヘドバンも八の字ヘドバンもしてきた私なら! 大丈夫!!!
は、はにゃ……気持ち悪くは、ならないけど、ぐるぐるするよ……。
私、ぐるぐるが終わったら……チョコ買いに行くんだ……。
香久山・瑠色は怪物である。
頭の中身が熱を孕んでも、冷まそうともしない。
帰宅願望――回転せずとも、眩暈を起こさなくとも、ふらふら、行方については不明であった。√汎神解剖機関に向かっていたのか、√妖怪百鬼夜行に向かっていたのか、その他の√に向かっていたのか。その、どれでもなく、√EDENに迷い込むとは筋金入りと考えられよう。天性の迷子だ。覚醒する前から、欠落をする前からこのザマなのだから始末に負えないか。それよりも……僕、体育会系じゃないんだけど……。でも、折角だから、クヴァリフがぐるぐるしてるのは見てみたい……。怪異が、神様が、王権執行者が、ぐるぐると目を回しているところ、もしも見る事が叶ったならば、良質な土産話として提げられる。とりあえず……ぐるぐるバット『だけ』なら、人は死なない……死なないよね? 死なないだろう。一般人も能力者もみんな纏めて目を回したり、気持ち悪くなったり、頭が痛くなったりするだけだ。……念の為、能力使っておこうかな。何も忘れない、忘れてなるものか。永遠の迷子としての想いが『いたみ』や『くるしみ』をとかしていく。
でも、でも、僕……ぐるぐるバットのコツなんて知らないよぉ……。コツがわからなくてもいい。最も重要なのはぐるぐるバットをする際の姿勢だ。バットを地面に立てて、お辞儀をするかのように額をあてて、しっかりと、下を向く。これが正しい姿勢だ。こうでなくてはちゃんと眩暈を感じられない。じゃ、じゃあ……いくよ。その前に叫ぶのを忘れてはいないか。忘れてないよ。でも、ちょっとだけ恥ずかしい……? レッツ・ゴー・サイクロン。雀のような鳴き声だが、初々しくてたいへん可愛らしいか。
目が回るよ……。十回目だ。十回転に到達したが、身体がふらふらする程度だ。通常の人間であれば『この回数』でもけっこうつらいとは思う。ああ、しかし、オマエはどうして速度が落ちないのだろうか。頭が痛くなったり、吐き気がしたり、しないのだろうか。ぐ、ぐるぐる……え……まだ、回るの。ぐ、ぐるぐるぐる……。ざわつく会場。なんだあれ。フラフラしてるのに、目を回してるのに、回り続けてる……? 化け物三半規管か……? 無自覚とは本当におそろしいものである。負けるものかと、練習をしていた何者か。オマエと競っていた所為でお花畑に送られた。……まわる……けど、まだ、できます……。
|犠牲者《イケニエ》が弱いとは決まっていない。
ひょろもやしであろうとも、神へと挑むのには十分だ。
第2章 集団戦 『狂信者達』

ぐるぐる、ぐるぐる。
ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる。
真っ黒い、如何にもな集団がバットを軸にして回転している。
ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる。
ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる。
大渦巻きの模倣だろうか、或いは、女神の触手の模倣だろうか。
ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる……。
ようやく治まってきためまい、波のように戻ってくる。
ぴたり。彼等、彼女等が、とまる。
とまって、ひとりひとり、ふらふらしたりひっくり返ったり。
……うっ……め、女神様の……ため……儀式、を……。
ぇ……完遂……せ……ぅぇ……ねば……。
なんかもう既に死屍累々だけれども、君達はやらねばならない。
そう、彼等、彼女等、狂信者達と……。
ぐるぐるバットで勝負しなければならない!!!
※※※
特殊ルール
あなたは必ず目を回す事になります。
如何にして嘔吐しないか、嘔吐させるかが勝負のカギです。
宜しくお願い致します。
石橋を叩いて渡る、ただし、ぐるぐるバットをしてから。
目が回る――その言の葉を手繰るのは、嗚呼、ワンオペしている時だけでお腹いっぱいだ。お客さんの注文に、お喋りに、しっかりと応えられている現状こそが奇跡と謂っても宜しい。だと謂うのに、連中は――愉快にも星を詠まれるべくEDENとすっかり仲良しこよしか。……はぁ……。此方も彼方もフラフラのヘロヘロ、如何してこうも正気と呼ばれるものをどいつもこいつもぶん投げることが出来るのだろう。……隣の芝生は、青く見える、とは、言いますが……。本当に真っ蒼だなんて想像してすらいなかった。……ここは、無難に……。挑発した方が楽なのかもしれない。いや、楽は楽だが、それは戦闘にならないだけの事だ。むしろ、普通に戦っていた方が幾らかシリアスだったのかもしれない。……まだ、僕地味に……余力あるかも……。眩暈の味に慣れてしまったのかクセになってしまったのか。不意に思い出したのは従業員のひとり。……そう、です……あの人がゆっくり、できるように、僕が的になるのも、ひとつの手段なのかも、しれません……嫌ですが……心底、嫌ですが。何処かの誰かさんの頁が呵々大笑をしている。大賞はオマエのものだ。
念には念を入れておく。練習をしたと謂っても精々が付け焼刃、本物のぐるぐるバット選手には遠く及ばない。……ぐるぐるバットの選手、って、なんですか? 横入りしてきた思考を拭いつつグロッキーな彼等、彼女等に煽り文句を叩きつけよ。……そんなもので、そんなぐるぐるで、貴方様達の女神様は、クヴァリフ様は、喜ぶんですか? ……くすっ……僕にも勝てないのに? 最近したたかさを身に着けたオマエの嗤笑、これには目を回していた連中も怒り心頭か。……なら、勝負、しましょう。10回? いいえ、10分間。ざわつく。正気か。いや、クヴァリフ様へ捧げる儀式なのだ。10分くらい痛くも痒くもない……! 確かに痛くないだろう。確かに痒くないだろう。もっと別の問題が出てくるのだが。……無論、🌈した方が、負けです、よ? レッツ・ゴー・サイクロン、意地の張り合いが始まった。
否である。意地になるのは狂信者達だけだ。オマエは|見せない怪物《インビジブル》との融合によって狂った、壊れた、平衡感覚やら三半規管を正常に戻していく。ひ……卑怯だ。卑怯な奴だ。正々堂々、ぐるぐるバッ……ぁ……むり……。よれよれと、枯れ枝のように倒れた狂信者数名。そのまま虹の橋を渡っていく。
……廻っても平気になってきてることが、慣れが、辛い……。回復と眩暈の反復横跳びだ。容赦なくやってきた波をこらえて、只、ぐるぐるぐるぐるぐるぐる……吐きそう。そろそろスッキリしてみては如何か。……まだ、いけます……。
兄ちゃんがいなくてよかった。
もし、一緒だったら、今頃どうなっていた事か。
受付の人がいなくなっていた。もしかしたら、あの人も狂信者達のひとりだったのかもしれない。小刻みに震えていた、回っていた目が如何にか治まったところで周囲を改める。改めたならば如何だ。まったく新鮮さを感じられないシュールな光景である。ウワーッ……。小さい悲鳴なのか大きい悲鳴なのかは解せないが、困惑を隠しきれていない事だけは確かだ。みんな……みんな、まわってる……敵も味方も関係なしにぐるぐるバットだ。ぐるぐるバットの後には九割🌈の綺麗さが残されているか。お、俺も……俺も、回る。ぐるぐる、ぐるぐるぐる……。落ち着いてくれないか依代くん、君はまだ回っていないし、さっきの眩暈も止まったばかりだ。むり、何もしてないのに、目が回ってきた……今は、横、縦、斜め? 何をしたら勝利なのか。何をしたら儀式を阻止出来るのか。わかんない……わかんない。あらゆる意味で目を回してしまったオマエ、今すぐにでも帰りたい気分だ。兄ちゃん……兄ちゃん、どこ~……? そっと、掴まされたバット。いや、いや、もう、ぐるぐるしたくない。
バットを渡してきたのは狂信者の一人だった。此処で敗北を宣言した場合、クヴァリフ様はより強大になられる。されど、女神様は能力者同士のぐるぐるバットを所望なのだ。さあ、能力者よ。我々を倒したのであれば、次は、女神様の寵愛が待って……。耐えたら、勝ち。相手が、倒れたら。勝ち。たおす――? 文字通りだ。文字通り、目を回した敵さんが倒れたならばハッピーなのだ。なら……たこすけ、やっちゃえ~……。へにょへにょとした発動ではあったが足元を掬うくらいならば容易い。墨に塗れた狂信者達はそれこそビリヤードめいて、右へ行ったり左へ行ったり、つるつる、くるくる、ズルズル……。アハハ、俺の勝ち~。グッドサインを魅せつけるのは良いのだが依代、先程よりも強烈な目回しにやられていないか。あ、あれ……なんで……あ……俺、バカだ……。
たこすけの墨は己の血液である。墨を、血液を、莫迦みたいに散らかしてしまったら、より重い貧血に苛まれる。加えての眼球振盪だ。鉛のような脳味噌だ。やばい……やばい……むり、むり、むり……ッ……。がくんと、身体がおちる。駿河問いでもされたかのような、星空よりも廻る視界。ウ……ウグ……。
眩い、暗い、まっくらい……。
忘れられない地獄絵図となった。
死屍累々だ。何もしていないと謂うのに、既に、狂信者達の何人かはお花畑とキャッキャしている。おそらく、その何人かはよわよわ三半規管なのだろう。彼等、彼女等では到底バケモノ三半規管に敵いはしない。つまり、彼等彼女等はある意味で幸運だったのだ。オマエと激突していたならば今頃バターになっていた事だろう。……続行でいいかな。何を続行するのかと、何を引き延ばすつもりなのかと、首を傾げられたならば迷子、改めて能力を行使してやれ。これは、オマエが巡らせた罠である。これは、オマエが廻らせた罠である。帰宅願望を滴らせる事によって敵にだけ蓄積の負荷を強いる。いや、まあ、吐かないだけで、僕も目は回しているんだけど……。だからこその面倒臭がりだろうか。というか、敵さんは能力を使う余裕すらもない様子だ。敵に弱味を見せるつもりはないんだけど、あの状態じゃあ、見えてないよね。でも、元気よく。「レッツ・ゴー・サイクロン!」なんやかんやノリノリではないか。信じられないくらいの勢いではないか。背中を押された狂信者達も震えながら『合図』に応える。あとは先程と同じだ。基本の姿勢を怠らず、ぐるぐる、ぐるぐる。
吐き気はない。胃袋が痙攣する事もない。だけれども、言った通り、しっかり眼球は振盪してくるし、なんだか、頭の中や、精神までもぐるぐる、ぐるぐる忙しない。そうだ。声援を送ってもらおう。オマエが選んだのは小雀だ。彼等は文字通り雀の涙程度の戦闘力しか有していないが――増殖する『特異』を持っている。三半規管は耳にある。耳の奥のカタツムリではないが、まったく、持ち易そうなカタチをしている。聴覚って、脳にキくから。小鳥も囀りも……。おお、大合唱だ。大合唱が、騒がしさが狂信者ひとりひとりの頭蓋の内をノックする。……気持ち悪くなるよね、うん。イメージ通りの大惨事だ。次々と🌈を散らかす狂信者達。オマエは頑丈故に問題なさそうだが。他の皆様の具合は如何に。
これは、実に……もらってしまいそうな沙汰である。
脳味噌を洗う行為に抵抗はなかった。
抵抗する意識もまた、大渦巻きに呑まれていく。
🌈だ。🌈まみれだ。レインボー・カーペットと描写すべき、酸っぱい臭いの充満である。うぇっぷ……練習で力尽きるところだったわ。美しいほどのフラグの回収をしてくれたオマエ、此処は拍手喝采をしたいところだが『それ』をやっている場合ではない。複数の狂信者のキラキラによって地獄絵図を踏むか、踏まないかの瀬戸際である。おのれぐるぐるバット、恐るべし……! ていうか汚いのよ。これ、もしかしてもらい🌈させるって卑劣な作戦じゃないわよね? ……まぁ限界はわかったし、掃除だけしておいて、さっさと始めましょ。アンタたちが恥を晒しているところ笑ってあげるわ。それで、アタシの勝利は確実。|義妹《サーシャ》の名前を賭けたっていいわ! へえ、さっきまでフラフラだった小娘のクセにいい度胸じゃないか。ここは俺が、俺達が相手になってやるよ。女神様の親衛隊的な連中が出張ってきた。その余裕、いつまでもつかしらね……!
バットを地面に立てる――突き立てる――と、同時に、足に力を入れた。パフォーマンスと『攻撃』を兼ねて、終わらせると謂うのがオマエの策である。そして、策が発動された時点で、√能力が発揮された時点でアーシャ・ヴァリアントの勝利は確定した。グシャグシャに踏みつけられた、揺さぶられた三半規管は最早再起不能。バットにすら辿り着けなかった連中は「卑怯」の二文字も🌈で塞がれたか。いざ、尋常に勝負っ……何処が尋常って? 気づいてなけりゃ何も変わらないし、たとえ、気づいていても、訴えることが出来なければ『尋常』でしょ? 重要なのは押し付ける事だ。相手に不利を押し付ける行為だ。
レッツ・ゴー・サイクロン!
ぐぬぬ……。限界を超えてしまった先程よりかは『マシ』だが、やはり目が回る。キツくなってきたけど我慢……我慢……。吸い付くかのようにして脳裡、浮かび上がったのは義妹ちゃんの顔。がんばれ、まけるな、(目を回して吐き気を我慢してるお義姉ちゃんも)かわいいよ、そんな声援が届く……。大丈夫っ。アタシには|義妹《サーシャ》がいるもの。ほら、アタシはしあわせ、とっても、しあわせ。幸せな気分になれるんだものっ。成程、別の意味で目を回していればなんの問題もない。
問題しかない。
どてーん!!! 大転倒!
起き上がろうとしても、起き上がろうとしても、達磨のようだ。
達磨さんごっこの途中で、ちらりと、テロップ。
上手からやってきたのはカタツムリである。ぼくの名前は三半規管! これから、どうして目が回るのかについて解説するよ! いやアンタ蝸牛やないかい! でもぼくのヌメヌメしているところを見てよ、身体の方が半規管っぽく見えないかな? そう謂われてみればそうかもしれない。いや、いやいやいや、待って待って、そもそもなんでカタツムリが上手から出てくるねん! 鋭いツッコミからの強烈な目眩み、ぐるぐるバットのぶり返しか、或いはロクに呼吸をしなかった所為か。兎にも角にも……。相手を嘔吐させる方法、それは、相手に口をひらけば良いのよ! 先程の一人芝居も『それ』の為か。さっきの|放送できない何か《お口マーライオン》もあって胃の中はからっぽ! 伽藍洞の状態であれば吐きたくても吐けない! そう、これは絶対に勝てる試合だ。もう乗るしかないだろう。さあ、狂信者くん! わたしの噺を聞くんだね。いつかの出囃子と共に侵すとよろしい。そもそも、今回の依頼に『笑えない要素』なんてないだろう?
下地作りは上々だ。あとは己のかっこうを整えておけば完璧と謂えよう。ほんの少し、ほんの僅かにだけジャージのチャックを緩めておく。重要なのは放送できるギリギリだ。青少年が際どさにやられるくらいの調整……。これで、笑ってくれれば、笑わせることができれば、いける……はず! 司会の誰かさんが企画タイトルを謳っている。🌈の彼方へ! ぐるぐるバット対決~!!! さあ、始まりましたこの企画! 参加者の皆さんに意気込みを訊いてみましょう。まずは長峰・モカさん――。気合を入れろ。高らかに叫べ。
レッツ・ゴー・サイクロン!!!
狂信者の皆さんは既にへろへろだ。右往左往すらも出来ない彼等彼女等の中心、オマエは太陽の代わりをしていた。ぐるぐる、ぐるぐる、これで何回まわっただろうか。モカちゃん! そんなに振り回したら、僕、こわれちゃうよ! かき混ぜられた味噌汁の具材ども、おたまから解放されても尚、ぐるぐるぐるぐるぐるぐる……。ちょっとだけ。ちょっとだけ、クスリをいただいた。必死にこらえていたものが狂信者達のお口からこんにちは。
か……勝ったよ……勝ったけど……気持ち悪い……。目を回しながらも如何にかお花畑から這う這うの体。攻めすぎて……浴びるのだけは嫌だなぁ……。🌈スプリンクラーに巻き込まれなかったのは幸運である。幸運ではあるのだが、もれなく貰ってしまいそうだ。ちょ、ちょっとCM……CM……挟んで……。
う……うぐぐぐ……。頭蓋と脳髄の狭間、しっかりとこびりついた眩暈は容赦を知らない。じっとりと垂れてきた冷汗は如何したって拭えないか。まだ……まだ、目が回ってるぅ……。もしもお近くにイケオジが居てくれたなら、素敵なおじさまが居てくれたなら、介抱くらいはしてくれていたかもしれない。でも……真っ黒な人達と勝負する流れになってるから……。よたよた、ふらふら、崩れそうな砂山を彷彿とさせる身体。なんとか、瀬戸際で立位とやらを保っている。踏ん張れ……踏ん張れ……私……! たとえば、目の前に指を立てて、じっと、より目になるように見つめる。ふう……ふう。かっこ悪いけど、なんとか治まったかな……? 首を回して――それで目を回さないように――再びのストレッチ。ルーティンを終えたならば、ズガンッ! バットを地面に突き立てる。私は真っ黒な人達に勝って、チョコレートを手に入れるんだ……やってやる。やってやるぞ。ごくりと、唾液か胃液かわからないものを飲み込んで、呼吸を整えて、咆哮。
レッツ・ゴー・サイクロン!!!
負けるものかぁ!!!
今日は……今日は! ずっと入荷待ちだった限定チョコを買える日なんだよっ! パッションフルーツ入りの生チョコ! それを、胃液なんかで台無しにしてたまるもんかっ! わかる? 私がどれだけ楽しみにしてたかわかる!? 怖気づかないぞ、負けないぞ。勝って……絶対に……売り切れる前に! 意思表明は結構だが、吠えまくっているところ悪いが、舌を噛まないように気を付けてくれ。ぐるぐるぐるぐる、ぐるぐるぐるぐる、チョコレート味のソフトクリーム。ぐるぐるぐる……あう。目が回る……んんッ……。
響いてきたのはデスメタル、凄惨なまでの音が半規管を刺激したか。
揺れまくった頭、脳髄が孕んだのは幻覚か。
ああ、いっそ、心地よさすら感じるね!
ぴたり。急に止まったからこそ味わえる、病的なまでの悪心感。……気持ち悪い。でも、それでも、吐きたくない……っ。食堂のおばちゃんが作ってくれたエビっぽいグラタン。吐くわけにはいかない! あ、でも、グラタンってなんか🌈っぽ……ダメダメダメ……。耐えた。耐えきった。狂信者達の🌈がチラッと見えたが、見ないふり。
回りすぎて悟りを開いた。
ぎゅるぎゅるとやかましい眼球が、喜悦を湛えてくれる。
もはや独楽だ。独楽のような幼女だ。付喪神ではない。
人間である。
ありとあらゆるスポーツには、ありとあらゆるものには、経験と謂うものが不可欠である。積み重ねれば積み重ねただけ、挑めば挑むほどに、より、高いところへと足かける事ができた。されど、ああ、世の中にはむしろ練習していない方が『映える』ものはあったりする。それがぐるぐるバットなのだが――運動会である場合は、別。なんとか、コツを思い出してきたのよ。今なら誰にも負けない気がするの。フィギュアスケートの選手とかには勝てないかもしれないけど、それ以外ならどっからでもかかってこいやおらぁ、なの。可愛らしい口調にちょっとだけ混ざった口の悪さ。目を回していた狂信者達もこれにはびっくりだ。そ、そんな言葉、お友達に使っちゃ駄目だからね。知ってるの。というか、もしかして根は良い人だったりするの? ごほん。あらためて……ふっふっふ、お嬢ちゃん、目を回したくなかったらおうちに帰ってママのおっぱいでも吸ってるんだね……! やっぱり悪になりきれてないの。なんだか一生懸命なの。きっとふわふわしている所為だ。回りすぎてふわふわする、今のオマエのような状態である。でも、何だか気分はいいの。ぶおん、ぶおん、バットに身体を持っていかれそうだが、気にしない。大人たちがみんなでぐるぐる、バカみたいに回ってるの。あたしも負けないぞー。レッツ・ゴー・サイクローン。はじまった。はじまってしまった。
死にかけの大人たちに混ざったオコサマ、何方が有利なのかと問われれば、オコサマの方だ。大人のみなさんはきっと、グルグル回ったら気持ち悪くなる、と、全力で断ってきたに違いない。つまりは、楽しめるのか否かだ。これを遊びと認識できるのがオコサマの特権である。まだ全盛期には一歩届かないの。一年生のクラス対抗で首位を取った実力を今こそ取り戻すのよ……。ざわつく会場、まさか、こんなところに強者が潜んでいたとは……!
ぽよん、変身した。幼女である。それも、ただの幼女ではない。活発で機動力抜群な幼女である。そういえば、あの時も結局、最後は男子たちと一緒に限界を超えてぐるぐる回って、後先考えないで無我夢中に走ってたら勝ってたの。やっぱり、一番のコツは面白がることなのよ。ああ、狂信者達の大惨事。そんな中をまわる、まわる。
永遠に子供でありたい、そんな願いが🌈をかける。
渦をなぞっていく濡れ烏、抗えない気質に頭を垂れるか。
その外見で、その格好で、千鳥足になっているのは法律上あまり宜しくはない。しかし、実際はまったくセーフなお年頃なので、あしどり怪しいお姉さんなので、問題の欠片もなかった。うぇっへっへっへっへっへ……へっへっへっへっへ……ぐーるぐーる……。胡乱な雰囲気を醸しながら、かもしれない運転をしないかの如くに、あっちへこっちへ身体が傾く。こりゃあ楽しくなってきやがったってもんだね、ねぇ? ひどく酔ってはいないだろうか。アニメーションみたいに、目玉が、上下左右バラバラに動いてはいないか。いや、そんなことはないさ。ただ……視界がぐるぐるして、目が回って、なんだか気持ちいいんだか悪いんだかわかんなくてさ……へへ……へへへへ……。さては回りすぎて、目を回しすぎて正気を失くしているのではないか。……へへぇ……はっ! 負けないぞ!!! ようやっと正気に戻ったご様子だ。頑張って、気力をひねり出して、一瞬だけの沙汰ではあるのだが。何もかもは怪異の所為である。何もかもはクヴァリフの所為である。おのれ!!!
一呼吸おいて頭の中、こねくり回したのは策であった。向こうは大人数。ひとりが目を回して倒れて、🌈の彼方にお呼ばれされても、第二第三の狂信者がやってくる。だけど……こっちにはポチ太郎がいるんだぜ。地を這う獣のポチ太郎、たくさんのおててを生やして、高速移動を反芻している。うーんかわいい。かわいいね。ほら、ポチ。トンボを追いかけてきてごらん。そのおててで、その指先で、ぐーるぐーる、あいつらにとどめをさしてやれ。そう……ぐーるぐーる……あ、まって僕もなんだか目が回ってきた……。トンボごっこの行方は地震だ。自信過剰だった連中の三半規管に地獄を見せてやれ。うへ、うへへへ。どうだね。僕の勝利はこれで、揺るぎないものになったはずだぜ。
サッとポチ太郎から視線をそらして、改めてのぐるぐるバット。
あ……静止していたら逆にやばい? なので僕は回り続けます。とまったら虹が見え……レッゴーサイクロォン!!! ゴー!!! 山育ちなので頑張れる。いやこの山育ちってさては根性論の類だな???
これは🌈ですか? いいえ、のうみそです。
応援されているのだと、背中を押されているのだと、勘違いした結果がこの無様なのだ。仰向けに転がっていたオマエ、からからと、頭蓋の内を駆け巡っているのは甘くてキラキラした金平糖。徐々に徐々に曇っていく頭の中、脳味噌の代わりに目玉が色を失くしたか。……いっしゅうまわって……いっしゅう……? 果たして何回転したのか。神様に訊いたって仏様に訊いたって保護者さんに訊いたって答えなんてものはない。まわって……おちついて、きたわ……? 強がりではないだろうか。正気のフリをしているのではないか。角掴みからの揺さぶりで目を回すくらいには、あんまり、強くないのではないか。ほんとよ。なれた。なれたの。なれました。もう自己暗示の領域ではないか人間災厄、あの子の気持ちとやらを存分に味わってくれるとよろしい。えっと、じゃあー……あっ、だめ、あたまくらくらすりゅ。わかんない。オコサマのような舌の回しだ。くらくらを餌にしてぐるぐるが釣られる。うーん……あ。そう。こういうときはねー……。嫌な予感がする。嫌な予感が全体に満ちていく。きっと、今もぐるぐるしている味方さんにとっても嫌な予感だ。
あなたたち、ぐるぐるするのもすきだし『目をまわして、吐いちゃうのも好き』なのよね? あーあ。やっちゃった。やってしまった。自分を含めた『|定義付け《レッテル》』だ。もちろん、この√能力は味方にも効果を発揮する。だから最後なんだね。なんの話だろうか。ね~? わたしに、こわいことするより、まわるほうがだいじよね? ね~。賛同の声はない。何故なら狂信者達はぐるぐる回っているからだ。ほーら。まわってーまわって~。それでもたりないだろうから、もっと、まわって~。のうみそぐるぐるかきまぜて『しぇいく』にしましょ? もうまわれないの? 回れないに決まっている。オマエの所為で彼等彼女等の脳味噌、しぇいくみたいにドロけていた。そう、手を貸してあげるわ、支えてあげるわ、すとろーもさしてあげるわ、大丈夫、だいじょ……。きっと無意識だ。無意識のうちにぐるぐる、バットを軸に大回転していたのだ。その結果が我慢の限界。ああ、出てしまう。可愛い女の子、出してはいけないものが、あふれてしまう。
けぽ。🌈
第3章 ボス戦 『仔産みの女神『クヴァリフ』』

女は――仔産みの女神は――実のところ、困惑していた。
ぐるぐるバット。
いや、確かに妾は、汝らに人間の『やること』を教えてくれと頼んだ。確かに頼んではいたが、この、醜態を晒すだけの行為はいったい『なに』だ。しかし、妾の為に『子供候補』が提案してきた遊び。ここで弱腰になってしまうのは女神としての矜持が赦さない。よかろう。その戯れ、妾も『のって』やろうではないか。汝らがぐるぐるバットを望むのであれば、母として存分に付き合ってくれよう……!
……√能力は極力使わない。
汝らも、能力なしでぐるぐるするといい。
妾も、汝らも『目をまわして、吐いちゃうのも好き』なのだ。
汝らが普通に戦うと謂うのなら、それも良いだろうが。
贄は贄らしい反応をしなければ『贄』とも認識されない。
基本的には出来ない意思疎通、頭を下げると宜しい。
水槽の中――宇宙の彼方――独り、空回るかの如くに、宙廻るかの如くに、呑み込まれる。上下左右が解せなくなるほど、自分自身を見失うほど、阿呆みたいに撹拌させられたのか。つまりは、そういう感覚に、眩暈に、狂言回しみたいに引っ張られていると謂うワケだ。勢いよく引っ張り出された結果のよいではないか、絡まった触手のような混沌に襲われる。……能力を使わない……? それは無理な話ではないだろうか。オマエにとって、オマエのような種族にとって、この能力は『生態』に匹敵している。たとえば女神様の再生能力みたいに『有無』が自由ではないのだ。……勝手に治しにくる場合は、どうすれば!? む、汝、確かに、なかなかに美味そうな匂いをしている。成程、喰われているのも納得だ。良いだろう。そのくらいのハンデであれば、妾も甘受するとしよう。……いえ。僕だって能力者です……ですので、お願いする、事はできます……。慣れてきた。慣れてきたのだから、最後くらいは人間のような状態で味わっておくのも悪くはない。そう、今後の為。具体的には――あの不憫な娘の助けになる為――汝、自力でやるつもりなのか? 良いだろう。妾は、汝のような存在を応援し、上質な仔として迎える事も良しとしている。
……とりあえず、勝負しますか……? 何回まわったのか。正確な数は不明だが、少なくとも『万単位』には到達している。尋常の生物であれば三半規管以外にも支障が出ていそうなものだが、見えない怪物さん達のおかげだろう。……でも、そんな自分に、嫌になる……。ぐるぐるバットの選手でも、めまいのプロでもない。ただのバイトがここまで『至れた』のはおそらく何かしらの切っ掛けの仕業か。……意地はあるのです。これでも……誇りはあるのです。……誇り……? ……あの店の!!! な、汝、何をそんなに興奮しておるのだ。いや、これは興奮なのか? いや、別のものかもしれんが……兎も角。やるのであろう? レッツ・ゴー・サイクロン!!! 最も強き仔は審判をしている。
正直、吐きたくない。吐いたら、きっと、いぢわるされる。汝……限界ではないのか? 妾が目を回しそうになるほどの回転だ。回復を拒絶したのであれば、汝、人よりも脆いのではないか……? 脆かろうと弱かろうと、倒れそうになろうと、実際、倒れても。オマエはぐっとこらえて、基本姿勢に戻ってぐるぐるして魅せた。汝……やめておけ。いや、やめてくれ。妾は……妾は……。でろり。女神様の口腔、はみ出た怪異の分泌物。
……僕の、勝ち、です……っ……。
お花畑への導きだ。かくれんぼをした。
……でも、我慢。ギリギリまで、我慢……。
……飲み込めたなら、少しは、あの方の盾にはなれるのかも……?
蛸墨か烏賊墨か、或いは別の何か。
目を回し過ぎたオマエは如何にか、足を滑らせないよう、
ゆっくりと座り込む。
え……? 女神様からの宣告は、クヴァリフからのお言葉はオマエにとってあまり『気分のいい』ものではなかった。それもその筈、オマエの身体の丈夫さの秘密は只の『その星の生まれ』として片づける他に皆無故。反則禁止!? 能力使うなって? いや、僕はわりと正々堂々、ただただ狂った独楽みたいに回ってるだけなんですけど? 汝……見苦しいぞ。妾が気持ち悪くなって、嘔吐してしまうほどの回転だ。ただの人間が、妾の子供の候補が、目を回すだけだなんて、ありえるものか……! はあ? ちっとも吐かないのは、蒼白すらしないのはおかしい? 人間のくせにつまらない? いや、そこまで謂ってないが……。悪かったですね、つまらなくて!!! いや、まあ、実際、神様にとっては面白くない沙汰だろう。困惑している中で平然と、冷静さを維持しているオマエの存在は、人間の存在はあまりにも奇妙でならない。それじゃあ、僕以外が回ればいいんですね? そういうことですよね? 召喚したのは一匹の烏であった。烏の足の本数についてはこの際触れないでおく。烏戸、人型になってもらえる? どろんと、烏はその姿形を哺乳類へと変化させる。学ランを着用している健全な少年のお顔。なんだか、ヤケに曇っているような気もするが。わ、烏戸……? このバットは武器じゃないってば! バットを振り回して攻撃するんじゃなくてバットを軸にしてぐるぐる回るの!!! 拒絶だ。少年は拒絶の意を治めようともしない。お、おい、汝……烏に、三半規管よわよわ生物に、それは酷……ま、待て。妾は西瓜ではない。そう簡単に割れはしないが、痛いものは痛いのだ……。タコ殴りにしなくてもクヴァリフはタコでしょ!!! 妾、神なのだが??? あ、いたい。思ったよりいたい。回る前に目が回るかもしれん……。
ごほん――ともかく。『仔』と『少年』は審判をすることになった。ぐるぐるバットの審判ってなんだ、そんな疑問は🌈と共に流しておくと宜しい。仕方ない……最後も、僕が回りましょう。レッツ・ゴー・サイクロン!!! 汝……これで能力は使えまい。汝が目を回して、お花を摘んでいるところを想像すると、胸が躍……?
数分後。
形容し難い何かを散らかしている女神様ひとつ。
う……な……なぜだ……何故、妾だけが、こんな……。
だから、正々堂々回ってるって言いましたよね?
地獄だ。地獄の天使だ。
綺麗さっぱり洗い流してください、と、無意識。
神の気紛れと謂うものは――上位存在の気紛れと謂うものは――必ずと謂っていい程度には『ひと』へ影響を及ぼす。その影響が良いものなのか、悪いものなのか、決めるのはサイコロの類であり、つまりは、神自身にとっても惨事を招く可能性すら、ある。ふんっ、ついに親玉が出てきたわね。アンタが阿呆なこと言うから、軽はずみでものを言うから、このザマなのよっ。ぐるりと、アーシャ・ヴァリアント、せっかく治まってくれたというのに目の玉を酷使する。それに釣られたクヴァリフもぐるり。嗚呼、惨事も惨事、大惨事だ。蹲っている狂信者達、彼等彼女等のぶち撒けた🌈やら『しぇいく』やらが映り込んでしまう。いや……それは、その。妾にも非はあるかもしれんが、提案してきた汝らも、汝らだと……。つべこべ言わない! アンタにも教えてやるわ、ぐるぐるバットの恐ろしさをねっ! 汝……目を回し過ぎて正気を失くしてはおらんか? 女神様が心配するレベルである。余計なお世話よ。それじゃ尋常に勝負っ……前の事? 知らない。アタシは直接的には何もしてないし、連中の自業自得よ。……良かろう。妾にも意地というものはある。汝が一騎打ちを望むのであれば、全力でぐるぐる――ちょっと待った――如何した。怖気づいたのか?
アンタ、そんなに触手を生やしていたら、回転するときに邪魔だし危ないでしょうが。成程、ドラゴンプロトコルの謂うことも尤も。クヴァリフの触手は広範囲の敵を薙ぎ払うのに適しているし、絡め獲るのにも有効だ。大人しくしまうか、しまえないなら、アタシが全部切り落としてやるけど? ふむ、なら、いい具合に切り落としてはくれんか? ヘアスタイルもバッチリだ。クヴァリフの体液が🌈と混ざってひどい臭いを散らかす。……さいあく。それから、あれよ。ちゃんと、いっぱいある目玉全部閉じてなさいよね、一個だけ開けとくとかセコイ事しちゃダメよ。汝……目玉が多い方が目が回ったときに不利……いや、最早、何も言うまい。汝がフェアな勝負を求めるなら、応えるのが女神の勤めよ。準備は整った。竜だった人型と人型にはまった神、そのぐるぐるバット対決――!
それじゃ今度こそ……レッツ・ゴー・サイクロンッ!!!
僅かな差であった。ほんの僅かな差でオマエは勝利したのだ。
実はこっそりひとつだけ目の玉を開けていたクヴァリフ、オマエの様子を確かめる為だったが……やはり、目玉の多い方が、目が回った時のダメージが大きい。ま、まさか、妾がこんな、醜態を……。あ、アタシの……アタシの、勝ち……|義妹《サーシャ》が視てくれていた、おかげ……。きっと幻覚だろう。脳髄をぐちゃぐちゃにしてくれた弾丸の如くに、びちゃびちゃ、地に落ちる。
神は容赦を知らない。加減だけは知っている。
目を回してしまった。まさか、こんなにもぐるぐるバットが恐ろしいものだとは想像すらも出来なかった。いや、違う。オマエの眩暈に、吐き気に、トドメを刺したのはオマエ自身の力である。……汝、もはや、何も言うまい。汝が目を回していようとも、気を失っていようとも、まったく、汝には関係のない沙汰なのだろう……? ぱちりと、目覚める。眼球振盪はすっかりと委縮しており、その身からまろび出たのは神意の方か。むくりと起き上がった無邪気。きょろり、きょろり、特徴的な瞳が女神の姿を認めたか。依代が何かをしていた。他の人間も、人間じゃないやつも、棒を持ってぐるぐると回っていた。それを、あの『気に食わないヤツ』もやろうとしている。なんだろうか、アレは。わからない。何もわからないが、もしかしたら、何処かで見た事くらいはあるかもしれない。やってやる。やってやらねばならない。そう、女神なんぞより、クヴァリフなんぞより、コチラが、アチラよりも優れていると――示さなければならない。ほう? 汝、妾と勝負すると、そう宣うのか。何方がより神として、怪異として優れているのかを、ハッキリさせたいのか。意思の疎通は出来ている。ならば――レッツ・ゴー・サイクロン、だ。
ぐるぐる……びたびた……うねうね……ぐるんぐるん。回転に合わせて、大回転にそって、蛸神様の触腕が伸びる、伸びる。伸びた先でぶつかったのは蹲っている狂信者ども。薙ぎ払おうとした――次の瞬間。彼方からも触腕。これは……一種の王道な決闘ではないだろうか。め……目が回る……だが……妾も、汝に負けるつもりはない……! ぐるぐるぐるぐる。まるで天敵、ウツボが二匹――竜巻が衝突したのなら、果たして、何方が勝る……。
べち! 蛸神様の触腕がクヴァリフの側頭部に当たった!
眼球振盪に脳震盪、これはもう耐えられない!
ぉ……ぉぶっ……🌈……。
勝った。これで蛸神様の方が、たこすけの方が優れていると証明できた。ところで依代は大丈夫だろうか。先程から、まったく反応がない。びたん! あ、地面と胴体がキスをしてしまっている。……でも、触腕は元気いっぱい。這って帰るべし。
無数の眼球がこっちを見ている。
あんなに目があったら、回ったときたいへんそうなの。
元気溌剌――子供の体力というものは大人にとって、無尽蔵に等しい『もの』だ。その点に関してはおそらく女神『クヴァリフ』も同意をせざるを得ない。思いっきり回って、ぐるぐるして、身体も温まったの。あのお姉さんが、うねうねしているお姉さんが、悪い女神さまなのね。……汝、妾を『邪悪』とするのは早計ではないか? 妾の肚は人類のとっても重要なものである事くらいは、汝も理解しているだろうに。知ってるの。でも、どれだけ有能でも、どれだけ強くても、今のあたしには関係ないし、敵じゃないのよ。だから……。仔産みの女神『クヴァリフ』にとって仔とは勝手に『ふえる』ものだ。育てる必要などない、そう認めているくらいには強いのだ。だったら、目の前の、この、人間の幼子も……。やっつけてあげるの。びしっ! いや、そうでもないかもしれない。な……汝? そっちに妾はいないのだが……しっかり、目を回しているのではないか……? ふらふらして明後日の方向、指差し確認も大事だが、まずは振盪を治めてからか。……あ。まずいの。大きな声を出したら何かが出ちゃいそうなの。ひっく。嫌なしゃっくり。
クヴァリフはニタニタと、弄りがいのある人形がきた、と、そんなふうにしか思っていないが、果たしてオマエの護霊は如何か。背後に出現した過保護の化身、おろおろと、心配そうに見つめている。……ここはあたしに任せてほしいの。大丈夫、お姉さんが見た目通りの『お姉さん』ならあたしに負けはないの。正々堂々勝負なのよ!!! ふくく……おもしろい。人間、汝、おもしろいぞ……。
レッツ・ゴー・サイクローン!!!
コツ? 小細工? そんなものはゴミ箱に捨ててしまえ。ぐるぐるバットで最も重要なのは楽しむこと。何も考えず、バカみたいに、いつかの男子たちみたいに、ぐるぐるぐるぐる回り続ける! これなら、あたしが有利なの。だって、ほら、悪い女神さまは……お姉さんは、バットに額をつけるのも一苦労しているの……ぐるぐる。ぐるぐるぐるぐるぐ……るぐ……? わからない。なんにも、わからない。きっと脳味噌がしぇいくになったのだ。そんな真っ暗いところへと――転げ落ちる――。
あ……あれ? あたし、確か……? 女神様とぐるぐるバットをしていた筈だ。だと謂うのに周囲の喧騒は欠片としてない。視界いっぱいに入り込んだのは菊慈童の姿。如何やら気を失って、膝枕をされていたようだ。え……もしかして、ちょっと怒ってる? 一緒にぐるぐるしたかったとか……違うの……?
勝ったのかな。負けたのかな。
不明だが人身塚、オマエはきっと勝利している。
何故ならば……。
楽しかったからどっちでもいいの。
未熟児が――怪異の出来損ないが――目を回しているオマエの頭上、べたべた蠢いた。途轍もない臭気を発しているソレの所為、もう、こっちも限界は近いか。
だが、勝利は勝利だ。クヴァリフはヒクヒクしている!
三半規管からでろりと、どろりと、まろび出てしまった中身。カタツムリがナメクジに変化するだなんて想定外だ。横断している彼はきっと下手よりバイバイするのだろう。ねえ待って! このねばねばしてるのなに? 掃除してってくれないと滑るんだけど? まるでお約束だ。お約束のような有り様だ。女神様からのお情け、クヴァリフからの慈しみ、さて、いったい如何様に解釈をしてやろうか。……こほん……。え、舐めてる? 舐めるなら舞台を掃除してくれないかな? それともこのバットの赤いシミになる? ぶっ|ぴーーーー!《言葉が悪くて聞かせられないよ!》 な、汝……落ち着け……妾は何も舐めているのではなくてだな。それより、このままではお茶の間で放送ができな……。はっ……あ……ええと、頑張ります☆ 若干はみ出たヤンキー魂とやらを飲み込もうと試みたが再燃した『もの』はなかなか、冷めやしない。カメラの|幻覚《そんざい》を意識しても尚、芸人モードと半々といったところか。ええやん……。能力なしのマジバトル、熱いやん……。マジのバトルをご所望であれば真っ向から能力を使った方が良いのではないか。ぽろっとこぼれた戦闘力のない女神の子供がツッコミをする。やったらぁ……その勝負、やったらぁ!!! 流石は能力者……流石は汝……妾の提案に乗ってくれるか。しかし汝、先程から興奮している所為か、少し、顔が蒼くはないか……? そう、限界なのである。どっかでやったぐるぐるも含めて三度目ではなく四度目、限界なんぞとっくの昔に超えている。うるせぇ……! わたしはやると決めたらやる女。芸人に二言はない……! ならば構えるといい。|基本姿勢《セット》! レッツ・ゴー・サイクロン!!!
目が回る、そんな言葉が、弱音が、陳腐に思えるほどに、世界の中心でぐるぐるしている。おそらくだが、この気分の悪さをあの女神様だって味わっている筈。ならば、勝負は一瞬だ。たとえ反則行為だと文句を言われようと……いや、言えなくしてしまえば問題ないのだ。バットをばっ! と開放する……フリだ。即座に掴み直してぐるぐるバット。違う。あれはぐるぐるバットではない。バットを|振り回している《ジャイアントスイング》している……! やぶれかぶれの突撃だ。ぐるぐる途中のクヴァリフ、その腹部をぶっ叩け!!!
な……なんじ……それは……🌈。
脳裡に浮かんだのは|走馬灯《じんせい》である。
視界いっぱいに|映《まわ》った女神様の|吐物《なかみ》、放送できないよ!
怪物の咆哮よりも、化け物の蠕動よりも、ひどく恐ろしい『もの』が囀りを始めたのだ。最初はお仕事の連絡だと、報告書の不備とやらでも見つかったのかと、ぼんやりと思っていたのだが如何やら『そのような』些事ではないらしい。彼方、鼓膜を揺さぶってくる不安感は此方に伝播してくる毒とも解せよう。電話の相手は上司だ。上司の名前はシュウヤでオマエの|相棒《パートナー》の兄でもある。……妹と、エミと連絡が取れない。理由は不明だが怪異に襲われている可能性も高い。頼む、今の仕事を投げ出しても良いから、エミを……! 上司は――シュウヤは――能力者ではない。迷い込む事はあっても歩み寄る事は出来ないのだ。神隠し……だったら、他の√にエミちゃんがいる……? 隅から隅まで探した。エミちゃんの行動できる範囲内すべてを探し尽くした。そして、此処が最後の√だ。EDEN――楽園――失われないのであれば、その名、永遠としてくれたなら嬉しいか。
泥濘だ……死屍累々だ。🌈と『しぇいく』の中間、そのような無様に倒れている、斃れている彼等彼女等に敬意を込めてのお辞儀。そう、たとえ敵だったとしてもその『精神』を冒涜する事は赦されない。何処かのオジサマの顔を思い出しながらもくるり、オマエは黒幕とやらを改める。……え? ちょっと待って……なんでここに女神クヴァリフがいるの? まったく理由がわからない。いや、確かに、あの真っ黒い人たちは『如何にも』な雰囲気を纏っていたが、まさか、女神の信者だったとは想定外もいいところだ。回りすぎて幻を見ているかと思ったけど、本物だぁ……。クヴァリフ『器官』については触れた事がある。子供についても触れた事がある。でも、まさか、こんな形で女神と勝負することになるなんて思ってもみなかったよ。汝は……人間か? それも、能力を持たない、ただの人間か。しかし、妾を見ても正気を保てるとは……機関の人間か。その通りだ。目の玉をグルグル回してリバースしたばかりだと謂うのに神様、流石の回復力である。人間がすることに興味を持ってくれたのは嬉しい……! 遠慮しなくていいよ。気合を入れて、闘志を燃やして、相手が怪異だろうと神様だろうと、譲れないものはある……! レッツ・ゴー・サイクロン!!!
ギャハハハハ! ギャハハハハ! おい、見ろよ! 異形の腕が――目玉が――今までにないほどの大爆笑をしている。ギョロと呼ばれる『それ』が指差した先の光景は、成程、シュールの極みだ。な……なんで? なんで女神とぐるぐるバットしてるのエミちゃん。ギャーッハッハッハッ! 女神が……女神がぐるぐる回ってやがるゥ!!! しかもあれ目ェ回してんじゃねェかよォ!!! 笑いすぎ! 笑いすぎだよ。何故か真剣勝負をしている雰囲気だ。いや、邪魔するつもりにはなれないし、あの女神、腐っても『神』だから約束事は破らないだろうし……。とにかく、シュウヤさんに電話しておくか……。
ぐぅぅ……めが……目が回るよぉ……。ぐるぐるバットを連続して『やった』のだ。三半規管は勿論、頭の中まで撹拌されたかのような気分に陥る。ぐるぐるしすぎて、おでこが熱いぃ……。くふふ……汝はよく頑張った。汝が負けを認めたら、妾は、汝を逃がしてやる事、約束してくれる……! いやだ。ここで膝をつくことはできない……! 私は、貴女に勝ってみせる。遊びだろうと仕事だろうと全力、それが一ノ瀬・エミの信念である。よし、高速のブラストビートとデスボイスが頭に響いてきた! やってやるぞ、勝ちにいくぞ!!! ば、莫迦な……妾が……妾が、人の仔に……? がくりと、這い蹲る女神様。女神様の目がぐるぐるだ。しっかりと🌈の橋とやらも完成している。
マジか! マジかよおい! あの女神がゲロぶちまけてやがる! ギャハハ!!! うるさい。ギャッ!? レモンの汁気!!! あ、シュウヤさん。エミちゃん見つかりましたよ。別√に迷い込んで女神とぐるぐるバットしてます。……あの、怒気のこもった溜め息つかないで下さいよ。いえ、まあ、その気持ちはわかりますけど……。エミに何かあったら分かっているよな? それって息の根止めてやるって意味ですよね? ええ、ですが、如何やら決着がついたようです。任せてください。ちゃんとおんぶして帰りますよ。
……か……勝ったぁ……ぐるぐるしてるぅ。
いつのまにか天を仰いでいた。
仰いでいる天、レコードのように回転していた。
自称山育ちの黒セーラー、黒髪パッツン可愛らしく、まるで御伽噺に出てくるお姫様か。ぐるぐる、ぐるぐる、ぐーるぐる。正気と狂気の狭間でのぐるぐるバット、いや、最早『ぐるぐるバット』ではなくなった。放り投げられたバットは悲しげにオマエを見上げているが、嗚呼、オマエはバットの気持ちなど欠片も理解出来やしない。両手を広げて天を仰ぎ、そのまま独楽みたいにぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐるぐるぐるぐるぐる……。な、汝? 目を回すのが気持ちいいなどと、そのようなことを謂うのではなかろうな? これには女神様も吃驚である。クヴァリフ? なるほど、君も『そう』なのだね、そういうことなのだね。いったい如何いう沙汰なのだろうか。いったい何を説きたいのか。バットを支えにしても、身体を横たえても、どうも視界がぐらんぐらんだ。わかる……わかるのだが、汝、顔色が信号機になってはいないか。いや、我慢せずともよい。妾が汝の嘔吐を赦してやろう……。理解したのさ。だからこそ、視界と脳が使い物にならないから、心で理解したのさ。素晴らしいね。素晴らしいのは山育ち、オマエの頭の中の七色ではなかろうか。汝……? 戻ってこい汝……? 世界は愛と回転で満たされて、この空前絶後の混沌の中で僕たち回転者はひとつに溶け合って混じり合う、つまり相互理解だ。小さな宇宙だ自転する魂の煌めきだアカシックレコードへの接続だ真っ赤な回転の流れの|達人《マスター》だ……サイクロンかくあるべき。な、汝……別の神に魅入られてはいないか? 妾はこっちだ。
酔ってないさ酔ってない。うん、いたって正気のうちだから、こそ。正気? これが正気なのだとしたら世の人間は『狂気』の二文字を失くしている。目が座ってる? 気のせい気のせい。それは確かに気のせいだ。オマエの目はぐるぐるぐるぐる回っているのだし、その所為できっと神様からの手招きに遭わされている。まあ、それはさておき。一緒に、心行くまで回ろうぜ……? |お母さん《●●●●》。良いだろう……妾を『母』と呼ぶならば、仔として己を定めるならば……妾は全身全霊を以て、ぐるぐるバットを遂行する……!
レッツ・ゴー・サイクロン!!!
お……おのれ能力者……おのれ……目が……目が回る……気分も、最悪だ……汝、なぜ、なぜ、嘔吐をしない……ぉぶ……🌈。山育ちだからである。何度でも書こう。山育ちである!!! 僕の勝ちだぜ、お母さん。有言実行だ。オマエは負けなかった。
誰の為の物語だったのか、少女の為の物語だったのか、悉くは残酷性を孕んでおり、その点に関しては、成程、オマエとまったく一致をしている。なんかでた。へちゃり、なんて擬音をこぼすのは結構だがオマエ、何方かと謂えばべちゃりだ。胃袋の中から「こんにちは」をした酸味は勿論、狂信者達の『しぇいく』だって莫迦にはできない。でも、まだ。まだ『回らなきゃいけない』のよ? わたしも、みんなも、あなたも。きらりと、振盪していた金平糖が、星のような輝きが別ベクトルへと容赦なく向けられた。回りましょう回りましょういくらでも回れるのよわたしたち! たぶん、きっと。ちょっと自信がないご様子だ。それも仕方のないこと。この定義は――レッテルは――自傷行為にも連なっているのだ。そうよ、そうにきまっ……ぅぇ~……めがまわるし、おでこ、ちょっと痛くなってきた。汝……おてんばでわがままな汝よ。妾は確かに『目を回す』のが嫌いではないが、この感情、汝の仕業であろう……? 気付いたところで手遅れだ。少女の偶像は容赦を知らない。
ん~……? もっと『効率的』に目をまわしたい……。何を謂うのかと思えば、これまた『 』だ。クヴァリフおねえさまも、きっと、そうよね。いや、違う。先程まではそんな『おもい』欠片として無かった。何もかもオマエの所為だ。オマエの発言の所為だ。発現してしまった人間災厄の汚染の所為だ。……はっ……! わたし! クヴァリフおねえさまが、もっとまわれる方法、おもいつきました! もうぐるぐるバットはおしまいだ。掛け声だって要らない。重要なのは只管に――目を回す為だけの行いだ。
ご招待――! 唐突に召喚された誰かさん、何が何やら不明な儘、目を回している儘、握手に応じる事となった。お手々ぎゅうしましょ。おっきいお手々になりましょう! まるでカートゥーンだ。まるでコミックだ。巨大な巨大な『手』が女神様をお人形とする。汝……! 能力を使ったな。ならば、妾も――? ぺいっと吐き出されたオコサマ。見上げたならば、嗚呼、ぐるんぐるんとぶん回されている母の姿か。や……やめ……! 妾は玩具では……目が回るというよりも……これは……肚が……うっ……ぉ……🌈。ごぽぉ! 吐物と共にひねり出された臓腑、女神の沈黙まで残り数秒前か。
わたしもまわる~。あっ。お仔さまも、一緒にまわる?
とくいよね。ぜったい。ね?
クヴァリフの仔のメリーゴーラウンド、或いはコーヒーカップ。大渦巻きへの誘いは無邪気さのアトラクションとして、消費をされた。
認めてやろう……汝ら、妾の肚を、吐物を、存分に研究するのを赦す……🌈。